説明

光電変換素子、太陽電池、及び太陽電池モジュール

【課題】耐久性がより高い光電変換素子、太陽電池及び太陽電池モジュールを提供する。
【解決手段】一対の電極101,105と、電極101,105間に配置された活性層103と、少なくとも一方の電極と活性層103との間に配置された電子取り出し層104と、を備える光電変換素子107であって、電子取り出し層104が下記一般式(1)で表される化合物を含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子、太陽電池、及び太陽電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、太陽電池の開発が盛んに行われている。太陽電池は一対の電極(アノード及びカソード)で活性層を挟む構成を有するが、電極と活性層との間にバッファ層を挟むことで、太陽電池の性能を向上できることが知られている。
【0003】
例えば、カソードと活性層との間に設けられるバッファ層(電子取り出し層)の材料として、2,9−ジメチル−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(BCP)、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(Bphen)、2,9−ビス(ナフタレン−2−イル)−4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン(NBphen)等のフェナントロリン誘導体や、ホスフィンオキシド化合物等を用いる例が知られている(非特許文献1、特許文献1、2、3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開2010/0147386号明細書
【特許文献2】特開2011−077107号公報
【特許文献3】特開2006−073583号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Organic Electronics 2008, 9, 656−660.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、BCP、Bphen、及びNBphen等のフェナントロリン誘導体を電子取り出し層の材料として用いた場合、得られる光電変換素子の耐久性は十分ではなかった。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、特定のフェナントロリン誘導体を電子取り出し層に用いることにより、耐久性がより高い光電変換素子が作製できることを見出し、本発明を達成するに至った。即ち、本発明は、以下を要旨とする。
【0008】
[1]一対の電極と、該電極間に配置された活性層と、少なくとも一方の前記電極と前記活性層との間に配置された電子取り出し層と、を備える光電変換素子であって、前記電子取り出し層が下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする、光電変換素子。
【化1−1】

(式(1)中、R〜Rの少なくとも1つは一般式(2)で表される置換基である。式(2)で表される置換基が複数ある場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。該置換基以外のR〜Rはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、イソシアノ基、ホルミル基、メルカプト基、ニトロ基、シリル基、ボリル基、又は、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基である。)
【化1−2】

(式(2)中、R〜R16はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、イソシアノ基、ホルミル基、メルカプト基、ニトロ基、シリル基、ボリル基、又は、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基である。)
[2]前記一般式(1)で表される化合物のガラス転移温度が120℃以上であることを特徴とする、[1]に記載の光電変換素子。
[3]前記活性層がフラーレン又はフラーレン誘導体を含有することを特徴とする、[1]又は[2]に記載の光電変換素子。
[4][1]から[3]のいずれかに記載の光電変換素子を含むことを特徴とする太陽電池。
[5][4]に記載の太陽電池を含むことを特徴とする太陽電池モジュール。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、耐久性がより高い光電変換素子、太陽電池及び太陽電池モジュールを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の一実施形態としての光電変換素子の構成を模式的に示す断面図である。
【図2】本発明の一実施形態としての太陽電池の構成を模式的に示す断面図である。
【図3】本発明の一実施形態としての太陽電池モジュールの構成を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、これら説明は、本発明の実施形態の一例(代表例)であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に特定はされない。
【0012】
<光電変換素子>
本発明に係る光電変換素子は、一対の電極と、該電極間に配置された活性層と、一方の前記電極と前記活性層との間に配置された電子取り出し層と、を備える光電変換素子であって、前記電子取り出し層が下記一般式(1)で表される化合物を含有する。
【化2−1】

(式(1)中、R〜Rの少なくとも1つは一般式(2)で表される置換基である。式(2)で表される置換基が複数ある場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。該置換基以外のR〜Rはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、イソシアノ基、ホルミル基、メルカプト基、ニトロ基、シリル基、ボリル基、又は、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基である。)
【化2−2】

(式(2)中、R〜R16はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、イソシアノ基、ホルミル基、メルカプト基、ニトロ基、シリル基、ボリル基、又は、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基である。)
【0013】
図1は本発明の一実施形態としての、一般的な有機薄膜太陽電池に用いられる光電変換素子を表す。本発明の一実施形態としての光電変換素子107は、基板106、電極(アノード)101、正孔取り出し層102、有機活性層103(p型半導体化合物とn型半導体化合物混合層)、電子取り出し層104、電極(カソード)105が順次、形成された層構造を有する。しかしながら、本発明に係る光電変換素子の構造は図1に示されるものに限られるわけではない。例えば、それぞれの各層の間には、後述の各層機能に影響を与えない程度に、別の層が挿入されていてもよい。また、正孔取り出し層102は存在しなくてもよいし、アノード101とカソード105とが逆に配置されていてもよい。
【0014】
<バッファ層(102,104)>
本発明に係る光電変換素子は、一方の電極と活性層との間に配置された電子取り出し層を備える。好ましくは本発明に係る光電変換素子はさらに、他方の電極と活性層との間に配置された正孔取り出し層を備える。以下では、電子取り出し層と正孔取り出し層とをまとめてバッファ層と呼ぶ。バッファ層を設けることには、活性層と電極の間での電子や正孔の移動度が高まるほか、電極間の短絡を防止しうるという利点がある。
【0015】
電子取り出し層104と正孔取り出し層102とは、1対の電極間(101,105)に、有機活性層103を挟むように配置される。すなわち、本発明に係る光電変換素子107が電子取り出し層104と正孔取り出し層102の両者を含む場合、電極101、正孔取り出し層102、有機活性層103、電子取り出し層104、電極105がこの順に配置されている。本発明に係る光電変換素子107が電子取り出し層104を含み正孔取り出し層102を含まない場合は、電極101、有機活性層103、電子取り出し層104、電極105がこの順に配置されている。電子取り出し層104と正孔取り出し層102とは積層順序が逆であってもよいし、また電子取り出し層104と正孔取り出し層102との少なくとも一方が異なる複数の膜により構成されていてもよい。
【0016】
<電子取り出し層(104)>
電子取り出し層104は、一方の電極と活性層との間に配置される層である。通常電子取り出し層は、カソード105と活性層103との間に配置される。また、電子取り出し層104は以下の式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含有する。例えば電子取り出し層104は、以下の式(1)で表されるフェナントロリン誘導体の層であってもよい。また電子取り出し層104は、以下の式(1)で表されるフェナントロリン誘導体と、金属若しくは金属酸化物のような他の化合物と、を含有する混合物層であってもよい。さらに電子取り出し層104は、以下の式(1)で表されるフェナントロリン誘導体を含有する層と、金属酸化物のような他の化合物を含む層と、が積層された構造を有していてもよい。
【0017】
[フェナントロリン誘導体]
電子取り出し層104は、以下の式(1)で表される化合物(以下、本発明に係るフェナントロリン誘導体と称する)を含有する。
【化3−1】

【0018】
式(1)中、R〜Rの少なくとも1つは一般式(2)で表される置換基(以下、カルバゾリル基と称する)である。式(2)で表される置換基が複数ある場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。すなわち、R〜Rの2つ以上がカルバゾリル基である場合、各カルバゾリル基のR〜R16はそれぞれ同一でも互いに異なっていてもよい。
【化3−2】

【0019】
〜Rの1以上、好ましくは2以上がカルバゾリル基である。また、R〜Rの8以下、好ましくは4以下がカルバゾリル基である。合成の容易さの面から、カルバゾリル基の数は偶数個であることが好ましく、特に2個又は4個であることが好ましい。LUMOエネルギー準位を電子取り出し層として好適な値に保つ観点からは、カルバゾリル基の数は2個であることが特に好ましい。
【0020】
また、R〜Rのカルバゾリル基以外の置換基は、式(1)の化合物が電子取り出し層に含まれたときに電子取り出し層の機能を失わせないかぎり特段の制限はなく、それぞれ同一でも異なっていてもよい。具体的には、水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、イソシアノ基、ホルミル基、メルカプト基、ニトロ基、シリル基、ボリル基、又は、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基が挙げられる。本発明に係るフェナントロリン誘導体の平面性を向上させることは、三次元構造が安定化しうる点で好ましい。この観点からは、カルバゾリル基以外の置換基はより小さい置換基であることが好ましい。具体的には水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、スルホ基、イソシアノ基、ホルミル基、メルカプト基、ニトロ基、又はメチル基であることが好ましく、特に、水素原子又はハロゲン原子のような1原子で構成される置換基であることが好ましい。また、フェナントロリン誘導体のLUMOエネルギー準位を調節するために、R〜Rの少なくとも1つがフッ化アルキル基、特にトリフルオロメチル基を含むフルオロメチル基であることも好ましい。また、R〜Rの隣接する基同士は互いに結合して環を形成してもよい。
【0021】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子又はヨウ素原子等が挙げられる。原子が小さくフェナントロリン誘導体の平面性に影響を与えにくい点からフッ素原子又は塩素原子が好ましく、安定性の面からフッ素原子が特に好ましい。
【0022】
シリル基としては、アルキルシリル基、ジアルキルシリル基、トリアルキルシリル基、アリールシリル基、ジアリールシリル基、トリアリールシリル基、アリール−アルキル−シリル基、アリール−ジアルキル−シリル基、又はジアリール−アルキル−シリル基等が挙げられる。シリル基が有する置換基の炭素数は特に制限されないが、通常は1以上であり40以下である。シリル基がアルキル基を置換基として有する場合、このアルキル基の炭素数は特に制限されないが、通常は1以上40以下である。シリル基がアリール基を置換基として有する場合、このアリール基の炭素数は特に制限されないが、通常は2以上40以下である。なお、以下において「アリール」とは芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基のことを表す。
【0023】
アルキルシリル基としては、炭素数1以上20以下のものが好ましく、例えば、メチルシリル基、エチルシリル基、又はn−オクチルシリル基等が挙げられる。
【0024】
ジアルキルシリル基としては、炭素数2以上30以下のものが好ましく、例えば、ジメチルシリル基、ジエチルシリル基、ジn−オクチルシリル基、又はエチルメチルシリル基等が挙げられる。
【0025】
トリアルキルシリル基としては、炭素数3以上40以下のものが好ましく、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリn−オクチルシリル基、エチルジメチルシリル基、又はt−ブチルジメチルシリル基等が挙げられる。
【0026】
アリールシリル基としては、炭素数2以上20以下のものが好ましく、例えば、フェニルシリル基等が挙げられる。
【0027】
ジアリールシリル基としては、炭素数4以上30以下のものが好ましく、例えば、ジフェニルシリル基等が挙げられる。
【0028】
トリアリールシリル基としては、炭素数6以上40以下のものが好ましく、例えば、トリフェニルシリル基等が挙げられる。
【0029】
アリール−アルキル−シリル基としては、炭素数3以上30以下のものが好ましく、例えば、メチルフェニルシリル基等が挙げられる。
【0030】
アリール−ジアルキル−シリル基としては、炭素数4以上40以下のものが好ましく、例えば、ジメチルフェニルシリル基等が挙げられる。
【0031】
ジアリール−アルキル−シリル基としては、炭素数5以上40以下のものが好ましく、例えば、ジメチルフェニルシリル基、t−ブチルジフェニルシリル基等が挙げられる。
【0032】
ボリル基としては、ジアルキルボリル基、アリール−アルキル−ボリル基、又はジアリールボリル基等が挙げられる。ボリル基が有する置換基の炭素数は特に制限されないが、通常は1以上40以下である。ボリル基がアルキル基を置換基として有する場合、このアルキル基の炭素数は特に制限されないが、通常は1以上40以下である。ボリル基がアリール基を置換基として有する場合、このアリール基の炭素数は特に制限されないが、通常は2以上40以下である。
【0033】
ジアルキルボリル基としては、炭素数2以上30以下のものが好ましく、例えば、ジメチルボリル基、ジエチルボリル基、ジn−オクチルボリル基等が挙げられる。
【0034】
アリール−アルキル−ボリル基としては、炭素数3以上30以下のものが好ましく、例えば、フェニルメチルボリル基等が挙げられる。
【0035】
ジアリールボリル基としては、炭素数4以上30以下のものが好ましく、例えば、ジフェニルボリル基等が挙げられる。
【0036】
ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基の例としては、置換基を有していてもよい炭化水素基、置換基を有していてもよい複素環基、置換基を有するカルボニル基、又は置換基を有していてもよい、ヘテロ原子を介して結合する炭化水素基若しくは複素環基が挙げられる。ヘテロ原子を介して結合する炭化水素基又は複素環基とは、ヘテロ原子を介して基本骨格、例えば式(1)のフェナントロリン環に結合している炭化水素基又は複素環基を意味する。この炭化水素基又は複素環基とヘテロ原子とをまとめてヘテロ原子を介して結合する炭化水素基又は複素環基と呼ぶ。
【0037】
ヘテロ原子としては特に制限されないが、例えば酸素原子、窒素原子、又は硫黄原子等が挙げられる。
【0038】
炭化水素基としては、脂肪族炭化水素基及び芳香族炭化水素基が挙げられる。脂肪族炭化水素基としては、アルキル基(シクロアルキル基を含む)等の飽和脂肪族炭化水素基;又は、アルケニル基(シクロアルケニル基を含む)若しくはアルキニル基等の不飽和脂肪族炭化水素基が挙げられる。なかでも、アルキル基等の飽和脂肪族炭化水素基が好ましい。
【0039】
アルキル基としては、炭素数1以上20以下のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基及びn−ヘキシル基等が挙げられる。
【0040】
シクロアルキル基としては、炭素数3以上20以下のものが好ましく、例えば、シクロプロピル基、シクロペンチル基又はシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0041】
アルケニル基としては、炭素数2以上20以下のものが好ましく、例えば、ビニル基又はスチリル基等が挙げられる。
【0042】
シクロアルケニル基としては、炭素数3以上20以下のものが好ましく、例えば、シクロプロペニル基、シクロペンテニル基、又はシクロヘキセニル基等が挙げられる。
【0043】
アルキニル基としては、炭素数2以上20以下のものが好ましく、例えば、メチルエチニル基又はトリメチルシリルエチニル基等が挙げられる。
【0044】
芳香族炭化水素基としては、炭素数6以上30以下のものが好ましく、例えば、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、ビフェニレニル基、トリフェニレニル基、アントリル基、ピレニル基、フルオレニル基、アズレニル基、アセナフテニル基、フルオランテニル基、ナフタセニル基、ペリレニル基、ペンタセニル基又はクオーターフェニル基等が挙げられる。なかでも、フェニル基、ナフチル基、フェナントリル基、トリフェニレニル基、アントリル基、ピレニル基、フルオレニル基、アセナフテニル基、フルオランテニル基又はペリレニル基が好ましい。
【0045】
複素環基としては、脂肪族複素環基及び芳香族複素環基が挙げられる。脂肪族複素環基としては、炭素数2以上30以下のものが好ましく、例えば、ピロリジニル基、ピペリジニル基、ピペラジニル基、テトラヒドロフラニル基、ジオキサニル基、モルホリニル基又はチオモルホリニル基等が挙げられる。なかでも、ピロリジニル基、ピペリジニル基又はピペラジニル基が好ましい。芳香族複素環基は、炭素数2以上30以下のものが好ましく、例えば、ピリジル基、チエニル基、フリル基、ピロリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、オキサジアゾリル基、チアジアゾリル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピラゾリル基、イミダゾリル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基、フェノキサチイニル基、キサンテニル基、ベンゾフラニル基、チアントレニル基、インドリジニル基、フェノキサジニル基、フェノチアジニル基、アクリジニル基、フェナントリジニル基、フェナントロリニル基、キノリル基、イソキノリル基、インドリル基又はキノキサリニル基等が挙げられる。なかでも、ピリジル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピラゾリル基、キノリル基、イソキノリル基、イミダゾリル基、アクリジニル基、フェナントリジニル基、フェナントロリニル基、キノキサリニル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基、キサンテニル基又はフェノキサジニル基が好ましい。
【0046】
また、芳香族炭化水素基及び芳香族複素環基は、縮合多環芳香族基であってもよい。縮合多環芳香族基を形成する環としては、置換基を有していてもよい環状アルキル構造、置換基を有していてもよい芳香族炭化水素環又は置換基を有していてもよい芳香族複素環が好ましい。環状アルキル構造としては、例えば、シクロペンタン構造又はシクロヘキサン構造が挙げられる。芳香族炭化水素環としては、例えば、ベンゼン環又はナフタレン環が挙げられる。芳香族複素環としては、例えば、ピリジン環、チオフェン環、フラン環、ピロール環、オキサゾール環、チアゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、ピラジン環、ピリミジン環、ビラゾール環、又はイミダゾール環等が挙げられる。これらの中でも、ピリジン環又はチオフェン環が好ましい。
【0047】
縮合多環芳香族基として具体的には、縮合多環芳香族炭化水素基又は縮合多環芳香族複素環基が好ましい。縮合多環芳香族炭化水素基としては、例えば、フェナントリル基、アントリル基、ピレニル基、フルオランテニル基、ナフタセニル基、ペリレニル基、ペンタセニル基又はトリフェニレニル基等が挙げられる。また、縮合多環芳香族複素環基としては、例えば、フェノキサジニル基、フェノチアジニル基、アクリジニル基、フェナントリジニル基、又はフェナントロリニル基等が挙げられる。
【0048】
置換基を有するカルボニル基としては、例えば、アルキルカルボニル基、アリールカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アルキルカルバモイル基、アリールカルバモイル基、アルキルイミド基、又はアリールイミド基等が挙げられる。
【0049】
カルボニル基が有する置換基の炭素数は特に制限されないが、通常は1以上40以下である。アルキルカルボニル基、アルキルオキシカルボニル基、アルキルカルバモイル基又はアルキルイミド基が有するアルキル基は、特段の制限はないが、通常炭素数が1以上40以下である。アリールカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アリールカルバモイル基又はアリールイミド基が有するアリール基は、特段の制限はないが、通常炭素数2以上40以下である。
【0050】
アルキルカルボニル基としては、例えば、アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基又はドデシルカルボニル基等が挙げられる。なかでも、オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基又はドデシルカルボニル基が好ましい。
【0051】
アリールカルボニル基としては、例えば、ベンゾイル基、ナフチルカルボニル基又はピリジルカルボニル基等が挙げられる。なかでも、ベンゾイル基が好ましい。
【0052】
アルキルオキシカルボニル基としては、例えば、メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基又はn−ブトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0053】
アリールオキシカルボニル基としては、例えば、フェノキシカルボニル基又はナフトキシカルボニル基等が挙げられる。
【0054】
アルキルカルバモイル基としては、炭素数3以上40以下のものが好ましく、例えば、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、メチルヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基等が挙げられる。なかでも、オクチルアミノカルボニル基又は2−エチルヘキシルアミノカルボニル基が好ましい。
【0055】
アリールカルバモイル基としては、炭素数3以上40以下のものが好ましく、例えば、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基又は2−ピリジルアミノカルボニル基等が挙げられる。なかでも、フェニルアミノカルボニル基が好ましい。
【0056】
アルキルイミド基としては、炭素数2以上20以下のものが好ましく、例えば、メチルカルボニルアミノカルボニル基、エチルカルボニルアミノカルボニル基又はn−ブチルカルボニルアミノカルボニル基等が挙げられる。
【0057】
アリールイミド基としては、炭素数2以上20以下のものが好ましく、例えば、フェニルカルボニルアミノカルボニル基又はナフチルカルボニルアミノカルボニル基等が挙げられる。
【0058】
ヘテロ原子を介して結合する炭化水素基の有する炭素数は特に制限されないが、通常は1以上40以下である。ヘテロ原子を介して結合する炭化水素基がアルキル基である場合、炭素数に特段の制限はないが、通常は1以上40以下である。また、ヘテロ原子を介して結合する炭化水素基がアリールである場合、炭素数に特段の制限はないが、通常は2以上40以下である。
【0059】
ヘテロ原子を介して結合する炭化水素基又は複素環基としては、具体的には、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基、N−アリール−N−アルキルアミノ基、アルキルスルホニル基、又はアリールスルホニル基等が挙げられる。電子取り出し層の電子運搬特性を向上させる観点から、アルコキシ基又はアリールオキシ基であることが好ましい。
【0060】
アルコキシ基としては、炭素数1以上20以下のものが好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基及びt−ブトキシ基、ベンジルオキシ基、エチルヘキシルオキシ基等の直鎖又は分岐のアルコキシ基が挙げられる。
【0061】
アリールオキシ基としては、炭素数2以上20以下のものが好ましく、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、ピリジルオキシ基、チアゾリルオキシ基、オキサゾリルオキシ基又はイミダゾリルオキシ基等が挙げられる。なかでも、フェノキシ基又はピリジルオキシ基が好ましい。
【0062】
アルキルチオ基としては、炭素数1以上20以下のものが好ましく、例えば、メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基、シクロペンチルチオ基又はシクロヘキシルチオ基等が挙げられる。なかでも、メチルチオ基又はオクチルチオ基が好ましい。
【0063】
アリールチオ基としては、炭素数2以上20以下のものが好ましく、例えば、フェニルチオ基、ナフチルチオ基、ピリジルチオ基、チアゾリルチオ基、オキサゾリルチオ基、イミダゾリルチオ基、フリルチオ基又はピロリルチオ基等が挙げられる。なかでも、フェニルチオ基又はピリジルチオ基が好ましい。
【0064】
アルキルアミノ基としては、炭素数1以上20以下のものが好ましく、例えば、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ブチルアミノ基、オクチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基又はドデシルアミノ基等が挙げられる。なかでも、ジメチルアミノ基、オクチルアミノ基又は2−エチルヘキシルアミノ基が好ましい。
【0065】
アリールアミノ基としては、炭素数2以上20以下のものが好ましく、例えば、アニリノ基、ジフェニルアミノ基、ナフチルアミノ基又は2−ピリジルアミノ基、ナフチルフェニルアミノ基等が挙げられる。なかでも、ジフェニルアミノ基が好ましい。
【0066】
N−アリール−N−アルキルアミノ基としては、炭素数3以上40以下のものが好ましく、例えば、N−フェニル−N−メチルアミノ基、N−ナフチル−N−メチルアミノ基等が挙げられる。
【0067】
アルキルスルホニル基としては、例えば、メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、オクチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基又はドデシルスルホニル基等が挙げられる。なかでも、オクチルスルホニル基又は2−エチルヘキシルスルホニル基が好ましい。
【0068】
アリールスルホニル基としては、例えば、フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基又は2−ピリジルスルホニル基等が挙げられる。なかでも、フェニルスルホニル基が好ましい。
【0069】
〜R16は、式(1)の化合物が電子取り出し層に含まれたときに電子取り出し層の機能を失わせなければ特段の制限はない。R〜R16の例としては、R〜Rのうちカルバゾリル基ではないものについて挙げたものと同様の置換基が挙げられる。
【0070】
本発明のフェナントロリン誘導体の平面性を向上させることは、三次元構造が安定化しうる点で好ましい。この観点からは、R〜R16はより小さい置換基であることが好ましい。具体的には水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、スルホ基、イソシアノ基、ホルミル基、メルカプト基、ニトロ基、又はメチル基であることが好ましく、特に、水素原子又はハロゲン原子のような1原子で構成される置換基であることが好ましい。また、フェナントロリン誘導体のLUMOエネルギー準位を調節するために、R〜R16の少なくとも1つがフッ化アルキル基、特にトリフルオロメチル基を含むフルオロメチル基であることも好ましい。
【0071】
〜R16の説明における「置換基を有していてもよい」との用語は、置換基を1個以上有していてもよいことを意味する。この置換基としては特に限定はないが、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シリル基、ボリル基、アルコキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、イソシアノ基、ホルミル基、メルカプト基、ニトロ基、カルバモイル基、イミド基、芳香族炭化水素基又は芳香族複素環基等が挙げられる。
【0072】
ハロゲン原子としては、フッ素原子が好ましい。
【0073】
アルキル基としては、炭素数1以上20以下のものが好ましく、例えば、メチル基、エチル基、i−プロピル基、t−ブチル基又はシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0074】
アルケニル基としては、炭素数2以上20以下のものが好ましく、例えば、ビニル基、スチリル基又はジフェニルビニル基等が挙げられる。
【0075】
アルキニル基としては、炭素数2以上20以下のものが好ましく、例えば、メチルエチニル基、フェニルエチニル基又はトリメチルシリルエチニル基等が挙げられる。
【0076】
シリル基としては,炭素数2以上20以下のものが好ましく、例えば、トリメチルシリル基又はトリフェニルシリル基等が挙げられる。
【0077】
ボリル基としては、例えば、ジメシチルボリル基等の芳香族基置換ボリル基が挙げられる。
【0078】
アルコキシ基としては、炭素数2以上20以下のものが好ましく、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、i−プロポキシ基、n−ブトキシ基、i−ブトキシ基、エチルヘキシルオキシ基、ベンジルオキシ基又はt−ブトキシ基等の直鎖又は分岐のアルコキシ基が挙げられる。
【0079】
アミノ基としては、例えば、ジフェニルアミノ基、ジトリルアミノ基又はカルバゾリル基等の芳香族置換アミノ基が挙げられる。
【0080】
芳香族炭化水素基としては、炭素数6以上20以下のものが好ましく、これらは単環基に何ら限定されず、単環芳香族炭化水素基、縮合多環芳香族炭化水素基又は環連結芳香族炭化水素基のいずれであってもよい。
【0081】
単環芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基等が挙げられる。縮合多環芳香族炭化水素基としては、例えば、ビフェニル基、ナフチル基、アントリル基、フルオレニル基、ピレニル基又はペリレニル基等が挙げられる。環連結芳香族炭化水素基としては、例えば、ビフェニル基又はターフェニル等が挙げられる。これらの中でも、フェニル基又はナフチル基が好ましい。
【0082】
芳香族複素環基としては、炭素数2以上20以下のものが好ましく、例えば、ピリジル基、チエニル基、フリル基、オキサゾリル基、チアゾリル基、オキサジアゾリル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基、ピラジニル基、ピリミジニル基、ピラゾリル基、フェナントロリニル基、イミダゾリル基又はフェニルカルバゾリル基等が挙げられる。これらの中でも、ピリジル基、チエニル基、ベンゾチエニル基、ジベンゾフリル基、ジベンゾチエニル基又はフェナントロリニル基が好ましい。
【0083】
光電変換素子の耐久性を高めるために、本発明のフェナントロリン誘導体は対称性が高いことが好ましい。対称性が高い場合、より安定な三次元構造が得られるものと考えられる。この観点からは、R=R、R=R、R=R、及びR=Rであることが好ましい。
【0084】
本発明に係るフェナントロリン誘導体の例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0085】
【化3−3】

【0086】
【化3−4】

【0087】
【化3−5】

【0088】
【化3−6】

【0089】
本発明に係るフェナントロリン誘導体の最低空軌道(LUMO)準位は、特に限定はないが、サイクリックボルタモグラム測定法により算出される真空準位に対する値が、通常−3.5eV以上、好ましくは−3.0eV以上である。一方、通常−1.9eV以下、好ましくは−2.0eV以下である。−1.9eV以下であることは、電荷移動が促進されるために好ましい。また、−3.5eV以上であることは、n型半導体材料への逆電子移動が防がれうる点で好ましい。
【0090】
LUMOの値の算出方法は、理論的に計算値で求める方法と実際に測定する方法が挙げられる。理論的に計算値で求める方法としては、半経験的分子軌道法及び非経験的分子軌道法があげられる。実際に測定する方法としては、紫外可視吸収スペクトル測定法、サイクリックボルタモグラム測定法があげられる。その中でも好ましくは、サイクリックボルタモグラム測定法である。
【0091】
また、DSC法によって測定した、本発明に係るフェナントロリン誘導体のガラス転移温度(以下、Tgと記載する場合もある)は、120℃以上であるか又はガラス転移温度が観測されないことが、熱的に高い安定性を有している点で好ましい。ガラス転移温度が観測されないとは、ガラス転移温度がないことを意味し、具体的には400℃以下にガラス転移温度が無いことを意味する。
【0092】
電子取り出し層材料としてこれまで用いられてきたBCP、Bphen、NBphenといったフェナントロリン誘導体は、比較的ガラス転移温度が低かった。このため、これらのフェナントロリン誘導体を電子取り出し層材料として用いた光電変換素子は、耐熱性及び耐久性が乏しかったものと考えられる。一方でガラス転移温度が120℃以上であるフェナントロリン誘導体を用いる場合、耐熱性又は耐久性が向上しうるほか、光電変換素子を作製する際により高い温度で加熱を行うことが可能となりうる。例えば、後述のように光電変換素子を作製する際に加熱(アニーリング)を行うことがあるが、ガラス転移温度が120℃以上であるフェナントロリン誘導体を用いる場合、より広い温度範囲でアニーリングを行いうる。また、ガラス転移温度が120℃以上であるフェナントロリン誘導体を用いることにより、特にポリエチレンテレフタレート等のプラスチック基板を用いる際に、製造プロセスにおける加熱をより広い温度範囲で行いうる。
【0093】
熱的に高い安定性を有している点で、本発明に係るフェナントロリン誘導体のガラス転移温度は130℃以上であることが好ましく、140℃以上であることがより好ましい。一方、ガラス転移温度の上限は特に限定はなく、通常400℃以下である。
【0094】
本明細書におけるガラス転移温度とは、化合物のアモルファス状態の固体において、熱エネルギーにより局所的な分子運動が開始される温度とされ、比熱が変化する点として定義される。Tgよりさらに温度が上がると、固体構造が変化して結晶化が起こる(この時の温度を結晶化温度(Tc)とする)。さらに温度が上がると、融点(Tm)で融解し液体状態に変化することが一般的である。但し、高温で分子が分解したり、昇華したりして、これらの相転移が見られないこともある。
【0095】
DSC法とは、JIS K−0129“熱分析通則”に定義された熱物性の測定法(示差走査熱量測定法)である。ガラス転移温度は、ガラス状態から分子運動が開始する温度であり、比熱の変化する温度としてDSC法により測定できる。ガラス転移温度をより明確に決める為には、一度ガラス転移点以上の温度に加熱したサンプルを急冷した後に測定する。例えば、公知文献(国際公報第2011/016430号)に記載の方法により、この方法を実施することができる。
【0096】
本発明に係るフェナントロリン誘導体のガラス転移温度が120℃以上である場合、このフェナントロリン誘導体は、印加される電場、流れる電流、曲げや温度変化による応力等の外部ストレスに対して構造が変化しにくいため、耐久性の面で好ましい。さらに、本発明に係るフェナントロリン誘導体のガラス転移温度が120℃以上である場合、化合物の薄膜の結晶化が進みにくい傾向がある。このため、実際の使用温度範囲においてフェナントロリン誘導体がアモルファス状態と結晶状態との間で変化しにくくなることにより、電子取り出し層としての安定性が良くなるため、耐久性の面で好ましい。この効果は、材料のガラス転移温度が高ければ高いほど、より顕著に表れる。
【0097】
[本発明に係るフェナントロリン誘導体の特徴]
本発明に係るフェナントロリン誘導体は、式(1)で表されるフェナントロリン骨格に式(2)で表される置換基が結合した構造を有する。本発明に係るフェナントロリン誘導体を電子取り出し層材料として用いる光電変換素子は、比較的高い光電変換効率が得られうるととともに、耐久性又は耐熱性が高くなりうる。具体的には、高温での加熱、例えば120℃で1分間又は3分間の加熱を行った場合であっても、光電変換効率が低下しにくい。また、長期間、例えば室温で8週間放置した場合であっても、光電変換効率が低下しにくい。
【0098】
本発明に係るフェナントロリン誘導体を電子取り出し層材料として用いる光電変換素子の耐久性又は耐熱性が高くなりうる理由について、以下のことが考えられる。例えば、式(1)で表されるフェナントロリン環に、式(2)で表される置換基が結合することにより、フェナントロリン誘導体の平面性が高くなりうる。すなわち、式(2)で表される置換基の窒素原子がフェナントロリン環に直接結合している場合、共鳴のために分子の平面性が高くなりうる。本発明に係るフェナントロリン誘導体においては式(2)で表される置換基の窒素原子がフェナントロリン環に直接結合しているため、例えば式(2)で表される置換基の窒素原子がフェニレン基を介してフェナントロリン環に結合している場合よりも、より平面性が高くなっているものと考えられる。
【0099】
この共鳴の効果がより大きく得られる観点からは、R、R、R、及びRのうちの少なくとも1つがカルバゾリル基であることが好ましい。なかでも、RとRとのうちの少なくとも一方がカルバゾリル基であることは好ましく、RとRとのうちの少なくとも一方がカルバゾリル基であることも好ましい。さらに、RとRとのうちの少なくとも一方がカルバゾリル基であることも好ましく、RとRとがともにカルバゾリル基であることは特に好ましい。
【0100】
分子の平面性が高くなることにより、分子はパッキングしやすくなるため、分子が自由に活動するためにはより大きなエネルギーが必要となる。このため、分子の平面性が高いことは、より高いガラス転移温度につながるものと考えられる。このように本発明に係るフェナントロリン誘導体の平面性が高いことにより、より高いガラス転移温度が得られ、光電変換素子の耐久性又は耐熱性が向上するものと考えられる。
【0101】
本発明に係るフェナントロリン誘導体が有するカルバゾリル基の存在もまた、光電変換素子の比較的高い光電変換効率及び耐久性に寄与しているものと考えられる。例えば、カルバゾリル基は、特に縮環構造を有さないジフェニルアミノ基と比べて、以下のような特徴を有する。例えば、カルバゾリル基は平面性が高い置換基である。このために、高い電子供与性、高い移動度、高いTg、振動伸縮に由来する熱失活の軽減、等の効果が得られていることが予想される。また、カルバゾリル基が含む窒素原子上の非共有電子対は共鳴に寄与するため、塩基性が小さい。このために、他の光電変換素子材料に対するダメージが軽減されていることが予想される。さらに、カルバゾリル基の3重項エネルギー準位は高い(すなわちSとTのエネルギー差が小さい)。このために、3重項の電子軌道を電荷移動のために利用できることが予想される。また、3重項エネルギー準位が高いために、一重項酸素の発生が抑制され、耐久性向上に繋がっていることが予想される。
【0102】
[フェナントロリン誘導体の製造方法]
本発明に係るフェナントロリン誘導体は、市販のものを用いることもできるし、公知の方法に従って製造することもできる。
【0103】
本発明に係るフェナントロリン誘導体の製造方法の一例としては、置換基を有していてもよい1,10−フェナントロリンを適切なハロゲン化試薬でハロゲン化し、置換基を有していてもよいカルバゾールとカップリングさせる方法が挙げられる。
【0104】
[電子取り出し層104の形成方法]
電子取り出し層104の形成方法には、特段の制限はない。昇華性を有する材料を用いる場合は真空蒸着法等により形成することができる。また、例えば、溶媒に可溶な材料を用いる場合は、スピンコートやインクジェット等の塗布法等により形成することができる。
【0105】
塗布法により本発明に係るフェナントロリン誘導体を含有する電子取り出し層104を形成する場合、フェナントロリン誘導体含有インクを用いることができる。フェナントロリン誘導体含有インクの溶媒は、特に限定されないが、例えば、水;ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン若しくはデカン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、クロロベンゼン若しくはオルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール、イソプロパノール若しくは2−ブトキシエタノール等のアルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン若しくはシクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル若しくは乳酸メチル等のエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン若しくはトリクロロエチレン等のハロゲン炭化水素類;プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(PGMEA)、エチルエーテル、テトラヒドロフラン若しくはジオキサン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド若しくはジメチルアセトアミド等のアミド類;トルエン、キシレン、クロロベンゼン若しくはオルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;又は、クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン若しくはトリクロロエチレン等のハロゲン炭化水素類;等が挙げられる。溶媒としては1種のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、電子取り出し層104の機能を損なわなければ溶媒は電子取り出し層104中に残留していてもよいので、溶媒の沸点に特に規定はない。
【0106】
また、ポリイミン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリ尿素又はポリエチレングリコール等のバインダー樹脂が、フェナントロリン誘導体含有インク中に含まれていてもよい。
【0107】
フェナントロリン誘導体含有インク中のフェナントロリン誘導体濃度は、特段の制限はないが、通常0.02重量%以上、好ましくは0.05重量%以上、より好ましくは0.08重量%以上であり、一方、通常60重量%以下、好ましくは40重量%以下、より好ましくは20重量%以下である。インク中の有機化合物濃度が上記範囲内にあることにより、フェナントロリン誘導体を均一に塗布できる点で好ましい。
【0108】
塗布は任意の方法で行うことができる。例えば、スピンコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法、カーテンコート法等が挙げられる。これらの方法のうち1種のみを用いて塗布を行ってもよいし、2種以上を任意に組み合わせて塗布を行ってもよい。
【0109】
電子取り出し層104の全体の膜厚は特に限定はないが、通常0.2nm以上、好ましくは0.5nm以上、より好ましくは1nm以上、特に、好ましくは5nm以上である。一方、通常1μm以下、好ましくは700nm以下、より好ましくは400nm以下、特に好ましくは200nm以下である。電子取り出し層104の膜厚が0.2nm以上であることで電子取り出し層としての機能を果たすことになり、電子取り出し層104の膜厚が1μm以下であることで、電子が取り出し易くなり、光電変換効率が向上しうる。
【0110】
上述のように、電子取り出し層104は金属又は金属酸化物をさらに含有していてもよい。特に電子取り出し層104が、フェナントロリン誘導体と、金属若しくは金属酸化物のような他の化合物と、を含有する混合物層を有することが好ましい。
【0111】
フェナントロリン誘導体と金属とを混合することは、金属がフェナントロリン誘導体にドープされ、HOMO及びLUMOのエネルギー準位を制御できる点で好ましい。金属としては特段の制限はないが、この観点から、バリウム、イットリウム、セシウム又はニオブ等を用いることが好ましい。この場合、1種の金属を単独で用いても、2種以上の金属を併用して用いてもよい。
【0112】
フェナントロリン誘導体と金属との混合物層における金属の濃度としては、特に限定はないが、通常0.01%以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1%以上、である。一方、通常50%以下、好ましくは30%以下、より好ましくは10%以下である。金属の濃度がこの範囲にあることにより、電子が取り出しやすくなるという機能を損なうことなく、HOMO及びLUMOのエネルギー準位を制御しうる。
【0113】
フェナントロリン誘導体と金属との混合物層の膜厚は、特に限定はないが、電子取り出し層104の全体について上述した膜厚と同様でありうる。
【0114】
フェナントロリン誘導体と金属酸化物とを混合することは、この混合物層の上にさらに塗布法を用いて他の層を形成する際に、フェナントロリン誘導体が溶解しにくい点で好ましい。金属酸化物としては特段の制限はないが、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化スズ、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化セリウム、酸化鉛、酸化ジルコニウム又は酸化ガリウム等のn型半導体特性を有する金属酸化物が例として挙げられる。その中でも、酸化亜鉛、酸化チタン又は酸化スズが好ましい。この場合1種の金属酸化物を単独で用いても、2種以上の金属酸化物を併用して用いてもよい。
【0115】
金属酸化物の平均一次粒径は、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、より好ましくは20nm以上であり、一方、通常100nm以下、好ましくは60nm以下、より好ましくは40nm以下である。平均一次粒径が5nm以上であると金属酸化物が凝集しにくく、平均二次粒径が好適な大きさの金属酸化物が得られるため、好ましい。また、平均一次粒径が100nm以下であることは、金属酸化物の二次粒子ひとつひとつが適度な大きさとなり、均一な膜厚の電子取り出し層が形成されるため好ましい。金属酸化物の平均一次粒径は、動的光散乱粒子径測定装置や透過型電子顕微鏡(TEM)等で測定することができる。平均一次粒径が5nm以上100nm以下の金属酸化物(金属酸化物のナノ粒子と記すこともある)としては、具体的には、ナノジンク60(本荘ケミカル社製)、及びFINEX−30(堺化学工業社製)等が挙げられる。
【0116】
フェナントロリン誘導体と金属酸化物との混合物層における金属酸化物の濃度は、特段の制限はないが、通常0.5%以上、好ましくは1%以上、より好ましくは3%以上であり、一方、通常99.99%以下、好ましくは99.9%以下である。金属酸化物の濃度がこの範囲にあることで、電子を輸送する能力を維持しながら、フェナントロリン誘導体の溶解を防ぐことができる。
【0117】
フェナントロリン誘導体と金属酸化物との混合物層の膜厚は、特に限定はないが、電子取り出し層104の全体について上述した膜厚と同様でありうる。
【0118】
<正孔取り出し層(102)>
正孔取り出し層102の材料は、特に限定は無く、活性層103からアノード101へ正孔の取り出し効率を向上させることが可能な材料であれば特に限定されない。具体的には、ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアセチレン、トリフェニレンジアミンポリピロール又はポリアニリン等にスルフォン酸及び/又はヨウ素等をドーピングした導電性ポリマー、スルホニル基を置換基に有するポリチオフェン誘導体、アリールアミン等の導電性有機化合物、酸化銅、酸化ニッケル、酸化マンガン、酸化モリブデン、酸化バナジウム又は酸化タングステン等の金属酸化物、後述のp型半導体等が挙げられる。その中でも、好ましくは、スルフォン酸をドーピングした導電性ポリマーであり、より好ましくは、ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルフォン酸をドーピングしたPEDOT:PSSである。また、金、インジウム、銀、パラジウム等の金属等の薄膜も使用することができる。さらに、金属等の薄膜は、単独で形成してもよく、上記の有機材料と組み合わせて用いることもできる。
【0119】
正孔取り出し層102の膜厚は特に限定はないが、通常0.2nm以上である。一方、通常400nm以下、好ましくは200nm以下である。正孔取り出し層102の膜厚が0.2nm以上であることでバッファ材料としての機能を果たすことになり、正孔取り出し層102の膜厚が400nm以下であることで、正孔が取り出し易くなり、光電変換効率が向上する。
【0120】
正孔取り出し層102の形成方法に制限はない。例えば、昇華性を有する材料を用いる場合は真空蒸着法等により形成することができる。また、例えば、溶媒に可溶な材料を用いる場合は、スピンコートやインクジェット等の湿式塗布法等により形成することができる。正孔取り出し層102に半導体材料を用いる場合は、後述の有機活性層の低分子有機半導体化合物と同様に、前駆体を用いて層を形成した後に前駆体を半導体化合物に変換してもよい。
【0121】
中でも、PEDOT:PSSを正孔取り出し層102の材料として用いる場合、分散液を塗布することによって正孔取り出し層102を形成すること好ましい。PEDOT:PSSの分散液としては、エイチ・シー・スタルク社製のCLEVIOSTMシリーズやアグファ社製のORGACONTMシリーズ等が挙げられる。
【0122】
塗布法を用いる場合、塗布液がさらに界面活性剤を含有していてもよい。界面活性剤の使用により、微小な泡、異物等の付着による凹み、乾燥工程での塗布むら等の発生が抑制される。
【0123】
界面活性剤としては、公知の界面活性剤(カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤)を用いることができる。中でも、ケイ素系界面活性剤、アセチレンジオール系界面活性剤又はフッ素系界面活性剤を用いることが好ましい。なお、1種のみの界面活性剤を用いてもよく、2種以上の界面活性剤を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0124】
<活性層(103)>
本発明に係る光電変換素子において、活性層103は光電変換が行われる層を指し、p型半導体化合物とn型半導体化合物を含む。光電変換素子107が光を受けると、光が活性層103に吸収され、p型半導体化合物とn型半導体化合物の界面で電気が発生し、発生した電気が電極101及び105から取り出される。
【0125】
活性層103は無機化合物又は有機化合物のいずれを用いてもよいが、簡易な塗布プロセスにより形成しうる層であることが好ましい。より好ましくは、活性層103は有機化合物からなる有機活性層である。以下では、活性層103が有機活性層であるものとして説明する。
【0126】
有機活性層の層構成は、p型半導体化合物とn型半導体化合物が積層された薄膜積層型、p型半導体化合物とn型半導体化合物が混合したバルクヘテロ接合型、薄膜積層型の中間層にp型半導体化合物とn型半導体化合物が混合した層(i層)を有する構造等が挙げられる。中でも、p型半導体化合物とn型半導体化合物が混合したバルクヘテロ接合型が好ましい。
【0127】
有機活性層103の膜厚は特に限定されないが、通常10nm以上、好ましくは50nm以上であり、一方通常1.0×10nm以下、好ましくは5.0×10nm以下、より好ましくは2.0×10nm以下である。有機活性層の膜厚が10nm以上であることで、均一性が保たれ、短絡を起こしにくくなるため、好ましい。また、有機活性層の厚さが1.0×10nm以下であることで、内部抵抗が小さくなり、かつ電極間の距離が離れず電荷の拡散が良好となるため、好ましい。
【0128】
[薄膜積層型の活性層]
薄膜積層型の活性層は、p型半導体化合物を含むp型半導体層と、n型半導体化合物を含むn型半導体層とが積層された構造を有する。薄膜積層型の活性層は、p型半導体層と、n型半導体層とをそれぞれ形成することにより作製することができる。p型半導体層とn型半導体層とが別の方法によって形成されてもよい。
【0129】
[p型半導体層]
p型半導体層は、後述するp型半導体化合物を含む層である。p型半導体層の膜厚に制限はない。ただし、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、一方、通常500nm以下、好ましくは200nm以下である。p型半導体層の膜厚が500nm以下であると、直列抵抗が低くなる点で好ましい。p型半導体層の膜厚が5nm以上であると、より多くの光を吸収できる点で好ましい。
【0130】
p型半導体層は、塗布法及び蒸着法を含む任意の方法により形成することができるが、塗布法を用いるとより簡単にp型半導体層を形成できる点で好ましい。塗布法によりp型半導体層を作製する場合、p型半導体化合物を含む塗布液を調製し、この塗布液を塗布すればよい。塗布方法としては任意の方法を用いることができるが、例えば、スピンコート法、インクジェット法、ドクターブレード法、ドロップキャスティング法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法又はカーテンコート法等が挙げられる。塗布液の塗布後に、加熱等することにより乾燥処理を行ってもよい。また後述するように、p型半導体化合物前駆体を含む塗布液を調製し、この塗布液を塗布した後、p型半導体化合物前駆体をp型半導体化合物へと変換することにより、p型半導体層を形成してもよい。
【0131】
[n型半導体層]
n型半導体層は、後述するn型半導体化合物を含む層である。ただし、n型半導体層の膜厚に特段の制限はないが、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、一方、通常500nm以下、好ましくは200nm以下である。n型半導体層の膜厚が500nm以下であると、直列抵抗が低くなる点で好ましい。n型半導体層の膜厚が5nm以上であるとより多くの光を吸収できる点で好ましい。
【0132】
n型半導体層は、塗布法及び蒸着法を含む任意の方法により形成することができるが、塗布法を用いることはより簡単にn型半導体層を形成できることから好ましい。塗布法によりn型半導体層を作製する場合、n型半導体化合物を含む塗布液を調製し、この塗布液を塗布すればよい。塗布方法としては任意の方法を用いることができ、例えばp型半導体層を形成する方法として挙げた方法を用いることができる。塗布液の塗布後に、加熱等することにより乾燥処理を行ってもよい。
【0133】
[バルクヘテロ接合型の活性層]
バルクヘテロ接合型の活性層は、後述するp型半導体化合物と後述するn型半導体化合物とが混合されている層(i層)を有する。i層はp型半導体化合物とn型半導体化合物とが相分離した構造を有し、相界面でキャリア分離が起こり、生じたキャリア(正孔及び電子)が電極まで輸送される。
【0134】
i層の膜厚に制限はない。ただし、通常5nm以上、好ましくは10nm以上、一方、通常500nm以下、好ましくは200nm以下である。i層の膜厚が500nm以下であると、直列抵抗が低くなる点で好ましい。i層の膜厚が5nm以上であると、より多くの光を吸収できる点で好ましい。
【0135】
i層は、塗布法及び蒸着法(例えば共蒸着法)を含む任意の方法により形成することができるが、塗布法を用いると、より簡単にi層を形成できるため好ましい。塗布法によりi層を作製する場合、p型半導体化合物及びn型半導体化合物を含む塗布液を調製し、この塗布液を塗布すればよい。p型半導体化合物及びn型半導体化合物を含む塗布液は、p型半導体化合物を含む溶液とn型半導体化合物を含む溶液をそれぞれ調製後混合して作製してもよく、後述する溶媒にp型半導体化合物及びn型半導体化合物を溶解して作成してもよい。また後述するように、p型半導体化合物前駆体及びn型半導体化合物を含む塗布液を作製して、この塗布液を塗布した後、p型半導体化合物前駆体をp型半導体化合物へと変換することにより、i層を形成してもよい。塗布方法としては任意の方法を用いることができ、例えばp型半導体層を形成する方法として挙げた方法を用いることができる。塗布液の塗布後に、加熱等することにより乾燥処理を行ってもよい。
【0136】
バルクヘテロ接合型の活性層を塗布法によって形成する場合、p型半導体化合物とn型半導体化合物とを含む塗布液に、さらに添加剤を加えてもよい。バルクヘテロ接合型の活性層におけるp型半導体化合物とn型半導体化合物との相分離構造は、光吸収過程、励起子の拡散過程、励起子の乖離(キャリア分離)過程、キャリア輸送過程等に対する影響がある。したがって、相分離構造を最適化することにより、良好な光電変換効率を実現することができるものと考えられる。塗布液が溶媒とは異なる揮発性を有する添加剤を含むと、有機活性層形成時に好ましい相分離構造が得られ、光電変換効率が向上しうるため、添加剤を含むのが好ましい。
【0137】
添加剤の例としては、例えば国際公開第2008/066933号公報に記載されている化合物等が挙げられる。添加剤のより具体的な例としては、置換基を有するアルカン、又は置換基を有するナフタレンのような芳香族化合物等が挙げられる。置換基としては、アルデヒド基、オキソ基、ヒドロキシ基、アルコキシ基、チオール基、チオアルキル基、カルボキシル基、エステル基、アミン基、アミド基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、ハロゲン基、ニトリル基、エポキシ基、芳香族基及びアリールアルキル基等が挙げられる。置換基は1つでもよいし、複数、例えば2つでもよい。アルカンが有する置換基として好ましくは、チオール基又はヨード基である。また、ナフタレンのような芳香族化合物が有する置換基として好ましくは、ブロモ基又はクロロ基である。
【0138】
添加剤は沸点が高いことが好ましいため、添加剤として用いられる脂肪族炭化水素の炭素数は6以上が好ましく、8以上がさらに好ましい。また添加剤は常温で液体であることが好ましいため、脂肪族炭化水素の炭素数は14以下が好ましく、12以下がさらに好ましい。同様の理由により、添加剤として用いられる芳香族炭化水素の炭素数は、通常6以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上であり、一方、通常50以下、好ましくは30以下、より好ましくは20以下である。添加剤として用いられる芳香族複素環の炭素数は、通常2以上、好ましくは3以上、より好ましくは6以上であり、一方、通常50以下、好ましくは30以下、より好ましくは20以下である。
【0139】
添加剤の沸点は、常圧(一気圧)において通常100℃以上、好ましくは、200℃以上、一方、通常600℃以下、好ましくは500℃以下である。
【0140】
p型半導体化合物とn型半導体化合物とを含む塗布液に含まれる添加剤の量は、塗布液全体に対して0.1重量%以上が好ましく、0.5重量%以上がさらに好ましい。また、塗布液全体に対して10重量%以下が好ましく、3重量%以下がさらに好ましい。添加剤の量がこの範囲にあることにより、有機活性層内に残留する添加剤を減らしながら、好ましい相分離構造を得ることができる。以上のように、p型半導体化合物と、n型半導体化合物と、添加剤とを含む塗布液(インク)を塗布することによって、バルクヘテロ接合型の活性層を形成することができる。
【0141】
[塗布液の溶媒]
上述の、p型半導体化合物を含む塗布液、n型半導体化合物を含む塗布液、及びp型半導体化合物とn型半導体化合物とを含む塗布液の溶媒としては、p型半導体化合物及び/又はn型半導体化合物を均一に溶解できるものであれば特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン若しくはデカン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、クロロベンゼン若しくはオルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、テトラリン若しくはデカリン等の脂環式炭化水素類;メタノール、エタノール若しくはプロパノール等の低級アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン若しくはシクロヘキサノン等の脂肪族ケトン類;アセトフェノン若しくはプロピオフェノン等の芳香族ケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル若しくは乳酸メチル等のエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン若しくはトリクロロエチレン等のハロゲン炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン若しくはジオキサン等のエーテル類;又は、ジメチルホルムアミド若しくはジメチルアセトアミド等のアミド類等が挙げられる。
【0142】
なかでも好ましくは、トルエン、キシレン、メシチレン、シクロヘキシルベンゼン、クロロベンゼン若しくはオルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、テトラリン若しくはデカリン等の脂環式炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン若しくはシクロヘキサノン等のケトン類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン若しくはトリクロロエチレン等のハロゲン炭化水素類;又は、エチルエーテル、テトラヒドロフラン若しくはジオキサン等のエーテル類である。より好ましくは、トルエン、キシレン、メシチレン若しくはシクロヘキシルベンゼン等の非ハロゲン芳香族炭化水素類;シクロペンタノン若しくはシクロヘキサノン等の非ハロゲン系ケトン類;アセトフェノン若しくはプロピオフェノン等の芳香族ケトン類;テトラヒドロフラン、シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、テトラリン若しくはデカリン等の脂環式炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン若しくはシクロヘキサノン等のケトン類;又は、1,4−ジオキサン等の非ハロゲン系脂肪族エーテル類である。特に好ましくは、トルエン、キシレン、メシチレン又はシクロヘキシルベンゼン等の非ハロゲン芳香族炭化水素類である。
【0143】
なお、溶媒として1種の溶媒を単独で用いてもよいし、任意の2種以上の溶媒を任意の比率で併用してもよい。2種以上の溶媒を併用する場合、沸点が60以上150℃以下である低沸点溶媒と、沸点が180以上250℃以下である高沸点溶媒とを組み合わせることが好ましい。低沸点溶媒と高沸点溶媒との組み合わせの例としては、非ハロゲン芳香族炭化水素類と脂環式炭化水素類、非ハロゲン芳香族炭化水素類と芳香族ケトン類、エーテル類と脂環式炭化水素類、エーテル類と芳香族ケトン類、脂肪族ケトン類と脂環式炭化水素類、又は脂肪族ケトン類と芳香族ケトン類、等が挙げられる。好ましい組み合わせの具体例としては、トルエンとテトラリン、キシレンとテトラリン、トルエンとアセトフェノン、キシレンとアセトフェノン、テトラヒドロフランとテトラリン、テトラヒドロフランとアセトフェノン、メチルエチルケトンとテトラリン、メチルエチルケトンとアセトフェノン、等が挙げられる。
【0144】
[p型半導体化合物]
本発明で用いられるp型半導体化合物に特に限定はないが、低分子有機半導体化合物と高分子有機半導体化合物が挙げられる。
【0145】
(低分子有機半導体化合物)
低分子有機半導体化合物の分子量は、上限、下限ともに特に制限されないが、通常5000以下、好ましくは2000以下であり、一方、通常100以上、好ましくは200以上である。
【0146】
また、低分子有機半導体化合物は結晶性を有するものが好ましい。結晶性を有するp型半導体化合物は分子間相互作用が強く、有機活性層103においてp型半導体化合物とn型半導体化合物の混合物層界面で生成した正孔(ホール)を効率よく電極(アノード)101へ輸送できることが期待されるためである。
【0147】
本発明における結晶性とは、分子間相互作用等によって配向の揃った3次元周期配列をとる化合物の性質である。結晶性の測定方法としては、X線回折法(XRD)又は電界効果移動度測定等が挙げられる。特に電界効果移動度測定において、正孔移動度が1.0×10(−5)cm/(Vs)以上である結晶性化合物が好ましく、1.0×10(−4)cm/(Vs)以上である結晶性化合物がより好ましい。一方、正孔移動度が通常1.0×10(4)cm/(Vs)以下である結晶性化合物が好ましく、1.0×10(3)cm/(Vs)以下である結晶性化合物がより好ましく、1.0×10(2)cm/(Vs)以下である結晶性化合物が更に好ましい。
【0148】
低分子有機半導体化合物は、上記性能を満たせば特段の制限はないが、具体的には、ナフタセン、ペンタセン若しくはピレン等の縮合芳香族炭化水素;α−セキシチオフェン等のチオフェン環を4個以上含むオリゴチオフェン類;チオフェン環、ベンゼン環、フルオレン環、ナフタレン環、アントラセン環、チアゾール環、チアジアゾール環及びベンゾチアゾール環のうち少なくとも一つ以上を含み、かつ合計4個以上連結したもの;フタロシアニン化合物及びその金属錯体;又は、テトラベンゾポルフィリン等のポルフィリン化合物及びその金属錯体、等の大環状化合物等が挙げられる。好ましくは、フタロシアニン化合物及びその金属錯体又はポルフィリン化合物及びその金属錯体である。
【0149】
p型半導体化合物として用いられるポルフィリン化合物及びその金属錯体(下記式中のQがCH)、フタロシアニン化合物及びその金属錯体(下記式中のQがN)としては、例えば、以下のような構造の化合物が挙げられる。
【0150】
【化4−1】

【0151】
【化4−2】

【0152】
ここで、Mは金属あるいは2個の水素原子を表し、金属としては、Cu、Zn、Pb、Mg、Co又はNi等の2価の金属のほか、軸配位子を有する3価以上の金属、例えば、TiO、VO、SnCl、AlCl、InCl又はSi等も挙げられる。
【0153】
〜Yはそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1以上24以下のアルキル基である。炭素数1以上24以下のアルキル基とは、炭素数が1以上24以下の飽和若しくは不飽和の鎖状炭化水素基又は炭素数が3以上24以下の飽和若しくは不飽和の環式炭化水素である。その中でも好ましくは炭素数1以上12以下の飽和若しくは不飽和の鎖状炭化水素基又は炭素数が3以上12以下の飽和若しくは不飽和の環式炭化水素である。
【0154】
フタロシアニン化合物及びその金属錯体の中でも、良好な光電変換効率を得るために好ましくは、29H,31H−フタロシアニン、銅フタロシアニン錯体、亜鉛フタロシアニン錯体、チタンフタロシアニンオキシド錯体、マグネシウムフタロシアニン錯体、鉛フタロシアニン錯体又は銅4,4’,4’’,4’’’−テトラアザ−29H,31H−フタロシアニン錯体であり、より好ましくは、29H,31H−フタロシアニン又は銅フタロシアニン錯体である。なお、上記一種の化合物でも複数種の化合物の混合物でもよい。
【0155】
ポルフィリン化合物及びその金属錯体の中でも、良好な光電変換効率を得るために好ましくは、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンコバルト(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン銅(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン亜鉛(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンニッケル(II)、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィンバナジウム(IV)オキシド、5,10,15,20−テトラ(4−ピリジル)−21H,23H−ポルフィン、29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィン、29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィンコバルト(II)、29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィン銅(II)、29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィン亜鉛(II)、29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィンニッケル(II)又は29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィンバナジウム(IV)オキシドであり、好ましくは、5,10,15,20−テトラフェニル−21H,23H−ポルフィン又は29H,31H−テトラベンゾ[b,g,l,q]ポルフィンである。なお、上記のうち1種の化合物を用いても複数種の化合物の混合物を用いてもよい。
【0156】
低分子有機半導体化合物の成膜方法としては、真空蒸着法によって成膜する方法や低分子有機半導体化合物前駆体を塗布後に低分子有機半導体化合物に変換することで成膜する方法がある。塗布成膜できるというプロセス上の利点からは後者が好ましい。
【0157】
(低分子有機半導体化合物前駆体)
低分子有機半導体化合物前駆体とは、例えば加熱や光照射等の外的刺激を与えることにより、その化学構造が変化し、低分子有機半導体化合物に変換される物質である。低分子有機半導体化合物前駆体は成膜性に優れるものが好ましい。特に、塗布法を適用できるようにするためには、前駆体自体が液状で塗布可能であるか又は前駆体が何らかの溶媒に対して溶解性が高く溶液として塗布可能であることが好ましい。このため、低分子有機半導体化合物前駆体の溶媒に対する溶解性は、通常0.1重量%以上、好ましくは0.5重量%以上、より好ましくは1重量%以上である。一方、上限に特段の制限はないが、通常50重量%以下、好ましくは40重量%以下である。
【0158】
溶媒の種類としては、半導体前駆体化合物を均一に溶解あるいは分散できるものであれば特に限定されないが、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、イソオクタン、ノナン又はデカン等の脂肪族炭化水素類;トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、クロロベンゼン若しくはオルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;メタノール、エタノール若しくはプロパノール等の低級アルコール類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン若しくはシクロヘキサノン等のケトン類;酢酸エチル、酢酸ブチル又は乳酸メチル等のエステル類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン若しくはトリクロロエチレン等のハロゲン炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン又はジオキサン等のエーテル類;又は、ジメチルホルムアミド若しくはジメチルアセトアミド等のアミド類等が挙げられる。なかでも好ましくは、トルエン、キシレン、シクロヘキシルベンゼン、クロロベンゼン若しくはオルトジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン若しくはシクロヘキサノン等のケトン類;クロロホルム、塩化メチレン、ジクロロエタン、トリクロロエタン若しくはトリクロロエチレン等のハロゲン炭化水素類;エチルエーテル、テトラヒドロフラン若しくはジオキサン等のエーテル類である。より好ましくは、トルエン、キシレン若しくはシクロヘキシルベンゼン等の非ハロゲン芳香族炭化水素類;シクロペンタノン若しくはシクロヘキサノン等の非ハロゲン系ケトン類;又は、テトラヒドロフラン若しくは1,4−ジオキサン等の非ハロゲン系脂肪族エーテル類である。特に好ましくは、トルエン、キシレン若しくはシクロヘキシルベンゼン等の非ハロゲン芳香族炭化水素類である。なお、溶媒は1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0159】
さらに、低分子有機半導体化合物前駆体は、容易に半導体化合物に変換できることが好ましい。後述する低分子有機半導体化合物前駆体から半導体化合物への変換工程において、どのような外的刺激を半導体前躯体に与えるかは任意であるが、通常は、熱処理、光処理等を行なう。処理の容易性の点で好ましくは、熱処理である。この場合には、低分子有機半導体化合物前駆体の骨格の一部に逆ディールス・アルダー反応によって脱離可能な所定の溶媒に対する親溶媒性の基を有するものが好ましい。
【0160】
また、低分子有機半導体化合物前駆体は、変換工程を経て、高い収率で半導体化合物に変換されることが好ましい。この際、低分子有機半導体化合物前駆体から変換して得られる半導体化合物の収率は有機光電変換素子の性能を損なわない限り任意であるが、低分子有機半導体化合物前躯体から得られる低分子有機半導体化合物の収率は、通常90モル%以上、好ましくは95モル%以上、より好ましくは99モル%以上である。
【0161】
低分子有機半導体化合物前駆体は上記特徴を有するものであれば特に制限はないが、具体的には特開2007−324587に記載の化合物等が用いられうる。なかでも好ましい例としては、下記式(A1)で表わされる化合物が挙げられる。
【0162】
【化4−3】

【0163】
【化4−4】

【0164】
式(A1)において、X及びXの少なくとも一方はπ共役した2価の芳香族環を形成する基を表わし、Z−Zは熱又は光により脱離可能な基であって、Z−Zが脱離することにより式(A1)で表される化合物が得られる。また、X及びXのうちπ共役した2価の芳香族環を形成する基でないものは、置換又は無置換のエテニレン基を表す。
【0165】
式(A1)で表わされる化合物は、下記化学反応式に示すように熱又は光によりZ−Zが脱離して、平面性の高いπ共役化合物を生成する。この生成されたπ共役化合物が本発明において用いられうる半導体化合物である。本発明においては、この半導体化合物が半導体特性を示すことが好ましい。
【0166】
式(A1)で表わされる化合物の例としては、以下のものが挙げられる。なお、t−Buはt−ブチル基を表す。Mは、2価の金属原子又は3価以上の金属と他の原子とが結合した原子団を表す。
【0167】
【化4−5】

【0168】
【化4−6】

【0169】
上記低分子有機半導体化合物前駆体の半導体化合物への変換の具体例としては、例えば以下のものが挙げられる。
【0170】
【化4−7】

【0171】
【化4−8】

【0172】
【化4−9】

【0173】
【化4−10】

【0174】
式(A1)で表わされる低分子有機半導体化合物前駆体は、位置異性体が存在する構造であってもよく、またその場合、複数の位置異性体の混合物から成っていてもよい。複数の位置異性体からなる低分子有機半導体化合物前駆体は、単一異性体成分からなる低分子有機半導体化合物前駆体と比較して溶媒に対する溶解度が向上するため、塗布成膜が行いやすく好ましい。複数の位置異性体の混合物とすると溶解度が向上する理由は、詳細なメカニズムは明確ではないが、化合物そのものの結晶性が潜在的に保持されつつも、複数の異性体混合物が溶液内に混在することで、三次元規則的な分子間相互作用が困難になるためと想定される。本発明においては、複数の異性体化合物からなる前駆体混合物の非ハロゲン性溶媒への溶解度は、通常0.1重量%以上、好ましくは1重量%以上、より好ましくは5重量%以上である。上限に制限は無いが、通常50重量%以下、より好ましくは40重量%以下である。
【0175】
(高分子有機半導体化合物)
高分子有機半導体化合物として、特に限定はなく、ポリチオフェン、ポリフルオレン、ポリフェニレンビニレン、ポリチエニレンビニレン、ポリアセチレン若しくはポリアニリン等の共役ポリマー半導体;又は、アルキル基やその他の置換基が置換されたオリゴチオフェン等のポリマー半導体も挙げられる。また、二種以上のモノマー単位を共重合させた半導体ポリマーも挙げられる。なお、一種の化合物を単独で用いても、複数種の化合物の混合物を用いてもよい。
【0176】
ポリマーとしては、例えば、Handbook of Conducting Polymers,3rd Ed.(全2巻),2007、Materials Science and Engineering,2001,32,1−40、Pure Appl.Chem.2002,74,2031−3044、Handbook of THIOPHENE−BASED MATERIALS(全2巻),2009等の文献に記載されたポリマーやその誘導体、及び記載されているモノマーの組み合わせによって合成し得るポリマーを用いることができる。
【0177】
ポリマーのモノマー骨格やモノマーの置換基は、溶解性、結晶性、成膜性、HOMOエネルギー準位及びLUMOエネルギー準位等を制御するために選択することができる。また、有機溶媒に可溶なものであることは、有機太陽電池素子の製造プロセスにおいて塗布法を使用できるため好ましい。
【0178】
高分子有機半導体化合物の具体例としては以下のものが挙げられるが、以下のものに限定されることはない。
【0179】
【化4−11】

【0180】
【化4−12】

【0181】
p型半導体化合物としてその中でも好ましくは、低分子有機半導体化合物としては、ナフタセン、ペンタセン、ピレン等の縮合芳香族炭化水素、フタロシアニン化合物及びその金属錯体、又はテトラベンゾポルフィリン(BP)等のポルフィリン化合物及びその金属錯体であり、高分子有機半導体化合物としては、ポリチオフェン等の共役ポリマー半導体が好ましい。なお、上記一種の化合物でも複数種の化合物の混合物でもよい。
【0182】
p型半導体化合物層作成方法については、特段の制限はないが、塗布法が好ましい。塗布法については、以下の任意の方法で行うことができる。例えば、スピンコート法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法又はカーテンコート法等が挙げられる。
【0183】
低分子有機半導体化合物及び/又は高分子有機半導体化合物は、成膜された状態において、何らかの自己組織化した構造を有するものであっても、アモルファス状態であってもよい。
【0184】
p型半導体化合物のHOMOエネルギー準位は、特に限定は無いが、後述のn型半導体の種類によって選択することができ、特にフラーレン誘導体と組み合わせるp型半導体のHOMOエネルギー準位は、通常−5.7eV以上、より好ましくは−5.5eV以上、一方、通常−4.6eV以下、−4.8eV以下が好ましい。p型半導体化合物のHOMOエネルギー準位が−5.7eV以上であることによりp型半導体としての特性が向上し、p型半導体のHOMOエネルギー準位が−4.6eV以下であることにより化合物の安定性が向上し、開放電圧(Voc)が向上しうる。また、p型半導体のLUMOエネルギー準位は、特に限定は無いが、後述のn型半導体の種類によって選択することができるが、特にフラーレン誘導体と組み合わせるp型半導体のLUMOエネルギー準位は、通常−3.7eV以上、好ましくは−3.6eV以上である。一方、通常−2.5eV以下、好ましくは−2.7eV以下である。p型半導体のLUMOエネルギー準位が−2.5eV以下であることにより、バンドギャップが調製され長波長な光エネルギーを有効に吸収することができ、短絡電流密度が向上しうる。p型半導体のLUMOエネルギー準位が−3.7eV以上であることにより、n型半導体への電子移動が起こりやすくなり短絡電流密度が向上しうる。
【0185】
[n型半導体化合物]
n型半導体化合物としては、特段の制限はないが、具体的にはフラーレン誘導体;8−ヒドロキシキノリンアルミニウムに代表されるキノリノール誘導体金属錯体;ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド若しくはペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の縮合環テトラカルボン酸ジイミド類;ペリレンジイミド誘導体、ターピリジン金属錯体、トロポロン金属錯体、フラボノール金属錯体、ペリノン誘導体、ベンズイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、ベンゾチアジアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、アルダジン誘導体、ビススチリル誘導体、ピラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、キノキサリン誘導体、ベンゾキノリン誘導体、ビピリジン誘導体、ボラン誘導体、アントラセン、ピレン、ナフタセン若しくはペンタセン等の縮合多環芳香族炭化水素の全フッ化物;又は、単層カーボンナノチューブ等が挙げられる。
【0186】
その中でも、より高い光電変換効率を得る観点から、フラーレン誘導体、ボラン誘導体、チアゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾチアジアゾール誘導体、N−アルキル置換されたナフタレンテトラカルボン酸ジイミド及びN−アルキル置換されたペリレンジイミド誘導体が好ましく、フラーレン誘導体、N−アルキル置換されたペリレンジイミド誘導体及びN−アルキル置換されたナフタレンテトラカルボン酸ジイミドがより好ましい。n型半導体化合物として、これらの化合物のうち一種又は二種以上を用いることができ、さらに後述するn型ポリマーを一種又は二種以上組み合わせて用いてもよい。
【0187】
また、n型半導体化合物としては、n型ポリマーも挙げられる。具体的には、特段の制限は無いが、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の縮合環テトラカルボン酸ジイミド類、ペリレンジイミド誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾチアジアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ピラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、キノキサリン誘導体、ビピリジン誘導体及びボラン誘導体のうち少なくとも一つを構成ユニットとするn型ポリマーが挙げられる。その中でも、より高い光電変換効率を得る観点から、ボラン誘導体、チアゾール誘導体、ベンズチアゾール誘導体、ベンゾチアジアゾール誘導体、N−アルキル置換されたナフタレンテトラカルボン酸ジイミド及びN−アルキル置換されたペリレンジイミド誘導体のうち少なくとも一つを構成ユニットとするポリマーが好ましく、N−アルキル置換されたペリレンジイミド誘導体及びN−アルキル置換されたナフタレンテトラカルボン酸ジイミドを構成ユニットとするn型ポリマーのうち少なくとも一つを構成ユニットとするn型ポリマーがより好ましい。
【0188】
また、電子取り出し層104に含まれる本発明に係るフェナントロリン誘導体と組み合わせた際に高い光電変換効率が得られうる点で、活性層103がn型半導体化合物としてフラーレン又はフラーレン誘導体を含有することが好ましい。活性層103がシリルアルキル基を有するフラーレン誘導体を含有することは特に好ましい。
【0189】
フラーレンとは、閉殻構造を有する炭素クラスターである。フラーレンの炭素数は、通常60以上130以下の偶数であれば何でもよい。フラーレンとしては、例えば、C60、C70、C76、C78、C82、C84、C90、C94、C96及びこれらよりも多くの炭素を有する高次の炭素クラスター等が挙げられる。その中でも、C60又はC70が好ましい。フラーレンとしては、一部のフラーレン環上の炭素―炭素結合が切れていてもよい。又、一部の炭素原子が、他の原子に置き換えられていてもよい。さらに、金属原子、非金属原子あるいはこれらから構成される原子団をフラーレンケージ内に内包していてもよい。
【0190】
以下に、フラーレン誘導体の好ましい例について詳しく説明する。
【0191】
(フラーレン誘導体)
フラーレン誘導体としては、以下の一般式(n1)、(n2)、(n3)及び(n4)で表される部分構造を有するものを用いることが好ましい。
【0192】
【化4−13】

【0193】
式(n1)〜(n4)中、FLNは上述のフラーレンを表す。a、b、c及びdは整数であり、a、b、c及びdの合計が通常1以上であり、一方、通常5以下であり、好ましくは3以下である。(n1)、(n2)、(n3)及び(n4)中の部分構造は、フラーレン骨格中の同一の5員環若しくは6員環に付加される。一般式(n1)では、フラーレン骨格中の同一の5員環又は6員環上の隣接する2つの炭素原子に対して、−R17と−(CH−とがそれぞれ付加している。一般式(n2)では、フラーレン骨格中の同一の5員環又は6員環上の隣接する2つの炭素原子に対して、−C(R21)(R22)−N(R23)−C(R24)(R25)−が付加し5員環を形成している。一般式(n3)では、フラーレン骨格中の同一の5員環又は6員環上の隣接する2つの炭素原子に対して、−C(R26)(R27)−C−C−C(R28)(R29)−が付加し6員環を形成している。一般式(n4)では、フラーレン骨格中の同一の5員環又は6員環上の隣接する2つの炭素原子に対して−C(R30)(R31)−が付加し3員環を形成している。Lは1以上8以下の整数である。Lとして好ましくは1以上4以下の整数であり、さらに好ましくは1以上2以下の整数である。
【0194】
一般式(n1)中のR17は置換基を有していてもよい炭素数1以上14以下のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数1以上14以下のアルコキシ基又は置換基を有していてもよい芳香族基である。
【0195】
アルキル基としては、炭素数1以上10以下のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基又はイソブチル基がより好ましく、メチル基又はエチル基が更に好ましい。
【0196】
アルコキシ基としては、炭素数1以上10以下のアルコキシ基が好ましく、炭素数1以上6以下のアルコキシ基がより好ましく、メトキシ基又はエトキシ基が特に好ましい。
【0197】
芳香族基としては、炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基又は炭素数2以上20以下の芳香族複素環基が好ましく、フェニル基、チエニル基、フリル基又はピリジル基がより好ましく、フェニル基又はチエニル基が更に好ましい。
【0198】
アルキル基、アルコキシ基及び芳香族基が有していてもよい置換基としては、ハロゲン原子又はシリル基が好ましい。ハロゲン原子としてはフッ素原子が好ましい。シリル基としては、ジアリールアルキルシリル基、ジアルキルアリールシリル基、トリアリールシリル基又はトリアルキルシリル基が好ましく、ジアルキルアリールシリル基がより好ましく、ジメチルアリールシリル基がさらに好ましい。
【0199】
一般式(n1)中のR18〜R20は各々独立して置換基を表し、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1以上14以下のアルキル基又は置換基を有していてもよい芳香族基である。
【0200】
アルキル基としては、炭素数1以上10以下のアルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基又はn−ヘキシル基が好ましい。アルキル基が有していてもよい置換基としてはハロゲン原子が好ましい。ハロゲン原子としてはフッ素原子が好ましい。フッ素原子で置換されたアルキル基としては、パーフルオロオクチル基、パーフルオロヘキシル基又はパーフルオロブチル基が好ましい。
【0201】
芳香族基は、炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基又は炭素数2以上20以下の芳香族複素環基が好ましく、フェニル基、チエニル基、フリル基又はピリジル基がより好ましく、フェニル基又はチエニル基が更に好ましい。芳香族基が有していてもよい置換基としては、フッ素原子、炭素数1以上14以下のアルキル基、炭素数1以上14以下のフッ化アルキル基、炭素数1以上14以下のアルコキシ基又は炭素数3以上10以下の芳香族基が好ましく、フッ素原子又は炭素数1以上14以下のアルコキシ基がより好ましく、メトキシ基、n−ブトキシ基又は2−エチルヘキシルオキシ基が更に好ましい。芳香族基が置換基を有する場合、その数に限定は無いが、1以上3以下が好ましく、1がより好ましい。芳香族基が置換基を複数有する場合、その置換基の種類は異なっていてもよいが、好ましくは同一である。
【0202】
一般式(n2)中のR21〜R25は各々独立に、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1以上14以下のアルキル基又は置換基を有していてもよい芳香族基である。アルキル基として好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、n−ヘキシル基又はn−オクチル基であり、より好ましくはメチル基である。芳香族基としては、炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基又は炭素数2以上20以下の芳香族複素環基が好ましく、フェニル基又はピリジル基がより好ましく、フェニル基がさらに好ましい。
【0203】
アルキル基が有していてもよい置換基としてはハロゲン原子が好ましい。ハロゲン原子としてはフッ素原子が好ましい。フッ素原子で置換されたアルキル基としては、パーフルオロオクチル基、パーフルオロヘキシル基又はパーフルオロブチル基が好ましい。
【0204】
芳香族基が有していてもよい置換基としては、特に限定は無いが、好ましくはフッ素原子、炭素数1以上14以下のアルキル基、又は炭素数1以上14以下のアルコキシ基である。アルキル基にはフッ素原子が置換されていてもよい。さらに好ましくは炭素数1以上14以下のアルコキシ基であり、さらに好ましくはメトキシ基である。置換基を有する場合、その数に限定は無いが、好ましくは1以上3以下であり、より好ましくは1である。置換基の種類は異なっていてもよいが、好ましくは同一である。
【0205】
一般式(n3)中のArは、置換基を有していてもよい炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基又は炭素数2以上20以下の芳香族複素環基であり、好ましくはフェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、チエニル基、フリル基、ピリジル基、ピリミジル基、キノリル基又はキノキサリル基であり、さらに好ましくはフェニル基、チエニル基又はフリル基である。有していてもよい置換基として限定は無いが、フッ素原子、塩素原子、水酸基、シアノ基、シリル基、ボリル基、アルキル基で置換してもよいアミノ基、炭素数1以上14以下のアルキル基、炭素数1以上14以下のアルコキシ基、炭素数1以上14以下のアルキルカルボニル基、炭素数1以上14以下のアルキルチオ基、炭素数1以上14以下のアルケニル基、炭素数1以上14以下のアルキニル基、エステル基、アリールカルボニル基、アリールチオ基、アリールオキシ基、炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基又は炭素数2以上20以下の複素環基が好ましく、フッ素原子、炭素数1以上14以下のアルキル基、炭素数1以上14以下のアルコキシ基、エステル基、炭素数1以上14以下のアルキルカルボニル基又はアリールカルボニル基がより好ましい。炭素数1以上14以下のアルキル基にはフッ素が置換されていてもよい。
【0206】
炭素数1以上14以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基又はプロピル基が好ましい。炭素数1以上14以下のアルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基又はプロポキシル基が好ましい。炭素数1以上14以下のアルキルカルボニル基としては、アセチル基が好ましい。エステル基としては、メチルエステル基又はn−ブチルエステル基が好ましい。アリールカルボニル基としては、ベンゾイル基が好ましい。
【0207】
置換基を有する場合、その数に限定は無いが、1以上4以下が好ましく、1以上3以下がより好ましい。置換基が複数の場合、その種類は異なっていてもよいが、好ましくは同一である。
【0208】
一般式(n3)中のR26〜R29は各々独立して、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルコキシ基又は置換基を有していてもよいアルキルチオ基である。R26又はR27は、R28又はR29との間のいずれか一方と環を形成してもよい。
【0209】
環を形成する場合における構造は、例えば、芳香族基が縮合したビシクロ構造である一般式(n5)で示すことができる。一般式(n5)中におけるfはcと同様であり、Xは、酸素原子、硫黄原子、アミノ基、アルキレン基又はアリーレン基である。アルキレン基としては炭素数1以上2以下が好ましい。アリーレン基としては炭素数5以上12以下が好ましく、例えばフェニレン基である。
【0210】
アミノ基は、メチル基やエチル基等の炭素数1以上6以下のアルキル基で置換されていてもよい。アルキレン基は、メトキシ基等の炭素数1以上6以下のアルコキシ基、炭素数1以上5以下の脂肪族炭化水素基、炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基又は炭素数2以上20以下の芳香族複素環基で置換されていてもよい。アリーレン基は、メトキシ基等の炭素数1以上6以下のアルコキシ基、炭素数1以上5以下の脂肪族炭化水素基、炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基又は炭素数2以上20以下の芳香族複素環基で置換されていてもよい。
【0211】
【化4−14】

【0212】
一般式(n4)中のR30、R31は各々独立して、水素原子、アルコキシカルボニル基、置換基を有していてもよい炭素数1以上14以下のアルキル基又は置換基を有していてもよい芳香族基である。
【0213】
アルコキシカルボニル基におけるアルコキシ基としては、炭素数1以上12以下のアルコキシ基又は炭素数1以上12以下のフッ化アルコキシ基が好ましく、炭素数1以上12以下のアルコキシ基がより好ましく、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、n−ヘキソキシ基、n−オクトキシ基、2−プロピルペントキシ基、2−エチルヘキソキシ基、シクロヘキシルメトキシ基又はベンジルオキシ基がさらに好ましく、メトキシ基、エトキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基又はn−ヘキソキシ基が特に好ましい。
【0214】
アルキル基としては、炭素数1以上8以下の直鎖アルキル基が好ましく、n−プロピル基がより好ましい。アルキル基が有していてもよい置換基には特に限定は無いが、好ましくはアルコキシカルボニル基である。アルコキシカルボニル基のアルコキシ基としては、炭素数1以上14以下のアルコキシ基又はフッ化アルコキシ基が好ましく、炭素数1以上14以下の炭化水素基がより好ましく、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、n−ヘキソキシ基、オクトキシ基、2−プロピルペントキシ基、2−エチルヘキソキシ基、シクロヘキシルメトキシ基又はベンジルオキシ基がさらに好ましく、メトキシ基又はn−ブトキシ基が特に好ましい。
【0215】
芳香族基としては、炭素数6以上20以下の芳香族炭化水素基又は炭素数2以上20以下の芳香族複素環基が好ましく、フェニル基、ビフェニル基、チエニル基、フリル基又はピリジル基が好ましく、フェニル基又はチエニル基がさらに好ましい。芳香族基が有していてもよい置換基としては、炭素数1以上14以下のアルキル基、炭素数1以上14以下のフッ化アルキル基又は炭素数1以上14以下のアルコキシ基が好ましく、炭素数1以上14以下のアルコキシ基がさらに好ましく、メトキシ基又は2−エチルヘキシルオキシ基が特に好ましい。置換基を有する場合、その数に限定は無いが、好ましくは1以上3以下であり、より好ましくは1である。置換基の種類は異なっていても同一でもよく、好ましくは同一である。
【0216】
一般式(n4)の構造として好ましくは、R30、R31が共にアルコキシカルボニル基であるか、R30、R31が共に芳香族基であるか又はR30が芳香族基でかつR31が3−(アルコキシカルボニル)プロピル基である。
【0217】
なお、本発明に用いられるn型半導体化合物は一種の化合物でも複数種の化合物の混合物でもよい。
【0218】
フラーレン誘導体は、塗布法に適用できるようにするためには、当該フラーレン誘導体自体が液状で塗布可能であるか、当該フラーレン誘導体が何らかの溶媒に対して溶解性が高く溶液として塗布可能であることが好ましい。溶解性の好適な範囲をあげると、25℃でのトルエンに対する溶解度が、通常0.1重量%以上、好ましくは0.4重量%以上、より好ましくは0.7重量%以上である。フラーレン誘導体の溶解度が0.1重量%以上であることで、フラーレン誘導体の分散安定性が増加し、凝集、沈降、分離等を起こりにくくなるため好ましい。
【0219】
フラーレン誘導体の溶媒は、非極性有機溶媒であれば、特段に制限はないが、非ハロゲン系溶媒が好ましい。ジクロロベンゼン等のハロゲン系溶媒でも可能であるが、環境負荷の面等から代替が求められている。非ハロゲン系溶媒としては、例えば、非ハロゲン系芳香族炭化水素類が挙げられる。その中でも好ましくはトルエン、キシレン又はシクロヘキシルベンゼン等である。
【0220】
(フラーレン誘導体の製造方法)
フラーレン誘導体の製造方法は特に制限はないが、例えば、部分構造(n1)を有するフラーレンの合成方法としては、国際公開第2008/059771号パンフレットやJ.Am.Chem.Soc.,2008,130(46),15429−15436に記載された方法を用いうる。
【0221】
部分構造(n2)を有するフラーレンの合成方法としては、J.Am.Chem.Soc.1993,115,9798−9799、Chem.Mater.2007,19,5363−5372及びChem.Mater.2007,19,5194−5199に記載された方法を用いうる。
【0222】
部分構造(n3)を有するフラーレンの合成方法としては、Angew.Chem.Int.Ed.Engl.1993,32,78−80、Tetrahedron Lett. 1997, 38, 285−288、国際公開第2008/018931号及び国際公開第2009/086210号に記載された方法を用いうる。
【0223】
部分構造(n4)を有するフラーレンの合成方法としては、J.Chem.Soc., Perkin Trans.1,1997 1595、Thin Solid Films 489(2005)251−256、Adv.Funct.Mater.2005,15,1979−1987及びJ.Org.Chem.1995,60,532−538に記載された方法を用いうる。
【0224】
(N−アルキル置換されたペリレンジイミド誘導体)
N−アルキル置換されたペリレンジイミド誘導体は、特段の制限はないが、具体的には国際公開第2008/063609号、国際公開第2009/115513号、国際公開第2009/098250号、国際公開第2009/000756号及び国際公開第2009/091670号に記載されている化合物が挙げられる。電子移動度が高く、可視域に吸収を有するため、電荷輸送と発電との両方に寄与する点から好ましい。
【0225】
(ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド)
ナフタレンテトラカルボン酸ジイミドは、特段の制限はないが、具体的には国際公開第2008/063609号、国際公開第2007/146250号及び国際公開第2009/000756号に記載されている化合物が挙げられる。電子移動度が高く、溶解性が高く塗布性に優れている点から好ましい。
【0226】
(n型ポリマー)
n型ポリマーは、特段の制限はないが、ナフタレンテトラカルボン酸ジイミド、ペリレンテトラカルボン酸ジイミド等の縮合環テトラカルボン酸ジイミド類、ペリレンジイミド誘導体、ベンゾイミダゾール誘導体、ベンズオキサゾール誘導体、チアゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾチアジアゾール誘導体、オキサジアゾール誘導体、チアジアゾール誘導体、トリアゾール誘導体、ピラジン誘導体、フェナントロリン誘導体、キノキサリン誘導体、ビピリジン誘導体及びボラン誘導体のうち少なくとも一つを構成ユニットとするn型ポリマーが挙げられる。
【0227】
その中でも、ボラン誘導体、チアゾール誘導体、ベンゾチアゾール誘導体、ベンゾチアジアゾール誘導体、N−アルキル置換されたナフタレンテトラカルボン酸ジイミド及びN−アルキル置換されたペリレンジイミド誘導体のうち少なくとも一つを構成ユニットとするポリマーが好ましく、N−アルキル置換されたペリレンジイミド誘導体及びN−アルキル置換されたナフタレンテトラカルボン酸ジイミドのうち少なくとも1つを構成ユニットとするn型ポリマーがより好ましい。また、これらのうち2つ以上を構成ユニットとしてもよい。さらには、n型ポリマーとして2種以上のポリマーを併用してもよい。
【0228】
具体的には国際公開第2009/098253号、国際公開第2009/098250号、国際公開第2010/012710号及び国際公開第2009/098250号に記載されている化合物が挙げられる。可視域に吸収を有するため、発電に寄与し、粘度が高く、塗布性に優れている点から好ましい。
【0229】
n型半導体化合物層作成方法については、特段の制限はないが、塗布法が好ましい。塗布法については、以下の任意の方法で行うことができる。例えば、スピンコート法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法又はカーテンコート法等が挙げられる。
【0230】
n型半導体化合物は、成膜された状態において、何らかの自己組織化した構造を有していてもよいし、アモルファス状態であってもよい。
【0231】
n型半導体化合物の最低空軌道(LUMO)のエネルギー準位は、特に限定はされないが、例えばサイクリックボルタモグラム測定法により算出される真空準位に対する値が、通常−3.85eV以上、好ましくは−3.80eV以上である。電子供与体層(p型半導体層)から効率良く電子受容体層(n型半導体層)へと電子を移動させるためには、各電子供与体層及び電子受容体層に用いられる材料の最低空軌道(LUMO)エネルギー準位の相対関係が重要である。具体的には、電子供与体層の材料のLUMOエネルギー準位が、電子受容体層の材料のLUMOエネルギー準位より所定のエネルギーだけ上にあること、言い換えると、電子受容体の電子親和力が電子供与体の電子親和力より所定のエネルギーだけ大きいことが好ましい。開放電圧(Voc)は電子供与体層の材料の最高被占軌道(HOMO)エネルギー準位と電子受容体層の材料のLUMOエネルギー準位との差で決定されるため、電子受容体のLUMOエネルギー準位を高くすると、Vocが高くなる傾向がある。一方、LUMOの値は通常−1.0eV以下、好ましくは−2.0eV以下、より好ましくは−3.0eV以下、更に好ましくは−3.3eV以下である。電子受容体のLUMOエネルギー準位を低くすることで、電子の移動が起こりやすくなり、短絡電流(Jsc)が高くなる傾向がある。
【0232】
n型半導体のLUMOエネルギー準位の値の算出方法は、理論的に計算値で求める方法と実際に測定する方法が挙げられる。理論的に計算値で求める方法としては、半経験的分子軌道法及び非経験的分子軌道法があげられる。実際に測定する方法としては、紫外可視吸収スペクトル測定法、サイクリックボルタモグラム測定法があげられる。その中でも好ましくは、サイクリックボルタモグラム測定法である。
【0233】
<基板(106)>
本発明に係る光電変換素子は、通常は支持体となる基板106を有する。すなわち、基板上に、電極と、活性層と、バッファ層とが形成される。基板の材料(基板材料)は本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。基板材料の好適な例を挙げると、石英、ガラス、サファイア若しくはチタニア等の無機材料;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂フィルム、塩化ビニル若しくはポリエチレン等のポリオレフィン;セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリノルボルネン若しくはエポキシ樹脂等の有機材料;紙若しくは合成紙等の紙材料;又は、ステンレス、チタン若しくはアルミニウム等の金属に、絶縁性を付与するために表面をコート若しくはラミネートしたもの等の複合材料等が挙げられる。
【0234】
ガラスとしてはソーダガラスや青板ガラスや無アルカリガラス等が挙げられる。ガラスの材質については、ガラスからの溶出イオンが少ない方がよいので無アルカリガラスの方が好ましい。
【0235】
基板106の形状に制限はなく、例えば、板、フィルム、シート等の形状を用いることができる。基板106の膜厚に制限はない。ただし、通常5μm以上、中でも20μm以上であり、一方、通常20mm以下、中でも10mm以下に形成することが好ましい。基板の膜厚が5μm以上であると、半導体デバイスの強度が不足する可能性は少なくなるため、好ましい。基板の膜厚が20mm以下であることで、コストが抑えられ、かつ重量が重くならず、好ましい。又、基板がガラスの場合の膜厚は、通常0.01mm以上、好ましくは0.1mm以上であり、一方、また、通常1cm以下、好ましくは0.5cm以下である。ガラス基板の膜厚が0.01mm以上であると、機械的強度が増加し、割れにくくなるために、好ましい。ガラス基板の膜厚が0.5cm以下であると、重量が重くならずに好ましい。
【0236】
<電極(101,105)>
本発明に係る電極(101,105)は、光吸収により生じた正孔及び電子を捕集する機能を有するものである。したがって、一対の電極には、正孔の捕集に適した電極101(以下、アノードと記載する場合もある)と電子の捕集に適した電極105(以下、カソードと記載する場合もある)とを用いることが好ましい。1対の電極は、いずれか一方が透光性であればよく、両方が透光性であっても構わない。透光性があるとは太陽光が40%以上透過することを意味する。また、透明電極の太陽光線透過率が70%以上であることが、透明電極を透過させて活性層に光を到達させるためには、好ましい。なお、光の透過率は、通常の分光光度計で測定可能である。
【0237】
正孔の捕集に適した電極101(アノード)とは、一般には仕事関数がカソードよりも高い導電性材料で構成された、有機活性層103で発生した正孔をスムーズに取り出す機能を有する電極である。
【0238】
アノード101の材料を挙げると、例えば、酸化ニッケル、酸化スズ、酸化インジウム、酸化スズインジウム(ITO)、インジウム−ジルコニウム酸化物(IZO)、酸化チタン、酸化インジウム若しくは酸化亜鉛等の導電性金属酸化物;又は、金、白金、銀、クロム若しくはコバルト等の金属あるいはその合金が挙げられる。これらの物質は高い仕事関数を有するため、好ましく、さらに、ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルフォン酸をドーピングしたPEDOT/PSSで代表されるような導電性高分子材料を積層することができるため、好ましい。このような導電性高分子を積層する場合には、その導電性高分子材料の仕事関数が高いことから、上記のような高い仕事関数の材料でなくとも、アルミニウムやマグネシウム等のカソードに適した金属を用いることも可能である。
【0239】
ポリチオフェン誘導体にポリスチレンスルフォン酸をドーピングしたPEDOT/PSSや、ポリピロール又はポリアニリン等にヨウ素等をドーピングした導電性高分子材料をアノードの材料として使用することもできる。
【0240】
アノード101が透明電極である場合には、ITO、酸化亜鉛又は酸化スズ等の透光性がある導電性金属酸化物をアノード101の材料として用いることが好ましく、特にITOを用いることが好ましい。
【0241】
アノード101の膜厚は特に制限は無いが、通常10nm以上、好ましくは20nm以上、さらに好ましくは、50nm以上である。一方、通常10μm以下、好ましくは1μm以下、さらに好ましくは500nm以下である。アノード101の膜厚が10nm以上であることにより、シート抵抗が抑えられ、アノード101の膜厚が10μm以下であることにより、光透過率が低下せずに効率よく光を電気に変換することができる。透明電極に用いる場合には、光透過率とシート抵抗を両立する膜厚を選ぶ必要がある。
【0242】
アノード101のシート抵抗は、特段の制限はないが、通常1Ω/□以上、一方、1000Ω/□以下、好ましくは500Ω/□以下、さらに好ましくは100Ω/□以下である。
【0243】
アノード101の形成方法には、蒸着若しくはスパッタ等の真空成膜方法又はナノ粒子や前駆体を含有するインクを塗布して成膜する方法等がある。
【0244】
電子の捕集に適した電極105(カソード)は、一般には仕事関数がアノードよりも高い導電性材料で構成され、有機活性層103で発生した電子をスムーズに取り出す機能を有する。このカソード105は、電子取り出し層104と隣接する。
【0245】
カソード105の材料を挙げると、例えば、白金、金、銀、銅、鉄、スズ、亜鉛、アルミニウム、インジウム、クロム、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム、カルシウム若しくはマグネシウム等の金属及びその合金;フッ化リチウムやフッ化セシウム等の無機塩;又は、酸化ニッケル、酸化アルミニウム、酸化リチウム若しくは酸化セシウムのような金属酸化物等が挙げられる。これらの材料は低い仕事関数を有する材料であるため、好ましい。カソード105についてもアノード101と同様に、電子取り出し層104がチタニアのようなn型半導体で導電性を有するもの含んでいる場合、アノード101に適した高い仕事関数を有する材料を用いることもできる。電極保護の観点から、アノード101の材料として好ましくは、白金、金、銀、銅、鉄、スズ、アルミニウム、カルシウム又はインジウム等の金属及びこれらの金属を用いた合金である。
【0246】
カソード105の膜厚は特に制限は無いが、通常10nm以上、好ましくは20nm以上下、より好ましくは50nm以上である。一方、通常10μm以下、好ましくは1μm以下、より好ましくは500nm以下である。透明電極に用いる場合には、光透過率とシート抵抗を両立する膜厚を選ぶ必要がある。カソード105の膜厚が10nm以上であることにより、シート抵抗が抑えられ、カソード105の膜厚が10μm以下であることにより、光透過率が低下せずに効率よく光を電気に変換することができる。
【0247】
カソード105のシート抵抗は、特に制限は無いが、通常1000Ω/□以下、好ましくは500Ω/□以下、さらに好ましくは100Ω/□以下である。下限に制限は無いが、通常は1Ω/□以上である。
【0248】
カソード105の形成方法には、蒸着若しくはスパッタ等の真空成膜方法又はナノ粒子や前駆体を含有するインクを塗布して成膜する方法等がある。
【0249】
さらに、アノード101又はカソード105は2層以上の積層構造であってもよく、さらに表面処理により特性(電気特性やぬれ特性等)を改良してもよい。
【0250】
アノード101及びカソード105を積層した後に、光電変換素子を通常50℃以上、好ましくは80℃以上、一方、通常300℃以下、好ましくは280℃以下、より好ましくは250℃以下の温度範囲において、加熱することが好ましい(この工程をアニーリング処理工程と称する場合がある)。このアニーリング処理を50℃以上で行うことは、電子取り出し層104と電極105及び/又は電子取り出し層104と活性層103の密着性が向上する効果が得られうるため、好ましい。このアニーリング処理工程の温度を300℃以下とすることは、活性層103に含まれる有機化合物が熱分解する可能性が低くなるため、好ましい。なお、一定の温度で加熱を行う必要はなく、例えば上記の範囲内で段階的な加熱を行ってもよい。
【0251】
加熱する時間としては、通常1分以上、好ましくは3分以上、一方、通常3時間以下、好ましくは1時間以下である。1分以上加熱を行うことによりアニーリング処理の効果が大きくなり、加熱時間を3時間以下とすることにより化合物の分解を防止しうる。このアニーリング処理は、太陽電池性能のパラメータである開放電圧、短絡電流及びフィルファクターが一定の値になったところで終了させることが好ましい。また、このアニーリング処理は常圧下で、かつ不活性ガス雰囲気下で実施することが好ましい。
【0252】
加熱する方法としては、ホットプレート等の熱源に光電変換素子を載せてもよいし、オーブン等の加熱雰囲気下に光電変換素子を入れてもよい。また、光電変換素子の加熱はバッチ方式で行ってもよいし、連続方式で行ってもよい。
【0253】
このアニーリング処理工程により、電子取り出し層104とカソード105及び/又は電子取り出し層104と有機活性層103の密着性が向上しうる。このため、光電変換素子の耐熱性や耐久性等が向上しうるとともに、有機活性層の自己組織化が促進されうる。
【0254】
<光電変換特性>
光電変換素子を実用化するためには、光電変換素子の製造が簡便であること以外に、光電変換素子が高い光電変換効率及び高い耐久性を有することも重要である。上述のように、本発明に係るフェナントロリン誘導体を電子取り出し層材料として用いる光電変換素子は、比較的高い光電変換効率が得られうるととともに、耐久性又は耐熱性が高くなりうる。ここで、耐久性が高いとは、作製直後の光電変換効率と比較して、所定の条件下で保管した後の光電変換効率があまり低下しないことを意味する。また、耐熱性が高いとは、アニーリング処理前の光電変換効率と比較して、アニーリング処理後の光電変換効率が向上するか又は少なくともあまり低下しないことを意味する。
【0255】
本明細書において、光電変換効率は以下のように求めるものとする。すなわち、光電変換素子にソーラシュミレーターでAM1.5G条件の光を照射強度100mW/cmで照射して、電流・電圧特性を測定する。この電流・電圧曲線から、光電変換効率(PCE)、短絡電流、開放電圧、FF(フィルファクター)、直列抵抗、及びシャント抵抗のような光電変換特性を求めることができる。
【0256】
また、光電変換素子の耐久性又は耐熱性を示すパラメータとして、以下のように維持率を定義する。
(維持率) = (保管後の光電変換効率)/(保管前の光電変換効率) 又は、
(維持率) = (アニーリング処理後の光電変換効率)/(アニーリング処理前の光電変換効率)
【0257】
本発明に係る光電変換素子の光電変換効率は、特段の制限はないが、通常1%以上、好ましくは1.5%以上、より好ましくは2%以上である。一方、上限に特段の制限はなく、高ければ高いほどよい。
【0258】
特に、本発明に係る光電変換素子は、窒素雰囲気下室温で8週間保存した後の光電変換効率が、好ましくは1%以上であり、より好ましくは1.5%以上、さらに好ましくは2%以上、特に好ましくは3%以上である。一方、上限に特段の制限はなく、高ければ高いほどよい。
【0259】
本発明に係る光電変換素子は、120℃1分間のアニーリング処理を行った際の維持率が、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、95%以上であることがさらに好ましく、100%以上であることが特に好ましい。上限は特になく、高ければ高いほど好ましい。
【0260】
本発明に係る光電変換素子は、120℃3分間のアニーリング処理を行った際の維持率が、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、100%以上であることが特に好ましい。上限は特になく、高ければ高いほど好ましい。
【0261】
本発明に係る光電変換素子は、窒素雰囲気下室温で8週間保存した際の維持率が、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましく、97%以上であることがさらに好ましく、98%以上であることが特に好ましい。上限は特になく、高ければ高いほど好ましい。
【0262】
また、本発明に係る光電変換素子は、120℃3分間のアニーリング処理後に窒素雰囲気下室温で8週間保存した際の維持率(この場合、(維持率)=(保管後の光電変換効率)/(アニーリング処理前の光電変換効率))が、60%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることがさらに好ましく、100%以上であることが特に好ましい。上限は特になく、高ければ高いほど好ましい。
【0263】
<太陽電池モジュール>
[太陽電池モジュール13]
本発明に係る光電変換素子107は、太陽電池素子として太陽電池において、特に薄膜太陽電池において使用されることが好ましい。
【0264】
図2は本発明の一実施形態としての薄膜太陽電池の構成を模式的に示す断面図である。図2に示すように、本実施形態の薄膜太陽電池14は、耐候性保護フィルム1と、紫外線カットフィルム2と、ガスバリアフィルム3と、ゲッター材フィルム4と、封止材5と、太陽電池素子6と、封止材7と、ゲッター材フィルム8と、ガスバリアフィルム9と、バックシート10とをこの順に備える。そして、耐候性保護フィルム1が形成された側(図中下方)から光が照射されて、太陽電池素子6が発電するようになっている。なお、後述するバックシート10としてアルミ箔の両面にフッ素系樹脂フィルムを接着したシート等の防水性の高いシートを用いる場合は、用途によりゲッター材フィルム8及び/又はガスバリアフィルム9を用いなくてもよい。
【0265】
[耐候性保護フィルム1]
耐候性保護フィルム1は天候変化から太陽電池素子6を保護するフィルムである。太陽電池素子6の構成部品のなかには、温度変化、湿度変化、自然光及び/又は風雨による侵食等により劣化するものがある。そこで、耐候性保護フィルム1で太陽電池素子6を覆うことにより、太陽電池素子6等を天候変化等から保護し、発電能力を高く維持するようにしている。
【0266】
耐候性保護フィルム1は、薄膜太陽電池14の最表層に位置するため、耐候性、耐熱性、透明性、撥水性、耐汚染性及び/又は機械強度等の、薄膜太陽電池14の表面被覆材として好適な性能を備え、しかもそれを屋外暴露において長期間維持する性質を有することが好ましい。
【0267】
また、耐候性保護フィルム1は、太陽電池素子6の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360以上830nm以下)の光の透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、特に好ましくは95%である。
【0268】
さらに、薄膜太陽電池14は光を受けて熱せられることが多いため、耐候性保護フィルム1も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、耐候性保護フィルム1の構成材料の融点は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、また、通常350℃以下、好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下である。融点を高くすることで薄膜太陽電池14の使用時に耐候性保護フィルム1が融解・劣化する可能性を低減できる。
【0269】
耐候性保護フィルム1を構成する材料は、天候変化から太陽電池素子6を保護することができるものであれば任意である。その材料の例を挙げると、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、環状ポリオレフィン樹脂、AS(アクリロニトリル−スチレン)樹脂、ABS(アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、フッ素系樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル樹脂、フェノール樹脂、ポリアクリル系樹脂、各種ナイロン等のポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミド−イミド樹脂、ポリウレタン樹脂、セルロース系樹脂、シリコン系樹脂又はポリカーボネート樹脂等が挙げられる。
【0270】
中でも好ましくはフッ素系樹脂が挙げられ、その具体例を挙げるとポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、4−フッ化エチレン−パークロロアルコキシ共重合体(PFA)、4−フッ化エチレン−6−フッ化プロピレン共重合体(FEP)、2−エチレン−4−フッ化エチレン共重合体(ETFE)、ポリ3−フッ化塩化エチレン(PCTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)又はポリフッ化ビニル(PVF)等が挙げられる。
【0271】
なお、耐候性保護フィルム1は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていてもよい。また、耐候性保護フィルム1は単層フィルムにより形成されていてもよいが、2層以上のフィルムを備えた積層フィルムであってもよい。
【0272】
耐候性保護フィルム1の厚みは特に規定されないが、通常10μm以上、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上であり、また、通常200μm以下、好ましくは180μm以下、より好ましくは150μm以下である。厚みを厚くすることで機械的強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まる傾向にある。
【0273】
また耐候性保護フィルム1には、他のフィルムとの接着性の改良のために、コロナ処理及び/又はプラズマ処理等の表面処理を行なってもよい。
【0274】
耐候性保護フィルム1は、薄膜太陽電池14においてできるだけ外側に設けることが好ましい。薄膜太陽電池14の構成部材のうちより多くのものを保護できるようにするためである。
【0275】
[紫外線カットフィルム2]
紫外線カットフィルム2は紫外線の透過を防止するフィルムである。薄膜太陽電池14の構成部品のなかには紫外線により劣化するものがある。また、ガスバリアフィルム3、9等は種類によっては紫外線により劣化するものがある。そこで、紫外線カットフィルム2を薄膜太陽電池14の受光部分に設け、紫外線カットフィルム2で太陽電池素子6の受光面6aを覆うことにより、太陽電池素子6及び必要に応じてガスバリアフィルム3、9等を紫外線から保護し、発電能力を高く維持することができるようになっている。
【0276】
紫外線カットフィルム2に要求される紫外線の透過抑制能力の程度は、紫外線(例えば、波長300nm)の透過率が50%以下であることが好ましく、30%以下であることがより好ましく、特に好ましくは10%以下である。
【0277】
また、紫外線カットフィルム2は、太陽電池素子6の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360以上830nm以下)の光の透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、特に好ましくは95%以上である。
【0278】
さらに、薄膜太陽電池14は光を受けて熱せられることが多いため、紫外線カットフィルム2も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、紫外線カットフィルム2の構成材料の融点は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、また、通常350℃以下、好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下である。融点が低すぎると薄膜太陽電池14の使用時に紫外線カットフィルム2が融解する可能性がある。
【0279】
また、紫外線カットフィルム2は、柔軟性が高く、隣接するフィルムとの接着性が良好であり、水蒸気や酸素をカットしうるものが好ましい。
【0280】
紫外線カットフィルム2を構成する材料は、紫外線の強度を弱めることができるものであれば任意である。その材料の例を挙げると、エポキシ系、アクリル系、ウレタン系又はエステル系の樹脂に紫外線吸収剤を配合して成膜したフィルム等が挙げられる。また、紫外線吸収剤を樹脂中に分散あるいは溶解させたものの層(以下、適宜「紫外線吸収層」という)を基材フィルム上に形成したフィルムを用いてもよい。
【0281】
紫外線吸収剤としては、例えば、サリチル酸系、ベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系、シアノアクリレート系のものを用いることができる。中でもベンゾフェノン系、ベンゾトリアゾール系が好ましい。この例としては、ベンゾフェノン系やベンゾトリアゾール系の種々の芳香族系有機化合物等が挙げられる。なお、紫外線吸収剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0282】
上述のように、紫外線吸収フィルムとしては紫外線吸収層を基材フィルム上に形成したフィルムを用いることもできる。このようなフィルムは、例えば、紫外線吸収剤を含む塗布液を基材フィルム上に塗布し、乾燥させることで作製できる。
【0283】
基材フィルムの材質は特に限定されないが、耐熱性、柔軟性のバランスが良好なフィルムが得られる点で、例えばポリエステルが挙げられる。
【0284】
塗布は任意の方法で行うことができる。例えば、スピンコート法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法又はカーテンコート法等が挙げられる。また、これらの方法のうち1種を単独で行なってもよく、2種以上を任意に組み合わせて行うこともできる。
【0285】
塗布液に用いる溶剤は、紫外線吸収剤を均一に溶解あるいは分散できるものであれば特に限定されない。例えば液状の樹脂を溶剤として用いることができ、その例を挙げると、ポリエステル系、アクリル系、ポリアミド系、ポリウレタン系、ポリオレフィン系、ポリカーボネート系又はポリスチレン系等の各種合成樹脂等が挙げられる。また、例えば、ゼラチンやセルロース誘導体等の天然高分子;水、水とエタノール等のアルコール混合溶液等も溶剤として用いることができる。さらに、溶剤として有機溶剤を使用してもよい。有機溶剤を使用すれば、色素や樹脂を溶解又は分散させることが可能となり、塗工性を向上させることが可能となる。なお、1種の溶剤を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0286】
塗布液はさらに界面活性剤も含有していてもよい。界面活性剤の使用により、紫外線吸収色素の樹脂への分散性が向上する。これにより、紫外線吸収層において、微小な泡、異物等の付着による凹み及び/又は乾燥工程での塗布むら等の発生が抑制される。
【0287】
界面活性剤としては、公知の界面活性剤(カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤又はノニオン系界面活性剤)を用いることができる。中でも、シリコン系界面活性剤又はフッ素系界面活性剤が好ましい。なお、界面活性剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0288】
なお、塗布液を基材フィルムに塗布した後の乾燥は、例えば熱風乾燥、赤外線ヒーターによる乾燥等の公知の乾燥方法が採用できる。中でも、乾燥速度が速い熱風乾燥が好適である。
【0289】
紫外線カットフィルム2の具体的な商品の例を挙げると、カットエース(MKVプラスティック株式会社)等が挙げられる。
【0290】
なお、紫外線カットフィルム2は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていてもよい。また、紫外線カットフィルム2は単層フィルムにより形成されていてもよいが、2層以上のフィルムを備えた積層フィルムであってもよい。
【0291】
紫外線カットフィルム2の厚みは特に規定されないが、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上であり、また、通常200μm以下、好ましくは180μm以下、より好ましくは150μm以下である。厚みを厚くすることで紫外線の吸収が高まる傾向にあり、薄くすることで可視光の透過率を増加させられる傾向にある。
【0292】
紫外線カットフィルム2は、太陽電池素子6の受光面6aの少なくとも一部を覆う位置に設ければよいが、好ましくは太陽電池素子6の受光面6aの全てを覆う位置に設ける。
ただし、太陽電池素子6の受光面6aを覆う位置以外の位置にも紫外線カットフィルム2が設けられていてもよい。
【0293】
[ガスバリアフィルム3]
ガスバリアフィルム3は水及び酸素の透過を防止するフィルムである。太陽電池素子6は湿気及び酸素に弱い傾向があり、特に、ZnO:Al等の透明電極や、化合物半導体系太陽電池素子及び有機太陽電池素子が水分及び酸素により劣化することがある。そこで、ガスバリアフィルム3で太陽電池素子6を被覆することにより、太陽電池素子6を水及び酸素から保護し、発電能力を高く維持することができる。
【0294】
ガスバリアフィルム3に要求される防湿能力の程度は、太陽電池素子6の種類等に応じて様々である。例えば、太陽電池素子6が化合物半導体系太陽電池素子である場合には、単位面積(1m)の1日あたりの水蒸気透過率が、1×10−1g/m/day以下であることが好ましく、1×10−2g/m/day以下であることがより好ましく、1×10−3g/m/day以下であることが更に好ましく、1×10−4g/m/day以下であることが中でも好ましく、1×10−5g/m/day以下であることがとりわけ好ましく、1×10−6g/m/day以下であることが特に好ましい。
【0295】
また、太陽電池素子6が有機太陽電池素子である場合には、単位面積(1m)の1日あたりの水蒸気透過率が、1×10−1g/m/day以下であることが好ましく、1×10−2g/m/day以下であることがより好ましく、1×10−3g/m/day以下であることが更に好ましく、1×10−4g/m/day以下であることが中でも好ましく、1×10−5g/m/day以下であることがとりわけ好ましく、1×10−6g/m/day以下であることが特に好ましい。
【0296】
水蒸気が透過しなければしないほど、太陽電池素子6及び当該素子6のZnO:Al等の透明電極の水分との反応に起因する劣化が抑えられるので、発電効率が上がると共に寿命が延びる。
【0297】
ガスバリアフィルム3に要求される酸素透過性の程度は、太陽電池素子6の種類等に応じて様々である。例えば、太陽電池素子6が化合物半導体系太陽電池素子である場合には、単位面積(1m)の1日あたりの酸素透過率が、1×10−1cc/m/day/atm以下であることが好ましく、1×10−2cc/m/day/atm以下であることがより好ましく、1×10−3cc/m/day/atm以下であることが更に好ましく、1×10−4cc/m/day/atm以下であることが中でも好ましく、1×10−5cc/m/day/atm以下であることがとりわけ好ましく、1×10−6cc/m/day/atm以下であることが特に好ましい。
【0298】
また、例えば、太陽電池素子6が有機太陽電池素子である場合には、単位面積(1m)の1日あたりの酸素透過率が、1×10−1cc/m/day/atm以下であることが好ましく、1×10−2cc/m/day/atm以下であることがより好ましく、1×10−3cc/m/day/atm以下であることが更に好ましく、1×10−4cc/m/day/atm以下であることが中でも好ましく、1×10−5cc/m/day/atm以下であることがとりわけ好ましく、1×10−6cc/m/day/atm以下であることが特に好ましい。酸素が透過しなければしないほど、太陽電池素子6及び当該素子6のZnO:Al等の透明電極の酸化による劣化が抑えられる。
【0299】
従来はこのように高い防湿及び酸素遮断能力を有するガスバリアフィルム3の実装が困難であったため、化合物半導体系太陽電池素子及び有機太陽電池素子のように優れた太陽電池素子を備えた太陽電池を実現することが困難であったが、このようなガスバリアフィルム3を適用することにより化合物半導体系太陽電池素子及び有機太陽電池素子等の優れた性質を活かした薄膜太陽電池14の実施が容易となる。
【0300】
また、ガスバリアフィルム3は、太陽電池素子6の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360以上830nm以下)の光の透過率は、通常60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、更に好ましくは80%以上、中でも好ましくは85%以上、とりわけ好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、その中でも特に好ましくは97%以上である。太陽光をより多く電気エネルギーに変換するためである。
【0301】
さらに、薄膜太陽電池14は光を受けて熱せられることが多いため、ガスバリアフィルム3も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、ガスバリアフィルム3の構成材料の融点は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、また、通常350℃以下、好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下である。融点を高くすることで薄膜太陽電池14の使用時にガスバリアフィルム3が融解・劣化する可能性を低減できる。
【0302】
ガスバリアフィルム3の具体的な構成は、太陽電池素子6を水から保護できる限り任意である。ただし、ガスバリアフィルム3を透過しうる水蒸気や酸素の量を少なくできるフィルムほど製造コストが高くなるため、これらの点を総合的に勘案して適切なものを使用することが好ましい。
【0303】
以下、ガスバリアフィルム3の構成について、例を挙げて説明する。ガスバリアフィルム3の構成として好ましいものは以下の2例が挙げられる。一つ目の例は、プラスチックフィルム基材に無機バリア層を配置したフィルムである。この際、無機バリア層は、プラスチックフィルム基材の片面のみに形成してもよいし、プラスチックフィルム基材の両面に形成してもよい。両面に形成するときは、両面に形成する無機バリア層の数が、それぞれ一致していていもよく、異なっていてもよい。
【0304】
二つ目の例は、プラスチックフィルム基材に、無機バリア層とポリマー層とが互いに隣接して配置された2層からなるユニット層が形成されたフィルムである。この際、無機バリア層とポリマー層とが互いに隣接して配置された2層からなるユニット層を1単位として、このユニット層を1単位(無機バリア層1層とポリマー層1層を合わせて1単位の意味)のみ形成してもよいが、2単位以上形成してもよい。例えば2単位以上5単位以下、積層してもよい。
【0305】
ユニット層は、プラスチックフィルム基材の片面のみに形成してもよいし、プラスチックフィルム基材の両面に形成してもよい。両面に形成するときは、両面に形成する無機バリア層及びポリマー層の数が、それぞれ一致していていもよく、異なっていてもよい。また、プラスチックフィルム基材上にユニット層を形成する場合、無機バリア層を形成してからその上にポリマー層を形成してもよいし、ポリマー層を形成してから無機バリア層を形成してもよい。
【0306】
(プラスチックフィルム基材)
ガスバリアフィルム3に使用されるプラスチックフィルム基材は、上記の無機バリア層及びポリマー層を保持しうるフィルムであれば特に制限はなく、ガスバリアフィルム3の使用目的等から適宜選択することができる。
【0307】
プラスチックフィルム基材の材料の例を挙げると、ポリエステル樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、フルオレン環変性ポリカーボネート樹脂、脂環変性ポリカーボネート樹脂又はアクリロイル化合物が挙げられる。また、スピロビインダン、スピロビクロマンを含む縮合ポリマーを用いるのも好ましい。ポリエステル樹脂の中でも、二軸延伸を施したポリエチレンテレフタレート(PET)又は同じく二軸延伸したポリエチレンナフタレート(PEN)は、熱的寸度安定性に優れるため、プラスチックフィルム基材として好ましく用いられる。なおプラスチックフィルム基材の材料として、1種の材料を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0308】
プラスチックフィルム基材の厚みは特に規定されないが、通常10μm以上、好ましくは15μm以上、より好ましくは20μm以上であり、また、通常200μm以下、好ましくは180μm以下、より好ましくは150μm以下である。厚みを厚くすることで機械的強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まる傾向にある。
【0309】
プラスチックフィルム基材は、太陽電池素子6の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360以上830nm以下)の光の透過率は、通常60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、更に好ましくは80%以上、中でも好ましくは85%以上、とりわけ好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、その中でも特に好ましくは97%以上である。太陽光をより多く電気エネルギーに変換するためである。
【0310】
プラスチックフィルム基材には、無機バリア層との密着性向上のため、アンカーコート剤の層(アンカーコート層)を形成してもよい。通常、アンカーコート層はアンカーコート剤を塗布して形成される。アンカーコート剤としては、例えば、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、オキサゾリン基含有樹脂、カルボジイミド基含有樹脂、エポキシ基含有樹脂、イソシアネート含有樹脂及びこれらの共重合体等が挙げられる。中でも、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂及びアクリル樹脂の中から選ばれる少なくとも1種類以上の樹脂と、オキサゾリン基含有樹脂、カルボジイミド基含有樹脂、エポキシ基含有樹脂及びイソシアネート基含有樹脂の中から選ばれる少なくとも1種類以上の樹脂とを組み合わせたものが好ましい。なお、アンカーコート剤は、1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0311】
アンカーコート層の厚さは、通常0.005μm以上、好ましくは0.01μm以上であり、通常5μm以下、好ましくは1μm以下である。この範囲の上限値以下の厚さであれば滑り性が良好であり、アンカーコート層自体の内部応力によるプラスチックフィルム基材からの剥離もほとんどない。また、この範囲の下限値以上の厚さであれば、均一な厚さを保つことができ好ましい。
【0312】
また、プラスチックフィルム基材へのアンカーコート剤の塗布性及び接着性を改良するため、アンカーコート剤の塗布前に、プラスチックフィルム基材に通常の化学処理、放電処理等の表面処理を施してもよい。
【0313】
(無機バリア層)
無機バリア層は通常は金属酸化物、窒化物若しくは酸化窒化物により形成される層である。なお、無機バリア層を形成する金属酸化物、窒化物及び酸化窒化物として、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0314】
金属酸化物としては、例えば、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、インジウム、ニッケル、スズ、亜鉛、チタン、銅、セリウム又はタンタル等の酸化物が挙げられる。中でも、高いバリア性と高透明性とを両立させるために、酸化アルミニウム又は酸化ケイ素を含むことが好ましく、特に水分の透過性、光線透過性の観点から、酸化ケイ素を含むことが好ましい。各々の金属原子と酸素原子との比率も任意であるが、無機バリア層の透明度を向上させ、着色を防ぐためには、酸素原子の比率が酸化物の化学量論的な比率から極端に少なくないことが望ましい。一方、無機バリア層の緻密性を向上させバリア性を高くするためには、酸素原子を少なくすることが望ましい。この観点から、例えば金属酸化物としてSiOを用いる場合にはxの値は1.5以上1.8以下であることが特に好ましい。また、例えば金属酸化物としてAlOを用いる場合にはxの値は1.0以上1.4以下であることが特に好ましい。
【0315】
また、2種以上の金属酸化物により無機バリア層を構成する場合、金属酸化物としては酸化アルミニウム及び酸化ケイ素を含むことが望ましい。無機バリア層が酸化アルミニウム及び酸化ケイ素からなる場合、無機バリア層中のアルミニウムとケイ素との比率は任意に設定することができるが、ケイ素/アルミニウムの比率は、通常1/9以上、好ましくは2/8以上であり、また、通常9/1以下、好ましくは2/8以下である。
【0316】
無機バリア層の厚みを厚くするとバリア性が高まる傾向にあるが、曲げた際にクラックを生じにくくし、割れを防ぐためには、厚みを薄くすることが望ましい。そこで無機バリア層の適正な厚みとしては、通常5nm以上、好ましくは10nm以上であり、また、通常1000nm以下、好ましくは200nm以下である。
【0317】
無機バリア層の成膜方法に制限は無いが、一般的にスパッタリング法、真空蒸着法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等で行うことができる。例えばスパッタリング法では1種類のあるいは複数の金属ターゲットと酸素ガスを原料とし、プラズマを用いた反応性スパッタ方式で形成することができる。
【0318】
(ポリマー層)
ポリマー層にはいずれのポリマーでも使用することができ、例えば真空チャンバー内で成膜できるものも用いることができる。なお、ポリマー層を構成するポリマーとして、1種のポリマーを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0319】
ポリマーを与える化合物としては多種多様なものを用いることができるが、例えば以下の(i)〜(vii)のようなものが例示される。なお、モノマーとして1種の化合物を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0320】
(i)例えばヘキサメチルジシロキサン等のシロキサンが挙げられる。ヘキサメチルジシロキサンを用いる場合のポリマー層の形成方法の例を挙げると、RF電極を用いた平行平板型のプラズマ装置にヘキサメチルジシロキサンを蒸気として導入し、プラズマ中で重合反応を起こさせ、プラスチックフィルム基材上に堆積させることでポリマー層をポリシロキサン薄膜として形成できる。
【0321】
(ii)例えばジパラキシリレン等のパラキシリレンが挙げられる。ジパラキシリレンを用いる場合のポリマー層の形成方法の例を挙げると、まず高真空中でジパラキシリレンの蒸気を650℃以上700℃以下で加熱することで熱分解させて熱ラジカルを発生させる。そして、そのラジカルモノマー蒸気をチャンバー内に導いて、プラスチックフィルム基材へ吸着させると同時に、ラジカル重合反応を進行させてポリパラキシリレンを堆積させることでポリマー層を形成できる。
【0322】
(iii)例えば二種のモノマーを交互に繰り返し付加重合させることができるモノマーが挙げられる。これにより得られるポリマーは重付加ポリマーである。重付加ポリマーとしては、例えば、ポリウレタン(ジイソシアナート/グリコール)、ポリ尿素(ジイソシアナート/ジアミン)、ポリチオ尿素(ジチオイソシアナート/ジアミン)、ポリチオエーテルウレタン(ビスエチレンウレタン/ジチオール)、ポリイミン(ビスエポキシ/第一アミン)、ポリペプチドアミド(ビスアゾラクトン/ジアミン)又はポリアミド(ジオレフィン/ジアミド)等が挙げられる。
【0323】
(iv)例えばアクリレートモノマーが挙げられる。アクリレートモノマーには単官能、2官能又は多官能のアクリレートモノマーがあるが、いずれを用いてもよい。ただし、適切な蒸発速度、硬化度及び/又は硬化速度等を得るために、アクリレートモノマーを2種以上組み合わせて併用することが好ましい。また、単官能アクリレートモノマーとしては、例えば脂肪族アクリレートモノマー、脂環式アクリレートモノマー、エーテル系アクリレートモノマー、環状エーテル系アクリレートモノマー、芳香族系アクリレートモノマー、水酸基含有アクリレートモノマー又はカルボキシ基含有アクリレートモノマー等があるが、いずれも用いることができる。
【0324】
(v)例えばエポキシ系やオキセタン系等の、光カチオン硬化ポリマーが得られるモノマーが挙げられる。エポキシ系モノマーとしては、例えば、脂環式エポキシ系モノマー、2官能性モノマー又は多官能性オリゴマー等が挙げられる。また、オキセタン系モノマーとしては、例えば、単官能オキセタン、2官能オキセタン又はシルセスキオキサン構造を有するオキセタン等が挙げられる。
【0325】
(vi)例えば酢酸ビニルが挙げられる。モノマーとして酢酸ビニルを用いると、その重合体をケン化することでポリビニルアルコールが得られ、このポリビニルアルコールをポリマーとして使用できる。
【0326】
(vii)例えば、アクリル酸、メタクリル酸、エタクリル酸、フマル酸、マレイン酸、イタコン酸、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、無水マレイン酸又は無水イタコン酸等の不飽和カルボン酸等が挙げられる。これらは、エチレンとの共重合体を構成させ、この共重合体をポリマーとして使用できる。さらに、これらの混合物、あるいはグリシジルエーテル化合物を混合した混合物、さらにはエポキシ化合物との混合物もポリマーとして用いることができる。
【0327】
上述のモノマーを重合してポリマーを生成させる際、モノマーの重合方法に制限は無い。ただし、通常は、モノマーを含む組成物を塗布又は蒸着して成膜した後で重合を行うようにする。重合方法の例を挙げると、熱重合開始剤を用いたときはヒーター等による接触加熱又は赤外線若しくはマイクロ波等の放射加熱等により重合を開始させる。また、光重合開始剤を用いたときは活性エネルギー線を照射して重合を開始させる。活性エネルギー線を照射する場合には様々な光源を使用することができ、例えば、水銀アークランプ、キセノンアークランプ、蛍光ランプ、炭素アークランプ、タングステンーハロゲン輻射ランプ又は日光による照射光等を用いることができる。また、電子線照射や大気圧プラズマ処理を行うこともできる。
【0328】
ポリマー層の形成方法としては、例えば、塗布法、真空成膜法等が挙げられる。塗布法でポリマー層を形成する場合、塗布方法としては例えば、スピンコート法、リバースロールコート法、グラビアコート法、キスコート法、ロールブラッシュ法、スプレーコート法、エアナイフコート法、ワイヤーバーバーコート法、パイプドクター法、含浸・コート法又はカーテンコート法等が挙げられる。また、ポリマー層形成用の塗布液をミスト状として塗布してもよい。この場合の液滴の平均粒径は適切な範囲に調整すればよく、例えば重合性モノマーを含有する塗布液をミスト状としてプラスチックフィルム基材上に成膜して形成する場合には、液滴の平均粒径は通常5μm以下、好ましくは1μm以下である。他方、真空成膜法でポリマー層を形成する場合、例えば、蒸着やプラズマCVD等の成膜方法が挙げられる。
【0329】
ポリマー層の厚みについては特に限定はないが、通常10nm以上であり、また、通常5000nm以下、好ましくは2000nm以下、より好ましくは1000nm以下である。ポリマー層の厚みを厚くすることで、厚みの均一性が得やすくなり無機バリア層の構造欠陥を効率よくポリマー層で埋めることができ、バリア性が向上する傾向にある。また、ポリマー層の厚みを薄くする事で、曲げ等の外力によりポリマー層自身がクラックを発生しにくくなるためバリア性が向上しうる。
【0330】
中でも好適なガスバリアフィルム3としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)或いはポリエチレンナフタレート(PEN)等の基材フィルムにSiOを真空蒸着したフィルム等が挙げられる。
【0331】
なお、ガスバリアフィルム3は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていてもよい。また、ガスバリアフィルム3は単層フィルムにより形成されていてもよいが、2層以上のフィルムを備えた積層フィルムであってもよい。
【0332】
ガスバリアフィルム3の厚みは特に規定されないが、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上であり、また、通常200μm以下、好ましくは180μm以下、より好ましくは150μm以下である。厚みを厚くすることでガスバリア性が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まりまた可視光の透過率が向上する傾向にある。
【0333】
ガスバリアフィルム3は、太陽電池素子6を被覆して湿気及び酸素から保護できればその形成位置に制限は無いが、太陽電池素子6の正面(受光面側の面。図2では下側の面)及び背面(受光面とは反対側の面。図2では上側の面)を覆うことが好ましい。薄膜太陽電池14においてはその正面及び背面が他の面よりも大面積に形成されることが多いためである。本実施形態ではガスバリアフィルム3が太陽電池素子6の正面を覆い、後述するガスバリアフィルム9が太陽電池素子6の背面を覆うようになっている。なお、後述するバックシート10としてアルミ箔の両面にフッ素系樹脂フィルムを接着したシート等の防水性の高いシートを用いる場合は、用途によりゲッター材フィルム8及び/又はガスバリアフィルム9を用いなくてもよい。
【0334】
[ゲッター材フィルム4]
ゲッター材フィルム4は水分及び/又は酸素を吸収するフィルムである。太陽電池素子6の構成部品のなかには上述のように水分で劣化するものがあり、また、酸素によって劣化するものもある。そこで、ゲッター材フィルム4で太陽電池素子6を覆うことにより、太陽電池素子6等を水分及び/又は酸素から保護し、発電能力を高く維持するようにしている。
【0335】
ここで、ゲッター材フィルム4は前記のようなガスバリアフィルム3とは異なり、水分の透過を妨げるものではなく、水分を吸収するものである。水分を吸収するフィルムを用いることにより、ガスバリアフィルム3等で太陽電池素子6を被覆した場合に、ガスバリアフィルム3及び9で形成される空間に僅かに浸入する水分をゲッター材フィルム4が捕捉して水分による太陽電池素子6への影響を排除できる。
【0336】
ゲッター材フィルム4の水分吸収能力の程度は、通常0.1mg/cm以上、好ましくは0.5mg/cm以上、より好ましくは1mg/cm以上である。この数値が高いほど水分吸収能力が高く太陽電池素子6の劣化を抑制しうる。また、上限に制限は無いが、通常10mg/cm以下である。
【0337】
また、ゲッター材フィルム4が酸素を吸収することにより、ガスバリアフィルム3,9等で太陽電池素子6を被覆した場合に、ガスバリアフィルム3及び9で形成される空間に僅かに浸入する酸素をゲッター材フィルム4が捕捉し、酸素による太陽電池素子6への影響を排除できる。
【0338】
さらに、ゲッター材フィルム4は、太陽電池素子6の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360以上830nm以下)の光の透過率は、通常60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、更に好ましくは80%以上、中でも好ましくは85%以上、とりわけ好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、その中でも特に好ましくは97%以上である。太陽光をより多く電気エネルギーに変換するためである。
【0339】
さらに、薄膜太陽電池14は光を受けて熱せされることが多いため、ゲッター材フィルム4も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、ゲッター材フィルム4の構成材料の融点は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、また、通常350℃以下、好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下である。融点を高くすることで薄膜太陽電池14の使用時にゲッター材フィルム4が融解・劣化する可能性を低減できる。
【0340】
ゲッター材フィルム4を構成する材料は、水分及び/又は酸素を吸収することができるものであれば任意である。その材料の例を挙げると、水分を吸収する物質としてアルカリ金属、アルカリ土類金属若しくはアルカリ土類金属の酸化物;アルカリ金属若しくはアルカリ土類金属の水酸化物;シリカゲル、ゼオライト系化合物、硫酸マグネシウム、硫酸ナトリウム若しくは硫酸ニッケル等の硫酸塩;又は、アルミニウム金属錯体若しくはアルミニウムオキサイドオクチレート等の有機金属化合物等が挙げられる。具体的には、アルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウム又はバリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の酸化物としては、酸化カルシウム、酸化ストロンチウム又は酸化バリウム等が挙げられる。その他にZr−Al−BaOやアルミニウム金属錯体等も挙げられる。具体的な商品名を挙げると、例えば、OleDry(双葉電子社製)等が挙げられる。
【0341】
酸素を吸収する物質としては、活性炭、シリカゲル、活性アルミナ、モレキュラーシーブ、酸化マグネシウム又は酸化鉄等が挙げられる。また鉄、マンガン、亜鉛、及びこれら金属の硫酸塩・塩化物塩・硝酸塩等の無機塩も挙げられる。
【0342】
なお、ゲッター材フィルム4は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていてもよい。また、ゲッター材フィルム4は単層フィルムにより形成されていてもよいが、2層以上のフィルムを備えた積層フィルムであってもよい。
【0343】
ゲッター材フィルム4の厚みは特に規定されないが、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、より好ましくは15μm以上であり、また、通常200μm以下、好ましくは180μm以下、より好ましくは150μm以下である。厚みを厚くすることで機械的強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まる傾向にある。
【0344】
ゲッター材フィルム4は、ガスバリアフィルム3及び9で形成される空間内であればその形成位置に制限は無いが、太陽電池素子6の正面(受光面側の面。図2では下側の面)及び背面(受光面とは反対側の面。図2では上側の面)を覆うことが好ましい。薄膜太陽電池14においてはその正面及び背面が他の面よりも大面積に形成されることが多いため、これらの面を介して水分及び酸素が浸入する傾向があるからである。この観点から、ゲッター材フィルム4はガスバリアフィルム3と太陽電池素子6との間に設けることが好ましい。本実施形態ではゲッター材フィルム4が太陽電池素子6の正面を覆い、後述するゲッター材フィルム8が太陽電池素子6の背面を覆い、ゲッター材フィルム4,8がそれぞれ太陽電池素子6とガスバリアフィルム3,9との間に位置するようになっている。なお、後述するバックシート10としてアルミ箔の両面にフッ素系樹脂フィルムを接着したシート等防水性の高いシートを用いる場合は、用途によりゲッター材フィルム8及び/又はガスバリアフィルム9を用いなくてもよい。
【0345】
ゲッター材フィルム4は吸水剤又は乾燥剤の種類に応じて任意の方法で形成することができるが、例えば、吸水剤又は乾燥剤を分散したフィルムを粘着剤で添付する方法、吸水剤又は乾燥剤の溶液をスピンコート法、インクジェット法又はディスペンサー法等で塗布する方法等を用いることができる。また真空蒸着法やスパッタリング法等の成膜法を使用してもよい。
【0346】
吸水剤又は乾燥剤のためのフィルムとしては、例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂又はポリカーボネート系樹脂等を用いることができる。中でも、ポリエチレン系樹脂、フッ素系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂又はポリカーボネート系樹脂のフィルムが好ましい。なお、前記樹脂は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0347】
[封止材5]
封止材5は、太陽電池素子6を補強するフィルムである。太陽電池素子6は薄いため通常は強度が弱く、ひいては薄膜太陽電池の強度が弱くなる傾向があるが、封止材5により強度を高く維持することが可能である。
【0348】
また、封止材5は、薄膜太陽電池14の強度保持の観点から強度が高いことが好ましい。具体的強度については、封止材5以外の耐候性保護フィルム1やバックシート10の強度とも関係することになり一概には規定しにくいが、薄膜太陽電池14全体が良好な曲げ加工性を有し、折り曲げ部分の剥離を生じないような強度を有するのが望ましい。
【0349】
また、封止材5は、太陽電池素子6の光吸収を妨げない観点から可視光を透過させるものが好ましい。例えば、可視光(波長360以上830nm以下)の光の透過率は、通常60%以上、好ましくは70%以上、より好ましくは75%以上、更に好ましくは80%以上、中でも好ましくは85%以上、とりわけ好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上、その中でも特に好ましくは97%以上である。太陽光をより多く電気エネルギーに変換するためである。
【0350】
さらに、薄膜太陽電池14は光を受けて熱せられることが多いため、封止材5も熱に対する耐性を有することが好ましい。この観点から、封止材5の構成材料の融点は、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、より好ましくは130℃以上であり、また、通常350℃以下、好ましくは320℃以下、より好ましくは300℃以下である。融点を高くすることで薄膜太陽電池14の使用時に封止材5が融解・劣化する可能性を低減できる。
【0351】
封止材5の厚みは特に規定されないが、通常100μm以上、好ましくは150μm以上、より好ましくは200μm以上であり、また、通常700μm以下、好ましくは600μm以下、より好ましくは500μm以下である。厚みを厚くすることで薄膜太陽電池14全体の強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まりまた可視光の透過率が向上する傾向にある。
【0352】
封止材5を構成する材料としては、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂組成物をフィルムにしたもの(EVAフィルム)等を用いることができる。EVAフィルムには通常は耐候性の向上のために架橋剤を配合して架橋構造を構成させる。この架橋剤としては、一般に、100℃以上でラジカルを発生する有機過酸化物が用いられる。このような有機過酸化物としては、例えば、2,5−ジメチルヘキサン、2,5−ジハイドロペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルペルオキシ)ヘキサン又は3−ジ−t−ブチルペルオキシド等を用いることができる。これらの有機過酸化物の配合量は、EVA樹脂100重量部に対して、通常5重量部以下、好ましくは3重量部以下であり、通常1重量部以上である。なお、架橋剤は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0353】
このEVA樹脂組成物には、接着力向上の目的で、シランカップリング剤を含有させてもよい。この目的に供されるシランカップリング剤としては、例えば、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリクロロシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニル−トリス−(β−メトキシエトキシ)シラン、γ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン又はβ−(3,4−エトキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン等を挙げることができる。これらのシランカップリング剤の配合量は、EVA樹脂100重量部に対して、通常5重量部以下、好ましくは2重量部以下であり、通常0.1重量部以上である。なお、シランカップリング剤として1種の化合物を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0354】
更に、EVA樹脂のゲル分率を向上させ、耐久性を向上するために、EVA樹脂組成物に架橋助剤を含有させてもよい。この目的に供される架橋助剤としては、例えば、トリアリルイソシアヌレート又はトリアリルイソシアネート等の3官能の架橋助剤等が挙げられる。これらの架橋助剤の配合量は、EVA樹脂100重量部に対して、通常10重量部以下、好ましくは5重量部以下であり、また、通常1重量部以上である。なお、架橋助剤として1種の化合物を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0355】
更に、EVA樹脂の安定性を向上する目的で、EVA樹脂組成物に、例えばヒドロキノン、ヒドロキノンモノメチルエーテル、p−ベンゾキノン又はメチルヒドロキノン等を含有させてもよい。これらの配合量は、EVA樹脂100重量部に対して、通常5重量部以下である。
【0356】
しかし、EVA樹脂の架橋処理には1〜2時間程度の比較的長時間を要するため、薄膜太陽電池14の生産速度及び生産効率を低下させる原因となる場合がある。また、長期間使用の際には、EVA樹脂組成物の分解ガス(酢酸ガス)又はEVA樹脂自体が有する酢酸ビニル基が、太陽電池素子6に悪影響を与えて発電効率が低下させる場合がある。
【0357】
そこで、封止材5としては、EVAフィルムの他に、プロピレン・エチレン・α−オレフィン共重合体からなる共重合体のフィルムを用いることもできる。この共重合体としては、例えば、下記成分1及び成分2が配合された熱可塑性樹脂組成物が挙げられる。
・成分1:プロピレン系重合体が、通常0重量部以上、好ましくは10重量部以上であり、また、通常70重量部以下、好ましくは50重量部以下である。
・成分2:軟質プロピレン系共重合体が、30重量部以上、好ましくは50重量部以上であり、また、通常100重量部以下、好ましくは90重量部以下である。
なお、成分1及び成分2の合計量は100重量部である。上記のように、成分1及び成分2が好ましい範囲にあると、封止材5のシートへの成形性が良好であるとともに、得られる封止材5の耐熱性、透明性及び柔軟性が良好となり、薄膜太陽電池14に好適である。
【0358】
上記の成分1及び成分2が配合された熱可塑性樹脂組成物は、メルトフローレート(ASTM D 1238、230度、荷重2.16kg)が、通常0.0001g/10分以上であり、また、通常1000g/10分以下、好ましくは900g/10分以下、より好ましくは800g/10分以下である。
【0359】
成分1及び成分2が配合された熱可塑性樹脂組成物の融点は、通常100℃以上、好ましくは110℃以上である。また通常140℃以下、好ましくは135℃以下である。
【0360】
また成分1及び成分2が配合された熱可塑性樹脂組成物の密度は、0.98g/cm以下が好ましく、0.95g/cm以下がより好ましく、0.94g/cm以下がさらに好ましい。
【0361】
この封止材5においては、上記成分1及び成分2に、プラスチック等に対する接着促進剤としてカップリング剤を配合することが可能である。カップリング剤としては、シラン系、チタネート系、クロム系の各カップリング剤が好ましく用いられ、特にシラン系のカップリング剤(シランカップリング剤)が好適に用いられる。
【0362】
上記シランカップリング剤としては公知のものを使用することができ、特に制限はないが、例えば、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシ−エトキシシラン)、γ−グリシドキシプロピル−トリピルトリ−メトキシシラン又はγ−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられる。なお、カップリング剤として1種の化合物を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、熱可塑性樹脂組成物(成分1及び成分2の合計量)100重量部に対して、上記シランカップリング剤を通常0.1重量部以上含み、また、通常5重量部以下、好ましくは3重量部以下含むことが望ましい。
【0363】
また、カップリング剤を、有機過酸化物を用いて、熱可塑性樹脂組成物にグラフト反応させてもよい。この場合、熱可塑性樹脂組成物(成分1及び成分2の合計量)100重量部に対して、上記カップリング剤を0.1重量部以上5重量部以下含むことが望ましい。シラングラフト化された熱可塑性樹脂組成物を用いても、ガラスやプラスチックに対して、シランカップリング剤ブレンドと同等以上の接着性が得られる。
【0364】
有機過酸化物を用いる場合、有機過酸化物は、熱可塑性樹脂組成物(成分1及び成分2の合計量)100重量部に対して、通常0.001重量部以上、好ましくは0.01重量部以上であり、また、通常5重量部以下、好ましくは3重量部以下である。
【0365】
また、封止材5としてエチレン・α−オレフィン共重合体からなる共重合体を用いることもできる。この共重合体としては、下記に示す成分A及び成分Bからなる封止材用樹脂組成物と基材とを積層してなる、ホットタック性が5℃以上25℃以下のラミネートフィルムが例示される。
・成分A:エチレン系樹脂。
・成分B:以下の(a)〜(d)の性状を有するエチレンとα−オレフィンとの共重合体。
(a)密度が0.86g/cm以上0.935g/cm以下。
(b)メルトフローレート(MFR)が1g/10分以上、50g/10分以下。
(c)温度上昇溶離分別(TREF)によって得られる溶出曲線のピークが1つであり、かつこのピーク温度が100℃以下である。
(d)温度上昇溶離分別(TREF)による積分溶出量が、90℃のとき90%以上である。
【0366】
成分Aと成分Bとの配合割合(成分A/成分B)は、重量比で、通常50/50以上、好ましくは55/45以上、より好ましくは60/40以上であり、また、通常99/1以下、好ましくは90/10以下、より好ましくは85/15以下である。成分Bの配合量を多くすることで透明性やヒートシール性が高まる傾向にあり、成分Bの配合量を少なくすることでフィルムの作業性が高まる傾向にある。
【0367】
成分Aと成分Bを配合して生成される封止材用樹脂組成物のメルトフローレート(MFR)は、通常2g/10分以上、好ましくは3g/10分以上であり、通常50g/10分以下、好ましくは40g/10分以下である。なおMFRの測定と評価は、JIS K7210(190℃、2.16kg荷重)に準拠する方法によって実施することができる。
【0368】
封止材用樹脂組成物の融点は、好ましくは50℃以上、より好ましくは55℃以上であり、また、通常300℃以下、好ましくは250℃以下、さらに好ましくは200℃以下である。融点を高くすることで薄膜太陽電池14の使用時に融解・劣化する可能性を低減できる。
【0369】
封止材用樹脂組成物の密度は、0.80g/cm以上が好ましく、0.85g/cm以上がより好ましく、また、0.98g/cm以下が好ましく、0.95g/cm以下がより好ましく、0.94g/cm以下がさらに好ましい。なお、密度の測定と評価は、JIS K7112に準拠する方法によって実施することができる。
【0370】
さらに、エチレン・α−オレフィン共重合体を用いた封止材5において、前記プロピレン・エチレン・α−オレフィン共重合体を用いた場合と同様に、カップリング剤を用いることが可能である。
【0371】
上述した封止材5は、材料由来の分解ガスを発生することがないため、太陽電池素子6への悪影響がなく、良好な耐熱性、機械強度、柔軟性(太陽電池封止性)及び透明性を有する。また、材料の架橋工程を必要としないため、シート成形時及び薄膜太陽電池14の製造時間が大きく短縮できるとともに、使用後の薄膜太陽電池14のリサイクルも容易となる。
【0372】
なお、封止材5は1種の材料で形成されていてもよく、2種以上の材料で形成されていてもよい。また、封止材5は単層フィルムにより形成されていてもよいが、2層以上のフィルムを備えた積層フィルムであってもよい。
【0373】
封止材5の厚みは、通常2μm以上、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、また、通常500μm以下、好ましくは300μm以下、より好ましくは100μm以下である。厚みを厚くすることで機械的強度が高まる傾向にあり、薄くすることで柔軟性が高まりまた光線透過率が高まる傾向にある。
【0374】
封止材5を設ける位置に制限は無いが、通常は太陽電池素子6を挟み込むように設ける。太陽電池素子6を確実に保護するためである。本実施形態では、太陽電池素子6の正面及び背面にそれぞれ封止材5及び封止材7を設けるようにしている。
【0375】
[太陽電池素子6]
太陽電池素子6としては、前述の本発明に係る光電変換素子を用いることができる。
【0376】
・太陽電池素子同士の接続
太陽電池素子6は、1個の薄膜太陽電池14あたり1個だけを設けてもよいが、通常は1個の薄膜太陽電池14あたり2個以上の太陽電池素子6を設ける。具体的な太陽電池素子6の個数は任意に設定すればよい。太陽電池素子6を複数設ける場合、太陽電池素子6はアレイ状に並べて設けられていることが多い。
【0377】
太陽電池素子6を複数設ける場合、通常は、太陽電池素子6同士は電気的に接続され、接続された一群の太陽電池素子6から生じた電気を端子(図示せず)から取り出すようになっていて、この際、電圧を高めるため通常は太陽電池素子は直列に接続される。
【0378】
このように太陽電池素子6同士を接続する場合には、太陽電池素子6間の距離は小さいことが好ましく、ひいては、太陽電池素子6と太陽電池素子6との間の隙間は狭いことが好ましい。太陽電池素子6の受光面積を広くして受光量を増加させ、薄膜太陽電池14の発電量を増加させるためである。
【0379】
[封止材7]
封止材7は、上述した封止材5と同様のフィルムであり、配設位置が異なる他は封止材7と同様のものを同様に用いることができる。また、太陽電池素子6よりも背面側の構成部材は必ずしも可視光を透過させる必要が無いため、可視光を透過させないものを用いることもできる。
【0380】
[ゲッター材フィルム8]
ゲッター材フィルム8は、上述したゲッター材フィルム4と同様のフィルムであり、配設位置が異なる他はゲッター材フィルム4と同様のものを同様に必要に応じて用いることができる。また、太陽電池素子6よりも背面側の構成部材は必ずしも可視光を透過させる必要が無いため、可視光を透過させないものを用いることもできる。また使用する水分あるいは酸素吸収剤をゲッター材フィルム4よりも多く含有するフィルムを用いることも可能となる。このような吸収剤としては、水分吸収剤として酸化カルシウム、酸化バリウム又はZr−Al−BaO等が挙げられ、酸素の吸収剤として活性炭やモレキュラーシーブ等が挙げられる。
【0381】
[ガスバリアフィルム9]
ガスバリアフィルム9は、上述したガスバリアフィルム3と同様のフィルムであり、配設位置が異なる他はガスバリアフィルム9と同様のものを同様に必要に応じて用いることができる。また、太陽電池素子6よりも背面側の構成部材は必ずしも可視光を透過させる必要が無いため、可視光を透過させないものを用いることもできる。
【0382】
[バックシート10]
バックシート10は、上述した耐候性保護フィルム1と同様のフィルムであり、配設位置が異なる他は耐候性保護フィルム1と同様のものを同様に用いることができる。また、このバックシート10が水及び酸素を透過させ難いものであれば、バックシート10をガスバリア層として機能させることも可能である。また、太陽電池素子6よりも背面側の構成部材は必ずしも可視光を透過させる必要が無いため、可視光を透過させないものを用いることもできる。このため、バックシート10としては、以下に説明するもの(i)〜(iv)を用いることが特に好ましい。
【0383】
(i)バックシート10としては、強度に優れ、耐候性、耐熱性、耐水性及び/又は耐光性に優れた各種の樹脂のフィルム又はシートを使用することができる。例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリルースチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート若しくはポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂又はその他等の各種の樹脂のシートを使用することができる。これらの樹脂のシートの中でも、フッ素系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂又はポリエステル系樹脂のシートを使用することが好ましい。なお、これらは1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0384】
(ii)バックシート10としては、金属薄膜を用いることもできる。例えば、腐蝕防止したアルミニウム金属箔、ステンレス製薄膜等が挙げられる。なお、1種の金属のみを用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0385】
(iii)バックシート10としては、例えばアルミ箔の両面にフッ素系樹脂フィルムを接着した防水性の高いシートを用いてもよい。フッ素系樹脂としては、例えば、一フッ化エチレン(商品名:テドラー、デュポン社製)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレンとエチレン若しくはプロピレンとのコポリマー(ETFE)、フッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)又はフッ化ビニル系樹脂(PVF)等が挙げられる。なお、1種のフッ素系樹脂を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0386】
(iv)バックシート10としては、例えば、基材フィルムの片面又は両面に、無機酸化物の蒸着膜を設け、更に、上記の無機酸化物の蒸着膜を設けた基材フィルムの両面に、耐熱性のポリプロピレン系樹脂フィルムを積層したものを用いてもよい。なお、通常は、基材フィルムにポリプロピレン系樹脂フィルムを積層する場合には、ラミネート用接着剤で張り合わせることで積層する。無機酸化物の蒸着膜を設けることで、水分及び/又は酸素等の侵入を防止する防湿性に優れたバックシート10として使用できる。
【0387】
・基材フィルム
基材フィルムとしては、基本的には、無機酸化物の蒸着膜等との密接着性に優れ、強度に優れ、耐候性、耐熱性、耐水性、耐光性に優れた各種の樹脂のフィルムを使用することができる。例えば、ポリエチレン系樹脂、ポリプロピレン系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリスチレン系樹脂、アクリロニトリル−スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体(ABS樹脂)、ポリ塩化ビニル系樹脂、フッ素系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリエチレンテレフタレート若しくはポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂、各種のナイロン等のポリアミド系樹脂、ポリイミド系樹脂、ポリアミドイミド系樹脂、ポリアリールフタレート系樹脂、シリコーン系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリフェニレンスルフィド系樹脂、ポリエーテルスルホン系樹脂、ポリウレタン系樹脂、アセタール系樹脂、セルロース系樹脂又はその他等の各種の樹脂のフィルムを使用することができる。中でも、フッ素系樹脂、環状ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリ(メタ)アクリル系樹脂、ポリアミド系樹脂又はポリエステル系樹脂のフィルムを使用することが好ましい。
【0388】
上記のような各種の樹脂のフィルムのなかでも、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ化ビニリデン系樹脂(PVDF)又はフッ化ビニル系樹脂(PVF)等のフッ素系樹脂のフィルムを使用することがより好ましい。更に、このフッ素系樹脂のフィルムの中でも、特に、ポリフッ化ビニル系樹脂(PVF)又はテトラフルオロエチレンとエチレン若しくはプロピレンとのコポリマー(ETFE)からなるフッ素系樹脂のフィルムが、強度等の観点から特に好ましい。なお、1種の樹脂を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0389】
また、上記のような各種の樹脂のフィルムのなかでも、シクロペンタジエン及びその誘導体又はシクロヘキサジエン及びその誘導体等の環状ポリオレフィン系樹脂のフィルムを使用することもより好ましい。
【0390】
基材フィルムの膜厚としては、通常12μm以上、好ましくは20μm以上であり、また、通常300μm以下、好ましくは200μm以下である。
【0391】
・無機酸化物の蒸着膜
無機酸化物の蒸着膜としては、基本的に金属の酸化物を蒸着した薄膜であれば使用可能である。例えば、ケイ素(Si)やアルミニウム(Al)の酸化物の蒸着膜を使用することができる。この際、酸化ケイ素としては例えばSiO(x=1.0以上2.0以下)を用いることができ、酸化アルミニウムとしては例えばAlO(x=0.5以上1.5以下)を用いることができる。なお、使用する金属及び無機酸化物の種類は1種でもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0392】
無機酸化物の蒸着膜の膜厚としては、通常50Å以上、好ましくは100Å以上であり、また、通常4000Å以下、好ましくは1000Å以下である。
【0393】
蒸着膜の作製方法としては、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、光化学気相成長法等の化学気相成長法(Chemical Vapor Deposition法、CVD法)等を用いることができる。具体例を挙げると、基材フィルムの一方の面に、有機ケイ素化合物等の蒸着用モノマーガスを原料とし、キャリヤーガスとして、アルゴンガス、ヘリウムガス等の不活性ガスを使用し、更に、酸素供給ガスとして、酸素ガス等を使用し、低温プラズマ発生装置等を利用する低温プラズマ化学気相成長法を用いて酸化ケイ素等の無機酸化物の蒸着膜を形成することができる。
【0394】
・ポリプロピレン系樹脂フィルム
ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレンの単独重合体又はプロピレンと他のモノマー(例えばα−オレフィン等)との共重合体を使用することができる。また、ポリプロピレン系樹脂としては、アイソタクチック重合体を用いることもできる。
【0395】
ポリプロピレン系樹脂の融点は通常164℃以上であり、一方、通常170℃以下である。ポリプロピレン系樹脂の比重は通常0.90以上であり、一方、通常0.91以下である。ポリプロピレン系樹脂の分子量は通常10万以上であり、一方、通常20万以下である。
【0396】
ポリプロピレン系樹脂は、その結晶性により性質が大きく支配されるが、アイソタクチックの高いポリマーは、引っ張り強さ、衝撃強度に優れ、耐熱性、耐屈曲疲労強度を良好であり、かつ、加工性は極めて良好なものである。
【0397】
・接着剤
基材フィルムにポリプロピレン系樹脂フィルムを積層する場合には、通常はラミネート用接着剤を用いる。これにより、基材フィルムとポリプロピレン系樹脂フィルムとはラミネート用接着剤層を介して積層されることになる。
【0398】
ラミネート用接着剤層を構成する接着剤としては、例えば、ポリ酢酸ビニル系接着剤、ポリアクリル酸エステル系接着剤、シアノアクリレート系接着剤、エチレン共重合体系接着剤、セルロース系接着剤、ポリエステル系接着剤、ポリアミド系接着剤、ポリイミド系接着剤、アミノ樹脂系接着剤、フェノール樹脂系接着剤、エポキシ系接着剤、ポリウレタン系接着剤、反応型(メタ)アクリル系接着剤又はシリコーン系接着剤等が挙げられる。なお、接着剤は1種を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
【0399】
上記の接着剤の組成系は、水性型、溶液型、エマルジョン型又は分散型等のいずれの組成物形態でもよい。また、その性状は、フィルム・シート状、粉末状、固形状等のいずれの形態でもよい。さらに、接着機構については、化学反応型、溶剤揮発型、熱溶融型又は熱圧型等のいずれの形態でもよいものである。
【0400】
上記の接着剤は、例えば、スピンコート法、ロールコート法、グラビアロールコート法、キスコート法又はその他等のコート法あるいは印刷法等によって施すことができる。そのコーティング量としては、乾燥状態で通常0.1g/m以上が望ましく、一方、通常10g/m以下が望ましい。
【0401】
[寸法等]
本実施形態の薄膜太陽電池14は、通常、膜状の薄い部材である。このように膜状の部材として薄膜太陽電池14を形成することにより、薄膜太陽電池14を建材、自動車又はインテリア等に容易に設置できるようになっている。薄膜太陽電池14は、軽く、割れにくく、従って安全性の高い太陽電池が得られ、また曲面にも適用可能であるため更に多くの用途に使用しうる。薄くて軽いため輸送や保管等流通面でも好ましい。更に、膜状であるためロールトゥロール式の製造が可能であり大幅なコストカットが可能である。
【0402】
薄膜太陽電池14の具体的な寸法に制限は無いが、その厚みは、通常300μm以上、好ましくは500μm以上、より好ましくは700μm以上であり、また、通常3000μm以下、好ましくは2000μm以下、より好ましくは1500μm以下である。
【0403】
[製造方法]
本実施形態の薄膜太陽電池14の製造方法に制限は無いが、例えば、耐候性保護フィルム1とバックシート10との間に、1個又は2個以上の太陽電池素子6を直列又は並列接続したものを、紫外線カットフィルム2、ガスバリアフィルム3,9、ゲッター材フィルム4,8及び封止材5,7と共に一般的な真空ラミネート装置でラミネートすることで製造できる。この際、加熱温度は通常130℃以上、好ましくは140℃以上であり、通常180℃以下、好ましくは170℃以下である。また、加熱時間は通常10分以上、好ましくは20分以上であり、通常100分以下、好ましくは90分以下である。圧力は通常0.001MPa以上、好ましくは0.01MPa以上であり、通常0.2MPa以下、好ましくは0.1MPa以下である。圧力をこの範囲とすることで封止を確実に行い、かつ、端部からの封止材5、7がはみ出しや過加圧による膜厚低減を抑え、寸法安定性を確保しうる。
【0404】
[用途]
上述した薄膜太陽電池14の用途に制限はなく任意である。例えば、薄膜太陽電池14を太陽電池モジュールとして用いることができる。太陽電池モジュールとは、図3に模式的に示すように、何らかの基材12上に薄膜太陽電池14を設けた太陽電池モジュール13である。太陽電池モジュール13は、これを使用場所に設置して用いればよい。具体例を挙げると、基材12として建材用板材を使用した場合、この板材の表面に薄膜太陽電池14を設けて太陽電池モジュール13として太陽電池パネルを作製し、この太陽電池パネルを建物の外壁等に設置して使用すればよい。
【0405】
基材12は太陽電池素子6を支持する支持部材である。基材12を形成する材料としては、例えば、ガラス、サファイア若しくはチタニア等の無機材料;ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ナイロン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコール共重合体、フッ素樹脂フィルム、塩化ビニル、ポリエチレン、セルロース、ポリ塩化ビニリデン、アラミド、ポリフェニレンスルフィド、ポリウレタン、ポリカーボネート、ポリアリレート、若しくはポリノルボルネン等の有機材料;紙若しくは合成紙等の紙材料;又は、ステンレス、チタン若しくはアルミニウム等の金属に絶縁性を付与するために表面をコート若しくはラミネートしたもの等の複合材料等が挙げられる。なお、基材の材料として、1種の材料を用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。また、これら有機材料あるいは紙材料に炭素繊維を含ませ、機械的強度を補強させてもよい。
【0406】
本発明の薄膜太陽電池を適用する分野の例を挙げると、建材用太陽電池、自動車用太陽電池、インテリア用太陽電池、鉄道用太陽電池、船舶用太陽電池、飛行機用太陽電池、宇宙機用太陽電池、家電用太陽電池、携帯電話用太陽電池又は玩具用太陽電池等が挙げられる。具体例として以下のようなものを挙げることができる。
【0407】
1.建築用途
1.1 ハウス屋根材として太陽電池
基材として屋根用板材等を使用した場合、この板材の表面に薄膜太陽電池を設けて太陽電池ユニットとして太陽電池パネルを作製し、この太陽電池パネルをハウスの屋根の上に設置して使用すればよい。また、基材として瓦を直接用いることもできる。本発明の太陽電池が柔軟性を有するという特性を生かし、瓦の曲線に密着させることができるので好適である。
【0408】
1.2 屋上
本発明の薄膜太陽電池をビルの屋上に取り付けることもできる。基材上に薄膜太陽電池を設けた太陽電池ユニットを用意し、これをビルの屋上に設置することもできる。この時基材とともに防水シートを併用し、防水作用を有するのが望ましい。さらに、本発明の薄膜太陽電池が柔軟性を有するという特性を生かし、平面ではない屋根、例えば折半屋根に密着させることもできる。この場合も防水シートを併用するのが望ましい。
【0409】
1.3 トップライト
エントランスや吹き抜け部分に外装として本発明の薄膜太陽電池を用いることもできる。何らかのデザイン処理を施されたエントランス等は曲線が用いられている場合が多く、そのような場合において本発明の薄膜太陽電池の柔軟性が生かされる。またエントランス等ではシースルーである場合があり、このような場合には、有機太陽電池の緑色系の色合いにより、環境対策が重要視される時代において意匠的な美観も得られるので好適である。
【0410】
1.4 壁
基材として建材用板材を使用した場合、この板材の表面に薄膜太陽電池を設けて太陽電池ユニットとして太陽電池パネルを作製し、この太陽電池パネルを建物の外壁等に設置して使用すればよい。また、カーテンウォールに設置することもできる。その他、スパンドレルや方立等への取り付けも可能である。この場合、基材の形状に制限はないが、通常は板材を使用する。また、基材の材料、寸法等は、その使用環境に応じて任意に設定すればよい。このような基材の例を挙げると、アルポリック(登録商標:三菱樹脂製)等が挙げられる。
【0411】
1.5 窓
また、本発明の薄膜太陽電池をシースルーの窓に使用することもできる。有機太陽電池の緑色系の色合いにより、環境対策が重要視される時代において意匠的な美観も得られるので好適である。
【0412】
1.6 その他
その他建築の外装としてひさし、ルーバー、手摺等にも使用できる。このような場合においても、本発明の薄膜太陽電池の柔軟性が、これら用途にとって好適である。
【0413】
2.内装
本発明の薄膜太陽電池はブラインドのスラットに取り付けることもできる。本発明の薄膜太陽電池は軽量であり、柔軟性に富むことから、このような用途が可能となる。また、内装用窓についても有機太陽電池素子がシースルーである特性を生かし使用することができる。
【0414】
3.野菜工場
蛍光灯等の照明光を活用する植物工場の設置件数は増えているが、照明に掛かる電気代や光源の交換費用等のために栽培コストを引き下げにくいというのが現状である。そこで本発明の薄膜太陽電池を野菜工場に設置し、LED又は蛍光灯と組み合わせた照明システムを作製することができる。このとき蛍光灯よりも寿命が長いLEDと本発明の太陽電池を組み合わせた照明システムを用いることで、照明に要するコストを現状に比べて30%程度減らせることができるので好適である。また、野菜等を一定温度で輸送するリーファー・コンテナ(reefer container)の屋根や側壁に本発明の太陽電池を用いることもできる。
【0415】
4.道路資材・土木
本発明の薄膜太陽電池は、駐車場の外壁や高速道路の遮音壁や浄水場の外壁等にも用いることができる。
【0416】
5.自動車
本発明の薄膜太陽電池は、自動車のボンネット、ルーフ、トランクリッド、ドア、フロントフェンダー、リアフェンダー、ピラー、バンパー又はバックミラー等の表面に用いることができる。なおルーフとしてはトラック車輌の荷台のルーフも含まれる。得られた電力は走行用モータ、モータ駆動用バッテリー、電装品及び電装品用バッテリーのいずれに供給することもできる。太陽電池パネルにおける発電状況と、走行用モータ、モータ駆動用バッテリー、電装品及び電装品用バッテリーにおける電力使用状況とに合わせて電力供給先を選択する制御手段を備えることで、得られた電力を適正にかつ効率的に使用することができる。この場合、基材12の形状に制限はないが、通常は板材を使用する。また、基材12の材料、寸法等は、その使用環境に応じて任意に設定すればよい。このような基材12の例を挙げると、アルポリック(登録商標:三菱樹脂製)等が挙げられる。
【実施例】
【0417】
以下に実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の例に限定されるものではない。
【0418】
<ガラス転移温度(Tg)の測定>
各種フェナントロリン誘導体について、DSC法によりガラス転移温度を測定した。具体的には、約4mgの試料をアルミニウム製試料容器に入れ、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製の示差熱走査熱量分析装置を用いて、Nガス50ml/min、昇温速度10℃/minの条件で、ガラス転移温度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0419】
【表1】

*1:ルミテック社製 *2:東京化成工業社製 *3:同仁化学研究所製 *4:ルミテック社製
【化5−1】

<実施例1:BUPH1を用いた光電変換素子>
ITO電極がパターニングされたガラス基板上に、正孔取り出し層として、ポリ(3,4)−エチレンジオキシチオフェン/ポリスチレンスルフォネート水分散液(エイチ・シー・スタルク社製 商品名「CLEVIOSTM PVP AI4083」)をスピンコートにより塗布した後、この基板を120℃のホットプレート上で大気中10分間加熱処理した。正孔取り出し層の膜厚は約30nmであった。
【0420】
クロロホルム/モノクロロベンゼンの1:2混合溶媒(重量比)に、下記化合物CPを0.5重量%溶解した液を調製し、窒素雰囲気下で濾過した。化合物CPは、特開2003−304014号公報の記載に従って合成した。得られた濾液を、正孔取り出し層上に、窒素雰囲気下で、1500rpmでスピンコートし、180℃で20分間加熱した。加熱によって化合物CPはp型半導体化合物である化合物BPに変換された。こうして正孔取り出し層上に、p型半導体層として、テトラベンゾポルフィリン(化合物BP)の層を形成した。p型半導体層の膜厚は約30nmであった。
【化5−2】

【0421】
クロロホルム/モノクロロベンゼンの1:1混合溶媒(重量比)に、化合物CPを0.6重量%とフラーレン誘導体SIMEF2を1.4重量%溶解した液を調製し、窒素雰囲気下で濾過した。フラーレン誘導体SIMEF2は、特開2011−98906号公報の記載に従って合成した。得られた濾液を、p型半導体層上に、窒素雰囲気下で、1500rpmでスピンコートし、180℃で20分間加熱した。加熱によって化合物CPはp型半導体化合物である化合物BPに変換された。こうしてp型半導体層上にテトラベンゾポルフィリン(化合物BP)とフラーレン誘導体SIMEF2とを含む混合物層(i層)を形成した。
【化5−3】

【0422】
トルエンにフラーレン誘導体SIMEF2を1.2重量%溶解した液を調製し、窒素雰囲気下で濾過した。得られた濾液を、i層上に、窒素雰囲気下、3000rpmでスピンコートし、65℃で5分間加熱した。こうしてi層上に、n型半導体層として、フラーレン誘導体SIMEF2の層を形成した。
【0423】
真空蒸着装置内に配置されたメタルボートに上記フェナントロリン誘導体BUPH1(ルミテック社製)を入れ、加熱して、n型半導体層上に蒸着させた。こうしてn型半導体層上に、電子取り出し層として、フェナントロリン誘導体BUPH1の層を形成した。電子取り出し層の膜厚は5nmであった。
【0424】
さらに、電子取り出し層の上に真空蒸着により厚さ80nmのアルミニウム電極を設けた。その後、120℃で2分間加熱することによって、5mm角の光電変換素子を作製した。
【0425】
作製した光電変換素子について、下記の方法で光電変換効率(%)を測定した(初期値とする)。さらに、作製した光電変換素子をホットプレート上で120℃1分間加熱(アニーリング)してから、下記の方法で光電変換効率(%)を算出した(120℃1分後の値とする)。その後さらに、この光電変換素子をホットプレート上で120℃2分間加熱(アニーリング)してから、下記の方法で光電変換効率(%)を算出した(120℃3分後の値とする)。その後さらに、この光電変換素子を窒素雰囲気下、室温で8週間放置した後に、下記の方法で光電変換効率(%)を算出した(8週間後の値とする)。
【0426】
光電変換効率の測定は以下のように行った。すなわち、光電変換素子に4mm角のメタルマスクを付け、照射光源としてエアマス(AM)1.5G、放射照度100mW/cmのソーラシミュレータを用い、ソースメーター(ケイスレー社製,2400型)により、ITO電極とアルミニウム電極との間における電流電圧特性を測定した。
【0427】
電流電圧特性の測定により、光電変換素子の開放電圧Voc[V]、短絡電流密度Jsc[mA/cm]、形状因子FF、及び光電変換効率PCE[%]を求めた。ここで、開放電圧Vocとは電流値=0(mA/cm)の際の電圧値(V)であり、短絡電流密度Jscとは電圧値=0(V)の際の電流密度(mA/cm)である。形状因子(FF)とは内部抵抗を表すファクターであり、最大出力点をPmaxとすると次式で表される。
FF = Pmax/(Voc×Jsc)
また、光電変換効率PCEは、入射エネルギーをPinとすると次式で与えられる。
PCE = Pmax/Pin=Voc×Jsc×FF/Pin
【0428】
また、各条件における、初期値に対する光電変換効率の比を維持率(%)とした。
(維持率) = (各条件における光電変換効率)/(初期値)
【0429】
各条件における光電変換効率及び維持率を表2に示す。
【0430】
<比較例1:Bphenを用いた光電変換素子>
電子取り出し層の材料として、フェナントロリン誘導体BUPH1の代わりに上記化合物Bphen(東京化成工業社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、5mm角の光電変換素子を作製し、実施例1と同様に光電変換効率を測定した。各条件における光電変換効率及び維持率を表2に示す。
【0431】
<比較例2:BCPを用いた光電変換素子>
電子取り出し層の材料として、フェナントロリン誘導体BUPH1の代わりに上記化合物BCP(同仁化学研究所製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、5mm角の光電変換素子を作製し、実施例1と同様に光電変換効率を測定した。各条件における光電変換効率及び維持率を表2に示す。
【0432】
<比較例3:NBphenを用いた光電変換素子>
電子取り出し層の材料として、フェナントロリン誘導体BUPH1の代わりに上記化合物NBPhen(ルミテック社製)を用いたこと以外は実施例1と同様にして、5mm角の光電変換素子を作製し、実施例1と同様に光電変換効率を測定した。各条件における光電変換効率及び維持率を表2に示す。
【表2】

【0433】
以上のように、本発明に係るフェナントロリン誘導体を電子取り出し層の材料として用いた場合、BPhen、BCP、及びNBPhenのような従来用いられているフェナントロリン誘導体を用いる場合と比べて、耐久性が高くなった。具体的には、従来のフェナントロリン誘導体を用いた場合にはアニーリング処理によって光電変換効率が低下したのに比べ、本発明に係るフェナントロリン誘導体を用いた場合にはアニーリング処理によって光電変換効率が向上した。このことは、本発明に係るフェナントロリン誘導体を用いる光電変換素子の耐熱性がより優れていることを示す。また、室温で放置した後にも、本発明に係るフェナントロリン誘導体を用いた光電変換素子は、従来のフェナントロリン誘導体を用いた光電変換素子と比べて光電変換効率が高かった。特に、室温で放置することによる、アニーリング処理前の光電変換効率と比べた光電変換効率の低下、及びアニーリング処理後の光電変換効率と比べた光電変換効率の低下の双方が、本発明に係るフェナントロリン誘導体を用いた光電変換素子はより少なかった。このことは、本発明に係るフェナントロリン誘導体を用いる光電変換素子の耐久性がより優れていることを示す。
【符号の説明】
【0434】
1 耐候性保護フィルム
2 紫外線カットフィルム
3,9 ガスバリアフィルム
4,8 ゲッター材フィルム
5,7 封止材
6 太陽電池素子
10 バックシート
12 基材
13 太陽電池モジュール
14 薄膜太陽電池
101 アノード
102 正孔取り出し層
103 活性層
104 電子取り出し層
105 カソード
106 基板
107 光電変換素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の電極と、該電極間に配置された活性層と、少なくとも一方の前記電極と前記活性層との間に配置された電子取り出し層と、を備える光電変換素子であって、前記電子取り出し層が下記一般式(1)で表される化合物を含有することを特徴とする、光電変換素子。
【化1】

(式(1)中、R〜Rの少なくとも1つは一般式(2)で表される置換基である。式(2)で表される置換基が複数ある場合には、それぞれ同一でも異なっていてもよい。該置換基以外のR〜Rはそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、イソシアノ基、ホルミル基、メルカプト基、ニトロ基、シリル基、ボリル基、又は、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基である。)
【化2】

(式(2)中、R〜R16はそれぞれ独立して水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、シアノ基、カルボキシル基、スルホ基、イソシアノ基、ホルミル基、メルカプト基、ニトロ基、シリル基、ボリル基、又は、ヘテロ原子を有していてもよい炭化水素基である。)
【請求項2】
前記一般式(1)で表される化合物のガラス転移温度が120℃以上であることを特徴とする、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記活性層がフラーレン又はフラーレン誘導体を含有することを特徴とする、請求項1又は2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項に記載の光電変換素子を含むことを特徴とする太陽電池。
【請求項5】
請求項4に記載の太陽電池を含むことを特徴とする太陽電池モジュール。

【図2】
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【図3】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−110224(P2013−110224A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−253108(P2011−253108)
【出願日】平成23年11月18日(2011.11.18)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】