説明

光輝性顔料の同定方法、同定システム、同定プログラム及びその記録媒体

【課題】光輝性顔料の画像特徴量と銘柄のデータベースとを照合して任意の光輝性顔料を同定する。
【解決手段】光輝性顔料を撮像して画像データを取得する第1工程と、取得した画像データに対して背景処理を行い、光輝性顔料の粒子1個を含むその近傍部分の画像データを処理対象画像データとして抽出する第2工程と、処理対象画像データから画像特徴量を抽出する第3工程と、複数種類の光輝性顔料のそれぞれについて第1〜第3工程の処理を行い、光輝性顔料に関する情報と、抽出した画像特徴量とを予め対応させて記憶したデータベースを作成する第4工程と、被同定対象の光輝性顔料について第1〜第3工程の処理を行い、被同定対象の光輝性顔料の画像特徴量を抽出する第5工程と、抽出した被同定対象の光輝性顔料の画像特徴量に基づいて、データベースから被同定対象の光輝性顔料を同定する第6工程とを含み、画像特徴量が、光輝性顔料の色を表す特徴量を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工業製品に特殊な意匠効果を付与しているメタリック/パール系塗装乃至印刷における着色層を構成する光輝性顔料の画像特徴量をデータベース化して任意の光輝性顔料を同定する方法、システム、プログラム及びその記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車外板の補修塗装を行う場合には、補修部分は、他の部分と同一の色にする必要がある。しかしながら、新車製造時に使用された塗料の配合は公開されておらず、塗色の配合を解析することが必要な場合がある。
【0003】
配合が未知の塗色について配合を解析する手法としては、測色を行って得られたデータから配合を予測するコンピュータ調色(コンピュータカラーマッチング、以下「CCM」と記す)の技術が開発され、実用化されている。
【0004】
CCMとは、ソリッド塗色(観察角度によって色の見え方が変化しない塗色)について、使用されている色材(着色顔料や染料)を分光反射率データから予測する方法であって、クベルカ&ムンクの2光束理論とダンカンの混色理論、さらにサウンダーソンの表面反射率補正理論を組み合わせて使用している。
【0005】
また、特許文献1には、配合が未知の塗色に使われている光輝材の特徴パラメータを目視で抽出し、抽出した特徴パラメータをキーワードとして画像データベースを検索して、最も近い単品光輝材の画像をモニター上に表示し、配合未知の塗色の画像と単品光輝材の画像を比較して配合未知の塗色に使われている光輝材の種類を同定する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−265786号公報
【特許文献2】特願2005−58753号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】高木幹雄、下田陽久監修、「新編 画像処理ハンドブック」、初版、東京大学出版、2004年9月10日。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、光輝性顔料(アルミフレーク等の金属粉、マイカフレーク、板状酸化鉄等)を含む塗色のCCMは未だ実用化されていない。その理由は、正反射光近傍のハイライト部では光輝性顔料から反射される光(反射光、干渉光)同士の加成性が成り立つ一方で、着色顔料による光の吸収も同時に生じているに対し、正反射光の影響を受けないシェード部では主として光輝性顔料と着色顔料による光の吸収が発色を引き起こしているためである。つまり、ハイライト部からシェード部までの広い範囲で、光輝性顔料含有の塗膜中に含まれる色材の発色特性を理論化することが不可能なためである。
【0009】
したがって従来、工業製品に塗装された塗膜光輝性顔料を同定するためには、目視による観察や顕微鏡を用いた観察を行い、観察者が記憶している光輝性顔料の特徴に基づいて同定することが行われていた。したがって、正しく同定するためには、観察者に経験や熟練が必要であり、同定結果が個人の能力に依存していた。
【0010】
また、近年光輝性顔料は、新しいタイプのものが次々と開発され、発売されている。鱗片状金属顔料の中のアルミニウムフレーク顔料に限っても、表面を有機顔料で被覆したものやCVD法で表面に酸化鉄を析出させたもの、蒸着法で作られたもの、シルバーダラータイプと呼ばれる表面が平滑なもの等、製造方法や発色技術に加えて粒度のグレードを加えると、100種類以上が発売されている。さらにアルミニウムフレーク以外の光輝性顔料としては、300種類以上もある。これらすべての光輝性顔料の特徴を観察者が記憶することは非常に困難である。
【0011】
さらに、特許文献1では、特徴パラメータとして、光輝性顔料の粒径、発色特性のみを用いており、光輝性顔料のタイプを大まかに判断することはできるが、光輝性顔料の銘柄を特定することはできない。
【0012】
従って、本発明は、上記した従来の技術の問題点を解決するために研究されたもので、工業製品に特殊な意匠効果を付与している光輝性顔料の画像特徴量と銘柄等の情報を関連づけたデータベースを予め作成し、任意の光輝性顔料を撮像して得られた画像から抽出した画像特徴量に基づいてデータベースと照合することにより任意の光輝性顔料を同定する同定方法、同定システム、同定プログラム、及びその記録媒体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明に係る光輝性顔料同定方法は、光輝性顔料を撮像して画像データを取得する第1ステップと、取得した前記画像データに対して背景処理を行い、前記光輝性顔料の粒子1個を含むその近傍部分の画像データを処理対象画像データとして抽出する第2ステップと、前記処理対象画像データから画像特徴量を抽出する第3ステップと、複数種類の前記光輝性顔料のそれぞれについて前記第1ステップ〜前記第3ステップの処理を行い、前記光輝性顔料に関する情報と、抽出した前記画像特徴量とを予め対応させて記憶したデータベースを作成する第4ステップと、被同定対象について前記第1ステップ〜前記第3ステップの処理を行い、前記被同定対象の光輝性顔料の画像特徴量を抽出する第5ステップと、抽出した前記被同定対象の光輝性顔料の光輝性顔料の前記画像特徴量に基づいて、前記データベースから前記被同定対象の光輝性顔料を同定する第6ステップとを含み、前記画像特徴量が、前記光輝性顔料の色を表す特徴量を含み、前記光輝性顔料の色を表わす特徴量が、代表色の色相角の正弦値及び余弦値、並びに前記代表色の明度及び彩度であり、前記代表色の色相角が、前記光輝性顔料粒子1個に対応する部分画像内の画素のHSI表色空間における色相角のヒストグラムの最頻値であり、前記代表色の明度が、前記代表色の色相角を有する画素の平均明度であり、前記代表色の彩度が、前記代表色の色相角を有する画素の平均彩度であることを特徴としている。
【0014】
本発明に係る光輝性顔料同定システムは、光輝性顔料を撮像して画像データを取得する画像取得装置と、前記画像取得装置から入力される前記画像データに対して背景処理を行い、前記光輝性顔料粒子1個を撮像した部分の画像を抽出した後に、抽出した前記光輝性顔料粒子1個を表す部分画像に対して画像処理を行いながら、前記光輝性顔料の各種の画像特徴量を計算する特徴量検出部と、複数種類の前記光輝性顔料のそれぞれについて、前記光輝性顔料に関する情報と、前記特徴量検出部によって計算された前記画像特徴量とを予め対応させて記憶するデータベースを格納する記録部と、を備え、前記画像特徴量が、前記光輝性顔料の色を表す特徴量を含み、前記光輝性顔料の色を表わす特徴量が、代表色の色相角の正弦値及び余弦値、並びに前記代表色の明度及び彩度であり、前記代表色の色相角が、前記光輝性顔料粒子1個に対応する部分画像内の画素のHSI表色空間における色相角のヒストグラムの最頻値であり、前記代表色の明度が、前記代表色の色相角を有する画素の平均明度であり、前記代表色の彩度が、前記代表色の色相角を有する画素の平均彩度であり、前記特徴量検出部が、前記画像取得装置から入力された被同定対象の光輝性顔料の画像データから、前記被同定対象の光輝性顔料の画像特徴量を計算し、計算した前記被同定対象の光輝性顔料の前記画像特徴量に基づいて、前記データベースから前記被同定対象の光輝性顔料を同定することを特徴としている。
【0015】
また、本発明に係る光輝性顔料同定プログラムは、コンピュータに、入力される光輝性顔料の画像データに対して背景処理を行い、前記光輝性顔料の粒子1個を含むその近傍部分の画像データを処理対象画像データとして抽出する第1の機能と、前記処理対象画像データから画像特徴量を抽出する第2の機能と、複数種類の前記光輝性顔料のそれぞれについて前記第1の機能および前記第2の機能によって処理を行い、前記光輝性顔料に関する情報と、抽出した前記画像特徴量とを予め対応させて記憶したデータベースを作成する第3の機能と、被同定対象について前記第1の機能および第2の機能によって処理を行い、前記被同定対象の光輝性顔料の画像特徴量を抽出する第4の機能と、抽出した前記被同定対象の光輝性顔料の光輝性顔料の前記画像特徴量に基づいて、前記データベースから前記被同定対象の光輝性顔料を同定する第5の機能とを実現させ、前記画像特徴量が、前記光輝性顔料の色を表す特徴量を含み、前記光輝性顔料の色を表わす特徴量が、代表色の色相角の正弦値及び余弦値、並びに前記代表色の明度及び彩度であり、前記代表色の色相角が、前記光輝性顔料粒子1個に対応する部分画像内の画素のHSI表色空間における色相角のヒストグラムの最頻値であり、前記代表色の明度が、前記代表色の色相角を有する画素の平均明度であり、前記代表色の彩度が、前記代表色の色相角を有する画素の平均彩度であることを特徴としている。
【0016】
また、本発明に係るコンピュータ読取可能な記録媒体は、上記の光輝性顔料同定プログラムを記録していることを特徴としている。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、未知の光輝性顔料を、その画像特徴量に基づいて、予め作成した光輝性顔料の銘柄情報と画像特徴量のデータベースから自動的且つ容易に同定することができる。
【0018】
また、ニューラルネットワークなどの手法を用いて同定する場合、自動的な同定の計算結果として一致度が上位グループにある少数の近似する光輝性顔料を選び出すことができるので、少数の近似する光輝性顔料候補から技術者が画像を確認しながら未知の光輝性顔料を正確、且つ効率的に同定することができる。また、これによって、完全な自動的同定よりもより同定の精度を向上させることができる。
【0019】
また、光輝性顔料の画像から計算した代表色の色相や粒子内の構成色数、切り込みの数等の画像特徴量は、人間の感覚にマッチし、光輝性顔料の画像を直感的に把握できるので、近似する光輝性顔料を同定する上での参考情報として非常に有効である。
【0020】
本発明は、光輝性顔料そのものの同定はもとより、光輝性顔料を溶媒中に懸濁せしめた分散ペースト、光輝性顔料が配合されている塗料やメタリック塗色の塗膜、フィルム、印刷物、光輝性顔料が練り込まれたプラスチック、化粧品などをも同定することも可能である。なお、購入した光輝性顔料の品質管理にも役立ち、さらには、塗膜片を分析して塗料を特定することにより、その塗料で塗装されていた自動車を絞り込むことができるので、犯罪捜査分野にも応用できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の実施の形態に係る光輝性顔料同定システムの概略構成を示すブロック図である。
【図2】データベースの作成手順を示すフローチャートである。
【図3】画像の背景処理を説明する図である。
【図4】干渉ブルー顔料の画像における色相角のヒストグラムを示す図である。
【図5】色相角の正弦値及び余弦値を示す図である。
【図6】光輝性顔料粒子1個を示す画像の輪郭追跡、及び重心、粒子サイズを示す図である。
【図7A】干渉グリーン顔料の画像における輪郭の状態を示す図である。
【図7B】図7Aに示した干渉グリーン顔料の画像の輪郭プロフィールを示す図である。
【図8】粒子画像内の構成色数の算出を説明する図である。
【図9】グレースケール画像の作成及びそのエッジ抽出を示す図である。
【図10】ニューラルネットワークの構成例を示す図である。
【図11】本実施の形態に係る光輝性顔料の同定方法を示すフローチャートである。
【図12】本発明の実施例における光輝性顔料のグループ分けを示す図である。
【図13】本発明の実施例における30種類光輝性顔料×10サンプル画像により得られた10種類の画像特徴量の相関係数を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0023】
本発明の対象とする光輝性顔料は、メタリック色を発現させるために使用する顔料を意味する。メタリック色は上記の通り、観察角度によって色の見え方が変化する色を意味する。
【0024】
光輝性顔料としては、具体的には、アルミニウム、銅、ニッケル合金、ステンレス等の鱗片状金属顔料、表面を金属酸化物で被覆した鱗片状金属顔料、表面に着色顔料を化学吸着乃至は結合させた鱗片状金属顔料、表面に酸化反応を起こさせることにより酸化アルミニウム層を形成した鱗片状アルミニウム顔料、表面を二酸化チタンなどの金属酸化物で被覆したホワイトマイカ顔料や干渉マイカ顔料、表面に着色顔料を化学吸着させたり、表面を酸化鉄などの金属酸化物で被覆したりした着色マイカ顔料、干渉マイカ顔料を還元した還元マイカ顔料、グラファイト表面を二酸化チタンなどの金属酸化物で被覆した干渉グラファイト顔料、表面を二酸化チタンなどの金属酸化物で被覆したシリカフレークやアルミナフレーク顔料、板状酸化鉄顔料、表面を金属や金属酸化物で被覆したガラスフレーク顔料、ホログラム顔料、コレステリック液晶ポリマー顔料、オキシ塩化ビスマス顔料等を例として挙げることができる。
【0025】
また、本発明で同定の対象とするのは、光輝性顔料そのものや、光輝性顔料を溶媒中に懸濁せしめた分散ペースト、光輝性顔料が配合されている塗料やメタリック塗色の塗膜、インク、フィルム、印刷物、光輝性顔料が練り込まれたプラスチック、化粧品などを含む。
【0026】
図1は、本発明の実施の形態に係る光輝性顔料同定システムの概略構成を示すブロック図である。本光輝性顔料同定システムは、光輝性顔料同定装置(以下、同定装置とも記す)1、画像取得装置2、及び表示装置3を備える。また光輝性顔料同定装置1は、各部を制御し、後述する所定の処理を実行するCPU11と、メモリ12と、複数種類の光輝性顔料の色や粒径等画像特徴量及び各々の銘柄等の情報を対応づけるデータ等を含むデータベースを格納する記録部13と、外部からの指示を受け付ける操作部14と、操作部14及び外部機器とのインタフェースの役割をするインタフェース部(以下、I/F部と記す)15と、各部の間でデータを伝送するためのデータバス16とを備えている。本光輝性顔料同定装置1は、I/F部15を介して、画像入力装置2が取り込んだ画像データを取得し、また表示装置3に画像データ等を表示させる。
【0027】
画像入力装置2には、例えば、電子顕微鏡、光学顕微鏡にデジタルカメラを接続した装置、又はビデオマイクロスコープ等を使用することができる。
【0028】
CPU11は、画像入力装置2から伝送された光輝性顔料の画像データをメモリ12に一時的に記憶し、後述する方法で、背景処理を行って光輝性顔料粒子1個を撮像した部分を抽出し、さらに画像処理を行って色や粒径等の画像特徴量を抽出し、抽出した画像特徴量を基に、記録部13に予め記録されているデータベースの中から、一致もしくは近似する光輝性顔料を、ニューラルネットワークを用いて決定する。なお、CPU11は、特定の命令を自前で備えて各種の処理を行うことができるのはもちろん、特定のソフトウェアをインストールされて所定の処理、例えば画像処理を行うことも可能である。
【0029】
表示装置3は、例えばフルカラー表示が可能な画像表示装置であり、CPU11は、光輝性顔料の同定結果を所定の形式で、I/F部15を介して表示装置3に表示させたり、また各処理段階で得られた情報を表示させたりすることができる。
【0030】
本実施の形態に係る光輝性顔料同定システムの概要を説明すると次の通りである。先ず、画像入力装置2を用いて光輝性顔料の画像を取り込んでメモリ12に記録し、記録した画像を画像処理して画像特徴量を計算する。次に、計算された画像特徴量を用いてデータベースから銘柄が既知の光輝性顔料をニューラルネットワークで予測する。最後に、予測された光輝性顔料の銘柄や品番等を表示装置3に表示する。
【0031】
以下、まず、データベースの作成について図2を参照しながら説明する。
【0032】
図2は、データベースの作成手順を示すフローチャートである。
【0033】
以下の説明においては、特に断らない限りCPU11が行う処理として説明する。
【0034】
図2に示すように、データベースを作成する第1段階(ステップS1)では、画像取得装置2を制御して光輝性顔料、具体的には板等の表面に塗装された光輝性顔料を含む塗膜(以下、塗膜と記す)を撮像し、得られた画像データを光輝性顔料同定装置1のメモリ12に取り込んで保存する。画像特徴量を抽出するためには、画像取得装置2として高倍率の顕微鏡を用いて100〜3000倍率の範囲で撮像することが好ましい。また、データベース作成のためには、倍率を統一して撮像することが好ましいが、光輝性顔料の粒子径が同じとは限らないので、撮像する光輝性顔料の種類に応じて撮像倍率を調整することができる。この場合、撮像した倍率と標準倍率の画像を同時に記憶する必要がある。また、精度の観点から光輝性顔料粒子1個の画像データの大きさが20×20ピクセル以上となるように観察倍率を調整することが好ましい。さらに、撮像時の照明方式は特に限定されるものではないが、反射光が観察される必要があるため、公知の落射照明、反射照明、落射水平ミックス方式、又はリング照明方式が望ましい。
【0035】
なお、メタリック塗膜等、光輝性顔料のみから構成される塗膜ではない場合、即ち、複数の光輝性顔料や着色顔料が混在している塗膜を撮像する場合においては、他の光輝性顔料や色材(着色顔料など)の影響を受けにくい部分を撮像する。具体的には、作業者が目視でメタリック塗膜表層に存在する光輝性顔料を選択して撮像することができる。
【0036】
さらに、データベースを作成するためには、光輝性顔料を1種類含むクリヤー塗料を、黒素地上に塗装して乾燥硬化せしめた塗膜を撮像することが好ましい。これは、黒素地上に塗装すれば下地からの反射光の影響を受けにくく、またクリヤー塗料に他の着色材を含ませなければ他の着色材の吸収や散乱による影響を受けないというメリットが得られるためである。さらに、クリヤー塗料に透明性顔料や染料等を予め分散混合したカラークリヤー塗料を数種類作成しておいて、該カラークリヤー塗料に光輝性顔料1種類を混合せしめた塗料を同様に黒素地上に塗装して得られた塗膜を撮像してもよい。
【0037】
上記のように撮像した画像を画像データとして光輝性顔料同定装置1のメモリ12に取り込む。なお、取り込む画像の形式はRGBのビットマップ形式に限定されず、JPEG等の圧縮データ形式を採用しても良く、特に制限されるものではない。
【0038】
データベースを作成する第2段階(ステップS2)においては、メモリ12に格納した画像データに対して、少なくとも光輝性顔料粒子1個を完全に含む部分の画像の切り出し、画像の2値化、ラベリング、及びマスク処理からなる一連の処理を含む背景処理を行う。なお、メモリ12に取り込んだ画像データに対する背景処理は、実際には作業者が表示装置3上で画像を観察しながら操作部14を介して、CPU11に指示することにより、以下の流れで行われる(非特許文献1の画像解析ハンドブックを参照)。
【0039】
図3は、画像の背景処理を説明する図である。なお、この図3並びに以下の図4、図6〜図9において、グレースケールの画像を示しているが、実際にはフルカラーの画像である。
【0040】
図3に示すように、まず、ステップS1で撮像した画像から、注目したい1個の光輝性顔料粒子が含まれる領域を切り出す(I)。例えば、画像処理ソフトウェアを使用する場合、長方形の範囲として選択することができる。なお、切り出す範囲は、1個の光輝性画像粒子が十分大きくなるように作業者が目視で決定する。
【0041】
次に、切り出した画像(i)に対して、光輝性顔料粒子の部分を特定するために、即ち光輝性顔料粒子の領域、輪郭を明確にするために、2値化処理を行って、抽出したい領域を白(例えば、データ1)、背景を黒(例えば、データ0)とする(II)(非特許文献1の画像解析ハンドブックの第1519ページに記載の方法を参照)。2値化処理における閾値は、作業者が表示装置3に表示された画像を見ながら設定する。具体的には、例えば、作業者が同時に表示された処理前の元の画像と処理後の画像を比較しながら操作部14を操作して決定した値を閾値として設定することができる。
【0042】
上記2値化処理された画像(ii)において、光輝性顔料粒子領域は、白色となっている。この白色領域(連続する白色画素の集合)は通常1個ではないので、白色領域ごとに、符号を付けるラベリングを行う(III)(非特許文献1の画像解析ハンドブックの第p1526ページを参照)。(iii)はラベリングされた画像である。(iii)では、2つの塊部分a、bが存在しており、それぞれをラベリングして、異なる色で表示している。ラベリングを行った後、画像内で最も大きい面積を占める白色領域(図3のa)を選択し、1つの光輝性顔料粒子の領域として特定する。穴があいた白色領域が存在する場合には、穴埋め処理を行ってからラベリングをする。
【0043】
上記のように特定された1つの光輝性顔料粒子の領域以外に背景色(黒)を設定してマスク画像(iv)を作成し(IV)、そして特定された光輝性顔料粒子1個の領域に、元の画像(i)を合成する(V)(非特許文献1の画像解析ハンドブックの第1740ページを参照)、いわゆるマスク処理を行う。これによって、1個の光輝性顔料粒子の領域のみはフルカラーであって、その他の領域(背景)は濃淡レベルがゼロとなる画像(v)を得ることができる。このように背景処理が行われた画像を、光輝性顔料の銘柄と関連づけて記録部13のデータベースに格納する。
【0044】
データベースを作成する第3段階(ステップS3)においては、背景処理が行われた画像の画像特徴量を抽出する。
【0045】
本発明で対象とする光輝性顔料の画像特徴量は、後に詳述する色を示すもの、粒子形状を示すもの、及び表面状態を示すものの3タイプに分類することができる。以下、各タイプの画像特徴量の性質及びそれらの求め方を順に説明する。
【0046】
(色)
光輝性顔料を特徴付ける場合、色は重要である。且つ、色の3属性(色相、明度、彩度)を全て画像特徴量とすることができる。光輝性顔料を撮像して2次元画像を得た場合、1つの光輝性顔料粒子領域(例えば、図3のc)内において、画素によって色が異なる。そこで、その領域内の画素の代表色を決定し、代表色の彩度、明度及び色相を画像特徴量とすることができる。
【0047】
本実施の形態で代表色の求め方としては、まず、画像の光輝性顔料粒子の領域の画素すべてについて、コンピュータなどで用いられる表色系のRGBデータから人間の感覚に近い表色系のHSI(色相、彩度及び明度)データへの変換を行う(非特許文献1の画像解析ハンドブックの第1897ページを参照)。RGB表色系からHSI表色系への変換方法は特に限定されるものではないが、本実施の形態では6角錐カラーモデルを使用するものとする。次いで、図4に示すように、色相毎の画素数分布である色相ヒストグラムを求め、その最頻値を代表色の色相とする。さらに、求めた代表色の色相をもつ画素の彩度の平均値を求め、代表色の彩度とする。
【0048】
また、6角錐カラーモデルによる変換によって得られたHSI空間のデータにおいて、色相は、角度(0〜359°の正の整数)で表わされるため、359°〜0°の間で不連続となり、後述する統計計算に支障をきたすため、本実施の形態では図5に示されているような色相角の正弦値及び余弦値を求めてそれぞれを画像特徴量とする。図5は、干渉ブルー顔料の例を示しており、色相角(hue)が215°であり、画像特徴量は、cos(215°)=−0.57、sin(215°)=−0.82である。
【0049】
さらに、上記彩度、色相角の正弦値及び余弦値に加えて、明度を画像特徴量とすることもできる。明度については、彩度と同様に、求めた代表色の色相角をもつ画素の明度の平均値を求め、代表色の明度とする。
【0050】
(粒子形状)
光輝性顔料を特徴付ける場合に、上記色と同様に粒子の形状も重要である。粒子の形状を表わす画像特徴量としては、粒子の大きさを表わす粒子サイズ、丸さを表わす円形度、輪郭の滑らかさを表わす輪郭状態、及び深い欠けを表わす切れ込み数を選択することができる。これらの粒子形状タイプの各画像特徴量は次のように求めることができる。
【0051】
まず、図6に示すように、ステップS2での背景処理後の光輝性顔料粒子1個を示す画像の輪郭追跡を行い、輪郭に対応する画素(以下、輪郭画素と記す)を求める。次に光輝性顔料粒子の領域の重心を求める。次いでこの重心の画素と輪郭画素との幾何学距離を輪郭画素すべてについて計算して平均し、即ち重心と輪郭との平均距離を計算して、半径に相当する粒子の大きさである粒子サイズrとする。粒子サイズrは、下記の数式により計算することができる。
【0052】
【数1】

【0053】
ここでは、(a,b)は重心の座標、(x,y)は輪郭画素の座標、nは輪郭画素の数を表している。
【0054】
また、輪郭処理によって、光輝性顔料粒子1個を示す画像の周囲長を計算し、この周囲長と上記計算した粒子サイズrから円形度を計算する(非特許文献1の画像解析ハンドブックの第224ページを参照)。具体的には、上記計算した半径に相当する粒子サイズrから円周を計算し、この円周長と周囲長との比を、画像の丸さを表わす円形度とする。
【0055】
次に、図7A及び図7Bに示すように、画像重心から輪郭までの距離Lを輪郭画素ごとに展開した輪郭プロフィールの2次元グラフ(図7B)を作成し、輪郭プロフィールにおける距離Lの極大点及び極小点を検出して山と谷を決定する(特許文献2を参照)。この輪郭プロフィールの山、谷の数を、輪郭の滑らかさを表わす指標(輪郭状態)とする。図7Bでは、横軸は、ある輪郭画素を起点とする、輪郭に沿った輪郭画素列であり(具体的には、図7AのA部分から反時計回りに並べている)、縦軸は、画像の重心から各輪郭画素までの距離Lである。なお、図7A及び図7Bにおいては、A、B、Cは山を示し、a、b、cは谷を示している。
【0056】
さらに、輪郭プロフィールにおいて極端に深い谷がある、即ち光輝性顔料に局所的な凹み、欠けがある場合、それを切れ込みとし、その切れ込みを所定の基準で、例えば、隣接する山と谷との重心からの距離の差Lが40画素以上、且つ隣接する山のピーク間の距離Lが40画素以下という基準でカウントし、この切れ込みの数をも画像特徴量とする。例えば、図7A及び図7Bにおいては、aは切れ込みである。
【0057】
(光輝性顔料の表面状態)
光輝性顔料を特徴付ける場合において表面状態も重要である。表面状態については、二次元の画像においては、濃淡レベルの変化で表されるので間接的に観察することができる。光輝性顔料粒子の表面状態は、具体的には、粒子を構成する色及び粒子表面の凹凸の2つで表される。特に、光学的に撮像した画像の場合に光輝性顔料の基材及び製造方法による凹凸やコーティング層の厚さの違いにより、明度や彩度が異なって見える。よって、本実施の形態では、光輝性顔料粒子1個を表わす画像における異なる色の数(粒子内の構成色数)と、色の濃淡の変化からHSI空間データにおける色の不均一度(粒子内の平滑性)とを計算することにより、間接的に表面状態を表わす。
【0058】
まず、表面状態を表わす「粒子内の構成色数」、即ち光輝性顔料粒子1個を表わす画像内の色数を下記の手順で求めて画像特徴量とする。具体的には、図8に示すように、フルカラーの画像データに対して、均等量子化法(非特許文献1の画像解析ハンドブックの第1209ページを参照)による滅色処理を行い、得られた例えば27色の画像内の、画像に対する占有率が1.0%以上の色を粒子を構成する色とし、その総数を求めて粒子内の構成色数とする。図8に一例を示す。
【0059】
表面状態を表わす「粒子内の平滑性」については、撮像した画像における粒子表面の明度、彩度が異なる場合に人間が凹凸を感じるため、本実施の形態では画像中の濃度レベルが変化する領域に着目して画像特徴量を抽出する。具体的には、図9に示すように、光輝性顔料粒子1個を表わす画像に基づいて、HSI表色系における明度のグレースケール画像をまず作成し、エッジ抽出処理又はフィルターリング(画像解析ハンドブックの第1229ページを参照)を行う。得られた画像の平均グレーレベルを、明度に関する表面の平滑性を表わす特徴量、即ち、「明度平均グレーレベル」として決定する。彩度についても同様に、元の画像に基づいて彩度のグレースケール画像を作成し、エッジ抽出処理を行い、得られた画像の平均グレーレベルを求めて、彩度に関する表面の平滑性を表す画像特徴量、即ち、「彩度平均グレーレベル」として決定する。
【0060】
エッジ抽出処理後の画像の各画素値(グレーレベル)がそれぞれ、g、g、・・・、gとすると、平均グレーレベルGは、次の式により求められる。
【0061】
【数2】

【0062】
また、エッジ抽出処理としては、特に限定されるものではないが、ソーベルフィルタのような一次微分処理など、公知の方法を使用すればよい。
【0063】
このようにして、光輝性顔料に対して、代表色の色相角の正弦値、余弦値、代表色の彩度、及び代表色の明度を含む4つの色関連の画像特徴量、粒子サイズ、円形度、輪郭状態、及び切れ込み数を含む4つの粒子形状関連の画像特徴量、並びに、粒子内の構成色数、明度平均グレーレベル、及び彩度平均グレーレベルを含む3つの表面形状関連の画像特徴量、合わせて11種類の画像特徴量を抽出することができる。
【0064】
データベースを作成するためには、上記の1個の光輝性顔料粒子に対する各画像特徴量の抽出を、1種類の光輝性顔料について少なくとも1回、好ましくは10回以上行う。
【0065】
そして、データベースを作成する第4段階(ステップS4)においては、複数種類の光輝性顔料の銘柄や、品番、メーカー、そのほかの各種データ(粒径、比表面積、表面処理など)、タイプ(素材、発色など)、価格等の入力を、例えば操作部14を介して受け付け、メモリ12に格納する。
【0066】
データベースを作成する第5段階(ステップS5)では、ステップS3で画像から抽出された上記の各画像特徴量を、ステップS4で取得した光輝性顔料の銘柄等と関連づけて記録部13に格納する。なお、画像特徴量以外に、画像自体を含む画像処理を行う各段階で得られた他の情報を関連づけて記録部13に格納することも可能である。なお、データの関連づけ及び格納方式は公知のものを使用すればよい。
【0067】
上記のようにして得られたデータベースを用いて未知の光輝性顔料の銘柄を特定する同定方法は、統計計算、ニューラルネットワークなどを含む様々な手法を用いることができる。本実施の形態では、上記の画像特徴量を入力情報、光輝性顔料の銘柄(若しくは種類)を出力情報とする階層構造型ニューラルネットワークを用いた同定方法について記載する(非特許文献1の画像解析ハンドブックの第1615ページを参照)。
【0068】
従って、データベースを作成する第6段階(ステップS6)においては、ニューラルネットワークを構築し、データベースに格納された画像特徴量及び銘柄を関連づけたデータを学習データとして、誤差逆伝播法による学習を行い、結合荷重データ(シナプスウェイト)等を決定する。
【0069】
具体的には、画像特徴量の種類(数)を入力ユニット数とし、光輝性顔料の種類或いは銘柄(数)を出力ユニット数として、ニューラルネットワークを構成することができる。なお、入力ユニットとされる画像特徴量は、上記で抽出した特徴量のすべてを使用する必要はなく、色に関する特徴量は必須であるが、その他の特徴量は適宜取捨選択することができる。また、粒子形状に関する画像特徴量を加えると同定の精度が上がり、表面状態に関する画像特徴量をさらに加えると精度が一層向上する。
【0070】
図10は、ニューラルネットワークの一構成例を示す図である。図10において、入力層には、代表色相の明度以外の10種類の正規化された画像特徴量を入力ユニットとし、出力層には30種類の光輝性顔料の銘柄を出力ユニットとし、隠れ層には10ユニットを設けている。画像特徴量の正規化は、例えば、次式を使用して特徴量毎に行うことができる。
【0071】
i,j=(Pi,j−Pmin,i)/(Pmax,i−Pmin,i
ここでは、iは特徴量の種類を表わし、Xi,jは画像jから得られた正規化後の特徴量iの値、Pi,jは画像jから得られた特徴量iの値、Pmax,iは学習データ中の特徴量iの最大値、Pmin,iは学習データ中の特徴量iの最小値である。
【0072】
ここでは、正規化した画像特徴量と光輝性顔料の銘柄とを関連づけたデータを学習データ(教師データ)としているが、学習データは、光輝性顔料1種類に対して、10個以上を準備し、さらに、同定の精度を向上させるために相関の強いものを排除した画像特徴量を使用することが好ましい。学習回数は、1000万回以上行うことが好ましいが、使用する画像特徴量、光輝性顔料の銘柄、学習データによって、収束状況を確認しながら調整することができる。
【0073】
データベースを作成する第7段階(ステップS7)において、上記のように学習を通じて得られたニューラルネットワークの結合荷重データ(シナプスウェイト)を、ニューラルネットワークの構成情報(層の数、ユニットの数など)、正規化後の画像特徴量、及び各特徴量の最大値や最小値などと共に、記録部13に格納してデータベースの作成を完了する。
【0074】
次に、本実施の形態に係る光輝性顔料の同定方法を、図1に示した同定システムの光輝性顔料を同定する動作として、図11のフローチャートを参照して説明する。
【0075】
以下では、光輝性顔料によって意匠を付与されたメタリック/パール塗色中に配合された光輝性顔料をもって説明する。以下の説明においては、特に断らない限りCPU11が行う処理として説明する。
【0076】
まず、図11のステップS11において、データベース作成時と同様に、画像入力装置2、例えば顕微鏡を制御して、光輝性顔料が含まれる塗膜の画像を撮像する。撮像した画像データは、I/F部15を介して、メモリ12に、例えばフルカラーのJPEG画像として記録する。ここで注意すべきことは、塗膜中に複数の種類の光輝性顔料が配合されている場合、顕微鏡観察の時点で人が十分に観察して、同定の対象とする光輝性顔料の粒子のみを選択することである。
【0077】
次に、ステップS12において、データベース作成時と同様に、適宜操作部14を介してCPU11に対する指示を受けて、ステップS11で記録したフルカラー画像から対象の光輝性顔料粒子1個を切り出して、画像の2値化、ラベリング、及びマスク処理を含む背景処理を行って、背景処理済みの光輝性顔料粒子1個の画像データを生成する。
【0078】
ステップS13において、ステップS12で得られた背景処理済みの光輝性顔料粒子の画像から、色、粒子形状、及び表面状態を示す複数の画像特徴量を、データベース作成時と同様に操作部14を介してCPU11に対する指示を受けて、抽出する。
【0079】
ステップS14において、記録部13に格納されたデータベースから各種類の画像特徴量の最大値及び最小値を読み出して、ステップS13で得られた各種類の画像特徴量を正規化する。
【0080】
ステップS15において、抽出した画像特徴量に基づいて光輝性顔料の銘柄を同定する。同定方法には統計的な多くの手法を用いることもできるが、本実施の形態では、上記正規化した画像特徴量を入力情報とし、光輝性顔料の銘柄を出力情報とし、誤差逆伝播法のアルゴリズムを使用して予め結合荷重データが決定されているニューラルネットワークを用いて、光輝性顔料の銘柄の同定を行う(非特許文献1の画像解析ハンドブックの第1597ページを参照)。従って、ステップS14で正規化した画像特徴量を、ニューラルネットワークの入力ユニットに入力し、記録部13に格納されたデータベースにあるニューラルネットワークの結合荷重データを用いてニューラルネットワークによる光輝性顔料の同定を行う。
【0081】
ステップS16において、ニューラルネットワークによって同定された光輝性顔料の銘柄等の情報をI/F部15を介して表示装置3に出力する。
【0082】
このように、本発明に係る光輝性顔料の同定システムでは、未知の光輝性顔料を撮像して得られた画像からその特徴量を抽出し、抽出した画像特徴量に基づいて、既知の光輝性顔料の画像特徴量を用いて予め構築したデータベースを利用して、未知の光輝性顔料の銘柄をニューラルネットワークによって自動且つ容易に同定することができる。
【0083】
なお、ここでは、塗膜中の光輝性顔料(メタリック/パール塗色)を同定する方法について説明したが、本発明の同定方法はそれによって用途が限定されるものではなく、フィルム、プラスチック等光輝性顔料が練り込まれたものや、化粧品、光輝性顔料そのものについても本発明の方法で同定することができる。
【0084】
なお、データベースに登録された光輝性顔料に関するデータによっては、同定対象とするデータベース内のデータの範囲を予め限定して同定を行ったり、ニューラルネットワークの出力データの範囲を限定したり逆に広げたりすることも可能である。即ち、未知の光輝性顔料のおおよそのタイプが分かっている場合、同定対象とするデータベース内のデータ範囲を予測される範囲に限定すれば効率的である。また、ニューラルネットワークにおいて、イエスかノー(1か0)のような2値の判定結果を出力する代わりに、出力データの範囲を0〜1の実数にして出力値が高いものから降順にソートし、上位にある所定数の類似する光輝性顔料の銘柄を候補として選び出したりすることも可能である。
【0085】
例えば、出力ユニットをおおよそ分かっているタイプの光輝性顔料とし、ニューラルネットワークを再学習させて新たな結合荷重データ(シナプスウェイト)を取得し、その新たな結合荷重データを使用して未知の光輝性顔料の銘柄を同定することができる。この場合、同定の精度が一層高くなる。
【0086】
また、イェスかノーの形で光輝性顔料の種類を同定できないとき、ニューラルネットワークの出力データ範囲を0〜1の実数値とし、上位の、例えば5つの出力数値に対応する光輝性顔料を未知の光輝性顔料に類似する光輝性顔料として提示することも可能である。
【0087】
なお、本発明の同定方法によって未知の光輝性顔料の同定を行い、得られた結果が、観察者の知っている正解でなかった場合、正解が得られるようにデータベースにサンプル、特に誤認識したサンプルを追加し、ニューラルネットワークを再学習させることができる。この再学習をさせることで、新規の結合荷重データが得られ、誤認識したサンプルの識別精度を向上することができる。即ち、正しいデータをデータベースに追加することによって、以後の同定がより正確になる。
【実施例1】
【0088】
次に、実施例を挙げて、本発明をより具体的に説明する。
【0089】
(1)光輝性顔料の用意
図12に示すように光輝性顔料を大まかにグループ分けし、各グループから発色、粒子サイズ、表面状態の異なる銘柄を30種類選定した。詳細には、アルミフレーク顔料(粒径が異なる銘柄)、着色アルミフレーク顔料(青、緑、赤)、着色パール顔料(赤)、干渉パール顔料(干渉色が赤、ゴールド、黄、緑、青、紫、基材が天然マイカ、アルミナフレーク、粒径が異なる銘柄)、シルバーパール顔料(基材、粒径が異なる銘柄)、及びマルチカラー顔料から30種類を選択して用意した。
【0090】
(2)光輝性顔料含有塗膜の製作
ニトロセルロース系クリヤー塗料(関西ペイント(株)製、アクリック2026GL)の樹脂固形分100質量部に対して、(1)で選定した各光輝性顔料を固形分として1質量部になるように配合し、攪拌混合した後、塗装に適した粘度に希釈して塗料を調整した。調整した各塗料を、予め黒色に塗装を施したアート紙上にNo.20のバーコーターで塗装し、乾燥膜厚約15μmの塗膜を製作した。
【0091】
(3)光輝性顔料の撮像
画像取得装置としてビデオマイクロスコープを用い上記のように製作した塗膜を、2500倍の撮像倍率、落射照明方式で撮像し、得られた画像データを、同定装置(コンピュータ)のメモリに格納した。
【0092】
なお、同一種類の光輝性顔料について、10の画像データを取得し、合計30×10=300画像を取得した。
【0093】
(4)画像の背景処理と特徴量の抽出、正規化
データベースの作成において説明したように格納した画像を同定装置を用いて処理し、1種類の光輝性顔料につき10セットの画像特徴量(代表色の明度以外の10種の特徴量)を抽出した。そして、抽出した各種類の画像特徴量の30×10=300サンプルを各々、正規化した。
【0094】
(5)特徴量の相関関係の確認
それぞれ300サンプルを有する10種類の画像特徴量間の相関行列を計算した結果、図13に示す相関係数が得られた。全ての相互相関係数が0.9以上とはならず、即ち、異なる特徴量間の相関関係が低いことを確認した。従って、これらの特徴量が適切であると言える。
【0095】
(6)データベースの作成
上記(4)で正規化した画像特徴量及び光輝性顔料の銘柄を関連付けたデータと、光輝性顔料粒子1個を示す画像と、各種類の画像特徴量の最大値、最小値とを、データベースとして同定装置のメモリに格納した。
【0096】
(7)ニューラルネットワークの学習
ニューラルネットワークを用いる同定のために、正規化した画像特徴量と光輝性顔料の銘柄とを関連付けたデータを学習データとして、誤差逆伝播法による学習を行った。学習によって得られたニューラルネットワークの結合荷重データ(シナプスウェイト)をもデータベースに格納した。このときのニューラルネットワークの構成は、図10に示すように、入力ユニットを10個、出力ユニットを30個、隠れ層を1層、隠れ層ユニットを10個、バイアス入力ユニットを1個、関数タイプをシグモイド関数、学習回数を1000万回、学習率を0.8、許容誤差を0.1とした。
【0097】
(8)同定精度検証のための光輝性顔料の画像取得
同定方法の精度検証を行うために、上記(1)〜(3)で得た画像と同様に、新たに各々の光輝性顔料について2つの画像を取り込み、合計、2×30=60画像を得た。
【0098】
(9)画像の背景処理及び特徴量の抽出、正規化
上記の60の画像それぞれについて、背景処理を行った後、画像特徴量を抽出し、得られた画像特徴量を、(6)でデータベースに格納したそれぞれに対応する最大値及び最小値をもって正規化した。
【0099】
(10)光輝性顔料の同定
(9)で正規化した画像特徴量に対して、上記(7)で構成したニューラルネットワークを使用して、光輝性顔料の同定を行った。その結果、光輝性顔料の銘柄が正しく判定された確率は74.1%、正しい光輝性顔料の候補として銘柄を5つ挙げた場合その中に正しいものが含まれた確率は94.8%であった。このように、非常に高い精度で光輝性顔料を同定することができたことから、用いた画像特徴量が非常に有効であると言える。
【0100】
以上では、本発明を具体的な実施の形態及び実施例によって説明したが、本発明は、決してそれに限定されるものではなく、本発明に係る光輝性顔料同定装置、同定システムは、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で種々変更して実現することが可能である。また、本発明に係る光輝性顔料同定方法、プログラムに関しても、本発明の趣旨から逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【符号の説明】
【0101】
1 光輝性顔料同定装置
2 画像取得装置
3 表示装置
11 CPU
12 メモリ
13 記録部
14 操作部
15 I/F部
16 データバス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光輝性顔料を撮像して画像データを取得する第1ステップと、
取得した前記画像データに対して背景処理を行い、前記光輝性顔料の粒子1個を含むその近傍部分の画像データを処理対象画像データとして抽出する第2ステップと、
前記処理対象画像データから画像特徴量を抽出する第3ステップと、
複数種類の前記光輝性顔料のそれぞれについて前記第1ステップ〜前記第3ステップの処理を行い、前記光輝性顔料に関する情報と、抽出した前記画像特徴量とを予め対応させて記憶したデータベースを作成する第4ステップと、
被同定対象の光輝性顔料について前記第1ステップ〜前記第3ステップの処理を行い、前記被同定対象の光輝性顔料の画像特徴量を抽出する第5ステップと、
抽出した前記被同定対象の光輝性顔料の前記画像特徴量に基づいて、前記データベースから前記被同定対象の光輝性顔料を同定する第6ステップとを含み、
前記画像特徴量が、前記光輝性顔料の色を表す特徴量を含み、
前記光輝性顔料の色を表わす特徴量が、代表色の色相角の正弦値及び余弦値、並びに前記代表色の明度及び彩度であり、
前記代表色の色相角が、前記光輝性顔料粒子1個に対応する部分画像内の画素のHSI表色空間における色相角のヒストグラムの最頻値であり、
前記代表色の明度が、前記代表色の色相角を有する画素の平均明度であり、
前記代表色の彩度が、前記代表色の色相角を有する画素の平均彩度であることを特徴とする光輝性顔料同定方法。
【請求項2】
光輝性顔料を撮像して画像データを取得する画像取得装置と、
前記画像取得装置から入力される前記画像データに対して背景処理を行い、前記光輝性顔料粒子1個を撮像した部分の画像を抽出した後に、抽出した前記光輝性顔料粒子1個を表す部分画像に対して画像処理を行いながら、前記光輝性顔料の各種の画像特徴量を計算する特徴量検出部と、
複数種類の前記光輝性顔料のそれぞれについて、前記光輝性顔料に関する情報と、前記特徴量検出部によって計算された前記画像特徴量とを予め対応させて記憶するデータベースを格納する記録部と、を備え、
前記画像特徴量が、前記光輝性顔料の色を表す特徴量を含み、
前記光輝性顔料の色を表わす特徴量が、代表色の色相角の正弦値及び余弦値、並びに前記代表色の明度及び彩度であり、
前記代表色の色相角が、前記光輝性顔料粒子1個に対応する部分画像内の画素のHSI表色空間における色相角のヒストグラムの最頻値であり、
前記代表色の明度が、前記代表色の色相角を有する画素の平均明度であり、
前記代表色の彩度が、前記代表色の色相角を有する画素の平均彩度であり、
前記特徴量検出部が、前記画像取得装置から入力された被同定対象の光輝性顔料の画像データから、前記被同定対象の光輝性顔料の画像特徴量を計算し、計算した前記被同定対象の光輝性顔料の前記画像特徴量に基づいて、前記データベースから前記被同定対象の光輝性顔料を同定することを特徴とする光輝性顔料同定システム。
【請求項3】
コンピュータに、
入力される光輝性顔料の画像データに対して背景処理を行い、前記光輝性顔料の粒子1個を含むその近傍部分の画像データを処理対象画像データとして抽出する第1の機能と、
前記処理対象画像データから画像特徴量を抽出する第2の機能と、
複数種類の前記光輝性顔料のそれぞれについて前記第1の機能および前記第2の機能によって処理を行い、前記光輝性顔料に関する情報と、抽出した前記画像特徴量とを予め対応させて記憶したデータベースを作成する第3の機能と、
被同定対象の光輝性顔料について前記第1の機能および第2の機能によって処理を行い、前記被同定対象の光輝性顔料の画像特徴量を抽出する第4の機能と、
抽出した前記被同定対象の光輝性顔料の前記画像特徴量に基づいて、前記データベースから前記被同定対象の光輝性顔料を同定する第5の機能とを実現させ、
前記画像特徴量が、前記光輝性顔料の色を表す特徴量を含み、
前記光輝性顔料の色を表わす特徴量が、代表色の色相角の正弦値及び余弦値、並びに前記代表色の明度及び彩度であり、
前記代表色の色相角が、前記光輝性顔料粒子1個に対応する部分画像内の画素のHSI表色空間における色相角のヒストグラムの最頻値であり、
前記代表色の明度が、前記代表色の色相角を有する画素の平均明度であり、
前記代表色の彩度が、前記代表色の色相角を有する画素の平均彩度である光輝性顔料同定プログラム。
【請求項4】
請求項3に記載の光輝性顔料同定プログラムを記録したコンピュータ読取可能な記録媒体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2012−226763(P2012−226763A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−144841(P2012−144841)
【出願日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【分割の表示】特願2006−274434(P2006−274434)の分割
【原出願日】平成18年10月5日(2006.10.5)
【出願人】(000001409)関西ペイント株式会社 (815)
【Fターム(参考)】