説明

光電変換素子とその光電変換素子を用いた光発電装置

【課題】 安価で無害な天然色素であるベニコウジ黄色素を使用することで、色素増感現象により光電変換特性を向上させた光電変換素子を提供する。
【解決手段】 光電変換素子1は、一主面に透光性基板2と、透光性基板2上に形成された透光性導電層3と、透光性導電層3上に形成された多孔質半導体層4と、多孔質半導体層4上に配置されたベニコウジ黄色素5と、透光性基板2と透光性導電層3と多孔質半導体層4とベニコウジ黄色素5とで形成された光電変換層6と、この光電変換層6と間隔をあけて対向するよう配置された対極12と、光電変換層6と対極12との間に設けられた電荷輸送層(電解質層)7と、光電変換層6と電荷輸送層7と対極12の周囲を取り囲んで形成された封止部材8とで形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い光電変換効率が得られ、量産に適し、しかも低コストに製造可能な光電変換素子およびその光電変換素子を用いた光発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
我々の高度な文化生活は資源によって支えられているが、長期間によって使い続けてきた資源は枯渇してきている。石油・天然ガスの可採年数はそれぞれ45年・64年と言われている。このように使えば補うことができない化石燃料の問題など、森林資源の減少による地球環境の問題などの人類が未来のために解決しなければならない問題が発生している。そこで、再生可能な自然エネルギー資源である太陽光、風力、波力、および地熱などが注目されている。これらのエネルギー資源は、化石燃料などに比べて、枯渇の心配がない、資源量が多い、環境への負荷が小さいなどの特徴がある。特に、自然エネルギーの中でも太陽光は、地球に降り注ぐ総エネルギー量が他の再生可能エネルギーに比べて数ケタ大きく、地球上のどこででも利用可能なことから注目が集まっている。しかし、従来の太陽電池発電システムは非常に高額で、政府の補助無しでは普及出来ない状態である。低価格な次世代太陽電池の開発は人類の損方に対し急務である。
【0003】
ところで、低コストの太陽電池として色素増感型太陽電池に注目があつまっている。色素増感型太陽電池は、グレッツェル電池とも呼ばれ、1988 年にスイスのグレッツェル博士らが開発したもので、従来のシリコン太陽電池に代わる次世代の太陽光発電と期待されている。色素増感型電池は、色素を使って太陽の光を電気に変えるといった、安価で電気への変換効率も高い新しいタイプの太陽電池である。また、製作に大掛かりな設備を必要とせず、低コストの太陽電池として期待され研究開発がなされている。
【0004】
上記のような色素増感型太陽電池に関する先行技術として、つぎのような文献がある。
【0005】
色素増感型太陽電池において、光電変換材料には、半導体表面に可視光領域に吸収を持つ分光増感色素を吸着させたものが用いられている。例えば、金属酸化物半導体の表面に、遷移金属錯体等の分光増感色素層を有する太陽電池を記載しているもの(例えば、特許文献1参照)、また、金属イオンでドープした酸化チタン半導体層の表面に、遷移金属錯体等の分光増感色素層を有する太陽電池を記載しているもの(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平1−220380号公報
【特許文献2】特表平5−504023号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
高効率の色素増感型太陽電池のための色素には、Ru錯体色素が使用されているが、Ru金属は高額なために、それを使用した色素増感型太陽電池の低コスト化を妨げている。そこで、Ru金属を使用しない色素の開発が急務である。
【0008】
Ru色素以外の選択肢としては、金属錯体を使用しない有機色素を使う方法が考えられる。2009年9月現在では、日本の三菱製紙(株)が変換効率9.5%を記録する有機色素を、また中国のPeng Wang博士が変換効率9.8%を記録する有機色素を報
告している。
【0009】
しかし、有機色素も合成過程が複雑であればやはり高額となるため、より安価な方法で色素を製造するプロセスが必要である。また、有害な試薬を使用することが多く、環境負荷も大きいことが問題である。
【0010】
そこで考えられたことが、バイオプロセスによる色素の製造である。生物が育つ過程はプロセスの多い有機色素の合成のように複雑ではなく、また無毒なプロセスで目的とする生物が育成する。さらに、必要な段階になったところで乾燥・破砕・抽出を行うだけなので、非常に簡便なプロセスである。このバイオプロセスによる色素の合成は、色素増感型太陽電池製造が大規模プロセスになった場合、安全・安価なプロセスとして非常に重要である。
【0011】
従って、本発明は、上記従来の問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、天然有機色素を使用して色素増感型太陽電池の光電変換特性を向上させた光電変換素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の光電変換素子は、一主面に透光性基板と、この透光性基板上に形成された透光性導電層と、この透光性導電層上に形成された多孔質半導体層と、この多孔質半導体層上に配置されたベニコウジ黄色素と、このベニコウジ黄色素と多孔質半導体で形成された光電変換層と、この光電変換層と間隔をあけて対向するよう配置された対極と、前記光電変換層と前記対極との間に設けられた電荷輸送層と、前記光電変換層と前記電荷輸送層と対極の周囲を取り囲んで形成された封止部材とで形成されていることを特徴とするものである。
【0013】
本発明の光電変換素子は請求項2に記載のように、前記透光性基板が、透明なガラス板またはプラスチック板から成ることが好ましい。
【0014】
本発明の光電変換素子は請求項3に記載のように、前記透光性導電層が、フッ素ドープ錫酸化物、インジウム錫酸化物、ガリウムドープ亜鉛酸化物、アルミドープ亜鉛酸化物、またはニオブドープチタン酸化物から成ることが好ましい。
【0015】
本発明の光電変換素子は請求項4に記載のように、前記多孔質半導体層が、TiO、WO、ZnO、Nb、Ta、またはSrTiOから成ることが好ましい。
【0016】
また本発明の光電変換素子は請求項5に記載のように、沃化物、コバルト錯体、鉄錯体、CuI、CuSCN、または有機ホール輸送材から成ることが好ましい。
本発明の光電変換素子は請求項6に記載のように、使用される触媒層が、白金,パラジウム,ロジウム,カーボンまたはポリチオフェンから成ることが好ましい。
【0017】
本発明の光電変換素子は請求項7に記載のように、請求項1〜6のいずれか1項に記載の前記光電変換素子を発電手段として用い、前記発電手段の発電電力を負荷へ供給するように成すことができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の光電変換素子は、一主面に透光性基板と、透光性基板上に形成された透光性導電層と、透光性導電層上に形成された多孔質半導体層と、多孔質半導体層上に配置されたベニコウジ黄色素と、上記ベニコウジ黄色素と多孔質半導体で形成された光電変換層と間
隔をあけて対向するよう配置された対極と、光電変換層と対極との間に設けられた電荷輸送層と、光電変換層と電荷輸送層と対極の周囲を取り囲んで形成された封止部材とで形成されていることから、前記ベニコウジ黄色素が吸収した光エネルギーを電気エネルギーに効率良く変換することが出来る。
【0019】
また、本発明の本発明の光電変換素子は好ましくは、透光性基板をガラスまたはプラスチックから構成することにより、前記透光性基板が光をベニコウジ黄色素に導入するための窓層となり得る。
【0020】
また、本発明の本発明の光電変換素子は好ましくは、透光性導電層をフッ素ドープ錫酸化物、インジウム錫酸化物、ガリウムドープ亜鉛酸化物、アルミドープ亜鉛酸化物またはニオブドープチタン酸化物から構成することにより、前記透光性導電層がベニコウジ黄色素に導入するための窓層となり、かつベニコウジ黄色素から得られた電力を効率的に取り出すことができる。
【0021】
また、本発明の本発明の光電変換素子は好ましくは、多孔質半導体層をTiO、WO、ZnO、Nb、TaまたはSrTiOから構成することにより、前記多孔質半導体層がベニコウジ黄色素をその表面に効率的に吸着担持し、かつ透光性であるためにベニコウジ黄色素に光を導入するための窓層となり、かつベニコウジ黄色素から効率良く電子を受け取る電極となる。
【0022】
また、本発明の本発明の光電変換素子は好ましくは、電荷輸送層を沃化物、コバルト錯体、鉄錯体、CuI、CuSCNまたは有機ホール輸送材から構成することにより、前記多孔質半導体層に電子を渡したベニコウジ黄色素に効率良く電子を導入することができる。
【0023】
さらに、本発明の本発明の光電変換素子は好ましくは、対極に使用される触媒層を白金,パラジウム,ロジウム,カーボンまたはポリチオフェンから構成することにより、電子を電荷輸送層に効率良く供給することができる。
また、本発明の光発電装置は、上記本発明の光電変換素子を発電手段として用い、発電手段の発電電力を負荷へ供給するようにしたことから、光電変換特性が向上したものとなる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の光電変換素子について実施の形態の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の光電変換素子について用いられたベニコウジ黄色素の構造式である。ただし、ベニコウジ黄色素は図面内部の二つの構造異性体をもつ混合物である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
図1に示すように、1は光電変換素子、2は透明なガラス板やプラスチック板から成る透光性基板、3はITO(スズドープインジウム酸化物)層もしくはFTO(フッ素ドープスズ酸化物)層等から成る透光性導電層、4は多孔質の半導体層、5はベニコウジ黄色素、6は透光性基板2と透光性導電層3と多孔質半導体層4とベニコウジ黄色素5とを備えた光電変換電極、7は電荷輸送層(電解質層)、8は封止部材、9は触媒層、10は透光性導電層、11は基板、12は触媒層9と透光性導電層10と基板11とを備えた対極としての光電変換電極である。なお、Sは太陽光である。
【0026】
光電変換素子1は、図1に示すように一主面としての上面側に、本実施形態では透明なガラス板からなる透光性基板2が配置され、この透光性基板2の底面に透光性導電層3が形成されている。透光性基板2および透光性導電層3を含んで上面側の光電変換電極6が構成され、この光電変換電極6に対し一定間隔をあけて下面側に対向するように配置され
た光電変換電極としての対極12が設けられている。対極としての光電変換電極12は透明なガラス板からなる透光性を有する基板あるいは透光性のない基板11が配置され、この基板11の底面に透光性導電層10が形成され、透光性導電層10上には触媒層9が配装されている。これらの光電変換電極6と12の間には電荷輸送層7が設けられ、この電荷輸送層7は光電変換電極6・12の長手方向に沿って一定距離ごとに封止部材8により分離されている。透光性導電層3の下面側の電荷輸送層7中には、多数の球体状の多孔質半導体層4が配置されている。そして、各半導体層4の球面上に多数(例えば数十個)のベニコウジ黄色素5が吸着担持されている。なお、導電層10には金属箔などの透光性を具備しない導電層を用いてもよい。
【0027】
本実施形態の光電変換素子1は上記の構成により、ベニコウジ黄色素5からその多孔質半導体層4を通じ透光性導電層3に向かって電子が移動し、酸化状態のベニコウジ黄色素5に対して電子が導電層3から触媒層9および電荷輸送層7を通じて供給されることから、高い光電変換効率を達成できる。
【0028】
ここで、ベニコウジ黄色素5は、図2に示すとおり、2種の構造異性体である色素の混合物として、紅麹から抽出される天然色素である。
【0029】
透光性基板2は、上記したとおり透明なガラス板やプラスチック板から成り、厚みは0.1〜5mm程度である。
【0030】
透光性導電層3は、ITO,酸化スズ等から成り、厚みは0.3〜2μm程度がよい。0.3μm未満では、シート抵抗が高くなり、光電変換素子1のシリーズ抵抗が高くなるため、FF特性が悪くなる傾向があるからである。一方、2μmを超えると、透光性導電層3の表面の凹凸が第1導電型非晶質シリコン半導体層4の厚みよりも大きくなり、第1導電型非晶質シリコン半導体層4で透光性導電層3の全面を安定してカバーするのが困難となる傾向がある。透光性導電層3は、CVD法、スパッタリング法、スプレー法等によって形成される。
【0031】
図1に示す光電変換電極6は、透光性基板2と、その上に形成された透光性導電層3と、その上に形成された、ベニコウジ黄色素5で増感された多孔質の半導体層(色素増感型光電変換体)4を有する。
【0032】
多孔質の半導体層4の材料や組成としては、酸化チタン(TiO)が最適であり、他の材料としては、チタン(Ti),亜鉛(Zn),スズ(Sn),ニオブ(Nb),インジウム(In),イットリウム(Y),ランタン(La),ジルコニウム(Zr),タンタル(Ta),ハフニウム(Hf),ストロンチウム(Sr),バリウム(Ba),カルシウム(Ca),バナジウム(V),タングステン(W)等の金属元素の少なくとも1種以上の金属酸化物半導体がよく、また窒素(N),炭素(C),弗素(F),硫黄(S),塩素(Cl),リン(P)等の非金属元素の1種以上を含有していてもよい。酸化チタン等はいずれも電子エネルギーバンドギャップが可視光のエネルギーより大きい2〜5eVの範囲にあり、好ましい。また、多孔質の半導体層4は、電子エネルギー準位においてその伝導帯がベニコウジ黄色素5の伝導帯よりも低いn型半導体がよい。
【0033】
多孔質の半導体層4としては、二酸化チタン等からなるとともに内部に微細な空孔(空孔径が好ましくは10〜40nm程度のものであり、22nmのときに光電変換効率がピークを示す)を多数有する多孔質のn型酸化物半導体層等であるのがよい。多孔質の半導体層10の空孔径が10nm未満の場合、ベニコウジ黄色素5の浸透および吸着が阻害され、十分なベニコウジ黄色素5の吸着量が得られにくく、また、電解質の拡散が妨げられるために拡散抵抗が増大することから、光電変換効率が低下する傾向がある。40nmを
超えると、多孔質の半導体層4の比表面積が減少するため、ベニコウジ黄色素5の吸着量を確保するためには厚みを厚くしなければならなくなり、厚みを厚くしすぎると光が透過しにくくなり、ベニコウジ黄色素5が光を吸収できないこと、また、多孔質の半導体層4に注入された電荷の移動距離が長くなるため電荷の再結合によるロスが大きくなること、さらに、電解質の拡散距離も増大するため拡散抵抗が増大することから、やはり光電変換効率が低下する傾向がある。
【0034】
多孔質の半導体層4は、粒状体、または針状体,チューブ状体,柱状体等の線状体またはこれら種々の線状体が集合してなるものであって、多孔質体であることにより、ベニコウジ黄色素5を吸着する表面積が増え、光電変換効率を高めることができる。多孔質の半導体層4は、空孔率が20〜80%、より好適には40〜60%である多孔質体であるのがよい。多孔質化により、緻密体である場合と比較して、光作用極層としての表面積を1000倍以上に高めることができ、光吸収と光電変換と電子伝導を効率よく行うことができる。
【0035】
なお、多孔質の半導体層4の空孔率は、ガス吸着測定装置を用いて窒素ガス吸着法によって試料の等温吸着曲線を求め、BJH(Barrett-Joyner-Halenda)法,CI(Chemical
Ionization)法,DH(Dollimore-Heal)法等によって空孔容積を求め、これと試料の粒子密度から得ることができる。
【0036】
多孔質の半導体層4の形状は、その表面積が大きくなりかつ電気抵抗が小さいのがよく、例えば微細粒子もしくは微細線状体からなるのがよい。その平均粒径もしくは平均線径は5〜500nmであるのがよく、より好適には10〜200nmがよい。ここで、平均粒径もしくは平均線径の5〜500nmにおける下限値は、これ未満になると材料の微細化ができず、上限値は、これを超えると接合面積が小さくなり、光電流が著しく小さくなることによる。
【0037】
また、半導体層4を球状の多孔質体とすることにより、この半導体層4の球面上にベニコウジ黄色素5を吸着させて担持することにより、色素増感型光電変換体としての表面が凹凸状となり、光閉じ込め効果をもたらして、光電変換効率をより高めることができる。
【0038】
また、多孔質の半導体層4の厚みは1〜50μmが好ましく、より好適には10〜30μmがよい。ここで、1〜50μmにおける下限値はこれより厚みが小さくなると、光電変換作用が著しく小さくなって実用に適さず、上限値はこれを超えて厚みが厚くなると、光が透過しなくなって光が入射しにくくなることによる。
【0039】
例えば多孔質の半導体層4が酸化チタンからなる場合、以下のようにして形成される。まず、TiOのアナターゼ粉末にアセチルアセトンを添加した後、脱イオン水とともに混練し、界面活性剤で安定化させた酸化チタンのペーストを作製する。作製したペーストをドクターブレード法やバーコート法等によって、透光性基板2上の透光性導電層3上に一定速度で塗布し、大気中で300〜600℃、好適には400〜500℃で、10〜60分、好適には20〜40分加熱処理することにより、多孔質の半導体層4を形成する。この手法は簡便であり、好ましい。
【0040】
多孔質の半導体層4の低温成長法としては、電析法、泳動電着法、水熱合成法等が好ましく、電子輸送特性を高めるための後処理としては、マイクロ波処理、CVD法によるプラズマ処理や熱触媒処理等、UV照射処理等がよい。低温成長法による多孔質の半導体層4としては、電析法による多孔質ZnO層、泳動電着法による多孔質TiO層等からなるものがよい。
【0041】
また、多孔質の半導体層4の多孔質体の表面に、TiCl処理、即ちTiCl、溶液に70℃度で30分間浸漬し、水洗し、450℃で30分間焼成する処理を施すとよく、電子電導性がよくなって光電変換効率が高まる。
【0042】
また、多孔質の半導体層4と透光性導電層3の間に、n型酸化物半導体から成る極薄(厚み200nm程度)の緻密層を挿入するとよく、逆電流が抑制できるので光電変換効率が高まる。
【0043】
また、多孔質の半導体層4は、酸化物半導体微粒子の焼結体から成るとともに、酸化物半導体微粒子の平均粒径が透光性基板3側より厚み方向に漸次大きくなっていることが好ましく、例えば多孔質の半導体層4が酸化物半導体微粒子の平均粒径が異なる2層の積層体からなるものとするのがよい。具体的には、透光性導電層3側に平均粒径が小さい酸化物半導体微粒子を用い、対極12側に平均粒径が大きい酸化物半導体微粒子(散乱粒子)を用いることで、平均粒径が大きい多孔質の半導体層4によって光散乱と光反射による光閉じ込め効果が生じ、光電変換効率を高めることができる。
【0044】
より具体的には、平均粒径が小さい酸化物半導体微粒子として、平均粒径が約20nmのものを100wt%(重量%)使用し、平均粒径が大きい酸化物半導体微粒子として、平均粒径が約10nmのものを10wt%及び平均粒径が約400nmのものを90wt%混合して使用すればよい。これらの重量比、平均粒径、それぞれの膜厚を変えることによって、最適な光閉じ込め効果が得られる。また、積層数を2層から3層以上の複数層に増やしたり、これらの境界が生じないように塗布形成したりすることにより、平均粒径を透光性導電層3側から厚み方向に漸次大きくなるように形成することができる。
【0045】
多孔質の半導体層4にベニコウジ黄色素5を吸着させる方法としては、例えば透光性基板3上に形成された多孔質の半導体層4を、ベニコウジ黄色素5を溶解した溶液に浸漬する方法が挙げられる。
【0046】
多孔質の半導体層4にベニコウジ黄色素5を吸着させる際のベニコウジ黄色素5を溶解させる溶液の溶媒としては、水、エタノール等のアルコール類,アセトン等のケトン類,ジエチルエーテル等のエーテル類,アセトニトリル等の窒素化合物等を1種または2種以上混合したものが挙げられる。溶液中の色素5の濃度は5×10-5〜2×10-3mol/l(l(リットル):1000cm3)程度が好ましい。
【0047】
多孔質の半導体層4にベニコウジ黄色素5を吸着させる際のベニコウジ黄色素5を溶解させる溶液への吸着添加剤として、酢酸、硝酸、塩酸、硫酸、等の酸が添加されていることが好ましい。溶液中の酸の濃度は0.02〜10重量パーセント程度が好ましい。
【0048】
多孔質の半導体層4にベニコウジ黄色素5を吸着させる際、溶液および雰囲気の温度の条件は特に限定するものではなく、例えば、大気圧下もしくは真空中、室温もしくは加熱の条件が挙げられる。ベニコウジ黄色素5の吸着にかける時間はベニコウジ黄色素5および溶液の種類、溶液の濃度、ベニコウジ黄色素5の溶液の循環量等により適宜調整することができる。これにより、ベニコウジ黄色素5を多孔質の半導体層4に吸着させることができる。
【0049】
封止部材8は、厚み(高さ)が1〜1000μm程度であることが好ましい。1μm未満では、多孔質半導体層4の厚みよりも薄くなってしまうため、対極12と共に電荷輸送層7を封止することが難しくなる。1000μmを超えると、電荷輸送層7が厚くなりすぎて内部抵抗が増加することにより、光電変換素子1の光電変換効率が低下する傾向があるからである。
【0050】
封止部材8は、ポリエチレン,ポリプロピレン,エポキシ樹脂,フッ素樹脂またはシリコーン樹脂等の樹脂接着剤、もしくはガラスフリット,セラミックス等の無機接着剤からなる。
【0051】
封止部材8によって電荷輸送層7を封止することから、光電変換素子1の光照射および高温加熱に対する耐久性及び信頼性を有効に保持できる。即ち、電荷輸送層7が光照射および高温加熱によって光電変換素子から漏出するのを有効に抑えることができる。
【0052】
また、電荷輸送層7は液状電解質もしくはゲル状電解質であることがよい。電荷の輸送特性に優れる液状電解質もしくはゲル状電解質を用いることによって、光電変換効率が向上する。また、電荷輸送層7は、ポリマー電解質等の固体電解質、ポリチオフェン・ポリピロール,ポリフェニレンビニレン等の導電性ポリマー、またはフラーレン誘導体,ペンタセン誘導体,ペリレン誘導体,トリフェニルジアミン誘導体等の有機分子電子輸送剤から成るものであってもよい。
【0053】
また、電荷輸送層7は、ヨウ素/ヨウ化物塩,臭素/臭化物塩,コバルト錯体およびフェロシアン化カリウム等を含む。
【0054】
電荷輸送層7の厚みは0.001〜500μm程度がよい。0.001μm未満では、光電変換電極6側と対極12側が接してショートするおそれがある。500μmを超えると、抵抗成分である電荷輸送層7の増加による光電変換効率の低下を招き易く、また、電荷輸送層7が液状電解質である場合、液体部分の増量による封止の不具合が生じ易い。
【0055】
Pt等から成る触媒層9は、その好適な厚みが0.5〜20nm程度と非常に薄いものであるため、図1に示すように、複数の島状に形成される。
【0056】
触媒層9は、導電層3上に複数の島状に形成されるが、その厚みは0.5〜100nm程度がよい。0.5nm未満では、島状の触媒層7同士の間の距離が離れすぎて、触媒効果が得られにくくなる。
【0057】
また、本実施形態の光電変換素子1は、触媒層9が、白金,パラジウム,ロジウム,カーボンまたはポリチオフェンから成ることがよい。これらの材料は、電荷輸送層7に対して過電圧の低い触媒である。過電圧を下げる触媒層9は、電荷輸送層7と透光性導電層10との電荷の授受を容易にするための層であり、電荷輸送層7と透光性導電層10とのオーミック接合を確保するための層である。なお、過電圧とは、光電変換素子1を動作させるために最初に印加する大きな電圧のことをいう。
【0058】
また、本実施形態の光電変換素子1は、図1に示すように、対極12が、導電層10を具備した基板11と、この基板11上に形成された触媒層9を有していることが好ましい。この場合、対極12の出力を、触媒層9を通じて導電層10側に効率的に取り出すことができる。導電層10を具備した基板11が金属基板から成る場合、チタン,モリブデン,タングステン,ニッケル等から成るものを用いることができる。導電性基板11が、透光性導電層10にて表面に形成された透光性導電基板から成る場合、ガラス板またはプラスチック板から成る透光性基板11上に、ITO層、酸化スズ層等から成る透光性導電層10を形成したものを用いることができる。
【0059】
本発明の光発電装置は、上記本発明の光電変換素子1を発電手段として用い、発電手段の発電電力を負荷へ供給するように成した構成である。具体的には、光発電装置は、光電変換素子1、光電変換素子1から出力された直流電流を交流電流に変換するインバータ装
置、電気モーターや照明装置等の負荷等を有する構成であり、建築物の屋根や壁面に設置される太陽電池等として使用される。
【実施例】
【0060】
以下、本発明の光電変換素子1の実施例について説明する。図1に示される構成の光電変換素子を以下のようにして作製した。
【0061】
透光性導電層3を具備した透光性基板2として、シート抵抗10Ω/□(スクエア)の厚み1μmのSnO:F層(フッ素ドープSnO層)から成る透光性導電層3が一主面(例えば表面)に形成されたガラス基板(サイズ2cm×2cm、厚み4mm)を準備した。
【0062】
この透光性導電層3の上に、酸化チタンからなる多孔質の半導体層4を形成した。酸化チタンは平均粒径20nmおよび400nmのナノ粒子からなる2種のペーストを順次スクリーン印刷法により積層塗布して、450℃で30分加熱処理した。
【0063】
他方、対極12側の導電層10を具備した基板11として、シート抵抗15Ω/□(スクエア)の厚み1μmのSnO:F層(フッ素ドープSnO層)から成る導電層11が一主面(表面)に形成されたガラス基板(サイズ2cm×2cm、厚み2mm)を準備した。
【0064】
この透光性導電層10の上に、触媒層9としてのPt(白金)層を、厚み2nmとなるように、HPtCl塗布・熱分解法によって形成した。このとき、Pt層は、厚みが非常に薄いために島状に成膜された。
【0065】
ベニコウジ黄色素5としては、ハイムーンイエローS-200A(ヤヱガキ醗酵技研(株)製)を用いた。このハイムーンイエローSA200を水に10倍で希釈し、酢酸を0.25重量パーセント加え、酸化チタンから成る多孔質の半導体層4に吸着させた。
【0066】
ベニコウジ黄色素5は、図2のとおり、二つの色素の混合体としてベニコウジから抽出される天然色素である。
【0067】
次に、透光性導電層2上に形成された、ベニコウジ黄色素5が吸着した多孔質半導体層4の外周部と、導電層10上に形成された触媒層9の外周部とを、フィルム状の封止部材8である熱可塑性接着剤(三井-デュポンポリケミカル社製、商品名「ハイミラン」)を介して、貼り合わせて気密に封止した。透光性基板2と基板11の間の間隔(電荷輸送層7の厚みに相当する)は35μmであった。
【0068】
その後、基板11に予め形成していた貫通孔から、電荷輸送層7となる液状電解質として、沃素(I),沃化リチウム(LiI),テトラブチルピリジンを含む液状電解質を注入して、光電変換素子1を作製した。
【0069】
また、比較例として、表1に示すように、他の天然色素である、ムラサキイモ色素、ムラサキトウモロコシ色素、アカダイコン色素、アカキャベツ色素、ブドウ果皮色素、ブドウ果汁色素、クチナシ黄色素、クチナシ青色素、クチナシ赤色素、エルダベリー色素、ウコン色素、ベニコウジ色素、ベニバナ黄色素、アナトー色素、ビートレッド、シソ色素、コチニール色素、トウガラシ色素を使用した光電変換素子を作製した。
【0070】
【表1】

【0071】
実施例および比較例の光電変換素子について、AM1.5のソーラーシミュレータの光(100mW/cm2)を照射し、光電特性の測定を行った。図1に示す本実施形態のベニコウジ黄色素5を使用した光電変換素子1は、短絡光電流密度が3.12mA/cm2、開放起電力が530mV、曲線因子(FF:Fill Factor)が0.715、変換効率が1.19%であった。
【0072】
これに対して、表1に示される比較例の光電変換素子は、短絡光電流密度が全て1%以下の変換効率であった。ベニコウジ黄色素5以外で最も高かったのはウコン色素の0.86%であった、
本実施例の光電変換素子1は比較例の光電変換素子と比較して光電変換効率が38%以上も高いものであった。これは、ベニコウジ黄色素5の特性によるものであり、比較例に比べて高い光電変換効率を与える天然色素が見出された。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の光発電装置は、上記光電変換素子1を発電手段として用い、発電手段の発電電力を負荷へ供給するように成した構成で、より具体的には光電変換素子1から出力された直流電流を交流電流に変換するインバータ装置、電気モーターや照明装置等の負荷等を有する構成であり、建築物の屋根や壁面に設置される太陽電池等として利用される。
【符号の説明】
【0074】
1:光電変換素子
2:透光性基板
3:透光性導電層
4:多孔質の半導体層
5:ベニコウジ黄色素
6:光電変換電極
7:電荷輸送層(電解質層)
8:封止部材
9: 触媒層
10:透光性導電層
11:基板
12:対極(触媒層9・透光性導電層10・基板11)
S:入射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一主面に透光性基板と、透光性基板上に形成された透光性導電層と、透光性導電層上に形成された多孔質半導体層と、多孔質半導体層上に配置されたベニコウジ黄色素と、上記ベニコウジ黄色素と多孔質半導体で形成された光電変換層と間隔をあけて対向するよう配置された対極と、光電変換層と対極との間に設けられた電荷輸送層と、光電変換層と電荷輸送層と対極の周囲を取り囲んで形成された封止部材とで形成されていることを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
前記透光性基板は、透明なガラス板またはプラスチック板から成ることを特徴とする請求項1記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記透光性導電層は、フッ素ドープ錫酸化物、インジウム錫酸化物、ガリウムドープ亜鉛酸化物、アルミドープ亜鉛酸化物、またはニオブドープチタン酸化物から成ることを特徴とする請求項1または2のいずれか記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記多孔質半導体層は、TiO、WO、ZnO、Nb、Ta、またはSrTiOから成ることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記電荷輸送層は、沃化物、コバルト錯体、鉄錯体、CuI、CuSCN、または有機ホール輸送材から成ることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記対極に使用される触媒層は、白金,パラジウム,ロジウム,カーボンまたはポリチオフェンから成ることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれか1項に記載の光電変換素子を発電手段として用い、前記発電手段の発電電力を負荷へ供給することを特徴とする光発電装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−76791(P2011−76791A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−225230(P2009−225230)
【出願日】平成21年9月29日(2009.9.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 刊行物名「電気化学会 第76回大会 講演予稿集」(発行元「社団法人電気化学会」、発行年月日「2009年3月29日」)
【出願人】(591210622)ヤヱガキ醗酵技研株式会社 (14)
【出願人】(592216384)兵庫県 (258)
【Fターム(参考)】