説明

光酸発生剤および感光性樹脂組成物

【課題】新規な光酸発生剤を提供する。
【解決手段】下記式(I):(式中、Rは、アルキル基、フッ素置換アルキル基などを示す。 Xは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、分子内もしくは分子間のX同士で連結したポリメチレン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子またはシアノ基を示し、それぞれ同一または異なっていてもよいが、−OSO2R基のβ位の炭素原子に結合しているXのうち少なくとも1つは水素原子である。 p、q、rは2つの橋頭位炭素間を結ぶ炭素鎖の長さをそれぞれ独立に示し、pは1〜3、qは0〜3、rは1〜2の整数である。)で表される化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光照射によってスルホン酸を発生する新規な光酸発生剤および当該光酸発生剤を含む感光性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、集積回路の集積度はますます高まる趨勢にある。高集積度を達成するためには、半導体基板の微細加工が必要である。
このような微細加工はフォトリソグラフィーによって行われている。加工時の解像度は露光光の波長に比例するので、加工の微細化を進めるためには必然的に露光光として用いる光の短波長化が必要となり、高圧水銀灯のg線(438nm)、i線(365nm)からKrFエキシマレーザー(248nm)、さらにArFエキシマレーザー(193nm)へと短波長化が進められてきた。
【0003】
フォトリソグラフィーのパターン形成には、光照射によりプロトン酸を発生する光酸発生剤を含む感光性樹脂組成物が用いられている。このような感光性樹脂組成物は化学増幅型レジストと呼ばれているものであり、光照射によって光酸発生剤から発生したプロトン酸と、構成樹脂とが、その後の加熱処理によって連鎖的に反応して現像液に対して可溶性となるものである。
【0004】
このような用途に用いられる光酸発生剤としては、スルホニウム塩誘導体が汎用されており、たとえば、KrFエキシマレーザーに対応したもの(非特許文献1)およびArFエキシマレーザーに対応したもの(特許文献1、2)がある。しかしながら、これらの光酸発生剤の性能も十分ではなく、新たな光酸発生剤の開発が求められている。
【非特許文献1】J. Org. Chem., p.3055, Vol.43, 1978
【特許文献1】特開2002−265436号公報
【特許文献2】特開平7−28237号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らは、光酸発生剤の分子構造と反応メカニズムについて鋭意研究した結果、光酸発生剤に要求される諸性能を合わせ有する特定の化合物を見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明の目的は、新規な光酸発生剤を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、以下の光酸発生剤および感光性樹脂組成物が提供される。
[1] 下記式(I)〜(III)のいずれかで示される光酸発生剤:
式中、Rは、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基、フッ素置換アリール基、フルオロアルキル基で置換されたアリール基、フッ素原子、ニトロ基またはシアノ基である;
Xは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、分子内もしくは分子間のX同士で連結したポリメチレン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子またはシアノ基であり、それぞれ同一または異なっていてもよいが、−OSO2R基のβ位の炭素原子に結合しているXのう
ち少なくとも1つは水素原子である;
p、q、rは2つの橋頭位炭素間を結ぶ炭素鎖の長さをそれぞれ独立に示し、pは1〜3、qは0〜3、rは1〜2の整数である。
【0007】
【化1】

【0008】
【化2】

【0009】
【化3】

【0010】
[2] [1]に記載の光酸発生剤を含む感光性樹脂組成物。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、有機媒体との相溶性が高く、熱および求核剤に対して安定な新規光酸発生剤および当該光酸発生剤を含む感光性樹脂組成物が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係る光酸発生剤は、下記式(I)〜(III)のいずれかで示されるものである。
【0013】
【化4】

【0014】
【化5】

【0015】
【化6】

【0016】
式(I)〜(III)において、Rは、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基、フッ素置換アリール基、フルオロアルキル基で置換されたアリール基、フッ素原子、ニトロ基またはシアノ基である。本発明に係る光酸発生剤は、後述するように光照射によってスルホン酸(HOSO2R)を発生する。Rは発生するスルホン酸の特性(酸性度な
ど)を決める要因となるものであり、光酸発生剤の用途に応じて適宜選択することができる。
【0017】
Rがアルキル基である場合のRとしては、具体的には炭素数1〜20の直鎖状、分岐状または環状のアルキル基などが挙げられる。さらに具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基、ベンジル基などの直鎖状アルキル基;i−プロピル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などの分岐状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、3−メチルシクロペンチル基、3−メトキシシクロペンチル基、3−カルボキシシクロペンチル基、3−メチルカルボニルシクロペンチル基、3−メトキシカルボニルシクロペンチル基、3−ジメチルアミノシクロペンチル基、シクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、4−メトキシシクロヘキシル基、4−カルボキシシクロヘキシル基、4−ジメチルアミノシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などの環状アルキル基などが挙げられる。
【0018】
Rがフッ素置換アルキル基である場合のRとしては、具体的には炭素数1〜12のフッ素置換アルキル基などが挙げられる。さらに具体的には、トリフルオロメチル基、フルオロメチル基、ジフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、3−フルオロシクロペンチル基、3−トリフルオロメチルシクロペンチル基、4−フルオロシクロヘキシル基などが挙げられる。
【0019】
Rがアリール基である場合のRとしては、具体的には炭素数6〜14のアリール基などが挙げられる。さらに具体的には、フェニル基、2,4−キシリル基、2,5−キシリル基、3,4−キシリル基、3,5−キシリル基、o−トリル基、m−トリル基、p−トリ
ル基、2−メトキシフェニル基、3−メトキシフェニル基、4−メトキシフェニル基、4−カルボキシフェニル基、4−メチルカルボニルフェニル基、4−メトキシカルボニルフェニル基、ジメチルアミノカルボニルフェニル基、1−ナフチル基、4−メチル−1−ナフチル基、4−メトキシ−1−ナフチル基、4−カルボキシル−1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントラセニル基、9−アントラセニル基などが挙げられる。
【0020】
Rがフッ素置換アリール基である場合のRとしては、具体的には炭素数6〜10のフッ素置換アリール基などが挙げられる。さらに具体的には、2−フルオロフェニル基、3−フルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基、ペンタフルオロフェニル基、ヘプタフルオロナフチル基などが挙げられる。
【0021】
Rがフルオロアルキル基で置換されたアリール基である場合のRとしては、具体的には炭素数7〜11のフルオロアルキル基で置換されたアリール基などが挙げられる。さらに具体的には、2−トリフルオロメチルフェニル基、3−トリフルオロメチルフェニル基、ペンタフルオロエチルフェニル基などが挙げられる。
【0022】
上記した中でもRとしては、フッ素置換アルキル基が好ましく、特にトリフルオロメチル基が好ましい。
Xは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、分子内もしくは分子間のX同士で連結したポリメチレン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子またはシアノ基であり、それぞれ同一または異なっていてもよいが、−OSO2R基のβ位の炭素原子に結合しているXのう
ち少なくとも1つは水素原子である。
【0023】
Xがアルキル基である場合のXとしては、具体的には炭素数1〜20の直鎖状、分岐状または環状のアルキル基などが挙げられる。さらに具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基、ベンジル基などの直鎖状アルキル基;i−プロピル基、i−ブチル基、s−ブチル基、t−ブチル基などの分岐状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、3−メチルシクロペンチル基、3−メトキシシクロペンチル基、3−カルボキシシクロペンチル基、3−メチルカルボニルシクロペンチル基、3−メトキシカルボニルシクロペンチル基、3−ジメチルアミノシクロペンチル基、シクロヘキシル基、4−メチルシクロヘキシル基、4−メトキシシクロヘキシル基、4−カルボキシシクロヘキシル基、4−ジメチルアミノシクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基などの環状アルキル基などが挙げられる。
【0024】
Xがアルコキシ基である場合のXとしては、具体的には炭素数1〜20のアルコキシ基などが挙げられる。さらに具体的には、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、n−ブチロキシ基、n−ペンチロキシ基、n−ヘキシロキシ基、n−へプチロキシ基、n−オクチロキシ基、i−プロポキシ基、i−ブチロキシ基、s−ブチロキシ基、t−ブチロキシ基などが挙げられる。
【0025】
Xがアルコキシカルボニル基である場合のXとしては、具体的には炭素数2〜13のアルコキシカルボニル基などが挙げられる。さらに具体的には、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、プロポキシカルボニル基、n−ブトキシカルボニル基、イソブトキシカルボニル基、s−ブトキシカルボニル基、t−ブトキシカルボニル基、ペントキシカルボニル基、ネオペントキシカルボニル基、アミロキシカルボニル基、ヘキトキシカルボ
ニル基、ヘプトキシカルボニル基、オクトキシカルボニル基、2−エチルヘキトキシカルボニル基、ヘプトキシカルボニル基、オクトキシカルボニル基などが挙げられる。
【0026】
Xがアシル基である場合のXとしては、具体的には炭素数2〜10のアシル基などが挙げられる。さらに具体的には、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、イソブチリル基、ピバロイル基、ベンゾイル基などが挙げられる。
【0027】
Xがアルキルチオ基である場合のXとしては、具体的には炭素数1〜20のアルキルチオ基などが挙げられる。さらに具体的には、メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ基、n−ブチルチオ基、n−ペンチルチオ基、n−ヘキシルチオ基、n−ヘプチルチオ基、n−オクチルチオ基、n−ノニルチオ基、n−デシルチオ基、n−ウンデシルチオ基、n−ドデシルチオ基、n−トリデシルチオ基、n−テトラデシルチオ基、n−ペンタデシルチオ基、n−ヘキサデシルチオ基、n−ヘプタデシルチオ基、n−オクタデシルチオ基、n−ノナデシルチオ基、n−エイコシルチオ基、ベンジルチオ基などの直鎖状アルキルチオ基;i−プロピルチオ基、i−ブチルチオ基、s−ブチルチオ基、t−ブチルチオ基などの分岐状アルキルチオ基;シクロプロピルチオ基、シクロブチルチオ基、シクロペンチルチオ基、3−メチルシクロペンチルチオ基、3−メトキシシクロペンチルチオ基、3−カルボキシシクロペンチルチオ基、3−メチルカルボニルシクロペンチルチオ基、3−メトキシカルボニルシクロペンチルチオ基、3−ジメチルアミノシクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基、4−メチルシクロヘキシルチオ基、4−メトキシシクロヘキシルチオ基、4−カルボキシシクロヘキシルチオ基、4−ジメチルアミノシクロヘキシルチオ基、シクロヘプチルチオ基、シクロオクチルチオ基などの環状アルキルチオ基などが挙げられる。
【0028】
Xがアリールチオ基である場合のXとしては、具体的には炭素数6〜14のアリールチオ基などが挙げられる。さらに具体的には、フェニルチオ基、2,4−キシリルチオ基、2,5−キシリルチオ基、3,4−キシリルチオ基、3,5−キシリルチオ基、o−トリルチオ基、m−トリルチオ基、p−トリルチオ基、2−メトキシフェニルチオ基、3−メトキシフェニルチオ基、4−メトキシフェニルチオ基、4−カルボキシフェニルチオ基、4−メチルカルボニルフェニルチオ基、4−メトキシカルボニルフェニルチオ基、ジメチルアミノカルボニルフェニルチオ基、1−ナフチルチオ基、4−メチル−1−ナフチルチオ基、4−メトキシ−1−ナフチルチオ基、4−カルボキシル−1−ナフチルチオ基、2−ナフチルチオ基、1−アントラセニルチオ基、9−アントラセニルチオ基などが挙げられる。
【0029】
Xが、分子内もしくは分子間のX同士で連結したポリメチレン基である場合のXとしては、具体的には炭素数1〜3のポリメチレン基などが挙げられる。
Xがハロゲン原子である場合のXとしては、具体的には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0030】
上記した中でもXとしては、水素原子またはアルキル基が好ましく、特に水素原子またはメチル基が好ましい。
式(I)〜(III)において、p、q、rは2つの橋頭位炭素間を結ぶ炭素鎖の長さをそれぞれ独立に示し、pは1〜3、qは0〜3、rは1〜2の整数である。p、q、rの組み合わせは、それぞれが上記範囲内であれば特に限定されないが、式(I)(II)においては、好ましくは(p、q、r)=(2、1、1)または(2、0、1)、特に好ましくは(p、q、r)=(2、1、1)であり、式(III)においては、好ましくは(p、q)=(2、1)または(2、0)であり、特に好ましくは(p、q)=(2、1)である。
【0031】
本発明の光酸発生剤は、下記式XもしくはYで示される方法で製造することができる。式X、Yにおいては、構造式(I)〜(III)のスルホン酸エステルのアルコール残基部分をAlcで示している。
【0032】
式Xで示される方法は、目的とするスルホン酸エステルのアルコール残基部分に対応するアルコール(Alc−OH)と1当量のスルホン酸無水物とを、塩基(base)の存在下で反応させる製造方法である。式Yで示される方法は、目的とするスルホン酸エステルのアルコール残基部分に対応するアルコール(Alc−OH)と1当量のスルホン酸塩化物とを反応させる製造方法である。
【0033】
【化7】

【0034】
上記した本発明の光酸発生剤には、次に示す(i)〜(iv)の特徴がある。
(i)本発明の光酸発生剤は、イオン性ではなく中性の有機分子から構成されているので、有機媒体との相溶性が高い。したがって、たとえば感光性樹脂組成物の成分として用いる場合、樹脂などの有機媒体に対して任意の割合で、極めて均一に分散させることができる。そのような感光性樹脂組成物をフォトリソグラフィーに用いれば、形成パターンのエッジが粗くなることもなく、極めて高精度の微細加工が可能である。
【0035】
(ii)式(I)および式(II)の構造においては、−OSO2Rのα位の炭素は、
カゴ型化合物の橋頭位であるため、2分子的求核置換反応(SN2)は全く起こらない。
また、カゴ型化合物の橋頭位では、分子歪みのため、カルボカチオンが不安定であり、1分子的求核置換反応(SN1)は全く起こらないか、もしくは、極めて起こりにくい。式
(III)の構造では、−OSO2Rのα位の炭素は、カルボニル基の隣接位であり、カ
ルボカチオンが不安定であり、また、当該ビシクロ骨格においては、−OSO2Rのα位
の炭素への求核剤の接近はメチレン鎖との立体反発により困難である。したがって、2分子的求核置換反応(SN2)および1分子的求核置換反応(SN1)は、全く起こらないか、もしくは極めて起こりにくい。上記のような理由から、本発明の光酸発生剤をたとえば感光性樹脂組成物の成分として用いる場合、非共有電子対を持つ官能基を有する樹脂などの有機成分および水などの求核性物質と共存しても、保存時または使用時に求核置換反応が起きて分解してしまうことがない。
【0036】
(iii)下記式(IV)で一般的なスルホン酸エステルの脱離反応を示すが、スルホン酸が脱離した後の化合物は、CおよびYが全て同一平面上に存在する平面構造となる。一方、本発明の光酸発生剤は、特定のビシクロ骨格を有しており、ブレッド則が成立するため、このような反応によって形成される平面構造をとることができない。したがって、このような脱離反応は抑制されているため、本発明の光酸発生剤は熱に対して安定である。
【0037】
【化8】

【0038】
(iv)上述したように、本発明の光酸発生剤は、非光照射時においては、熱および求核剤に対して安定であるが、光を照射することによってスルホン酸(HOSO2R)を発
生させることができる。その反応機構としては下記式(V)が推定される。なお、下記式(V)の光酸発生剤Aは上記式(II)において、Xが全て水素原子で(p、q、r)=(2、1、1)のものである。光酸発生剤Aに対して光を照射すると、まずビラジカルBが生成する。この光開裂反応はノリッシュI(Norrish I)タイプと呼ばれているもので
あり、カルボニル基と隣接炭素がラジカル的に開裂する光反応である。ビラジカルBは分子内的に不均化して化合物Cを与えるが、Cにおいては上述したブレット則はもはや成立していないため−OSO2R基とプロトンが脱離し、スルホン酸(HOSO2R)が生成する。
【0039】
【化9】

【0040】
本発明の光酸発生剤にスルホン酸を発生させるために照射する光としては、320nmより短波長の光であれば特に限定されないが、たとえば等圧水銀灯の313nm、254nmの共鳴線、KrFエキシマレーザー光(248nm)およびArFエキシマレーザー光(193nm)を用いることができる。中でもArFエキシマレーザー光を好適に用いることができる。
【0041】
本発明の感光性樹脂組成物は、本発明の光酸発生剤を含むことを特徴としている。光酸発生剤は単独でも用いられるが、2種以上を混合して用いても良い。本発明の感光性樹脂組成物における本発明の光酸発生剤の含有率は、感光性樹脂組成物の全固形分100重量部に対して通常0.1〜40重量部、好ましくは1〜25重量部である。この含有率が0.1重量部未満では感度が著しく低下し、パターンの形成が困難である。また40重量部を越えると、均一な塗布膜の形成が困難になり、さらに現像後には残さ(スカム)が発生
し易くなるなどの問題が生ずる。
【0042】
本発明の感光性樹脂組成物を構成する樹脂としては、使用する光に対して高透明性であり、かつ酸に対して不安定な基を有する樹脂を適宜選択して使用することができる。たとえば下記式(VI)により表される樹脂を用いることが出来る。
【0043】
【化10】

【0044】
[上式において、nは5〜1000(より好ましくは10〜200)の正の整数、R4
表1に示したような、トリシクロデカニル基、ジシクロペンテニル基、ジシクロペンテニルオキシエチル基、シクロヘキシル基、ノルボニル基あるいはアダマンチル基、R5はt
ert−ブチル基、メチル基、エチル基、プロピル基、テトラヒドロピラニル基あるいは3−オキソシクロヘキシル基、xは0.1〜1(より好ましくは0.2〜0.7)を表す。]
【0045】
【表1】

【0046】
また本発明の感光性樹脂組成物には、必要に応じて界面活性剤、色素、安定剤、塗布性改良剤、染料、架橋剤などの他の成分を添加しても構わない。
本発明の感光性樹脂組成物を塗布する際に用いる溶剤として好ましいものは、本発明の感光性樹脂組成物を充分に溶解し、かつその溶液がスピンコート法で均一な塗布膜が形成可能な有機溶媒である。それらは単独でも2種類以上を混合して用いても良い。具体的には、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブチルアルコール、tert−ブチルアルコール、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸2−メトキシブチル、酢酸2−エトキシエチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル、3−メトキシプロピオン酸エチル、N−メチル−2−ピロリジノン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、シクロヘキサノール、メチルエチルケトン、1、4−ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、などが挙げられるが、もちろんこれらだけに限定されるものではない。
【0047】
また、本発明を用いて微細パターンの形成をおこなう場合の現像液としては、本発明で使用する感光性樹脂組成物の溶解性に応じて適当な有機溶媒、またはその混合溶媒、あるいは適度な濃度のアルカリ溶液あるいはアルカリ水溶液を選択すれば良い。使用される有機溶媒としてはアセトン、メチルエチルケトン、メチルアルコール、エチルアルコ−ル、イソプロピルアルコール、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどが挙げられる。また、使用されるアルカリ溶液としては、たとえば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ケイ酸ナトリウム、アンモニアなどの無機アルカリ類や、エチルアミン、プロピルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、などの有機アミン類、そしてテトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシメチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルヒドロキシメチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルヒドロキシエチルアンモニウムヒドロキシドなどの有機アンモニウム塩などを含む溶液あるいは水溶液が挙げられるが、これらだけに限定されるものではない。
【0048】
本発明の感光性樹脂組成物を用いたフォトリソグラフィーについて説明する。まず本発明の感光性樹脂組成物を塗布してレジスト膜を形成し、ArFエキシマレーザー等の照射光によって露光すると、レジスト膜の露光部に含まれる光酸発生剤がスルホン酸を発生する。
【0049】
たとえば式(VI)(R5はtert−ブチル基)で示した樹脂を用いたとき、光照射
により発生したスルホン酸は下記式(VII)の反応式に従って樹脂のtert−ブトキシ基に作用し、カルボキシル基および2−ブテンを生成し、その結果レジスト膜の溶解性の変化を誘起する。
【0050】
【化11】

【0051】
露光に引き続く加熱処理(ポストエクスポージャベイク)を所定温度でおこなうと、この脱保護反応が触媒反応的に進行し、感度の増幅が起こる。この反応により官能基が水酸基に変化した樹脂はアルカリ可溶性となるため、アルカリ性の現像液を使用することにより樹脂が溶け出し、結果として露光部が溶けてポジ型のパターンを形成する。
【0052】
<実施例>
以下、実施例に基づいて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0053】
<3,3-ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-オン-1-トリフラート(2)の合成>
文献(J. Org. Chem., 36, 1075-1079 (1971))の方法に従って合成した。3,3-ジメチ
ルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-オン-1-オール(1)の1g(6.48 mmol)をセプタムゴム栓、三方バルブ、磁気撹拌子を備えた二口フラスコに入れ、三方バルブのひとつの口に窒素風船を装着し、真空ポンプで内部を窒素置換した。ここへ、乾燥ピリジン20mLを注射器を用いて導入して溶解した。氷冷下、この溶液にトリフルオロメタンスルホン酸無水物3.7g(13 mmol)を注射器で加え、0℃で12時間放置した。反応混合物を50mLの氷水に注ぎ、100mLのジ
エチルエーテルで抽出し、有機層を希塩酸、炭酸ナトリウム水溶液、飽和食塩水の順で洗浄した後、硫酸ナトリウムで乾燥した。溶媒を留去すると、ほぼ純粋な3,3-ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-オン-1-トリフラート(2)が1.5g(5.24 mmol)得られた(収率80.9%)。ジイソプロピルエーテルから再結晶した。mp.33℃: IR(KBr, cm-1); 2976, 2931, 1773, 1418, 1212, 1145: NMR(CDCl3, ppm); 1.13(s, 3H, CH3), 1.19(s, 3H, CH3), 1.92-1.99(m, 3H), 2.09-2.18(m, 2H), 2.26(br, 1H, bridge head), 2.61(d, 1H, endo-H at β-C)
【0054】
【化12】

【0055】
<3,3-ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-オン-1-トリフラート(2)の熱安定性>
3,3-ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-オン-1-トリフラート(2)をガラス封管に封入
して、80℃で5時間加熱し、変化をNMRで観測したが、変化は認められなかった。
【0056】
<3,3-ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-オン-1-トリフラート(2)の光酸発生機能>
3,3-ジメチルビシクロ[2.2.1]ヘプタ-2-オン-1-トリフラート(2)のアセトニトリル溶
液を濃度0.05mol/Lに調製し、光路長1cmの石英光学セルに入れ、キセノンランプ
から分光した光(290nm)を照射し、酸発生のアクチノメトリーを行った。酸発生量は、テトラブロモフェノールブルーの610nmにおける吸収で観察した。トリオキサラト鉄酸カリウムで光量を測定して、量子収率を求めたところ、0.2であり、高い酸発生機能を示した。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)〜(III)のいずれかで示される光酸発生剤:
式中、Rは、アルキル基、フッ素置換アルキル基、アリール基、フッ素置換アリール基、フルオロアルキル基で置換されたアリール基、フッ素原子、ニトロ基またはシアノ基である;
Xは、水素原子、アルキル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、分子内もしくは分子間のX同士で連結したポリメチレン基、カルボキシル基、ヒドロキシル基、ハロゲン原子またはシアノ基であり、それぞれ同一または異なっていてもよいが、−OSO2R基のβ位の炭素原子に結合しているXのう
ち少なくとも1つは水素原子である;
p、q、rは2つの橋頭位炭素間を結ぶ炭素鎖の長さをそれぞれ独立に示し、pは1〜3、qは0〜3、rは1〜2の整数である。
【化1】

【化2】

【化3】

【請求項2】
請求項1に記載の光酸発生剤を含む感光性樹脂組成物。


【公開番号】特開2006−151897(P2006−151897A)
【公開日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−346723(P2004−346723)
【出願日】平成16年11月30日(2004.11.30)
【出願人】(390033927)アイバイツ株式会社 (9)
【Fターム(参考)】