説明

光量調節装置、光量調節装置を有する光学系及び撮影装置

【課題】透過率が連続的に変化するグラデーションNDフィルターによって生じる光学性能の劣化を、最小限に抑制することが可能となる光量調節装置、光学系及び撮影装置を提供する。
【解決手段】開口を形成するための絞り羽根1、2と、該絞り羽根に取り付けられ、該開口を通過する光の光量を調節するフィルター部材3を有する光量調節装置において、前記フィルター部材は、透過率が連続的に変化するグラデーションND領域5を有し、該グラデーションND領域の長さをLGNDとし、前記絞り開口における入射瞳径をDとしたとき、つぎの条件式を満足する構成とする。
0.1 < LGND/D < 0.5

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、デジタルビデオやデジタルスチルカメラ等の光学機器に使用される光量調節装置に関するものである。特に、光学性能の劣化の抑制が可能であり、画素ピッチの小さな撮像素子によるカメラの撮影レンズ等にも好適な光量調節装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラ、デジタルビデオ等の撮像光学系には、絞り羽根で形成される開口径を変化させて光量を調整する光量調整装置(光量絞り装置)が使用されている。
このような光量調整装置では、高輝度被写体を撮影する際に開口径が小さくなると光の回折により光学性能の劣化が生じる。そのため、従来において絞り羽根とND(Neutral Density)フィルターとを併用した光量調整装置が、多数提案されている。例えば、特許文献1では、一定の絞り値までは機械的な絞り羽根を用いた絞り制御を行い、一定の絞り値以下においてNDフィルターを用いた小絞り制御を行う光量調節装置が提案されている。この光量調節装置では、開放から所定の開口面積までは機械的な絞り羽根を移動させ、この機械的な絞り羽根により絞り制御を行う。このような制御と共に、一定の絞り値以下の小絞り制御においては、濃淡によって透光度が連続的に変化するNDフィルターを用い、透過率の高いフィルター部から順に開口に進入させ、絞り制御を行うように構成されている。
【0003】
しかしながら、特許文献1のような構成では、NDフィルターの端縁が絞り開口上に位置した場合、光の一部はフィルター部を、残りの光はフィルターのない部分を通過する。そのため、両者の間でその厚みの差による位相差が生じ、光学性能が劣化するという問題が生じる。
このようなことから、例えば、特許文献2では厚みの差による位相差が生じないようにして、光学性能の劣化を回避する透過光量調整機構が提案されている。
ここでは、透明な部分と透過率が連続的に変化するフィルター部分、あるいは透明な部分と透過率の低いフィルター部分とで構成されたNDフィルターが用いられる。このように構成されたNDフィルターを固定の円形絞り開口の全てを覆う状態で可動させて、透過光量を調整するように構成されている。
【0004】
また、特許文献3では、上記した特許文献2のようにフィルターのある部分とない部分とにおける大きな位相差ではなく、光の波長オーダー以下の透過波面位相差によっても光学性能の劣化が生じることに着眼した提案がなされている。
すなわち、ここでは、透過率変化のあるNDフィルターを実現するときに、透過率変化を与えるために生じる微小厚みの変化、あるいは微小屈折率変化による光の波長λ以下の透過波面位相差に着眼した提案がなされている。
ここでのNDフィルターは、透過率が連続的に変化するグラデーションND領域(グラデーション濃度分布領域)と、透過率が80%以上で均一透過率の透明部分領域を有している。このようなNDフィルターにおいて、グラデーションND領域と透明部分領域との境界部を通過する所定の波長λの光の位相差がλ/5以下となるように構成されている。これにより、光の波長オーダー以下の透過波面位相差による光学性能の劣化の回避が図られている。
【特許文献1】特開昭52−117127号公報
【特許文献2】特開平6−265971号公報
【特許文献3】特開2004−205951号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記した従来例において、NDフィルターを用いた際における光学性能の劣化に対して、前述したようにそれぞれの対策が採られている。
例えば、上記した特許文献2では、フィルターのある部分とない部分とにおける大きな位相差による光学性能の劣化を回避する対策が採られている。
また、上記した特許文献3では、NDフィルターを実現するときに、透過率変化を与えるために生じる微小厚みの変化、あるいは微小屈折率変化による光の波長λ以下の透過波面位相差による光学性能の劣化を回避する対策が採られている。しかしながら、これら以外の要因によっても生じる光学性能の劣化の問題と対策については、何ら示されていない。実際、透過率が連続的に変化するグラデーションND領域を有するNDフィルターにおいては、絞り開口に対するグラデーションND領域の長さによって生じる透過波面位相差も、光学性能の劣化に影響を与えている。
【0006】
本発明は、上記課題に鑑み、透過率が連続的に変化するグラデーションNDフィルターによって生じる光学性能の劣化を、最小限に抑制することが可能となる光量調節装置、光学系及び撮影装置を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、グラデーションNDフィルターによる絞り羽根を有する光量調節装置において、絞り開口部での透過光量が落ちる現象を最小限に抑制することが可能となる光量調節装置、光学系及び撮影装置を提供することを目的とするものである。
また、本発明は、小絞り時の光の回折による性能劣化に対しても有効な光量調節装置、光学系及び撮影装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題を解決するため、つぎのように構成した光量調節装置、該光量調節装置を有する光学系及び撮影装置を提供するものである。
すなわち、本発明の光量調節装置は、開口を形成するための絞り羽根と、該絞り羽根に取り付けられ、該開口を通過する光の光量を調節するフィルター部材を有する光量調節装置において、前記フィルター部材は、透過率が連続的に変化するグラデーションND領域を有し、該グラデーションND領域の長さをLGNDとし、前記絞り開口における入射瞳径をDとしたとき、つぎの条件式を満足することを特徴としている。
0.1 < LGND/D < 0.5
その際、上記条件式の数値範囲を、
0.15 < LGND/D < 0.45
を満足するように設定することが、望ましい。
更には、LGND/D =0.39に設定することが、より望ましい。
また、本発明の光学系は、上記した光量調節装置を有することを特徴としており、光電変換素子上に像を形成する構成を採ることができる。
また、本発明の光学系は、上記した光量調節装置を有する光学系と、該光学系によって形成される像を受光する光電変換素子とを備えることを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、透過率が連続的に変化するグラデーションNDフィルターによって生じる光学性能の劣化を、最小限に抑制することが可能となる。
また、本発明によれば、グラデーションNDフィルターによる絞り羽根を有する光量調節装置において、絞り開口部での透過光量が落ちる現象を最小限に抑制することが可能となる。
また、本発明によれば、小絞り時の光の回折による性能劣化に対しても有効な光量調節装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
上記した構成により、グラデーションNDフィルターによって生じる光学性能の劣化を、最小限に抑制することが可能となるが、本発明の実施の形態においては、さらにつぎのような構成を採ることができる。
前記フィルター部材が、前記グラデーションND領域における透過率が最小の領域と連続した均一透過率のND領域を有し、該均一透過率のND領域の透過率が前記最小領域よりも更に低い透過率を有する構成とすることができる。
また、前記フィルター部材が、前記グラデーションND領域における透過率が最大の領域と連続した透明部領域を有し、該透明部領域の透過率が80%以上の均一透過率とされている構成とすることができる。
また、前記フィルター部材が、前記開口の一部、または全部を覆うように設定されている構成とすることができる。
また、前記フィルター部材が取り付けられた絞り羽根が、像面に対し傾けて配置されている構成とすることができる。
【実施例】
【0010】
以下に、本発明の実施例について説明する。なお、以下の実施例の説明において、使用する波長は可視光域を使用波長域としており、その際の波長をλ=550nmとしている。
[実施例1]
本発明の実施例1として、本発明を適用した光量調節装置におけるグラデーションNDフィルターの構成例について説明する。
図1に、本実施例における絞り羽根とグラデーションNDフィルターによる開口部の概略構成を示す。
図1において、1、2は絞り羽根、3はグラデーションNDフィルターである。絞り羽根1、2は、相対する方向に動かされることによって絞りの開口状態を調節する。
グラデーションNDフィルター3は、透過率が連続的に変化するようにND蒸着膜が傾斜状に蒸着されたグラデーションND領域5と、ND蒸着膜が均一に蒸着されたND領域6から構成されている。このグラデーションND領域5、6によって、基盤であるフィルム状の樹脂製フィルター4の表面の透過光量を減衰させることができる。
また、グラデーションNDフィルター3は、グラデーションND領域5における透過率が最大の領域と連続した透明部領域7を有しており、この透明部領域の透過率は80%以上で均一の透過率とされている。
【0011】
本実施例のグラデーションND領域5には、膜厚を連続的に変化させ、ND濃度がND=0.1からND=1.0まで、グラデーションNDフィルター3の移動方向に連続的に変化するようにND蒸着膜が蒸着されている。またND領域6には、膜厚一定でND濃度がND=1.0になるようにND蒸着膜が蒸着されている。また、グラデーションNDフィルター3は、絞り開口がFナンバー(Fno)=4.0にて開口部を上記ND領域5、6が全て覆うように設定されている。
ここで、ND領域の透過率は10‐ND濃度で計算される。例えば、ND0.1は透過率79.4%、ND1.0は透過率10%である。
【0012】
本実施例においては、絞り開口径に対するグラデーションND領域5の占める割合が、つぎの条件式(1)を満たすように設定されている。
0.1 < LGND/D < 0.5 ………(1)
ここで、LGNDはグラデーションND領域5のグラデーションNDフィルター3の移動方向の長さ、Dは絞り開口における入射瞳径である。
上記条件式において、上限値を超えると絞り開口径に対してグラデーションND領域5が多くなり、平均濃度が薄くなるため、小絞り時の光の回折に対する効果が弱まる。一方、下限値を超えるとグラデーションND領域5が少なくなるため、微小厚みによる透過波面
位相差が生じ、画質の劣化を引き起こす。
また、絞り開口部に均一濃度の掛かり量が増えてしまうため、透過光量が落ちる現象が生じる(以下、このような透過光量が落ちる現象を「Tナンバー(Tno)落ち」と記す。Tnoは、Fno/√(透過率%)×10で表される値である。)。
したがって、上記条件式を満たすように設定することで、Tno落ちを考慮しつつ、グラデーションND領域を透過する光束と透過率の高いフィルター部材を通過する光束との間の、透過波面位相差による光学性能劣化を抑制することが可能となる。その際、上記条件式(1)の数値範囲を
0.15 < LGND/D < 0.45 ………(1)’
を満足するように設定することが、性能劣化を少なくし、更に画質の向上を図る上で望ましい。
【0013】
ここで、グラデーションNDフィルターは、表面反射を防止するために反射防止膜を施していることが望ましい。この様に設定することで、フィルター面の反射によって生じるゴーストの強度を抑えることができる。
また、グラデーションNDフィルターは、光源に対してうつ伏せ(正対する方向とは反対方向)に傾けるようにすることが望ましい。通常、太陽などの高輝度光源は上側にあるため、光源に対しうつ伏せ(つまり下向き)に傾けることによって、NDフィルター面の反射に起因するゴースト光線を撮像装置外へ逃がすことができる。例えば、光軸に対して垂直な面に対し下向きに4°に傾けるようにする。
【0014】
図2は本実施例のグラデーションNDフィルターを併用したズームレンズの概略図である。
表1に、本実施例のグラデーションNDフィルターを併用したズームレンズの数値実施例を示す。
【0015】
【表1】

【0016】
表1において、riは物体側からi番目の面の曲率半径、diは物体側からi番目の面とi+1番目の面との間の面間隔、niは第i番目のレンズのd線における屈折率である。なお、ここで、νiは第i番目のレンズのd線におけるアッベ数を示すものとする。
また、kを円錐定数、A’,B,B’,C,C’,D,D’,E,E’,Fを3次、4次
、5次、6次、7次、8次、9次、10次、11次、12次の非球面係数とする。
また、光軸からの高さhの位置での光軸方向の変位を面頂点を基準にしてxとする。
これらにより、非球面形状は、つぎの式で表示される。
x=(h2/R)/[1+[1−(1+K)(h/R)21/2] +A’h3+Bh4+B’h5+Ch6+C’h7+Dh8+D’h9+Eh10+E’h11+Fh12
但し、Rは曲率半径であり、「e−X」は「×10-X」を意味している。尚、非球面は各表中の面番号の左側に*印を付している。
【0017】
つぎに、絞り羽根と本実施例のグラデーションNDフィルターを併用した場合について説明する。
図3に、本実施例のグラデーションNDフィルターを絞り羽根に取り付けて使用した場合のTnoとMTF値との関係を示す。
図3から明らかなように、本実施例のグラデーションNDフィルターの併用により、Tno=8の時で53.6%、Tno=16の時で37.0%、Tno=22の時で27.5%程度に画質劣化は留まっている。この時生じている透過波面の位相変化率は0.93λ/Aになっている。ここで、Aは絞りの開放径に対するグラデーションND領域の長さの比を表している。また、絞り開放時のTnoは2.1の落ちに留まっている。
【0018】
[比較例1]
比較例1として、グラデーションNDフィルターを併用しない絞り羽根のみを備えた構成例について説明する。
図4に、比較例1におけるグラデーションNDフィルターを併用せず、図2に示すズームレンズの絞り羽根のみで絞り開口状態から小絞り状態まで絞り込んだ時のFnoとMTF値との関係を示す。
図中のグラフは、左縦軸にMTF値(軸上光学性能値)、横軸にFno(開口Fナンバー)、右縦軸にTnoを示している。また、グラフ上側には各絞り開口状態の概略図を示している。
また、MTFの計算条件は、白色カラーウエイトでの波動光学的なもので行っており、評価空間周波数は111本/mmとした。
図4から明らかなように、比較例1のNDフィルターを併用した場合には、絞り開放時には光学性能が最も良好であるが、絞り込むことにより小絞り時に生じる回折によって、光学性能が劣化している。
上記小絞り時(Fno=11.2)はMTF値が9.4%となっているため、被写体像が解像しないレベルにまで落ち込んでいる。この状態では高輝度被写体には対応できないないレンズになってしまうこととなる。
【0019】
[比較例2]
比較例2として、高輝度被写体に対応できるる均一濃度のNDフィルターを併用した構成例について説明する。
図5に、比較例2における高輝度被写体に対応できる均一濃度のNDフィルターと絞り羽根による開口部の概略構成を示す。
図5において、11、12は絞り羽根、13は均一濃度のNDフィルターである。
絞り羽根11、12は、相対する方向に動かされることによって絞りの開口状態を調節する。
均一濃度のNDフィルター13は、ND=1.0の均一濃度のND領域16を備えている。
比較例2の構成例では、絞り羽根にND=1.0の濃度(透過率10.0%)のND領域16を備えているNDフィルターを取り付け、絞り開口がFno=4にて開口部をND領域が全て覆うように設定されている。
図6に、比較例2におけるND=1.0のNDフィルターを絞り羽根に取り付けて使用し
た場合のTnoとMTF値との関係を示す。
図6から明らかなように、比較例2のNDフィルターの併用により、小絞り時(Tno=22)でも31.7%程度に画質劣化は留まっている。しかし、Tno=6前後で微小厚みによる透過波面位相差の影響で、光学性能の劣化が生じている。この時生じている透過波面位相差は0.37λである。
【0020】
[比較例3]
比較例3としてグラデーションND領域を入射瞳径に対する比率で0.07とした構成例について説明する。
図7に、比較例3におけるグラデーションNDの傾斜領域が短いNDフィルターと絞り羽根による開口部の概略構成を示す。なお、ここでは、比較例2における図5に示した構成と同様の構成には同一の符号が付されており、実施例1と共通する部分の説明については省略する。
図7において、グラデーションNDフィルター13は、透過率が連続的に変化するようにND蒸着膜が傾斜状に蒸着されたグラデーションND領域15と、ND蒸着膜が均一に蒸着されたND領域16から構成されている。
図7に示す比較例3の構成例では、実施例1と異なりグラデーションND領域15を入射瞳径に対する比率で0.07としている。また、このときのグラデーションNDのND濃度はND=1.0からND=0.1としており、絞り開口がF4にて開口部をND領域が全て覆うように絞りに取り付けられている。
図8に、比較例3における絞り羽根と上記仕様のグラデーションNDフィルターを併用した場合のTnoとMTF値との関係を示す。
この図8から、絞り開放から急激にMTF値が落ち込んでいるのが分かる。
これは、グラデーションNDの傾斜幅が開口径に対して短いことに基づくものである。すなわち、絞り開口を通過する光線束においてND領域を通過する光束と透過率の高いフィルター領域との間で急激な膜厚段差が生じ、そのため透過波面位相差による光学性能劣化が生じることとなる。
この時生じている透過波面の位相変化率は、4.85λ/Aであり、傾斜による位相差変化率は数値実施例1の5.2倍になっている。
また、絞り開放時のTnoは、数値実施例1と同じ濃度にも関わらず2.24まで落ち込んでおり、グラデーションNDとしての効果が十分得られていない。
このように、位相変化率の大きいグラデーションNDフィルターを併用した場合、均一濃度のNDフィルターと同様に、微小厚みによって生じた透過波面位相差による光学性能劣化の影響を受けることとなる。
【0021】
[実施例2]
本発明の実施例2として、実施例1とは異なる構成例について説明する。
図9に、本実施例における絞り羽根とグラデーションNDフィルターによる開口部の概略構成を示す。なお、ここでは、実施例1における図1に示した構成と同様の構成には同一の符号が付されており、実施例1と共通する部分の説明については省略する。
本実施例のグラデーションND領域5は、膜厚を連続的に変化させ、ND濃度がND=0.1からND=1.5(透過率3.2%)まで連続的に変化するように蒸着されており、ND領域6は膜厚一定でND濃度がND1.5になるように蒸着されている。
また、グラデーションNDフィルターは絞り開口がF4にて開口部をNDが全て覆うように設定しており、LGND/D=0.39としている。
【0022】
図10に、本実施例におけるグラデーションNDフィルターを絞り羽根に取り付けて使用した場合のTnoとMTF値との関係を示す。
比較例1の絞り羽根のみ、比較例2の均一濃度NDフィルター併用の場合とは異なり、Tno=8の時で50.3%、Tno=16の時で43.1%、Tno=22の時で38.
9%程度の画質劣化に留まっている。この時生じている透過波面の位相変化率は1.45λ/Aになっている。
また、絞り開放時のTnoは、NDの最小透過率が3.2%にも関わらず、2.14に留まっている。
この様に濃度による透過波面の位相変化率への影響は、グラデーションNDの傾斜による透過波面の位相変化率への影響と比較して小さい。
しかし、NDの濃度を濃くした場合、小絞り時に生じる回折に対しては有利であるが、絞り開口に透過率の低いNDフィルター領域と透過率の高い透明部領域とができ、上下方向に透過率の差による照度のアンバランスが生じる。したがって、NDの濃度はND=1.5以下にするのが望ましい。
【0023】
以上のように、撮影光学系等の光学系の絞りとして各実施例のグラデーションNDフィルターを併用することによって、特に絞り開放から常用Tno域(Tno=4〜16)における透過波面位相差による性能劣化を少なくすることができる。それにより、画質の向上を図ることが可能となる。
また、ND領域によるTno落ちを最小限に抑えながら、小絞り時の回折による性能劣化を抑えることも可能となる。
【0024】
[実施例3]
本発明の実施例3として、本発明のグラデーションNDフィルターを絞り羽根に取り付けて構成した光量調節装置を有する撮影装置について説明する。
図11において、20は撮影装置本体、10は撮影光学系である。
11は本発明のグラデーションNDフィルターが取り付けられた絞り羽根で構成された光量調節装置である。
12は撮影光学系10によって形成される被写体像を受光する固体撮像素子(光電変換素子)、13は撮像素子12が受光した被写体像を記録する記録媒体、14は被写体像を観察するためのファインダーである。ファインダー14としては、光学ファインダーや液晶パネル等の表示素子に表示された被写体像を観察するタイプのファインダーが考えられる。
このように、本発明の光量調整装置を、ビデオカメラやデジタルスチルカメラ等の固体撮像素子上に被写体像を形成するタイプの撮影装置に適用することにより、良好な性能の撮影装置を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施例1におけるグラデーションNDフィルターと絞り羽根による開口部の構成を示す概略図。
【図2】本発明の実施例1におけるグラデーションNDフィルターを併用したズームレンズの概略図。
【図3】本発明の実施例1におけるグラデーションNDフィルターを絞り羽根に取り付けて使用した場合のTnoとMTF値との関係を示す図。
【図4】比較例1におけるNDフィルターを併用せず絞り羽根のみで絞り開口状態から小絞り状態まで絞り込んだ時のFnoとMTF値との関係を示す図。
【図5】比較例2における高輝度被写体に対応できる均一濃度のNDフィルターと絞り羽根による開口部の構成を示す概略図。
【図6】比較例2におけるNDフィルターを絞り羽根に取り付けて使用した場合のTnoとMTF値との関係を示す図。
【図7】比較例3におけるグラデーションNDの傾斜領域が短いNDフィルターと絞り羽根による開口部の構成を示す概略図。
【図8】比較例3におけるグラデーションNDの傾斜領域が短いNDフィルターを併用した場合のTnoとMTF値との関係を示す図。
【図9】本発明の実施例2におけるグラデーションNDフィルターと絞り羽根による開口部の構成を示す概略図。
【図10】本発明の実施例2におけるグラデーションNDフィルターを絞り羽根に取り付けて使用した場合のTnoとMTF値との関係を示す図。
【図11】本発明のグラデーションNDフィルターを絞り羽根に取り付けて構成した光量調節装置を有する撮影装置の概略図。
【符号の説明】
【0026】
1:絞り羽根
2:絞り羽根
3:グラデーションNDフィルター(フィルター部材)
4:基盤であるフィルム状の樹脂製フィルター
5:透過率が連続的に変化するグラデーションND領域
6:ND蒸着膜が均一に蒸着されたND領域
GND:グラデーションND領域の長さ
D:絞り開口における入射瞳径














【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を形成するための絞り羽根と、該絞り羽根に取り付けられ、該開口を通過する光の光量を調節するフィルター部材を有する光量調節装置において、
前記フィルター部材は、透過率が連続的に変化するグラデーションND領域を有し、該グラデーションND領域の長さをLGNDとし、前記絞り開口における入射瞳径をDとしたとき、下記条件式を満足することを特徴とする光量調節装置。
0.1 < LGND/D < 0.5
【請求項2】
前記フィルター部材は、前記グラデーションND領域における透過率が最小の領域と連続した均一透過率のND領域を有し、該均一透過率のND領域の透過率が前記最小領域よりも更に低い透過率とされていることを特徴とする請求項1に記載の光量調節装置。
【請求項3】
前記フィルター部材は、前記グラデーションND領域における透過率が最大の領域と連続した透明部領域を有し、該透明部領域の透過率が80%以上の均一透過率とされていることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の光量調節装置。
【請求項4】
前記フィルター部材は、前記開口の一部、または全部を覆うように設定されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光量調節装置。
【請求項5】
前記フィルター部材が取り付けられた絞り羽根が、像面に対し傾けて配置されていることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光量調節装置。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の光量調節装置を有することを特徴とする光学系。
【請求項7】
光電変換素子上に像を形成することを特徴とする請求項6に記載の光学系。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の光量調節装置を有する光学系と、該光学系によって形成される像を受光する光電変換素子とを備えることを特徴とする撮影装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−25514(P2007−25514A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−210838(P2005−210838)
【出願日】平成17年7月21日(2005.7.21)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】