説明

光電デバイス

【課題】金属微粒子による局在表面プラズモン共鳴と量子井戸構造とを組み合わせることにより、エネルギー変換効率が高く、かつ製造プロセスも煩雑化することのない光電デバイスを提供する。
【解決手段】基板32の上方に形成された第3の半導体層35の上面には井戸層42と障壁層43を交互に積層した光電変換層36が積層されており、光電変換層36の上面には微粒子40が分散している。微粒子40は誘電体コアの外周面を金属のシェル部によって覆った複合構造となっており、光が入射すると2波長の光で局在表面プラズモン共鳴する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光電デバイスに関し、具体的には多重量子井戸構造、量子ドット構造の太陽電池や光電センサなどの光電デバイスに関するものである。
【背景技術】
【0002】
太陽電池の構造としては、単接合太陽電池、多接合太陽電池、多重量子井戸構造の太陽電池などが知られている。
【0003】
(単接合太陽電池)
もっとも簡単な構造の太陽電池は単接合型であって、一般にはpn接合やpin接合となっている。図1は一般的な単接合太陽電池の構造を示すエネルギーバンド図である。図1の太陽電池は、n型半導体層、i型半導体層、p型半導体層を接合して構成されており、伝導帯と価電子帯との間のバンドギャップがEgとなっている。ここに光が入射すると、Eg以上のエネルギーを持つ光が吸収されて価電子帯から伝導帯へ電子11が励起され、価電子帯には正孔12が生成し、太陽電池に起電力が発生する。
【0004】
しかし、このような単接合太陽電池では、バンドギャップEgよりも小さなエネルギーの光は吸収されることなく透過してしまうので、光電変換効率が低い。一方、バンドギャップEgを小さくしても、伝導帯へ励起された電子11の持つエネルギー(hν:νは光の振動数)のうち伝導帯の底のエネルギーよりも大きなエネルギー(hν−Eg)はフォノンとしてただちに放出され熱エネルギーとして消耗してしまう。そのため、単接合太陽電池は光電変換効率が悪かった。
【0005】
(多接合太陽電池)
図2は多接合太陽電池の構造を示すエネルギーバンド図である。この多接合太陽電池は、バンドギャップの異なるpn接合を積層したものである。図2では、バンドギャップがEg11のpn接合とバンドギャップがEg12のpn接合とバンドギャップがEg13のpn接合を積層している(ただし、Eg11>Eg12>Eg13とする)。このような多接合太陽電池では、入射した光のうちEg11よりもエネルギーの大きな光がバンドギャップEg11のpn接合で吸収され、ついでバンドギャップEg11のpn接合で吸収されなかった光のうちEg12よりもエネルギーの大きな光がバンドギャップEg12のpn接合で吸収され、ついでバンドギャップEg12のpn接合で吸収されなかった光のうちEg13よりもエネルギーの大きな光がバンドギャップEg13のpn接合で吸収される。従って、多接合太陽電池では、広い波長域の光を吸収できるとともに、熱エネルギーロスも小さくなり、単接合太陽電池よりも高い光電変換効率を実現できる。多接合太陽電池としては、例えば特開平8−204215号公報(特許文献1)に開示されたものがある。
【0006】
しかし、多接合太陽電池では、各層の格子定数を一致させることとバンドギャップを最適化することとの両立が難しく、理想的な構造を得ることができなかった。また、多接合太陽電池は層構造が複雑で、プロセス制御が難しい。さらに、隣接する層間はトンネル接合13を介して直列に接続されており、出力電流は各層の中で生成される最小の電流値となるため、太陽光のスペクトル変化により光電変換効率が左右されやすい。
【0007】
(多重量子井戸構造)
そこで、図3に示すように、バンドギャップがEg1とEg2の半導体層を繰り返して積層した多重量子井戸構造が提案されている。ここで、Eg1は井戸層14におけるバンドギャップ、Eg2は障壁層15におけるバンドギャップである。このような構造としては、特開平11−220150号公報(特許文献2)に開示されたものがある。
【0008】
このような多重量子井戸太陽電池は、基本的にはバンドギャップエネルギーがEg2である半導体から構成された太陽電池として動作するが、バンドギャップエネルギーがEg2より小さなEg1である井戸層14の存在によって、吸収できる光の波長域が長波長側に拡大される。そのため、開放電圧を下げることなく電流を大きくすることができる。また、多接合型太陽電池と比べて、同じ材料系を使えるので作製しやすいことと、多重量子井戸のサイズにより吸収波長を制御できるというメリットがある。
【0009】
このような多重量子井戸太陽電池では、井戸層14で励起された電子11をさらに井戸層14から脱出させなければならないが、そのためには熱エネルギーを利用する方法と、光エネルギーを利用する方法とがある。しかし、熱エネルギーを利用する方法では、図3のように量子井戸の深さを浅くしておく必要があるので、吸収できる光の波長の範囲が狭くなる。そのため、太陽電池の光電変換効率をそれほど大きくすることができない。
【0010】
また、光エネルギーを利用する方法では、量子井戸から電子11を脱出させるためにも光エネルギーを吸収するので、図4に示すように、障壁層15において価電子帯から伝導帯へ電子11を励起するためのエネルギーEg2、井戸層14において価電子帯から量子準位へ電子11を励起するためのエネルギーEg1、量子準位から伝導帯へ電子11を励起するためのエネルギーEg3のそれぞれに対応する3波長の光を吸収させることができる。よって、より広い範囲の波長の光を吸収させることができるので、光電変換効率を向上させることができ、大きな電流・電圧を得ることが期待できる。
【0011】
また、図5に示すように、量子ドットを積層した量子ドット太陽電池も提案されている。量子ドット太陽電池では、障壁部16内に量子ドット17を配列させてあり、量子ドット17によって三次元量子井戸が形成されている。このような構造の太陽電池としては、特開2002−141531号公報(特許文献3)に開示されたものがある。量子ドット太陽電池も多重量子井戸太陽電池と同様な原理によって光エネルギーを吸収するが、量子ドットを用いることで量子準位をより離散化し、電子11が量子井戸内の低エネルギー準位へ緩和しにくくできるメリットがある。
【0012】
しかし、量子井戸構造(多重量子井戸、量子ドット)の太陽電池では、異なる材料どうしが接する界面が多く存在する。例えば、多重量子井戸太陽電池において、光を十分に吸収するためには井戸層と障壁層がそれぞれ数十層も必要である。異なる材料どうしの界面では、材料や格子定数が異なるため、図6に示すように未結合手(ダングリングボンド)による界面準位Ed1、Ed2が生じやすい。そして、この界面準位Ed1、Ed2を介して電子11と正孔12が再結合(界面再結合)するため、キャリアが消滅し太陽電池の光電変換効率を低下させてしまうという問題がある。また、多重量子井戸のように厚さの薄い多層構造を作製する場合や、多数の量子ドットを作製する場合には、井戸層や量子ドットの数が多くなるほど作製プロセスが煩雑になる。
【0013】
(プラズモン共鳴を利用した太陽電池)
また、金属微粒子に発生するプラズモン共鳴を利用した太陽電池が提案されている。このような太陽電池としては、特開2006−66550号公報(特許文献4)に開示されたものがある。この太陽電池では、図7に示すように、光電変換層18の表面に透明電極19を形成し、裏面に裏面電極20を形成してあり、光電変換層18の裏面と裏面電極20との間に金属微粒子21を設けている。この太陽電池に光が入射すると、光電変換層18において光が吸収されて電気エネルギーに変換される。さらに、光電変換層18のバンドギャップよりも大きなエネルギーを有する波長帯の光が光電変換層18を透過して金属微粒子21に照射すると、金属微粒子21はプラズモン共鳴することにより、その周囲に増強された強い電界を発生させる。この電界により光電変換層18内の電子が伝導帯へ励起される。このとき形成される電界は入射光の光電界の数十倍に増強されているので、光が吸収される確率が増大して電気エネルギーへの変換効率が高くなる。
【0014】
また、局在表面プラズモン共鳴を利用した太陽電池としては、US2007/0289623(特許文献5)に開示されたものがある。この太陽電池は、図8に示すように、基板22の表面に金属からなる表面プラズモン・ポラリトン・ガイド層(surface plasmon polariton guiding layer)23を設け、その表面に半導体の量子ドット配列からなる量子ドット・アクティブ層(quantum dot active layer)24と電極25を設けたものである。このような構造の太陽電池でも、局在表面プラズモン共鳴により光の吸収を増大させることができるので、量子ドット・アクティブ層24を薄くすることができる。また、これにより光電変換効率を向上させ、コストを低減させることができる。
【0015】
【特許文献1】特開平8−204215号公報
【特許文献2】特開平11−220150号公報
【特許文献3】特開2002−141531号公報
【特許文献4】特開2006−66550号公報
【特許文献5】US2007/0289623
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、従来より行われている金属微粒子による局在表面プラズモン共鳴では、図9に示すような吸収スペクトルを示す。図9は直径100nmのAu粒子の吸収スペクトルを計算した結果であり、波長が560nm付近に吸収のピークが現れている。よって、1つの波長(図9の最大ピークに対応する波長)の光しか吸収させることができなかった。なお、図9の吸収スペクトルでは、最大ピークの裾部分(波長950nmあたり)に小さく緩やかなピークが見られるが、この小さなピークでは吸収係数が小さいため光の吸収に寄与しない。このため特許文献4、5のような太陽電池では、局在表面プラズモン共鳴を利用していても一つの励起にしか対応させることができず、光電変換効率の改善や量子井戸構造の層数の減少には十分な効果がなかった。
【0017】
具体的にいうと、金属微粒子を図4のような多重量子井戸構造と組み合わせた場合、金属微粒子の局在表面プラズモン共鳴を利用して電子を価電子帯から井戸層内の量子準位まで励起させたとしても、量子準位から伝導帯へ励起される電子の数がこれまでと同じであれば、全体としての光電変換効率の大幅な向上は期待できない。
【0018】
本発明は、このような技術的課題に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、金属微粒子による局在表面プラズモン共鳴と量子井戸構造とを組み合わせることにより、エネルギー変換効率が高く、かつ製造プロセスも煩雑化することのない光電デバイスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の第1の光電デバイスは、第1の半導体からなる障壁層と、第1の半導体よりもバンドギャップの小さな第2の半導体からなる井戸層とを複数層交互に積層させた多重量子井戸構造の光電変換層を有する光電デバイスにおいて、少なくとも2つの波長帯域で局在表面プラズモン共鳴する微粒子を有することを特徴としている。
【0020】
本発明の第1の光電デバイスにあっては、入射した光のうち局在表面プラズモン共鳴した波長の光は、微粒子の周囲に増強された強い電界を発生させる。この増強された電界によって光電変換層内の電子が価電子帯から量子井戸内の準位へ、あるいは量子井戸内の準位から伝導帯へ、あるいは価電子帯から伝導帯へ励起されるので、入射光によって直接電子を励起するよりも高い効率で電子を励起することができる。しかも、微粒子の局在表面プラズモン共鳴と多重量子井戸構造とを組み合わせた光電デバイスにおいて、局在表面プラズモンの共鳴波長帯域を少なくとも2波長域にしているので、広い波長範囲の光を光電変換層において高効率で吸収させることができ、光エネルギーを電気エネルギーに変換する効率をさらに増大させることができる。
【0021】
また、本発明の第1の光電デバイスによれば、高効率で吸収させられる結果、多重量子井戸構造の層数を減らすことができる。しかも、微粒子の周囲に発生する電界は微粒子の直径程度あるいはその数倍程度の領域に発生するので、光電変換層の厚みはその電界の広がり程度に薄くすることが合理的である。よって、障壁層や井戸層の層数を少なくし、光電デバイスの製造プロセスを簡略化すると共にコストを低廉にできる。さらに、障壁層や井戸層の層数を減らすことができるので、界面の欠陥による電子収集効率の低下を抑制でき、光電バイスの光電変換効率をより向上させることができる。
【0022】
本発明の第2の光電デバイスは、第1の半導体からなる障壁部内に、第1の半導体よりもバンドギャップの小さな第2の半導体からなる少なくとも1つの量子ドットが含まれた量子ドット構造の光電変換層を有する光電デバイスにおいて、少なくとも2つの波長帯域で局在表面プラズモン共鳴する微粒子を有することを特徴としている。
【0023】
本発明の第2の光電デバイスにあっては、入射した光のうち局在表面プラズモン共鳴した波長の光は、微粒子の周囲に増強された強い電界を発生させる。この増強された電界によって光電変換層内の電子が価電子帯から量子井戸内の準位へ、あるいは量子井戸内の準位から伝導帯へ、あるいは価電子帯から伝導帯へ励起されるので、入射光によって直接電子を励起するよりも高い効率で電子を励起することができる。しかも、微粒子の局在表面プラズモン共鳴と量子ドット構造とを組み合わせた光電デバイスにおいて、局在表面プラズモンの共鳴波長帯域を少なくとも2波長域にしているので、広い波長範囲の光を光電変換層において高効率で吸収させることができ、光エネルギーを電気エネルギーに変換する効率をさらに増大させることができる。
【0024】
また、本発明の第2の光電デバイスによれば、高効率で吸収させられる結果、量子ドットの積層数を減らすことができる。しかも、微粒子の周囲に発生する電界は微粒子の直径程度あるいはその数倍程度の領域に発生するので、光電変換層の厚みはその電界の広がり程度に薄くすることが合理的である。よって、量子ドットや障壁部の積層数を少なくし、光電デバイスの製造プロセスを簡略化すると共にコストを低廉にできる。さらに、量子ドットや障壁部の積層数を減らすことができるので、界面の欠陥による電子収集効率の低下を抑制でき、光電バイスの光電変換効率をより向上させることができる。
【0025】
本発明の第1又は第2の光電デバイスのある実施態様は、電子を価電子帯から量子井戸内の準位まで励起するエネルギーに相当する波長と電子を量子井戸内の準位から伝導帯へ脱出させるエネルギーに相当する波長を短い側から順にλa、λbとし、前記微粒子に生成する局在表面プラズモン共鳴の2つの共鳴波長を短い側から順にλ1、λ2とするとき、
λ1 ≦ λa ≦ λ2 ≦λb
であることを特徴としている。
【0026】
かかる実施態様によれば、波長λ1(またはλ2)の局在表面プラズモン共鳴によって電子を価電子帯から量子井戸内の準位まで高効率で励起することができ、また波長λ2(またはλ1)の局在表面プラズモン共鳴によって電子を量子井戸内の準位から伝導帯へ高効率で励起することができるので、量子準位を経た2段階励起によって電子を価電子帯から伝導帯へ効率よく励起させることができる。
【0027】
また、この実施態様においては、前記共鳴波長のλ1とλ2は、互いに400nm以上離れていることが望ましい。2つの共鳴波長λ1、λ2どうしを400nm程度離しておけば広い波長範囲の光を吸収することができ、エネルギー変換効率が向上する。
【0028】
さらに、前記微粒子の吸収スペクトルにおいて、長波長側の共鳴波長λ2におけるピーク強度は、短波長側の共鳴波長λ1におけるピーク強度に対して0.7倍以上2.0倍以下であることが望ましい。長波長側の共鳴波長λ2におけるピーク強度を、短波長側の共鳴波長λ1におけるピーク強度に対して0.7倍以上2.0倍以下とすることで、プラズモン共鳴によって生成される電場強度が同程度になり、電子の2回励起を効率よく行うことができる。
【0029】
さらに、前記長波長側の共鳴波長λ2におけるピーク強度は、前記短波長側の共鳴波長λ1におけるピーク強度に対して1.0倍以上2.0倍以下であることが望ましい。電子を荷電子帯から量子井戸内の準位まで励起する確率と、量子井戸内の準位から伝導帯へ励起する確率が同程度であれば、電子の2回励起をより効率よく行うことができる。短波長側の光と比較して長波長側の光の方が電子を励起する確率が小さいので、長波長側の共鳴波長λ2におけるピーク強度を、短波長側の共鳴波長λ1におけるピーク強度に対して1.0倍以上2.0倍以下とすることで、電子を荷電子帯から量子井戸内の準位まで励起する確率と、量子井戸内の準位から伝導帯へ励起する確率をより近くすることができる。
【0030】
本発明の第1又は第2の光電デバイスの別な実施態様は、前記微粒子の各サイズ毎の個数を表す分布が、2つ以上のピークを有することを特徴としている。かかる実施態様によれば、微粒子のサイズ設計によって2波長以上で局在表面プラズモン共鳴を発生させることができ、また微粒子の分布における最大個数やそのサイズを変更することで共鳴波長を調整することができる。
【0031】
本発明の第1又は第2の光電デバイスのさらに別な実施態様は、前記微粒子が異なる金属からなる2種以上の微粒子を含んでいることを特徴としている。かかる実施態様によれば、金属微粒子の金属種を異ならせることによって2波長以上で局在表面プラズモン共鳴を発生させることができ、また微粒子の金属種を変更することで共鳴周波数を調整することができる。
【0032】
本発明の第1又は第2の光電デバイスのさらに別な実施態様は、前記微粒子が金属及び互いに異なる誘電体からなる2種以上の微粒子を含んでいることを特徴としている。かかる実施態様によれば、微粒子を構成する誘電体の種類を異ならせることによって2波長以上で局在表面プラズモン共鳴を発生させることができ、また誘電体の種類や組合せを変更することで共鳴周波数を調整することができる。
【0033】
本発明の第1又は第2の光電デバイスのさらに別な実施態様は、前記微粒子が互いに形状の異なる2種以上の微粒子を含んでいることを特徴としている。かかる実施態様によれば、微粒子の形状設計によって2波長以上で局在表面プラズモン共鳴を発生させることができ、また各微粒子の形状を変更することで共鳴周波数を調整することができる。
【0034】
また、この実施態様においては、前記微粒子のうち1種の微粒子が、金属からなるロッド状の微粒子であり、その長手方向の寸法が短手方向の寸法の2倍以上の長さを有し、短手方向の寸法が10nm以上100nm以下であることを特徴としている。かかる寸法のロッド状をした金属微粒子を含んでいれば、2種以上の微粒子において長波長域における局在表面プラズモン共鳴を発生させることができる。
【0035】
また、この実施態様においては、前記微粒子のうち1種の微粒子が、誘電体からなる円柱状のコア部と前記コア部の周囲をリング状に囲んだ金属からなるリング部とによって構成された微粒子であり、前記コア部の円形断面の直径が40nm以上300nm以下であり、前記リング部の厚みが1nm以上20nm以下であり、前記リング部の高さが5nm以上で当該リング部の外径の0.5倍以下であることを特徴としている。かかる構造及び寸法の複合微粒子を含んでいれば、複数種類の微粒子において長波長域における局在表面プラズモン共鳴を発生させることができる。
【0036】
また、この実施態様においては、前記微粒子のうち1種の微粒子が、誘電体からなるコア部と前記コア部の外面をシェル状に覆った金属からなるシェル部とによって構成された微粒子であり、前記コア部の外形寸法が40nm以上200nm以下であり、前記シェル部の厚みが1nm以上20nm以下であることを特徴としている。かかる構造及び寸法の複合微粒子を含んでいれば、複数種類の微粒子において長波長域における局在表面プラズモン共鳴を発生させることができる。
【0037】
本発明の第1又は第2の光電デバイスのさらに別な実施態様は、前記微粒子が、誘電体からなるコア部と前記コア部の外面をシェル状に覆った金属からなるシェル部とによって構成され、前記コア部の外形寸法が150nm以上600nm以下であり、前記シェル部の厚みが1nm以上20nm以下であることを特徴としている。これは、シェル構造の微粒子により2波長で局在表面プラズモン共鳴を発生させるための条件である。すなわち、コア部の外径寸法が150nmよりも小さいと長波長側で吸収係数のピークが得られなくなり、またコア部の外径寸法が600nmよりも大きくなると、入射光の一部が散乱されて光電変換層に光が入射しにくくなるからである。また、シェル部の厚みが20nmよりも大きくなると長波長側ピークの吸収係数が小さくなり、またシェル部の膜厚が1nmよりも小さくなると、プラズモン共鳴が起こりにくくなって十分な電界強度を得られなくなるからである。
【0038】
本発明の第1又は第2の光電デバイスのさらに別な実施態様は、前記微粒子がある面に分布しており、当該微粒子が当該面を覆う被覆率が1%以上30%以下であることを特徴としている。微粒子の被覆率が1%よりも小さいと、特定波長域の光を微粒子とプラズモン共鳴させることができず、また微粒子の被覆率が30%よりも大きいと、共鳴しない波長域の光が微粒子層を透過しにくくなるからである。
【0039】
本発明の第1又は第2の光電デバイスのさらに別な実施態様は、前記微粒子がある面に分布しており、前記微粒子分布面と前記微粒子分布面から最も離れた前記第2の半導体との間の距離が、前記微粒子の外形寸法の平均値の2倍以下であることを特徴としている。微粒子の周囲に発生する電界は微粒子から離れるに従って次第に減衰しており、その広がりはほぼ微粒子の直径程度であると見積もられる。従って、微粒子から最も遠くにある第2の半導体までの距離が微粒子の外形寸法(例えば、球状の微粒子では直径)の2倍以上であると、光電変換層の全体に十分な強度の電界が届かなくなるので、最も遠くにある第2の半導体までの距離は微粒子の外形寸法直径の2倍以下であることが望ましい。
【0040】
本発明の第1の光電デバイスのさらに別な実施態様は、前記井戸層よりも大きなバンドギャップを有し、かつ前記障壁層の1層分の厚みよりも大きな厚みを有する第3の半導体層を備え、当該第3の半導体層を前記光電変換層の光入射側と反対側の隣接位置に設けたことを特徴としている。かかる実施態様によれば、量子井戸構造によって吸収されなかった光を第3の半導体層で吸収させることができるので、変換効率をより向上させることができる。
【0041】
本発明の第2の光電デバイスのさらに別な実施態様は、前記量子ドットよりも大きなバンドギャップを有し、かつ前記量子ドットどうしの光透過方向における距離よりも大きな厚みを有する第3の半導体層を備え、当該第3の半導体層を前記光電変換層の光入射側と反対側の隣接位置に設けたことを特徴としている。かかる実施態様によれば、量子ドットや障壁部で吸収されなかった光を第3の半導体層で吸収させることができるので、変換効率をより向上させることができる。
【0042】
また、これらの実施態様においては、前記第3の半導体層が前記第1の半導体と同じ材料によって形成されていることが望ましい。第3の半導体層を第1の半導体と同じ材料によって形成すれば、太陽電池の作製プロセスを簡略にすることができる。
【0043】
本発明の第1の光電デバイスのさらに別な実施態様は、前記井戸層の幅が10nm以下であり、前記障壁層の幅が10nm以下であることを特徴としている。かかる実施態様によれば、量子井戸の準位を離散化させることができるので、キャリアが緩和しにくくすることができる。また、電子が井戸層間でトンネリングしやすくなるので、キャリアの再結合を抑制することができる。
【0044】
本発明の第2の光電デバイスのさらに別な実施態様は、前記量子ドットの高さ、幅、奥行きのうち、いずれか一辺の長さが10nm以下であり、残る2辺の長さが30nm以下であることを特徴としている。かかる実施態様によれば、量子井戸の準位を離散化させることができるので、キャリアが緩和しにくくすることができる。
【0045】
なお、本発明における前記課題を解決するための手段は、以上説明した構成要素を適宜組み合せた特徴を有するものであり、本発明はかかる構成要素の組合せによる多くのバリエーションを可能とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0046】
以下、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態を説明する。
【0047】
(第1の実施形態)
図10は本発明の実施形態1による太陽電池の構造を示す概略断面図である。この太陽電池31にあっては、n-GaAs基板32の上面にn-GaAsバッファ層33を積層し、その上にn-AlGaAs層34を積層している。さらに、n-AlGaAs層34の上には、i-AlGaAsからなる第3の半導体層35を積層し、その上面に多重量子井戸構造の光電変換層36を積層している。光電変換層36の上面には、電子を面方向に移動させるためのp-AlGaAsエミッタ層37を設けてあり、p-AlGaAsエミッタ層37の上面の一部にはp型電極39及びp型電極39にオーミック接触するp-GaAsコンタクト層38を積層している。p-AlGaAsエミッタ層37の上面のうち、p型電極39から露出している領域には、微粒子40を分散させて付着させている。また、n-GaAs基板32の下面にはn型電極41を作製している。
【0048】
図11は、上記光電変換層36の構造を拡大して示す概略斜視図である。多重量子井戸構造の光電変換層36は、i-InGaAs層からなる井戸層42とi-AlGaAs層からなる障壁層43を複数層積層したものである。例えばこの実施形態では、厚さ200nmの第3の半導体層35の上に井戸層42が乗るようにして厚さ5nmのi-In0.9Ga0.1As層からなる井戸層42と厚さ5nmのi-Al0.4Ga0.6As層からなる障壁層43を5層ずつ交互に積層している。
【0049】
図12は上記のような構造の太陽電池31のバンド構造を計算により求めたものである。計算によれば、価電子帯(Ev)と井戸層42の量子準位(Eq)の間のバンドギャップをEg1、井戸層42の量子準位(Eq)と伝導帯(Ec)の間のバンドギャップをEg3とすれば、
Eg1=1.32eV (換算波長943nm)
Eg3=0.61eV (換算波長2042nm)
である。また、量子準位を介することなく価電子帯(Ev)から伝導帯(Ec)へ直接遷移する際のバンドギャップEg2は、
Eg2=1.92eV (換算波長645nm)
である。第3の半導体層35は、障壁層43と同じ組成の材料としたので、第3の半導体層35における価電子帯(Ev)と伝導帯(Ec)との間のバンドギャップEg4も、Eg2と同じく、
Eg4=1.92eV (換算波長645nm)
となった。
【0050】
また、上記微粒子40はシェル構造となっており、図13(a)に示すように、誘電体コア45を金属シェル46で覆った構造となっている。具体的にいうと、微粒子40は、直径が340nmのほぼ球状をしたシリカ(SiO)からなる誘電体コア45の表面を、膜厚13nmのAuからなる金属シェル46で覆ったものである。微粒子40は、2×10cm−2程度の数密度となるように、光電変換層36の上面に付着させている。微粒子40は、規則的に配列されている必要はなく、巨視的にみてほぼ均一とみなせる程度でランダムに分布しており、また微粒子分布の被覆率はほぼ20%とした。なお、この被覆率とは、微粒子40の分布している面に垂直な方向から見て、微粒子40の分布している領域の面積(例えば、図13(b)の2点鎖線で囲んだ領域の面積)を分母とする、その領域に含まれる微粒子40の合計面積(例えば、図13(b)で斜線を施した微粒子の正射影面積の合計)の比である。
【0051】
図14は上記のようなシェル構造のシリカ−Au微粒子40による吸収スペクトルを計算した結果を示す。この微粒子40の吸収スペクトルによれば、λ1=900nmとλ2=1520nmに吸収のピークが見られ、しかもこの共鳴波長を含む広範囲な波長域で局在表面プラズモン共鳴している。
【0052】
なお、微粒子40を構成する球状の誘電体コア45としては、シリカ以外にも、ポリスチレンやPMMA(ポリメチルメタクリレート)などを用いることもできる。また、誘電体コア45を球殻状に覆う金属シェル46としては、Au以外にも、Ag、Pt、Cu、Al、Pdなどを用いることもできる。
【0053】
誘電体コア45を金属シェル46で覆った1種の微粒子40により、吸収スペクトルに2つ以上のピークを生じさせるためには、
誘電体コア45の直径: 150nm以上600nm以下
金属シェル46の膜厚: 1nm以上20nm以下
とすることが望ましい。
【0054】
このような微粒子40においては、誘電体コア45の直径が大きいほど共鳴波長が長波長側へシフトし、誘電体コア45の直径が小さいほど共鳴波長が短波長側へシフトし、誘電体コア45の直径が150nmよりも小さい場合には長波長側で吸収係数のピークが得られなくなる。一方、誘電体コア45の直径が600nmよりも大きくなると、回折散乱により光の一部が散乱されてしまい、光電変換層36に光が入射しにくくなる。従って、誘電体コア45の直径は、150nm以上600nm以下が好ましい。なかでも、誘電体コア45の直径として260nm以上400nm以下とすれば、短波長側ピークと長波長側ピークの強度比を最適化できる。
【0055】
また、金属シェル46の膜厚が薄いほど共鳴波長が長波長側へシフトし、金属シェル46の膜厚が厚いほど共鳴波長が短波長側へシフトし、金属シェル46の膜厚が20nmよりも大きくなると長波長側ピークの吸収係数が小さくなってしまう。一方、金属シェル46の膜厚が1nmよりも小さくなると、プラズモン共鳴が起こりにくくなり、十分な電界強度を得られなくなる。従って、金属シェル46の膜厚は、1nm以上20nm以下が好ましい。なかでも、金属シェル46の膜厚として5nm以上15nm以下とすれば、短波長側ピークと長波長側ピークの強度比を最適化できる。
【0056】
多重量子井戸構造の光電変換層36において効率よく電子を励起するためには、電子を価電子帯から井戸層42の量子準位Eqまで励起する確率と、電子を量子準位Eqから伝導帯へ脱出させる確率とが釣り合っていることが好ましい。そのために、短波長側の光によって生成される電場強度と長波長側の光によって生成される電場強度が同程度であればよく、局在表面プラズモン共鳴による吸収係数の比が短波長側のピーク値に対して長波長側のピーク値が0.7から2.0の範囲であることが好ましい。図14の吸収スペクトルでは、2つの吸収ピークのうち長波長側のピーク値が、短波長側のピーク値の0.85倍となっているから、電子を効率よく励起できる。また、多重量子井戸構造においては、短波長側の光と比較して長波長側の光の方が電子を励起する確率が小さい。電子を価電子帯から井戸層42の量子準位Eqまで励起する確率と、電子を量子準位Eqから伝導帯へ脱出させる確率を同程度にするためには、短波長側のピーク値に対して長波長側のピーク値が1.0倍から2.0倍の範囲内にあることが好ましい。
【0057】
このような構造の太陽電池31によれば、太陽電池31に入射した光のうち、特定の波長の光は局在表面プラズモン共鳴することにより微粒子40の近傍に強い電界を発生させる。この電界の強度は、図15に示すように、微粒子の表面からの距離が大きくなるとともに指数関数的に減少している。この電界強度が1/eとなる距離をしみ出し距離といい電界の広がりの大きさを示す指標とされる。微粒子40のしみ出し距離は微粒子直径Dにほぼ等しいとされるので、電界は微粒子40の周囲で距離Dないし2Dの領域まで広がっていると考えられる。この電界が光電変換層36に作用すると、電子を励起することができるため、最終的に光エネルギーを電子のエネルギーに変換することが可能となる。しかも、局所表面プラズモン共鳴により発生する電界強度は入射光に対して数十倍に増強されているので、微粒子40の近傍の非常に薄い領域で光のエネルギーを高効率で電気エネルギーに変換するとが可能となる。
【0058】
実施形態1に即して言えば、図14のように微粒子40はλ1=900nmとλ2=1520nmに吸収のピークを有している。また、井戸層42において電子を価電子帯から量子井戸内の準位Eqまで励起するエネルギーE1[eV]と量子準位Eqから伝導帯へ電子を脱出させるエネルギーE3[eV]に相当する換算波長はλa=hc/(E1×1.602×10−19)=943nmとλb=hc/(E3×1.602×10−19)=2042nmである(hはプランク定数、cは光速度)。よって、
λ1 ≦ λa ≦ λ2 ≦ λb
を満足している。そのため、波長λ1の光による電界で電子を量子井戸まで励起し、波長λ2の光による電界で電子を量子井戸から脱出させることが可能となる。その結果、局在表面プラズモン共鳴を利用した2回励起によって電子を価電子帯から伝導帯へ高効率で励起することができ、太陽電池31の光電変換効率を向上させることができる。また、共鳴波長λ1とλ2が400nm以上離れているので、広範囲な波長の光を吸収させることができる。さらに、微粒子の材料や寸法などを変えたり、後述のように微粒子の形状や構造、組合せなどを変えたりすることによって共鳴波長を変化させることができるので、光電変換層36のバンド構造に応じた共鳴波長が得られるように微粒子を設計することができる。
【0059】
一方、障壁層43での励起エネルギーEg3に相当する波長645nm付近の光は局在表面プラズモンによる吸収係数が小さいため(図14参照)、プラズモン共鳴せずに光電変換層36に到達しやすい。そのため、障壁層43における励起には局在表面プラズモン共鳴による電界をほとんど生かすことはできないが、一般的な多重量子井戸構造と同じように、障壁層43における光吸収によって電子を価電子帯から伝導帯まで励起することができる。
【0060】
なお、微粒子40が密に分布していて微粒子分布の被覆率が30%よりも大きくなると、微粒子40とプラズモン共鳴しない光が微粒子40の分布している面を透過して光電変換層36に入射しにくくなる。反対に、微粒子分布の被覆率が1%よりも小さくなると、微粒子40と相互作用しない光が多くなるためプラズモン共鳴により十分な電界強度が獲られなくなる。特に、微粒子40の被覆率を15%以上25%以下とすれば、プラズモン共鳴により十分な電界強度が得られ、かつプラズモン共鳴しない波長の光を光電変換層36に入射させることが可能となる。従って、微粒子分布の被覆率は1%以上30%以下が好ましく、特に15%以上25%以下とすることが望ましい。実施形態1では、微粒子40の密度を2×10cm−2とし、微粒子40の被覆率を20%程度としているので、最適な範囲内に納まっている。
【0061】
さらに、障壁層43によって吸収されなかった波長645nm付近の光は、第3の半導体層35に達する。障壁層43で吸収されなかった波長645nm付近の光は、第3の半導体層35でさらに吸収され、第3の半導体層35において光エネルギーから電気エネルギーに変換される。そのため、第3の半導体層35はバンドギャップE4が局在表面プラズモン共鳴する波長のエネルギーと異なっていることが好ましい。さらには、光電変換層36で生成したキャリアをロス無く収集するためには、障壁層43と同程度のバンドギャップを有していることが好ましい。これらの条件を満たせば、第3の半導体層35は障壁層43と異なる材料であってもよい。ただし、実施形態1のように、第3の半導体層35と障壁層43で同じ材料を用いれば、太陽電池31の作製プロセスの簡略化を図ることができる。
【0062】
ここで、井戸層42及び障壁層43の幅(厚み)を考えると、以下のような理由により、いずれも10nm以下が好ましく、5nm以下がより好ましい。井戸層42の幅が大きすぎると、井戸層42内には多くの量子準位が生成する。量子準位が多数ある場合には、障壁層43の伝導帯を流れてきた電子は井戸層42内の量子準位に落ち込みやすくなり、エネルギーを熱としてロスしてしまう。そのため、井戸層42内の準位を考えると、井戸層42の幅は10nm以下が好ましい。また、障壁層43の幅が小さくなると、キャリアが障壁層43をトンネリングして井戸層42から井戸層42へ移動できるようになる。井戸層42内の量子準位Eqへ励起された電子が隣接する井戸層42間をトンネリングして移動できるようになると、電子の移動度が大きくなり、電子が高速で移動すると、正孔と電子が空間的に分離されるために再結合しにくくなり、キャリアの収集効率が高くなる。このような有効なトンネリングを可能にするためには、障壁層43の幅は10nm以下とすることが好ましい。
【0063】
また、井戸層42と障壁層43を薄くして電子がトンネリングしやすくすると、井戸層42の量子準位Eqどうしの間にミニバンド44が形成される。ミニバンド44が形成されると、電子の遷移確率が高くなり電子を励起しやすくなる。このようなミニバンド44を形成するためには、井戸層42、障壁層43の幅を共に5nm以下にすることが好ましい。
【0064】
実施形態1では、井戸層42と障壁層43の幅がそれぞれ5nmと小さいため、図14に示すように、量子準位Eqの近傍にミニバンドが生じていて電子がトンネリングしながらミニバンド内を移動できるようになる。このため電子と正孔の再結合を抑制して太陽電池31の効率をより向上させることができる。
【0065】
なお、第3の半導体層35は無くても差し支えない。第3の半導体層35を無くす場合には、例えば障壁層43のバンドギャップE3に相当する波長の光と共鳴する微粒子を混合し、障壁層43における光吸収を高くするようにしてもよい。
【0066】
(作製プロセス)
つぎに、図10、図11、図16を参照して、太陽電池31の作製方法を説明する。太陽電池31を作製するには、分子線エピタキシー法(MBE)を用いて以下のように作製すればよい。まず、不純物としてSiを含むn-GaAs基板32を準備し、当該基板32をアセトンやメタノール等の溶剤を用いて有機洗浄する。基板32の表面を硫酸系エッチング液でエッチングして酸化膜等を除去した後、基板32をMBE装置内に搬入してセットする。ついで、MBE装置内において、成長温度580℃、成長速度1.0μm/h、As4圧2×10−5Torrの減圧下で順次各層を下記の厚さとなるようにエピタキシャル成長させる(図10、図11参照)。
・n-GaAsバッファ層33 1μm
・n-Al0.4Ga0.6As層34 600nm
・第3の半導体層35 200nm
(i-Al0.4Ga0.6As層)
・光電変換層36(井戸層と障壁層を各5層)
井戸層42(i-In0.9Ga0.1As) 5nm
障壁層43(i-Al0.4Ga0.6As) 5nm
・p-Al0.4Ga0.6Asエミッタ層37 50nm
・p-GaAsコンタクト層38 50nm
なお、n型ドーパントにはSi、p型ドーパントにはBeを用いればよい。
【0067】
そして、最後にp型p-GaAsコンタクト層38を一部残してエッチング除去し、p-GaAsコンタクト層38の上にp型電極39を設け、またn-GaAs基板32の下面にn型電極41を設ける。ついで、下記のようにして光電変換層36の上面に微粒子40を設ける。
【0068】
なお、各結晶層を積み上げる方法としては、MBE法に限らず有機金属化学気相成長法(MOCVD)などを用いてもよい。
【0069】
図16は微粒子40の作製方法を表した概略図である。まず、図16(a)に示すようにシリカによって平均粒径が約340nmのナノ粒子を作製して誘電体コア45とする。ついで、図16(b)に示すように、この誘電体コア45にアミン47で終端したシランカップリング剤を付着させる。こうして処理された誘電体コア45を、HAuCl液中に入れると、図16(c)に示すように、Auイオン48がアミン47により還元されて誘電体コア45の表面に引き付けられ、図16(d)のように誘電体コア45の表面にAu薄膜(金属シェル46)が成長する。
【0070】
この微粒子40を含んだ溶液をスピンコートにより光電変換層36の表面に塗布し、溶媒を乾燥させて除去することにより、図10のように光電変換層36の表面に多数の微粒子40をほぼ均一に付着させることができる。
【0071】
(他の材料の組合せ)
なお、上記実施形態では、GaAs基板に対して、障壁層の材料にAlGaAs、井戸層の材料にInGaAsを用いたが、この組合せ以外も可能である。例えば、下記に挙げるような組合せでもよい。なお、各材料の組成比については、バンドギャップや格子歪を考慮して最適に調整すれば特に制限は無い。
(1) 基板材料: GaAs
障壁層材料: GaAs
井戸層材料: InGaAs
この材料の組合せによれば、量子井戸構造におけるバンドギャップを最適化でき、太陽光スペクトルにマッチングできる(この特徴は、上記実施形態1でも当てはまる)。
(2) 基板材料: GaAs
障壁層材料: AlGaAs
井戸層材料: GaAs
この材料の組合せによれば、AlGaAsとGaAsの格子定数がほぼ同じであり、格子歪が無いために結晶性を高くでき、再結合によるロスを小さくできる。
(3) 基板材料: GaAs
障壁層材料: GaAsP
井戸層材料: InGaAs
この材料の組合せによれば、GaAs基板よりも格子定数の小さなGaAsPと格子定数の大きなInGaAsを組み合わせることで歪補償し、転移の発生を抑制できるので、結晶性を高くできる。
(4) 基板材料: InP
障壁層材料: InGa1−xAs
井戸層材料: InGa1−zAs (x<z)
この材料の組合せによれば、InP基板よりも格子定数の小さなInGa1−xAsと格子定数の大きなInGa1−zAsを組み合わせることで歪補償し、転移の発生を抑制することができるので、結晶性を高くできる。
(5) 基板材料: Si
障壁層材料: SiO
井戸層材料: Si
(6) 基板材料: Si
障壁層材料: Si
井戸層材料: Si
(7) 基板材料: Si
障壁層材料: SiC
井戸層材料: Si
Si系は材料が豊富にあるので、(5)〜(7)の材料の組合せによれば、原料費を安価にできる。
【0072】
また、図17に実施形態1の変形例を示す。図17の変形例では、エミッタ層を設けず、多重量子井戸構造の光電変換層36の上面に微粒子40を分布させている。光電変換層36の上面に直接微粒子40を設けることで、微粒子40で発生した電界が光電変換層36に到達しやすいので、変換効率を高めることができる。この場合、キャリアの収集効率を高めるためにp型電極39およびコンタクト層38の周期を小さくすることが好ましい。
【0073】
ただし、光電変換層36と微粒子40の間に他の半導体層が介在していると否とにかかわらず、微粒子40の近傍に発生する電界が光電変換層36の全体を覆うことが望ましい。すなわち、微粒子40の表面と微粒子40から最も離れた光電変換層36との距離が微粒子40の直径に対して大きすぎると、電界が増強された領域の外に量子井戸が形成されていることになり、光の吸収量が増えない割りに量子井戸による欠陥の影響を受けやすくなる。一方、微粒子40の表面と微粒子40から最も離れた量子井戸層との距離が微粒子40の直径に対して小さすぎると、局在表面プラズモン共鳴によって生じた強い電界のエネルギーを十分に吸収することができなくなる。そのため、微粒子40の分布している面から測って光電変換層36の下面までの距離が、微粒子40の直径の2倍以下(特に、2倍以下で2倍に近い値)となるようにすることが好ましい。
【0074】
このような点を考慮すると、光電変換層36と微粒子40の間に他の半導体層が介在している場合には、電界の及ぶ範囲内に形成できる井戸層42と障壁層43の層数が少なくなるので、微粒子40は光電変換層36の上面に設けることが望ましい。
【0075】
(第2の実施形態)
実施形態1においては、1種類の微粒子40によって局所表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルに2つのピークを発生させる場合について説明したが、共鳴波長の異なる複数種類の微粒子を混在させることで複数の波長領域でプラズモン共鳴させることも可能である。
【0076】
このような用途に用いることのできる微粒子としては、例えば図18(a)〜(e)に示すような、球状の微粒子40a、ディスク状の微粒子40b、ロッド状の微粒子40c、リング状の微粒子40d、シェル状の微粒子40eなどがある。これらのうち球状の微粒子40a、ディスク状の微粒子40bは短波長側で共鳴させやすく、ロッド状の微粒子40c、リング状の微粒子40d、シェル状の微粒子40eは長波長側で共鳴させやすい。図20は特許文献4に記載されているものであるが、球状の微粒子とロッド状の微粒子との共鳴波長の違いを表している。
【0077】
さらに、これらの微粒子の材料やサイズを変えることにより、プラズモン共鳴する波長を調整することができる。また、上記の形状に限るものでなく、立方体状の微粒子、四角柱状の微粒子、三角柱状の微粒子、三角錐状の微粒子、四角錐状の微粒子なども用いることができる。なお、以下において長波長(域)、短波長(域)という用語を用いているが、これは比較する波長との関係によって変わる相対的なものである。
【0078】
例えば短波長域で共鳴させるためには、つぎのようなサイズの球状をした金属の微粒子40a(全体が金属であるもの)を用いればよい(図18(a))。
金属球の(平均)直径D1: 10nm以上200nm以下
特に、直径100nmの球状のAu微粒子の場合には、図9のような吸収スペクトルが得られる。
【0079】
また、短波長域で共鳴させるためには、つぎのようなサイズのディスク状をした金属の微粒子40b(全体が金属であるもの)を用いてもよい(図18(b))。
底面の直径D2: 10nm以上300nm以下
ディスクの厚みH2: 5nm以上で、底面の直径D2の0.5倍以下
(5nm≦H2≦D2/2)
【0080】
例えば長波長域で共鳴させるためには、つぎのようなサイズの円柱や四角柱などのロッド状をした金属の微粒子40c(全体が金属であるもの)を用いればよい(図18(c))。
短手方向の長さD3: 10nm以上100nm以下
長手方向の長さH3: 短手方向の長さD3の2倍以上10倍以下
ここで、短手方向の長さD3とは底面の直径や一辺の長さを指し、長手方向の長さH3とは高さを指している。微粒子40cの短手方向の長さD3が10nmより短い場合には、プラズモン共鳴が起こりにくくなり、微粒子40cの近傍に十分な電界強度を得られなくなる。一方、短手方向の長さD3が100nm以上になると、光が微粒子40cによる回折等で散乱して光の一部が光電変換層36に到達しにくくなる。従って、短手方向の長さは、10nm≦D3≦100nmであることが好ましい。また、微粒子40cの短手方向の長さD3に対する長手方向の長さH3の比が2倍より小さいと、共鳴波長が長波長側へシフトしない。一方、この比が10倍より大きくなると、微粒子40cの作製が困難になる。よって、短手方向の長さD3に対する長手方向の長さH3の比は、2≦(H3/D3)≦10であることが好ましい。
【0081】
さらに、ロッド状をした金属の微粒子40cの長手方向の長さが短手方向の長さの4倍以上10倍以下とすれば、長波長側で吸収スペクトルの強いピークが得られる。
【0082】
長波長で共鳴させるための別な形態としては、円柱状の誘電体コア51の周囲に金属膜からなるリング部52を環状に形成した微粒子40dを用いてもよい(図18(d))。この微粒子40dを長波長域で共鳴させるためには、そのサイズを
誘電体コア51の直径d4: 40nm以上300nm以下
リング部52の厚さT4: 1nm以上20nm以下
微粒子40dの高さH4: 5nm以上で、外周部直径の0.5倍以下
とすることが望ましい。誘電体コア51の直径が40nmより小さいと、共鳴波長が長波長へシフトしない。一方、300nmより大きくなると、光が微粒子40dで散乱することにより光の一部が光電変換層36に到達しにくくなる。従って、誘電体コア51の直径は、40nm≦d4≦300nmであることが好ましい。また、リング部52の厚さT4が1nmよりも小さい場合には、プラズモン共鳴が起こりにくくなり、微粒子40dの近傍で十分な電界強度が得られなくなる。一方、厚さT4が20nmよりも厚くなると、長波長側での吸収係数が小さくなってしまう。従って、リング部52の厚さは、1nm≦T4≦20nmであることが好ましい。また、微粒子40dの高さH4が、5nmよりも小さい場合には、プラズモン共鳴が起こりにくくなって微粒子40dの近傍に十分な電界強度が得られなくなる。一方、高さH4が微粒子40dの外周部直径(d4+2×T4)の1/2よりも大きくなると、散乱により光の一部が光電変換層36に到達しにくくなる。従って、微粒子40dの高さは、5nm≦H4≦(d4+2×T4)/2であることが好ましい。
【0083】
長波長で共鳴させるためのさらに別な形態としては、シェル状の誘電体コア45の周囲に金属薄膜からなる金属シェル46を環状に形成した微粒子40eを用いてもよい(図18(e))。この微粒子40eを長波長域で共鳴させるためには、そのサイズを、
誘電体コア45の直径D5: 40nm以上200nm以下
金属シェル46の膜厚T5: 1nm以上20nm以下
とすることが望ましい。誘電体コア45の直径D5が40nmよりも小さい場合には、共鳴波長が長波長側へシフトしない。一方、直径D5が200nmよりも大きい場合には、複数の波長領域で共鳴する。従って、誘電体コア45の直径は、40nm≦D5≦200nmであることが好ましい。また、金属シェル46の膜厚T5が1nmよりも小さい場合には、微粒子40eでプラズモン共鳴が起こりにくくなり、十分な電界強度が得られなくなる。一方、膜厚T5が20nmよりも大きくなると、光の吸収係数が小さくなってしまう。従って、金属シェル46の膜厚は、1nm≦T5≦20nmであることが好ましい。
【0084】
なお、図18(a)〜(c)のような誘電体を含まない微粒子40a〜40cの作製方法としては、図19に示すように、光電変換層36の表面に形成した金属膜をパターニングする別方法も可能である。この方法では、光電変換層36の表面にレジスト49を形成し(図19(a))、電子ビーム露光法によってレジスト49をパターニングし(図19(b))、それによって微粒子を形成しようとする位置でレジスト49に微小開口を形成して光電変換層36をレジスト49から露出させる。この後、レジスト49の上から金属を蒸着させてレジスト49及び光電変換層36の上面に金属膜50を堆積させる(図19(c))。ついで、レジスト49を溶剤で溶かしてレジスト49の上の金属膜50をリフトオフすると、光電変換層36の上面に残った金属膜50によって微粒子40が形成される(図19(d))。このような方法によれば、微粒子の形状、サイズ、微粒子40間の距離などを制御することができ、サイズや形状の異なる微粒子40a〜40cなどを混在させることもできる。
【0085】
(第3の実施形態)
実施形態1においては、1種類の単一サイズの微粒子40によって局所表面プラズモン共鳴の吸収スペクトルに2つのピークを発生させる場合について説明し、実施形態2に置いては、形状又は構造の異なる微粒子40a〜40e等を組み合わせることで複数の波長領域でプラズモン共鳴させる場合について説明したが、複数の波長域でプラズモン共鳴させる方法はこれら以外にもある。
【0086】
その一つは、図21(a)に示すように、微粒子53どうしを近接配置することによって複数の波長域でプラズモン共鳴させる方法である。金属の微粒子53どうしを接近させると、お互いの電界が相互作用するため、吸収スペクトルに2つのピークが発生するからである。近接させることで吸収スペクトルに2つ以上のピークを持たせるためには、微粒子53のサイズ及び粒子間距離をつぎのようにすることが好ましい。
微粒子53の直径D6: 10nm以上300nm以下
微粒子53間の距離W6: 直径D6の2倍以下
微粒子53の直径D6が10nmよりも小さいと、短波長側の共鳴波長が短すぎ、また300nmよりも大きいと、散乱によって光の一部が光電変換層36に入射しにくくなるからである。また、微粒子53間の距離W6が直径D6の2倍よりも大きくなると、電界のしみ出し距離(ほぼ直径D6に等しい)が重なり合わなくなるために相互作用しにくくなるので、微粒子53間の距離W6は直径D6の2倍以下であることが好ましく、さらには直径D6の1倍以下であることが好ましい。
【0087】
別な方法は、図21(b)に示すように、サイズの異なる微粒子54a、54bを混在させる方法である。微粒子のサイズが大きくなるほど局在表面プラズモン共鳴する波長は長波長側へシフトする。よって、目的とする長波長側の共鳴波長が得られるようにサイズの大きな微粒子54aの直径Dlを決め、目的とする短波長側の共鳴波長が得られるようにサイズの小さな微粒子54bの直径Dsを決め、さらに長波長側の共鳴波長において目的とする吸収係数が得られるようにサイズの大きな微粒子54aの個数Nlを決め、短波長側の共鳴波長において目的とする吸収係数が得られるようにサイズの小さな微粒子54bの個数Nsを決めれば、図22に示すような微粒子の分布を設計することができる。そして、その分布に従って調整された微粒子を光電変換層36の表面に散布すれば、目的とする吸収スペクトルを得ることができる。
【0088】
さらに別な方法としては、異なる金属材料を2種類あるいは3種類以上混合して微粒子を作製する方法がある。プラズモン共鳴する波長は金属の誘電率を変えることで変化させることができるので、誘電率の異なる金属を混ぜることにより、複数の共鳴波長を持たせることができる。例えばAgの微粒子よりもAuの微粒子の方が共鳴波長が長波長側にあるので、AgとAuを混合して微粒子を作製すれば、短波長側と長波長側でプラズモン共鳴させることができる。
【0089】
さらに別な方法としては、異なる誘電体材料を2種類あるいは3種類以上混合して微粒子を作製する方法がある。微粒子内部の誘電体や周囲媒質の誘電率を高くすると、プラズモン共鳴の共鳴波長は長波長側へシフトするので、誘電率の異なる誘電体材料を混ぜることにより、複数の波長で共鳴させることができる。例えば、2種以上の誘電体材料を混合して球状の誘電体コア45を作製し、その表面を金属シェル46で覆ってシェル型の微粒子としたものである。
【0090】
(第4の実施形態)
図23は本発明の実施形態4による太陽電池61を模式的に示す斜視図である。この太陽電池61では、基板62の上方に形成された第3の半導体層63が形成され、第3の半導体層63の上に量子ドット構造の光電変換層64が形成され、光電変換層64の上面の一部に電極68が形成されている。また、光電変換層64の上面の電極68から露出した領域には、微粒子67が分布している。また、光電変換層64では、障壁部65内に離散的に複数の量子ドット66が分布している。量子ドット66は障壁部65よりもエネルギーギャップの小さな半導体材料によって形成されており、光透過方向(垂直方向)には各量子ドット66が整列している。また、基板62の下面には電極69が設けられている。障壁部65は実施形態1の障壁層43に相当するものであり、量子ドット66は実施形態1の井戸層42に相当するものである。
【0091】
実施形態1で井戸層42が層状に設けられていたのに対し、実施形態2では量子ドット66がドット状(離散的な微小領域)に形成されている点を除けば、この太陽電池61も実施形態1と同様な材料により同様に構成される。
【0092】
そして、受光面側から光が入射すると、複数の共鳴波長の光が微粒子67でプラズモン共鳴して微粒子67の近傍に強い電界を発生させる。そして、量子ドット66では共鳴波長の光が吸収されて価電子帯から量子ドット内の準位へ電子が励起されると共に量子ドット内の準位から伝導帯へと電子が励起される。また、障壁部65では共鳴波長以外の光が吸収されて価電子帯から伝導帯へ電子が励起される。また、光電変換層64を透過した光のうち第3の半導体層63のバンドギャップよりも大きな光が第3の半導体層63で吸収される。しかも、この太陽電池61では、量子ドット構造となっているので、量子ドット66(3次元の量子井戸)内の量子準位がさらに離散化し、障壁部65の伝導帯を流れてきた電子が量子井戸内の量子準位に緩和しにくくなる。
【0093】
量子ドット66の場合、その量子準位を離散化させるためには、量子ドット66の高さ、奥行き、幅のいずれか一辺が10nm以下であり、残りの2辺の長さが30nm以下であることが望ましい。特に、厚み(高さ)を5nm、奥行きおよび幅を20nmとすれば、量子準位を十分離散化させることができる。
【0094】
また、量子ドット66どうしは高さ方向に位置が揃っている方が好ましく、高さ方向の量子ドット66間の距離(量子ドット66の表面間の最短距離)は10nm以下であることが好ましい。これによって電子が高さ方向にトンネリングして流れやすくなる。このとき、量子ドット66は水平面内(幅方向、奥行き方向)では揃って並んでいる必要はなく、規則的に配列していてもよく、ランダムに配列していてもよい。また、高さ方向の量子ドット66間の距離を5nm以下とすれば、ミニバンドが形成され、電子の励起確率を高めることが可能になる。
【0095】
(第5の実施形態)
図24は実施形態5による太陽電池71の構造を示す斜視図である。この太陽電池71では、基板72の上方に位置する第3の半導体層73の上面において、格子歪を利用した自己組織化により障壁層75と井戸層76を交互に積層して多重量子井戸構造の光電変換層74を作製している。格子歪を利用した自己組織化で光電変換層74を作製すると、濡れ層77と島状部78ができるが、このような構造であっても量子ドットと同様の作用効果が得られる。このときも、島状部78の高さは10nm以下、島状部78の水平面内での直径(幅と奥行き)は30nm以下であることが望ましい。
【0096】
また、光電変換層74の上面には2波長以上で局在表面プラズモン共鳴する微粒子79が分散しており、光電変換層74の上面の一部には電極80が設けられ、基板72の下面にも電極81が設けられている。
【0097】
(第6の実施形態)
微粒子は、光入射方向に対して裏面側に設けてもよい。一般には、サブストレート型の太陽電池では光入射面側に微粒子を配置することが望ましく、スーパーストレート型の太陽電池では裏面側に微粒子を配置することが望ましい。
【0098】
図25に示す実施形態6の太陽電池91では、透明基板92の裏面に透明電極93を設けてあり、透明電極93の裏面に第3の半導体層94を形成している。さらに、透明電極93の裏面には、障壁層と井戸層からなる多重量子井戸構造の光電変換層95を積層している。光電変換層95には、実施形態1と同様に、GaAs系などの2元または3元のIII-V族化合物半導体を用いることができるが、それ以外の材料を用いてもよい。例えば、結晶系として単結晶Siや多結晶Siのほか、a-SiやCIS、CIGS、CdTeなどの薄膜系を用いてもよい。
【0099】
光電変換層95の裏面には、複数の共鳴波長を有する微粒子97を含む誘電体96が塗布されており、また電極98が設けられている。微粒子97を含む誘電体96は、光電変換層95の成膜工程に影響を与えないために、光電変換層95の成膜後に塗布することが望ましい。
【0100】
裏面に微粒子97を配置した構造では、透明基板92側から光が入射すると、第3の半導体層94で光が吸収され、第3の半導体層94及び光電変換層95を透過した光によって微粒子97が局在表面プラズモン共鳴する。そして、微粒子97の近傍に発生した強い電界によって光電変換層95の電子が励起され、光電変換層95で共鳴波長の光が吸収される。
【0101】
なお、上記各実施形態においては、太陽電池において本発明を適用した場合について説明したが、本発明は光電センサなどにも適用することができる。また、色素増感型の太陽電池や有機太陽電池にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0102】
【図1】図1は、一般的な単接合太陽電池の構造を示すエネルギーバンド図である。
【図2】図2は、多接合太陽電池の構造を示すエネルギーバンド図である。
【図3】図3は、多重量子井戸構造の太陽電池の構造を示すエネルギーバンド図である。
【図4】図4は、深い量子井戸を持つ多重量子井戸構造の太陽電池の構造を示すエネルギーバンド図である。
【図5】図5は、量子ドット構造の太陽電池を示す概略斜視図である。
【図6】図6は、井戸層に未結合手による界面準位Ed1、Ed2が生じた様子を示すエネルギーバンド図である。
【図7】図7は、金属微粒子を用いた太陽電池の概略断面図である。
【図8】図8は、金属微粒子を用いた別な太陽電池の概略断面図である。
【図9】図9は、金属微粒子の吸収スペクトルを示す図である。
【図10】図10は、本発明の実施形態1による太陽電池の構造を示す概略断面図である。
【図11】図11は、同上の太陽電池の光電変換層を拡大して示す概略斜視図である。
【図12】図12は、実施形態1の太陽電池のエネルギーバンド図である。
【図13】図13(a)は、シェル構造の微粒子の構造を示す断面図である。図13(b)は、微粒子の被覆率を説明するための図である。
【図14】図14は、図13(a)に示したシェル構造の微粒子の吸収スペクトルを示す図である。
【図15】図15は、局在表面プラズモン共鳴により微粒子の近傍に生じた電界の強度を示す図である。
【図16】図16(a)〜(d)は、シェル構造の微粒子の作製方法を示す図である。
【図17】図17は、実施形態1の変形例による太陽電池の構造を示す概略断面図である。
【図18】図18(a)〜(e)は、種々の微粒子の形状または構造を示す斜視図である。
【図19】図19(a)〜(d)は、誘電体を含まない微粒子の作製方法を示す図である。
【図20】図20は、球状の微粒子とロッド状の微粒子との共鳴波長の違いを表した図である。
【図21】図21(a)、(b)は、それぞれ2波長以上で共鳴させるための方法を説明する概略図である。
【図22】図22は、微粒子の分布の設計について説明するための図である。
【図23】図23は、本発明の実施形態4による太陽電池の構造を模式的に示す斜視図である。
【図24】図24は、本発明の実施形態5による太陽電池の構造を模式的に示す斜視図である。
【図25】図25は、本発明の実施形態6による太陽電池の構造を模式的に示す断面図である。
【符号の説明】
【0103】
31、61、71 太陽電池
32、62 基板
35、63 第3の半導体層
36、64 光電変換層
39 p型電極
40、40a、40b、40c、40d、40e 微粒子
41 n型電極
42 井戸層
43 障壁層
45 誘電体コア
46 金属シェル
51 誘電体コア
52 リング部
53、54a、54b、67、69 微粒子
65 障壁部
66 量子ドット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の半導体からなる障壁層と、第1の半導体よりもバンドギャップの小さな第2の半導体からなる井戸層とを複数層交互に積層させた多重量子井戸構造の光電変換層を有する光電デバイスにおいて、
少なくとも2つの波長帯域で局在表面プラズモン共鳴する微粒子を有することを特徴とする光電デバイス。
【請求項2】
第1の半導体からなる障壁部内に、第1の半導体よりもバンドギャップの小さな第2の半導体からなる少なくとも1つの量子ドットが含まれた量子ドット構造の光電変換層を有する光電デバイスにおいて、
少なくとも2つの波長帯域で局在表面プラズモン共鳴する微粒子を有することを特徴とする光電デバイス。
【請求項3】
電子を価電子帯から量子井戸内の準位まで励起するエネルギーに相当する波長と電子を量子井戸内の準位から伝導帯へ脱出させるエネルギーに相当する波長を短い側から順にλa、λbとし、前記微粒子に生成する局在表面プラズモン共鳴の2つの共鳴波長を短い側から順にλ1、λ2とするとき、
λ1 ≦ λa ≦ λ2 ≦λb
であることを特徴とする、請求項1または2に記載の光電デバイス。
【請求項4】
前記共鳴波長のλ1とλ2が、互いに400nm以上離れていることを特徴とする、請求項3に記載の光電デバイス。
【請求項5】
前記微粒子の吸収スペクトルにおいて、長波長側の共鳴波長λ2におけるピーク強度が、短波長側の共鳴波長λ1におけるピーク強度に対して0.7倍以上2.0倍以下であることを特徴とする、請求項4に記載の光電デバイス。
【請求項6】
前記長波長側の共鳴波長λ2におけるピーク強度が、前記短波長側の共鳴波長λ1におけるピーク強度に対して1.0倍以上2.0倍以下であることを特徴とする、請求項5に記載の光電デバイス。
【請求項7】
前記微粒子の各サイズ毎の個数を表す分布が、2つ以上のピークを有することを特徴とする、請求項1または2に記載の光電デバイス。
【請求項8】
前記微粒子は、異なる金属からなる2種以上の微粒子を含んでいることを特徴とする、請求項1または2に記載の光電デバイス。
【請求項9】
前記微粒子は、金属及び互いに異なる誘電体からなる2種以上の微粒子を含んでいることを特徴とする、請求項1または2に記載の光電デバイス。
【請求項10】
前記微粒子は、互いに形状の異なる2種以上の微粒子を含んでいることを特徴とする、請求項1または2に記載の光電デバイス。
【請求項11】
前記微粒子のうち1種の微粒子は、金属からなるロッド状の微粒子であり、その長手方向の寸法が短手方向の寸法の2倍以上の長さを有し、短手方向の寸法が10nm以上100nm以下であることを特徴とする、請求項10に記載の光電デバイス。
【請求項12】
前記微粒子のうち1種の微粒子は、誘電体からなる円柱状のコア部と前記コア部の周囲をリング状に囲んだ金属からなるリング部とによって構成された微粒子であり、前記コア部の円形断面の直径が40nm以上300nm以下であり、前記リング部の厚みが1nm以上20nm以下であり、前記リング部の高さが5nm以上で当該リング部の外径の0.5倍以下であることを特徴とする、請求項10に記載の光電デバイス。
【請求項13】
前記微粒子のうち1種の微粒子は、誘電体からなるコア部と前記コア部の外面をシェル状に覆った金属からなるシェル部とによって構成された微粒子であり、前記コア部の外形寸法が40nm以上200nm以下であり、前記シェル部の厚みが1nm以上20nm以下であることを特徴とする、請求項10に記載の光電デバイス。
【請求項14】
前記微粒子は、誘電体からなるコア部と前記コア部の外面をシェル状に覆った金属からなるシェル部とによって構成され、前記コア部の外形寸法が150nm以上600nm以下であり、前記シェル部の厚みが1nm以上20nm以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の光電デバイス。
【請求項15】
前記微粒子がある面に分布しており、当該微粒子が当該面を覆う被覆率が1%以上30%以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の光電デバイス。
【請求項16】
前記微粒子がある面に分布しており、前記微粒子分布面と前記微粒子分布面から最も離れた前記第2の半導体との間の距離が、前記微粒子の外形寸法の平均値の2倍以下であることを特徴とする、請求項1または2に記載の光電デバイス。
【請求項17】
前記井戸層よりも大きなバンドギャップを有し、かつ前記障壁層の1層分の厚みよりも大きな厚みを有する第3の半導体層を備え、当該第3の半導体層を前記光電変換層の光入射側と反対側の隣接位置に設けたことを特徴とする、請求項1に記載の光電デバイス。
【請求項18】
前記量子ドットよりも大きなバンドギャップを有し、かつ前記量子ドットどうしの光透過方向における距離よりも大きな厚みを有する第3の半導体層を備え、当該第3の半導体層を前記光電変換層の光入射側と反対側の隣接位置に設けたことを特徴とする、請求項2に記載の光電デバイス。
【請求項19】
前記第3の半導体層が前記第1の半導体と同じ材料によって形成されていることを特徴とする、請求項17または18に記載の光電デバイス。
【請求項20】
前記井戸層の幅が10nm以下であり、前記障壁層の幅が10nm以下であることを特徴とする、請求項1に記載の光電デバイス。
【請求項21】
前記量子ドットの高さ、幅、奥行きのうち、いずれか一辺の長さが10nm以下であり、残る2辺の長さが30nm以下であることを特徴とする、請求項2に記載の光電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【公開番号】特開2010−21189(P2010−21189A)
【公開日】平成22年1月28日(2010.1.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177909(P2008−177909)
【出願日】平成20年7月8日(2008.7.8)
【出願人】(000002945)オムロン株式会社 (3,542)
【Fターム(参考)】