説明

光走査素子

【課題】捻り梁に支持されたミラーを圧電素子により捻り振動させ光を走査する光走査装置において、走査角を大きくしたり、低電圧でより大きい走査角を実現するには圧電素子に加わる電界強度を大きくすることが有効であり、圧電層を薄くする必要がある。しかし、圧電板を100μm以下に薄くすると機械強度が低下し、機械強度を維持しながら圧電層を薄くして積層構造にすると静電容量が大きくなってしまし消費電力が大きくなってしまうという課題があった。
【解決手段】圧電厚膜を基板上に形成したユニモルフもしくはバイモルフ圧電素子を、捻りヒンジに支持されたミラーを形成させたミラーフレームに貼り付けて構成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ビームの走査によりスキャンを行う光スキャナーに関し、特に捻じれ梁に支持されたミラーを捻り振動させ光を走査させるための光走査素子に関する。
【背景技術】
【0002】
近年レーザー光を走査させる光スキャナーはレーザープリンタ、バーコードリーダー、ヘッドマウントディスプレー、プロジェクター等の光学機器、あるいは赤外線カメラ等の光取り入れ装置として用いられている。
光走査素子としては多面ミラーを回転させ光を反射、走査させるポリゴンミラーやミラーを往復走査するガルバノミラー方式などが実用化されている。近年、ミラーをヒンジで支持させた構造でミラーを捻り振動させレーザー光を走査させることで映像を表示するようなレーザー走査型プロジェクターも実用化されている。このようなミラーの捻り振動させ光を走査させる素子としては、シリコンを微細加工しミラーとヒンジを形成させたタイプが報告されている。
【0003】
しかしながらシリコンを微細加工してヒンジでミラーを支持する方式では単結晶シリコンを使用するためミラーサイズを大きくすると耐衝撃性が弱くなりヒンジが破壊しやすいという課題がある。また捻り振動を発生させるための駆動方式としては電磁力、静電力、圧電式などが[非特許文献1]にも報告されているがミラーを形成するフレーム上に微細な配線や異種材料をパターニング形成させる必要があるため工程が複雑になったり、プロセス上の制約があり低コスト化や高特性化が困難であった。
このような課題を解決する方法としてヒンジで支持されたミラーフレームから離れたところに駆動源を配置し、板波によりヒンジで支持されたミラーを捻り振動させ光ビームの大きな走査角を発生させる構造の光走査素子が[特許文献1]に報告されている。
【0004】
このような板波を利用した光スキャナーはラム波共鳴型スキャナーと呼ばれている。ラム波共鳴型スキャナーの代表的な構成図面を図1に示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−293116号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】黒田和男、山本和久、栗村直 編「解説レーザーディスプレー」オプトロニクス社、2010年2月8日、p.216−228、p.254−266
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
捻り梁に支持されたミラーを圧電素子により捻り振動させ光を走査する光走査装置において、圧電材料の歪みは電界強度の大きさに比例することから走査角を大きくしたり、低電圧で大きい走査角を実現するには圧電素子に加わる電界強度を大きくすることが有効である。
そのような方法として、圧電素子を薄くする、圧電素子を積層構造にする方法がある。
特に光走査素子を用いて映像を表示するピコプロジェクタのようなバッテリー駆動で使用する用途に適用するためには低電圧駆動、低消費電力、低コスト化が要求される。
しかしながら、圧電素子に加わる電界強度を大きくする方法には以下の課題がある。
(1)圧電素子を薄板化する方法では圧電素子の厚さが100μm以下では製造工程で破損・破壊しやすいという課題がある。
(2)また圧電素子の機械強度を維持しつつ電界強度を大きくする手段として総厚を一定にして積層化する方法があるが、静電容量は積層数の2乗に比例して大きくなるため消費電力が大きくなってしまうという課題がある。
(3)また圧電素子のハンドリングによる破損・破壊をさけ、電界強度を大きくする方法としてミラーフレームの基板に直接薄膜、厚膜を形成する方法がある。しかし、圧電薄膜や厚膜を基板上に直接形成する場合、結晶化や、緻密化、残留応力の除去のために600℃以上の温度で熱処理する必要が生じ、熱処理によりミラーやヒンジの機械的物性が変化しやすいなどの課題がある。
【0008】
本発明では、ミラーによる光の走査角度を増加させつつ上記課題を解決し、走査素子の低電圧駆動、低消費電力を実現させる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明では上記課題を解決するために、ヒンジで支持されたミラーフレームとは異なる基板に圧電膜を形成させたユニモルフもしくはバイモルフ圧電素子(以下圧電素子)をミラーフレームに接着することにより形成される。
【0010】
上記ユニモルフ/バイモルフ圧電素子に形成される圧電厚膜を構成する結晶粒径に0.2〜1.0μmで構成され、圧電膜の厚さtpは電界強度が1kV/mm以上になるようにすることで、上記課題を解決し、低電圧、低消費電力で大きい光走査角を得ることのできる光走査素子を実現できる。またユニモルフの基板の厚さtsは圧電膜を形成し、熱処理を行った後、残留応力により反り発生しないような構成になることが望ましく、ユニモルフの構成では圧電膜の厚さtpと基板の厚さtsの比tp/tsが1/3〜1/20であり、またミラーフレームの厚さtmはtp/(ts+tm)が1/5〜1/30であることが課題解決上望ましい。
【0011】
また、圧電膜に使用される材料は高い電界強度でも線形的な特性を示す材料が望ましく、圧電膜はAD法によって形成されることが望ましい。また、AD法を用いることで耐電圧に優れた厚膜が形成できるため、電界強度を大きくする構成が容易に実現できるため、非鉛圧電材料を用いることも可能である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、圧電膜を基板上に形成した圧電材料単体よりも機械強度に優れたユニモルフもしくはバイモルフ圧電素子を光走査用ミラーフレームとは別に形成、配置することが可能であるため生産上圧電素子が破損しにくく、生産性に優れる効果を有する。
また、圧電層を積層することなく薄層化することが可能になり機械強度を上げ、大きい電界強度を印加できる構造ができるため、低電圧で高走査角度が得られる。
基板上に圧電膜を形成したユニモルフもしくはバイモルフの圧電素子を使用するため、圧電セラミック単体よりも外形形状の自由度が大きいため圧電素子からの電気配線実装配線が容易になるため信頼性を向上させる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ラム波共鳴構造光走査素子の基本構造を示す図である。
【図2】本発明の光走査素子の基本構成図
【図3】熱処理温度と粒径の関係
【図4】AD非鉛系圧電膜を用いた光スキャナー
【図5】AD非鉛系圧電膜を用いた光スキャナーの周波数特性
【図6】非鉛系圧電膜を用いた高速光スキャナーの駆動電圧対走査角度特性
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の光走査素子の基本構成図を図2に示す。ミラーフレームは捻り梁で支持されたミラーとヒンジを支える片持ち梁とそれをさせるフレームが一体となった構造になっている。ミラーに捻り振動を発生させる駆動源として圧電素子がミラーフレーム上に形成される。この圧電素子は基板材5と圧電膜6から構成されている。
【0016】
本実施例ではミラーフレームの素材としてステンレス材を用いた。ステンレスの基本的な物性値を表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
板厚100μmのステンレスをエッチングにより図3に示すような外形状に加工しミラーフレームを作製した。実施例の圧電膜6を形成させる基板材として純度99.5%以上のアルミナ、ジルコニア基板、Al:5%、Cr:20%の成分構成の耐熱性ステンレス材を用いて表面に酸化もしくは窒化アルミの皮膜を形成させた基板を用いた。いずれも基板表面の両面に電極としてPtをスパッタで形成し焼き付け処理し圧電素子用基板とした。基板の厚さは20、30、50、100μmとした。また基板に使用するステンレスの外形はミラーフレームのミラーを支持している梁構造以外の外形形状に合わせて作製した。
【0019】
圧電膜6には代表的な圧電材料であるジルコン酸チタン酸鉛(PZT)材料をAD法により基板上に成膜し、800〜1000℃の温度で熱処理を行い粒径の異なる圧電膜6を作製した。熱処理温度と粒径の関係を図3に示す。一般に、圧電膜を構成する結晶粒子は膜厚に対して多く充填されるほど耐電圧特性は向上するため、印加する電界強度に合わせて粒径と膜厚を調整する必要がある。熱処理後圧電膜6表面にメタルマスクを用いてスパッタ法でAuを蒸着し上部電極7を形成した。上部電極7形成後電極間に100℃で2kV/mm以上になるように電圧を15分印加し分極処理を施し、ユニモルフ型圧電素子を作製した。また、非鉛圧電材料としてチタン酸バリウム(BT)材料を成膜し、1000℃で熱処理し非鉛圧電膜の圧電素子を作製した。
【0020】
この圧電素子を前記ミラーフレームに接着剤で接着し光走査素子を作製した。この圧電素子に0−20Vの電圧をミラーの捻じれ共振の周波数近傍で印加し周波数をスイープさせ、ミラーを振動させレーザー光を反射させることで走査角度を測定した。
比較例として緻密に焼結させた厚さ100μmの圧電セラミック板(PZT、BT)を同じミラーフレームに貼り付けることで作製し同様の評価を行った。
実施例、及び比較例の試作条件と評価結果のまとめ結果を表2に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
表2の実施例に示したように本発明によれば低電圧でより大きな走査角を実現できることが確認された。またユニモルフの外形をミラーフレームの梁構造以外に合わせることで電極配線を面内で引き回すことが可能になり、振動の影響が少ない箇所でワイヤーと接続することができる。
【実施例2】
【0023】
図4に非鉛圧電材料としてチタン酸バリウム(BT)材料をAD法で形成した非鉛圧電膜の圧電素子を使用したメタルベース光走査素子を示す。図4に示したように、ラム波共鳴圧電駆動型光走査素子は、1mmφミラー、捻じり梁9、金属のミラーフレーム3と圧電素子で構成されている。
【0024】
従来の光走査素子試作に関しては、光走査素子の本体として金属のミラーフレームを化学エッチング方法で制作し、バルク型圧電シートを金属フレームの上に銀ペーストを用いて直接貼り付けた。
本発明では、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)上に、AD法で非鉛圧電材料としてチタン酸バリウム(BT)材料を形成した非鉛圧電膜の圧電素子による光走査素子への適用可能性検討を行った。即ち、本発明は、ラム波共鳴方式による光走査装置で、ヒンジで支持されたミラーフレームとは異なる基板にAD法で圧電膜を形成させたユニモルフもしくはバイモルフ素子をミラーフレームに接着することにより形成される。
このとき、上記ユニモルフ/バイモルフ素子の圧電厚膜を構成する結晶粒径は0.2〜
1.0μmで緻密に構成されるため非常に高い耐電圧特性を有する。そのため高い駆動電界強度を印加すること可能になり、一般に圧電特性が通常の鉛系圧電材料より劣る非鉛圧電材料で、低電圧、低消費電力で大きい光走査角性能を有する光走査素子を実現できた。
【0025】
非鉛圧電膜の圧電素子の試作に関しては、厚さ100μmのイットリア安定化ジルコニア(YSZ)の基板上に、下部電極8用Ptをコートし、その上にAD法で非鉛圧電材料としてチタン酸バリウム(BT、膜厚:12μm)材料を形成した。また、1000℃〜1100℃で2時間程度熱処理を行い、膜厚方向に30Vの電界をかけてポーリングし、最後に、上部電極7として、Au膜を蒸着した。光走査素子の試作には、非鉛圧電材料としてチタン酸バリウム(BT)材料を成膜し、1100℃で熱処理し非鉛圧電膜の圧電素子をミラーフレームで貼り付ける方式を採用した。
【0026】
非鉛圧電材料としてチタン酸バリウム(BT)材料をAD法で形成した非鉛圧電膜の圧電素子を用いた光走査素子に関して、駆動電圧30V(0−to−peak)での周波数特性を図5に示す。1mmφのミラーをもつ光スキャナーは、大気中の動作で高速の共振周波数26.681kHzで広い走査角度(58度)を実現した。また、駆動電圧に対する走査角度の特性は、駆動電圧の増加に伴って線形的特性を示す。(図6)。また、図6に示したように駆動電圧に対する走査角度の特性は、駆動電圧の増加に伴って線形的特性を示す。さらに、24V以下で30度以上という携帯型プロジェクター用デバイスの仕様スペックを上回る50度@24Vというデバイス性能を実現し、製品応用可能なレベルであることを確認した。
【0027】
デバイスの観点から見ると、非鉛圧電材料としてチタン酸バリウム(BT)材料をAD法で形成した非鉛圧電膜の圧電素子は、鉛系圧電素子の圧電特性に比べ、約3分の1程度の圧電特性(d31=約100pm/V)でありながらでも、膜厚や成膜プロセスとデバイス構造などの工夫で、光走査素子の製品に適用可能であると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0028】
本発明は、光走査素子を利用するプロジェクション、レーザーバーコードリーダーに加え圧電素子を駆動源とする超音波センサ、トランスデューサにも利用することができる。
【符号の説明】
【0029】
1…圧電素子、2…ミラー、3…ミラーフレーム、4…配線、5…基板、6…圧電膜、7…上部電極、8…下部電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒンジで支えられたミラーを振動させ光を走査させる光走査素子において、ヒンジとミラーが形成されているミラーフレームに、圧電膜が基板上に形成されているユニモルフもしくはバイモルフ圧電素子を接着・接合することにより構成された光走査素子。
【請求項2】
前記圧電膜を形成させる基板の曲げ強度もしくは耐力が圧電材料の曲げ強度よりも大きいことを特徴とする請求項1の光走査素子
【請求項3】
前記圧電膜は、平均結晶粒径が膜厚の1/4以下の多結晶から構成されていることを特徴とする請求項2記載の光走査素子
【請求項4】
前記圧電膜を形成する基板材料がジルコニア、アルミナであることを特徴とする請求項2記載の光走査素子
【請求項5】
前記圧電膜を形成させる基板材料がAlを3〜5%含有する鋼材からなることを特徴とする請求項3の光走査素子
【請求項6】
前記圧電膜の厚さtpと基板厚さtsの比tp/tsが1/3〜1/20であることを特徴とする請求項1記載の光走査素子
【請求項7】
前記圧電膜の厚さtp、基板の厚さts、ミラーフレームの厚さtmにおいて、tp/(ts+tm)が1/5〜1/30であることを特徴とする請求項1記載の光走査素子。
【請求項8】
前記圧電膜が非鉛圧電材料であることを特徴とする請求項1から請求項7に記載の光走査素子。

【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−242810(P2012−242810A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116290(P2011−116290)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成22年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構委託研究「ナノテク・先端部材実用化研究開発/高性能AD圧電膜とナノチューブラバーを用いたレーザTV用高安定光スキャナーの基盤技術開発」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000134257)NECトーキン株式会社 (1,832)
【Fターム(参考)】