説明

光量調節装置および光学機器

【課題】NDフィルタによる画質劣化を抑制した小型の光量調節装置を提供する。
【解決手段】光量調節装置は、開口の大きさが可変の絞りと、均一な透過率を有する透明部、及び、連続的に変化する透過率を有するグラデーション部を備えた2つのフィルタ部材と、前記2つのフィルタ部材を駆動するアクチュエータと、前記アクチュエータを制御する制御手段とを有し、前記2つのフィルタ部材は、前記グラデーション部の濃淡の変化方向及び移動方向が互いに反対になるように配置され、前記制御手段は、前記開口が所定の大きさに絞られている場合、前記2つのフィルタ部材が該開口に対して退避した第1の位置と前記開口の全体を覆った第2の位置との間の領域で停止することがないように前記アクチュエータを制御し、前記透明部は、該2つのフィルタ部材が前記第2の位置にあるとき、前記絞りの開口面と直交する方向において互いに重ならないように構成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絞りとNDフィルタを備えた光量調節装置に関する。
【背景技術】
【0002】
光量調整装置を備えた光学機器は、複数の絞り羽根を用いて絞り開口の面積を変化させることによって、撮像素子に到達する光量を調節し、適正な露光量を得る。また、いわゆる小絞り回折による光学性能の劣化を防止するため、絞り開口の面積が所定の小絞り開口以下とならないように制御され、小絞り開口を覆うNDフィルタを用いて高輝度被写体を撮影する場合の光量が適切に設定される(特許文献1〜3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2002−55374号公報
【特許文献2】特開2007−292828号公報
【特許文献3】特開2008−003408号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1の光量調節装置では、NDフィルタが小絞り開口の一部のみを覆う状態、いわゆる半掛かり状態となるようにNDフィルタの位置が制御される場合がある。このような半掛かり状態では、NDフィルタの先端部と小絞り開口の縁部とによって囲まれた、該小絞り開口より小さな開口(素通し開口)が形成されるため、この小さな開口によって小絞り回折が生じる場合がある。したがって、NDフィルタを設けても、小絞り回折による画質劣化を十分に抑制することができない。また、NDフィルタは、透明なプラスチック基板上に透過率を低下させるための膜が蒸着されることで製作されるが、半掛かり状態では透過波面に基板の厚み分の段差(光路長差)が発生し、これによる画質劣化が発生する。
【0005】
また特許文献2、3では、NDフィルタの厚み段差による画質劣化対策がとられている。しかし、絞り開口をNDの透明部領域で全覆いする構成であるため、NDフィルタのストローク方向に透明部領域分が必要となる。このため、絞り開口が大きいほど光量調整装置の大型化が避けられない。
【0006】
そこで本発明は、NDフィルタによる画質劣化を抑制した小型の光量調節装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一側面としての光量調節装置は、開口の大きさが可変の絞りと、均一な透過率を有する透明部、及び、連続的に変化する透過率を有するグラデーション部を備えた2つのフィルタ部材と、前記2つのフィルタ部材を駆動するアクチュエータと、前記アクチュエータを制御する制御手段とを有し、前記2つのフィルタ部材は、前記グラデーション部の濃淡の変化方向及び移動方向が互いに反対になるように配置され、かつ、前記開口の全体を覆うことが可能に構成され、前記制御手段は、前記開口が所定の大きさに絞られている場合、前記2つのフィルタ部材が該開口に対して退避した第1の位置と前記開口の全体を覆った第2の位置との間の領域で停止することがないように前記アクチュエータを制御し、前記2つのフィルタ部材の前記透明部は、該2つのフィルタ部材が前記第2の位置にあるとき、前記絞りの開口面と直交する方向において互いに重ならないように構成されている。
【0008】
本発明の他の目的及び特徴は、以下の実施例において説明される。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、NDフィルタによる画質劣化を抑制した小型の光量調節装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例1におけるビデオカメラのレンズ鏡筒部の分解斜視図である。
【図2】実施例1におけるビデオカメラのレンズ鏡筒部の断面図である。
【図3】実施例1におけるビデオカメラの電気的構成を示すブロック図である。
【図4】実施例1における光量調節ユニットの分解斜視図である。
【図5】実施例1における光量調節ユニットによる光量調節とMTFとの関係を示すグラフ。
【図6】実施例1における光量調節ユニットの各動作ポジションでの状態を示す正面図(a)、及び、断面図(b)である。
【図7】実施例1におけるNDフィルタの位置検出方法を示す正面図である。
【図8】実施例1におけるNDフィルタの位置と磁気センサ出力との関係を示すグラフである。
【図9】従来の光量調節ユニットによる光量調節とMTFとの関係を示すグラフである。
【図10】従来の光量調節ユニットの各動作ポジションでの状態を示す正面図である。
【図11】実施例1における光量調節ユニットの制御シーケンスを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施例について、図面を参照しながら詳細に説明する。各図において、同一の部材については同一の参照番号を付し、重複する説明は省略する。
【実施例1】
【0012】
まず、本発明の実施例1におけるビデオカメラ(光学機器)について説明する。図1は、本実施例におけるビデオカメラのレンズ鏡筒部の分解斜視図である。図2は、レンズ鏡筒部の断面図である。レンズ鏡筒部には、被写体側から順に、凸凹凸凸の4つのレンズユニットにより構成された撮影光学系としての変倍光学系が内蔵されている。なお、以下の説明において、被写体側を前側、撮像素子側を後側という場合がある。
図1及び図2において、被写体側(図2の左側)から順に、L1は固定の第1レンズユニット、L2は光軸方向に移動して変倍を行う第2レンズユニットである。また、L3は光軸直交方向に移動して像触れ補正を行う第3レンズユニット、L4は光軸方向に移動してフォーカシングを行う第4レンズユニットである。
【0013】
1aは第1レンズユニットL1を保持する前玉鏡筒、1bは前玉鏡筒1aが固定される固定鏡筒である。2は第2レンズユニットL2を保持する第2移動枠、3は第3レンズユニットL3を光軸直交方向に移動可能に保持するシフトユニットである。4は第4レンズユニットL4を保持する第4移動枠、5は光学像を電気信号に変換するCCDセンサやCMOSセンサ等の撮像素子15(図3参照)が取り付けられる後部鏡筒である。固定鏡筒1bと後部鏡筒5との間には、2本のガイドバー6、7が固定されている。第2移動枠2に設けられたスリーブ部2dは、ガイドバー6に移動可能に係合して光軸方向にガイドされる。また、第2移動枠2に設けられたU溝部2eは、ガイドバー7に移動可能に係合し、第2移動枠2のガイドバー6を中心とした回転を阻止している。また、第4移動枠4に設けられたスリーブ部4dは、ガイドバー7に移動可能に係合して光軸方向にガイドされる。また、第4移動枠4に設けられたU溝部4eは、ガイドバー6に移動可能に係合し、第4移動枠4のガイドバー7を中心とした回転を阻止している。
【0014】
シフトユニット3は、後部鏡筒5に対して位置決めされ、後部鏡筒5と固定鏡筒1bとの間に挟み込まれて保持されている。9は撮影光学系に入射して絞り開口を通過した光により形成される光学像を電気信号に変換する撮像素子15に到達する光量を調節する光量調節ユニット(光量調節装置)である。光量調節ユニット9は、開口の大きさ(開口径)が可変の絞りを備える。具体的には、図2に示される2枚の絞り羽根9aをステッピングモータにより構成される絞りモータ9bの駆動力によって光軸直交方向に移動させることで、開口の大きさを変化させる。また、光量調節ユニット9には、フィルタ部材としてのND(Neutral Density)フィルタが絞り羽根9aとは独立して光路に対して進退可能に設けられている。NDフィルタの詳細については後述する。光量調節ユニット9は、不図示のビスによって前方からシフトユニット3に固定される。
【0015】
固定鏡筒1bは、後部鏡筒5に位置決めされ、かつ、前述したようにシフトユニット3を後部鏡筒5との間に挟み込み、3本のビス(不図示)によってシフトユニット3とともに後部鏡筒5に後方からビス止めされる。前玉鏡筒1a、固定鏡筒1b、及び、後部鏡筒5によって鏡筒本体が構成される。
【0016】
4aはコイル、4bはドライブマグネット、4cは磁束を閉じるためのヨークであり、これらにより第4レンズユニットL4(第4移動枠4)を光軸方向に移動させるフォーカス駆動ユニットが構成される。コイル4aに電流を流すと、コイル4aとマグネット4bとの間に磁力線の相互反発によるローレンツ力が発生し、第4移動枠4とともに第4レンズユニットL4が光軸方向に駆動される。また第4移動枠4は、光軸方向に多極着磁された不図示のセンサマグネットを保持している。また、センサマグネットの移動による磁力線の変化を読み取るMRセンサ12が後部鏡筒5に固定されている。このような構成により、第4移動枠4(第4レンズユニットL4)の位置が検出される。
【0017】
10は、第2レンズユニットL2を光軸方向に移動させるズームモータであり、ステッピングモータにより構成されている。ズームモータ10の出力軸の前端部は、横長U字形状の保持板10aの前側に形成された軸受け部によって回転自在に保持されている。この出力軸の後端部近辺は、保持板10aの後側に形成された軸受け部により回転自在に保持されている。ズームモータ10の出力軸にはリードスクリューが形成されており、このリードスクリューには、第2移動枠2に取り付けられたラック2aが噛み合っている。このため、ズームモータ10が回転すると、リードスクリューとラック2aとの噛合い作用によって第2移動枠2が光軸方向に駆動される。また、ねじりコイルバネ2bは、第2移動枠2とガイドバー6、7、第2移動枠2とラック2a、及びラック、2aとリードスクリューをそれぞれ片寄せして、これらの間のがたつきを防止する。
【0018】
11は、フォトインタラプタからなるズームリセットスイッチである。ズームリセットスイッチ11は、第2移動枠2に形成された遮光部2cの移動を光学的に検出して電気信号を出力する。これにより、後述する制御回路(コントローラ)としてのCPU37は、第2移動枠2(第2レンズユニットL2)が基準位置に位置しているか否かを判定することができる。ズームリセットスイッチ11は、基板を介してビスにより前玉鏡筒1に固定されている。
【0019】
次に、図3を参照して、本実施例におけるビデオカメラの電気的構成について説明する。図3は、ビデオカメラの電気的構成を示すブロック図である。図3において、図1及び図2を参照して説明したレンズ鏡筒部の構成要素については、これらの図中の符号と同符号を付して説明に代える。37は、ビデオカメラの制御を司るCPUである。CPU37は、第2レンズユニットL2及び第4レンズユニットL4を駆動するための第2レンズ群駆動源201及び第4レンズ群駆動源401をそれぞれ制御する。またCPU37(制御手段)は、絞り羽根9aを駆動するための絞り駆動源708を制御する。
【0020】
38はカメラ信号処理回路であり、撮像素子15の出力に対して所定の増幅やガンマ補正などを施す。これらの所定の処理を受けた映像信号は、AEゲート39及びAFゲート40に送られる。AEゲート39及びAFゲート40ではそれぞれ、露出決定及びピント合わせのために最適な信号の取り出し範囲が全画面領域から設定される。各ゲートの大きさは可変であってもよく、また、各ゲートが複数設けられてもよい。41は、AF(オートフォーカス)のためのAF信号を生成するAF信号処理回路であり、映像信号の高周波成分に基づいて、コントラストAFのためのAF評価値信号を生成する。42は撮影者によって操作されるズームスイッチであり、43はズームトラッキングメモリである。ズームトラッキングメモリ43は、変倍に際して被写体距離と第2レンズユニットL2の位置に応じてセットすべき第4レンズユニットL4の位置情報を記憶している。なお、ズームトラッキングメモリ43として、CPU37内のメモリを使用してもよい。
【0021】
例えば、撮影者によりズームスイッチ42が操作されると、CPU37は、ズームモータ10を駆動する。これとともに、第2レンズユニットL2の位置と被写体距離とに応じてズームトラッキングメモリ43から読み出した位置に対して第4レンズユニットL4の位置が一致するように、フォーカス駆動ユニット(コイル4a)の通電を制御する。
また、AF動作では、CPU37は、AF信号処理回路41からのAF評価値信号がピーク(最大)となるように、フォーカス駆動ユニットの通電を制御する。さらに、適正露出を得るために、CPU37(制御手段)は、AEゲート39を通過したY信号の出力の平均値に基づいてアクチュエータである絞りモータ9bを制御する。これにより、絞りの開口の大きさ(開口径)を制御することができる。36は、光量調節ユニット9に設けられた絞りエンコーダであり、絞り羽根9aの位置、すなわち絞りの開口径を検出する。
【0022】
次に、図4を参照して、本実施例における光量調節ユニット9について詳述する。図4は、光量調節ユニット9の分解斜視図である。光量調節ユニット9は、固定絞り開口9gが形成された絞り地板9hと、2枚の絞り羽根9a1、9a2(絞り)と、絞りモータ9bの出力軸及び絞り羽根9a1、9a2に連結された駆動レバー9a3とを有する。絞りモータ9bが作動することにより、2枚の絞り羽根9a1、9a2が互いに反対方向に駆動され、両方の絞り羽根9a1、9a2によって形成される開口の大きさ(径)が変化する。このような光量調節ユニット9は、いわゆるギロチン型の絞りとも称される。
【0023】
また光量調節ユニット9は、2つのフィルタ部材としてNDフィルタ9fを有する。2つのNDフィルタ9fは、それぞれ、均一な透過率を有する透明部、及び、連続的に変化する透過率を有するグラデーョン部を備えている。2つのNDフィルタ9fは、それぞれ、ND保持板9e1、9e2に取り付けられている。9cはNDフィルタ9f(ND保持板9e)を絞り羽根9aとは独立に光路に対して進退駆動するためのアクチュエータであるNDモータである。NDモータ9cは制御手段としてのCPU37により制御される。NDモータ9cの出力軸には、ND駆動アーム9dが連結されており、さらにND駆動アーム9dは、ND保持板9eに連結されている。このため、アクチュエータであるNDモータ9cが作動することにより、NDフィルタ9fが絞りの開口面と平行に駆動される。
【0024】
NDフィルタ9fは、光路への挿入方向での先端側から順に、透明部9f3、グラデーション濃度部9f2(グラデーション部)、及び、最高濃度部9f1を有する。本実施例では、NDフィルタ9fが絞り開口径に対し退避している領域を第1の領域に、NDフィルタ挿入領域(透明部9f3、グラデーション濃度部9f2及び最高濃度部9f1)が第2の領域に相当する。NDフィルタ9fは、グラデーション濃度部9f2の濃淡の変化方向及び移動方向が互いに反対になるように配置され、かつ、開口の全体を覆うことが可能に構成されている。NDフィルタ9fは、無色透明なプラスチック基板のうち先端部分を除いてグラデーション濃度部9f2と最高濃度部9f1を蒸着膜によって形成して構成されている。蒸着膜が形成されていない先端部分が透明部9f3である。なお、「無色透明」とは、完全な無色透明に限定されるものではなく、透明部9f3が光路に対して進退した場合に撮影画像に色変化や輝度変化が生じていないと評価できる程度の状態を含む意味である。透明部9f3の透過率は75%〜100%の範囲内で設定することが好ましい。より好ましくは、この透過率は87.5%〜100%の範囲内で設定される。透明部9f3は、後述のように、F4.0に対応する絞り開口の一部を覆う設定にされている。
【0025】
また最高濃度部9f1は、例えばND1.0の濃度に設定されている。
透明部9f3と最高濃度部9f1との間に、最高濃度部9f1に向かって濃度が徐々に濃くなる(透過率が低くなる)グラデーション濃度部9f2を設けることで、絞り開口内で濃度段差が生じ、MTFが劣化することを防止できる。グラデーション濃度部9f2における隣接する濃度領域間の濃度差は、輝度の急激な変化を防止するため、ND0.3以下に設定されている。透明部9f3の表面とグラデーション濃度部9f2最低濃度の蒸着膜表面間の厚み段差、グラデーション濃度部9f2及び最高濃度部9f1における各濃度の蒸着膜表面間の厚み段差は、撮像素子15が感度を有する最低波長の1/3以下とすることが好ましい。これにより、厚み段差によるMTFの劣化を効果的に抑制することができる。なお、プラスチック基板は、光を透過させるための穴のような段差部を有さない、単純な平板形状からなる1枚の板として形成されている。
【0026】
次に、図5及び図6を参照して、光量調節ユニット9の制御方法について説明する。図5は、光量調節ユニット9の透過光量(Tナンバー)とレンズ鏡筒部のMTF(modulation transfer function:変調伝達関数)との関係を示す。光量調節ユニット9を透過する光量は、2枚の絞り羽根9a1、9a2で形成される略ひし形の形状を有する絞り開口の面積を変えることと、NDフィルタ9fの挿入状態を変えることとの組み合わせで制御される。図6(a)は、光量調節ユニット9の透過光量を減少させていくように絞り開口とNDフィルタ9fの挿入状態を制御した様子(光軸方向視の様子)を、ポジションA02〜I02の順番に示す。図6(b)は、2枚のNDフィルタ9fの絞り開口との挿入状態を制御した様子を示す。図6(a)、(b)中のポジションA02、B02、…、I02は、図5のグラフ上での同じ符号が付された状態に対応する。以下の説明において、2枚の絞り羽根9a1、9a2は、絞り羽根9aとまとめて示す。また、2枚のNDフィルタ9fの動作は上下方向に対称であるため、図6(a)のNDフィルタ9fの動作は、絞り羽根9a2のみ(下側→上側)で示す。
【0027】
光量調節ユニット9の透過光量を減少させるには、まず絞り開口の面積を小さくする(図5中の領域a02)。次に、NDフィルタ9fを挿入していく(図5中の領域b02)。そして、NDフィルタ9fを全挿入した(絞り開口の全体を覆った)後、再び、絞り開口の面積を小さくしていく(図5中の領域c02)。ポジションA02は、絞り羽根9aが開放絞り開口となる固定絞り開口9gよりも外側に退避した開放状態である。この開放状態(A02)では、NDフィルタ9fの透明部9f3の一部が開放絞り開口の一部に掛かっている。ただし、NDフィルタ9fが完全に開放絞り開口の外側に退避するようにしてもよい。
【0028】
次に、絞り羽根9aをF2.0に対応するポジションB02に向けて駆動する。これにより、光量は低下し、MTFの値は増加する。さらに、F2.8に対応するポジションC02及びF4.0に対応するポジションD02まで駆動する間に、光量は低下し、MTFは徐々に低下する。
その後、絞り開口がF4.0に対応する開口面積(所定の大きさに絞られた開口)に固定された状態で、NDフィルタ9fの挿入駆動が開始される。
【0029】
ポジションE02は、NDフィルタ9fの挿入方向先端9f4がF4.0の絞り開口に掛かる直前の状態(第1の位置)を示す。また、ポジションF02は、NDフィルタ9fの挿入完了後、透明部9f3とグラデーション濃度部9f2によってF4.0の絞り開口の全体が覆われた状態(第2の位置)を示す。ポジションE02からポジションF02までの間の領域では、NDフィルタ9fは停止しないように制御される。すなわち、NDフィルタ9fの先端9f4は、F4.0の絞り開口の内側に対応する位置で常に移動しており、停止することはない。このように、CPU37は、開口が所定の大きさ(例えばF4.0)に絞られている場合、NDフィルタ9fが開口に対して退避した第1の位置と開口の全体を覆った第2の位置との間の領域で停止することがないようにNDモータ9cを制御する。また、2つのNDフィルタ9fの透明部9f3は、NDフィルタ9fが第2の位置にあるとき、絞りの開口面と直交する方向において互いに重ならないように構成される。
【0030】
図5において、ポジションE02からポジションF02までを結んだ点線矢印は、ポジションE02からポジションF02までNDフィルタ9fが常に停止せずに移動するように制御されることを意味する。このとき、2枚のNDフィルタ9fのグラデーション濃度部9f2がF4.0の絞り開口に対して半掛り状態になるため、一定の輝度変化が発生する。このように、NDフィルタ9fを挿入した際に生じる輝度変化に対しては、CPU37は、絞り羽根(絞りの開口の大きさ)、撮像素子15のゲインや電子シャッター速度の少なくとも一つを制御する。このような制御により、撮影状態で輝度変化を認識しないレベルになるように光量調整が行われる。この動作により、後述のように、著しい輝度変化やMTFの変化は生じない。
【0031】
透明部9f3の挿入方向長さは、F4.0の絞り開口の半径以上に対応した長さに設定される。透明部9f3が必要以上に長いと、NDフィルタ9fが大型化し、これを備えた光量調節ユニット9やビデオカメラの小型化を妨げるからである。また逆に、透明部9f3の挿入方向長さが短い場合、前述のように挿入した場合に撮影画像に色変化や輝度変化が大きくなる。このため、透明部9f3の挿入方向長さは、光量調整ユニット9の許容可能な大きさとNDフィルタ9fを挿入した際に生じる色変化や輝度変化の光量補正制御を考慮して適切に設定されることが好ましい。なお、NDフィルタ9f全体の挿入方向長さは、開放絞り開口径に対応する長さに設定されていることが好ましい。
【0032】
ポジションE02からポジションF02まで、NDフィルタ9fはできるだけ高速、例えば、アクチュエータであるNDモータ9cによって駆動され得るNDフィルタ9fの最高速度で駆動されることが好ましい。ただし、ビデオカメラの絞り開口を通過した光により形成される光学像を電気信号に変換する撮像素子15からの画像取り込み速度(1フィールド画像を取り込むのに要する時間:例えば、60フィールド/秒)に比べて、著しく遅くなければよい。すなわち、MTFの劣化が目立たない程度の速度であればよい。例えば、NDフィルタ9fのポジションE02とポジションF02との間での移動は、1/2秒以下の速度であることが好ましい。更に好ましくは、NDフィルタ9fのポジションE02とポジションF02との間(又は、ポジションF02とポジションE02との間)での移動は、15フィールド画像を取り込むのに要する時間である1/4秒以下の速度に設定される。ただし、カメラシステムとしてMTFの劣化の抑制できる範囲内であれば、NDフィルタ9fのポジションE02とポジションF02との間での移動が、一瞬停止するようにしてもよい。
【0033】
その後、NDフィルタ9fは、最高濃度部9f1とグラデーション濃度部9f2とによって、F4.0の絞り開口の全体を覆う位置まで駆動される(ポジションG02)。続いて、NDフィルタ9fは、停止した状態で、再度絞り開口の面積が小さくなることにより透過光量が減少する(ポジションH02、I02)。ポジションG02からポジションI02にかけて、小絞り回折の影響によってMTFが劣化する。
【0034】
次に、図7及び図8を参照して、NDフィルタ9fの先端9f4が絞り開口(F4.0)内で常に停止することなく移動するように制御するための具体的な方法について説明する。図7は、本実施例におけるNDフィルタの位置検出方法を示す正面図である。図8は、本実施例におけるNDフィルタの位置と磁気センサの出力との関係を示すグラフである。以下、2枚のND枠9e1、9e2のうちND枠9e2のNDフィルタ9fを用いて説明する。
【0035】
図7に示されるように、NDモータ9cの内部には、駆動用マグネット9c1が配置され、そのマグネット9c1は、ND駆動アーム9dと結合されている。ND保持板9eに取り付けられたNDフィルタ9fは、マグネット9c1が回転することによって移動する。マグネット9c1の回転角を検出するために、マグネット9c1のN極とS極の着磁境界の近傍に磁気センサ9c2が配置されている。磁気センサ9c2は、NDフィルタ9fの位置に応じた信号を出力する。磁気センサ9c2としては、ホール素子等を用いることができる。マグネット9c1の回転角と磁気センサ9c2の出力値は略リニアな関係となるため、図8に示されるように、NDフィルタ9fの位置と磁気センサ9c2の出力もリニアな関係となる。
【0036】
ここで、絞り羽根9aが形成するF4.0の絞り開口に対して、NDフィルタ9fの先端9f4が掛かる直前であるポジションE02での磁気センサ9c2の出力をM%とする。また、F4.0の絞り開口をNDフィルタ9fの全体が透明部9f3(又は透明部9f3とグラデーション濃度部9f2の一部)によって覆われるポジションF02での磁気センサ9c2の出力を、N(>M)%とする。この場合、F4.0の絞り開口内でNDフィルタ9fの先端9f4が停止することなくNDフィルタ9fを常に移動させる制御とは、磁気センサ9c2の出力AがM%<A<N%となる領域を不使用領域とする制御である。実際には、NDフィルタ9fの取り付け誤差等によって磁気センサ9c2の出力とNDフィルタ9fの位置との関係は変動する。このため、マージンαを考慮して、(M−α)%<A<(N+α)%の領域を不使用領域とすることがより好ましい。
【0037】
このように、CPU37は、NDフィルタ9fが第1の位置と第2の位置との間の領域の外にある場合、磁気センサ9c2からの信号に基づいてNDモータ9cを制御する。一方、CPU37は、NDフィルタ9fが第1の位置と第2の位置との間の領域にある場合、磁気センサ9c2からの信号に基づくことなくNDフィルタ9fがこの領域を移動するようにNDモータ9cを制御する。
【0038】
図9には、従来の光量調節ユニットの透過光量とレンズ鏡筒部のMTFとの関係を表している。また、図10には、従来の光量調節ユニットの透過光量を減少させていくように絞り開口とNDフィルタの挿入状態を制御した様子をポジションA01〜L01の順番に示している。図10中の動作ポジションA01、B01、…、L02は、図9のグラフ上での同じ符号が付された状態に対応する。図10に示されるNDフィルタ9f’には透明部は設けられておらず、先端からグラデーション濃度部9f2’及び最高濃度部9f1’が設けられている。
【0039】
開放状態のポジションA01からF2.0のポジションB01に向けて絞り開口を小さくしていくことで、MTFの値は増加する。さらに、F2.8のポジションC01及びF4.0のポジションD01まで絞り開口を小さくしていくと、MTFは徐々に低下する(図9中の領域a01)。F4.0の絞り開口に対してNDフィルタの先端が掛かる直前のポジションE01から絞り開口に対してNDフィルタが挿入されていくことで、光量が減少する(図9中の領域b01)。NDフィルタの先端がF4.0の絞り開口内に掛かっているポジションF01〜H01では、NDフィルタの先端と絞り開口の縁部とに囲まれた小さな素通し開口での回折やNDフィルタの基板の厚みに相当する光路長差によって、MTFの劣化が生じる。具体的には、ポジションE01からMTFの劣化が始まり、NDフィルタの先端が絞り開口の中心(撮影光学系の光軸中心)を通過するポジションG01においてMTFの劣化が最大となる。そして、NDフィルタがF4.0の絞り開口全体を覆うポジションI01までMTFが劣化した状態が継続する。
【0040】
次に、ポジションJ01でF4.0の絞り開口全体が最高濃度部9f1’で覆われた状態となった後、ポジションK01、L01(図9中の領域b01)で再び絞り開口を小さくしていく。この間、小絞り回折の影響によってMTFが劣化する。許容されるMTFの劣化は、撮像素子の画素ピッチによって変わるが、ここでは、ビデオカメラにおいて許容されるMTFの値が40%であるとする。この場合、図9及び図10で示される従来の光量調節ユニットの構成及び制御方法では、ポジションF01〜ポジションH01及びポジションK01以降において、映像の劣化が認識されてしまう。これに対し、本実施例の光量調節ユニットの構成及び制御方法では、ポジションH02まで映像の劣化が認識されない。本実施例では、開放絞り開口より小さく絞られている状態の絞り開口の内部でNDフィルタの先端が停止しないようにNDフィルタ9f(NDモータ9c)を移動させるように制御を行う。これにより、MTFの劣化を抑制することができる。
【0041】
なお本実施例では、絞り開口をF4.0に対応する大きさとした後にNDフィルタ9fを挿入駆動する場合について説明したが、絞り開口を他の絞り値(例えば、F5.6)に対応する大きさとした後にNDフィルタを挿入駆動するようにしてもよい。回折による画質劣化が許容される範囲でできるだけ又は最も絞り開口の小さいF値でNDフィルタを挿入することで、NDフィルタの面積を小さくすることができ、光量調節ユニット及びこれを搭載するビデオカメラの小型化に有効である。
【0042】
更には、透明部9f3の挿入方向の長さをF4.0の絞り開口に対し、全覆いから部分覆いとすることで、NDフィルタ9fの長さを短くする事ができるため、光量調整ユニット及びこれを搭載するビデオカメラの小型化に有効である。具体的には、前述したように撮像素子の画素ピッチによっても変わるが、一般的には、MTFの値がビデオカメラの最高解像周波数の30%を下限としてそれ以上のMTF値に対応するF値になったときにNDフィルタを挿入することが好ましい。
【0043】
次に、図11を参照して、本実施例における光量調節ユニットの制御シーケンスについて説明する。図11のフローチャートは、CPU37がコンピュータプログラムにしたがって実行する被写体の明るさ変化に応じた光量フィードバック制御のシーケンスを示す。図11において、「Y」はYes、「N」はNoを表す。また、「S」はステップを示す。
【0044】
まず、ステップ902において、CPU37は、図3に示したAEゲート39からのY信号出力の平均値(測光値)に基づいて、現在の被写体の明るさに対して最適な露出状態か否かを判定する。
【0045】
次に、ステップ903では、CPU37は、NDフィルタ9fが退避位置(図6−aに示すポジションA02〜D02での位置)にあるか否かを判定する。NDフィルタ9fが退避位置にある場合は、絞り羽根9aの駆動のみで露出を制御するため、ステップ904において露出オーバーかアンダーか否かを判定する。露出オーバーの場合には、ステップ905で絞り羽根9aをクローズ方向へ移動させるように絞りモータ9bを制御し、再度、ステップ902で最適露出か否かを判定する。一方、ステップ904において露出アンダーの場合には、ステップ906で絞り羽根9aをオープン方向に移動させるように絞りモータ9bを制御し、ステップ902で最適露出か否かを判定する。
【0046】
ステップ903にてNDフィルタ9fが退避位置にない場合には、ステップ907において、NDフィルタ9fが全覆い位置(図6(a)に示されるポジションG02〜I02)にあるか否かを判定する。全覆い位置にある場合にも、絞りの開閉動作によって露出制御を行うため、ステップ908で露出オーバーかアンダーかを判定する。露出オーバーの場合には、ステップ909において絞り羽根9aをクローズ方向に、露出アンダーの場合にはステップ910において絞り羽根9aをオープン方向に移動させるように、絞りモータ9bを制御する。その後、再びステップ902において、最適露出か否かを判定する。
【0047】
ステップ907にてNDフィルタ9fが全覆い位置にない場合には、ステップ911において露出オーバーかアンダーかを判定する。露出オーバーの場合には、ステップ912において、NDフィルタ9fを覆い方向(挿入方向)に移動させるようにNDモータ9cを制御する。このとき、F4.0の絞り開口内でNDフィルタ9fの先端9f4を常に停止させない制御を行うため、ステップ913でNDフィルタ9aの先端9f4がF4.0の絞り開口に掛かる直前の状態(挿入方向での半掛かり直前状態)か否かを判定する。この状態は、図6(a)に示されるポジションE02に相当する。挿入方向の半掛かり直前状態であれば、ステップ914において、高速で図6(a)に示されるポジションF02までNDフィルタ9fを常に停止させずに移動させるようにNDモータ9cを制御する。
【0048】
一方、ステップ911にて露出アンダーである場合には、ステップ915においてNDフィルタ9fを退避方向に移動させるようにNDモータ9cを制御する。このとき、F4.0の絞り開口内でNDフィルタ9fの先端9f4を常に停止させないように制御を行うため、ステップ916でNDフィルタ9aの先端9f4がF4.0の絞り開口に掛かる直前の状態(退避方向での半掛かり直前状態)か否かを判定する。この状態は、図6(a)に示されるポジションF02に相当する。退避方向での半掛かり直前状態であれば、ステップ917において、高速で図6(a)に示されるポジションE02までNDフィルタ9fを常に停止させずに移動させるようにNDモータ9cを制御する。CPU37は、NDフィルタ9fが完全にE02まで挿入されたときに生じる輝度変化に対しては、絞りの開口の大きさ、撮像素子のゲインや電子シャッター速度などの制御により、著しい輝度変化を生じないように光量調整を行う。
【0049】
以上説明したように、本実施例によれば、NDフィルタが絞りの開口の一部のみを覆う状態(半掛かり状態)が生じないようにNDフィルタを動作させることができる。したがって、半掛かり状態に伴う画質劣化を抑制することが可能である。また、第2の領域を開口に対して挿入及び退避させる際に、第1の領域によって第1の開口を覆っておくことができ、NDフィルタの厚み分の光路長差による画質劣化を抑制することが可能である。さらに、開口に対し透明部を全覆いから部分覆いとすることで透明部の長さを低減させ、光量調整ユニットの小型化を図ることができる。
【0050】
以上、本発明の好ましい実施例について説明したが、本発明はこれらの実施例に限定されないことはいうまでもなく、その要旨の範囲内で種々の変形及び変更が可能である。例えば、上記各実施例ではレンズ一体型ビデオカメラについて説明したが、本発明は、レンズ一体型デジタルスチルカメラや交換レンズ等の他の光学機器にも適用することができる。
【符号の説明】
【0051】
9 光量調節ユニット
9b 絞りモータ
9a、9a1、9a2 絞り羽根
9c NDモータ
9f NDフィルタ
9f2 グラデーション濃度部
9f3 透明部
37 CPU

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口の大きさが可変の絞りと、
均一な透過率を有する透明部、及び、連続的に変化する透過率を有するグラデーション部を備えた2つのフィルタ部材と、
前記2つのフィルタ部材を駆動するアクチュエータと、
前記アクチュエータを制御する制御手段と、を有し、
前記2つのフィルタ部材は、前記グラデーション部の濃淡の変化方向及び移動方向が互いに反対になるように配置され、かつ、前記開口の全体を覆うことが可能に構成され、
前記制御手段は、前記開口が所定の大きさに絞られている場合、前記2つのフィルタ部材が該開口に対して退避した第1の位置と前記開口の全体を覆った第2の位置との間の領域で停止することがないように前記アクチュエータを制御し、
前記2つのフィルタ部材の前記透明部は、該2つのフィルタ部材が前記第2の位置にあるとき、前記絞りの開口面と直交する方向において互いに重ならないように構成されていることを特徴とする光量調節装置。
【請求項2】
前記2つのフィルタ部材の位置に応じた信号を出力する磁気センサを更に有し、
前記制御手段は、
前記2つのフィルタ部材が前記第1の位置と前記第2の位置との間の前記領域の外にある場合、前記磁気センサからの前記信号に基づいて前記アクチュエータを制御し、
前記2つのフィルタ部材が前記第1の位置と前記第2の位置との間の前記領域にある場合、前記磁気センサからの前記信号に基づくことなく該2つのフィルタ部材が該領域を移動するように該アクチュエータを制御することを特徴とする請求項1に記載の光量調節装置。
【請求項3】
前記透明部の前記透過率は75%〜100%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の光量調節装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記2つのフィルタ部材が前記第1の位置と前記第2の位置との間の前記領域を移動する際に、前記開口の大きさ、撮像素子の電子シャッター速度、又は、該撮像素子のゲインの少なくとも一つを制御して光量調整を行うこと特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光量調節装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の光量調節装置を備えた光学機器。

【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−248029(P2011−248029A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120055(P2010−120055)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】