光透過性金属酸化物膜の形成方法
【課題】下地膜を酸素や水分と反応させずに、下地膜の表面に光が透過できる金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法を提供する。
【解決手段】
気体分子を前記気体分子の凝縮温度以下の凝縮面に凝縮させて捕捉する第一の真空ポンプ121を用いて第一の真空雰囲気を形成し、第一の真空雰囲気中に配置された成膜対象物30の下地膜の表面に金属酸化物の粒子を付着させて第一の金属酸化物膜を形成し、気体分子を大気中に移動させる第二の真空ポンプ122を用いて第二の真空雰囲気を形成し、化学構造中に酸素を有する反応性ガスの第二の真空雰囲気中の分圧を第一の真空雰囲気中の分圧より大きくし、第二の真空雰囲気中に配置された成膜対象物の第一の金属酸化物膜の表面に金属又は金属酸化物の粒子を付着させて第二の金属酸化物膜を形成する。
【解決手段】
気体分子を前記気体分子の凝縮温度以下の凝縮面に凝縮させて捕捉する第一の真空ポンプ121を用いて第一の真空雰囲気を形成し、第一の真空雰囲気中に配置された成膜対象物30の下地膜の表面に金属酸化物の粒子を付着させて第一の金属酸化物膜を形成し、気体分子を大気中に移動させる第二の真空ポンプ122を用いて第二の真空雰囲気を形成し、化学構造中に酸素を有する反応性ガスの第二の真空雰囲気中の分圧を第一の真空雰囲気中の分圧より大きくし、第二の真空雰囲気中に配置された成膜対象物の第一の金属酸化物膜の表面に金属又は金属酸化物の粒子を付着させて第二の金属酸化物膜を形成する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性金属酸化物膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、発光効率が高く、薄い発光装置を組み立てることができることから、近年では、表示装置や照明機器の用途に注目されている。また、有機太陽電池は、軽量でかつ折り曲げが可能であり、盛んに研究開発が行われている。
図8は従来の有機EL素子の一例の内部側面図である。
【0003】
有機EL素子130は、基板171と、反射層172と、陽極173と、ホール注入層174と、ホール輸送層175と、有機発光層176と、電子輸送層177と、電子注入層178と、陰極131とを有しており、各層172〜178、131は基板171上にこの順に積層されている。
【0004】
陽極173と陰極131は光を透過できる光透過性の導電性金属酸化物膜であり、ITOなどが用いられている。ホール注入層174と、ホール輸送層175と、有機発光層176と、電子輸送層177と、電子注入層178はいずれも有機物からなる薄膜であり、特に陰極131と接触する電子注入層178には、仕事関数の小さいLiなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属が有機物中に分散された状態で含有された構造が用いられる。
【0005】
特許文献1、2には有機物からなる薄膜の形成方法が開示されている。
従来の陰極131の形成方法を説明すると、真空槽内に成膜対象物を電子注入層178を露出させた状態で配置し、真空槽内に化学構造中に酸素を含有する反応性ガスを導入し、金属酸化物のターゲットをスパッタし、スパッタされた金属酸化物の粒子を導入された反応性ガスと反応させ、電子注入層178の表面に到達させて、金属酸化物の薄膜である陰極131を形成していた。
【0006】
しかしながら、従来の陰極131の形成方法では、反応性ガスに含まれる酸素、特に反応性ガスから生じた酸素イオンや酸素ラジカルが、電子注入層178に含まれる金属や有機物と反応し、電子注入層178が損傷するという問題があった。
【0007】
また、陰極131を形成する際に、気体分子を凝縮面に凝縮させて捕捉する溜め込み式の真空ポンプ(クライオポンプ)を用いて真空槽内の真空排気を行うと、凝縮面に捕捉された反応性ガスが爆発を起こす危険があるため、気体分子を大気中に移動させる気体輸送式の真空ポンプ(分子ポンプ)を用いる必要があったが、気体輸送式の真空ポンプは水分(H2O)等の気体分子に対する排気速度が溜め込み式の真空ポンプより低いため、真空槽内の水分の分圧が高くなり、真空槽内に残留する水分が電子注入層178の有機物にダメージを与えるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−146219号公報
【特許文献2】特開2002−184571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、下地膜を酸素や水分と反応させずに、下地膜の表面に光が透過できる金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、酸素と反応する下地膜が表面に露出する成膜対象物の前記下地膜の表面に、光が透過できる金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、気体分子を前記気体分子の凝縮温度以下の凝縮面に凝縮させて捕捉する第一の真空ポンプを用いて第一の真空雰囲気を形成し、前記第一の真空雰囲気中に配置された前記成膜対象物の前記下地膜の表面に金属酸化物の粒子を付着させて第一の金属酸化物膜を形成し、気体分子を大気中に移動させる第二の真空ポンプを用いて第二の真空雰囲気を形成し、化学構造中に酸素を有する反応性ガスの前記第二の真空雰囲気中の分圧を前記第一の真空雰囲気中の分圧より大きくし、前記第二の真空雰囲気中に配置された前記成膜対象物の前記第一の金属酸化物膜の表面に金属又は金属酸化物のいずれか一方又は両方の粒子を付着させて第二の金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
本発明は光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、前記第一、第二の真空雰囲気を互いに異なる真空槽内にそれぞれ形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
本発明は光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、前記第一、第二の真空雰囲気を同一の真空槽内にそれぞれ形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
本発明は光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、前記第一の金属酸化物膜を形成する工程では、前記第一の真空雰囲気中に不活性ガスを有する第一のスパッタガスを導入し、前記第一のスパッタガスをプラズマ化し、前記第一の真空雰囲気中に配置された金属酸化物からなる第一のターゲットに電圧を印加してスパッタさせ、前記第一のターゲットから放出された粒子を前記成膜対象物の前記下地膜の表面に到達させて前記第一の金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
本発明は光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、前記第一の金属酸化物膜を形成する工程では、金属酸化物からなる第一の蒸着材料を加熱して前記第一の真空雰囲気中に蒸気を発生させ、前記第一の蒸着材料から放出された粒子を前記成膜対象物の前記下地膜の表面に到達させて前記第一の金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
本発明は光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、前記第二の金属酸化物膜を形成する工程では、前記第二の真空雰囲気中に前記反応性ガスと不活性ガスを有する第二のスパッタガスを導入し、前記第二のスパッタガスをプラズマ化し、前記第二の真空雰囲気中に配置された金属又は金属酸化物のいずれか一方又は両方からなる第二のターゲットに電圧を印加してスパッタさせ、前記第二のターゲットから放出された粒子を前記成膜対象物の前記第一の金属酸化物膜の表面に到達させて前記第二の金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
本発明は光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、前記第二の金属酸化物膜を形成する工程では、前記第二の真空雰囲気中に前記反応性ガスを導入し、金属又は金属酸化物のいずれか一方又は両方からなる第二の蒸着材料を加熱して前記第二の真空雰囲気中に蒸気を発生させ、前記第二の蒸着材料から放出された粒子を前記成膜対象物の前記第一の金属酸化物膜の表面に到達させて前記第二の金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
本発明は光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、前記下地膜は、Liと、Mgと、Baと、Caと、Csのいずれか一種類の金属原子又は二種類以上の金属原子を含有する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
本発明は光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、前記第一の金属酸化物膜は、ITOと、IZOと、AZOと、ZnOと、SnO2と、In2O3からなる金属酸化物群のうちいずれか一種類の金属酸化物を含有し、前記第二の金属酸化物膜は、前記金属酸化物群のうちいずれか一種類の金属酸化物を含有する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
本発明は光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、前記反応性ガスは、O2と、H2Oと、CO2と、COのいずれか一種類のガス又は二種類以上のガスを含有する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
【発明の効果】
【0011】
下地膜を酸素や水分と反応させずに、下地膜の表面に光が透過できる金属酸化物膜を形成することができるので、有機光デバイスの光電効率や寿命を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第一例のスパッタ装置の内部構成図
【図2】第一例の真空蒸着装置の内部構成図
【図3】第一の真空ポンプの内部構成図
【図4】第一の真空ポンプの内部構成図
【図5】隣り合う一組の動翼部と静翼部を立体的に示した模式図
【図6】有機光デバイス製造装置の内部構成図
【図7】(a)〜(f):有機光デバイスの製造方法を説明するための図
【図8】従来の有機EL素子の内部側面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第一例のスパッタ装置の構造>
本発明に用いる第一例のスパッタ装置の構造を説明する。
図1は第一例のスパッタ装置10aの内部構成図を示している。
第一例のスパッタ装置10aは、真空槽11と、真空槽11内を真空排気する第一、第二の真空ポンプ121、122と、真空槽11内に反応性ガスと不活性ガスをそれぞれ導入する反応性ガス源14aと不活性ガス源14bと、金属酸化物のターゲット21を真空槽11内に露出させて保持するカソード電極22と、カソード電極22に電気的に接続された電源装置23とを有している。
【0014】
図3は第一の真空ポンプ121の内部構成図を示している。
第一の真空ポンプ121は、第一の筐体41と、第一の筐体41の壁面に設けられた第一の吸気口42と、第一の筐体41の内部に配置された凝縮パネル43と、凝縮パネル43を冷却する冷凍機44とを有している。第一の筐体41の内部に露出する凝縮パネル43の表面を凝縮面と呼び、符号45を付して示す。
【0015】
第一の真空ポンプ121の第一の吸気口42が真空槽11内に接続された状態で、冷凍機44により凝縮パネル43の温度を真空槽11内の気体分子の凝縮温度以下に冷却すると、真空槽11内の気体分子は第一の吸気口42から第一の筐体41内に入り込み、凝縮面45に凝縮して捕捉され、真空槽11内が真空排気されるようになっている。
第二の真空ポンプ122は、ここでは主真空ポンプ12aと、主真空ポンプ12aで圧縮された気体分子を大気圧まで圧縮する補助真空ポンプ12bとを有している。
【0016】
図4は主真空ポンプ12aの内部構成図を示している。
主真空ポンプ12aは、筒形状の第二の筐体51と、第二の筐体51の一端と他端にそれぞれ設けられた第二の吸気口52と排気口55と、第二の筐体51の内部に配置された複数の動翼部53と静翼部54と、第二の筐体51の中心軸線を中心として回転可能に構成された回転軸56とを有している。
【0017】
回転軸56は、第二の筐体51内で中心軸線が第二の筐体51の中心軸線と一致するように配置され、回転軸56にはモーター57が接続されている。モーター57から回転軸56に動力が伝達されると、回転軸56は中心軸線を中心として回転するようになっている。
【0018】
動翼部53と静翼部54は第二の筐体51の中心軸線に沿って一列に交互に並んで配置されている。
各動翼部53は複数の動翼羽根53aをそれぞれ有しており、一の動翼部53の各動翼羽根53aは、回転軸56を中心に放射状に配置され、第二の筐体51の内壁面に向かって伸びるように向けられた状態で、回転軸56に対して垂直に固定されている。また、各静翼部54は複数の静翼羽根54aをそれぞれ有しており、一の静翼部54の各静翼羽根54aは、回転軸56を中心に放射状に配置され、回転軸56に向かって伸びるように向けられた状態で、第二の筐体51の内壁面に対して垂直に固定されている。
【0019】
図5は動翼羽根53aと静翼羽根54aの外観を説明するために、隣り合う一組の動翼部53と静翼部54を立体的に示した模式図である。符号58は、第二の真空ポンプ122による真空排気時の、回転軸56の回転方向を示している。また、符号59は第二の吸気口52から排気口55へと向かう方向を示している。
【0020】
各動翼羽根53aと各静翼羽根54aは、それぞれ第二の吸気口52に近い辺と排気口55に近い辺の二辺を有している。各動翼羽根53aでは、第二の吸気口52に近い辺は、排気口55に近い辺に対して回転方向58に前進するように傾けられ、各静翼羽根54aでは、第二の吸気口52に近い辺は、排気口55に近い辺に対して回転方向58とは逆向きに前進するように傾けられている。
【0021】
回転軸56が回転方向58に回転すると、各動翼羽根53aの排気口55側を向いた面が前進して気体分子を排気口55側に押しやり、排気口55側から第二の吸気口52側に移動しようとする気体分子は各静翼羽根54aの排気口55側を向いた面で排気口55側に跳ね返される。図4を参照し、気体分子は交互に設けられた動翼部53と静翼部54により、第二の筐体51内を第二の吸気口52側から排気口55側への一方向に移動されるので、排気口55側に近づくにつれて次第に圧縮されていく。
【0022】
補助真空ポンプ12bはドライポンプ又はロータリーポンプであり、主真空ポンプ12aで圧縮された気体分子を機械的に押しやって大気圧まで圧縮できるように構成されている。
主真空ポンプ12aの第二の吸気口52が真空槽11内に接続され、補助真空ポンプ12bが排気口55に接続された状態で、主真空ポンプ12aと補助真空ポンプ12bとを動作させると、真空槽11内の気体分子は第二の吸気口52から吸入されて排気口55から補助真空ポンプ12bを介して大気中に移動され、真空槽11内が真空排気されるようになっている。
【0023】
図1を参照し、第一、第二の真空ポンプ121、122の第一、第二の吸気口42、52は、開閉可能な第一、第二の真空バルブ131、132を介して真空槽11内にそれぞれ接続されている。
第一、第二の真空ポンプ121、122を動作させながら、第一、第二の真空バルブ131、132をそれぞれ開状態にすると、第一、第二の真空ポンプ121、122による真空槽11内の真空排気がそれぞれ開始され、第一、第二の真空バルブ131、132をそれぞれ閉状態にすると、第一、第二の真空ポンプ121、122による真空槽11内の真空排気がそれぞれ停止されるようになっている。
真空槽11内には真空計18が接続され、真空槽11内の圧力を計測できるようになっている。
【0024】
ターゲット21は平板形状の導電性の光透過性金属酸化物であり、本実施例では錫添加酸化インジウム(ITO)が用いられる。
カソード電極22の一面は平坦にされ、ターゲット21はカソード電極22の平坦な一面に密着して固定された状態で、真空槽11内に露出されている。ターゲット21はカソード電極22に電気的に接続されている。真空槽11は接地電位におかれており、カソード電極22と真空槽11とは電気的に絶縁されている。
電源装置23はカソード電極22に電気的に接続され、カソード電極22に電圧を印加できるように構成されている。
【0025】
反応性ガス源14aは化学構造中に酸素を有する反応性ガスを放出できるように構成され、不活性ガス源14bは不活性ガスを放出できるように構成されている。
本実施例では反応性ガスにO2ガスが用いられるが、化学構造中に酸素を有する反応性ガスであればO2ガスに限定されず、O2と、H2Oと、CO2と、COのいずれか一種類のガス又は二種類以上の混合ガスを用いることができる。
【0026】
また本実施例では不活性ガスにArガスが用いられるが、不活性ガスであればArガスに限定されず、Arと、Heと、Krと、Xeのいずれか一種類のガス又は二種類以上の混合ガスを用いることができる。
【0027】
反応性ガス源14aは反応性ガス流量制御装置15aを介して真空槽11内に接続され、不活性ガス源14bは不活性ガス流量制御装置15bを介して真空槽11内に接続されている。
反応性ガス流量制御装置15aと不活性ガス流量制御装置15bは、反応性ガス源14aと不活性ガス源14bからそれぞれ放出され、真空槽11内に導入される反応性ガスと不活性ガスの流量をそれぞれ制御できるように構成されている。
【0028】
真空槽11内には膜厚センサ17が配置されている。膜厚センサ17は、金属酸化物の粒子が付着すると、付着した粒子からなる薄膜の膜厚を検出できるように構成されている。
膜厚センサ17に形成される薄膜の膜厚と、ターゲット21と対面する位置に配置された成膜対象物30の表面に形成される薄膜の膜厚の対応関係を予め求めておくと、膜厚センサ17の検出結果から成膜対象物30の表面に形成される薄膜の膜厚が分かるようになっている。
【0029】
膜厚センサ17には第一の制御装置16aが接続されている。第一の制御装置16aは膜厚センサ17の検出結果に基づいて、反応性ガス流量制御装置15aと不活性ガス流量制御装置15bに制御信号を送って反応性ガスと不活性ガスの流量を制御し、また電源装置23に制御信号を送ってカソード電極22に印加する電圧を制御できるように構成されている。
【0030】
また第一の制御装置16aは第一、第二の真空バルブ131、132に接続され、第一、第二の真空バルブ131、132にそれぞれ制御信号を送って、第一、第二の真空バルブ131、132の開状態と閉状態をそれぞれ変更できるように構成されている。
【0031】
<第一例の光透過性金属酸化物膜の形成方法>
上述の第一例のスパッタ装置10aを用いて、酸素と反応する下地膜が表面に露出する成膜対象物の下地膜の表面に、光が透過できる金属酸化物膜を形成する第一例の光透過性金属酸化物膜の形成方法を説明する。
【0032】
成膜対象物の下地膜は本実施例ではLiが分散された状態で含有されたAlq3の薄膜であるが、酸素と反応する薄膜であればこれに限定されず、Liと、Mgと、Baと、Caと、Csのいずれか一種類の金属原子又は二種類以上の金属原子を含有する薄膜を用いることができる。Liと、Mgと、Baと、Caと、Csはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、仕事関数が小さく、酸素と反応して酸化しやすいという性質がある。
【0033】
(第一の成膜工程)
下地膜の表面に形成する第一の金属酸化物膜の膜厚を、光が透過でき、かつ反応性ガスが透過できない範囲であらかじめ定めておく。本実施例では、1nm以上50nm以下の範囲で定めておく。
第一の真空バルブ131を開状態にして第一の真空ポンプ121により真空槽11内を真空排気し、第一の真空雰囲気を形成する。以後、第一の真空ポンプ121による真空排気を継続して真空槽11内の第一の真空雰囲気を維持する。
【0034】
本実施例では第二の真空バルブ132は閉状態にしておくが、第二の真空バルブ132を開状態にして、第一の真空ポンプ121と一緒に、第二の真空ポンプ122により真空槽11内を真空排気して、第一の真空雰囲気を形成してもよい。
【0035】
第一の真空ポンプ121は第二の真空ポンプ122よりも水分に対する排気速度が大きく、第一の真空ポンプ121を用いて真空槽11内を真空排気することにより、第二の真空ポンプ122を用いるよりも真空槽11内から水分を除去できる。すなわち、水分の第一の真空雰囲気中の分圧は後述する第二の真空雰囲気中の分圧より小さくなる。
【0036】
真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、真空槽11内に成膜対象物30を搬入し、ターゲット21と対面する位置に配置し、成膜対象物30の下地膜をターゲット21と対面させる。
真空槽11内は第一の真空ポンプ121で真空排気されており、真空槽11内に残留する水分が下地膜の有機物に付着して損傷させることを防止できる。
【0037】
不活性ガス流量制御装置15bを制御して、不活性ガス源14bから真空槽11内に不活性ガスを導入する。本実施例では、反応性ガス源14aから真空槽11内に反応性ガスは導入しない。従って、成膜対象物30の下地膜が反応性ガスと反応して損傷することはない。
【0038】
電源装置23からカソード電極22に電圧を印加させると、導入された不活性ガスを有する第一のスパッタガスは電離されてプラズマ化され、カソード電極22が真空槽11に対して負電位におかれているとき、プラズマ中のイオンはターゲット21に衝突して、ターゲット21からスパッタ粒子が放出される。
【0039】
放出されたスパッタ粒子は成膜対象物30の下地膜の表面に到達して付着し、成膜対象物30の下地膜の表面には第一の金属酸化物膜が形成される。
第一の金属酸化物膜の膜厚が所定の膜厚になったら、第一の制御装置16aは、膜厚センサ17の検出結果に基づいて、電源装置23に制御信号を送信してカソード電極22への電圧の印加を停止させる。
第一の金属酸化物膜の膜厚は50nm以下の膜厚であり、光を透過できるようになっている。
【0040】
上記第一の成膜工程では、第一のスパッタガスに反応性ガスを含有させなかったが、反応性ガスの第一の真空雰囲気中の分圧が後述する第二の真空雰囲気中の分圧より小さい限りでは、第一のスパッタガスに反応性ガスを含有させてもよい。反応性ガスの第一の真空雰囲気中の分圧が後述する第二の真空雰囲気中の分圧より小さいならば、下地膜の反応性ガスとの反応は抑制され、一方、第一の金属酸化物膜中の酸素原子の原子パーセントが増加して光透過性が向上する。
【0041】
(第二の成膜工程)
第一の金属酸化物膜の表面に形成する第二の金属酸化物膜の膜厚をあらかじめ定めておく。
第一の真空バルブ131を閉状態にして、第一の真空ポンプ121による真空排気を停止させる。また第二の真空バルブ132が閉状態の場合には、第二の真空バルブ132を開状態にして、第二の真空ポンプ122による真空排気を開始する。第二の真空ポンプ122により真空槽11内に第二の真空雰囲気を形成する。以後、第二の真空ポンプ122による真空槽11内の真空排気を継続して、真空槽11内の第二の真空雰囲気を維持する。
【0042】
反応性ガス流量制御装置15aを制御して、反応性ガス源14aから真空槽11内に反応性ガスを導入し、反応性ガスの第二の真空雰囲気中の分圧を第一の真空雰囲気中の分圧より大きくする。反応性ガスの流量は不活性ガスの流量の0.1%〜10%が好ましい。
【0043】
成膜対象物30の下地膜の表面には1nm以上の所定の膜厚の第一の金属酸化物膜が形成されており、導入された反応性ガスが下地膜と反応して損傷させることが防止される。
また第一の真空ポンプ121による真空排気は停止されており、反応性ガスが第一の真空ポンプ121内に凝縮して捕捉され、第一の真空ポンプ121内で反応を起こす危険がない。
【0044】
電源装置23からカソード電極22に電圧を印加させ、導入された反応性ガスと不活性ガスを有する第二のスパッタガスをプラズマ化し、ターゲット21をスパッタさせる。ターゲット21から放出されたスパッタ粒子は、成膜対象物30の第一の金属酸化物膜の表面に到達して付着し、第一の金属酸化物膜の表面に第二の金属酸化物膜が形成される。
【0045】
ターゲット21の表面は反応性ガスと反応して酸素を含有する。又はターゲット21から放出されたスパッタ粒子は第一の金属酸化物膜の表面に到達するまでの間に反応性ガスと反応して酸素を含有する。又はスパッタ粒子は第一の金属酸化物膜の表面に到達したのち反応性ガスと反応して酸素を含有する。
【0046】
いずれにしても、第一、第二の金属酸化物膜が同一種類の金属酸化物の膜の場合には、第二の金属酸化物膜中の酸素原子の原子パーセントは第一の金属酸化物膜中の酸素原子の原子パーセントより大きくなる。
成膜対象物30の下地膜の表面には1nm以上の所定の膜厚の第一の金属酸化物膜が形成されており、反応性ガスから生じた酸素イオンや酸素ラジカルが下地膜と反応して損傷させることが防止される。
【0047】
第二の金属酸化物膜の膜厚が所定の膜厚になったら、第一の制御装置16aは、膜厚センサ17の検出結果に基づいて、電源装置23に制御信号を送信してカソード電極22への電圧の印加を停止させる。
このようにして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一、第二の金属酸化物膜を有する光透過性金属酸化物膜が形成される。
【0048】
反応性ガス流量制御装置15aと不活性ガス流量制御装置15bを制御して、反応性ガス源14aと不活性ガス源14bから真空槽11内への反応性ガスと不活性ガスの導入を停止する。
真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、成膜済みの成膜対象物30を真空槽11の外側に搬出し、後工程に送る。
【0049】
次いで、真空槽11内から反応性ガスが除去され、真空槽11内の圧力が所定の圧力になったら、第一の真空ポンプ121による真空槽11内の真空排気を再開し、第一の真空雰囲気を形成する。真空槽11内の第一の真空雰囲気を維持しながら、酸素と反応する下地膜が表面に露出した別の成膜対象物30を真空槽11内に搬入し、上述の第一、第二の成膜工程を順に繰り返して、下地膜の表面に第一、第二の金属酸化物膜を有する光透過性金属酸化物膜を形成する。
【0050】
<第一例の真空蒸着装置の構造>
本発明に用いる第一例の真空蒸着装置の構造を説明する。
図2は第一例の真空蒸着装置10bの内部構成図を示している。第一例の真空蒸着装置10bのうち、第一例のスパッタ装置10aと同じ構造の部分には、同じ符号を付して、説明を省略する。
【0051】
第一例の真空蒸着装置10bは、真空槽11と、真空槽11内を真空排気する第一、第二の真空ポンプ121、122と、真空槽11内に反応性ガスを導入する反応性ガス源14aと、蒸着材料26が収容される坩堝27と、蒸着材料26に電子線を照射できる電子銃28とを有している。
【0052】
真空槽11と、第一、第二の真空ポンプ121、122と、反応性ガス源14aの構造は、第一例のスパッタ装置10aと同様であり、説明を省略する。
蒸着材料26は導電性の光透過性金属酸化物であり、本実施例ではITOが用いられる。
【0053】
坩堝27は真空槽11内に配置され、内側に蒸着材料26を収容できるように構成されている。
電子銃28は真空槽11内に配置され、坩堝27内に収容された蒸着材料26に電子線を照射して加熱できるようになっている。符号29は電子線の電子の飛行経路を示している。
蒸着材料26に電子線が照射されて加熱されると、蒸着材料26から金属酸化物の蒸気が放出される。
【0054】
第一例の真空蒸着装置10bは、第一例のスパッタ装置10aの第一の制御装置16aの代わりに、第二の制御装置16bを有している。
第二の制御装置16bは膜厚センサ17に接続されており、膜厚センサ17の検出結果に基づいて、反応性ガス流量制御装置15aに制御信号を送って反応性ガスの流量を制御し、また電子銃28に制御信号を送って電子線の出力を制御できるように構成されている。
【0055】
また第二の制御装置16bは第一、第二の真空バルブ131、132に接続され、第一、第二の真空バルブ131、132にそれぞれ制御信号を送って、第一、第二の真空バルブ131、132の開状態と閉状態をそれぞれ変更できるように構成されている。
【0056】
<第二例の光透過性金属酸化物膜の形成方法>
上述の第一例の真空蒸着装置10bを用いて、酸素と反応する下地膜が表面に露出する成膜対象物の下地膜の表面に、光が透過できる金属酸化物膜を形成する第二例の光透過性金属酸化物膜の形成方法を説明する。
成膜対象物は、第一例の光透過性金属酸化物膜の形成方法に用いる成膜対象物と同様であり、説明を省略する。
【0057】
(第三の成膜工程)
下地膜の表面に形成する第一の金属酸化物膜の膜厚を、光が透過でき、かつ反応性ガスが透過できない範囲であらかじめ定めておく。本実施例では、1nm以上50nm以下の範囲で定めておく。
第一の真空バルブ131を開状態にして第一の真空ポンプ121により真空槽11内を真空排気し、第一の真空雰囲気を形成する。以後、第一の真空ポンプ121による真空排気を継続して真空槽11内の第一の真空雰囲気を維持する。
【0058】
本実施例では第二の真空バルブ132は閉状態にしておくが、第二の真空バルブ132を開状態にして、第一の真空ポンプ121と一緒に、第二の真空ポンプ122により真空槽11内を真空排気して、第一の真空雰囲気を形成してもよい。
【0059】
第一の真空ポンプ121は第二の真空ポンプ122よりも水分に対する排気速度が大きく、第一の真空ポンプ121を用いて真空槽11内を真空排気することにより、第二の真空ポンプ122を用いるよりも真空槽11内から水分を除去できる。すなわち、水分の第一の真空雰囲気中の分圧は後述する第二の真空雰囲気中の分圧より小さくなる。
【0060】
真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、真空槽11内に成膜対象物30を搬入し、下地膜が蒸着材料26と対面する向きで真空槽11内に配置する。
真空槽11内は第一の真空ポンプ121で真空排気されており、真空槽11内に残留する水分が下地膜の有機物に付着して損傷させることを防止できる。
【0061】
電子銃28から坩堝27内の蒸着材料26に電子線を照射して蒸着材料26を加熱し、蒸着材料26から金属酸化物の蒸気を放出させる。
放出された金属酸化物の蒸気は成膜対象物30の下地膜の表面に到達して付着し、成膜対象物30の下地膜の表面には第一の金属酸化物膜が形成される。
【0062】
第一の金属酸化物膜の膜厚が所定の膜厚になったら、第二の制御装置16bは、膜厚センサ17の検出結果に基づいて、電子銃28に制御信号を送信して電子線の照射を停止させる。
第一の金属酸化物膜の膜厚は50nm以下の所定の膜厚であり、光を透過できるようになっている。
【0063】
上述の工程では、真空槽11内に反応性ガスを導入しなかったが、反応性ガスの第一の真空雰囲気中の分圧が後述する第二の真空雰囲気中の分圧より小さい限りでは、真空槽11内に反応性ガスを導入してもよい。反応性ガスの第一の真空雰囲気中の分圧が後述する第二の真空雰囲気中の分圧より小さいならば、下地膜の反応性ガスとの反応は抑制され、一方、第一の金属酸化物膜中の酸素原子の原子パーセントが増加して光透過性が向上する。
【0064】
(第四の成膜工程)
第一の金属酸化物膜の表面に形成する第二の金属酸化物膜の膜厚をあらかじめ定めておく。
第一の真空バルブ131を閉状態にして、第一の真空ポンプ121による真空排気を停止させる。また第二の真空バルブ132が閉状態の場合には、第二の真空バルブ132を開状態にして、第二の真空ポンプ122による真空排気を開始する。第二の真空ポンプ122により真空槽11内に第二の真空雰囲気を形成する。以後、第二の真空ポンプ122による真空槽11内の真空排気を継続して、真空槽11内の第二の真空雰囲気を維持する。
反応性ガス流量制御装置15aを制御して、反応性ガス源14aから真空槽11内に反応性ガスを導入し、反応性ガスの第二の真空雰囲気中の分圧を第一の真空雰囲気中の分圧より大きくする。
【0065】
成膜対象物30の下地膜の表面には1nm以上の所定の膜厚の第一の金属酸化物膜が形成されており、導入された反応性ガスが下地膜と反応して損傷させることが防止される。
また第一の真空ポンプ121による真空排気は停止されており、反応性ガスが第一の真空ポンプ121内に凝縮して捕捉され、第一の真空ポンプ121内で反応を起こす危険がない。
【0066】
電子銃28から坩堝27内の蒸着材料26に電子線を照射して加熱し、蒸着材料26から蒸気を放出させる。蒸着材料26から放出された蒸気は、成膜対象物30の第一の金属酸化物膜の表面に到達して付着し、第一の金属酸化物膜の表面に第二の金属酸化物膜が形成される。
【0067】
蒸着材料26の表面は反応性ガスと反応して酸素を含有する。又は蒸着材料26から放出された蒸気は第一の金属酸化物膜の表面に到達するまでの間に反応性ガスと反応して酸素を含有する。又は蒸気は第一の金属酸化物膜の表面に到達したのち反応性ガスと反応して酸素を含有する。
【0068】
いずれにしても、第一、第二の金属酸化物膜が同一種類の金属酸化物の膜の場合には、第二の金属酸化物膜中の酸素原子の原子パーセントは第一の金属酸化物膜中の酸素原子の原子パーセントより大きくなる。
【0069】
第二の金属酸化物膜の膜厚が所定の膜厚になったら、第二の制御装置16bは、膜厚センサ17の検出結果に基づいて、電子銃28に制御信号を送信して電子線の照射を停止させる。
このようにして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一、第二の金属酸化物膜を有する光透過性金属酸化物膜が形成される。
【0070】
反応性ガス流量制御装置15aを制御して、反応性ガス源14aから真空槽11内への反応性ガスの導入を停止する。
真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、成膜済みの成膜対象物30を真空槽11の外側に搬出し、後工程に送る。
【0071】
次いで、真空槽11内から反応性ガスが除去され、真空槽11内の圧力が所定の圧力になったら、第一の真空ポンプ121による真空槽11内の真空排気を再開し、第一の真空雰囲気を形成する。真空槽11内の第一の真空雰囲気を維持しながら、酸素と反応する下地膜が表面に露出した別の成膜対象物30を真空槽11内に搬入し、上述の第三、第四の成膜工程を順に繰り返して、下地膜の表面に第一、第二の金属酸化物膜を有する光透過性金属酸化物膜を形成する。
【0072】
<第三例の光透過性金属酸化物膜の形成方法>
以下では、第一例のスパッタ装置10aから反応性ガス源14aと反応性ガス流量制御装置15aを省略した装置を第二例のスパッタ装置と呼び、第一例のスパッタ装置10aから第一の真空ポンプ121と第一の真空バルブ131を省略した装置を第三例のスパッタ装置と呼ぶ。
【0073】
第二例、第三例のスパッタ装置を用いて、酸素と反応する下地膜が表面に露出する成膜対象物の下地膜の表面に、光が透過できる金属酸化物膜を形成する第三例の光透過性金属酸化物膜の形成方法を説明する。
成膜対象物は、第一例の光透過性金属酸化物膜の形成方法に用いる成膜対象物と同様であり、説明を省略する。
【0074】
まず、成膜対象物30を第二例のスパッタ装置の真空槽内に搬入し、上述の第一の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一の金属酸化物膜を形成する。
次いで、成膜対象物30を大気に曝さないで第二例のスパッタ装置の真空槽から第三例のスパッタ装置の真空槽内に搬送し、上述の第二の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の第一の金属酸化物膜の表面に、第一の金属酸化物膜より酸素を多く含有する第二の金属酸化物膜を形成する。
このようにして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一、第二の金属酸化物膜を有する光透過性金属酸化物膜が形成される。
【0075】
第三例の光透過性金属酸化物膜の形成方法では、第一例の光透過性金属酸化物膜の形成方法と異なり、第一、第二の金属酸化物膜を互いに異なる真空槽内で形成するため、第一の金属酸化物膜を形成した後、第二の金属酸化物膜の形成を開始する前に、第一の真空ポンプ121による真空排気を停止する工程が不要になる。
【0076】
また、第二例のスパッタ装置の真空槽内には反応性ガスを導入しないので、酸素と反応する下地膜が表面に露出する成膜対象物30を真空槽内に搬入したときに、真空槽内に残留する反応性ガスにより下地膜が損傷するおそれがないし、第一の真空ポンプ121内に反応性ガスが凝縮して反応を起こす危険もない。
【0077】
第三例のスパッタ装置の真空槽内は第一の真空ポンプ121では真空排気されないため、第一例の光透過性金属酸化物膜の形成方法に比べて真空槽内の水分の分圧が高くなるが、真空槽内に搬入する成膜対象物30の下地膜の表面には既に第一の金属酸化物膜が形成されており、水分により下地膜が損傷されることはない。
【0078】
また、第三例のスパッタ装置で一の成膜対象物の第一の金属酸化物膜の表面に第二の金属酸化物膜を形成しながら、第二例のスパッタ装置で別の成膜対象物の下地膜の表面に第一の金属酸化物膜を形成できるので、生産効率を向上できる。
【0079】
<第四例の光透過性金属酸化物膜の形成方法>
以下では、第一例の真空蒸着装置10bから反応性ガス源14aと反応性ガス流量制御装置15aを省略した装置を第二例の真空蒸着装置と呼び、第一例の真空蒸着装置10bから第一の真空ポンプ121と第一の真空バルブ131を省略した装置を第三例の真空蒸着装置と呼ぶ。
【0080】
第二例、第三例の真空蒸着装置を用いて、酸素と反応する下地膜が表面に露出する成膜対象物の下地膜の表面に、光が透過できる金属酸化物膜を形成する第三例の光透過性金属酸化物膜の形成方法を説明する。
成膜対象物は、第一例の光透過性金属酸化物膜の形成方法に用いる成膜対象物と同様であり、説明を省略する。
【0081】
まず、成膜対象物30を第二例の真空蒸着装置の真空槽内に搬入し、上述の第三の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一の金属酸化物膜を形成する。
次いで、成膜対象物30を大気に曝さないで第二例の真空蒸着装置の真空槽から第三例の真空蒸着装置の真空槽内に搬送し、上述の第四の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の第一の金属酸化物膜の表面に、第一の金属酸化物膜より酸素を多く含有する第二の金属酸化物膜を形成する。
【0082】
このようにして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一、第二の金属酸化物膜を有する光透過性金属酸化物膜が形成される。
第四例の光透過性金属酸化物膜の形成方法の利点は、第三例の光透過性金属酸化物膜の形成方法の利点と同様であり、説明を省略する。
【0083】
<第五例の光透過性金属酸化物膜の形成方法>
第二例のスパッタ装置と第三例の真空蒸着装置を用いて、酸素と反応する下地膜が表面に露出する成膜対象物の下地膜の表面に、光が透過できる金属酸化物膜を形成する第五例の光透過性金属酸化物膜の形成方法を説明する。
成膜対象物は、第一例の光透過性金属酸化物膜の形成方法に用いる成膜対象物と同様であり、説明を省略する。
【0084】
まず、成膜対象物30を第二例のスパッタ装置の真空槽内に搬入し、上述の第一の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一の金属酸化物膜を形成する。
次いで、成膜対象物30を大気に曝さないで第二例のスパッタ装置の真空槽から第三例の真空蒸着装置の真空槽内に搬送し、上述の第四の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の第一の金属酸化物膜の表面に、第一の金属酸化物膜より酸素を多く含有する第二の金属酸化物膜を形成する。
【0085】
このようにして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一、第二の金属酸化物膜を有する光透過性金属酸化物膜が形成される。
第五例の光透過性金属酸化物膜の形成方法の利点は、第三例の光透過性金属酸化物膜の形成方法の利点と同様であり、説明を省略する。
【0086】
<第六例の光透過性金属酸化物膜の形成方法>
第二例の真空蒸着装置と第三例のスパッタ装置を用いて、酸素と反応する下地膜が表面に露出する成膜対象物の下地膜の表面に、光が透過できる金属酸化物膜を形成する第五例の光透過性金属酸化物膜の形成方法を説明する。
成膜対象物は、第一例の光透過性金属酸化物膜の形成方法に用いる成膜対象物と同様であり、説明を省略する。
【0087】
まず、成膜対象物30を第二例の真空蒸着装置の真空槽内に搬入し、上述の第三の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一の金属酸化物膜を形成する。
次いで、成膜対象物30を大気に曝さないで第二例の真空蒸着装置の真空槽から第三例のスパッタ装置の真空槽内に搬送し、上述の第二の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の第一の金属酸化物膜の表面に、第一の金属酸化物膜より酸素を多く含有する第二の金属酸化物膜を形成する。
【0088】
このようにして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一、第二の金属酸化物膜を有する光透過性金属酸化物膜が形成される。
第六例の光透過性金属酸化物膜の形成方法の利点は、第三例の光透過性金属酸化物膜の形成方法の利点と同様であり、説明を省略する。
【0089】
上述の第一例〜第六例の光透過性金属酸化物膜の形成方法では、第一、第二の金属酸化物膜としてITOの薄膜を形成したが、第一、第二の金属酸化物膜は導電性の光透過性金属酸化物の膜であればITOに限定されず、第一の金属酸化物膜はITOと、亜鉛添加酸化インジウム(IZO)と、アルミニウム添加酸化亜鉛(AZO)と、ZnOと、SnO2と、In2O3とからなる金属酸化物群のうちいずれか一種類の金属酸化物を含有する膜であり、第二の金属酸化物膜は前記金属酸化物群のうちいずれか一種類の金属酸化物を含有する膜であってもよい。第一、第二の金属酸化物膜は同一種類の金属酸化物を含有する膜であってもよいし、互いに異なる種類の金属酸化物を含有する膜であってもよい。第一、第二の金属酸化物膜が同一種類の金属酸化物を含有する膜の場合には、第二の金属酸化物膜中の酸素原子の原子パーセントは第一の金属酸化物膜中の酸素原子の原子パーセントより大きい。
【0090】
また、第二の金属酸化物膜を形成する際には、ターゲット又は蒸着材料に金属酸化物を用いたが、第一の金属酸化物膜の表面に金属酸化物の膜を形成できるならば、ターゲット又は蒸着材料に金属を用いてもよい。
【0091】
<有機光デバイスの製造方法>
上述の第三例の光透過性金属酸化物膜形成方法を用いた有機光デバイスの製造方法を、有機光デバイスとして有機EL表示装置を例に説明する。
図7(a)は本実施例で用いる成膜対象物30の内部側面図を示している。成膜対象物30は基板71と、基板71の表面に配置された反射層72と、反射層72の表面に配置された所定のパターン形状の陽極73とを有している。
【0092】
基板71には本実施例ではガラス基板が用いられる。
反射層72は本実施例では基板71の表面に密着されたCr膜と、Cr膜の表面に密着されたAg膜とを有し、基板71とは逆側、すなわちAg膜側から入射する光を反射できるようになっている。
陽極73は透明導電膜であり、本実施例ではITOが用いられている。隣り合う二つの陽極73は互いに離間されている。
【0093】
図6は本実施例で用いる有機光デバイス製造装置60の内部構成図を示している。
有機光デバイス製造装置60は、上述の第二例、第三例のスパッタ装置と、搬送室67と、搬入出室61と、ホール注入層とホール輸送層の成膜を行う第一の成膜室62と、光電変換層の成膜を行う第二の成膜室63と、電子輸送層と電子注入層の成膜を行う第三の成膜室64と、アニール室65と、封止層の成膜を行う封止室66とを有している。第二例、第三例のスパッタ装置に符号10c、10dを付して示す。
【0094】
第二例、第三例のスパッタ装置10c、10dの真空槽と、搬入出室61と、第一〜第三の成膜室62〜64と、アニール室65と、封止室66は、搬送室67にそれぞれ気密に接続されている。各室61〜67にはそれぞれ不図示の真空排気装置が接続され、各室61〜67内を真空排気できるように構成されている。
【0095】
搬送室67内には、搬送装置68が配置されている。搬送装置68は、成膜対象物30を、大気に曝さずに、搬送室67を経由して、搬送室67に接続された各室61〜66内と第二例、第三例のスパッタ装置10c、10dの真空槽内に搬入・搬出できるように構成されている。
【0096】
まず、各室61〜67内と第二例、第三例のスパッタ装置10c、10dの真空槽内をそれぞれ真空排気する。以後真空排気を継続して各室61〜67内と第二例、第三例のスパッタ装置10c、10dの真空槽内の真空雰囲気を維持する。
【0097】
搬入出室61内の真空雰囲気を維持しながら、搬入出室61内に成膜対象物30を搬入する。次いで、搬送装置68により、成膜対象物30を、大気に曝さないで、搬入出室61内から第一の成膜室62内に移動させる。
【0098】
(ホール注入層・ホール輸送層成膜工程)
第一の成膜室62は、ホール注入層とホール輸送層の有機材料をそれぞれ加熱して、各有機材料の蒸気を室内にそれぞれ放出できるように構成されている。
【0099】
成膜対象物30を陽極73を露出させた状態で第一の成膜室62内に配置した後、室内にホール注入層の有機材料の蒸気を放出させ、図7(b)を参照し、成膜対象物30の陽極73の表面にホール注入層74を形成する。所定の膜厚のホール注入層74を形成した後、ホール注入層の有機材料の蒸気の放出を停止する。
【0100】
次いで、室内にホール輸送層の有機材料の蒸気を放出させ、成膜対象物30のホール注入層74の表面にホール輸送層75を形成する。所定の膜厚のホール輸送層75を形成した後、ホール輸送層の有機材料の蒸気の放出を停止する。
図6を参照し、搬送装置68により、成膜対象物30を、大気に曝さないで、第一の成膜室62から取り出し、第二の成膜室63内に搬入する。
【0101】
(光電変換層成膜工程)
第二の成膜室63内には、所定のパターン形状の開口が設けられたマスク板39が配置されている。また、第二の成膜室63は、赤色、緑色、青色発光層の有機材料をそれぞれ加熱して、各有機材料の蒸気を室内にそれぞれ放出できるように構成されている。
【0102】
成膜対象物30のホール輸送層75の表面のうち、陽極73の膜厚方向の延長線上に赤色、緑色、青色発光層を成膜すべき部分をそれぞれ定めておく。
成膜対象物30をホール輸送層75を露出させた状態で第二の成膜室63内に配置した後、成膜対象物30とマスク板39とを位置合わせして、ホール輸送層75の表面のうち赤色発光層を成膜すべき部分をマスク板39の開口から露出させる。
【0103】
次いで、室内に赤色発光層の有機材料の蒸気を放出させ、図7(c)を参照し、成膜対象物30のホール輸送層75の表面に所定のパターン形状の赤色発光層76Rを形成する。所定の膜厚の赤色発光層76Rを形成した後、赤色発光層の有機材料の蒸気の放出を停止する。
【0104】
赤色発光層の成膜方法と同様にして、ホール輸送層75の表面のうち緑色発光層を成膜すべき部分をマスク板39の開口から露出させ、成膜対象物30のホール輸送層75の表面に緑色発光層76Gを形成し、ホール輸送層75の表面のうち青色発光層を成膜すべき部分をマスク板39の開口から露出させ、成膜対象物30のホール輸送層75の表面に青色発光層76Bを形成する。
【0105】
成膜対象物30のホール輸送層75の表面に赤色、緑色、青色発光層76R、76G、76Bをそれぞれ形成した後、図6を参照し、搬送装置68により、成膜対象物30を、大気に曝さないで、第二の成膜室63から取り出し、第三の成膜室64内に搬入する。
【0106】
(電子輸送層・電子注入層成膜工程)
第三の成膜室64は、電子注入層と電子輸送層の成膜材料をそれぞれ加熱して、各成膜材料の蒸気を室内にそれぞれ放出できるように構成されている。
【0107】
成膜対象物30を赤色、緑色、青色発光層76R、76G、76Bを露出させた状態で第三の成膜室64内に配置した後、室内に電子輸送層の成膜材料の蒸気を放出させ、図7(d)を参照し、成膜対象物30の赤色、緑色、青色発光層76R、76G、76Bの表面に電子輸送層77を形成する。所定の膜厚の電子輸送層77を形成した後、電子輸送層の成膜材料の蒸気の放出を停止する。
【0108】
次いで、ホール注入層の成膜材料として本実施例ではAlq3とLiを加熱して、室内にAlq3とLiの蒸気を放出させ、成膜対象物30の電子輸送層77の表面にAlq3とLiの蒸気を一緒に到達させ、電子輸送層77の表面にLiが分散された状態で含有されたAlq3の薄膜からなる電子注入層78を形成する。
【0109】
本実施例では、Alq3とLiを加熱して蒸気を生成し、電子輸送層77の表面にLiが分散された状態で含有されたAlq3の薄膜からなる電子注入層78を形成したが、Liの代わりにBa、Ca又はCsを加熱して蒸気を生成し、電子輸送層77の表面にBa、Ca又はCsが分散された状態で含有されたAlq3の薄膜からなる電子注入層78を形成してもよい。
【0110】
また、AgとMgを加熱して蒸気を生成し、電子輸送層77の表面にAgとMgの蒸気を一緒に到達させ、電子輸送層77の表面にMgが分散された状態で含有されたAgの薄膜からなる電子注入層78を形成してもよい。
電子輸送層77の表面に、光を透過できる所定の膜厚の電子注入層78を形成した後、電子注入層の成膜材料の蒸気の放出を停止する。
図6を参照し、搬送装置68により、成膜対象物30を、大気に曝さないで、第三の成膜室64から取り出し、第二例のスパッタ装置10cの真空槽内に搬入する。
【0111】
(陰極成膜工程)
図7(e)を参照し、上述の第三例の光透過性金属酸化物膜の形成方法と同様にして、電子注入層78の表面に光透過性金属酸化物膜である陰極33を形成する。
具体的には、まず上述の第一の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の電子注入層78の表面に、第一の酸素含有量の第一の金属酸化物膜31を形成する。
【0112】
図6を参照し、第一の金属酸化物膜31を形成した後、搬送装置68により、成膜対象物30を、大気に曝さないで、第二例のスパッタ装置10cの真空槽から取り出し、第三例のスパッタ装置10dの真空槽内に搬入する。
【0113】
図7(e)を参照し、上述の第二の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の第一の金属酸化物膜31の表面に、第一の酸素含有量より多い第二の酸素含有量の第二の金属酸化物膜32を形成する。
このようにして第一、第二の金属酸化物膜31、32を有する光透過性金属酸化物である陰極33が形成される。
【0114】
図6を参照し、第二の金属酸化物膜32を形成した後、搬送装置68により、成膜対象物30を、大気に曝さないで、第三例のスパッタ装置10dの真空槽から取り出し、アニール室65に搬入する。
【0115】
(アニール工程)
アニール室65は、内部に配置された成膜対象物30に赤外線を照射して加熱できるように構成されている。
【0116】
成膜対象物30を陰極33を露出させた状態でアニール室65内に配置した後、成膜対象物30の陰極33に赤外線を照射して、有機物を含有する各層74〜78のガラス転移温度未満の温度に加熱する。本実施例では50℃〜200℃の温度範囲に加熱する。
【0117】
陰極33の金属酸化物膜は加熱されると、結晶性が向上し、導電性と光透過性が向上する。
陰極33の加熱を終了した後、搬送装置68により、成膜対象物30を、大気に曝さないで、アニール室65から取り出し、封止室66に搬入する。
【0118】
(封止膜形成工程)
封止室66は、内部に封止材料ガスを導入できるように構成されている。本実施例では、封止材料ガスにSiH4ガスとNH3ガスが用いられる。
【0119】
成膜対象物30を第二の金属酸化物膜32を露出させた状態で封止室66内に配置した後、室内にSiH4ガスとNH3ガスを導入し、図7(f)を参照し、成膜対象物30の第二の金属酸化物膜32の表面でSiH4ガスとNH3ガスを化学反応させ、第二の金属酸化物膜32の表面にSiNxの薄膜である光透過性の封止膜79を形成する。所定の膜厚の封止膜79を形成した後、封止材料ガスの導入を停止する。
【0120】
封止膜79を形成した後、搬送装置68により、成膜対象物30を、大気に曝さないで、封止室66から取り出し、搬入出室61内に搬入する。搬入出室61内の真空雰囲気を維持しながら、搬入出室61から成膜対象物30を搬出し、後工程に送る。
このようにして、有機EL表示装置が形成される。
【0121】
第一、第二の金属酸化物膜31、32を有する陰極33と、陽極73との間に直流電圧を印加すると、陰極33と陽極73からそれぞれ注入された電子とホール(正孔)が赤色、緑色、青色発光層76R、76G、76B内で結合し、光が発生する。電子輸送層77側に進行する光は、電子輸送層77と電子注入層78と第一、第二の金属酸化物膜31、32と、封止膜79を順に透過して外部に放出される。ホール輸送層75側に進行する光は、ホール輸送層75とホール注入層74と陽極73とを順に透過した後、反射層72で反射され、次いで、反射層72上の各層73〜79を順に透過して外部に放出される。
【0122】
上述の有機光デバイスの製造方法では、有機光デバイスとして有機EL表示装置を例に説明したが、有機光デバイスは有機EL表示装置に限定されず、上述の方法と同様にして、封止膜側から光を放出する有機EL照明装置や、封止膜側から入射する光を吸収して電力に変換する有機太陽電池、イメージセンサのようなデバイスを製造することもできる。
【0123】
また、上述の有機光デバイスの製造方法の陰極成膜工程では、第三例の光透過性金属酸化物膜形成方法と同様にして第一、第二の金属酸化物膜31、32を有する陰極33を形成したが、第一例、第二例、第四例〜第六例の光透過性金属酸化物膜形成方法と同様にして第一、第二の金属酸化物膜31、32を有する陰極33を形成してもよい。
【0124】
第一例、第二例の光透過性金属酸化物膜形成方法と同様にして陰極33を形成する場合には、第一、第二の金属酸化物膜31、32を同一の真空槽内で形成するため、有機光デバイス製造装置60の大きさをコンパクトにできる。
【符号の説明】
【0125】
11……真空槽
121……第一の真空ポンプ
122……第二の真空ポンプ
21……ターゲット
30……成膜対象物
31……第一の金属酸化物膜
32……第二の金属酸化物膜
45……凝縮面
【技術分野】
【0001】
本発明は、光透過性金属酸化物膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機EL素子は、発光効率が高く、薄い発光装置を組み立てることができることから、近年では、表示装置や照明機器の用途に注目されている。また、有機太陽電池は、軽量でかつ折り曲げが可能であり、盛んに研究開発が行われている。
図8は従来の有機EL素子の一例の内部側面図である。
【0003】
有機EL素子130は、基板171と、反射層172と、陽極173と、ホール注入層174と、ホール輸送層175と、有機発光層176と、電子輸送層177と、電子注入層178と、陰極131とを有しており、各層172〜178、131は基板171上にこの順に積層されている。
【0004】
陽極173と陰極131は光を透過できる光透過性の導電性金属酸化物膜であり、ITOなどが用いられている。ホール注入層174と、ホール輸送層175と、有機発光層176と、電子輸送層177と、電子注入層178はいずれも有機物からなる薄膜であり、特に陰極131と接触する電子注入層178には、仕事関数の小さいLiなどのアルカリ金属又はアルカリ土類金属が有機物中に分散された状態で含有された構造が用いられる。
【0005】
特許文献1、2には有機物からなる薄膜の形成方法が開示されている。
従来の陰極131の形成方法を説明すると、真空槽内に成膜対象物を電子注入層178を露出させた状態で配置し、真空槽内に化学構造中に酸素を含有する反応性ガスを導入し、金属酸化物のターゲットをスパッタし、スパッタされた金属酸化物の粒子を導入された反応性ガスと反応させ、電子注入層178の表面に到達させて、金属酸化物の薄膜である陰極131を形成していた。
【0006】
しかしながら、従来の陰極131の形成方法では、反応性ガスに含まれる酸素、特に反応性ガスから生じた酸素イオンや酸素ラジカルが、電子注入層178に含まれる金属や有機物と反応し、電子注入層178が損傷するという問題があった。
【0007】
また、陰極131を形成する際に、気体分子を凝縮面に凝縮させて捕捉する溜め込み式の真空ポンプ(クライオポンプ)を用いて真空槽内の真空排気を行うと、凝縮面に捕捉された反応性ガスが爆発を起こす危険があるため、気体分子を大気中に移動させる気体輸送式の真空ポンプ(分子ポンプ)を用いる必要があったが、気体輸送式の真空ポンプは水分(H2O)等の気体分子に対する排気速度が溜め込み式の真空ポンプより低いため、真空槽内の水分の分圧が高くなり、真空槽内に残留する水分が電子注入層178の有機物にダメージを与えるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−146219号公報
【特許文献2】特開2002−184571号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記従来技術の不都合を解決するために創作されたものであり、その目的は、下地膜を酸素や水分と反応させずに、下地膜の表面に光が透過できる金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明は、酸素と反応する下地膜が表面に露出する成膜対象物の前記下地膜の表面に、光が透過できる金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、気体分子を前記気体分子の凝縮温度以下の凝縮面に凝縮させて捕捉する第一の真空ポンプを用いて第一の真空雰囲気を形成し、前記第一の真空雰囲気中に配置された前記成膜対象物の前記下地膜の表面に金属酸化物の粒子を付着させて第一の金属酸化物膜を形成し、気体分子を大気中に移動させる第二の真空ポンプを用いて第二の真空雰囲気を形成し、化学構造中に酸素を有する反応性ガスの前記第二の真空雰囲気中の分圧を前記第一の真空雰囲気中の分圧より大きくし、前記第二の真空雰囲気中に配置された前記成膜対象物の前記第一の金属酸化物膜の表面に金属又は金属酸化物のいずれか一方又は両方の粒子を付着させて第二の金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
本発明は光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、前記第一、第二の真空雰囲気を互いに異なる真空槽内にそれぞれ形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
本発明は光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、前記第一、第二の真空雰囲気を同一の真空槽内にそれぞれ形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
本発明は光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、前記第一の金属酸化物膜を形成する工程では、前記第一の真空雰囲気中に不活性ガスを有する第一のスパッタガスを導入し、前記第一のスパッタガスをプラズマ化し、前記第一の真空雰囲気中に配置された金属酸化物からなる第一のターゲットに電圧を印加してスパッタさせ、前記第一のターゲットから放出された粒子を前記成膜対象物の前記下地膜の表面に到達させて前記第一の金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
本発明は光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、前記第一の金属酸化物膜を形成する工程では、金属酸化物からなる第一の蒸着材料を加熱して前記第一の真空雰囲気中に蒸気を発生させ、前記第一の蒸着材料から放出された粒子を前記成膜対象物の前記下地膜の表面に到達させて前記第一の金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
本発明は光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、前記第二の金属酸化物膜を形成する工程では、前記第二の真空雰囲気中に前記反応性ガスと不活性ガスを有する第二のスパッタガスを導入し、前記第二のスパッタガスをプラズマ化し、前記第二の真空雰囲気中に配置された金属又は金属酸化物のいずれか一方又は両方からなる第二のターゲットに電圧を印加してスパッタさせ、前記第二のターゲットから放出された粒子を前記成膜対象物の前記第一の金属酸化物膜の表面に到達させて前記第二の金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
本発明は光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、前記第二の金属酸化物膜を形成する工程では、前記第二の真空雰囲気中に前記反応性ガスを導入し、金属又は金属酸化物のいずれか一方又は両方からなる第二の蒸着材料を加熱して前記第二の真空雰囲気中に蒸気を発生させ、前記第二の蒸着材料から放出された粒子を前記成膜対象物の前記第一の金属酸化物膜の表面に到達させて前記第二の金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
本発明は光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、前記下地膜は、Liと、Mgと、Baと、Caと、Csのいずれか一種類の金属原子又は二種類以上の金属原子を含有する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
本発明は光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、前記第一の金属酸化物膜は、ITOと、IZOと、AZOと、ZnOと、SnO2と、In2O3からなる金属酸化物群のうちいずれか一種類の金属酸化物を含有し、前記第二の金属酸化物膜は、前記金属酸化物群のうちいずれか一種類の金属酸化物を含有する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
本発明は光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、前記反応性ガスは、O2と、H2Oと、CO2と、COのいずれか一種類のガス又は二種類以上のガスを含有する光透過性金属酸化物膜の形成方法である。
【発明の効果】
【0011】
下地膜を酸素や水分と反応させずに、下地膜の表面に光が透過できる金属酸化物膜を形成することができるので、有機光デバイスの光電効率や寿命を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】第一例のスパッタ装置の内部構成図
【図2】第一例の真空蒸着装置の内部構成図
【図3】第一の真空ポンプの内部構成図
【図4】第一の真空ポンプの内部構成図
【図5】隣り合う一組の動翼部と静翼部を立体的に示した模式図
【図6】有機光デバイス製造装置の内部構成図
【図7】(a)〜(f):有機光デバイスの製造方法を説明するための図
【図8】従来の有機EL素子の内部側面図
【発明を実施するための形態】
【0013】
<第一例のスパッタ装置の構造>
本発明に用いる第一例のスパッタ装置の構造を説明する。
図1は第一例のスパッタ装置10aの内部構成図を示している。
第一例のスパッタ装置10aは、真空槽11と、真空槽11内を真空排気する第一、第二の真空ポンプ121、122と、真空槽11内に反応性ガスと不活性ガスをそれぞれ導入する反応性ガス源14aと不活性ガス源14bと、金属酸化物のターゲット21を真空槽11内に露出させて保持するカソード電極22と、カソード電極22に電気的に接続された電源装置23とを有している。
【0014】
図3は第一の真空ポンプ121の内部構成図を示している。
第一の真空ポンプ121は、第一の筐体41と、第一の筐体41の壁面に設けられた第一の吸気口42と、第一の筐体41の内部に配置された凝縮パネル43と、凝縮パネル43を冷却する冷凍機44とを有している。第一の筐体41の内部に露出する凝縮パネル43の表面を凝縮面と呼び、符号45を付して示す。
【0015】
第一の真空ポンプ121の第一の吸気口42が真空槽11内に接続された状態で、冷凍機44により凝縮パネル43の温度を真空槽11内の気体分子の凝縮温度以下に冷却すると、真空槽11内の気体分子は第一の吸気口42から第一の筐体41内に入り込み、凝縮面45に凝縮して捕捉され、真空槽11内が真空排気されるようになっている。
第二の真空ポンプ122は、ここでは主真空ポンプ12aと、主真空ポンプ12aで圧縮された気体分子を大気圧まで圧縮する補助真空ポンプ12bとを有している。
【0016】
図4は主真空ポンプ12aの内部構成図を示している。
主真空ポンプ12aは、筒形状の第二の筐体51と、第二の筐体51の一端と他端にそれぞれ設けられた第二の吸気口52と排気口55と、第二の筐体51の内部に配置された複数の動翼部53と静翼部54と、第二の筐体51の中心軸線を中心として回転可能に構成された回転軸56とを有している。
【0017】
回転軸56は、第二の筐体51内で中心軸線が第二の筐体51の中心軸線と一致するように配置され、回転軸56にはモーター57が接続されている。モーター57から回転軸56に動力が伝達されると、回転軸56は中心軸線を中心として回転するようになっている。
【0018】
動翼部53と静翼部54は第二の筐体51の中心軸線に沿って一列に交互に並んで配置されている。
各動翼部53は複数の動翼羽根53aをそれぞれ有しており、一の動翼部53の各動翼羽根53aは、回転軸56を中心に放射状に配置され、第二の筐体51の内壁面に向かって伸びるように向けられた状態で、回転軸56に対して垂直に固定されている。また、各静翼部54は複数の静翼羽根54aをそれぞれ有しており、一の静翼部54の各静翼羽根54aは、回転軸56を中心に放射状に配置され、回転軸56に向かって伸びるように向けられた状態で、第二の筐体51の内壁面に対して垂直に固定されている。
【0019】
図5は動翼羽根53aと静翼羽根54aの外観を説明するために、隣り合う一組の動翼部53と静翼部54を立体的に示した模式図である。符号58は、第二の真空ポンプ122による真空排気時の、回転軸56の回転方向を示している。また、符号59は第二の吸気口52から排気口55へと向かう方向を示している。
【0020】
各動翼羽根53aと各静翼羽根54aは、それぞれ第二の吸気口52に近い辺と排気口55に近い辺の二辺を有している。各動翼羽根53aでは、第二の吸気口52に近い辺は、排気口55に近い辺に対して回転方向58に前進するように傾けられ、各静翼羽根54aでは、第二の吸気口52に近い辺は、排気口55に近い辺に対して回転方向58とは逆向きに前進するように傾けられている。
【0021】
回転軸56が回転方向58に回転すると、各動翼羽根53aの排気口55側を向いた面が前進して気体分子を排気口55側に押しやり、排気口55側から第二の吸気口52側に移動しようとする気体分子は各静翼羽根54aの排気口55側を向いた面で排気口55側に跳ね返される。図4を参照し、気体分子は交互に設けられた動翼部53と静翼部54により、第二の筐体51内を第二の吸気口52側から排気口55側への一方向に移動されるので、排気口55側に近づくにつれて次第に圧縮されていく。
【0022】
補助真空ポンプ12bはドライポンプ又はロータリーポンプであり、主真空ポンプ12aで圧縮された気体分子を機械的に押しやって大気圧まで圧縮できるように構成されている。
主真空ポンプ12aの第二の吸気口52が真空槽11内に接続され、補助真空ポンプ12bが排気口55に接続された状態で、主真空ポンプ12aと補助真空ポンプ12bとを動作させると、真空槽11内の気体分子は第二の吸気口52から吸入されて排気口55から補助真空ポンプ12bを介して大気中に移動され、真空槽11内が真空排気されるようになっている。
【0023】
図1を参照し、第一、第二の真空ポンプ121、122の第一、第二の吸気口42、52は、開閉可能な第一、第二の真空バルブ131、132を介して真空槽11内にそれぞれ接続されている。
第一、第二の真空ポンプ121、122を動作させながら、第一、第二の真空バルブ131、132をそれぞれ開状態にすると、第一、第二の真空ポンプ121、122による真空槽11内の真空排気がそれぞれ開始され、第一、第二の真空バルブ131、132をそれぞれ閉状態にすると、第一、第二の真空ポンプ121、122による真空槽11内の真空排気がそれぞれ停止されるようになっている。
真空槽11内には真空計18が接続され、真空槽11内の圧力を計測できるようになっている。
【0024】
ターゲット21は平板形状の導電性の光透過性金属酸化物であり、本実施例では錫添加酸化インジウム(ITO)が用いられる。
カソード電極22の一面は平坦にされ、ターゲット21はカソード電極22の平坦な一面に密着して固定された状態で、真空槽11内に露出されている。ターゲット21はカソード電極22に電気的に接続されている。真空槽11は接地電位におかれており、カソード電極22と真空槽11とは電気的に絶縁されている。
電源装置23はカソード電極22に電気的に接続され、カソード電極22に電圧を印加できるように構成されている。
【0025】
反応性ガス源14aは化学構造中に酸素を有する反応性ガスを放出できるように構成され、不活性ガス源14bは不活性ガスを放出できるように構成されている。
本実施例では反応性ガスにO2ガスが用いられるが、化学構造中に酸素を有する反応性ガスであればO2ガスに限定されず、O2と、H2Oと、CO2と、COのいずれか一種類のガス又は二種類以上の混合ガスを用いることができる。
【0026】
また本実施例では不活性ガスにArガスが用いられるが、不活性ガスであればArガスに限定されず、Arと、Heと、Krと、Xeのいずれか一種類のガス又は二種類以上の混合ガスを用いることができる。
【0027】
反応性ガス源14aは反応性ガス流量制御装置15aを介して真空槽11内に接続され、不活性ガス源14bは不活性ガス流量制御装置15bを介して真空槽11内に接続されている。
反応性ガス流量制御装置15aと不活性ガス流量制御装置15bは、反応性ガス源14aと不活性ガス源14bからそれぞれ放出され、真空槽11内に導入される反応性ガスと不活性ガスの流量をそれぞれ制御できるように構成されている。
【0028】
真空槽11内には膜厚センサ17が配置されている。膜厚センサ17は、金属酸化物の粒子が付着すると、付着した粒子からなる薄膜の膜厚を検出できるように構成されている。
膜厚センサ17に形成される薄膜の膜厚と、ターゲット21と対面する位置に配置された成膜対象物30の表面に形成される薄膜の膜厚の対応関係を予め求めておくと、膜厚センサ17の検出結果から成膜対象物30の表面に形成される薄膜の膜厚が分かるようになっている。
【0029】
膜厚センサ17には第一の制御装置16aが接続されている。第一の制御装置16aは膜厚センサ17の検出結果に基づいて、反応性ガス流量制御装置15aと不活性ガス流量制御装置15bに制御信号を送って反応性ガスと不活性ガスの流量を制御し、また電源装置23に制御信号を送ってカソード電極22に印加する電圧を制御できるように構成されている。
【0030】
また第一の制御装置16aは第一、第二の真空バルブ131、132に接続され、第一、第二の真空バルブ131、132にそれぞれ制御信号を送って、第一、第二の真空バルブ131、132の開状態と閉状態をそれぞれ変更できるように構成されている。
【0031】
<第一例の光透過性金属酸化物膜の形成方法>
上述の第一例のスパッタ装置10aを用いて、酸素と反応する下地膜が表面に露出する成膜対象物の下地膜の表面に、光が透過できる金属酸化物膜を形成する第一例の光透過性金属酸化物膜の形成方法を説明する。
【0032】
成膜対象物の下地膜は本実施例ではLiが分散された状態で含有されたAlq3の薄膜であるが、酸素と反応する薄膜であればこれに限定されず、Liと、Mgと、Baと、Caと、Csのいずれか一種類の金属原子又は二種類以上の金属原子を含有する薄膜を用いることができる。Liと、Mgと、Baと、Caと、Csはアルカリ金属又はアルカリ土類金属であり、仕事関数が小さく、酸素と反応して酸化しやすいという性質がある。
【0033】
(第一の成膜工程)
下地膜の表面に形成する第一の金属酸化物膜の膜厚を、光が透過でき、かつ反応性ガスが透過できない範囲であらかじめ定めておく。本実施例では、1nm以上50nm以下の範囲で定めておく。
第一の真空バルブ131を開状態にして第一の真空ポンプ121により真空槽11内を真空排気し、第一の真空雰囲気を形成する。以後、第一の真空ポンプ121による真空排気を継続して真空槽11内の第一の真空雰囲気を維持する。
【0034】
本実施例では第二の真空バルブ132は閉状態にしておくが、第二の真空バルブ132を開状態にして、第一の真空ポンプ121と一緒に、第二の真空ポンプ122により真空槽11内を真空排気して、第一の真空雰囲気を形成してもよい。
【0035】
第一の真空ポンプ121は第二の真空ポンプ122よりも水分に対する排気速度が大きく、第一の真空ポンプ121を用いて真空槽11内を真空排気することにより、第二の真空ポンプ122を用いるよりも真空槽11内から水分を除去できる。すなわち、水分の第一の真空雰囲気中の分圧は後述する第二の真空雰囲気中の分圧より小さくなる。
【0036】
真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、真空槽11内に成膜対象物30を搬入し、ターゲット21と対面する位置に配置し、成膜対象物30の下地膜をターゲット21と対面させる。
真空槽11内は第一の真空ポンプ121で真空排気されており、真空槽11内に残留する水分が下地膜の有機物に付着して損傷させることを防止できる。
【0037】
不活性ガス流量制御装置15bを制御して、不活性ガス源14bから真空槽11内に不活性ガスを導入する。本実施例では、反応性ガス源14aから真空槽11内に反応性ガスは導入しない。従って、成膜対象物30の下地膜が反応性ガスと反応して損傷することはない。
【0038】
電源装置23からカソード電極22に電圧を印加させると、導入された不活性ガスを有する第一のスパッタガスは電離されてプラズマ化され、カソード電極22が真空槽11に対して負電位におかれているとき、プラズマ中のイオンはターゲット21に衝突して、ターゲット21からスパッタ粒子が放出される。
【0039】
放出されたスパッタ粒子は成膜対象物30の下地膜の表面に到達して付着し、成膜対象物30の下地膜の表面には第一の金属酸化物膜が形成される。
第一の金属酸化物膜の膜厚が所定の膜厚になったら、第一の制御装置16aは、膜厚センサ17の検出結果に基づいて、電源装置23に制御信号を送信してカソード電極22への電圧の印加を停止させる。
第一の金属酸化物膜の膜厚は50nm以下の膜厚であり、光を透過できるようになっている。
【0040】
上記第一の成膜工程では、第一のスパッタガスに反応性ガスを含有させなかったが、反応性ガスの第一の真空雰囲気中の分圧が後述する第二の真空雰囲気中の分圧より小さい限りでは、第一のスパッタガスに反応性ガスを含有させてもよい。反応性ガスの第一の真空雰囲気中の分圧が後述する第二の真空雰囲気中の分圧より小さいならば、下地膜の反応性ガスとの反応は抑制され、一方、第一の金属酸化物膜中の酸素原子の原子パーセントが増加して光透過性が向上する。
【0041】
(第二の成膜工程)
第一の金属酸化物膜の表面に形成する第二の金属酸化物膜の膜厚をあらかじめ定めておく。
第一の真空バルブ131を閉状態にして、第一の真空ポンプ121による真空排気を停止させる。また第二の真空バルブ132が閉状態の場合には、第二の真空バルブ132を開状態にして、第二の真空ポンプ122による真空排気を開始する。第二の真空ポンプ122により真空槽11内に第二の真空雰囲気を形成する。以後、第二の真空ポンプ122による真空槽11内の真空排気を継続して、真空槽11内の第二の真空雰囲気を維持する。
【0042】
反応性ガス流量制御装置15aを制御して、反応性ガス源14aから真空槽11内に反応性ガスを導入し、反応性ガスの第二の真空雰囲気中の分圧を第一の真空雰囲気中の分圧より大きくする。反応性ガスの流量は不活性ガスの流量の0.1%〜10%が好ましい。
【0043】
成膜対象物30の下地膜の表面には1nm以上の所定の膜厚の第一の金属酸化物膜が形成されており、導入された反応性ガスが下地膜と反応して損傷させることが防止される。
また第一の真空ポンプ121による真空排気は停止されており、反応性ガスが第一の真空ポンプ121内に凝縮して捕捉され、第一の真空ポンプ121内で反応を起こす危険がない。
【0044】
電源装置23からカソード電極22に電圧を印加させ、導入された反応性ガスと不活性ガスを有する第二のスパッタガスをプラズマ化し、ターゲット21をスパッタさせる。ターゲット21から放出されたスパッタ粒子は、成膜対象物30の第一の金属酸化物膜の表面に到達して付着し、第一の金属酸化物膜の表面に第二の金属酸化物膜が形成される。
【0045】
ターゲット21の表面は反応性ガスと反応して酸素を含有する。又はターゲット21から放出されたスパッタ粒子は第一の金属酸化物膜の表面に到達するまでの間に反応性ガスと反応して酸素を含有する。又はスパッタ粒子は第一の金属酸化物膜の表面に到達したのち反応性ガスと反応して酸素を含有する。
【0046】
いずれにしても、第一、第二の金属酸化物膜が同一種類の金属酸化物の膜の場合には、第二の金属酸化物膜中の酸素原子の原子パーセントは第一の金属酸化物膜中の酸素原子の原子パーセントより大きくなる。
成膜対象物30の下地膜の表面には1nm以上の所定の膜厚の第一の金属酸化物膜が形成されており、反応性ガスから生じた酸素イオンや酸素ラジカルが下地膜と反応して損傷させることが防止される。
【0047】
第二の金属酸化物膜の膜厚が所定の膜厚になったら、第一の制御装置16aは、膜厚センサ17の検出結果に基づいて、電源装置23に制御信号を送信してカソード電極22への電圧の印加を停止させる。
このようにして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一、第二の金属酸化物膜を有する光透過性金属酸化物膜が形成される。
【0048】
反応性ガス流量制御装置15aと不活性ガス流量制御装置15bを制御して、反応性ガス源14aと不活性ガス源14bから真空槽11内への反応性ガスと不活性ガスの導入を停止する。
真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、成膜済みの成膜対象物30を真空槽11の外側に搬出し、後工程に送る。
【0049】
次いで、真空槽11内から反応性ガスが除去され、真空槽11内の圧力が所定の圧力になったら、第一の真空ポンプ121による真空槽11内の真空排気を再開し、第一の真空雰囲気を形成する。真空槽11内の第一の真空雰囲気を維持しながら、酸素と反応する下地膜が表面に露出した別の成膜対象物30を真空槽11内に搬入し、上述の第一、第二の成膜工程を順に繰り返して、下地膜の表面に第一、第二の金属酸化物膜を有する光透過性金属酸化物膜を形成する。
【0050】
<第一例の真空蒸着装置の構造>
本発明に用いる第一例の真空蒸着装置の構造を説明する。
図2は第一例の真空蒸着装置10bの内部構成図を示している。第一例の真空蒸着装置10bのうち、第一例のスパッタ装置10aと同じ構造の部分には、同じ符号を付して、説明を省略する。
【0051】
第一例の真空蒸着装置10bは、真空槽11と、真空槽11内を真空排気する第一、第二の真空ポンプ121、122と、真空槽11内に反応性ガスを導入する反応性ガス源14aと、蒸着材料26が収容される坩堝27と、蒸着材料26に電子線を照射できる電子銃28とを有している。
【0052】
真空槽11と、第一、第二の真空ポンプ121、122と、反応性ガス源14aの構造は、第一例のスパッタ装置10aと同様であり、説明を省略する。
蒸着材料26は導電性の光透過性金属酸化物であり、本実施例ではITOが用いられる。
【0053】
坩堝27は真空槽11内に配置され、内側に蒸着材料26を収容できるように構成されている。
電子銃28は真空槽11内に配置され、坩堝27内に収容された蒸着材料26に電子線を照射して加熱できるようになっている。符号29は電子線の電子の飛行経路を示している。
蒸着材料26に電子線が照射されて加熱されると、蒸着材料26から金属酸化物の蒸気が放出される。
【0054】
第一例の真空蒸着装置10bは、第一例のスパッタ装置10aの第一の制御装置16aの代わりに、第二の制御装置16bを有している。
第二の制御装置16bは膜厚センサ17に接続されており、膜厚センサ17の検出結果に基づいて、反応性ガス流量制御装置15aに制御信号を送って反応性ガスの流量を制御し、また電子銃28に制御信号を送って電子線の出力を制御できるように構成されている。
【0055】
また第二の制御装置16bは第一、第二の真空バルブ131、132に接続され、第一、第二の真空バルブ131、132にそれぞれ制御信号を送って、第一、第二の真空バルブ131、132の開状態と閉状態をそれぞれ変更できるように構成されている。
【0056】
<第二例の光透過性金属酸化物膜の形成方法>
上述の第一例の真空蒸着装置10bを用いて、酸素と反応する下地膜が表面に露出する成膜対象物の下地膜の表面に、光が透過できる金属酸化物膜を形成する第二例の光透過性金属酸化物膜の形成方法を説明する。
成膜対象物は、第一例の光透過性金属酸化物膜の形成方法に用いる成膜対象物と同様であり、説明を省略する。
【0057】
(第三の成膜工程)
下地膜の表面に形成する第一の金属酸化物膜の膜厚を、光が透過でき、かつ反応性ガスが透過できない範囲であらかじめ定めておく。本実施例では、1nm以上50nm以下の範囲で定めておく。
第一の真空バルブ131を開状態にして第一の真空ポンプ121により真空槽11内を真空排気し、第一の真空雰囲気を形成する。以後、第一の真空ポンプ121による真空排気を継続して真空槽11内の第一の真空雰囲気を維持する。
【0058】
本実施例では第二の真空バルブ132は閉状態にしておくが、第二の真空バルブ132を開状態にして、第一の真空ポンプ121と一緒に、第二の真空ポンプ122により真空槽11内を真空排気して、第一の真空雰囲気を形成してもよい。
【0059】
第一の真空ポンプ121は第二の真空ポンプ122よりも水分に対する排気速度が大きく、第一の真空ポンプ121を用いて真空槽11内を真空排気することにより、第二の真空ポンプ122を用いるよりも真空槽11内から水分を除去できる。すなわち、水分の第一の真空雰囲気中の分圧は後述する第二の真空雰囲気中の分圧より小さくなる。
【0060】
真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、真空槽11内に成膜対象物30を搬入し、下地膜が蒸着材料26と対面する向きで真空槽11内に配置する。
真空槽11内は第一の真空ポンプ121で真空排気されており、真空槽11内に残留する水分が下地膜の有機物に付着して損傷させることを防止できる。
【0061】
電子銃28から坩堝27内の蒸着材料26に電子線を照射して蒸着材料26を加熱し、蒸着材料26から金属酸化物の蒸気を放出させる。
放出された金属酸化物の蒸気は成膜対象物30の下地膜の表面に到達して付着し、成膜対象物30の下地膜の表面には第一の金属酸化物膜が形成される。
【0062】
第一の金属酸化物膜の膜厚が所定の膜厚になったら、第二の制御装置16bは、膜厚センサ17の検出結果に基づいて、電子銃28に制御信号を送信して電子線の照射を停止させる。
第一の金属酸化物膜の膜厚は50nm以下の所定の膜厚であり、光を透過できるようになっている。
【0063】
上述の工程では、真空槽11内に反応性ガスを導入しなかったが、反応性ガスの第一の真空雰囲気中の分圧が後述する第二の真空雰囲気中の分圧より小さい限りでは、真空槽11内に反応性ガスを導入してもよい。反応性ガスの第一の真空雰囲気中の分圧が後述する第二の真空雰囲気中の分圧より小さいならば、下地膜の反応性ガスとの反応は抑制され、一方、第一の金属酸化物膜中の酸素原子の原子パーセントが増加して光透過性が向上する。
【0064】
(第四の成膜工程)
第一の金属酸化物膜の表面に形成する第二の金属酸化物膜の膜厚をあらかじめ定めておく。
第一の真空バルブ131を閉状態にして、第一の真空ポンプ121による真空排気を停止させる。また第二の真空バルブ132が閉状態の場合には、第二の真空バルブ132を開状態にして、第二の真空ポンプ122による真空排気を開始する。第二の真空ポンプ122により真空槽11内に第二の真空雰囲気を形成する。以後、第二の真空ポンプ122による真空槽11内の真空排気を継続して、真空槽11内の第二の真空雰囲気を維持する。
反応性ガス流量制御装置15aを制御して、反応性ガス源14aから真空槽11内に反応性ガスを導入し、反応性ガスの第二の真空雰囲気中の分圧を第一の真空雰囲気中の分圧より大きくする。
【0065】
成膜対象物30の下地膜の表面には1nm以上の所定の膜厚の第一の金属酸化物膜が形成されており、導入された反応性ガスが下地膜と反応して損傷させることが防止される。
また第一の真空ポンプ121による真空排気は停止されており、反応性ガスが第一の真空ポンプ121内に凝縮して捕捉され、第一の真空ポンプ121内で反応を起こす危険がない。
【0066】
電子銃28から坩堝27内の蒸着材料26に電子線を照射して加熱し、蒸着材料26から蒸気を放出させる。蒸着材料26から放出された蒸気は、成膜対象物30の第一の金属酸化物膜の表面に到達して付着し、第一の金属酸化物膜の表面に第二の金属酸化物膜が形成される。
【0067】
蒸着材料26の表面は反応性ガスと反応して酸素を含有する。又は蒸着材料26から放出された蒸気は第一の金属酸化物膜の表面に到達するまでの間に反応性ガスと反応して酸素を含有する。又は蒸気は第一の金属酸化物膜の表面に到達したのち反応性ガスと反応して酸素を含有する。
【0068】
いずれにしても、第一、第二の金属酸化物膜が同一種類の金属酸化物の膜の場合には、第二の金属酸化物膜中の酸素原子の原子パーセントは第一の金属酸化物膜中の酸素原子の原子パーセントより大きくなる。
【0069】
第二の金属酸化物膜の膜厚が所定の膜厚になったら、第二の制御装置16bは、膜厚センサ17の検出結果に基づいて、電子銃28に制御信号を送信して電子線の照射を停止させる。
このようにして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一、第二の金属酸化物膜を有する光透過性金属酸化物膜が形成される。
【0070】
反応性ガス流量制御装置15aを制御して、反応性ガス源14aから真空槽11内への反応性ガスの導入を停止する。
真空槽11内の真空雰囲気を維持しながら、成膜済みの成膜対象物30を真空槽11の外側に搬出し、後工程に送る。
【0071】
次いで、真空槽11内から反応性ガスが除去され、真空槽11内の圧力が所定の圧力になったら、第一の真空ポンプ121による真空槽11内の真空排気を再開し、第一の真空雰囲気を形成する。真空槽11内の第一の真空雰囲気を維持しながら、酸素と反応する下地膜が表面に露出した別の成膜対象物30を真空槽11内に搬入し、上述の第三、第四の成膜工程を順に繰り返して、下地膜の表面に第一、第二の金属酸化物膜を有する光透過性金属酸化物膜を形成する。
【0072】
<第三例の光透過性金属酸化物膜の形成方法>
以下では、第一例のスパッタ装置10aから反応性ガス源14aと反応性ガス流量制御装置15aを省略した装置を第二例のスパッタ装置と呼び、第一例のスパッタ装置10aから第一の真空ポンプ121と第一の真空バルブ131を省略した装置を第三例のスパッタ装置と呼ぶ。
【0073】
第二例、第三例のスパッタ装置を用いて、酸素と反応する下地膜が表面に露出する成膜対象物の下地膜の表面に、光が透過できる金属酸化物膜を形成する第三例の光透過性金属酸化物膜の形成方法を説明する。
成膜対象物は、第一例の光透過性金属酸化物膜の形成方法に用いる成膜対象物と同様であり、説明を省略する。
【0074】
まず、成膜対象物30を第二例のスパッタ装置の真空槽内に搬入し、上述の第一の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一の金属酸化物膜を形成する。
次いで、成膜対象物30を大気に曝さないで第二例のスパッタ装置の真空槽から第三例のスパッタ装置の真空槽内に搬送し、上述の第二の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の第一の金属酸化物膜の表面に、第一の金属酸化物膜より酸素を多く含有する第二の金属酸化物膜を形成する。
このようにして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一、第二の金属酸化物膜を有する光透過性金属酸化物膜が形成される。
【0075】
第三例の光透過性金属酸化物膜の形成方法では、第一例の光透過性金属酸化物膜の形成方法と異なり、第一、第二の金属酸化物膜を互いに異なる真空槽内で形成するため、第一の金属酸化物膜を形成した後、第二の金属酸化物膜の形成を開始する前に、第一の真空ポンプ121による真空排気を停止する工程が不要になる。
【0076】
また、第二例のスパッタ装置の真空槽内には反応性ガスを導入しないので、酸素と反応する下地膜が表面に露出する成膜対象物30を真空槽内に搬入したときに、真空槽内に残留する反応性ガスにより下地膜が損傷するおそれがないし、第一の真空ポンプ121内に反応性ガスが凝縮して反応を起こす危険もない。
【0077】
第三例のスパッタ装置の真空槽内は第一の真空ポンプ121では真空排気されないため、第一例の光透過性金属酸化物膜の形成方法に比べて真空槽内の水分の分圧が高くなるが、真空槽内に搬入する成膜対象物30の下地膜の表面には既に第一の金属酸化物膜が形成されており、水分により下地膜が損傷されることはない。
【0078】
また、第三例のスパッタ装置で一の成膜対象物の第一の金属酸化物膜の表面に第二の金属酸化物膜を形成しながら、第二例のスパッタ装置で別の成膜対象物の下地膜の表面に第一の金属酸化物膜を形成できるので、生産効率を向上できる。
【0079】
<第四例の光透過性金属酸化物膜の形成方法>
以下では、第一例の真空蒸着装置10bから反応性ガス源14aと反応性ガス流量制御装置15aを省略した装置を第二例の真空蒸着装置と呼び、第一例の真空蒸着装置10bから第一の真空ポンプ121と第一の真空バルブ131を省略した装置を第三例の真空蒸着装置と呼ぶ。
【0080】
第二例、第三例の真空蒸着装置を用いて、酸素と反応する下地膜が表面に露出する成膜対象物の下地膜の表面に、光が透過できる金属酸化物膜を形成する第三例の光透過性金属酸化物膜の形成方法を説明する。
成膜対象物は、第一例の光透過性金属酸化物膜の形成方法に用いる成膜対象物と同様であり、説明を省略する。
【0081】
まず、成膜対象物30を第二例の真空蒸着装置の真空槽内に搬入し、上述の第三の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一の金属酸化物膜を形成する。
次いで、成膜対象物30を大気に曝さないで第二例の真空蒸着装置の真空槽から第三例の真空蒸着装置の真空槽内に搬送し、上述の第四の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の第一の金属酸化物膜の表面に、第一の金属酸化物膜より酸素を多く含有する第二の金属酸化物膜を形成する。
【0082】
このようにして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一、第二の金属酸化物膜を有する光透過性金属酸化物膜が形成される。
第四例の光透過性金属酸化物膜の形成方法の利点は、第三例の光透過性金属酸化物膜の形成方法の利点と同様であり、説明を省略する。
【0083】
<第五例の光透過性金属酸化物膜の形成方法>
第二例のスパッタ装置と第三例の真空蒸着装置を用いて、酸素と反応する下地膜が表面に露出する成膜対象物の下地膜の表面に、光が透過できる金属酸化物膜を形成する第五例の光透過性金属酸化物膜の形成方法を説明する。
成膜対象物は、第一例の光透過性金属酸化物膜の形成方法に用いる成膜対象物と同様であり、説明を省略する。
【0084】
まず、成膜対象物30を第二例のスパッタ装置の真空槽内に搬入し、上述の第一の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一の金属酸化物膜を形成する。
次いで、成膜対象物30を大気に曝さないで第二例のスパッタ装置の真空槽から第三例の真空蒸着装置の真空槽内に搬送し、上述の第四の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の第一の金属酸化物膜の表面に、第一の金属酸化物膜より酸素を多く含有する第二の金属酸化物膜を形成する。
【0085】
このようにして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一、第二の金属酸化物膜を有する光透過性金属酸化物膜が形成される。
第五例の光透過性金属酸化物膜の形成方法の利点は、第三例の光透過性金属酸化物膜の形成方法の利点と同様であり、説明を省略する。
【0086】
<第六例の光透過性金属酸化物膜の形成方法>
第二例の真空蒸着装置と第三例のスパッタ装置を用いて、酸素と反応する下地膜が表面に露出する成膜対象物の下地膜の表面に、光が透過できる金属酸化物膜を形成する第五例の光透過性金属酸化物膜の形成方法を説明する。
成膜対象物は、第一例の光透過性金属酸化物膜の形成方法に用いる成膜対象物と同様であり、説明を省略する。
【0087】
まず、成膜対象物30を第二例の真空蒸着装置の真空槽内に搬入し、上述の第三の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一の金属酸化物膜を形成する。
次いで、成膜対象物30を大気に曝さないで第二例の真空蒸着装置の真空槽から第三例のスパッタ装置の真空槽内に搬送し、上述の第二の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の第一の金属酸化物膜の表面に、第一の金属酸化物膜より酸素を多く含有する第二の金属酸化物膜を形成する。
【0088】
このようにして、成膜対象物30の下地膜の表面に第一、第二の金属酸化物膜を有する光透過性金属酸化物膜が形成される。
第六例の光透過性金属酸化物膜の形成方法の利点は、第三例の光透過性金属酸化物膜の形成方法の利点と同様であり、説明を省略する。
【0089】
上述の第一例〜第六例の光透過性金属酸化物膜の形成方法では、第一、第二の金属酸化物膜としてITOの薄膜を形成したが、第一、第二の金属酸化物膜は導電性の光透過性金属酸化物の膜であればITOに限定されず、第一の金属酸化物膜はITOと、亜鉛添加酸化インジウム(IZO)と、アルミニウム添加酸化亜鉛(AZO)と、ZnOと、SnO2と、In2O3とからなる金属酸化物群のうちいずれか一種類の金属酸化物を含有する膜であり、第二の金属酸化物膜は前記金属酸化物群のうちいずれか一種類の金属酸化物を含有する膜であってもよい。第一、第二の金属酸化物膜は同一種類の金属酸化物を含有する膜であってもよいし、互いに異なる種類の金属酸化物を含有する膜であってもよい。第一、第二の金属酸化物膜が同一種類の金属酸化物を含有する膜の場合には、第二の金属酸化物膜中の酸素原子の原子パーセントは第一の金属酸化物膜中の酸素原子の原子パーセントより大きい。
【0090】
また、第二の金属酸化物膜を形成する際には、ターゲット又は蒸着材料に金属酸化物を用いたが、第一の金属酸化物膜の表面に金属酸化物の膜を形成できるならば、ターゲット又は蒸着材料に金属を用いてもよい。
【0091】
<有機光デバイスの製造方法>
上述の第三例の光透過性金属酸化物膜形成方法を用いた有機光デバイスの製造方法を、有機光デバイスとして有機EL表示装置を例に説明する。
図7(a)は本実施例で用いる成膜対象物30の内部側面図を示している。成膜対象物30は基板71と、基板71の表面に配置された反射層72と、反射層72の表面に配置された所定のパターン形状の陽極73とを有している。
【0092】
基板71には本実施例ではガラス基板が用いられる。
反射層72は本実施例では基板71の表面に密着されたCr膜と、Cr膜の表面に密着されたAg膜とを有し、基板71とは逆側、すなわちAg膜側から入射する光を反射できるようになっている。
陽極73は透明導電膜であり、本実施例ではITOが用いられている。隣り合う二つの陽極73は互いに離間されている。
【0093】
図6は本実施例で用いる有機光デバイス製造装置60の内部構成図を示している。
有機光デバイス製造装置60は、上述の第二例、第三例のスパッタ装置と、搬送室67と、搬入出室61と、ホール注入層とホール輸送層の成膜を行う第一の成膜室62と、光電変換層の成膜を行う第二の成膜室63と、電子輸送層と電子注入層の成膜を行う第三の成膜室64と、アニール室65と、封止層の成膜を行う封止室66とを有している。第二例、第三例のスパッタ装置に符号10c、10dを付して示す。
【0094】
第二例、第三例のスパッタ装置10c、10dの真空槽と、搬入出室61と、第一〜第三の成膜室62〜64と、アニール室65と、封止室66は、搬送室67にそれぞれ気密に接続されている。各室61〜67にはそれぞれ不図示の真空排気装置が接続され、各室61〜67内を真空排気できるように構成されている。
【0095】
搬送室67内には、搬送装置68が配置されている。搬送装置68は、成膜対象物30を、大気に曝さずに、搬送室67を経由して、搬送室67に接続された各室61〜66内と第二例、第三例のスパッタ装置10c、10dの真空槽内に搬入・搬出できるように構成されている。
【0096】
まず、各室61〜67内と第二例、第三例のスパッタ装置10c、10dの真空槽内をそれぞれ真空排気する。以後真空排気を継続して各室61〜67内と第二例、第三例のスパッタ装置10c、10dの真空槽内の真空雰囲気を維持する。
【0097】
搬入出室61内の真空雰囲気を維持しながら、搬入出室61内に成膜対象物30を搬入する。次いで、搬送装置68により、成膜対象物30を、大気に曝さないで、搬入出室61内から第一の成膜室62内に移動させる。
【0098】
(ホール注入層・ホール輸送層成膜工程)
第一の成膜室62は、ホール注入層とホール輸送層の有機材料をそれぞれ加熱して、各有機材料の蒸気を室内にそれぞれ放出できるように構成されている。
【0099】
成膜対象物30を陽極73を露出させた状態で第一の成膜室62内に配置した後、室内にホール注入層の有機材料の蒸気を放出させ、図7(b)を参照し、成膜対象物30の陽極73の表面にホール注入層74を形成する。所定の膜厚のホール注入層74を形成した後、ホール注入層の有機材料の蒸気の放出を停止する。
【0100】
次いで、室内にホール輸送層の有機材料の蒸気を放出させ、成膜対象物30のホール注入層74の表面にホール輸送層75を形成する。所定の膜厚のホール輸送層75を形成した後、ホール輸送層の有機材料の蒸気の放出を停止する。
図6を参照し、搬送装置68により、成膜対象物30を、大気に曝さないで、第一の成膜室62から取り出し、第二の成膜室63内に搬入する。
【0101】
(光電変換層成膜工程)
第二の成膜室63内には、所定のパターン形状の開口が設けられたマスク板39が配置されている。また、第二の成膜室63は、赤色、緑色、青色発光層の有機材料をそれぞれ加熱して、各有機材料の蒸気を室内にそれぞれ放出できるように構成されている。
【0102】
成膜対象物30のホール輸送層75の表面のうち、陽極73の膜厚方向の延長線上に赤色、緑色、青色発光層を成膜すべき部分をそれぞれ定めておく。
成膜対象物30をホール輸送層75を露出させた状態で第二の成膜室63内に配置した後、成膜対象物30とマスク板39とを位置合わせして、ホール輸送層75の表面のうち赤色発光層を成膜すべき部分をマスク板39の開口から露出させる。
【0103】
次いで、室内に赤色発光層の有機材料の蒸気を放出させ、図7(c)を参照し、成膜対象物30のホール輸送層75の表面に所定のパターン形状の赤色発光層76Rを形成する。所定の膜厚の赤色発光層76Rを形成した後、赤色発光層の有機材料の蒸気の放出を停止する。
【0104】
赤色発光層の成膜方法と同様にして、ホール輸送層75の表面のうち緑色発光層を成膜すべき部分をマスク板39の開口から露出させ、成膜対象物30のホール輸送層75の表面に緑色発光層76Gを形成し、ホール輸送層75の表面のうち青色発光層を成膜すべき部分をマスク板39の開口から露出させ、成膜対象物30のホール輸送層75の表面に青色発光層76Bを形成する。
【0105】
成膜対象物30のホール輸送層75の表面に赤色、緑色、青色発光層76R、76G、76Bをそれぞれ形成した後、図6を参照し、搬送装置68により、成膜対象物30を、大気に曝さないで、第二の成膜室63から取り出し、第三の成膜室64内に搬入する。
【0106】
(電子輸送層・電子注入層成膜工程)
第三の成膜室64は、電子注入層と電子輸送層の成膜材料をそれぞれ加熱して、各成膜材料の蒸気を室内にそれぞれ放出できるように構成されている。
【0107】
成膜対象物30を赤色、緑色、青色発光層76R、76G、76Bを露出させた状態で第三の成膜室64内に配置した後、室内に電子輸送層の成膜材料の蒸気を放出させ、図7(d)を参照し、成膜対象物30の赤色、緑色、青色発光層76R、76G、76Bの表面に電子輸送層77を形成する。所定の膜厚の電子輸送層77を形成した後、電子輸送層の成膜材料の蒸気の放出を停止する。
【0108】
次いで、ホール注入層の成膜材料として本実施例ではAlq3とLiを加熱して、室内にAlq3とLiの蒸気を放出させ、成膜対象物30の電子輸送層77の表面にAlq3とLiの蒸気を一緒に到達させ、電子輸送層77の表面にLiが分散された状態で含有されたAlq3の薄膜からなる電子注入層78を形成する。
【0109】
本実施例では、Alq3とLiを加熱して蒸気を生成し、電子輸送層77の表面にLiが分散された状態で含有されたAlq3の薄膜からなる電子注入層78を形成したが、Liの代わりにBa、Ca又はCsを加熱して蒸気を生成し、電子輸送層77の表面にBa、Ca又はCsが分散された状態で含有されたAlq3の薄膜からなる電子注入層78を形成してもよい。
【0110】
また、AgとMgを加熱して蒸気を生成し、電子輸送層77の表面にAgとMgの蒸気を一緒に到達させ、電子輸送層77の表面にMgが分散された状態で含有されたAgの薄膜からなる電子注入層78を形成してもよい。
電子輸送層77の表面に、光を透過できる所定の膜厚の電子注入層78を形成した後、電子注入層の成膜材料の蒸気の放出を停止する。
図6を参照し、搬送装置68により、成膜対象物30を、大気に曝さないで、第三の成膜室64から取り出し、第二例のスパッタ装置10cの真空槽内に搬入する。
【0111】
(陰極成膜工程)
図7(e)を参照し、上述の第三例の光透過性金属酸化物膜の形成方法と同様にして、電子注入層78の表面に光透過性金属酸化物膜である陰極33を形成する。
具体的には、まず上述の第一の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の電子注入層78の表面に、第一の酸素含有量の第一の金属酸化物膜31を形成する。
【0112】
図6を参照し、第一の金属酸化物膜31を形成した後、搬送装置68により、成膜対象物30を、大気に曝さないで、第二例のスパッタ装置10cの真空槽から取り出し、第三例のスパッタ装置10dの真空槽内に搬入する。
【0113】
図7(e)を参照し、上述の第二の成膜工程と同様にして、成膜対象物30の第一の金属酸化物膜31の表面に、第一の酸素含有量より多い第二の酸素含有量の第二の金属酸化物膜32を形成する。
このようにして第一、第二の金属酸化物膜31、32を有する光透過性金属酸化物である陰極33が形成される。
【0114】
図6を参照し、第二の金属酸化物膜32を形成した後、搬送装置68により、成膜対象物30を、大気に曝さないで、第三例のスパッタ装置10dの真空槽から取り出し、アニール室65に搬入する。
【0115】
(アニール工程)
アニール室65は、内部に配置された成膜対象物30に赤外線を照射して加熱できるように構成されている。
【0116】
成膜対象物30を陰極33を露出させた状態でアニール室65内に配置した後、成膜対象物30の陰極33に赤外線を照射して、有機物を含有する各層74〜78のガラス転移温度未満の温度に加熱する。本実施例では50℃〜200℃の温度範囲に加熱する。
【0117】
陰極33の金属酸化物膜は加熱されると、結晶性が向上し、導電性と光透過性が向上する。
陰極33の加熱を終了した後、搬送装置68により、成膜対象物30を、大気に曝さないで、アニール室65から取り出し、封止室66に搬入する。
【0118】
(封止膜形成工程)
封止室66は、内部に封止材料ガスを導入できるように構成されている。本実施例では、封止材料ガスにSiH4ガスとNH3ガスが用いられる。
【0119】
成膜対象物30を第二の金属酸化物膜32を露出させた状態で封止室66内に配置した後、室内にSiH4ガスとNH3ガスを導入し、図7(f)を参照し、成膜対象物30の第二の金属酸化物膜32の表面でSiH4ガスとNH3ガスを化学反応させ、第二の金属酸化物膜32の表面にSiNxの薄膜である光透過性の封止膜79を形成する。所定の膜厚の封止膜79を形成した後、封止材料ガスの導入を停止する。
【0120】
封止膜79を形成した後、搬送装置68により、成膜対象物30を、大気に曝さないで、封止室66から取り出し、搬入出室61内に搬入する。搬入出室61内の真空雰囲気を維持しながら、搬入出室61から成膜対象物30を搬出し、後工程に送る。
このようにして、有機EL表示装置が形成される。
【0121】
第一、第二の金属酸化物膜31、32を有する陰極33と、陽極73との間に直流電圧を印加すると、陰極33と陽極73からそれぞれ注入された電子とホール(正孔)が赤色、緑色、青色発光層76R、76G、76B内で結合し、光が発生する。電子輸送層77側に進行する光は、電子輸送層77と電子注入層78と第一、第二の金属酸化物膜31、32と、封止膜79を順に透過して外部に放出される。ホール輸送層75側に進行する光は、ホール輸送層75とホール注入層74と陽極73とを順に透過した後、反射層72で反射され、次いで、反射層72上の各層73〜79を順に透過して外部に放出される。
【0122】
上述の有機光デバイスの製造方法では、有機光デバイスとして有機EL表示装置を例に説明したが、有機光デバイスは有機EL表示装置に限定されず、上述の方法と同様にして、封止膜側から光を放出する有機EL照明装置や、封止膜側から入射する光を吸収して電力に変換する有機太陽電池、イメージセンサのようなデバイスを製造することもできる。
【0123】
また、上述の有機光デバイスの製造方法の陰極成膜工程では、第三例の光透過性金属酸化物膜形成方法と同様にして第一、第二の金属酸化物膜31、32を有する陰極33を形成したが、第一例、第二例、第四例〜第六例の光透過性金属酸化物膜形成方法と同様にして第一、第二の金属酸化物膜31、32を有する陰極33を形成してもよい。
【0124】
第一例、第二例の光透過性金属酸化物膜形成方法と同様にして陰極33を形成する場合には、第一、第二の金属酸化物膜31、32を同一の真空槽内で形成するため、有機光デバイス製造装置60の大きさをコンパクトにできる。
【符号の説明】
【0125】
11……真空槽
121……第一の真空ポンプ
122……第二の真空ポンプ
21……ターゲット
30……成膜対象物
31……第一の金属酸化物膜
32……第二の金属酸化物膜
45……凝縮面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素と反応する下地膜が表面に露出する成膜対象物の前記下地膜の表面に、光が透過できる金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、
気体分子を前記気体分子の凝縮温度以下の凝縮面に凝縮させて捕捉する第一の真空ポンプを用いて第一の真空雰囲気を形成し、前記第一の真空雰囲気中に配置された前記成膜対象物の前記下地膜の表面に金属酸化物の粒子を付着させて第一の金属酸化物膜を形成し、
気体分子を大気中に移動させる第二の真空ポンプを用いて第二の真空雰囲気を形成し、化学構造中に酸素を有する反応性ガスの前記第二の真空雰囲気中の分圧を前記第一の真空雰囲気中の分圧より大きくし、前記第二の真空雰囲気中に配置された前記成膜対象物の前記第一の金属酸化物膜の表面に金属又は金属酸化物のいずれか一方又は両方の粒子を付着させて第二の金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項2】
前記第一、第二の真空雰囲気を互いに異なる真空槽内にそれぞれ形成する請求項1記載の光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項3】
前記第一、第二の真空雰囲気を同一の真空槽内にそれぞれ形成する請求項1記載の光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項4】
前記第一の金属酸化物膜を形成する工程では、前記第一の真空雰囲気中に不活性ガスを有する第一のスパッタガスを導入し、前記第一のスパッタガスをプラズマ化し、前記第一の真空雰囲気中に配置された金属酸化物からなる第一のターゲットに電圧を印加してスパッタさせ、前記第一のターゲットから放出された粒子を前記成膜対象物の前記下地膜の表面に到達させて前記第一の金属酸化物膜を形成する請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項5】
前記第一の金属酸化物膜を形成する工程では、金属酸化物からなる第一の蒸着材料を加熱して前記第一の真空雰囲気中に蒸気を発生させ、前記第一の蒸着材料から放出された粒子を前記成膜対象物の前記下地膜の表面に到達させて前記第一の金属酸化物膜を形成する請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項6】
前記第二の金属酸化物膜を形成する工程では、前記第二の真空雰囲気中に前記反応性ガスと不活性ガスを有する第二のスパッタガスを導入し、前記第二のスパッタガスをプラズマ化し、前記第二の真空雰囲気中に配置された金属又は金属酸化物のいずれか一方又は両方からなる第二のターゲットに電圧を印加してスパッタさせ、前記第二のターゲットから放出された粒子を前記成膜対象物の前記第一の金属酸化物膜の表面に到達させて前記第二の金属酸化物膜を形成する請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項7】
前記第二の金属酸化物膜を形成する工程では、前記第二の真空雰囲気中に前記反応性ガスを導入し、金属又は金属酸化物のいずれか一方又は両方からなる第二の蒸着材料を加熱して前記第二の真空雰囲気中に蒸気を発生させ、前記第二の蒸着材料から放出された粒子を前記成膜対象物の前記第一の金属酸化物膜の表面に到達させて前記第二の金属酸化物膜を形成する請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項8】
前記下地膜は、Liと、Mgと、Baと、Caと、Csのいずれか一種類の金属原子又は二種類以上の金属原子を含有する請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項9】
前記第一の金属酸化物膜は、ITOと、IZOと、AZOと、ZnOと、SnO2と、In2O3からなる金属酸化物群のうちいずれか一種類の金属酸化物を含有し、
前記第二の金属酸化物膜は、前記金属酸化物群のうちいずれか一種類の金属酸化物を含有する請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項10】
前記反応性ガスは、O2と、H2Oと、CO2と、COのいずれか一種類のガス又は二種類以上のガスを含有する請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項1】
酸素と反応する下地膜が表面に露出する成膜対象物の前記下地膜の表面に、光が透過できる金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法であって、
気体分子を前記気体分子の凝縮温度以下の凝縮面に凝縮させて捕捉する第一の真空ポンプを用いて第一の真空雰囲気を形成し、前記第一の真空雰囲気中に配置された前記成膜対象物の前記下地膜の表面に金属酸化物の粒子を付着させて第一の金属酸化物膜を形成し、
気体分子を大気中に移動させる第二の真空ポンプを用いて第二の真空雰囲気を形成し、化学構造中に酸素を有する反応性ガスの前記第二の真空雰囲気中の分圧を前記第一の真空雰囲気中の分圧より大きくし、前記第二の真空雰囲気中に配置された前記成膜対象物の前記第一の金属酸化物膜の表面に金属又は金属酸化物のいずれか一方又は両方の粒子を付着させて第二の金属酸化物膜を形成する光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項2】
前記第一、第二の真空雰囲気を互いに異なる真空槽内にそれぞれ形成する請求項1記載の光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項3】
前記第一、第二の真空雰囲気を同一の真空槽内にそれぞれ形成する請求項1記載の光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項4】
前記第一の金属酸化物膜を形成する工程では、前記第一の真空雰囲気中に不活性ガスを有する第一のスパッタガスを導入し、前記第一のスパッタガスをプラズマ化し、前記第一の真空雰囲気中に配置された金属酸化物からなる第一のターゲットに電圧を印加してスパッタさせ、前記第一のターゲットから放出された粒子を前記成膜対象物の前記下地膜の表面に到達させて前記第一の金属酸化物膜を形成する請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項5】
前記第一の金属酸化物膜を形成する工程では、金属酸化物からなる第一の蒸着材料を加熱して前記第一の真空雰囲気中に蒸気を発生させ、前記第一の蒸着材料から放出された粒子を前記成膜対象物の前記下地膜の表面に到達させて前記第一の金属酸化物膜を形成する請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項6】
前記第二の金属酸化物膜を形成する工程では、前記第二の真空雰囲気中に前記反応性ガスと不活性ガスを有する第二のスパッタガスを導入し、前記第二のスパッタガスをプラズマ化し、前記第二の真空雰囲気中に配置された金属又は金属酸化物のいずれか一方又は両方からなる第二のターゲットに電圧を印加してスパッタさせ、前記第二のターゲットから放出された粒子を前記成膜対象物の前記第一の金属酸化物膜の表面に到達させて前記第二の金属酸化物膜を形成する請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項7】
前記第二の金属酸化物膜を形成する工程では、前記第二の真空雰囲気中に前記反応性ガスを導入し、金属又は金属酸化物のいずれか一方又は両方からなる第二の蒸着材料を加熱して前記第二の真空雰囲気中に蒸気を発生させ、前記第二の蒸着材料から放出された粒子を前記成膜対象物の前記第一の金属酸化物膜の表面に到達させて前記第二の金属酸化物膜を形成する請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項8】
前記下地膜は、Liと、Mgと、Baと、Caと、Csのいずれか一種類の金属原子又は二種類以上の金属原子を含有する請求項1乃至請求項7のいずれか1項記載の光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項9】
前記第一の金属酸化物膜は、ITOと、IZOと、AZOと、ZnOと、SnO2と、In2O3からなる金属酸化物群のうちいずれか一種類の金属酸化物を含有し、
前記第二の金属酸化物膜は、前記金属酸化物群のうちいずれか一種類の金属酸化物を含有する請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【請求項10】
前記反応性ガスは、O2と、H2Oと、CO2と、COのいずれか一種類のガス又は二種類以上のガスを含有する請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の光透過性金属酸化物膜の形成方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【公開番号】特開2012−178278(P2012−178278A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40752(P2011−40752)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】
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