説明

光重合性組成物、並びに、それを用いた水周り部材及び機能性パネル

【課題】表面に付着した水滴を容易に落下させる光重合性組成物を提供する。
【解決手段】(A)下記一般式(I)で表される化合物と、(B)これと重合可能なオリゴマー及び/又はモノマーと、(C)光重合開始剤とを含有する光重合性組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光重合性組成物、並びに、それを用いた水周り部材及び機能性パネルに関し、特には、水周り部材、機能性パネル等の物品の表面に付着した水滴を容易に落下させることが可能であり、その効果を使用環境において長期に持続可能な光重合性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
建築用資材としての機能性パネルは、建築物の壁面、床面又は天井の壁面として配置される部材であり、その配置される場所に応じ、防音効果や湿度調節性等の様々な機能が付与されている。こうした機能性パネルは、特に住宅内における浴室、洗面所又は台所等の水周り部材として用いられる場合には、より過酷な使用環境に耐え得る防汚性、耐水性、耐湿性など種々の特性を有することが求められる。特に水回り用部材は、水気や湿気に晒されるが故に、水垢やカビ、洗浄剤や染色剤等の薬剤が付着して汚れが容易に発生してしまう。
【0003】
これに対し、表面自由エネルギーの小さい低表面自由エネルギー化合物を配合することにより、表面自由エネルギーを低下させた組成物を部材表面に塗布して、部材に良好な撥水性を付与して汚れが付き難くすることが試みられており、かかる低表面自由エネルギー化合物として、フッ素樹脂やシリコーン系化合物等の疎水性材料が使用されている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、低表面自由エネルギー化合物を含有した塗料硬化物を表面に有する水回り部材が開示されており、更に、低表面自由エネルギー化合物として、シリコーン樹脂化合物、フッ素樹脂化合物が開示されている。
【0005】
また、下記特許文献2には、基材樹脂表面に低表面自由エネルギー層を形成し、成形体表面を基材樹脂表面に比べ低表面自由エネルギー表面とした樹脂成形体が開示されており、更に、該樹脂成形体の表面と水の接触角が90度以上170度以下であること、該樹脂成形体の表面と水の転落角が1度以上80度以下であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2002−69378号公報
【特許文献2】特開2000−233156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記低表面自由エネルギー化合物を用いて作製した低表面自由エネルギー表面は、水をはじき、該表面上に球状の水滴を形成するものの、該水滴は表面に強く付着して落下しないことがしばしば見受けられる。そのため、表面を粗面化する等して、付着した水滴を表面から落下させる試みが行われているが、粗面化等された表面は、耐久性及び汚れが付きやすいという点で問題がある。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記の問題を解決し、物品の表面に付着した水滴を容易に落下させることが可能であり、その効果を使用環境において長期に持続可能な光重合性組成物を提供することにある。また、本発明の他の目的は、かかる光重合性組成物を硬化させてなる塗布層を具え、滑水性の良好な水周り部材及び機能性パネルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、光重合性組成物の構成成分として、特定構造のケイ素含有化合物を使用することで、物品の表面に付着した水滴を容易に落下させることが可能であり、その効果を使用環境において長期に持続可能な光重合性組成物が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明の光重合性組成物は、
(A)下記一般式(I):
【化1】

[式中、R2は水素原子又はメチル基であり、nは1〜20の整数であり、R1は側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入するための任意の有機基であり、mは化合物の重量平均分子量が1000〜40000の範囲を外れない範囲で任意に選ばれる数である]で表される化合物と、
(B)上記一般式(I)で表わされる化合物と重合可能な光重合性オリゴマー及び/又は光重合性モノマーと、
(C)光重合開始剤と
を含有することを特徴とする。
【0011】
本発明の光重合性組成物は、更に、(D)フッ素含有化合物を含むことが好ましい。ここで、前記(A)一般式(I)で表わされる化合物と前記(D)フッ素含有化合物との質量比(A/D)は、0.2〜10.0の範囲が好ましく、0.4〜5.0の範囲が更に好ましい。
【0012】
本発明の光重合性組成物の好適例においては、前記(A)一般式(I)で表わされる化合物の含有量が前記(B)光重合性オリゴマー及び光重合性モノマーの合計100質量部に対して0.01〜5質量部であり、並びに/或いは、前記(D)フッ素含有化合物の含有量が前記(B)光重合性オリゴマー及び光重合性モノマーの合計100質量部に対して0〜5質量部である。一般式(I)で表わされる化合物の含有率が0.01質量部より低いと、表面エネルギーを低下させる能力が十分に発揮されず、5質量部より多いと、光重合性オリゴマーや光重合性モノマーとの相溶性がとれなくなり、かつ添加効果が飽和する一方、光重合性組成物の原料コストが高くなる。
【0013】
本発明の光重合性組成物の他の好適例においては、前記光重合性オリゴマーが1,2−ポリブチレンオキサイド単位を有する(メタ)アクリレートオリゴマーである。
【0014】
本発明の光重合性組成物の他の好適例においては、前記光重合性モノマーの溶解性パラメーター(SP値)が20.0(J/cm30.5以下である。ここで、該光重合性モノマーとしては、下記一般式(II):
(CH2=CR3COO)p4 ・・・ (II)
[式中、R3は水素原子又はメチル基であり、R4は炭素数5〜20のp価の炭化水素基であり、pは1〜4の整数である]で表されるモノマーが好ましい。
【0015】
また、本発明の水周り部材は、上記の光重合性組成物を硬化させてなる塗布層と、基材層とを具えることを特徴とする。
【0016】
また、本発明の機能性パネルは、上記の光重合性組成物を硬化させてなる塗布層と、基材層とを具えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、(A)上記一般式(I)で表わされる化合物と、(B)該一般式(I)で表わされる化合物と重合可能な光重合性オリゴマー及び/又は光重合性モノマーと、(C)光重合開始剤とを含み、物品の表面に付着した水滴を容易に落下させることが可能であり、その効果を使用環境において長期に持続可能な光重合性組成物を提供することができる。また、かかる光重合性組成物を硬化させてなる塗布層を具え、滑水性の良好な水周り部材及び機能性パネルを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
<光重合性組成物>
以下に、本発明を詳細に説明する。本発明の光重合性組成物は、(A)上記一般式(I)で表わされる化合物と、(B)該一般式(I)で表わされる化合物と重合可能な光重合性オリゴマー及び/又は光重合性モノマーと、(C)光重合開始剤とを含有することを特徴とし、必要に応じて、他の成分を含有することができる。
【0019】
本発明の光重合性組成物においては、(A)上記一般式(I)で表わされる化合物が配合されており、該化合物が撥水性のみならず、滑水性も優れる。そのため、本発明の光重合性組成物を塗布した物品、特には、水周り部材及び機能性パネルは、塗布層の滑水性が高いため、塗布層の表面に付着した水滴を容易に落下させることができる。
【0020】
<<(A)上記一般式(I)で表わされる化合物>>
本発明の光重合性組成物は、(A)上記一般式(I)で表わされる化合物を含む。該一般式(I)において、R2は水素原子又はメチル基であり、R1は側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入するため任意の有機基である。R1は側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入する為のスペーサーとして作用するほか、有機基の種類によってはシリコーンに特徴を持たせることができる。
【0021】
例えば、R1としてアルキレン基を持つことにより、上記一般式(I)で表わされる化合物により、光重合性組成物に潤滑性及び撥水性を付与することができる。これにより少量の添加量でも十分な効果を得ることができる。なお、アルキレン基は、直鎖状でも分岐鎖状でもよく、また、アルキレン基の長さは特に限定されるものでは無いが、ベース樹脂との相溶性を考慮して、炭素数が1〜22の範囲であることが好ましい。具体的には、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基、デカメチレン基、テトラデカメチレン基、オクタデカメチレン基、1−メチルエチレン基、2−エチルトリメチレン基、1−メチルヘプタメチレン基、2−メチルヘプタメチレン基、1−ブチルヘキサメチレン基、2−メチル−5−エチルヘプタメチレン基、2,3,6−トリメチルヘプタメチレン基、6−エチルデカメチレン基、7−メチルテトラデカメチレン基、7−エチルヘキサデカメチレン基、7,12−ジメチルオクタデカメチレン基、8,11−ジメチルオクタデカメチレン基、7,10−ジメチル−7−エチルヘキサデカメチレン基、1−オクタデシルエチレン基、エテニレン基、1−オクタデセニルエチレン基、7,11−オクタデカジエニレン基、7−エテニル−9−ヘキサデカメチレン基、7,12−ジメチル−7,11−オクタデカジエニレン基、8,11−ジメチル−7,11−オクタデカジエニレン基等が挙げられる。
【0022】
また、R1の他の好適例としてエーテル基が挙げられる。式(I)の化合物が親水性であるエーテル基を持つことにより、ベース樹脂との幅広い相溶性を確保することができる。これにより適切な量を系中に添加することができる。ここで、エーテル基は−(OR’)q−で表され、R’は炭素数1〜3の直鎖状又は分岐したアルキレン基であることが好ましい。これらが単独で結合しても、混合して結合しても良く、混合の場合はブロックでもランダムでも良い。また、繰り返し数qは1〜100の整数である。
【0023】
(A)上記一般式(I)で表わされる化合物中のnは1〜20の整数である。構造中に(メタ)アクリロイル基を含有することで光照射により、(B)上記一般式(I)で表わされる化合物と重合可能な光重合性オリゴマー及び/又は光重合性モノマーと反応し固定化される。それにより拭き取り等を繰返し行ったとしても、機能を持続させることができる。一方、nが20を超えると、(A)上記一般式(I)で表される化合物と(B)上記一般式(I)で表わされる化合物と重合可能な光重合性オリゴマー及び/又は光重合性モノマーとの相溶性が良くなりすぎるため、最表面に存在し難くなり、機能を十分に発揮させることができない。なお、nは2〜6の範囲が最も好ましい。
【0024】
(A)上記一般式(I)で表わされる化合物の重量平均分子量の好ましい範囲としては1000〜40000である。重量平均分子量はGPCによりポリスチレンの標準から検量線を作成し、試料の保持時間より求めることができる。GPCの移動層溶剤にはテトラヒドロフランやクロロホルムを使用することができる。また、検出器は屈折率計(RI)、UV検出器などを使用することができる。このような方法を用いて得られた重量平均分子量が1000未満であると、(A)上記一般式(I)で表わされる化合物中のジメチルシロキサン部位の相対量が低下するため、十分な効果を発揮させる為には、添加量を多くする必要がある。一方、重量平均分子量が40000を超えると、(B)上記一般式(I)で表わされる化合物と重合可能な光重合性オリゴマー及び/又は光重合性モノマーとの相溶性が著しく低下して分離してしまう。この観点から、mは、式(I)化合物の重量平均分子量が1000〜40000の範囲を外れない範囲で任意に選ばれる数である。
【0025】
本発明の光重合性組成物において、(A)上記一般式(I)で表わされる化合物の含有量は、後述する(B)光重合性オリゴマー及び光重合性モノマーの合計100質量部に対して0.01〜5質量部の範囲が好ましく、0.1〜3.0質量部の範囲が更に好ましい。ここで、一般式(I)で表わされる化合物の含有量は、一般式(I)で表わされる化合物の有効成分の量(固形分の量)である。一般式(I)で表わされる化合物の含有量が0.01質量部以上であれば、本発明の光重合性組成物を塗布した物品の撥水性・滑水性を十分に向上させることができ、また、5質量部以下であれば、(B)光重合性オリゴマー及び/又はモノマーとの相溶性が良好であり、均一な硬化物を得ることができる。
【0026】
<<(B)光重合性オリゴマー及び/又は光重合性モノマー>>
本発明の光重合性組成物に用いる(B)光重合性オリゴマー及び/又は光重合性モノマーは、上記一般式(I)で表わされる化合物と重合可能な重合性不飽和ビニル化合物であり、例えば、ラジカル重合が可能な(メタ)アクリロイル基[CH2=CHCO−又はCH2=C(CH3)CO−]を1つ以上有する化合物、不飽和ポリエステル樹脂、ポリブタジエン樹脂等である。なお、本発明において、(B)成分の光重合性オリゴマー及び/又は光重合性モノマーからは、上述の(A)上記一般式(I)で表わされる化合物を除くものとする。
【0027】
また、(B1)光重合性オリゴマーと(B2)光重合性モノマーとの配合量は、質量比で、100:0〜0:100、好ましくは80:20〜20:80、より好ましくは30:70〜70:30の範囲である。光重合性モノマーの配合量が少なすぎると、得られる光重合性組成物の粘度が上昇して塗布性が悪化するおそれがあるとともに、耐薬品性および耐染色性等の物性を充分に確保できない可能性がある。また、光重合性モノマーの配合量が多すぎると、塗膜の柔軟性が低下して脆性が高くなる傾向にある。
【0028】
<<<(B1)光重合性オリゴマー>>>
上記光重合性オリゴマーとしては、アクリロイルオキシ基[CH2=CHCOO−]またはメタクロイルオキシ基[CH2=C(CH3)COO−]を1つ以上有する(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましく、1,2−ポリブチレンオキサイド単位を有する(メタ)アクリレートオリゴマーが特に好ましい。該1,2−ポリブチレンオキサイド単位を有する(メタ)アクリレートオリゴマーは極性が低いため、一般式(I)の化合物との相溶性が良く、広範囲にわたって一般式(I)の化合物を添加することが可能である。そのため、一般式(I)の化合物の添加量が多い場合でも白濁、層分離等を抑制でき、硬化後の外観が良く、それを用いた水周り部材及び機能性パネルも良好な外観を形成することができる。また、光重合性組成物を硬化させて得られる樹脂の疎水性が高いため、水及び水周りで使用される洗浄剤やヘアカラーなどの染色剤に対する耐性が強く、汚れがつき難く、滑水性の長期安定性がより良好となる。
【0029】
上記(メタ)アクリレートオリゴマーとして、具体的には、ウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマー、エポキシ系(メタ)アクリレートオリゴマー、エーテル系(メタ)アクリレートオリゴマー、エステル系(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリカーボネート系(メタ)アクリレートオリゴマー、シリコーン系(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。これら(メタ)アクリレートオリゴマーは、ポリエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、多価アルコールとε-カプロラクトンの付加物等と、(メタ)アクリル酸との反応により、あるいはポリイソシアネート化合物及び水酸基を有する(メタ)アクリレート化合物をウレタン化することにより合成することができる。
【0030】
上記光重合性オリゴマーは、単官能オリゴマー、2官能オリゴマー、多官能オリゴマーのいずれであってもよく、得られる光重合性組成物の適度な架橋密度を実現させる観点から、多官能オリゴマーであることが好ましい。
【0031】
これら光重合性オリゴマーの中でも、水周り部材及び機能性パネルとして好適な特性を付与する観点から、耐薬品性に優れるウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。ウレタン系(メタ)アクリレートオリゴマーは、例えば、ポリオールとポリイソシアネートとからウレタンプレポリマーを合成し、該ウレタンプレポリマーに水酸基を有する(メタ)アクリレートを付加させることによって製造することができる。
【0032】
上記ウレタンプレポリマーの合成に用いるポリオールは、水酸基(−OH)を複数有する化合物であり、具体的には、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリテトラメチレングリコール、ポリブタジエンポリオール、アルキレンオキサイド変性ポリブタジエンポリオール及びポリイソプレンポリオール等が挙げられる。これらポリオールは、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。なお、上記ポリエーテルポリオールは付加重合により得ることができ、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等の多価アルコールに、エチレンオキシドやプロピレンオキシド等のアルキレンオキサイドを付加させる。また、開環重合によりポリエーテルポリオールを得ることもでき、このようなポリエーテルポリオールとしては、例えば、テトラヒドロフラン(THF)の開環重合により得られるポリテトラメチレングリコールが挙げられる。
【0033】
上記ポリエステルポリオールも付加重合により得ることができ、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、プロピレングリコール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン等の多価アルコールと、アジピン酸、グルタル酸、コハク酸、セバシン酸、ピメリン酸、スベリン酸等の多価カルボン酸とから得られる。また、開環重合によりポリエステルポリオールを得ることもでき、このようなポリエステルポリオールとしては、ε−カプロラクトンの開環重合により得られるラクトン系ポリエステルポリオールが挙げられる。
【0034】
上記ポリオールとして、ブチレンオキサイド変性ポリオールを用いることで、上記1,2−ポリブチレンオキサイド単位を有する(メタ)アクリレートオリゴマーを製造することができる。該ブチレンオキサイド変性ポリオールは、アルカリ触媒の存在下、多価アルコールに1,2‐ブチレンオキサイド(BO)を付加重合させて得られるポリエーテルポリオールである。また、1,2‐ブチレンオキサイド(BO)だけでなく、プロピレンオキサイド(PO)等の他のアルキレンオキサイドを同時に付加重合させたポリエーテルポリオールであってもよい。この場合、BOと他のアルキレンオキサイドとの比率はモル比で20:80〜100:0、好ましくは50:50〜100:0であるのが望ましい。これらブチレンオキサイド変性ポリオールのGPCによる重量平均分子量は、通常100〜15,000、好ましくは500〜5,000である。
【0035】
上記ポリイソシアネートは、イソシアネート基(−NCO)を複数有する化合物であり、具体的には、トリレンジイソシアネート(TDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、粗製ジフェニルメタンジイソシアネート(クルードMDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、水素添加ジフェニルメタンジイソシアネート、水素添加トリレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)や、これらのイソシアヌレート変性物、カルボジイミド変性物、グリコール変性物等が挙げられる。これらポリイソシアネートは、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0036】
上記ウレタンプレポリマーの合成においては、ウレタン化反応用の触媒を用いることが好ましい。該ウレタン化反応用触媒としては、ジブチルスズジラウレート、ジブチルスズジアセテート、ジブチルスズチオカルボキシレート、ジブチルスズジマレエート、ジオクチルスズチオカルボキシレート、オクテン酸スズ、モノブチルスズオキシド等の有機スズ化合物;塩化第一スズ等の無機スズ化合物;オクテン酸鉛等の有機鉛化合物;トリエチレンジアミン等の環状アミン類;p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、フルオロ硫酸等の有機スルホン酸;硫酸、リン酸、過塩素酸等の無機酸;ナトリウムアルコラート、水酸化リチウム、アルミニウムアルコラート、水酸化ナトリウム等の塩基類;テトラブチルチタネート、テトラエチルチタネート、テトライソプロピルチタネート等のチタン化合物;ビスマス化合物;四級アンモニウム塩等が挙げられる。これら触媒の中でも、有機スズ化合物が好ましい。これら触媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。上記触媒の使用量は、上記ポリオール100質量部に対して0.001〜2.0質量部の範囲の量であるのが好ましい。
【0037】
また、上記ウレタンプレポリマーに付加させる水酸基を有する(メタ)アクリレートは、水酸基を1つ以上有し、(メタ)アクリロイルオキシ基[CH2=CHCOO−またはCH2=C(CH3)COO−]を1つ以上有する化合物である。該水酸基を有する(メタ)アクリレートは、上記ウレタンプレポリマーのイソシアネート基に付加することができる。該水酸基を有するアクリレートとしては、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これら水酸基を有する(メタ)アクリレートは、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0038】
このような光重合性オリゴマーを配合することにより、光重合性組成物を硬化させて得られる塗布層が示すガラス転移温度を最適化することができ、撥水性、滑水性等に優れた効果を発揮し得る光重合性組成物を得ることができる。
【0039】
<<<(B2)光重合性モノマー>>>
上記光重合性モノマーとしては、アクリロイルオキシ基[CH2=CHCOO−]またはメタクロイルオキシ基[CH2=C(CH3)COO−]を1つ以上有する(メタ)アクリレートモノマーが好ましく用いられ、単官能性モノマー、2官能性モノマー及び多官能性モノマーのいずれも使用できる。
【0040】
単官能性モノマーとしては、例えば、イソボルニル(メタ)アクリレート、ボルニル(メタ)アクリレート、トリシクロデカニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、4−ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、イソプロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、ヘプチル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ノニル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ウンデシル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ミリスチル(メタ)アクリレート、パルミチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテルアクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリプロピレングリコール(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、7−アミノ−3,7−ジメチルオクチル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0041】
2官能性モノマーとしては、例えば、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加ジオールのジ(メタ)アクリレート、水添ビスフェノールAのアルキレンオキシド付加ジオールのジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのジグリシジルエーテルに(メタ)アクリレートを付加させたエポキシ(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0042】
多官能性モノマーとしては、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エトキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、プロポキシ化トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールモノヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これら(メタ)アクリレートモノマーは1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0043】
上記光重合性モノマーとしては、溶解性パラメーター(SP値)が20.0(J/cm30.5以下である光重合性モノマーが好ましい。ここで、SP値(δ)とは、一般に液体のモル蒸発エネルギー(ΔEv)およびモル体積(V)より、次式:
SP値(δ)=(ΔEv/V)0.5
によって定義される。さらに、SP値はFedors法によれば化学構造のみから推算することができる(「溶解パラメーター値(Solubility Parameter Values)」、ポリマーハンドブック(Polymer Handbook)、第4版(J. Brandrup他編集)参照)。なお、本明細書においてSP値とは、Fedors法よって算出される値を意味し、該値が低いほど光重合性モノマー(B)が低極性であることを示す。上記光重合性モノマーのSP値は、より好ましくは19.6(J/cm30.5以下、より一層好ましくは19.4(J/cm30.5以下である。また、SP値の下限値については特に制限されないが、通常17.0(J/cm30.5以上が好ましい。
【0044】
また、上記光重合性モノマーとしては、下記一般式(II):
(CH2=CR3COO)p4 ・・・ (II)
で表されるモノマーが好ましい。式(II)中、R3は水素原子又はメチル基であり、R4は炭素数5〜20のp価の炭化水素基であり、ヘテロ原子を含まず、鎖状であっても環状であってもよい。また、基中の−CH2−は、−CH=CH−で置き換えられてもよい。pは1〜4の整数である。
【0045】
すなわち、上記式(II)において、たとえば鎖状であって飽和モノマーである場合、n=1のときにR4は炭素数5〜20のアルキル基となり、n=2のときにR4は炭素数5〜20のアルキレン基となる。さらに、鎖状であって飽和モノマーである場合、n=3のときにR4は炭素数5〜20のアルカントリイル基となり、n=4のときにR4は炭素数5〜20のアルカンテトライル基となる。このようなR4としては、たとえば、−CH2CH3、−CH2CH2CH3、−CH(CH3)CH3、シクロヘキシル基、シクロヘプタン基、シクロオクタン基、シクロノナン基、シクロデカン基等のアルキル基、−CH2CH2−、−CH2CH2CH2−、−CH(CH3)CH2−等のアルキレン基、CH3CH2C(CH2−)3で表されるようなアルカントリイル基、C(CH2−)4で表されるようなアルカンテトライル基などがある。
【0046】
4の炭素数が5未満であると、鎖状の炭化水素基の場合にはモノマーのSP値が上昇する傾向にあり、環状の炭化水素基の場合には入手自体が困難となる。また、R4の炭素数が20を超えると、環状の炭化水素基の場合には得られる光重合性組成物の架橋密度が低下する傾向にある。仮に、架橋密度が必要以上に低下すると、ヘアカラーなどの染色剤が塗布層内部に浸出しやすくなるため、パネルが染色されてしまうおそれがある。
【0047】
上記式(II)で表されるモノマーとしては、具体的には、イソボルニル(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートが挙げられる。なかでも、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレートが好ましく、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ジメチロールトリシクロデカンジ(メタ)アクリレートがより好ましい。このようなモノマーであると、より好適なSP値を有するために良好な低極性を示す傾向にあり、得られる水周り部材及び機能性パネルの防汚性のみならず、耐薬品性や耐染色性をもさらに向上させることが可能となる。
【0048】
上記溶解性パラメーター(SP値)が20.0(J/cm30.5以下である光重合性モノマー、特には、一般式(II)で表されるモノマーは極性が低いため、一般式(I)の化合物との相溶性が良く、広範囲にわたって一般式(I)の化合物を添加することが可能である。そのため、一般式(I)の化合物の添加量が多い場合でも白濁、層分離等を抑制でき、硬化後の外観が良く、それを用いた水周り部材及び機能性パネルも良好な外観を形成することができる。また、光重合性組成物を硬化させて得られる樹脂の疎水性が高いため、水及び水周りで使用される洗浄剤やヘアカラーなどの染色剤に対する耐性が強く、汚れがつき難く、滑水性の長期安定性がより良好となる。
【0049】
また、上記光重合性モノマーの官能基数は、通常1〜6、好ましくは1〜4である。なお、官能基数が1である場合、架橋密度が上昇する傾向にあるが、官能基数が2〜6、好ましくは2〜4であると、光重合性組成物の架橋反応を適度に保持することができる傾向にあるため、特に染色剤が塗布層内部に浸出して水周り部材及び機能性パネルが染色される現象をより有効に抑止しやすくなるものと推定される。したがってこの場合にも、良好な防汚性のみならず、耐薬品性や耐染色性をも有効に保持したまま、好適な硬化性を有する塗布層が形成された水周り部材及び機能性パネルを得ることができる。
【0050】
<<(C)光重合開始剤>>
本発明の光重合性組成物に用いる(C)光重合開始剤は、紫外線等の光を照射されることによって、上述した(A)一般式(I)で表わされる化合物と(B)光重合性オリゴマー及び/又は光重合性モノマーとの重合を開始させる作用を有する。該光重合開始剤(C)としては、4-ジメチルアミノ安息香酸、4-ジメチルアミノ安息香酸エステル、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、アセトフェノンジエチルケタール、アルコキシアセトフェノン、ベンジルジメチルケタール、ベンゾフェノン及び3,3-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、4,4-ジメトキシベンゾフェノン、4,4-ジアミノベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体、ベンゾイル安息香酸アルキル、ビス(4-ジアルキルアミノフェニル)ケトン、ベンジル及びベンジルメチルケタール等のベンジル誘導体、ベンゾイン及びベンゾインイソブチルエーテル等のベンゾイン誘導体、ベンゾインイソプロピルエーテル、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン、キサントン、チオキサントン及びチオキサントン誘導体、フルオレン、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキシド、2-メチル-1-(4-メチルチオフェニル)-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4−モルホリノフェニル)-ブタノン-1等が挙げられる。これら光重合開始剤(C)は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0051】
本発明の光重合性組成物における上記(C)光重合開始剤の配合量は、(B)光重合性オリゴマー及び光重合性モノマーの合計100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲が好ましい。(C)光重合開始剤の配合量が0.1質量部以上であれば、重合反応を十分に開始させることができ、一方、10質量部を超えると、重合反応を開始させる効果が飽和する一方、光重合性組成物の原料のコストが高くなる。
【0052】
<<(D)フッ素含有化合物>>
本発明の光重合性組成物は、更に、(D)フッ素含有化合物を含むことが好ましい。該(D)フッ素含有化合物を含むことで、光重合性組成物の撥水性、滑水性を更に向上させることができる。
【0053】
上記フッ素含有化合物として、任意のフッ素含有化合物を用いることができる。耐久性を考慮すると、(A)一般式(I)の化合物と、(B)一般式(I)の化合物と重合可能な光重合性オリゴマー及び/又は光重合性モノマーと、(C)光重合開始剤とを含有する光重合性組成物と反応して系内に固定化されるという意味で、(D)フッ素含有化合物も光重合性反応基を構造内に持つことが好ましい。具体的には、パーフロロオクチルエチルアクリレートのようなパーフルオロアルキル基含有光重合性化合物が挙げられる。より具体的には、製品名でも良ければ、ライトアクリレートFA−108[共栄社化学株式会社]、RS−75[DIC株式会社]、オプツールDAC−HP[ダイキン工業株式会社]、モディパーF200、F600、F3035[日油株式会社]、ハイパーテックFA−200[日産化学工業株式会社]等が挙げられる。これら(D)フッ素含有化合物は、1種単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0054】
上記(A)一般式(I)で表わされる化合物と上記(D)フッ素含有化合物との質量比(A/D)は、0.2〜10.0の範囲が好ましく、0.4〜5.0の範囲が更に好ましい。ここで、質量比(A/D)は、光重合性組成物中の(A)一般式(I)で表わされる化合物と(D)フッ素含有化合物との有効成分比(固形分比)である。該質量比(A/D)が0.2以上であれば、(D)フッ素含有化合物由来の高い撥水性と上記(A)一般式(I)で表される化合物由来の滑水性両方の効果が期待でき、0.4以上であれば、表面のフッ素含有化合物及び上記一般式(I)で表される化合物の濃度が高くなることから、上記記載の効果がより期待でき、また、10.0以下であれば、(B)光重合性オリゴマー及び/又は光重合性モノマーとの共重合が可能な相溶性をとることが可能であり、5.0以下であれば、より良好な相溶性をとることが可能である。
【0055】
本発明の光重合性組成物において、上記(D)フッ素含有化合物の含有量は、前記(B)光重合性オリゴマー及び光重合性モノマーの合計100質量部に対して0〜5質量部の範囲が好ましく、0.1〜3.0質量部の範囲が更に好ましい。ここで、(D)フッ素含有化合物の含有量は、(D)フッ素含有化合物の有効成分の量(固形分の量)である。(D)フッ素含有化合物の含有率が5質量部以下であれば、撥水性・滑水性に対する十分な向上効果を発揮できる一方、5質量部より多く配合することは、特性面、コスト面から意味がなく、3.0質量部以下であれば、実用上問題のない十分な撥水性・滑水性の向上効果が期待できる。また、(D)フッ素含有化合物の含有率が0.1質量部以上であれば、光重合性組成物の撥水性、滑水性を向上させる効果が非常に大きくなる。
【0056】
<<その他>>
本発明の光重合性組成物には、求められる硬化反応性や安定性等を考慮し、必要に応じてさらに光増感剤を含有させてもよい。該光増感剤は、光を照射させることによって、エネルギーを吸収し、該エネルギーまたは電子が重合開始剤に移動して、重合を開始させる作用を有する。該光増感剤としては、p-ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル等が挙げられる。これら光増感剤の配合量は、上記(B)光重合性オリゴマー及び光重合性モノマーの合計100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲が好ましい。
【0057】
更に、本発明の光重合性組成物には、求められる硬化反応性や安定性等を考慮し、必要に応じて重合禁止剤を含有させてもよい。該重合禁止剤としては、ハイドロキノン、ハイドロキノンモノメチルエ−テル、p-メトキシフェノール、2,4-ジメチル-6-t-ブチルフェノール、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、ブチルヒドロキシアニソール、3-ヒドロキシチオフェノール、α-ニトロソ-β-ナフトール、p-ベンゾキノン、2,5-ジヒドロキシ-p-キノン等が挙げられる。これら重合禁止剤の配合量は、上記(B)光重合性オリゴマー及び光重合性モノマーの合計100質量部に対して、0.1〜10質量部の範囲が好ましい。
【0058】
また、本発明の光重合性組成物は、希釈溶媒としてエーテル、ケトン、エステル等の有機溶媒を含有していてもよく、該有機溶媒としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PMA)、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、アセトン、または乳酸ブチル等が挙げられる。これらの希釈溶媒は、1種単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0059】
本発明の光重合性組成物は、上述のとおり必要に応じて希釈溶媒を用い、塗布液状としてこれを基材上の面に塗布することができる。塗布する方法には公知の方法を採用することができ、グラビアコート、ロールコート、リバースコート、ナイフコート、ダイコート、リップコート、ドクターコート、エクストルージョンコート、スライドコート、ワイヤーバーコート、カーテンコート、押出コート、スピンコート等が挙げられる。
【0060】
<水周り部材>
本発明の水周り部材は、上述の光重合性組成物を硬化させてなる塗布層と、基材層とを具えることを特徴とする。本発明の水周り部材は、表面での水切れ性が要求される部材であり、例えばキッチンシンク、洗面台、浴室用壁材、浴槽、浴室用天井材、浴室用床材、浴室用カウンター、便器、貯水用タンク等が挙げられる。
【0061】
<機能性パネル>
本発明の機能性パネルは、上述の光重合性組成物を硬化させてなる塗布層と、基材層とを具えることを特徴とし、例えば、該塗布層が該基材層上に形成されていることが好ましい。本発明の機能性パネル全体の厚さは、通常、2.5mm以上であるのが好ましい。なお、機能性パネル全体の厚さの上限は特に制限されず、上記塗布層を基材層上の表面及び裏面の双方に形成してもよく、必要に応じてこれら基材層及び塗布層に加え、これらの層間に種々の材質からなる中間層を形成した多層構造としてもよい。この際、上記塗布層は上述のとおり優れた撥水性、滑水性を有するため、該塗布層を機能性パネルの最表面層として形成するのが望ましい。中間層としては、たとえば、基材層と塗布層との接着性を向上させるためのアンダーコート層、機能性パネルの意匠性を向上させるための模様や色彩を付与した化粧層等が挙げられる。
【0062】
このようにして得られる本発明の水周り部材及び機能性パネルは、基材層に上記塗布層が形成されているため、優れた撥水性、滑水性を発揮すると共に、耐温水性や耐染色性にも優れており、水垢に代表される種々の汚れの付着を有効に抑制しつつ、酸やアルカリを含んだ刺激性の強い洗浄剤の使用によっても変質や劣化が発生し難い。また、ヘアカラーのような染色剤の使用によっても変色や染色が生じ難い。従って、本発明の水周り部材及び機能性パネルは、特に住宅内の浴室又は台所に配置される機能性パネルとして好適である。
【0063】
<<塗布層>>
上記光重合性組成物を基材上に塗布し、次いで光硬化させることによって、基材層上に塗布層を形成することができる。光硬化させる方法としては、紫外線等の光を照射する方法が一般的である。塗布層を形成する基材層上の面は、表面及び裏面のうち、一方の面だけであっても双方の面であってもよく、必要に応じて適宜選択すればよい。なお、光重合性組成物を硬化させる際の光の照射量は、紫外線を採用する場合、通常、照射強度20〜2000mW/cm2、照射量100〜5000mJ/cm2であり、これによって上記光重合性組成物は、通常数秒〜数十秒で硬化する。このように短時間で硬化させることが可能であるので、得られる水周り部材及び機能性パネルの生産性の向上を図ることができる。
【0064】
上記塗布層の厚さは、要求される意匠性や耐薬品性の程度から適宜選択し得るものであり、特に限定されないが、通常1μm〜200μmの範囲の厚さであると想定される。
【0065】
なお、紫外線を照射する場合、紫外線硬化反応はラジカル反応であるため、酸素による阻害を受け易い。そのため、上記光重合性組成物を基材に塗布した後、酸素との接触を回避し得るよう、窒素雰囲気下で該組成物を硬化させてもよい。また、光硬化させることによって形成された塗布層の表面自由エネルギーは、良好な撥水性、滑水性を充分に確保する観点から、通常12〜30mJ/m2であるのが望ましい。
【0066】
上記塗布層は、30μLの水滴の転落角が40°以下であることが好ましく、20°以下であることが更に好ましい。塗布層の30μLの水滴の転落角が40°以下であれば、水周り部材及び機能性パネルから容易に水が滑り落ちる。ここで、水滴の転落角を40°以下にするには、上記(A)一般式(I)で表わされる化合物と上記(D)フッ素含有化合物との質量比(A/D)を0.2〜10.0にすることが好ましい。また、水滴の転落角を20°以下にするには、上記(A)一般式(I)で表わされる化合物と上記(D)フッ素含有化合物との質量比(A/D)を0.4〜5.0にすることが好ましい。
【0067】
<<基材層>>
本発明の水周り部材及び機能性パネルに用いられる基材層の材質としては、スレート、コンクリート、金属、珪酸カルシウム、炭酸カルシウム、ガラス等の無機質材;木質材のほか、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリカーボネート、不飽和ポリエステル樹脂等の有機質材;及びこれらの複合材が挙げられる。中でも、有機質剤にガラス繊維や炭素繊維等の繊維を加えた材質、いわゆるFRP(繊維強化プラスチック)が好ましい。FRPとしては、不飽和ポリエステル樹脂、充填剤及びガラス繊維若しくは炭素繊維を含むシート状のシートモールディングコンパウンド(SMC)、SMCと同様の複合材であって短繊維を含む塊状のBMC等が挙げられる。一般に、FRPは、熱硬化性樹脂、有機過酸化物(硬化剤)、充填剤、低収縮剤、内部離型剤、強化材、架橋剤、及び増粘剤等を配合したものであって、所定の温度に設定した金型内に入れて加圧し、建材として配置する場所に応じた形状に成形して用いられるものである。中でも、熱硬化性樹脂として不飽和ポリエステル、充填剤、及び強化材としてガラス繊維若しくは炭素繊維を含むFRPであると、得られる水周り部材及び機能性パネル全体の強度および耐久性等をより向上させることができる。
【0068】
不飽和ポリエステルは、無水マレイン酸、フマル酸などの多塩基酸の不飽和酸と、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール、トリメチルペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、トリメチルプロパンモノアリルエーテル、水素添加ビスフェノール、ビスフェノールジオキシプロピルエーテルなどの多価アルコールとから生成される。
【0069】
充填剤としては、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム等が挙げられる。コストダウンの観点からは炭酸カルシウムが好ましく、FRP自体の耐薬品性を向上させる観点からは水酸化アルミニウムが好ましい。しかしながら、上述のとおり、上記塗布層を形成すれば、基材として充填剤に炭酸カルシウムを用いたFRPを採用しても、水周り部材及び機能性パネル全体の耐薬品性を充分に向上させることができるため、低コストのFRPからなる基材層を有した水周り部材及び機能性パネルを容易に実現できる。
【0070】
強化材としてのガラス繊維及び炭素繊維は、繊維長が20〜50mm程度、繊維径が5〜25μm程度のものが好適に用いられ、FRP中に10〜70質量%の量で含有されているのが望ましい。上記基材層として用いられるFRPは、これらの成分を混合し、FRP製造装置等により所定の厚み及び大きさを有するFRPとして製造される。
【0071】
なお、基材層の厚さは、水周り部材及び機能性パネルの用途により変動し得るが、通常2.5mm以上である。厚さの上限は特に制限されず、適宜選択することができる。
【実施例】
【0072】
以下に、実施例を挙げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明は下記の実施例に何ら限定されるものではない。
【0073】
<光重合性組成物の調製及び評価>
表1及び表2に示す配合処方に従い、撹拌装置に各成分を投入及び混合して、光重合性組成物を調製した。得られた光重合性組成物をFRP(デックマット(登録商標)2415、DIC化工(株)製)からなる基材の上面に対して20μmの厚みになるように塗布した。次いで、酸素濃度5000ppmの雰囲気下でUV照射(500mW/cm2、300mJ/cm2)を行い、光硬化性樹脂組成物を硬化させ、評価サンプルを作製した。作製したサンプルに対して、下記の方法で、転落角及び使用環境における汚れ難さを確認するためにへアカラーに対する染色性を評価し、表1及び表2に示す結果を得た。また、参考として、PETフィルム、FRP(繊維強化プラスチック)板の転落角を評価し、表3に示す結果を得た。
【0074】
(1)転落角
転落角の測定には協和界面科学社製DM−500及びDM−SAを用いた。基材の上に30μlの水滴を滴下し、7.5度/秒のスピードでステージを傾け、水滴が動き出した角度を接触角の値とした。測定は2回行い、その平均値を転落角の値とした。
【0075】
(2)染色性
市販の毛染め剤(GATSBY黒髪もどし(登録商標):1剤と2剤との混合物、(株)マンダム社製)にサンプルを24時間浸漬後水洗いした。その変化の度合いを色差計(SpectroEye、サカタインクスエンジニアリング(株)製)を用いて下記式に基づき、浸漬部位と未浸漬部位とのLab色差(ΔE)を求めた。
ΔE=(Δa2+Δb2+ΔL21/2
該数値は、小さいほど薬品に対して良好な耐性を有することを意味する。
ΔE=3.0未満:◎
ΔE=3.0以上5.0未満:○
ΔE=5.0以上10.0未満:△
ΔE=10.0以上:×
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
【表3】

【0079】
*1 エボニック・デグサ・ジャパン製、上記一般式(I)で表わされ、R1が有機基で、R2が水素、nが2で、重量平均分子量が約8,000である化合物
*2 エボニック・デグサ・ジャパン製、上記一般式(I)で表わされ、R1が有機基で、R2が水素、nが2で、重量平均分子量が約11,000である化合物
*3 エボニック・デグサ・ジャパン製、上記一般式(I)で表わされ、R1が有機基で、R2が水素、nが2で、重量平均分子量が約20,000である化合物
*4 チッソ株式会社製、「FM−0711」、片末端メタクリル変性ジメチルシリコーンオイル、平均分子量1000
*5 チッソ株式会社製、「FM−7711」、両末端メタクリル変性ジメチルシリコーンオイル、平均分子量1000
*6 共栄社化学株式会社製、ペンタエリスリトールトリアクリレートヘキサメチレンジイソシアネートウレタンプレポリマー
*7 下記の方法で合成した1,2−ポリブチレンオキサイド単位を有するウレタンアクリレートオリゴマー
*8 共栄社化学株式会社製、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、SP値=19.6(J/cm30.5
*9 新中村工業株式会社社製、β-アクリロイルオキシエチルハイドロジェンサクシネート、SP値=22.7(J/cm30.5
*10 チバ・スペシャルティ・ケミカルズ製、商品名「IRGACURE 184」、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン
*11 DIC株式会社製、反応性フッ素オリゴマー
*12 ダイキン工業株式会社、反応性フッ素化合物
【0080】
<1,2−ポリブチレンオキサイド単位を有するウレタンアクリレートオリゴマーの合成方法>
プロピレングリコール(関東化学株式会社)1molに水酸化カリウムを触媒として反応温度110℃でブチレンオキサイド12molを付加してポリオールを得た。該ポリオールに、2,4−トリレンジイソシアネート2molを、窒素ガス導入管、攪拌機及び冷却管の付いた反応容器に仕込み、70℃で2時間反応させた。次に2−ヒドロキシエチルアクリレート4mol、触媒としてジブチル錫ジラウレートを微量徐々に加え、さらに70℃で15時間反応させて、分子量約1500の1,2−ブチレングリコールユニット含有ウレタンアクリレートオリゴマーを得た。
【0081】
【表3】

【0082】
*13 ルミラー S10 #125、東レ株式会社製
*14 デックマット(登録商標)2415、DIC化工(株)製
【0083】
表1、表2及び表3の実施例と比較例の結果から、(A)一般式(I)で表わされる化合物を使用することで、滑水性及び薬品耐性に優れた光重合性組成物が得られることが分る。また、(A)一般式(I)で表わされる化合物と(D)フッ素含有化合物とを組み合わせることで、光重合性組成物の滑水性が大幅に向上することが分る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)下記一般式(I):
【化1】

[式中、R2は水素原子又はメチル基であり、nは1〜20の整数であり、R1は側鎖に(メタ)アクリロイル基を導入するための任意の有機基であり、mは化合物の重量平均分子量が1000〜40000の範囲を外れない範囲で任意に選ばれる数である]で表される化合物と、
(B)上記一般式(I)で表わされる化合物と重合可能な光重合性オリゴマー及び/又は光重合性モノマーと、
(C)光重合開始剤と
を含有することを特徴とする光重合性組成物。
【請求項2】
更に、(D)フッ素含有化合物を含むことを特徴とする請求項1に記載の光重合性組成物。
【請求項3】
前記(A)一般式(I)で表わされる化合物と前記(D)フッ素含有化合物との質量比(A/D)が0.2〜10.0であることを特徴とする請求項2に記載の光重合性組成物。
【請求項4】
前記(A)一般式(I)で表わされる化合物と前記(D)フッ素含有化合物との質量比(A/D)が0.4〜5.0であることを特徴とする請求項3に記載の光重合性組成物。
【請求項5】
前記(A)一般式(I)で表わされる化合物の含有量が前記(B)光重合性オリゴマー及び光重合性モノマーの合計100質量部に対して0.01〜5質量部であることを特徴とする請求項1に記載の光重合性組成物。
【請求項6】
前記(D)フッ素含有化合物の含有量が前記(B)光重合性オリゴマー及び光重合性モノマーの合計100質量部に対して0〜5質量部であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光重合性組成物。
【請求項7】
前記光重合性オリゴマーが1,2−ポリブチレンオキサイド単位を有する(メタ)アクリレートオリゴマーであることを特徴とする請求項1に記載の光重合性組成物。
【請求項8】
前記光重合性モノマーの溶解性パラメーター(SP値)が20.0(J/cm30.5以下であることを特徴とする請求項1に記載の光重合性組成物。
【請求項9】
前記光重合性モノマーが、下記一般式(II):
(CH2=CR3COO)p4 ・・・ (II)
[式中、R3は水素原子又はメチル基であり、R4は炭素数5〜20のp価の炭化水素基であり、pは1〜4の整数である]で表されるモノマーであることを特徴とする請求項1又は8に記載の光重合性組成物。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の光重合性組成物を硬化させてなる塗布層と、基材層とを具えることを特徴とする水周り部材。
【請求項11】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の光重合性組成物を硬化させてなる塗布層と、基材層とを具えることを特徴とする機能性パネル。

【公開番号】特開2012−167185(P2012−167185A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29136(P2011−29136)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【Fターム(参考)】