説明

光電変換素子およびこれを含む太陽電池

【課題】光電変換効率に優れ、かつ、高い耐久性を有する光電変換素子を提供することを目的とする。
【解決手段】基体、第一電極、半導体および増感色素を含有する光電変換層、正孔輸送層、並びに第二電極を含み、前記増感色素が、下記化学式(1)で表される、光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子およびこれを含む太陽電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、無限で有害物質を発生しない太陽光の利用が精力的に検討されている。このクリーンエネルギー源である太陽光の利用法としては、光起電力効果を利用した太陽電池への適用が挙げられる。光起電力効果とは、物質に光を照射することで起電力を発生させる現象であり、当該物質を含む光電変換素子を用いることにより、光エネルギーを電気エネルギーへと変換することができる。太陽電池として実用化されているものは、主に単結晶シリコン、多結晶シリコン、アモルファスシリコン、テルル化カドミウム、およびセレン化インジウム銅等の無機材料を含む光電変換素子を用いた無機系太陽電池である。しかしながら、無機系太陽電池は、用いる無機材料が高い純度を必要とするために製造工程が複雑となり、製造コストが高い等の欠点がある。
【0003】
上記無機系太陽電池の欠点を解決する方法として、光電変換素子に有機材料を利用する有機系太陽電池が提案されている。当該有機材料としては、例えば、p型有機半導体および仕事関数の小さい金属を接合させたショットキー型光電変換素子、p型有機半導体およびn型無機半導体、またはp型有機半導体および電子受容性有機化合物を接合させたヘテロ接合型光電変換素子等が挙げられる。当該光電変換素子に含まれる前記有機半導体には、クロロフィルおよびペリレン等の合成色素もしくは顔料、ポリアセチレン等の導電性高分子材料、またはこれらの複合材料等が用いられている。そして、これらの材料は、真空蒸着法、キャスト法、またはディッピング法等によって薄膜化され、太陽電池に適用される。有機系太陽電池は低コスト化および大面積化が可能となるものの、光電変換効率は1%以下と低く、また、耐久性が問題となっていた。
【0004】
このような背景のもと、スイスのグレッツェル博士らによって良好な特性を示す太陽電池が報告された(例えば、非特許文献1を参照)。当該太陽電池は色素増感型太陽電池、より詳細には、ルテニウム錯体で分光増感された酸化チタン多孔質薄膜を作用電極とする湿式太陽電池である。この太陽電池の利点としては、酸化チタン等の安価な金属化合物を半導体の原料とすることができるため、上述の無機材料のように高純度化する必要がないこと、ルテニウム錯体による色素増感効果により、利用可能な光の波長は可視光領域にまでわたっていることが挙げられる。これによって、色素増感型太陽電池は、無機材料と比較すると製造コストが安価であり、可視光成分の多い太陽光エネルギーを有効に電気エネルギーに変換することが可能となる。
【0005】
ところが、ルテニウムは地球上での存在量が極めて少なく、産出量は年間数トンである。したがって、ルテニウムを用いた色素増感型太陽電池の実用化には、ルテニウムが高価であること、供給量が不足する可能性があること等の問題があった。また、ルテニウム錯体は経時の安定性が低いため、太陽電池への適用には、耐久性の観点からも問題を有していた。そこで、ルテニウム錯体に代わる安価で大量供給可能な、耐久性を有する増感色素が求められていた。
【0006】
このような背景から、ルテニウム錯体に代わる増感色素として、例えば、特許文献1には、フタロシアニン化合物を用いた湿式太陽電池が開示されている。特許文献1に記載のフタロシアニン化合物は、二酸化チタン表面(半導体)と強固な吸着結合状態を形成することができるため、太陽電池の耐久性を向上させることができる。しかしながら、特許文献1に記載のフタロシアニン化合物の吸収波長領域は狭く、幅広いスペクトルを有する太陽光を十分に吸収できない問題を有していた。
【0007】
そこで、近年、複数の異なる増感色素を半導体に吸着させる方法が提案されている(例えば、特許文献2、3および非特許文献2、3を参照)。当該方法によれば、複数の増感色素を適用することにより吸収波長領域は長波長化しうるものの、増感色素と半導体との吸着力が弱く、耐久性に問題を生じることが報告されている。
【0008】
また、非特許文献4および5には、π電子共役系および電子吸引性を有する酸性吸着基を併せ持つ増感色素を含む光電変換素子が、5〜9%と高い光電変換効率を示すことが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−199744号公報
【特許文献2】特開2003−249279号公報
【特許文献3】特開2006−185911号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Nature,353,737(1991),B.O’Regan,M.Gratzel
【非特許文献2】J.Phys.Chem.B.,105,9960(2001),A.Ehret,M.T.Spitler
【非特許文献3】New.J.Chem.,29,773(2005),Y.Chen,B.Zhang
【非特許文献4】J.Phys.Chem.B,107,597(2003),K.Hara,H.Arakawa
【非特許文献5】J.Am.Chem.Soc.,126,12218(2004),T.Horiuchi,S.Uchida
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように、これまでに報告されてきた光電変換素子は、耐久性を有するものの、増感色素の光吸収波長領域の狭い、あるいは、広域波長の光を吸収できる増感色素を含むが、耐久性が不十分であるといった問題点を有していた。太陽電池への適用を考慮すると、幅広いスペクトルを有する太陽光を効率的に利用することができ、長期間使用可能な光電変換素子が求められていた。
【0012】
そこで、本発明は、光電変換効率に優れ、かつ、高い耐久性を有する光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、特定構造の増感色素を光電変換素子に適用することにより、光電変換素子の光電変換効率および耐久性が有意に向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、基体、第一電極、半導体および増感色素を含有する光電変換層、正孔輸送層、並びに第二電極を含み、前記増感色素が、下記化学式(1):
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、Ar、Ar、およびArは、それぞれ独立して、2価の芳香環含有基または2価の不飽和炭化水素基であり、かつ、窒素原子に結合しているAr、Ar、およびArは、2価の芳香環含有基であり、この際、Ar、Ar、およびArは、互いに環を形成しても良く、
nは、1〜9の整数であり、nが2以上の場合には、それぞれのArは互いに異なっていてもよく、mは1〜9の整数であり、mが2以上の場合には、それぞれのArは互いに異なっていてもよく、lは1〜5の整数であり、lが2以上の場合には、それぞれのArは互いに異なっていてもよく、この際、m+n≧3であり、m=nの場合には、−(Ar−および−(Ar−は互いに異なり、
Xは、酸性基を含む1価の置換基であり、
Yは、水素原子または1価の置換基である。)
で表される、光電変換素子により達成される。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、光電変換効率に優れ、かつ、高い耐久性を有する光電変換素子および太陽電池が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の一実施形態に係る光電変換素子を模式的に表す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、基体、第一電極、半導体および増感色素を含有する光電変換層、正孔輸送層、ならびに第二電極を含み、前記増感色素が、上記化学式(1)で表される光電変換素子である。
【0020】
本発明に係る光電変換素子は、上記化学式(1)で表される増感色素において、−(Ar−および−(Ar−が互いに異なる点に特徴を有する。これにより、吸収波長領域が長波長化し、幅広いスペクトルを有する光を効率よく利用することが可能となるため、当該増感色素を有する光電変換素子は高い光電変換効率を達成することができる。また、上記化学式(1)で表される増感色素は、2つの同じ酸性基を含む1価の置換基Xを有する点にも特徴を有する。これにより、増感色素を半導体により安定的に吸着させることができるため、光電変換素子の耐久性を向上させることができる。
【0021】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0022】
[光電変換素子]
本発明の光電変換素子について、図1を参照しながら説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る光電変換素子を模式的に表す断面図である。図1に示すように、光電変換素子10は、基体1、第一電極2、バリア層3、光電変換層6、正孔輸送層7、および第二電極8が順次積層されてなる構成を有する。ここで、光電変換層6は、半導体5および増感色素4を含有する。図1に示されるように、第一電極2と光電変換層6との間には、短絡防止、封止などの目的で、バリア層3を有していてもよい。なお、図1中では、太陽光は、図下方の矢印9の方向から入っているが、本発明は当該形態に限定されず、図上方から太陽光が入射してもよい。
【0023】
次に、本発明に係る光電変換素子の製造方法の好ましい実施形態について説明する。まず、第一電極2を形成した基体1上に、バリア層3を形成した後、バリア層3上に半導体5からなる半導体層を形成し、その半導体表面に増感色素4を吸着させて光電変換層6を形成する。その後、光電変換層6の上に正孔輸送層7を形成する。この際、正孔輸送層7は、増感色素4を担持した半導体5からなる光電変換層6に侵入し、かつ、その上に存在している。そして、正孔輸送層7の上に第二電極8を形成する。第一電極2および第二電極8に端子を付けることにより電流を取り出すことができる。
【0024】
以下、本発明の光電変換素子の各部材について説明する。
【0025】
[基体]
基体は、電極を塗布方式で形成する場合における、塗布液の被塗布部材としての役割を有する。基体側から光が入射する場合、基体はこの光を透過させることが可能な、すなわち、光電変換すべき光の波長に対して透明な部材であることが好ましい。具体的には、光電変換効率の観点から、光透過率が10%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、80%〜100%であることが特に好ましい。なお、本明細書において、「光透過率」とは、JIS K 7361−1:1997(ISO 13468−1:1996に対応)の「プラスチック−透明材料の全光線透過率の試験方法」に準拠した方法で測定した可視光波長領域における全光線透過率を意味するものとする。
【0026】
基体としては、その材料、形状、構造、厚み、硬度等については公知のものの中から適宜選択することができるが、上記のように高い光透過性を有していることが好ましい。
【0027】
基体の材料としては、剛性を有する基体、および可撓性を有する基体を用いることができる。剛性を有する基体と可撓性を有する基体を組み合わせて用いてもよい。剛性を有する基体としては、特に制限されず、公知のものを用いることができる。具体的には、ガラス板およびアクリル板が挙げられる。これらのうち、耐熱性の観点からガラス板を用いることが好ましい。可撓性を有する基体としては、特に制限されず、公知のものを用いることができる。具体的には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート、変性ポリエステル等のポリエステル系樹脂フィルム;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン、環状オレフィン等のポリオレフィン類樹脂フィルム;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン等のビニル系樹脂フィルム;ポリビニルブチラール(PVB)等のポリビニルアセタール樹脂フィルム;ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂フィルム;ポリスルホン(PSF)樹脂フィルム;ポリエーテルスルホン(PES)樹脂フィルム;ポリカーボネート(PC)樹脂フィルム;ポリアミド樹脂フィルム;ポリイミド樹脂フィルム;アクリル樹脂フィルム;トリアセチルセルロース(TAC)樹脂フィルムが挙げられる。
【0028】
さらに、太陽光エネルギーを利用することを考慮し、可視領域の波長(400〜700nm)における透過率が80%以上である樹脂フィルムを基体として用いてもよい。当該樹脂フィルムとしては、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルム、ポリエーテルスルホンフィルム、およびポリカーボネートフィルム等が挙げられ、これらのうち、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム、二軸延伸ポリエチレンナフタレートフィルムを用いることが好ましい。
【0029】
基体の厚さは、特に制限されないが、1〜1500μmが好ましく、10〜100μmであることがより好ましい。
【0030】
上記基体には、塗布液の濡れ性や接着性を確保するために、表面処理や易接着層を設けてもよい。表面処理や易接着層については従来公知の技術を使用できる。例えば、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、高周波処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理等の表面活性化処理により表面処理を行うことができる。また、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ビニル系共重合体、ブタジエン系共重合体、アクリル系共重合体、ビニリデン系共重合体、およびエポキシ系共重合体等を易接着層として使用することができる。
【0031】
[第一電極]
第一電極は、基体と光電変換層との間に配置される。ここで、第一電極は、基体の光入射方向に対して反対側となる一方の面上に設けられる。第一電極は、光電変換効率の観点から、光透過率が10%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、80%〜100%であることが特に好ましい。
【0032】
第一電極を構成する材料としては、特に制限されず、公知の材料が使用できる。例えば、金属およびその酸化物、並びにSn、Sb、FおよびAlからなる群から選択される少なくとも1種を含む複合(ドープ)材料を用いることができる。前記金属としては、白金、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、およびインジウム等が挙げられ、金属酸化物としては、SnO、CdO、ZnO、CTO系(CdSnO、CdSnO、CdSnO)、In、およびCdIn等が挙げられ、並びに複合(ドープ)材料としては、SnをドープしたIn(ITO)、SbをドープしたSnO、FをドープしたSnO(FTO)等が挙げられる。
【0033】
第一電極を形成する材料の基体への塗布量は、特に制限されないが、基体1m当たり、1〜100g程度であることが好ましい。なお、本明細書では、基体とその上に形成された第一電極との積層体を「導電性支持体」とも称する。
【0034】
導電性支持体の膜厚としては、特に制限されないが、0.1mm〜5mmであることが好ましい。導電性支持体の表面抵抗値としては、可能な限り低い値であることが好ましい。具体的には、表面抵抗値が500Ω/□(square)以下であることが好ましく、10Ω/□以下であることがより好ましい。
【0035】
[バリア層]
バリア層は、受光により発生し、正孔輸送層に注入されたホールと、第一電極の電子との再結合である短絡を防止する観点などから、設けられる任意の構成要素である。バリア層は、第一電極と後述する光電変換層との間に、膜状(層状)に配置されうる。
【0036】
バリア層の構成材料としては、特に限定されず、公知の材料を用いることができる。なかでも光電変換層の半導体材料と同等の電気伝導性を有するものであることが好ましい。具体的には、亜鉛、ニオブ、スズ、チタン、バナジウム、インジウム、タングステン、タンタル、ジルコニウム、モリブデン、マンガン、鉄、銅、ニッケル、イリジウム、ロジウム、クロム、ルテニウム等の金属またはこれらの酸化物;チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸マグネシウム、ニオブ酸ストロンチウム等のペロブスカイトまたはこれらの複合酸化物もしくは酸化物混合物;CdS、CdSe、TiC、Si、SiC、BN等の金属化合物が挙げられる。これらの材料は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0037】
正孔輸送層が酸化還元電解質(液体電解質)である場合には、バリア層を設けても設けていなくてもよいが、バリア層を設けることが好ましい。一方、正孔輸送層がp型半導体(固体電解質)である場合には、バリア層を設けることが好ましい。成功輸送層にp型半導体を使用し、バリア層に金属を使用する場合には、当該バリア層には、正孔輸送層よりも仕事関数の値が小さく、ショットキー型の接触をするものを用いることが好ましい。また、バリア層に金属酸化物を用いる場合には、当該バリア層には、透明導電層とオーミックに接触し、かつ、伝導帯のエネルギー準位が半導体層よりも低いところにあるものを使用することが好ましい。用いる酸化物を選択することにより、多孔質半導体層(光電変換層)からバリア層への電子移動効率を向上させることも可能である。
【0038】
バリア層は、後述する光電変換層中の半導体層とともに、多孔質であることが好ましい。この場合、バリア層の空孔率をC[%]とし、半導体層の空孔率をD[%]としたとき、D/C値が、1.1以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、10以上であることがさらに好ましい。当該D/C値を上記の値とするために、バリア層の空孔率Cは、20%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、2%以下であることがさらに好ましい。すなわち、バリア層は、緻密層(緻密な多孔質状)であることが好ましい。これにより、バリア層が短絡防止効果を有効に発揮することができる。
【0039】
バリア層の平均厚さ(膜厚)としては、短絡防止効果を発揮することができる膜厚であれば特に制限はない。具体的には、0.01〜10μmであることが好ましく、0.03〜0.5μmであることがより好ましい。
【0040】
[光電変換層]
光電変換層は、光起電力効果を利用して光エネルギーを電気エネルギーに変換する機能を有する。本発明において、光電変換層は半導体および増感色素を必須に含む。より詳しくは、当該光電変換層は、半導体を含有する半導体層に増感色素が担持された構成を有する。
【0041】
(半導体)
半導体層に用いられる半導体の材料としては、シリコン、ゲルマニウムのような単体、周期表(元素周期表ともいう)の第3族〜第5族、第13族〜第15族系の元素を有する化合物、金属のカルコゲニド(例えば、酸化物、硫化物、セレン化物等)、金属窒化物等が使用されうる。金属のカルコゲニドの具体例としては、チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、またはタンタルの酸化物;カドミウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモンまたはビスマスの硫化物;カドミウムまたは鉛のセレン化物;カドミウムのテルル化物等が挙げられる。また、その他の半導体の材料としては、亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化物;ガリウム−ヒ素または銅−インジウムのセレン化物;銅−インジウムの硫化物;チタンの窒化物等が挙げられる。より詳細には、TiO、SnO、Fe、WO、ZnO、Nb、CdS、ZnS、PbS、Bi、CdSe、CdTe、GaP、InP、GaAs、CuInS、CuInSe、Ti等が挙げられる。これらのうち、TiO、ZnO、SnO、Fe、WO、Nb、CdS、またはPbSを用いることが好ましく、TiOまたはNbを用いることがより好ましく、TiO(酸化チタン)を用いることが特に好ましい。これらの材料は単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上を組み合わせた形態としては、例えば、酸化チタン半導体に20質量%の窒化チタン(Ti)を混合する形態、J.Chem.Soc.Chem.Commun.,15(1999)に記載の酸化亜鉛/酸化スズの複合の形態等が挙げられる。なお、金属酸化物または金属硫化物に、その他の半導体材料を組み合わせて使用する場合には、当該その他の半導体材料は、金属酸化物または金属硫化物半導体に対する質量比が30%以下であることが好ましい。
【0042】
半導体の形状としては、特に制限されず、球状、柱状、管状等の任意の形状を有しうる。半導体の大きさもまた、特に制限されず、例えば、半導体が球状である場合には、半導体の平均粒径が1〜5000nmであることが好ましく、2〜500nmであることがより好ましい。なお、上記半導体の「平均粒径」とは、100個以上のサンプルを電子顕微鏡で観察したときの1次粒子直径の平均粒径(1次平均粒径)を意味する。
【0043】
上記半導体は、有機塩基を用いて表面処理してもよい。表面処理に用いられる有機塩基としては、特に制限はなく、ジアリールアミン、トリアリールアミン、ピリジン、4−tert−ブチルピリジン、ポリビニルピリジン、キノリン、ピペリジン、アミジン等が挙げられる。これらのうち、ピリジン、4−tert−ブチルピリジン、ポリビニルピリジンを用いて表面処理することが好ましい。表面処理方法は、特に制限されず、公知の方法を用いることができ、当該方法は、当業者が必要に応じて適宜変更することができる。例えば、半導体を表面処理方法の一例として、有機塩基を含む溶液(有機塩基溶液)を準備し、半導体を有機塩基溶液に浸漬する方法が例示される。
【0044】
(増感色素)
増感色素は、光照射時、光励起され起電力を生じる機能を有する。当該増感色素は、後述の半導体の増感処理により半導体に担持される。本発明に用いられる増感色素は下記化学式(1)で表される。
【0045】
【化2】

【0046】
本発明に係る増感色素は、上記化学式(1)において、−(Ar−および−(Ar−が互いに異なる点に特徴を有する。これにより増感色素の吸収波長が長波長化するため、当該増感色素を含む光電変換素子は太陽光に対する光電変換効率が向上しうる。また、本発明に係る増感色素は、上記化学式(1)において、2つの酸性基を含む1価の置換基Xが同一である点にも特徴を有する。これにより、当該増感色素と上述の半導体との吸着安定性が高まるため、光電変換素子の耐久性が向上しうる。
【0047】
上記化学式(1)において、Ar、Ar、およびArは、それぞれ独立して、2価の芳香環含有基または2価の不飽和炭化水素基であり、かつ、窒素原子に結合しているAr、Ar、およびArは、2価の芳香環含有基であり、この際、Ar、Ar、およびArは、互いに環を形成していてもよい。前記Ar、Ar、およびArは上記のように吸収波長の広域化に寄与しうる。一般的に、分子内で共役する多重結合の数が増加すると、電子の移動する距離が長くなり、吸収帯が長波長側に現れるようになる。このことは、例えば、ベンゼンの極大吸収波長が261nmであり、ナフタレンの極大吸収波長が312nmであり、アントラセンの極大吸収波長が375nmであることからも理解することができる。増感色素が分子内に異なる吸収領域を有することにより、増感色素が太陽光の可視光を含む幅広い吸収ピークを示すこととなり、当該増感色素を含む光電変換素子の太陽光に対する光電変換効率は向上しうる。以上より、Ar、Ar、およびArは、増感色素の吸収領域の長波長化に寄与するものであり、共役したπ結合を有するものであれば特に制限されない。したがって、本明細書においてAr、Ar、およびArは、π共役系を拡大することにより増感色素の吸収波長領域を長波長化するものであればよい。本明細書において「芳香環含有基」としては、特に制限されないが、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、ピロール、フラン、チオフェン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、ピリダジン、トリアジン、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、イソキサゾール、チアゾール、ベンゾフラン、イソベンゾフラン、ベンゾチオフェン、ベンゾ(c)チオフェン、ベンゾイミダゾール、ベンゾオキサゾール、ベンゾイソキサゾール、ベンゾチアゾール、インドール、フルオレン、フタラジン、シナノリン、キナゾリン、カルバゾール、カルボリン、ジアザカルボリン(カルボリンの任意の炭素原子の一つが窒素原子で置き換わったもの)、1,10−フェナントロリン、キノン、クマリン、ローダニン、ジローダニン、チオヒダントイン、ピラゾロン、ピラゾリン、および下記化学式4−1または4−2で表される化合物から導かれる基が挙げられる。
【0048】
【化3】

【0049】
また、本明細書において「不飽和炭化水素基」とは、2重結合を少なくとも1個有する炭化水素基である。具体例としては、特に制限されないが、エチレン、ブタジエン、ヘキサトリエン、およびオクタテトラエンから導かれる基が挙げられる。
【0050】
ここで「芳香環含有基」の繰り返しの数は、1つの環または1つの縮合環を1単位として数える。例えば、ベンゼン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、チオフェン、フラン、ピロール等の1つの環;およびナフタレン、ベンゾチオフェン等の縮合環は、Arが1つとして数える。これらが連結したビフェニル、ビチオフェン等は、Arが2つとして数える。
【0051】
また、「不飽和炭化水素基」の繰り返しの数は、二重結合の数にかかわらず、二重結合で共役される1群を1単位として数える。例えば、「不飽和炭化水素基」が「芳香環含有基」に挟まれる場合には、当該「不飽和炭化水素基」は二重結合の数にかかわらず、芳香環含有基に挟まれる部分についてArが1つと数える。
【0052】
Arの繰り返しの数の具体例を以下に示す。
【0053】
【化4】

【0054】
上記芳香環含有基および不飽和炭化水素基の水素原子は、置換基によって置換されていてもよい。当該置換基は、特に限定されず、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、オクチル基、ドデシル基、トリデシル基、テトラデシル基、ペンタデシル基、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基等のC1〜C30のアルキル基;シクロペンチル基、シクロヘキシル基等のC3〜C30のシクロアルキル基;ビニル基、アリル基等のC2〜C30のアルケニル基;エチニル基、プロパルギル基等のC2〜C30のアルキニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、クロロフェニル基等のC6〜C30アリール基;ピロリジル基、イミダゾリジル基、モルホリル基、オキサゾリジル基等のC1〜C30の飽和複素環基;メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基、オクチルオキシ基、ドデシルオキシ基等のC1〜C30のアルコキシ基:シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等のC3〜C30のシクロアルコキシ基;フェノキシ基、ナフチルオキシ基等のC6〜C30のアリールオキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ペンチルチオ基、ヘキシルチオ基、オクチルチオ基、ドデシルチオ基等のC1〜C30のアルキルチオ基;シクロペンチルチオ基、シクロヘキシルチオ基等のC3〜C30のシクロアルキルチオ基;フェニルチオ基、ナフチルチオ基等のC6〜C30のアリールチオ基;メチルオキシカルボニル基、エチルオキシカルボニル基、ブチルオキシカルボニル基、オクチルオキシカルボニル基、ドデシルオキシカルボニル基等のC2〜C30のアルコキシカルボニル基;フェニルオキシカルボニル基、ナフチルオキシカルボニル基等のC7〜C30のアリールオキシカルボニル基;アミノスルホニル基、メチルアミノスルホニル基、ジメチルアミノスルホニル基、ブチルアミノスルホニル基、ヘキシルアミノスルホニル基、シクロヘキシルアミノスルホニル基、オクチルアミノスルホニル基、ドデシルアミノスルホニル基、フェニルアミノスルホニル基、ナフチルアミノスルホニル基、2−ピリジルアミノスルホニル基等のC1〜C30のスルファモイル基;アセチル基、エチルカルボニル基、プロピルカルボニル基、ペンチルカルボニル基、シクロヘキシルカルボニル基、オクチルカルボニル基、2−エチルヘキシルカルボニル基、ドデシルカルボニル基、フェニルカルボニル基、ナフチルカルボニル基、ピリジルカルボニル基等のC2〜C30のアシル基;アセチルオキシ基、エチルカルボニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、オクチルカルボニルオキシ基、ドデシルカルボニルオキシ基、フェニルカルボニルオキシ基等のC2〜C30のアシルオキシ基;メチルカルボニルアミノ基、エチルカルボニルアミノ基、プロピルカルボニルアミノ基、ペンチルカルボニルアミノ基、シクロヘキシルカルボニルアミノ基、2−エチルヘキシルカルボニルアミノ基、オクチルカルボニルアミノ基、ドデシルカルボニルアミノ基、フェニルカルボニルアミノ基、ナフチルカルボニルアミノ基等のC2〜C30のアミド基;アミノカルボニル基、メチルアミノカルボニル基、ジメチルアミノカルボニル基、プロピルアミノカルボニル基、ペンチルアミノカルボニル基、シクロヘキシルアミノカルボニル基、オクチルアミノカルボニル基、2−エチルヘキシルアミノカルボニル基、ドデシルアミノカルボニル基、フェニルアミノカルボニル基、ナフチルアミノカルボニル基、2−ピリジルアミノカルボニル基等のC1〜C30のカルバモイル基;メチルウレイド基、エチルウレイド基、ペンチルウレイド基、シクロヘキシルウレイド基、オクチルウレイド基、ドデシルウレイド基、フェニルウレイド基、ナフチルウレイド基、2−ピリジルアミノウレイド基等のC1〜C30のウレイド基;メチルスルフィニル基、エチルスルフィニル基、ブチルスルフィニル基、シクロヘキシルスルフィニル基、2−エチルヘキシルスルフィニル基、ドデシルスルフィニル基、フェニルスルフィニル基、ナフチルスルフィニル基、2−ピリジルスルフィニル基等のC1〜C30のスルフィニル基;メチルスルホニル基、エチルスルホニル基、ブチルスルホニル基、シクロヘキシルスルホニル基、2−エチルヘキシルスルホニル基、ドデシルスルホニル基等のC1〜C30のアルキルスルホニル基;フェニルスルホニル基、ナフチルスルホニル基、2−ピリジルスルホニル基等のC6〜C30のアリールスルホニル基またはC4〜C30のヘテロアリールスルホニル基;メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロペンチルアミノ基、2−エチルヘキシルアミノ基、ドデシルアミノ基、アニリノ基、ナフチルアミノ基、2−ピリジルアミノ基等のアミノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;フルオロメチル基、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、ペンタフルオロフェニル基等のC1〜C30のフッ化炭化水素基;シアノ基;ニトロ基;ヒドロキシ基;メルカプト基;トリメチルシリル基、トリイソプロピルシリル基、トリフェニルシリル基、フェニルジエチルシリル基等のC1〜C30のシリル基が挙げられる。これらのうち、C1〜C20のアルキル基、C1〜C8のアルコキシ基、およびハロゲン原子が好ましい。なお、これらの置換基は、上記の置換基によってさらに置換されていてもよい。また、これらの置換基は複数が互いに結合して環を形成していてもよい。
【0055】
上述の芳香環含有基および不飽和炭化水素基の水素原子が置換基で置換された具体例を下記に示す。
【0056】
【化5】

【0057】
上記化学式(1)において、nは、1〜9の整数、好ましくは1〜5の整数であり、nが2以上の場合には、それぞれのArは互いに異なっていてもよく、mは1〜9の整数、好ましくは2〜9の整数であり、mが2以上の場合には、それぞれのArは互いに異なっていてもよく、lは1〜5の整数であり、lが2以上の場合には、それぞれのArは互いに異なっていてもよく、この際、m+n≧3であり、m=nの場合には、−(Ar−および−(Ar−は互いに異なる。
【0058】
Xは、酸性基を含む1価の置換基である。Xが有する酸性基により、上記化学式(1)で表される増感色素は上述の半導体に吸着することができる。また、Xが同一である、すなわち、増感色素が同一の置換基を有することにより、当該増感色素の半導体への吸着力が高まり、光電変換素子の耐久性が向上しうる。
【0059】
上記Xは、酸性基を含む1価の置換基であり、この際、置換基X中の酸性基としては、カルボキシ基、スルホ基(−SOH)、およびホスホン酸基[−PO(OH)];並びにこれらの塩などが挙げられる。これらのうち、前記酸性基は、カルボキシ基であることが好ましい。また、Xはさらに電子吸引性基を有する事が好ましい。電子吸引性基としては、シアノ基、ニトロ基、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基、パーフルオロアルキル基(例えば、トリフルオロメチル基)、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基、パーフルオロアルキルスルホニル基、パーフルオロアリールスルホニル基などが挙げられる。これらのうち、シアノ基、ニトロ基、フルオロ基、クロロ基を有することが好ましく、シアノ基、ニトロ基を有することがより好ましい。また、前記Xは部分構造を有することが好ましい。前記部分構造としては、ローダニン環、ジローダニン環、イミダゾロン環、ピラゾロン環、ピラゾリン環、キノン環、ピラン環、ピラジン環、ピリミジン環、イミダゾール環、インドール環、ベンゾチアゾール環、ベンゾイミダゾール環、ベンゾオキサゾール環、チアジアゾール環等が挙げられる。これらのうち、ローダニン環、ジローダニン環、イミダゾロン環、ピラゾリン環、キノン環、チアジアゾール環を有することが好ましく、ローダニン環、ジローダニン環、イミダゾロン環、ピラゾリン環を有することがより好ましい。これらのXは、光電子を効果的に半導体(特に酸化物半導体)に注入できる。また、置換基Xにおいて、酸性基と、電子吸引性基および/または部分構造とは、酸素原子(O)、硫黄原子(S)、セレン原子(Se)、またはテルル原子(Te)等の原子を介して結合してもよい。または、置換基Xは、電荷、特に正の電荷を帯びてもよく、この際、Cl、Br、I、ClO、NO、SO2−、HPO等の対イオンを有していてもよい。
【0060】
以下、置換基Xの好ましい構造を例示する。
【0061】
【化6】

【0062】
【化7】

【0063】
また、Yは、水素原子または1価の置換基である。前記置換基は、上述の芳香環含有基および不飽和炭化水素基の水素原子が置換されうる置換基と同様である。
【0064】
以下に、一般式(1)で表される化合物の具体例を示すが、本発明はこれらに限定されない。
【0065】
【化8】

【0066】
【化9】

【0067】
【化10】

【0068】
【化11】

【0069】
【化12】

【0070】
上記化合物は、当業者であれば、いずれも公知の反応、例えば、芳香族求電子置換反応、芳香族求核置換反応、カップリング反応、およびメタセシス反応等を適宜組み合わせることによって合成することができる。その他、上記化合物の合成にあたっては、特開平7−5706号公報、同7−5709号公報等が参照されうる。
【0071】
なお、上記例示した化合物は、いずれも一般式(1)を満たすものである。例を挙げると、化合物1は、Arがベンゼンから導かれる2価の芳香環含有基であり、Arがベンゼンおよびチオフェンから導かれる2価の芳香環含有基であり、Arはベンゼンから導かれる2価の芳香環含有基およびエチレンから導かれる2価の不飽和炭化水素基であり、この際、nは1であり、mは2であり、lは3であって(−(Ar−および−(Ar−は互いに異なる)、m+n≧3を満たし、並びにXは酸性基であるカルボキシ基および電子吸引性基であるシアノ基を含む1価の置換基であり、Yは水素原子である。また、化合物30では、Arがベンゼンおよびチオフェンから導かれる2価の芳香環含有基であり、Arがベンゾチオフェンおよび2つの隣接するメトキシ基が互いに結合して環を形成した置換基を有するチオフェンから導かれる2価の芳香環含有基であり、Arは置換基として2つのメチル基を有するフルオレンから導かれる2価の芳香環含有基であり、この際、nは2であり、mは2であり、lは1であって(−(Ar−および−(Ar−は互いに異なる)、m+n≧3を満たし、並びにXは酸性基であるカルボキシ基および電子吸引性基であるシアノ基を含む1価の置換基であり、Yは水素原子である。
【0072】
上述の化合物のうち、前記化学式(1)で表される増感色素が、下記化学式(2):
【0073】
【化13】

【0074】
(式中、Ar11およびAr12は、それぞれ独立して、2価の芳香環含有基または2価の不飽和炭化水素基であり、
pは、0〜8の整数であり、この際、pが2以上の場合には、それぞれのAr11は互いに異なっていてもよく、qは、0〜8の整数であり、この際、qが2以上の場合には、それぞれのAr12は互いに異なっていてもよく、p+q≧1であり、p=qの場合には、−(Ar11−および−(Ar12−は互いに異なる。)
で表される芳香族基であることが、溶解性および耐久性の観点から好ましい。
【0075】
(光電変換層の作製方法)
次に、光電変換層の作製方法について説明する。光電変換層の作製方法は、(1)導電性支持体上への半導体層の形成、および(2)半導体の増感処理に大別される。(1)において、半導体の材料が粒子状の場合には、半導体の分散液またはコロイド溶液(半導体含有塗布液)を導電性支持体に塗布あるいは吹き付ける方法、および半導体微粒子の前駆体を導電性支持体上に塗布し、水分(例えば、空気中の水分)によって加水分解後に縮合を行う方法(ゾル−ゲル法)等によって半導体層を形成することができる。上記2つの方法によって得られた半導体層は焼成することが好ましい。また、半導体の材料が膜状であり、導電性支持体上に保持されていない場合には、半導体を導電性支持体上に貼合することによって半導体層を形成することができる。(2)の増感処理方法は、増感色素の半導体層への吸着等が挙げられる。(1)において、半導体層を焼成する場合には、焼成後、半導体に水分が吸着する前に素早く増感色素による増感処理を行うことが好ましい。
【0076】
以下、本発明に好ましく用いられる光電変換層の作製方法について詳細に説明する。
【0077】
(1)導電性支持体上への半導体層の形成
(1−1)半導体含有塗布液の調製
まず、半導体、好ましくは半導体の微粉末を含む塗布液(半導体含有塗布液)を調製する。当該半導体微粉末はその1次粒子径が微細であることが好ましい。1次粒子径としては、1〜5000nmであることが好ましく、2〜100nmであることがより好ましい。半導体含有塗布液は、半導体微粉末を溶媒中に分散させることによって調製することができ、溶媒中に分散された半導体微粉末は1次粒子状で分散する。溶媒中の半導体微粉末の濃度は0.1〜70質量%であることが好ましく、0.1〜30質量%であることがより好ましい。
【0078】
半導体含有塗布液に用いられうる溶媒としては、半導体微粉末を分散できるものであれば特に制約されず、水、有機溶媒、水と有機溶媒との混合液が用いられうる。前記有機溶媒の具体例としては、例えば、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール;メチルエチルケトン、アセトン、アセチルアセトン等のケトン;ヘキサン、シクロヘキサン等の炭化水素;アセチルセルロース、ニトロセルロース、アセチルブチルセルロース、エチルセルロース、メチルセルロース等のセルロース誘導体等が挙げられる。塗布液中には、必要に応じて、界面活性剤、酸(酢酸、硝酸など)、粘度調節剤(ポリエチレングリコール等の多価アルコール等)、キレート剤(アセチルアセトンなど)を添加してもよい。
【0079】
(1−2)半導体含有塗布液の塗布
上記(1−1)によって調製した半導体含有塗布液を、導電性支持体上に塗布または吹き付け、乾燥等を行うことにより、半導体層が形成される。当該塗布は、特に制限されず、ドクターブレード法、スキージ法、スピンコート法、スクリーン印刷法など公知の方法によって行われる。上記塗布または吹き付け、および乾燥によって得られた半導体層は、半導体微粒子の集合体からなるものであり、その微粒子の粒径は使用した半導体微粉末の1次粒子径に対応する。なお、半導体含有塗布液は2種以上の半導体材料を含むものであってもよいし、2種以上の半導体材料を用いて塗布または吹き付けを行い、層状構造の半導体層を形成してもよい。
【0080】
(1−3)半導体層の焼成処理
上記(1−2)によって形成された半導体層は、空気中または不活性ガス中で焼成することが好ましい。焼成を行うことにより、(1−2)で形成された半導体層と導電性支持体との結合力および半導体微粒子どうしの結合力を高め、機械的強度が向上しうる。焼成条件は、所望の実表面積や空孔率を有する半導体層を形成することができれば特に制限されない。焼成温度は、特に制限されないが、1000℃以下であることが好ましく、100〜800℃であることがより好ましく、200〜600℃であることが特に好ましい。また、基体がプラスチック等で耐熱性に劣る場合には、加圧により半導体微粒子−基体間および半導体微粒子どうしを固着させてもよいし、マイクロ波を用いて半導体層のみを焼成してもよい。焼成時間も特に制限されないが、10秒〜12時間であることが好ましく、1〜240分であることがより好ましく、10〜120分であることが特に好ましい。また、焼成雰囲気も特に制限されないが、通常、焼成工程は、大気中または不活性ガス(例えば、アルゴン、ヘリウム、窒素など)雰囲気中で行われる。なお、上記焼成は、単一の温度で1回のみ行ってもよいし、温度や時間を変化させて2回以上繰り返し行ってもよい。
【0081】
焼成された半導体層の構造は、特に制限されないが、増感色素との吸着を効果的に行う観点から多孔質構造(空隙を有するポーラスな構造)であることが好ましい。よって、半導体層の空孔率(D)は、1〜90体積%であることが好ましく、10〜80体積%であることがさらに好ましく、20〜70体積%であることが特に好ましい。なお、半導体層の空孔率は、誘電体の厚み方向に貫通性のある空孔率を意味し、水銀ポロシメーター(島津ポアサイザー9220型)等の市販の装置を用いて測定することができる。なお、半導体層が多孔質構造膜である場合には、正孔輸送層を構成する材料がこの空隙にも存在するように光電変換素子を製造することが好ましい。
【0082】
焼成された半導体層の膜厚は、特に制限されないが、10nm以上であることが好ましく、500nm〜30μmであることがさらに好ましい。
【0083】
得られた半導体層の見かけ表面積に対する実表面積の比は、半導体微粒子の粒径および比表面積、並びに焼成温度等により制御することができる。また、得られた半導体層は、焼成後、例えば、四塩化チタン水溶液を用いた化学メッキや三塩化チタン水溶液を用いた電気化学的メッキ処理を行うことにより、半導体粒子の表面積および半導体粒子近傍の純度を制御し、色素から半導体粒子への電子注入効率を高めてもよい。
【0084】
(2)増感色素による半導体の増感処理
増感色素による半導体の増感処理は、例えば、増感色素を適切な溶媒に溶解し、当該溶液中によく乾燥させた半導体層を長時間浸漬することによって行われる。当該増感処理によって、増感色素が半導体に吸着されうる。この際、半導体層が多孔質構造を有する場合には、浸漬前に減圧処理、加熱処理等の前処理を行い、膜中の気泡や空隙中の水分を除去することが好ましい。当該前処理によって、増感色素が半導体層内部にも吸着されうる。なお、増感処理は、増感色素含有溶液への半導体層の浸漬に限定されず、その他の公知の増感処理方法も適宜適用することができる。
【0085】
増感処理条件は特に制限はないが、増感色素が半導体層に深く進入して吸着等が充分に進行できるような条件に設定することが好ましい。例えば、溶液中における増感色素の分解および分解物の半導体層への吸着を防止する観点から、増感処理の温度は、5〜100℃であることが好ましく、25〜80℃であることがより好ましい。また、増感処理の時間は、15分〜20時間であることが好ましく、3〜24時間であることがより好ましい。特に、室温(25℃)で2〜48時間、特に3〜24時間、増感処理を行うことが好ましいが、設定する温度によって増感処理の時間は適宜変更してもよい。また、増感処理の時間の短縮および半導体層の深部まで吸着させる観点から、減圧下または真空下で増感処理を行ってもよい。
【0086】
増感色素を溶解するのに用いる溶媒は、増感色素を溶解することができ、かつ半導体を溶解させたり半導体と反応したりすることのないものであれば格別の制限はない。しかしながら、溶媒に溶解している水分および気体が半導体膜に進入して、増感色素の吸着等の増感処理を妨げることを防ぐために、溶媒をあらかじめ脱気および蒸留精製しておくことが好ましい。増感色素の溶解において好ましく用いられる溶媒としては、アセトニトリル等のニトリル系溶媒;メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;塩化メチレン、1,1,2−トリクロロエタン等のハロゲン化炭化水素溶媒等が挙げられる。これらの溶媒は、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。これらのうち、アセトニトリル、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロピルアルコール、tert−ブチルアルコール、アセトン、メチルエチルケトン、テトラヒドロフランおよび塩化メチレン、並びにこれらの混合溶媒、例えば、アセトニトリル/メタノール混合溶媒、アセトニトリル/エタノール混合溶媒、アセトニトリル/tert−ブチルアルコール混合溶媒を用いることが好ましい。
【0087】
増感処理を行う場合、増感色素を単独で用いてもよいし、複数を併用してもよい。また他の増感色素(例えば、米国特許第4,684,537号明細書、同4,927,721号明細書、同5,084,365号明細書、同5,350,644号明細書、同5,463,057号明細書、同5,525,440号明細書、特開平7−249790号公報、特開2000−150007号公報等に記載の化合物)と混合して用いてもよいが、耐久性の観点から、本発明に係る増感色素のみを用いることが好ましい。本発明の光電変換素子の用途が後述する太陽電池である場合には、光電変換の波長域をできるだけ広くして太陽光を有効に利用できるように吸収波長の異なる2種以上の増感色素を混合して用いることが好ましい。2種以上の増感色素を用いる場合に、増感処理方法は、特に限定されず、各増感色素の混合溶液に半導体層を浸漬してもよいし、各増感色素を別々の溶液として準備し、順次に半導体層を浸漬してもよい。
【0088】
得られた光電変換層において、半導体層1m当たりの増感色素の総担持量は、特に制限されないが、0.01〜100ミリモルであることが好ましく、0.1〜50ミリモルであることがさらに好ましく、0.5〜20ミリモルであることが特に好ましい。
【0089】
[正孔輸送層]
正孔輸送層は、光励起によって酸化された増感色素に電子を供給して還元し、増感色素との界面で生じた正孔を第二電極へ輸送する機能を有する。正孔輸送層は、多孔質の半導体層上に形成された層状部分だけでなく、多孔質の半導体層の空隙内部に充填されうる。
【0090】
正孔輸送層は、酸化還元電解質の分散物またはp型化合物半導体等を主成分として構成されうる。
【0091】
酸化還元電解質としては、I/I系、Br/Br系、およびキノン/ハイドロキノン系等が用いられうる。上記酸化還元電解質の分散物は、公知の方法によって得ることができる。例えば、I/I系の電解質は、ヨウ化物イオンとヨウ素とを混合することによって得ることができる。上記酸化還元電解質の分散物は、液状の形態で用いられる場合には液体電解質、室温(25℃)で固体の高分子に分散させた場合には固体高分子電解質、そしてゲル状物質に分散された場合にはゲル電解質と呼ばれる。正孔輸送層として液体電解質が用いられる場合には、その溶媒として電気化学的に不活性なものが用いられる。当該溶媒としては、例えば、アセトニトリル、炭酸プロピレン、およびエチレンカーボネート等が用いられる。固体高分子電解質が用いられる場合としては特開2001−160427号公報記載の電解質が、ゲル電解質が用いられる場合としては「表面科学」21巻、第5号第288〜293頁に記載の電解質が、それぞれ参照されうる。
【0092】
p型化合物としては、芳香族アミン誘導体、ピリジン誘導体、チオフェン誘導体、ピロール誘導体、およびスチルベン誘導体等のモノマー、並びに前記モノマーを含むオリゴマー(特に、ダイマーおよびトリマー)、およびポリマーが用いられうる。前記モノマーおよびオリゴマーは比較的に低分子量であることから有機溶媒等の溶媒への溶解性が高く、光電変換層への塗布が簡便となりうる。一方、ポリマーについては、光電変換層にプレポリマーの形態で塗布して、光電変換層上で重合してポリマーを形成する方法が簡便でありうる。当該重合方法としては、特に制限はなく、例えば、特開2000−106223号公報に記載の方法などの公知の重合方法が適用できる。具体的には、少なくとも作用極と対極とを備えて両電極間に電圧を印加することにより反応させる電解重合法、重合触媒を用いる化学重合法、光照射単独あるいは重合触媒、加熱、電解等を組み合わせた光重合法等が挙げられる。これらのうち、電解重合法を用いることが好ましい。電解重合によって得られたp型化合物を含む光電変換素子は、特に高い開放電圧(Voc)を有しうる。
【0093】
上記p型化合物としてのモノマーおよびオリゴマーは、特に制限されず、公知の化合物が使用できる。例えば、芳香族アミン誘導体としては、例えば、N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノビフェニル;N,N’−ジフェニル−N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−[1,1’−ビフェニル]−4,4’−ジアミン(TPD);2,2−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)プロパン;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)シクロヘキサン;N,N,N’,N’−テトラ−p−トリル−4,4’−ジアミノビフェニル;1,1−ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)−4−フェニルシクロヘキサン;ビス(4−ジメチルアミノ−2−メチルフェニル)フェニルメタン;ビス(4−ジ−p−トリルアミノフェニル)フェニルメタン;N,N’−ジフェニル−N,N’−ジ(4−メトキシフェニル)−4,4’−ジアミノビフェニル;N,N,N’,N’−テトラフェニル−4,4’−ジアミノジフェニルエーテル;4,4’−ビス(ジフェニルアミノ)クオードリフェニル;N,N,N−トリ(p−トリル)アミン;4−(ジ−p−トリルアミノ)−4’−[4−(ジ−p−トリルアミノ)スチリル]スチルベン;4−N,N−ジフェニルアミノ−(2−ジフェニルビニル)ベンゼン;3−メトキシ−4’−N,N−ジフェニルアミノスチルベンゼン;N−フェニルカルバゾール;2,2’,7,7’−テトラキス(N,N’−ジ(4−メトキシフェニル)アミン)−9,9’−スピロビフルオレン(OMeTAD)等が挙げられる。また、米国特許第5,061,569号明細書に記載の2つの縮合芳香族環を分子内に有する4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノ]ビフェニル(NPD)、特開平4−308688号公報に記載のトリフェニルアミンユニットが3つスターバースト型に連結された4,4’,4”−トリス[N−(3−メチルフェニル)−N−フェニルアミノ]トリフェニルアミン(MTDATA)等を用いてもよい。これらのうち、正孔輸送能に優れる芳香族アミン誘導体モノマー、特にトリフェニルジアミン誘導体を用いることが好ましい。なお、上述の化合物を高分子鎖に導入した、または高分子の主鎖とした高分子材料を用いてもよい。
【0094】
上記p型化合物としてのポリマーおよびポリマーの原料となるプレポリマーは、特に制限されず、公知の化合物が使用できる。
【0095】
プレポリマーを用いて光電変換層上で電解重合によりポリマーを形成する場合には、プレポリマーとともに支持電解質、溶媒、および必要に応じて添加剤を含む混合物を用いて重合が行われうる。
【0096】
前記支持電解質としては、イオン電離可能なものが用いられ、特定のものに限定されないが、溶媒に対する溶解性が高く、酸化、還元を受けにくいものが好適に用いられる。具体的には、過塩素酸リチウム(LiClO)、テトラフルオロホウ酸リチウム、過塩素酸テトラブチルアンモニウム、Li[(CFSON]、(n−CNBF、(n−CNPF、p−トルエンスルホン酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸塩などの塩類が好ましく挙げられる。また、特開2000−106223号公報に記載されるポリマー電解質(例えば、同公報中のPA−1〜PA−10)を支持電解質として使用してもよい。上記支持電解質は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0097】
また、前記溶媒としては、支持電解質および前記単量体或いはその多量体を溶解できるものであれば特に限定されないが、電位窓の比較的広い有機溶剤を使用することが好ましい。具体的には、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、プロピレンカーボネイト、ジクロロメタン、o−ジクロロベンゼン、ジメチルホルムアミド、塩化メチレン等が挙げられる。また、上記溶媒に、必要に応じて水やその他の有機溶剤を加えて混合溶媒として使用してもよい。上記溶媒は、単独で使用してもよいし、2種以上を混合して使用してもよい。
【0098】
電解重合は、より詳細には、光電変換層を形成した基体を、プレポリマー等を含む電解重合溶液に浸し、光電変換層を作用電極として、白金線や白金板などを対極として用い、また、参照極としてAg/AgClやAg/AgNO等を用いて、直流電解することによって行われる。電解重合溶液中の前記単量体あるいはその多量体の濃度は、特に制限されないが、0.1〜1000mmol/Lであることが好ましく、1〜100mmol/Lであることがより好ましく、5〜20mmol/Lであることが特に好ましい。また、支持電解質濃度は、0.01〜10mol/Lであることが好ましく、0.1〜2mol/Lであることがより好ましい。また、印加電流密度としては、0.01μA/cm〜1000μA/cmであることが好ましく、1μA/cm〜500μA/cmであることがより好ましい。保持電圧については、−0.50〜+0.20Vであることが好ましく、−0.30〜0.00Vであることがより好ましい。電解重合溶液の温度範囲は、その溶媒が固化・突沸しない範囲に設定することが好ましく、一般的には、−30℃〜80℃である。また、当該電解重合に光を照射して重合する光重合法を組み合わせて使用してもよい。照射する光の波長は350〜800nmであることが好ましい。なお、光源としてはキセノンランプを用いることが好ましい。また、光の強度は、1〜100mW/cmであることが好ましく、1〜50mW/cmであることがより好ましい。このように光照射を行いながら電解重合を行うことにより、光電変換層(半導体層)の表面に緻密に重合体の層を形成できる。上記方法によると、なお、電解電圧、電解電流、電解時間、温度等の条件は、使用する材料によって左右され、また、所望の膜厚に応じて適宜選択することができる。
【0099】
重合体の重合度は、電解重合で得られた重合体から把握することは困難である。しかしながら、重合後に形成された正孔輸送層の溶媒溶解性は大きく低下するため、重合体かどうかの確認については、プレポリマーの溶解が可能なテトラヒドロフラン(THF)に正孔輸送層を浸漬させることで、その溶解度により判断できる。具体的には、25mLのサンプル瓶に化合物(重合体)10mgをとり、THF 10mlを添加して、超音波(25kHz、150W 超音波工業(株)COLLECTOR CURRENT1.5A超音波工業製150)を5分間照射したときに、溶解している化合物が5mg以下の場合は重合していると判断する。
【0100】
一方、プレポリマーを用いて光電変換層上で化学重合によりポリマーを形成する場合には、プレポリマーとともに重合触媒、および溶媒、ならびに必要に応じて重合速度調整剤等の添加剤を含む混合物を用いて重合が行われうる。
【0101】
前記重合触媒としては、特に制限されないが、塩化鉄(III)、トリス−p−トルエンスルホン酸鉄(III)、p−ドデシルベンゼンスルホン酸鉄(III)、メタンスルホン酸鉄(III)、p−エチルベンゼンスルホン酸鉄(III)、ナフタレンスルホン酸鉄(III)、およびこれらの水和物等が挙げられる。
【0102】
また、前記重合速度調整剤は、重合触媒における三価鉄イオンに対する弱い錯化剤があり、膜が形成できるように重合速度を低減するものであれば特に制限はない。例えば、重合触媒が塩化鉄(III)およびその水和物である場合には、5−スルホサリチル酸のような芳香族オキシスルホン酸等が用いられうる。また、重合触媒がトリス−p−トルエンスルホン酸鉄(III)、p−ドデシルベンゼンスルホン酸鉄(III)、メタンスルホン酸鉄(III)、p−エチルベンゼンスルホン酸鉄(III)、ナフタレンスルホン酸鉄(III)、およびこれらの水和物である場合には、イミダゾール等が用いられうる。
【0103】
上記化学重合の反応条件は、用いるプレポリマー、重合触媒、および重合速度調整剤の種類、割合、濃度、塗布した段階での液膜の厚み、所望の重合速度によって異なるが、好適な重合条件としては、空気中で加熱する場合には、加熱温度は25〜120℃、加熱時間は1分〜24時間であることが好ましい。
【0104】
上述の電解重合および化学重合等の重合は、光電変換層上で行うことが好ましいが、あらかじめプレポリマーを重合し、得られたポリマーを光電変換層に塗布して正孔輸送層を形成してもよい。塗布する方法としては、特に制限されず、公知の塗布方法が同様にしてまたは適宜修飾して使用できる。具体的には、ディッピング、滴下、ドクターブレード、スピンコート、刷毛塗り、スプレー塗装、ロールコーター、エアーナイフコート、カーテンコート、ワイヤーバーコート、グラビアコート、米国特許第2681294号記載のホッパーを使用するエクストルージョンコート、および米国特許第2761418号、同3508947号、同2761791号記載の多層同時塗布方法等の各種塗布法を用いることができる。また、このような塗布の操作を繰り返し行って積層するようにしてもよい。この場合の塗布回数は、特に制限されず、所望の正孔輸送層の厚みに応じて適宜選択できる。この際、用いられうる溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ブチレンオキシド、クロロホルム、シクロヘキサノン、クロロベンゼン、アセトン、各種アルコールのような極性溶媒、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジメチルスホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミドのような非プロトン性溶媒等の有機溶媒等が挙げられる。上記溶媒は、単独で使用されてもまたは2種以上の混合物の形態で使用されてもよい。
【0105】
正孔輸送層には、必要に応じて、例えば、N(PhBr)SbCl、NOPF、SbCl、I、Br、HClO、(n−CClO、トリフルオロ酢酸、4−ドデシルベンゼンスルホン酸、1−ナフタレンスルホン酸、FeCl、AuCl、NOSbF、AsF、NOBF、LiBF、H[PMo1240]、7,7,8,8−テトラシアノキノジメタン(TCNQ)などのアクセプタードーピング剤、ホールをトラップしにくいバインダー樹脂、レベリング剤等の塗布性改良剤等の各種添加剤を添加するようにしてもよい。上記添加剤は、単独で使用しても、2種以上を混合して使用してもよい。
【0106】
正孔輸送層に含まれる材料は、増感色素による光吸収を妨げないように、大きいバンドギャップを持つことが好ましい。具体的には2eV以上のバンドキャップを有することが好ましく、2.5eV以上のバンドキャップを有することがさらに好ましい。また、正孔輸送層は、増感色素ホールを還元させるために低いイオン化ポテンシャルを有することが好ましい。適用する増感色素に応じてイオン化ポテンシャルの値は異なるが、通常、4.5〜5.5eVであることが好ましく、4.7〜5.3eVであることがより好ましい。
【0107】
[第二電極]
第二電極は、正孔輸送層と接して配置され、任意の導電性材料で構成されうる。絶縁性の物質でも、正孔輸送層に面している側に導電性物質層が設置されていれば、これも使用することができる。第二電極は、素子の電気抵抗を低減する等の観点から、正孔輸送層との接触が良好であることが好ましい。また、第二電極は、正孔輸送層との仕事関数の差が小さく、化学的に安定であることが好ましい。このような材料としては、特に制限されないが、金、銀、銅、アルミニウム、白金、クロム、ロジウム、ルテニウム、マグネシウム、インジウム等の金属薄膜、炭素、カーボンブラック、導電性高分子、導電性の金属酸化物(インジウム−スズ複合酸化物、酸化スズにフッ素をドープしたもの等)等の有機導電体などが挙げられる。好ましくは金などの金属薄膜である。また、第二電極の厚みは、特に制限されないが、10〜1000nmであることが好ましい。また、第二電極の表面抵抗値は、特に制限されず、可能な限り低い値であることが好ましい。具体的には、表面抵抗値は、80Ω/□以下であることが好ましく、20Ω/□以下であることがより好ましい。
【0108】
以上のような構成を有する光電変換素子は、基体の外側から光が照射されると、素子内部の光電変換層の半導体層に担持された増感色素が励起されて電子を放出する。励起された電子は、半導体に注入され、第一電極に移動する。第一電極に移動した電子は、外部回路を通じて第二電極に移動し、正孔輸送層に供給される。そして、(電子を放出して)酸化された増感色素は、正孔輸送層から電子を受け取り、基底状態に戻る。このようなサイクルを繰り返すことで、光が電気に変換される。
【0109】
本発明に係る光電変換素子は、化学式(1)の−(Ar−および−(Ar−は互いに異なることにより、増感色素が太陽光の可視光を含む幅広い吸収ピークを示す。その結果、太陽光に対する光電変換効率は向上しうる。また、増感色素の分子内に同一の酸性基を含む1価の置換基を有することにより、当該増感色素の半導体への吸着を安定化させることができるため、光電変換素子の耐久性が向上しうる。すなわち、本発明に係る光電変換素子は、光電変換効率に優れ、かつ、高い耐久性を有する。
【0110】
<太陽電池>
本発明に係る光電変換素子は、太陽電池に特に好適に使用することができる。したがって、本発明は、本発明に係る光電変換素子を有することを特徴とする太陽電池をも提供する。
【0111】
本発明に係る光電変換素子は、色素増感型の太陽電池(セル)として用いられうる。すなわち、本発明に係る太陽電池は、例えばインターコネクタにより電気的に接続された複数の太陽電池セル(本発明に係る光電変換素子)と、それを挟持する一対の保護部材と、一対の保護部材と複数の太陽電池との間の隙間に充填された封止樹脂とを有する。一対の保護部材のうちの一方は、前述の光電変換素子の基体となる。一対の保護部材は両方が透明であってもよいし、一方のみが透明であってもよい。
【0112】
本発明に係る太陽電池の構造の例には、Z型モジュール、W型モジュールが含まれる。Z型モジュールは、対向する一対の保護部材のうち、一方の保護部材に複数の色素を担持した多孔質な半導体層を、他方の基体に複数の正孔輸送層を形成し、これらを貼り合わせた構造を有する。W型モジュールは、保護部材のそれぞれに一つおきに色素を担持した多孔質な半導体層および正孔輸送層の積層体を形成し、セルが互い違いとなるように貼り合わせた構造を有する。
【0113】
本発明に係る太陽電池に、太陽光または太陽光と同等の電磁波を照射すると、半導体に担持された増感色素は照射された光もしくは電磁波を吸収して励起する。励起によって発生した電子は半導体に移動し、次いで導電性支持体および外部負荷を経由して第二電極に移動して、正孔輸送層の正孔輸送性材料に供給される。一方、半導体に電子を移動させた増感色素は酸化体となっているが、第二電極から正孔輸送層の重合体を経由して電子が供給されることにより、還元されて元の状態に戻り、同時に正孔輸送層の重合体は酸化されて、再び第二電極から供給される電子により還元されうる状態に戻る。このようにして電子が流れ、本発明の光電変換素子を用いた太陽電池を構成することができる。
【実施例】
【0114】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0115】
[合成例1:化合物15の合成]
化合物15を下記スキームにより合成した。
【0116】
【化14】

【0117】
0.1当量の酢酸パラジウムのトルエン溶液に、0.4当量のtert−ブチルホスフィンを加え80℃で撹拌した後、室温まで冷却した。前記溶液に、1当量の2−ブロモ−m−キシレンのトルエン溶液、1当量のジフェニルアミン、および2当量のtert−ブトキシナトリウムを添加した。70℃で6時間撹拌した後、反応液に水を添加した。反応液を酢酸エチルで抽出し、水で洗浄して、硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた抽出液の溶媒をロータリーエバポレータにて留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して化合物Aを得た。
【0118】
得られた化合物AをDMFに溶解し、3当量のN−ブロモスクシンイミドを添加した。60℃で5時間撹拌した後、反応液に水を添加した。反応液の沈殿物を濾取し、水で洗浄して固体の化合物Bを得た。
【0119】
得られた化合物Bをジメトキシエタンに溶解し、1.05当量の5−ホルミル−2−チオフェンボロン酸、0.05当量のテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム、および2当量の炭酸セシウムを添加した。80℃で18時間撹拌させた後、反応液に水を添加した。反応液を酢酸エチルで抽出し、水で洗浄して、硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた抽出液の溶媒をロータリーエバポレータにて留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して化合物Cを得た。
【0120】
得られた化合物Cをジメトキシエタンに溶解し、1.2当量の5’−ホルミル−2,2’−ビチオフェン−5−ボロン酸、0.05当量のテトラキストリフェニルホスフィンパラジウム、および2当量の炭酸セシウムを添加した。80℃で12時間撹拌させた後、反応液に水を添加した。反応液を酢酸エチルで抽出し、水で洗浄して、硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた抽出液の溶媒をロータリーエバポレータにて留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して化合物Dを得た。
【0121】
得られた化合物Dを酢酸に溶解し、3当量のシアノ酢酸および5当量の酢酸アンモニウムを添加した。100℃で6時間撹拌させた後、反応液に水を添加した。反応液を酢酸エチルで抽出し、水で洗浄して、硫酸マグネシウムで乾燥させた。得られた抽出液の溶媒をロータリーエバポレータにて留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにて精製して化合物15を得た。
【0122】
化合物15の構造は、核磁気共鳴スペクトルおよびマススペクトルにより確認した。
【0123】
[合成例2〜21]
合成例1の合成法に芳香族求電子置換反応、芳香族求核置換反応、カップリング反応、およびメタセシス反応等を適宜組み合わせて、本発明に係る化合物1、2、4、8〜10、12、16、19、20、22、24、28、30、33、34、35、37、41、および42を合成した。
【0124】
[合成例22〜25]
上記と同様に適宜化学反応を組み合わせて、上記一般式(1)においてXが異なる化合物101〜104を合成した。化合物101〜104を下記に示す。
【0125】
【化15】

【0126】
[実施例1:光電変換素子1の作製]
基体としてガラス基体(厚さ:1.0mm)を、第一電極としてフッ素ドープ酸化スズ(FTO)(500nm光透過率:80%)を用いて導電性支持体を形成した(膜厚:0.1mm、表面抵抗値:9.0Ω/□)。半導体として酸化チタン(アナターゼ型(粉末状)、1次平均粒径:18nm(電子顕微鏡により観察した平均値))を用い、ポリエチレングリコールの分散液(酸化チタンの濃度:10質量%)である酸化チタンペーストを前記FTOからなる導電性ガラス基体にスクリーン印刷法により塗布(塗布面積:5×5mm)および乾燥(120℃で3分間)した。当該塗布および乾燥を5回繰り返した後、200℃で10分間、次いで500℃で15分間の焼成を空気中で行い、厚さ13μmの酸化チタン薄膜を得た。この薄膜上に、さらに酸化チタン(アナターゼ型、1次平均粒径:400nm(電子顕微鏡により観察した平均値))のポリエチレングリコール分散ペーストを同様の方法で塗布、乾燥、および焼成し、厚さ3μmの酸化チタン薄膜を形成し、層厚膜16μmの半導体層を形成した。
【0127】
合成例で合成した化合物1を、アセトニトリル:tert−ブチルアルコール=1:1(体積比)の混合溶媒に溶解し、5×10−4mol/Lの増感色素含有溶液を調製した。上記半導体層が形成されたFTOガラス基体を、当該溶液中に室温(25℃)で3時間浸漬して増感色素の半導体への吸着処理を行い、光電変換層を得た。
【0128】
酸化還元電解質として0.6mol/Lのヨウ化1,2−ジメチル−3−プロピルイミダゾリウム、0.1mol/Lのヨウ化リチウム、および0.05mol/Lのヨウ素を、有機塩基として0.5mol/Lの4−tert−ブチルピリジンを含むアセトニトリル溶液を用いた。
【0129】
第二電極として白金およびクロムを蒸着したガラス板を用い、正孔輸送層の層厚が20μmとなるようにクランプセルで組み立てることにより光電変換素子1を作製した。
【0130】
[実施例2〜21:光電変換素子2〜21の作製]
増感色素として合成例で合成した化合物2、4、8〜10、12、15、16、19、20、22、24、28、30、33、34、35、37、41、および42を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で光電変換素子2〜21を作製した。
【0131】
[比較例1〜3:光電変換素子22〜24の作製]
増感色素として合成例で合成した化合物101〜103を用いたことを除いては、実施例1と同様の方法で光電変換素子22〜24を作成した。
【0132】
[実施例22:光電変換素子25の作製]
実施例1に記載のFTO導電性ガラス基体上に、酸化チタン(アナターゼ型、1次平均粒径:18nm(電子顕微鏡により観察した平均値))のポリエチレングリコール分散ペーストをスクリーン印刷法により塗布(塗布面積:5×5mm)した。次に、200℃で10分間、次いで450℃で15分間の焼成を空気中で行い、厚さ1.5μmの酸化チタン薄膜を得た。
【0133】
実施例1と同様の方法で半導体の増感処理を行った。
【0134】
芳香族アミン誘導体として0.17mol/Lの2,2’,7,7’−テトラキス(N,N’−ジ(4−メトキシフェニル)アミン)−9,9’−スピロビフルオレン(OMeTAD)、アクセプタードーピング剤として0.33mmol/LのN(PhBr)SbCl、15mmol/LのLi[(CFSON]、有機塩基として50mmol/Lの4−tert−ブチルピリジンを含むモノクロロベンゼン/アセトニトリル溶液(モノクロロベンゼン:アセトニトリル=19:1)を調製し、1000rpmの回転数で光電変換層の上面にスピンコーティングし、層厚10μmの正孔輸送層を形成した。
【0135】
真空蒸着法により金(Au)を90nm蒸着して第二電極を作製し、光電変換素子25を作製した。
【0136】
[実施例23〜31:光電変換素子26〜34の作製]
増感色素として合成例で合成した化合物2、4、8、12、22、30、34、35、および37を用いたことを除いては、実施例22と同様の方法で光電変換素子26〜34を作製した。
【0137】
[比較例4〜6:光電変換素子35〜37の作製]
増感色素として合成例で合成した化合物101〜103を用いたことを除いては、実施例22と同様の方法で光電変換素子35〜37を作成した。
【0138】
[実施例32:光電変換素子38の作製]
正孔輸送層を電解重合によって形成したことを除いては、実施例22と同様の方法で光電変換素子38を作製した。当該電解重合は、正孔輸送材料の原料となるモノマーである2,2’−ビス−3,4−エチレンジオキシチオフェンおよびLi[(CFSON]を含有するアセトニトリル溶液(電解重合溶液;2,2’−ビス−3,4−エチレンジオキシチオフェン濃度:1×10−3mol/L、Li[(CFSON]濃度:0.1mol/L)に浸漬した。作用極を上記半導体電極、対極を白金線、参照電極をAg/Ag(AgNO 0.01M)、印加電流密度150μA/cm、保持電圧を−0.3Vとした。半導体層方向から光を照射しながら(キセノンランプ使用、光強度32mW/cm、520nm以下の波長をカット)15分間電圧を保持して、正孔輸送層を上記半導体電極表面に形成した。得られた半導体電極/正孔輸送層をアセトニトリルで洗浄、乾燥した。
【0139】
なお、ここで得られた正孔輸送層は、溶媒には不溶の重合膜になっている。その後、Li[(CFSON]を15×10−3mol/L、tert−ブチルピリジンを50×10−3mol/Lの割合で含有するアセトニトリル溶液に30分間浸漬した。)によって行った。
【0140】
[実施例33〜41:光電変換素子39〜47の作製]
増感色素として合成例で合成した化合物2、4、8、12、22、30、34、35、および37を用いたことを除いては、実施例32と同様の方法で光電変換素子39〜47を作製した。
【0141】
[比較例7〜10:光電変換素子48〜51の作製]
増感色素として合成例で合成した化合物101〜104を用いたことを除いては、実施例32と同様の方法で光電変換素子48〜51を作成した。
【0142】
[光電変換素子の評価]
<初期の光電変換効率の測定>
ソーラーシミュレータ(英弘精機製)を用いて、上記光電変換素子に、キセノンランプからAMフィルター(AM−1.5)を通して強度100mW/cmの擬似太陽光を照射した。そして、I−Vテスターを用いて、光電変換素子の室温(25℃)での電流−電圧特性を測定し、短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、および形状因子(F.F.)を測定した。これらの値に基づき、下記式1から光電変換効率η(%)を算出した。
【0143】
【数1】

【0144】
<溶出耐久性試験>
実施例1〜41および比較例1〜10において、増感色素を吸着して得られた光電変換層を用いて光電変換素子を作製する前に、得られた光電変換層をアセトニトリル:tert−ブチルアルコール=1:1の混合溶媒に室温で3時間浸漬し、光電変換層の強制劣化を行った。そして、強制劣化させた光電変換層を用いて光電変換素子を作製した。
【0145】
前記得られた光電変換素子について、上記初期の光電変換効率の測定と同様の方法により、光電変換素子の室温(25℃)での電流−電圧特性を測定し、短絡電流密度(Jsc’)、開放電圧(Voc’)、および形状因子(F.F.’)を測定した。これらの値に基づき、上記式1と同様に光電変換効率η’(%)を算出した。そして、未劣化の光電変換効率ηに対する溶出劣化後の光電変換効率η’の比(η’/η)を求めた。
【0146】
実施例1〜41および比較例1〜10の上記試験の評価結果を表1に示す。
【0147】
【表1−1】

【0148】
【表1−2】

【0149】
【表1−3】

【0150】
表1の結果から、本発明に係る光電変換素子を用いると、増感色素のπ共役系を拡大することにより吸収波長領域が長波長化し、擬似太陽光に対する短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、および光電変換効率が高値を示した(実施例1〜21)。正孔輸送層を、モノマーを含む正孔輸送層および電解重合によって形成されたポリマーを含む正孔輸送層に変更した場合であっても同様の結果となった(実施例22〜41)。
【0151】
また、溶出耐久性評価のη’/η値から、本発明に係る光電変換素子を用いた光電変換素子は、強制劣化後に作製された光電変換素子の擬似太陽光に対する短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、および光電変換効率が維持され、η’/ηは高値を示し、溶出耐久試験において良好な結果を示した(実施例1〜21)。一方、上記化学式(1)において、Xが異なる化合物を用いると、溶出試験後の擬似太陽光に対する短絡電流密度(Jsc)、開放電圧(Voc)、および光電変換効率は低下し、η’/ηは低値を示し、溶出耐久試験において不良な結果となった(比較例1〜3)。正孔輸送層を、モノマーを含む正孔輸送層および電解重合によって形成されたポリマーを含む正孔輸送層に変更した場合であっても同様の結果となった(実施例22〜41および比較例4〜10)。
【0152】
この結果から、本発明に係る光電変換素子の色素が劣化条件における色素脱離の耐性が高く、劣化条件に対して高い安定性を有することが分かる。したがって、Xが同一である、すなわち、増感色素が同一の吸着基を有することにより、光電変換素子の耐久性が向上する。この理由は明らかではないが、当該2つの吸着基が半導体へ均一に吸着できるため、吸着力が安定したものと考えられる。
【0153】
以上の結果より、本発明に係る増感色素を含む光電変換素子は、光電変換効率に優れ、かつ、高い耐久性を有することが理解される。
【符号の説明】
【0154】
1 基体
2 第一電極
3 バリア層
4 増感色素
5 半導体
6 光電変換層
7 正孔輸送層
8 第二電極
9 太陽光
10 光電変換素子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体、第一電極、半導体および増感色素を含有する光電変換層、正孔輸送層、並びに第二電極を含み、前記増感色素が、下記化学式(1):
【化1】

(式中、Ar、Ar、およびArは、それぞれ独立して、2価の芳香環含有基または2価の不飽和炭化水素基であり、かつ、窒素原子に結合しているAr、Ar、およびArは、2価の芳香環含有基であり、この際、Ar、Ar、およびArは、互いに環を形成しても良く、
nは、1〜9の整数であり、nが2以上の場合には、それぞれのArは互いに異なっていてもよく、mは1〜9の整数であり、mが2以上の場合には、それぞれのArは互いに異なっていてもよく、lは1〜5の整数であり、lが2以上の場合には、それぞれのArは互いに異なっていてもよく、この際、m+n≧3であり、m=nの場合には、−(Ar−および−(Ar−は互いに異なり、
Xは、酸性基を含む1価の置換基であり、
Yは、水素原子または1価の置換基である。)
で表される、光電変換素子。
【請求項2】
前記増感色素が下記化学式(2):
【化2】

(式中、Ar11およびAr12は、それぞれ独立して、2価の芳香環含有基または2価の不飽和炭化水素基であり、
pは、0〜8の整数であり、この際、pが2以上の場合には、それぞれのAr11は互いに異なっていてもよく、qは、0〜8の整数であり、この際、qが2以上の場合には、それぞれのAr12は互いに異なっていてもよく、p+q≧1であり、p=qの場合には、−(Ar11−および−(Ar12−は互いに異なる。)
で表される、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記半導体が、酸化チタンである、請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載の光電変換素子を含む、太陽電池。

【図1】
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【公開番号】特開2013−109965(P2013−109965A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−254284(P2011−254284)
【出願日】平成23年11月21日(2011.11.21)
【出願人】(303000372)コニカミノルタビジネステクノロジーズ株式会社 (12,802)
【Fターム(参考)】