説明

光重合性インクジェットインク、該光重合性インクジェットインクの製造方法、及びインクカートリッジ。

【課題】良好な吐出特性と硬化性とを両立させた実質的に揮発性有機溶剤を含まない光重合性インクジェットインクを提供すること。
【解決手段】少なくとも、カーボンブラック、高分子分散剤、及び光重合性モノマーを含む光重合性インクジェットインクであって、前記高分子分散剤はカーボンブラックに飽和吸着する以上の量が含有され、実質的に揮発性有機溶剤を含まないものであることを特徴とする光重合性インクジェットインク。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光重合性インクジェットインク、該光重合性インクジェットインクの製造方法、及びインクカートリッジに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェットインクは、様々な耐久性の観点で染料よりも顔料のほうが優れていることから、顔料系インクが要望されるケースが多い。しかし、顔料は、インク中で均一溶解する染料とは異なり、インクに均一溶解するわけではないので、できるだけインク中に均一に分散させる必要がある。
【0003】
十分に低粘度の顔料系インクにおいては、インク中の顔料の分散状態が多少悪くても、通常は大きな降伏値を示さないが、粘度が一定以上の高粘度な顔料系インクにおいては、仮に、インク中の顔料の分散状態が良好でなく凝集しやすい状態であると、インクが顕著な構造粘性を示し、降伏値が大きくなってしまう。
そのような条件下では、初期状態(せん断応力を加えない状態)で、静止(流動性がない)状態のインクは、一般的なインクジェット吐出ヘッドで吐出すること自体困難である。
【0004】
前記静止状態のインクを安定して吐出するには、インクに相当のせん断応力を印加しインクを流動させる必要があり、インクの降伏値が、インクジェット吐出用ヘッドで印加できるせん断応力よりも小さくなければならない。
【0005】
特許文献1の特開2002−265848号公報には、着色剤及び着色剤を含む着色料を衝撃波によって微粒化し有機溶媒に均一に分散した、液温25℃におけるトナーの降伏値が5〜100Paである着色剤分散液が開示されている。
【0006】
また、特許文献2の特開2009−258619号公報には、インクジェット方式によりカラーフィルタを形成するための、(A)着色剤、(B)多官能性単量体、(C)バインダー樹脂、(D)HLB値が10以下の界面活性剤、および(E)有機溶剤を含有し、降伏値が200mPa以下である顔料分散液は、平坦性に優れ、かつ、塗り残し部分が生じない画素を形成できる旨が記載されている。
【0007】
また、特許文献3の特開2008−101099号公報には、有機溶媒および高分子化合物を少なくとも含有し、回転式粘度計を用いて剪断速度の増加を伴って行う測定方法により、25℃において、剪断速度1×103sec-1で測定した粘度をA、剪断速度1×104sec-1で測定した粘度をBとした場合、粘度Bが1〜30mPa・sであり、チキソトロピー係数A/Bが1.01〜1.40である油性顔料インク組成物は、駆動周波数10KHz以上での高速印刷時の吐出安定性を改善できる旨が開示されている。
【0008】
また、特許文献4の特開2004−182764号公報には、少なくとも非水系溶剤中に、樹脂酸金属塩及び精油を含み、せん断粘度が10mPa・s以下であり、かつ降伏値が200mPa以下であるインクジェット用記録液は、吐出安定性、セラミックス、ガラス、陶磁器及び金属など非紙系記録体への定着性及び発色性に優れる旨が開示されている。
【0009】
これらのインクは、有機溶剤を含むものであり、有機溶剤の添加によればインクの低粘度化は容易である。
しかし、近年では環境保護の観点からVOC(揮発性有機溶剤)を大気に放出しないことが望まれており、また、速乾性や塗膜の強靭さなど、既存のインクジェットインクにないような特性を持つ光重合性インクジェットインクが、主に産業用途を中心に広く検討が進められている。
【0010】
しかし、有機溶剤を実質的に含まない光重合性インクジェットインクは、低粘度化が困難であり、また、良好な硬化性を得るためには、多官能モノマーなど比較的分子量の大きいモノマーを使用することが必要であり、インクの粘度が高くなり易く、良好な吐出特性と硬化後の高い強靭性とを両立させることは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
したがって、本発明は、良好な吐出特性と硬化性とを両立させた実質的に揮発性有機溶剤を含まない光重合性インクジェットインクの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが鋭意検討した結果、顔料分散性を良好に保ち、顔料粒子同士が凝集しようとする相互作用を弱め、かつ、粘度が低い光重合性モノマーを用いることにより、塑性(ビンガム)流動を発現させる高次な網目構造が、微弱な相互作用によって形成され、該網目構造が破壊されやすくなり、微小なせん断応力で流動を開始させることができ、良好な吐出特性が得られることを見いだした。
上記課題は、本発明の、下記(1)〜(8)によって解決される。
(1)「少なくとも、カーボンブラック、高分子分散剤、及び光重合性モノマーを含む光重合性インクジェットインクであって、前記高分子分散剤はカーボンブラックに飽和吸着する以上の量が含有され、実質的に揮発性有機溶剤を含まないものであることを特徴とする光重合性インクジェットインク」、
(2)「降伏値が0.2Pa以下であることを特徴とする前記第(1)項に記載の光重合性インクジェットインク」、
(3)「前記高分子分散剤がアミノ基を有する高分子材料であることを特徴とする前記第(1)項または第(2)項に記載の光重合性インクジェットインク」、
(4)「前記光重合性モノマーが(メタ)アクリレート化合物、もしくは(メタ)アクリルアミド化合物、もしくはビニルエーテル化合物、あるいはこれらの混合物であることを特徴とする前記第(1)項乃至第(3)項のいずれかに記載の光重合性インクジェットインク」、
(5)「さらに光重合開始剤を含み、該光重合開始剤が光ラジカル重合開始剤であることを特徴とする前記第(1)項乃至第(4)項のいずれかに記載の光重合性インクジェットインク」、
(6)「カーボンブラック、高分子分散剤、光重合性モノマーからなり、該高分子分散剤がカーボンブラックに飽和吸着する以上の量が含有された、カーボンブラックが高濃度のカーボン分散液を調整し、該高濃度カーボン分散液に、少なくとも、前記光重合性モノマーを含む希釈液を加えて希釈し、前記第(1)項乃至第(4)項のいずれかに記載の光重合性インクジェット黒インクを製造することを特徴とする光重合性インクジェットインクの製造方法」、
(7)「カーボンブラック、高分子分散剤、光重合性モノマーからなり、該高分子分散剤がカーボンブラックに飽和吸着する量が含有された、カーボンブラックが高濃度のカーボン分散液を調整し、前記光重合性モノマー及び前記高分子分散剤を含む希釈液を加えて希釈し、前記第(1)項乃至第(4)項のいずれかに記載の光重合性インクジェット黒インクを製造することを特徴とする光重合性インクジェットインクの製造方法」、
(8)「前記第(1)項乃至第(5)項のいずれかに記載の光重合性インクジェットインクを収容したインクカートリッジ」。
【発明の効果】
【0013】
以下の詳細かつ具体的な説明から理解されるように、本発明によれば、良好な吐出特性と硬化性とを両立させた実質的に揮発性有機溶剤を含まない光重合性インクジェットインク、及び該光重合性インクジェットインクの製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のインクカートリッジのインク袋の一例を示す概略図である。
【図2】図1のインク袋をカートリッジケース内に収容したインクカートリッジを示す概略図である。
【図3】本発明の画像形成装置の一例を示す図である。
【図4】カーボンブラックの高分子分散剤吸着量と高分子分散剤の配合比との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の光重合性インクジェットインクについて詳細に説明する。
本発明は、少なくとも、カーボンブラック、高分子分散剤、及び光重合性モノマーを含む光重合性インクジェットインクであって、前記高分子分散剤はカーボンブラックに飽和吸着する以上の量が含有され、実質的に揮発性有機溶剤を含まないものである。
高分子分散剤として、カーボンブラックに飽和吸着する以上の量を含有することにより、吸着した分散剤が脱離しにくくなるため、カーボンブラックの分散性すなわち粒子間の反発力を向上させ、カーボンブラック粒子同士が凝集しようとする相互作用が弱まり、微小なせん断応力で流動を開始させることができる。
ここで、実質的に揮発性有機溶剤を含まないとは、光重合性インクジェットインクの材料として揮発性有機溶剤を用いないことを意味し、高分子分散安定剤や光重合性モノマー等、他の材料由来の揮発性有機溶剤をも含まないことを意味するものではない。
【0016】
(カーボンブラック)
カーボンブラックとしては、チャンネルブラック、ロースブラック、ディスクブラック、ガスファーネスブラック、オイルファーネスブラック、アセチレンブラックなどの、従来公知カーボンブラックを使用できる。
【0017】
カーボンブラックの含有量は、2重量%以上10重量%以下であることが好ましい。2重量%未満では画像濃度が低下し、10重量%を超えると分散安定性が低下し、降伏値が大きくなりやすい。
【0018】
(高分子分散安定剤)
高分子分散安定剤としては、従来公知の高分子安定剤を使用できるが、極性官能基を有するものであることが好ましい。極性官能基を有することでカーボンブラックに吸着しやすくなり、分散性が向上し、容易に流動を開始するインクを作成できる。
高分子分散安定剤としては、例えば、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、ポリエステルポリアミン、ステアリルアミンアセテート等が挙げられ、中でもアミノ基などの極性官能基を持つポリエステル系の高分子安定剤は、カーボンブラックに対する吸着力が高く、後述するような光重合性モノマー中での分散性が良好で、かつ、粘度低下能が大きいことから好ましく使用できる。
このような高分子安定剤としては、日本ルーブリゾール社性ソルスパース、楠本化成社製ディスパロン、味の素ファインテック社製アジスパーなどの市販品が使用できる。
【0019】
高分子分散安定剤の含有量は、カーボンブラックに飽和吸着する量以上であり、また、過不足なく飽和吸着する量を1としたとき、5以下であることが好ましい。飽和吸着量未満ではカーボンブラックの分散安定性が低下し降伏値が大きくなり、また、前記飽和吸着量から10重量%を超えて含むと硬化後のインクの強度が低下することがある。
【0020】
(光重合性モノマー)
光重合性モノマーとしては、(メタ)アクリレート化合物、もしくは(メタ)アクリルアミド化合物、もしくはビニルエーテル化合物、あるいはこれらの混合物を使用することができるが、硬化後のインクを強靭にできる2官能以上の光重合性モノマーであることが好ましく3官能以上の光重合性モノマーを含むことがより好ましく、低粘度化のために単官能モノマーを含むことがさらに好ましい。また、メタクリレート化合物は安全性が高く、好ましく使用できる。
また、印刷物に未硬化のモノマー成分が残存し、手指等で触れたとしても皮膚感作性を引き起こすことのない安全な印刷物を提供するため、下記式(1)で示されるポリエチレングリコールジメタクリレート、γ−ブチロラクトンメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、下記式(2)で示されるポリプロピレングリコールジアクリレート、カプロラクトン変性ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールエステルのジアクリレート、ポリエトキシ化テトラメチロールメタンテトラアクリレート、エチレンオキサイド変性ビスフェノールAジアクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性フェノールアクリレート、t−ブチルメタクリレート、n-ペンチルメタクリレート、n-ヘキシルメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブタンジオールジメタクリレート、トリエチレングリコールジビニルエーテル、及びヒドロキシエチルアクリルアミドから選択される1種以上を用いることが好ましい。
【0021】
【化1】

(但しn≒9〜14)
【0022】
【化2】

(但し、n≒12)

これらは皮膚感さ性の程度を示す評価方法であるLLNA法において陰性とみなせるもの、あるいはMSDS(化学物質安全性データシート)において、皮膚感さ性陰性又は皮膚感さ性なしと評価されたものであり、文献(例えば、「機能材料」2005年9月号、Vol.25、No.9、P55)に示されるように、皮膚感さ性の程度を示すStimulation Index(SI値)が3未満の場合に感さ性について問題なしと判断されたものである。
評価方法であるLLNA法とは、OECDテストガイドライン429として定められる皮膚感さ性試験である。
【0023】
また、その他の光重合性モノマーとしては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、γーブチロラクトンアクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ホルマール化トリメチロールプロパンモノ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、ジエチレングリコールジアクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(n≒4〜23)ジアクリレート(nはエチレングリコールユニットの平均重合度を示す。以下同様)、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(n≒4〜7)ジ(メタ)アクリレート、1,3−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加ジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、メタアクリロイルモルホリン、2−ヒドロキシエチルメタアクリルアミド、エチレンオキサイド変性テトラメチロールメタンテトラメタアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジアクリレート、エトキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロポキシ化グリセリルトリ(メタ)アクリレート、ポリエステルジ(メタ)アクリレート、ポリエステルトリ(メタ)アクリレート、ポリエステルテトラ(メタ)アクリレート、ポリエステルペンタ(メタ)アクリレート、ポリエステルポリ(メタ)アクリレート、ビニルカプロラクタム、ビニルピロリドン、N−ビニルホルムアミド、ポリウレタンジ(メタ)アクリレート、ポリウレタントリ(メタ)アクリレート、ポリウレタンテトラ(メタ)アクリレート、ポリウレタンペンタ(メタ)アクリレート、ポリウレタンポリ(メタ)アクリレートなどがあげられるがこれらに限定するものではない。
【0024】
(その他の材料)
本発明の光重合性インクジェットインクは、必要に応じて、光ラジカル重合開始剤、重合促進剤、重合禁止剤等の他の添加剤を含んでもよい。
【0025】
光ラジカル重合開始剤としては、分子開裂型光重合開始剤や水素引抜き型光重合開始剤を使用することができる。
前記分子開裂型光重合開始剤としては、例えば、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−1−{4−[4−(2−ヒドロキシ−2−メチル−プロピオニル)−ベンジル]−フェニル}−2−メチル−1−プロパン−1−オン、フェニルグリオキシックアシッドメチルエステル、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モリホリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルホリノフェニル)−ブタノン−1、2−ジメチルアミノ−2−(4−メチル−ベンジル)−1−(4−モルフォリン−4−イル−フェニル)−ブタン−1−オン、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチル−ペンチルフォスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイル−フォスフィンオキサイド、1,2−オクタンジオン−〔4−(フェニルチオ)−2−(o−ベンゾイルオキシム)〕、エタノン,1−[9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル]−1−(O−アセチルオキシム)、〔4−(メチルフェニルチオ)フェニル〕フェニルメタノンなどがあげられるがこれらに限定するものではない。
【0026】
前記水素引抜き型光重合開始剤、としては、例えば、ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、メチル−2−ベンゾイルベンゾエイト、4−ベンゾイル−4’メチルジフェニルサルファイド、フェニルベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系化合物や、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、イソプロピルチオキサントン、1−クロロ−4−プロピルチオキサントンなどのチオキサントン系化合物があげられるがこれらに限定するものではない。
【0027】
重合促進剤としてアミン化合物を併用することもできる。具体的にはp−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸−2−エチルヘキシル、p−ジメチルアミノ安息香酸メチル、安息香酸−2−ジメチルアミノエチル、p−ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチルなどがあげられるがこれらに限定するものではない。
【0028】
また、重合禁止剤としては、4−メトキシ−1−ナフトール、メチルハイドロキノン、ハイドロキノン、メトキノン、t−ブチルハイドロキノン、ジ−t−ブチルハイドロキノン、フェノチアジン、2,2‘−ジヒドロキシ−3,3’−ジ(αーメチルシクロヘキシル)−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、p−ベンゾキノン、ジ−t−ブチルジフェニルアミン、9,10−ジ−n−ブトキシシアントラセン、4,4’―[1,10−ジオキソ−1,10−デカンジイルビス(オキシ)]ビス[2,2,6,6−テトラメチル]−1−ピペリジニルオキシなどの従来から一般的に使用されるラジカル重合禁止剤を併用することもできる。
【0029】
(インクカートリッジ)
本発明のインクは容器に収容してインクカートリッジとして用いることができる。これにより、インク交換などの作業において、インクに直接触れる必要がなく、手指や着衣の汚れなどの心配がなく、またインクへのごみ等の異物混入を防止できる。
容器としては、特に制限はなく、目的に応じてその形状、構造、大きさ、材質等を適宜選択することができ、例えば、アルミニウムラミネートフィルム、樹脂フィルム等で形成されたインク袋などを有するものなどが好適に挙げられる。
【0030】
上記インクカートリッジについて、図1及び図2を参照して説明する。ここで、図1は、本発明のインクカートリッジのインク袋(241)の一例を示す概略図であり、図2は図1のインク袋(241)をカートリッジケース(244)内に収容したインクカートリッジ(200)を示す概略図である。
【0031】
図1に示すように、インク注入口(242)からインクをインク袋(241)内に充填し、該インク袋中に残った空気を排気した後、該インク注入口(242)を融着により閉じる。使用時には、ゴム部材からなるインク排出口(243)に装置本体の針を刺して装置に供給する。インク袋(241)は、透気性のないアルミニウムラミネートフィルム等の包装部材により形成する。そして、図2に示すように、通常、プラスチック製のカートリッジケース(244)内に収容し、インクカートリッジ(200)として各種インクジェット記録装置に着脱可能に装着して用いる。
【0032】
本発明のインクカートリッジは、後述する本発明のインクジェット記録装置に着脱可能に装着して用いることが特に好ましい。これにより、インクの補充や交換を簡素化でき作業性を向上させることができる。このような装置の一例を図3に示す。
【0033】
図3に、本発明に係るインクジェット記録装置(印刷装置)の一例を示す。なお、この例によって印刷装置の形態や構成が限定されるものではない。
図3の構成では、印刷ユニット(3)[各色(例えば、イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)の印刷ユニット(3a、3b、3c、3d)からなる]のそれぞれにより、被印刷基材供給ロール1から供給された被印刷基材(2)(図の左から右へ搬送)に吐出された各色(イエロー、マゼンタ、シアン、ブラック)の印刷毎に、紫外線光源(硬化用光源)(4a、4b、4c、4d)から光照射(UV光)して硬化し、カラー画像を形成する例を示している。印刷ユニット(3a、3b、3c、3d)は、インク吐出部分においては必要に応じてインクを低粘度化するために加温する機構を設けたものである。印刷後の様々な加工のために、必要に応じてミシン目、マージナルパンチ、ファイル穴、コーナーカットなどの加工を行うために加工ユニット(5)を設けてもよい。
【0034】
被印刷基材(2)としては、紙、フィルム、金属、あるいはこれらの複合材料等が用いられる。また、図3では被印刷基材(2)はロール状である場合を示しているが、シート状であってもよい。さらに、片面印刷だけでなく両面印刷してもよい。印刷の高速化には各色印刷する毎に紫外線を照射するとより高い硬化性が得られるが、例えば、紫外線光源(4a、4b、4c)を微弱なものとしたり省略したりして、複数色を印刷後にまとめて(4d)により十分量の紫外線を照射して硬化することで省エネ、低コスト化を図ることも可能である。
【実施例】
【0035】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
(カーボンブラック分散液1の作製)
光重合性モノマー(トリメチロールプロパントリメタクリレート:サートマー社製SR350)にカーボンブラック(三菱化学社製#5B)を加え、カーボンブラックを15重量%含むカーボンブラック分散液1を作製した。
【0036】
(カーボンブラック分散液2の作製)
光重合性モノマー(トリメチロールプロパントリメタクリレート:サートマー社製SR350)にカーボンブラック(三菱化学社製#5B)及びアミノ基含有ポリエステル系高分子分散剤(日本ルーブリゾール社製ソルスパース32000)を加え、カーボンブラックの含有量が15重量%、高分子分散剤の含有量が1重量%であるカーボンブラック分散液2を作製した。
【0037】
(カーボンブラック分散液3の作製)
光重合性モノマー(トリメチロールプロパントリメタクリレート:サートマー社製SR350)にカーボンブラック(三菱化学社製#5B)及びアミノ基含有ポリエステル系高分子分散剤(日本ルーブリゾール社製ソルスパース32000)を加え、カーボンブラックの含有量が15重量%、高分子分散剤の含有量が2重量%であるカーボンブラック分散液3を作製した。
【0038】
(カーボンブラック分散液4の作製)
光重合性モノマー(トリメチロールプロパントリメタクリレート:サートマー社製SR350)にカーボンブラック(三菱化学社製#5B)及びアミノ基含有ポリエステル系高分子分散剤(日本ルーブリゾール社製ソルスパース32000)を加え、カーボンブラックの含有量が15重量%、高分子分散剤の含有量が5重量%であるカーボンブラック分散液4を作製した。
【0039】
(カーボンブラック分散液5の作製)
光重合性モノマー(トリメチロールプロパントリメタクリレート:サートマー社製SR350)にカーボンブラック(三菱化学社製#5B)及びアミノ基含有ポリエステル系高分子分散剤(日本ルーブリゾール社製ソルスパース32000)を加え、カーボンブラックの含有量が15重量%、高分子分散剤の含有量が10重量%であるカーボンブラック分散液5を作製した。
【0040】
(カーボンブラック分散液6の作製)
光重合性モノマー(トリメチロールプロパントリメタクリレート:サートマー社製SR350)にカーボンブラック(三菱化学社製#5B)及びカルボキシル基含有ポリエステル系高分子分散剤(日本ルーブリゾール社製ソルスパース3000)を加え、カーボンブラックの含有量が15重量%、高分子分散剤の含有量が5重量%であるカーボンブラック分散液6を作製した。
【0041】
カーボンブラック分散液1〜5について、カーボンブラックの高分子分散剤を吸着量と、高分子分散剤の配合比との関係を調べた。
カーボンブラックの高分子分散剤吸着量と、高分子分散剤の配合比との関係を図4に示す。
【0042】
以上のカーボンブラック分散液1〜5における高分子分散剤の吸着量測定結果について詳細に説明する。高分子分散剤配合比0%では吸着量が0であることは自明である。図4に示すように、高分子分散剤の配合比が0%から2%までにおいては、配合比の増加とともに吸着量も増加した。高分子分散剤の配合比が2%以上では吸着量は一定となった。
このことから、高分子分散剤の配合比が2%未満では吸着が未飽和であり、高分子分散剤の配合比が2%以上では吸着が飽和し、高分子分散剤の配合比が2%であると高分子分散剤を過不足なく吸着し、高分子分散剤の配合比が2%を超える5%、10%では、飽和吸着に対して、過剰配合であることが分かる。なお、図には示していないが、カーボンブラック分散液6については吸着量が観測されなかった。
【0043】
なお、吸着量は次のようにして測定した。
(1)前記の分散液を遠心分離し、得られた固形分をアセトンによって洗浄して、高分子分散剤が吸着したカーボンブラックだけを取り出した。
(2)上記にて採取したカーボンブラックを450℃にて焼成し、焼成前後での重量減少分を吸着量とした。なお、あらかじめカーボンブラックそのものが同焼成条件においての重量減少はごくわずかでほぼ状態変化しないことを確認しているが、ごくわずかに観測されたカーボンブラック自体重量減少を考慮のうえ補正して吸着量を算出した。
(3)カーボンブラック単位重量あたりの高分子分散剤吸着量を、使用したカーボンブラックの比表面積(29m/g:カタログ値)にて換算し、カーボンブラック表面積あたりの吸着量として図4に示した。
【0044】
(比較例1)
カーボンブラック分散液2に光重合性モノマー(トリメチロールプロパントリメタクリレート:サートマー社製SR350)を加え、平均10ミクロン径のメンブレンフィルターでろ過し、カーボンブラックの含有量が7重量%のブラックインク1を作製した。
【0045】
(比較例2)
カーボンブラック分散液3に光重合性モノマー(トリメチロールプロパントリメタクリレート:サートマー社製SR350)を加え、平均10ミクロン径のメンブレンフィルターでろ過し、カーボンブラックの含有量が7重量%のブラックインク2を作製した。
【0046】
(比較例3)
カーボンブラック分散液6に光重合性モノマー(トリメチロールプロパントリメタクリレート:サートマー社製SR350)を加え、カーボンブラックの含有量が7重量%のブラックインク3を作製した。
【0047】
(実施例1)
カーボンブラック分散液4に光重合性モノマー(トリメチロールプロパントリメタクリレート:サートマー社製SR350)を加え、平均10ミクロン径のメンブレンフィルターでろ過し、カーボンブラックの含有量が7重量%のブラックインク4を作製した。
【0048】
(実施例2)
カーボンブラック分散液3に光重合性モノマー(トリメチロールプロパントリメタクリレート:サートマー社製SR350)及び、高分子分散剤(日本ルーブリゾール社製ソルスパース)を加え、平均10ミクロン径のメンブレンフィルターでろ過し、カーボンンブラックの含有量が7重量%で高分子分散剤の含有量が前記実施例1と同様のブラックインク5を作製した。
【0049】
(比較例4)
光重合開始剤(BASF社製Irgacure907)をインク全量に対して12重量%となるように配合する他は比較例1と同様にしてインク6を作製した。
【0050】
(比較例5)
光重合開始剤(BASF社製Irgacure907)をインク全量に対して12重量%となるように配合する他は比較例2と同様にしてインク7を作製した。
【0051】
(比較例6)
光重合開始剤(BASF社製Irgacure907)をインク全量に対して12重量%となるように配合する他は比較例3と同様にしてインク8を作製した。
【0052】
(実施例3)
光重合開始剤(BASF社製Irgacure907)をインク全量に対して12重量%となるように配合する他は実施例1と同様にしてインク9を作製した。
【0053】
(実施例4)
光重合開始剤(BASF社製Irgacure907)をインク全量に対して12重量%となるように配合する他は実施例2と同様にしてインク10を作製した。
【0054】
ブラックインク1〜10のインクジェット吐出性を以下の方法により評価した。
ブラックインク1〜10の降伏値とインクジェット吐出性の評価結果を以下の表1に示す。
【0055】
(降伏値)
降伏値は、せん断速度を変えて測定した粘度値をもとに下記式(1)で示すCasson‘s Plotから算出した。

√τ = √η∞ × √D + √τ0 (1)

(但し、τは剪断応力(Pa)、Dは剪断速度(1/sec)、√η∞及び√τ0は定数)

√τを縦軸に、√Dを横軸にグラフ化したCasson‘s Plotは、顔料分散系において良好な直線性が得られることから広くレオロジー特性の解析に用いられている。
ここで、√τ0は前記グラフにおいて、縦軸の切片に相当し、これの2乗、すなわちτ0が降伏値となる。
上記データのCasson‘s Plotについてはここでは示していないが、良好な直線性が確認できており、前記式の適用が妥当であることが確認できている。
【0056】
(インクジェット吐出性)
リコープリンティングシステムズ社製のインクジェット吐出ヘッドGEN4によって、ブラックインクを60℃に加温して吐出評価を実施した。
○:吐出できた
×:吐出できなかった
【0057】
【表1】


※1:容器を傾斜しても自重で流動しないほど流動性に乏しく、使用した粘度計の測定上限を超えるため粘度を計測できず、降伏値を求められなかった。
※2:インク流路を経て吐出ヘッドまでインクを供給することが困難で、吐出評価ができなかった。


比較例1、4は、カーボンブラックに対して高分子分散剤が飽和吸着していないカーボンブラック分散液を用いているため、十分な分散性が得られていないものと考えられ、それを希釈してインク化すると、結果的に降伏値が非常に大きくなり、インクジェット吐出できなかった。
比較例2、5は、カーボンブラックに対して高分子分散剤が飽和吸着しているカーボンブラック分散液を用いているが、インク化に伴う希釈によって、インクとしての高分子分散剤配合比が顔料分散に十分でなくなってしまったものと考えられ、軽微であるが降伏値が大きくなり、インクジェット吐出できなかった。
比較例3、6は種類の異なる極性基を有する高分子分散剤を用いたカーボンブラック分散液を用いているが、粘度測定できない程度にまで流動性に乏しく、相当に大きな降伏値を有していると考えられ、吐出評価を実施することすら困難だった。
実施例1、3は、高分子分散剤をカーボンブラックへの飽和吸着量を超えて過剰に加えた高濃度カーボンブラック分散液を用いたものであるが、カーボンブラックの分散性は損なわれず、結果的に降伏値を0.2Pa以下に抑制することができ、インクジェット吐出できていることから、インク化に伴う希釈の際、予め高分子分散剤を溶解させた希釈液を用いなくても、インク中のカーボンブラックに対して高分子分散剤が飽和吸着していればよいことが分かる。
実施例2、4は、カーボンブラックに高分子分散剤が過不足なく飽和吸着したカーボンブラック分散液を用いたものであり、予め高分子分散剤を溶解させた希釈液を用い、インク中のカーボンブラックに飽和吸着する高分子分散剤を加えることによりインク化に伴う希釈によってもカーボンブラックの分散性は損なわれず、結果的に降伏値を0.2Pa以下に抑制することができ、インクジェット吐出できた。
【符号の説明】
【0058】
1 被印刷基材供給ロール
2 被印刷基材
3a 各色の印刷ユニット
3b 各色の印刷ユニット
3c 各色の印刷ユニット
3d 各色の印刷ユニット
4a 紫外線光源
4b 紫外線光源
4c 紫外線光源
4d 紫外線光源
5 加工ユニット
6 印刷物巻き取りロール
200 インクカートリッジ
241 インク袋
242 インク注入口
243 インク排出口
244 カートリッジケース
【先行技術文献】
【特許文献】
【0059】
【特許文献1】特開2002−265848号公報
【特許文献2】特開2009−258619号公報
【特許文献3】特開2008−101099号公報
【特許文献4】特開2004−182764号公報

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、カーボンブラック、高分子分散剤、及び光重合性モノマーを含む光重合性インクジェットインクであって、前記高分子分散剤はカーボンブラックに飽和吸着する以上の量が含有され、実質的に揮発性有機溶剤を含まないものであることを特徴とする光重合性インクジェットインク。
【請求項2】
降伏値が0.2Pa以下であることを特徴とする請求項1に記載の光重合性インクジェットインク。
【請求項3】
前記高分子分散剤がアミノ基を有する高分子材料であることを特徴とする請求項1または2に記載の光重合性インクジェットインク。
【請求項4】
前記光重合性モノマーが(メタ)アクリレート化合物、もしくは(メタ)アクリルアミド化合物、もしくはビニルエーテル化合物、あるいはこれらの混合物であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光重合性インクジェットインク。
【請求項5】
さらに光重合開始剤を含み、該光重合開始剤が光ラジカル重合開始剤であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の光重合性インクジェットインク。
【請求項6】
カーボンブラック、高分子分散剤、光重合性モノマーからなり、該高分子分散剤がカーボンブラックに飽和吸着する以上の量が含有された、カーボンブラックが高濃度のカーボン分散液を調整し、該高濃度カーボン分散液に、少なくとも、前記光重合性モノマーを含む希釈液を加えて希釈し、請求項1乃至4のいずれかに記載の光重合性インクジェット黒インクを製造することを特徴とする光重合性インクジェットインクの製造方法。
【請求項7】
カーボンブラック、高分子分散剤、光重合性モノマーからなり、該高分子分散剤がカーボンブラックに飽和吸着する量が含有された、カーボンブラックが高濃度のカーボン分散液を調整し、前記光重合性モノマー及び前記高分子分散剤を含む希釈液を加えて希釈し、請求項1乃至4のいずれかに記載の光重合性インクジェット黒インクを製造することを特徴とする光重合性インクジェットインクの製造方法。
【請求項8】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光重合性インクジェットインクを収容したインクカートリッジ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−112691(P2013−112691A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257371(P2011−257371)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(000006747)株式会社リコー (37,907)
【Fターム(参考)】