説明

光透過性フィルム

【課題】連続生産された場合でも、反射防止性に優れた光透過性フィルムの提供。
【解決手段】基材フィルム42の表面に、微細凹凸構造を有する硬化樹脂層44が形成された光透過性フィルム40であって、前記微細凹凸構造は、モールドの表面の微細凹凸構造をナノインプリント法により転写して形成されたものであり、フィルムの長手方向において、前記微細凹凸構造の高さが均一である、光透過性フィルム40。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性フィルムに関する。
本願は、2010年12月28日に、日本に出願された特願2010−293187号、および2011年8月3日に、日本に出願された特願2011−170065号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、可視光の波長以下の周期の微細凹凸構造を表面に有する光透過性フィルムなどの物品は、反射防止効果、ロータス効果等を発現することが知られている。特に、モスアイ構造と呼ばれる凹凸構造は、空気の屈折率から物品の材料の屈折率へと連続的に屈折率が増大していくことで有効な反射防止の手段となることが知られている。
【0003】
微細凹凸構造を表面に有する光透過性フィルムの製造方法としては、例えば、下記の工程(i)〜(iii)を有する方法(ナノインプリント)が知られている。
(i)表面に微細凹凸構造の反転構造を有するモールドと、光透過性フィルムの本体となる基材フィルムとの間に、活性エネルギー線硬化性組成物を挟持する工程。
(ii)活性エネルギー線硬化性組成物に紫外線などの活性エネルギー線を照射し、前記活性エネルギー線硬化性組成物を硬化させて微細凹凸構造を有する硬化樹脂層を形成し、光透過性フィルムを得る工程。
(iii)光透過性フィルムとモールドとを分離する工程。
【0004】
ところで、前記モールドは、通常、細孔の周期がナノメートルオーダーであり、かつ細孔のアスペクト比も比較的大きいため、モールドと活性エネルギー線硬化性組成物との接触界面が大幅に増加する。そのため、モールドを硬化樹脂層から離型しにくいという問題がある。従って、特に、上記工程(iii)は生産性の観点から重要とされる。
【0005】
モールドと硬化樹脂層との離型性を向上させる方法としては、下記の方法が提案されている。
(1)モールドの微細凹凸構造が形成された側の表面を離型剤(外部離型剤)によって処理する方法(特許文献1)。
(2)内部離型剤としてリン酸エステル系化合物を含む光硬化性樹脂組成物からなる固体状の光硬化性転写層を用いる方法(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2007−326367号公報
【特許文献2】特開2009−61628号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、(1)の方法では、モールドの微細凹凸構造を繰り返し転写した場合、モールド表面に処理した外部離型剤が剥離するため、離型性が次第に低下する。モールド表面の離型性が低下すると、光透過性フィルムの生産性が低下するという問題がある。
(2)の方法では、モールドの微細凹凸構造を繰り返し転写した場合、モールド表面に内部離型剤が堆積するため、モールド表面が次第に汚染される。その結果、所定の微細凹凸構造が転写されなくなったり、モールド表面の汚染が模様となって転写されたりし、光透過性フィルムの反射防止性などの性能が低下するという問題点がある。
【0008】
本発明は、連続生産された場合でも、反射防止性に優れた光透過性フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは鋭意検討した結果、モールド表面を適度に溶解させるリン酸を含むリン酸エステル化合物のようなモールド溶解成分などを活性エネルギー線硬化性組成物に配合させて、賦形中にモールド表面を極わずかに溶解させることで、モールド溶解成分、モールド溶解成分を含む活性エネルギー線硬化性組成物、およびその硬化物がモールド表面に堆積することが抑制され、連続生産された場合でも、反射防止性に優れた光透過性フィルムが得られることを見出した。そして、モールド表面を適度に溶解させる溶解性の指標として、リン酸を含むリン酸エステル化合物中にモールドを浸漬させたときのモールド質量の減少率や、光透過性フィルム表面におけるリン原子の原子百分率に着目し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の態様は、以下の特徴を有する。
[1]基材フィルムの表面に、微細凹凸構造を有する硬化樹脂層が形成された光透過性フィルムであって、前記微細凹凸構造は、モールドの表面の微細凹凸構造をナノインプリント法により転写して形成されたものであり、フィルムの長手方向において、前記微細凹凸構造の高さが均一である、光透過性フィルム。
[2]リン酸を含み、かつ下記条件(a)を満たすリン酸エステル化合物を含む活性エネルギー線硬化性組成物を重合および硬化してなる微細凹凸構造を表面に有する光透過性フィルムであって、X線光電子分光法により測定された、前記光透過性フィルムの表面におけるリン原子の原子百分率が0.001〜0.14%である、前記[1]に記載の光透過性フィルム。
条件(a):50℃のリン酸を含むリン酸エステル化合物中にモールドを22時間浸漬させたとき、モールド質量が、浸漬前に比べて0.001%以上3%以下減少すること。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光透過性フィルムによれば、連続生産された場合でも、反射防止性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】表面に陽極酸化アルミナを有するモールドの製造工程を示す断面図である。
【図2】微細凹凸構造を表面に有する光透過性フィルムの製造装置の一例を示す構成図である。
【図3】微細凹凸構造を表面に有する光透過性フィルムの一例を示す断面図である。
【図4】微細凹凸構造を表面に有する光透過性フィルムの他の製造方法を説明する図である。
【図5】浸漬試験前のモールド表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図6】実施例1における浸漬試験後のモールド表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図7】参考例2における浸漬試験後のモールド表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図8】比較例1における浸漬試験後のモールド表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図9】参考例2における光透過性フィルム製造前のモールド表面の走査型電子顕微鏡像である。
【図10】参考例2における光透過性フィルム製造後のモールド表面の走査型電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよびメタクリレートを意味し、「光透過性」とは、少なくとも波長400〜1170nmの光を透過することを意味し、「活性エネルギー線」とは、可視光線、紫外線、電子線、プラズマ、熱線(赤外線等)等を意味する。ここで、「透過」とは光の反射が少なく、にごりなく先のものが見える状態のことを意味する。
【0014】
[光透過性フィルム]
本発明の光透過性フィルムは、活性エネルギー線硬化性組成物を重合および硬化してなる、モールドの表面の微細凹凸構造を転写して形成された微細凹凸構造を表面に有するものである。
ここで、本発明に用いる活性エネルギー線硬化性組成物について説明する。
【0015】
<活性エネルギー線硬化性組成物>
本発明に用いる活性エネルギー線硬化性組成物(以下、単に「硬化性組成物」という。)は、重合性化合物と、重合開始剤と、リン酸を含むリン酸エステル化合物のようなモールド溶解成分とを含有する。本明細書において、硬化性組成物とは、熱および/または光により硬化するものをいう。
【0016】
(モールド溶解成分)
本明細書において、モールド溶解成分とは、モールドに対する適度な溶解力と、優れた離型性を硬化性組成物に付与できるものをいう。
硬化性組成物がモールド溶解成分を含有することによって、モールド溶解成分が内部離型剤の役割を果たし、硬化性組成物の硬化物である硬化樹脂層とモールドとの離型性を長時間にわたって維持できる。
加えて、内部離型剤はもちろんのこと、モールド溶解効果によりモールド表面が更新されるため、前記内部離型剤やその硬化物である硬化樹脂層(以下、これらを総称して「付着物」という。)がモールド表面に堆積し、モールド表面が汚染されるのを防ぐことができる。
一方で、モールド溶解成分により、モールド表面が溶解するため、モールドの微細凹凸構造が変化していく。そのため、転写された光透過性フィルム表面の微細凹凸構造も変化し、変化量が大きい場合は、その特性に影響を及ぼす場合がある。例えば、微細凹凸構造の高さが低くなり、反射率が上昇するなどの問題が起る。従ってモールドの溶解量を適正な範囲とし、可能な限り得られる光透過性フィルムの特性の変化のない方が生産性の観点から好ましい。光透過性フィルムを反射防止用フィルムとして用いる場合には、いずれの製造箇所(距離)においても波長550nmにおける反射率が0.2%以下であることが好ましく、この場合、長手方向において微細凹凸構造の高さが均一であると言える。
かかる理由について、表面に陽極酸化アルミナからなる微細凹凸構造が形成されたモールドを例にとり、説明する。
【0017】
アルミナは酸やアルカリに溶解することが知られており、その中でもリン酸は溶解力が高い(非特許文献(空気調和・衛生工学、第79巻、第9号、p70)参照)。
モールド表面が溶解すれば、付着物がモールド表面に付着したとしても、常にその表面が溶解して新しい表面が現れる(表面更新が行われる)。そのため、モールド表面への付着物の堆積が抑制され、モールド表面の汚染を防ぐことができる。
【0018】
従って、本発明においては、硬化性組成物にモールド溶解成分を含有させる。
モールド溶解成分としては、モールドを溶解できるものであれば特に限定されないが、モールドがアルミナの場合はリン酸が好ましい。リン酸そのものを硬化性組成物に添加してもよいが、リン酸を硬化性組成物に均一に溶解させることが困難であったり、リン酸の添加によって硬化性組成物に水が混入する懸念があったりする。
よって、硬化性組成物の調製の段階で、モールド溶解成分としてリン酸を含むリン酸エステル化合物を用いて他の成分(後述する重合性化合物や重合開始剤など)とを混合しておくことが好ましい。
以下、モールド溶解成分としてリン酸を含むリン酸エステル化合物を用いた場合について詳細に説明する。
【0019】
なお、リン酸を含むリン酸エステル化合物のモールドに対する溶解力が高すぎると、モールド表面を過剰に溶解し、モールド表面の微細凹凸構造が大幅に変化することとなる。
その結果、このモールドを用いて製造した光透過性フィルムの微細凹凸構造も変化するため、反射防止性などの性能が低下しやすくなる。
従って、リン酸を含むリン酸エステル化合物には、モールドを溶解しすぎない、適度な溶解力が求められる。
【0020】
ところで、リン酸を含むリン酸エステル化合物のモールドに対する溶解力は、リン酸を含むリン酸エステル化合物を含む硬化性組成物のpHと、硬化性組成物中のリン酸含有量に影響する。しかし、このpHやリン酸含有量を直接測定することは困難である。
そこで、本発明者らは鋭意検討した結果、以下に示すリン酸を含むリン酸エステル化合物であるモールド溶解成分の水抽出試験により抽出した水溶液のpH、および前記水溶液のリン酸濃度から求められる硬化性組成物中のリン酸含有量を規定することで、リン酸を含むリン酸エステル化合物が、モールド表面の微細凹凸構造を実質的に変化させることなく、モールド表面を極わずかに溶解して表面更新できる適度な溶解力を発現し、モールド表面の汚染が抑制されることを見出した。
【0021】
すなわち、本発明に用いるリン酸を含むリン酸エステル化合物を含むモールド溶解成分は、1g当たり50mLの水で抽出した水溶液の25℃におけるpHが6.5未満であり、より好ましくは前記水溶液の25℃におけるpHが2.6以上6.5未満である。さらに好ましくは3.0以上6.0以下である。
また、(質量百万分率で示される前記水溶液中のリン酸濃度)×(質量百分率で示される活性エネルギー線硬化性組成物中の前記モールド溶解成分の含有量)の値が0.1以上であり、好ましくは含有量が0.1以上39以下であり、さらに好ましくは0.3以上23以下である。
【0022】
以下、具体的な水抽出試験方法について説明する。
まず、モールド溶解成分が可溶であり、かつ水に不溶な有機溶媒に、モールド溶解成分1gあたり有機溶媒50mLの割合でモールド溶解成分を溶解させた後、これにモールド溶解成分1gあたり50mLの水を添加し、混合液とする。
なお、このときの添加する水の量が多すぎても少なすぎても、その後の分析に問題が生じる。
ついで、混合液を分液漏斗などで激しく攪拌した後、静置する。
そして、有機層と水層(水溶液)の2層に分かれた後、水溶液を回収し、水溶液についてpHおよびリン酸濃度を測定する。
有機溶媒としては、クロロホルム、ジエチルエーテル、ヘキサンなどが挙げられる。
【0023】
水溶液のpHは、pH試験機により求めることができる。
水溶液の25℃におけるpHは6.5未満であり、2.6以上6.5未満が好ましい。さらに好ましくは3.0以上6.0以下である。
水溶液のpHが2.6未満であると、酸が強すぎることを意味し、モールドの溶解速度が早くなり、早期にモールドの微細凹凸形状が変化し、モールドが使用できなくなるなど、溶解速度の制御が難しくなる傾向がある。
一方、水溶液のpHが6.5以上であると、水溶液が中性またはアルカリ性であることを意味し、特に水溶液が中性の場合は、モールドに対する溶解力が劣り、モールド表面の更新が行われにくくなり、モールド表面の汚染防止効果が得られにくい。
モールド表面を極わずかに溶解して表面更新できる適度な溶解の程度としては、モールドの質量の減少率が0.001%以上3%以下が好ましく、より好ましくは、0.01%以上1%以下である。
減少率が0.001%以上であれば、モールド表面の溶解よりモールド表面を更新する効果が期待でき、3%以下であると極端に溶解する可能性が低い。特に、0.01%以上1%以下であると制御しやすい。
ここでモールドの質量の減少率は、下記式して算出したものである。
減少率(%)={(浸漬前のモールドの質量−洗浄後のモールドの質量)/浸漬前のモールドの質量}×100
【0024】
また、上述した水溶液のpHが上記範囲内であれば、特に後述のリン酸エステルを用いる場合、その安定性を良好に維持できる。
【0025】
一方、水溶液中のリン酸濃度は、滴定法やイオンクロマトグラフィー法による測定により求めることができる。
ところで、硬化性組成物中のリン酸含有量は、前記硬化性組成物100質量%中におけるモールド溶解成分の含有量にも依存する。
従って、水溶液中のリン酸濃度と硬化性組成物中のモールド溶解成分の含有量を用いて、硬化性組成物中のリン酸含有量を規定する。
すなわち、硬化性組成物中のリン酸含有量は、質量百万分率で示される前記水溶液中のリン酸濃度と、質量百分率で示される硬化性組成物中の前記モールド溶解成分の含有量との積(リン酸濃度×モールド溶解成分の含有量)で表され、この値が0.1以上が好ましく、より好ましくは含有量が0.1以上39以下であり、さらに好ましくは0.3以上23以下である。
この値が0.1未満であると、モールドに対する溶解力が劣り、モールド表面の更新が行われにくくなり、モールド表面の汚染防止効果が得られにくい。
一方、上限は特に限定されないが、この値が23を超えると、モールドの溶解速度が早くなり、早期にモールドの微細凹凸形状が変化し、モールドが使用できなくなる可能性があるため、溶解速度の制御が難しくなる。
【0026】
なお、モールド溶解成分がモールドを溶解させるかどうかは、硬化性組成物構成成分にモールドを浸漬させることで判断できる。
具体的には、モールド溶解成分にモールドを浸漬させて、浸漬前後におけるモールドの質量変化を調べる、浸漬後のモールド表面の断面観察を行う、浸漬後のモールド表面の組成分析を行う、浸漬後のモールド溶解成分の組成分析を行うなどして、モールド溶解成分がモールドを溶解したかどうか判断する。
モールド溶解成分が液体の場合には、そのままモールドを浸漬させればよい。
一方、モールド溶解成分が固体の場合には、モールド溶解成分を加熱したり減圧したりして液体とするか、モールドに影響がない溶媒にモールド溶解成分を溶解させて溶液として、これらにモールドを浸漬させればよい。
特に、溶媒にモールド溶解成分を溶解させる場合には、モールド溶解成分の濃度はできるだけ高い方が、モールドに対するモールド溶解成分の溶解力を素早く判断できる。
【0027】
このようなモールド溶解成分としては、抽出試験により得られた水溶液のpH、および水溶液のリン酸濃度から求められる硬化性組成物中のリン酸含有量が上記範囲内を満たし、硬化性組成物中で溶解するものであれば特に限定されないが、リン酸を含むリン酸エステル化合物が好ましい。
リン酸エステル化合物には、その製造過程においてリン酸が残存しており、この残存するリン酸がモールドを溶解させる成分としての機能を発揮する。
また、リン酸エステル化合物は、内部離型剤としても好適であるため、モールドに対する適度な溶解力だけでなく、優れた離型性を硬化性組成物に付与できる。
従って、硬化性組成物の硬化物である硬化樹脂層とモールドとの離型性が良好となる。
【0028】
(リン酸エステル化合物)
続いて前記リン酸エステル化合物についてさらに具体的に説明する。
リン酸を含むリン酸エステル化合物は、モールド表面を適度に溶解させ、モールド表面を更新させる役割を果たす。リン酸を含むリン酸エステル化合物のその他の役割としては特に限定されないが、リン酸を含むリン酸エステル化合物は内部離型剤としても好適であるため、モールドに対する適度な溶解力だけでなく、優れた離型性を硬化性組成物に付与できる。従って、硬化性組成物の硬化物である硬化樹脂層とモールドとの離型性が良好となる。
【0029】
モールドに対する溶解力は、リン酸エステル化合物に含まれるリン酸量などに影響されるため、実際にリン酸を含むリン酸エステル化合物にモールドを浸漬させ、質量の変化を調べて判断する方法が適している。
本発明では、リン酸を含むリン酸エステル化合物として下記条件(a)を満たすリン酸を含むリン酸エステル化合物を用いることが好ましい。
条件(a):50℃のリン酸を含むリン酸エステル化合物中にモールドを22時間浸漬させたとき、モールド質量が、浸漬前に比べて0.001%以上3%以下減少すること。
【0030】
条件(a)を満たすかどうかは、以下のようにして判断できる。
すなわち、50℃のリン酸を含むリン酸エステル化合物中にモールドを22時間浸漬させて浸漬試験を行った後、モールドを取り出して洗浄し、浸漬試験前と洗浄後のモールドの質量を測定し、下記式より減少率を求める。減少率が0.001%以上3%以下であれば、条件(a)を満たすものと判断する。
減少率(%)={(浸漬前のモールドの質量−洗浄後のモールドの質量)/浸漬前のモールドの質量}×100
【0031】
減少率が0.001%以上であれば、リン酸を含むリン酸エステル化合物が適度な溶解力を有するため、モールド表面の更新が行われるので、モールド表面への付着物の堆積が抑制され、モールド表面の汚染を防ぐことができるとともに、離型性を良好に維持できる。従って、光透過性フィルムを連続生産する場合でも所定の微細凹凸構造のみが転写されるので、反射防止性に優れた光透過性フィルムが得られる。減少率は0.01%以上がより好ましい。
一方、減少率の上限値については、モールド表面を過剰に溶解するのを抑制する観点から、3%以下が好ましく、1%以下がより好ましい。
すなわち、減少率は0.001%以上3%以下が好ましく、0.01%以上1%以下がより好ましい。
【0032】
なお、リン酸を含むリン酸エステル化合物が液体の場合には、そのままモールドを浸漬させればよい。一方、リン酸を含むリン酸エステル化合物が固体の場合には、リン酸を含むリン酸エステル化合物を加熱したり減圧したりして液体とするか、モールドに影響がない溶媒にリン酸を含むリン酸エステル化合物を溶解させて溶液として、これらにモールドを浸漬させればよい。特に、溶媒にリン酸を含むリン酸エステル化合物を溶解させる場合には、リン酸を含むリン酸エステル化合物の濃度はできるだけ高い方が、モールドに対するリン酸を含むリン酸エステル化合物の溶解力を素早く判断できる。
【0033】
ところで、光透過性フィルムは、上述したようなナノインプリントにより製造される場合が多いが、リン酸を含むリン酸エステル化合物は硬化性組成物が硬化する段階において、モールドと接触する側の表面に染み出る(ブリードアウトする)ことがある。ブリードアウトしすぎると(すなわち、ブリードアウト量が多いと)、モールドと接触するリン酸エステル化合物に含まれるリン酸も多くなるため、光透過性フィルムを連続生産していくうちに、モールド表面が過剰に溶解され、モールド表面の微細凹凸構造が大幅に変化することとなる。
その結果、このモールドを用いて製造した光透過性フィルムの微細凹凸構造も変化するため、反射防止性などの性能が低下しやすくなる。一方、ブリードアウト量が少なすぎると、内部離型剤としての効果が十分に発揮されず、良好な離型性が得られにくいが、モールドの溶解量が多いリン酸を含むリン酸エステル化合物であっても、溶解が抑えられるため、使用(制御)しやすくなる。
すなわちリン酸を含むリン酸エステル化合物には、適度な溶解力と適度なブリードアウト量のバランスをとることも求められる。
【0034】
本発明においては、得られた光透過性フィルムの微細凹凸構造が形成された側の表面におけるリン原子の量をブリードアウト量の指標とした。
リン原子の量の計測には、X線光電子分光法(XPS)、蛍光X線測定、電子顕微鏡−X線分析などの方法を用いることができるが、表面感度の観点から本発明ではXPSを用いた。本発明においては、前記XPSにより測定された光透過性フィルムの表面におけるリン原子の原子百分率は、0.001〜0.14%である。光透過性フィルム表面のリン原子の原子百分率が0.001%未満であると、硬化性組成物が硬化する段階においてリン酸を含むリン酸エステル化合物が十分にブリードアウトしていない。一方、光透過性フィルム表面のリン原子の原子百分率が0.14%を超えると、硬化性組成物が硬化する段階においてリン酸を含むリン酸エステル化合物が過度にブリードアウトしているためモールド溶解力の高いリン酸を含むリン酸エステル化合物は使用しにくい。
【0035】
従って、光透過性フィルム表面のリン原子の原子百分率が上記範囲内であれば、硬化性組成物が硬化する段階においてリン酸を含むリン酸エステル化合物が適度にブリードアウトし、リン酸を含むリン酸エステル化合物が内部離型剤としての機能を十分に発揮するため、モールド溶解力の高いリン酸を含むリン酸エステル化合物であっても、モールド表面を過剰に溶解してモールド表面の微細凹凸構造が大幅に変化するのを抑制できる。よって、光透過性フィルムを連続生産する場合でも、離型性を長時間維持しつつ、モールド表面を適度に溶解することで汚染を防ぐことができるので、反射防止性に優れた光透過性フィルムが得られる。光透過性フィルム表面のリン原子の原子百分率は、0.003〜0.1%が好ましい。ここで光透過性フィルム表面とは、視認側の面のことをいう。
【0036】
ここで、リン原子の原子百分率とは、光透過性フィルム表面に存在する全原子の原子数に対するリン原子の原子数の割合のことであり、例えば以下のようにして測定できる。
すなわち、光透過性フィルムの表面をXPSにより測定し、得られたXPSスペクトルについて、検出された全原子のピーク面積強度と、リン原子のピーク面積強度を算出する。ついで、各ピーク面積強度について装置固有の相対感度因子による補正を行った上で、下記式よりリン原子の原子百分率を求める。
リン原子の原子百分率(%)=(リン原子のピーク面積強度/全原子のピーク面積強度)×100
【0037】
光透過性フィルム表面のリン原子の原子百分率は、硬化性組成物中のリン酸を含むリン酸エステル化合物の種類や含有量、後述する重合性化合物の種類などによって調整できる。例えばリン酸を含むリン酸エステル化合物の含有量を減らすと、リン原子の原子百分率は小さくなる傾向にある。
また、リン酸を含むリン酸エステル化合物に、前記リン酸を含むリン酸エステル化合物に対して相溶性の悪い重合性化合物を組み合わせると、リン酸を含むリン酸エステル化合物が表面にブリードアウトしやすくなるためリン原子の原子百分率は大きくなる傾向にある。
また、ブリードアウト量は、重合性化合物とモールド溶解成分の相溶性によって変わる。相溶性が悪いほどブリードアウト量が多くなるため、モールドの溶解速度が早くなる傾向がある。特に、リン酸を含むリン酸エステル化合物は重合性化合物との相溶性によってブリードアウト量が顕著に変わる。
従って、リン酸を含むリン酸エステル化合物と重合性化合物との組み合わせを調節することで、モールドの溶解速度を制御することもできる。
リン酸を含むリン酸エステル化合物の相溶性を確認する方法として、硬化性組成物にリン酸エステル化合物を添加し、攪拌した際の透明性で判断する方法が考えられる。相溶性が高いほど透明性が高い。透明性の評価としては、光散乱や分光光度計を用いて透過率を測定する方法が考えられる。また、実際のリン酸を含むリン酸エステル化合物の添加量が少ない場合には、試験的にそれ以上に添加して相溶性を判断しても構わない。透明性を透過率で判断する場合、硬化性組成物にリン酸を含むリン酸エステル化合物を3質量部添加した際の透過率が50%以上であると、相溶性が良いためブリードアウト量を抑制することができ、モールド溶解力の高いリン酸を含むリン酸エステル化合物であっても使用することができる。さらに60%以上であると、より好適である。なお、リン酸を含むリン酸エステル化合物をモールド溶解成分として使用する場合、モールド溶解成分としての効果は極微量で発揮されるため、透過率が100%付近で相溶性がよく、ブリードアウト量が少なくとも離型性に問題は生じない。
【0038】
このようなモールド溶解成分として使用できるリン酸エステル化合物としては、硬化性組成物中で溶解するものであれば特に限定されないが、離型性の持続に優れる点で、下記式(1)で表わされるポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル化合物(以下、「化合物(1)」という。)が好ましい。
【0039】
【化1】

【0040】
式(1)中、Rはアルキル基である。Rはとしては、炭素数3〜18のアルキル基が好ましく、炭素数10〜16のアルキル基がより好ましい。
また、式(1)中、mはエチレンオキサイドの平均付加モル数を示し、1〜20の整数であり、1〜10の整数が好ましい。一方、nは1〜3の整数である。
【0041】
化合物(1)は、モノエステル体(n=1の場合)、ジエステル体(n=2の場合)、トリエステル体(n=3の場合)の何れであってもよい。また、ジエステル体またはトリエステル体である場合、1分子中の複数のポリオキシエチレンアルキル残基は、それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0042】
モールド溶解成分として化合物(1)を用いれば、硬化性組成物の硬化物である硬化樹脂層とモールドとの離型性がより向上し、微細凹凸構造の成形に好適である。また、モールドから離型する際の負荷が極めて低くなるので、欠陥の少ない微細凹凸構造が転写された光透過性フィルムを生産性よく得られる。さらに、化合物(1)を用いることで、離型性能をより長時間に渡って維持することができる。
【0043】
化合物(1)のうち、条件(a)および上述したリン酸濃度とpHの条件を満たし、モールド溶解成分に用いることが可能な化合物、すなわち、適度な溶解力およびブリードアウト量を有するリン酸を含むリン酸エステル化合物は、市販品として入手できる。
例えば、日光ケミカルズ株式会社製の「TDP−10」、「TDP−8」、「TDP−6」、「TDP−2」、「DDP−10」、「DDP−8」、「DDP−6」、「DDP−4」、「DDP−2」;アクセル社製の「INT−1856」、「INT−AM121」;城北化学工業株式会社製の「JP506−H」などが挙げられる。
化合物(1)は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。2種以上を併用する場合、条件(c)のモールド溶解成分の含有量はそれぞれを足し合わせた値で、条件(a)のモールド質量減少率と、条件(b)のpHはそれぞれ単独の値で、本発明の規定の範囲に入るかどうか判断するものとする。
【0044】
モールド溶解成分の含有量は、後述する重合性化合物100質量部に対して0.01〜3質量部が好ましく、0.03〜1質量部がより好ましく、0.1〜0.5質量部がさらに好ましい。
モールド溶解成分の含有量が0.01質量部以上であれば、モールド表面の汚染を効果的に抑制できる。
加えて、モールドからの離型性低下によるモールドへの樹脂残り(離型不良)を防止できると共に、硬化樹脂層の撥水化(耐候不良)を抑制できる。
一方、モールド溶解成分の含有量が3質量部以下であれば、硬化樹脂層本来の性能の維持しつつ、基材フィルムとの密着性低下によるモールドへの樹脂残り(離型不良)を防止できる。
加えて、光透過性フィルムの使用時における基材フィルムと硬化樹脂層との剥離を防止できると共に、斑や外観不良の発生を抑制できる。
【0045】
リン酸を含むリン酸エステル化合物の含有量は、光透過性フィルム表面のリン原子の原子百分率が上記範囲内となる量であれば特に制限されないが、後述する重合性化合物100質量部に対して0.01〜3質量部程度であり、好ましくは0.03〜1質量部、より好ましくは0.1〜0.5質量部である。
なお、リン酸を含むリン酸エステル化合物を硬化性組成物に含有させることによってフィルムの特性に悪影響を及ぼす場合には、リン酸を含むリン酸エステル化合物の含有量を極力減らすことが好ましく、モールド溶解力が高く、かつ表面に適度にブリードアウトしやすいリン酸を含むリン酸エステル化合物を選択して用いることで、少量の含有量で十分な離形成性を確保することができる。
【0046】
(他の内部離型剤)
硬化性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲内で、必要に応じて上述したリン酸を含むリン酸エステル化合物であるモールド溶解成分以外の内部離型剤(他の内部離型剤)を含んでいてもよい。
他の内部離型剤としては、活性エネルギー線硬化性組成物に配合される公知の内部離型剤であれば特に限定されないが、上述した化合物(1)のうち、リン酸濃度とpHの条件を満たさないリン酸を含むリン酸エステル化合物が挙げられる。またシリコーン系化合物やフッ素系化合物などが挙げられる。
【0047】
(重合性化合物)
重合性化合物としては、分子中にラジカル重合性結合および/またはカチオン重合性結合を有するモノマー、オリゴマー、反応性ポリマー、後述する疎水性材料、親水性材料等が挙げられる。
【0048】
ラジカル重合性結合を有するモノマーとしては、単官能モノマー、多官能モノマーが挙げられる。
単官能モノマーとしては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、s−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、アルキル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、アリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレート誘導体;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリロニトリル;スチレン、α−メチルスチレン等のスチレン誘導体;(メタ)アクリルアミド、N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N−ジエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド誘導体等が挙げられる。 これらは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0049】
多官能モノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性ジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(メタ)アクリロキシエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパン、1,2−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、1,4−ビス(3−(メタ)アクリロキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)ブタン、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼン、メチレンビスアクリルアミド等の二官能性モノマー;ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンプロピレンオキシド変性トリアクリレート、トリメチロールプロパンエチレンオキシド変性トリアクリレート、イソシアヌール酸エチレンオキサイド変性トリ(メタ)アクリレート等の三官能モノマー;コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸の縮合反応混合物、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート等の四官能以上のモノマー;二官能以上のウレタンアクリレート、二官能以上のポリエステルアクリレート等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0050】
カチオン重合性結合を有するモノマーとしては、エポキシ基、オキセタニル基、オキサゾリル基、ビニルオキシ基等を有するモノマーが挙げられ、エポキシ基を有するモノマーが特に好ましい。
【0051】
オリゴマーまたは反応性ポリマーとしては、不飽和ジカルボン酸と多価アルコールとの縮合物等の不飽和ポリエステル類;ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリオール(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、カチオン重合型エポキシ化合物、側鎖にラジカル重合性結合を有する上述のモノマーの単独または共重合ポリマー等が挙げられる。
【0052】
(重合開始剤)
光硬化反応を利用する場合、光重合開始剤としては、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンジル、ベンゾフェノン、p−メトキシベンゾフェノン、2,2−ジエトキシアセトフェノン、α,α−ジメトキシ−α−フェニルアセトフェノン、メチルフェニルグリオキシレート、エチルフェニルグリオキシレート、4,4’−ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン等のカルボニル化合物;テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド等の硫黄化合物;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、ベンゾイルジエトキシフォスフィンオキサイド等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0053】
電子線硬化反応を利用する場合、重合開始剤としては、例えば、ベンゾフェノン、4,4−ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、2,4,6−トリメチルベンゾフェノン、メチルオルソベンゾイルベンゾエート、4−フェニルベンゾフェノン、t−ブチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2,4−ジエチルチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、2,4−ジクロロチオキサントン等のチオキサントン;ジエトキシアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、ベンジルジメチルケタール、1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン、2−メチル−2−モルホリノ(4−チオメチルフェニル)プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン等のアセトフェノン;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾインエーテル;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド等のアシルホスフィンオキサイド;メチルベンゾイルホルメート、1,7−ビスアクリジニルヘプタン、9−フェニルアクリジン等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0054】
重合開始剤の含有量は、重合性化合物100質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましい。重合開始剤の含有量が0.1質量部未満であると、重合が進行しにくい。一方、重合開始剤の含有量が10質量部を超えると、硬化樹脂層が着色したり、機械強度が低下したりすることがある。
【0055】
(その他の成分)
本発明に用いる硬化性組成物は、必要に応じて、非反応性のポリマー、活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物、紫外線吸収剤および/または光安定剤、滑剤、可塑剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、重合禁止剤、充填剤、シランカップリング剤、着色剤、強化剤、無機フィラー、防汚性を向上させるためのフッ素化合物等の添加剤、微粒子、耐衝撃性改質剤等の公知の添加剤、少量の溶媒を含んでいてもよい。
【0056】
非反応性のポリマー:
非反応性のポリマーとしては、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリウレタン、セルロース系樹脂、ポリビニルブチラール、ポリエステル、熱可塑性エラストマー等が挙げられる。
【0057】
活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物:
活性エネルギー線ゾルゲル反応性組成物としては、アルコキシシラン化合物、アルキルシリケート化合物等が挙げられる。
アルコキシシラン化合物としては、下記式(2)で表される化合物(以下、「化合物(2)」という。)が挙げられる。
Si(OR ・・・(2)
ただし、式(2)中、RおよびRはそれぞれ炭素数1〜10のアルキル基を表し、xおよびyはx+y=4の関係を満たす整数である。
【0058】
化合物(2)としては、具体的に、テトラメトキシシラン、テトラ−i−プロポキシシラン、テトラ−n−プロポキシシラン、テトラ−n−ブトキシシラン、テトラ−sec−ブトキシシラン、テトラ−t−ブトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリプロポキシシラン、メチルトリブトキシシラン、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、トリメチルエトキシシラン、トリメチルメトキシシラン、トリメチルプロポキシシラン、トリメチルブトキシシラン等が挙げられる。
【0059】
アルキルシリケート化合物としては、下記式(3)で表される化合物(以下、「化合物(3)」という。)が挙げられる。
O[Si(OR)(OR)O] ・・・(3)
ただし、式(3)中、R〜Rはそれぞれ炭素数1〜5のアルキル基を表し、zは3〜20の整数を表す。
【0060】
化合物(3)としては、具体的に、メチルシリケート、エチルシリケート、イソプロピルシリケート、n−プロピルシリケート、n−ブチルシリケート、n−ペンチルシリケート、アセチルシリケート等が挙げられる。
【0061】
紫外線吸収剤および/または光安定剤:
紫外線吸収剤および/または光安定剤は、黄帯色の抑制やヘイズの上昇抑制等の耐候性を付与する役割を果たす。
紫外線吸収剤および/または光安定剤としては、例えばベンゾフェノン系の紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系の紫外線吸収剤、ベンゾエート系の紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系の光安定剤等が挙げられる。
市販品としては、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製の「チヌビン400」、「チヌビン479」、「チヌビン109」;共同薬品株式会社製の「Viosorb110」等の紫外線吸収剤、チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製の「チヌビン152」、「チヌビン292」等の光安定剤が挙げられる。
紫外線吸収剤および/または光安定剤は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0062】
紫外線吸収剤および/または光安定剤の含有量は、重合性化合物100質量部に対して0.01〜5質量部が好ましく、0.01〜3質量部がより好ましく、0.01〜1質量部がさらに好ましく、0.01〜0.5質量部が特に好ましい。
これらの含有量が0.01質量部以上であれば、黄帯色の抑制やヘイズの上昇抑制などの耐候性の向上効果が得られやすくなる。
一方、これらの含有量が5質量部以下であれば、硬化性組成物が十分に硬化するので、硬化樹脂層の耐擦傷性の低下を抑制しやすい。
また、耐候性試験での指紋拭き取り性の低下も抑制できる。
【0063】
(疎水性材料)
硬化樹脂層の微細凹凸構造の表面の水接触角を90°以上にするためには、疎水性の材料を形成し得る硬化性組成物に含まれる重合性化合物として、フッ素含有化合物またはシリコーン系化合物を含む組成物を用いることが好ましい。
【0064】
フッ素含有化合物:
フッ素含有化合物としては、下記式(4)で表されるフルオロアルキル基を有する化合物が好ましい。
−(CF−X ・・・(4)
ただし、式(4)中、Xはフッ素原子または水素原子を表し、qは1以上の整数を表し、1〜20の整数が好ましく、3〜10の整数がより好ましく、4〜8の整数が特に好ましい。
【0065】
フッ素含有化合物としては、フッ素含有モノマー、フッ素含有シランカップリング剤、フッ素含有界面活性剤、フッ素含有ポリマー等が挙げられる。
【0066】
フッ素含有モノマーとしては、フルオロアルキル基置換ビニルモノマー、フルオロアルキル基置換開環重合性モノマー等が挙げられる。
フルオロアルキル基置換ビニルモノマーとしては、フルオロアルキル基置換(メタ)アクリレート、フルオロアルキル基置換(メタ)アクリルアミド、フルオロアルキル基置換ビニルエーテル、フルオロアルキル基置換スチレン等が挙げられる。
フルオロアルキル基置換開環重合性モノマーとしては、フルオロアルキル基置換エポキシ化合物、フルオロアルキル基置換オキセタン化合物、フルオロアルキル基置換オキサゾリン化合物等が挙げられる。
【0067】
フッ素含有モノマーとしては、フルオロアルキル基置換(メタ)アクリレートが好ましく、下記式(5)で表される化合物が特に好ましい。
CH=C(R)C(O)O−(CH−(CF−X ・・・(5)
ただし、式(5)中、Rは水素原子またはメチル基を表し、Xは水素原子またはフッ素原子を表し、pは1〜6の整数を表し、1〜3の整数が好ましく、1または2がより好ましく、qは1〜20の整数の整数を表し、3〜10の整数が好ましく、4〜8がより好ましい。
【0068】
フッ素含有シランカップリング剤としては、フルオロアルキル基置換シランカップリング剤が好ましく、下記式(6)で表される化合物が特に好ましい。
(R10SiY ・・・(6)
ただし、式(6)中、Rはエーテル結合またはエステル結合を1個以上含んでいてもよい炭素数1〜20のフッ素置換アルキル基を表す。Rとしては、3,3,3−トリフルオロプロピル基、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチル基、3−トリフルオロメトキシプロピル基、3−トリフルオロアセトキシプロピル基等が挙げられる。
また、R10は、炭素数1〜10のアルキル基を表す。R10としては、メチル基、エチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0069】
Yは、水酸基または加水分解性基を表す。
加水分解性基としては、アルコキシ基、ハロゲン原子、R11C(O)O(ただし、R11は、水素原子または炭素数1〜10のアルキル基を表す。)等が挙げられる。
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、i−プロピルオキシ基、ブトキシ基、i−ブトキシ基、t−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基、ヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、2−エチルヘキシルオキシ基、ノニルオキシ基、デシルオキシ基、3,7−ジメチルオクチルオキシ基、ラウリルオキシ基等が挙げられる。
ハロゲン原子としては、Cl、Br、I等が挙げられる。
11C(O)Oとしては、CHC(O)O、CC(O)O等が挙げられる。
【0070】
a、b、cは、a+b+c=4であり、かつa≧1、c≧1を満たす整数を表し、a=1、b=0、c=3が好ましい。
【0071】
フッ素含有シランカップリング剤としては、3,3,3−トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3−トリフルオロプロピルトリアセトキシシラン、ジメチル−3,3,3−トリフルオロプロピルメトキシシラン、トリデカフルオロ−1,1,2,2−テトラヒドロオクチルトリエトキシシラン等が挙げられる。
【0072】
フッ素含有界面活性剤としては、フルオロアルキル基含有アニオン系界面活性剤、フルオロアルキル基含有カチオン系界面活性剤等が挙げられる。
フルオロアルキル基含有アニオン系界面活性剤としては、炭素数2〜10のフルオロアルキルカルボン酸またはその金属塩、パーフルオロオクタンスルホニルグルタミン酸ジナトリウム、3−[オメガ−フルオロアルキル(C6〜C11)オキシ]−1−アルキル(C3〜C4)スルホン酸ナトリウム、3−[オメガ−フルオロアルカノイル(C6〜C8)−N−エチルアミノ]−1−プロパンスルホン酸ナトリウム、フルオロアルキル(C11〜C20)カルボン酸またはその金属塩、パーフルオロアルキルカルボン酸(C7〜C13)またはその金属塩、パーフルオロアルキル(C4〜C12)スルホン酸またはその金属塩、パーフルオロオクタンスルホン酸ジエタノールアミド、N−プロピル−N−(2−ヒドロキシエチル)パーフルオロオクタンスルホンアミド、パーフルオロアルキル(C6〜C10)スルホンアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩、パーフルオロアルキル(C6〜C10)−N−エチルスルホニルグリシン塩、モノパーフルオロアルキル(C6〜C16)エチルリン酸エステル等が挙げられる。
【0073】
フルオロアルキル基含有カチオン系界面活性剤としては、フルオロアルキル基含有脂肪族一級、二級または三級アミン酸、パーフルオロアルキル(C6〜C10)スルホンアミドプロピルトリメチルアンモニウム塩等の脂肪族4級アンモニウム塩、ベンザルコニウム塩、塩化ベンゼトニウム、ピリジニウム塩、イミダゾリニウム塩等が挙げられる。
【0074】
フッ素含有ポリマーとしては、フルオロアルキル基含有モノマーの重合体、フルオロアルキル基含有モノマーとポリ(オキシアルキレン)基含有モノマーとの共重合体、フルオロアルキル基含有モノマーと架橋反応性基含有モノマーとの共重合体等が挙げられる。フッ素含有ポリマーは、共重合可能な他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0075】
フッ素含有ポリマーとしては、フルオロアルキル基含有モノマーとポリ(オキシアルキレン)基含有モノマーとの共重合体が好ましい。
ポリ(オキシアルキレン)基としては、下記式(7)で表される基が好ましい。
−(OR12− ・・・(7)
ただし、式(7)中、R12は炭素数2〜4のアルキレン基を表し、rは2以上の整数を表す。R12としては、−CHCH−、−CHCHCH−、−CH(CH)CH−、−CH(CH)CH(CH)−等が挙げられる。
【0076】
ポリ(オキシアルキレン)基は、同一のオキシアルキレン単位(OR12)からなるものであってもよく、2種以上のオキシアルキレン単位(OR12)からなるものであってもよい。2種以上のオキシアルキレン単位(OR12)の配列は、ブロックであってもよく、ランダムであってもよい。
【0077】
シリコーン系化合物:
シリコーン系化合物としては、(メタ)アクリル酸変性シリコーン、シリコーン樹脂、シリコーン系シランカップリング剤等が挙げられる。
(メタ)アクリル酸変性シリコーンとしては、シリコーン(ジ)(メタ)アクリレート等が挙げられ、例えば、信越化学工業社製のラジカル重合性シリコーンオイル「x−22−164」「x−22−1602」等が好ましく用いられる。
【0078】
シリコーン系化合物の含有量は、重合性化合物100質量%中、0.1〜30質量%が好ましく、1〜20質量%がより好ましく、5〜15質量%が特に好ましい。
【0079】
(親水性材料)
硬化樹脂層の微細凹凸構造の表面の水接触角を25°以下にするためには、親水性の材料を形成し得る硬化性組成物の重合性化合物として、少なくとも親水性モノマーを含む組成物を用いることが好ましい。また、耐擦傷性や耐水性付与の観点からは、架橋可能な多官能モノマーを含むものがより好ましい。なお、親水性モノマーと架橋可能な多官能モノマーは、同一(すなわち、親水性多官能モノマー)であってもよい。さらに、硬化性組成物は、その他のモノマーを含んでいてもよい。
【0080】
親水性の材料を形成し得る硬化性組成物としては、下記の重合性化合物を含む組成物を用いることがより好ましい。
4官能以上の多官能(メタ)アクリレートの10〜50質量%、
2官能以上の親水性(メタ)アクリレートの30〜80質量%、
単官能モノマーの0〜20質量%の合計100質量%からなる重合性化合物。
【0081】
4官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、コハク酸/トリメチロールエタン/アクリル酸のモル比1:2:4の縮合反応混合物、ウレタンアクリレート類(ダイセル・サイテック株式会社製の「EBECRYL220」、「EBECRYL1290」、「EBECRYL1290K」、「EBECRYL5129」、「EBECRYL8210」、「EBECRYL8301」、「KRM8200」)、ポリエーテルアクリレート類(ダイセル・サイテック株式会社製の「EBECRYL81」)、変性エポキシアクリレート類(ダイセル・サイテック株式会社製の「EBECRYL3416」)、ポリエステルアクリレート類(ダイセル・サイテック株式会社製の「EBECRYL450」、「EBECRYL657」、「EBECRYL800」、「EBECRYL810」、「EBECRYL811」、「EBECRYL812」、「EBECRYL1830」、「EBECRYL845」、「EBECRYL846」、「EBECRYL1870」)等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
4官能以上の多官能(メタ)アクリレートとしては、5官能以上の多官能(メタ)アクリレートがより好ましい。
【0082】
4官能以上の多官能(メタ)アクリレートの含有量は、重合性化合物100質量%中、10〜50質量%が好ましく、耐水性、耐薬品性の点から、20〜50質量%がより好ましく、30〜50質量%が特に好ましい。一方、4官能以上の多官能(メタ)アクリレートの含有量が10質量%以上であれば、弾性率が高くなって耐擦傷性が向上する。4官能以上の多官能(メタ)アクリレートの含有量が50質量%以下であれば、表面に小さな亀裂が入りにくく、外観不良となりにくい。
【0083】
2官能以上の親水性(メタ)アクリレートとしては、東亞合成株式会社製の「アロニックスM−240」、「アロニックスM260」;新中村化学工業株式会社製の「NKエステルAT−20E」、「NKエステルATM−35E」等の長鎖ポリエチレングリコールを有する多官能アクリレート、ポリエチレングリコールジメタクリレート等が挙げられる。
これらは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0084】
ポリエチレングリコールジメタクリレートにおいて、一分子内に存在するポリエチレングリコール鎖の平均繰り返し単位の合計は、6〜40が好ましく、9〜30がより好ましく、12〜20が特に好ましい。ポリエチレングリコール鎖の平均繰り返し単位が6以上であれば、親水性が十分となり、防汚性が向上する。ポリエチレングリコール鎖の平均繰り返し単位が40以下であれば、4官能以上の多官能(メタ)アクリレートとの相溶性が良好となり、硬化性組成物が分離しにくい。
【0085】
2官能以上の親水性(メタ)アクリレートの含有量は、重合性化合物100質量%中、30〜80質量%が好ましく、40〜70質量%がより好ましい。2官能以上の親水性(メタ)アクリレートの含有量が30質量%以上であれば、親水性が十分となり、防汚性が向上する。一方、2官能以上の親水性(メタ)アクリレートの含有量が80質量%以下であれば、弾性率が高くなって耐擦傷性が向上する。
【0086】
単官能モノマーとしては、親水性単官能モノマーが好ましい。
親水性単官能モノマーとしては、新中村化学工業株式会社製の「M−20G」、「M−90G」「、M−230G」等のエステル基にポリエチレングリコール鎖を有する単官能(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート等のエステル基に水酸基を有する単官能(メタ)アクリレート、単官能アクリルアミド類、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート、メタクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムメチルサルフェート等のカチオン性モノマー類等が挙げられる。
また、単官能モノマーとして、アクリロイルモルホリン、ビニルピロリドン等の粘度調整剤、基材フィルムへの密着性を向上させるアクリロイルイソシアネート類等の密着性向上剤等を用いてもよい。
【0087】
単官能モノマーの含有量は、重合性化合物100質量%中、0〜20質量%が好ましく、5〜15質量%がより好ましい。単官能モノマーを用いることにより、基材フィルムと硬化樹脂層との密着性が向上する。単官能モノマーの含有量が20質量%以下であれば、4官能以上の多官能(メタ)アクリレートまたは2官能以上の親水性(メタ)アクリレートが不足することなく、防汚性または耐擦傷性が十分に発現する。
【0088】
単官能モノマーは、1種または2種以上を(共)重合した低重合度の重合体として硬化性組成物に0〜35質量部配合してもよい。低重合度の重合体としては、新中村化学工業株式会社製の「M−230G」等のエステル基にポリエチレングリコール鎖を有する単官能(メタ)アクリレート類と、メタクリルアミドプロピルトリメチルアンモニウムメチルサルフェートとの40/60共重合オリゴマー(例えばMRCユニテック株式会社製の「MGポリマー」)等が挙げられる。
【0089】
<作用効果>
以上説明した本発明に係る硬化性組成物にあっては、特定のリン酸を含むリン酸エステル化合物を含むモールド溶解成分を含有するため、モールド表面を極わずかに溶解できる。
その結果、モールド表面が常に更新されるため、付着物がモールド表面に堆積し、モールド表面が汚染されるのを防ぐことができる。
また、リン酸を含むリン酸エステル化合物は内部離型剤の役割も果たすので、モールドと硬化樹脂層との離型性を長時間にわたって維持できる。
【0090】
<光透過性フィルムの製造方法>
本発明の光透過性フィルムは、モールドの表面の微細凹凸構造を転写して製造される。
具体的には、表面に光透過性フィルム表面の微細凹凸構造の反転構造を有するモールドと基材フィルムとの間に、上述した硬化性組成物を挟持させる工程(挟持工程)と、硬化性組成物に活性エネルギー線を照射し、硬化性組成物を硬化させて、モールドの反転構造が転写された硬化樹脂層が基材フィルム表面に形成された光透過性フィルムを得る工程(転写工程))と、得られた光透過性フィルムとモールドとを分離する工程(分離工程)とを経て製造される。
【0091】
前記微細凹凸構造は、モールドの表面の微細凹凸構造をナノインプリント法により転写して形成することができる。
フィルムの長手方向において、前記微細凹凸構造の高さが均一であることが好ましい。ここで、前記微細凹凸構造の高さが均一とは、微細凹凸構造の高さの差が10nm以下である状態のことをいう。
【0092】
(基材フィルム)
基材フィルムとしては、フィルム越しに活性エネルギー線照射を行うため、光透過性の高いフィルムが好ましく、例えばアクリルフィルムやPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルム、ポリカーボネートフィルム、TAC(トリアセチルセルロース)フィルムなどを用いることができる。
【0093】
(モールド)
モールドの材料としては、金属(表面に酸化皮膜が形成されたものを含む。)、石英、ガラス、樹脂、セラミックス等が挙げられる。
本発明に用いるモールドは、例えば下記に示す方法(I)、または(II)によって製造できる。中でも、大面積化が可能であり、かつ作製が簡便である点から、方法(I)が特に好ましい。
(I)アルミニウム基材の表面に、複数の細孔(凹部)を有する陽極酸化アルミナを形成する方法。
(II)基材の表面にリソグラフィ法によって微細凹凸構造を形成する方法。
【0094】
方法(I)としては、下記の工程(a)〜(e)を有するのが好ましい。
(a)アルミニウム基材を電解液中、定電圧下で陽極酸化してアルミニウム基材の表面に酸化皮膜を形成する工程。
(b)酸化皮膜を除去し、アルミニウム基材の表面に陽極酸化の細孔発生点を形成する工程。
(c)アルミニウム基材を電解液中、再度陽極酸化し、細孔発生点に細孔を有する酸化皮膜を形成する工程。
(d)細孔の径を拡大させる工程。
(e)工程(c)と工程(d)を繰り返し行い、複数の細孔を有する陽極酸化アルミナがアルミニウム基材の表面に形成されたモールドを得る工程。
【0095】
工程(a):
図1に示すように、アルミニウム基材10を陽極酸化すると、細孔12を有する酸化皮膜14が形成される。
アルミニウム基材の形状としては、ロール状、円管状、平板状、シート状等が挙げられる。
また、アルミニウム基材は、表面状態を平滑化にするために、機械研磨、羽布研磨、化学的研磨、電解研磨処理(エッチング処理)などで研磨されることが好ましい。また、アルミニウム基材は、所定の形状に加工する際に用いた油が付着していることがあるため、陽極酸化の前にあらかじめ脱脂処理されることが好ましい。
【0096】
アルミニウムの純度は、99%以上が好ましく、99.5%以上がより好ましく、99.8%以上が特に好ましい。アルミニウムの純度が低いと、陽極酸化した時に、不純物の偏析により可視光を散乱する大きさの凹凸構造が形成されたり、陽極酸化で得られる細孔の規則性が低下したりすることがある。
電解液としては、硫酸、シュウ酸、リン酸等が挙げられる。
【0097】
シュウ酸を電解液として用いる場合:
シュウ酸の濃度は、0.7M以下が好ましい。シュウ酸の濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて酸化皮膜の表面が粗くなることがある。
化成電圧が30〜60Vの時、平均間隔が100nmの規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナを得ることができる。化成電圧がこの範囲より高くても低くても規則性が低下する傾向にある。
電解液の温度は、60℃以下が好ましく、45℃以下がより好ましい。電解液の温度が60℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象が起こり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0098】
硫酸を電解液として用いる場合:
硫酸の濃度は0.7M以下が好ましい。硫酸の濃度が0.7Mを超えると、電流値が高くなりすぎて定電圧を維持できなくなることがある。
化成電圧が25〜30Vの時、平均間隔が63nmの規則性の高い細孔を有する陽極酸化アルミナを得ることができる。化成電圧がこの範囲より高くても低くても規則性が低下する傾向がある。
電解液の温度は、30℃以下が好ましく、20℃以下がより好ましい。電解液の温度が30℃を超えると、いわゆる「ヤケ」といわれる現象が起こり、細孔が壊れたり、表面が溶けて細孔の規則性が乱れたりすることがある。
【0099】
工程(b):
図1に示すように、酸化皮膜14を一旦除去し、これを陽極酸化の細孔発生点16にすることで細孔の規則性を向上することができる。なお、それほど高い規則性が必要とされない場合、酸化皮膜14の少なくとも一部を除去しても良く、工程(a)の後に、後述する工程(d)を行っても構わない。
酸化皮膜を除去する方法としては、アルミニウムを溶解せず、酸化皮膜を選択的に溶解する溶液に溶解させて除去する方法が挙げられる。このような溶液としては、例えば、クロム酸/リン酸混合液等が挙げられる。
【0100】
工程(c):
図1に示すように、酸化皮膜を除去したアルミニウム基材10を再度、陽極酸化すると、円柱状の細孔12を有する酸化皮膜14が形成される。
陽極酸化は、工程(a)と同様な条件で行えばよい。陽極酸化の時間を長くするほど深い細孔を得ることができる。
【0101】
工程(d):
図1に示すように、細孔12の径を拡大させる処理(以下、細孔径拡大処理と記す。)を行う。細孔径拡大処理は、酸化皮膜を溶解する溶液に浸漬して陽極酸化で得られた細孔の径を拡大させる処理である。このような溶液としては、例えば、5質量%程度のリン酸水溶液等が挙げられる。
細孔径拡大処理の時間を長くするほど、細孔径は大きくなる。
【0102】
工程(e):
図1に示すように、工程(c)の陽極酸化と、工程(d)の細孔径拡大処理を繰り返すと、直径が開口部から深さ方向に連続的に減少する形状の細孔12を有する酸化皮膜14が形成され、アルミニウム基材10の表面に陽極酸化アルミナ(アルミニウムの多孔質の酸化皮膜(アルマイト))を有するモールド本体18が得られる。
【0103】
繰り返し回数は、合計で3回以上が好ましく、5回以上がより好ましい。繰り返し回数が2回以下では、非連続的に細孔の直径が減少するため、このような細孔を有する陽極酸化アルミナを用いて形成された微細凹凸構造(モスアイ構造)の反射率低減効果は不十分である。
【0104】
細孔12の形状としては、略円錐形状、角錐形状、円柱形状等が挙げられ、円錐形状、角錐形状等のように、深さ方向と直交する方向の細孔断面積が最表面から深さ方向に連続的に減少する形状が好ましい。
【0105】
細孔12間の平均間隔は、可視光の波長以下、すなわち400nm以下である。細孔12間の平均間隔は、20nm以上が好ましい。
細孔12間の平均間隔は、電子顕微鏡観察によって隣接する細孔12間の間隔(細孔12の中心から隣接する細孔12の中心までの距離)を50点測定し、これらの値を平均したものである。
【0106】
細孔12の深さは、平均間隔が100nmの場合は、80〜500nmが好ましく、120〜400nmがより好ましく、150〜300nmが特に好ましい。
細孔12の深さは、電子顕微鏡観察によって倍率30000倍で観察したときにおける、細孔12の最底部と、細孔12間に存在する凸部の最頂部との間の距離を測定した値である。
細孔12のアスペクト比(細孔の深さ/細孔間の平均間隔)は、0.8〜5.0が好ましく、1.2〜4.0がより好ましく、1.5〜3.0が特に好ましい。
【0107】
その他の工程:
本発明においては、工程(e)にて得られたモールド本体18をそのままモールドとしてもよいが、モールド本体18の微細凹凸構造が形成された側の表面を離型剤(外部離型剤)で処理してもよい。
離型剤としては、アルミニウム基材の陽極酸化アルミナと化学結合を形成し得る官能基を有するものが好ましい。具体的には、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、フッ素化合物等が挙げられ、離型性に優れる点、モールド本体との密着性に優れる点から、シラノール基あるいは加水分解性シリル基を有することが好ましく、その中でも加水分解性シリル基を有するフッ素化合物が特に好ましい。
加水分解性シリル基を有するフッ素化合物の市販品としては、フルオロアルキルシラン、信越化学工業株式会社製の「KBM−7803」;ダイキン工業株式会社製の「オプツール」シリーズ;住友スリーエム株式会社製の「ノベックEGC−1720」等が挙げられる。
【0108】
離型剤による処理方法としては、下記の方法1、方法2が挙げられ、モールド本体の微細凹凸構造が形成された側の表面をムラなく離型剤で処理できる点から、方法1が特に好ましい。
方法1:離型剤の希釈溶液にモールド本体を浸漬する方法。
方法2:離型剤またはその希釈溶液を、モールド本体の微細凹凸構造が形成された側の表面に塗布する方法。
【0109】
方法1としては、下記の工程(f)〜(j)を有する方法が好ましい。
(f)モールド本体を水洗する工程。
(g)モールド本体にエアーを吹き付け、モールド本体の表面に付着した水滴を除去する工程。
(h)加水分解性シリル基を有するフッ素化合物を溶媒で希釈した希釈溶液に、モールド本体を浸漬する工程。
(i)浸漬したモールド本体をゆっくりと溶液から引き上げる工程。
(j)モールド本体を乾燥させる工程。
【0110】
工程(f):
モールド本体には、多孔質構造を形成する際に用いた薬剤(細孔径拡大処理に用いたリン酸水溶液等)、不純物(埃等)等が付着しているため、水洗によってこれを除去する。
【0111】
工程(g):
モールド本体にエアーを吹き付け、目に見える水滴はほぼ除去する。
【0112】
工程(h):
希釈用の溶媒としては、フッ素系溶媒、アルコール系溶媒等の公知の溶媒を用いればよい。中でも、適度な揮発性、濡れ性等を有するため、外部離型剤溶液を均一に塗布できる点で、フッ素系溶媒が好ましい。フッ素系溶媒としては、ハイドロフルオロポリエーテル、パーフルオロヘキサン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン、ジクロロペンタフルオロプロパン等が挙げられる。
加水分解性シリル基を有するフッ素化合物の濃度は、希釈溶液(100質量%)中、0.01〜0.2質量%が好ましい。
浸漬時間は、1〜30分が好ましい。
浸漬温度は、0〜50℃が好ましい。
【0113】
工程(i):
浸漬したモールド本体を溶液から引き上げる際には、電動引き上げ機等を用いて、一定速度で引き上げ、引き上げ時の揺動を抑えることが好ましい。これにより塗布ムラを少なくできる。
引き上げ速度は、1〜10mm/秒が好ましい。
【0114】
工程(j):
モールド本体を乾燥させる工程では、モールド本体を風乾させてもよく、乾燥機等で強制的に加熱乾燥させてもよい。
乾燥温度は、30〜150℃が好ましい。
乾燥時間は、5〜300分が好ましい。
【0115】
なお、モールド本体の表面が離型剤で処理されたことは、モールド本体の表面の水接触角を測定することによって確認できる。離型剤で処理されたモールド本体の表面の水接触角は、60°以上が好ましく、90°以上がより好ましい。水接触角が60°以上であれば、モールド本体の表面が離型剤で十分に処理され、離型性が良好となる。
【0116】
(製造装置)
光透過性フィルムは、例えば図2に示す製造装置を用いて、下記のようにして製造される。
表面に微細凹凸構造(図示略)を有するロール状モールド20と、ロール状モールド20の表面に沿って移動する帯状の基材フィルム42との間に、タンク22から硬化性組成物38を供給する。
【0117】
ロール状モールド20と、空気圧シリンダ24によってニップ圧が調整されたニップロール26との間で、基材フィルム42および硬化性組成物38をニップし、硬化性組成物38を基材フィルム42とロール状モールド20との間に均一に行き渡らせると同時に、ロール状モールド20の微細凹凸構造の凹部内に充填する。
【0118】
ロール状モールド20の下方に設置された活性エネルギー線照射装置28から、基材フィルム42を通して硬化性組成物38に活性エネルギー線を照射し、硬化性組成物38を硬化させることによって、ロール状モールド20の表面の微細凹凸構造が転写された硬化樹脂層44を形成する。
剥離ロール30により、表面に硬化樹脂層44が形成された基材フィルム42をロール状モールド20から剥離することによって、図3に示すような光透過性フィルム40を得る。
【0119】
活性エネルギー線照射装置28としては、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプ等が好ましく、この場合の光照射エネルギー量は、100〜10000mJ/cmが好ましい。
【0120】
<光透過性フィルム>
図3は、微細凹凸構造を表面に有する光透過性フィルム40の一例を示す断面図である。
基材フィルム42は、光透過性フィルムである。
基材フィルムの材料としては、アクリルフィルム、PETフィルム、ポリカーボネートフィルム、TACフィルムなどが挙げられる。
【0121】
このようにして得られる本発明の光透過性フィルムは、例えば図3に示すように、基材フィルム42と、前記基材フィルム42上に形成された、微細凹凸構造が転写された硬化樹脂層44とを備える。
基材フィルム42としては、光透過性を有するものが好ましい。具体的には、アクリルフィルム、PETフィルム、ポリカーボネートフィルム、TACフィルムなどが挙げられる。
【0122】
硬化樹脂層44は、上述した硬化性組成物の硬化物からなる膜であり、表面に微細凹凸構造を有する。
陽極酸化アルミナのモールドを用いた場合の光透過性フィルム40の表面の微細凹凸構造は、陽極酸化アルミナの表面の微細凹凸構造を転写して形成されたものであり、硬化性組成物の硬化物からなる複数の凸部46を有する。
【0123】
微細凹凸構造としては、略円錐形状、角錐形状等の突起(凸部)が複数並んだ、いわゆるモスアイ構造が好ましい。突起間の間隔が可視光の波長以下であるモスアイ構造は、空気の屈折率から材料の屈折率へと連続的に屈折率が増大していくことで有効な反射防止の手段となることが知られている。
【0124】
凸部間の平均間隔は、可視光の波長以下、すなわち400nm以下である。陽極酸化アルミナのモールドを用いて凸部を形成した場合、凸部間の平均間隔は100から200nm程度となることから、250nm以下が特に好ましい。
また、凸部間の平均間隔は、凸部の形成のしやすさの点から、20nm以上が好ましい。
凸部間の平均間隔は、電子顕微鏡観察によって隣接する凸部間の間隔(凸部の中心から隣接する凸部の中心までの距離)を50点測定し、これらの値を平均したものである。
【0125】
凸部の高さは、平均間隔が100nmの場合は、80〜500nmが好ましく、120〜400nmがより好ましく、150〜300nmが特に好ましい。凸部の高さが80nm以上であれば、光透過性フィルムの反射率が十分低くなり、かつ反射率の波長依存性が少ない。凸部の高さが500nm以下であれば、凸部の耐擦傷性が良好となる。
凸部の高さは、電子顕微鏡によって倍率30000倍で観察したときにおける、凸部の最頂部と、凸部間に存在する凹部の最底部との間の距離を測定した値である。
【0126】
凸部のアスペクト比(凸部の高さ/凸部間の平均間隔)は、0.8〜5.0が好ましく、1.2〜4.0がより好ましく、1.5〜3.0が特に好ましい。凸部のアスペクト比が0.8以上であれば、光透過性フィルムの反射率が十分に低くなる。凸部のアスペクト比が5.0以下であれば、凸部の耐擦傷性が良好となる。
【0127】
凸部の形状は、高さ方向と直交する方向の凸部断面積が最表面から深さ方向に連続的に増加する形状、すなわち、凸部の高さ方向の断面形状が、三角形、台形、釣鐘型等の形状が好ましい。
【0128】
硬化樹脂層44の屈折率と基材フィルム42の屈折率との差は、0.2以下が好ましく、0.1以下がより好ましく、0.05以下が特に好ましい。屈折率差が0.2以下であれば、硬化樹脂層44と基材フィルム42との界面における反射が抑えられる。
【0129】
表面に微細凹凸構造を有する場合、その表面が疎水性の材料から形成されていればロータス効果により超撥水性が得られ、その表面が親水性の材料から形成されていれば超親水性が得られることが知られている。
【0130】
硬化樹脂層44の材料が疎水性の場合の微細凹凸構造の表面の水接触角は、90°以上が好ましく、110°以上がより好ましく、120°以上が特に好ましい。水接触角が90°以上であれば、水汚れが付着しにくくなるため、十分な防汚性が発揮される。また、水が付着しにくいため、着氷防止を期待できる。
【0131】
硬化樹脂層44の材料が親水性の場合の微細凹凸構造の表面の水接触角は、25°以下が好ましく、23°以下がより好ましく、21°以下が特に好ましい。水接触角が25°以下であれば、表面に付着した汚れが水で洗い流され、また油汚れが付着しにくくなるため、十分な防汚性が発揮される。前記水接触角は、硬化樹脂層44の吸水による微細凹凸構造の変形、それに伴う反射率の上昇を抑える点から、3°以上が好ましい。
【0132】
<光透過性フィルムの用途>
光透過性フィルム40の用途としては、反射防止物品、防曇性物品、防汚性物品、撥水性物品、より具体的にはディスプレー用反射防止、自動車メーターカバー、自動車ミラー、自動車窓、有機または無機エレクトロルミネッセンスの光取り出し効率向上部材、太陽電池部材等が挙げられる。
【0133】
<作用効果>
以上説明した本発明の光透過性フィルムにあっては、表面の微細凹凸構造が、モールド表面の微細凹凸構造を転写して形成された、前記条件(a)を満たすリン酸を含むリン酸エステル化合物を含む硬化性組成物を重合および硬化してなるものであるため、転写の際に硬化性組成物中のリン酸を含むリン酸エステル化合物がモールド表面を極わずかに溶解する。その結果、モールド表面が常に更新されるため、付着物がモールド表面に堆積してモールド表面が汚染されるのを防ぐことができる。また、リン酸を含むリン酸エステル化合物は内部離型剤の役割も果たすので、モールドと硬化樹脂層との離型性を長時間にわたって維持できる。
【0134】
加えて、本発明の光透過性フィルムは、XPSにより測定された前記光透過性フィルムの表面におけるリン原子の原子百分率が0.001〜0.14%である。これは、硬化性組成物が硬化する段階においてリン酸エステル化合物が適度にブリードアウトしたことを意味し、リン酸を含むリン酸エステル化合物が内部離型剤としての機能を十分に発揮しつつ、モールド表面を過剰に溶解してモールド表面の微細凹凸構造が大幅に変化するのを抑制できたと判断できる。
【0135】
従って、本発明によれば、光透過性フィルムを連続生産する場合でも、離型性を長時間維持しつつ、モールド表面を適度に溶解することで汚染を防ぐことができるので、反射防止性に優れた光透過性フィルムが得られる。
【0136】
以上説明した光透過性フィルムの製造方法にあっては、上述した硬化性組成物を用いているため、モールドと光透過性フィルムとの離型性に優れる。
よって、光透過性フィルムを生産性よく製造できる。
また、光透過性フィルムの製造にあっては、硬化性組成物に含まれるモールド溶解成分中のリン酸を含むリン酸エステル化合物によってモールド表面が極わずかに溶解される。
従って、モールド表面が常に更新されるため、付着物がモールド表面に堆積し、モールド表面が汚染されるのを防ぐことができる。
よって、反射防止性などの性能に優れた光透過性フィルムを製造できる。
【0137】
<他の実施形態>
光透過性フィルムの製造方法は、上述した方法に限定されない。上述した方法では、図2に示す製造装置を用い、基材フィルム42に活性エネルギー線を照射して光透過性フィルム40を製造しているが、例えば支持フィルムに支持された基材フィルムを用い、以下のようにして光透過性フィルムを製造してもよい。
すなわち、図4に示すように、支持フィルム48によって裏面側から支持された基材フィルム42の表面と、ロール状モールド20との間に、硬化性組成物38を供給し、支持フィルム48を通して硬化性組成物38に活性エネルギー線を照射して、基材フィルム42の表面に微細凹凸構造を有する硬化樹脂層44が形成された光透過性フィルム40を製造する。このようにして得られた光透過性フィルム40は支持フィルム48で支持されており、必要に応じて支持フィルム48を光透過性フィルム40から剥離する。
【0138】
支持フィルム48としては、剥離可能なフィルムであれば特に限定されないが、例えばPETフィルム、ポリカーボネートフィルム等が挙げられる。
支持フィルム48は、単層フィルムであってもよいし、多層フィルムであってもよい。
【実施例】
【0139】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0140】
(リン酸濃度およびpHの測定)
モールド溶解成分1gをクロロホルム50mLに溶解させ、これに水50mLを加えて、混合液を分液漏斗にて激しく攪拌した(水抽出試験)。
ついで、一晩静置した後、有機層と水層(水溶液)とに分離し、イオンクロマトグラフ(日本ダイオネクス株式会社製、「DX−500」)を用いて水溶液中のリン酸濃度を測定した。
また、pH試験機(株式会社堀場製作所製、「カスタニーLAB」)を用い、25℃の条件にて水溶液のpHを測定した。
【0141】
(モールド表面のXPSによる分析)
光透過性フィルムを600m製造した時点でのモールド表面を、X線光電子分光分析装置(VG社製、「ESCA LAB220iXL」)を用い、200WモノクロX線源(Alkα)を使用して、Pass Energy 20eV(narrow scan)の条件で測定した。
この測定により得られたXPSスペクトルについて、まずアルミニウムのピーク(Al2p)のピーク面積強度と、リンのピーク(P2p)のピーク面積強度を算出した。
ついで、各ピーク面積強度について、装置固有の相対感度因子による補正を行ったうえでその比率を求め、モールド表面組成におけるP/Al原子百分率比を求めた。
また、先と同様の条件にてXPSによる分析を行い、Naの検出を行った。
【0142】
(電子顕微鏡観察)
陽極酸化アルミナの一部を削り、断面にプラチナを1分間蒸着し、電界放出形走査電子顕微鏡(日本電子株式会社製、「JSM−7400F」)を用いて、加速電圧3.00kVの条件にて断面を観察し、細孔の間隔、細孔の深さを測定した。
【0143】
(モールド溶解による減少率の測定)
50℃のリン酸を含むリン酸エステル化合物中にモールドを22時間浸漬させて浸漬試験を行った。
浸漬試験後、モールドを取り出し、アセトン、クロロホルムを用いて洗浄した。浸漬試験前と洗浄後のモールドの質量を測定し、下記式より減少率を求めた。
減少率(%)={(浸漬前のモールドの質量−洗浄後のモールドの質量)/浸漬前のモールドの質量}×100
【0144】
(フィルム表面のXPSによる分析)
光透過性フィルム表面を、X線光電子分光分析装置(VG社製、「ESCA LAB220iXL」)を用い、200WモノクロX線源(Alkα)を使用して、Pass Energy 20eV(narrow scan)の条件で測定した。
この測定により得られたXPSスペクトルについて、検出された全原子のピーク面積強度と、リン原子のピーク(P2p)のピーク面積強度を算出した。ついで、各ピーク面積強度について装置固有の相対感度因子による補正を行った上で、下記式よりリン原子の原子百分率を求めた。
リン原子の原子百分率=(リン原子のピーク面積強度/全原子のピーク面積強度)×100
【0145】
(反射防止性の評価)
微細凹凸構造が形成されていない側の面を黒く塗った光透過性フィルムについて、分光光度計(株式会社日立製作所製、「U−4100」)を用いて、入射角5°の条件で波長380nm〜780nmの間の相対反射率を測定した。相対反射率が小さいほど、反射防止性に優れることを意味する。
【0146】
(モールドの作製)
純度99.9%のアルミニウムインゴットに鍛造処理を施して、直径:200mm、長さ350mmに切断した圧延痕のない平均結晶粒径:40μmの円筒状アルミニウム原型に、羽布研磨処理を施した後、これを過塩素酸/エタノール混合溶液中(体積比:1/4)で電解研磨し、鏡面化したものをアルミニウム基材として用いた。
工程(a):
前記アルミニウム原型について、0.3Mシュウ酸水溶液中で、直流40V、温度16℃の条件で30分間陽極酸化を行った。
工程(b):
厚さ3μmの酸化皮膜が形成されたアルミニウム原型を、6質量%リン酸/1.8質量%クロム酸混合水溶液に2時間浸漬して、酸化皮膜を除去した。
工程(c):
前記アルミニウム原型について、0.3Mシュウ酸水溶液中、直流40V、温度16℃の条件で30秒間陽極酸化を行った。
工程(d):
酸化皮膜が形成されたアルミニウム原型を、30℃の5質量%リン酸水溶液に8分間浸漬して、細孔径拡大処理を行った。
工程(e):
前記工程(c)および工程(d)を合計で5回繰り返し、平均間隔:100nm、深さ:160nmの略円錐形状の細孔を有する陽極酸化アルミナが表面に形成されたロール状のモールド本体を得た。
【0147】
工程(f):
シャワーを用いてモールド本体の表面のリン酸水溶液を軽く洗い流した後、モールド本体を流水中に10分間浸漬した。
工程(g):
モールド本体にエアーガンからエアーを吹き付け、モールド本体の表面に付着した水滴を除去した。
工程(h):
モールド本体を、オプツールDSX(ダイキン化成品販売株式会社製)を希釈剤HD−ZV(株式会社ハーベス製)で0.1質量%に希釈した溶液に室温で10分間浸漬した。
工程(i):
モールド本体を希釈溶液から3mm/秒でゆっくりと引き上げた。
工程(j):
モールド本体を一晩風乾して、離型剤で処理されたモールドを得た。
【0148】
得られたモールドの走査型電子顕微鏡像を図5に示す。
なお、モールド溶解による減少率の測定には、50mm×50mm×厚さ0.3mmのアルミニウム板(純度99.99%)をアルミニウム基材として使用し、上記工程(c)まで実施したものを用いた。
【0149】
[実施例1]
<硬化性組成物の調製>
重合性化合物としてポリエチレングリコールジアクリレート(東亜合成株式会社製、「アロニックスM260」)20質量部と、トリメチロールエタン/アクリル酸/無水コハク酸の縮合反応物(大阪有機化学工業株式会社製、「TAS」)70質量部と、ヒドロキシエチルアクリレート(大阪有機化学工業株式会社製)3質量部と、メチルアクリレート(三菱化学株式会社製)7質量部とを混合して混合液を調製した。
この混合液に、重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシル−フェニルケトン(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製、「IRGACURE184」)1.0質量部と、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド(チバ・スペシャルティ・ケミカルズ株式会社製、IRGACURE819)0.1質量部と、モールド溶解成分として主としてリン酸を含むリン酸エステル化合物であるポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル(日光ケミカルズ株式会社製、「NIKKOL TDP−2」)0.3質量部と、紫外線吸収剤(共同薬品株式会社製、「Viosorb110」)0.2質量部とを添加し、硬化性組成物を調製した。
【0150】
硬化性組成物の調製に用いたモールド溶解成分について、水抽出試験により得られた水溶液のリン酸濃度およびpHの測定を測定した。
結果を表1に示す。
また、モールド溶解成分を用いてモールドの浸漬試験を行い、モールド溶解性の評価を行った。
モールドの質量の減少率を表1に示す。
さらに、浸漬試験後のモールドの走査型電子顕微鏡写真像を図6に示す。
なお、モールド溶解成分を重合性化合物の混合液100質量部に対して3質量部溶解させた混合液を作製し、その溶液の透過率をU−3300(日立製作所製)で測定した。
【0151】
<光透過性フィルムの製造>
図4に示す製造装置を用い、以下のようにして光透過性フィルムを製造した。
ロール状モールド20としては、先に作製したモールドを用いた。
基材フィルム42としては、アクリルフィルム(三菱レイヨン株式会社製、「アクリプレンHBS010」、厚さ:100μm)を用い、その裏面に、支持フィルム48として粘着剤付きPETフィルム(株式会社サンエー化研製、「SAT−116T」、厚さ:38μm)を貼り合わせた。
【0152】
ロール状モールド20と、ロール状モールド20の表面に沿って移動する、帯状の支持フィルム48によって裏面側から支持された帯状の基材フィルム42との間に、タンク22から硬化性組成物38を供給した。
ついで、ロール状モールド20の下方に設置された活性エネルギー線照射装置28より、支持フィルム48側から基材フィルム42を通して硬化性組成物38に、積算光量800mJ/cmの紫外線を照射し、硬化性組成物38を硬化させることによって、ロール状モールド20の表面の微細凹凸構造が転写された硬化樹脂層44を形成した。
剥離ロール30により、表面に硬化樹脂層44が形成された基材フィルム42を支持フィルム48と共にロール状モールド20から剥離することによって、支持フィルム48で支持された光透過性フィルム40を得た。
【0153】
その結果、8000mの光透過性フィルムを連続的に、かつ安定的に製造できた。
なお、得られた光透過性フィルムの凸部間の平均周期は100nmであり、凸部の高さは160nmであり、波長550nmの反射率は0.1%以下であり、製造距離(透明フィルムの長さ)による変化は認められなかった。
また、光透過性フィルムを600m製造した時点でのモールド表面について、XPSによる分析を行った。
結果を表1に示す。
【0154】
[参考例2]
モールド溶解成分として主としてリン酸を含むリン酸エステル化合物であるポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル(日光ケミカルズ株式会社製、「NIKKOL TDP−2」)0.3質量部に代えて、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル(アクセル社製、「モールドウイズINT−1856」)0.3質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして硬化性組成物を調製し、光透過性フィルムを製造した。
結果を表1に示す。
また、浸漬試験後のモールドの走査型電子顕微鏡写真像を図7に示す。
10000mの光透過性フィルムを連続的に、かつ安定的に製造できた。
得られた光透過性フィルムの、製造開始から900m経過した付近の凸部間の平均間隔は100nmであり、凸部の高さは160nmであり、波長550nmの反射率は0.1%であった。
2700m付近の凸部間の平均間隔は100nmであり、凸部の高さは130nmであり、波長550nmの反射率は0.2%であった。
4500mでの付近の凸部間の平均間隔は100nmであり、凸部の高さは100nmであり、波長550nmの反射率は0.4%であった。
6300m付近の凸部間の平均間隔は100nmであり、凸部の高さは95nmであり、波長550nmの反射率は0.8%であった。
7200m付近の凸部間の平均間隔は100nmであり、凸部の高さは90nmであり、波長550nmの反射率は1.2%であった。
10000m付近の凸部間の平均間隔は100nmであり、凸部の高さは70nmであり、波長550nmの反射率は2.6%であった。
光透過性フィルムを製造する前のモールドの走査型電子顕微鏡像を図9に、光透過性フィルムを10000m製造した後のモールドの走査型電子顕微鏡像を図10にそれぞれ示す。
また、INT−1856を重合性化合物の混合液100質量部に対して3質量部溶解させた混合液の500nmにおける透過率を測定したところ、47%であり、内部離型剤と重合性化合物との相溶性が悪く、ブリードしやすいものと思われる。フィルム表面のリン原子の原子百分率をXPSにより求めたところ0.15%であった。
従って、長期に渡って、良好な離型性を確保できたが、モールド溶解力が高い内部離型剤であり、ブリードアウト量が多いため、微細凹凸構造の高さが変化したものと考えられる。
【0155】
[比較例1]
モールド溶解成分として主としてリン酸を含むリン酸エステル化合物であるポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル(日光ケミカルズ株式会社製、「NIKKOL TDP−2」)0.3質量部に代えて、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル(日光ケミカルズ株式会社製、「TLP−4」)0.3質量部を用いた以外は、実施例1と同様にして硬化性組成物を調製し、光透過性フィルムを製造した。
結果を表1に示す。
また、浸漬試験後のモールドの電子顕微鏡写真像を図8に示す。
【0156】
【表1】

【0157】
表1から明らかなように、実施例1の場合、浸漬試験によるモールドの質量の減少率は0.01%であった。
また、図5および6から明らかなように、浸漬試験前(図5)と比較して、浸漬試験後(図6)のモールドは細孔径が若干拡大していた。
これらの結果より、実施例1の硬化性組成物に含まれるモールド溶解成分であるリン酸を含むリン酸エステル化合物によって、モールド表面が極わずかに溶解することが示された。
また、光透過性フィルムを600m製造した時点で、モールド表面をXPSにより分析したところ、P/Al原子百分率比が比較例1に比べて小さく、リン酸を含むリン酸エステル化合物の堆積が抑制された。
すなわち、実施例1では、モールド表面の汚染を防ぐことができた。
【0158】
一方、参考例2の場合、浸漬試験によるモールドの質量の減少率は0.4%であった。
また、図5および7から明らかなように、浸漬試験前(図5)と比較して、浸漬試験後(図7)のモールドは細孔が消失していた。
これらの結果より、参考例2の硬化性組成物に含まれるモールド溶解成分中のリン酸を含むリン酸エステル化合物はモールドに対する溶解力が強すぎ、過度にモールドが溶解されたことが示された。
これは、図9および10からも明らかである。
すなわち、光透過性フィルムを製造する前(図9)と比較して、光透過性フィルムを10000m製造した後(図10)のモールドは、微細凹凸構造が変化していた。
これは、リン酸を含むリン酸エステル化合物によってモールドが溶解したことによるものと考えられる。
【0159】
比較例1の場合、浸漬試験によるモールドの質量の減少率は0%であり、質量は変化しなかった。
また、図5および8から明らかなように、浸漬試験前(図5)と比較しても、浸漬試験後(図8)のモールドの細孔の変化は確認されなかった。
これらの結果より、比較例1の硬化性組成物に含まれるモールド溶解成分であるリン酸を含むリン酸エステル化合物は、モールドに対する溶解力に劣ることが示された。
また、光透過性フィルムを600m製造した時点で、モールド表面をXPSにより分析したところ、Naが検出された。
また、P/Al原子百分率比が実施例1に比べて高かった。
すなわち、モールド表面にリン酸を含むリン酸エステル化合物が堆積し、モールド表面が汚染されたと判断し、光透過性フィルムの製造を中止した。
【0160】
[実施例3]
硬化性組成物の調製>
重合性化合物としてトリメチロールエタン/アクリル酸/無水コハク酸の縮合反応物(大阪有機化学工業株式会社製、「TAS」)45質量部と、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート(大阪有機化学社製)45質量部と、ラジカル重合性シリコーンオイル(信越化学工業社製、「X−22−1602」)10質量部とを混合して混合液を調製した。
この混合液に、重合開始剤として1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(チバ・スペシャリティーケミカルズ社製、「IRGACURE184」)3質量部、およびモールド溶解成分として主としてリン酸を含むリン酸エステル化合物であるポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル(アクセル社製、「INT−1856」)0.5質量部を添加して混合し、硬化性組成物を調製した。
硬化性組成物に用いたリン酸を含むリン酸エステル化合物についてモールド溶解による減少率を測定したところ、0.41%であった。
【0161】
<光透過性フィルムの製造>
実施例1と同様にして光透過性フィルムを得た。その結果、5000mの光透過性フィルムを連続的に、かつ安定的に製造できた。
また、INT−1856を重合性化合物の混合液100質量部に対して3質量部溶解させた混合液の500nmにおける透過率を測定したところ、95%であり、得られた光透過性フィルムの任意の箇所について、XPSによる分析を行った結果、光透過性フィルム表面におけるリン原子の原子百分率は0.06%であり、製造量(光透過性フィルムの長さ)による変化は認められなかった。
従って、長期に渡って、良好な離型性を確保できた。モールド溶解力が高いリン酸を含むリン酸エステル化合物であるが、ブリードアウト量が抑制されたため、微細凹凸構造の高さが変化しなかったものと考えられる。
なお、光透過性フィルムの凸部間の平均周期は100nmであり、凸部の高さは160nmであった。
得られた光透過性フィルムについて反射防止性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0162】
[実施例4]
主としてリン酸を含むリン酸エステル化合物であるポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル(アクセル社製、「INT−1856」)の添加量を0.1質量部とした以外は、実施例3と同様にして硬化性組成物を調製し、前記硬化性組成物を用いて光透過性フィルムを製造した。
その結果、10000mの光透過性フィルムを連続的に、かつ安定的に製造できた。
また、得られた光透過性フィルムの任意の箇所について、XPSによる分析を行った結果、光透過性フィルム表面におけるリン原子の原子百分率は0.01%であり、製造量(光透過性フィルムの長さ)による変化は認められなかった。
なお、光透過性フィルムの凸部間の平均周期は100nmであり、凸部の高さは160nmであった。
得られた光透過性フィルムについて反射防止性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0163】
[実施例5]
主としてリン酸を含むリン酸エステル化合物であるポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル(アクセル社製、「INT−1856」)の添加量を0.03質量部とした以外は、実施例3と同様にして硬化性組成物を調製し、前記硬化性組成物を用いて光透過性フィルムを製造した。
その結果、5000mの光透過性フィルムを連続的に、かつ安定的に製造できた。
また、INT−1856を重合性化合物の混合液100質量部に対して3質量部溶解させた混合液の500nmにおける透過率を測定したところ、95%であり、得られた光透過性フィルムの任意の箇所について、XPSによる分析を行った結果、光透過性フィルム表面におけるリン原子の原子百分率は0.004%であり、製造量(光透過性フィルムの長さ)による変化は認められなかった。
なお、光透過性フィルムの凸部間の平均周期は100nmであり、凸部の高さは160nmであった。
得られた光透過性フィルムについて反射防止性の評価を行った。結果を表2に示す。
【0164】
[比較例2]
モールド溶解成分(リン酸を含むリン酸エステル化合物)を含まない以外は、実施例3と同様にして硬化性組成物を調製し、前記硬化性組成物を用いて光透過性フィルムを製造した。
【0165】
【表2】

【0166】
表2から明らかなように、実施例3〜5で得られた光透過性フィルムは、波長550nmの反射率が0.1%以下であり、製造量(光透過性フィルムの長さ)による変化は認められず、連続生産されても反射防止性に優れていた。
これは、転写の際に硬化性組成物中のリン酸を含むリン酸エステル化合物がモールド表面を極わずかに溶解することでモールド表面が常に更新され、付着物がモールド表面に堆積してモールド表面が汚染されるのを防いだことによるものと考えられる。さらに、硬化性組成物が硬化する段階においてリン酸を含むリン酸エステル化合物が適度にブリードアウトすることで、リン酸を含むリン酸エステル化合物が内部離型剤としての機能を十分に発揮しつつ、モールド溶解力の高いリン酸を含むリン酸エステル化合物を用いてもモールド表面を過剰に溶解してモールド表面の微細凹凸構造が大幅に変化するのを抑制できたことによるものと考えられる。
【0167】
一方、比較例2では、フィルムを200m製造した時点で、前記硬化性樹組成物が硬化した樹脂の一部が金型から離れず、その後光過性フィルムの安定的な製造ができなかった。
【0168】
[試験例1〜7]
表3にリン酸を含むリン酸エステル化合物の下記(a)〜(c)および水溶液中のリン酸濃度を示す。
(a)50℃のリン酸を含むリン酸エステル化合物中にモールドを22時間浸漬させたときのモールド質量の減少率
(b)1g当たり50mLの水でリン酸を含むリン酸エステル化合物を抽出した水溶液の25℃におけるpH
(c)(質量百万分率で示される水溶液中のリン酸濃度)×(質量百分率で示される活性エネルギー線硬化性組成物中のモールド溶解成分の含有量;ここでは0.3とした)の値
【0169】
【表3】

【産業上の利用可能性】
【0170】
上述した光透過性フィルムの製造方法によれば、光透過性フィルムを生産性よく製造でき、かつ、付着物がモールド表面に堆積してモールド表面が汚染されるのを防ぐことができる。よって、反射防止性などの性能に優れた光透過性フィルムを製造できる。
上述した活性エネルギー線硬化性組成物によれば、モールド表面の汚染を防ぎ、かつモールドと硬化樹脂層との離型性を長時間にわたって維持できる。
本発明の光透過性フィルムによれば、連続生産された場合でも、反射防止性に優れる。
【符号の説明】
【0171】
14 酸化皮膜
20 ロール状モールド
38 活性エネルギー線硬化性組成物
40 光透過性フィルム
42 基材フィルム
44 硬化樹脂層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材フィルムの表面に、微細凹凸構造を有する硬化樹脂層が形成された光透過性フィルムであって、
前記微細凹凸構造は、モールドの表面の微細凹凸構造をナノインプリント法により転写して形成されたものであり、
フィルムの長手方向において、前記微細凹凸構造の高さが均一である、光透過性フィルム。
【請求項2】
リン酸を含み、かつ下記条件(a)を満たすリン酸エステル化合物を含む活性エネルギー線硬化性組成物を重合および硬化してなる微細凹凸構造を表面に有する光透過性フィルムであって、
X線光電子分光法により測定された、前記光透過性フィルムの表面におけるリン原子の原子百分率が0.001〜0.14%である、請求項1に記載の光透過性フィルム。
条件(a):50℃のリン酸を含むリン酸エステル化合物中にモールドを22時間浸漬させたとき、モールド質量が、浸漬前に比べて0.001%以上3%以下減少すること。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−50704(P2013−50704A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−143219(P2012−143219)
【出願日】平成24年6月26日(2012.6.26)
【分割の表示】特願2012−504580(P2012−504580)の分割
【原出願日】平成23年12月28日(2011.12.28)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】