説明

光重合開始剤

【課題】 表示品質の優れた液晶−高分子複合系液晶表示装置の製造に適した、重合性光重合開始剤を提供する。
【解決手段】 高分子壁に実質的に包囲された複数の液晶領域が規則的に形成された液晶層を形成するための光重合性組成物に用いられる光重合開始剤であって、分子内に重合性官能基を有する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は液晶表示装置に関し、特に、ワープロ、パソコンなどの個人用表示装置、携帯情報端末などの多人数で使用する装置などに好適に使用される液晶表示装置に関する。
【0002】
【従来の技術】従来、液晶と高分子との複合系材料を用いた液晶表示装置として、下記のものが知られている。
【0003】■高分子中マトリクス中に液晶領域を包含し、電圧印加による液晶の屈折率の変化を利用し、液晶と高分子の屈折率の違いによる散乱状態と屈折率の一致による透明状態とスイッチングすることによって、表示を行う高分子分散型液晶(PDLC)表示装置が特表昭58−501631号公報に開示されている。
【0004】また、液晶と光重合性樹脂との前駆体混合物に紫外線を照射して、液晶と高分子を3次元的に相分離させることによって得られる液晶表示装置が特表昭61−502128号公報に開示されている。
【0005】これらの装置は、基本的に、液晶と高分子との屈折率差に起因する散乱−透明間の状態変化を電気的に制御することによって表示を行う散乱モードの液晶表示装置である。
【0006】■液晶と光重合性樹脂との前駆体混合物に紫外線照射して作製される液晶層の液晶領域の空間分布に規則性を持たせるために、上記前駆体混合物に紫外線を照射する時にホトマスクを使用する方法が下記に開示されている。
【0007】特開平1−269922号公報は、液晶と光重合性樹脂との前駆体混合物にホトマスクを介して1段目の露光を行い、さらに、ホトマスクを除いて紫外線照射しホトマスクによって遮光された部分にさらに紫外線を照射して、異なる電気光学特性を示す領域を形成する方法を開示している。この方法で得られる液晶表示装置は、基本的に散乱モードの表示装置である。これらの散乱モードの液晶表示装置においては、ドロプレット状の液晶領域が空間的にランダムに形成されている。
【0008】特開平5−257135号公報は、配向規制力を有する配向膜付きの2枚の基板間に、液晶と光重合性樹脂の前駆体混合物を注入し、ホトマスクを介して紫外線を照射することによって製造される液晶装置を開示している。
【0009】また、液晶と高分子との複合系材料を用いた広視野角液晶表示装置を提供することが検討されている。液晶表示装置の視角特性を改良するためには、絵素内で少なくとも一方の基板上で2方向以上の方向に液晶分子を配向させることが好ましい。
【0010】液晶表示装置の視角特性を図1(a)及び(b)を参照しながら説明する。(a)は絵素内の液晶分子9が少なくとも2方向以上の方向に配向している液晶表示装置、(b)は従来のTN(ツイスティッドネマティック)配向している液晶表示装置の電圧の印加に伴う液晶分子の配向の変化と視角特性との関係を説明するための模式図である。(a)の液晶表示装置の一対の基板1と2に狭持された液晶層は、高分子壁7と高分子壁7に包囲された液晶領域8を有する。液晶領域8内の液晶分子9は、対称軸6を中心に軸対称配向している。
【0011】従来のTN配向状態では、図1(b)の中段に示す中間調状態においてただ1つの配向方向を有する。従って、液晶分子を矢印Aの視角方向から見る場合と、矢印B方向から見る場合とで、明るさや見かけの屈折率などの表示特性に関する物性値が異なる。これに対し、図1(a)の液晶表示装置では、液晶分子の見かけの屈折率は矢印A及びBの両方向からの見た場合の平均の屈折率となるので、それぞれの視角方向に対して透過率が平均化されて等しくなり、その結果、視角特性が図1R>1(b)のTNモードに比べて改善される。図1(b)は軸対称配向を有する液晶領域の対称軸を含む断面を示しているので、中間調状態では2つの配向方向のみが図示されているが、実際には軸対称配向した液晶分子の見かけの屈折率が全て平均された結果が観察される。従って、従来のTNモードの液晶表示装置の視角特性を改善するためには、液晶分子の配向方向は2以上であればよいが、軸対称配向の方がさらに好ましい。
【0012】これまでに、広視角モードの液晶表示装置として、以下のものが開示されている。
【0013】■特開平4−338923号公報および特開平4−212928号公報は、前述の高分子分散型液晶装置と互いに直交する偏光板とを組み合わせた広視野角モードの液晶表示装置を開示している。
【0014】■特開平5−27242号公報は、偏光板を用る非散乱型の液晶セルの視角特性を改善する方法として、液晶と光重合性樹脂との前駆体混合物から相分離により液晶と高分子材料との複合材料からなる液晶層を形成する方法を開示している。この方法によると、生成した高分子体によって液晶ドメインの配向状態がランダム状態になり、電圧印加時に個々のドメインで液晶分子の立ち上がる方向が異なるために、各方向から見た見かけ上の透過率が等しくなるために、中間調状態での視角特性が改善される。
【0015】■本発明者らは、特開平6−301015号公報および特開平7−120728号公報に、光重合時にホトマスクなどで光強度分布を制御することにより液晶分子が絵素領域内で軸対称状配向状態となり、液晶分子に印加する電圧を制御することにより、軸対称状配向(渦巻き状配向など)がホメオトロピック状態に変化するように動作する、視角特性が著しく改善された液晶装置を開示している。
【0016】上述の液晶と光重合性樹脂との前駆体混合物から光重合により高分子壁を形成する従来の方法においては、光重合開始剤(開始剤)として、Igacure651やIrgacure184(チバガイギー社製)などの光重合開始剤が使用されていた。
【0017】
【発明が解決しようとする課題】上記光重合開始剤は、光照射により分子が開裂し、ラジカルとなって光重合性樹脂(モノマー)とラジカル反応を引き起こす。しかし、従来の光重合開始剤は分子内に重合性の官能基を有さないので、すべての光重合開始剤が反応することはなく未反応のまま系中に残存する。光照射によってラジカルとなった開裂端の一部は、光重合性樹脂と反応してラジカル重合を開始し、高分子の末端部分としてとりこまれるが、そのすべてが取り込まれることはない。高分子中に取り込まれない化合物(光重合開始剤及び光重合開始剤が開裂して生成したラジカル等)は、液晶領域中に不純物として混入するので、液晶材料のTN-I点(ネマティック−等方性液体転移点)を低下させたり、液晶分子の応答速度を低下(応答時間を長くする)させたり、さらに電圧保持率(比抵抗)を低下させる原因となる。TN-I点が低下すると、液晶表示装置が正常に動作する温度の上限が低下するので、好ましくない。また、応答速度の低下や電圧保持特性の低下は、表示品質の低下を招く。
【0018】さらに、高分子壁に実質的に包囲された液晶領域を絵素領域に対して、規則的に配置し、液晶分子の配向変化に起因する透過光の偏光状態の変化を利用する表示モード(TN,STN,ECB,FLC、軸対称配向)の液晶表示装置においては、上述の散乱モードの高分子分散型液晶表示モードの液晶表示装置に比較し、液晶領域内の液晶分子の配向状態が表示品質に大きく影響する。液晶領域内に不純物が含まれると、配向の均一性が低下し、配向欠陥を生じ、表示品質が低下するとういう問題がある。特に、軸対称モードの液晶表示装置を高分子材料と液晶材料との混合物からなる表示領域中に等方相が見られる温度以上の温度で保存すると、液晶領域に配向不良が発生するという問題がある。
【0019】本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、応答特性や電圧保持特性に優れた液晶−高分子複合系液晶表示装置の製造に適した、重合性光重合開始剤を提供することにある。
【0020】
【課題を解決するための手段】本発明の光重合開始剤は、高分子壁に実質的に包囲された複数の液晶領域が規則的に形成された液晶層を形成するための光重合性組成物に用いられる光重合開始剤であって、分子内に重合性官能基を有し、そのことによって上記目的が達成される。
【0021】前記光重合開始剤は、下記の一般式(I)で示され、
【0022】
【化11】


【0023】ここで、Aは水素原子又はC1−C4のアルキル基を表し、[R1]及び[R2]はそれぞれ独立にC1−C4のアルキル基、又は[R1]と[R2]とで環を形成しているアルキレン基(好ましくはC2−C12)を表し、mは2から4の整数である、光重合開始剤であることが好ましい。
【0024】前記光重合開始剤は、下記の一般式(II)で示される部分構造を有し、
【0025】
【化12】


【0026】ここで、Aは水素原子又はC1−C4のアルキル基を表し、nは1または2の整数である、光重合開始剤であることが好ましい。
【0027】前記光重合開始剤は、下記の一般式(III)で示され、
【0028】
【化13】


【0029】ここで、[R]は下記の一般式(IV)で示され、
【0030】
【化14】


【0031】Xは水素原子又はC1−C12のアルキル基を表し、Aは水素原子又はC1−C4のアルキル基を表わす、光重合開始剤であってもよい。
【0032】前記光重合開始剤は、下記の一般式(V)で示され、
【0033】
【化15】


【0034】ここで、[R]は下記の一般式(VI)で示され、
【0035】
【化16】


【0036】Xは水素原子又はC1−C12のアルキル基またはヒドロキシエチル基を表し、Aは水素原子又はC1−C4のアルキル基を表す、光重合開始剤であってもよい。
【0037】前記光重合開始剤は、下記の一般式(VII)で示され、
【0038】
【化17】


【0039】ここで、[R]は下記の一般式(VIII)で示され、
【0040】
【化18】


【0041】Aは水素原子又はC1−C4のアルキル基を表し、Bは水素原子又はC1−C4のアルキル基を表す、光重合開始剤であってもよい。
【0042】前記光重合開始剤は、下記の一般式(IX)で示され、
【0043】
【化19】


【0044】ここで、[R]は下記の一般式(X)で示され、
【0045】
【化20】


【0046】Aは水素原子又はC1−C4のアルキル基を表す、光重合開始剤であってもよい。
【0047】以下、作用について説明する。
【0048】本発明の光重合開始剤は、分子内に重合性官能基を有し、液晶領域を包囲する高分子領域(高分子壁)を形成する光重合性樹脂の光重合反応の開始剤として作用するとともに、光重合性樹脂と重合する。従って、本発明の光重合開始剤は、光重合性樹脂との重合反応によって、高分子壁に固定される。その結果、光重合開始剤が、液晶領域や高分子領域中に低分子の化合物として残存する可能性が低くなる。
【0049】また、光重合開始剤がスチレンやα−メチルスチレンの誘導体などと同様に重合遅延性の官能基を有すると、上記作用に加え、光重合性樹脂の重合反応を抑制するように作用する。
【0050】
【発明の実施の形態】本発明者らは、液晶−高分子複合系材料からなる液晶層の液晶領域中に残留しない光重合開始剤の構造を鋭意検討した結果、本発明に到達した。以下、本発明の実施形態について説明する。
【0051】(光重合開始剤の構造因子)液晶中への光重合開始剤の残留量を低下させるために、分子中に重合性官能基を有する光重合開始剤を使用することが効果的である。分子中に重合性官能基を有する光重合開始剤は光重合性モノマーと同様に、ラジカル重合により高分子中に取り込まれる(光硬化反応によって形成される高分子鎖に化学結合する)。すなわち、一旦、光照射によって生成したラジカルが光重合性モノマーの重合反応の開始に関与せず(副反応によって)、液晶中に残存した場合でも、その重合性官能基の重合反応により光重合性モノマーと同様に高分子中に取り込まれる。重合性官能基を有する光重合開始剤が高分子中に取り込まれる機構は、■開裂によって生じたラジカルがラジカル重合の開始端として高分子鎖の末端に結合する機構と、■光重合開始剤又は光重合開始剤の開裂によって生成したラジカル等の化合物の分子内に含まれる重合性官能基がラジカル重合することによって高分子鎖に結合する機構があるために、光重合開始剤又は光重合開始剤の反応によって生じた化合物が、液晶中に残存する量は極端に低下する。
【0052】重合性官能基とは、ラジカル反応により重合することが可能な官能基であり、CH2=CH−、CH2=CHCOO−、CH2=C(CH3)COO−、エポキシ基などである。これらの官能基の光重合開始剤分子内の存在位置は、下記に示す反応式における光重合開始剤の開裂端R1とR2の片方でも両方でもよい。
【0053】
反応式 R1−R2 → R1・ + R2・上記の他に、特開平5−230122号公報や特開平6−110039号公報に開示されている光重合開始剤を用いることもできる。但し、重合性官能基としては、重合速度及び重合率の観点から、CH2=CH−、CH2=CHCOO−、CH2=C(CH3)COO−が好ましい。
【0054】(重合遅延性を有する重合性光重合開始剤)我々は、既に特願平7−323390号に液晶表示装置用光重合性樹脂材料組成物や液晶表示装置用重合遅延樹脂に関する技術を開示している。重合遅延樹脂とは、アクリレート系の光重合性樹脂よりも重合速度の遅い樹脂のことをいう。アクリレート系の光重合性樹脂と液晶材料とを含む前駆体混合物中に重合遅延樹脂を混合することによって、光重合の速度を低下させ、液晶領域の成長速度を低下させることができる。その結果、大きな液晶領域を形成しやすくするとともに、液晶相と高分子相との相分離を明確にすることができる。重合遅延樹脂として、具体的には、スチレン誘導体ならびにα−メチルスチレン誘導体など共鳴系の発達した化合物群が挙げられる。
【0055】重合遅延樹脂と同様の重合性官能基を有する重合性光重合開始剤は、重合遅延樹脂としての作用と光重合開始剤としての作用との両方の作用を有する。重合遅延性の重合性光重合開始剤は、上記反応式のR1及びR2の少なくとも一方に重合遅延性を有すればよく、重合性の無い基を有してもよい。
【0056】(駆動法)本発明の液晶表示装置は、種々の駆動方法で駆動できる。すなわち、単純マトリックス駆動、a−Si(アモルファスシリコン)TFT(薄膜トランジスタ)、p−Si(ポリシリコン)TFT、MIM(Metal-Insulator-Metal)素子などのスイッチング素子を用いたアクティブ駆動などの駆動法を用いることができる。
【0057】(基板材料)基板材料としては、透明固体であるガラス、高分子フィルムなど、不透明固体としては、反射型を狙った金属薄膜つき基板やSiなどの半導体基板などを利用できる。
【0058】プラスチック基板としては、可視光に吸収を持たない材料が好ましく、PET(ポリエチレンテレフターレート)、アクリル系ポリマー、ポリスチレン、ポリカーボネートなどを使用できる。
【0059】さらに、異なる材料からなる基板を組み合わせてセルを作製することもでき、又、同種異種に問わず基板厚みの異なった基板を2枚組み合わせて使用することもできる。また、プラスチック基板の場合、基板自身に偏光能を持たせることによって、偏光板を一体化した液晶表示装置を作製することができる。
【0060】
【実施例】以下本発明の実施例を説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0061】(実施例1、比較例1)本実施例の液晶表示装置10は、図1(a)に示すように、一対のガラス基板1及び2と、その間に狭持された液晶層とを有している。液晶層は、高分子壁7に実質的に包囲された複数の液晶領域8とを有し、高分子壁7は、光重合性樹脂によって形成されている。本実施例では、液晶領域8は高分子壁7と両基板1及び2によって実質的に包囲されている。また、基板1及び2の液晶層側の表面には、所望のパターンの透明電極(不図示)がそれぞれ形成されている。液晶領域3内の液晶分子9は、軸対称性を有しながらツイスト配向している。ここでは、ツイスト角を90°に設定した。本実施例では、透過型の液晶表示装置10を構成したが、反射型液晶表示装置を構成する場合は、一方の基板に半導体基板等の不透明な基板を用いることができる。また、本実施例では、絵素領域毎に1つの液晶領域を形成したが、長絵素(絵素の縦横比が異なる)を用いる場合などでは、1つの絵素領域に対して、複数の液晶領域を形成してもよい。この場合においても、液晶領域は空間的に規則的に配置される。
【0062】次に、液晶表示装置10の製造方法を説明する。
【0063】ITO(酸化インジュウムおよび酸化スズの混合物、50nm)からなる所望のパターンの透明電極を有する1.1mm厚の2枚のガラス基板1、2を用い、5μmのスペーサー(不図示)によりセル厚を保たせることによりセルを構成した。本実施例では、公知の方法を用いて、アクティブマトリクス型液晶セルを形成する。
【0064】得られたセル中に、イソボルニルアクリレート0.08g、R−684(日本化薬社製)0.04g、p−フェニルスチレン0.04g、さらに液晶材料ZLI−4792(メルク社製、カイラルピッチは、セル間で90°となるように調整して使用した。)0.84gと下記の(化21)で示される構造を有する光重合開始剤PI−A 0.005gを均一混合し得られた前駆体混合物を、真空注入法で注入した。
【0065】
【化21】 (開始剤PI−A)


【0066】作製したセルの上に図2に示す遮光領域20aと透過領域20bを有するホトマスク20を配置し、その後、透明電極間に周波数60Hz、振幅±4Vの電圧を印加しながらホトマスク側から平行光線を得られる高圧水銀ランプ下8mW/cm2のところで100℃、8分照射した。このようにして、セル中の前駆体混合物に、空間的に規則的なパターンの強度分布を有した紫外線を照射することができる。なお、上記の光照射工程の温度は、前駆体混合物の相溶化温度以上であり、相分離後の液晶相のTN-I点以下の温度であることが好ましい。光重合誘起相分離によって液晶相が形成される過程で、液晶相に電界が印加されることによって、液晶分子の配向が安定化する。
【0067】その後、電圧を印加した状態で、25℃(液晶はネマティック状態)にセルを徐々に冷却(10℃/hrの冷却速度)し、さらに3分間連続で紫外線をマスクの無い状態で全面に照射し、樹脂をさらに硬化させた。
【0068】得られた液晶セルを偏光顕微鏡で観察したところ、図3に示すように、ほぼホトマスクのパターンどうりの位置に高分子壁7と液晶領域8とが形成された。また、液晶領域8に放射状の消光模様5が観察されたことから、液晶領域8の中央付近の軸を中心に軸対称状の配向状態になっていることがわかった。軸対称配向においては、分子軸が偏光板の偏光軸に平行な液晶分子と、分子軸が偏光軸に対して傾いている液晶分子とが、連続的に存在する。その結果、放射状の消光模様が観察される。
【0069】作製したセルに偏光板をその偏光軸が互いに直交するように貼り合わせ、得られた液晶表示装置の特性を評価した結果を表1に示す。光重合開始剤としてIrgacure651を用いた以外は、上記実施例1と同様に作製した液晶表示装置を比較例1とした。
【0070】液晶表示装置の特性の評価条件を以下に示す。
【0071】応答時間(応答速度): 電圧を0−5Vの間で変化させ、相対透過率が90%変化するのに要する時間を測定した。透過率が上昇するのに要する時間τrと透過率が減少するのに要する時間τdとの和で評価した。
【0072】液晶領域中のTN-I点:昇温速度0.5℃/分で昇温しながら偏光顕微鏡で観察し、ネマティック相中に等方性液体相が出現する温度を測定した。
【0073】電圧保持率:パルス幅5μsec、振幅5Vのパルス電圧を印加後、16.5msec間保持する電位の割合を測定した。
【0074】
【表1】


【0075】表1の結果から明らかなように、光重合開始剤PI−Aを使用した実施例1の液晶表示装置の応答速度、 TN-I点、電圧保持率は、従来の光重合開始剤を用いた比較例1の液晶表示装置よりも優れている。
【0076】光重合開始剤PI−Aは、以下のようにして合成できる。4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン224部、アクリル酸144部、p−トルエンスルホン酸20部、ベンゼン1000部を混合し、生成する水を分離除去しながら10時間還流下で反応させる。反応終了後、反応液を5%炭酸ナトリウム水溶液で洗浄し、更に、水洗後、ベンゼン溶液を減圧濃縮して、粗生成物270部を得た。得られた粗生成物をベンゼンから再結晶して、精製品を得た。得られた生成物は上記の(化21)の構造を有している。
【0077】また、下記の(化22)で表される一般式(I)の構造を有する光重合開始剤は、光重合開始剤PI−Aと同様の効果を有する。
【0078】
【化22】


【0079】ここで、Aは水素原子又はC1−C4のアルキル基を表し、[R1]及び[R2]はそれぞれ独立にC1−C4のアルキル基又は[R1]と[R2]とで環を形成しているアルキレン基を表し、mは2から4の整数である。
【0080】(実施例2、比較例2)本実施例では、一方の基板の高分子壁が形成される領域に予め、レジスト壁を形成し、マスクを用いずに紫外線を照射すること以外は、実施例1と同様である。なお、本実施例では、レジストを用いて壁を形成したが、他の材料を用いて形成することもできる。例えば、感光性のない高分子膜上にパターンを有するレジスト層を形成し、このレジスト層をマスクとして高分子膜をエッチングすることによっても、壁を形成することができる。
【0081】本実施例の液晶表示装置は以下のようにして、製造することができる。本実施例も実施例1と同様にアクティブマトリクス型液晶表示装置を形成する。
【0082】厚さ1.1mmの2枚のガラス基板上にITO(酸化インジュウムおよび酸化スズの混合物、厚さ:50nm)からなる所望のパターンの透明電極を形成した。一方の基板上に、図4に示すように、5μmのスペーサー41を含んだレジスト壁42(OMR83により作製:東京応化社製)を高さが2.7μmになるように形成した。作製した基板と他方の基板とを接着剤シールで貼り合わせることによりセルを構成した。得られたセル中に、イソボルニルアクリレート0.04g、R−684(日本化薬社製)0.02g、p−フェニルスチレン0.02g、さらに液晶材料ZLI−4792(メルク社製、カイラルピッチは、セル間で90°となるように調整して使用した。)0.92gと上記の光重合開始剤PI−A0.005gを均一混合し得られた前駆体混合物を、真空注入法で注入した。
【0083】その後、レジスト壁42で包囲される領域中に形成される液晶領域が一つになるように温度制御によって前駆体混合物の相分離を制御し、さらに液晶領域に電圧を印加することによって、相転移によって形成された液晶相領域中の液晶分子を軸対称配向にした。その後、室温まで冷却し、高圧水銀ランプ下4mW/cm2のところで、セル中の前駆体混合物に紫外線を20分照射した。さらに、樹脂を完全に硬化させるために、4mW/cm2の紫外線を室温で10分間連続で照射した。
【0084】得られたセルを偏光顕微鏡で観察したところ実施例1と同様の軸対称配向状態になっていることが観察された。作製したセルに実施例1と同様に偏光板を貼り合わせ、得られた液晶表示装置の特性を評価した結果を表2に示す。特性の評価方法は実施例1と同様である。
【0085】光重合開始剤としてIrgacure651を用いた以外は、実施例2と同様にして作製した液晶表示装置を比較例2とした。
【0086】
【表2】


【0087】表2から分かるように、光重合開始剤PI−Aを使用した実施例2の液晶表示装置の応答速度、TN-I点、電圧保持率は、従来の光重合開始剤を用いた比較例2の液晶表示装置よりも優れている。
【0088】(実施例3、比較例3) (TNモード)
本実施例の液晶表示装置50の断面図を図5に示す。液晶表示装置50は、液晶領域8における液晶分子9の配向がTN配向をしていること以外は、実施例1の液晶表示装置と実質的に同じである。なお、TN配向を得るために基板1及び2上の液晶層に接する側に配向膜1b、2bが形成され、所定の方向にラビング処理されている。
【0089】本実施例の液晶表示装置50は、以下のようにして製造される。
【0090】IT0(酸化インジウムおよび酸化スズの混合物、50nm)からなる所望のパターンの透明電極1a及び1bを有する1.1mm厚のガラス基板上に、ポリイミド膜(AL4552:日本合成ゴム社製)をスピンコート法を用いて塗布し、ナイロン布によりラビング処理を行った。作製した2枚の基板を互いにラビング方向が直交するように5μmのスペーサー(不図示)を介して貼り合わせた。
【0091】作製したセル中に、イソボルニルアクリレート0.04g、R−684 0.02g、p−フェニルスチレン0.02g、さらに液晶材科ZLI−4792(メルク社製)0.92gと前述の光重合開始剤PI−A 0.005gを均一混合して得られた前駆体混合物を、真空注入法で注入した。なお、本実施例で用いた液晶材科ZLI−4792は、カイラルピッチが80μmになるように調整して使用した。TNモードでは、液晶分子のツイスト角は、基板の配向規制力(ラビング方向)によって規定されるので、表示特性に優れる、ロングピッチのネマティック液晶を用いた。
【0092】その後、得られたセル上に図2に示すホトマスク20を配置し、実施例1と同様にして高分子壁7に取り囲まれた液晶領域8を有するTNモードのセルを作製した。得られたセルに、それぞれの基板の偏光軸がそれぞれのラビング方向と一致するようにそれぞれの基板に偏光板を貼り合わせ、液晶表示装置を得た。
【0093】作製した液晶表示装置50の液晶領域8内の液晶分子9はTN配向しており、かつ、均一な配向状態であった。さらに、表示面をペンで押しても表示特性に変化はなかった。また、応答速度を評価した結果を下記の比較例3の結果とともに表3に示す。
【0094】光重合開始剤としてIrgacure651を用いた以外は、実施例3と同様にして作製した液晶表示装置を比較例3とした。
【0095】表3から明らかなように、実施例1、2と同様に、本発明による重合性官能基を有する光重合開始剤を用いることにより、応答速度が著しく改善された。
【0096】
【表3】


【0097】(実施例4、比較例4) (STNモード)
本実施例は、液晶表示装置の液晶領域における液晶分子の配向がSTN配向をしていること以外は、実施例1の液晶表示装置と実質的に同じである。なお、本実施例では、単純マトリクス駆動用の液晶表示装置を構成する。
【0098】本実施例の液晶表示装置は以下のようにして作製される。
【0099】ITO(酸化インジュウムおよび酸化スズの混合物、50nm)からなるストライプ状のパターンの透明電極を有する1.1mm厚のガラス基板上に、ポリイミド膜(サンエバー:日産化学社製)をスピンコートで塗布し、ナイロン布によりラビング処理を行った。作製した2枚の基板をストライプ状電極が互いに直交し、ラビング方向が互いに240°になるように、9μmのスペーサーを介して貼り合わせた。
【0100】得られたセルに、イソボルニルアクリレート0.04g、R−684(日本化薬社製)0.02g、p−フェニルスチレン0.02g、さらに液晶材料ZLI−4427(メルク社製:カイラルピッチは、セル間で240°となるように調整して使用した。)0.92gと光重合開始剤PI−A 0.005gを均一混合して得られた前駆体混合物を、真空注入法で注入した。
【0101】その後、実施例1と同様にして高分子壁に取り囲まれた液晶領域を有するSTNモードのセルを作製した。
【0102】作製したセルに、偏光軸がラビング方向から45°、かつ、互いに105°となるように偏光板を貼り合わせ、液晶表示装置を作製した。
【0103】作製した液晶表示装置の液晶領域内の液晶分子はSTN配向しており、かつ、均一な配向状態であった。さらに、表示面をペンで押しても表示特性に変化はなかった。また、応答速度を評価した結果を下記の比較例4の結果とともに表4に示す。
【0104】光重合開始剤としてIrgacure651を用いた以外は、実施例3と同様にして作製した液晶表示装置を比較例3とした。
【0105】表4から明らかなように、先の実施例1〜3と同様に、本発明による重合性官能基を有する光重合開始剤を用いることにより、応答速度が著しく改善された。
【0106】
【表4】


【0107】また、液晶領域内の液晶分子の配向をホモジニアス配向、ホメオトロピック配向またはハイブリッド配向させて、電界制御複屈折モードの表示を行うことができる。なお、本願明細書では、電界制御複屈折モードの表示を行うための液晶分子の配向を総称してECB型配向と呼ぶ。
【0108】(実施例5、比較例5) (FLC)
本実施例は、液晶表示装置の液晶領域を形成する液晶として、表面安定化強誘電性液晶(SSFLC)を用いたこと以外は、実施例1の液晶表示装置と実質的に同じである。なお、本実施例では、単純マトリクス駆動用の液晶表示装置を構成する。
【0109】本実施例の液晶表示装置は以下のようにして作製される。
【0110】ITO(酸化インジュウムおよび酸化スズの混合物、50nm)からなるストライプ状のパターンの透明電極を有する1.1mm厚のガラス基板上に、ポリイミド膜(サンエバー:日産化学社製)をスピンコートで塗布し、ナイロン布によりラビング処理を行った。作製した2枚の基板をストライプ状の電極が互いに直交し、且つ、ラビング方向が互いに直交するように2μmのスペーサーを介して貼り合わせた。
【0111】得られたセル中に、ポリエチレングリコールジアクリレート(NKエステルA−200、新中村化学工業社製)0.03g、ラウリルアクリレート0.14g、スチレン0.03g、さらに液晶材料ZLI−4003(メルク社製)0.80gと前述の光重合開始剤PI−A 0.005gを均一混合して得られた前駆体混合物を、真空注入法で注入した。
【0112】その後、作製したセルの上に図2に示すホトマスクを配置し、実施例1と同様にして高分子壁に取り囲まれた液晶領域を有するFLCモード(SSF型:表面安定化強誘電性液晶型の配向)のセルを作製した。作製したセルを、偏光軸が互いに90°になるように偏光板を貼り合わせ、液晶表示装置を作製した。
【0113】作製したセルは、偏光顕微鏡で観察したところSSF配向しており、かつ、均一な配向状態であった。さらに、ペンで表示面を押しても表示特性に変化はなかった。さらに、通常のFLCモードのセルで起こる外力による配向乱れが、セルを押しても起こらなかった。
【0114】光重合開始剤としてIrgacure651を用いた以外は、実施例5と同様にして作製した液晶表示装置を比較例5とした。先の実施例1〜4と同様に、本発明による重合性官能基を有する光重合開始剤を用いることにより、応答速度が著しく改善された。
【0115】(実施例6、7、8および比較例6)以下の実施例においては、重合遅延性を有する重合性光重合開始剤を用いた実施例を説明する。まず、重合遅延性を有する光重合開始剤の合成例を説明する。
【0116】(合成例1:重合性光重合開始剤TMI−L84(実施例6)の合成)3−イソプロベニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート201部、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン204部、ハイドロキノンモノメチルエーテル5部、トルエン300部を混合し、120℃にて20時間撹拌し反応する。反応終了後析出した結晶を濾過しトルエンで洗浄する。乾燥して粗製品87部を得る。トルエンから再結晶して精製品を得る。融点156.5−158℃生成物は下記の(化23)で表される構造を有している。
【0117】
【化23】


【0118】(合成例2:重合性光重合間始剤TMI−1173(実施例7)の合成)3−イソブロベニル−α,α−ジメチルペンジルイソシアネート201部、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1オン164部、ハイドロキノンモノメテルエーテル5部、トルエン200部を混合し、120℃にて20時間撹拌し反応する。反応終了後析出した結晶を濾過しトルエンで洗浄する。乾燥して粗製品65部を得る。トルエンから再結晶して精製品を得る。融点173−174℃生成物は下記の(化24)で表される構造を有している。
【0119】
【化24】


【0120】(合成例3:重合性光重合開始剤TMI−29(実施例8)の合成)3−イソプロベニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート201部、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン224部、ハイドロキノンモノメチルエーテル0.2部、メチルイソブチルケトン400部を混合し、80℃にて24時間撹拌し反応する。反応終了後、メチルイソブチルケトンを減圧下留去して、淡黄色透明液体426部を得る。このものをトルエン1000部に溶解し、カラムクロマト用シリカゲル500部中を通し、さらに1000部のトルエンで溶出する。減圧下微量の空気を吹き込みながらトルエンを留去し、精製品を得る。生成物は下記の(化25)(化26)及び(化27)で表される構造を有する化合物の混合物である。
【0121】
【化25】


【0122】
【化26】


【0123】
【化27】


【0124】(合成例4:重合性光重合開始剤TMI−400の合成)3−イソプロベニル−α,α−ジメチルベンジルイソシアネート201部、4−(2−アクリロキシエトキシ)フェニル−(2−ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン278部、ハイドロキノンモノメチルエーテル5部、トルエン400部を混合し120℃にて24時間撹拌し反応する。反応終了後、析出した結晶を濾過しトルエンで洗浄後乾燥して粗製品70部を得る。このものをトルエンから再結晶して精製品を得る。生成物は下記の(化28)で表される構造を有している。
【0125】
【化28】


【0126】(光重合性樹脂組成物の物性および液晶表示装置の特性)次に、上述した重合遅延性を有する重合性光重合開始剤を用いて、液晶表示装置用に光重合性樹脂組成物を調製し、この光重合性樹脂組成物のみ(液晶材料と混合せず)を重合させて、得られた高分子フィルムのガラス転移点を評価した。さらに、上記の光重合性樹脂組成物を用いて液晶表示装置を作製し特性を評価した。これらの結果を以下に説明する。
【0127】光重合性樹脂材料として、単官能アクリレートMPL−209S(日本化薬製)0.225g、ラウリルアクリレート0.15g、および2官能性アクリレートKSM−015(日本化薬製)0.225g、光重合遅延樹脂t−ブトキシスチレン0.10gとの樹脂混合物に、重合性光重合開始剤TMI−184(実施例6)、TMl−1173(実施例7)、TMI−29(実施例8)を各々0.04g添加した樹脂組成物をそれぞれ調製した。また、比較例6として、上記樹脂混合物に光重合開始剤Irgacure651(チバガイギ社製)0.04gを添加した樹脂組成物を調製した。
【0128】これらの樹脂組成物を用いて高分子フィルムを以下のようにして作製した。ガラス基板上に、サイトップ(旭硝子社製)をコーティングし、PETフィルムをスペーサとしてセル状にして、その間に上記の樹脂組成物を注入した。この樹脂組成物にガラス越しに紫外線を照射し樹脂組成物を硬化することによって、高分子フィルムを得た。得られた高分子フィルムのガラス転移温度(Tg)は、引っ張りモード(テンションモジュール)の粘弾性スペクトロメータ(セイコー電子工業社製;DMS210)を用いて、測定周波数1HzでのE’(貯蔵性率)とE”(損失弾性率)との比(tanδ=E”/E’損失正接)を測定し、tanδの最大値を与える温度として規定した。得られた結果を下記の表5に示す。
【0129】さらに、実施例1と同様にして作製した液晶セルに、実施例1の前駆体混合物中の光重合開始剤PI−Aを上記実施例6〜8及び比較例6の光重合性光開始剤にそれぞれ置き換えた前駆体混合物を毛管注入した。
【0130】その後、実施例1と同様しにして、軸対称状の配向状態の液晶領域を有する液晶表示装置を作製した。得られた液晶表示装置の液晶領域のTN-I点を実施例1と同じ方法で測定した結果を表5に示す。
【0131】また、実施例1の光重合開始剤PI−Aと上記樹脂混合物とを用いて、実施例6〜8及び比較例6と同様に高分子フィルム及び液晶表示装置を作製し、評価した結果も合わせて、表5に示す。
【0132】
【表5】


【0133】表5からわかるように、重合遅延性を有する重合性光重合開始剤を用いることにより、未反応で残る光重合開始剤の量が低減されることによって、光重合性樹脂組成物からなるフィルムのTgが高くなる。また、液晶領域中に残存する光重合開始剤の量が低減され、液晶領域のTN-I点も上昇していることが分かる。
【0134】また、実施例1の光重合開始剤PI−Aを用いた場合との比較から、重合遅延性の官能基を有する光重合開始剤を用いた実施例6〜8においては、光重合性樹脂組成物の重合速度が低下していることが分かる。なお、重合速度は、100℃の温度で、365nmの強度が10mW/cm2の紫外線を照射しながら反応熱を測定し、反応熱が最大となる時間で評価した。
【0135】
【発明の効果】上述したように、本発明によると、液晶領域を高分子壁で実質的に取り囲んだ液晶層を有する液晶表示装置において、高分子壁を構成する光重合性樹脂の重合度(反応度)及び液晶領域の液晶のTN-I点が高くなり、応答速度及び電圧保持率に優れた液晶表示装置及びその製造方法が提供される。本発明の液晶表示装置は、特に下記の分野に好適に用いられる。
【0136】■液晶領域が高分子壁で取り囲まれているので、外力に対する液晶表示装置の変形を抑えることが可能となり、特に、ペン入力時の色変化を抑えることができる。また、従来の大画面表示装置では、重力によりセル厚が表示装置の上部と下部とで異なり表示むらとなっていたが、本発明の装置では、表示装置全面において、高分子壁によって両基板が接着されているので、セル厚変化が起こりにくく、均一な表示を提供することができる。
【0137】■液晶と光重合性樹脂との相分離を有効に利用することにより、液晶領域の配向状態を軸対称状(同心円状、放射状、渦巻き状など)に配向させることができ、視角特性の優れた液晶表示装置を作製することができる。また、本発明の化合物は、液晶−高分子界面での配向規制力を強化することができる。これは、配向規制力は、液晶−高分子界面において高分子中に固定される液晶分子によって生じており、本発明の光重合性開始剤を用いることによって、高分子の硬化反応がより完全に進行することによって、液晶−高分子界面において液晶分子がより強固に固定されるためと考えられる。
【0138】高分子壁に実質的に包囲された液晶領域を絵素領域に対して、規則的に配置し、液晶分子の配向変化に起因する透過光の偏光状態の変化を利用する表示モード(TN,STN,ECB,SSFLC、軸対称配向)の液晶表示装置においては、液晶領域(液晶ドロプレット)がランダムに形成された従来の散乱モードの高分子分散型液晶表示モードの液晶表示装置に比較し、液晶領域内の液晶分子の配向状態が表示品質に大きく影響する。したがって、液晶領域に不純物として含まれる光重合開始剤の量が低減されことによって、液晶領域内の液晶分子の配向が安定化し、配向欠陥を生じ難くすることによって、優れた表示品位を有する液晶表示装置を提供することができる。さらに、相分離を完全に近づけ、液晶領域の液晶のTN-I点を高くすることによって、軸対称モードの液晶表示装置を高温で保存した場合の液晶領域に配向不良が発生するという問題を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の液晶表示装置による広視野角化の原理を説明する模式図である。(a)は本発明による液晶表示装置の断面図、(b)は従来のTN型液晶表示装置の断面図である。
【図2】本発明の実施例1で用いられるホトマスクを示す模式図である。
【図3】実施例1の液晶表示装置を偏光顕微鏡で観察した結果を示す模式図である。
【図4】実施例2で用いられるビーズを混入したレジスト壁を有する基板の模式図である。
【図5】実施例3の液晶表示装置の断面を示す模式図である。
【符号の説明】
1、2 基板
5 消光模様
6 対称軸
7 高分子壁
8 液晶領域
9 液晶分子
10 液晶表示装置
20 マスク
20a 遮光領域
20b 透光領域
41 ビーズ
42 レジスト壁
50 液晶表示装置
51、52 基板
51a、52a 透明電極
51b,52b 配向膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】 高分子壁に実質的に包囲された複数の液晶領域が規則的に形成された液晶層を形成するための光重合性組成物に用いられる光重合開始剤であって、分子内に重合性官能基を有する光重合開始剤。
【請求項2】 下記の一般式(I)で示され、
【化1】


ここで、Aは水素原子又はC1−C4のアルキル基を表し、[R1]及び[R2]はそれぞれ独立にC1−C4のアルキル基又は[R1]と[R2]とで環を形成しているアルキレン基を表し、mは2から4の整数である、請求項1に記載の光重合開始剤。
【請求項3】 下記の一般式(II)で示される部分構造を有し、
【化2】


ここで、Aは水素原子又はC1−C4のアルキル基を表し、nは1または2の整数である、請求項1に記載の光重合開始剤。
【請求項4】 下記の一般式(III)で示され、
【化3】


ここで、[R]は下記の一般式(IV)で示され、
【化4】


Xは水素原子又はC1−C12のアルキル基を表し、Aは水素原子又はC1−C4のアルキル基を表わす、請求項3に記載の光重合開始剤。
【請求項5】 下記の一般式(V)で示され、
【化5】


ここで、[R]は下記の一般式(VI)で示され、
【化6】


Xは水素原子又はC1−C12のアルキル基またはヒドロキシエチル基を表し、Aは水素原子又はC1−C4のアルキル基を表す、請求項3に記載の光重合開始剤。
【請求項6】 下記の一般式(VII)で示され、
【化7】


ここで、[R]は下記の一般式(VIII)で示され、
【化8】


Aは水素原子又はC1−C4のアルキル基を表し、Bは水素原子又はC1−C4のアルキル基を表す、請求項3に記載の光重合開始剤。
【請求項7】 下記の一般式(IX)で示され、
【化9】


ここで、[R]は下記の一般式(X)で示され、
【化10】


Aは水素原子又はC1−C4のアルキル基を表す、請求項3に記載の光重合開始剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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