説明

光重合性組成物

【課題】 α−ジケトン化合物、光酸発生剤及び芳香族アミン化合物からなる光重合開始剤と、フタル酸エステル系蛍光剤とを組合せて配合させた、ラジカル重合性単量体を含有する光重合性組成物において、該光重合開始剤の重合活性が良好に保持され、且つフタル酸エステル系蛍光剤の蛍光性も良好に発現されるものを開発すること。
【解決手段】 上記光重合性組成物において、フタル酸エステル系蛍光剤、好ましくは
【化1】


(式中、R10及びR11は各々独立に、アルキル基であり、R12は水素原子、アミノ基、水酸基であり、R13はアミノ基、水酸基である。)
で示される蛍光剤を、有機フィラーに含有させた形態で配合させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光重合性組成物、特に歯科用修復材料として有用な光重合性組成物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、種々の歯牙修復材料が使用されている。例えば、
齲蝕や破折等により損傷をうけた歯牙の修復においては、一般にコンポジットレジンと呼ばれるペースト状の光硬化性の複合充填修復材料が、操作の簡便さや審美性の高さから汎用されている。このようなコンポジットレジンは、通常、重合性単量体、充填材、及び光重合開始剤の各成分が配合されてなる。
【0003】
光重合開始剤を用いたペースト状の光重合性組成物では、環境光に対する安定性と照射光に対する反応活性のバランスを取ることが困難であった。即ち、環境光程度の弱い光では硬化が起こらず、他方で、光照射器等により強い光照射を行うことにより急速に硬化するものは、なかなか得難かった。本発明者らは、上記課題を解決するために、環境光程度の弱い光(360から500nmにおいて1mW/cm未満)に対しては高い安定性を有し、しかもハロゲンランプやキセノンランプ等の照射器による強い光照射により、著しく短時間で重合が完結し、良好な硬化体物性を得られる歯科用コンポジットレジンを製造することが可能になる、新規の光重合開始剤について種々検討を行なってきた。そして、上記検討の結果、α−ジケトン化合物、光酸発生剤及びアミン化合物からなる光重合開始剤を見出し既に提案している(特許文献1、2)。ここで、上記アミン化合物は、重合活性の高さ等の観点から、芳香族アミンが好ましく使用される。
【0004】
歯科用コンポジットレジンを用いた修復は、天然歯と見分けがつかないほどに周囲と調和し、審美性の高い修復が可能であるが、紫外光または短波長の可視光などを発する環境下においては、修復部位が黒く見え、精神的な負担を強いていた。この欠点を改良すべく、歯科用コンポジットレジンに蛍光剤を配合することが提案されている。そして、この際に用いる蛍光剤の中でも、フタル酸エステル系のものは入手し易く、天然歯に似た蛍光を発し、格別に審美性に優れる特長を有しているため、有利に使用されている(例えば、特許文献3)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−89729号公報
【特許文献2】特開2005−213231号公報
【特許文献3】特表2002−520347号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、本発明者らの検討によると、前記α−ジケトン化合物、光酸発生剤、及び芳香族アミン化合物からなる光重合開始剤と、フタル酸エステル系蛍光剤とを組合せて光重合性組成物に配合すると、該光重合開始剤の重合活性の保存安定性が著しく低下し、実使用において問題を引き起こす可能性があることが分かった。具体的には、光重合性組成物を、30℃程度で保存すると、その重合活性は大きく低下し、特に光重合性組成物の用途が歯科用材料である場合には、次のように大きな問題を引き起こしていた。すなわち、歯科用材料は、歯科医院等への輸送の際に、自家用車等で輸送される場合が多いが、夏季には、車内の温度は50℃を超えることも珍しくなく、このような状況下では上記理由から重合活性が大きく低下し、その商品価値を損なっていた。しかして、このような光重合性組成物における重合活性の低下の原因は、配合させたフタル酸エステル系蛍光剤が光酸発生剤と反応することによって、その光酸発生能を損なうためと考えられた。
【0007】
以上の状況にあって本発明は、前記α−ジケトン化合物、光酸発生剤、及び芳香族アミン化合物からなる光重合開始剤と、フタル酸エステル系蛍光剤とを組合せて配合させた光重合性組成物において、該光重合開始剤の重合活性が良好に保持され、且つフタル酸エステル系蛍光剤の蛍光性も良好に発現されるものを開発することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決すべく、鋭意検討を行った。その結果、前記光重合性組成物に配合させるフタル酸エステル系蛍光剤について、有機フィラーに含有させて配合することで、前記の課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、(A)ラジカル重合性単量体、
(B)B1)α−ジケトン化合物、B2)光酸発生剤、及びB3)芳香族アミン化合物を含んでなる光重合開始剤、および
(C)フタル酸エステル系蛍光剤を含有する有機フィラー
を含有してなる光重合性組成物である。
【発明の効果】
【0010】
本発明の光重合性組成物は、環境光などの弱い光(1mW/cm未満)に対する安定性が高く、ハロゲンランプやキセノンランプ等の照射器による強い光照射により、著しく短時間で重合が完結する。しかも、本発明の光重合性組成物は、蛍光性を有し、且つ長期間、特に高温下で長期間に保存しても上記優れた重合活性が低下しないという特性を有する。したがって、歯科用コンポジットレジン、硬質レジン等の歯科用修復材料に用いる光重合性組成物として極めて有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の光重合性組成物の各成分について説明する。
〔(A)ラジカル重合性単量体〕
ラジカル重合性単量体としては、公知のものが特に制限なく使用できる。一般に好適に使用されるものを例示すれば、下記(I)〜(III)に示されるものが挙げられる。
(I)二官能重合性単量体
(i)芳香族化合物系のもの
2,2−ビス(メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(3−メタクリロイルオキシ)−2−ヒドロキシプロポキシフェニル]プロパン(以下、bis−GMAと略記する)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシポリエトキシフェニル)プロパン(以下、D−2.6Eと略記する)、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシテトラエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシペンタエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジエトキシフェニル)−2(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2(4−メタクリロイルオキシジプロポキシフェニル)−2−(4−メタクリロイルオキシトリエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシプロポキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロイルオキシイソプロポキシフェニル)プロパン及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ジイソシアネートメチルベンゼン、4,4‘−ジフェニルメタンジイソシアネートのような芳香族基を有するジイソシアネート化合物との付加から得られるジアダクト等。
(ii)脂肪族化合物系のもの
エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート(以下、3Gと略記する)、テトラエチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレートおよびこれらのメタクリレートに対応するアクリレート;2−ヒドロキシエチルメタクリレート、2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート等のメタクリレートあるいはこれらのメタクリレートに対応するアクリレートのような−OH基を有するビニルモノマーと、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)のようなジイソシアネート化合物との付加体から得られるジアダクト;1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エチル等。
(II)三官能重合性単量体
トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート等のメタクリレート及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等。
(III)四官能重合性単量体
ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート及びジイソシアネートメチルベンゼン、ジイソシアネートメチルシクロヘキサン、イソフォロンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンビス(4−シクロヘキシルイソシアネート)、4,4−ジフェニルメタンジイソシアネート、トリレン−2,4−ジイソシアネートのようなジイソシアネート化合物とグリシドールジメタクリレートとの付加体から得られるジアダクト等。
【0012】
これら多官能の(メタ)アクリレート系重合性単量体は、必要に応じて複数の種類のものを併用しても良い。
【0013】
さらに、必要に応じて、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、ヒドロキシエチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート等のメタクリレート、及びこれらのメタクリレートに対応するアクリレート等の単官能の(メタ)アクリレート系単量体や、上記(メタ)アクリレート系単量体以外の重合性単量体を用いても良い。
【0014】
なお、本発明の光重合性組成物では、後述するように(B)光重合開始剤の必須成分としてB3)芳香族アミン化合物を含有している。しかして、芳香族アミン化合物は、酸と反応して塩を生じ、重合活性を失う傾向があるため、上記(A)ラジカル重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸、p−(メタ)アクリロイルオキシ安息香酸、10−メタクリロイルオキシデカメチレンマロン酸、2−ヒドロキシエチルハイドロジェンフェニルフォスフェート等の酸性基を有する重合性単量体は、(メタ)アクリレート系単量体等の不純物等として不可避的に混入してくる場合を除き、できる限り配合しない方が好ましい。一般的な不純物量程度である場合には、前記芳香族アミン化合物を多めに使用することで重合活性を維持することが可能である。この場合、前記した芳香族アミン化合物の好適な配合量は、このような酸により中和されてしまった分を除く量である。
〔(B)光重合開始剤〕
〔B1)α−ジケトン化合物〕
本発明の光重合性組成物における光重合開始剤に用いる(B1)成分のα−ジケトン化合物としては公知の化合物が何ら制限なく使用できる。上記α−ジケトン化合物を具体的に例示すると、カンファーキノン、カンファーキノンカルボン酸、カンファーキノンスルホン酸等のカンファーキノン類;ジアセチル、アセチルベンゾイル、2,3−ペンタジオン、2,3−オクタジオン、9,10−フェナンスレンキノン、アセナフテンキノン等を挙げることができる。
【0015】
使用するα−ジケトン化合物は、重合に用いる光の波長や強度、光照射の時間、あるいは組み合わせる他の成分の種類や量によって適宜選択して使用すればよく、単独または2種以上を混合して使用することもできるが、一般的にはカンファーキノン類が好適に使用され、特にカンファーキノンが好ましい。
【0016】
また、配合量も、組み合わせる他の成分やラジカル重合性単量体の種類によって異なるが、通常は(A)ラジカル重合性単量体100重量部に対して0.01〜10重量部、より好ましくは0.03〜5重量部の範囲である。一般に、配合量が多いほど照射光による硬化時間が短くなり、他方、少ないほど環境光安定性に優れるものになる。
〔B2)光酸発生剤〕
本発明の光重合性組成物における光重合開始剤の第二の成分は、(B2)光酸発生剤である。
【0017】
本発明の光重合性組成物に用いるB)光酸発生剤は、紫外線等の光照射により直接ブレンステッド酸、あるいはルイス酸を発生しうる化合物であり、公知の化合物がなんら制限なく用いられるが、具体的には、ジアリールヨードニウム塩系化合物、スルホニウム塩系化合物、スルホン酸エステル化合物、およびハロメチル基により置換されたs−トリアジン化合物等が挙げられる。上記ハロメチル置換−s−トリアジン化合物は、s−トリアジン化合物がトリハロメチル基により置換されたものであるのが、重合活性が高い点から好ましい。本発明において、重合活性が特に高い点から最も好適な光酸発生剤は、トリハロメチル基置換−s−トリアジン化合物、及びジアリールヨードニウム塩系化合物から選ばれる少なくとも1種のものである。
【0018】
代表的なトリハロメチル基置換−s−トリアジン化合物としては、トリクロロメチル基、トリブロモメチル基等のトリハロメチル基を少なくとも一つ有するs−トリアジン化合物であれば公知の化合物が何ら制限なく使用できる。特に好ましいトリハロメチル基置換−s−トリアジン化合物を一般式で示すと下記一般式(1)で表される。
【0019】
【化1】

【0020】
(式中、R及びRは、アルキル基、アリール基、アルケニル基、又はアルコキシ基であり、Xはハロゲン原子である。)
上記一般式(1)中、Xで表されるハロゲン原子は、塩素、臭素、ヨウ素の各ハロゲン原子が好適に使用されるが、塩素原子が置換したトリクロロメチル基を有する化合物を用いるのが一般的である。
【0021】
及びRで表される、アルキル基、アリール基、アルケニル基、及びアルコキシ基は、それぞれ非置換のものの他、ハロゲンや上記R及びRで列挙の基のうちの異なる基等で置換されたものであっても良い。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基等の非置換のアルキル基;トリクロロメチル基、トリブロモメチル基、α,α,β−トリクロロエチル基等のハロゲンにより置換されたアルキル基等の炭素数1〜10のものが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、p−アルコキシフェニル基(例えば、p−メトキシフェニルキ)、p−アルキルルチオフェニル基(例えば、p−メチルチオフェニル基)、p−ハロフェニル基(例えば、p−クロロフェニル基)、4−ビフェニリル基、ナフチル基、4−アルコキシ−1−ナフチル基(例えば、4−メトキシ−1−ナフチル基)等の炭素数6〜14のものが例示される。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基、2−フェニルエテニル基等の炭素数2〜14のものが挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、ヘキトキシ基、オクトキシ基等の炭素数1〜10のもの等が例示される。
【0022】
以下、トリハロメチル基により置換されたトリアジン化合物を具体的に例示すると、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メトキシフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−メチルチオフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−クロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(2,4−ジクロロフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−ブロモフェニル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(p−トリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−n−プロピル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(α,α,β−トリクロロエチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−スチリル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(o−メトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(p−ブトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4−ジメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−[2−(3,4,5−トリメトキシフェニル)エテニル]−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(1−ナフチル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2−(4−ビフェニリル)−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン等を挙げることができる。 上記トリアジン化合物は1種または2種以上を混合して用いても構わない。
【0023】
また、本発明で好適に使用される光酸発生剤である、ジアリールヨードニウム塩化合物(以下、単に「ヨードニウム塩化合物」とも称す)は、公知の化合物が何ら制限なく使用できる。代表的なジアリールヨードニウム塩系化合物としては、下記一般式(2)
【0024】
【化2】

【0025】
(上記式中、R、R、R、及びRはそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、ニトロ基、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、又はニトロ基であり、Mは一価のアニオンである。)
で示されるものが挙げられる。
【0026】
ここで、R、R、R、及びRのハロゲン原子としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基などが挙げられる。また、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ヘキシル基、n−オクチル基等の炭素数1〜10のものが好ましい。また、アリール基としては、フェニル基、p−メチルフェニル基、p−クロロフェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜14のものが好ましい。また、アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、ブテニル基等の炭素数2〜8のものが好ましい。また、アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基、の炭素数1〜6のものが好ましい。さらに、アリールオキシ基としては、フェノキシ等が好ましい。
【0027】
また、Mのアニオンとしては、特に制限されるものではないが、具体的には、クロリド、ブロミド等のハロゲンアニオン、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート等のエステル系アニオンが挙げられる。
【0028】
上記ジアリールヨードニウム塩を具体的に例示すると、ジフェニルヨードニウム、ビス(p−クロロフェニル)ヨードニウム、ジトリルヨードニウム、ビス(p−tert−ブチルフェニル)ヨードニウム、p−イソプロピルフェニル−p−メチルフェニルヨードニウム、ビス(m−ニトロフェニル)ヨードニウム、p−tert−ブチルフェニルフェニルヨードニウム、p−メトキシフェニルフェニルヨードニウム、ビス(p−メトキシフェニル)ヨードニウム、p−オクチルオキシフェニルフェニルヨードニウム等のカチオンと、上記Mのアニオンからなるジフェニルヨードニウム塩を挙げることができる。
【0029】
これらジアリールヨードニウム塩化合物の中でも、(A)ラジカル重合性単量体に対する溶解性の点から、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネートが好ましく、さらに保存安定性の観点から、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロアンチモネートが特に好適である。これらジアリールヨードニウム塩化合物は、1種または2種以上混合して用いても構わない。
【0030】
また、本発明の光重合性組成物で好適に使用される他の光酸発生剤を具体的に例示すればスルホニウム塩系化合物が挙げられ、ジメチルフェナシルスルホニウム、ジメチルベンジルスルホニウム、ジメチル−4−ヒドロキシフェニルスルホニウム、ジメチル−4−ヒドロキシナフチルスルホニウム、ジメチル−4,7−ジヒドロキシナフチルスルホニウム、ジメチル−4,8−ジヒドロキシナフチルスルホニウム、トリフェニルスルホニウム、p−トリルジフェニルスルホニウム、p−tert−ブチルフェニルジフェニルスルホニウム、ジフェニル−4−フェニルチオフェニルスルホニウム等のクロリド、ブロミド、p−トルエンスルホナート、トリフルオロメタンスルホナート、テトラフルオロボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルボレート、テトラキスペンタフルオロフェニルガレート、ヘキサフルオロフォスフェート、ヘキサフルオロアルセナート、ヘキサフルオロアンチモネート塩が挙げられる。
【0031】
また、スルホン酸エステル化合物の具体例としては、ベンゾイントシレート、α−メチロールベンゾイントシレート、o−ニトロベンジルp−トルエンスルホナート、p−ニトロベンジル−9,10−ジエトキシアントラセン−2−スルホナートなどが挙げることができる。
【0032】
これら光酸発生剤は1種または複数の種類のものを併用しても良い。
【0033】
また、その一般的な配合量は、(A)ラジカル重合性単量体100重量部に対して0.005〜10重量部、より好ましくは0.03〜5重量部である。
〔B3)芳香族アミン化合物〕
本発明の光重合性組成物における光重合開始剤の第三の成分は、(B3)芳香族アミン化合物である。当該芳香族アミン化合物は、窒素原子に結合した有機基のうちの少なくとも一つが芳香族基であるアミン化合物であればよく、公知のものが特に制限なく使用できるが、より重合活性が高く、また揮発性が低いため臭気が少なく、さらには入手が容易な点で、第3級窒素原子に一つの芳香族基と、2つの脂肪族基が結合したアミン化合物(以下、「第3級芳香族アミン化合物」とも称す)であることが好ましい。代表的な第3級芳香族アミン化合物としては下記一般式(3)で表されるものが挙げられる。
【0034】
【化3】

【0035】
(式中、R及びRは各々独立に、アルキル基であり、Rは水素原子、アルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基、又はアルキルオキシカルボニル基である。)
及びRで表されるアルキル基、又はRで表されるアルキル基、アリール基、アルケニル基、アルコキシ基及びアルキルオキシカルボニル基は、それぞれ非置換のものの他、前記R及びRの基で説明したような置換基や水酸基で置換されたものであっても良い。上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基等の非置換のアルキル基;クロロメチル基、2−クロロエチル基等のハロゲンにより置換されたアルキル基;2−ヒドロキシエチル基等の水酸基により置換されたアルキル基等の炭素数1〜10のものが挙げられる。アリール基としては、フェニル基、p−アルコキシフェニル(例えば、p−メトキシフェニル)、p−アルキルルチオフェニル基(例えば、p−メチルチオフェニル基)、p−ハロフェニル基(例えば、p−クロロフェニル基)、4−ビフェニリル基等の炭素数6〜12のものが例示される。アルケニル基としては、ビニル基、アリル基、2−フェニルエテニル基等の炭素数2〜12のものが挙げられる。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、ブトキシ基、ヘキトキシ基、オクトキシ基等の炭素数1〜10のもの等が挙げられる。アルキルオキシカルボニル基としては、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基、ブトキシカルボニル基、アミルオキシカルボニル基、イソアミルオキシカルボニル基等のアルキルオキシ基部分の炭素数が1〜10のものが例示される。
【0036】
上記R及びRとしては、炭素数1〜6のアルキル基であることが好ましく、炭素数1〜3の非置換のアルキル基がより好ましい。このようなアルキル基を再度具体的に例示すると、メチル基、エチル基、n−プロピル基等が挙げられる。
【0037】
また、Rとしては、その結合位置がパラ位であることがより好ましく、さらには、アルキルオキシカルボニル基であることが好ましい。このようなアルキルオキシカルボニル基により置換された芳香族基を有するアミン化合物を用いることにより、後述する(B4)成分と組み合わせた場合、より優れた保存安定性が得られる。
【0038】
このようなRがパラ位に結合したアルキルオキシカルボニル基である芳香族アミン化合物を具体的に例示すると、p−ジメチルアミノ安息香酸メチル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチル、p−ジメチルアミノ安息香酸プロピル、p−ジメチルアミノ安息香酸アミル、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、p−ジエチルアミノ安息香酸エチル、p−ジエチルアミノ安息香酸プロピル等が例示される。
【0039】
また、一般式(3)で示される他の芳香族アミン化合物を具体的に例示すると、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジベンジルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジ(β−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン等が挙げられる。
【0040】
これら芳香族アミン化合物は、1種または2種以上を混合して用いても構わない。また、その一般的な配合量は、(A)ラジカル重合性単量体100重量部に対して0.01〜5重量部であり、より好ましくは0.02〜3重量部である。
〔B4)第3級脂肪族アミン化合物〕
本発明の光重合性組成物における光重合開始剤としては、上記α−ジケトン、光酸発生剤、及び芳香族アミン化合物からなる光重合開始剤でも良いが、さらにB4)第3級脂肪族アミン化合物を併用すると、その重合活性を一層に向上させることができる。
【0041】
当該第3級脂肪族アミン化合物は、B4)窒素原子に3つの飽和脂肪族基がついた第3級アミン化合物であり、かつ、該飽和脂肪族基のうちの少なくとも2つは電子吸引性基により置換されている飽和脂肪族基である脂肪族アミン化合物であることが必要である。電子吸引性基により置換されている飽和脂肪族基を有すアミン化合物を用いることで、高い重合活性を得ることでき、さらに優れた保存安定性も得ることができる。
【0042】
当該脂肪族アミン化合物における電子吸引性基は、該基が結合している飽和脂肪族基の炭素原子から電子を引きつけるような誘起効果を持つ基であり、公知の如何なる電子吸引性基でも良いが、化学的な安定性を考慮すると、水酸基;フェニル基、ナフチル基等のアリール基;エテニル基(ビニル基)、1−プロペニル基、エチニル基等の不飽和脂肪族基;フッ素原子;アルコキシル基;カルボニル基;カルボニルオキシ基又はシアノ基が好ましい。これらのなかでも、特に化合物の安定性に優れ、また合成が容易であり、かつラジカル重合性単量体への溶解性に優れる点で、アリール基、不飽和脂肪族基又は水酸基であることが好ましく、水酸基が特に好ましい。
【0043】
このような電子吸引性基で置換される飽和脂肪族基も特に制限されるものではなく、直鎖状、分枝状、環状のいずれでも良いが、合成や入手の容易さの点で、直鎖状又は分枝状の炭素数1〜6の飽和脂肪族基であることが好ましい。また、上記電子吸引性基が置換(結合)する位置や数も特に制限されるものではないが、アミンの窒素原子に近い炭素原子上で置換している方がより保存安定性に優れる。好ましくは、窒素原子と結合している炭素原子上(飽和脂肪族基の1位)又はその隣の炭素原子上(同2位)で置換していることが好ましい。
【0044】
このような電子吸引性基により置換されている飽和脂肪族基を具体的に例示すると、2−ヒドロキシエチル基、2−ヒドロキシプロピル基、2−ヒドロキシブチル基、2,3−ジヒドロキシプロピル基等の水酸基により置換されたもの;アリル基(エテニルメチル基)、2−プロピニル基(エチニルメチル基)、2−ブテニル基等の不飽和脂肪族基により置換されたもの;ベンジル基等のアリール基により置換されたもの等が挙げられる。
【0045】
本発明の光重合性組成物における光重合開始剤においてB4)成分としては、窒素原子に結合している3つの飽和脂肪族基のうち少なくとも2つは、このような電子吸引性基により置換されている飽和脂肪族基であることが必要である。
【0046】
また、電子吸引性基により置換されていない飽和脂肪族基も特に制限されないが、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等の直鎖状又は分枝状の炭素数1〜6のアルキル基が好ましいものとして挙げられる。
【0047】
このような、電子吸引性基により置換されている飽和脂肪族基を少なくとも2つの有す第3級脂肪族アミン化合物を具体的に例示すると、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−プロピルジエタノールアミン、N−エチルジアリルアミン、N−エチルジベンジルアミン等の電子吸引性基により置換されている飽和脂肪族基を2つ有す化合物;トリエタノールアミン、トリ(イソプロパノール)アミン、トリ(2−ヒドロキシブチル)アミン、トリアリルアミン、トリベンジルアミン等の電子吸引性基により置換されている飽和脂肪族基を3つ有す化合物が挙げられる。
【0048】
これらB4)成分の第3級脂肪族アミン化合物は、1種または2種以上を混合して用いても構わない。また、その一般的な配合量は、(A)ラジカル重合性単量体100重量部に対して0.005〜5重量部であり、より好ましくは0.01〜3重量部である。
【0049】
さらに、本発明の光重合性組成物の光重合開始剤において、前記B3)成分の芳香族アミン化合物と、上記B4)成分の第3級脂肪族アミン化合物は、両者の合計で、ラジカル重合性単量体100質量部に対して0.015〜10質量部の範囲で配合することが好ましく、0.03〜6質量部とすることがより好ましく、さらにその質量比がB3)成分:B4)成分=3:97〜97:3の範囲とすることが好適である。
【0050】
特に好ましくは、光重合開始剤の量、即ち、光重合開始剤の成分として配合される全成分の合計量を、(A)ラジカル重合性単量体100質量部に対して0.03〜20質量部、さらには0.05〜10質量部、特に好ましくは0.1〜3質量部の範囲とする。
〔(C)フタル酸エステル系蛍光剤を含有する有機フィラー〕
本発明の最大の特徴は、フタル酸エステル系蛍光剤を有機フィラーに配合させた点にある。それにより、光重合開始剤が前記したようなα−ジケトン化合物、光酸発生剤及び芳香族アミン化合物からなるものでありながら、該フタル酸エステル系蛍光剤による光酸発生剤の変性が生じることがなく、その高い重合活性を良好に保持することが可能になる。
【0051】
本発明の光重合性組成物で使用する有機フィラーは、有機樹脂のマトリックスにフタル酸エステル系蛍光剤が配合されてなるものであれば、如何なる方法で製造されたものでも使用できるが、製造の容易さの観点から、重合性単量体、及びフタル酸エステル系蛍光剤の所定量を混合機等にて配合し、加熱あるいは光照射等の方法で重合させた後、粉砕することによって得られたものを使用するのが好適である。
【0052】
有機フィラーに配合させるフタル酸エステル系蛍光剤としては、公知のものが何ら制限なく使用できる。特に好ましいフタル酸エステル系蛍光剤を一般式で示すと下記一般式(4)で表される。
【0053】
【化4】

【0054】
(式中、R10及びR11は各々独立に、アルキル基であり、R12は水素原子、アミノ基、又は水酸基であり、R13はアミノ基、又は水酸基である。)
上記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基等の炭素数1〜3のものが好ましく、特に、炭素数1〜2のものがより好ましい。
【0055】
具体的なフタル酸エステル系蛍光剤を例示すると、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸ジメチル、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル、ジメチルアミノテレフタレート、ジエチルアミノテレフタレートなどが挙げられ、2,5−ジヒドロキシテレフタル酸ジエチルなどの水酸基で置換されたフタル酸エステル系蛍光剤がより好ましい。これらフタル酸エステル系蛍光剤は単独で用いても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0056】
有機フィラーに配合されるフタル酸エステル系蛍光剤の配合量は、特に制限されるものではないが、有機フィラー100質量部に対して、通常0.0001〜5質量部の割合で使用され、0.001〜0.5質量部であることがより好適であり、0.005〜0.05質量部の割合で使用されるのが最も好適である。
【0057】
フタル酸エステル系蛍光剤の上記配合量が5重量部を越える場合は、光硬化性コンポジットレジンなどの歯科用複合修復材としての硬化体の強度や色調などの物性の低下を招く虞がある。さらに、有機フィラーの表面に高濃度のフタル酸エステル系蛍光剤が表出し、重合開始剤と接触する割合が増し、また、この表出したフタル酸エステル系蛍光剤が組成物中に溶出する危険性も生じ、本発明の最大の特長である、重合活性の保存安定性が低下する虞がある。また、上記添加量が0.0001質量部に満たない場合は、十分な蛍光性を発揮させようとすると有機フィラーの配合量が増えることになり、ペースト性状に影響が現れ、操作性の低下を招く虞がある。
【0058】
有機フィラー原料モノマーは、光重合性組成物として使用可能な公知の重合性単量体がなんら制限なく使用可能である。好適に使用できる有機フィラー原料モノマーは、(メタ)アクリロイル基を有する重合可能なモノマーが挙げられ、このような重合性単量体の具体例としてはA)ラジカル重合性単量体の項に例示した各モノマーが挙げられる。これらラジカル重合性単量体は、単独で使用しても、異なる種類のものを混合して用いてもよい。
【0059】
混合後、重合開始剤を用いてその成分である前記有機フィラー原料モノマーを重合させるが、一般に、重合開始剤は重合性単量体の重合手段によって異なる種類のものが使用される。重合手段には、紫外線、可視光線等の光エネルギーによるもの、過酸化物と促進剤との化学反応によるもの、加熱によるもの等があり、採用する重合手段に応じて適宜選定される。有機フィラーの硬化に使用する重合開始剤としては、公知の重合開始剤が特に制限なく用いられるが、より黄色度の低い硬化体を得ることができるという観点から、熱重合開始剤を用いるのが好適である。
【0060】
熱重合に使用できる重合開始剤としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、p−クロロベンゾイルパーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシジカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物、トリブチルボラン、トリブチルボラン部分酸化物、テトラフェニルホウ酸ナトリウム、テトラキス(p−フロルオロフェニル)ホウ酸ナトリウム、テトラフェニルホウ酸トリエタノールアミン塩等のホウ素化合物、5−ブチルバルビツール酸、1−ベンジル−5−フェニルバルビツール酸等のバルビツール酸類、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、p−トルエンスルフィン酸ナトリウム等のスルフィン酸塩類等が挙げられる。
【0061】
また、光エネルギーによる反応(以下、光重合という)に用いる重合開始剤としては、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾインアルキルエーテル類、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどのベンジルケタール類、ベンゾフェノン、4,4'−ジメチルベンゾフェノン、4−メタクリロキシベンゾフェノンなどのベンゾフェノン類、ジアセチル、2,3−ペンタジオンベンジル、カンファーキノン、9,10−フェナントラキノン、9,10−アントラキノンなどのα-ジケトン類、2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン化合物、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−2,5−ジメチルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−4−プロピルフェニルホスフィンオキサイド、ビス−(2,6−ジクロロベンゾイル)−1−ナフチルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)―フェニルホスフィンオキサイドなどのビスアシルホスフィンオキサイド類等が使用できる。
【0062】
なお、光重合開始剤には、しばしば還元剤が添加されるが、その例としては、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、N−メチルジエタノールアミンなどの第3級アミン類、ラウリルアルデヒド、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどのアルデヒド類、2−メルカプトベンゾオキサゾール、1−デカンチオール、チオサルチル酸、チオ安息香酸などの含イオウ化合物などを挙げることができる。
【0063】
これら重合開始剤は単独で用いることもあるが、2種以上を混合して使用してもよい。重合開始剤の配合量は目的に応じて選択すればよいが、有機フィラー原料モノマー100重量部に対して通常0.01〜10重量部の割合であり、より好ましくは0.1〜5重量部の割合で使用される。
【0064】
有機フィラーは硬化、粉砕することにより得ることができるが、粉砕方法としては、振動ボールミルやジェットミル等が好適に使用できる。さらに、フルイ、エアー分級機、あるいは水ひ分級等による分級工程を行うことによって、目的とする粒度分布の有機フィラーを得ることができる。本発明で使用する有機フィラーにおいては、硬化体の機械的強度や硬化性ペーストの操作性の観点からその平均粒径は2〜100μm、特に5〜40μmであるのが好適である。
【0065】
有機フィラーは、上記フタル酸エステル系蛍光剤、有機フィラー原料モノマー及び重合開始剤の他に、その効果を阻害しない範囲で、公知の添加剤を配合することができる。かかる添加剤としては、顔料、重合禁止剤等が挙げられる。
【0066】
さらに、光硬化性コンポジットレジンなどの歯科用修復材料用途としては、前記有機フィラーに無機粒子を配合(以下、有機無機複合フィラーとも称する)し、その機械的強度の向上効果を増加させても良い。
【0067】
有機無機複合フィラーの原料として使用する無機粒子は、公知のものが何ら制限なく使用可能である。その材質は特に限定されず、非晶質シリカ、シリカジルコニア、シリカチタニア、シリカチタニア酸化バリウム、石英、アルミナ等の無機酸化物等を挙げることができる。また、これら無機酸化物は、高温で焼成する際に緻密な無機酸化物を得易くする等の目的で、少量の周期律表第I族の金属酸化物を無機酸化物中に存在させた複合酸化物として用いることもできる。無機粒子の材質としては、X線造影性を有し、より耐摩耗性に優れた硬化体が得られることから、シリカとジルコニアを主な構成成分とする複合酸化物が特に好適に用いられる。
【0068】
無機粒子の形状は特に制限されないが、高い表面滑沢性や耐磨耗性を得るために、形状が球状若しくは略球状の粒子及び/又はその凝集体を用いることが好適である。なお、ここでいう略球状とは、走査型電子顕微鏡(以下、SEMと略す)でフィラーの写真を撮り、その単位視野内の無機粒子(50個以上)について観察した際に、その最大径に直交する方向の粒子径をその最大径で除した均斉度の平均値が0.6以上、好適には0.7以上であることを意味する。
【0069】
これら球状及び略球状の無機粉体の製造方法は特に限定されるものではないが、工業的にはいわゆるゾルゲル法によって製造するのが一般的である。即ち、加水分解可能な有機ケイ素化合物、あるいはこれに更に加水分解可能な周期律表第I、II、III、及び第IV族の金属よりなる群から選ばれる少なくとも1種の金属を含有する例えばアルコキサイド等の加水分解可能な有機金属化合物を加えた混合溶液を、これらの有機金属化合物は溶解するが反応生成物は実質的に溶解しないアルカリ性溶媒中に添加し、加水分解・縮合反応を行い反応生成物を析出させ、析出物を乾燥する方法が好適に採用される。また、この様な方法で得られた無機酸化物は、表面安定性を保持するため乾燥後500〜1000℃の温度で焼成されていてもよい。焼成に際しては、無機酸化物の一部が凝集する場合もあるため、ジェットミル、振動ボールミル等を用いることにより凝集粒子を解きほぐし、粒度を調整してから使用するのが好ましい。このような操作を行なっても凝集粒子を完全に凝集前の状態にするのは困難であり、上記のような熱処理を行なった場合には、一次粒子(球状若しくは略球状の無機粉体)とその凝集体とが混合した無機粒子が得られる。
【0070】
上記有機無機複合フィラーに配合する無機粒子の粒径は特に制限されないが、高い表面滑沢性や耐摩耗性、並びに高い機械的強度を得るためには、一次粒子の平均粒径が0.001〜1μmのものを用いるのが好ましい。
【0071】
これら無機粒子は、有機樹脂への分散性を改良する目的でその表面を疎水化処理してから用いることが好ましい。かかる疎水化処理は特に限定されるものではなく、公知の方法が制限なく採用される。この疎水化処理に使用される処理剤としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、メチルトリクロロシラン、ジメチルジクロロシラン、トリメチルクロロシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ヘキサメチルジシラザン等の有機珪素化合物からなる公知のシランカップリング剤が挙げられる。
【0072】
代表的な疎水化処理方法を具体的に例示すれば、上記シランカップリング剤を、適当な溶媒中でボールミル等を用いて分散混合させ、エバポレーターやスプレードライで乾燥した後、50〜150℃に加熱する方法や、有機複合フィラー原料無機フィラー及び上記疎水化剤をアルコール等の溶剤中で数時間程度加熱還留する方法等が挙げられる。この時使用される上記疎水化剤の量に特に制限はなく、得られる光重合性組成物の機械的物性等を予め実験で確認したうえで最適値を決定すればよいが、好適な範囲を例示すれば、無機粒子100重量部に対して、上記疎水化剤1〜10重量部の範囲である。
【0073】
なお、上記無機粒子は、粒度分布や材質が異なるものを複数種類混合して用いることもできる。
【0074】
このように有機フィラーを有機無機複合フィラーとして用いる場合において、無機粒子の配合量は、光重合生組成物に付与する機械的強度に応じて決定すれば良いが、余り多すぎると均質に分散させることが困難になるため、一般には有機フィラー原料モノマー100重量部、言い換えればこれを重合させて得られる有機樹脂100重量部に対して60〜1900重量部の割合であり、より好ましくは150〜900重量部の割合で使用される。
【0075】
本発明において、上記(C)有機フィラーの光重合性組成物に対する配合量は、光重合性組成物に付与する蛍光性に応じて、さらには該有機フィラーが有機無機複合フィラーである場合には光重合生組成物に付与する機械的強度も勘案して決定すれば良い。光重合生組成物を十分な蛍光性、特に、歯科用修復材料としての用途に用いる場合において審美性に優れるものにする観点からは、(A)ラジカル重合性単量体100重量部に対して、該(C)有機フィラーに含まれるフタル酸エステル系蛍光剤が0.001〜2質量部、より好ましくは0.02〜1質量部含有されるように配合させるのが好ましい。特に、(A)ラジカル重合性単量体100重量部に対して、該(C)有機フィラーに含まれるフタル酸エステル系蛍光剤が0.01質量部以上含有されるように配合させた場合には、フタル酸エステル系蛍光剤をそのまま前記光重合性組成物に配合させた場合における保存期間中の重合活性低下の問題が、より顕著に抑制できるものになり好適である。これらの事項を考慮して、(C)有機フィラーの光重合性組成物に対する配合量は、通常、(A)ラジカル重合性単量体100重量部に対して50〜700質量部であり、特に、100〜500質量部であるのがより一般的である。
【0076】
本発明の光重合性組成物においては、本発明の効果を損なわない範囲で、(B)光重合開始剤以外の公知の重合開始剤を配合しても良い。当該他の重合開始剤成分としては、過酸化ベンゾイル、クメンハイドロパーオキサイド等の有機過酸化物類;酸化バナジウム(IV)アセチルアセトナート、ビス(マルトラート)オキソバナジウム(IV)等の+IV価又は+V価のバナジウム化合物類;テトラフェニルホウ素ナトリウム、テトラフェニルホウ素トリエタノールアミン塩、テトラフェニルホウ素ジメチル−p−トルイジン塩、テトラキス(p−フルオロフェニル)ホウ素ナトリウム、ブチルトリ(p−フルオロフェニル)ホウ素ナトリウム等のアリールボレート化合物類;3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、7−ヒドロキシ−4−メチル−クマリン等のクマリン系色素類;ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,6−ジメトキシベンソイル)−2,4,4−トリメチルペンチルホスフィンオキサイド等のアシルフォスフィンオキサイド類;ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインプロピルエーテル等のベンゾインアルキルエーテル類;2,4−ジエトキシチオキサンソン、2−クロロチオキサンソン、メチルチオキサンソン等のチオキサンソン誘導体;ベンゾフェノン、p,p’−ジメチルアミノベンゾフェノン、p,p’−メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン誘導体類等が挙げられる。但し、高い環境光安定性を得るためには、アリールボレート化合物類及び有機過酸化物はできる限り少量にした方が良い。また、クマリン系色素類等の色素類は、重合開始剤として作用するほどの量を配合すると、光重合性組成物の色調に大きな影響を与え、高い審美性を要求される光硬化性コンポジットレジンにおいては、歯と異なる色調となってしまう傾向がある。
【0077】
また、本発明の光重合性組成物には、目的に応じその性能を低下させない範囲で無機フィラー、水、有機溶媒や増粘剤等を添加することも可能である。この場合の無機フィラーとしては、歯科用コンポジットレジンの充填材として公知の無機化合物からなるものが何ら制限なく用いられるが、代表的な無機フィラーを例示すれば、前記した有機フィラーを有機無機複合フィラーとして用いる場合に無機粒子として配合させる無機酸化物や、ランタンガラス、バリウムガラス、ストロンチウムガラス等のガラス類が挙げられる。また必要に応じて、ケイ酸塩ガラス、フルオロアルミノシリケートガラス等の歯科用において、カチオン溶出性の無機粒子として公知のものを配合しても良い。これらは一種または二種以上を混合して用いても何ら差し支えない。
【0078】
これら無機フィラーの粒径は特に限定されず、一般的に歯科用材料として使用されている0.01μm〜100μm(特に好ましくは0.01〜5μm)の平均粒径の粒子が目的に応じて適宜使用できる。また、該粒子の屈折率も特に制限されず、一般的な歯科用の無機粒子が有する1.4〜1.7の範囲のものが制限なく使用でき、目的に合わせて適宜設定すればよい。粒径範囲や、屈折率の異なる複数の無機フィラーを併用しても良い。
【0079】
さらに、上記無機フィラーの中でも、形状が球状のものを用いることは、得られる硬化体の表面滑沢性が増し、優れた歯科充填修復材料となり得るため好ましい。
【0080】
上記無機フィラーは、前記した有機フィラーを有機無機複合フィラーとして用いる場合に用いる無機粒子と同様に、その表面を疎水化処理してから用いることが、ラジカル重合性単量体とのなじみを良くし、機械的強度や耐水性を向上させる上で望ましい。
【0081】
これらの無機フィラーの配合割合は、使用目的に応じて、重合性単量体と混合したときの粘度(操作性)や硬化体の機械的物性を考慮して適宜決定すればよいが、一般的には重合性単量体100重量部に対して50〜1500質量部、好ましくは70〜1000質量部の範囲で用いられる。
【0082】
また、本発明の光重合性組成物に配合しても良い有機溶媒としては、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、トルエン、ジクロロメタン、メタノール、エタノール、酢酸エチル等が挙げられる。さらに、増粘剤としてはポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリビニルアルコール等の高分子化合物や高分散性シリカが例示される。
【0083】
本発明の光重合性組成物は上記のような光硬化性コンポジットレジンに代表される歯科充填修復材料として特に好適に使用されるが、それに限定されるものではなく、その他の用途にも好適に使用できる。その用途としては、例えば工業用接着剤、塗料、コーティング材、フォトレジスト材料、印刷製版材料、ホログラム材料等が挙げられる。
【0084】
本発明の光重合性組成物を硬化させる際には、α−ジケトン系の光重合開始剤を硬化させるために用いられるのと同じ公知の光源を用いればよいが、低強度の光照射に対しては比較的安定で、他方、ある一定以上の高強度の光照射により急速に硬化するという本発明の光重合性組成物の特徴を生かすため、カーボンアーク、キセノンランプ、メタルハライドランプ、タングステンランプ、LED、ヘリウムカドミウムレーザー、アルゴンレーザー等の可視光線の光源が何ら制限なく使用される。照射時間は、光源の波長、強度、硬化体の形状や材質によって異なるため、予備的な実験によって予め決定しておけばよい。
【実施例】
【0085】
以下、実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、以下の実施例及び比較例で用いた化合物の略称(かっこ内)を以下に示す。
(1)略称・略号
(A)ラジカル重合性単量体
・2,2−ビス[(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロピルオキシ)フェニル]プロパン(bis−GMA)
・トリエチレングリコールジメタクリレート(3G)
(B)光重合開始剤
B1)α―ジケトン
・カンファーキノン(CQ)
B2−1)トリハロメチル基により置換されたs−トリアジン化合物
・2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン(TCT)
・2−フェニル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジン(PBCT)
B2−2)ジフェニルヨードニウム塩化合物
・ジフェニルヨードニウムヘキサフルオロリン酸(IP)
・4−イソプロピル−4‘メチルジフェニルヨードニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボラート(IB)
B3)芳香族アミン化合物
・N,N−ジメチルp−安息香酸エチル(DMBE)
・N,N−ジメチルp−トルイジン(DMPT)
B4)第3級脂肪族アミン
・トリエタノールアミン(TEOA)
・N−メチルジエタノールアミン(MDEOA)
B5)その他
・アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)
(C)蛍光剤
〔フタル酸エステル系蛍光剤〕
・ジメチルアミノテレフタレート(DATP)
・2,5−ジヒドロキシテレフタル酸ジエチル(DHTP)
〔その他の蛍光剤〕
・2,5ビス(5’−tert−ブチルベンゾオキサゾリル(2))チオフェン(BOTh)
(D)その他の成分
・ハイドロキノンモノメチルエーテル(HQME)
・2−ヒドロキシ−4−メトキシベンゾフェノン(BP)
(E)無機粒子
・球状シリカジルコニアフィラー;一次粒子の平均粒子径=0.2μm、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン表面処理物(E−1)
また、光硬化性コンポジットレジンの調製方法、有機フィラー及び有機無機複合フィラーの調製方法及び硬化体の機械的強度の測定は以下の方法を用いた。
(1)光硬化性コンポジットレジンの調製方法
ラジカル重合性単量体に対し所定量の光重合開始剤と有機フィラー及びまたは、有機無機複合及びまたは、無機粒子を加え、赤色光下にて均一に攪拌して調製した。
(2)有機フィラーの製造方法
〔無機粒子非含有のもの〕
ラジカル重合性単量体(bis−GMA/3G=60/40)中に、蛍光剤を所定量(表1)、重合開始剤(AIBN)を質量比で0.5%予め溶解させた。これを、95℃窒素加圧下で一時間加熱することによって、重合硬化させた。この硬化体を、振動ボールミルを用いて粉砕し、平均粒径30μmの有機フィラーH−1,H−2,H−3、H−4,H−5,H−6,H−7を得た。
〔有機無機複合フィラー〕
ラジカル重合性単量体(bis−GMA/3G=60/40)中に、蛍光剤を所定量(表1)、重合開始剤(AIBN)を質量比で0.5%予め溶解させておき、無機粒子を所定量(表1)添加混合し、乳鉢でペースト化した。これを、95℃窒素加圧下で一時間加熱することによって、重合硬化させた。この硬化体を、振動ボールミルを用いて粉砕し、さらにγ-メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン0.02質量%によって、エタノール中、90℃で5時間還留することで表面処理を行い、平均粒径30μmの有機無機複合フィラーI−1,I−2,I−3,I−4,I−5を得た。
【0086】
【表1】

【0087】
(3)硬化体の硬度(ヴィッカース硬度)
6mmφ×1.0mmの孔を有するポリテトラフルオロエチレン製のモールドにペーストを充填してポリプロピレンフィルムで圧接し、歯科用光照射器(LUX・O・MAX(以下LMとも略す)、アケダデンタル社;光出力密度137mW/cm)をポリプロピレンフィルムに密着して10秒照射し、硬化体を調製した。得られた硬化体を微小硬度計(松沢精機製MHT−1型)にてヴィッカース圧子を用いて、荷重100gf、荷重保持時間30秒で試験片にできたくぼみの対角線長さにより求めた。
(4)保存安定性の評価
調製した光硬化性コンポジットレジンを50℃に設定したインキュベーター内に保管し、一定期間毎に(4)と同様な方法でヴィッカース硬度を測定し、得られたヴィッカース硬度値の経時変化から保存安定性を評価した。
(5)蛍光性の評価
7mmφ×3.0mmの孔を有するポリテトラフルオロエチレン製のモールドにペーストを充填してポリプロピレンフィルムで圧接し、歯科用光照射器(トクソーパワーライト、トクヤマデンタル社;光出力密度600mW/cm)をポリプロピレンフィルムに密着して30秒照射し、硬化体を調製した。得られた硬化体を紫外光照射器(MINERALIGHT LAMP、フナコシ薬品社;最大吸収波長366nm)を用いて、その蛍光の発光状態を観察した。特に優れた蛍光が確認できたものを◎、良好な蛍光が確認できたものを○、蛍光が確認できなかったものを×で評価した。
【0088】
実施例1〜18、比較例1〜5、参考例1〜4
bis−GMA(60質量部)、3G(40質量部)からなるラジカル重合性単量体100質量部、重合禁止剤としてHQMEを0.15質量部、及び表2に示す光重合開始剤、有機フィラー、及び蛍光剤からなる光硬化性コンポジットレジンを暗所下、メノウ乳鉢を用いて攪拌混合してペースト状の組成物を調製した。上記ペーストについて、光照射の所定時間を10秒間として得られた硬化体のヴィッカース硬度を測定した。また、保存安定性に関しても評価を行なった。結果を表2に示した。
【0089】
【表2】

【0090】
実施例1〜18と比較例1〜5に示した結果から理解されるように、蛍光剤が有機フィラーに配合されている場合は、保存後の硬化性が初期値の80%以上維持できたのに対し、そのまま光重合性組成物に配合されている場合は、保存後の硬化性は初期値の65%程度に低下した。なお、参考例1に示したように、フタル酸エステル系以外の蛍光剤を用いた場合及び、参考例2,3に示したように光重合開始剤として、光酸発生剤を含まない系においては、保存後の硬化性が初期の80%以上維持できた。なお、参考例1で確認された蛍光は歯牙とは異なる色調の蛍光を発するものであり、この光硬化性コンポジットレジン重合性組成物を歯科充填修復材料として用いるには審美性に劣るものであった。
【0091】
実施例19〜24、比較例6〜10
表3に示したように有機フィラーの種類を変化させ、実施例1と同様にして光硬化性コンポジットレジンのペーストを調製した。得られた光硬化性コンポジットレジンの各種物性を測定した結果を表3に示した。
【0092】
【表3】

【0093】
実施例25〜32、比較例11〜16
表4に示したように光重合開始剤として配合する各成分の種類を変化させ、実施例1と同様にして光硬化性コンポジットレジンのペーストを調製した。得られた光硬化性コンポジットレジンの各種物性を測定した結果を表4に示した。
【0094】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ラジカル重合性単量体、
(B)B1)α−ジケトン化合物、B2)光酸発生剤、及びB3)芳香族アミン化合物を含んでなる光重合開始剤、および
(C)フタル酸エステル系蛍光剤を含有する有機フィラー
を含有してなる光重合性組成物。
【請求項2】
(B)光重合開始剤におけるB2)光酸発生剤が、トリハロメチル基により置換されたs−トリアジン化合物、及びジアリールヨードニウム塩系化合物から選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の光重合性組成物。
【請求項3】
(B)光重合開始剤として、さらにB4)3つの飽和脂肪族基が窒素原子に結合している第三級アミノ基を有しており、かつ、該飽和脂肪族基のうち少なくとも2つは電子吸引性基を置換基として有している第三級脂肪族アミン化合物を含んでなる請求項1または請求項2記載の光重合性組成物。
【請求項4】
フタル酸エステル系蛍光剤が、
【化1】

(式中、R10及びR11は各々独立に、アルキル基であり、R12は水素原子、アミノ基、又は水酸基であり、R13はアミノ基、又は水酸基である。)
である請求項1〜3のいずれか一項に記載の光重合性組成物。
【請求項5】
(C)フタル酸エステル系蛍光剤を含有する有機フィラーが、有機樹脂100重量部に対して無機粒子を150〜600重量部配合した有機無機複合フィラーである請求項1〜4のいずれか一項に記載の光重合性組成物。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の歯科用修復材料。

【公開番号】特開2009−280673(P2009−280673A)
【公開日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−132956(P2008−132956)
【出願日】平成20年5月21日(2008.5.21)
【出願人】(391003576)株式会社トクヤマデンタル (222)
【Fターム(参考)】