説明

光透過性柔軟断熱材および製造方法

【課題】柔軟性かつ光透過性があり、ハンドリングが容易な断熱材料およびその製造方法を提供する。
【解決手段】
ポリマー母材中に発泡セルがあり、その発泡セル中にシリカゲルを充填した構造であって、発泡セル中のシリカゲルが、見掛け密度0.6g/cm以下、発泡セル径の大きさが平均1μm以下、平均発泡セル密度が10〜1015個/cmであり、波長380−780nmにおける可視光透過率が50%以上、弾性率が2.0E+10Pa以下である光透過性柔軟断熱材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光透過性柔軟断熱材およびその製造法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
住宅や建築物の冷暖房に係るエネルギーの多くは窓などの開口部より失われている。現在利用されている積層ガラスや二重窓では断熱効果が不十分であり、また真空断熱窓は、性能は高いものの、長期間真空を維持するのが一般的に困難である。このため、窓からの熱放散を防止するための光を透過する新規断熱材料の研究が広く行われている。
【0003】
光透過性断熱材の代表例として、極めて低密度なシリカの乾燥ゲル体であるシリカエアロゲルが挙げられる。一般的なシリカエアロゲルは、内部にアルコール等の溶媒を含むシリカの湿潤ゲル体をそのまま、あるいは他の溶媒もしくは液体二酸化炭素などに置換して、昇温、昇圧することにより溶媒の超臨界状態とし、温度を保ったまま内部の溶媒を徐々に放出させて乾燥を行う手法(超臨界乾燥)によって作成する。超臨界状態では気相、液相の区別がなく、気液界面が存在しないため、界面張力に起因する応力が発生せず、これによる収縮を避けて乾燥を行うことができる。結果として一般的な見掛け密度が0.05−0.2g/cm3、空隙率が90−98%のゲル体が得られる。
【0004】
シリカエアロゲルは90%以上の高い可視光透過率と、静止空気に匹敵する低い熱伝導率(0.012―0.02W/mK)を併せ持ち、窓からの熱放散を大幅に抑制できることが知られている。これはシリカエアロゲルが低密度であるため伝導伝熱が極めて小さいこと、細孔の多くが空気成分の気体の平均自由行程を下回る10−20nmのメソ孔であるため、対流伝熱も小さいこと、さらに粒子、細孔の構造が可視光の波長よりも著しく小さいため光散乱等の影響が少ないことに起因する。
【0005】
例えば窓からの熱貫流率の比較では、一枚ガラスの窓が5.1W/mK、複層ガラスで1.7−2.9W/mK(建築材料の断熱性に係わる性能値の公表について 通商産業省)、真空断熱窓で1.1−1.3W/mK(日本板硝子、スペーシア)であるのに対し、J.Non−Cryst.Solids 350、351(2004)では0.66W/mKという値が報告されている。
【0006】
しかし、シリカエアロゲルはその低密度に起因して機械的強度が極めて小さく、また柔軟性、可塑性がない極めて脆い固体である。特に断熱効果、光透過性に優れたモノリス状のエアロゲルはハンドリングが困難である。またシリカエアロゲル作成時に用いる超臨界乾燥は、高圧プロセスとなるため 、設備やプロセスのランニングが高コストとなる。これらの要因により、シリカエアロゲルのコストは極めて高く、窓用の断熱材として普及するには至っていない。
【0007】
シリカエアロゲルを小さなペレット状とすることで、製造コストとハンドリング性を向上させる手法は多く検討されている。また超臨界乾燥の代替として低界面張力の溶媒を利用したり、表面に嵩高い分子を修飾してこれの相互反発により収縮を防ぎ低密度シリカゲルを得る方法などが検討され、一部は市販もされている。しかしこれらの方法で得られるシリカエアロゲルは、モノリス状のシリカエアロゲルと比較して、断熱性、光透過性とも劣る問題があり、他の断熱材料、断熱窓に対する優位性に乏しい。
【0008】
また、機械的強度を向上させる試みとして、Nano Lett., 2, 957(2002)などではシリカエアロゲルの骨格にポリマーを含浸させて機械的強度とハンドリング性を向上させる試みがおこなわれている。しかしこれらの場合、機械的強度の向上は見られるものの、ポリマーの透明度は失われており、また密度が増大しているため、熱伝導率も大幅に増大しているものと思われる。
【0009】
他の光透過性断熱材と成りうるものとしては、極めて微細な泡を包含する発泡ポリマーがある。一般的な発泡ポリマーではその発泡セルのサイズは30μm以上であり、光透過性は期待できないが、セルのサイズを可視光の波長より大幅に抑制することができれば、光透過性を持つ断熱材として機能することが期待される。
【0010】
このような材料として、超臨界流体を用いた発泡を利用した製造法が既に知られており、例えば、発泡前のポリマーに対して70%の可視光透過比をもち、平均気孔径が68−180nmの発泡ポリマーがあり(特許文献1参照)、さらには気孔径が2−1μmで可視光透過率が70%程度の発泡ポリマーの作製例が示されている(特許文献2及び3参照)。しかしいずれの場合も細孔径はシリカエアロゲルの場合と比較して大きく、高い断熱性能と光透過性を両立させるには不十分である。何れの例でも断熱性能については言及されていない。また、このような微細な発泡構造を再現性良く製造することは比較的困難であることが知られている。さらにいずれの場合も製造はバッチ式の圧力容器を用いて行っているが、一般に発泡ポリマーの調製に用いられる押し出し成型機を利用した製造では、発泡セルのサイズがバッチ法に比較して相当大きくなることも知られており、生産プロセスとしては解決すべき課題が多い。
【0011】
関連して、横山らは、超臨界二酸化炭素に溶解可能なフッ素系ポリマーと他のポリマーの複合系において、相分離によりナノサイズのドメインを生成させ、超臨界二酸化炭素中で一方のポリマーを溶出させることによりナノサイズの空孔を持つ発泡体を調製した(特許文献4及び5参照)。しかし、この方法は、高価で特殊な超臨界二酸化炭素可溶のポリマーを用いており、また、複雑なバッチプロセスを用いているため、大型、多量の材料を調製するには不向きであり、汎用の断熱材を製造するプロセスとしては問題が多い。
【特許文献1】特開2003−176375号公報
【特許文献2】US Patent 6,555,589 B1
【特許文献3】US Patent 6,555,590 B1
【特許文献4】特開2005−97366号公報
【特許文献5】特開2005−290170号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は上記従来の問題点を解決し、柔軟性かつ光透過性があり、ハンドリングが容易な断熱材料およびそのための製造する方法に関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記目的を達成するべく研究重ねてきた。その結果、発泡したポリマーの発泡セル内にシリカゲルが充填された構造を、超臨界二酸化炭素とシリコンアルコキシドとポリマーが均一相を形成し、該均一相を減圧して、ポリマーを発泡させると共に発泡セル内にシリコンアルコキシドを充填させることにより製造できることを見出し、本発明を完成するに至った。

【0014】
すなわち、本発明は、ポリマー母材中に発泡セルがあり、その発泡セル中にシリカゲルを充填した構造であって、発泡セル中のシリカゲルが、見掛け密度0.6g/cm以下、発泡セル径の大きさが平均1μm以下、平均発泡セル密度,すなわち1cmあたりの発泡セルの個数が10〜1015個/cmであり、波長380−780nmにおける可視光透過率が50%以上、弾性率が2.0E+10Pa以下である光透過性柔軟断熱材である。
【0015】
また、本発明では、発泡セル中のシリカゲルを、見掛け密度0.2g/cm以下のエアロゲルとすることができる。
【0016】
さらに、本発明では、発泡セル中のシリカの平均充填率を20−100%とすることができる。
【0017】
さらにまた、本発明では、ポリマーとして、ポリ乳酸系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、 ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル、セロハン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリアセタール、ポリスルホン、ABS、ポリエーテルエーテルケトンからなる群れより選ばれる1種又は2種以上樹脂、又は天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、二トリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムからなる群れより選ばれるエラストマーより選ばれる1種又は2種以上を用いることが出来る。
【0018】
また、本発明では、ポリ乳酸系樹脂がポリ乳酸であり、アクリル系樹脂がポリメチルメタクリレート又はポリアクリル酸であり、ポリエステル系樹脂がポリエチルテレフタレートであり、ポリカーボネート系樹脂がポリカーボネートとすることができる。
【0019】
さらにまた、本発明は、二酸化炭素と、シリコンアルコキシドと、ポリ乳酸系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、 ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル、セロハン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリアセタール、ポリスルホン、ABS、ポリエーテルエーテルケトンからなる群れより選ばれる1種又は2種以上樹脂、又は天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、二トリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムからなる群れより選ばれるエラストマーより選ばれる1種又は2種以上のポリマーとを超臨界条件下で混合し、均一相を形成させる工程、該均一相を減圧して、ポリマーを発泡させると共に発泡セル内にシリコンアルコキシドを充填させる行程、内包されたシリコンアルコキシドを分解する工程を含む光透過性柔軟断熱材の製造方法である。
【0020】
また、本発明は、シリコンアルコキシドが、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトライソプロポキシルシラン、およびそれらのオリゴマーとすることができる。
【0021】
さらにまた、本発明では、減圧行程で超臨界乾燥を行うことができる。
【0022】
また、本発明では、シリコンアルコキシドを分解する工程において、加水分解、熱分解、光照射分解、マイクロ波照射分解からえらばれる手段の1種若しくは2種以上を用いることができる。
さらに本発明は、光透過性柔軟断熱材からなる層と他のポリマー層との複合体である。
またさらに、本発明は、光透過性柔軟断熱材を柔軟な光透過性断熱材他のポリマーに配合した組成物である。
【発明の効果】
【0023】
以上説明したとおり、本発明の光透過性柔軟断熱材によれば、発泡ポリマーの発泡セル中にシリカゲル充填された光透過性柔軟断熱材を製造することができ、熱伝導率が0.05W/mK以下とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の実施の形態を以下のとおり説明する。
【0025】
本発明の光透過性断熱材に使用されるポリマーは、超臨界二酸化炭素およびシリコンアルコキシドに親和性を持ち、弾性率が2.0E+10Pa以下で、膨潤や発泡が可能なものがよく、たとえば、次のもの及びこれらの混合物が挙げられる。なお、共重合体の構造はランダム、ブロック等、立体規則性はアイソタクチック、アタクチック、シンジオタクチックのいずれでもよい。
【0026】
オレフィン系樹脂:エチレン又はプロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン等のα−オレフィン、又はシクロペンテン、シクロヘキセン、シクロオクテン、シクロペンタジエン、1、3−シクロヘキサジエン、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン、トリシクロ[4.3.0.12,5]デカ−3,7−ジエン、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカ−3−エン等のシクロオレフィンの単独重合体、上記α−オレフィン同士の共重合体、及びα−オレフィンと共重合可能な他の単量体、酢酸ビニル、マレイン酸、ビニルアルコール、メタクリル酸、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル等との共重合体等があげられる。
【0027】
ポリエステル系樹脂:テレフタル酸、イソフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、アジピン酸、セバシン酸等のジカルボン酸単量体とエチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコール、ビスフェノール化合物又はその誘導体のアルキレンオキサイド付加物、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール等のジオール又は多価アルコール単量体との共重合体、乳酸、p−ヒドロキシ安息香酸や、2,6−ヒドロキシナフトエ酸、等のヒドロキシカルボン酸等の(共)重合体等があげられる。
【0028】
ポリアミド系樹脂:3員環以上のラクタム、重合可能なω−アミノ酸、二塩基酸とジアミンなどの重縮合によって得られる鎖中に酸アミド結合を有する重合体で、具体的には、ε−カプロラクタム、アミノカプロン酸、エナントラクタム、7−アミノヘプタン酸、11−アミノウンデカン酸、9−アミノノナン酸、α−ピロリドン、α−ピペリドンなどの重合体、ヘキサメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、ウンデカメチレンジアミン、ドデカメチレンジアミン、メタキシレンジアミンなどのジアミンと、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、ドデカン二塩基酸、グルタール酸などのジカルボン酸と重縮合せしめて得られる重合体またはこれらの共重合体であり、たとえば、ナイロン−4、ナイロン−6、ナイロン−7、ナイロン−8、ナイロン−11、ナイロン−12、ナイロン−6、6、ナイロン−6、10、ナイロン−6、11、ナイロン−6、12、ナイロン−6T、ナイロン−6/ナイロン−6、6共重合体、ナイロン−6/ナイロン−12共重合体、ナイロン−6/ナイロン−6T共重合体、ナイロン−6I/ナイロン−6T共重合体等があげられる。
【0029】
上記以外に、ポリカーボネート系樹脂、アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル、セロハン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリアセタール、ポリスルホン、ABS、ポリエーテルエーテルケトン等の樹脂、天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、二トリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムなどのゴム、エラストマー等もあげられる。なお、上記ポリマーのうち、ポリ乳酸、ポリアクリル酸およびそれらの誘導体が、超臨界二酸化炭素およびシリコンとの混和性がよく、好適に用いられる。
【0030】
さらに、本発明では、透明性の高いものが好ましく用いられる。例えば、ポリ乳酸系樹脂がポリ乳酸であり、アクリル系樹脂がポリメチルメタクリレート又はポリアクリル酸であり、ポリエステル系樹脂がポリエチルテレフタレートであり、ポリカーボネート系樹脂がポリカーボネートであることが望ましい。
また、本発明で用いられるポリマーについては、通常使用される添加剤、たとえば可塑剤、安定剤、耐衝撃性向上剤、難燃剤、結晶核剤、滑剤、帯電防止剤、界面活性剤、顔料、染料、充填剤、酸化防止剤、加工助剤、紫外線吸収剤、防曇剤、防菌剤、防黴剤等を単独又は二種以上添加してもよい。
【0031】
本発明で用いられるポリマー内の発泡セル径は、1μm以下であり、好適なセル径は、できるだけ小さいほうが望ましく、ポリマー内に均等に、高密度で分散している構造が望ましい。ポリマー中の平均気孔密度は10〜1015個/cmである。
【0032】
本発明における発泡セル内に形成されたシリカゲルの密度は、0.6g/cm以下であり、好適には0.2g/cm以下であることが望ましい。これはシリカエアロゲルと同等の密度であり、さらに好適には、密度は0.15−12g/cmが望ましい。これはシリカエアロゲルとして最も高い断熱効果を発揮する密度である。また、生成したシリカの気孔内部の充填率が少ないと発泡ポリマーと効果が変わらなくなるため、充填率は20%以上必要であり、完全に空隙を満たしている構造が熱伝導率および光透過性の観点から望ましい。
【0033】
本発明では、シリカの前駆体として、シリコンアルコキシドを用いるが、これは超臨界二酸化炭素およびマトリックスとなるポリマーに対して相溶性を持ち、何らかの手法によりシリカを形成可能なものであれば特に限定されない。また複数のアルコキシドの混合系も利用可能である。具体的には、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシランなどの四官能アルコキシドおよびそれらの誘導体、メチルトリメチルシランなどの三官能アルコキシドおよびそれらの誘導体、さらにそれらのアルコキシドのオリゴマーなどの多量体が挙げられる。これらのアルコキシドからシリカを生成させる手段は特に限定されず、たとえば、加水分解、熱分解、光照射分解、マイクロ波照射分解などが挙げられる。これらの方法はいずれも周知であり、当業者が適宜実施できる。
【0034】
これらのアルコキシドからシリカを生成させる手段は特に限定されず、たとえば、加水分解、熱分解、光照射分解、マイクロ波照射分解などが挙げられる。必要に応じ複数の手法を組み合わせたり、分解反応を複数の工程で用いることも可能である。
【0035】
本発明の材料を製造するには、まず温度調節可能な耐圧容器にポリマー成形体とシリコンアルコキシドを入れ、超臨界二酸化炭素を導入して、ポリマーと超臨界二酸化炭素とシリコンアルコキシドが均一相を形成する高圧の条件とする。超臨界二酸化炭素の場合、臨界圧力は7.3MPaであり、金属化合物およびポリマーと均一相を形成する条件は一般にこれより高いことから9〜25MPaの圧力で行うことが好ましい。また、均一相が生成されれば臨界点付近の亜臨界二酸化炭素雰囲気を用いることも本発明において可能である。また、超臨界二酸化炭素の臨界温度は31℃であるので、35℃以上使用するポリマーの溶融温度程度の温度以下において行うのが好ましく、該ポリマーのガラス転移温度が該臨界温度を越える場合は、該ガラス転移温度にて行うのが好ましい。また、浸透させる時間は、ポリマー成形体の場合、1〜48時間、溶融混練する場合は、5〜60分が好ましい。
【0036】
次いで、耐圧容器内を減圧し、ポリマー、超臨界二酸化炭素とシリコンアルコキシドを相分離させ、発泡したポリマー内にシリカもしくは前駆体を析出させる。減圧の速度および温度を制御することで、発泡セルの大きさとのシリカの含有量が制御可能である。
たとえば急激な速度で減圧すれば、ポリマー外に超臨界二酸化炭素および金属化合物が拡散する時間がないまま溶解度が急激に低下するため、内部に閉じこめられた超臨界二酸化炭素のため気泡は大きくなり、シリカの含有量は高くなる。一方小さな速度で減圧すれば気泡の成長は抑制され、シリカの含有量は低下する。両者を適宜組み合わせて、例えば一旦常圧以上の圧力に急減圧し、一定時間保持し、その後緩慢に減圧することで、気泡のサイズを抑制しつつシリカの含有量を維持することも可能である。さらに急冷却など温度の制御を組み合わせて、ポリマーのガラス転移/結晶化、超臨界二酸化炭素およびシリコンアルコキシドの拡散および溶解度を変化させ、発泡セルの大きさとのシリカの含有量を調製することも可能である。減圧速度は一般には20―0.1MPa/min、温度制御は−196℃(液体窒素)−200℃の範囲が用いられる。
【0037】
析出したシリコンアルコキシドは、減圧後もしくは減圧の過程において、加水分解、熱分解、光照射分解、マイクロ波照射分解などの手法でシリカに変換される。加水分解の場合、ポリマーに吸着されている水を利用する方法、ポリマー構造の縮重合により生成する水を利用する方法、高圧ポンプでの圧入する方法、あらかじめ混合した含水化合物の熱分解などにより水分を供給するなどが挙げられる。減圧、相分離の過程において、シリコンアルコキシドの分解は完全に進行する必要はなく、超臨界二酸化炭素もしくはポリマーへの溶解度が低下し、構造が固定化できればよい。必要に応じ複数の手法を組み合わせることも可能である。
【0038】
シリカをシリカエアロゲルとしたい場合には、発泡セル内にアルコキシドが析出した段階で分解を進行させてシリカの骨格構造を形成し、次いで、二酸化炭素の臨界温度を下回らないようにしつつ徐々に減圧する。これによりセル内の二酸化炭素を超臨界状態から気相状態へと移行させ、液相の生成による界面張力の発生、および急減圧によるシリカ骨格の崩壊を避けてシリカの乾燥を行うことができる。この場合の温度は31℃以上、好ましくは40℃以上ポリマーのガラス転移温度以下である、減圧速度はポリマーのサイズ、形状に依存するが一般的には1MPa/min以下、好ましくは0.1MPaが望ましい。
【0039】
これらの過程は、ポリマー成型体を用い、バッチ型反応器で行うほか、ポリマーの混練押出装置を用いて連続的に製造することも可能である。成型器内でポリマーを溶融混練すると共に超臨界二酸化炭素およびシリコンアルコキシドを導入し、押出成型器の出口側に向けて圧力を制御しつつ減圧、乾燥の工程を行うことも可能である。
【0040】
以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0041】
実施例では、次のとおり試料の分析を行った。
発泡セルの平均径およびシリカ平均粒径:
透過型電子顕微鏡(日本電子(株)製、TEM-2000FXII)にてフィルム状試料をランダムに10カ所サンプリングして観察し、実測した数値の平均を求めた。
【0042】
シリカの含有量:
次の式により求めた。
[シリカの含有量(質量%)]={[シリカ含有フィルム状試料の質量]−[シリカ導入前のフィルム単独の質量]}/[シリカ導入前のフィルム単独の質量]×100
示差熱熱質量同時測定装置(エスアイアイナノテクロノジー製TG/DTA6200 )にてシリカの含有量を求めた。
【0043】
シリカゲルの見掛け密度は、次の式により求めた。
シリカ含有フィルムの密度=100 / [{100−(シリカの含有量)}/発泡ポリマー単体密度]+[{(シリカの含有量)/求めるシリカゲルの見掛け密度}
【0044】
光透過率:
紫外可視分光光度計(日本分光V―570)にてフィルム状試料の光透過率を測定し、JIS R 3106に基づいて光透過率を求めた。
【0045】
熱伝達率:
熱線プローブ式熱伝導率測定装置(京都電子製QTM-500)を用い測定を行った。
【0046】
柔軟性:
動的粘弾性測定装置(エスアイアイナノテクロノジー製DMS6100 )にて室温(25度付近)の弾性率の値を求めた。
【実施例1】
【0047】
あらかじめテトラメトキシシランを入れた耐圧容器に、厚さ 0.03mm、 2.0cm× 2.0cmのポリ乳酸フィルムをテトラメトキシシランに浸からないように入れ、テトラメトキシシランが溶存した超臨界二酸化炭素流体をポリ乳酸に含浸させ、80℃、20MPaの条件下に24時間保持した。この条件下では三者は均一相を形成しうる。その後、徐減圧(0.1MPa/min)にて減圧し、相分離を行わせ、ポリ乳酸に吸着している、およびポリ乳酸構造の縮重合により供給される水により加水分解を進行させることによりシリカ含有ポリ乳酸フィルムを得た。当該試料のシリカ含有量は3.3質量%、光透過率は68%であり、柔軟性、可塑性は含浸前のフィルムとほぼ同等程度であった。透過型電子顕微鏡(TEM)により、平均1μmの気泡がポリマー内にほぼ均質に分散し、気泡内に平均粒径50nmのシリカ成分が存在していることが確認された。このシリカの密度は0.6g/cm3であった。 このフィルムの弾性率は9.3E×8Paであった。このフィルム状試料の熱伝達率は0.042W/mKであった。反応の模式図を図2に示す。
【実施例2】
【0048】
実施例1において減圧方法を急減圧(2MPa/minで減圧)させること以外は、実施例1と同様にしてシリカゲル含有ポリ乳酸を得た。当該試料のシリカ含有量は2.8質量%、光透過率は74%であり、柔軟性、可塑性は含浸前のフィルムとほぼ同等程度であった。透過型電子顕微鏡(TEM)により、実施例1と同じく平均1μmの気泡がポリマー内にほぼ均質に分散し、気泡内に平均粒径50nmのシリカ成分が存在していることが確認された。このシリカの見掛け密度は0.6g/cm3であった。 このフィルムの弾性率は1.7E×9Paであった。このフィルム状試料の熱伝達率は0.039W/mKであった。
【0049】
[比較例1]
実施例1においてシリカの含浸を行わない以外、同様の処理をしたポリ乳酸フィルムを作成し評価を行った。当該試料のシリカ含有量は0質量%、光透過率は74%であり、柔軟性、可塑性は含浸前のフィルムと同等であった。透過型電子顕微鏡(TEM)により、実施例1と同じく平均1μmの気泡がポリマー内にほぼ均質に分散していることが確認された。この試料の熱伝導率は0.072W/mKであった。
【0050】
[比較例2]
テトラメトキシシラン1モルに対し、水4モル、メチルアルコール7.2モル、アンモニア0.01モルの割合で混合して調製したシリカ湿潤ゲルを、20MPa、80℃の超臨界二酸化炭素で超臨界乾燥を行い、実施例1と同様の減圧行程を行ってシリカエアロゲル(直径30mm、高さ7mm)を調製した。このシリカエアロゲルの見掛け密度は0.16g/cm3、光透過率は92%であり、柔軟性、可塑性はなく容易に破断した。この試料の熱伝導率は0.014W/mKであった。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明の光透過性柔軟断熱材は、住宅、建築物の窓用断熱材、窓貼り付け用断熱フィルム、自動車窓用断熱材、シュリンクフィルム等の包装用フィルムに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0052】
【図1】本発明の光透過性柔軟断熱材を応用した複合材の模式図
【図2】本発明における、ポリマーを超臨界条件下で混合し、均一相を形成させる工程、該均一相を減圧して、ポリマーを発泡させると共に発泡セル内にシリコンアルコキシドを充填させる行程における反応の模式図

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー母材中に発泡セルがあり、その発泡セル中にシリカゲルを充填した構造であって、発泡セル中のシリカゲルが、見掛け密度0.6g/cm以下、発泡セル径の大きさが平均1μm以下、平均発泡セル密度が10〜1015個/cmであり、波長380−780nmにおける可視光透過率が50%以上、弾性率が2.0E+10Pa以下である光透過性柔軟断熱材。
【請求項2】
発泡セル中のシリカゲルが、見掛け密度0.2g/cm以下のエアロゲルである請求項1に記載した光透過性柔軟断熱材。
【請求項3】
発泡セル中のシリカの平均充填率が20−100%である請求項1又は請求項2に記載した光透過性柔軟断熱材。
【請求項4】
ポリマーが、ポリ乳酸系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、 ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル、セロハン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリアセタール、ポリスルホン、ABS、ポリエーテルエーテルケトンからなる群れより選ばれる1種又は2種以上樹脂、又は天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、二トリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムからなる群れより選ばれるエラストマーより選ばれる1種又は2種以上である光透過性柔軟断熱材。
【請求項5】
ポリ乳酸系樹脂がポリ乳酸であり、アクリル系樹脂がポリメチルメタクリレート又はポリアクリル酸であり、ポリエステル系樹脂がポリエチルテレフタレートであり、ポリカーボネート系樹脂がポリカーボネートである請求項4に記載した光透過性柔軟断熱材。
【請求項6】
二酸化炭素と、シリコンアルコキシドと、ポリ乳酸系樹脂、アクリル系樹脂、オレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、 ポリアミド系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリビニルアルコール、塩化ビニル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリアクリロニトリル、セロハン、ポリ塩化ビニリデン、フッ素樹脂、ポリアセタール、ポリスルホン、ABS、ポリエーテルエーテルケトンからなる群れより選ばれる1種又は2種以上樹脂、又は天然ゴム、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、1,2−ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム、クロロプレンゴム、二トリルゴム、ブチルゴム、エチレン−プロピレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、アクリルゴム、エピクロルヒドリンゴム、多硫化ゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴムからなる群れより選ばれるエラストマーより選ばれる1種又は2種以上のポリマーとを超臨界条件下で混合し、均一相を形成させる工程、該均一相を減圧して、ポリマーを発泡させると共に発泡セル内にシリコンアルコキシドを充填させる工程、内包されたシリコンアルコキシドを分解する工程を含む光透過性柔軟断熱材の製造方法。
【請求項7】
シリコンアルコキシドが、テトラエトキシシラン、テトラメトキシシラン、テトライソプロポキシルシラン、およびそれらのオリゴマーである請求項6に記載した光透過性柔軟断熱材の製造方法。
【請求項8】
減圧行程で超臨界乾燥を行う請求項6または請求項7に記載の光透過性柔軟断熱材の製造方法。
【請求項9】
シリコンアルコキシドを分解する工程において、加水分解、熱分解、光照射分解、マイクロ波照射分解からえらばれる手段の1種若しくは2種以上を用いる請求項6ないし請求項8のいずれかひとつに記載された光透過性柔軟断熱材の製造方法。
【請求項10】
請求項1ないし5の何れかに記載された光透過性柔軟断熱材からなる層と他のポリマー層との複合体。
【請求項11】
請求項1ないし5の何れかに記載された光透過性柔軟断熱材を他のポリマーに配合した組成物。



【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2008−45013(P2008−45013A)
【公開日】平成20年2月28日(2008.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−220906(P2006−220906)
【出願日】平成18年8月14日(2006.8.14)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000106726)シーアイ化成株式会社 (267)
【Fターム(参考)】