説明

光送信機、及び波形補償方法

【課題】外部要因の変動によらず、光出力波形を維持することである。
【解決手段】光送信機は、EA変調器と、フォトカレント検出回路と、変調器駆動回路と、CPUとを有する。EA変調器は、入力された信号を光信号に変換して出力する。フォトカレント検出回路は、EA変調器における光吸収電流(フォトカレント)を検出する。変調器駆動回路は、EA変調器を制御する。CPUは、フォトカレント検出回路により検出された上記光吸収電流に基づき、変調器駆動回路に印加する電圧を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光送信機、及び波形補償方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光送信機は、所定の波形を有する入力信号を、光変調器によって変調した後、所定の波形を有する光電力として出力する。光出力の波形は、入力信号の波形に大きく依存することから、光送信機が、入力信号の振幅の変動に対して、充分な耐性をもつことは困難である。このため、従来では、光送信機は、インタフェース回路等により、振幅変動に依存しない信号を一旦生成した後に、光変調器において、変調器駆動回路を経て劣化した波形の補償を行うことがある。これにより、光送信機は、入力信号の振幅によらず、均等な光出力波形を得ることができる。上述の様な構成は、特に、長距離伝送を目的とした、電界吸収型のEA(Electro Absorption)変調器を実装する光送信機において、多く採用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2003−163639号公報
【特許文献2】国際公開第2006/048944号
【特許文献3】特開平10−27931号公報
【特許文献4】特開2000−221457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、光送信機に、上述のインタフェース回路を実装すると、実装効率が低下し、高密度実装による小型化や低消費電力化が困難となる。そこで、インタフェース回路を有さない光送信機が望まれるが、かかる光送信機では、振幅の変動に依存しない信号の生成はできず、振幅の変動がそのまま光出力波形の変動となって現れることとなる。その結果、振幅変動に対する耐性は著しく低下する。特に、入力信号の振幅が小さい場合には、光変調器に入力される信号波形のクロスポイントのずらし量が、光変調器の消光特性と整合せず、光出力波形において、クロスポイントが許容範囲(50%近傍)に収まらないことがある。このことが、長距離伝送の前後における安定した符号誤り特性を、阻害する要因となる。
【0005】
開示の技術は、上記に鑑みてなされたものであって、外部要因の変動によらず、出力波形を維持することのできる光送信機、及び波形補償方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本願の開示する光送信機は、一つの観点によれば、光変調器と電流検出回路と駆動回路とプロセッサとを有する。前記光変調器は、入力された信号を光信号に変換して出力する。前記電流検出回路は、前記光変調器における光吸収電流を検出する。前記駆動回路は、前記光変調器を駆動する。前記プロセッサは、前記電流検出回路により検出された前記光吸収電流に基づき、前記駆動回路に印加する電圧を算出する。
【発明の効果】
【0007】
本願の開示する光送信機の一つの態様によれば、外部要因の変動によらず、出力波形を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、実施例1に係る光送信機の構成を示す図である。
【図2A】図2Aは、入力電圧値とフォトカレント値との関係の実測結果の一例を示す図である。
【図2B】図2Bは、入力電圧振幅値とクロスポイント制御電圧値との関係の実測結果の一例を示す図である。
【図3】図3は、入力信号の振幅に応じた信号の波形を示す図である。
【図4A】図4Aは、実施例1に係るクロスポイントの実測結果を示す図である。
【図4B】図4Bは、実施例1に係る消光比ERの実測結果を示す図である。
【図5】図5は、実施例2に係る光送信機の構成を示す図である。
【図6】図6は、実施例2に係るフォトカレント検出回路の構成を示す図である。
【図7A】図7Aは、実施例2に係るクロスポイントの実測結果を示す図である。
【図7B】図7Bは、実施例2に係る消光比ERの実測結果を示す図である。
【図8】図8は、実施例3に係る光送信機の構成を示す図である。
【図9】図9は、実施例3に係る波長基準Vdut値補正テーブルにおけるデータ格納例を示す図である。
【図10】図10は、実施例4に係る光送信機の構成を示す図である。
【図11】図11は、実施例4に係る温度基準Vdut値補正テーブルにおけるデータ格納例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本願の開示する光送信機、及び波形補償方法の実施例を、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、以下の実施例により本願の開示する光送信機、及び波形補償方法が限定されるものではない。
【実施例1】
【0010】
まず、本願の開示する一実施例に係る光送信機の構成を説明する。図1は、実施例1に係る光送信機10の構成を示す図である。図1に示すように、入力端子11、12と、変調器駆動回路13と、入力端子14と、EA(Electro Absorption)変調器15と、入力端子16と、フォトカレント検出回路17と、CPU(Central Processing Unit)18と、入力端子19とを有する。これら各構成部分は、一方向又は双方向に、信号やデータの入出力が可能なように接続されている。
【0011】
入力端子11は、外部から光送信機10への信号を入力し、入力端子12に出力する。入力端子12は、入力端子11から出力された信号を入力し、変調器駆動回路13に出力する。変調器駆動回路13は、入力端子12から入力された電気信号により、EA変調器15を駆動制御する。入力端子14は、変調器駆動回路13から出力された信号を入力し、後段のEA変調器15に出力する。EA変調器15は、LD(Laser Diode)15aにて発生された直流の光を入力し、電気信号を光信号に変換して出力する電解吸収型の変調器である。入力端子16は、フォトカレント検出回路17から出力された光信号を入力し、EA変調器15に出力する。
【0012】
フォトカレント検出回路17は、前段のEA変調器15の印加バイアス電圧の供給ラインL1から、EA変調器15での光吸収に伴って発生する電流の量を、フォトカレント値Ip1として検出する。フォトカレント検出回路17は、検出されたフォトカレント値Ip1を電圧レベルに変換して出力する。CPU18は、フォトカレント検出回路17により検出されたフォトカレント値Ip1に基づく電圧レベルが一定になるように、演算回路18aによる演算結果に基づき、変調器駆動回路13に出力されるクロスポイント制御電圧を可変制御する。入力端子19は、フォトカレント検出回路17により検出された光吸収電流の変化に応じたクロスポイント制御電圧を、変調器駆動回路13に供給する。
【0013】
次に、光送信機10の動作原理を説明する。EA変調器15には、バイアス電圧(EAバイアス電圧)が印加されるが、このとき、電圧供給ラインL1上の入力端子16には、EA変調器15の光吸収量に比例して、光吸収電流が流れる。この光吸収電流の電流量は、EA変調器15における光吸収量に比例することから、LD15aからEA変調器15に入力される光の光電力が一定である場合、光出力電力が増加すると、その分光吸収率は減少し、光吸収電流量も減少することとなる。一方、光吸収電流量は、光出力波形のクロスポイントの上昇に伴って減少する。このクロスポイントの上昇は、デューティ比を変動させ、光出力波形の劣化をもたらす。したがって、光送信機10は、クロスポイントをフィードバック制御して、光吸収電流量を常時一定に保つことで、入力信号の振幅による変動の少ない光出力波形を得ることができる。
【0014】
より具体的には、フォトカレント検出回路17は、光吸収電流量を検出し、この検出結果を電圧レベルに変換して、後段のCPU18に出力する。CPU18は、事前にメモリ18bに格納されている、クロスポイントが最適値をとる時の光吸収電流量の値を参照し、最適なクロスポイント制御電圧を算出する。すなわち、CPU18は、電圧レベルに変換されたフォトカレント値Ip1と、上記メモリ18b内に格納されたフォトカレント(光吸収電流量)の基準値Ip0とを比較し、その差分を算出する。CPU18は、当該差分である△Ip(=Ip1−Ip0)が“0”となるクロスポイント制御電圧の値Vdutを算出する。クロスポイント制御電圧Vdutは、入力端子19を介して、変調器駆動回路13に印加される。なお、CPU18は、プロセッサの一例として用いられるものであり、例えば汎用プロセッサを用いることもできる。
【0015】
次に、クロスポイント制御電圧Vdutは、フォトカレントIp1に基づいて制御されるが、これらの関係について説明する。図2Aは、入力電圧値とフォトカレント値との関係の実測結果の一例を示す図であり、図2Bは、入力電圧振幅値とクロスポイント制御電圧値との関係の実測結果の一例を示す図である。クロスポイント制御電圧は、入力電圧値を媒介して特定されるフォトカレント値に基づき、図2A及び図2Bに示す値に制御される。図2Aでは、横軸に入力電圧Vin(単位はmVdpp)が規定され、縦軸にフォトカレント値(単位はmA)が規定されている。図2Aに示すように、フォトカレント値Ip1は、波形補償により、入力信号の振幅の大小に拘らず一定の値(19.26mA)をとるが、このために、クロスポイント制御電圧の値Vdutは、図2Bに示すように、上記振幅の大小により異なる値をとる。具体的には、クロスポイント制御電圧の値Vdutは、Vin=190mVdppの小振幅入力時には、0.79Vに制御されると共に、Vin=700mVdppの大振幅入力時には、0.68Vに制御される。
【0016】
すなわち、光送信機10が波形補償を行わない場合、換言すれば、クロスポイント制御電圧の値Vdutが0.68Vと一定の場合(図2B参照)、フォトカレント値Ip1は、入力信号の振幅によって異なる値(19.28mAと19.26mA)をとる(図2A参照)。このように、入力信号の振幅の変動に依存して、クロスポイントも変動することとなる。これに対して、波形補償有りの場合には、入力信号の振幅の大小を問わず、フォトカレント値Ip1が一定となるように、クロスポイント制御電圧の値Vdutが変動する。フォトカレント値の変動を抑えることにより、クロスポイントの変動は抑制される。その結果、安定した光出力波形が維持されることとなる。
【0017】
図3は、大振幅入力時及び小振幅入力時における信号の波形を示す図である。図3では、横軸に時間t、縦軸に信号の電圧レベルあるいはパワーレベルが規定されている。図3に示すように、時点t(図1参照)においては、大振幅入力、小振幅入力に拘らず、クロスポイントc1、c2とクロスポイントc3、c4とは、共に凡そ50%となっている。また、光送信機10はインタフェース回路を有しないことから、時点t(図1参照)においても、小振幅入力時の波形が整形(波形再生)されることなく、時点tと同様の波形が維持される。その後、時点t(図1参照)においては、信号のEA変調器15への入力、クロスポイントc1’、c2’及びc3’、c4’を、75%付近まで上昇させる。図3に示す例の場合、クロスポイントは、入力される光信号の振幅が小さい程高くなるが、これに伴い、平均電力の値は上昇し、EA変調器15での光吸収電流量(フォトカレント値)は減少する。光送信機10では、変調器駆動回路13への印加電圧がフィードバック制御されるため、クロスポイントc3’、c4’の値は、クロスポイントc1’、c2’と同様の値(約75%)に調整される。これにより、時点t(図1参照)での光出力波形は、入力信号の振幅に依存せず、クロスポイントc1”、c2”及びc3”、c4”が50%程度の値をとる波形に維持される。
【0018】
図4Aは、実施例1に係るクロスポイントの実測結果を示す図である。図4Aでは、横軸に入力電圧Vin(単位はmVdpp)が規定され、縦軸にクロスポイント(単位は%)が規定されている。図4Aに示すように、Vin=700mVdppの大振幅入力時には、波形補償の有無を問わず、クロスポイントは約50%の値をとるが、Vin=190mVdppの小振幅入力時には、クロスポイントの値は、波形補償により、約60%から約50%に改善されている。消光比ER(Extinction Ratio)についても、同様の効果が得られる。図4Bは、実施例1に係る消光比ERの実測結果を示す図である。図4Bでは、横軸に入力電圧Vin(単位はmVdpp)が規定され、縦軸にER値(単位はdB)が規定されている。図4Bに示すように、Vin=700mVdppの大振幅入力時には、波形補償の有無を問わず、ERは約13dBの値をとるが、Vin=190mVdppの小振幅入力時には、ER値は、波形補償により、約12dBから約13dBに改善されている。すなわち、光送信機10では、EA変調器15における光吸収電流量に基づき、変調器駆動回路13への印加電圧がフィードバック制御されることにより、入力信号の振幅に起因する、クロスポイントや消光比の変動は抑制される。その結果、安定した波形の光信号が出力され、光受信電力の変動も抑制される。
【0019】
以上説明したように、光送信機10は、EA変調器15とフォトカレント検出回路17と変調器駆動回路13とCPU18とを有する。EA変調器15は、入力された信号を光信号に変換して出力する。フォトカレント検出回路17は、EA変調器15における光吸収電流を検出する。CPU18は、フォトカレント検出回路17により検出された上記光吸収電流に基づき、変調器駆動回路13に印加する電圧を算出する。変調器駆動回路13は、CPU18により算出された印加電圧により、EA変調器15を制御する。これにより、光送信機10は、光吸収電流量の変動に追従して、自動的に光出力波形の補償を行う。したがって、入力信号の振幅の変動によらず、クロスポイントの安定した光出力波形を得ることができる。換言すれば、光送信機10は、入力信号の変動に対して、十分な振幅耐性を有する。その結果、長距離伝送の前後において、安定的な符号誤り特性を得ることが可能となる。併せて、光送信機10は、ASIC/SerDes(Application Specific Integrated Circuit/Serializer Deserializer)からの線路長に対し、比較的大きなバラつきを許容することができるため、1ユニット当たりのモジュール搭載数を増加させることが可能となる。
【0020】
また、光送信機10は、インタフェース回路を有しないことから、装置の小型化、低消費電力化を実現することができる。更に、光送信機10は、EA変調器15の制御に必須の信号線であるEAバイアス電圧供給ラインL1を活用するため、光信号の生成及び出力に際して、光信号の分岐や結合を行う必要がない。このため、光送信機10は、例えば、フォトカプラの分岐比、あるいは、信号の分岐に伴って生じるロス及びその変動の影響を受けることがない。したがって、かかる影響を排除するための新たな部品の追加や電力供給が不要となる。その結果、実装面積や消費電力の節減が可能となる。
【実施例2】
【0021】
次に、実施例2について説明する。図5は、実施例2に係る光送信機20の構成を示す図である。図5に示すように、光送信機20の構成は、PD(Photo Diode)210を新たに有する点を除き、図1に示した光送信機10の構成と略同様である。したがって、実施例2では、実施例1と共通する構成要素には、末尾が同一の参照符号を用いると共に、その詳細な説明は省略する。実施例2が実施例1と異なる点は、LD25aから供給される光電力が一定でない場合、光送信機20は、当該光電力の変動を加味して、クロスポイント制御電圧Vdutの制御を行う点である。すなわち、実施例1では、LD15aから供給される光電力が一定である場合について説明したが、実施例2では、LD25aからの光電力が増減する結果、フォトカレントの変動が発生する場合を想定する。この場合、光送信機20は、当該フォトカレントの変動と、クロスポイントの変動に伴うフォトカレントの変動との区別が困難となり、本来不要な前者のフォトカレントの変動にも反応して、クロスポイント制御電圧Vdutを変動させてしまう懸念がある。以下においては、このような実施例2における光送信機20の動作を、図6、図7を参照しながら、実施例1との相違点を中心として説明する。
【0022】
PD210は、LD25aの光電力(バックパワー)を検出するLDバックパワー検出器として機能する。PD210は、検出された上記光電力の値を、CPU28の演算回路28aに出力する。CPU28は、LD25aの光電力の増減に応じて、演算回路28aによる算出結果を補正することにより、光電力の変動によらず、クロスポイントが一定範囲に収まるようなクロスポイント制御電圧Vdutを維持する。具体的には、メモリ28bには、上記光電力の初期値Im0が事前に格納されており、CPU28は、PD210から入力された光電力値Im1と初期値Im0との比率A(=Im1/Im0)を算出する。更に、CPU28は、△Ip=Ip1−(Ip0×A)により、△Ipの値を補正する。そして、CPU28は、この△Ipが“0”となるクロスポイント制御電圧の値Vdutを算出する。クロスポイント制御電圧Vdutは、入力端子29を介して、変調器駆動回路23に印加される。
【0023】
ここで、図6は、実施例2に係るフォトカレント検出回路27の構成を示す図である。図6に示すように、フォトカレント検出回路27は、抵抗値Rmonのモニタ抵抗27aを有する。上述したように、LD25aの光電力が変動すると、フォトカレントも変動するが、このときフォトカレント検出回路27では、フォトカレントの変動に起因して、モニタ抵抗27aでの電圧降下が変動し得る。この場合、EAバイアス制御電圧の値Vsが一定のままでは、EA変調器25に印加されるEAバイアス電圧の値Veaが変動し、光出力波形が劣化すると共に、フォトカレントが変動することが懸念される。そこで、実施例2に係る光送信機20では、CPU28が、上記比率Aを用いて、次式(1)により、EAバイアス制御電圧の値Vsを補正することが好適である。かかる補正により、EAバイアス電圧の値Veaは一定の値に保たれる。その結果、光出力波形の劣化は抑制される。
【0024】
Vs1=Vs0+Rmon×Ip0×(1−A)・・・(1)
【0025】
なお、上記式(1)において、Vs0は、LD25aの光電力変動前におけるEAバイアス制御電圧の値(初期値)であり、Vs1は、LD25aの光電力変動後におけるEAバイアス制御電圧の値である。したがって、光電力変動前までVs0であったEAバイアス制御電圧の値は、変動に伴い、Vs=Vs1に補正される。
【0026】
図7Aは、実施例2に係るクロスポイントの実測結果を示す図である。図7Aでは、横軸に光電力値Imが規定され、縦軸にクロスポイント(単位は%)が規定されている。図7Aに示すように、光電力値Imの値に変動がない場合には、波形補償の有無を問わず、クロスポイントは約50%の値をとるが、光電力値Imの値が−10%変動した場合には、クロスポイントの値は、波形補償により、約60%から約50%に改善されている。このような効果は、消光比ER(Extinction Ratio)についても同様に得られる。図7Bは、実施例2に係る消光比ERの実測結果を示す図である。図7Bでは、横軸に光電力値Imが規定され、縦軸にER値(単位はdB)が規定されている。図7Bに示すように、光電力値Imの値に変動がない場合には、波形補償の有無を問わず、ERは約13dBの値をとるが、光電力値Imの値が−10%変動した場合には、ER値は、波形補償により、約4dBから約13dBに改善されている。すなわち、光送信機20においても、光送信機10と同様、EA変調器25における光吸収電流量に基づき、変調器駆動回路23への印加電圧がフィードバック制御されることにより、入力信号の振幅に起因する、クロスポイントや消光比の変動は抑制される。その結果、安定した波形の光信号が出力されると共に、光受信電力の変動も抑制される。
【0027】
以上説明したように、光送信機20は、PD210を更に有する。PD210は、EA変調器25に入力される光の光電力を検出する。CPU28は、フォトカレント検出回路27により検出された光吸収電流と、PD210により検出された上記光電力とに基づき、変調器駆動回路23に印加する電圧を算出する。これにより、光送信機20は、光電力の変動をクロスポイントの変動と誤認識することがない。したがって、光送信機20は、LD25aからの光電力(バックパワー)の変動の影響を受けることなく、クロスポイントが50%付近に位置する所定の光出力波形を維持することができる。その結果、光送信機20の信頼性が向上する。
【実施例3】
【0028】
次に、実施例3について説明する。図8は、実施例3に係る光送信機30の構成を示す図である。図8に示すように、光送信機30の構成は、LD25aに代わりチューナブルLD(レーザダイオード)35aを用いる点を除き、図5に示した光送信機20の構成と略同様である。したがって、実施例3では、実施例2と共通する構成要素には、末尾が同一の参照符号を用いると共に、その詳細な説明は省略する。実施例3が実施例2と異なる点は、チューナブルLD35aから供給される光が異なる複数の波長を有する場合、光送信機30は、当該波長の変動を加味して、クロスポイント制御電圧Vdutの制御を行う点である。すなわち、実施例2では、LD25aから供給される光の波長は一定(固定波長)である場合について説明したが、実施例3では、チューナブルLD35aの発する光の波長が変動する場合を想定する。この場合、チューナブルLD35aとPD310との間の結合ロスが増減するため、チューナブルLD35aの光電力(バックパワー)にも変動が発生する。また、上記光波長変動に伴い、光波長の違いに起因して、EA変調器35の消光(光吸収)特性が変動する。この消光特性の変動は、フォトカレントの変動を招くため、チューナブルLD35aの使用が、光送信機30によるクロスポイント制御に誤差を生じさせ、クロスポイント制御電圧Vdutを変動させてしまうことがある。以下においては、このような実施例3における光送信機30の動作を、図9を参照しながら、実施例2との相違点を中心として説明する。
【0029】
チューナブルLD35aは、WDM(Wavelength Division Multiplex)システムの形成する広波長帯域において、1つのモジュールにより、異なる複数の波長光を出力することが可能なフルンバンドチューナブルLDである。メモリ38bには、チューナブルLD35aからの光電力(LDバックパワー)の波長補正係数BCHとフォトカレントの波長補正係数CCHとが、光波長チャンネルCH毎に格納されている。CPU38は、チューナブルLD35aの光波長の変動に応じて、演算回路38aによる算出結果を補正することにより、光波長の変動によらず、クロスポイントが一定範囲に収まるようなクロスポイント制御電圧Vdutを維持する。
【0030】
図9は、実施例3に係る波長基準Vdut値補正テーブル381bにおけるデータ格納例を示す図である。図9に示すように、波長基準Vdut値補正テーブル381bは、WDMの波長チャンネル格納領域と、光電力の波長補正係数格納領域と、フォトカレントの波長補正係数格納領域とを有する。これら各領域には、チューナブルLD35aからの光電力の波長補正係数BCHとフォトカレントの波長補正係数CCHとが、光波長チャンネルCHに対応付けて格納されている。光波長チャンネルCHは、波長チャンネル格納領域において、ITU−T(G.694.1)に則り、400pmまたは800pmの波長間隔で、格納されている。波長基準Vdut値補正テーブル381b内の格納データは、波長チャンネルと光波長との対応関係の変更に応じて、適宜更新可能である。
【0031】
CPU38は、波長基準Vdut値補正テーブル381bを参照し、CHに対応する各波長補正係数BCHn、CCHn(nは自然数)から、Im0’=Im0×BCHn及びIp0’=Ip0×CCHnの各値を算出する。更に、CPU38は、△Ip=Im0’−(Ip0’×A)により、△Ipの値を補正する。そして、CPU38は、この△Ipが“0”となるクロスポイント制御電圧の値Vdutを算出する。クロスポイント制御電圧Vdutは、入力端子39を介して、変調器駆動回路33に印加される。
【0032】
以上説明したように、光送信機30は、波長の異なる光を生成しEA光変調器35に出力するチューナブルLD35aを更に有する。CPU38は、フォトカレント検出回路37により検出された光吸収電流と、上記光の波長とに基づき、変調器駆動回路33に印加する電圧を算出する。これにより、上述した演算による波形補償技術は、波長の異なる光を発生する素子の実装された光送信機にも、対応することができる。したがって、光送信機30は、チューナブルLD35aから発せられる光の波長(LD波長)の変動の影響を受けることなく、クロスポイントが50%付近に位置する波形の光を出力することができる。その結果、光送信機30の信頼性が向上する。
【実施例4】
【0033】
次に、実施例4について説明する。図10は、実施例4に係る光送信機40の構成を示す図である。図10に示すように、光送信機40の構成は、サーミスタ411を新たに有する点を除き、図5に示した光送信機20の構成と略同様である。したがって、実施例4では、実施例2と共通する構成要素には、末尾が同一の参照符号を用いると共に、その詳細な説明は省略する。実施例4が実施例2と異なる点は、EA変調器45及びLD45aに対する温度制御が行われない場合、光送信機40は、周辺温度の変動を加味して、クロスポイント制御電圧Vdutの制御を行う点である。実施例2では、周辺温度が安定していること、すなわち、ペルチェ素子等により温度が一定となる様に制御されることを前提として説明した。しかしながら、近年、省電力化の要請により、消費電力を低減するため、上述の温度制御が行われないことがある。また、光の波長は、絶対温度が上昇するに連れて短くなる特性を有する。そこで、実施例4では、温度変化に伴い、予期せず、LD45aの発する光の波長が変動してしまう場合を想定する。
【0034】
上記場合にも、実施例3と同様の現象が生じる。すなわち、LD45aとPD410との間の結合ロスが増減するため、LD45aの光電力(バックパワー)にも変動が発生する。また、上記光波長変動に伴い、光波長の違いに起因して、EA変調器45の消光(光吸収)特性が変動する。この消光特性の変動は、フォトカレントの変動を招くため、LD45aの使用が、光送信機40によるクロスポイント制御に誤差を与え、その結果、クロスポイント制御電圧Vdutを変動させてしまうことがある。以下においては、このような実施例4における光送信機40の動作を、図11を参照しながら、実施例2との相違点を中心として説明する。
【0035】
サーミスタ411は、周知慣用の温度測定回路であることから詳細な説明は省略するが、温度変化による電気抵抗の変化(所定の温度抵抗特性)を利用して、EA変調器45及びLD45a近傍の絶対温度を検出する。メモリ48bには、LD45aからの光電力(LDバックパワー)の温度補正係数Bとフォトカレントの温度補正係数Cとが、サーミスタ411による検出温度値T毎に格納されている。CPU48は、温度変化に伴う光波長の変動に応じて、演算回路48aによる算出結果を補正することにより、温度変化によらず、クロスポイントが一定範囲に収まるようなクロスポイント制御電圧Vdutを維持する。
【0036】
図11は、実施例4に係る温度基準Vdut値補正テーブル481bにおけるデータ格納例を示す図である。図11に示すように、温度基準Vdut値補正テーブル481bは、検出温度値格納領域と、光電力の温度補正係数格納領域と、フォトカレントの温度補正係数格納領域とを有する。これら各領域には、LD45aからの光電力の温度補正係数Bとフォトカレントの温度補正係数Cとが、サーミスタ411による検出温度値Tに対応付けて格納されている。検出温度値Tには、所定の階層が設定されており、例えば、検出温度値Tが“T〜T”の範囲内の値をとる場合には、CPU48により、光電力の温度補正係数として“BT2”が読み出され、フォトカレントの温度補正係数として“CT2”が読み出される。また、検出温度値Tが“Tn―1〜T”の範囲にある場合には、CPU48により、光電力の温度補正係数として“BTn”が読み出され、フォトカレントの温度補正係数として“CTn”が読み出される。なお、温度基準Vdut値補正テーブル481b内の格納データは、光送信機40の設置環境の変化、あるいは、ペルチェ素子等による温度制御の有無に応じて、適宜更新可能である。
【0037】
CPU48は、温度基準Vdut値補正テーブル481bを参照し、Tに対応する各温度補正係数BTn、CTn(nは自然数)から、Im0”=Im0×BTn及びIp0”=Ip0×CTnの各値を算出する。更に、CPU48は、△Ip=Im0”−(Ip0”×A)により、△Ipの値を補正する。そして、CPU48は、この△Ipが“0”となるクロスポイント制御電圧の値Vdutを算出する。クロスポイント制御電圧Vdutは、入力端子49を介して、変調器駆動回路43に印加される。
【0038】
以上説明したように、光送信機40は、光送信機40内の温度を検出するサーミスタ411を更に有する。CPU48は、フォトカレント検出回路47により検出された光吸収電流と、サーミスタ411により検出された上記温度とに基づき、変調器駆動回路43に印加する電圧を算出する。これにより、光送信機40は、装置内の温度変化にも対応可能となる。すなわち、光送信機40は、温度変化に伴う光波長(LD波長)の変動の影響を受けることなく、クロスポイントが50%付近に位置する波形の光を出力することができる。
【0039】
本実施例4では、光送信機40は、温度変化に起因するフォトカレントの変動を吸収するため、装置内にサーミスタ411を設けるが、サーミスタ411は、波形補償を高精度に行う観点から、光送信機40内の中でも、LD45a近傍に設置されることが好ましい。更に好適には、サーミスタ411は、EA変調器45とLD45aとの間に設置されることが好ましい。サーミスタ411の設置箇所を、EA変調器45とLD45aとの間とすることで、サーミスタ411は、光波長に対して特に影響を与える温度を精度良く感知することができる。したがって、光送信機40が、当該温度に基づく波形補償を行うことで、温度変化に伴う光波長の変動の影響を効率的に排除することができる。その結果、光送信機40による波形補償の信頼性が向上する。
【0040】
なお、上記各実施例では、フォトカレントを変動させると共に出力波形を劣化させる外部要因として、入力信号の振幅変動、LDから出力される光電力の変動、LDから出力される光の波長の変動、周辺温度の変動を想定した。しかしながら、上記要因は、これらに限らず、例えば、入力信号の波長、光信号の振幅等の変動、あるいはこれらの組合せであってもよい。
【0041】
また、上記各実施例では、クロスポイント制御電圧の値Vdutとフォトカレント値Ip1との関係につき、光送信機が、クロスポイント制御電圧値Vdutを増加させると、これに伴い、フォトカレント値Ip1も上昇するものとした(図2A、図2B参照)。しかしながら、Vdut−Ip1特性は、フォトカレント検出回路や変調器駆動回路の回路構成によって異なり、必ずしも上述の相関関係をとる必要はない。例えば、光送信機は、クロスポイント制御電圧値Vdutの上昇に伴い、フォトカレント値Ip1が減少する様な回路構成を採ることも可能である。
【0042】
また、上記説明では、個々の実施例毎に個別の構成、及び動作を説明した。しかしながら、各実施例に係る光送信機は、他の実施例に特有の構成要素を併せて有するものとしてもよい。また、実施例毎の組合せについても、2つに限らず、3つ以上の組合せ等、任意の形態を採ることが可能である。例えば、上記説明では、実施例3において、実施例2に係る光送信機20が、チューナブルLD35aを採用する態様について説明したが、実施例3は、PDの有無を問わず適用が可能であり、実施例1に係る光送信機10と組み合わせるものとしてもよい。実施例4についても同様に、実施例2に限らず、実施例1や実施例3と組み合わせることができる。更に、1つの光送信機が、実施例1〜4において説明した全ての構成要素を併有するものとしてもよい。
【符号の説明】
【0043】
10、20、30、40 光送信機
11、12、14、16、19、21、22、24、26、29、31、32、34、36、39、41、42、44、46、49 入力端子
13、23、33、43 変調器駆動回路
15、25、35、45 EA変調器
15a、25a、45a LD
17、27、37、47 フォトカレント検出回路
27a モニタ抵抗
18、28、38、48 CPU
18a、28a、38a、48a 演算回路
18b、28b、38b、48b メモリ
210、310、410 PD
35a チューナブルLD
381b 波長基準Vdut値補正テーブル
411 サーミスタ
481b 温度基準Vdut値補正テーブル
CH、BCH1〜BCHn 光電力の波長補正係数
、BT1〜BTn 光電力の温度補正係数
CH、CCH1〜CCHn フォトカレントの波長補正係数
、CT1〜CTn フォトカレントの温度補正係数
CH、CH〜CH 光波長チャンネル
Ip0 フォトカレントの基準値
Ip1 フォトカレント、フォトカレント値
L1 EAバイアス電圧供給ライン
T、T〜T 検出温度値
Vdut クロスポイント制御電圧、クロスポイント制御電圧の値
Vea EAバイアス電圧、EAバイアス電圧の値
Vs EAバイアス制御電圧、EAバイアス制御電圧の値
Rmon モニタ抵抗値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
入力された信号を光信号に変換して出力する光変調器と、
前記光変調器における光吸収電流を検出する電流検出回路と、
前記光変調器を駆動する駆動回路と、
前記電流検出回路により検出された前記光吸収電流に基づき、前記駆動回路に印加する電圧を算出するプロセッサと
を有することを特徴とする光送信機。
【請求項2】
前記光変調器に入力される光の光電力を検出する光電力検出回路を更に有し、
前記プロセッサは、前記光吸収電流と、前記光電力とに基づき、前記駆動回路に印加する電圧を算出することを特徴とする請求項1に記載の光送信機。
【請求項3】
波長の異なる光を生成し前記光変調器に出力するレーザダイオードを更に有し、
前記プロセッサは、前記光吸収電流と、前記光の波長とに基づき、前記駆動回路に印加する電圧を算出することを特徴とする請求項1に記載の光送信機。
【請求項4】
光送信機内の温度を検出するサーミスタを更に有し、
前記プロセッサは、前記光吸収電流と、検出された前記温度とに基づき、前記駆動回路に印加する電圧を算出することを特徴とする請求項1に記載の光送信機。
【請求項5】
光変調器が、入力された信号を光信号に変換して出力し、
電流検出回路が、前記光変調器における光吸収電流を検出し、
駆動回路が、前記光変調器を駆動し、
プロセッサが、前記電流検出回路により検出された前記光吸収電流に基づき、前記駆動回路に印加する電圧を算出する
ことを特徴とする波形補償方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2013−76776(P2013−76776A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−215553(P2011−215553)
【出願日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【出願人】(309015134)富士通オプティカルコンポーネンツ株式会社 (72)
【Fターム(参考)】