説明

光重合性官能基含有有機ケイ素化合物及びその製造方法

【課題】アミド、ウレタン、尿素結合といった構造を有し、樹脂との相溶性に優れ、含有クロル分の少ない光重合性官能基を含有する有機ケイ素化合物及びその製造方法を提供する。
【解決手段】光重合性二重結合を有する有機官能基と加水分解性基が結合したケイ素原子が尿素結合を含む2価の有機基で連結されていることを特徴とする有機ケイ素化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光重合性官能基含有有機ケイ素化合物に関し、より詳しくは、分子内に光重合性官能基と尿素結合と加水分解性シリル基を有する有機ケイ素化合物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
有機ケイ素化合物の中で代表的なものとして、シランカップリング剤が挙げられる。シランカップリング剤は分子中に2つ以上の異なる官能基を有し、通常では結合させにくい有機質材料と無機質材料とを連結させる仲介役として作用している。この場合、官能基の一方は加水分解性シリル基であり、水の存在によりシラノール基を生成し、このシラノール基が無機材質表面の水酸基と反応することで、無機材質表面と化学結合を形成する。また、他方の官能基は、ビニル基、エポキシ基、アミノ基、(メタ)アクリル基、メルカプト基などの有機反応基であり、各種合成樹脂のような有機質材料と化学結合を形成する。このような特性を有するため、有機・無機樹脂の改質剤及び接着助剤、各種添加剤などとして幅広く用いられている。
【0003】
その中でも(メタ)アクリル基を含有するシランカップリング剤は、(メタ)アクリル樹脂の樹脂改質剤、(メタ)アクリルポリマーをベースとする粘着剤の接着助剤などに用いられている。
一般に(メタ)アクリル基を有するシランカップリング剤は、(メタ)アクリル基と加水分解性シリル基をアルキル鎖で連結しているものを指し、アミド結合、ウレタン結合を含む連結鎖で連結されたシランは数少なく、尿素結合を含む連結鎖で連結されたシランは開示されていない。
【0004】
アミド結合を含む(メタ)アクリルシランカップリング剤はアミド結合による分子間の水素結合により接着助剤として使用した際に効果が優れるほか、極性を有することから樹脂との相溶性に優れる。しかしながら、該シランはアミノ基含有シランカップリング剤と(メタ)アクリル酸クロライドとの脱塩酸反応により製造するものが一般的であるため、シランの中のクロル分除去が困難であり、それにより諸用途において経時劣化等を引き起こすおそれがあった。
【0005】
以上のことから、各種溶剤に対する溶解性、樹脂との相溶性に優れ、含有クロル分が少なく、添加剤、改質剤としての効果に優れる(メタ)アクリルシランの開発が望まれていた。
なお、本発明に関連する従来技術として、下記文献が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−4994号公報
【特許文献2】特開平5−25219号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、アミド、ウレタン、尿素結合といった構造を有し、樹脂との相溶性に優れ、含有クロル分の少ない光重合性官能基を含有する有機ケイ素化合物及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討を重ねた結果、1級アミノ基及び/又は2級アミノ基と加水分解性基とを含有する有機ケイ素化合物と、アミノ基と反応性を有する官能基及び光重合性二重結合を有する特定モノマーとを反応させることで、樹脂との相溶性に優れ、含有クロル分の少ない有機ケイ素化合物が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
従って、本発明は、下記の光重合性官能基含有有機ケイ素化合物及びその製造方法を提供する。
〔請求項1〕
光重合性二重結合を有する有機官能基と加水分解性基が結合したケイ素原子とが尿素結合を含む2価の有機基で連結されていることを特徴とする有機ケイ素化合物。
〔請求項2〕
下記式(1)
【化1】

(式中、R1は(メタ)アクリル基であり、R2は水素原子、又は酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるヘテロ原子又はカルボニル炭素を間に挟んでも良く、置換基を有してもよい1価の炭化水素基であり、Xは酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるヘテロ原子又はカルボニル炭素を間に挟んでも良く、置換基を有してもよい2価の炭化水素基であり、Yは酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるヘテロ原子又はカルボニル炭素を間に挟んでも良く、置換基を有してもよい2価の炭化水素基である。)
で示される構造を分子内に少なくとも1つ有することを特徴とする請求項1記載の有機ケイ素化合物。
〔請求項3〕
下記一般式(2)
【化2】

〔式中、Aは加水分解性基であり、R3は独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜4のアルキル基であり、nは1〜3の整数である。Zは非置換又は置換の炭素原子数1〜6のアルキレン基であり、R4は水素原子、又は非置換もしくは置換の炭素原子数1〜8のアルキル基であり、R5は下記式(3)又は下記式(4)
【化3】

(式中、R6及びR7はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、mは1〜4である。)
で表される構造の基である。〕
で表されることを特徴とする請求項1又は2記載の有機ケイ素化合物。
〔請求項4〕
下記一般式(5)
【化4】

〔式中、Aは加水分解性基であり、R3は独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜4のアルキル基であり、nは1〜3の整数である。Zは非置換又は置換の炭素原子数1〜6のアルキレン基であり、R8,R9はいずれか一方が下記式(3)又は下記式(4)
【化5】

(式中、R6及びR7はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、mは1〜4である。)
で表される構造の基であり、他方は上記式(3)又は上記式(4)で表される構造の基、水素原子、又は非置換もしくは置換の炭素原子数1〜8のアルキル基である。〕
で表されることを特徴とする請求項1又は2記載の有機ケイ素化合物。
〔請求項5〕
下記一般式(6)
【化6】

〔式中、Aは独立に加水分解性基であり、R3は独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜4のアルキル基であり、nは1〜3の整数である。Zは非置換又は置換の炭素原子数1〜6のアルキレン基であり、R10は下記式(3)又は下記式(4)
【化7】

(式中、R6及びR7はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、mは1〜4である。)
で表される構造の基である。〕
で表されることを特徴とする請求項1又は2記載の有機ケイ素化合物。
〔請求項6〕
式中のAが炭素原子数1〜4のアルコキシ基であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物。
〔請求項7〕
1級アミノ基及び/又は2級アミノ基と加水分解性基とを含有する有機ケイ素化合物と光重合性二重結合を有するイソシアネートモノマーを反応させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
〔請求項8〕
光重合性二重結合を有するイソシアネートモノマーが、(メタ)アクリロキシエチルイソシアネート、エチレングリコール−イソシアナートエチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、ビス−1,1−((メタ)アクリロキシメチル)エチルイソシアネートから選ばれるいずれかであることを特徴とする請求項7記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の有機ケイ素化合物は、加水分解性シリル基、光重合性官能基及び尿素結合のような極性構造を有しており、これにより樹脂との相溶性が高く、尿素結合構造に由来する水素結合により接着助剤など各種添加剤や各種処理剤、有機・無機物質の改質剤等として好適に使用することができる。また、該化合物を製造するにあたり、原料及び反応工程にクロル分の発生がなく、得られる化合物の含有クロル分も少ないため安定性に優れ、添加剤として使用した際の経時劣化も低減する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の反応生成物の1H NMRスペクトルを示す図である。
【図2】実施例1の反応生成物の13C NMRスペクトルを示す図である。
【図3】実施例1の反応生成物の29Si NMRスペクトルを示す図である。
【図4】実施例1の反応生成物のIRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について具体的に説明する。
[有機ケイ素化合物]
本発明の有機ケイ素化合物は、光重合性二重結合を有する有機官能基と加水分解性基が結合したケイ素原子とが尿素結合を含む2価の有機基で連結されているものであれば特に制限されないが、単量体であることが好ましい。光重合性二重結合を有する有機官能基としては、ビニル基、アクリル基、メタクリル基等が例示され、アクリル基、メタクリル基が好ましい。ケイ素原子に結合する加水分解性基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、塩素、臭素等のハロゲン原子、アセトキシ基等が例示され、アルコキシ基が好ましく、より好ましくは炭素原子数1〜4のアルコキシ基であり、特にメトキシ基、エトキシ基が好ましい。
【0013】
光重合性二重結合を有する有機官能基と尿素結合を含む2価の有機基の連結した構造は、下記式(1)
【化8】

(式中、R1は(メタ)アクリル基であり、R2は水素原子、又は酸素原子、硫黄原子、窒素原子といったヘテロ原子又はカルボニル炭素を間に挟んでも良く、置換基を有してもよい1価の炭化水素基であり、Xは酸素原子、硫黄原子、窒素原子といったヘテロ原子又はカルボニル炭素を間に挟んでも良く、置換基を有してもよい2価の炭化水素基であり、Yは酸素原子、硫黄原子、窒素原子といったヘテロ原子又はカルボニル炭素を間に挟んでも良く、置換基を有してもよい2価の炭化水素基である。)
で示されるものが好ましい。
【0014】
上記構造において、R2、X、Y中の置換基は、ハロゲン原子、アルキル基、パーフルオロアルキル基、ポリエーテル基、パーフルオロポリエーテル基、加水分解性シリル基、(メタ)アクリル基、エポキシ基、アミノ基、メルカプト基からなる群より選択される1種等が挙げられ、その中でも好ましくは、アルキル基、加水分解性シリル基、(メタ)アクリル基である。
2の1価炭化水素基としては、炭素原子数1〜20、特に1〜10のものが好ましく、アルキル基、アルケニル基、アリール基、シクロアルキル基等が挙げられる。また、X及びYの2価炭化水素基としては、炭素原子数1〜20、特に1〜10のものが好ましく、アルキレン基、アリーレン基等が挙げられる。
【0015】
本発明の好ましい有機ケイ素化合物としては、下記一般式(2),(5)及び(6)で示されるものが挙げられる。
【0016】
【化9】

〔式中、Aは加水分解性基であり、R3は独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜4のアルキル基であり、nは1〜3の整数である。Zは非置換又は置換の炭素原子数1〜6のアルキレン基であり、R4は水素原子、又は非置換もしくは置換の炭素原子数1〜8のアルキル基であり、R5は下記式(3)又は下記式(4)
【化10】

(式中、R6及びR7はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、mは1〜4である。)
で表される構造の基である。〕
【0017】
【化11】

〔式中、Aは加水分解性基であり、R3は独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜4のアルキル基であり、nは1〜3の整数である。Zは非置換又は置換の炭素原子数1〜6のアルキレン基であり、R8,R9はいずれか一方が下記式(3)又は下記式(4)
【化12】

(式中、R6及びR7はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、mは1〜4である。)
で表される構造の基であり、他方は上記式(3)又は上記式(4)で表される構造の基、水素原子、又は非置換もしくは置換の炭素原子数1〜8のアルキル基である。〕
【0018】
【化13】

〔式中、Aは独立に加水分解性基であり、R3は独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜4のアルキル基であり、nは1〜3の整数である。Zは非置換又は置換の炭素原子数1〜6のアルキレン基であり、R10は下記式(3)又は下記式(4)
【化14】

(式中、R6及びR7はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、mは1〜4である。)
で表される構造の基である。〕
【0019】
ここで、上記式(2),(5)及び(6)中、Aは加水分解性基であり、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基等のアルコキシ基、塩素、臭素等のハロゲン原子、アセトキシ基等が例示され、アルコキシ基が好ましく、より好ましくは炭素原子数1〜4のアルコキシ基であり、特にメトキシ基、エトキシ基が好ましい。また、R3は独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜4のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基等が例示できる。nは1〜3の整数であり、好ましくは2又は3である。
【0020】
上記式(2)中のR4は、独立に水素原子、非置換又は置換の炭素原子数1〜8のアルキル基であり、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等が例示できる。
また、上記式(2),(5)及び(6)中、Zはメチレン基、エチレン基、プロピレン基、1−メチル−プロピレン基、2−メチル−プロピレン基、3−メチル−プロピレン基、ブチレン基等が挙げられるが、ここに例示したものに限らない。
【0021】
本発明の光重合性二重結合と尿素結合を1分子中に有する有機ケイ素化合物の具体的な例は、下記構造式(7)〜(15)に示される。なお、下記例において、Meはメチル基を表す。
【0022】
【化15】

【0023】
【化16】

【0024】
【化17】

また、上記式のメトキシ基をエトキシ基とした化合物も同様に例示することができる。
【0025】
本発明の有機ケイ素化合物は、1級アミノ基及び/又は2級アミノ基と加水分解性基とを含有する有機ケイ素化合物と光重合性基を有するイソシアネート化合物を反応させることにより得ることができる。
【0026】
本発明の有機ケイ素化合物製造時には必要に応じて溶媒を使用しても良く、溶媒は原料であるアミノシラン及びイソシアネート化合物と非反応性であれば特に限定されないが、具体的には、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、デカンなどの脂肪族炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサンなどのエーテル系溶媒、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素系溶媒などが挙げられる。
【0027】
本発明の有機ケイ素化合物製造時において反応は発熱反応であり、不要に高温となると副反応が生じるおそれがある。そのため製造にあたり、好ましい反応温度は−10〜150℃であり、より好ましくは0〜100℃、更に好ましくは5〜50℃の範囲である。−10℃より低い場合は、反応速度が遅くなり生産性が低下する場合がある他、極低温を維持することは特殊な製造設備が必要となり現実的でない。一方、150℃より高い場合には、重合性官能基由来の重合反応等の副反応が生じるおそれがある。
【0028】
本発明の有機ケイ素化合物製造時に必要とされる反応時間は、上記に述べたような発熱反応による温度管理が可能であり、且つ発熱反応が終了していれば特に限定されないが、好ましくは10分〜24時間、より好ましくは1時間〜10時間程度である。
【0029】
本発明の有機ケイ素化合物製造時に必要とされる原料である1級アミノ基及び/又は2級アミノ基と加水分解性基とを含有する有機ケイ素化合物としては特に限定されないが、具体的には、α−アミノメチルトリメトキシシラン、α−アミノメチルメチルジメトキシシラン、α−アミノメチルジメチルメトキシシラン、α−アミノメチルトリエトキシシラン、α−アミノメチルメチルジエトキシシラン、α−アミノメチルジメチルエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルジメチルメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルメチルジエトキシシラン、γ−アミノプロピルジメチルエトキシシラン、N−2(アミノエチル)α−アミノメチルトリメトキシシラン、N−2(アミノエチル)α−アミノメチルメチルジメトキシシラン、N−2(アミノエチル)α−アミノメチルジメチルメトキシシラン、N−2(アミノエチル)α−アミノメチルトリエトキシシラン、N−2(アミノエチル)α−アミノメチルメチルジエトキシシラン、N−2(アミノエチル)α−アミノメチルジメチルエトキシシラン、ビス−(トリメトキシシリルプロピル)アミン、ビス−(メチルジメトキシシリルプロピル)アミン、ビス−(ジメチルメトキシシリルプロピル)アミン、ビス−(トリエトキシシリルプロピル)アミン、ビス−(メチルジエトキシシリルプロピル)アミン、ビス−(ジメチルエトキシシリルプロピル)アミン等が挙げられる。
【0030】
本発明の有機ケイ素化合物製造時に必要とされる原料である光重合性基を有するイソシアネート化合物としては、上記官能基を有していれば特に限定されないが、市販されていて入手容易なものとして(メタ)アクリロキシエチルイソシアネート、エチレングリコール−イソシアナートエチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、ビス−1,1−((メタ)アクリロキシメチル)エチルイソシアネート等が挙げられる。
【0031】
本発明の有機ケイ素化合物を製造するにあたり、1級アミノ基及び/又は2級アミノ基と加水分解性基とを含有する有機ケイ素化合物と、光重合性基を有するイソシアネート化合物との配合比は特に限定されないが、反応性、生産性の点から、1級アミノ基及び/又は2級アミノ基と加水分解性基とを含有する有機ケイ素化合物1モルに対し、光重合性基を有するイソシアネート化合物を0.5〜3モル、特に0.8〜2.5モルの範囲で反応させることが好ましい。光重合性基を有するイソシアネート化合物の配合量が少なすぎると1級アミノ基及び/又は2級アミノ基と加水分解性基とを含有する有機ケイ素化合物が多量に残存し、シランの諸物性に影響を与えないものの、純度が低下する他、生産性に欠けるといったデメリットが生じる。逆に多すぎるとそれらが重合してゲル化するおそれがある。
【0032】
アミノ基とイソシアネート基が反応することにより尿素結合が形成され、本発明の有機ケイ素化合物が得られる。なお、このようにして得られた有機ケイ素化合物は、シランカップリング剤として有用である。
【実施例】
【0033】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をより詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、下記例中、粘度、比重、屈折率は、25℃において測定した値である。また、NMRは核磁気共鳴分光法、IRは赤外分光法の略である。粘度は毛細管式動粘度計による25℃における測定に基づく。
【0034】
[実施例1]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM−903)179.3g(1.00mol)を納め、氷浴を用いて0℃まで冷却した。その中にアクリロキシエチルイソシアネート(昭和電工社製カレンズAOI)141.2g(1.00mol)を滴下し、その後30℃にて4時間加熱撹拌した。IR測定により原料のイソシアネート基由来の吸収ピークが完全に消失し、代わりに尿素結合由来の吸収ピークが生成したことを確認し、反応終了とした。得られた反応生成物は淡黄色液体であり、粘度307mm2/s、比重1.143、屈折率1.4673であり、NMRスペクトルにより反応生成物は単一の生成物であり、下記化学構造式(7)に示す構造であることを確認した。この化合物についてプロトンNMRスペクトルを図1に、カーボンNMRスペクトルを図2に、シリコンNMRスペクトルを図3に、IRスペクトルを図4にそれぞれ示す。
【0035】
【化18】

(式中、Meはメチル基を示す。以下同じ。)
【0036】
[実施例2]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM−903)179.3g(1.00mol)を納め、氷浴を用いて0℃まで冷却した。その中にビス−1,1−(アクリロキシメチル)エチルイソシアネート(昭和電工社製カレンズBEI)239.0g(1.00mol)を滴下し、その後30℃にて4時間加熱撹拌した。IR測定により原料のイソシアネート基由来の吸収ピークが完全に消失し、代わりに尿素結合由来の吸収ピークが生成したことを確認し、反応終了とした。得られた反応生成物は淡黄色液体であり、粘度3,424mm2/s、比重1.151、屈折率1.4747であり、NMRスペクトルにより反応生成物は単一の生成物であり、下記化学構造式(9)に示す構造であることを確認した。NMRスペクトルデータは以下の通りである。
【0037】
1H NMR(300MHz,CDCl3,δ(ppm)):0.70(t,2H),1.46(s,3H),1.69(quint,2H),3.22(t,2H),3.40(t,2H),3.46(s,9H),4.58(m,4H),5.42(m,2H),5.84(m,1H),5.90(m,1H),6.02(m,2H),6.32(m,2H).
13C NMR(75MHz,CDCl3,δ(ppm)):6.3,20.3,23.9,42.8,50.3,54.9,66.7,128.3,130.7,158.4,165.5.
29Si NMR(60MHz,CDCl3,δ(ppm)):−42.2.
【0038】
【化19】

【0039】
[実施例3]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、N−2(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン(信越化学工業社製KBM−603)222.4g(1.00mol)を納め、氷浴を用いて0℃まで冷却した。その中にビス−1,1−(アクリロキシメチル)エチルイソシアネート(昭和電工社製カレンズBEI)478.0g(2.00mol)を滴下し、その後30℃にて4時間加熱撹拌した。IR測定により原料のイソシアネート基由来の吸収ピークが完全に消失し、代わりに尿素結合由来の吸収ピークが生成したことを確認し、反応終了とした。得られた反応生成物は無色透明な水飴状の流動体であり、屈折率1.4914であり、NMRスペクトルにより反応生成物は単一の生成物であり、下記化学構造式(12)に示す構造であることを確認した。NMRスペクトルデータは以下の通りである。
【0040】
1H NMR(300MHz,CDCl3,δ(ppm)):0.54(t,2H),1.40(s,3H),1.48(s,3H),1.57(quint,2H),3.17(t,2H),3.40(s,9H),4.50(m,4H),4.56(m,4H),5.42(m,4H),5.96(m,4H),6.23(m,1H),6.27(m,4H),6.40(m,1H),6.89(m,1H).
13C NMR(75MHz,CDCl3,δ(ppm)):6.7,20.2,20.4,22.4,39.5,47.2,50.2,50.5,54.9,55.8,66.6,128.4,128.5,130.5,130.7,157.8,159.1,165.4,165.7.
29Si NMR(60MHz,CDCl3,δ(ppm)):−42.4.
【0041】
【化20】

【0042】
[実施例4]
撹拌機、還流冷却器、滴下ロート及び温度計を備えた1Lセパラブルフラスコに、ビス−(トリメトキシシリルプロピル)アミン(信越化学工業社製KBM−666P)341.6g(1.00mol)を納め、氷浴を用いて0℃まで冷却した。その中にアクリロキシエチルイソシアネート(昭和電工社製カレンズAOI)141.2g(1.00mol)を滴下し、その後30℃にて4時間加熱撹拌した。IR測定により原料のイソシアネート基由来の吸収ピークが完全に消失し、代わりに尿素結合由来の吸収ピークが生成したことを確認し、反応終了とした。得られた反応生成物は淡黄色液体であり、粘度165mm2/s、比重1.130、屈折率1.4606であり、NMRスペクトルにより反応生成物は単一の生成物であり、下記化学構造式(13)に示す構造であることを確認した。NMRスペクトルデータは以下の通りである。
【0043】
1H NMR(300MHz,CDCl3,δ(ppm)):0.49(t,4H),1.53(quint,4H),3.06(t,4H),3.40(t,2H),3.46(s,18H),4.14(t,2H),5.16(m,1H),5.73(m,1H),6.04(s,1H),6.30(m,1H).
13C NMR(75MHz,CDCl3,δ(ppm)):5.8,21.5,40.0,49.2,50.4,64.0,128.2,130.8,157.4,166.1.
29Si NMR(60MHz,CDCl3,δ(ppm)):−42.0.
【0044】
【化21】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
光重合性二重結合を有する有機官能基と加水分解性基が結合したケイ素原子とが尿素結合を含む2価の有機基で連結されていることを特徴とする有機ケイ素化合物。
【請求項2】
下記式(1)
【化1】

(式中、R1は(メタ)アクリル基であり、R2は水素原子、又は酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるヘテロ原子又はカルボニル炭素を間に挟んでも良く、置換基を有してもよい1価の炭化水素基であり、Xは酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるヘテロ原子又はカルボニル炭素を間に挟んでも良く、置換基を有してもよい2価の炭化水素基であり、Yは酸素原子、硫黄原子、窒素原子から選ばれるヘテロ原子又はカルボニル炭素を間に挟んでも良く、置換基を有してもよい2価の炭化水素基である。)
で示される構造を分子内に少なくとも1つ有することを特徴とする請求項1記載の有機ケイ素化合物。
【請求項3】
下記一般式(2)
【化2】

〔式中、Aは加水分解性基であり、R3は独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜4のアルキル基であり、nは1〜3の整数である。Zは非置換又は置換の炭素原子数1〜6のアルキレン基であり、R4は水素原子、又は非置換もしくは置換の炭素原子数1〜8のアルキル基であり、R5は下記式(3)又は下記式(4)
【化3】

(式中、R6及びR7はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、mは1〜4である。)
で表される構造の基である。〕
で表されることを特徴とする請求項1又は2記載の有機ケイ素化合物。
【請求項4】
下記一般式(5)
【化4】

〔式中、Aは加水分解性基であり、R3は独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜4のアルキル基であり、nは1〜3の整数である。Zは非置換又は置換の炭素原子数1〜6のアルキレン基であり、R8,R9はいずれか一方が下記式(3)又は下記式(4)
【化5】

(式中、R6及びR7はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、mは1〜4である。)
で表される構造の基であり、他方は上記式(3)又は上記式(4)で表される構造の基、水素原子、又は非置換もしくは置換の炭素原子数1〜8のアルキル基である。〕
で表されることを特徴とする請求項1又は2記載の有機ケイ素化合物。
【請求項5】
下記一般式(6)
【化6】

〔式中、Aは独立に加水分解性基であり、R3は独立に非置換又は置換の炭素原子数1〜4のアルキル基であり、nは1〜3の整数である。Zは非置換又は置換の炭素原子数1〜6のアルキレン基であり、R10は下記式(3)又は下記式(4)
【化7】

(式中、R6及びR7はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、mは1〜4である。)
で表される構造の基である。〕
で表されることを特徴とする請求項1又は2記載の有機ケイ素化合物。
【請求項6】
式中のAが炭素原子数1〜4のアルコキシ基であることを特徴とする請求項3〜5のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物。
【請求項7】
1級アミノ基及び/又は2級アミノ基と加水分解性基とを含有する有機ケイ素化合物と光重合性二重結合を有するイソシアネートモノマーを反応させることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項記載の有機ケイ素化合物の製造方法。
【請求項8】
光重合性二重結合を有するイソシアネートモノマーが、(メタ)アクリロキシエチルイソシアネート、エチレングリコール−イソシアナートエチルエーテルモノ(メタ)アクリレート、ビス−1,1−((メタ)アクリロキシメチル)エチルイソシアネートから選ばれるいずれかであることを特徴とする請求項7記載の有機ケイ素化合物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate