説明

光電変換素子の製造方法

【課題】光電変換素子が備える薄膜の平坦性を高くする。
【解決手段】基板20と、該基板上に設けられた一対の電極32、34と、該一対の電極の間に設けられた少なくとも1層の機能層44、70とを有する光電変換素子10の製造方法であって、光電変換素子の部材を形成する材料を含む液滴を該基板、該電極又は該機能層上に噴霧して電極又は機能層を形成する工程を有し、該工程において、第1のキャリアガスと第2のキャリアガスとを用いる光電変換素子の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池、光センサーなどの光電デバイスに用いられる光電変換素子の製造方法、この製造方法によって製造された光電変換素子、この光電変換素子を含む太陽電池モジュール及びイメージセンサーに関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子は、陽極及び陰極からなる一対の電極と、該一対の電極間に設けられる活性層とを備える素子である。
【0003】
有機薄膜太陽電池に用いられる、有機薄膜を機能層として含む光電変換素子は、塗布プロセスを使って安価に製造できる可能性があるため、注目されている。
【0004】
塗布プロセスを用いた光電変換素子の製造方法としては、1種類のキャリアガスのみを用いるスプレーコート法により、活性層となる材料を含有する塗工液を基板上に塗布し、活性層として機能する薄膜を形成する工程を含む、光電変換素子の製造方法が検討されている(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】オーガニック エレクトロニクス(Organic Electronics)、2009年、第10巻、p.587−593
【0006】
しかしながら、上記製造方法で形成した光電変換素子が備える有機薄膜は、平坦性が低いという課題があった。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明は、光電変換素子が含む薄膜の平坦性を高くすることができる光電変換素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明によれば、下記の〔1〕〜〔12〕が提供される。
〔1〕 基板と、該基板上に設けられた一対の電極と、該一対の電極の間に設けられた少なくとも1層の機能層とを有する光電変換素子の製造方法であって、
光電変換素子の部材を形成する材料を含む液滴を該基板、該電極又は該機能層上に噴霧して電極又は機能層を形成する工程を有し、該工程において、第1のキャリアガスと第2のキャリアガスとを用いる光電変換素子の製造方法。
〔2〕 第1のキャリアガスが、光電変換素子の部材を形成する材料を含む液に噴射して液滴を形成する操作に用いられ、第2のキャリアガスが、液滴の噴霧速度を調整する操作に用いられる〔1〕に記載の光電変換素子の製造方法。
〔3〕 第1のキャリアガスの圧力が、0.15MPa未満である〔1〕又は〔2〕に記載の光電変換素子の製造方法。
〔4〕 第2のキャリアガスの圧力が、0.27MPa未満である〔1〕〜〔3〕のいずれか一項に記載の光電変換素子の製造方法。
〔5〕 光電変換素子の部材を形成する材料が有機化合物である〔1〕〜〔4〕のいずれか一項に記載の光電変換素子の製造方法。
〔6〕 光電変換素子の部材を形成する材料が、1種類以上の有機化合物である電子供与性化合物と、1種類以上の有機化合物である電子受容性化合物とを含む、〔1〕〜〔5〕のいずれか一項に記載の光電変換素子の製造方法。
〔7〕 電子供与性化合物が共役高分子化合物である、〔6〕に記載の光電変換素子の製造方法。
〔8〕 共役高分子化合物がチオフェン骨格を含む高分子化合物である、〔7〕に記載の光電変換素子の製造方法。
〔9〕 電子受容性化合物がフラーレン骨格を含む化合物である、〔6〕〜〔8〕のいずれか一項に記載の光電変換素子の製造方法。
〔10〕 〔1〕〜〔9〕のいずれか一項に記載の光電変換素子の製造方法で製造された光電変換素子。
〔11〕 〔10〕に記載の光電変換素子を含む太陽電池モジュール。
〔12〕 〔10〕に記載の光電変換素子を含むイメージセンサー。
【発明の効果】
【0009】
本発明の光電変換素子の製造方法によれば、光電変換素子が備える薄膜の平坦性を高くすることができる。結果として光電変換効率をより向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1−1】図1−1は、光電変換素子の構成例(1)を示す概略的な断面図である。
【図1−2】図1−2は、光電変換素子の構成例(2)を示す概略的な断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照して説明する場合があるが本発明はこれに限定されない。なお図面には、発明が理解できる程度に、構成要素の形状、大きさ及び配置が概略的に示されているに過ぎない。各構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。以下の説明に用いる各図において、同様の構成要素については同一の符号を付して示し、重複する説明を省略する場合がある。
図1−1及び図1−2を参照して、光電変換素子の構成例について説明する。
図1−1は、光電変換素子の構成例(1)を示す概略的な断面図である。図1−2は、光電変換素子の構成例(2)を示す概略的な断面図である。
本発明の実施形態の光電変換素子について説明する。
【0012】
構成例(1)
図1−1に示すように、構成例(1)の光電変換素子10は、陽極32及び陰極34からなる一対の電極と、該一対の電極間に配置された活性層(電荷分離層)70とを少なくとも備えている。すなわち構成例(1)の光電変換素子10は、バルクヘテロ接合型の光電変換素子である。
光電変換素子10は、陽極32、陰極34、活性層70に加えて、電子輸送層、バッファー層などの活性層以外の機能層を有していてもよい。
【0013】
光電変換素子は、通常、基板上に形成される。すなわち光電変換素子10は、基板20の主面上に設けられている。
【0014】
基板20が不透明である場合には、陽極32と対向する、基板20側とは反対側に設けられる陰極34(すなわち基板20から遠い方の電極)が透明又は半透明であることが好ましい。
【0015】
活性層70は、この構成例では陽極32と電子輸送層44とに接して配置されている。活性層70は、電子受容性化合物と電子供与性化合物とを含有する有機層であって、光電変換機能にとって本質的な機能を有する層である。
【0016】
基板20の主面上には、陽極32が設けられている。活性層70は、陽極32を覆って設けられている。電子輸送層44は、電荷分離層70に接合させて設けられている。陰極34は、電子輸送層44に接合させて設けられている。
【0017】
構成例(2)
図2−2に示すように、構成例(2)の光電変換素子は、陽極32及び陰極34からなる一対の電極と、前記一対の電極間に配置される活性層70であって、電子受容性化合物を含む電子受容性層74と、この電子受容性層74に接合され、電子供与性化合物を含む電子供与性層72とからなる前記活性層70を備えている。すなわち構成例(2)の光電変換素子10は、ヘテロ接合型の光電変換素子である。
【0018】
光電変換素子10は、基板20の主面上に設けられている。基板20の主面上には陽極32が設けられている。
【0019】
活性層70は、陽極32と電子輸送層44とに接して挟持されている。構成例2の電荷分離層70は、電子受容性化合物を含有する電子受容性層74と、電子供与性化合物を含有する電子供与性層72とが接合された積層構造とされている。
【0020】
電子供与性層72は、陽極32に接合されて設けられている。電子受容性層74は、電子供与性層72に接合されて設けられている。電子輸送層44は電子受容性層74に接合されて設けられている。陰極34は、電子輸送層44に接合されて設けられている。
【0021】
前記構成例(1)の光電変換素子10は、電荷分離層70が電子受容性化合物と電子供与性化合物とを単一の層に含有する構成を備えているため、ヘテロ接合界面をより多く含み、光電変換効率がより向上するので好ましい。
【0022】
−光電変換素子の製造方法−
本発明の実施形態の光電変換素子の製造方法について説明する。光電変換素子の製造方法は、光電変換素子の部材を形成する材料を含む液滴を該基板、該電極又は該機能層上に噴霧して電極又は機能層を形成する工程を有し、該工程において、第1のキャリアガスと第2のキャリアガスとを用いる。
【0023】
光電変換素子を構成する部材の例としては、基板、陽極、機能層である活性層、陰極、さらには電子輸送層、バッファー層などの活性層以外の機能層が挙げられる。
本実施形態の光電変換素子の製造方法において、電極又は機能層の形成工程は、上記のような光電変換素子の部材を形成する材料を含むインキを液滴として噴霧する工程として行われる。
【0024】
本発明の実施形態にかかる光電変換素子は、例えば、基板上に上述の各層を順次に積層することにより製造することができる。
光電変換素子は、例えば、陽極が設けられた基板を用意する工程と、陽極上に活性層を形成する工程と、活性層上に陰極を形成する工程とを少なくとも含む製造方法により実施することができる。
【0025】
陽極、陰極、機能層の形成工程は従来公知の任意好適な装置を用いるスプレーコート法により実施することができる。ここで「圧力」とは、第1のキャリアガス、第2のキャリアガスを噴射する際にキャリアガスに加えられる圧力をいう。
本実施形態のスプレーコート法に用いられる第1のキャリアガス(霧化エア:AAという場合がある。)は、光電変換素子の部材を形成する材料を含む液に噴射して液滴を形成させるためのキャリアガスであることが好ましい。第1のキャリアガスの圧力を制御することで、液滴の粒径を制御することができる。
【0026】
第2のキャリアガス(パターンエア:PAという場合がある。)は、第1のキャリアガスによって形成された液滴の噴霧速度を調整するキャリアガスが好ましい。第2のキャリアガスの圧力を制御することで、液滴の速度を液滴の粒径から独立して制御することができる。
第2のキャリアガスを用いて液滴の速度をさらに調整することにより、液滴の粒径と液滴の速度とを独立して制御することができない従来のスプレーコート法と比較して、より平坦な薄膜を形成することができる。
【0027】
本実施の形態では、第1のキャリアガスの圧力を大きくすることにより、形成される液滴の粒径がより小さくなるように調整することができる。
また第2のキャリアガスの圧力を大きくすることにより、被塗布対象に向かって飛翔する液滴の速度を低下させるように、すなわちノズルから放出された液滴が被塗布対象に付着するまでの時間が長くなるように調整することができる。
液滴に含まれる材料、材料の濃度、材料の溶解性、溶媒、溶媒の揮発性などを考慮して、第1のキャリアガスの圧力、及び第2のキャリアガスの圧力を調整することにより、選択された材料について、所望の膜厚で平坦性がより向上した薄膜を形成することができる。
【0028】
第1のキャリアガスの圧力は、0.15MPa未満が好ましく、0.0001MPa以上0.15MPa未満がより好ましく、0.001MPa以上0.10MPa以下がさらに好ましい。
【0029】
第2のキャリアガスの圧力は、0.27MPa未満が好ましく0.0001MPa以上0.27MPa未満がより好ましく、0.001MPa以上0.18MPa未満がさらに好ましく、0.001MPa以上0.09MPa以下が特に好ましい。
スプレーコート法により、光電変換素子を構成する薄膜を形成するにあたり、例えば材料をポリ(3−ヘキシルチオフェン−2,5−ジイル)(P3HT)とフラーレン誘導体である[6,6]フェニル−C61酪酸メチルエステル(C60PCBM)との混合材料とし、溶媒をオルトジクロロベンゼンとした場合には、第1のキャリアガスの圧力を0.002MPaから0.14MPaの範囲とし、かつ第2のキャリアガスの圧力を0.002MPaから0.26MPaの範囲とするのが好ましい。
【0030】
光電変換素子の部材を形成する材料は、無機化合物であっても有機化合物であってもよい。光電変換素子の部材を形成する材料は、有機物化合物であることが好ましい。光電変換素子の部材のうち、特にバルクヘテロ接合型の活性層を形成するための材料としては、1種類以上の有機化合物である電子供与性化合物と、1種類以上の有機化合物である電子受容性化合物とを含むことがより好ましい。
該電子供与性化合物としては、共役高分子化合物が好ましく、共役高分子化合物としては、チオフェン骨格を含む高分子化合物が好ましい。該電子受容性化合物としては、フラーレン骨格を含む化合物が好ましい。
【0031】
本発明の製造方法によって製造された光電変換素子は、部材として基板、陽極、電子供与性化合物及び電子受容性化合物を含み活性層として機能する機能層、陰極を含むことが好ましい。光電変換素子は、必要に応じて、活性層以外の機能層を含んでいてもよい。
【0032】
光電変換素子の部材を形成する材料としては、電極を形成する材料、活性層を形成する材料、活性層以外の機能層を形成する材料等が挙げられる。
光電変換素子の部材を形成する材料が電極を形成する材料である場合、電極を形成する材料を含む液滴を基板上又は機能層上に噴霧し、電極を形成する。
光電変換素子の部材を形成する材料が活性層を形成する材料である場合、活性層を形成する材料を含む液滴を電極上又は活性層以外の機能層上に噴霧し、活性層を形成する。
光電変換素子の部材を形成する材料が活性層以外の機能層を形成する材料である場合、活性層以外の機能層を形成する材料を含む液滴を電極上又は他の機能層上に噴霧し、活性層以外の機能層を形成する。
【0033】
本実施形態の光電変換素子を構成する部材である、基板、陽極、活性層、陰極、活性層以外の機能層について、以下に詳しく説明する。
【0034】
(基板)
本実施形態の光電変換素子は、通常、基板上に形成される。この基板は、電極を形成し、有機物の層を形成する際に化学的に変化しないものであればよい。基板の材料としては、例えば、ガラス、プラスチック、高分子フィルム、シリコン等が挙げられる。不透明な基板の場合には、不透明な基板と対向する反対側の電極(即ち、不透明な基板から遠い方の電極)が透明又は半透明な電極とされる。
【0035】
(電極)
前記の透明又は半透明の電極材料としては、導電性の金属酸化物膜、半透明の金属薄膜等が挙げられる。透明又は半透明の電極材料としては、酸化インジウム、酸化亜鉛、酸化スズ、及びそれらの複合体であるインジウムスズ酸化物(ITO)、インジウム亜鉛酸化物(IZO)、NESA等の導電性材料、金、白金、銀、銅等が用いられ、ITO、IZO、酸化スズが好ましい。これらを材料とする電極の作製方法としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、メッキ法、スプレーコート法等が挙げられる。また、透明又は半透明の電極材料として、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体等を用いてもよい。透明又は半透明の電極は、陽極であっても陰極であってもよい。
【0036】
一方の電極が透明又は半透明であれば他方の電極は透明でなくてもよい。不透明な電極の電極材料としては、金属、導電性高分子等を用いることができる。不透明な電極材料の具体例としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、アルミニウム、スカンジウム、バナジウム、亜鉛、イットリウム、インジウム、セリウム、サマリウム、ユーロピウム、テルビウム、イッテルビウム等の金属、及びそれらのうち2つ以上の合金、又は、1種以上の前記金属と、金、銀、白金、銅、マンガン、チタン、コバルト、ニッケル、タングステン及び錫からなる群から選ばれる1種以上の金属との合金、グラファイト、グラファイト層間化合物、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体が挙げられる。合金としては、マグネシウム−銀合金、マグネシウム−インジウム合金、マグネシウム−アルミニウム合金、インジウム−銀合金、リチウム−アルミニウム合金、リチウム−マグネシウム合金、リチウム−インジウム合金、カルシウム−アルミニウム合金等が挙げられる。
【0037】
(バッファー層)
光電変換素子の光電変換効率を向上させるための機能層として、バッファー層、電荷輸送層などの活性層以外の付加的な機能層を設けてもよい。付加的な機能層に用いられる材料としては、具体的にはフッ化リチウム等のアルカリ金属のハロゲン化物あるいは酸化物又はアルカリ土類金属のハロゲン化物あるいは酸化物等が挙げられる。
また、酸化チタン等の無機半導体の微粒子、PEDOT(ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン))とPSS(ポリ(4−スチレンスルホネート))との混合物(PEDOT:PSS)などを付加的な機能層に用いてもよい。
【0038】
(活性層)
光電変換素子に含まれる活性層は、電子供与性化合物及び電子受容性化合物の双方又は一方を含む層として構成することができる。なお、電子供与性化合物であるか、又は電子受容性化合物であるかは、これらの化合物のHOMOまたはLUMOのエネルギー準位により相対的に決まる。
【0039】
(電子供与性化合物)
電子供与性化合物は、低分子化合物であっても高分子化合物であってもよい。電子供与性化合物は、高分子化合物が好ましく、共役高分子化合物がより好ましい。電子供与性化合物としては、例えば、ピラゾリン誘導体、アリールアミン誘導体、スチルベン誘導体、トリフェニルジアミン誘導体、オリゴチオフェン及びその誘導体、ポリビニルカルバゾール及びその誘導体、ポリシラン及びその誘導体、側鎖又は主鎖に芳香族アミンを有するポリシロキサン誘導体、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、チオフェンを部分骨格として持つ高分子化合物、ポリピロール及びその誘導体、ポリフェニレンビニレン及びその誘導体、ポリチエニレンビニレン及びその誘導体が挙げられる。
電子供与性化合物としては、チオフェン骨格を含む共役高分子化合物が好ましく、該共役高分子化合物としては、置換基を有していてもよいポリチオフェン(ポリチオフェン及びその誘導体)、チオフェンの2〜5量体を含む構造又はチオフェンの誘導体の2〜5量体を含む構造を有する高分子化合物が挙げられ、ポリチオフェン及びその誘導体が好ましい。ここで、ポリチオフェン誘導体とは、置換基を有するチオフェンジイル基を有する高分子化合物である。
ポリチオフェン及びその誘導体としては、ホモポリマーであることが好ましい。ホモポリマーとは、チオフェンジイル基及び置換基を有するチオフェンジイル基からなる群から選ばれる基のみが複数個結合してなるポリマーである。チオフェンジイル基としては、チオフェン−2,5−ジイル基が好ましく、置換基を有するチオフェンジイル基としては、アルキルチオフェン−2、5−ジイル基が好ましい。ホモポリマーであるポリチオフェン及びその誘導体の具体例としては、ポリ(3−ヘキシルチオフェン−2,5−ジイル)(P3HT)、ポリ(3−オクチルチオフェン−2,5−ジイル)、ポリ(3−ドデシルチオフェン−2,5−ジイル)、ポリ(3−オクタデシルチオフェン−2,5−ジイル)が挙げられる。ホモポリマーであるポリチオフェン及びその誘導体の中では、炭素数6〜30のアルキル基が置換したチオフェンジイル基からなるポリチオフェンホモポリマーが好ましい。
【0040】
チオフェン骨格を含む共役高分子化合物としては、下記式(2)で表される高分子化合物が挙げられる。
【0041】
【化1】

【0042】
式(2)中、R71及びR72は、同一又は相異なり、水素原子又は置換基を表す。2個あるR71は、同一でも相異なってもよい。6個あるR72は、同一でも相異なってもよい。nは構造単位の繰り返しの数を表す。
【0043】
71及びR72で表される置換基としては、炭素原子数が1〜20のアルコキシ基、炭素原子数が1〜20のアルキル基が好ましい。
【0044】
式(2)で表される共役高分子化合物としては、R71がアルキル基であり、かつ、R72が水素原子である高分子化合物が好ましい。
式(2)で表される共役高分子化合物の具体例としては、下記式(2−1)で表される共役高分子化合物が挙げられる。
【0045】
【化2】

【0046】
式(2−1)中、nは構造単位の繰り返しの数を表す。
上記共役高分子化合物のポリスチレン換算の数平均分子量は1×103〜1×107であることが好ましく、1×103〜1×106であることがより好ましい。ポリスチレン換算の数平均分子量及び重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、求めることができる。
【0047】
(電子受容性化合物)
前記電子受容性化合物としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン及びその誘導体、ベンゾキノン及びその誘導体、ナフトキノン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、テトラシアノアントラキノジメタン及びその誘導体、フルオレノン誘導体、ジフェニルジシアノエチレン及びその誘導体、ジフェノキノン誘導体、8−ヒドロキシキノリン及びその誘導体の金属錯体、ポリキノリン及びその誘導体、ポリキノキサリン及びその誘導体、ポリフルオレン及びその誘導体、C60フラーレン(C60とは炭素原子数が60であることを意味する。以下、Cに下付で付された数字は炭素原子数を意味する場合がある。)等のフラーレン及びフラーレン骨格を含む化合物、バソクプロイン等のフェナントロリン誘導体、酸化チタンなどの金属酸化物、カーボンナノチューブが挙げられる。電子受容性化合物としては、好ましくは、ベンゾチアジアゾール構造を含む化合物、繰り返し単位にベンゾチアジアゾール構造を含む高分子化合物、キノキサリン構造を含む化合物、繰り返し単位にキノキサリン構造を含む高分子化合物、酸化チタン、カーボンナノチューブ、フラーレン、フラーレン骨格を含む化合物であり、より好ましくは、フラーレン、フラーレン骨格を含む化合物、ベンゾチアジアゾール構造を含む化合物、繰り返し単位にベンゾチアジアゾール構造を含む高分子化合物、キノキサリン構造を含む化合物、繰り返し単位にキノキサリン構造を含む高分子化合物であり、さらに好ましくはフラーレン骨格を含む化合物である。
【0048】
フラーレンの例としては、C60フラーレン、C70フラーレン、C76フラーレン、C78フラーレン、C84フラーレンが挙げられる。
フラーレン骨格を含む化合物としては、C60フラーレン骨格、C70フラーレン骨格、C76フラーレン骨格、C78フラーレン骨格、C84フラーレン骨格を含む化合物が挙げられる。
【0049】
60フラーレン骨格を含む化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0050】
【化3】

【0051】
70フラーレン骨格を含む化合物の具体例としては、以下の化合物が挙げられる。
【0052】
【化4】

【0053】
また、フラーレン骨格を含む化合物の例としては、[6,6]フェニル−C61酪酸メチルエステル(C60PCBM、[6,6]-Phenyl C61 butyric acid methyl ester)、[6,6]フェニル−C71酪酸メチルエステル(C70PCBM、[6,6]-Phenyl C71 butyric acid methyl ester)、[6,6]フェニル−C85酪酸メチルエステル(C84PCBM、[6,6]-Phenyl C85 butyric acid methyl ester)、[6,6]チエニル−C61酪酸メチルエステル([6,6]-Thienyl C61 butyric acid methyl ester)が挙げられる。
【0054】
活性層中に含まれる電子受容性化合物の量は、電子供与性化合物100重量部に対して、10〜1000重量部であることが好ましく、20〜500重量部であることがより好ましい。
【0055】
活性層の厚さは、通常、1nm〜100μmが好ましく、より好ましくは2nm〜1000nmであり、さらに好ましくは5nm〜500nmであり、特に好ましくは20nm〜200nmである。
【0056】
(その他の成分)
種々の機能を発現させるために、活性層には必要に応じて他の成分を含有させてもよい。例えば、紫外線吸収剤、酸化防止剤、吸収した光により電荷を発生させる機能を増感するためのため増感剤、紫外線に対する安定性を増すための光安定剤、等が挙げられる。
【0057】
活性層を構成する電子供与性化合物及び電子受容性化合物以外の成分は、電子供与性化合物及び電子受容性化合物の合計量100重量部に対し、それぞれ5重量部以下、特に、0.01〜3重量部の割合で配合するのが効果的である。
また、活性層は、機械的特性を高めるため、電子供与性化合物及び電子受容性化合物以外の高分子化合物を高分子バインダーとして含んでいてもよい。高分子バインダーとしては、電子輸送性又はホール輸送性を阻害しないものが好ましく、また可視光に対する吸収が強くないものが好ましく用いられる。前記高分子バインダーとしては、ポリ(N-ビニルカルバゾール)、ポリアニリン及びその誘導体、ポリチオフェン及びその誘導体、ポリ(p-フェニレンビニレン)及びその誘導体、ポリ(2,5-チエニレンビニレン)及びその誘導体、ポリカーポネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等が挙げられる。
【0058】
(活性層の製造方法)
光電変換素子が有する活性層は、電子供与性化合物及び/又は電子受容性化合物を含む液滴を基板、基板上に形成された電極又は基板及び電極上に形成された機能層上に噴霧して電極又は機能層を形成する工程を有し、該工程において、第1のキャリアガスと第2のキャリアガスとを用いる方法で形成することが好ましい。
【0059】
液滴中に含まれる溶媒は、上述の電子供与性化合物及び/又は電子受容性化合物を溶解させるものであれば、特に制限はない。溶媒としては、1種類の溶媒を用いても、複数の溶媒を混合して用いてもよい。かかる溶媒としては、例えば、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリン、デカリン、ビシクロヘキシル、ブチルベンゼン、sec−ブチルベンゼン、tert−ブチルベンゼン等の不飽和炭化水素溶媒、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン、ジクロロプロパン、クロロブタン、ブロモブタン、クロロペンタン、ブロモペンタン、クロロヘキサン、ブロモヘキサン、クロロシクロヘキサン、ブロモシクロヘキサン等のハロゲン化飽和炭化水素溶媒、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、トリクロロベンゼン等のハロゲン化不飽和炭化水素溶媒、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン等のエーテル溶媒が挙げられる。活性層を構成する有機材料は、通常、前記溶媒に0.1重量%以上溶解させることができる。
【0060】
(光電変換素子の用途)
光電変換素子は、透明又は半透明の電極から太陽光等の光を照射することにより、一対の電極同士の間に光起電力が発生し、有機薄膜太陽電池として動作させることができる。有機薄膜太陽電池を複数集積することにより有機薄膜太陽電池モジュールとして用いることもできる。
【0061】
また、一対の電極同士の間に電圧を印加した状態、あるいは無印加の状態で、透明又は半透明の電極から光を入射させることにより、光電流が流れ、有機光センサーとして動作させることができる。有機光センサーを複数集積することにより有機イメージセンサーとして用いることもできる。
【0062】
(有機薄膜太陽電池モジュール)
有機薄膜太陽電池モジュールは、従来の太陽電池モジュールと基本的には同様のモジュール構造をとりうる。有機薄膜太陽電池モジュールは、一般的には金属、セラミック等の支持基板の上にセルが構成され、その上を充填樹脂や保護ガラス等で覆い、支持基板の反対側から光を取り込む構造をとるが、支持基板に強化ガラス等の透明材料を用い、その上にセルを構成してその透明の支持基板側から光を取り込む構造とすることも可能である。具体的には、スーパーストレートタイプ、サブストレートタイプ、ポッティングタイプと呼ばれるモジュール構造、アモルファスシリコン太陽電池などで用いられる基板一体型モジュール構造等を採用することができる。本発明の有機光電変換素子を適用した有機薄膜太陽電池モジュールでも使用目的や使用場所及び環境により、適宜これらのモジュール構造を選択できる。
【0063】
代表的なスーパーストレートタイプあるいはサブストレートタイプのモジュールは、片側又は両側が透明で反射防止処理を施された支持基板の間に一定間隔にセルが配置され、隣り合うセル同士が金属リード又はフレキシブル配線等によって接続され、外縁部に集電電極が配置されており、発生した電力を外部に取り出す構造となっている。基板とセルとの間には、セルの保護や集電効率向上のため、目的に応じエチレンビニルアセテート(EVA)等様々な種類のプラスチック材料をフィルム又は充填樹脂の形で用いてもよい。また、外部からの衝撃が少ないところなど表面を硬い素材で覆う必要のない場所において使用する場合には、表面保護層を透明プラスチックフィルムで構成し、又は上記充填樹脂を硬化させることによって保護機能を付与し、片側の支持基板をなくすことが可能である。支持基板の周囲は、内部の密封及びモジュールの剛性を確保するため金属製のフレームでサンドイッチ状に固定し、支持基板とフレームとの間は封止材料で密封シールする。また、セル自体、支持基板、充填材料及び封止材料に可撓性の素材を用いれば、曲面で構成される構造体の上に有機薄膜太陽電池モジュールを構成することもできる。
【0064】
ポリマーフィルム等のフレキシブルな支持体(基板)を用いた有機薄膜太陽電池の場合、ロール状の支持体を送り出しながら順次セルを形成し、所望のサイズに切断した後、周縁部をフレキシブルで防湿性のある素材でシールすることにより有機薄膜太陽電池本体を作製することができる。また、Solar Energy Materials and Solar Cells, 48, p383-391記載の「SCAF」とよばれるモジュール構造とすることもできる。更に、フレキシブルな支持体を用いた有機薄膜太陽電池は曲面ガラス等に接着固定して使用することもできる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例を説明する。以下に示す実施例は、本発明を説明するための好適な例示であり、本発明を限定するものではない。
【0066】
製造例1
(有機薄膜太陽電池用有機薄膜の作製、評価)
ガラス基板をエキシマUV処理して表面処理を行った。ポリ(3−ヘキシルチオフェン−2,5−ジイル)(P3HT)(アルドリッチ社製)及びフラーレン誘導体である[6,6]フェニル−C61酪酸メチルエステル(C60PCBM)(phenyl C61-butyric acid methyl ester、フロンティアカーボン社製)を含むオルトジクロロベンゼン溶液を調製した。C60PCBMの重量に対するP3HTの重量比を1とした。C60PCBMの重量とP3HTの重量との合計量は、オルトジクロロベンゼン溶液の重量に対して1重量%とした。該オルトジクロロベンゼン溶液を、スプレーコート装置(機種名:PCS2020、ノズル:AGB40、旭サナック社製)によりガラス基板上に塗布するスプレーコート工程により有機薄膜を作製した。スプレーコート工程においては、キャリアガスの流量を20mL/分とし、スプレー距離を100nmとし、オルトジクロロベンゼン溶液に噴射して液滴を形成させるためのエア(AA、第1のキャリアガス)の圧力を0.10MPaとし、液滴の噴霧速度を調整する操作に用いられ、有機薄膜のパターンを形成するエア(PA、第2のキャリアガス)の圧力を0.09MPaとして実施した。
上記の条件で得られた有機薄膜の表面形状を垂直走査(VSI)法にて観察したところ、平坦な膜が形成されていた。
【0067】
製造例2
第1のキャリアガスの圧力を0.05MPaに変えた以外は、製造例1と同様に有機薄膜を作製し、製造例1と同様に評価した。その結果、平坦な膜が形成されていた。
【0068】
製造例3
第2のキャリアガスの圧力を0.18MPaに変えた以外は、製造例1と同様に有機薄膜を作製し、製造例1と同様に評価した。その結果、平坦な膜が形成されていた。
【0069】
製造例4
第1のキャリアガスの圧力を0.05MPaに変え、かつ第2のキャリアガスの圧力を0.18MPaに変えた以外は、製造例1と同様に有機薄膜を作製し、製造例1と同様に評価した。その結果、平坦な膜が形成されていた。
【0070】
比較例1
第1のキャリアガスの圧力をかけず、第2のキャリアガスの圧力を0.18MPaに変えた以外は、製造例1と同様に有機薄膜を作製し、製造例1と同様に評価した。その結果、作製された有機薄膜には目視で認識できるほどの膜ムラが認められた。
【0071】
比較例2
第2のキャリアガスの圧力をかけない以外は、製造例1と同様に有機薄膜を作製し、製造例1と同様に評価した。その結果、作製された有機薄膜には目視で認識できるほどの膜ムラが認められた。
【0072】
本発明の光電変換素子の製造方法によれば、光電変換素子が備える薄膜の平坦性を高くすることができる。よって光電変換素子の動作時のリーク電流の発生を抑制することができる。また電極の接触抵抗を低減することができる。結果として光電変換効率をより向上させることができる。さらには光電変換素子の特定の領域への電荷の集中を抑制することができるため、光電変換素子の寿命をより長くすることができる。
【符号の説明】
【0073】
10 光電変換素子
22 第1の基板
32 陽極
34 陰極
44 電子輸送層
50 発光層
60 積層構造体
70 活性層
72 電子供与性層
74 電子受容性層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、該基板上に設けられた一対の電極と、該一対の電極の間に設けられた少なくとも1層の機能層とを有する光電変換素子の製造方法であって、
光電変換素子の部材を形成する材料を含む液滴を該基板、該電極又は該機能層上に噴霧して電極又は機能層を形成する工程を有し、該工程において、第1のキャリアガスと第2のキャリアガスとを用いる光電変換素子の製造方法。
【請求項2】
第1のキャリアガスが、光電変換素子の部材を形成する材料を含む液に噴射して液滴を形成する操作に用いられ、第2のキャリアガスが、液滴の噴霧速度を調整する操作に用いられる請求項1に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項3】
第1のキャリアガスの圧力が、0.15MPa未満である請求項1又は2に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項4】
第2のキャリアガスの圧力が、0.27MPa未満である請求項1〜3のいずれか一項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項5】
光電変換素子の部材を形成する材料が有機化合物である請求項1〜4のいずれか一項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項6】
光電変換素子の部材を形成する材料が、1種類以上の有機化合物である電子供与性化合物と、1種類以上の有機化合物である電子受容性化合物とを含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項7】
電子供与性化合物が共役高分子化合物である、請求項6に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項8】
共役高分子化合物がチオフェン骨格を含む高分子化合物である、請求項7に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項9】
電子受容性化合物がフラーレン骨格を含む化合物である、請求項6〜8のいずれか一項に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか一項に記載の光電変換素子の製造方法で製造された光電変換素子。
【請求項11】
請求項10に記載の光電変換素子を含む太陽電池モジュール。
【請求項12】
請求項10に記載の光電変換素子を含むイメージセンサー。

【図1−1】
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【図1−2】
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【公開番号】特開2012−190954(P2012−190954A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−52435(P2011−52435)
【出願日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【出願人】(504145342)国立大学法人九州大学 (960)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】