説明

光走査装置

【課題】光走査装置の走査特性を向上することのできる技術を提供する。
【解決手段】枠部22と、枠部22で囲まれた開口部27に一端側を固定して固定端が形成され、他端側に自由端が形成されたプレート本体部23と、を有するプレート部20と、自由端を切り欠くように形成された一対のプレート舌部23bの間で、ヒンジ部25によって揺動可能に軸支されたミラー部21と、プレート本体部23に設けられ、プレート本体部23を撓ませることによってミラー部21を揺動する振動源24と、ヒンジ部25の軸方向に設けられ、プレート舌部23bと枠部22とを接続する支持梁部26と、を備えており、支持梁部26が分岐して枠部22と接続されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光走査装置に適用して有効な技術に関する。
【背景技術】
【0002】
WO2008/038649(特許文献1)には、ミラー部を支持する捻れ梁部を有する基板に圧電体を配置し、基板の板波(撓み)を利用してミラー部に捻れ振動を生じさせることができる光スキャナを備えた光走査装置が開示されている。このような光スキャナ(プレート部あるいは素子部ともいう)は、金属材料を基材(メタルベース)として形成され、レーザプリンタなどで使用されるポリゴンスキャナモータの代替として用いることができるものとされている。
【0003】
特許文献1には、基板本体及び片持ち梁部を囲むように基板固定フレームを配置して、基板固定フレームに対して基板本体を、その固定端部側で固定すると共に、基板接続用梁で接続する構造が開示されている(特許文献1の請求項10、図8参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】WO2008/038649
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
図1に本発明者が検討した光走査装置110の断面を示し、図2にその光走査装置110の構成部品であるプレート部120の平面図を示す。光走査装置110は、ミラー部121を有する素子部(光スキャナ)であるプレート部120と、プレート部120を固定(収納)するケース130と、ミラー部121に光を投射する光源160と、プレート部120に設けられた振動源124とを備えている。光走査装置110は、揺動するミラー部121に対して光源160から光を投射し、そのミラー部121からの反射光161で被対象物を走査するものである。
【0006】
光走査装置110のプレート部120は、枠部122と、枠部122の内側で一端部(固定端)が片持ちされたプレート本体部123と、プレート本体部123の他端部(自由端)に設けられ、プレート本体部123を撓ませることにより安定した定在波を発生させてミラー部121を揺動させるための軸となるヒンジ部125(捻れ梁部)とを有している。
【0007】
また、光走査装置110のケース130は、主に基台として用いる下ケース部140と、その上側で主に押さえとして用いる上ケース部150とを有している。プレート部120が枠部122で支持されて下ケース部140に設けられ、枠部122を押さえる上ケース部150が、下ケース部140と組み付けられて(固定されて)、光走査装置110が構成されている。
【0008】
このように、プレート部120がケース130に固定された光走査装置110では、プレート部120のプレート本体部123に設けられた振動源124を作動させてプレート本体部123を撓ませることによりヒンジ部125を揺動軸とするミラー部121を揺動させながら照射光161を反射することができる。
【0009】
ところで、光走査装置110では、駆動効率を向上させるため、光スキャナを構成するプレート部120においてプレート本体部123の固定端を片持ちにて支持する構造としている。しかしながら、このような構造において、本発明者は、外乱や、光スキャナの駆動により有害な低周波の振動成分が生じてしまうことを見出している。より具体的に説明すると、光走査装置110がプレート本体部123を単に固定端だけで片持ち支持した構造であるため、プレート本体部123の自由端に設けられたヒンジ部125自体がミラー部121を揺動する際に、その揺動軸であるヒンジ部125が上下方向に変位し、光スキャナの走査特性を低減してしまう場合があることを本発明者は見出している。
【0010】
なお、ヒンジ部125が上下方向に変位するのを抑制するために、プレート部120の枠部122を押さえて、上ケース部150と下ケース部140とを組み付けているが、このような構造だけでは、光スキャナの走査特性をより効果的に向上することができない。
【0011】
本発明の目的は、光走査装置の走査特性を向上することのできる技術を提供することにある。本発明の前記ならびにその他の目的と新規な特徴は、本明細書の記述および添付図面から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0013】
本発明の一実施形態における光走査装置は、枠部と、該枠部で囲まれた開口部に一端側を固定して固定端が形成され、他端側に自由端が形成されたプレート本体部と、を有するプレート部と、前記自由端を切り欠くように形成された一対のプレート舌部の間で、ヒンジ部によって揺動可能に軸支されたミラー部と、前記プレート本体部に設けられ、該プレート本体部を撓ませることによって前記ミラー部を揺動する振動源と、前記ヒンジ部の軸方向に設けられ、前記プレート舌部と前記枠部とを接続する支持梁部と、を備えており、前記支持梁部が分岐して前記枠部と接続されている。
【発明の効果】
【0014】
本願において開示される発明のうち、代表的なものによって得られる効果を簡単に説明すれば次のとおりである。本発明の一実施形態によれば、走査特性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明者が検討した光走査装置(従来例)を模式的に示す断面図である。
【図2】図1における光走査装置のプレート部を模式的に示す平面図である。
【図3】本発明の一実施形態における光走査装置を模式的に示す平面図である。
【図4】図3のX−X線における光走査装置を模式的に示す断面図である。
【図5】図3における光走査装置の下ケース部を模式的に示す平面図である。
【図6】図3における光走査装置の上ケース部を模式的に示す平面図である。
【図7】図3における光走査装置のプレート部を模式的に示す平面図である。
【図8】図7におけるプレート部の要部を模式的に示す平面図である。
【図9】図3における光走査装置のスペーサを模式的に示す平面図である。
【図10】支持梁部の有無の場合における、プレート本体部の自由端に外乱として周期的外力を作用させたときの光走査装置の周波数応答特性を説明するためのグラフである。
【図11】−の字形状としたプレート部を模式的に示す平面図である。
【図12】コの字形状の支持梁部および−の字形状の支持梁部を用いた場合における温度依存性を説明するための表である。
【図13】支持梁部の形状によるヒンジ部に及ぼす張力の度合いを説明するためのグラフである。
【図14】変形例としてのプレート部を模式的に示す平面図である。
【図15】図14におけるプレート部の要部を模式的に示す平面図である。
【図16】図14におけるプレート部を下ケース部に組み付けた状態の要部を模式的に示す断面図である。
【図17】変形例としてのプレート部を模式的に示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、実施形態を説明するための全図において、同一の機能を有する部材には同一の符号を付し、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【0017】
図3に本実施形態における光走査装置10の平面を示す。また、図4に図3のX−X線における光走査装置10の断面を示す。また、図5に光走査装置10の下ケース部40の平面を示す。また、図6に光走査装置10の上ケース部50の平面を示す。また、図7に光走査装置10のプレート部20の平面を示し、図8にそのプレート部20の要部を示す。また、図9に光走査装置10のスペーサ60の平面を示す。また、図3、図5、図6、図7および図9で示される各部材は、各図において左右方向が長手、上下方向が短手となっている。なお、図4の断面図では、説明を容易にするため、ネジ31にはハッチングを付していない。
【0018】
光走査装置10は、ミラー部21を有するプレート部20と、プレート部20を固定(収納)するケース30と、ミラー部21に光を投射する光源(図示せず)とを備えている。光走査装置10は、揺動するミラー部21に対して光源から光を投射し、そのミラー部21からの反射光で被対象物を走査するものである。以下に、光走査装置10のより具体的な構成について説明する。
【0019】
光走査装置10のケース30は、主に基台として用いる下ケース部40と、その上側で主に押さえとして用いる上ケース部50とを有している。
【0020】
下ケース部40は、図4に示すように、上面が開放された筐体状となっている。言い換えると、下ケース部40を板状としてみた場合、図5に示すように、下ケース部40は平面矩形状となっている。
【0021】
この下ケース部40では、図5に示すように、開口端44と、内周縁部に設けられる段付部45と、段付部より深い位置に設けられる底部46とが形成されている。このため、下ケース部40は、その厚さ方向(深さ方向)に1段目の凹部41と、凹部41よりも深い2段目の凹部42とを有することとなる。
【0022】
また、開口端44には、厚さ方向に貫通したネジ穴43が、開口端44の各辺部(長手および短手)の中央にそれぞれ形成されている。なお、このネジ穴43の位置でネジ31をネジ止めすることで、基台としての下ケース部40と、押さえとしての上ケース部50とを均等な力で組み付けることができる。
【0023】
下ケース部40の凹部41は、プレート部20(図7参照)が配置できるような平面形状として平面矩形状をしている。この凹部41の段付部45でプレート部20の枠部22が支持されることとなる(図4参照)。このように、凹部41の平面形状を、プレート部20の外形状と同一のものとすることで、容易に下ケース部40にプレート部20を配置することができる。
【0024】
また、プレート部20は凹部42を覆うように配置される(図4参照)。また、凹部42は、プレート部20の厚さ方向に深く形成されているため、プレート本体部23の撓みによる振動や、ミラー部21の揺動を妨げないようになっている。
【0025】
板状の上ケース部50は、図6に示すように、平面矩形状をしており、図6ではその左右方向が長手、上下方向が短手となっている。この上ケース部50は、厚さ方向に貫通した開口部51が形成された枠部52と、枠部52に厚さ方向に貫通したネジ固定用の穴53とを有している。開口部51は、光源からの光がミラー部21へ投射(入射)し、そのミラー部21からの反射光が出射すると共にプレート本体部23の撓みによる振動や、ミラー部21の揺動を妨げないように設けられている。
【0026】
また、ネジ固定用の穴53が、枠部52の各辺部(長手および短手)の中央にそれぞれ形成されている。なお、このネジ固定用の穴53の位置でネジ31をネジ止めすることで、基台としての下ケース部40と、押さえとしての上ケース部50とを均等な力で組み付けることができる。
【0027】
本実施形態では、上ケース部50の開口部51の開口部形状と、下ケース部40の凹部42の底部形状(底部46の面積)とは、同一となるようにしている。また、上ケース部50の枠部52は、下ケース部40の開口端44と重ね合わせて組み付けられる。
【0028】
ここで、基台となる下ケース部40にプレート部20を固定できるのであれば、上ケース部50を必ずしも用いなくても良いことが考えられる。例えば、上ケース部50で押さえずに接着やネジ止めだけでプレート部20を下ケース部40に固定することや、特許文献1のように固定端側の枠部のみを挟持してプレート部をケースで固定する場合であっても良い。
【0029】
この点、本実施形態では、枠部22を有するプレート部20を、その枠部22全体で固定するために、押さえとしての上ケース部50を用いている。プレート部20の枠部22全体を固定することで、プレート本体部23を撓ませる際に、外乱による低周波の振動成分の発生を抑制し、走査特性が低下するのを防止することができるからである。
【0030】
光走査装置10のプレート部20は、図7に示すように、平面矩形状をしており、図7ではその左右方向が長手、上下方向が短手となっている。プレート部20は、平面矩形状の枠部22と、枠部22で囲まれた開口部27に一端側を固定して固定端が形成され、他端側に自由端が形成されたプレート本体部23とを有している。プレート本体部23の一端(固定端)が、枠部22の内側で片持ちされていることとなる。
【0031】
また、プレート部20は、プレート本体部23の他端(自由端)に設けられ、プレート本体部23を撓ませることによりミラー部21の揺動軸となるヒンジ部25(捻れ梁)と、ヒンジ部25の軸方向に設けられ、プレート本体部23と枠部22とに架け渡された支持梁部26とを有している。このようなプレート部20は、例えば、板状の金属材料を例えばエッチング加工、打ち抜き加工、レーザ加工、ワイヤーカット加工などによって、図7に示すような平面形状とすることができる。
【0032】
プレート部20では、枠部22とプレート本体部23との間には貫通する開口部27、28が形成されており、枠部22の内側で片持ちされたプレート本体部23が撓むようになっている。プレート本体部23の一端部は、枠部22と固定されるので固定端となり、一方、プレート本体部23の他端部は、固定端に対して自由となるようにするため自由端となる。なお、開口部27はプレート本体部23の固定端側に形成され、開口部28はプレート本体部23の自由端側に形成されることとなる。
【0033】
また、プレート本体部23は、矩形状の中央部から片持ちされる枠部22の片持部22aに向かってくびれるくびれ部23aと、他方の短手側にヒンジ部25を支持するプレート舌部23bとを有している。本実施形態では、くびれ部23a(本体部23の固定端)と接している枠部22の領域を片持部22a(図7では明解とするためハッチングを付している)としている。すなわち、枠部22が、片持部22aを有している。よって、本体部23は、枠部22の内側で片持部22aにより片持ちされていることとなる。
【0034】
また、プレート舌部23bは、プレート本体部23の自由端を切り欠くように対をなすように形成されている。また、ミラー部21を揺動するための捻れ梁部であるヒンジ部25がミラー部21の両側に設けられている。片側のヒンジ部25の一端がミラー部21と接続されており、他端がプレート舌部23bと接続されている。これにより、ミラー部21は、一対のプレート舌部23bの間で、ヒンジ部25によって揺動可能に軸支されている。
【0035】
また、プレート部20は、本体部23を片持ちする片持部22aとは別に、本体部23と枠部22とを接続する2つの支持梁部26を有している。2つの支持梁部26は、本体部23の中央部から自由端側であって、本体部23を挟んで対称となるように設けられている。具体的には、ヒンジ部25の軸方向に、プレート本体部23と枠部22との間に支持梁部26が架け渡されている。この支持梁部26は、ミラー部21を揺動させるためのヒンジ部25(捻れ梁部)と同じかそれよりも細く、また短く形成されている。
【0036】
本実施形態においては、支持梁部26によって本体部23と枠部22とが接続されているが、本体部23は枠部22の内側で片持ちされているとしている。支持梁部26はミラー部21の上下方向の変位を抑制するために設けるものであって、本体部23を撓ませるために作用するものではないからである。
【0037】
また、支持梁部26は、図8に示すように、ヒンジ部25の軸方向(揺動するミラー部21の揺動軸方向)に空隙29を形成するように分岐している。言い換えると、支持梁部26が分岐して枠部22と接続されている。このように空隙29が形成された支持梁部26は、枠部22やプレート舌部23bはもちろんヒンジ部25よりも短手方向に変形しやすい(剛性が低い)ものとなっている。なお、支持梁部26をより細くしたり、寸法Cを大きくしたりすることで、より短手方向に変形しやすく(剛性を低下させる)することができる。
【0038】
本実施形態では、短手方向に変形しやすい形状として、支持梁部26を、ヒンジ部25側から枠部22にコの状に分岐している。言い換えると、分岐した支持梁部26と枠部22で囲まれる空隙29が、矩形状となるようにしている。
【0039】
また、プレート本体部23には、開口部28の近傍であって幅方向中央部には振動源24が設けられている。この振動源24は、プレート本体部23を撓ませることによってミラー部21を揺動するものである。
【0040】
振動源24としては、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)からなる圧電素子や、その他に圧電体、磁歪体、永久磁石体などを用いることができる。振動源24として、圧電素子を用いた場合、プレート本体部23に接着などによって振動源24を設けることができる。この際、図示しない配線により交番電圧を加えることでPZTを伸縮させ、プレート本体部23を連続的に撓ませることにより定在波を発生させる。また、振動源24として、圧電体、磁歪体、永久磁石体を用いた場合、プレート本体部23上に例えばエアロゾルデポジション法などによって膜状に振動源24を直接形成することができる。
【0041】
このように、プレート部20がケース30に固定された光走査装置10では、振動源24を作動させてプレート本体部23を撓ませることにより、ヒンジ部25を揺動軸とするミラー部21を揺動させながら照射光を反射することができる。
【0042】
なお、ミラー部21は、プレート部20(プレート本体部23)に金属板を使用する場合には鏡面仕上げされたものを用いると良い。金属板以外の基板や、金属板においてもより高い反射性能が要求される場合には、真空蒸着、スパッタリング、化学的気相成長法等の薄膜形成技術により、ミラー部21へ薄膜(例えば、金、アルミニウムなど)を形成するか、またはミラー部21へ別途ミラー用反射材料(例えば、シリコン、セラミックなど)を貼付けても良い。
【0043】
また、プレート部20は、例えばステンレス鋼で形成されている。また、プレート部20を固定するケース30は、例えばアルミニウムで形成されている。
【0044】
光走査装置10のシート状のスペーサ60は、図9に示すように、平面矩形状をしている。このスペーサ60は、厚さ方向に貫通した開口部61が形成された枠部62を有している。開口部61は、光源からの光がミラー部21へ投射(入射)し、そのミラー部21からの反射光が出射すると共にプレート本体部23の撓みによる振動や、ミラー部21の揺動を妨げないように設けられている。
【0045】
本実施形態では、スペーサ60の開口部61の開口部形状と、下ケース部40の凹部42の底部形状や上ケース部50の開口部51の開口部形状とは、同一となるようにしている。また、板状のスペーサ60は、他の部品(プレート部20など)より薄く、シート状になっている。このような厚さ方向に貫通した開口部61が形成された枠部62を有するスペーサ60は、例えば抜き加工や金型加工などによって形成することができる。
【0046】
また、スペーサ60としては、弾性を有するもの(弾性体)を用いている。具体的には、ケース30を剛体としたときに、それに対してスペーサ60を弾性体としている。弾性体としては、例えばポリプロピレン系やポリエステル系などの樹脂材料、シリコーン、ゴム等を用いることができる。このスペーサ60を、プレート部20の枠部22と上ケース部50との間に挟むことで、光走査が不規則に変動する異常振幅や、ループ状の走査現象の発生を防いでいる。スペーサ60によって、ケース30を構成する上ケース部50とプレート部20がそれぞれの固定面にて、片当たり等のアンバランスの発生を抑制することができると考えられる。
【0047】
このように、本実施形態における光走査装置10では、プレート部20が、枠部22と、枠部22の内側で一端部が片持ちされたプレート本体部23と、プレート本体部23の他端部に設けられ、ミラー部21の揺動軸となるヒンジ部25と、ヒンジ部25の軸方向に設けられ、枠部22とプレート本体部23とに架け渡された支持梁部26とを有している。以下に、この支持梁部26の有無による走査特性への影響について説明する。
【0048】
図10に支持梁部26の有無の場合における、下ケース部40のミラー側底面(図5長手右側)を一部完全固定し、固定端側(図5長手左側)側面に外乱として周期的外力を作用させたときの光走査装置10のミラー部21の面外方向に対する周波数応答特性の数値解析結果を示す。図10中、支持梁部26を設けない場合を符号A、支持梁部26を設けた場合を符号Bで示す。また、符号Bで括られている曲線は、図8で示した枠部22の長手方向における空隙29の寸法Cを種々変化(C=0〜60mm)させた場合のものである。この図10に示す周波数応答特性からミラー部21の中心の面外方向の変位量(図10中のZ振幅)について評価することができる。
【0049】
支持梁部26を設けない場合(符号A)では、110Hz付近で低次の共振(最初の共振)が観られ、90Hzより大きい周波数に対してミラー部21の変位が0.015mmを超えている。支持梁部26を設けた場合(符号B)では、低次の共振(最初の共振)は500Hz付近まで大きくなり400Hz以下ではミラー部21の変位が0.015mm以下となっている。
【0050】
このように、支持梁部26を設けることで、最初の共振現象を、110Hz付近から500Hz付近までシフトさせることができるので、低周波領域(例えば、0〜400Hz)での外乱の影響を防止することができる。したがって、外乱の影響を防止した光走査装置10では、走査特性を向上することができることとなる。
【0051】
本実施形態では、支持梁部26をヒンジ部25の軸方向に設けた形状としている。このような形状としたのは、ミラー部21の上下動を抑制するためにミラー部21の近傍に支持梁部26を設ける、すなわちミラー部21と接続されたヒンジ部25の軸方向に支持梁部26を設けることが最も効果が高いからである。
【0052】
これに対して、特許文献1に記載の光走査装置が、基板接続用梁を、基板振動の最小振幅の近傍に設けた構造となっているので、この点、本実施形態における光走査装置10と相違する。
【0053】
特許文献1では、光走査装置を外乱振動に対して安定に支持するために、基板振動の最小振幅、すなわち基板振動(走査振幅)に影響が少ない位置に基板接続用梁を設けていることから、基板全体に着目して、基板全体で対策をしているものと考えられる。したがって、基板全体で対策をしている特許文献1に記載の光走査装置では、走査特性に影響を与える一要因である、上下方向に変位してしまうヒンジ部125に関しては、考慮されていないものと考えられる。
【0054】
この課題を解決するために、本実施形態における光走査装置10では、ヒンジ部25の軸方向に、支持梁部26を設けて、ヒンジ部25が上下方向に変位するのを防止している。
【0055】
また、本実施形態では、ヒンジ部25の軸方向に支持梁部26を設けることの他に、プレート部20をその枠部22で支持されて下ケース部40に設け、枠部20を上ケース部50で押さえて下ケース部40と組み付けることで、プレート部20全体からも光走査装置10を外乱振動に対して安定となるようにしている。すなわち、本実施形態における光走査装置10は、外乱振動に対して安定したものとなり、またヒンジ部25が上下方向に変位するのを防止するものとなっているため、走査特性を向上することができるといえる。
【0056】
また、本実施形態では、枠部20を上ケース部50で押さえて下ケース部40に組み付けることによって、支持梁部26の枠部22側の一端を固定する(押さえる)ことができる。このため、支持梁部26のプレート本体部23(ヒンジ部25)側の他端を自由端と捉えることができるので、プレート本体部23を撓ませることへの影響の低減を図っている。
【0057】
ところで、ヒンジ部25が上下方向に変位するのを防止するため、ヒンジ部25の軸方向に、支持梁部26を設けるのであれば、支持梁部26が分岐せずに空隙29がない形状(図8中の寸法C=0の場合)、すなわち図11に示すような−の字形状(ストレート形状)の支持梁部26aを設けても良い。しかしながら、このような−の字形状の支持梁部26aを用いた場合では、温度特性によって走査特性が低減してしまう、すなわち光走査装置10の温度変化によって光走査が不規則に変動する異常振幅や、ループ状の走査現象が発生することや共振周波数が変化してしまうことを本発明者は見出している。
【0058】
図12に光走査装置10において支持梁部26a(−の字形状)と支持梁部26(コの字形状)とを用いた場合の温度依存性を説明するための表を示す。この図12において、走査動作の評価は、振動源24としての圧電素子に30Vの駆動電圧を印加させたときの、周囲の温度環境の変化(Δ40℃)による動作状態の観測により行っている。図12中では、安定状態を「OK」、不安定状態を「NG」で示す。
【0059】
図12の表から分かるように、コの字形状(寸法C≠0)では温度環境が変化しても光走査の状態は安定しているが、−の字形状(寸法C=0)では温度環境が変化すると低温側(0℃)で走査の状態が異常になり不安定となってしまう。このような状態は、ヒンジ部25が緩んだ状態で、捻れることで不安定な状態となったものと考えられる。
【0060】
低温となることで、金属部材からなるプレート部20(SUS304:17.3×10−6[/K])やケース30(アルミニウム:23.7×10−6[/K])も収縮する方向となるが、線膨張係数が異なるため、低温となって収縮するケース30に対して、このケース30に固定されたプレート部20は圧縮される方向の応力を受ける。この圧縮される方向の応力は、特に、プレート部20で敏感な(剛性が低く変形しやすい)部位である支持梁部26、26aに最も作用するものと考えられる。このため、温度変化によって支持梁部26を介してヒンジ部25に応力が発生してしまう結果、プレート部20(スキャナ)のバネ定数に変化が生じてしまい、光走査装置10自体の温度特性が悪化してしまうものと考えられる。
【0061】
本実施形態では、支持梁部26、26aは、片持ちされたプレート本体部23を撓ませることに対して作用を及ぼさないように、細く形成されている。具体的には、支持梁部26、26aは、プレート本体部23の固定端側のくびれ部23aより十分に細く形成されている。このため、プレート部20において、支持梁部26、26aは枠部22からの力を最も敏感に受けやすい部位となっている。
【0062】
ここで、支持梁部26、26aがその形状によって枠部22から力の受けやすさ(敏感さ)を、図13を参照して、ヒンジ部25に発生する張力から説明する。図13に光走査装置10において支持梁部26の形状によるヒンジ部25に及ぼす張力の度合いを示す。
【0063】
図13から、枠部22の長手方向における空隙29の寸法Cが長くなるに従い支持梁部26が短手方向に変形しやすくなり、ヒンジ部25に発生する張力が低下することが分かる。このことから、枠部22とヒンジ部25と間に設けられている支持梁部26は、空隙29の寸法がC≠0mmの場合より、C=0(支持梁部26aとなる)の場合で最もヒンジ部25に力を作用させ易くなっている。言い換えると、支持梁部26が、C=0(支持梁部26aとなる)の場合より、空隙29の寸法がC≠0mmの場合で枠部22からの作用をヒンジ部25に及ぼし難くさせている。
【0064】
このため、支持梁部26が、C=0(支持梁部26aとなる)の場合より、空隙29の寸法がC≠0mmの場合で、温度変化によるヒンジ部25に応力が発生するのを抑制しているものと考えられる。そして、単純な形状(−の字形状)の支持梁部26aでは、外部からの応力が支持梁部26aを介してヒンジ部25に直接作用するようになってしまうものと考えられる。
【0065】
このため、本実施形態における光走査装置10では、ヒンジ部25の軸方向に空隙29を形成するように分岐した形状の支持梁部26を設けている。また、この空隙29をヒンジ部25(プレート本体部23)側より枠部22側に形成することによって、線膨張係数の差から生じる応力をできるだけヒンジ部25に作用させないようにしている。また、支持梁部26の形状をコの字形状とすることにより、軸力ではなく、梁の曲げとして応力(変位)を吸収することが可能となり、ヒンジ部25への熱応力発生を緩和することができる。したがって、光走査装置10では、走査特性を向上することができる。
【0066】
なお、支持梁部26をコの字形状としているが、これに限らず、ヒンジ部25の軸方向に空隙29を形成するように分岐させた形状であれば、Cの字形状や、Yの字形状、Uの字形状などであっても良い。しかしながら、枠部22とプレート本体部23(プレート舌部23b)との間は、光走査装置10の小型化を図る場合、できるだけ狭くするする必要がある。このため、空隙29の形状は、ヒンジ部25の軸方向(枠部22の短手方向)より、枠部22に沿った方向(枠部22の長手方向)に伸びる形状、すなわち前記実施形態で示したコの字形状が有効である。
【0067】
また、光走査装置10の小型化を図る場合、支持梁部26の一部を、枠部22の一部として設けても良い。図14にプレート部20の変形例としてのプレート部20aの平面を示し、図15にプレート部20aの要部を示す。また、図16にプレート部20aを下ケース部40に組み付けた状態の要部の断面を示す。なお、図16は、図15のY−Y線に対応した断面図となっている。
【0068】
プレート部20(図7参照)では、プレート舌部23bと枠部22の間に、支持梁部26全体を設けている。これに対して、プレート部20aでは、支持梁部26b(26)の一部を、枠部22の一部に設けている。例えば図15に示すように、支持梁部26bを、ヒンジ部25側から伸びる幹部26cと、幹部26cから分岐する枝部26dとした場合、支持梁部26bの枝部26dを、枠部22の一部に設けている。言い換えると、プレート舌部23bと枠部22の間に、ヒンジ部25の軸方向に延在する幹部26cを設け、枠部22内にヒンジ部25の軸方向と交差する方向に延在する枝部26dを設けている。
【0069】
また、支持梁部26bの一部として枝部26dをプレート部20の枠部22内に形成する場合、その枠部22内で形成された枝部26dを含む領域に対応する下プレート部40に、図16に示すように、凹部47を形成している。なお、図14および図15では、プレート部20aの平面をしているが、プレート部20aを下ケース部40に組み付けたときの凹部47の位置を破線で示している。
【0070】
このように、支持梁部26bの一部が、枠部22の一部として設けられたとしても、支持梁部26bが、ミラー部21の上下方向の変位を抑制するために設けるものであって、短手方向に変形しやすい(剛性が低い)ものであれば良い。このような支持梁部26bによれば、光走査装置10の小型化(短手方向の省スペース化)を図りつつ、ヒンジ部25が上下方向に変位するのを防止するものとなるため、走査特性を向上することができる。
【0071】
枠部22内に枝部26d(支持梁部26bの一部)を設けるにあたり、図14に示すように、ヒンジ部25の軸方向と交差する方向を長手とした貫通孔22bを枠部22に形成したプレート部20aを用いても良い。また、図17に示すように、枠部22の一部に梁部を形成し、その梁部を枝部26dとしたプレート部20bを用いても良い。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、光走査装置、特に、レーザプリンタ、デジタル複写機などの画像形成装置、投影型ディスプレイなどの画像表示装置、バーコードリーダ、エリアセンサなどに用いられる光走査装置の製造業に幅広く利用されるものである。
【符号の説明】
【0073】
10 光走査装置
20、20a、20b プレート部
21 ミラー部
22 枠部
22a 片持部
22b 貫通孔
23 プレート本体部
23a くびれ部
23b プレート舌部
24 振動源
25 ヒンジ部(捻れ梁部)
26、26a、26b 支持梁部
26c 幹部
26d 枝部
27、28 開口部
29 空隙
30 ケース
31 ネジ
40 下ケース部
41、42 凹部
43 ネジ穴
44 開口端
45 段付部
46 底部
47 凹部
50 上ケース部
51 開口部
52 枠部
53 ネジ固定用の穴
60 スペーサ
61 開口部
62 枠部
110 光走査装置
120 プレート部
121 ミラー部
122 枠部
123 プレート本体部
124 振動源
125 ヒンジ部
130 ケース
140 下ケース部
150 上ケース部
160 光源
161 反射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
枠部と、該枠部で囲まれた開口部に一端側を固定して固定端が形成され、他端側に自由端が形成されたプレート本体部と、を有するプレート部と、
前記自由端を切り欠くように形成された一対のプレート舌部の間で、ヒンジ部によって揺動可能に軸支されたミラー部と、
前記プレート本体部に設けられ、該プレート本体部を撓ませることによって前記ミラー部を揺動する振動源と、
前記ヒンジ部の軸方向に設けられ、前記プレート舌部と前記枠部とを接続する支持梁部と、
を備えており、
前記支持梁部が分岐して前記枠部と接続されていることを特徴とする光走査装置。
【請求項2】
請求項1記載の光走査装置において、
分岐した前記支持梁部と前記枠部で囲まれる空隙が、矩形状であることを特徴とする光走査装置。
【請求項3】
請求項1記載の光走査装置において、
前記支持梁部の一部が、前記枠部の一部として設けられていることを特徴とする光走査装置。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の光走査装置において、
前記支持梁部は、前記プレート本体部の中央部から自由端側であって、前記プレート本体部を挟んで対称となるように設けられていることを特徴とする光走査装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2012−37832(P2012−37832A)
【公開日】平成24年2月23日(2012.2.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−180281(P2010−180281)
【出願日】平成22年8月11日(2010.8.11)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成21年度経済産業省委託研究「産業技術研究開発委託費/中小企業等製品性能評価事業/レーザープリンター用MEMS光スキャナーユニットの商品化」産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000106944)シナノケンシ株式会社 (316)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】