説明

光重合および暗反応の制御を備えたホログラフィック記録媒体

【課題】高密度ホログラフィックデータ記憶媒体の提供。
【解決手段】1つの光活性重合可能材料を含む重合可能成分と、光重合開始光源での露光によって活性化されたときに重合可能成分を重合させ、それによって複数のホログラフィックグレーティングを形成するための少なくとも1つの光重合開始剤を含む光重合開始剤成分とを含むシステム、ならびにそのシステムを含む物品およびホログラフィック記録媒体に関し、ここで、重合可能成分の一部分が重合して少なくとも1つのホログラフィックグレーティングを形成したときに、重合可能成分の未重合部分は、光重合開始光源で重合可能成分が露光されないときはさらなる重合に抵抗する。このような光重合可能システムを有するホログラフィック記録媒体内に少なくとも1つのホログラフィックグレーティングを形成する方法も提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホログラフィック記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
情報記憶デバイスおよび方法の開発者は、記憶容量増大の探求を続けている。この開発の一部として、いわゆるページ毎の(page-wise)メモリシステム、特にホログラフィックシステムが、従来のメモリデバイスに代わるものとして提案されてきた。ページ毎のシステムは、2次元の表示全体、たとえば1ページのデータの記憶および読出しを含む。通常、記録光は、データを表す暗領域および透明領域からなる2次元アレイを通過し、ホログラフィックシステムは、記憶媒体に刻み込まれ屈折率が変化するパターンとして、そのページのホログラフィック表示を3次元で格納する。ホログラフィックシステムは、Psaltis らの「Holographic Memories」、Scientific American、1995年11月、で一般的に論じられている。
【0003】
ホログラフィック記憶の一方法は、1998年2月17日発行の米国特許第5,719,691号(Curtisら)に記載されている位相相関多重ホログラフィである。Curtisらが記述した位相相関多重ホログラフィの一実施形態では、参照光ビームが位相マスクを通過し、データを表すアレイを通過した信号ビームと記録媒体中で交差して、媒体内にホログラムが形成される。位相マスクと参照ビームの空間的関係は、データの各連続ページに対して調整され、それによって参照ビームの位相が変調され、媒体中の重なり領域にデータが格納できるようになる。このデータは後で、データ記憶時に使用されたのと同じ位相変調を伴って参照ビームが元の記憶位置を通過することによって復元される。媒体に向けられる光を制御または変更するための受動光学構成部品、たとえばフィルタまたはビーム偏向器(steerer)として体積ホログラムを使用することもまた可能である。屈折率を変化させる書込みプロセスはまた、導波路のようなものを形成することもできる。
【0004】
典型的なホログラフィック記録システムの能力は、一部には記憶媒体によって決まる。このようなシステムに最近使用されるホログラフィック記録媒体の一種は、感光性ポリマーフィルムである。たとえば、Smothersらの「Photopolymers for Holography」、SPIE OE/Laser Conference、1212-03、Los Angeles、Calif.、1990年、を参照されたい。この論文に記載されているホログラフィック記録媒体は、液体モノマー材料(光活性モノマー)および光重合開始剤(露光するとモノマーの重合化を促進する)を含むフォトイメージ可能な(photoimageable)システムを含み、ここで、フォトイメージ可能システムが、照射光に対して実質的に不活性な有機ポリマーホストマトリクスの中にある。この材料への情報の(データを表すアレイを記録光が通過することによる)書込み(記録)時に、モノマーは露光領域で重合する。重合化によってモノマー濃度が低下するので、暗く、露光されない材料の領域からモノマーが露光領域に拡散する。この重合化、および結果として起こる拡散が屈折率の変化を作り出し、それによってデータを表すホログラム(ホログラフィックグレーティング)が形成される。
【0005】
一般に、被覆剤、封止剤、接着剤など、従来の応用例に使用される光ポリマー系では、鎖長および重合度などの特性は通常、非常に高い光強度、多官能性モノマー、高濃度のモノマー、熱などを使用することによって最大化され、完了に至る。同様に、従来のホログラフィック記録媒体では、有機光ポリマー系をベースとするホログラフィック記録媒体を実現するために、(典型的な光ポリマー配合物におけるように)モノマー濃度が高い配合物を使用した。たとえば、しばしば「1成分」有機光ポリマー系と呼ばれるものを開示している1999年2月23日発行の米国特許第5,874,187号(Colvinら)、および1998年6月2日発行の米国特許第5,759,721号(Dhalら)を参照されたい。このような1成分系は通常、光を用いてある程度前硬化されない場合には、 Bragg離調値が大きい。ホログラフィック情報の記録のために使用される光化学反応からポリマーマトリクスの形成を切り離すことによって、ホログラフィック光ポリマー媒体のさらなる改善もまた行われた。たとえば、しばしば「2成分」有機光ポリマー系と呼ばれるものを開示している2000年8月15日発行の米国特許第6,103,454号(Dharら)、および同一の出願人による2002年11月19日発行の米国特許第6,482,551号(Dhar ら)を参照されたい。2成分有機光ポリマー系は、より均一な開始条件(すなわち記録プロセスに関して)、より便利な加工の選択肢およびパッケージング選択肢、ならびにダイナミックレンジが非常に大きな媒体をごくわずかの収縮またはBragg離調で得る能力を可能にする。
【0006】
このようにして、ホログラフィック媒体の大幅な改善が行われてきたが、そのような媒体に以下のさらなる改善が望ましいはずである。
(1)そのような媒体に記録されたデータの高信頼取出しを可能にするように、ホログラフィックグレーティングの特定のパターンを媒体内に保存する。
(2)媒体内にホログラフィックグレーティングを形成する際の適切なスケジューリングを可能にする。
(3)すでに記録された媒体の同じ体積に、追加のホログラフィックグレーティングをその全ダイナミックレンジまで記録するのに必要な時間をより正確に決定する。
(4)一般的に、より商業的に成り立つ高密度ホログラフィックデータ記憶媒体を作り出す。
【発明の概要】
【0007】
本発明の第1の広範な態様によれば、
少なくとも1つの光活性重合可能材料を含む重合可能成分と、
光重合開始光源での露光によって活性化されたときに重合可能成分を重合させ、それによって少なくとも1つのホログラフィックグレーティングを形成するための少なくとも1つの光重合開始剤を含む光重合開始剤成分とを含むシステムであって、
ここで、重合可能成分の一部分が重合して少なくとも1つのホログラフィックグレーティングを形成したときに、重合可能成分の未重合部分が、光重合開始光源で重合可能成分が露光されないときはさらなる重合に抵抗する
システムが提供される。
【0008】
本発明の第2の広範な態様によれば、
支持マトリクスと、支持マトリクス中の光重合可能なシステムとを含む物品であって、光重合可能なシステムが、
少なくとも1つの光活性重合可能材料を含む重合可能成分と、
光重合開始光源での露光によって活性化されたときに重合可能成分を重合させ、それによって、少なくとも1つのホログラフィックグレーティングを支持マトリクス中に形成するための少なくとも1つの光重合開始剤を含む光重合開始剤成分とを含み、
ここで、重合可能成分の一部分が光重合して少なくとも1つのホログラフィックグレーティングを形成したときに、重合可能成分の未重合部分が、光重合開始光源で露光されないときはさらなる重合に抵抗する
物品が提供される。
【0009】
本発明の第3の広範な態様によれば、
(a)少なくとも1つのホログラフィック記録媒体を提供するステップと、
(b)少なくとも1つのホログラフィックグレーティングをホログラフィック記録媒体内に形成するステップとを含む方法であって、
ここで、ホログラフィック記録媒体が、
少なくとも1つの光活性重合可能材料を含む重合可能成分と、
記録光での露光によって活性化されたときに重合可能成分を重合させ、それによって、複数のホログラフィックグレーティングをホログラフィック記録媒体内に形成するための少なくとも1つの光重合開始剤を含む光重合開始剤成分
とを含む光重合可能なシステムを有し、
ここで、重合可能成分の未重合部分が、記録光で露光されないときはさらなる重合に抵抗する
方法が提供される。
【0010】
本発明の第4の広範な態様によれば、
(a)ホログラフィック記録媒体を提供するステップと、
(b)複数のホログラフィックグレーティングをホログラフィック記録媒体内に形成するステップとを含む方法であって、
ここで、ホログラフィック記録媒体中の各ホログラフィックグレーティングが、ホログラフィック記録媒体が記録光で露光される時期に対する記録光での各露光の時間の関数であるスケジュールに従ってホログラフィック記録媒体を記録光で露光することによって形成され、
ここで、ホログラフィック記録媒体が、
少なくとも1つの光活性重合可能材料を含む重合可能成分と、
記録光での露光によって活性化されたときに重合可能成分を重合させ、それによって、複数のホログラフィックグレーティングをホログラフィック記録媒体内に形成するための少なくとも1つの光重合開始剤を含む光重合開始剤成分
とを含む光重合可能なシステムを有し、
ここで、重合可能成分の未重合部分が、記録光で露光されないときはさらなる重合に抵抗する
方法が提供される。
【0011】
本発明の第5の広範な態様によれば、
(a)1つ以上の最初のホログラフィックグレーティングをその中に有するホログラフィック記録媒体を提供するステップと、
(b)1つ以上の追加のホログラフィックグレーティングをホログラフィック記録媒体内に形成するステップとを含む方法であって、
ここで、ホログラフィック記録媒体が、
少なくとも1つの光活性重合可能材料を含む重合可能成分の未重合部分と、
記録光での露光によって活性化されたときに重合可能成分の未重合部分を重合させ、それによって、少なくとも1つの追加のホログラフィックグレーティングをホログラフィック記録媒体内に形成するための少なくとも1つの光重合開始剤を含む光重合開始剤成分
とを含む光重合可能なシステムを有し、
ここで、重合可能成分の未重合部分が、記録光で露光されないときはさらなる重合に抵抗する
方法が提供される。
【0012】
本発明の第6の広範な態様によれば、
(a)複数の最初のホログラフィックグレーティングをその中に、そのある体積で有する記録媒体を提供するステップと、
(b)複数の追加のホログラフィックグレーティングをホログラフィック記録媒体内にそのホログラフィック記録媒体の体積で形成するステップとを含む方法であって、
ここで、複数の追加のホログラフィックグレーティングが、各追加のホログラフィックグレーティングが形成される時期に対する各追加のホログラフィックグレーティングを形成するのに要する時間の関数であるスケジュールに従って形成され、
そのホログラフィック媒体が、
少なくとも1つの光活性重合可能材料を含む重合可能成分の未重合部分と、
記録光での露光によって活性化されたときに未重合部分の重合可能成分を重合させ、それによって、複数の追加のホログラフィックグレーティングをホログラフィック記録媒体内に形成するための少なくとも1つの光重合開始剤を含む光重合開始剤成分
とを含む光重合可能なシステムを有し、
ここで、重合可能成分の未重合部分は、記録光で露光されないときはさらなる重合に抵抗する
方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
本発明を添付の図面と併せて説明する。
【0014】
【図1】図1は、本発明による基本的なホログラフィック記憶システムを示す図である。
【図2】図2は、残留未重合モノマーおよび未使用光重合開始剤を含有する2成分光重合媒体に記録された単一ホログラフィックデータページの画像である。
【図3】図3は、図2のデータページの、一方が1ミリ秒当たりの全記録カウント数での光強度、他方が信号対雑音比(SNR)の2つを経過時間の関数として示すグラフである。
【図4】図4は、図2のデータページの、特定の光強度を有するピクセルの相対的割合を示すヒストグラムである。
【図5】図5は、図2のデータページの、局部的な信号対雑音比(SNR)を図にした画像である(8×8データブロック)。
【図6】図6は、図2のホログラフィックデータページを暗い場所に(すなわち記録光で露光しないで)60分間置いた後の画像である。
【図7】図7は、図6のデータページの、一方が1ミリ秒当たりの全記録カウント数での光強度、他方が信号対雑音比(SNR)の2つを経過時間の関数として示すグラフである。
【図8】図8は、図6のデータページの、特定の光強度を有するピクセルの相対的割合を示すヒストグラムである。
【図9】図9は、あるデータページの、一方は重合遅延剤/抑制剤が添加されていない、他方は0.1%の重合遅延剤/抑制剤(BHT)が添加された、信号対雑音比(SNR)を時間の関数として示す2つのグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明を説明する前に、いくつかの用語を定義しておくことが都合がよい。以下の定義は、本出願の全体を通して使用されることを理解されたい。
【0016】
(定義)
用語の定義が、一般的に使用されるその用語の意味から逸脱する場合には、特に示さない限り以下に与えた定義を利用するものとする。
【0017】
本発明において「光源」という用語は、あらゆる波長の電磁放射の任意の発生源を指す。一実施形態では、本発明の光源は特定の波長のレーザである。
【0018】
本発明において「光重合開始光源」という用語は、光重合開始剤、光活性重合可能材料、または両方を活性化する光源を指す。光重合開始光源は、記録光などを含む。
【0019】
本発明において「空間光強度」という用語は、所与の体積の空間内での光強度分布、または変化する光強度のパターンを指す。
【0020】
本発明において「ホログラフィックグレーティング」または「ホログラム」という用語は、信号ビームと参照ビームが互いに干渉するときに形成される記録干渉パターンを指すという通常の意味で使用される。デジタルデータが記録される場合には、信号ビームは空間光変調器を用いて符号化される。
【0021】
本発明において「ホログラフィック記録」という用語は、ホログラフィック記録媒体に記録された後のホログラフィックグレーティングを指す。
【0022】
本発明において「ホログラフィック記録媒体」という用語は、1つ以上のページとしての1つ以上のホログラフィックグレーティングを、変化する屈折率の、物品に刻み込まれたパターンとして3次元で記録し格納することができる物品を指す。
【0023】
本発明において「データページ」または「ページ」という用語は、ホログラフィに関して使用される限りでは、データページの通常の意味を指す。たとえば、データページは、本発明の物品などのホログラフィック記録媒体内に記録されるべき1ページのデータ、1つ以上の画像などであってよい。
【0024】
本発明において「記録光」という用語は、ホログラフィック媒体に記録するために使用される光源を指す。記録されるのは記録光の空間光強度パターンである。すなわち、記録光が単純な非干渉性光ビームの場合は、導波路を生成することができ、記録光が2つの干渉レーザビームの場合は、干渉パターンが記録される。
【0025】
本発明において「データを記録する」という用語は、変化する屈折率のパターンとして1つ以上のページのホログラフィック表示されたものを格納することを指す。
【0026】
本発明において「データを読み出す」という用語は、ホログラフィック表示として格納されたデータを取り込むことを指す。
【0027】
本発明において「露光」という用語は、ホログラフィック記録媒体が記録光で露光されたとき、すなわちホログラフィックグレーティングが媒体に記録されたときを指す。
【0028】
本発明において「露光の時間」および「露光時間」という用語は区別なく、ホログラフィック記録媒体が記録光でどれだけ長く露光されたか、すなわちホログラフィック記録媒体でのホログラフィックグレーティングの記録時にどれだけ長く記録光がオンであったかを指す。「露光時間」は、単一のホログラムを記録するのに必要な時間、または所与の体積に複数のホログラムを記録するための累積時間を指すことができる。
【0029】
本発明において「スケジュール」という用語は、媒体にホログラフィックグレーティングを記録する際の累積露光時間に関連する、露光のパターン、計画、方式、順序などを指す。一般的には、このスケジュールは、所定の回折効率を与えるために一連の複数の露光の各露光に必要な時間(または光エネルギー)を予測することを可能にする。
【0030】
本発明において、用語「スケジュール」と共に使用される場合の「関数」という用語は、複数のホログラフィックグレーティングを記録する際の累積露光時間に対して露光のスケジュールを規定あるいは示す、グラフまたは数学的表現を指す。
【0031】
本発明において、用語「スケジュール」と共に使用される場合の「実質的な1次関数」という用語は、直線あるいは実質的な直線を与える露光スケジュール対露光時間のグラフを指す。
【0032】
本発明において「支持マトリクス」という用語は、重合可能成分がその中に溶解、分散、埋込、封入などされた材料、媒体、物質などを指す。支持マトリクスは一般に、低Tgポリマーである。ポリマーは有機物、無機物、またはそれらの混合物であってよい。ポリマーはまた、熱硬化性、または熱可塑性のどちらでもよい。
【0033】
本発明において「異なる形態」という用語は、材料塊、材料粉末、材料チップなどからなる物を成形物、シート、フリーフレキシブルフィルム、堅いカード、フレキシブルカード、押出成形物、基板上に付着させた膜などに加工するなど、異なる形態を有する製品を形成するように加工されている本発明の物品を指す。
【0034】
本発明において「粒子材料」という用語は、ある物をより小さな成分に摩砕、細断、粉砕または他の方法で細分化することによって作製された材料、または粉末などの小さな成分からなる材料を指す。
【0035】
本発明において「フリーフレキシブルフィルム」という用語は、基材上に支持されないでその形状を維持する、フレキシブルな材料からなる薄いシートを指す。フリーフレキシブルフィルムの例としては、食品保存に使用される様々なタイプのラップがある。
【0036】
本発明において「堅い物」という用語は、曲げられた場合に亀裂が生じる、あるいは折り目がつくことがある物を指す。堅い物の例には、プラスチッククレジットカード、DVD、透明シート、包装紙、輸送箱などがある。
【0037】
本発明において「揮発性化合物」という用語は、高い蒸気圧、および/または約150℃未満の沸点を有するあらゆる化学物質を指す。揮発性化合物の例としては、アセトン、塩化メチレン、トルエンなどがある。ある物、混合物または成分が揮発性化合物を含まない場合は、その物、混合物または成分は「無揮発性化合物」である。
【0038】
本発明において「オリゴマー」という用語は、約30以下の繰返し単位を有するポリマーを指し、あるいは本発明の物品に溶解させた場合に室温で約2分間に少なくとも約100nm拡散することができるあらゆる高分子を指す。このようなオリゴマーは、1つ以上の重合可能基を含み、ここでその重合可能基は、重合可能成分中のその他の重合可能なモノマーと同じであってもよく、あるいは異なっていてもよい。さらに、複数の重合可能基がオリゴマーに存在する場合は、それらは同じであってもよく、あるいは異なっていてもよい。さらに、オリゴマーは樹脂状結晶でもよい。オリゴマーは、本明細書では光活性モノマーであると考えられているが、ときには「光活性オリゴマー」と呼ばれる。
【0039】
本発明において「光重合」という用語は、光重合開始光源で露光することによって引き起こされるあらゆる重合反応を指す。
【0040】
本発明において「さらなる重合に抵抗する」という用語は、光重合開始光源で露光されない場合に暗反応が最小化、低減、漸減、解消などされるように、重合速度が意図的に制御され実質的に低減された重合可能成分の未重合部分を指す。重合可能成分の未重合部分の重合速度の本発明による実質的な低減は、下記のうちの1つ以上を使用することを含む、適切なあらゆる組成物、化合物、分子、方法、機構などによっても、またはそれらのあらゆる組合せによっても達成することができる。すなわち、(1)重合遅延剤、(2)重合抑制剤、(3)連鎖移動剤、(4)準安定反応中心、(5)光または熱不安定な光重合停止剤、(6)光酸発生成分、光塩基発生成分、または光発生ラジカル、(7)極性効果または溶媒和効果、(8)対イオン効果、(9)モノマー反応性の変更、である。
【0041】
本発明において「実質的に低減した速度」という用語は、光重合開始光源がオフまたは無くなった後数秒以内でゼロに近づく速度までの、理想的には速度ゼロまでの重合速度の低下を指す。重合速度は一般に、すでに記録されたホログラムの忠実度の低下を防止するのに十分なだけ低減されなければならない。
【0042】
本発明において「暗反応」という用語は、光重合開始光源が無いときに生じるあらゆる重合反応を指す。暗反応は、未使用のモノマーを消耗させ(ダイナミックレンジが低下)、ノイズグレーティング(漂遊光グレーティングを含む)をもたらす可能性があり、あるいは、追加のホログラムを記録するために使用されるスケジューリングが予測不可能になることがある。
【0043】
本発明において「フリーラジカル重合」という用語は、1つ以上のフリーラジカルを含むあらゆる分子によって開始されるあらゆる重合反応を指す。
【0044】
本発明において「カチオン重合」という用語は、1つ以上のカチオン部分を含むあらゆる分子によって開始されるあらゆる重合反応を指す。
【0045】
本発明において「アニオン重合」という用語は、1つ以上のアニオン部分を含むあらゆる分子によって開始されるあらゆる重合反応を指す。
【0046】
本発明において「光重合開始剤」という用語は、光重合開始剤の用語の通常の意味を指し、また増感剤および染料も指す。一般に、光重合開始剤を活性化する波長の光、すなわち光重合開始光源で、光重合開始剤を含有する材料が露光された場合に、光重合開始剤は、光活性のオリゴマーまたはモノマーなどの材料の光開始重合を引き起こす。光重合開始剤は、個々にはそのいくつかが感光性ではないけれども組合せでは光活性のオリゴマーまたはモノマーを硬化させることができる成分の組合せを指すこともあり、その例としては、染料/アミン、増感剤/ヨードニウム塩、染料/ホウ酸塩などがある。
【0047】
本発明において「光重合開始剤成分」という用語は、単一の光重合開始剤、または2つ以上の光重合開始剤の組合せを指す。たとえば、本発明の光重合開始剤成分に2つ以上の光重合開始剤を使用して、2つ以上の異なる波長の光での記録を可能にすることができる。
【0048】
本発明において「重合可能成分」という用語は、1つ以上の光活性重合可能材料と、場合により1つ以上の追加重合可能材料(すなわち、モノマーおよび/またはオリゴマー)との、ポリマーを形成することができる混合物を指す。
【0049】
本発明において「光活性重合可能材料」という用語は、光重合開始光源、たとえば記録光で露光することによって活性化された光重合開始剤の存在下で重合するモノマー、オリゴマー、およびそれらの組合せを指す。硬化される官能基に関して、光活性重合可能材料は、そのような官能基を少なくとも1つ含む。やはり光重合開始剤である、N−メチルマレイミド、誘導体化されたアセトフェノンなどの光活性重合可能材料が存在することもまた理解されたい。このような場合では、本発明の光活性のモノマーおよび/またはオリゴマーはまた、光重合開始剤でありうることを理解されたい。
【0050】
本発明において「光ポリマー」という用語は、1つ以上の光活性重合可能材料と、場合により1つ以上の追加モノマーおよび/または追加オリゴマーとによって形成されるポリマーを指す。
【0051】
本発明において「重合遅延剤」という用語は、光重合開始光源がオフ、または無い間に重合速度を減速、低減などすることができる、あるいは光重合開始光源がオフ、または無いときに重合可能成分の重合を抑制することができる、1つ以上の組成物、化合物、分子などを指す。重合遅延剤は一般に、(抑制剤と比べて)ラジカルと反応するのが遅く、したがって光重合開始光源がオンの間に、一部のラジカルが遅延剤によって実際上停止されるので、低減した速度で重合が継続する。しかし、十分に高い濃度では、重合遅延剤は、潜在的に重合抑制剤として作用することができる。本発明において、重合の抑制ではなく重合の遅延が起きることを可能にする濃度範囲であることが望ましい。
【0052】
本発明において「重合抑制剤」という用語は、光重合開始光源がオンまたはオフのときに重合可能成分の重合を抑制または実質的に抑制することができる、1つ以上の組成物、化合物、分子などを指す。重合抑制剤は一般に、非常に速やかにラジカルと反応し、重合反応を効果的に停止させる。抑制剤は、形成する光ポリマーがその間ほとんどないか、または全くない(すなわち、ごくわずかの連鎖だけが形成される)抑制時間をもたらす。一般に光重合は、100%近くの抑制剤が反応した後で初めて起きる。
【0053】
本発明において「連鎖移動剤」という用語は、新しいポリマー分子鎖を形成するための新しい核として反応できる新しいラジカルを形成することによって重合分子鎖の成長を中断することができる、1つ以上の組成物、化合物、分子などを指す。一般に連鎖移動剤によって、連鎖移動剤が無い場合に起きる重合反応と比べて、短いポリマー鎖の形成の割合が高くなる。さらに、従来の連鎖移動剤は、それらが重合を効果的に再開始させない場合、遅延剤または抑制剤として作用することがある。
【0054】
本発明において「準安定反応中心」という用語は、特定の重合可能成分を用いて疑似リビングラジカル重合を生成する機能を有する、1つ以上の組成物、化合物、分子などを指す。赤外光または熱を使用して、重合に向けて準安定反応中心を活性化させることができることもまた理解されたい。
【0055】
本発明において「光または熱不安定な光重合停止剤」という用語は、光源および/または熱を使用して可逆的な停止反応をすることができる、1つ以上の組成物、化合物、成分、材料、分子などを指す。
【0056】
本発明において「光酸発生成分」、「光塩基発生成分」、および「光発生ラジカル」という用語は、光源で露光したときに、酸、塩基、またはフリーラジカルである1つ以上の組成物、化合物、分子などを発生させる、1つ以上の組成物、化合物、分子などを指す。
【0057】
本発明において「極性効果または溶媒和効果」という用語は、媒体の溶媒または極性が重合速度に及ぼす影響を指す。この効果は、対イオンが反応鎖末端に近いことが重合速度に影響を及ぼすイオン重合の場合に最も顕著である。
【0058】
本発明において「対イオン効果」という用語は、イオン重合の場合に、対イオンが動的鎖長に及ぼす影響を指す。対イオンが良好であると非常に長い動的鎖長が可能になるのに対して、対イオンがよくないと反応鎖末端で破綻する傾向があり、それによって動的鎖が終端する(すなわち、短い鎖が形成される)。
【0059】
本発明において「可塑剤」という用語は、可塑剤の用語の通常の意味を指す。一般に可塑剤は、ポリマー分子の内部修飾(溶媒和)によって製品の加工を容易にするために、また製品の可撓性および/または靱性を増大させるためにもポリマーに加えられる化合物である。
【0060】
本発明において「熱可塑性物質」という用語は、熱可塑性物質の用語の通常の意味、すなわち、ハイポリマーなど、熱にさらされたときに軟化し、室温まで冷却されたときに一般にその元の状態に戻るという材料の特性を示す組成物、化合物、物質などを指す。熱可塑性物質の例としては、それだけには限らないが、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-無水マレイン酸)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(スチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリ(エチレンオキシド)、線状ナイロン、線状ポリエステル、線状ポリカーボネート、線状ポリウレタンなどがある。
【0061】
本発明において「室温熱可塑性物質」という用語は、室温において固体である、すなわち室温においてコールドフローしない熱可塑性物質を指す。
【0062】
本発明において「室温」という用語は、一般に認められている室温の意味を指す。
【0063】
本発明において「熱硬化性物質」という用語は、熱硬化性物質の用語の通常の意味、すなわち、架橋されて融解温度をもたない組成物、化合物、物質などを指す。熱硬化性物質の例は、架橋ポリ(ウレタン)、架橋ポリ(アクリラート)、架橋ポリ(スチレン)などである。
【0064】
(説明)
本発明は、光重合を使用してデータをその中に記録するホログラフィック記録媒体がいくつかの「暗反応」により損なわれるという発見に基づく。これらの「暗反応」は、媒体へのデータの記録が中断した後、たとえば記録光が遮断された後も長く継続することがあり、また使用される特定の重合機構とは無関係であり、たとえばこれらの反応が、フリーラジカル、カチオン、およびアニオンによって開始され触媒作用を受ける光重合などの場合に起こることがある。比較的短い時間にわたって(たとえば、記録光が遮断された後5分ほどの短い間に)、これらの「暗反応」は、ホログラフィック記録媒体中にノイズグレーティングを成長させ、すでに記録されたデータを最終的には不明瞭にする可能性がある。媒体に記録されたホログラフィックグレーティングの所望のパターンがこれらの「暗反応」によって変更されているために、その媒体は、記録データの取出し用には使用不能になり、また信頼性がないものになる可能性がある。
【0065】
本発明はさらに、これらの「暗反応」が、媒体へのホログラフィック記録の所望のスケジューリングを複雑にすることがあるという発見に基づく。所与の体積の材料に多数のホログラムを記録する場合には、類似の回折効率のホログラムを記録するのが望ましい。高密度ホログラフィックデータ記憶を実現するために、多数の比較的弱いホログラフィック画像(回折効率≪1%)が一般に記録される。これは、記録される各ホログラフィックグレーティングに対して露光時間を変化させることによって達成することができる。このようなホログラフィックグレーティングを記録するためのスケジュールはまた、望ましくは露光の回数(すなわちホログラフィックグレーティングが形成されたとき)に対する各露光の時間(すなわちホログラフィックグレーティングの形成時に記録光がどれだけ長くオンであったか)の実質的な1次関数でもある。
【0066】
これらの「暗反応」は、このようなスケジューリングにおいて望ましくない非直線的依存関係をもたらすことがある。このような非直線スケジューリングは、少なくとも2つの変数、すなわち露光間の時間、および媒体の初期ダイナミックレンジによってもたらされる。商業的に成り立つホログラフィックデータ記憶では、いくつかのホログラフィックグレーティングをある体積の媒体に記録し、その後のあるときに、追加のホログラフィックグレーティングを同じ体積に記録することがときには必要である。媒体のダイナミックレンジの効率的かつ完全な利用に対して、「暗反応」は、追加のホログラフィックグレーティングを記録するのに必要な時間の正確な決定を妨げ、あるいは極めて困難にする可能性がある。媒体の初期のダイナミックレンジが大きいほど、この非直線スケジューリングの問題がより顕著になることが見いだされた。これらの「暗反応」は実際のところ、媒体の残存ダイナミックレンジの一部分をそのすべてに至るまで消費し、したがって追加のホログラフィックグレーティングを媒体に記録する機能を低下させ、あるいは妨げる可能性がある。
【0067】
本発明はさらに、記録光源がオフになったときに反応の停止が不十分であるためにこれらの「暗反応」が生じるという発見に基づいている。この現象に関連して、光重合開始光源(たとえば記録光)によってもはや露光されていないときでも、迷光が無制御の重合をまねくことがある。この無制御の重合は、ホログラフィック記録媒体での迷光グレーティングの発生をもたらすことが見いだされ、これは、媒体に記録されたホログラフィックグレーティングの所望のパターンを最終的には変更し、不明瞭にする。記録時の迷光(基材からの反射など)によって生じるこのタイプの「暗反応」は、媒体の体積の残存ダイナミックレンジの一部分またはすべてを使い尽くし、したがって追加のホログラフィックグレーティングを媒体に記録する機能を低下させ、あるいは無くする可能性がある。
【0068】
本発明は、光重合開始光源がオフまたは無いときに、残余の未重合光活性材料のさらなる重合を意図的に制御し、実質的に遅延、低減、漸減、解消などすることによって、これらの「暗反応」の問題を解決する。記録データの高信頼性取出しに関し、すでに記録されたホログラフィックグレーティングのパターンを媒体中に保存することに加えて、本発明はまた次のことも可能にする:(1)追加のホログラフィックグレーティングを記録するために、媒体の残存ダイナミックレンジのより多くを保存する;(2)より簡単に管理されるスケジュールによって、たとえば、ホログラフィック記録媒体が記録光で露光される時期に対する記録光での各露光時間の実質的な1次関数であるものに従ってホログラフィックグレーティングを媒体に記録する;(3)すでに記録された媒体の同じ体積に、追加のホログラフィックグレーティングをその全ダイナミックレンジまで記録するのに必要な時間をより正確に決定する;(4)一般的に、より商業的に成り立つ高密度ホログラフィックデータ記憶媒体を作り出す。
【0069】
図1は、ホログラフィックシステム10の基本的な構成要素を示す。システム10は、変調デバイス12、光記録媒体14、およびセンサ16を含む。変調デバイス12は、データを光学的に2次元で表すことができる任意のデバイスである。デバイス12は通常、符号化ユニットに取り付けられた空間光変調器であり、符号化ユニットはデータをこの変調器上へ符号化する。符号化に基づき、デバイス12は、デバイス12を通過する信号ビーム20の諸部分を選択的に通し、あるいは阻止する。このようにして、ビーム20はデータ画像で符号化される。画像は、参照ビーム22との符号化信号ビーム20の干渉によって、光記録媒体14の上または内部の場所に格納される。この干渉は、たとえば変化する屈折率のパターンとして媒体14内に取り込まれる干渉パターン(すなわちホログラム)を生成する。利用される特定の参照ビームに応じ、たとえば参照ビーム22の角度、波長または位相を変えることによって、複数のホログラフィック画像を単一の場所に格納すること、あるいは複数のホログラムを重なり合う各部分に格納することが可能である。信号ビーム20は通常、媒体14内で参照ビーム22と交差する前にレンズ30を通過する。この交差の前に、参照ビーム22がレンズ32を通過することが可能である。データが媒体14に格納されると、データの保存時に参照ビーム22が向けられたのと同じ位置、および同じ角度、波長または位相で参照ビーム22を媒体14と交差させることによって、データを取り出すことが可能である。この復元されたデータはレンズ34を通過し、センサ16によって検出される。センサ16は、たとえば電荷結合デバイス、または能動ピクセルセンサである。センサ16は通常、データを復号するユニットに取り付けられる。
【0070】
以上で論じたように、ホログラムの形成、導波路、またはその他の光学物品は、媒体の露光領域と未露光領域の屈折率差(Δn)に依拠し、この差は、少なくとも一部には露光領域へのモノマー/オリゴマーの拡散によるものである。屈折率差が大きいとホログラムを読み出すときの信号強度が改善され、かつ光波が導波路に効率的に封じ込められるので、一般に高屈折率差が望ましい。本発明において高屈折率差を実現する一方法は、支持マトリクスには実質的に存在せず、かつ支持マトリクスの大部分によって示される屈折率とは大きく異なる屈折率を示す部分(屈折率相違部分と呼ぶ)を有する光活性モノマー/オリゴマーを使用することである。たとえば、低い濃度の重原子、および共役二重結合(低屈折率を与える)を有する脂肪族または飽和脂環式の部分を主として含有する支持マトリクスと、主として芳香族または同類の高屈折率部分からなる光活性モノマー/オリゴマーとを使用することによって、高屈折率比を得ることができる。
【0071】
本発明のホログラフィック記録媒体は、媒体へのホログラフィック書込みおよび読出しが可能なように形成される。媒体の製造は一般に、光重合開始光源が無いときに重合速度を制御または実質的に低下させるために使用される支持マトリクス/重合可能成分/光重合開始剤成分、ならびに任意の組成物、化合物、分子などからなる本発明による複合物、配合物、混合物など(たとえば重合遅延剤)を、混合物を含有するためのたとえばガスケットを使用して2つのプレート間に付着させることを含む。これらのプレートは通常ガラス製であるが、データを書き込むために使用される照射に対して透過的なその他の材料、たとえばポリカーボネートまたはポリ(メチルメタクリラート)などのプラスチックを使用することも可能である。記録媒体の所望の厚さを維持するために、各プレート間にスペーサを使用することが可能である。光学的な平面度が必要な応用例では、液体混合物が冷却中(熱可塑性物質の場合)、または硬化中(熱硬化性物質の場合)に収縮し、それによって記録媒体の光学的平面度が歪むことがある。このような影響を低減させるために、平行度および/または間隔の変化に応じて調整可能な取付け台、たとえば真空チャックを含む装置の各プレート間に記録媒体を配置することが有用である。このような装置では、従来の干渉計による方法を使用することによって、リアルタイムで平行度を監視すること、および加熱/冷却プロセスに対して必要な調整を行うことが可能である。加えて、本発明の物品、すなわち基材は、反射防止コーティングを有することができ、かつ/または縁部封止をして水および/または酸素を排除することができる。反射防止コーティングは、化学的気相成長など様々なプロセスによってある物または基材の上に付着させることができ、その物または基材は、既知の方法を使用して縁部封止することができる。本発明の光記録材料はまた、その他の方法で支持することもできる。より一般的なポリマー加工、たとえば密閉金型成形またはシート押出しもまた想定される。層状媒体、すなわち複数の基材、たとえばガラスを含み、基材間に光記録材料の層が付着される媒体もまた企図される。
【0072】
本発明の物品は、いくつかの実施形態において、熱可塑性の特性を示しうるので、本発明の物品はまた、その溶融温度を超えて加熱し、支持マトリクス/重合可能成分/光重合開始剤成分/重合遅延剤からなる複合物、配合物、混合物などに対する上記の方法で加工することもできる。
【0073】
次に、本発明のホログラフィック記録媒体は、前に論じたようなホログラフィックシステムに使用することができる。ホログラフィック媒体内に格納することができる情報量は、光記録材料の屈折率差Δnと光記録材料の厚さdとの積に比例する。(屈折率差Δnは一般に知られており、平面波の体積ホログラムが書き込まれている材料の屈折率では正弦関数の変化の大きさとして定義される。屈折率は、n(x)=n+Δn cos(K)に従って変化し、ただし、n(x)は空間に関して変化する屈折率、xは位置ベクトル、Kは格子波ベクトル、n0は媒体のベースライン屈折率である。たとえばP. Hariharan,「Optical Holography: Principles, Techniques and Applications」, Cambridge University Press, Cambridge, 1991, at 44を参照されたい。同文書の開示を参照により本明細書に組み込む。材料のΔnは通常、媒体に記録された単一体積ホログラム、または多重セット(multiplexed set)の体積ホログラムの1つ以上の回折効率から計算される。Δnは書込み前の媒体と関連しているが、記録後に実施される測定によって観測される。有利なことに、本発明の光記録材料は3×10−3以上のΔnを示す。
【0074】
光学物品のその他の例には、ビームフィルタ、ビーム偏向器またはビーム偏光器、および光結合器がある。(たとえば、L. SolymarおよびD. Cooke,「Volume Holography and Volume Gratings」, Academic Press, 315-327 (1981)を参照されたい。同文書の開示を参照により本明細書に組み込む。)ビームフィルタは、特定の角度に沿って進んでいる入射レーザビームの一部をそのビームの残りの部分から分離する。具体的には、厚い伝送ホログラムのBragg選択性が、特定の入射角に沿った光を選択的に回折させることができ、一方、別の角度に沿った光は回折されずにホログラムを通り抜けて進む。(たとえば、J. E. Ludmanら, 「Very thick holographic nonspatial filtering of laser beams」, Optical Engineering, Vol. 36, No. 6, 1700 (1997)を参照されたい。同文書の開示を参照により本明細書に組み込む。)ビーム偏向器は、入射光をBragg角で偏向するホログラムである。光結合器は通常、光を光源から標的に向けるビーム偏向器が複合化したものである。一般にホログラフィック光学素子と呼ばれるこれらの物は、データ記憶に関して前に論じたように、特定の光干渉パターンを記録媒体内に画像化することによって製造される。これらのホログラフィック光学素子用の媒体は、記録媒体または導波路に関して本明細書で論じる技法によって形成することができる。
【0075】
前記のように、本明細書で論じる材料成分は、ホログラム形成だけでなく、導波路など光学伝送デバイスの形成にも適用できる。ポリマーの光導波路は、たとえば、B. L. Booth, 「Optical Interconnection Polymers」, in Polymers for Lightwave and Integrated Optics, Technology and Applications, L. A. Hornak編, Marcel Dekker, Inc. (1992)、1994年3月18日発行の米国特許第5,292,620号(Boothら)、および1993年6月15日発行の米国特許第5,219,710号(Hornら)に論じられており、これらの開示を参照により本明細書に組み込む。本質的に、本発明の記録材料は、導波路パターンと取り囲む(被覆する)材料との間に屈折率差を与えるために、所望の導波路パターンで照射される。露光は、たとえば集束レーザ光によって、あるいはマスクを非集束光源と共に使用することによって実施することが可能である。一般に、導波路パターンを設けるために単一の層がこのようにして露光され、追加層が付加されて被覆が完成し、それによって導波路が完成する。このプロセスは、たとえば、上記Boothの235〜236ページ、および上記米国特許第5,292,620号の段落5および6で論じられており、同特許の開示を参照により本明細書に組み込む。
【0076】
従来の成形技法を使用する本発明の一実施例では、支持マトリクス/重合可能成分/光重合開始剤成分/重合遅延剤からなる複合物、配合物、混合物などを物品の形成に先立って様々な形状に成形することが室温まで冷却することによって可能である。たとえば、支持マトリクス/重合可能成分/光重合開始剤成分/重合遅延剤からなる複合物、配合物、混合物などは、複数の屈折率パターンが成形構造体に書き込まれるリッジ導波路に成形される。それによって、Braggグレーティングなどの構造体を簡単に形成することが可能である。本発明のこの特徴は、そのようなポリマー導波路が有用である応用例の幅を増大させる。
【0077】
一実施例では、支持マトリクスは熱可塑性物質であり、本発明の物品があたかもその全体が熱可塑性物質であるようにふるまうことを可能にする。つまり、この支持マトリクスは、熱可塑性物質が加工されるのと同様にして本発明の物品が加工されること、すなわち、成形物に形成され、フィルムに伸ばされ、基材上に液体の形態で付着され、押し出され、圧延され、プレスされ、材料のシートにされるなどし、次いで、室温で硬化させて安定した形状または形態にすることを可能にする。支持マトリクスは、1つ以上の熱可塑性物質を含むことができる。適切な熱可塑性物質は、ポリ(メチルビニルエーテル-alt-無水マレイン酸)、ポリ(ビニルアセテート)、ポリ(スチレン)、ポリ(プロピレン)、ポリ(エチレンオキシド)、線状ナイロン、線状ポリエステル、線状ポリカーボネート、線状ポリウレタン、ポリ(塩化ビニル)、ポリ(ビニルアルコール−co−酢酸ビニル)を含む。
【0078】
本発明の一実施形態では、本発明のホログラフィック記録媒体に使用される熱可塑性物質の量は、ホログラフィック記録媒体全体がほとんどの加工用に熱可塑性物質として実際上ふるまうのに十分であるのが好ましい。ホログラフィック記録媒体の結合剤成分は、重量でホログラフィック記録媒体の約5%ほど、好ましくは約50%ほど、より好ましくは約90%ほどを構成してよい。ホログラフィック記録媒体のあらゆる所与の支持マトリクスの量も、結合剤成分を構成する1つ以上の熱可塑性物質の透明度、屈折率、溶融温度、T、色、複屈折、溶解度などに基づいて変更してよい。さらに、ホログラフィック記録媒体の支持マトリクスの量は、媒体の最終の形態が固体、フレキシブルフィルム、または接着剤であるかに基づいて変更してよい。
【0079】
本発明の一実施形態では、支持マトリクスはテレケリック熱可塑性樹脂を含んでよく、これは、熱可塑性ポリマーが、グレーティング形成中に支持マトリクス中の熱可塑性物質を重合可能成分から形成されるポリマーと共有結合で架橋させる反応基によって官能化できることを意味する。このような架橋は、熱可塑性ホログラフィック記録媒体内に保存されたグレーティングを長時間の高温に対してさえも非常に安定にする。
【0080】
同様に、熱硬化性物質が形成される本発明の別の実施形態では、支持マトリクスは、光ポリマーを形成するために使用されるモノマーと共重合するか、または別の方法で共有結合する官能基を含むことができる。このようなマトリクス付加方法は、記録ホログラムの保存寿命を向上させる。本明細書での使用に適した熱硬化性物質の系は、米国特許第6,482,551号(Dharら)に開示されており、同特許を参照により本明細書に組み込む。
【0081】
本発明の別の実施形態では、熱可塑性支持マトリクスは、支持マトリクス中の官能化熱可塑性ポリマーを使用することによって、グレーティング形成時に形成されたポリマーと非共有結合で架橋するようになる。このような非共有結合の例としては、イオン結合、水素結合、双極子−双極子結合、芳香族のπスタッキングなどがある。
【0082】
本発明の一実施形態によれば、本発明の物品の重合可能成分は、データページをホログラフィック記録媒体に記録しているレーザビームなどの光重合開始光源で露光されたときに、ポリマーまたはコポリマーからなるホログラフィックグレーティングを形成できる少なくとも1つの光活性重合可能材料を含む。この光活性重合可能材料は、光開始重合をすることができ支持マトリクスとの併用で本発明の適合性要件を満たす、あらゆるモノマー、オリゴマーなども含むことができる。適切な光活性重合可能材料には、フレーラジカル反応によって重合するものがあり、たとえば、アクリラート、メタクリラート、アクリルアミド、メタクリルアミド、スチレン、置換スチレン、ビニルナフタレン、置換ビニルナフタレン、およびその他のビニル誘導体など、エチレン不飽和を含む分子がある。ビニルエーテル/マレイミド、ビニルエーテル/チオール、アクリラート/チオール、ビニルエーテル/ヒドロキシなどのフリーラジカル共重合可能な対の系もまた適している。カチオン重合可能な系もまた使用可能であり、いくつかの例としては、ビニルエーテル、アルケニルエーテル、アレンエーテル、ケテンアセタール、エポキシドなどがある。さらに、アニオン重合可能な系も適している。単一の光活性重合可能分子が複数の重合可能官能基を含むことも可能である。その他の適切な光活性重合可能材料には、環状二硫化物および環状エステルがある。重合可能成分に含まれて、光重合開始光源で露光時にホログラフィックグレーティングを形成することができるオリゴマーには、オリゴマーの(エチレンスルフィド)ジチオール、オリゴマーの(フェニレンスルフィド)ジチオール、オリゴマーのビスフェノールA、オリゴマーの(ビスフェノールA)ジアクリラート、ペンダントビニルエーテル基を有するオリゴマーのポリエチレンなどがある。本発明の物品の重合可能成分の光活性重合可能材料は、単官能基、二官能基、および/または多官能基のものとすることができる。
【0083】
少なくとも1つの光活性重合可能材料に加えて、本発明の物品は光重合開始剤を含むことができる。光重合開始剤は、比較的低レベルの記録光で露光すると、少なくとも1つの光活性重合可能材料の重合を化学的に開始し、それによって直接光誘導重合の必要が回避される。光重合開始剤は一般に、特定の光活性重合可能材料、たとえば光活性モノマーの重合を開始する化学種の供給源を与えなければならない。一般に、約0.1〜約20体積%の光重合開始剤が望ましい結果をもたらす。
【0084】
当業者に知られている市販の様々な光重合開始剤が、本発明での使用に適している。通常のレーザ発生源、たとえば青線および緑線のArレーザ(458、488、514nm)およびHe−Cdレーザ(442nm)、緑線の周波数倍化YAGレーザ(532nm)、赤線のHe−Neレーザ(633nm)、Kr+レーザ(647および676nm)、ならびに様々なダイオードレーザ(290〜900nm)から得られる波長の光に感応する光重合開始剤を使用することが有利である。1つの有利なフリーラジカル光重合開始剤は、ビス(η−5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)ビス[2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)フェニル]チタンであり、CibaからIrgacure 784(登録商標)として市販されている。別の可視フリーラジカル光重合開始剤(共開始剤が必要)は、5,7−ジヨード−3−ブトキシ−6−フルオロンであり、Spectra Group LimitedからH-Nu 470として市販されている。染料−水素ドナー系のフリーラジカル光重合開始剤もまた可能である。適切な染料の例としては、エオシン、ローズベンガル、エリトロシン、およびメチレンブルーがあり、適切な水素ドナーの例としては、n−メチルジエタノールアミンなど第3級アミンがある。カチオン重合可能成分の場合には、スルホニウム塩またはヨードニウム塩などの、カチオン光重合開始剤が使用される。これらのカチオン光重合開始剤の塩は主としてスペクトルのUV部分を吸収し、したがって一般に、増感剤または染料で増感されて、スペクトルの可視部分を使用することが可能になる。代替の可視カチオン光重合開始剤の例は、(η−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)(η−イソプロピルベンゼン)−鉄(II)ヘキサフルオロリン酸塩であり、CibaからIrgacure 261として市販されている。
【0085】
ほとんどの実施形態で、本発明の光重合開始剤は、約200nm〜約800nmの紫外および可視照射に感応する。
【0086】
本発明の物品はまた、溶融点、可撓性、靱性、モノマーの拡散性、および加工の容易性を含む本発明の物品の特性を変えるための可塑剤などの添加剤も含む。適切な可塑剤の例としては、ジブチルフタラート、ポリ(エチレンオキシド)メチルエーテル、N,N−ジメチルホルムアミドなどがある。溶剤は一般に蒸発させるのに対して可塑剤は物品の中にとどまるようにする点で、可塑剤は溶剤と異なる。
【0087】
本発明の液体混合物および本発明の物品に使用することができるその他のタイプの添加剤は、相対的に高屈折率または低屈折率を有する不活性拡散剤である。不活性拡散剤は一般に、形成されるグレーティングから離れて拡散し、屈折率が高くなるか、または低くなることがあるが、一般には低くなる。したがって、モノマーが高屈折率である場合には、不活性拡散剤は低屈折率になり、不活性拡散剤は理想的には、干渉パターンのヌル(null)まで拡散する。全体的にグレーティングの差が大きくなる。本発明の液体混合物および本発明の物品に使用することができるその他のタイプの添加剤は、顔料、充填剤、光重合を開始しない染料、酸化防止剤、漂白剤、離型剤、消泡剤、赤外線/マイクロ波吸収剤、界面活性剤、接着促進剤などを含む。
【0088】
一実施形態では、本発明の物品の重合可能成分は約20体積%未満であるが、別の実施形態では、本発明の物品の重合可能成分は約10体積%未満、さらには約5体積%未満にもなる。データ記憶応用例では、典型的な重合可能成分は約5体積%で存在する。
【0089】
本発明の物品は、必要とされるどんな厚さにもできる。たとえば本発明の物品は、表示ホログラフィ用に薄くすることができ、あるいはデータ記憶用に厚くすることができる。本発明の物品は、基材の上に付着されるフィルム、フリーフレキシブルフィルム(食品用ラップと同様)、または基材が不要な堅い物(クレジットカードと同様)とすることができる。データ記憶応用例では、本発明の物品は通常、厚さが約1〜約1.5mmになり、通常2つの基材の間に付着されたフィルムの形態であり、基材のうちの少なくとも1つが反射防止コーティングを有する。この物品はまた、湿気および空気を防ぐために封止もされると考えられる。
【0090】
本発明の物品は、加熱して、ガラス(Vycor(登録商標))、布および紙、木またはプラスチックなどの、多孔質基材に注入される液体混合物を形成し、次いで冷却させることができる。このような物品は、表示および/またはデータの類のホログラムを記録することができる。
【0091】
本発明の物品は、1999年8月3日発行の米国特許第5,932,045号(Campbellら)に記載されているプロセスのような適切なプロセスによって、光学的平面にすることができる。同特許の全内容および全開示を参照により本明細書に組み込む。
【0092】
本発明の物品において多種多様なマトリクスの種類の中から選択できることがまた、現在のホログラフィック記憶媒体に影響を及ぼす水または湿気などの問題の低減または解消を実現可能にもする。一実施形態では、本発明の物品は、揮発性ホログラムを保存するために使用することができる。本発明において光ポリマー鎖長を制御できることにより、記録されたホログラムが非常に広範囲にわたる寿命を有するように特定の混合物を調整することができる。したがって、ホログラム記録の後、そのホログラムは1週間、数ヶ月または数年などの規定の期間、読取り可能とすることができる。本発明の物品を加熱することがまた、ホログラム破壊のそのようなプロセスを促進することができる。揮発性ホログラムを使用する応用例には、レンタル映画、セキュリティ情報、切符(または定期券)、熱履歴検出器、タイムスタンプ、および/または一時的な個人記録などがある。
【0093】
一実施形態では、本発明の物品は、永久的なホログラムを記録するために使用することができる。記録されたホログラムの永続性を増大させるいくつかの方法がある。これらの方法の多くが、硬化中にマトリクスへの光ポリマーの付加を可能にする官能基をマトリクスに配置することを含む。この付加基は、ビニル不飽和物、連鎖移動部位(sites)、さらにはBHT誘導体などの重合遅延剤とすることができる。さもなければ、記録されたホログラムの長期保存の安定性増大のために多官能性モノマーが使用されるべきである。この多官能性モノマーは、光ポリマーの架橋を可能にし、それによってマトリクス中の光ポリマーの絡み合いを増加させる。本発明の一実施形態では、多官能性モノマーおよびマトリクス付加遅延剤の両方が使用される。このようにして、重合遅延剤のためにより短くなった鎖が保存寿命の減少をもたらすことはなくなる。
【0094】
上記の光ポリマー系に加えて、様々な光ポリマー系を本発明のホログラフィック記録媒体に使用することができる。たとえば、本発明での使用に適した光ポリマー系はまた、米国特許第6,103,454号(Dharら)、米国特許第6,482,551号(Dharら)、米国特許第6,650,447号(Curtisら)、米国特許第6,743,552号(Setthachayanonら)、米国特許第6,765,061号(Dharら)、米国特許第6,780,546号(Trentlerら)、2003年11月6日公開の米国特許出願公開第2003−0206320号(Coleら)、および2004年2月12日公開の米国特許出願公開第2004−0027625号にも記載されている。
【0095】
本発明の物品は、摩砕、細断、粉砕などによって、粉末、チップなどからなる粒子材料を形成することができる。この粒子材料は、その後加熱して、成形物、基材に施す被覆などを作製するために使用される流動性の液体を形成することができる。
【0096】
粒子材料が粉末の場合、この粉末を金属またはその他の導電性材料などの基材に静電塗布することができ(典型的な粉末コーティング)、次いでこの基材を加熱してコーティングを形成する。粉末はまた、繊維質の材料に吹き入れて、装飾用途向けのホログラフィ紙、ホログラフィ厚紙、ホログラフィリボンなどを形成することもできる。さらに粉末は、撚り糸、織り糸、布地の用途向けの繊維に溶解押し出しすることができる。
【0097】
本発明の物品はまた、装飾の目的に使用することができる。たとえば本発明の物品は、贈り物用包装材料またはウィンドウトリートメントに使用して、特殊な美術的色付け、または3D模様を実現することができる。本発明の物品は挽いて粉にし、家屋、自動車、家具の塗料などの被覆剤に使用することができる。本発明の物品は自動車、玩具、家具、器具などの成形部分に使用して、装飾的な効果を与えることができる。
【0098】
本発明の物品はまた、材料の塊のような、または基材上に被覆されるコーティングの一部のような、様々なサイズおよび形状のデータ記憶デバイスを作製するために使用することもできる。
【0099】
本発明は、特にホログラフィック記録媒体中の光重合反応を制御することを対象とし、とりわけ、このようなホログラフィック記録媒体に使用される光ポリマー系での暗反応を低減、最小化、漸減、解消することを対象とする。これは一般に、下記のうちの1つ以上を使用することによって実現される。すなわち(1)重合遅延剤、(2)重合抑制剤、(3)連鎖移動剤、(4)準安定反応中心の使用、(5)光または熱不安定な光重合停止剤の使用、(6)光酸発生成分、光塩基発生成分または光発生ラジカルの使用、(7)極性効果または溶媒和効果の使用、(8)対イオン効果、(9)光活性重合可能材料の反応性の変更、である。
【0100】
フリーラジカル系では、光重合反応の反応速度は、モノマー/オリゴマー濃度、モノマー/オリゴマー官能性、系の粘性、光の強度、光重合開始剤の種類および濃度、様々な添加剤の存在(たとえば連鎖移動剤、抑制剤)などのいくつかの変数によって決まる。したがって、フリーラジカル光重合では、下記の各段階が光ポリマーの形成の機構を一般的に示す。
1)hv+PI→2R(開始反応)
2)R+M→M(開始反応)
3)M+M→(M)(生長反応)
4)(M)+M→(M)(生長反応)
5)(M)+M→(M)n+1(生長反応)
6)R+M→RM(停止反応)
7)(M)*+(M)→(M)n+m(停止反応)
8)R+(M)→R(M)(停止反応)
9)R+R→RR(停止反応)
【0101】
光重合開始の速度は、次式10で示すことができる。
【数1】

【0102】
ただし、Rlは開始の速度、nは光重合開始剤によって生成されたラジカルの数(多くのフリーラジカル開始剤ではn=2、多くのカチオン開始剤ではn=1)、Φは開始の量子収量(通常1未満)、Iaはアインシュタイン(単位)の吸収光強度、Ioは入射光強度(やはりアインシュタイン(単位))、Aは光重合開始剤の濃度(モル/リットル)、εは対象とする波長での開始剤のモル吸収率、bはシステムの厚さ(cm)である。
【0103】
開始の速度は、次式11によって重合の速度を決める。
【数2】

【0104】
ただし、Rは重合の速度、kは重合の動的反応速度定数、Mはモノマー濃度、kは停止の動的反応速度定数である。
【0105】
式11は、光の強度が、容易に感知できるほど媒体によって変化しないものとしている。フリーラジカル光重合開始剤の開始の量子効率は、モノマー濃度が典型的には2成分タイプの光ポリマーホログラフィック媒体の領域である0.1M未満の場合には、モノマー濃度、粘性、および開始の速度によって大きく影響を受ける。したがって、次の因果関係が開始の量子収量を低下させることが分かる。すなわち、(増加した強度、高いモル吸収率などによる)高い粘性、低いモノマー濃度、および高い開始速度である。
【0106】
しかし、重合遅延剤/抑制剤が加えられた場合、以下の反応12)および13)が起こり得る(ただしXは任意のラジカルを表す)。
12)X+Z-Y→X-Y+Z(停止反応)
13)Z+X→Z-X(停止反応)
【0107】
遅延剤/抑制剤への移動が他の停止反応に比べて多いとすると、反応速度式11は次式14に変わる。
【数3】

【0108】
ただし、Zは抑制剤の濃度であり、kは遅延剤/抑制剤を用いた停止の反応速度定数である。式14に示される重合速度は、開始速度(R)の1乗によって決まる。k/kの比率は抑制剤定数(すなわち小文字z)と呼ばれる。約1よりもずっと大きな値は抑制効果を表すのに対し、約1以下の値は遅延効果を表す。約1よりもずっと小さな値は、重合速度に及ぼす影響がわずかであることを表す。
【0109】
重合抑制剤と重合遅延剤の違いはしばしば、含まれる特定の重合可能成分に依存する。たとえばニトロベンゼンは、メチルアクリラートのラジカル重合を穏やかに遅延させるだけにもかかわらず、ビニルアセテートのラジカル重合は抑制する。したがって、一般には抑制剤と考えられているが、本発明の用途には遅延剤としても機能する薬剤が見いだされる可能性がある。様々な重合遅延剤/抑制剤の、様々なポリマー系とのいくつかの例示的な抑制剤定数zを示す以下の表を参照されたい。
【表1】

【0110】
本明細書で使用に適した重合遅延剤および重合抑制剤には、それだけには限らないが、次のうちの1つ以上のものが含まれる。すなわち、
フリーラジカル重合では、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、p−メトキシフェノール、ジフェニル−p−ベンゾキノン、ベンゾキノン、ハイドロキノン、ピロガロール、レソルシノール、フェナントラキノン、2,5−トルキノン、ベンジルアミノフェノール、p−ジヒドロキシベンゼン、2,4,6−トリメチルフェノールなどの、ブチルヒドロキシトルエン(BHT)を含む種々のフェノール、
o−ジニトロベンゼン、p−ジニトロベンゼン、m−ジニトロベンゼンなどを含む種々のニトロベンゼン、
N−フェニル−1−ナフチルアミン、N−フェニル−2−ナフチルアミン、クペロン、フェノチアジン、タンニン酸、p−ニトロソアミン、クロラニル、アニリン、ヒンダードアニリン、塩化鉄(III)、塩化銅(II)、トリエチルアミンなどである。
【0111】
これらの重合遅延剤および重合抑制剤は、別々に(すなわち単一の遅延剤を)使用でき、あるいは2つ以上の組合せで、すなわち複数の遅延剤を使用することができる。上の表はラジカル重合の遅延剤および抑制剤を示しているが、同一素をイオン重合にも適用することができる。たとえば、塩化物アニオンは、モノマーの種類にも塩化物アニオンの濃度にも応じて、カチオン重合の遅延剤または抑制剤として作用することが知られている。一般に、塩基性または穏やかな求核性の官能基がカチオン重合の遅延剤または抑制剤として作用するのに対して、アニオン重合では、わずかに酸性の、かつ穏やかな求電子性の官能基が遅延剤および抑制剤として作用する。
【0112】
重合遅延剤も重合抑制剤もかかわる重合反応は、停止反応にまで至らなければならない。どんな程度でもはっきり認められるほどの重合再開始が起きる場合には、その薬剤は一般に連鎖移動剤と考えられる。たとえばトリメチルアミンは、いくらかのラジカル重合を再開始することもできるので、連鎖移動剤として使用することができる。しかし、重合再開始が停止反応と比べて遅い場合、本発明の目的では、連鎖移動剤さえも潜在的な重合遅延剤または重合抑制剤として考えることができる。
【0113】
本明細書で使用に適した連鎖移動剤には、それだけには限らないが、トリエチルアミン、チオエーテル、各種の炭酸基を有する諸化合物、エーテル、トルエン誘導体、アリルエーテルなどが含まれる。穏やかに遅延させる連鎖移動剤は、マトリクス中に混合させて光ポリマーおよび光重合開始剤ラジカルのマトリクスへの付加を可能にすることができるので望ましいものでありうる。
【0114】
図2〜8は、最少の重合遅延剤/抑制剤を含むラジカル光ポリマーホログラフィック媒体内の、ノイズグレーティングからなる時間依存性構築物を示す。図2〜5は、2成分ラジカル光ポリマー媒体に記録された単一ホログラフィックデータページに関係する。図2に示すように、高忠実度データページが媒体に記録されている。このデータページはさらに、光強度(1ミリ秒当たりの全記録カウント数)および信号対雑音比(SNR)を経過時間の関数として示す図3のグラフ、特定の光強度を有するピクセルの相対的割合を示す図4のヒストグラム、ならびにSNRを図化した図5によって示されている。
【0115】
図6〜8は、図2に示す記録の後60分間暗所にあった同一の媒体を表す。図6に示すように、この媒体はノイズグレーティングを発生させたが、このノイズグレーティングは「暗反応」が起きたことにより成長し、すでに記録されたデータを最終的に不明瞭にした。図6の記録データのこの劣化はさらに、(1ミリ秒当たりの全記録カウント数での)光強度および信号対雑音比(SNR)を経過時間の関数として示す図7のグラフと、特定の光強度を有するピクセルの相対的割合を示す図8のヒストグラムとによっても示されている。実のところ、そのSNRが図5のように図化されたとすれば、図6のデータページ全体にわたって示される光強度の違いはごくわずかになるはずである。
【0116】
図9のグラフは、BHT(2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール)などの遅延剤が、光重合開始光源で露光されないときに光活性重合可能モノマーの重合を遅延させるのに十分な量だけ、本発明のホログラフィック記録媒体に含まれているときに起きる事象を示す。図9の四角形付きの曲線は重合遅延剤の添加なしの場合を表すのに対し、三角形付きの曲線は0.1%のBHTが添加された場合を表す。図9に示すように、重合遅延剤が添加されない場合は、記録ページの復元物は、30dBを超えるSNRの低下によって明白に示されるように、暗反応により急速に劣化する。これと対照的に、やはり図9に示すように、0.1%のBHTを添加すると、暗反応によるノイズ発生が最小化あるいは解消され、それによって記録ページを高忠実度に維持することができる。言い換えると、観察された図6の時間依存性ノイズグレーティングが形成されず、それによって高忠実度ホログラフィックデータを継続して回復させることができる。記録光で露光されないときには、この濃度の添加BHTによってこのようなノイズグレーティングの発生が制限されるが、記録光で露光されたときには依然として、追加のホログラフィックグレーティングを媒体に記録することができる。したがって、適切な量の遅延剤/抑制剤を添加すると、ホログラフィで格納されたデータの高忠実度読出しが可能になる。また、最初のホログラムを記録した後に、時間に伴ってシステムが変化しないので、たとえ各露光事象の間が長時間でも、記録スケジュールを修正することなくさらなるホログラムを記録することができる。
【0117】
重合抑制剤に対して重合遅延剤の使用は、本発明において有利とされてよい。多数のホログラム記録における最初の何回かの露光の後に、媒体内に存在する重合抑制剤の量が激減する可能性がある。このような低濃度では、暗反応が再び問題になることがある。それに反して、重合遅延剤を使用すると、どんな所定の露光中でもわずかの量の遅延剤が反応を起こすだけである。したがって、重合遅延剤の濃度は潜在的に、ほぼ直線的に、かつモノマー濃度の減少との相関関係で減少する。したがって、露光スケジュールの後の方になってさえ、露光後の重合も低光強度領域での重合も妨げるのに十分な遅延剤がある。実際上、重合遅延剤は鎖長制限剤として作用する。重合遅延剤と重合可能材料(たとえばモノマー)の比は理想的には、露光スケジュール全体を通してほぼ一定のままである。このような筋書きでは、鎖長(重合の程度)は潜在的に、露光スケジュール全体を通して実質的に同じままであり、それによって、露光の回数に対する各露光の時間に関してほぼ直線的な応答になる。
【0118】
遅延剤/抑制剤/連鎖移動剤の使用は、ラジカル重合に限定されない。カチオン重合およびアニオン重合(開環重合を含む)もまた暗反応の影響を受ける。したがって、これらのイオン連鎖重合に適切な抑制剤/遅延剤/連鎖移動剤を添加することもまた、暗反応を低減、最小化、漸減、解消などするのに有用である。
【0119】
遅延剤、抑制剤および/または連鎖移動剤に加えて、準安定反応中心、および光不安定光重合停止剤もまた、本発明の適切な反応性により、重合反応を制御するために使用することができる。たとえば、ニトロキシルラジカルを準安定反応中心として添加することができる。ニトロキシルラジカルは、特定のモノマーとの疑似リビングラジカル重合を生成する。すなわち、ニトロキシルラジカルは最初、(抑制剤などの)停止剤として作用するが、重合が行われる温度に応じて、停止反応が可逆性になる。このような筋書きでは、記録温度を変更することによって、暗反応の制限も鎖長の制御もすることができる。したがって、高温でホログラムを記録し、次いで室温まで冷却してさらなる重合を妨げることが可能である。加えて、室温で記録し、それによって抑制剤のようにすべての連鎖を速やかに停止させ、次いでサンプルを加熱して、新たな光活性モノマーをすべてのグレーティングに同時に付加できるようにすることが可能である。この別の筋書きでは、関係するすべてのグレーティングに対してBragg離調が均一になるという点で、すべてのグレーティングの重合が単一の時点に生じることから得られる利益がある。可能性のあるその他の準安定反応中心にはトリフェニルメチルラジカルが含まれ、一般にはジチオエステルが可逆的付加開裂連鎖移動(RAFT)重合に使用され、これは適切な準安定反応中心として作用することができる。イオン重合に関しては、上の例のニトロキシルラジカルと同じ機能を果たすことができる安定したイオンがある。
【0120】
光不安定光重合停止剤を使用すると、(上記の熱とは対照的に)光を用いて反応種の活性を制御する機能がもたらされる。光不安定光重合停止剤は、光源を使用した可逆的停止反応をさせることのできるあらゆる分子である。たとえば、ある種のコバルト-オキシム錯体を使用してラジカル重合を光開始することができ、なおかつ同じラジカル重合を停止することもできる。ジチオエステルはまた、適当な波長の光によって可逆的にラジカルを形成する機能を有するので、光不安定光重合停止剤としても適している。適当な条件下で(スチレンおよびアクリラートなどの)適当なモノマーを用いると、光重合開始光源(たとえば記録光)で照射することによって重合を再開始することが可能である。したがって、所定の体積が光重合開始光源で露光される限りラジカル重合が継続するのに対して、光重合開始光源がオフ、または無いときは、重合が停止する。準安定反応中心および光不安定光重合停止剤はまた、本発明によるイオン(すなわちカチオンまたはアニオン開始)重合反応システムを制御するために使用することができる。
【0121】
暗反応を低減、最小化、漸減、解消などするためのさらに別の方法は、ホログラムを記録するために使用されるのとは別の波長の光で活性化される第2の光活性化合物(すなわち光酸発生成分、光塩基発生成分、または光ラジカル発生成分)を付加または含めることによるものである。たとえば、ホログラムを記録するためにカチオン開環重合が使用される場合、光塩基発生剤(PBG)を使用して記録後のカチオン種をオフにすることができる。したがって、所望の量のデータが第1の波長の光によって媒体に記録された後、第2の波長の光が、ほとんどまたはすべてのカチオン反応部位と反応するPBGを活性化させ、それによってさらなるカチオン開環重合反応を少なくとも最小化し、あるいは妨げる。同様の概念を、光酸発生成分および光発生安定化フリーラジカルがそれぞれ使用されるアニオン重合およびラジカル重合で用いることができる。PBGなどの第2の光活性化合物を関わらせる概念は一般により有用であり、いくつかのホログラムを1回で記録し、次いで追加のホログラムを同じ体積に全ダイナミックレンジが使用されるまで後で記録することを可能にする。
【0122】
イオン連鎖反応(すなわちカチオンおよびアニオン開始重合反応)では、対イオン、および溶媒効果を用いて暗反応を制御することが、反応中心を停止させることによって可能である。溶媒(または支持マトリクス)が対イオンの反応中心までの近接度を決めるので、イオン系は溶媒の条件に影響されやすい。たとえば、無極性媒体中では、対イオンは反応中心と非常に近接して結合し、極性媒体中では、対イオンは自由に解離できるようになる。対イオンの近接度によって重合速度、ならびに対イオンによる崩壊の可能性(使用される対イオンに依存する)を決めることができる。たとえば、無極性支持マトリクスと、対イオンとして塩化物アニオンとを用いてカチオン重合を使用した場合では、対イオンの崩壊により反応を停止させるよりよい確率がある。したがって、このようにして、支持マトリクスおよび対イオンの選択によって生長の確率に対する崩壊の尤度を決めることができるので、制御された方法でイオン重合を停止させることができる。
【0123】
特定のモノマー混合物はまた、重合の程度または速度を制御できるように作用することもできる。たとえば、少量のαメチルスチレンがアクリラート重合において存在する場合、このアクリラートはαメチルスチレンに付加し、スチレンは実質的にアクリラートの重合を再開始することにならない、すなわちαメチルスチレンはアクリラート重合の速度を遅くする。さらにαメチルスチレンは、それ自身が重合するのが遅く、したがって、コモノマーではあるが重合遅延剤/抑制剤として作用する。イオン重合の場合では、たとえば、カチオンビニルエーテル重合にビニルアニソールを使用すると、ビニルアニソールがビニルエーテル重合を効率的に再開始しないので、重合の速度が遅くなる。
【0124】
媒体が光重合開始光源(たとえば記録光)で露光されないときに、ホログラフィック記録媒体中の重合反応の速度を制御する機能、具体的には低減、最小化、漸減などする機能の故に、本発明は、ホログラフィック記録媒体内に少なくとも1つのホログラフィックグレーティングを形成することにおいて著しい利益を提供する。この利益には、ホログラフィック記録媒体内に複数のホログラフィックグレーティングを形成することと、1つ以上の追加のホログラフィックグレーティングを、追加のホログラフィックグレーティングが形成される時間とは分離しているある時間に、少なくとも1つのホログラフィックグレーティングがすでにその中に形成したホログラフィック記録媒体内に形成する(たとえば、少なくとも約10秒後から約1週間後に追加のホログラフィックグレーティングを形成する)ことと、追加のホログラフィックグレーティングを、すでに形成したホログラフィックグレーティングと同じ体積でホログラフィック記録媒体内に形成することと、ホログラフィック記録媒体が記録光で露光される時期に対する記録光での各露光の時間の関数であるスケジュールに従って各ホログラフィックグレーティングを媒体内に形成することが含まれ、ホログラフィック記録媒体が記録光で露光される時期に対する記録光での各露光の時間の実質的な1次関数であるスケジュールに従って各ホログラフィックグレーティングを媒体内に形成することが含まれる。
【0125】
したがって、本発明の方法の一実施例は、ホログラフィック記録媒体内に複数のホログラフィックグレーティングを形成するステップを含み、ここで、そのホログラフィック記録媒体内の各ホログラフィックグレーティングは、ホログラフィック記録媒体が記録光で露光される時期に対する記録光での各露光の時間の関数(たとえば実質的な1次関数)であるスケジュールに従って記録光でホログラフィック記録媒体を露光することによって形成される。本発明の方法の別の実施形態は、少なくとも1つの追加ホログラフィックグレーティングを、先に形成された少なくとも1つのホログラフィックグレーティングをその中に有するホログラフィック記録媒体内に、その少なくとも1つの追加ホログラフィックグレーティングが形成される時間とは分離しているある時間にその同じ体積で形成するステップを含む。本発明の方法の別の実施形態は、複数の追加のホログラフィックグレーティングをその同じ体積で、先に形成された複数のホログラフィックグレーティングをその中に有するホログラフィック記録媒体内に、その複数の追加ホログラフィックグレーティングが形成される時間とは分離しているある時間に形成するステップを含み、ここで、複数の追加ホログラフィックグレーティングが、各追加ホログラフィックグレーティングが形成される時期に対する各追加ホログラフィックグレーティングを形成するのに要する時間の関数(たとえば実質的な1次関数)に従って形成される。
【0126】
(実施例)
(実施例1)
下表の配合物が使用される。
【表2】

【0127】
配合物1は、均一になるまで混合され、次いで1滴のスズ触媒が付加される。スライドガラス上にスペーサを置き、次に混合物の一部分を調合することによってマトリスク試料が作製される。調合された混合物の上に第2のスライドガラスが置かれ、次に、得られたマトリクスを硬化させる。約24時間後、試料は、31の角度多重体積ホログラムを書き込むことによって、532nm平面波装置で試験される。配合物1は、室温で少なくとも4ヶ月間安定であり、ホログラムを過度現像しない。
【0128】
(実施例2)
下表の配合物が使用される。
【表3】

【0129】
1滴のスズ触媒が配合物2に付加され、実施例1のようにマトリクス試料が調製される。試料は、31の角度多重体積ホログラムを書き込むことによって、405nm平面波台で試験される。配合物にニトロベンゼン遅延剤が無い場合、それから調製されるマトリクス試料は、過度現像(すなわち、記録後に継続した重合)によりグレーティングが歪むために高密度データ記憶には適さないことが見いだされる。
【0130】
(実施例3)
下表の配合物が使用される。
【表4】

【0131】
1滴のスズ触媒が配合物3に付加され、実施例1のようにマトリクス試料が調製される。2−(1,2−エチルジオール)−ニトロベンゼンは、硬化中に付属物(pendant)になり、あるいはマトリクスに付着する。試料は、31の角度多重体積ホログラムを書き込むことによって、405nm平面波台で試験される。ホログラムの過度現像を防止するために、配合物2のニトロベンゼンよりも多い光重合遅延剤(すなわち2−(1,2−エチルジオール)−ニトロベンゼン)が必要であることが見いだされる。たとえば、1重量%未満の2−(1,2−エチルジオール)−ニトロベンゼンが使用される場合、ホログラムの過度現像が起こる。しかし室温では、配合物3から調製されたマトリクス試料の保存寿命は、配合物2から調製されたものと比べて大幅に改善される。
【0132】
本出願に引用したすべての文書、特許、定期刊行物、およびその他の資料は、参照により本明細書に組み込む。
【0133】
本発明をそのいくつかの実施形態と共に、添付の図面を参照して十分に説明してきたが、様々な変更形態および改変形態が当業者には明らかであろうことを理解されたい。このような変更形態および改変形態は、本発明の範囲から逸脱しない限り、添付の特許請求の範囲に定義されている本発明の範囲に含まれると理解されたい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つの光活性重合可能材料を含む重合可能成分と、
光重合開始光源での露光によって活性化されたときに前記重合可能成分を重合させ、それによって少なくとも1つのホログラフィックグレーティングを形成するための少なくとも1つの光重合開始剤を含む光重合開始剤成分と
を含むシステムであって、
前記重合可能成分の一部分が重合して少なくとも1つのホログラフィックグレーティングを形成したときに、前記重合可能成分の未重合部分が、前記光重合開始光源で前記重合可能成分が露光されないときはさらなる重合に抵抗するシステム。
【請求項2】
光重合開始光源で露光されないときに前記重合可能成分の前記未重合部分がそれ以上重合しないように、1つ以上の重合遅延剤または重合抑制剤をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
前記1つ以上の重合遅延剤または重合抑制剤が1つ以上のフェノール類を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項4】
前記1つ以上の重合遅延剤または重合抑制剤が2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾールを含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
前記1つ以上の重合遅延剤または重合抑制剤が1つ以上のニトロベンゼン類を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項6】
前記1つ以上の重合遅延剤または重合抑制剤がジニトロベンゼンを含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項7】
光重合開始光源で露光されないときに前記重合可能成分の前記未重合部分がそれ以上重合しないように、1つ以上の連鎖移動剤をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
前記連鎖移動剤がトリエチルアミンを含む、請求項7に記載のシステム。
【請求項9】
光重合開始光源で露光されないときに前記重合可能成分の前記未重合部分がそれ以上重合しないように準安定反応中心をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項10】
前記準安定反応中心がニトロキシルラジカルを含む、請求項9に記載のシステム。
【請求項11】
光重合開始光源で露光されないときに前記重合可能成分の前記未重合部分がそれ以上重合しないように、光または熱不安定な光重合停止剤をさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項12】
前記光または熱不安定な光重合停止剤がコバルト錯体を含む、請求項11に記載のシステム。
【請求項13】
光重合開始光源で露光されないときに前記重合可能成分の前記未重合部分がそれ以上重合しないように、光酸発生成分、光塩基発生成分、または光発生ラジカルをさらに含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項14】
前記少なくとも1つの光活性重合可能材料が、第1の波長の光で活性化されたときにカチオン開環重合し、
前記システムが、光塩基発生成分が前記第1の波長の光とは異なる第2の波長の光で活性化されたときに前記少なくとも1つの光活性重合可能材料による前記カチオン開環重合の量を低減させる前記光塩基発生成分をさらに含む、
請求項13に記載のシステム。
【請求項15】
光重合開始光源で露光されないときに前記重合可能成分の前記未重合部分がそれ以上重合しないように、極性効果または溶媒和効果を使用する、請求項1に記載のシステム。
【請求項16】
前記重合可能成分がカチオンまたはアニオン開始重合可能材料を含む、請求項15に記載のシステム。
【請求項17】
光重合開始光源で露光されないときに前記重合可能成分の前記未重合部分がそれ以上重合しないように対イオン効果を使用する、請求項1に記載のシステム。
【請求項18】
前記重合可能成分がカチオンまたはアニオン開始重合可能材料を含む、請求項17に記載のシステム。
【請求項19】
光重合開始光源で露光されないときに前記重合可能成分の前記未重合部分がそれ以上重合しないように、光活性重合可能材料の反応性の変更を使用する、請求項1に記載のシステム。
【請求項20】
前記重合可能成分がアクリラートと、光重合開始光源で露光されないときに前記アクリラートの重合を遅延させるのに十分な量のαメチルスチレンとを含む、請求項19に記載のシステム。
【請求項21】
前記重合可能成分が少なくとも1つの光活性モノマーを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項22】
前記光活性モノマーがアクリラートを含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項23】
前記光活性モノマーがトリブロモフェニルアクリラートを含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項24】
前記光活性モノマーがビスフェノールAグリセロラート(1グリセロール/フェノール)ジアクリラートを含む、請求項21に記載のシステム。
【請求項25】
前記光重合開始剤成分が次の、共重合開始剤としてテトラフェニルホウ酸塩を含む過塩素酸チオニン、トリフェニルホスフィンオキシド、およびビス(η−5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)ビス[2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)フェニル]チタンのうちの1つ以上のものを含む、請求項1に記載のシステム。
【請求項26】
前記少なくとも1つの光重合開始剤が、約200nmから約800nmの波長の照射によって活性化される、請求項1に記載のシステム。
【請求項27】
支持マトリクスと、前記支持マトリクス中に請求項1に記載の重合可能システムとを含む物品。
【請求項28】
前記支持マトリクスが熱可塑性物質である、請求項27に記載の物品。
【請求項29】
前記支持マトリクスが熱硬化性物質である、請求項27に記載の物品。
【請求項30】
(a)少なくとも1つのホログラフィック記録媒体を提供するステップと、
(b)前記ホログラフィック記録媒体内に少なくとも1つのホログラフィックグレーティングを形成するステップと
を含む方法であって、
前記ホログラフィック記録媒体が、
少なくとも1つの光活性重合可能材料を含む重合可能成分と、
記録光での露光によって活性化されたときに前記重合可能成分を重合させ、それによって複数のホログラフィックグレーティングを前記ホログラフィック記録媒体内に形成するための少なくとも1つの光重合開始剤を含む光重合開始剤成分と
を含む重合可能システムを有し、
前記重合可能成分の未重合部分が、記録光で露光されないときはさらなる重合に抵抗する方法。
【請求項31】
ステップ(b)が、複数のホログラフィックグレーティングを形成するステップを含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記ホログラフィックグレーティングが、前記ホログラフィック記録媒体の同じ体積で形成される、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
各ホログラフィックグレーティングが、記録光で前記ホログラフィック記録媒体が露光された時期に対する記録光での各露光の時間の関数であるスケジュールに従って前記ホログラフィック記録媒体を記録光で露光することによって形成される、請求項32に記載の方法。
【請求項34】
ステップ(b)が、記録光で前記ホログラフィック記録媒体が露光された時期に対する記録光での各露光の時間の実質的な1次関数であるスケジュールに従って前記ホログラフィック記録媒体を形成するステップを含む、請求項33に記載の方法。
【請求項35】
(a)1つ以上の最初のホログラフィックグレーティングをその中に有するホログラフィック記録媒体を提供するステップと、
(b)前記ホログラフィック記録媒体内に1つ以上の追加ホログラフィックグレーティングを形成するステップと
を含む方法であって、
前記ホログラフィック記録媒体が、
少なくとも1つの光活性重合可能材料を含む重合可能成分の未重合部分と、
記録光での露光によって活性化されたときに前記重合可能成分の前記未重合部分を重合させ、それによって少なくとも1つの追加ホログラフィックグレーティングを前記ホログラフィック記録媒体内に形成するための少なくとも1つの光重合開始剤を含む光重合開始剤成分と
を含む光重合可能システムを有し、
前記重合可能成分の前記未重合部分が、記録光で露光されないときはさらなる重合に抵抗する方法。
【請求項36】
ステップ(b)が、前記ホログラフィック記録媒体内に前記1つ以上の最初のホログラフィックグレーティングが形成されてから少なくとも10秒後に実施される、請求項35に記載の方法。
【請求項37】
ステップ(a)が、最初の複数のホログラフィックグレーティングをある体積でその中に有するホログラフィック媒体を提供するステップを含み、ステップ(b)が、複数の追加ホログラフィックグレーティングを前記ホログラフィック記録媒体内にその前記体積で、各追加ホログラフィックグレーティングが形成される時期に対する各追加ホログラフィックグレーティングを形成するのに要する時間の関数であるスケジュールに従って形成することによって実施される、請求項35に記載の方法。
【請求項38】
前記ホログラフィックグレーティングが、記録光で前記ホログラフィック記録媒体が露光された時期に対する各追加ホログラフィックグレーティングを形成するのに要する時間の実質的な1次関数であるスケジュールに従ってステップ(b)の間に形成される、請求項37に記載の方法。
【請求項39】
1つ以上の前記重合遅延剤または前記重合抑制剤がアニリン類を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項40】
1つ以上の前記重合遅延剤または前記重合抑制剤が立体障害性アニリン類を含む、請求項2に記載のシステム。
【請求項41】
1つ以上の前記重合遅延剤または前記重合抑制剤がマトリクス上に配置される、請求項2に記載のシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2012−141621(P2012−141621A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−31992(P2012−31992)
【出願日】平成24年2月16日(2012.2.16)
【分割の表示】特願2007−558090(P2007−558090)の分割
【原出願日】平成18年2月27日(2006.2.27)
【出願人】(501182197)インフェイズ テクノロジーズ インコーポレイテッド (28)
【Fターム(参考)】