説明

光起電力素子

【課題】より光照射時の耐久性に優れた光起電力素子を提供すること。
【解決手段】少なくとも陽極、光電変換層、電子取出し層および陰極をこの順に有する光起電力素子であって、該電子取出し層にフェナントロリン多量体含むことを特徴とする光起電力素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光起電力素子に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は環境に優しい電気エネルギー源として、現在深刻さを増すエネルギー問題に対して有力なエネルギー源と注目されている。現在、太陽電池の光起電力素子の半導体材料としては、単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、化合物半導体などの無機物が使用されている。しかし、無機半導体を用いて製造される太陽電池は、火力発電や原子力発電などの発電方式と比べてコストが高いために、一般家庭に広く普及するには至っていない。コスト高の要因は主として、真空かつ高温下で半導体薄膜を形成するプロセスにある。そこで、製造プロセスの簡略化が期待される半導体材料として、共役系重合体や有機結晶などの有機半導体や有機色素を用いた有機太陽電池が検討されている。このような有機太陽電池においては、半導体材料を塗布法で作製することが可能なため、製造プロセスを簡略化することができる。
【0003】
しかし、共役系重合体などを用いた有機太陽電池は、従来の無機半導体を用いた太陽電池と比べて光電変換効率が低いために、まだ実用化には至っていない。有機太陽電池の実用化のためには、さらに、高い光電変換効率を長時間光照射下で持続させるという高耐久性が必須である。
【0004】
有機太陽電池の耐久性を向上させる方法としては、例えば、銅フタロシアニンとフラーレンの積層膜から成る光電変換層と銀陰極との間に、フェナントロリン単量体化合物(BCP,Bphen)などの電子取出し層を設けることによって、大気中の酸素等の拡散を抑制し、大気中での保管安定性が向上することが開示されている(例えば、非特許文献1参照)。
【0005】
また、フェナントロリン化合物としては、例えば、複数のフェナントロリン骨格を連結基で結合させたフッ素化フェナントロリン誘導体を含む電荷輸送層が開示され、有機太陽電池に適用することが示唆されている(特許文献1参照)。
【0006】
また、例えば、複数のフェナントロリン骨格を連結基で結合させたフェナントロリン化合物を有機発光ダイオード用有機半導体材料として用いて、伝導率の改良や熱的安定性を得ることが開示され、有機太陽電池に適用することが示唆されている(特許文献2参照)。
【0007】
一方、複数のフェナントロリン骨格を連結基で結合させたフェナントロリン化合物を有機薄膜発光素子用電子輸送層材料として用いることが開示されている(特許文献3〜4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特表2006−505115号公報
【特許文献2】特表2009−515346号公報
【特許文献3】特開2008−177455号公報
【特許文献4】特開2010−27761号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「ソーラー エナジー マテリアルズ & ソーラー セルズ(Solar Energy Materials & Solar Cells)」、2010年、94巻、263−266頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
発明者らは、フェナントロリン構造を有した化合物は光起電力素子(有機太陽電池)に好ましく用いられると考えた。しかしながら、非特許文献1に開示されているようなフェナントロリン単量体化合物の電子取出し層を用いた素子構成では、大気中での保管安定性はともかく、光照射時における有機太陽電池としての十分な耐久性が得られなかった。
【0011】
また、特許文献1〜2では、実施例はフェナントロリン単量体を用いているのみであり、複数のフェナントロリン骨格を連結基で結合させたフェナントロリン化合物については一般式しか開示されておらず、また、その目的はアンチクエンチング効果や、伝導率の改良や熱的安定性を得ることであり、有機太陽電池としての耐久性向上に有効なフェナントロリン構造を有した化合物の具体的構造を特定することは困難であった。
【0012】
本発明者らは、有機太陽電池の耐久性では分子構造の耐光性や、膜としての耐光性、光照射時の電極金属の拡散防止性能などが重要となると考えた。
【0013】
一方、特許文献3〜4では具体的な複数のフェナントロリン骨格を連結基で結合させたフェナントロリン化合物の構造が開示されている。しかしながら、有機薄膜発光素子用電子輸送層材料として用いることが開示されているのみであり、有機太陽電池に適用することは示唆されておらず、さらに、外部から電圧印加して劣化する有機発光素子と、外部から光照射して劣化する有機太陽電池とでは劣化要因が異なるものである。
【0014】
すなわち、有機発光素子の耐久性では、正孔と電子のキャリアバランスを保つための高い電子移動度や、通電時の熱への安定性などが重要であるのに対して、有機太陽電池の耐久性では、上述のとおり分子構造の耐光性や、膜の耐光性、電極金属の拡散防止性能などが重要となるものである。よって、上記文献を基に有機太陽電池の耐久性向上に有効な具体的構造を特定することはやはり困難であった。
【0015】
本発明は、分子構造の耐光性や、膜としての耐光性、電極金属の拡散防止性能などの特性を満足するような特定のフェナントロリン構造を有した化合物を見出すことで、光照射時の耐久性に優れた光起電力素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは鋭意努力を重ね、2位で連結されたフェナントロリン多量体を含む電子取出し層を有することによって、分子構造の耐光性や、膜としての耐光性、光照射時の電極金属の拡散を抑制し、光照射時の耐久性に優れた光起電力素子が得られることを見出すことができた。
【0017】
本発明は、少なくとも陽極、光電変換層、電子取出し層および陰極をこの順に有する光起電力素子であって、該電子取出し層に下記一般式(1)で表されるフェナントロリン多量体含む光起電力素子である。
【0018】
【化1】

【0019】
(ここで、R〜Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、およびアリール基の中から選ばれる。Aはn価の芳香族炭化水素基である。nは2以上4以下の自然数である。また、n個のフェナントロリン骨格を有する置換基はそれぞれ同一でも異なっていても良い。)
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、より光照射時の耐久性に優れた光起電力素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の光起電力素子の一態様を示す断面図
【図2】光照射開始直後と連続光照射後の電流−電圧特性
【図3】光照射開始直後と連続光照射後の電流−電圧特性
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明の光起電力素子は、少なくとも陽極、光電変換層、電子取出し層および陰極をこの順に有しており、該電子取出し層に下記一般式(1)で表されるフェナントロリン多量体含む。
【0023】
【化2】

【0024】
ここで、R〜Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、およびアリール基の中から選ばれる。Aはn価の芳香族炭化水素基である。nは2以上4以下の自然数である。また、n個のフェナントロリン骨格を有する置換基はそれぞれ同一でも異なっていても良い。
【0025】
ここで、アルキル基とは例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示し、アリール基とは例えばフェニル基、トリル基、ビフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基などの芳香族炭化水素基を示し、無置換でも置換されていてもかまわない。アルキル基またはアリール基の炭素数は、1〜20ぐらいが好ましい。
【0026】
n個のフェナントロリン骨格を有する基はそれぞれ同一でも異なっていても良い。真空蒸着時の昇華性と薄膜形成能のバランスという観点に加えて、合成と精製を容易に行うことができるという観点から、上記nは2であることがより好ましい。すなわち、下記一般式(2)で表される化合物である。
【0027】
【化3】

【0028】
ここで、R〜R19はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、およびアリール基の中から選ばれる。Bはn価の芳香族炭化水素基である。XおよびYはそれぞれ、水素、アルキル基、およびアリール基の中から選ばれる。ここで、アルキル基とは例えばメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの飽和脂肪族炭化水素基を示し、アリール基とは例えばフェニル基、トリル基、ビフェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、アントリル基などの芳香族炭化水素基を示し、無置換でも置換されていてもかまわない。アルキル基またはアリール基の炭素数は、1〜20ぐらいが好ましい。
【0029】
材料の分子量が大きすぎると昇華性が低下して真空蒸着時に熱分解する確率が大きくなる。一方、材料の分子量が小さすぎると薄膜形成能に劣る。この昇華性と薄膜形成能のバランスという観点から、一般式(2)のBは、置換もしくは無置換のフェニレン基、または、置換もしくは無置換のナフチレン基であることが好ましい。
【0030】
また、一般式(2)において、XおよびYの位置が、アルキル基またはアリール基で置換されていること好ましい。これにより、XおよびYの位置が、水素である場合に比べて、真空蒸着時に熱分解しにくくなる。さらに、結晶化が抑制されることにより、均一な薄膜を形成しやすくなり、結晶化の進行による薄膜の劣化を起こしにくくなる。アルキル基またはアリール基の炭素数は、1〜20ぐらいが好ましい。さらに、XおよびYは、メチル基、t−ブチル基、置換もしくは無置換のフェニル基、および置換もしくは無置換のナフチル基から選ばれた少なくとも1種であることが好ましい。
【0031】
上述の中で、特に昇華性、薄膜形成能および合成の容易さに優れるという点で、一般式(3)で表される光起電力素子用材料がより好適に用いられる。
【0032】
【化4】

【0033】
ここで、B’は1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、1,4−ナフチレン基、1,5−ナフチレン基、および2,7−ナフチレン基の中から選ばれる少なくとも1種である。またX’はメチル基、t−ブチル基、置換もしくは無置換のフェニル基、および置換もしくは無置換のナフチル基の中から選ばれる少なくとも1種である。
【0034】
上記のフェナントロリン多量体として、具体的には下記のような構造があげられるが特に限定されるものではない。
【0035】
【化5】

【0036】
【化6】

【0037】
【化7】

【0038】
【化8】

【0039】
【化9】

【0040】
【化10】

【0041】
【化11】

【0042】
【化12】

【0043】
【化13】

【0044】
【化14】

【0045】
一般式(1)で表される光起電力素子用材料は以下の方法で合成することができるが特に限定されるものではない。
【0046】
一般式(1)で表される光起電力素子用材料を得る方法としては、一般式(1)のAに該当する化合物に反応性置換基を導入し、その後一般式(1)のフェナントロリン骨格に変換する方法が好ましい。次に、一般式(2)のXおよびYを導入する場合では、XおよびYが水素である化合物を得て、XおよびYを導入する方法が好ましい。
【0047】
ここで、反応性置換基としては、アセチル基、ヨード基、ブロモ基などがあげられるが特に限定されるものではない。
【0048】
アセチル基の導入法としては、フリーデル・クラフツのアシル化があげられる。参考文献としては、特開平7−278537号公報の第27頁「実施例A.出発化合物(f)2,2’−ジアセチル−9,9’−スピロビフルオレン」やHelvetica Chimica Acta,vol.52(1969)第1210頁「Experimenteller Tell 2,2’−diacetyl−9,9’−spirobifluorene(IV)」などがあげられる。具体的には、一般式(1)のAに該当する化合物を1,2−ジクロロエタン中で50℃で塩化アセチルと塩化アルミニウムと反応させ、常法で処理し、アセチル基を導入することができる。塩化アセチルと塩化アルミニウムの当量を変えて、1〜4置換体を得ることができる。
【0049】
また、別法として、トリフルオロメタンスルフォニルオキシ基をパラジウム触媒によりアセチル基へ変換する方法も用いることができる。参考文献としては、J.Org.Chem.vol.57(1992)の第1481頁などがあげられる。具体的には、トリフルオロメタンスルフォニルオキシ基を有する一般式(1)のAに該当する化合物を、ジメチルホルムアミドとトリエチルアミン中、パラジウム触媒下、50〜120℃でブチルビニルエーテルと反応させ、常法で処理し、アセチル基を導入することができる。この方法においては、トリフルオロメタンスルフォニルオキシ基の代わりにブロモ基、ヨード基を用いてもアセチル基を導入することができる。
【0050】
ヨード基の導入については、参考文献として、Tetrahedron Letters,vol.38(1997)の第1487頁などがあげられる。具体的には、一般式(1)のAに該当する化合物を四塩化炭素中で50℃ないし60℃でヨウ素とビス(トリフルオロアセトキシ)ヨードベンゼンと反応させ、常法で処理し、ヨード基を導入することができる。
【0051】
ブロモ基の導入については、参考文献として、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.25(1986)No.12の第1098頁などがあげられる。具体的には、一般式(1)のAに該当する化合物を室温で臭素と反応させ、常法で処理し、ブロモ基を導入することができる。臭素の当量を変えて、1〜4置換体を得ることができる。
【0052】
上記反応性置換基を一般式(1)のフェナントロリン骨格に変換する方法については、参考文献として、Tetrahedron Letters,vol.40(1999).第7312頁スキームやJ.Org.Chem.1996,61.第3020頁「2−Phenyl−1,10−phenanntoroline」、Tetrahedron Letters,vol.23(1982).第5291頁〜第5294頁などがあげられる。具体的には、一般式(1)のAに該当する化合物のアセチル体を水酸化カリウムの存在下、エタノール、イソプロピルアルコール等の低級アルコールまたはジオキサン中で50℃〜還流温度で8−アミノ−7−キノリンカルボアルデヒドまたは1−アミノ−2−ナフタレンカルボアルデヒドと反応させ、常法で処理する方法や、一般式(1)のAに該当する化合物のヨード体またはブロモ体をトルエン、THF等の溶媒中で−100℃〜50℃で金属リチウムやt−ブチルリチウム、n−ブチルリチウム等のアルキルリチウムでリチオ化し、次いで−20〜60℃でフェナントロリン類と反応させ、常法で処理した後、得られた化合物を二酸化マンガン、ニトロベンゼン、クロラニル、DDQ、空気、酸素、水などで処理する方法などで、フェナントロリン骨格を導入することができる。
【0053】
XおよびYの導入方法としては、一般式(2)においてXおよびYが水素である化合物をトルエン、THF等の溶媒中で−20〜60℃で、ここで導入されるアルキル基またはアリール基のリチオ化物であるアルキルリチウムあるいはアリールリチウムや、グリニア試薬であるハロゲン化アルキルマグネシウムあるいはハロゲン化アリールマグネシウムと反応させ、常法で処理した後、得られた化合物を二酸化マンガン、ニトロベンゼン、クロラニル,DDQ、空気、酸素、水などで処理する方法が挙げられる。上記のアルキルリチウム、アリールリチウムは対応するハロゲン化アルキル、ハロゲン化アリールに金属リチウムあるいはn−ブチルリチウム等のアルキルリチウムを反応させることにより得ることができる。ハロゲン化アルキルマグネシウム、ハロゲン化アリールマグネシウムは対応するハロゲン化アルキル、ハロゲン化アリールに金属マグネシウムを反応させることにより得ることができる。
【0054】
一般式(1)の光起電力素子用材料は、カラムクロマトグラフィー、再結晶、昇華等の精製法単独あるいは組み合わせにより精製することができる。カラムクロマトグラフィーでは、充填剤としてシリカゲル、アルミナ、フロリジルなどを用いて精製することができる。再結晶では、トルエン、ヘキサン、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジメトキシエタン、エタノール、メタノール、アセトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル、n−ブチロラクトン、ニトロベンゼン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、1−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ピリジン、トリエチルアミンなど、通常使用される溶剤を単独あるいは混合して使用することにより精製することができる。
【0055】
次に、本発明の光起電力素子について説明する。図1は本発明の光起電力素子の一態様を示す断面図である。基板1の上に陽極2、光電変換層3、上記一般式(1)で表されるフェナントロリン多量体含む電子取出し層4、および陰極5をこの順に有する。
【0056】
基板1は、電極や光電変換層が積層できるものを選択して用いることができる。例えば、無アルカリガラス、石英ガラス等の無機材料、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリアミド、ポリイミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリパラキシレン、エポキシ樹脂やフッ素系樹脂等の有機材料から任意の方法によって作製されたフィルムや板が使用可能である。また、基板1側から光を入射させる場合は、基板の光透過率は60−100%が好ましい。ここで、光透過率とは、
[透過光強度(W/m)/入射光強度(W/m)]×100(%)
で与えられる値である。
【0057】
本発明の光起電力素子の陽極または陰極は光透過性を有する。少なくともいずれか一方が光透過性を有すればよく、両方が光透過性を有してもよい。ここで光透過性を有するとは、光電変換層に入射光が到達して起電力が発生する程度のことをいう。すなわち、光透過率として0%を超える値を有する場合、光透過性を有するという。この光透過性を有する電極は、400nm以上900nm以下の全ての波長領域において60−100%の光透過率を有することが好ましい。また、光透過性を有する電極の厚さは十分な導電性が得られればよく、材料によって異なるが、20nm〜300nmが好ましい。なお、光透過性を有さない電極は、導電性があれば十分であり、厚さも特に限定されない。
【0058】
電極材料としては、陽極には仕事関数の大きな導電性材料、もう一方の陰極には仕事関数の小さな導電性材料を使用することが好ましい。
【0059】
仕事関数の大きな導電性材料としては、金、白金、クロム、ニッケルなどの金属、透明性を有するインジウム、スズなどの金属酸化物や複合金属酸化物(インジウム錫酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)など)、導電性高分子が好ましく用いられる。また、陽極は正孔取り出し層を有することがより好ましい。正孔取り出し層により、キャリアを取り出すのに適した界面状態を形成できる。さらに、電極間の短絡を防止する効果がある。正孔取り出し層を形成する材料としては、ドーパントを含むポリチオフェン系重合体、ポリ−p−フェニレンビニレン系重合体、ポリフルオレン系重合体などの導電性高分子や、酸化モリブデンなどの金属酸化物が好ましく用いられる。なお、ポリチオフェン系重合体、ポリ−p−フェニレンビニレン系重合体、ポリフルオレン系重合体とは、それぞれチオフェン骨格、p−フェニレンビニレン骨格、フルオレン骨格を主鎖に有する重合体を指す。これらの中でも、酸化モリブデン、もしくはドーパントを含むポリエチレンジオキシチオフェン(PEDOT)などのポリチオフェン系重合体、特にPEDOTとポリスチレンスルホネート(PSS)の混合物がより好ましい。また、正孔取り出し層は、これらの材料を複数積層させていてもよく、積層させる材料は異なっていてもよい。
【0060】
仕事関数の小さな導電性材料としては、リチウムなどのアルカリ金属、マグネシウムやカルシウムなどのアルカリ土類金属、錫、銀、アルミニウムなどが好ましく用いられる。さらに、上記の金属からなる合金や上記の金属の積層体からなる電極も好ましく用いられる。また、陰極にはフッ化リチウム、フッ化セシウムなどの金属フッ化物を含んでいてもよい。
【0061】
次に、本発明の光起電力素子における光電変換層について説明する。光電変換層は、前記陽極および陰極に挟持され、少なくとも後述する(A)電子供与性有機半導体および(B)電子受容性有機半導体を含む。例えば、電子供与性有機半導体と電子受容性有機半導体の混合物からなる層、電子供与性有機半導体からなる層と電子受容性有機半導体からなる層を積層した構造、電子供与性有機半導体からなる層と電子受容性有機半導体からなる層の間に、これらの混合物からなる層を積層した構造などが挙げられる。電子供与性有機半導体または電子受容性有機半導体を2種以上含有してもよい。本発明における電子供与性有機半導体と電子受容性有機半導体は、混合層を形成していることが好ましい。光電変換層における電子供与性有機半導体と電子受容性有機半導体の含有比率は特に限定されないが、電子供与性有機半導体:電子受容性有機半導体の重量分率が、1〜99:99〜1の範囲であることが好ましく、より好ましくは10〜90:90〜10の範囲であり、さらに好ましくは20〜60:80〜40の範囲である。光電変換層は、(A)電子供与性有機半導体および(B)電子受容性有機半導体が光吸収によって光起電力を生じるのに十分な厚さがあればよい。材料によって異なるが、10nm〜1000nmの厚さが好ましく、より好ましくは50nm〜500nmである。本発明における光電変換層は、本発明の目的を阻害しない範囲において、界面活性剤やバインダー樹脂、フィラー等の他の成分を含んでいてもよい。
【0062】
(A)電子供与性有機半導体は、p型半導体特性を示す有機物であれば特に限定されない。例えば、ポリチオフェン系重合体、2,1,3−ベンゾチアジアゾール−チオフェン系共重合体、キノキサリン−チオフェン系共重合体、チオフェンーベンゾジチオフェン系共重合体、ポリ−p−フェニレンビニレン系重合体、ポリ−p−フェニレン系重合体、ポリフルオレン系重合体、ポリピロール系重合体、ポリアニリン系重合体、ポリアセチレン系重合体、ポリチエニレンビニレン系重合体などの共役系重合体、Hフタロシアニン(HPc)、銅フタロシアニン(CuPc)、亜鉛フタロシアニン(ZnPc)等のフタロシアニン誘導体、ポルフィリン誘導体、N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(3−メチルフェニル)−4,4’−ジフェニル−1,1’−ジアミン(TPD)、N,N’−ジナフチル−N,N’−ジフェニル−4,4’−ジフェニル−1,1’−ジアミン(NPD)等のトリアリールアミン誘導体、4,4’−ジ(カルバゾール−9−イル)ビフェニル(CBP)等のカルバゾール誘導体、オリゴチオフェン誘導体(ターチオフェン、クウォーターチオフェン、セキシチオフェン、オクチチオフェンなど)等の低分子有機化合物などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。
【0063】
ポリチオフェン系重合体とは、チオフェン骨格を主鎖に有する共役系重合体を指し、側鎖を有するものも含む。具体的には、ポリ−3−メチルチオフェン、ポリ−3−ブチルチオフェン、ポリ−3−ヘキシルチオフェン、ポリ−3−オクチルチオフェン、ポリ−3−デシルチオフェンなどのポリ−3−アルキルチオフェン、ポリ−3−メトキシチオフェン、ポリ−3−エトキシチオフェン、ポリ−3−ドデシルオキシチオフェンなどのポリ−3−アルコキシチオフェン、ポリ−3−メトキシ−4−メチルチオフェン、ポリ−3−ドデシルオキシ−4−メチルチオフェンなどのポリ−3−アルコキシ−4−アルキルチオフェンなどが挙げられる。
【0064】
2,1,3−ベンゾチアジアゾール−チオフェン系共重合体とは、チオフェン骨格と2,1,3−ベンゾチアジアゾール骨格を主鎖に有する共役系共重合体を指す。2,1,3−ベンゾチアジアゾール−チオフェン系共重合体として、具体的には下記のような構造が挙げられる。以下の式において、nは1〜1000の範囲を示す。
【0065】
【化15】

【0066】
キノキサリン−チオフェン系共重合体とは、チオフェン骨格とキノキサリン骨格を主鎖に有する共役系共重合体を指す。キノキサリン−チオフェン系共重合体として、具体的には下記のような構造が挙げられる。以下の式において、nは1〜1000の範囲を示す。
【0067】
【化16】

【0068】
チオフェン−ベンゾジチオフェン系重合体とは、チオフェン骨格とベンゾジチオフェン骨格を主鎖に有する共役系共重合体を指す。チオフェン−ベンゾジチオフェン系共重合体として、具体的には下記のような構造が挙げられる。以下の式において、nは1〜1000の範囲を示す。
【0069】
【化17】

【0070】
ポリ−p−フェニレンビニレン系重合体とは、p−フェニレンビニレン骨格を主鎖に有する共役系重合体を指し、側鎖を有するものも含む。具体的には、ポリ[2−メトキシ−5−(2−エチルヘキシルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン]、ポリ[2−メトキシ−5−(3’,7’−ジメチルオクチルオキシ)−1,4−フェニレンビニレン]などが挙げられる。
【0071】
(B)電子受容性有機半導体は、n型半導体特性を示す有機物であれば特に限定されない。例えば、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボキシリックジアンハイドライド、3,4,9,10−ペリレンテトラカルボキシリックジアンハイドライド、N,N'−ジオクチル−3,4,9,10−ナフチルテトラカルボキシジイミド、オキサゾール誘導体(2−(4−ビフェニリル)−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,3,4−オキサジアゾール、2,5−ジ(1−ナフチル)−1,3,4−オキサジアゾール等)、トリアゾール誘導体(3−(4−ビフェニリル)−4−フェニル−5−(4−t−ブチルフェニル)−1,2,4−トリアゾール等)、フェナントロリン誘導体、フラーレン誘導体、カーボンナノチューブ、ポリ−p−フェニレンビニレン系重合体にシアノ基を導入した誘導体(CN−PPV)などが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。安定でキャリア移動度の高いn型半導体であることから、フラーレン誘導体が好ましく用いられる。
【0072】
上記フラーレン誘導体の具体例として、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94を始めとする無置換のものと、[6,6]−フェニル C61 ブチリックアシッドメチルエステル([6,6]−C61−PCBM、または[60]PCBM)、[5,6]−フェニル C61 ブチリックアシッドメチルエステル、[6,6]−フェニル C61 ブチリックアシッドヘキシルエステル、[6,6]−フェニル C61 ブチリックアシッドドデシルエステル、フェニル C71 ブチリックアシッドメチルエステル([70]PCBM)を始めとする置換誘導体などが挙げられる。なかでも[70]PCBMがより好ましい。
【0073】
本発明の光起電力素子は、上記一般式(1)で表されるフェナントロリン多量体含む電子取出し層を有する。ここで、上記一般式(1)で表されるフェナントロリン多量体については上記のように説明したとおりである。
【0074】
有機光起電力素子は、電子取出し層を有していない場合や、フェナントロリン単量体から成る電子取出し層を有する場合においても、作製直後においては問題なく駆動する。しかしながら、本発明者らが鋭意検討した結果、上記の場合においては連続的に光を照射しながら光起電力素子を駆動し続けることによって光電変換効率が低下する。これは、陰極材料が光電変換層側へ拡散してしまうためである。例えば、陰極材料が光電変換層へ拡散すると、光電変換層内で光生成した励起子が拡散物質のために失活するなどの悪影響を及ぼす。また、さらに陰極材料が光電変換層へ拡散すると、陰極と陽極が接触することによって大きなリーク電流が発生してしまい、光電変換効率が大きく低下する。
【0075】
本発明の光起電力素子は、上記一般式(1)で表されるフェナントロリン多量体含む電子取出し層を有することによって、光照射時の陰極材料の拡散を抑制することによって耐久性を向上させている。上記一般式(1)で表されるフェナントロリン多量体含む電子取出し層は、その強固な膜質のために光照射による陰極材料の拡散を抑制することができる。さらに、フェナントロリン骨格が組み込まれているために電子輸送性を有しており、電子取り出しの妨げになりにくい。
【0076】
該電子取出し層は本発明の効果を阻害しない範囲において、上記一般式(1)で表されるフェナントロリン多量体以外の物質を含んでもよい。例えば、(B)電子受容性有機半導体で挙げたようなn型半導体特性を示す電子輸送性有機物である。その他、本発明の光起電力素子における光電変換層から陰極への電子の取出しを著しく妨げない範囲において、電子輸送性を有していない物質も含んでいてもよい。これらフェナントロリン多量体以外の物質は、フェナントロリン多量体との混合層を形成していてもよいし、積層構造であってもよい。混合層であった場合、該電子取出し層におけるフェナントロリン多量体の含有比率は特に限定されないが、重量比率で1〜99%の範囲であることが好ましく、より好ましくは10〜99%の範囲である。該電子取出し層は、光照射時の上記のような陰極材料の拡散を抑制するのに十分な厚さがあればよいが、厚くすると電子取出し効率が低下することがある。所望する光起電力素子の光電変換効率に応じて適宜最適な膜厚に設定すればよいが、0.1nm〜100nmの厚さが好ましく、より好ましくは0.5nm〜10nmである。
【0077】
また本発明の光起電力素子は、1つ以上の電荷再結合層を介して2層以上の光電変換層を積層(タンデム化)して直列接合を形成してもよい。例えば、基板/陽極/第1の光電変換層/第1の電子取出し層/電荷再結合層/第2の光電変換層/第2の電子取出し層/陰極という積層構成を挙げることができる。このように積層することにより、開放電圧を向上させることができる。なお、陽極と第1の光電変換層の間、および、電荷再結合層と第2の光電変換層の間に上述の正孔取出し層を設けてもよく、第1の光電変換層と電荷再結合層の間、および、第2の光電変換層と陰極の間に上述の正孔取出し層を設けてもよい。ここで用いられる電荷再結合層は、複数の光電変換層が光吸収できるようにするため、光透過性を有する必要がある。また、電荷再結合層は、十分に正孔と電子が再結合するように設計されていればよいので、必ずしも膜である必要は無く、例えば光電変換層上に一様に形成された金属クラスターであってもかまわない。従って、電荷再結合層には、上述の金、白金、クロム、ニッケル、リチウム、マグネシウム、カルシウム、錫、銀、アルミニウムなどから成る数オングストロームから数十オングストローム程度の光透過性を有する非常に薄い金属膜や金属クラスター(合金を含む)、ITO、IZO、AZO、GZO、FTO、酸化チタンや酸化モリブデンなどの光透過性の高い金属酸化物膜およびクラスター、PSSが添加されたPEDOTなどの導電性有機材料膜、またはこれらの複合体等が用いられる。例えば、銀を、真空蒸着法を用いて水晶振動子膜厚モニター上で数オングストローム〜1nmとなるように蒸着すれば、一様な銀クラスターが形成できる。その他にも、酸化チタン膜を形成するならば、アドヴァンスト マテリアルズ(Advanced Materials)、2006年、18巻、572−576頁に記載のゾルゲル法を用いればよい。ITO、IZOなどの複合金属酸化物であるならば、スパッタリング法を用いて製膜すればよい。これら電荷再結合層形成法や種類は、電荷再結合層形成時の光電変換層への非破壊性や、次に積層される光電変換層の形成法等を考慮して適当に選択すればよい。
【0078】
次に本発明の光起電力素子の製造方法について説明する。基板上にITOなどの透明電極(この場合陽極に相当)をスパッタリング法などにより形成する。次に、電子供与性有機半導体材料、および電子受容性有機材料を含む光電変換素子用材料を溶媒に溶解させて溶液を作り、透明電極上に塗布し光電変換層を形成する。このとき用いられる溶媒は有機溶媒が好ましく、例えば、メタノール、エタノール、ブタノール、トルエン、キシレン、o−クロロフェノール、アセトン、酢酸エチル、エチレングリコール、テトラヒドロフラン、ジクロロメタン、クロロホルム、ジクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン、クロロナフタレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、γ−ブチロラクトンなどが挙げられる。これらを2種以上用いてもよい。さらに、適当な添加剤を溶媒に添加することによって、光電変換層中の電子供与性有機半導体材料、および電子受容性有機材料の相分離構造を変化させることができる。添加剤としては、例えば、1,8−オクタンジチオールなどのチオール化合物や、1,8−ジヨードオクタンなどのヨード化合物が挙げられる。
【0079】
本発明の電子供与性有機材料および電子受容性有機材料を混合して光電変換層を形成する場合は、本発明の電子供与性有機材料と電子受容性有機材料を所望の比率で溶媒に添加し、加熱、攪拌、超音波照射などの方法を用いて溶解させ溶液を作り、透明電極上に塗布する。また、本発明の電子供与性有機材料および電子受容性有機材料を積層して光電変換層を形成する場合は、例えば本発明電子供与性有機材料の溶液を塗布して電子供与性有機材料を有する層を形成した後に、電子受容性有機材料の溶液を塗布して層を形成する。ここで、本発明の電子供与性有機材料および電子受容性有機材料は、分子量が1000以下程度の低分子量体である場合には、蒸着法を用いて層を形成することも可能である。
【0080】
光電変換層の形成には、スピンコート塗布、ブレードコート塗布、スリットダイコート塗布、スクリーン印刷塗布、バーコーター塗布、鋳型塗布、印刷転写法、浸漬引き上げ法、インクジェット法、スプレー法、真空蒸着法など何れの方法を用いてもよく、膜厚制御や配向制御など、得ようとする光電変換層特性に応じて形成方法を選択すればよい。例えばスピンコート塗布を行う場合には、本発明の電子供与性有機材料、および電子受容性有機材料が1〜20g/lの濃度(本発明の電子供与性有機材料と電子受容性有機材料と溶媒を含む溶液の体積に対する、本発明の電子供与性有機材料と電子受容性有機材料の重量)であることが好ましく、この濃度にすることで厚さ5〜200nmの均質な光電変換層を得ることができる。形成した光電変換層に対して、溶媒を除去するために、減圧下または不活性雰囲気下(窒素やアルゴン雰囲気下)などでアニーリング処理を行ってもよい。アニーリング処理の好ましい温度は40℃〜300℃、より好ましくは50℃〜200℃である。このアニーリング処理は、陰極の形成後に行ってもよい。
【0081】
次に、光電変換層上に電子取出し層を真空蒸着法やスパッタ法により形成する。フェナントロリン多量体に溶解性がある場合においては、光電変換層作製と同様の塗布法を用いて製膜してもよい。
【0082】
電子取出し層上にAgなどの金属電極(この場合陰極に相当)を真空蒸着法やスパッタ法により形成する。金属電極は、電子取出し層を真空蒸着した場合は、引き続き、真空を保持したまま続けて形成することが好ましい。
【0083】
陽極と光電変換層の間に正孔取り出し層を設ける場合には、所望のp型有機半導体材料(PEDOTなど)を陽極上にスピンコート法、バーコーティング法、ブレードによるキャスト法等で塗布した後、真空恒温槽やホットプレートなどを用いて溶媒を除去し、正孔取り出し層を形成する。酸化モリブデンなどの無機材料を使用する場合には、真空蒸着機を用いた真空蒸着法を適用することも可能である。
【0084】
本発明の光起電力素子は、光電変換機能、光整流機能などを利用した種々の光電変換デバイスへの応用が可能である。例えば光電池(太陽電池など)、電子素子(光センサ、光スイッチ、フォトトランジスタなど)、光記録材(光メモリなど)などに有用である。
【実施例】
【0085】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。なお、本発明は下記実施例に限定されるものではない。また実施例等で用いた化合物のうち、略語を使用しているものについて、以下に示す。
Isc:短絡電流密度
Voc:開放電圧
η:光電変換効率
ITO:インジウム錫酸化物
PEDOT:ポリエチレンジオキシチオフェン
PSS:ポリスチレンスルホネート
A−1:下記式で表される化合物
A−2:下記式で表される化合物
A−3:下記式で表される化合物
A−4:下記式で表される化合物
A−5:下記式で表される化合物
【0086】
【化18】

【0087】
[70]PCBM:フェニル C71 ブチリックアシッドメチルエステル
CB:クロロベンゼン
B−1〜B−5:下記式で表される化合物
【0088】
【化19】

【0089】
BCP:2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(バソクプロイン)
なお、上記化合物A−1は、アドヴァンスト マテリアルズ(Advanced Materials)、2003年、15巻、988−991頁に記載の方法によって合成した。上記化合物A−2は、ジャーナル オブ ザ アメリカン ケミストリー(Jurnal of the American Chemistry)、2009年、131巻、7792−7799頁に記載の方法によって合成した。上記化合物A−3は、アドヴァンスト マテリアルズ(Advanced Materials)、2010年、22巻、5240−5244頁に記載の方法によって合成した。上記化合物A−4は、ャーナル オブ ザ アメリカン ケミストリー(Jurnal of the American Chemistry)、2010年、132巻、5330−5331頁に記載の方法によって合成した。上記化合物A−5はアドヴァンスト ファンクショナル マテリアルズ(Advanced Functional Materials)、2007年、17巻、3836−3842頁に記載の方法によって合成した。上記化合物B−1〜B−5は、特開2004−281390号公報に記載の方法によって合成した。
【0090】
各実施例・比較例における光電変換効率は、次式により求めた。
η(%)=Isc(mA/cm)×Voc(V)×FF/照射光強度(mW/cm)×100
FF=JVmax/(Isc(mA/cm)×Voc(V))
JVmax(mW/cm)は、印加電圧が0Vから開放電圧までの間で電流密度と印加電圧の積が最大となる点における電流密度と印加電圧の積の値である。
【0091】
各実施例・比較例における光電変換効率の劣化率は、次式により求めた。
劣化率(%)=連続光照射後の光電変換効率(%)/光照射開始直後の光電変換効率(%)×100
実施例1
CB溶媒0.15mLを、A−1 0.6mg、[70]PCBM(ソレーヌ社製)2.4mgの入ったサンプル瓶の中に加え、超音波洗浄機(井内盛栄堂(株)製US−2、出力120W)中で30分間超音波照射することにより溶液Aを得た。
【0092】
スパッタリング法により陽極となるITO透明導電層を125nm堆積させたガラス基板を38mm×46mmに切断した後、ITOをフォトリソグラフィー法により38mm×13mmの長方形状にパターニングした。得られた基板の光透過率を日立分光光度計U−3010で測定した結果、400nm〜900nmの全ての波長領域において85%以上であった。この基板をアルカリ洗浄液(フルウチ化学(株)製、“セミコクリーン”EL56)で10分間超音波洗浄した後、超純水で洗浄した。この基板を30分間UV/オゾン処理した後に、基板と正孔取出し層用マスクを真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度を1×10−3Pa以下になるまで排気し、抵抗加熱法によって、酸化モリブデン(MoO3)層を30nmの厚さに蒸着した。上記の溶液Aを酸化モリブデン層上に滴下し、スピンコート法により膜厚100nmの光電変換層を形成した。その後、基板と陰極用マスクを真空蒸着装置内に設置して、装置内の真空度を1×10−3Pa以下になるまで排気し、抵抗加熱法によって、電子取出し層となるB−1を1nm、続いて陰極となる銀層を100nmの厚さに蒸着した。作製した素子の上下の電極から引き出し電極を取り出し、帯状のITO層と銀層が重なり合う部分の面積が5mm×5mmである光起電力素子を作製した。
【0093】
次に、作製した光起電力素子を窒素雰囲気としたグローブボックス中に移し、光起電力素子側にガラス板をエポキシ樹脂で接着することによって封止した。このとき、エポキシ樹脂は5mm×5mmの素子駆動部分には触れないように周辺部のみを接着した。
【0094】
このようにして作製された光起電力素子の上下の電極をヒューレット・パッカード社製ピコアンメーター/ボルテージソース4140Bに接続して、大気下でITO層側から白色光(AM1.5;100mW/cm)を照射し続け、印加電圧を−1Vから+2Vまで変化させたときの電流値を測定した。測定は光照射開始直後と4時間連続光照射後に行った。得られた電流値より光電変換効率(η)を算出した結果、光電変換効率の劣化率は1%であった。また、上記と全く同様にして作製した光起電力素子を、白色光(メタルハライドランプ;250mW/cm)を照射し続け、印加電圧を−1Vから+2Vまで変化させたときの電流値を測定した。測定は光照射開始直後と16時間連続光照射後に行った。結果を図2に示した。光照射開始直後の電流−電圧曲線6と16時間光照射後の電流−電圧曲線7は大きくは変化しておらず、銀電極の拡散が抑制されていることが示唆された。
【0095】
実施例2
電子取出し層にB−2を用いた他は実施例1と全く同様にして光起電力素子を作製して封止を行った。白色光(AM1.5;100mW/cm)を4時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は5%であった。
【0096】
実施例3
電子取出し層にB−3を用いた他は実施例1と全く同様にして光起電力素子を作製して封止を行った。白色光(AM1.5;100mW/cm)を4時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は1%であった。
【0097】
実施例4
電子取出し層にB−4を用いた他は実施例1と全く同様にして光起電力素子を作製して封止を行った。白色光(AM1.5;100mW/cm)を4時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は4%であった。
【0098】
実施例5
電子取出し層にB−5を用いた他は実施例1と全く同様にして光起電力素子を作製して封止を行った。白色光(AM1.5;100mW/cm)を4時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は3%であった。
【0099】
実施例6
電子取出し層にB−1とBCPの共蒸着層(重量比1:1)を用いた他は実施例1と全く同様にして光起電力素子を作製して封止を行った。白色光(AM1.5;100mW/cm)を4時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は1%であった。
【0100】
比較例1
電子取出し層にBCPを用いた他は実施例1と全く同様にして光起電力素子を作製して封止を行った。白色光(AM1.5;100mW/cm)を4時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は9%であった。また、上記と全く同様にして作製した光起電力素子を、白色光(メタルハライドランプ;250mW/cm)を照射し続け、印加電圧を−1Vから+2Vまで変化させたときの電流値を測定した。測定は光照射開始直後と9時間連続光照射後に行った。結果を図3に示した。図2の場合と異なり、図3では光照射開始直後の電流−電圧曲線8と9時間光照射後の電流−電圧曲線9は大きく変化している。これは、陽極と陰極が接触することによってリーク電流が発生しているためであり、銀電極が拡散していることを示唆している。
【0101】
実施例7
実施例1と全く同様にUV/オゾン処理までを行った。その後、基板上にPEDOT:PSS水溶液(PEDOT0.8重量%、PSS0.5重量%)をスピンコート法により塗布し、ホットプレートにより200℃で5分間加熱乾燥して60nmの厚さに成膜した。続いて、実施例1と全く同様にして酸化モリブデン層蒸着から光起電力素子の封止までを行った。
【0102】
白色光(AM1.5;100mW/cm)を4時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は0%であった。
【0103】
比較例2
実施例1と全く同様にUV/オゾン処理までを行った。その後、基板上にPEDOT:PSS水溶液(PEDOT0.8重量%、PSS0.5重量%)をスピンコート法により塗布し、ホットプレートにより200℃で5分間加熱乾燥して60nmの厚さに成膜した。続いて、電子取出し層にBCPを用いた他は実施例1と全く同様にして酸化モリブデン層蒸着から光起電力素子の封止までを行った。
【0104】
白色光(AM1.5;100mW/cm)を4時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は10%であった。
【0105】
実施例8
実施例1と全く同様に光電変換層作製までを行った。その後、基板を真空中(1×10−1Pa以下)において110℃で10分間加熱した。続いて、実施例1と全く同様にして電子取出し層蒸着から光起電力素子の封止までを行った。
【0106】
白色光(メタルハライドランプ;250mW/cm)を16時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は3%であった。
【0107】
比較例3
実施例1と全く同様に光電変換層作製までを行った。その後、基板を真空中(1×10−1Pa以下)において110℃で10分間加熱した。続いて、電子取出し層にBCPを用いた他は実施例1と全く同様にして電子取出し層蒸着から光起電力素子の封止までを行った。
【0108】
白色光(メタルハライドランプ;250mW/cm)を16時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は11%であった。
【0109】
実施例9
CB溶媒0.15mLを、A−2 1.0mg、[70]PCBM(ソレーヌ社製)2.0mgの入ったサンプル瓶の中に加え、超音波洗浄機(井内盛栄堂(株)製US−2、出力120W)中で30分間超音波照射することにより溶液Bを得た。
【0110】
溶液Aに代えて溶液Bを用いた他は実施例1と全く同様にして光起電力素子を作製して封止を行った。白色光(AM1.5;100mW/cm)を4時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は9%であった。
【0111】
比較例4
電子取出し層にBCPを用いた他は実施例9と全く同様にして光起電力素子を作製して封止を行った。白色光(AM1.5;100mW/cm)を4時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は72%であった。
【0112】
実施例10
1,8−ジヨードオクタンを3体積%含むCB溶媒0.15mLを、A−2 1.0mg、[70]PCBM(ソレーヌ社製)2.0mgの入ったサンプル瓶の中に加え、超音波洗浄機(井内盛栄堂(株)製US−2、出力120W)中で30分間超音波照射することにより溶液Cを得た。
【0113】
溶液Aに代えて溶液Cを用いた他は実施例1と全く同様にして光起電力素子を作製して封止を行った。白色光(AM1.5;100mW/cm)を4時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は37%であった。
【0114】
比較例5
電子取出し層にBCPを用いた他は実施例10と全く同様にして光起電力素子を作製して封止を行った。白色光(AM1.5;100mW/cm)を4時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は50%であった。
【0115】
実施例11
CB溶媒0.15mLを、A−3 1.0mg、[70]PCBM(ソレーヌ社製)2.0mgの入ったサンプル瓶の中に加え、超音波洗浄機(井内盛栄堂(株)製US−2、出力120W)中で30分間超音波照射することにより溶液Dを得た。
【0116】
溶液Aに代えて溶液Dを用いた他は実施例1と全く同様にして光起電力素子を作製して封止を行った。白色光(AM1.5;100mW/cm)を4時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は53%であった。
【0117】
比較例6
電子取出し層にBCPを用いた他は実施例11と全く同様にして光起電力素子を作製して封止を行った。白色光(AM1.5;100mW/cm)を4時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は89%であった。
【0118】
実施例12
CB溶媒0.15mLを、A−4 1.0mg、[70]PCBM(ソレーヌ社製)2.0mgの入ったサンプル瓶の中に加え、超音波洗浄機(井内盛栄堂(株)製US−2、出力120W)中で30分間超音波照射することにより溶液Eを得た。
【0119】
溶液Aに代えて溶液Eを用いた他は実施例1と全く同様にして光起電力素子を作製して封止を行った。白色光(AM1.5;100mW/cm)を4時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は64%であった。
【0120】
比較例7
電子取出し層にBCPを用いた他は実施例12と全く同様にして光起電力素子を作製して封止を行った。白色光(AM1.5;100mW/cm)を4時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は93%であった。
【0121】
実施例13
CB溶媒0.15mLを、A−5 0.6mg、[70]PCBM(ソレーヌ社製)2.4mgの入ったサンプル瓶の中に加え、超音波洗浄機(井内盛栄堂(株)製US−2、出力120W)中で30分間超音波照射することにより溶液Fを得た。
【0122】
溶液Aに代えて溶液Fを用いた他は実施例1と全く同様にして光起電力素子を作製して封止を行った。白色光(AM1.5;100mW/cm)を4時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は42%であった。
【0123】
比較例8
電子取出し層にBCPを用いた他は実施例13と全く同様にして光起電力素子を作製して封止を行った。白色光(AM1.5;100mW/cm)を4時間連続照射し続けたときの光電変換効率の劣化率は70%であった。
【0124】
【表1】

【0125】
実施例と比較例の結果を表1にまとめた。実施例1〜6と比較例1、実施例7と比較例2、実施例8と比較例3、実施例9と比較例4、実施例10と比較例5、実施例11と比較例6、実施例12と比較例7、実施例13と比較例8の対比から、本発明により光起電力素子の光照射耐久性を向上させることができることが分かる。
【符号の説明】
【0126】
1 基板
2 陽極
3 光電変換層
4 電子取出し層
5 陰極
6 光照射開始直後の電流−電圧曲線
7 16時間光照射後の電流−電圧曲線
8 光照射開始直後の電流−電圧曲線
9 9時間光照射後の電流−電圧曲線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも陽極、光電変換層、電子取出し層および陰極をこの順に有する光起電力素子であって、該電子取出し層に下記一般式(1)で表されるフェナントロリン多量体含むことを特徴とする光起電力素子。
【化1】

(ここで、R〜Rはそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、およびアリール基の中から選ばれる。Aはn価の芳香族炭化水素基である。nは2以上4以下の自然数である。また、n個のフェナントロリン骨格を有する置換基はそれぞれ同一でも異なっていても良い。)
【請求項2】
上記一般式(1)のフェナントロリン多量体が下記一般式(2)で表される請求項1記載の光起電力素子。
【化2】

(ここで、R〜R19はそれぞれ同じでも異なっていてもよく、水素、アルキル基、およびアリール基の中から選ばれる。Bはn価の芳香族炭化水素基である。XおよびYはそれぞれ、水素、アルキル基、およびアリール基の中から選ばれる。)
【請求項3】
上記一般式(2)のBが置換もしくは無置換のフェニレン基、または、置換もしくは無置換のナフチレン基である請求項2記載の光起電力素子。
【請求項4】
上記一般式(2)で表されるフェナントロリン2量体が下記一般式(3)で表される請求項2〜3いずれか記載の光起電力素子。
【化3】

(ここで、B’は1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、1,4−ナフチレン基、1,5−ナフチレン基、および2,7−ナフチレン基の中から選ばれる少なくとも1種である。またX’はメチル基、t−ブチル基、置換もしくは無置換のフェニル基、および置換もしくは無置換のナフチル基の中から選ばれる少なくとも1種である。)
【請求項5】
電子取出し層の膜厚が0.5nm〜10nmである請求項1〜4いずれか記載の光起電力素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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