説明

光量子化装置及び光アナログデジタル変換装置

【課題】簡易な構成の光量子化装置及び光アナログデジタル変換装置を提供する。
【解決手段】量子化対象である被量子化光パルスP10を複数の経路に分割して出力する光分割手段21と、分割された各被量子化光パルスP10〜P10をそれぞれ異なる透過率で透過させる複数の光フィルタ23a〜23eと、光フィルタ23a〜23eを介して出力される被量子化光パルスP23a〜P23eを順次受け、該被量子化光パルスの光強度が閾値を超えた場合に光パルスP25を出力する光閾値フィルタ25とを備える構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光量子化装置及び光アナログデジタル変換装置に関し、入力された光パルスの強度に比例した数の光パルスを生成する光量子化装置及びこの光量子化装置を用いた光アナログデジタル変換装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、光パルスの強度に比例した数の光パルスを生成する光量子化回路として、例えば米国特許第4712089号(特許文献1)に記載されたものがある。
【0003】
この装置では、入力された被量子化光パルスを光分割手段によって量子化レベルの数に分割し、この分割された被量子化光パルスをそれぞれ異なる閾値を持つ複数の光閾値フィルタに入力する。
【0004】
光閾値フィルタは、入力された被量子化光パルスを閾値と比較し、閾値を超えた場合に光パルスを出力するようになされている。これにより光閾値フィルタからは、被量子化光パルスの強度に比例した数の光パルスが出力される。
【特許文献1】米国特許第4712089号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、光閾値フィルタは、構成が大型であり、このような大型の閾値フィルタを複数設けると、光量子化装置全体として大型化することを避け得なかった。また、このような大型の閾値フィルタを複数設けると、光の利用効率が低下してしまい、入力に必要な被量子化光パルスの強度が増大し、経済的な光量子化装置全体を構成することが難しかった。
【0006】
このような技術的課題を解決するためになされた本発明の目的は、簡易な構成の光量子化装置及び光アナログデジタル変換装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施の形態に係る特徴は、光量子化装置において、量子化対象である被量子化光パルスを複数の経路に分割して出力する光分割手段と、分割された各被量子化光パルスをそれぞれ異なる透過率で透過させる複数の光フィルタと、光フィルタを介して出力される被量子化光パルスを順次受け、該被量子化光パルスの光強度が閾値を超えた場合に光パルスを出力する光閾値フィルタとを備えることである。
【0008】
また本発明の実施の形態に係る特徴は、光アナログデジタル変換装置において、アナログ光信号を標本化する光標本化手段と、光標本化手段によって標本化されてなる被量子化光パルスを量子化して出力する光量子化手段と、光量子化手段によって量子化されてなる量子化光パルスをバイナリ変換するバイナリ変換手段とを有し、光量子化手段は、被量子化光パルスを複数の経路に分割して出力する光分割手段と、分割された各被量子化光パルスをそれぞれ異なる透過率で透過させる複数の光フィルタと、光フィルタを介して出力される被量子化光パルスを順次受け、該被量子化光パルスの光強度が閾値を超えた場合に量子化光パルスを出力する光閾値フィルタとを備えることである。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、簡易な構成の光量子化装置及び光アナログデジタル変換装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。以下の図面の記載において、同一の部分には同一の符号を付し、重複する記載は省略する。また、図面は模式的なものであり、各部の寸法等は現実のものと異なる。
【0011】
(第1の実施の形態)
図1に示すように、本発明の第1の実施の形態に係る光アナログデジタル変換装置10は、アナログ光信号S10(図2(A))を逐次サンプリングして被量子化光パルスP10(図2(B))の列(P10a、P10b、P10c、…)に変換する光標本化装置11と、光標本化部11から出力される被量子化光パルスP10(P10a、P10b、P10c、…)を逐次入力して量子化することにより量子化光パルスP12(図2(C))の列に変換する光量子化装置12と、光量子化装置12から出力される量子化光パルスP12の列を逐次入力してバイナリ変換することにより符号化光パルスP13(図2(D))を得る光バイナリカウンタ13とを備えている。
【0012】
光標本化装置11は、例えば四光波混合を利用するものを用いることができる。この光標本化装置11は、周波数ω2のアナログ光信号と、周波数ω1のサンプリングパルスを一緒に非線形媒質(分散シフトファイバ等)に通すことで、周波数2ω1−ω2のアナログパルス列(各パルスの振幅はサンプリングした時のアナログ光信号の大きさに比例する)を発生させるものである。因みに、周波数ωと波長λとの関係は、光速をcとすると、ω=1πc/λによって表される。なお、光標本化装置11としては、四光波混合を利用するものに限られるものではない。
【0013】
図3に示すように、本実施の形態に係る光量子化装置12は、量子化対象である被量子化光パルスP10(P10a、P10b、P10c、…)をそれぞれ複数の経路に分割して出力する光分割部21と、分割された各被量子化光パルスP10〜P10をそれぞれ異なる遅延時間だけ遅延させる複数の遅延線22a〜22eと、遅延線22a〜22eを介して出力される光パルスを異なる透過率で透過させる複数の光フィルタ23a〜23eと、光フィルタ23a〜23eを介して出力される光パルスP23a〜P23eを、合成する光合成部24と、光合成部24を介して順次出力される光パルスP23a〜P23eの光強度が閾値Pthを超えた場合に出力パルスP25(量子化光パルスP12)を出力する光閾値フィルタ25とを備える。
【0014】
光量子化装置12において、光分割部21は、例えばスターカプラを備える。具体的には、スターカプラには例えばファイバ型または導波路型の1×5スターカプラを用いることができ、1つの入力を5つの出力に分割する方向に設けられる。光分割部21は、被量子化光パルスP10(P10a、P10b、P10c、…)を該光量子化装置12における量子化レベルの数に分割する。例えば3つの被量子化光パルスP10a、P10b、P10cが順次入力された場合、被量子化光パルスP10aは、光量子化装置12の量子化レベルの数(この実施の形態の場合量子化レベル数は「5」であるが、これに限られるものではない)に分割され、被量子化光パルスP10bも同様にして、光量子化装置12の量子化レベルの数に分割され、被量子化光パルスP10cも同様にして、光量子化装置12の量子化レベルの数に分割される。
【0015】
光分割部21は、分割されたそれぞれ(P10〜P10)を遅延線アレイ22に出力する。遅延線アレイ22は、それぞれ導波路の長さが異なる複数の遅延線22a〜22eを有し、光分割部21において分割された結果の各被量子化光パルスP10〜P10を、それぞれ対応する遅延線22a〜22eに入力する。これらの遅延線22a〜22eにおいては、遅延線22aの導波路の長さが最も短く、遅延線22b、22c、22d、22eの順に長さが長くなっている、これにより遅延線22aにおける遅延時間が最も短く、遅延線22b、22c、22d、22eの順に遅延時間が長くなっている。図中に示す符号τは、遅延時間を表す。
【0016】
遅延線アレイ22において各々の遅延時間だけ遅延された被量子化光パルスP10、P10、P10、P10、P10は、それぞれ光透過アレイ23の対応する光透過率フィルタ23a〜23eに出力される。光透過率フィルタ23a〜23eは、それぞれ入力される光パルスを異なる透過率で透過させるようになされている。すなわち、光透過率フィルタ23a〜23eのうち、最も高い透過率をt、次に高い透過率をtとすると、次式、
【数1】

【0017】
を満たすように各光透過率フィルタ23a〜23eの光透過率を選択することにより、複数の被量子化光パルスP10〜P10の光強度が線形を呈するように強度調整することができる。例えば、t=1、t=1/2とした場合、t=1/3、t=1/4、t=1/5となる。この例の場合、遅延時間が最も短い遅延線22aの出力段に設けられた光透過率フィルタ23aは、入力された光パルスの光強度を減衰させずに出力するのに対して、2番目に遅延時間が短い遅延線22bの出力段に設けられた光透過率フィルタ23bは、入力された光パルスの光強度を1/2に減じて出力し、3番目に遅延時間が短い遅延線22cの出力段に設けられた光透過率フィルタ23cは、入力された光パルスの光強度を1/3に減じて出力し、4番目に遅延時間が短い遅延線22dの出力段に設けられた光透過率フィルタ23dは、入力された光パルスの光強度を1/4に減じて出力し、遅延時間が最も長い遅延線22eの出力段に設けられた光透過率フィルタ23eは、入力された光パルスの光強度を1/5に減じて出力する。なお、入力された光パルスの光強度を減衰させずに出力する光透過率フィルタ23aは、光透過率フィルタを設けない場合と等価であり、省略することができる。
【0018】
これにより、遅延線アレイ22及び光透過アレイ23を介して出力される各光パルスP23a、P23b、P23c、P23d、P23eにあっては、最も光強度の大きな光パルスP23aが出力された後、順次一定の時間間隔で光量レベルが次第に小さくなる光パルスP23b、P23c、P23d、P23eが出力される。なお、t、ti+1はt=1、t=1/2に限らず、例えばt=1.0、t=0.4など、種々の値を設定することができる。
【0019】
因みに、図4は、t=1.0、t=0.5、後述する光閾値フィルタの閾値Pthを1とした場合の光量子化装置12における入力パルスと出力パルス数の関係を示す図である。
【0020】
光透過アレイ23の出力段には、光透過率フィルタ23a〜23eの出力を合成する光合成部24が設けられている。この光合成部24は、例えばスターカプラを備える。具体的には、スターカプラには例えばファイバ型または導波路型の1×5スターカプラを用いることができ、5つの入力を1つの出力に合成する方向に設けられる。光合成部24は、光透過率フィルタ23a〜23eの出力を合成することにより、光パルスP23a〜P23eを所定の時間間隔ごとに順次光閾値フィルタ25に出力する。ここで、所定の時間間隔とは、前述した遅延線アレイ22に設けられた複数の遅延線22a〜22eの遅延時間によって決定される時間間隔である。
【0021】
このように、光量子化装置12においては、順次入力される被量子化光パルスP10(P10a、P10b、P10c、…)をそれぞれ光分割部21において分割した後、光透過率フィルタ23a〜23eにおいて異なる透過率で透過させることにより、1つの被量子化光パルス(例えばP10a)について、その光強度を最大として、光強度が順次小さくなる複数の光パルスP23a〜P23eを得る。光量子化装置12においては、遅延線22a〜22eの出力を光透過率フィルタ23a〜23eに入力するようになされていることにより、光パルスP23a〜P23eは、一定の時間差をもって順次光合成部24から光閾値フィルタ25に出力される。
【0022】
光閾値フィルタ25は、光合成部24から順次出力される光パルスP23a〜P23eを所定の閾値Pthと比較し、光パルスP23a〜P23eのうち、閾値よりも光強度が強い光パルスのみに対応して出力パルスP25を出力するようになされている。因みにこの出力パルスP25が図1について上述した量子化結果である量子化光パルスP12となる。
【0023】
図5に示すように、光閾値フィルタ25においては、第1の光増幅器31aを光フィルタ32a、33aによって挟むことにより第1のレーザ発振部30aが構成され、また第2の光増幅器31bを光フィルタ32b、33bによって挟むことにより第2のレーザ発振部30bが構成される。
【0024】
光増幅器31a、31bとしては、エルビウム添加光ファイバ増幅器や半導体光増幅器(SOA:Semiconductor Optical Amplifier)を用いることができる。また、レーザ発振器構成の光閾値フィルタとすることにより、光の位相に基づくものでないため、ロバスト性に優れている。
【0025】
光フィルタ32a、33a、32b、33bは、特定の波長の光のみを反射させ、他の波長の光を透過させるものであり、例えば、FBG(Fiber Bragg Grating)を用いることができる。このFBGは、周期的な屈折率変化を呈する回折格子を光ファイバのコアに形成したものであり、回折格子の周期と光ファイバの屈折率とに基づく特定の波長の光を反射させ、その他の波長の光は透過させる。この実施の形態の場合、第1のレーザ発振部30aを構成する光フィルタ32a、33aとして、被量子化光パルスP10とは僅かに異なる特定の波長の光を反射させるようなFBGを用いる。これにより、第1のレーザ発振部30aは、この特定の波長の光によって発振するようになされている。
【0026】
これに対して、第2のレーザ発振部30bを構成する光フィルタ32b、33bとしては、被量子化光パルスP10の波長及び光フィルタ32a、33aの反射波長のいずれに対しても僅かに異なる特定の波長の光を反射させるようなFBGを用いる。これにより、第2のレーザ発振部30bは、この特定の波長の光によって発振するようになされている。
【0027】
なお、この実施の形態の光増幅器31a、31bとしては、光通信で用いられる1550nm帯仕様の半導体光増幅器を用い、光閾値フィルタ25に入力される被量子化光パルスP10として1552.52nm、第1のレーザ発振部30aの光フィルタ32a、33aとして反射中心波長が1549.32nmのFBG、第2のレーザ発振部30bの光フィルタ32b、33bとして反射中心波長が1558.98nmのFBGを用いる。但しこれらの具体的数値はこれらに限られるものではない。
【0028】
第1のレーザ発振部30a及び第2のレーザ発振部30bは、光カプラ34によって結合されており、一方のレーザ発振部で得られるレーザ出力が他方のレーザ発振部の光増幅器に入力されるようになされている。本実施の形態の場合、第1のレーザ発振部30aにおいて光増幅器31aから光カプラ34に出力される光のうち、60パーセントが光フィルタ32aに入力され、40パーセントが第2のレーザ発振部30bの光増幅器31bに入力される。なお、光カプラ34の分岐比は、ここで説明した60/40に限らず、例えば50/50など、種々の分岐比を用いることができる。
【0029】
また、第2のレーザ発振部30bにおいては、光増幅器31bと光フィルタ33bとの間に光カプラ35が設けられており、この光カプラ35を介して出力パルスP25が出力されるようになされている。本実施の形態の場合、光カプラ35として分岐比が50/50のものを用いる。但し、この分岐比に限らず、種々の分岐比のものを用いることができる。
【0030】
ここで、第1のレーザ発振部30aは、第2のレーザ発振部30bのレーザ発振を停止させるだけのキャリアを該第2のレーザ発振部30bの光増幅器31bから奪う出力強度を持ち、これに対して、第2のレーザ発振部30bは、単体では第1のレーザ発振部30aを停止させるだけの出力強度を持っていないものとする。これにより、初期状態(デフォルト)においては、第1のレーザ発振部30aのみが発振するようになされている。
【0031】
かかる構成の光閾値フィルタ25において、光合成部24から光閾値フィルタ25に対して、光パルスP23a〜P23eが一定間隔で順次出力される場合について説明する。光合成部24から第1のパルスP23aが出力されると、光閾値フィルタ25では、この第1のパルスP23aを第1のレーザ発振部30aの光フィルタ32aに受ける。光フィルタ32aは、上述したように被量子化光パルスP10の波長(すなわち光パルスP23a〜P23eの波長)とは僅かに異なる波長の光を反射させるように設定されていることにより、光フィルタ32aは、光合成部24から出力された光パルスP23aを透過させる。この透過した光パルスP23aは、光カプラ34を介して光増幅器31aに入力される。
【0032】
光増幅器31aにおいては、レーザ発振が起こる反射波長と光パルスP23aとの波長の差が僅かであることにより、光パルスP23aは、光増幅器31aのキャリアを奪い、第1のレーザ発振部30aのレーザ出力を低下させる。このとき、第1のレーザ発振部30aのレーザ出力が第2のレーザ発振部30bのレーザ発振を完全に抑圧するために最低限必要な値を下回ると、第2のレーザ発振部30bはレーザ発振を始める。第2のレーザ発振部30bがわずかでも発振を始めると、そのわずかなレーザ出力も第1のレーザ発振部30aの光増幅器31aに入力されるため、第1のレーザ発振部30aのレーザ出力はさらに弱くなる。そして、第1のレーザ発振部30aにおけるレーザ出力がさらに弱くなることに応じて、第2のレーザ発振部30bのレーザ出力はさらに強くなる。このような、第1のレーザ発振部30aにおけるレーザ出力の低下と、これに応じた第2のレーザ発振部30bのレーザ出力の増大が繰り返されることにより、第1のレーザ発振部30aと第2のレーザ発振部30bとによって構成されるフリップフロップの状態は一気に高速で切り替わることとなる。第2のレーザ発振部30bのレーザ出力は、光カプラ35を介して出力パルスP25(量子化光パルスP12)として出力される。
【0033】
このように、光閾値フィルタ25においては、光合成部24から入射される光パルスP23aの光量に応じて第1のレーザ発振部30aのレーザ出力が低下し、この低下によって該レーザ出力が第2のレーザ発振部30bの発振を完全に抑圧するために必要な最低限の光量を下回った場合に、第1及び第2のレーザ発振部30a及び30bの発振状態が切り替わり、第2のレーザ発振部30bが発振を開始して出力パルスP25が得られる。因みに、光閾値フィルタ25の出力パルスP25は、レーザ発振部30bのレーザ発振から得られるため、信号再生効果を持っており、コントラストも高いという効果がある。
【0034】
ここで、第1及び第2のレーザ発振部30a及び30bによって構成されるフリップフロップにおいて、第2のレーザ発振部30bが発振状態にある場合、第1のレーザ発振部30aは発振停止状態となるが、この場合の第1のレーザ発振部30aの発振が完全に抑圧される条件について説明する。この実施の形態の場合、第2のレーザ発振部30bにおいては、デフォルト状態でのレーザ出力が第1のレーザ発振部30aのデフォルト状態でのレーザ出力と比べて極めて弱く、この状態では第1のレーザ発振部30aのレーザ発振を完全に抑圧し得ないように設定されている。すなわち、第1のレーザ発振部30aにおいては、第2のレーザ発振部30bが発振状態となった場合に、該第2のレーザ発振部30bのレーザ出力と、外部(光合成部24)から入力される光パルスとの和によって発振停止状態が保持されるようになされている。この場合、光合成部24から光パルスP23aが入力されて第1のレーザ発振部30aの入射光量が増加し、第1のレーザ発振部30aのレーザ出力が、第2のレーザ発振部30bのレーザ出力を完全に抑圧するために最低限必要な光量をわずかでも下回ると、発振状態が切り替わる。この発振状態が切り替わるときの光合成部24から第1のレーザ発振部30aに入射される光パルスの光量と、第2のレーザ発振部30bのデフォルト状態でのレーザ出力との和が、第1のレーザ発振部30aのレーザ発振を完全に抑圧するために最低限必要な光量となる。
【0035】
このようにして、光合成部24から光閾値フィルタ25に第1の光パルスP23aが入射されてフリップフロップの状態が切り替わり、第2のレーザ発振部30bから出力パルスP25が出力されている状態において、第1の光パルスP23aの立下りにより、光閾値フィルタ25に入射される入射光量が減少し、第1のレーザ発振器30aに入射される光パルスP23aと第2のレーザ発振部30bにおけるデフォルト状態でのレーザ出力との和が上述の最低限必要な光量を下回ると、第2のレーザ発振部30bが発振していても、第1のレーザ発振部30aが発振を始め、第1及び第2のレーザ発振部30a及び30bによるフリップフロップの状態が切り替わる。
【0036】
このように、本実施の形態の光閾値フィルタ25において、第1のレーザ発振部30aは、第2のレーザ発振部30bのレーザ発振を停止させるだけのキャリアを該第2のレーザ発振部30bの光増幅器31bから奪う出力強度を持ち、これに対して、第2のレーザ発振部30bは、単体では第1のレーザ発振部30aを停止させるだけの出力強度を持っていないものとすることにより、第1のレーザ発振部30aの入力を変化させる(すなわち光パルスを入射させる)ことによって第1及び第2のレーザ発振部30a及び30bによるフリップフロップの状態を切り替えることができる。
【0037】
上述したように光閾値フィルタ25は、光合成部24から順次出力される光パルスP23a〜P23eを順次入力するようになされており、これらの光パルスP23a〜P23eは、被量子化光パルスP10の光強度でなる第1の光パルスP23aを最大強度として、順次光強度が小さくなるパルス列である。そして、光閾値フィルタ25において、第1のレーザ発振部30aから光カプラ34を介して第2のレーザ発振部30bに入力されるレーザ出力が、該第2のレーザ発振部30bのレーザ発振を完全に抑圧するために最低限必要な光量となるための外部光(光パルス)の光強度を閾値Pthとすると、入力される光パルスP23a〜P23eのうち、その光強度が閾値Pthよりも大きな光パルスに対応して、図4について上述した光閾値フィルタ25のフリップフロップ動作が起こり、出力パルスP25が出力される。これに対して、閾値Pthよりも光強度が小さな光パルスが入力される場合には、フリップフロップ動作は起こらず(第2のレーザ発振部30bが発振せず)、出力パルスP25は出力されない状態となる。かくして、光量子化装置12においては、入力される1つの被量子化光パルスP10(P10a、P10b、P10c、…)ごとに、その光強度に応じた数の出力パルスP25(量子化光パルスP12)を出力することができる。
【0038】
光量子化装置12から出力される量子化光パルスP12は、図1に示した光バイナリカウンタ13に入力される。光バイナリカウンタ13は、光ロジックを組み合わせた構成を有し、量子化光パルスP12を逐次バイナリ変換することにより符号化光パルスP13を得る。この符号化光パルスP13は、例えば図2(D)に示すように、3ビットのパルスとして出力される。
【0039】
以上の構成において、本実施の形態に係る光アナログデジタル変換装置10の光標本化装置11に、アナログ光信号S10(図2(A))が入力されると、光標本化装置11においてこのアナログ光信号S10がサンプリングされることにより、被量子化光パルスP10(図2(B))を得る。この被量子化光パルスP10は、アナログ光信号S10を所定のクロック周波数で順次サンプリングした結果であり、アナログ光信号S10の各サンプリング点a〜eでの光強度に対応した信号レベルの被量子化光パルスP10a〜P10eとして出力される。なお、ここでは、5つのサンプリング点a〜eでのサンプリング結果として、5つの被量子化光パルスP10a〜P10eが出力される場合について説明する。
【0040】
光標本化装置11においてサンプリングされてなる被量子化光パルスP10a〜P10eは、光量子化装置12に順次出力される。光量子化装置12は、図3について上述したように被量子化光パルスP10a〜P10eを量子化することにより、量子化結果である量子化光パルスP12(図2(C))を得る。この量子化光パルスP12として、各被量子化光パルスP10a〜P10eごとに、その光強度に応じた数の量子化光パルスP12a〜P12eが出力される。光量子化装置12において量子化されてなる量子化光パルスP12a〜P12eは、光バイナリカウンタ13に出力される。光バイナリカウンタ13は、量子化光パルスP12a〜P12eをバイナリ変換することにより、符号化光パルスP13(図2(D))を得る。この実施の形態の場合、符号化光パルスP13は、パルスの大きさを1〜4の4段階として、これを2進数によって3ビットで表し、量子化光パルスP12aに基づいて符号化された強度2のパルスp13a(3ビットで「010」)、量子化光パルスP12bに基づいて符号化された強度1のパルスP13b(3ビットで「001」)、量子化光パルスP12cに基づいて符号化された強度3のパルスP13c(3ビットで「011」)、量子化光パルスP12dに基づいて符号化された強度4のパルスP13d(3ビットで「100」)、量子化光パルスP12eに基づいて符号化された強度3のパルスP13e(3ビットで「011」)の順に出力される。かくして、アナログ光信号S10は、光アナログデジタル変換装置10によって、3ビットのデジタル信号でなる符号化光パルスP13に変換される。
【0041】
以上のように本実施の形態においては、光量子化装置12に入力される被量子化光パルスP10を、光分割部21によって量子化レベルの数だけ分割した後、該分割された各々の被量子化光パルスP10〜P10をそれぞれ異なる透過率のフィルタ(光フィルタ23a〜23e)を通すことによって異なる光強度にする。これにより光量子化装置12に入力される1つの被量子化光パルスP11について、その光強度を最大とし順次光強度が小さくなる複数の光パルスP23a〜P23eが得られる。光閾値フィルタ25は、複数の光パルスP23a〜P23eのうち、閾値Pthを上回る強度を持つ光パルスが入力された場合のみ出力パルスP25(量子化光パルスP12)を出力する。これにより、被量子化光パルスP11の光強度に比例した数の量子化光パルスP12を生成することができる。
【0042】
このように、本実施の形態によれば、量子化レベルの数だけ分割された被量子化光パルスP10〜P10をそれぞれ異なる光透過率の光フィルタ23a〜23eを介して光閾値フィルタ25に入力させるようにしたことにより、1つの光閾値フィルタ25によって光量子化処理を実行することができる。これにより、光量子化装置12及びこれを用いた光アナログデジタル変換装置10の構成を簡易化することができる。かくして、光信号の光電変換を伴わない光処理を簡易な構成によって実現することができる。
【0043】
(他の実施の形態)
なお上述の実施の形態においては、光量子化装置12において、遅延線アレイ22の後段に光透過率フィルタアレイ23を設ける場合について述べたが、本発明はこれに限らず、それらの順番を入れ替えるように構成してもよい。
【0044】
また上述の実施の形態では、光増幅器31a(31b)を光フィルタ32a、33a(32b、33b)で挟んだ構成のレーザ発振部30a(30b)を用いる場合について述べたが、本発明はこれに限らず、レーザ発振部としては、リング型や光フィルタも不要となるマイクロリング型等、種々の構成のものを用いることができる。
【0045】
また光閾値フィルタ25に代えて、例えば図6に示すように、双安定半導体レーザ51からなる光閾値フィルタ50を用いるようにしてもよい。この双安定半導体レーザ51は、利得領域52の間に可飽和吸収領域53が形成されている。レーザへの注入電流を適当な値に設定することにより、外部から注入する光の強度が一定量を上回った場合のみレーザを発振する光閾値動作が得られる。この光閾値フィルタ50を用いることにより、光量子化装置12の構成を一段と簡単化することができる。
【0046】
また光閾値フィルタ25に代えて、例えば図7に示すように、非線形エタロンからなる光閾値フィルタ60を用いるようにしてもよい。この光閾値フィルタ60は、可飽和吸収領域(例えば、GaAs/GaAlAs超格子膜)61を、多層膜鏡62で挟んで共振器を構成することにより、入射する光強度の増加に伴い透過率に極めて強い非線形性を得ることができる。この光閾値フィルタ60を用いることにより、電気的なバイアスが不要となる。
【0047】
また図8は、光量子化装置12を光導波路によって集積化した場合の構成例を示す。但し、図8において、光閾値フィルタ25は省略し、光分割部21から光合成部24までの光路を示す。また、図8において量子化レベルの数を8とする。被量子化光パルスP10は、光分割部21に入力される。光分割部21としては、Y型分岐やエバネッセント波を介したギャップ型カプラ等、種々の構成のものを用いることができる。また、これらの分岐比を調整することにより、光透過率フィルタアレイ23を兼ねることができる。このようにして分割された被量子化光パルスP10は、遅延線アレイ22のような、内側と外側が存在するカーブ状の光路を伝播させることにより遅延配置を異ならせることができる。遅延線アレイ22を介した光パルスを光合成部24に入力させることにより、光閾値フィルタ25に入力させる光パルスP23のパルス列が生成される。なお、図8では、光透過率フィルタアレイ23の機能を光分割部21に持たせ、光合成部24は、全光路のカプリング比が同じであるものとみなしたが、光透過率アレイ23の機能を光分割部21と光合成部24の両方に持たせる等、種々の組み合わせを用いることができる。また、光路の引き回しについても、種々の構成を用いることができる。このような光集積回路は、光リソグラフィー技術等を応用して形成することができるため、入力部から光式値フィルタ25までの光路を一段と小さく形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0048】
【図1】第1の実施の形態に係る光アナログデジタル変換装置を示すを示すブロック図である。
【図2】図1の光アナログデジタル変換装置における信号処理の説明に供する信号波形図である。
【図3】図1の光アナログデジタル変換装置の光量子化装置の構成を示すブロック図である。
【図4】図3の光量子化装置における入力パルス強度と出力パルス数の関係を示すグラフである。
【図5】図3の光量子化装置の光閾値フィルタの構成を示すブロック図である。
【図6】他の実施の形態に係る双安定半導体レーザを用いた光閾値フィルタの構成例を示す略線図である。
【図7】他の実施の形態に係る非線形エタロンからなる光閾値フィルタの構成例を示す略線図である。
【図8】光導波路によって集積化した光量子化装置の構成例を示す略線図である。
【符号の説明】
【0049】
10 光アナログデジタル変換装置
11 光標本化装置
12 光量子化装置
13 光バイナリカウンタ
21 光分割部
22 遅延線アレイ
23 光透過率フィルタアレイ
24 光合成部
25、50、60 光閾値フィルタ
30a、30b レーザ発振部
31a、31b 光増幅器
32a、32b、33a、33b 光フィルタ
51 双安定半導体レーザ
52 利得領域
53、61 可飽和吸収領域
62 多層膜鏡


【特許請求の範囲】
【請求項1】
量子化対象である被量子化光パルスを複数の経路に分割して出力する光分割手段と、
前記分割された各被量子化光パルスをそれぞれ異なる透過率で透過させる複数の光フィルタと、
前記光フィルタを介して出力される被量子化光パルスを順次受け、該被量子化光パルスの光強度が閾値を超えた場合に光パルスを出力する光閾値フィルタと
を備えることを特徴とする光量子化装置。
【請求項2】
前記光分割手段は、前記被量子化光パルスを、量子化レベルの数だけ分割することを特徴とする請求項1に記載の光量子化装置。
【請求項3】
前記分割された複数の被量子化光パルスを、それぞれ異なる時間だけ遅延させる複数の遅延手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の光量子化装置。
【請求項4】
前記光フィルタを透過した各被量子化光パルスを、前記光閾値フィルタに順次出力する光合成手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の光量子化装置。
【請求項5】
前記光閾値フィルタは、半導体光増幅器を有するレーザ発振手段を備えることを特徴とする請求項1に記載の光量子化装置。
【請求項6】
前記光閾値フィルタは、
前記光フィルタから出力される被量子化光パルスを受けてレーザ出力が減少する第1のレーザ発振手段と、
前記第1のレーザ発振手段のレーザ出力を入力し、このレーザ出力の減少に応じてレーザ発振を開始する第2のレーザ発振手段と、
を備え、
前記光閾値フィルタは、前記第2のレーザ発振手段のレーザ出力を出力することを特徴とする請求項1に記載の光量子化装置。
【請求項7】
前記第1及び第2のレーザ発振手段は、それぞれ半導体光増幅器を含むことを特徴とする請求項6に記載の光量子化装置。
【請求項8】
前記光閾値フィルタは、可飽和吸収体を含む双安定半導体レーザであることを特徴とする請求項1に記載の光量子化装置。
【請求項9】
前記光閾値フィルタは、可飽和吸収体を多層膜鏡で挟んだ共振器によって構成されることを特徴とする請求項1に記載の光量子化装置。
【請求項10】
アナログ光信号を標本化する光標本化手段と、
前記光標本化手段によって標本化されてなる被量子化光パルスを量子化して出力する光量子化手段と、
前記光量子化手段によって量子化されてなる量子化光パルスをバイナリ変換するバイナリ変換手段と
を有し、前記光量子化手段は、
前記被量子化光パルスを複数の経路に分割して出力する光分割手段と、
前記分割された各被量子化光パルスをそれぞれ異なる透過率で透過させる複数の光フィルタと、
前記光フィルタを介して出力される被量子化光パルスを順次受け、該被量子化光パルスの光強度が閾値を超えた場合に前記量子化光パルスを出力する光閾値フィルタと
を備えることを特徴とする光アナログデジタル変換装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−187757(P2007−187757A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−4214(P2006−4214)
【出願日】平成18年1月11日(2006.1.11)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【Fターム(参考)】