説明

光透過フィルタ及びそれを備えた照明器具

【課題】光透過フィルタ及びそれを備えた照明器具において、耐熱性及び耐候性に優れ、成形が容易なものとし、しかも、衝撃を受けたとしてもガラス片の飛散がないようにする。
【解決手段】光透過フィルタ1は、ガラス基体11上にポリテトラフルオロエチレン系樹脂を主成分とする樹脂皮膜12を形成して成る。樹脂皮膜12には、体積平均粒子径が1nm以上500nm以下である金属酸化物から成る着色材料が含まれる。樹脂皮膜12が耐熱性及び耐紫外線の高い樹脂と着色材料より構成され、ガラス基体11上に成膜された構造となっているので、ガラス基体11に着色材料を含有させずに皮膜12のみで透過光の配色を行える。従い、高温下で使用でき、かつ耐候性に優れたものとなり、しかも所望の形状に簡単に成形できる。また、ガラス基体11に樹脂皮膜12を継ぎ目なく形成できるので、衝撃を受けたとしてもガラス片が飛散することがない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラスを基体とする光透過フィルタ及びそれを備えた照明器具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、光源から出射される光のうち、特定の波長成分の光の透過を制限することにより、所望の色の光を出射できるようにしたカラーフィルタが知られている。このようなカラーフィルタには、大きく分けて、樹脂材料を主成分とする樹脂系フィルタと、ガラス材料を主成分とするガラス系フィルタの2つがある。樹脂系フィルタは、アクリルやポリカーボネート等の樹脂に、有機系の顔料又は染料を添加して作成されるものであり、配色のバリエーションに豊み、成形性に優れ、軽く、割れ難いという特長を有している。ガラス系フィルタは、ガラス材に着色材料として金属粒子を溶かし込んで精製したものであり、耐熱性及び耐候性に優れている。このガラス系フィルタにおいて、例えば、黄色に着色する場合、着色材料にはCd又はPb等の金属が用いられる。
【0003】
しかしながら、樹脂系フィルタを照明器具に用いる場合、耐熱性及び耐候性が低いために、ランプの発光熱によりフィルタの劣化が生じることがあり、また、屋外での使用も困難となる。一方、ガラス系フィルタを用いる場合、発色度合いの管理が難しいため、器具のコストアップに繋がる虞がある。また、ガラス系フィルタにおいては、着色材料がガラス組成体の不純物となることから、複雑な形状に成形することが難しく、例えば、無電極放電ランプの外管バルブ等に用いることは困難となる。仮に、成形できたとしても、他の構成部品(例えば、カプラやステム等)との熱膨張率の違い等により、割れが生じることがある。
【0004】
ところで、上記のようなガラス系フィルタを用いて器具外管を構成する場合、仮に衝撃より破損したとしても、ガラス片が飛散をしないようにすることが求められる。ガラス片の飛散を防止する方法として、ガラス部分の一面にアクリル系の有機物フィルムを貼付する技術があるが(例えば、特許文献1参照)、この技術では、ランプ発光に伴う温度上昇や紫外線等によりフィルムが劣化して、十分な飛散防止効果が得られなくなる。また、器具外管を構成したガラス面は複雑な球面形状であるため、フィルムを継ぎ目なく貼付するのは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−217550号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、上記した樹脂系及びガラス系のカラーフィルタの長所を併せ持つような、耐熱性及び耐候性に優れ、成形が容易なものとすることができ、しかも、衝撃を受けたとしてもガラス片の飛散を防止することができる光透過フィルタ及びそれを備えた照明器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために請求項1の発明は、ガラス基体上にポリテトラフルオロエチレン系樹脂を主成分とする樹脂皮膜を形成した光透過フィルタであって、前記樹脂皮膜には、体積平均粒子径が1nm以上500nm以下である金属酸化物から成る着色材料が含まれるものである。
【0008】
請求項2の発明は、請求項1に記載の発明において、前記着色材料の粒子表面が、シラン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤のいずれかによってコーティング処理されているものである。
【0009】
請求項3の発明は、請求項1又は請求項2に記載の光透過フィルタを備えた照明器具である。
【0010】
請求項4の発明は、無電極放電ランプの外管バルブを請求項1又は請求項2に記載の光透過フィルタにより構成した照明器具である。
【発明の効果】
【0011】
請求項1の発明によれば、樹脂皮膜が熱や紫外線に対し耐性の高いポリテトラフルオロエチレン系樹脂と着色材料より構成されていて、ガラス基体上に成膜された構造となっているので、ガラス基体自体に着色材料を含有させずに、樹脂皮膜のみで透過光の配色を行えるようになる。従って、高温下で使用でき、かつ耐候性に優れたものにすることができ、しかも、所望の形状に簡単に成形できるようになる。また、ガラス基体の一面に樹脂皮膜を継ぎ目なく形成できるので、衝撃を受けたとしてもガラス片が飛散することがない。また、樹脂皮膜を所望の色合いに簡単に着色できるため、フィルムからの透過光の配色制御が行い易くなる。また、着色材料の体積平均粒子径がナノオーダーであることから、光の遮蔽性が少なく、照明器具用の光フィルタとして好適なものとなる。
【0012】
請求項2の発明によれば、樹脂皮膜内における粒子の二次凝集が抑制され、着色材料の分散安定性を向上できるので、色合いを均一なものにすることができる。
【0013】
請求項3の発明によれば、熱及び紫外線に対する耐性に優れ、衝撃作用時における安全性が確保された光透過フィルタを備えているので、屋外使用にも十分に耐え得る耐久性の高い器具が得られる。
【0014】
請求項4の発明によれば、光透過フィルタを無電極放電ランプの一部品として構成できるので、コスト削減を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の一実施形態に係る光透過フィルタを備えた照明器具の断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の一実施形態に係る光透過フィルタについて図面を参照して説明する。図1に示すように、光透過フィルタ1は、照明器具2の光源部である無電極放電式の蛍光ランプ3(無電極放電ランプ)に備えられ、ランプ3の外管バルブを構成している。蛍光ランプ3は、高周波電磁界を発生させるカプラ31を有し、カプラ31の電磁誘導により外管バルブ(光透過フィルタ1)の内部に封止された放電ガスを励起させ、発光を行うものである。なお、照明器具2は、蛍光ランプ3を覆う反射板4と、蛍光ランプ3の口金部を保持するソケット5を備える。
【0017】
光透過フィルタ1は、ガラス基体11の外面にポリテトラフルオロエチレン系樹脂を主成分とする樹脂皮膜12を形成して成り、カプラ31を覆うような略球体形状とされている。樹脂皮膜12は、着色材料として、体積平均粒子径が1nm以上500nm以下である金属酸化物を含有している。着色材料に用いる金属酸化物としては、例えば、酸化ビスマスバナジウム(BiVO)や酸化ビスマス(Bi)等が挙げられ、これらは黄色の酸化物である。着色材料の金属粒子表面は、シラン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤のいずれかによってコーティング処理されている。これにより、樹脂皮膜12内における粒子の二次凝集が抑制され、着色材料の分散安定性が向上するので、樹脂皮膜12の色合いが均一なものとなる。
【0018】
次に、上述した実施形態を具現化した4つの実施例と、比較のための2つの比較例について説明する。
【0019】
(実施例1)
ガラス基体を外管バルブ形状に成形した後、ガラス表面をアルコール拭きにより脱脂処理した。次に、ガラス基体の外面にプライマ(デュポン製:品番485N−500)をスプレー塗布し、所定時間焼付け乾燥して、膜厚3〜5μmのプライマ層を形成した。次に、テトラフルオロエチレン/パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)から成るフッ素樹脂粉末(デュポン製、品番MP−103)に、着色材料として、BiVOの粉末(体積平均粒子径:200nm)を添加したものをガラス基体に静電塗装し、330〜380℃で15〜20分間焼成して、膜厚40μmの樹脂皮膜を形成した。ここでは、フッ素樹脂粉末100(g)につきBiVO金属粉末1(g)の割合で配合した。焼成後、280℃まで温度を下げ30分間アニール処理して、光透過フィルタを得た。
【0020】
(実施例2)
樹脂皮膜の形成において、フッ素樹脂粉末100(g)につきBiVO粉末5(g)の割合で配合したものを使用した。樹脂皮膜の膜厚は40μmである(以下、同様)。それ以外は、実施例1と同様にして光透過フィルタを得た。
【0021】
(実施例3)
樹脂皮膜の形成において、着色材料として、Biの粉末(体積平均粒子径:80nm)を用い、フッ素樹脂粉末100(g)につきBi粉末0.7(g)の割合で配合したものを使用した。それ以外は、実施例1と同様にして光透過フィルタを得た。
【0022】
(実施例4)
樹脂皮膜の形成において、フッ素樹脂粉末100(g)につきBi粉末3.5(g)の割合で配合したものを使用した。それ以外は、実施例1と同様にして光透過フィルタを得た。
【0023】
(比較例1)
実施例1と同様にして、外管バルブ形状に形成したガラス基体を脱脂処理した後、ガラス基体界面にアクリルフィルム(三菱レイヨン製)を貼付した。アクリルフィルムは、膜厚が120μmのものを使用した。
【0024】
(比較例2)
実施例1と同様にして、プライマ層を形成したガラス基体を得た後、ガラス基体に、上記のフッ素樹脂粉末のみを静電塗装し、膜厚40μmの樹脂皮膜を形成した。
【0025】
以上のように作製したサンプルについて、耐熱性、及びガラス飛散防止性の評価試験を実施した。また、サンプルを組み込んだ蛍光ランプの光特性を求めるため、サンプルの透過光について演色性及び誘虫性の評価試験を実施した。耐熱性の評価試験では、120℃に保持した熱風高温槽内にサンプルを放置して、サンプル外観の変化を観察した。ガラス飛散防止性の評価試験では、サンプルを蛍光ランプに組み込み、このランプを1mの高さから落下させたときのガラス片飛散の有無を観察した。演色性の評価試験では、サンプルを組み込んだ蛍光ランプを点灯させ、このときの発光スペクトルを瞬間マルチ測光装置(大塚電子製)にて測定した。誘虫性の評価試験では、蛍光ランプを点灯させたときの発光スペクトル等から誘虫指数を求めた。誘虫指数Iは下記(式1)のように表せる。
【0026】
【数1】

ここで、P(λ)はランプの分光分布、R(λ)は昆虫の走行性の波長特性、V(λ)は標準分光視感効率、α(λ)はサンプルの分光効率である。
【0027】
上記の各種評価試験の結果を表1に示す。
【0028】
【表1】

表1において、耐熱性の試験結果の「○」はサンプル外観に色合いや形状変化がないことを示し、同結果の「×」はサンプル外観にこのような変化があることを示している。また、ガラス飛散防止性の試験結果の「○」はガラス片の飛散がないことを示し、同結果の「×」はガラス片の飛散があることを示している。表から分かるように、実施例1乃至4は、比較例1と比べて、耐熱性及びガラス飛散防止性に優れている結果が得られた。
【0029】
また、実施例1乃至4は、樹脂皮膜が黄色の着色材料を含み、その結果、水銀輝線を多く含む波長域450nm以下の光を遮断することから、比較例1及び2と比べて、演色性に優れている結果が得られた。また、比較例1及び2と比べて、誘虫指数が小さく、虫が近寄り難いという結果が得られた。
【0030】
このように本実施形態に係る光透過フィルム1によれば、樹脂皮膜12が熱や紫外線に対し耐性の高いポリテトラフルオロエチレン系樹脂と着色材料より構成されていて、ガラス基体11上に成膜された構造となっているので、ガラス基体11自体に着色材料を含有させずに、樹脂皮膜12のみで透過光の配色を行えるようになる。従って、高温下で使用でき、かつ耐候性に優れたものにすることができ、しかも、所望の形状に簡単に成形できるようになる。また、ガラス基体11の一面に樹脂皮膜12を継ぎ目なく形成できるので、衝撃を受けたとしてもガラス片が飛散することがない。また、樹脂皮膜12を所望の色合いに簡単に着色できるため、フィルム1からの透過光の配色制御が行い易くなる。また、着色材料の体積平均粒子径がナノオーダーであることから、光の遮蔽性が少なく、照明器具用の光フィルタとして好適なものとなる。また、このような光透過フィルタ1を照明器具2に用いることで、屋外使用にも十分に耐え得る器具が得られる。また、光透過フィルタ1を蛍光ランプの一部品として構成したので、器具のコスト削減を図ることができる。
【0031】
なお、本発明は、上記実施形態の構成に限られず、発明の趣旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、光透過フィルタ1が、蛍光ランプ3の外管バルブを構成するものでなく、照明カバーとして器具本体に設けられるものであってよい。この場合、光透過フィルタ1は、例えば、反射板4の開口を塞ぐような板状のものであっても構わない。
【符号の説明】
【0032】
1 光透過フィルタ
2 照明器具
3 蛍光ランプ(無電極放電ランプ)
11 ガラス基体
12 樹脂皮膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ガラス基体上にポリテトラフルオロエチレン系樹脂を主成分とする樹脂皮膜を形成した光透過フィルタであって、
前記樹脂皮膜には、体積平均粒子径が1nm以上500nm以下である金属酸化物から成る着色材料が含まれることを特徴とする光透過フィルタ。
【請求項2】
前記着色材料の粒子表面が、シラン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤のいずれかによってコーティング処理されていることを特徴とする請求項1に記載の光透過フィルタ。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の光透過フィルタを備えた照明器具。
【請求項4】
無電極放電ランプの外管バルブを請求項1又は請求項2に記載の光透過フィルタにより構成した照明器具。

【図1】
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【公開番号】特開2011−175754(P2011−175754A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−37190(P2010−37190)
【出願日】平成22年2月23日(2010.2.23)
【出願人】(000005832)パナソニック電工株式会社 (17,916)
【Fターム(参考)】