説明

光電変換素子およびその製造方法

【課題】格子不整合率、製造温度の制約のない光電変換層材料の選択が可能な光電変換素子、およびその製造方法を提供する。
【解決手段】光電変換素子は、第2半導体、第2導電性酸化物薄膜、第1導電性酸化物薄膜、第1半導体の順の構造を有し、第2導電性酸化物薄膜と第1導電性酸化物薄膜の接合面が接合界面4を形成するように第2半導体と第1半導体を機械的接合されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性酸化物薄膜の結晶化を利用した光電変換素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
異なる分光感度をもつ光電変換層を積層させ、多接合型太陽電池を形成することにより太陽電池の変換効率を向上させることができる。多接合型太陽電池には、薄膜成長技術を用いて接合させる二端子構造からなるモノリシック型、別々に形成した太陽電池を機械的に張り合わせる多端子構造からなるメカニカルスタック型がある。モノリシック型太陽電池としては、InGaP/InGaAs/Geのような化合物半導体太陽電池やa−Si:H/mc−Si:HのようなSi系薄膜太陽電池などがある。モノリシック型太陽電池を選択した場合、いずれも、格子整合性や製造温度などの適用できる光電変換材料の制約がある。一方、メカニカルスタック型を適用した場合は、個別に材料を選択最適化できるので自由度が高く、高効率化も期待できるが、システムに組み込むときの容易性を考えると通常のメカニカルスタックによる多端子構造よりも、モノリシックに積層された二端子構造が望ましい。
そのため、両構造の特徴を生かした二端子構造からなるメカニカルスタック型太陽電池の製造方法が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平10−92702号公報
【特許文献2】特開2007−324195号公報
【特許文献3】昭61−195179号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
二端子構造からなるメカニカルスタック型太陽電池を製造するには、異なる光電変換層を機械的、電気的、光学的に接合させる接合方法を開発する必要がある。一般に、接合方法としては、
(1)ロウ付け、拡散接合法、共晶接合法、表面活性化接合法(特許文献1参照)、接着剤を使用する方法、
(2)金属を中間層として用いる接合方法(特許文献2参照)、
(3)異方導電性接合法(特許文献3参照)
等が存在する。
上記(1)の接着剤を使用する方法では、材料を選択することにより下部接合材料に光を透過させることは可能であるが、接合材料間の電気的接合は図れない。上記(2)の方法では、接合材料間の電気的接合は可能となるが金属による光の吸収・反射により下部接合材料に光を透過させることはできない。
上記(3)では、金属微粒子を接着剤に分散させた接合材を用いるため、接合材料間の電気的接合を図ることができる。
しかし、光電変換素子の接合に用いた場合、金属微粒子による光学損失(反射・吸収損失)が素子特性の低減につながる問題がある。
本発明は、格子不整合率、製造温度の制約のない光電変換層材料の選択が可能な光電変換素子、およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、上記目的を達成するために、導電性酸化物薄膜の結晶化を利用して、上部および下部光電変換素子部間の透明性・導電性を保持しながらそれらを接合する手段を用いる。
導電性酸化物薄膜は、以下の諸限定条件を備えた構成を有することを特徴とする。
(1)上部および下部光電変換素子部の導電性酸化物薄膜は、同じ結晶構造をもつ導電性酸化物薄膜とする。
(2)導電性酸化物としては、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化マグネシウム、および酸化カドミウムから選択される1種あるいは2種以上を含む金属酸化物とする。
(3)導電性酸化物としては、酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化マグネシウム、および酸化カドミウムから選択される1種あるいは2種以上の金属酸化物からなり、更に水素原子を含有し、水素原子含有量を1%以上10%以下の範囲内の任意の値とする金属酸化物とする。
(4)導電性酸化物としては、酸化インジウムを含み、ビックスバイト構造を示す金属酸化物とする。
(5)導電性酸化物としては、酸化インジウムを含み、更にインジウム元素に対して10原子%以下の任意の値の正四価以上の原子価を有する第二の元素を含む金属酸化物とする。
(6)上記(5)の金属酸化物の第二の元素をSn、Ti,Zr,Hf,Mo,Wから選選択した金属酸化物とする。
(7)導電性酸化物としては、酸化インジウムを含み、更に水素原子を含有し、水素原子含有量を1%以上10%以下の範囲内の任意の値とする金属酸化物とする。
上記光電変換素子の製造方法は、第2半導体上に第2導電性酸化物薄膜、第1半導体上に第1導電性酸化物薄膜を付着させるステップと、前記第2導電性酸化物薄膜と前記第1導電性酸化物薄膜の接合面が接合界面を形成するように接合するステップとからなる。
また、第2半導体上に第2導電性酸化物薄膜、第1半導体上に第1導電性酸化物薄膜を付着させるステップと、前記第2導電性酸化物薄膜と前記第1導電性酸化物薄膜の表面をイオン照射するステップと、前記第2導電性酸化物薄膜と前記第1導電性酸化物薄膜の接合面が接合界面を形成するように接合するステップとからなるようにしてもよい。
接合前の第1導電性酸化物薄膜および第2導電性酸化物薄膜は、少なくともいずれか一方を非晶質導電性酸化物とする。
また、接合前の第1導電性酸化物薄膜および第2導電性酸化物薄膜は、少なくともいずれか一方の接合界面側の表面に非晶質層を有する。


【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、透明性と導電性を兼ね備えた導電性酸化物薄膜を介した接合技術を用いた、二端子構造とメカニカルスタックを兼ね備えた新しい形態の光電変換素子を実現することができる。ここで透明とは、可視領域の光に対する透明性を示すものではなく、光電変換素子が感度をもつ波長領域に対する透明性を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本発明の光電変換素子の基本構成を示す図である。
【図2】バルク型光電変換素子とバルク型光電変換素子を接合させた本発明の光電変換素子構成を示す図である。
【図3】薄膜型光電変換素子とバルク型光電変換素子を接合させた本発明の光電変換素子のタイプ1構成を示す図である。
【図4】薄膜型光電変換素子とバルク型光電変換素子を接合させた本発明の光電変換素子のタイプ2構成を示す図である。
【図5】薄膜型光電変換素子と薄膜型光電変換素子を接合させた本発明の光電変換素子のタイプ1構成を示す図である。
【図6】薄膜型光電変換素子と薄膜型光電変換素子を接合させた本発明の光電変換素子のタイプ2構成を示す図である。
【図7】ガラスに酸化インジウムを70nm堆積した基板同士を張り合わせたときの写真を示す。
【図8】本発明の接合体の光学スペクトル特性図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の実施の形態を図に基づいて詳細に説明する。
本発明の発明者は、上記目的を達成すべく研究を重ねた結果、導電性酸化物薄膜を利用することにより被接合材料間の透明性・導電性を兼ね備えた接合が可能であることを見出した。導電性酸化物薄膜(水素添加酸化インジウム等)を被接合材料の表面に堆積させ、加熱圧着(加熱温度:約200℃、荷重:約1MPa)することにより、被接合材料を接合することに成功した。
図7はガラスに非晶質が支配的な水素添加酸化インジウムを70nm堆積した基板同士を加熱圧着し、接合したときの写真を示す。
左端部に水素添加酸化インジウム薄膜上のゴミにより接合不良となった箇所(写真では干渉縞により暗く見えている)を除き、良好に接着していることが分かる。
図8は本発明の接合体およびガラス基板、比較試料のガラス上に同導電性酸化物薄膜を70nm堆積し200℃に加熱した基板の光学スペクトル特性図である。
【0009】
この図8の接合体の光学スペクトルにより、
(1)可視および近赤外域において透明性が確保されていること、
(2)接合体の可視〜近赤外域の吸収量は比較試料の吸収量の約2倍であること、
が分かる。可視〜近赤外域の吸収量は導電性酸化物薄膜の自由キャリア吸収による。比較試料の電気特性はホール測定より抵抗率4.3x10−4Ωcm、キャリア濃度1.2x1020cm−3、移動度120cm/Vsであった。接合体は比較試料の2倍の膜厚の導電性酸化物薄膜をもつ。したがって、上記(2)は、接合体の導電性酸化物薄膜は比較試料と同等の電気特性を持っていることを示す。上記を整理すると、両ガラス基板は高い導電性と高い透明性をもつ導電性酸化物薄膜により電気的、光学的、機械的に接合されている。
図8の特性を下記表1に示す。吸収率は[100−透過率―反射率]より求めた。
【0010】
【表1】

【0011】
中間層として用いる導電性酸化物材料としては酸化インジウムに限らずその他の導電性酸化物、例えばSn、Ti,Zr,Hf,Mo,Wなど正四価以上の原子価を有する元素を含む酸化インジウム系金属酸化物、酸化亜鉛系金属酸化物、酸化ガリウム系金属酸化物、酸化錫系金属酸化物、酸化マグネシウム系金属酸化物、酸化カドミウム系金属酸化物、あるいは前記金属酸化物から選択される2種以上の金属酸化物などにも適用可能である。
(光電変換素子)
【0012】
以下に光電変換素子構造の具体例を示す。
(基本構成)
図1は本発明の光電変換素子の基本構成を示す図である。
図1の光電変換素子1は、図の下側から、裏面電極8、第2光電変換基材7、第2導電性酸化物薄膜6、第1導電性酸化物薄膜4、第1光電変換基材3、くし型電極2の順に構成され、第2導電性酸化物薄膜6と第1導電性酸化物薄膜4の接合面が接合界面5を形成する。光電変換基材3、7および導電性酸化物薄膜4、6は積層方向の面が平坦に形成される。
裏面電極8とくし型電極2の形成前あるいは形成後に第1光電変換基材3および光電変換基材7に矢印方向の荷重や熱を加えると、光電変換基材3と光電変換基材7の間の第2導電性酸化物薄膜6と第1導電性酸化物薄膜4とが機械的、電気的、光学的に接合する。ここで機械的接合とは、薄膜成長技術を用い異なる光電変換層を積層させた接合とは異なり、個別に作製した上部光電変換素子部と下部光電変換素子部に荷重や熱を加え、両素子部を接合させることをいう。この例では、下部光電変換素子部は裏面電極8、第2光電変換基材7および第2導電性酸化物薄膜6で構成され、上部光電変換素子部は第1導電性酸化物薄膜4、第1光電変換基材3およびくし型電極2で構成される。
上記光電変換素子1の製造方法は、第2半導体となる第2光電変換基材7上に第2導電性酸化物薄膜6、第1半導体となる第1光電変換基材3上に第1導電性酸化物薄膜4を付着させるステップと、第2導電性酸化物薄膜6と第1導電性酸化物薄膜4の接合面が接合界面5を形成するように接合するステップとからなる。
また、第2半導体となる第2光電変換基材7上に第2導電性酸化物薄膜6、第1半導体となる第1光電変換基材3上に第1導電性酸化物薄膜4を付着させるステップと、第2導電性酸化物薄膜6と第1導電性酸化物薄膜4の表面をイオン照射するステップと、第2導電性酸化物薄膜6と第1導電性酸化物薄膜4の接合面が接合界面5を形成するように接合するステップとから構成することもできる。
また、接合前の第1導電性酸化物薄膜および第2導電性酸化物薄膜は、少なくともいずれか一方を非晶質導電性酸化物とする。
また、接合前の第1導電性酸化物薄膜および第2導電性酸化物薄膜は、少なくともいずれか一方の接合界面側の表面に非晶質層を有する。

これらの製造方法は、以下に述べる各種の光電変換素子および実施例1、2の光電変換素子の製造方法の基本となる。
【0013】
図2はバルク型光電変換素子とバルク型光電変換素子を接合させた本発明の光電変換素子構成を示す図である。
図2の光電変換素子10は、上部光電変換素子部11と、下部光電変換素子部12を接合して構成する。
上部光電変換素子部11は、図の下側から、導電性酸化物薄膜18、p型シリコン層17、p型シリコン基板16、n型シリコン層15、反射防止膜14およびくし型電極13の順に積層して構成する。
下部光電変換素子部12は、図の下側から、裏面電極23、p型シリコン層22、p型シリコン基板21、n型シリコン層20、導電性酸化物薄膜19の順に積層して構成する。
上部光電変換素子部11と下部光電変換素子部12の一体化構造は、上部光電変換素子部11の導電性酸化物薄膜18と下部光電変換素子部12の導電性酸化物薄膜19を接合して構成する。それぞれの膜、層、基板および電極の積層方向の面は平坦に形成される。
上部光電変換素子部と下部光電変換素子部としては、シリコン、ゲルマニウム、シリコンゲルマニウム系IV族光電変換素子が好ましいが、他のIII−V族化合物光電変換素子でも可能である。
【0014】
図2の光電変換素子10における上部光電変換素子部11の導電性酸化物薄膜18は、図1の基本構成の第1導電性酸化物薄膜4に対応し、上部光電変換素子部11の透明導電膜18を除く構成(n型シリコン層15〜p型シリコン層17)は図1の基本構成の第1光電変換基材3に対応する。同じく、図2の光電変換素子10における下部光電変換素子部12の導電性酸化物薄膜19は、図1の基本構成の第2導電性酸化物薄膜6に対応し、下部光電変換素子部12の導電性酸化物薄膜19を除く構成(n型シリコン層20〜p型シリコン層22)は図1の基本構成の第2光電変換基材7に対応する。
換言すると、本発明の基本的な特徴となる、上部と下部の光電変換素子部に分かれる図2の例において、接合する両導電性酸化物薄膜18と19は、基本構成の図1の両第1第2導電性酸化物薄膜4と6に対応し、図2の反射防止膜14とくし型電極13と裏面電極23を除くその他の構成は図1の基本構成のその他の構成になる両光電変換基材3と7に対応することになる。
このこと(上記「本発明の基本的な特徴」)は、以下の図3〜図6までに示す変更した構成の例に共通する特徴である。前記共通する特徴については、以下の各例についての具体的な説明は省略する。
【0015】
図3は薄膜型光電変換素子とバルク型光電変換素子を接合させた本発明の光電変換素子のタイプ1構成を示す図である。
図3の光電変換素子30は、上部光電変換素子部31と、下部光電変換素子部32を接合して構成する。
上部光電変換素子部31は、図の下側から、導電性酸化物薄膜38、n型非晶質シリコン薄膜37、i型非晶質シリコン薄膜36、p型非晶質シリコン薄膜35、透明導電膜34、ガラス基板33の順に積層して構成する。
下部光電変換素子部32は、図の下側から、裏面電極46、透明導電膜45、n型非晶質シリコン薄膜44、i型非晶質シリコン薄膜43、n型シリコン基板42、i型非晶質シリコン薄膜41、p型非晶質シリコン薄膜40、導電性酸化物薄膜39の順に積層して構成する。
上部光電変換素子部31と下部光電変換素子部32の一体化構造は、上部光電変換素子部31の導電性酸化物薄膜38と下部光電変換素子部32の導電性酸化物薄膜39を接合して構成する。それぞれの膜、層、薄膜、基板および電極の積層方向の面は平坦に形成される。
上部光電変換素子部と下部光電変換素子部としては、シリコン、ゲルマニウム、シリコンゲルマニウム系IV族光電変換素子が好ましいが、他のIII−V族あるいはII−VI族あるいはI−III−VI族化合物光電変換素子でも可能である。
【0016】
図4は薄膜型光電変換素子とバルク型光電変換素子を接合させた本発明の光電変換素子のタイプ2構成を示す図である。
図4の光電変換素子50は、上部光電変換素子部51と、下部光電変換素子部52を接合して構成する。
上部光電変換素子部51は、図の下側から、貫通穴68を設けた貫通穴あきガラス基板59の周囲を覆うように形成した導電性酸化物薄膜58、n型非晶質シリコン薄膜57、i型非晶質シリコン薄膜56、p型非晶質シリコン薄膜55、導電性酸化物薄膜54、くし型電極53の順に積層して構成する。
下部光電変換素子部52は、図の下側から、裏面電極67、導電性酸化物薄膜66、n型非晶質シリコン薄膜65、i型非晶質シリコン薄膜64、n型シリコン基板63、i型非晶質シリコン薄膜62、p型非晶質シリコン薄膜61、導電性酸化物薄膜60の順に積層して構成する。それぞれの膜、層、基板および電極の積層方向の面は平坦に形成される。
上部光電変換素子部51と下部光電変換素子部52の一体化構造は、上部光電変換素子部51の透明導電膜58と下部光電変換素子部52の導電性酸化物薄膜60を接合して構成する。
上部光電変換素子部と下部光電変換素子部としては、シリコン、ゲルマニウム、シリコンゲルマニウム系IV族光電変換素子が好ましいが、他のIII−V族あるいはII−VI族あるいはI−III−VI族化合物光電変換素子でも可能である。
【0017】
図5は薄膜型光電変換素子と薄膜型光電変換素子を接合させた本発明の光電変換素子のタイプ1構成を示す図である。
図5の光電変換素子70は、上部光電変換素子部71と、下部光電変換素子部72を接合して構成する。
上部光電変換素子部71は、図の下側から、導電性酸化物薄膜78、p型シリコン系薄膜77、i型シリコン系薄膜76、n型シリコン系薄膜75、導電性酸化物薄膜74、くし型電極73の順に積層して構成する。
下部光電変換素子部72は、図の下側から、ガラス基板84、裏面電極83、p型カルコパイライト系半導体薄膜82、バッファー層81、n型酸化物薄膜80、導電性酸化物薄膜79の順に積層して構成する。それぞれの膜、薄膜、層、基板および電極の積層方向の面は平坦に形成される。
上部光電変換素子部71と下部光電変換素子部72の一体化構造は、上部光電変換素子部71の導電性酸化物薄膜78と下部光電変換素子部72の導電性酸化物薄膜79を接合して構成する。
上部光電変換素子部と下部光電変換素子部としては、シリコン、ゲルマニウム、シリコンゲルマニウム系IV族光電変換素子とI−III−VI族化合物光電変換素子が好ましいが、他のIII−V族あるいはII−VI族化合物光電変換素子でも可能である。
【0018】
図6は薄膜型光電変換素子と薄膜型光電変換素子を接合させた本発明の光電変換素子のタイプ2構成を示す図である。
図6の光電変換素子90は、上部光電変換素子部91と、下部光電変換素子部92を接合して構成する。
上部光電変換素子部91は、図の下側から、導電性酸化物薄膜98、n型シリコン系薄膜97、i型シリコン系薄膜96、p型シリコン系薄膜95、導電性酸化物薄膜94、くし型電極93の順に積層して構成する。
下部光電変換素子部92は、図の下側から、裏面電極104、導電性酸化物薄膜103、n型シリコン系薄膜102、i型シリコン系薄膜101、p型シリコン系薄膜100、導電性酸化物薄膜99の順に積層して構成する。それぞれの膜、薄膜および電極の積層方向の面は平坦に形成される。
上部光電変換素子部91と下部光電変換素子部92の一体化構造は、上部光電変換素子部91の導電性酸化物薄膜98と下部光電変換素子部92の導電性酸化物薄膜99を接合して構成する。
上部光電変換素子部と下部光電変換素子部としては、シリコン、ゲルマニウム、シリコンゲルマニウム系IV族光電変換素子が好ましいが、他のIII−V族あるいはII−VI族あるいはI−III−VI族化合物光電変換素子でも可能である。
【実施例1】
【0019】
以下に説明する実施例1、2の諸データは下記の表2に示す。
接合基材として導電性酸化物薄膜を約70nm堆積したガラスあるいはシリコン基板を用いる。導電性酸化物薄膜としては、水素添加酸化インジウム又は多結晶水素添加酸化インジウムを用いた。RFマグネトロンスパッタ法を用いて、原料ターゲットは酸化インジウム焼結体、基板温度は室温、ArとOとHOの混合雰囲気(全圧約0.5Pa、Ar分圧4.98×10−1Pa、O分圧2×10−3Pa、O分圧1×10−4Pa)下において水素添加酸化インジウム薄膜を作製した。作製した薄膜はx線回折測定により非晶質が支配的であった。また、この薄膜を真空中において200℃において2時間アニール処理を行うことにより固相結晶化させ、多結晶水素添加酸化インジウム薄膜を作製した。水素前方散乱分析測定により、いずれの薄膜にも約3原子%の水素が含まれていた。
上記導電性酸化物薄膜表面をアルゴンあるいは酸素雰囲気(全圧約10Pa)下において120秒間プラズマ処理し、表面にイオンを照射させ、大気中において両者を重ね合わせた。重ね合わせた試料を160℃に加熱したホットプレス機に置き、約1〜6MPaの荷重を加えた。なお、1MPa=1N(ニュートン)/mmとなる。
その後、10分間保持し、プレス機の温度を約5分間かけて180℃に昇温し、10分間保持、その後、プレス機の温度を約5分間かけて200℃に昇温し、10分間保持した。
【0020】
その後、荷重を加えた状態で自然空冷し、試料を取り出した。
表2に作製したサンプルの表面プラズマ処理時のガスの種類、接合温度、基板の種類、導電性酸化物薄膜の種類、荷重、接合可否を示す。表中のa−IOH、a−ITO、poly−IOH、poly−ITOはそれぞれ非晶質が支配的な水素添加酸化インジウム薄膜、非晶質が支配的な酸化インジウム錫薄膜、多結晶水素添加酸化インジウム薄膜、多結晶酸化インジウム錫薄膜を示す。
非晶質が支配的な水素添加酸化インジウム薄膜同士、および非晶質が支配的な水素添加酸化インジウム薄膜と多結晶水素添加酸化インジウム薄膜を接触させ、加熱圧着することにより、接合していることが分かる。また、約1〜6MPaの荷重において接合していること、ガラス、シリコン基板ともに接合していることがわかる。
非晶質水素添加酸化インジウム薄膜は、基板温度150℃以上において結晶化する。これらの結果は、接合界面における結晶化に伴う接合であることを示唆している。
【実施例2】
【0021】
導電性酸化物薄膜としては、水素添加酸化インジウムおよび水素添加酸化インジウム錫を用いた。RFマグネトロンスパッタ法を用いて、原料ターゲットは酸化インジウム錫(酸化錫10重量%含)焼結体、基板温度は室温、ArとOの混合雰囲気(全圧約1mTorr、Ar流量200sccm、O流量0.75sccm)下において酸化インジウム錫薄膜を作製した。作製した薄膜はx線回折測定により非晶質が支配的であった。また、この薄膜を真空中において200℃において2時間アニール処理を行うことにより固相結晶化させ、多結晶酸化インジウム錫薄膜を作製した。水素添加酸化インジウム薄膜の作製条件、接合基材、透明導電膜の膜厚、透明導電膜表面のイオン照射処理、接合方法は実施例1と同じである。
表2に作製したサンプルの表面処理時のガスの種類、接合温度、基板の種類、透明導電膜の種類、荷重、接合可否を示す。非晶質が支配的な水素添加酸化インジウム薄膜と多結晶酸化インジウム錫薄膜、および非晶質が支配的な酸化インジウム錫薄膜と多結晶酸化インジウム錫薄膜では接合していることが分かる。非晶質酸化インジウム錫薄膜は、基板温度150℃以上において結晶化する。このことは、実施例1と同様に、接合界面における結晶化に伴う接合であることを示唆している。
【0022】
接合機構としては、接合界面における非晶質層の固相結晶化が考えられるため、接合前に形成する導電性酸化物薄膜としては、結晶化したときに同じ結晶構造をもつ非晶質が支配的な導電性酸化物薄膜同士、あるいは結晶質が支配的な導電性酸化物薄膜と結晶化したときに同じ結晶構造をもつ非晶質が支配的な導電性酸化物薄膜の組み合わせが適用可能である。また、結晶質が支配的な導電性酸化物薄膜同士の組み合わせにおいても、接合前にイオン照射により少なくとも一方の導電性酸化物薄膜の表面近傍に結晶構造を乱した非晶質が支配的な層を形成することにより接合が可能である。接合部の導電性酸化物薄膜の組成としては、実施例1および実施例2に示した組成の酸化インジウム系透明導電膜に限定されるものではなく、結晶化時においてビックスバイト構造を有する酸化インジウムを主体とした透明導電膜全てにおいて適用可能である。
また、結晶化時の構造としてはビックスバイト構造に限定されるものではなく、その他の結晶構造をもつ酸化錫を主体とした金属酸化物、酸化亜鉛を主体とした金属酸化物、酸化ガリウムを主体とした金属酸化物、酸化マグネシウムを主体とした金属酸化物、酸化カドミウムを主体とした金属酸化物、あるいは上記金属酸化物を2種以上含む金属酸化物も適用可能である。

【0023】
【表2】



【0024】
上記表2を整理すると、接合した結果が可(実用上問題がない範囲に入っている)になる条件は、
(1)表面プラズマ処理時の雰囲気はアルゴン又は酸素、
(2)接合温度は160−200℃の間
(3)基板1がガラス、基板2がシリコン又はガラス、
(4)導電性酸化物薄膜1がa−IOH又はa−ITO、導電性酸化物薄膜2がa−IOH、 poly−IOH、poly−ITOとなる。
加熱圧着により非晶質/非晶質および非晶質/結晶質の組み合わせでは接合することから接合界面における非晶質層の固相結晶化に伴う接合であることが示唆される。
【0025】
非晶質が支配的な水素添加酸化インジウム薄膜同士、および非晶質が支配的な水素添加酸化インジウム薄膜と多結晶水素添加酸化インジウム薄膜を接触させ、加熱圧着することにより、接合していることが分かる。また、約1〜6MPaの荷重において接合していること、ガラス、シリコン基板ともに接合していることがわかる。
非晶質が支配的な水素添加酸化インジウム薄膜と多結晶酸化インジウム錫薄膜、および非晶質が支配的な酸化インジウム錫薄膜と多結晶酸化インジウム錫薄膜では接合する。
接合界面に形成する導電性酸化物薄膜としては、結晶化したときに同じ結晶構造をもつ非晶質が支配的な導電性酸化物薄膜同士、あるいは結晶質が支配的な透明導電膜と結晶化したときに同じ結晶構造をもつ非晶質透明導電膜の組み合わせが適用可能である。また、結晶質が支配的な導電性酸化物薄膜同士の組み合わせにおいても、接合前にイオン照射により少なくとも一方の導電性酸化物薄膜の表面近傍に結晶構造を乱した非晶質が支配的な層を形成することにより接合が可能である。

【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、電気・光学的機能を有する異種半導体を、導電性酸化物薄膜を介して接合させることにより、各半導体の機能を併せ持つ新規なデバイスを提供する。例えば、分光感度の異なる光電変換層を導電性酸化物を介して接合させることにより、広い波長領域において感度を有する高効率光電変換素子の作製が可能となる。
【符号の説明】
【0027】
1、10、30、50、70、90 光電変換素子
2、13、53、73、93 くし型電極
4、6、18、19、34、38、39、45、54、58、60、66、74、78、79、94、98、99、103 導電性酸化物薄膜
5 接合界面
3、7 光電変換基材
8、23、46、67、83,104 裏面電極
11、31、51、71、91 上部光電変換素子部
12、32、52、72、92 下部光電変換素子部
14 反射防止膜
15、20 n型シリコン層
16、21 p型シリコン基板
17、22 p型シリコン層
33、59、84 ガラス基板
35、40、55、61 p型非晶質シリコン薄膜
36、41、43、56、62、64 i型非晶質シリコン薄膜
37、44、57、65 n型非晶質シリコン薄膜
42、63 n型シリコン基板
68 貫通穴
75、97、102 n型シリコン系薄膜
76、96、101 i型シリコン系薄膜
77、95、100 p型シリコン系薄膜
80 n型酸化物薄膜
81 バッファー層
82 p型カルコパイライト系半導体薄膜





【特許請求の範囲】
【請求項1】
第2半導体、第2導電性酸化物薄膜、第1導電性酸化物薄膜、第1半導体の順の構造を有し、第2導電性酸化物薄膜と第1導電性酸化物薄膜の接合面が接合界面を形成するように第2半導体と第1半導体を機械的接合していることを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
前記第2導電性酸化物薄膜および前記第1導電性酸化物薄膜は互いに同じ結晶構造をもつことを特徴とする請求項1記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記第2導電性酸化物薄膜および前記第1導電性酸化物薄膜を、
酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化マグネシウム、および酸化カドミウムから選択される1種あるいは2種以上を含む金属酸化物の導電性酸化物としたことを特徴とする請求項1記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記第2導電性酸化物薄膜および前記第1導電性酸化物薄膜を、
酸化インジウム、酸化錫、酸化亜鉛、酸化ガリウム、酸化マグネシウム、および酸化カドミウムから選択される1種あるいは2種以上を含む金属酸化物からなり、更に水素原子を含有し、水素原子含有量を1%以上10%以下の範囲内の任意の値とする金属酸化物の導電性酸化物としたことを特徴とする請求項1記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記第2導電性酸化物薄膜および前記第1導電性酸化物薄膜を、
酸化インジウムを含み、ビックスバイト構造を示す金属酸化物
の導電性酸化物としたことを特徴とする請求項1記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記第2導電性酸化物薄膜および前記第1導電性酸化物薄膜を、
酸化インジウムを含み、更にインジウム元素に対して10原子%以下の任意の値の正四価以上の原子価を有する第二の元素を含む金属酸化物の導電性酸化物としたことを特徴とする請求項1記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記第二の元素をSn、Ti,Zr,Hf,Mo,Wの内の任意のものとしたことを特徴とする請求項6記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記導電性酸化物を、酸化インジウムを含み、更に水素原子を含有し、水素原子含有量を1%以上10%以下の範囲内の任意の値としたことを特徴とする請求項1乃至7のいずれか1項記載の光電変換素子。
【請求項9】
第2半導体上に第2導電性酸化物薄膜、第1半導体上に第1導電性酸化物薄膜を付着させるステップと、前記第2導電性酸化物薄膜と前記第1導電性酸化物薄膜の接合面が接合界面を形成するように接合するステップとからなることを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項10】
第2半導体上に第2導電性酸化物薄膜、第1半導体上に第1導電性酸化物薄膜を付着させるステップと、前記第2導電性酸化物薄膜と前記第1導電性酸化物薄膜の表面をイオン照射するステップと、前記第2導電性酸化物薄膜と前記第1導電性酸化物薄膜の接合面が接合界面を形成するように接合するステップとからなることを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項11】
前記第2導電性酸化物薄膜および前記第1導電性酸化物は少なくともいずれか一方を非晶質導電性酸化物薄膜としたことを特徴とする請求項9又は請求項10記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項12】
前記第2導電性酸化物薄膜および前記第1導電性酸化物薄膜は少なくともいずれか一方の表面に非晶質層を有する導電性酸化物薄膜としたことを特徴とする請求項9又は請求項10記載の光電変換素子の製造方法。





【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−186822(P2010−186822A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28871(P2009−28871)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギー技術研究開発/革新的太陽光発電技術研究開発(革新型太陽電池国際研究拠点整備事業)/高度秩序構造を有する薄膜多接合太陽電池の研究開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】