説明

光選択透過性農業用不織布被覆材およびそれを用いる植物の栽培方法

【課題】 光線透過性が良好で、かつ長期の展張被覆期間に亘って特定の光質を遮光して植物の成長を制御する光選択透過性農業用不織布被覆材を提供し、さらに該被覆材を用いた実用的な植物の成長制御法を提供する。
【解決手段】 400〜700nmの光合成有効放射透過率が78〜90%の範囲で、かつ標準光源D65を基準とする600〜700nmの赤色光の光量子束透過量をR、標準光源D65を基準とする400〜500nmの青色光の光量子束透過量をBとしたときの両者の比(R/B)が1.15〜1.40の範囲にあることを特徴とする光選択透過性農業用不織布被覆材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光選択透過性農業用不織布被覆材およびそれを用いる植物の栽培方法に関する。詳しくは、特定の光質を遮光して植物の生長を制御する光選択透過性農業用不織布被覆材およびそれを用いた施設園芸栽培法に関する。
【背景技術】
【0002】
農業用被覆材としては、ハウス、雨よけ資材、或いはトンネルといった作物を外界から遮断して保護、育成する外張り被覆資材や、あるいは外張りを行った構造物の内側に展張して、保温性の向上や遮光などを目的とする内張り資材がある。また、地面に直接展張して、保温性、防虫性、防風性、保湿性などを目的とするマルチ資材やべた掛け資材がある。これらの被覆材料は、従来、温湿度環境の保持調節を主目的とするものである。
ところで、遠赤色光が多い光環境では植物の伸張生長を促進し、赤色光が多い光環境では伸張生長を抑制することが従来から知られており、これを人工的かつ簡易的に生み出す方法として、特許文献1、特許文献2等には、波長選択性色素を含有した光選択透過性被覆材料を用いて、R/FR(Rは標準光源D65を基準とする600〜700nmの赤色光の光量子束透過量、FRは標準光源D65を基準とする700〜800nmの遠赤色光の光量子束透過量)比を変えることで、植物の生長を制御する方法が開示されている。特に、R/FR比を0.9以下にすることで所定の植物の生長を促進することが知られている。
【0003】
また、従来のプラスチックフィルムの形態の被覆材料では通気性を有しておらず、栽培域内の温度及び湿度が必要以上に上昇しすぎて、そのために植物生長制御効果が十分に発揮できず、該被覆資材を用いての所定目的の植物栽培法が達成されない場合があるが、この問題を解決する光選択透過性被覆材料として、特許文献3には、不織布やネットをベース基材とした通気性を有して、かつR/FR比が0.9以下の特性を有する光選択透過性被覆材料を用いた植物の生長を制御する方法が開示されている。
【0004】
しかしながら、これらの特許に記載されているR/FR比が0.9以下の光選択透過性被覆材料は、400〜700nmの光合成有効放射透過率が50%以上、或いは20%以上の特性を有する被覆材料として記載されているが、実際の該被覆材料はR/FR比を0.9以下の光選択透過性機能を発現させるために所定量以上の赤色吸収色素を配合しており、その結果、光合成有効放射透過率が75%以下と低くなり、被覆材料として本来必要な十分な光線透過性を一部犠牲とした光選択透過性被覆材料となり、実際には植物生長促進効果が不十分となるケースが出ている。
【0005】
また、特許文献4には、光質を変換もしくは選択する色素を含有して、光合成有効放射透過率が80%以上の特徴を有する農園芸用光質変換/選択性被覆資材が開示されており、 また、特許文献5には、所定の期間、R/B(Rは標準光源D65を基準とする600〜700nmの赤色光の光量子束透過量、Bは標準光源D65を基準とする400〜500nmの青色光の光量子束透過量)比を所定の値となるように制御した光を暴露した植物の栽培方法が開示されているが、実際の該被覆資材で採用している色素は、基材に高い光線透過性を維持するためにベース基材に配合する色素として高い分散性を発現できる有機系染料を用いており、そのために色素の耐候性、耐退色性が十分でなく、実際の被覆栽培においては展張後、比較的早期に該被覆資材が退色して目的とする長期間に亘っての植物生長促進を達成することが難しいのが実態である。
【0006】
【特許文献1】特開平7−79649号公報
【特許文献2】特開平8−317735号公報
【特許文献3】特開2001−258403号公報
【特許文献4】特開2001−231381号公報
【特許文献5】特開2002−247919号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、上記問題に鑑み、光線透過性が良好で、かつ長期の展張被覆期間に亘って特定の光質を遮光して植物の生長を制御する光選択透過性農業用不織布被覆材を提供し、さらに該被覆材を用いた実用的な植物の生長制御法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、
1):400〜700nmの光合成有効放射透過率が78〜90%の範囲で、かつ標準光源D65を基準とする600〜700nmの赤色光の光量子束透過量をR、標準光源D65を基準とする400〜500nmの青色光の光量子束透過量をBとしたときの両者の比(R/B)が1.15〜1.40の範囲にあることを特徴とする光選択透過性農業用不織布被覆材、
2):光選択透過性の機能を発現する成分として、アゾ化合物、ペリレン化合物、キナクリドン化合物のいずれか1種類以上から構成される青色吸収有機顔料色素を用いて、熱可塑性樹脂に該色素を用いて着色された不織布からなることを特徴とする前記1)記載の光選択透過性農業用不織布被覆材、
3):前記1)または2)に記載の光選択透過性農業用不織布被覆材を用いて植物を被覆する植物の栽培方法に関するものである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い光線透過性を維持しつつ、色の耐候性、耐退色性に優れ、かつ長期の展張被覆期間に亘って特定の光質を遮光して、植物の生長を格段に制御する光選択透過性農業用不織布被覆材を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の光選択透過性農業用不織布被覆材およびそれを用いる植物の栽培方法について詳細に説明する。
本発明の農業用不織布被覆材は、光を透過させたとき400〜700nmの光合成有効放射透過率が78〜90%の範囲で、かつ標準光源D65を基準とする600〜700nmの赤色光の光量子束透過量をR、標準光源D65を基準とする400〜500nmの青色光の光量子束透過量をBとしたときの両者の比(R/B)が1.15〜1.40の範囲にあることを特徴とする光選択透過性の不織布の形態を有する植物生長制御用被覆材料である。ここでいう光合成有効放射透過率とは、400〜700nmの波長領域での太陽光の光合成有効放射領域の光エネルギーを100とした場合、該被覆材の透過量の光合成有効放射領域の光エネルギーの比(%)を示す。
また、本発明でいう植物生長制御とは、草丈、茎長、節間等の伸張、側枝の生長、葉数、鱗茎、結球、開花、栄養生長等の形態形成に係わる事象の制御をいう。
【0011】
本発明の不織布被覆材は、ポリプロピレンやポリエステル等に代表される熱可塑性樹脂より構成される不織布の形態をいう。不織布を作製する方法としては、光選択性材料を樹脂に混合した後、乾式法、湿式法、直接法(スパンボンド法、メルトブロー法、あるいはフラッシュ紡糸法等)などの方法が挙げられる。また、熱可塑性樹脂を一旦不織布に成形加工した後、光選択性材料をコーティングや含浸させる方法を採用してもよいが、製造工程の省略化や、作製された光選択透過性農業用不織布被覆材の高光線透過性、光選択性材料の耐候性・耐退色性の性能の発現を考慮すると、熱可塑性樹脂に該色素を直接溶融混錬して着色された不織布での作製方法が好ましい。
【0012】
本発明の光選択透過性農業用不織布被覆材において、前記R/B比を1.15〜1.40の範囲にするためには、被覆材が400〜500nmに吸収あるいは反射を持つ必要があり、本発明の被覆材では、その基材中に400〜500nmに吸収波長を有する光選択性材料を含有させる。本発明で用いる400〜500nmに吸収波長を有する光選択透過性の機能を発現する青色吸収色素成分としては、色素成分本来の光選択透過性、耐候性、耐退色性、基材樹脂への分散性などを考慮すると、アゾ化合物、ペリレン化合物、キナクリドン化合物のいずれか1種類以上から構成される青色吸収有機顔料色素を採用することが好ましい。
【0013】
また、本発明の光選択透過性農業用不織布被覆材は、光を透過させたとき400〜700nmの光合成有効放射透過率が78〜90%の範囲にある必要があり、光合成有効放射透過率が78%未満では植物に対する遮光性が高くて、植物が本来必要とされる太陽光量が不足がちとなり、そのために所定植物の栄養生長促進(例えば収量増加、草丈伸張)、花芽分化促進・抑制(例えば開花時期の調整)、味覚の向上(例えば体内栄養成分の調整、体内硝酸態窒素の調整)など、本来の被覆栽培目的とする高品質の栽培方法を目指す植物生長制御には適さない。
【0014】
尚、本発明の光選択性農業用不織布被覆材の400〜700nmの光合成有効放射透過率が78〜90%の範囲に調整して作製する方法としては、添加配合する上記青色吸収色素の種類の他に、その配合添加量の調整が係わり、その場合、目的とする栽培効果を勘案すると、上記青色吸収色素の添加量は、好ましくは0.01〜0.5%、さらに好ましくは0.05〜0.4%の配合調整が好ましい。
また、光選択性農業用不織布被覆材の400〜700nmの光合成有効放射透過率が78〜90%の範囲に調整して作製する方法としては、それ以外に、不織布自体本来の光線透過率を左右する要因、すなわち、不織布の構成樹脂、繊維径、目付けなどが係わっており、その場合、目的とする光線透過性の他に、資材強度や各種性能を勘案すると、構成樹脂はポリプロピレン、ポリアミド、ポリエステル(いずれも単一構成品)、あるいはポリエステル(芯)/ポリエチレン(鞘)の2層構成品が好ましく、その場合の作製された不織布の繊維径は1〜15dの範囲のものが好ましく、また、不織布の目付けは10〜30g/mの範囲のものが好ましい。
【0015】
尚、本発明の光選択性農業用不織布被覆材には農業用被覆資材として必要な各種添加剤、例えば紫外線吸収剤、酸化防止剤、耐候安定剤、滑剤、各種界面活性剤等を適宜添加することができる。
【0016】
本発明の光選択性農業用不織布被覆材は、400〜700nmの光合成有効放射透過率が78〜90%の範囲で、かつ標準光源D65を基準とする600〜700nmの赤色光の光量子束透過量をR、標準光源D65を基準とする400〜500nmの青色光の光量子束透過量をBとしたときの両者の比(R/B)が1.15〜1.40の範囲にあることを特徴とする光選択透過性農業用不織布被覆材であるが、光合成有効放射透過率が78〜90%の範囲で、かつ、R/B値を1.15〜1.40の範囲とすることで、植物が本来必要とされる太陽光量を十分に確保するとともに、被覆内の光質環境を短日条件環境に変えることができ、これにより、植物が体内に本来有する光受容物質に作用する。特に、その光受容体の1種であるクリプトクロム(青色領域光線に反応)に強く作用して、植物の生長(栄養生長、生殖生長)に影響を与えることができる。
【0017】
その結果、作物に該光選択性農業用不織布被覆材を被覆することで、所定の作物、例えば根茎菜類の栄養生長促進(生育促進)や、長日性植物の生殖生長促進(花芽分化促進)を行うことが期待される。
【0018】
本発明の被覆材料を園芸施設に適用する方法としては、該被覆材料で作物全体あるいは作物の一部に対して、周囲全面、あるいは光が入射してくる少なくとも一面を被覆する方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、上記の方法で作製した該被覆材をトンネルハウスに用いる方法、内張り被覆材に用いる方法、べた掛け資材に用いる方法、袋掛け資材に用いる方法等、各種方法を用いることができる。
【実施例】
【0019】
本発明について、以下の具体的な実施例および比較例により、さらに詳細に説明する。
尚、実施例中の400〜700nmの光合成有効放射透過率、標準光源D65を基準とする600〜700nmの赤色光の光量子束透過量(R)、標準光源D65を基準とする400〜500nmの青色光の光量子束透過量(B)の比(R/B値)は、日立製作所製分光光度計(U−3500)を用いて測定した透過量の分光透過率より計算して得た。
【0020】
(実施例1)
縮合アゾレッドBRを0.2重量部とポリプロピレン(融点160℃)100重量部を230℃で溶融混合した後、スパンボンド成形機を用いて、目付け19g/m、繊維径10dの着色不織布を作製した。本不織布を分光光度計にて光線透過特性を測定した結果、400〜700nmの光合成有効放射透過率は85%、R/B値は1.26であった。
(実施例2)
実施例1において、縮合アゾレッドBRの配合量を0.1重量部に変更して、実施例1と同様の方法にて目付け19g/m、繊維径10dの着色不織布を作製した。本不織布を分光光度計にて光線透過特性を測定した結果、400〜700nmの光合成有効放射透過率は88%、R/B値は1.18であった。
(実施例3)
実施例1において、青色吸収色素成分をペリレンレッド178の0.2重量部に代えて、実施例1と同様の方法にて目付け20g/m、繊維径9dの着色不織布を作製した。本不織布を分光光度計にて光線透過特性を測定した結果、400〜700nmの光合成有効放射透過率は81%、R/B値は1.34であった。
(実施例4)
実施例1において、不織布樹脂構成を芯部樹脂をポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部、鞘部樹脂を縮合アゾレッドBRを0.2重量部と低密度ポリエチレン樹脂(融点125℃)100重量部からなる組成で、層比が芯部:鞘部=3:1の2層構成の繊維を作製して、これをスパンボンド成形機を用いて、目付け15g/m、繊維径6dのポリエステル系着色不織布を作製した。本不織布を分光光度計にて光線透過特性を測定した結果、400〜700nmの光合成有効放射透過率は83%、R/B値は1.22であった。
【0021】
(比較例1)
実施例1において、青色吸収色素成分を配合しないで、同様の方法にて目付け19g/m、繊維径10dの着色不織布を作製した。本不織布を分光光度計にて光線透過特性を測定した結果、400〜700nmの光合成有効放射透過率は92%、R/B値は1.11であった。
(比較例2)
実施例1において、縮合アゾレッドBRの配合量を0.6重量部に変更して、実施例1と同様の方法にて目付け19g/m、繊維径3dの着色不織布を作製した。本不織布を分光光度計にて光線透過特性を測定した結果、400〜700nmの光合成有効放射透過率は62%、R/B値は1.49であった。
(比較例3)
実施例1において、配合する色素を青色吸収色素成分から赤色吸収色素成分である銅フタロシアニンブルー0.2重量部に変更して、実施例1と同様の方法にて目付け19g/m、繊維径10dの着色不織布を作製した。本不織布を分光光度計にて光線透過特性を測定した結果、400〜700nmの光合成有効放射透過率は84%、R/B値は0.93であった。
(比較例4)
実施例4において、不織布樹脂構成を芯部樹脂をポリエチレンテレフタレート樹脂100重量部、鞘部樹脂を低密度ポリエチレン樹脂(融点125℃)100重量部からなる組成で、層比が芯部:鞘部=3:1の構成の繊維を作製して、これをスパンボンド成形機を用いて、目付け15g/m、繊維径6dのポリエステル系着色不織布を作製した。この不織布1mに対して、青色吸収色素成分としてアリザリンレッドGOを0.02g/水1リットルの比率で加圧加熱含浸法にて色素を繊維の表面にコーティングを行い、着色不織布を作製した。本不織布を分光光度計にて光線透過特性を測定した結果、400〜700nmの光合成有効放射透過率は76%、R/B値は1.23であった。
【0022】
(栽培試験)
実施例1、実施例2、比較例1、比較例2、比較例3、比較例4で得られた着色不織布を用いて、2003年10月初旬から2004年5月下旬までの栽培期間(不織布の被覆期間:11月中旬から5月中旬、栽培方法:トンネル掛け、栽培場所:三重県一志郡嬉野町)でタマネギ栽培を行った。その際、被覆終了後に不織布被覆材を回収して水洗して汚れを落とした後、分光光度計を用いて400〜700nmの光合成有効放射透過率、およびR/B値を測定した。
また、栽培終了後での収穫されたタマネギの一球重量を計測した。その結果を表1に示す。
また、実施例1、比較例1、比較例3で得られた着色不織布を用いて、2003年10月初旬から2004年5月下旬までの栽培期間(不織布の被覆期間:11月中旬から5月中旬、栽培方法:マルチ被覆+ベタ掛け、栽培場所:三重県一志郡嬉野町)でニンニク栽培を行った。その際、栽培終了後での収穫されたニンニクの一球重量の平均を計測した。その結果を表2に示す。
この結果から、本発明実施例の不織布によれば、展張前から展張後においても78%以上の光合成有効放射透過率を保持しつつ、長期展張後においてもR/B値の変化が少なく、そのためタマネギ、ニンニクの収穫量においても、無被覆の場合、無色不織布を用いた場合(比較例1)、本発明の範囲外の着色不織布を用いた場合(比較例2、比較例3、比較例4)に比べて、格段に優れた効果を有していることが確認される。
【0023】
【表1】

【0024】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
400〜700nmの光合成有効放射透過率が78〜90%の範囲で、かつ標準光源D65を基準とする600〜700nmの赤色光の光量子束透過量をR、標準光源D65を基準とする400〜500nmの青色光の光量子束透過量をBとしたときの両者の比(R/B)が1.15〜1.40の範囲にあることを特徴とする光選択透過性農業用不織布被覆材。
【請求項2】
請求項1において、光選択透過性の機能を発現する成分として、アゾ化合物、ペリレン化合物、キナクリドン化合物のいずれか1種類以上から構成される青色吸収有機顔料色素を用いて、熱可塑性樹脂に該色素を用いて着色された不織布からなることを特徴とする光選択透過性農業用不織布被覆材。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光選択透過性農業用不織布被覆材を用いて植物を被覆する植物の栽培方法。

【公開番号】特開2006−149264(P2006−149264A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−343645(P2004−343645)
【出願日】平成16年11月29日(2004.11.29)
【出願人】(504137956)MKVプラテック株式会社 (59)
【Fターム(参考)】