説明

光電変換素子及びその製造方法

【課題】軽量で可撓性を有する光電変換素子を提供する。
【解決手段】光電変換素子1は、蓄電部10と、受光部20と、半導体層40と、膨張黒鉛シート3とを備える。蓄電部10は、正極2、負極4、及び電解質6を有する。電解質6は、正極2と負極4との間に配されている。受光部20は、正極2の上に配されている。受光部20は、第1の半導体からなる。半導体層40は、負極4の上に配されている。半導体層40は、第2の半導体からなる。膨張黒鉛シート3は、蓄電部10の正極2と電解質6との間に配されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、化学電池の電力を高める試みがなされている。このような試みとして、例えば化学電池の電極の上に受光部を配した電池(以下、光電変換素子という)が知られている(例えば、特許文献1及び2を参照)。このような光電変換素子では、一般的な化学電池で生じる電流に加えて、受光部に光が照射されることによって起こる光電変換反応によっても電流が生じる。このため、このような光電変換素子の電力は、一般的な化学電池の電力よりも高い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−243573号公報
【特許文献2】特開2009−187760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、上記のような光電変換素子を、軽量化するとともに、光電変換素子に可撓性を付与したいという要望が高まってきている。
【0005】
本発明は、軽量で可撓性を有する光電変換素子を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の光電変換素子は、蓄電部と、受光部と、半導体層と、膨張黒鉛シートとを備える。蓄電部は、正極、負極、及び電解質を有する。電解質は、正極と負極との間に配されている。受光部は、正極の上に配されている。受光部は、第1の半導体からなる。半導体層は、負極の上に配されている。半導体層は、第2の半導体からなる。膨張黒鉛シートは、蓄電部の正極と電解質との間に配されている。
【0007】
負極の上に、膨張黒鉛シートがさらに配されていることが好ましい。
【0008】
本発明の光電変換素子の製造方法は、上記の光電変換素子の製造方法であって、膨張黒鉛シートの上に正極を形成する工程と、正極の上に、受光部を形成する工程とを含む。
【0009】
スパッタリング法により、正極を形成することが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、軽量で可撓性を有する光電変換素子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態における光電変換素子の略図的断面図である。
【図2】本発明の実施例1における結果を示すグラフである。
【図3】本発明の比較例1における結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明を実施した好ましい形態の一例について説明する。但し、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0013】
また、実施形態などにおいて参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図面に描画された物体の寸法の比率などは、現実の物体の寸法の比率などとは異なる場合がある。具体的な物体の寸法比率などは、以下の説明を参酌して判断されるべきである。
【0014】
図1に示されるように、光電変換素子1は、蓄電部10を備える。蓄電部10は、正極2、負極4、及び電解質6を有する。
【0015】
電解質6は、正極2と負極4との間に配されている。電解質6は、水や、塩化アルミニウム水溶液、硝酸カリウム水溶液などの導電性液体により構成されている。
【0016】
正極2は、アルミニウム、鉛などの金属により構成されている。正極2の厚みは、10nm〜0.5mm程度であることが好ましく、50nm〜0.1mm程度であることがより好ましい。
【0017】
正極2の上には、受光部20が配されている。受光部20は、第1の半導体からなる。受光部20においては、受光すると光電変換反応が起こり、電流が生じる。受光部20は、第1の半導体層22を含む。
【0018】
第1の半導体層22は、正極2の少なくとも一部の上に配されている。具体的には、第1の半導体層22は、正極2の表面2aの少なくとも一部の上に配されており、表面2aの他の部分の上には、第1の半導体層22は配されていない。即ち、第1の半導体層22は、複数のアイランド部を有する。複数のアイランド部のそれぞれは、凸状である。正極2の表面2aの面積のうち、第1の半導体層22が配された部分の面積の割合((第1の半導体層22が配された部分の面積)/(正極2の表面2aの面積)×100)は、5%〜100%程度であることが好ましく、20%〜80%程度であることがより好ましい。
【0019】
正極2と電解質6との間には、第1の膨張黒鉛シート3が配されている。具体的には、第1の膨張黒鉛シート3は、正極2の受光部20とは反対側の表面2bの上に配されている。本発明において、膨張黒鉛シートは、例えば特開2006−62922号公報に記載されているような、天然黒鉛などを硫酸などに浸漬して熱処理した後、シート状に圧縮したものである。膨張黒鉛シートは、導電性を有し、金属などに比べて軽量で、可撓性を有する。また膨張黒鉛シートは面方向の熱伝導性が高く放熱性に優れるため、温度上昇による光電変換素子の変換効率の低下を抑制することができる。
【0020】
第1の膨張黒鉛シート3は、例えば、次のようにして製造することができる。まず、天然黒鉛、キャッシュ黒鉛などを、硫酸、硝酸などに浸漬し、400℃以上で熱処理を行うことによって、膨張黒鉛を得る。次に、膨張黒鉛を圧縮して、第1の膨張黒鉛シート3を得る。第1の膨張黒鉛シート3としては、ハロゲンガスなどを接触させ、原シートに含まれる硫黄、鉄などの不純物を除去した純化シートを用いても良い。
【0021】
第1の膨張黒鉛シート3の厚みは、0.01mm〜1.5mm程度であることが好ましく、0.05mm〜1.0mm程度であることがより好ましい。第1の膨張黒鉛シート3のかさ密度は、0.5〜2.0g/cm程度であることが好ましく、0.7〜2.0g/cm程度であることがより好ましい。第1の膨張黒鉛シート3の表面粗さは、Ra=50以下であることが好ましく、Ra=25以下であることがより好ましい。なお、本発明において、表面粗さは、JIS B0601−2001に規定される算術平均粗さである。
【0022】
負極4は、正極2を構成する金属よりも酸化還元電位の高い金属により構成されている。負極4を構成する金属としては、例えば、銅などが挙げられる。負極4の厚みは、10μm〜0.5mm程度であることが好ましく、50μm〜0.1mm程度であることがより好ましい。
【0023】
負極4の上には、第2の半導体層40が配されている。具体的には、第2の半導体層40は、負極4の電解質6側の表面4bの上に配されている。第2の半導体層40は、第2の半導体からなる。第2の半導体は、金属酸化物により構成されていることが好ましく、負極4を構成する金属の酸化物からなる金属酸化物により構成されていることがより好ましい。第2の半導体の具体例としては、酸化銅などが挙げられる。第2の半導体層40の厚みは、通常5nm〜100nm程度である。
【0024】
負極4の上には、第2の膨張黒鉛シート5が配されている。具体的には、第2の膨張黒鉛シート5は、負極4の電解質6とは反対側の表面4aの上に配されている。第2の膨張黒鉛シート5は、第1の膨張黒鉛シート3と同様にして製造されるものである。第2の膨張黒鉛シート5のかさ密度及び表面粗さは、第1の膨張黒鉛シート3と同様である。第2の膨張黒鉛シート5の厚みは、0.01mm〜1.5mm程度であることが好ましく、0.05mm〜1.0mm程度であることがより好ましい。
【0025】
蓄電部10、受光部20、第2の半導体層40、並びに第1及び第2の膨張黒鉛シート3,5は、第1の保護部材7と第2の保護部材8との間に配されている。第1の保護部材7は、受光部20の上に配されている。第2の保護部材8は、第2の膨張黒鉛シート5の負極4とは反対側の表面5aの上に配されている。第1及び第2の保護部材7,8は、蓄電部10、受光部20、第2の半導体層40、並びに第1及び第2の膨張黒鉛シート3,5を保護している。第1及び第2の保護部材7,8のそれぞれは、アクリル酸樹脂、ポリカーボネート樹脂などの可撓性を有する透明材料により構成されている。第1の保護部材7の厚みは、通常0.01mm〜1mm程度である。第2の保護部材8の厚みは、通常0.01mm〜1mm程度である。なお、第2の保護部材8は、透明な材料でなくともよい。また、第2の保護部材8は、設けなくてもよい。
【0026】
上述の通り、第1の膨張黒鉛シート3は、導電性を有し、金属などに比べて軽量で、可撓性を有する。光電変換素子1においては、正極2と電解質6との間に、第1の膨張黒鉛シート3が配されているため、導電性を損なうことなく金属からなる正極2の厚みを薄くすることができる。よって、光電変換素子1は、軽量で可撓性を有する。
【0027】
負極4の上に、第2の膨張黒鉛シート5がさらに配されている場合、導電性を損なうことなく金属からなる負極4の厚みを薄くすることができる。よって、この場合、光電変換素子1は、より軽量で、優れた可撓性を有する。
【0028】
次に、光電変換素子1の製造方法の一例について説明する。まず、第1の膨張黒鉛シート3の上に正極2を形成する。次に、正極2の上に、受光部20を形成する。具体的には、第1の膨張黒鉛シート3の表面3aの上に、スパッタリング法などにより、正極2を構成する金属層を形成する。次に、スパッタリング法などにより、正極2の表面2aの一部の上に、複数の第1の半導体層22を形成する。このようにして、正極2及び受光部20が配された第1の膨張黒鉛シート3を得る。同様にして、第2の膨張黒鉛シート5の上に負極4及び第2の半導体層40を形成する。具体的には、第2の黒鉛シート5の表面5bの上に、スパッタリング法などにより、負極4を構成する金属層を形成する。この金属層を空気中に曝すことにより、金属層の表層部分を酸化し、負極4と第2の半導体層40とを形成する。このようにして、負極4及び第2の半導体層40が配された第2の膨張黒鉛シート5を得る。次に、正極2及び受光部20が配された第1の膨張黒鉛シート3と、負極4及び第2の半導体層40が配された第2の膨張黒鉛シート5との間に電解質6を挟み、さらにこれを第1の保護部材7と第2の保護部材8との間に配することにより、光電変換素子1が得られる。
【0029】
なお、光電変換素子1の製造においては、正極2を構成する金属板の上に複数の第1の半導体層22を形成し、これを第1の膨張黒鉛シート3の上に配して、正極2及び受光部20が配された第1の膨張黒鉛シート3を得てもよい。同様に、負極4を構成する金属板を空気中に曝して、負極4と第2の半導体層40とを形成し、これを第2の膨張黒鉛シート5の上に配して、負極4及び第2の半導体層40が配された第2の膨張黒鉛シート5を得てもよい。
【0030】
(変形例)
上記の実施形態に係る光電変換素子1において、受光部20は、正極2の表面2aの上に配されている場合について説明した。但し、本発明は、この実施形態に限定されない。変形例において、受光部20は、正極2の表面2a及びこれに対向する表面2bの両表面の上に配されていてもよい。
【0031】
上記の実施形態に係る光電変換素子1において、第2の半導体層40は、負極4の表面4bの上に配されている場合について説明した。但し、本発明は、この実施形態に限定されない。変形例において、第2の半導体層40は、負極4の表面4a及びこれに対向する表面4bの両表面の上に配されていてもよいし、表面4bの上のみに配されていてもよい。
【0032】
上記の実施形態に係る光電変換素子1において、負極4は、金属により構成されている場合について説明した。但し、本発明は、この実施形態に限定されない。負極4は、金属ではなく、第2の半導体層40を構成する第2の半導体により構成されていてもよい。
【0033】
上記の実施形態に係る光電変換素子1においては、第2の膨張黒鉛シート5を有する場合について説明した。但し、本発明は、この実施形態に限定されない。変形例において、第2の膨張黒鉛シート5を有さなくてもよい。
【0034】
上記の実施形態に係る光電変換素子1においては、複数の第1の半導体層22が、正極2の表面2aの一部の上に、凸状に配されている場合について説明した。但し、本発明は、この実施形態に限定されない。変形例において、第1の半導体層22が、正極2の表面2aの全面に一様な厚みで配されていてもよい。
【0035】
以下、本発明について、具体的な実施例に基づいて、さらに詳細に説明する。但し、本発明は、以下の実施例に何ら限定されるものではなく、その要旨を変更しない範囲において適宜変更して実施することが可能である。
【0036】
(実施例1)
以下のようにして、図1に示されるような光電変換素子を作製した。
【0037】
銅箔(厚さ0.05mm)の表面を空気中に曝して、酸化銅層を形成した銅板を膨張黒鉛シート(東洋炭素株式会社製のPF−20、厚さ0.2mm、かさ密度1.0g/cm)の上に配した。銅箔を負極とし、酸化銅層を第2の半導体層とした。
【0038】
アルミニウム箔(厚さ0.05mm)を膨張黒鉛シート(東洋炭素株式会社製のPF−20、厚さ0.2mm、かさ密度1.0g/cm)の上に配した。アルミニウム箔の上には、反応性RFマグネトロンスパッタリング法により、複数の凸状をした酸化ニオブ層を形成した。アルミニウム箔を正極とし、酸化ニオブ層を第1の半導体層とした。なお、反応性RFマグネトロンスパッタリング法の条件は、以下の通りである。
【0039】
スパッタリングのターゲット:ニオブ(Nd 99.9%)
ターゲットと酸化アルミニウム層との距離:60mm
Arガス:99.9%、6.0ccm
ガス:99.9%、6.0ccm
出力:72W、13.56MHz
堆積速度:5.72nm/分
【0040】
次に、第1の半導体層及び正極を配した膨張黒鉛シートの膨張黒鉛シート側と、第2の半導体層及び負極を配した膨張黒鉛シートの第2の半導体層側との間に、電解質として純水を染み込ませたポリプロピレン樹脂を挟み、これを2枚の透明なアクリル酸樹脂板(厚さ0.1mm)で挟み、光電変換素子を得た。光電変換素子は、軽量で可撓性を有していた。
【0041】
得られた光電変換素子の電流を測定しながら、受光部側から、紫外線(波長375nm)を照射した。紫外線照射前後の電流の変化を図2のグラフに示す。図2に示されるように、光電変換素子に紫外線を照射すると同時に、電流が0.4μA上昇し、安定した電流が観測された。
【0042】
(比較例1)
第1の半導体層を形成しなかったこと以外は、実施例1と同一の構成として、比較例1の積層体を得た。この積層体に、第1の保護部材側から紫外線(波長375nm)を照射したが、電流の上昇は確認されなかった。紫外線照射前後の電流の変化を図3のグラフに示す。
【符号の説明】
【0043】
1…光電変換素子
2…正極
2a,2b…正極の表面
3…第1の膨張黒鉛シート
3a…表面
4…負極
4a、4b…負極の表面
5…第2の膨張黒鉛シート
5a,5b…第2の膨張黒鉛シートの表面
6…電解質
7…第1の保護部材
8…第2の保護部材
10…蓄電部
20…受光部
22…第1の半導体層
40…第2の半導体層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極、負極、及び前記正極と前記負極との間に配された電解質を有する蓄電部と、
前記正極の上に配され、第1の半導体からなる受光部と、
前記負極の上に配され、第2の半導体からなる半導体層と、
前記蓄電部の前記正極と前記電解質との間に配された膨張黒鉛シートと、
を備える、光電変換素子。
【請求項2】
前記負極の上に、膨張黒鉛シートが配されている、請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光電変換素子の製造方法であって、
前記膨張黒鉛シートの上に前記正極を形成する工程と、
前記正極の上に、前記受光部を形成する工程と、
を含む、光電変換素子の製造方法。
【請求項4】
スパッタリング法により、前記正極を形成する、請求項3に記載の光電変換素子の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2013−114872(P2013−114872A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−259465(P2011−259465)
【出願日】平成23年11月28日(2011.11.28)
【出願人】(504237050)独立行政法人国立高等専門学校機構 (656)
【出願人】(000222842)東洋炭素株式会社 (198)
【Fターム(参考)】