説明

光路長安定化装置

【課題】光源に要求される線幅を緩和させ、常時、位相測定および補償を可能とする。
【解決手段】第1,2の周波数の2つの光波を発生する2光波発生手段1と、発生された光波を分配する光分配手段2と、光分配手段2から光サーキュレータ3および伝送光ファイバ14を介して出力された分配光を反射する部分反射鏡15と、基準信号を基に部分反射鏡15から伝送光ファイバ14および光サーキュレータ3を介した反射光の周波数をシフトさせる光周波数シフタ5と、分配光とシフト光とを合波する光合波手段6と、合波光から第1,2の周波数近傍の光波を抽出する光帯域フィルタ7a,7bと、抽出された各光波を電気信号に変換する光電変換手段8a,8bと、電気信号間の位相差から誤差信号を生成する位相比較手段9と、誤差信号を基に伝送光ファイバ14に出力される光波の遅延時間を制御する光可変遅延手段12とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、光路長の変動を補正するための光路長安定化装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、光が媒質中を伝搬する場合、その光路において温度変動などの擾乱が生じると、媒質の屈折率変化や伸縮により光路長が変動する。したがって、マイクロ波信号を光信号に重畳して光ファイバを伝送させるRoF(Radio on Fiber)伝送において、高い位相安定性度でマイクロ波信号を伝送する場合、伝送路の光路長変動を抑えた光路長安定化が必要である。
【0003】
従来の光路長安定化装置として、擾乱による光路長変動をモニタし、変動方向と逆方向に光路長を制御することで補正を行うものがある(例えば特許文献1参照)。この従来の光路長制御装置について、特許文献1の図1を用いて説明する。
【0004】
この装置では、まず、レーザ光を光分岐器で2分岐して、一方の分岐光を参照光とし、他方の分岐光をローカル光とする。参照光は、第1の光サーキュレータに入力した後、所定のポートから出力して光移相器を透過後、光ファイバにより遠方まで伝送される。その後、第2の光サーキュレータを介して往復し、再度、光ファイバおよび光移相器を透過して第1の光サーキュレータに戻り、前記と別のポートに出力される。
【0005】
その後、参照光は、光周波数シフタにて、マイクロ波信号源からのマイクロ波信号の周波数に基づいて周波数がシフトされる。この周波数シフトされた参照光は、ローカル光と光カプラにて合波される。そして、この合波光は、光バランスト受信器でヘテロダイン検波されて、周波数シフトされた参照光とローカル光とのビート信号である電気信号に光電変換される。
そして、光電変換された電気信号とマイクロ波信号との位相差を位相検波器で測定することで、光ファイバ伝送路の長さ変動を光波の位相情報としてモニタすることができる。
【0006】
しかしながら、前記でモニタした位相情報はレーザ光の位相のため、光の波長以上の長さ変動(位相2π以上の変動)に対応できない。そのため、従来の光路長安定化装置では、波長の異なる2台のレーザを切替えることで、各波長での位相信号をモニタし、各位相信号の差分から相対位相差を検出している。このとき、相対位相差2πが2台のレーザの波長差に相当する長さに対応するので、2台のレーザの波長差まで長さ変動の測定範囲を拡大でき、その長さ変動を打ち消す方向に光移相器を制御することで、光路長の変動を補正している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−191262号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述したように、特許文献1に開示される従来の光路長安定化装置では、レーザ光源の波長と、光バランスト検出器で位相比較した位相モニタ信号とを、2台のレーザ光源をスイッチで切替えて測定していた。そのため、2つの波長間の位相変動を同時にモニタできず、位相補償にタイムラグが生じるため、光路長の変動速度が速い場合に測定誤差が生じるという課題があった。
また、レーザの波長を切替えて位相を比較するため、位相状態を記憶するためのメモリや、その読み出し手段などが必要であるという課題があった。
【0009】
また、従来の装置では、参照光の反射位相と基準信号との間で位相差をモニタし、マイクロ波信号と位相比較していた。そのため、光ファイバ伝送路の往復長(往復する伝搬時間)オーダのコヒーレント長のレーザが必要となる。そのため、ファイバ伝送路長がkm以上のオーダになると、レーザの線幅をkHz以下とする必要がある。この線幅がkHz以下のレーザは、通常、大型・複雑であり高価な物となる。また、線幅の細いレーザを光ファイバで長距離伝搬させるとファイバの非線形性による問題が発生するという課題もあった。
【0010】
また、異なる2台のレーザを使用しているため、各レーザの波長(周波数)の揺らぎにより測定精度が劣化するという課題もあった。
また、光周波数シフタへのマイクロ波信号と、光電変換された電気信号との位相差を比較するため、マイクロ波信号源を位相検波器に近接させて設置する必要があり、装置の設置自由度が制限されるという課題もあった。
さらに、光電変換手段として、高価な光バランスト検出器が必要であるという課題もあった。
以上のように、従来の光路長安定化装置には、様々な課題があった。
【0011】
この発明は、上記のような課題を解決するためになされたもので、光源に要求される線幅を緩和させ、常時、位相測定および補償が可能な光路長安定化装置を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この発明に係る光路長安定化装置は、異なる第1,2の周波数の2つの光波を発生する2光波発生手段と、2光波発生手段により発生された光波を分配する光分配手段と、入力された光波の光路を選択的に切り替える光路切替手段と、光分配手段から光路切替手段および伝送光ファイバを介して出力された一方の光波を当該伝送光ファイバに反射する反射手段と、所定の基準信号に基づいて、反射手段から伝送光ファイバおよび光路切替手段を介して反射された光波の周波数をシフトさせる光周波数シフタと、光分配手段により分配された他方の光波と、光周波数シフタにより周波数がシフトされた光波とを合波する光合波手段と、光合波手段により合波された光波から、第1の周波数近傍の光波および第2の周波数近傍の光波を抽出する光抽出手段と、光抽出手段により抽出された各光波を電気信号に変換する光電変換手段と、光電変換手段により変換された電気信号間の位相差に基づいて、誤差信号を生成する位相比較手段と、位相比較手段により生成された誤差信号に基づいて、伝送光ファイバに出力される一方の光波の遅延時間を制御する光可変遅延手段とを備えたものである。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、上記のように構成したので、光源に要求される線幅を緩和させることができ、常時、位相測定および補償が可能な光路長安定化装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】この発明の実施の形態1に係る光路長安定化装置の構成を示すブロック図である。
【図2】この発明の実施の形態1に係る光路長安定化装置の各点(a)〜(i)における光波の光周波数スペクトル配置を示す模式図である。
【図3】この発明の実施の形態2に係る光路長安定化装置の構成を示すブロック図である。
【図4】この発明の実施の形態3に係る光路長安定化装置の構成を示すブロック図である。
【図5】この発明の実施の形態4に係る光路長安定化装置の構成を示すブロック図である。
【図6】この発明の実施の形態5に係る光路長安定化装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、この発明の実施の形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において、同一または相当する部分については、同一符号を付して説明する。また、各図中、光ファイバを実線で示し、電線を破線で示す。
実施の形態1.
図1はこの発明の実施の形態1に係る光路長安定化装置の構成を示すブロック図である。
光路長安定化装置は、送信側から伝送光ファイバ14を介して受信側に位相変動が少ない光信号(光波)を伝送するものである。
この光路長安定化装置の送信側は、図1に示すように、2光波発生手段1、光分配手段2、光サーキュレータ(光路切替手段)3、マイクロ波信号源4、光周波数シフタ5、光合分波手段(光合波手段)6、光帯域フィルタ(光抽出手段)7a,7b、光電変換手段8a,8b、位相比較手段9、電気/光変換手段10、光合分波手段(第2の光合波手段)11および光可変遅延手段12から構成されている。
【0016】
2光波発生手段1は、異なる第1,2の周波数の2つの光波を発生する光源である。この2光波発生手段1により発生された光波は光分配手段2に出力される。
光分配手段2は、2光波発生手段1から出力された光波を2つに分配するものである。この光分配手段2により分配された一方の光波(第1の分波光)は光サーキュレータ3に出力され、他方の光波(第2の分波光)は光合分波手段6に出力される。
【0017】
光サーキュレータ3は、入力された光波の光路を選択的に切り替えるものである。この光サーキュレータ3は、光分配手段2から出力された第1の分配光の光路を受信側(光合分波手段11側)に変え、また、受信側から出力された光波(反射光)の光路を光分配手段2と異なる方向(光周波数シフタ5側)に変える。
【0018】
マイクロ波信号源4は、所定周波数のマイクロ波信号(基準信号)を光周波数シフタ5に出力するものである。
光周波数シフタ5は、光サーキュレータ3から出力された反射光の周波数を、マイクロ波信号源4から出力されたマイクロ波信号の周波数に相当する分、シフト(偏移)させるものである。この光周波数シフタ5により周波数シフトされた光波(シフト光)は光合分波手段6に出力される。
【0019】
光合分波手段6は、光分配手段2から出力された第2の分配光と、光周波数シフタ5から出力されたシフト光とを合波し、その合波光を2つに分配するものである。この光合分波手段6により分配された一方の光波(第3の分配光)は光帯域フィルタ7aに出力され、他方の光波(第4の分配光)は光帯域フィルタ7bに出力される。
【0020】
光帯域フィルタ7a,7bは、光合分波手段6から出力された第3,4の分配光をそれぞれ波長分割することで、第1の周波数近傍の光波および第2の周波数近傍の光波を抽出するものである。この光帯域フィルタ7a,7bにより波長分割されて抽出された光波は対応する光電変換手段8a,8bに出力される。
光電変換手段8a,8bは、対応する光帯域フィルタ7a,7bから出力された光波を光電変換して電気信号(ビート信号)に復調するものである。この光電変換手段8a,8bにより復調された電気信号は位相比較手段9に出力される。
位相比較手段9は、各光電変換手段8a,8bから出力された電気信号間の位相を比較するものである。そして、位相比較手段9は、この相対位相差に対応する電気信号(誤差信号)を光可変遅延手段12に出力する。
【0021】
電気/光変換手段10は、マイクロ波入力端子13から出力されたマイクロ波信号(入力電気信号)で光波を変調するものである。この電気/光変換手段10により変調された光波(変調光)は光合分波手段11に出力される。
光合分波手段11は、電気/光変換手段10から出力された変調光を、光サーキュレータ3から出力された第1の分配光に合波するものである。この光合分波手段11により合波された光波(合波光)は光可変遅延手段12に出力される。
光可変遅延手段12は、位相比較手段9から出力された誤差信号に従い、光合分波手段11から出力された合波光の遅延時間を制御するものである。
【0022】
また、受信側は、図1に示すように、部分反射鏡(反射手段)15および光電変換手段(第2の光電変換手段)16から構成されている。
【0023】
部分反射鏡15は、伝送光ファイバ14により伝送された光波のうち、2光波発生手段1からの2光波を反射し、電気/光変換手段10からの変調光を透過するものである。
光電変換手段16は、部分反射鏡15を透過した変調光を光電変換して電気信号(マイクロ波信号)に復調するものである。この光電変換手段16により復調された電気信号はマイクロ波出力端子17に出力される。
【0024】
以上の構成により、2光波を送信側と受信側間で往復させたときの遅延変動をモニタし、光可変遅延手段12でモニタ結果を基に受信側に伝送する光波の遅延量を制御して、伝送路の位相変動を補償することで、高い位相安定性で遠方にマイクロ波信号を伝送させることができる。
【0025】
次に、この実施の形態1に係る光路長安定化装置の動作について、図1,2を参照しながら説明する。図2は図1に示す光路長安定化装置の各点(a)〜(i)における光波の光周波数スペクトル配置を示す模式図である。
【0026】
光路長安定化装置の動作では、まず、2光波発生手段1は、周波数がオフセットされた2つの光波を発生する(図2(a)参照)。なお、図2(a)のfo1,fo2は各光波の周波数を示し、fは2光波間の周波数差を示している。
また、2光波発生手段1により発生された2つの光波A,Bはそれぞれ下式(1),(2)で表される。
A=sin(2π・fo1・t) (1)
B=sin(2π・fo2・t)=sin(2π・(fo1+f)・t) (2)
なお、2光波間の初期位相は0とする。
この2光波発生手段1により発生された光波は光分配手段2に出力される。
【0027】
次いで、光分配手段2は、2光波発生手段1から出力された光波を2つに分配する。この光分配手段2により分配された一方の光波(第1の分波光)は光サーキュレータ3を介して光合分波手段11に出力され、他方の光波(第2の分波光)は光合分波手段6に出力される。
【0028】
一方、電気/光変換手段10は、マイクロ波入力端子13から出力されたマイクロ波信号で光波を変調する(図2(b)参照)。なお、図2(b)のfrfはマイクロ波信号の周波数を示し、fo3は変調した光波(変調光)の周波数を示している。なお、図2(b)は変調光のスペクトル配置の一例を示したものであり、片側波帯変調など、図2(b)の配置に限定されるものではない。
この電気/光変換手段10による変調光は光合分波手段11に出力される。
【0029】
次いで、光合分波手段11は、電気/光変換手段10から出力された変調光を、光サーキュレータ3から出力された第1の分配光と合波する(図2(c)参照)。この光合分波手段11により合波された光波(合波光)は光可変遅延手段12および伝送光ファイバ14を介して遠方の受信側に伝送される。
【0030】
受信側の部分反射鏡15では、伝送光ファイバ14により伝送された光波のうち、2光波発生手段1からの光波を反射する。この反射光は、伝送光ファイバ14、光可変遅延手段12および光合分波手段11を再び透過して、光サーキュレータ3で光周波数シフタ5側へ光路が変えられる。
一方、部分反射鏡15は、伝送光ファイバ14により伝送された光波のうち、電気/光変換手段10からの変調光を透過する(図2(d)参照)。この透過光は、光電変換手段16でマイクロ波信号に復調される。
ここで、送信側から受信側間の伝送光ファイバ14などによる光路長をlとおく。なお、ここでは光路長lは光学長とする(各部品の透過位相は説明を省略する)。
【0031】
次いで、光周波数シフタ5は、光サーキュレータ3から出力された反射光(図2(e)参照)の周波数を、マイクロ波信号源4から出力されたマイクロ波信号の周波数に相当する分、シフトさせる(図2(6)参照)。ここで、マイクロ波信号源4からのマイクロ波信号の周波数をfとし、+方向に周波数をシフトするものとすると、2つの光波A’,B’はそれぞれ下式(3),(4)で表される。
A’=sin(2π・(fo1+f)・(t+l/c) (3)
B’=sin(2π・(fo1+f+f)・(t+l/c) (4)
なお、cは光速である。
この光周波数シフタ5により周波数シフトされた光波(シフト光)は光合分波手段6に出力される。
【0032】
次いで、光合分波手段6は、光周波数シフタ5から出力されたシフト光と、光分配手段2から出力された第2の分配光とを合波し、その合波光を2つに分配する(図2(g)参照)。この光合分波手段6により分配された一方の光波(第1の分配光)は光帯域フィルタ7aに出力され、他方の光波(第2の分配光)は光帯域フィルタ7bに出力される。
【0033】
次いで、光帯域フィルタ7a,7bは、光合分波手段6から出力された分配光を波長分割する。
ここで、光帯域フィルタ7aは、周波数fo1, fo1+fの光波を透過し、周波数fo2, fo2+fの光波を遮断するものとする(図2(h)参照)。また、光帯域フィルタ7bは、周波数fo2(=fo1+f),fo2+f(=fo1+f+f)の光波を透過し、周波数fo1, fo1+fの光波を遮断するものとする(図2(i)参照)。なお、f<<fである。
この光帯域フィルタ7a,7bにより波長分割された光波は対応する光電変換手段8a,8bに出力される。
【0034】
次いで、光電変換手段8a,8bは、対応する光帯域フィルタ7a,7bから出力された光波を光電変換して電気信号(ビート信号)に復調する。
すなわち、光電変換手段8aは、光帯域フィルタ7aからの光波を、光波Aと光波A’のビート成分となる周波数fの電気信号に変換する。また、光電変換手段8bは、光帯域フィルタ7bからの光波を、光波Bと光波B’のビート成分となる周波数fの電気信号に変換する。
ここで、光電変換手段8a,8bにより復調された電気信号IA,IBはそれぞれ下式(5),(6)で表される。
IA = sin(2π・f・(t+l/c)+2π・fo1・l/c) (5)
IB = sin(2π・f・(t+l/c)+2π・(fo1+f)・l/c) (6)
この光電変換手段8a,8bにより復調された電気信号は位相比較手段9に出力される。
【0035】
次いで、位相比較手段9は、各光電変換手段8a,8bから出力された電気信号間の位相を比較する。
ここで、各光電変換手段8a,8bから出力された電気信号IA, IBの位相差φは下式(7)で表される。
φ=2π・f・l/c=2π・l/λ(7)
なお、λは周波数fの波長である。この位相差φは、式(7)に示すように、2光波出力手段1から出力した光波の周波数差fに比例する。
そして、位相比較手段9は、この相対位相差φに対応する電気信号(誤差信号)を光可変遅延手段12に出力する。
【0036】
ここで、伝送光ファイバ14の光路長lが、温度などの環境変動でl+Δlに変動すると、位相変動量Δφは下式(8)で表される。
Δφ=2π・Δl/λ(8)
【0037】
そのため、光可変遅延手段12にて、位相比較手段9から出力された誤差信号に従って、光路長(光遅延時間に相当)変動Δlを打ち消す方向に光路長をフィードバック制御することで、光路長Δlによる位相変動を抑圧することが可能となる。
【0038】
なお、図1には記述していないが、位相比較手段9からの誤差信号を用いて光可変遅延手段12にてフィードバック制御を行うにあたり、必要に応じて雑音などの高周波成分を除去するためのループフィルタや、光可変遅延手段12を動作させるための駆動回路を使用することは言うまでもない。
【0039】
ここで、位相変動量Δφは、2光波の周波数差fmに対応するλだけ光路長Δlが変動すると2π変動するので、光路長変動の測定可能範囲はλと、光の波長に比べて広くなる。例えば、fを50GHzとした場合、λは6mmとなり、光の波長(例えば1.5μm)に対して4000倍測定範囲を拡大できる。
【0040】
一方、従来の構成では、周波数の異なる2光波を使用しているが、時分割で各光波の位相変動を測定して、位相補償を行っているため、早い位相変動に対応できない。また、各光波の位相変動を光周波数シフタへ入力したマイクロ波信号の位相と比較しているため、非常に線幅の狭い光源が必要となる。
それに対して、実施の形態1に係る光路長安定化装置では、図1に示すような構成を用いることで、2波長間の位相変動を直接比較することが可能となり、光源の線幅広がりによる周波数変動の影響は2波長間で相殺される。よって、従来に対して光源に対する線幅の要求が緩和されるという効果がある。
【0041】
また、レーザの波長を切替えて位相を比較する必要がないため、位相状態を記憶するためのメモリやその読み出し手段などが不要となる。また、線幅の要求が緩和されるため、線幅の細いレーザを用いて光ファイバで長距離伝搬させることによるファイバの非線形性の問題を解消することができる。
また、異なる2台のレーザを用いる必要がないため、各レーザの波長(周波数)の揺らぎによる測定精度の劣化を解消することができる。また、光周波数シフタへ入力したマイクロ波信号と、光電変換された電気信号との位相差を比較する必要がないため、装置の設置自由度が緩和される。さらに、光電変換手段として高価な光バランスト検出器を用いる必要波ないため、安価に構成できる。
【0042】
以上のように、この実施の形態1によれば、2光波発生手段1から出力され、伝送光ファイバ14を往復させた2光波の位相差を比較することで、伝送する光波の遅延時間を制御するように構成したので、光源に要求される線幅を緩和させることができ、常時、位相測定および補償が可能な光路長安定化装置を得ることができる。
【0043】
実施の形態2.
図3はこの発明の実施の形態2に係る光路長安定化装置の構成を示すブロック図である。図3に示す実施の形態2に係る光路長安定化装置は、図1に示す実施の形態1に係る光路長安定化装置の光サーキュレータ3を偏光ビームスプリッタ(PBS、光路切替手段)18に変更し、部分反射鏡15を光合分波手段19およびファラディミラー(偏波回転反射手段)20に変更したものである。その他の構成は同様であり、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0044】
PBS18は、入力光を、その偏波方向に応じて、透過または反射するものである。ここで、2光波発生手段1から出力された2光波が直線変調光である場合、PBS18は、この光波を透過して伝送光ファイバ14に出力し、また、伝送光ファイバ14から出力された偏波方向が90度回転した光波(反射光)を反射して光周波数シフタ5に出力する。
【0045】
光合分波手段19は、伝送光ファイバ14により伝送された光波を、2光波発生手段1からの2光波と、電気/光変換手段10からの変調光とに分波するものである。ここで、光合分波手段19では、2光波(fo1, fo2)と変調光(fo3)との波長帯を変えることにより分離可能である。この光合分波手段19により分岐された2光波はファラディミラー20に出力され、変調光は光電変換手段16に出力される。また、光合分波手段19は、ファラディミラー20からの反射光を伝送光ファイバ14に戻す機能も有する。
ファラディミラー20は、光合分波手段19から出力された光波の偏波方向を90度回転させて光合分波手段19に反射するものである。
【0046】
この場合、2光波発生手段1から出力された2光波は、PBS18を透過(図3では左から右に進行)し、伝送光ファイバ14を介して光合分波手段19で分岐されて、ファラディミラー20に出力される。そして、ファラディミラー20は、この光波の偏波方向を90度回転させて光合分波手段19に反射する。
【0047】
そして、この反射光は、光合分波手段19を介して伝送光ファイバ14で上記とは逆方向に伝送(図3では右から左に進行)されてPBS18に出力される。ここで、PBS18に到達した2光波の偏波方向は、PBS18を透過した際の偏波方向に対して90度傾いているため、PBS18により反射されて光周波数シフタ5に出力される(図3では下側に反射)。
【0048】
以上のように、この実施の形態2によれば、ファラディミラー20により伝送光ファイバ14からの2光波の偏波方向を90度回転させて伝送光ファイバ14に反射するように構成したので、実施の形態1における効果に加えて、伝送光ファイバ14中で光の偏波方向が変動した場合であっても、往復する過程で偏波方向は直交させることができるため、ファイバ伝送中の偏波の変動を打ち消すことができる。
【0049】
実施の形態3.
図4はこの発明の実施の形態3に係る光路長安定化装置の構成を示すブロック図である。図4に示す実施の形態3に係る光路長安定化装置は、図3に示す実施の形態2に係る光路長安定化装置において、マイクロ波信号源4および光周波数シフタ5の設置場所を送信側から受信側に変えたものである。その他の構成は同様であり、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0050】
本実施の形態3では、光周波数シフタ5が、光合分波手段19とファラディミラー20との間に設置されている。すなわち、光周波数シフタ5は、光合分波手段19からファラディミラー20間を往復する光波の周波数をシフトさせるので、マイクロ波信号源4から出力されたマイクロ波信号の周波数の2倍に相当する分、周波数をシフトさせる。
【0051】
そのため、送信側から受信側の間にあるコネクタによる反射光や、伝送光ファイバ14の後方散乱光などは、光電変換手段8a,8bで電気信号に変換された際に周波数が異なることになる。よって、伝送光ファイバ14の途中での反射成分と分離可能となり、測定誤差の低減が図ることができる。
【0052】
実施の形態4.
図5はこの発明の実施の形態4に係る光路長安定化装置の構成を示すブロック図である。図5に示す実施の形態4に係る光路長安定化装置は、図1に示す実施の形態1に係る光路長安定化装置の光合分波手段6を光合波手段21に変更し、光帯域フィルタ7a,7bをアレイ導波路回折格子(AWG:Arrayed Waveguide Grating)22に変更したものである。その他の構成は同様であり、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0053】
光合波手段21は、光分配手段2から出力された第2の分配光と、光周波数シフタ5から出力されたシフト光とを合波するものである。この光合波手段21により合波された光波(合波光)はAWG22に出力される。
AWG22は、長さの異なる複数の光導波路群を用いて、波長ごとに光を取り出す分光機能をもった光回路であり、光通信などで広く実用化されている。このAWG22は、光合波手段21から出力された合波光を波長帯により分離する。このAGW22により分離された各光波は対応する光電変換手段8a,8bに出力される。
【0054】
以上のように、この実施の形態4によれば、光帯域フィルタ7a,7bを1つのAWG22に置き換えるように構成したので、実施の形態1における効果に加えて、装置の簡易化が可能となる。
なお、上記では、図1に示す実施の形態1における光帯域フィルタ7a,7bを1つのAWG22に置き換える場合について示したが、図3,4に示す実施の形態2,3に対しても同様に適用可能である。
【0055】
実施の形態5.
図6はこの発明の実施の形態5に係る光路長安定化装置の構成を示すブロック図である。図6に示す実施の形態5に係る光路長安定化装置は、図1に示す実施の形態1に係る光路長安定化装置の伝送光ファイバ14を第1,2の送受信光学系23,24に変更し、2光波および変調光を光ビーム25に変換することで送信側と受信側間の伝送を実現するものである。その他の構成は同様であり、同一の符号を付してその説明を省略する。
【0056】
本実施の形態5では、光可変遅延手段12から出力された光波は、第1の送受信光学系23により光ビーム25に変換されて受信側に伝搬される。そして、受信側に設けられた第2の送受信光学系24により受信され、部分反射鏡15へと導かれる。
一方、部分反射鏡15で反射された光波は、第2の送受信光学系24により光ビーム25に変換されて送信側に伝搬される。そして、第1の送受信光学系23により受信され、光可変遅延手段12へと戻される。
【0057】
以上のように、この実施の形態5によれば、送信側と受信側間の伝送を伝送光ファイバ14ではなく光ビーム25で伝搬させるように構成しても、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。
なお、上記では、図1に示す実施の形態1における伝送光ファイバ14を第1,2の送受信光学系23,24に変更した場合について示したが、図3〜5に示す実施の形態2〜4に対しても同様に適用可能である。
【0058】
また、実施の形態1〜5において、2光波発生手段1として、例えばMach−Zehnder(MZ)変調器などの光変調器を用いて、変調光を発生させるようにしてもよい。この場合、高調波などの不要スペクトル成分に関しては、光フィルタによる抑圧や必要周波数成分のみの抽出などを行えばよい。
【0059】
また、MZ変調器のDCバイアスを透過率が最少となる点に設置することにより、0次の光波が抑圧され、±1次の光波が発生させられることから、2光波の周波数差の半分の周波数をMZに入力すればよい。この時、0次の抑圧比が低い場合は、光バンドパスフィルタで抑圧すればよい。
また、MZ変調器のDCバイアスを透過率が最大となる点に設置した場合は、±1次の光波が抑圧され、0次、±2次の光波が発生させられることから、2光波の周波数差の1/4の周波数をMZに入力すればよい。この時、0次の光も出力されるが、光バンドパスフィルタで抑圧すればよい。
【0060】
また、2光波発生手段1として、前述のようなMZ変調器を用いる方法の他に、光コム発生器を用いて、所望の2波長を光フィルタで抽出するようにしてもよい。この他にも、単一のレーザから出力した光から2光波を発生するものであればよく、発生手段を限定するものではない。
単一レーザから2光波を発生させることにより、光源の線幅に起因する影響は2光波で共通となり、位相比較手段9で比較するときにキャンセルされる。よって、先に述べたように光源の線幅に対する要求を緩和することができる。
【0061】
実施の形態6.
図1,3〜6に示す実施の形態1〜5では、光可変遅延手段12を、位相比較手段9からの制御信号長を短くできることから、送信側に設置した。しかしながら、これに限るものではなく、受信側の伝送光ファイバ14(または第2の送受信光学系24)と、部分反射鏡15または光合分波手段19との間に設置してもよい。
この場合、光可変遅延手段12は、位相比較手段9から出力された誤差信号に従い、伝送光ファイバ14から受信側に出力された光波の遅延時間を制御する。
なお、光可変遅延手段12としては、PZT(ピエゾアクチュエータ)を用いて光ファイバを伸縮させるものや、光ファイバの温度を変化させるものなど、外部の制御信号により光路長を制御できるものであればよい。
【0062】
実施の形態7.
図1,3,5,6に示す実施の形態1,2,4,5では、光周波数シフタ5を、光サーキュレータ3と、光合分波手段6または光合波手段21との間に設置した。しかしながら、これに限るものではなく、光分配手段2と、光合分波手段6または光合波手段21との間に設置してもよい。
この場合、光周波数シフタ5は、光分配手段2から出力された第2の分配光の周波数を、マイクロ波信号源4から出力されたマイクロ波信号の周波数に相当する分、シフトさせる。また、光合分波手段6または光合波手段21は、光周波数シフタ5により周波数シフトされた光波と、部分反射鏡15から伝送光ファイバ14および光サーキュレータ3を介して出力された光波とを合波する。
【0063】
実施の形態8.
上記実施の形態1〜7では、電気/光変換手段10からの変調光を、送信側から伝送光ファイバ14を介して受信側へ伝送させていたが、受信側から伝送光ファイバ14を介して送信側に伝送させてもよい。
この場合、図1,3〜6の光電変換手段16およびマイクロ波出力端子17を、所定のマイクロ波信号(入力電気信号)を出力するマイクロ波入力端子と、このマイクロ波信号で光波を変調し、受信側から伝送光ファイバ14に出力する電気/光変換手段とに変更する。また、電気/光変換手段10およびマイクロ波入力端子13を、光電変換手段(第2の光電変換手段)およびマイクロ波出力端子に変更する。そして、光合分波手段(光分波手段)11は、伝送光ファイバ14により伝送された光波のうち、部分反射鏡15により反射された光波を光サーキュレータ3に出力し、電気/光変換手段からの光波を光電変換手段に出力する。
【0064】
また、以上の実施の形態1〜8において、伝送光ファイバ14を含む光路中に分散補償手段を含むように構成してもよい。分散補償手段としては、伝送光ファイバ14と逆方向の分散特性をもつ光ファイバや、チャーブドファイバーグレーティングなど、さまざまな手段が実用化されている。これにより、2光波発生手段1から出力された2光波間の波長差による波長分散の影響で生じる群遅延時間差(特に伝送光ファイバ14を往復したときの群遅延時間差)を小さくできる。よって、位相比較時に2光波間の変動を抑圧することができ、信号対雑音比を高めることができる。
【0065】
また、図1,3〜6において、2光波発生手段1と光分配手段2との間、光分配手段2と光サーキュレータ3またはPBS18との間、光分配手段2と光合分波手段6または光合波手段21との間、光サーキュレータ3またはPBS18と光合分波手段6または光合波手段21との間(図1,3,5,6の場合は光周波数シフタ5との間も含む)を光ファイバで接続する場合には、偏波面保存型の光ファイバを用いる。ただし、伝送路中に偏波制御手段を設けて偏波面を制御する場合には、偏波面保存ファイバを使用しなくても実現可能である。
【0066】
なお、本願発明はその発明の範囲内において、各実施の形態の自由な組み合わせ、あるいは各実施の形態の任意の構成要素の変形、もしくは各実施の形態において任意の構成要素の省略が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 2光波発生手段、2 光分配手段、3 光サーキュレータ(光路切替手段)、4 マイクロ波信号源、5 光周波数シフタ、6 光合分波手段(光合波手段)、7a,7b 光帯域フィルタ(光抽出手段)、8a,8b 光電変換手段、9 位相比較手段、10 電気/光変換手段、11 光合分波手段(第2の光合波手段、光分波手段)、12 光可変遅延手段、13 マイクロ波入力端子、14 伝送光ファイバ、15 部分反射鏡(反射手段)、16 光電変換手段(第2の光電変換手段)、17 マイクロ波出力端子、18 偏光ビームスプリッタ(PBS、光路切替手段)、19 光合分波手段(光合分波手段)、20 ファラディミラー(偏波回転反射手段)、21 光合波手段、22 アレイ導波路回折格子(AWG)、23,24 第1,2の送受信光学系、25 光ビーム。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる第1,2の周波数の2つの光波を発生する2光波発生手段と、
前記2光波発生手段により発生された光波を分配する光分配手段と、
入力された光波の光路を選択的に切り替える光路切替手段と、
前記光分配手段から前記光路切替手段および伝送光ファイバを介して出力された一方の光波を当該伝送光ファイバに反射する反射手段と、
所定の基準信号に基づいて、前記反射手段から前記伝送光ファイバおよび前記光路切替手段を介して反射された光波の周波数をシフトさせる光周波数シフタと、
前記光分配手段により分配された他方の光波と、前記光周波数シフタにより周波数がシフトされた光波とを合波する光合波手段と、
前記光合波手段により合波された光波から、第1の周波数近傍の光波および第2の周波数近傍の光波を抽出する光抽出手段と、
前記光抽出手段により抽出された各光波を電気信号に変換する光電変換手段と、
前記光電変換手段により変換された電気信号間の位相差に基づいて、誤差信号を生成する位相比較手段と、
前記位相比較手段により生成された誤差信号に基づいて、前記伝送光ファイバに出力される前記一方の光波の遅延時間を制御する光可変遅延手段と
を備えた光路長安定化装置。
【請求項2】
所定の入力電気信号で光波を変調する電気/光変換手段と、
前記電気/光変換手段により変調された光波を、前記伝送光ファイバに出力される前記一方の光波に合波する第2の光合波手段とを備え、
前記反射手段は、前記伝送光ファイバから出力された光波のうち、前記電気/光変換手段により変調された光波を透過し、
前記反射手段を透過した光波を光電変換する第2の光電変換手段を備えた
ことを特徴とする請求項1記載の光路長安定化装置。
【請求項3】
前記反射手段は、
入力された光波の偏波方向を90度回転させて反射する偏波回転手段と、
前記伝送光ファイバから出力された光波のうち、前記電気/光変換手段からの光波を前記第2の光電変換手段に出力し、前記2光波発生手段からの光波を前記偏波回転手段に出力し、当該偏波回転手段により反射された光波を当該伝送光ファイバに出力する光合分波手段とからなり、
前記光路切替手段は偏光ビームスプリッタである
ことを特徴とする請求項2記載の光路長安定化装置。
【請求項4】
前記光周波数シフタおよび前記光合波手段に代えて、
所定の基準信号に基づいて、前記光合分波手段から前記偏波回転手段に出力される光波の周波数をシフトさせる光周波数シフタと、
前記光分配手段により分配された他方の光波と、前記反射手段から前記伝送光ファイバおよび前記光路切替手段を介して反射された光波とを合波する光合波手段とを備えた
ことを特徴とする請求項3記載の光路長安定化装置。
【請求項5】
前記光抽出手段はアレイ導波路回折格子である
ことを特徴とする請求項1から請求項4のうちのいずれか1項記載の光路長安定化装置。
【請求項6】
前記伝送光ファイバに代えて、光波を光ビームで送受信する送受信光学系を備えた
ことを特徴とする請求項1から請求項5のうちのいずれか1項記載の光路長安定化装置。
【請求項7】
前記光可変遅延手段に代えて、前記位相比較手段により生成された誤差信号に基づいて、前記伝送光ファイバまたは前記送受信光学系から出力された前記一方の光波の遅延時間を制御する光可変遅延手段を備えた
ことを特徴とする請求項1から請求項6のうちのいずれか1項記載の光路長安定化装置。
【請求項8】
前記光周波数シフタおよび前記光合波手段に代えて、
所定の基準信号に基づいて、前記光分配手段により分配された他方の光波の周波数をシフトさせる光周波数シフタと、
前記光周波数シフタにより周波数がシフトされた光波と、前記反射手段から前記伝送光ファイバおよび前記光路切替手段を介して反射された光波とを合波する光合波手段とを備えた
ことを特徴とする請求項1記載の光路長安定化装置。
【請求項9】
所定の入力電気信号で光波を変調し、前記反射手段側から前記伝送光ファイバに出力する電気/光変換手段と、
入力された光波を光電変換する第2の光電変換手段と、
前記伝送光ファイバから出力された光波のうち、前記反射手段により反射された光波を前記光路切替手段に出力し、前記電気/光変換手段からの光波を前記第2の光電変換手段に出力する光分波手段とを備えた
ことを特徴とする請求項1記載の光路長安定化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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