説明

光電変換素子及び光電気化学電池

【課題】固体正孔輸送層を用いたことによる利点を維持し、その上で、高い光電変換効率と高耐久性との両立を実現する光電変換素子を提供する。
【解決手段】導電性支持体上に色素が吸着された半導体微粒子層を有する感光体層、固体の正孔輸送層、および対極を含む積層構造よりなる光電変換素子であって、前記色素が炭素数5〜18の脂肪族基Aを有する下記式(1)で表される色素である光電変換素子。


[式中、Qは4価の芳香族基を示す。X、Xは硫黄原子、酸素原子、又はCRを表す。P、Pは色素残基を表す。ただしPはポリメチン色素を形成するのに必要な原子群を表す。Wは電荷を中和させるのに必要な場合の対イオンを表す。]

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変換効率が高く、耐久性に優れた光電変換素子及び光電気化学電池に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子は各種の光センサー、複写機、太陽電池等に用いられている。この光電変換素子には金属を用いたもの、半導体を用いたもの、有機顔料や色素を用いたもの、あるいはこれらを組み合わせたものなどの様々な方式が実用化されている。非枯渇性の太陽エネルギーを利用した太陽電池は、燃料が不要であり、無尽蔵のクリーンエネルギーを利用するものとして、その本格的な実用化が大いに期待されている。この中でも、シリコン系太陽電池は古くから研究開発が進められてきており、各国の政策的な配慮もあって普及が進んでいる。しかし、シリコンは無機材料であり、スループット及び分子修飾には自ずと限界がある。
【0003】
そこで色素増感型太陽電池の研究が精力的に行われている。とくにその契機となったのは、スイス ローザンヌ工科大学のGraetzel等が開発した色素増感型太陽電池である。彼らは、ポーラス酸化チタン薄膜の表面にルテニウム錯体からなる色素を固定した構造を採用し、アモルファスシリコン並の変換効率を実現した。これにより、色素増感型太陽電池が一躍世界の研究者から注目を集めるようになった。特許文献1には、この技術を応用し、ルテニウム錯体色素によって増感された半導体微粒子を用いた色素増感光電変換素子が記載されている。
【0004】
一方、金属錯体以外の色素を利用する光電変換素子の研究も進められている。その例を挙げると、光電変換素子の増感色素として、特定のビススクアリウム色素を利用することが提案されている(特許文献2、3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許第5463057号明細書
【特許文献2】特開2001−35549号公報
【特許文献3】特開2009−242379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、色素増感型光電変換素子の解決課題として耐久性の点が挙げられる。一層の広範な普及を考慮したときには、この点の改良が欠かせない。その解決策のひとつとして、正孔輸送層として液状のものではなく固体状のものを用いることが挙げられる。しかし、固体正孔輸送層と増感色素との関係にはついては未だ十分な研究がなされていない。
上記本技術分野の現状に鑑み、本発明は、固体正孔輸送層を用いたことによる利点を維持し、その上で、高い光電変換効率と高耐久性との両立を実現する光電変換素子、光電気化学電池の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題は以下の手段により解決された。
<1>導電性支持体上に色素が吸着された半導体微粒子層を有する感光体層、固体の正孔輸送層、および対極を含む積層構造よりなる光電変換素子であって、前記色素が炭素数5〜18の脂肪族基Aを有する下記式(1)で表される色素である光電変換素子。
【0008】
【化1】

[式中、Qは4価の芳香族基を示す。X、Xは硫黄原子、酸素原子、又はCRを表す。R、Rは、水素原子、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で結合するヘテロ環基を表す。R、R’は、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で結合するヘテロ環基を表す。P、Pは色素残基を表す。ただしPはポリメチン色素を形成するのに必要な原子群を表す。Wは電荷を中和させるのに必要な場合の対イオンを表す。]
【0009】
<2>前記脂肪族基Aが、R、R’、P1に含まれる基、P2に含まれる基、又はその組合せである<1>に記載の光電変換素子。
<3>前記固体正孔輸送層に含まれる正孔輸送物質が、無機正孔輸送化合物または有機正孔輸送化合物である<1>又は<2>に記載の光電変換素子。
<4>前記固体正孔輸送層の正孔輸送物質が、CuI、CuSCN、CuO、又はNiOの無機正孔輸送化合物、あるいは、トリフェニルアミン構造を有する化合物、アリーレン基、2価の芳香族へテロ環基、エテニレン基、及びエチニレン基から選択される基が2個以上共役結合した共役化合物、縮合多環芳香族化合物、又はフタロシアニン化合物の前記有機正孔輸送化合物を含む<1>〜<3>のいずれか1項に記載の光電変換素子。
<5>前記固体正孔輸送層に含まれる有機正孔輸送化合物が、モノマー、オリゴマー、プレポリマー、ポリマー、スピロ構造を有する化合物、又はチオフェン環構造を少なく1つ含有する共役化合物である<1>〜<4>のいずれか1項に記載の光電変換素子。
<6>前記式(1)中のPは、下記式P11または下記式P12で表される<1>〜<5>のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【0010】
【化2】

(式中、R、R、R10、R11は、酸性基を有することがある脂肪族基、又は酸性基を有することがある芳香環基を表す。R、R12は硫黄原子または下記式Rを表す。R、R、Rは水素原子又は置換基を表す。Rは酸素原子又は置換基を表す。n21は0以上の整数を表す。n22、n31は0又は1を示す。*は結合手を表す。)
【0011】
【化3】

(式RにおけるR13、R14はシアノ基又は酸性基を表す。*は結合手を表す。)
【0012】
<7>前記式P11中のRもしくはR、またはP12中のR10もしくはR11が前記脂肪族基Aである<6>に記載の光電変換素子。
<8>前記式(1)中のPが、下記式P13又は式P14で表される<1>〜<5>のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【0013】
【化4】

[式中、Vは水素原子又は置換基を表す。nは0〜4の整数を表す。mは1〜4の整数を表す。YはS、NR39、またはCR4041を表す。R39は水素原子、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で結合するヘテロ環基を表す。R40、R41は、水素原子、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で結合するヘテロ環基を表す。Zは脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で結合するヘテロ環基を表す。R33〜R36、及びR38は、水素原子、脂肪族基、芳香族基、又はヘテロ環基を表す。R37は酸素原子、又は2つの置換基を有する炭素原子であって2つの置換基のHammett則におけるσpの和が正である置換基である。*は結合手を表す。]
【0014】
<9>前記式P13もしくはP14中のZが前記脂肪族基Aである<8>に記載の光電変換素子。
<10>前記Pを形成する原子群が下記式P21または下記式P22で表される<1>〜<9>のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【0015】
【化5】

(式中、R21、R22、R23は水素原子又は置換基を表す。Arは、π過剰系複素環基、またはHammett則におけるσp値が0以下の置換基を有する芳香環基を表す。n41は0以上の整数を表す。*は結合手を表す。)
【0016】
<11>前記Arが下記式RC1、RC2、RC3、又はRC4で表される<10>に記載の光電変換素子。
【0017】
【化6】

(式RC1〜RC4中、YはS、NR、またはC(Rを表す。R、Rは置換基を表す。Aは芳香環を表す。R26は水素原子もしくは置換基を表す。EはS、NR、Oを表す。DはHammett則におけるσp値が0以下の置換基を表す。Bは芳香環を表す。Xは−SR、−OR、−NRを表す。*は結合手を表し、式P21及び式P22でみて、メチン鎖を介して連結しても、二重結合になって直接連結されてもよい。kは正の整数である。Lは下記式L、Lを示す。nは、0以上の整数を示す。)
【0018】
【化7】

(E、R26、k、nは上記と同義である。)
【0019】
<12>前記式RC1〜RC4中の、R26、R、R30、またはDが、前記脂肪族基Aである<11>記載の光電変換素子。
<13>前記Arが前記式RC1、RC2、またはRC3で表されることを特徴とする<12>に記載の光電変換素子。
<14>前記式(1)で表される色素において、前記Pが電子のアクセプターをなし、Pがドナーをなし、該色素がドナー・アクセプター型の分子を構成している<1>〜<13>のいずれか1項に記載の光電変換素子。
<15>前記感光体層が下記式(I)で表される色素をさらに有する<1>〜<14>のいずれか1項に記載の光電変換素子。
MLm1m2mX・CI (I)
[式(I)において、Mは金属原子を表す。Lは下記式(L1)で表される配位子を表す。L2は下記式(L2)で表される配位子を表す。Xは1座の配位子を表す。m1は1又は2である。m2は1又は2である。mXは0又は1である。CIは、電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。]
【0020】
【化8】

[式(L1)において、Za、Zb及びZcはそれぞれ独立に、5又は6員環を形成する原子群を表す。ただし、Za、Zb及びZcが形成する環のうち少なくとも1つは酸性基を有する。]
【0021】
【化9】

[式(L2)において、A〜Cは5員環以上の含窒素芳香環を表す。aは0または1の整数を表す。VはHammett則におけるσp値が正の置換基を表す。nは0以上の整数を表す。]
【0022】
<16>前記感光体層が下記式(II)で表される色素をさらに有する<1>〜<15>のいずれか1項に記載の光電変換素子。
MzLm3m4mY・CI : 式(II)
[式(II)において、Mzは金属原子を表す。Lは下記式L3で表される2座の配位子を表す。Lは下記式L4で表される2座又は3座の配位子を表す。Yは1座又は2座の配位子を表す。m3は0〜3の整数を表す。m4は1〜3の整数を表す。mYは0〜2の整数を表す。CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。
【0023】
【化10】

(式(L3)において、Acは酸性基を表す。Rは置換基を表す。Rはアルキル基又は芳香環基を表す。e1及びe2は0〜5の整数を表す。L及びLは共役鎖を表す。e3は0又は1を表す。fは0〜3の整数を表す。gは0〜3の整数を表す。)
【0024】
【化11】

(式(L4)において、Zd、Ze及びZfは5又は6員環を形成しうる原子群を表す。hは0又は1を表す。ただし、Zd、Ze及びZfが形成する環のうち少なくとも1つは酸性基を有する。)
【0025】
<17>前記半導体微粒子が酸化チタン微粒子である<1>〜<16>のいずれか1項に記載の光電変換素子。
<18><1>〜<17>のいずれか1項に記載の光電変換素子を備える光電気化学電池。
【0026】
本明細書において、芳香環とは、必要により芳香族環及び複素環(脂肪族複素環及び芳香族複素環)を含む意味に用いる。炭素−炭素二重結合はE型又はZ型のいずれであってもよい。複数の置換基や配位子ないし連結基等(以下、置換基等)を同時に択一的に規定するときには、それぞれの置換基等は互いに同一でも異なっていてもよい。また、複数の置換基等が近接するときにはそれらが互いに連結したり縮環したりして環を形成していてもよい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の光電変換素子及び光電気化学電池は、固体正孔輸送層を用いたことによる高耐久性を維持し、その上で、長波長域において高いIPCEを示して高い光電変換効率を実現する。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の光電変換素子の一実施態様について模式的に示した断面図である。
【図2】実施例1で作製した色素増感型太陽電池を模式的に示す断面図である。
【図3】実施例2で作製した色素増感型太陽電池を模式的に示す断面図である。
【図4】実施例3で作製した色素増感型太陽電池を模式的に示す断面図である。
【図5】実施例4で作成した色素増感型太陽電池について、図1に示す光電変換素子の変形例をその拡大部分(円)において模式的に示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の光電変換素子は、特定炭素数の脂肪族基Aを有する増感色素を採用することにより、固体正孔輸送層(固体電解質)を用いた光電変換素子において、高光電変換効率と高い耐久性とを両立して達成した。このように優れた作用効果を奏する理由は未解明の点を含むが、推定を含めて下記のように説明できる。つまり、式(1)で表される色素は、素子への光の照射により電子が励起され、その励起された電子が半導体微粒子層に効率良く移動することで高い電池性能を発現する。このとき、上記色素が任意の方向に向き無秩序に存在するより、特定の方向を電解質側ないし半導体微粒子層側に向け配向していることが望ましいと考えられる。この点、色素が特定の炭素数の脂肪族基Aを有することによって、これが吸引しあったり反発しあったりすることで、色素の配向性を制御し、結果として良好な結果につながったと考えられる。以下に本発明についてその好ましい実施態様に基づき、詳細に説明する。
【0030】
[素子の構造]
本発明の光電変換素子の一実施態様を、図1の模式的断面図を参照して説明する。
【0031】
図1に示すように、光電変換素子10は、導電性支持体1、導電性支持体1上にその順序で配された、感光体層2、正孔輸送層(電荷移動体層)3、及び対極4からなる。上記導電性支持体1と感光体層2とにより受光電極5を構成している。その感光体層2は半導体微粒子22と増感色素(以下、単に、色素ともいう。)21を有する多孔質半導体層で構成され、図示していないが、2層以上の多層構造であっても構わない。増感色素21はその少なくとも一部において半導体微粒子22に吸着している。ここで、半導体微粒子22に吸着している増感色素21は吸着平衡状態になっており、この色素の一部が正孔輸送層3に存在していてもよい。正孔輸送層3は、正孔(ホール)を輸送する機能を有する。感光体層2が形成された導電性支持体1は、光電変換素子10において作用電極として機能する。この光電変換素子10を外部回路6の動作手段(扇風機)Mで仕事をさせるようにして、光電気化学電池100として作動させることができる。
【0032】
上記受光電極5は、導電性支持体1及びその上に塗設される増感色素21の吸着した半導体微粒子22からなる多孔質半導体層(半導体膜)で構成された感光体層2よりなる電極である。感光体層2に入射した光は増感色素を励起する。励起された増感色素はエネルギーの高い電子を有している。そこでこの励起状態の電子が増感色素21から半導体微粒子22の伝導帯に渡され、さらに拡散によって導電性支持体1に到達する。このとき増感色素21の分子は酸化体となっている。電極上の電子が外部回路6で仕事をしながら酸化体に戻ることにより、光電気化学電池100として作用する。この際、受光電極5はこの電池の負極として働く。
【0033】
上記感光体層2は、後述の色素が吸着された半導体微粒子22の層からなる多孔質半導体層で構成されている。この色素は一部電解質中に解離したもの等があってもよい。感光体層2は目的に応じて設計され、2層以上の多層構造であってもよい。
【0034】
上述したように感光体層2には、特定の色素が吸着した半導体微粒子22を含むことから、受光感度が高く、光電気化学電池100として使用する場合に、高い光電変換効率を得ることができ、さらに高い耐久性を有する。
【0035】
[色素]
(式(1)の化合物からなる色素)
本発明の光電変換素子においては、少なくとも下記式(1)で表される化合物からなる色素が使用される。式(1)の色素は、その式と別の共鳴構造式で表されるものも含まれる。このことは、式(1)に導入される原子群(P11、P12、P13、P14、Ar等)のすべての化学式について同様であり、分子全体として整合する共役構造として解釈されるものである。
【0036】
式(1)で表される化合物は炭素数5〜18、好ましくは炭素数5〜10の脂肪族基A(以下、配向制御性の脂肪族基Aということがある)を少なくとも1つ有する。この炭素数には、脂肪族基以外の置換基(例えば芳香族基)の炭素数は含まない。この脂肪族基Aは下記式(1)のR、R’に含まれていてもよいし、P、Pに含まれていてもよい。例えば、後述するP11のR、R、P12のR10、R11、P13及びP14のZに含まれていることが好ましい。また、上記配向制御性の脂肪族基Aは式(1)で表される色素のN位に置換していることも好ましい。
【0037】
【化12】

【0038】
・Q
式(1)中、Qは芳香環を表す。芳香環は上述のように芳香族環及び複素環を含む。芳香族環としては、ベンゼン環又はナフタレン環が好ましく、ベンゼン環が好ましい。複素環としては、後記例示置換基HArexの環構造が挙げられる。
【0039】
・X、X
、Xは硫黄原子、セレン原子、酸素原子、またはCRを表す。ここでR、Rはアルキル基を表す。アルキル基としては、炭素原子数1〜20のアルキル基が挙げられ、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、t−ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、デシル、1−エチルペンチル、2−エチルヘキシル、ベンジル、2−エトキシエチル、1−カルボキシメチル等が好ましく、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、デシル、1−エチルペンチル、2−エトキシエチル、ベンジルがより好ましく、メチル、エチル、プロピル、デシル、2−エトキシエチルが特に好ましい。以下、このアルキル基の例示及び好ましいものを、アルキル基「Rex」と呼ぶ。X、Xは硫黄原子、酸素原子もしくはCRが好ましく、CRがより好ましい。なお、式(1)中、X,Xと、N−R,N−R’との上下の関係は反転したものであってもよい(つまり、N−Rが下、N−R’が上という関係であってもよい)。
【0040】
・R、R’
R、R’は、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で結合するヘテロ環基を表す。炭素原子で結合するヘテロ環基としては、例えば、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピランが挙げられる。脂肪族基としては、上記アルキル基Rexが挙げられる。芳香族基としては、炭素原子数6〜26のアリール基が挙げられ、フェニル、1−ナフチル、4−メトキシフェニル、2−クロロフェニル、3−メチルフェニルが好ましく、フェニル、4−メトキシフェニル、3−メチルフェニルがより好ましい。以下、この芳香族基(アリール基)の例示及び好ましいものを、芳香族基「Arex」と呼ぶ。脂肪族基AがP1,P2以外の母核部分にあるとき、R、R’の少なくともいずれかが配向制御性の脂肪族基Aであることが好ましい。
【0041】
・P
は色素残基を表す。
【0042】
・P
はポリメチン色素を形成するのに必要な原子群を表す。
【0043】
ただし、PとPは異なるものとする。ここで、両原子群が異なるとは、本発明の効果を奏する範囲で異なっていればよく、その具体的な構造は限定されない。典型的には、前記式(1)で表される色素において、前記Pが電子のアクセプターをなし、Pがドナーをなす、該色素がドナー・アクセプター型の分子を構成することが好ましい。ここで、ドナー・アクセプター型の色素とは光が照射された際に色素内のドナー部位が分子内の共役を介してアクセプター部位へ電子を移動する分子内光誘起電子移動を生じる色素をいう。
【0044】
・W
は電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。一般に、色素が陽イオン、陰イオンであるか、あるいは正味のイオン電荷を持つかどうかは、色素中の助色団及び置換基に依存する。式(1)の構造を有する色素が解離性の置換基を有する場合、解離して負電荷を有していてもよい。この場合、分子全体の電荷はWによって中和される。
が陽イオンの場合、例えば、プロトン、無機若しくは有機のアンモニウムイオン(例えばテトラアルキルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン)又はアルカリ金属イオンである。Wが陰イオンの場合、無機陰イオン又は有機陰イオンのいずれであってもよい。例えば、ハロゲン陰イオン、(例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン)、置換アリールスルホン酸イオン(例えば、p−トルエンスルホン酸イオン、p−クロロベンゼンスルホン酸イオン)、アリールジスルホン酸イオン(例えば、1,3−ベンゼンジスルホン酸イオン、1,5−ナフタレンジスルホン酸イオン、2,6−ナフタレンジスルホン酸イオン)、アルキル硫酸イオン(例えば、メチル硫酸イオン)、硫酸イオン、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ピクリン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオンなどが挙げられる。さらに電荷均衡対イオンとしてイオン性ポリマーあるいは、色素と逆電荷を有する他の色素を用いてもよいし、金属錯イオン(例えば、ビスベンゼン−1,2−ジチオラトニッケル(III))でもよい。
【0045】
<置換基Pの実施形態>
は、好ましくは後記式P11もしくは式P12、または式P13もしくは式P14で表される原子群を表す。
【0046】
【化13】

式中*は結合手を表す。特に断らない限り別の式においても同様である。
【0047】
・R、R、R10、R11
式中、R、R、R10、R11は、酸性基を有することがある脂肪族基、又は酸性基を有することがある芳香環基を表す。脂肪族基としては、前記アルキル基Rexの他、下記のシクロアルキル基CRexが挙げられる。CRexとして、好ましくは炭素原子数3〜20のシクロアルキル基であり、より好ましくは、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル等である。芳香環基としては、前記芳香族基Arexの他、下記の複素環基HArexが挙げられる。HArexとしては、好ましくは炭素原子数2〜20のヘテロ環基であり、より好ましくは、2−ピリジル、4−ピリジル、2−イミダゾリル、2−ベンゾイミダゾリル、2−チアゾリル、2−オキサゾリル等である。脂肪族基AがP11、P12であるとき、R、R、R10、R11のいずれかが配向制御性の脂肪族基Aを含むことが好ましい。
【0048】
酸性基とは、解離性のプロトンを有する置換基であり、例えば、カルボキシ基、ホスホニル基、ホスホリル基、スルホ基、ホウ酸基など、あるいはこれらのいずれかを有する基が挙げられ、好ましくはカルボキシ基あるいはこれを有する基である。また酸性基はプロトンを放出して解離した形を採っていてもよく、塩であってもよい。酸性基としては、カルボキシ基、スルホン酸基、ホスホニル基、若しくはホスホリル基、又はこれらの塩のいずれかであることが好ましい。本明細書において、酸性基とは、連結基を介して上記の酸性基が結合した基を含む意味であり、例えば、カルボキシビニレン基、ジカルボキシビニレン基、シアノカルボキシビニレン基、カルボキシフェニル基などを好ましいものとして挙げることができる。なお、ここで挙げた酸性基及びその好ましい範囲を酸性基Acということがある。なお、酸性基はその塩として存在していてもよい。塩となるとき対イオンとしては特に限定されないが、例えば、下記対イオンCIにおける正のイオンの例が挙げられる。
【0049】
・R、R12
、R12は、硫黄原子または下記式Rを表す。
【0050】
【化14】

式RにおけるR13、R14はシアノ基又は酸性基を表す。R13、R14は両者がシアノ基もしくは酸性基であってもよいが、シアノ基と酸性基との組合せであることが好ましい。好ましい酸性基としては、前記酸性基Acが挙げられる。
【0051】
・R、R、R
、R、Rは水素原子又は置換基を表す。置換基としては、置換基Tが挙げられる。R、R、Rはアルキル基Rex又は水素原子であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
・R
は酸素原子又は置換基を表す。Rが2価の置換基であるとき、下記式R91又はR92で表されることが好ましい。
【0052】
【化15】

式R92中、R15は水素原子もしくはアルキル基を表す。アルキル基としては、上記アルキル基Rexが挙げられる。
【0053】
n21は0以上の整数を表し、0〜3であることが好ましく、0または1であることがより好まい。n22、n31は0又は1を示し、0であることが好ましい。
【0054】
本発明においては前記Pが下記式P11−1またはP12−1であることが好ましい。
【0055】
【化16】

式中、R、R、R、R、R、R11、n21は、式P11,P12と同義である。
【0056】
本発明においては、前記Pが下式P11−2またはP12−2で表されることもまた好ましい。
【化17】

式中、R、R、R、R、R、R10、n21は、P11、P12と同義である。
【0057】
【化18】

【0058】
・V
P13、P14において、Vは水素原子又は置換基を表す。Vは複数ある場合、同じでも異なっていてもよく、又は互いに結合して環を形成していてもよい。Vが置換基であるとき、その好ましい例としては置換基Tが挙げられる。Vは酸性基Acを有することが好ましい。
これにより、モル吸光係数向上または電子注入効率向上の効果が得られる。
【0059】
・n
nは0〜4の整数を表す。nは好ましくは、0〜3であり、より好ましくは0〜2である。
【0060】
・m
mは1〜4の整数を表す。mは好ましくは、1〜3であり、より好ましくは1、2である。
【0061】
・Y
Yは硫黄原子、NR39、又はCR4041を表す。Yは硫黄原子、NCH、又はC(CHを表すことが好ましい。
【0062】
・R39
39は水素原子、脂肪族基、芳香族基、炭素原子で結合するヘテロ環基を表す。炭素原子で結合するヘテロ環基としては、例えば、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピランが挙げられる。R39の好ましい例としては、脂肪族基として、好ましくは、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基である。さらに好ましくは、アルキル基又はアルケニル基である。より好ましくは炭素数1〜18のアルキル基(例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、2−エチルヘキシル等)である。芳香族基としてはベンゼン、ナフタレン、アントラセン等が挙げられる。
【0063】
・R40、R41
40、R41は、水素原子、脂肪族基、芳香族基、炭素原子で結合するヘテロ環基を表し、R40とR41とは、同じでも異なっていてもよく、互いに結合して環を形成していてもよい。炭素原子で結合するヘテロ環基としては、例えば、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピランが挙げられる。R40、R41の好ましい例は、脂肪族基としては、好ましくは、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基である。さらに好ましくは、アルキル基又はアルケニル基である。より好ましくは炭素数1〜18のアルキル基(例えばメチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、2−エチルヘキシル、ベンジル等)である。芳香族基としてはベンゼン、ナフタレン、アントラセン等が挙げられる。
【0064】
・Z
Zは脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で結合するヘテロ環基を表し、置換基を有していてもよい。置換基の好ましい例として酸性基が挙げられ、より好ましくはカルボキシル基を有する基が挙げられる。
Zは前記配向制御性の脂肪族基Aを有する基を表すことが好ましい。脂肪族基としては、好ましくは、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基である。さらに好ましくは、アルキル基又はアルケニル基である。より好ましくは炭素数5〜18のアルキル基(例えばペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、2-エチルヘキシル等)である。Zを炭素数5〜18の脂肪族基とすることにより、前記作用が得られる。脂肪族基は後記置換基Tで置換されていてもよい。
脂肪族基AがP13、P14にあるとき、Zは配向制御性の脂肪族基Aであることが好ましい。
【0065】
・R33〜R36、R38
33〜R36、及びR38は水素原子、脂肪族基、芳香族基、ヘテロ環基を表し、置換基を有していてもよい。炭素原子で結合するヘテロ環基としては、例えば、ピロール、フラン、チオフェン、イミダゾール、オキサゾール、チアゾール、ピラゾール、イソオキサゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリダジン、ピリミジン、ピランが挙げられる。R33〜R36及びR38は、好ましくは水素原子または脂肪族基である。脂肪族基としては、好ましくは、アルキル基、アルケニル基又はアルキニル基である。さらに好ましくは、アルキル基又はアルケニル基である。より好ましくは炭素数5〜18のアルキル基(例えばペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、ドデシル、オクタデシル、シクロヘキシル、2−エチルヘキシル等)である。R33〜R36及びR38は、より好ましくは水素原子である。
【0066】
・R37
37は酸素原子又は結合する二つの置換基のHammett則におけるσの和が正となる二価の炭素原子を表す。
式P14においてR37は上述の式R91又はR92で表されることが好ましい。これにより、電子注入効率向上の効果が得られる。
【0067】
前記式(1)におけるP及びPが、それぞれ独立に下記式P13−1又は式P14−1で表されることが好ましい。これにより、高いモル吸光係数を有する色素となる。
【化19】

【0068】
前記式P13−1、P14−1において、V、n、m、Y、Zは式P13、P14と同義である。
【0069】
<置換基Pの実施形態>
本発明においては前記Pが下記式P21またはP22であることが好ましい。
【0070】
【化20】

【0071】
・R21、R22、R23
式中、R21、R22、R23は置換基を表す。置換基としては、後記置換基Tが挙げられ。R、R、Rはアルキル基Rex又は水素原子であることが好ましく、水素原子であることがより好ましい。
【0072】
・n41
n41は0以上の整数を表し、0〜3であることが好ましく、0〜2であることがより好ましい。
【0073】
・Ar
Arは、Hammett則におけるσp値が0以下の置換基を有する芳香環基または前記σp値が0以下の置換基を有するπ過剰系複素環基を表す。π過剰系複素環基とは、π過剰系複素環化合物の残基を意味する。π過剰系とは、典型的には、窒素原子等のローンペアを含めπ電子系の数が環を構成する原子の数を上回る状態を意味する。詳細は、例えば、「新編 ヘテロ環化合物 基礎編」(講談社サイエンテイフィック)p15等を参照することができる。
【0074】
ここでHammett則における置換基定数σp値について説明する。Hammett則は、ベンゼン誘導体の反応または平衡に及ぼす置換基の影響を定量的に論ずるために1935年L.P.ハメットにより提唱された経験則であるが、これは今日広く妥当性が認められている。ハメット則に求められた置換基定数にはσp値とσm値があり、これらの値は多くの一般的な成書に見出すことができる。例えば、J.A.Dean編、「Lange’s Handbook of Chemistry」第12版,1979年(McGraw−Hill)や「化学の領域」増刊,122号,96〜103頁,1979年(南光堂)、Chem.Rev.,1991年,91巻,165〜195ページ、Corwin Hansch, A. LEO and R. W. TAFT“A Survey of Hammett Substituent Cosntants and Resonance and Field Parameters”Chem.Rev.1991,91,165-195などに詳しい。
【0075】
置換基定数σpが0以下の置換基としては、電子供与性の置換基が挙げられ、具体的には、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基が挙げられ、好ましくは、アルキル基、アルコキシ基、アルキルアミノ基が挙げられる。アルキル基として好ましくは炭素原子数1〜20のアルキル基であり、より好ましくは前記Rexが挙げられる。アルコキシ基としては、好ましくは炭素原子数1〜20のアルコキシ基であり、より好ましくは、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ベンジルオキシ等である。σp値が0以下の置換基において、σp値は、−0.13以下であることが好ましく、−0.2以下であることがより好ましい。下限値は特にないが、−1.2以上であることが実際的である。
【0076】
逆に、置換基定数σp値が正のものとしては、ハロゲン原子、ニトロ基、シアノ基、スルホ基、カルボキシ基、ホルミル基、アシル基、カルバモイル基、スルファモイル基、メルカプト基、アルキルもしくはアリールスルホニル基、アルキルもしくはアリールスルフィニル基、アルキルオキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、パーフルオロアルキル基、ヘテロ環基(例えば、ヘテロ環がピリジン環、ピリミジン環で、2−ピリミジニル基、4―ピリミジニル基、5−ピリミジニル基、2−チエニル基、2−ピリジル基、3−ピリジニル基、4−ピリジニル基)、電子求引性基が置換したフェニル基(電子求引性基としては上記置換基定数σpが正の基として挙げた基で、特にカルボキシ基が好ましく、3−カルボキシフェニル基又は4−カルボキシフェニル基)等が挙げられる。σp値が正の置換基において、σp値は、0.01以上であることが好ましく、0.05以上であることがより好ましい。上限値は特にないが、1.4以下であることが実際的である。
【0077】
Arは直接またはメチン鎖を介して連結してよく、直接連結する場合には共役構造が上記式とは異なることを意味する。
【0078】
前記Arは、下記式RC1、RC2、RC3、Rc4で表されることが好ましい。前記Arは下記式RC1、Rc2、Rc3で表されることがより好ましく、下記式Rc1、Rc3で表されるのが特に好ましい。
【0079】
【化21−1】

【0080】
・Y
式中、YはS、NR、またはC(Rを表す。Rは置換基を表し、アルキル基を表すことが好ましい。アルキル基の好ましいものとしては前記Rexが挙げられる。Rは置換基を表す。置換基としては後記置換基Tが挙げられる。
【0081】
・A
Aは芳香環を表す。芳香環の好ましいものとしては、前記芳香族基Arex及び複素環基HArexが挙げられる。
【0082】
・R26
26は水素原子もしくは置換基を表す。置換基の好ましいものとしては後記置換基Tが挙げられる。好ましくは、アルキル基、アリール基、ヘテロ環基等である。なお、式RC2において2つあるR26は互いに異なっていてもよく、結合ないし縮合して環を形成していてもよい。
【0083】
・E
EはS、NR、Oを表す。Rは置換基を表し、アルキル基を表すことが好ましい。アルキル基の好ましいものとしては前記Rexが挙げられる。
【0084】
・D
DはHammett則におけるσp値が0以下の置換基を表す。Dは、−OR、−NRを表すことが好ましい。Rは、置換基を表す。置換基としては、後記置換基Tの例が挙げられる。
【0085】
・B
Bは芳香環を表す。芳香環の好ましいものとしては、前記芳香族基Arex及び複素環基HArexが挙げられる。
・X
Xは−SR、−OR、−NRを表し、Rは置換基を表し、アルキル基、芳香族基、ヘテロ環基を表すことが好ましい。置換基の具体例としては後記置換基Tが挙げられる。
【0086】
*は結合手を表し、式P21及び式P22でみて、メチン鎖を介して連結しても、二重結合になって直接連結されてもよい。
【0087】
・k
kは正の整数である。好ましくは、1〜4の整数である。
【0088】
・L
Lは下記式L、Lを示す。nは、0以上の整数を示す。
【0089】
【化21−2】

【0090】
式L、L中、E、R26、k、nは前記と同義である。
【0091】
式RC1、RC2、RC3に脂肪族基Aがあるとき、R26、R、またはDが脂肪族基Aを有する基であることが好ましい。
【0092】
なお、本明細書において「化合物」という語を末尾に付して呼ぶとき、あるいは特定の名称ないし化学式で示すときには、当該化合物そのものに加え、その塩、錯体、そのイオンを含む意味に用いる。また、所望の効果を奏する範囲で、所定の形態で修飾された誘導体を含む意味である。また、本明細書において置換基ないし配位子をその名称で呼ぶとき、あるいは「基」という語を末尾に付して呼ぶときには、所望の効果を奏する範囲で、その基に任意の置換基を有していてもよいことを意味する。これは置換・無置換を明記していない化合物についても同義である。好ましい置換基としては、下記置換基Tが挙げられる。
【0093】
導入可能な好ましい置換基(以下、置換基Tという。)としては、
アルキル基(好ましくは炭素原子数1〜20のアルキル基、例えばメチル、エチル、イソプロピル、t−ブチル、ペンチル、ヘプチル、1−エチルペンチル、ベンジル、2−エトキシエチル、1−カルボキシメチル等)、アルケニル基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルケニル基、例えば、ビニル、アリル、オレイル等)、アルキニル基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルキニル基、例えば、エチニル、ブタジイニル、フェニルエチニル等)、シクロアルキル基(好ましくは炭素原子数3〜20のシクロアルキル基、例えば、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル、4−メチルシクロヘキシル等)、アリール基(好ましくは炭素原子数6〜26のアリール基、例えば、フェニル、1−ナフチル、4−メトキシフェニル、2−クロロフェニル、3−メチルフェニル等)、ヘテロ環基(好ましくは炭素原子数2〜20のヘテロ環基、例えば、2−ピリジル、4−ピリジル、2−イミダゾリル、2−ベンゾイミダゾリル、2−チアゾリル、2−オキサゾリル等)、アルコキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアルコキシ基、例えば、メトキシ、エトキシ、イソプロピルオキシ、ベンジルオキシ等)、アリールオキシ基(好ましくは炭素原子数6〜26のアリールオキシ基、例えば、フェノキシ、1−ナフチルオキシ、3−メチルフェノキシ、4−メトキシフェノキシ等)、アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素原子数2〜20のアルコキシカルボニル基、例えば、エトキシカルボニル、2−エチルヘキシルオキシカルボニル等)、アミノ基(好ましくは炭素原子数0〜20のアミノ基、例えば、アミノ、N,N−ジメチルアミノ、N,N−ジエチルアミノ、N−エチルアミノ、アニリノ等)、スルホンアミド基(好ましくは炭素原子数0〜20のスルホンアミド基、例えば、N,N−ジメチルスルホンアミド、N−フェニルスルホンアミド等)、アシルオキシ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシルオキシ基、例えば、アセチルオキシ、ベンゾイルオキシ等)、カルバモイル基(好ましくは炭素原子数1〜20のカルバモイル基、例えば、N,N−ジメチルカルバモイル、N−フェニルカルバモイル等)、アシルアミノ基(好ましくは炭素原子数1〜20のアシルアミノ基、例えば、アセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等)、シアノ基、又はハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等)であり、より好ましくはアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基、シアノ基又はハロゲン原子であり、特に好ましくはアルキル基、アルケニル基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基又はシアノ基が挙げられる。
【0094】
式(1)で表される本発明の色素は、エタノール溶液における極大吸収波長が、好ましくは500〜1300nmの範囲であり、より好ましくは600〜1100nmの範囲である。
以下に本発明の式(1)で表される色素の好ましい具体例を示すが、本発明がこれに限定されるものではない。*は下記一般スキームの母核に結合する炭素原子の位置を表す。Buはブチル基を表す。なお、本明細書においては、分子を断片的な構造で支し、その組み合わせとして把握するようにしているが、単結合と二重結合の組み合わせなど、分子全体として共鳴構造が整合するように修正して解釈することを前提とする。
【0095】
【化22】

【0096】
の部分構造例
【化23】

【0097】
【化24】

【0098】
【化25】

【0099】
【化26】

【0100】
Mの部分構造例
【化27】

【0101】
の部分構造例
【化28】

【0102】
【化29】

【0103】
【表A−1】

【0104】
【表A−2】

【0105】
【表A−3】

【0106】
式(1)で表される化合物からなる色素の合成は、Ukrainskii Khimicheskii Zhurnal,第40巻(3号),253〜258頁、Dyes and Pigments,第21巻,227〜234頁及びこれらの文献中に引用された文献の記載等を参考にして行うことができる。
例えば、前記例示色素16は、以下のスキームにより得ることができる。他の色素も同様の方法で得ることができる。
【0107】
【化30】

NMP:1−メチル−2−ピロリドン、Cl−Ph:クロロベンゼン、AcOH:酢酸、DMF:N,N−ジメチルホルムアミド、Py:ピリジン、Allyl:アリル基
【0108】
[併用することが好ましい色素]
本発明の光電変換素子及び光電気化学電池においては、さらに他の金属錯体色素と併用することが好ましい。他の金属錯体色素と併用することで、互いの吸着状態を制御し、各々よりも高い効率や耐久性を達成することができる。
【0109】
他の金属錯体色素としては、下記式(I)ないし(II)で表される化合物からなる色素を含むことが好ましい。
(式(I)で表される色素)
本発明の色素は下記式(I)で表される。
MLm1m2mX・CI (I)
【0110】
*M
Mは金属原子を表す。Mは好ましくは4配位または6配位が可能な金属であり、より好ましくはRu、Fe、Os、Cu、W、Cr、Mo、Ni、Pd、Pt、Co、Ir、Rh、Re、Mn又はZnである。特に好ましくは、Ru、Os、Zn又はCuであり、最も好ましくはRuである。
【0111】
*L
は下記式(L1)で表される。
【0112】
【化31】

【0113】
・Za、Zb、Zc
式(L1)において、Za、Zb及びZcはそれぞれ独立に、5又は6員環を形成しうる非金属原子群を表す。ただし、Za、Zb及びZcが形成する環のうち少なくとも1つは酸性基を有する。酸性基は先に述べた酸性基Acが挙げられる。
【0114】
Za、Zb及びZcはそれぞれ独立に、5員環又は6員環を形成しうる非金属原子群を表す。形成される5員環又は6員環は置換されていても無置換でもよく、単環でも縮環していてもよい。Za、Zb及びZcは炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子及び/又はハロゲン原子で構成されることが好ましく、芳香族環を形成するのが好ましい。5員環の場合はイミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環又はトリアゾール環を形成するのが好ましく、6員環の場合はピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環又はピラジン環を形成するのが好ましい。なかでもイミダゾール環又はピリジン環がより好ましい。
【0115】
は下記式(L1−1)で表されることが好ましい。
【0116】
【化32】

【0117】
・A、A、A
式(L1−1)においてA、A、Aはそれぞれ独立に酸性基を表す。A、A、Aとしては上記酸性基Acとしてあげたものと同義である。
【0118】
・R〜R
〜Rはそれぞれ独立に置換基を表す。R〜Rとしては例えば前記の置換基Tが挙げられる。R〜Rとして好ましくはアルキル基、ヘテロアリール基、アリール基、ビニル基を介したヘテロアリール基、ビニル基を介したアリール基である。
【0119】
・b1〜b3、c1〜c3
b1、b3およびc1、c3はそれぞれ独立に0〜4の整数を表し、b2、c2は0〜3の整数を表す。ただし、c1〜c3がすべて0であることはない。
【0120】
は下記式(L1−2)で表されることがさらに好ましい。
【0121】
【化33】

【0122】
・R〜R
式(L1−2)においてR、RおよびRは水素原子、アルキル基、ヘテロアリール基、アリール基または酸性基を表す。R、RおよびRのうち少なくとも1つは酸性基であり、好ましくは前記酸性基Acが挙げられる。
【0123】
・m1
m1は1又は2である。1であるのがより好ましい。
【0124】
*L(式(L2))
は下記式(L2)で表される。
【0125】
【化34】

【0126】
・V
Vは置換基を表し、Hammett則におけるσp値が正の置換基を表すことが好ましい。
【0127】
Vの少なくとも1つがヘテロ環基を含む置換基であることが好ましい。これによりεが向上し、IPCEが増大する。結果として変換効率の顕著な向上が見られる。
好ましいヘテロ環基としては、チオフェン、フラン、ピロール、ピラゾール、イミダゾール、トリアゾール、テトラゾール、オキサゾール、イソオキサゾール、チアゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピリダジン、ピラジン、およびこれらのベンゾ縮環体、トリアジン、などを挙げることができる。
【0128】
・n
nは0以上の整数を表す。好ましくは1〜5、さらに好ましくは1〜3である。
【0129】
・A、C
AおよびCは下記式(L2−1)〜(L2−11)のいずれかで表されることが好ましい。
【0130】
【化35】

【0131】
式中、Vは上記式L2のVと同義であり、nは上記式L2のnと同義であり、好ましい範囲も同じである。*は結合位置を表す。Rは置換基を表し、mは0以上の整数を表す。mの上限は各式中の「置換可能数−1」であり、式L2−1であれば2である。mが2以上の場合、複数のRは同じでも異なってもよい。Rとしては前記置換基Tがあげられ、好ましくはアルキル基、アリール基、ヘテロ環基である。なお、式(L2−6)、(L2−8)、(L2−10)においては、R、Vがピロール環に置換しているものを含む意味である。
前記環A及びCが前記式(L2−2)〜(L2−6)及び(L2−9)であることが好ましい。
【0132】
・B
Bは、置換基を有していてもよい5員環以上、好ましくは5〜14員環の含窒素芳香環を表す。形成される環は置換されていても無置換でもよく、単環でも縮環していてもよい。Bは炭素原子、水素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子及び/又はハロゲン原子で構成されることが好ましく、芳香族環を形成するのが好ましい。5員環の場合はイミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環又はトリアゾール環を形成するのが好ましく、6員環の場合はピリジン環、ピリミジン環、ピリダジン環又はピラジン環を形成するのが好ましい。
【0133】
Bは下記式(L2−21)または(L2−22)で表されることが好ましい。
【0134】
【化36】

【0135】
・R、R
式中、Rは置換基を表す。Rとしては前記置換基Tの例が挙げられる。Rは水素原子、アルキル基、アリール基又はヘテロ環基を表す。また、Rはアリール基またはヘテロ環基であることが好ましい。
がヘテロ環基である場合、チオフェン、フラン、ピロール、セレノフェン、およびそのベンゾ縮環体、およびこれらが自身も含めて2環以上連結したもの、チエノチオフェン、ジチエノチオフェン、ジチエノシクロペンタン、ジチエノシロール、などがより好ましい。
*は結合手を意味する。
【0136】
・da、db、dc
daはそれぞれ0〜5の整数を表す。dbは0〜2の整数を表す。dcは0〜4の整数を表す。
【0137】
・L
はそれぞれ独立に共役鎖を表し、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、エテニレン基及び/又はエチニレン基からなる共役鎖を表す。エテニレン基やエチニレン基等は、無置換でも置換されていてもよい。エテニレン基が置換基を有する場合、該置換基はアルキル基であるのが好ましく、メチルであるのがより好ましい。Lは炭素原子数2〜6個の共役鎖であるのが好ましく、チオフェンジイル、エテニレン、ブタジエニレン、エチニレン、ブタジイニレン、メチルエテニレン又はジメチルエテニレンがより好ましく、エテニレン又はブタジエニレンが特に好ましく、エテニレンが最も好ましい。なお、共役鎖が炭素―炭素二重結合を含む場合、各二重結合はE型であってもZ型であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0138】
・a
aは0または1の整数を表す。
【0139】
・m2
m2は1又は2であり、1が好ましい。
【0140】
*配位子X
Xはアシルオキシ基、アシルチオ基、チオアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、チオカルボネート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、アシル基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基及びアリールオキシ基からなる群から選ばれた基で配位する1座の配位子、又はハロゲン原子、カルボニル、ジアルキルケトン、カルボンアミド、チオカルボンアミド及びチオ尿素からなる群より選ばれる1座の配位子を表す。なお配位子Xがアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレン基等を含む場合、それらは直鎖状でも分岐状でもよく、置換されていても無置換でもよい。またアリール基、ヘテロ環基、シクロアルキル基等を含む場合、それらは置換されていても無置換でもよく、単環でも縮環していてもよい。
【0141】
・mX
配位子Xの数を表すm3は0又は1であり、好ましくは1である。
【0142】
*対イオンCI
式(I)中のCIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。一般に、色素が陽イオン又は陰イオンであるか、あるいは正味のイオン電荷を有するかどうかは、色素中の金属、配位子および置換基に依存する。
置換基が解離性基を有することなどにより、式(I)の色素は解離して負電荷を持ってもよい。この場合、式(I)の色素全体の電荷はCIにより電気的に中性とされる。
【0143】
対イオンCIが正の対イオンの場合、例えば、対イオンCIは、無機又は有機のアンモニウムイオン(例えばテトラアルキルアンモニウムイオン、ピリジニウムイオン等)、ホスホニウムイオン(例えばテトラアルキルホスホニウムイオン、アルキルトリフェニルホスホニウムイオン等)、アルカリ金属イオン又はプロトンである。
対イオンCIが負の対イオンの場合、例えば、対イオンCIは、無機陰イオンでも有機陰イオンでもよい。例えば、ハロゲン陰イオン(例えば、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン等)、置換アリールスルホン酸イオン(例えばp−トルエンスルホン酸イオン、p−クロロベンゼンスルホン酸イオン等)、アリールジスルホン酸イオン(例えば1,3−ベンゼンジスルホン酸イオン、1,5−ナフタレンジスルホン酸イオン、2,6−ナフタレンジスルホン酸イオン等)、アルキル硫酸イオン(例えばメチル硫酸イオン等)、硫酸イオン、チオシアン酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロホウ酸イオン、ヘキサフルオロホスフェートイオン、ピクリン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン等が挙げられる。さらに電荷均衡対イオンとして、イオン性ポリマーあるいは色素と逆電荷を有する他の色素を用いてもよく、金属錯イオン(例えばビスベンゼン−1,2−ジチオラトニッケル(III)等)も使用可能である。
【0144】
式(I)で表される構造を有する色素の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0145】
【化37】

【0146】
式(I)で表される化合物からなる色素の合成は、後記実施例に記載の方法を参考にして行うことができる。
【0147】
(式(II)の化合物からなる色素)
MzLm3m4mY・CI (II)
【0148】
・金属原子Mz
Mzは式(I)におけるMと同義である。
【0149】
*L(式(L3))
は下記式(L3)で表される2座の配位子を表す。
【0150】
【化38】

【0151】
・m3
m3は0〜2の整数であり、1、2であるのが好ましく、1であるのがより好ましい。m3が2以上のとき、Lは同じでも異なっていてもよい。
【0152】
・Ac
Acはそれぞれ独立に酸性基を表す。Acの好ましいものは式(I)で定義したものと同義である。Acはピリジン環上もしくはその置換基のどの原子に置換してもよい。
【0153】
・R
はそれぞれ独立に置換基を表し、好ましくは置換基Tの例を挙げることができる。好ましくはアルキル基、アルケニル基、シクロアルキル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシル基、スルホンアミド基、アシルオキシ基、カルバモイル基、アシルアミノ基、シアノ基またはハロゲン原子であり、より好ましくはアルキル基、アルケニル基、アリール基、ヘテロ環基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基、アシルアミノ基またはハロゲン原子であり、特に好ましくはアルキル基、アルケニル基、アルコキシ基、アルコキシカルボニル基、アミノ基またはアシルアミノ基である。
【0154】
・R
は、アルキル基又は芳香環基を表す。芳香族基としては、好ましくは炭素原子数6〜30の芳香族基、例えば、フェニル、置換フェニル、ナフチル、置換ナフチル等である。複素環(ヘテロ環)基としては、好ましくは炭素原子数1〜30のヘテロ環基、例えば、2−チエニル、2−ピロリル、2−イミダゾリル、1−イミダゾリル、4−ピリジル、3−インドリルおよび自身も含めてこれらを2つ以上組合わせたものである。好ましくは1〜3個の電子供与基を有するヘテロ環基であり、より好ましくはチエニルおよびチエニルが2つ以上連結したものが挙げられる。該電子供与基はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、アシルアミノ基またはヒドロキシ基であるのが好ましく、アルキル基、アルコキシ基、アミノ基またはヒドロキシ基であるのがより好ましく、アルキル基であるのが特に好ましい。
【0155】
・e1、e2
e1、e2は0〜5の整数であるが、0〜3が好ましく、0〜2がより好ましい。
【0156】
・L及びL
及びLはそれぞれ独立に共役鎖を表し、アリーレン基、ヘテロアリーレン基、エテニレン基及び/又はエチニレン基からなる共役鎖を表す。エテニレン基やエチニレン基等は、無置換でも置換されていてもよい。エテニレン基が置換基を有する場合、該置換基はアルキル基であるのが好ましく、メチルであるのがより好ましい。L及びLはそれぞれ独立に、炭素原子数2〜6個の共役鎖であるのが好ましく、チオフェンジイル、エテニレン、ブタジエニレン、エチニレン、ブタジイニレン、メチルエテニレン又はジメチルエテニレンがより好ましく、エテニレン又はブタジエニレンが特に好ましく、エテニレンが最も好ましい。LとLは同じであっても異なっていてもよいが、同じであるのが好ましい。なお、共役鎖が炭素―炭素二重結合を含む場合、各二重結合はE型であってもZ型であってもよく、これらの混合物であってもよい。
【0157】
・e3
e3は0または1である。特に、e3が0のとき式中右側のfは1又は2であるのが好ましく、e3が1のとき右側のfは0又は1であるのが好ましい。fの総和は0〜2の整数であるのが好ましい。
【0158】
・g
gはそれぞれ独立に0〜3の整数を表し、0〜2の整数であるのが好ましい。
【0159】
・f
fはそれぞれ独立に0〜3の整数を表す。fの和が1以上であって、配位子Lが酸性基を少なくとも1個有するときは、式(II)中のm3は2または3であるのが好ましく、2であるのがより好ましい。fが2以上のときAcは同じでも異なっていてもよい。式中左側のfは0又は1であるのが好ましく、右側のfは0〜2の整数であるのが好ましい。
【0160】
式(II)における配位子Lは、下記一般式(L3−1)、(L3−2)又は(L3−3)で表されるものが好ましい。
【0161】
【化39】

【0162】
式中、Ac、Ra、f、g及びe3は一般式(L3)におけるものと同義である。ただし、N位に置換するRaは水素原子であってもよい。e4は0〜4の整数である。
【0163】
*L(式(L4))
は下記式(L4)で表される2座又は3座の配位子を表す。
【0164】
【化40】

【0165】
式(L4)において、Zd、Ze及びZfは5又は6員環を形成しうる原子群を表す。hは0又は1を表す。ただし、Zd、Ze及びZfが形成する環のうち少なくとも1つは酸性基を有する。
・m4
m4は1〜3の整数であり、1〜2であるのが好ましい。m4が2以上のときLは同じでも異なっていてもよい。
【0166】
・Zd、Ze、Zf
Zd、Ze及びZfは式(I)のZa、Zb、Zcと同義である。
【0167】
・h
hは0または1を表す。hは0であるのが好ましく、Lは2座配位子であるのが好ましい。
【0168】
配位子Lは、下記式(L4−1)〜(L4−8)のいずれかにより表されるのが好ましく、式(L4−1)、(L4−2)、(L4−4)、又は(L4−6)により表されるのがより好ましく、式(L4−1)又は(L4−2)により表されるのが特に好ましく、式(L4−1)により表されるのが特に好ましい。
【0169】
【化41】

【0170】
式中、Acはそれぞれ独立に酸性基又はその塩を表す。Acは前記で定義したAcと同義である。
【0171】
式中、Rは式(I)と同義である。ただし、N位に置換するRは水素原子であってもよい。
【0172】
iはそれぞれ独立に0以上置換可能な炭素の位置の数(整数)を表す。なお置換可能数は式の番号の横に()で表示した。Rは互いに連結して、あるいは縮環して環を形成していてもよい。
【0173】
なお、上記式L4−1〜L4−8では、置換基Rを所定の芳香環に結合手を延ばして示しているが、その芳香環に置換したものに限定されない。つまり、例えば、式L4−1では、左側のピリジン環にAc、Rが置換した形になっているが、これらが右側のピリジン環に置換した形態であってもよい。
【0174】
*配位子Y
式(II)中、Yは1座又は2座の配位子を表す。mYは配位子Yの数を表す。mYは0〜2の整数を表し、mYは好ましくは1又は2である。Yが1座配位子のとき、mYは2であるのが好ましく、Yが2座配位子のとき、mYは1であるのが好ましい。mYが2以上のとき、Yは同じでも異なっていてもよく、Yどうしが連結していてもよい。
【0175】
配位子Yは、好ましくはアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、ジチオカルバメート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基およびアリールオキシ基からなる群から選ばれた基で配位する配位子、あるいはハロゲン原子、カルボニル、1,3−ジケトンまたはチオ尿素からなる配位子である。より好ましくはアシルオキシ基、アシルアミノオキシ基、ジチオカルバメート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基またはアリールチオ基からなる群から選ばれた基で配位する配位子、あるいはハロゲン原子、1,3−ジケトンまたはチオ尿素からなる配位子であり、特に好ましくはジチオカルバメート基、チオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基およびイソシアネート基からなる群から選ばれた基で配位する配位子、あるいはハロゲン原子または1,3−ジケトンからなる配位子であり、最も好ましくは、ジチオカルバメート基、チオシアネート基およびイソチオシアネート基からなる群から選ばれた基で配位する配位子、あるいは1,3−ジケトンからなる配位子である。なお配位子Yがアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレン基等を含む場合、それらは直鎖状でも分岐状でもよく、置換されていても無置換でもよい。またアリール基、ヘテロ環基、シクロアルキル基等を含む場合、それらは置換されていても無置換でもよく、単環でも縮環していてもよい。
【0176】
Yが2座配位子のとき、Yはアシルオキシ基、アシルチオ基、チオアシルオキシ基、チオアシルチオ基、アシルアミノオキシ基、チオカルバメート基、ジチオカルバメート基、チオカルボネート基、ジチオカルボネート基、トリチオカルボネート基、アシル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルコキシ基およびアリールオキシ基からなる群から選ばれた基で配位する配位子、あるいは1,3−ジケトン、カルボンアミド、チオカルボンアミド、またはチオ尿素からなる配位子であるのが好ましい。Yが1座配位子のとき、Yはチオシアネート基、イソチオシアネート基、シアネート基、イソシアネート基、シアノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基からなる群から選ばれた基で配位する配位子、あるいはハロゲン原子、カルボニル、ジアルキルケトン、チオ尿素からなる配位子であるのが好ましい。
【0177】
*対イオンCI
式(II)中のCIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。式(I)中のCIと同義であり、好ましい範囲も同じである。
【0178】
*結合基
式(II)で表される構造を有する色素は、半導体微粒子の表面に対する適当な結合基(interlocking group)を少なくとも1つ以上有するのが好ましい。この結合基を色素中に1〜6個有するのがより好ましく、1〜4個有するのが特に好ましい。結合基としては先のAcが挙げられる。
【0179】
式(II)で表される構造を有する色素の具体例を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記具体例における色素がプロトン解離性基を有する配位子を含む場合、該配位子は必要に応じて解離しプロトンを放出してもよい。
【0180】
【化42】

【化43−1】

【0181】
式(II)により表される色素は、特開2001−291534号公報や当該公報に引用された方法を参考にして合成することができる。
式(II)で表される化合物からなる色素は、溶液における極大吸収波長が、好ましくは300〜1000nmの範囲であり、より好ましくは350〜950nmの範囲であり、特に好ましくは370〜900nmの範囲である。
本発明の光電変換素子及び光電気化学電池においては、少なくとも前記式(I)で表される化合物からなる色素と、式(II)で表される化合物からなる色素を用いて、広範囲の波長の光を利用することにより、高い変換効率を確保することができる。
【0182】
式(II)で表される化合物からなる色素と、式(I)で表わされる化合物からなる色素の配合割合は、前者をR、後者をSとすると、モル%の比で、R/S=95/5〜10/90、好ましくはR/S=95/5〜50/50、さらに好ましくはR/S=95/5〜60/40、より一層好ましくはR/S=95/5〜65/35、最も好ましくはR/S=95/5〜70/30である。
【0183】
本発明においては、色素として下記式(III)で表されるものを同時に用いてもよい。
【0184】
【化43−2】

【0185】
[式(III)においてQは4価の基を示し、X1、X2はそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、またはCR1R2を表す。ここでR1、R2はそれぞれ独立に、水素原子、脂肪族基、芳香族基、炭素原子で結合するヘテロ環基を表し、これらは置換されていてもよい。R、R’はそれぞれ独立に脂肪族基、芳香族基、炭素原子で結合するヘテロ環基を表し、これらは置換されていてもよい。P、Pはそれぞれ独立に色素残基を表す。Wは電荷を中和させるのに必要な場合の対イオンを表す。]
式(III)の例として下記が挙げられる。
【0186】
【化43−3】

【0187】
【化43−4】

【0188】
【化43−5】

【0189】
[正孔輸送層]
(正孔輸送化合物)
本発明では、固体の正孔輸送層を使用する。ここで、固体の正孔輸送層とは、太陽電池を使用する温度と圧力条件下に於いて固体状態で正孔を伝達できる物質であることを意味する。正孔輸送化合物は、固体の正孔輸送層を形成できるものであれば、いずれの正孔輸送化合物でも構わない。有機正孔輸送物質であっても無機正孔輸送物質であってもよい。
まず有機正孔輸送物質について説明する。
【0190】
本発明においては、トリフェニルアミン構造を有する化合物、アリーレン基、2価の芳香族へテロ環基、エテニレン基及びエチニレン基から選択される基が2個以上共役結合した共役化合物、縮合多環芳香族化合物又はフタロシアニン化合物が好ましい。正孔輸送化合物はモノマー、オリゴマー、プレポリマー又はポリマーのいずれであっても構わない。
正孔輸送化合物として好ましい化合物は、トリフェニルアミン構造を有する化合物、又は、アリーレン基、2価の芳香族へテロ環基、エテニレン基及びエチニレン基から選択される基が2個以上共役結合した共役化合物であり、トリフェニルアミン構造を有する化合物は、スピロ環構造を有するものが好ましく、アリーレン基、2価の芳香族へテロ環基、エテニレン基及びエチニレン基から選択される基が2個以上共役結合した共役化合物としては、チオフェン環構造を有するものが好ましい。
以下に本発明の好ましい正孔輸送化合物を例示するが、これによって本発明が限定されるものではない。
【0191】
【化44】

【0192】
【化45】

【0193】
【化46】

【0194】
【化47】

【0195】
【化48】

【0196】
【化49】

【0197】
【化50】

【0198】
【化51】

【0199】
これらの正孔輸送化合物は特開2000−106223号公報、Adv. Mater.,22,1(2010)及び特許第4121148号公報に記載の方法もしくはこれに準じた方法で容易に合成することができる。
【0200】
無機正孔輸送物質としては、CuI、CuSCN、CuO、NiOなどのp型半導体材料を有することが好ましい。無機固体電解質は、半導体電極の細孔サイズをp型半導体材料が容易に進入することが可能なサイズにするための保護剤として機能するとの観点から、イミダゾール又はその誘導体からなる溶融塩を含んでもよい。イミダゾール又はその誘導体からなる溶融塩としては、例えば1−メチル−3−エチルイミダゾリウムチオシアネート、トリエチルアミンヒドロチオシアネートが挙げられる。無機の正孔輸送物質を開示したものとして、特開2010−177109号公報、特開2010−20573号公報、特開2011−204789号公報などがあり、本発明に適用可能なものとして、適宜参照することができる。
【0201】
(正孔輸送層)
正孔輸送層3には、上記の正孔輸送化合物に加えて、必要に応じて、例えば、N(PhBr)SbCl、Li[(CFSON]等の各種添加剤を含有してもよく、これにより正孔輸送層3は、より効率よく正孔を伝達(輸送)することができる。
正孔輸送層には上記の正孔輸送化合物とともに、必要に応じて、有機バインダー等の添加物を添加してもよい。この有機バインダー(高分子バインダー)としては、正孔の輸送を極度に阻害しないものを用いるのが好ましく、例えば、ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリビニリデンフロライド(PVDF)、ポリカーボネート、ポリアクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリシロキサン等を用いることができる。
【0202】
正孔輸送層3を設ける際、正孔輸送材料を溶媒で溶解して設けることが好ましく、溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)、ブチレンオキシド、クロロホルム、シクロヘキサノン、クロロベンゼン、アセトン、各種アルコールのような極性溶媒、ジメチルホルムアミド(DMF)、アセトニトリル、ジメトキシエタン、ジメチルスホキシド、ヘキサメチルリン酸トリアミドのような非プロトン性溶媒等の有機溶媒等が挙げられ、これらのうちの1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0203】
正孔輸送層は、正孔輸送化合物を含む正孔輸送材料(電荷移動体)を、色素を含む多孔質半導体層で構成された感光体層2上に塗布法、真空蒸着法、電解重合法、キャスト法、浸漬法等で導入することができる。このうち塗布法、真空蒸着法、電解重合法が好ましく、塗布法がより好ましい。
塗布法としては、例えば、ディッピング、滴下、ドクターブレード、スピンコート、刷毛塗り、スプレー塗装、ロールコーター等が挙げられる。このような塗布法では、正孔輸送層3の塗設が容易であり、また色素を含む多孔質半導体層の孔内に、正孔輸送材料をより確実に浸透するようにして形成することができる。また、必要に応じて、かかる塗膜には、例えば、減圧下、不活性雰囲気下等で、熱処理を施すようにしてもよい。これにより、塗膜中の溶媒(液体)を除去することができ、より迅速に正孔輸送層3を形成することができ、光電変換素子、太陽電池等の光電気化学電池の製造時間の短縮に有利である。
この熱処理の加熱温度としては、好ましくは、50〜150℃が好ましい。また、このような塗布、熱処理(乾燥)の操作を、繰り返し行って積層するようにしてもよい。
【0204】
なお、正孔輸送化合物として、比較的低分子のものを用いる場合は、正孔輸送層は、例えば、蒸着法等を用いることにより成形することもできる。この蒸着法によれば、正孔輸送層3を、より精度よく均質な膜として、形成することができるという利点がある。また、以上のような操作は、複数回繰り返して行うようにしてもよい。
より具体的には、80℃程度に加熱したホットプレート上に、基板、第1の電極、および色素を含む多孔質半導体層で構成された感光体層2の積層体を設置し、正孔輸送材料を、色素を含む多孔質半導体層で構成された感光体層2の上面に滴下して、乾燥する。この操作を複数回行って、前述したような平均厚さの正孔輸送層3を形成する。この場合、正孔輸送材料に用いる溶媒としては、特に限定されないが、例えば、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロピルアルコール等の有機溶剤、あるいは、各種水等の1種または2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0205】
(導電性支持体)
図1に示すように、本発明の光電変換素子には、導電性支持体1上には多孔質の半導体微粒子22に増感色素21が吸着された感光体層2が形成されている。後述する通り、例えば、半導体微粒子の分散液を導電性支持体に塗布・乾燥後、本発明の色素溶液に浸漬することにより、感光体層2を製造することができる。
【0206】
導電性支持体1としては、金属のように支持体そのものに導電性があるものか、又は表面に導電膜層を有するガラスや高分子材料を使用することができる。導電性支持体1は実質的に透明であることが好ましい。実質的に透明であるとは光の透過率が10%以上であることを意味し、50%以上であることが好ましく、80%以上が特に好ましい。導電性支持体1としては、ガラスや高分子材料に導電性の金属酸化物を塗設したものを使用することができる。このときの導電性の金属酸化物の塗布量は、ガラスや高分子材料の支持体1m当たり、0.1〜100gが好ましい。透明導電性支持体を用いる場合、光は支持体側から入射させることが好ましい。好ましく使用される高分子材料の一例として、トリアセチルセルロース(TAC)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレンナフタレート(PEN)、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)、ポリフェニレンスルフィド(PPS)、ポリカーボネート(PC)、ポリアリレート(PAR)、ポリスルフォン(PSF)、ポリエステルスルフォン(PES)、ポリエーテルイミド(PEI)、環状ポリオレフィン、ブロム化フェノキシ等を挙げることができる。導電性支持体1上には、表面に光マネージメント機能を施してもよく、例えば、特開2003−123859記載の高屈折膜及び低屈性率の酸化物膜を交互に積層した反射防止膜、特開2002−260746記載のライトガイド機能が上げられる。
【0207】
この他にも、金属支持体も好ましく使用することができる。その一例としては、チタン、アルミニウム、銅、ニッケル、鉄、ステンレス、銅を挙げることができる。これらの金属は合金であってもよい。さらに好ましくは、チタン、アルミニウム、銅が好ましく、特に好ましくは、チタンやアルミニウムである。
【0208】
(半導体微粒子)
図1に示すように、本発明の光電変換素子10には、導電性支持体1上には多孔質の半導体微粒子22に増感色素21が吸着された感光体層2が形成されている。後述する通り、例えば、半導体微粒子22の分散液を前記導電性支持体1に塗布・乾燥後、上述の色素溶液に浸漬することにより、感光体層2を製造することができる。本発明においては半導体微粒子として、前記の特定の界面活性剤を用いて調製したものを適用する。
【0209】
(半導体微粒子分散液)
本発明においては、半導体微粒子以外の固形分の含量が、半導体微粒子分散液全体の10質量%以下よりなる半導体微粒子分散液を前記導電性支持体1に塗布し、適度に加熱することにより、多孔質半導体微粒子塗布層を得ることができる。
【0210】
半導体微粒子分散液を作製する方法としては、ゾル・ゲル法の他に、半導体を合成する際に溶媒中で微粒子として析出させそのまま使用する方法、微粒子に超音波などを照射して超微粒子に粉砕する方法、又はミルや乳鉢などを使って機械的に粉砕しすり潰す方法、等が挙げられる。分散溶媒としては、水及び各種の有機溶媒のうちの一つ以上を用いることができる。有機溶媒としては、メタノール,エタノール,イソプロピルアルコール,シトロネロール,ターピネオールなどのアルコール類、アセトンなどのケトン類、酢酸エチルなどのエステル類、ジクロロメタン、アセトニトリル等が挙げられる。
【0211】
分散の際、必要に応じて例えばポリエチレングリコール、ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースのようなポリマー、界面活性剤、酸、又はキレート剤等を分散助剤として少量用いてもよい。しかし、これらの分散助剤は、導電性支持体上へ製膜する工程の前に、ろ過法や分離膜を用いる方法、あるいは遠心分離法などによって大部分を除去しておくことが好ましい。半導体微粒子分散液は、半導体微粒子以外の固形分の含量が分散液全体の10質量%以下とすることができる。この濃度は好ましくは5%以下であり、さらに好ましくは3%以下であり、特に好ましくは1%以下である。さらに好ましくは0.5%以下であり、特に好ましくは0.2%である。すなわち、半導体微粒子分散液中に、溶媒と半導体微粒子以外の固形分を半導体微分散液全体の10質量%以下とすることができる。実質的に半導体微粒子と分散溶媒のみからなることが好ましい。
【0212】
半導体微粒子分散液の粘度が高すぎると分散液が凝集してしまい製膜することができず、逆に半導体微粒子分散液の粘度が低すぎると液が流れてしまい製膜することができないことがある。したがって分散液の粘度は、25℃で10〜300N・s/mが好ましい。さらに好ましくは、25℃で50〜200N・s/mである。
【0213】
半導体微粒子分散液の塗布方法としては、アプリケーション系の方法としてローラ法、ディップ法等の常塗を使用することができる。またメータリング系の方法としてエアーナイフ法、ブレード法等を使用することができる。
【0214】
半導体微粒子層全体の好ましい厚さは0.1μm〜100μmである。半導体微粒子層の厚さはさらに1μm〜30μmが好ましく、2μm〜25μmがより好ましい。半導体微粒子の支持体1m当りの担持量は0.5g〜400gが好ましく、5g〜100gがより好ましい。なお、上記微粒子分散液を塗布して製膜する方法は特に限定されず、公知の方法を適宜適用すればよい。
【0215】
増感色素21の使用量は、全体で、支持体1m当たり0.01ミリモル〜100ミリモルが好ましく、より好ましくは0.1ミリモル〜50ミリモル、特に好ましくは0.1ミリモル〜10ミリモルである。この場合、本発明にかかる増感色素21の使用量は5モル%以上とすることが好ましい。また、増感色素21の半導体微粒子22に対する吸着量は半導体微粒子1gに対して0.001ミリモル〜1ミリモルが好ましく、より好ましくは0.1〜0.5ミリモルである。このような色素量とすることによって、半導体における増感効果が十分に得られる。これに対し、色素量が少ないと増感効果が不十分となり、色素量が多すぎると、半導体に付着していない色素が浮遊し増感効果を低減させる原因となる。
【0216】
(対極)
対極4は、光電気化学電池の正極として働くものである。対極4は、通常前述の導電性支持体1と同義であるが、強度が十分に保たれるような構成では対極の支持体は必ずしも必要でない。ただし、支持体を有する方が密閉性の点で有利である。対極4の材料としては、白金、カーボン、導電性ポリマー、などがあげられる。好ましい例としては、白金、カーボン、導電性ポリマーが挙げられる。対極4の構造としては、集電効果が高い構造が好ましい。好ましい例としては、特開平10−505192号公報などが挙げられる。
【0217】
(受光電極)
受光電極5は、入射光の利用率を高めるなどのためにタンデム型にしてもよい。好ましいタンデム型の構成例としては、特開2000−90989、特開2002−90989号公報等に記載の例が挙げられる。受光電極5の層内部で光散乱、反射を効率的に行う光マネージメント機能を設けてもよい。好ましくは、特開2002−93476号公報に記載のものが挙げられる。
【0218】
導電性支持体1と多孔質半導体微粒子層の間には、電解液と電極が直接接触することによる逆電流を防止する為、短絡防止層を形成することが好ましい。好ましい例としては、特開平06−507999号公報等が挙げられる。受光電極5と対極4の接触を防ぐ為に、スペーサーやセパレータを用いることが好ましい。好ましい例としては、特開2001−283941号公報が挙げられる。
【0219】
セル、モジュールの封止法としては、ポリイソブチレン系熱硬化樹脂、ノボラック樹脂、光硬化性(メタ)アクリレート樹脂、エポキシ樹脂、アイオノマー樹脂、ガラスフリット、アルミナにアルミニウムアルコキシドを用いる方法、低融点ガラスペーストをレーザー溶融する方法などが好ましい。ガラスフリットを用いる場合、粉末ガラスをバインダーとなるアクリル樹脂に混合したものでもよい。
【実施例】
【0220】
以下に実施例に基づき本発明について更に詳細に説明するが、本発明がこれに限定して解釈されるものではない。
(実施例1)
以下の方法で、色素増感太陽電池の試験セル(i)を作製し、この試験セルについて、光電変換特性を測定し、変換効率を求めた。
(試験セル(i))
100×100mmのFTO(フッ素ドープスズ)膜34付きガラス基板32の表面に、エッチング法により深さ5μmの溝を格子回路パターン状に形成した。エッチングは、フォトリソにてパターン形成した後に、フッ酸を用いて行った。これに、めっき形成を可能とするためにスパッタ法により金属導電層(シード層)を形成し、更にアディティブめっきにより金属配線層33を形成した。金属配線層33は、透明基板32表面から凸レンズ状に3μm高さまで形成した。回路巾は60μmとした。この上から、遮蔽層35としてFTO膜を400nmの厚さでSPD法により形成して、電極基板(i)とした。なお、電極基板(i)の断面形状は、特開2004-146425号公報中の図2に準ずるものとなっている。ここで作成した電極基板(i)(図中の符号で31)の模式図を添付図2に示した。
電極基板(i)上に平均粒径25nmの酸化チタン分散液を塗布・乾燥し、450℃で1時間加熱・焼結した。これを表中の色素のエタノール溶液中に1時間浸漬して色素担持した。正孔輸送層、耐光電極の作製は以下の4種類のいずれかの方法を用いて形成し、光電変換素子を作製した。
(無機固体正孔輸送化合物:乾燥法)
アセトニトリルにCuIを添加して飽和溶液を作製し、その上澄み液を6ml取り出したものに、15mgの1−メチル−3−エチルイミダゾリウムチオシアネートを添加してp型半導体の溶液を調整した。そして、80℃に加熱したホットプレート上に、色素を含有させた後の積層体を配置し、p型半導体の溶液をピペットで滴下塗布して浸透させ、そのまま1分間放置して乾燥させて、p型半導体層を作製した。
(有機固体正孔化合物:塗布法)
下記表1−1〜表1−4に記載の正孔輸送化合物溶液(濃度5質量%)を調整し、色素を吸着したTiO電極(感光層)上にスピンコートした(1000rpm、30sec)。この後、金もしくは白金を蒸著し、対向電極層を形成し、光電変換素子を得た。
(有機固体正孔化合物:蒸着法)
色素を吸着したTiO電極(感光層)(2cm×2cm)を真窒蒸着装置〔日本真空技術(株)製〕の基板ホルダーに固定し、モリブデン製の抵抗加熱ボートに下記表1−1〜表1−4に記載の正孔輸送化合物600mgを入れた。真空チャンバー内を1×10−4Paまで減圧したのち、該正孔輸送化合物入りのボートを加熱して0.1〜0.3nm/秒の速度で堆積させ、膜厚100nmの正孔輸送層を製膜した。この後、金もしくは白金を蒸着し、対向電極層を形成し、光電変換素子を得た。
(有機固体正孔化合物:電解重合法)
色素を吸着したTiO電極(感光層)(2cm×2cm)、白金線対向電極およびAg/AgCl参照電極を下記表1−1〜表1−4に記載の正孔輸送化合物を50mM、過塩素酸リチウム0.1Mのプロピレンカーボネート溶液20mlの入った電気化学セルに浸積した。感光層、対向電極、参照電極をPOTENTIOSTAT/GALVANOSATAT HA−505(HOKUTO DENKO Ltd.製)に接続し、重合量が75mC/cmとなるまでガルバノスタチックに電解重合(電流密度を1mA/cm)を行った。この後、金もしくは白金を蒸着し、対向電極層を形成し、光電変換素子を得た。
AM1.5の疑似太陽光により、試験セル(i)の光電変換特性を評価した。その結果を下表1−1〜表1−4に示す。
【0221】
(試験方法)
電池特性試験を行い、色素増感太陽電池について、変換効率ηを測定した。電池特性試験は、ソーラーシミュレーター(WACOM製、WXS−85H)を用い、AM1.5フィルターを通したキセノンランプから1000W/mの疑似太陽光を照射することにより行った。I−Vテスターを用いて電流−電圧特性を測定し、変換効率(η/%)を求めた。下記の各項目について評価・判定を行った。すべてにおいてA以上であると市場において高い評価を得ることができる。
【0222】
(初期の変換効率)
AA:4%以上のもの
A: 3.5%以上4%未満のもの
B: 3%以上3.5%未満のもの
C: 3%未満のもの
【0223】
(暗所保存後の変換効率の降下率)
80℃、300時間暗所経時後の光電変換効率(η)を測定した。初期の変換効率(η)に対する降下率[Rd](下式)を求めて評価を行った。
式: 降下率(Rd)=(η−η)/(η
AA:Rdが5%未満のもの
A: Rdが5%以上10%未満のもの
B: Rdが10%以上20%未満のもの
C: Rdが20%以上のもの
【0224】
(照射後の変換効率の降下率)
500時間連続光照射後の変換効率の光電変換効率(η)を測定した。初期の変換効率(η)に対する降下率[Ri](下式)を求めて評価を行った。
式: 降下率(Ri)=(η−η)/(η
AA:Riが5%未満のもの
A: Riが5%以上10%未満のもの
B: Riが10%以上15%未満のもの
C: Riが15%以上のもの
【0225】
【表1−1】

【0226】
【表1−2】

【0227】
【表1−3】

【0228】
【表1−4】

【0229】
(表中の注釈)
*1:固体正孔輸送化合物の形成方法(表2以下においても同様)
DR:乾燥法
AP:塗布法
EP:電解重合法
DP:蒸着法
*2:配向制御性脂肪族基Aのある部位に「O」を付した。
なお、すべての実施例において共通して、試料番号がcではじまるものは、比較例である。
【0230】
比較色素
【化52】

【0231】
表1−1〜表1−4より、本発明の金属錯体色素を用いた試験セルの変換効率は3.5%以上という高い変換効率を示す場合があることがわかった。これに対して比較色素を用いた場合は、変換効率は高くても3.5%未満であった。
【0232】
(実施例2)
光電極を構成する半導体電極の半導体層又は光散乱層形成するための種々のペーストを調製し、このペーストを用いて、色素増感太陽電池を作製した。
[ペーストの調製]
先ず、光電極を構成する半導体電極の半導体層又は光散乱層形成するためのペーストを以下の表Cの組成で調製した。なお以下の調製ではTiOを媒体に入れて撹拌することによりスラリーを調製し、そこに増粘剤を加え、混練することでペーストを得た。
【0233】
【表C】

TiO粒子1:アナターゼ、平均粒径;25nm
TiO粒子2:アナターゼ、平均粒径;200nm
棒状TiO粒子S1:アナターゼ、直径;100nm、アスペクト比;5
棒状TiO粒子S2:アナターゼ、直径;30nm、アスペクト比;6.3
棒状TiO粒子S3:アナターゼ、直径;50nm、アスペクト比;6.1
棒状TiO粒子S4:アナターゼ、直径;75nm、アスペクト比;5.8
棒状TiO粒子S5:アナターゼ、直径;130nm、アスペクト比;5.2
棒状TiO粒子S6:アナターゼ、直径;180nm、アスペクト比;5
棒状TiO粒子S7:アナターゼ、直径;240nm、アスペクト比;5
棒状TiO粒子S8:アナターゼ、直径;110nm、アスペクト比;4.1
棒状TiO粒子S9:アナターゼ、直径;105nm、アスペクト比;3.4
板状マイカ粒子P1 :直径;100nm、アスペクト比;6
CB:セルロース系バインダー
【0234】
(色素増感太陽電池1)
以下に示す手順により、特開2002−289274号公報に記載の図5に示した光電極12と同様の構成を有する光電極を作製し、更に、光電極を用いて、同公報図3の光電極以外は色素増感型太陽電池20と同様の構成を有する10×10mmのスケールの色素増感型太陽電池1を作製した。具体的な構成は添付の図3に示した。41が透明電極、42が半導体電極、43が透明導電層、44が基板、45が半導体層、46が光散乱層、40が光電極,20が色素増感型太陽電池、CEが対極、Eが電解質、Sがスペーサーである。
【0235】
ガラス基板上にフッ素ドープされたSnO導電膜(膜厚;500nm)を形成した透明電極を準備した。そして、このSnO導電膜上に、上述のペースト2をスクリーン印刷し、次いで乾燥させた。その後、空気中、450℃の条件のもとで焼成した。更に、ペースト4を用いてこのスクリーン印刷と焼成とを繰り返すことにより、SnO導電膜上に図5に示す半導体電極42と同様の構成の半導体電極(受光面の面積;10mm×10mm、層厚;10μm、半導体層の層厚;6μm、光散乱層の層厚;4μm、光散乱層に含有される棒状TiO粒子1の含有率;30質量%)を形成し、増感色素を含有していない光電極を作製した。
【0236】
次に、半導体電極に色素を以下のようにして吸着させた。先ず、マグネシウムエトキシドで脱水した無水エタノールを溶媒として、これに下記表3に記載の金属錯体色素を、その濃度が3×10−4mol/Lとなるように溶解し、色素溶液を調製した。次に、この溶液に半導体電極を浸漬し、これにより、半導体電極に色素が約1.5×10−7mol/cm吸着し、光電極10を完成させた。
【0237】
正孔輸送層、耐光電極の作製は以下の4種類のいずれかの方法を用いて形成し、光電変換素子を作製した。
【0238】
(無機固体正孔輸送化合物:乾燥法)
アセトニトリルにCuIを添加して飽和溶液を作製し、その上澄み液を6ml取り出したものに、15mgの1−メチル−3−エチルイミダゾリウムチオシアネートを添加してp型半導体の溶液を調整した。そして、80℃に加熱したホットプレート上に、色素を含有させた後の積層体を配置し、p型半導体の溶液をピペットで滴下塗布して浸透させ、そのまま1分間放置して乾燥させて、p型半導体層を作製した。
次に、厚み1mmの銅板を1M濃度の塩酸にて洗浄し、さらに無水エタノールで洗浄した後、大気中で500℃、4時間加熱し、最大径100nmで高さ10μmのCuOナノワイヤ(突起部47)が成長した銅板を作製した。この銅板を密閉容器内にヨウ素結晶と封入し、60℃の恒温槽で1時間加熱して、表面に薄いCuI層(p型半導体膜37)をコーティングされた対極(4)を作製した。そして、この対極(4)を、上記で作製した積層体に、p型半導体層(31)の側からに押し付けて積層した。
【0239】
(有機固体正孔化合物:塗布法)
実施例1の塗布法と同様にして、光電変換素子を得た。
(有機固体正孔化合物:蒸着法)
実施例1の蒸着法と同様にして、光電変換素子を得た。
(有機固体正孔化合物:電解重合法)
実施例1の電解重合法と同様にして、光電変換素子を得た。
この太陽電池の性能を実施例1と同様にして試験を行い、初期の変換効率は次のように評価した。その他の項目は実施例1と同様にして評価を行った。すべてにおいてA以上であると市場において高い評価を得ることができる。
【0240】
(初期の変換効率)
AA:4%以上のもの
A: 3.5%以上4%未満のもの
B: 3%以上3.5%未満のもの
C: 3%未満のもの
結果を下表2に示す。
【0241】
【表2】

【0242】
なお、上記ペースト2以外のペースト1〜14についても同様に試験を行ない、本発明の色素によれば良好な性能が得られることを確認した。特に、ペースト10、13が光電変換効率及び耐久性において高い性能を示した。
【0243】
(実施例3)
以下に示す手順により、特開2010−218770公報に記載の図1に示したものと同様の構成を有する色素増感太陽電池を作成した。具体的な構成は添付の図4に示した。11が透明基板、12が透明導電層、13がバリア層、22がn型半導体電極、31がp型半導体層、32がp型半導体膜、4が対極(47が対極の突起部)である。
【0244】
20mm×20mm×1mmの透明基板(11)としての透明ガラス板に、透明導電層(12)としてのSnO2:F(フッ素ドープ酸化スズ)をCVDにより形成した透明導電(Transparent Conductive Oxide:TCO)ガラス基板を用意した。
次に、Ti(OCH(CH3)2)4と水とを容積比4:1で混合した溶液5mlを、塩酸塩でpH1に調整されたエチルアルコール溶液40mlと混合し、TiO2前駆体の溶液を調製した。そして、この溶液を、TCOガラス基板上に1000rpmでスピンコートし、ゾル−ゲル合成を行った後、真空下で78℃、45分間加熱し、450℃、30分間のアニーリングを行い、酸化チタン薄膜からなるバリア層(13)を形成した。
【0245】
一方、平均粒子径18nm(粒子径:10nm〜30nm)のアナターゼ型の酸化チタン粒子を、エタノール及びメタノールの混合溶媒(エタノール:メタノール=10:1(体積比))に均一に分散させて酸化チタンのスラリーを調製した。この時、酸化チタン粒子は、混合溶媒100重量%に対し、10重量%の割合でホモジナイザーを用いて均質に分散させた。
次に、エタノールに、粘度調整剤としてのエチルセルロースを濃度が10質量%となるように溶解させた溶液と、アルコール系有機溶媒(ターピネオール)とを上記で調製した酸化チタンのスラリーに添加し、再度、ホモジナイザーで均質に分散させた。この後、ターピネオール以外のアルコールをエバポレータで除去し、ミキサーで混合して、ペースト状の酸化チタン粒子含有組成物を調製した。尚、調製した酸化チタン粒子含有組成物の組成は、酸化チタン粒子含有組成物を100質量%として、酸化チタン粒子が20質量%、粘度調整剤が5質量%であった。
【0246】
このようにして調製した酸化チタン粒子含有組成物を、上記で形成したバリア層(13)の上に、スクリーン印刷で所定のパターンを形成するように塗布し、150℃で乾燥した後、電気炉内で450℃に加熱して、TCOガラス基板上にn型半導体電極(22)が積層された積層体を得た。次いで、この積層体を硝酸亜鉛(ZnNO3)の溶液に一晩浸漬した後、450℃、45分間加熱して表面処理を行った。この後、表4に示す各種色素を用いて、そのエタノール溶液(増感色素の濃度:3×10-4mol/L)に、表面処理した積層体を浸漬し、25℃で40時間放置して、n型半導体電極(22)の内部に色素を吸着させた。
【0247】
正孔輸送層、対向電極の作製は実施例1、2と同様の、乾燥法、塗布法、蒸着法、電解重合法の4種類のいずれかの方法を用いて形成し、光電変換素子を作製した。
この太陽電池の性能を実施例1と同様にして試験を行い、初期の変換効率は次のように評価した。その他の項目は実施例1と同様にして評価を行った。すべてにおいてA以上であると市場において高い評価を得ることができる。
【0248】
このように作製した色素増感型太陽電池について実施例1と同様にして初期の変換効率を試験し、次のように性能評価を行った。A以上であると市場において高い評価を得ることができる。
【0249】
(初期の変換効率)
AA:4%以上のもの
A: 3.5%以上4%未満のもの
B: 3%以上3.5%未満のもの
C: 3%未満のもの
結果を下表3に示す。
【0250】
【表3】

【0251】
(実施例4)
以下の方法で、光電極にCdSe量子ドット化処理を行い、固体正孔輸送材料を使用して、図5に示す色素増感太陽電池を作成した。
【0252】
FTOガラス(1、日本板硝子(株)社製 表面抵抗:8Ωsq-1)表面にチタン(IV)ビス(アセチルアセトナート)ジイソプロポキシドのエタノール溶液を16回噴霧し、450℃で30分間以上焼成した。この基板に20nm-TiO2で約2.1μmの透明層と60nm-TiO2(昭和タイタニウム(株)社製)で約6.2μmの光散乱層をスクリーン印刷で積層し、TiCl4水溶液で後処理を行い、FTO/TiO2フィルム(2)を作成した。
【0253】
このFTO/TiO2フィルムを不活性ガス雰囲気下のグローブバック内で0.03MのCd(NO3)2エタノール溶液に30秒間浸した後、連続して0.03Mのセレナイドエタノール溶液に30秒間浸した。その後、エタノール中で1分以上洗浄し、過剰のプレカーサーを除去して乾燥した。この浸漬→洗浄→乾燥過程を5回繰り返して酸化チタン層(22)にCdSe 量子ドット(23)を成長させ、CdTeで表面安定化処理を行うことにより、CdSe処理した光電極を作成した。
セレナイド(Se2-)はArやN2雰囲気下、0.068gのNaBH4(0.060Mの濃度となる様に)を0.030Mの SeO2エタノール溶液に加える事によって系内で調整した。
【0254】
CdSe処理した光電極を色素溶液に1時間浸漬し(表5中の色素の0.1mMエタノール溶液)光電極に色素(21)を吸着させた。
正孔輸送層、対向電極の作製は実施例1、2と同様の、乾燥法、塗布法、蒸着法、電解重合法の4種類のいずれかの方法を用いて形成し、光電変換素子を作製した。
【0255】
このように作製した色素増感型太陽電池について実施例1と同様にして初期の変換効率を試験し、次のように性能評価を行った。
【0256】
(初期の変換効率)
AA:4%以上のもの
A: 3.5%以上4%未満のもの
B: 3%以上3.5%未満のもの
C: 3%未満のもの
結果を下表4に示す。
【0257】
【表4】

【0258】
その他、特開2004-152613号公報の図1に示された光電極を利用した太陽電池、特開2000-90989号公報の実施例1と同様に作成したタンデムセルを利用した太陽電池、特開2003−217688号公報の図1に示した色素増感型太陽電池を作製して上記と同様の試験を行った。その結果、本発明の色素によれば、いずれも良好な性能が得られることを確認した。
【符号の説明】
【0259】
1 導電性支持体
11 透明基板
12 透明導電層
13 バリア層
2 感光体層
21 色素
22 半導体微粒子、n型半導体電極
23 CdSe量子ドット
3 電荷移動体層
36 P型半導体層
37 P型半導体膜
4 対極
47 突起部
5 受光電極
6 回路
10 光電変換素子
100 光電気化学電池
【0260】
31 電極基板
32 透明基板(ガラス基板)
33 金属配線層
34 透明導電層(FTO膜)
35 遮蔽層
【0261】
41 透明電極
42 半導体電極
43 透明導電膜
44 基板
45 半導体層
46 光散乱層
40 光電極
20 色素増感型太陽電池
CE 対極
E 電解質
S スペーサー
51 透明基板
52 透明導電層
53 バリア層
54 n型半導体電極
55 p型半導体層
56 p型半導体膜
57 対極
57a 突起部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
導電性支持体上に色素が吸着された半導体微粒子層を有する感光体層、固体の正孔輸送層、および対極を含む積層構造よりなる光電変換素子であって、前記色素が炭素数5〜18の脂肪族基Aを有する下記式(1)で表される色素である光電変換素子。
【化1】

[式中、Qは4価の芳香族基を示す。X、Xは硫黄原子、酸素原子、又はCRを表す。R、Rは、水素原子、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で結合するヘテロ環基を表す。R、R’は、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で結合するヘテロ環基を表す。P、Pは色素残基を表す。ただしPはポリメチン色素を形成するのに必要な原子群を表す。Wは電荷を中和させるのに必要な場合の対イオンを表す。]
【請求項2】
前記脂肪族基Aが、R、R’、P1に含まれる基、P2に含まれる基、又はその組合せである請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記固体正孔輸送層に含まれる正孔輸送物質が、無機正孔輸送化合物または有機正孔輸送化合物である請求項1又は2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記固体正孔輸送層の正孔輸送物質が、CuI、CuSCN、CuO、又はNiOの無機正孔輸送化合物、あるいは、トリフェニルアミン構造を有する化合物、アリーレン基、2価の芳香族へテロ環基、エテニレン基、及びエチニレン基から選択される基が2個以上共役結合した共役化合物、縮合多環芳香族化合物、又はフタロシアニン化合物の前記有機正孔輸送化合物を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記固体正孔輸送層に含まれる有機正孔輸送化合物が、モノマー、オリゴマー、プレポリマー、ポリマー、スピロ構造を有する化合物、又はチオフェン環構造を少なく1つ含有する共役化合物である請求項1〜4のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記式(1)中のPは、下記式P11または下記式P12で表される請求項1〜5のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【化2】

(式中、R、R、R10、R11は、酸性基を有することがある脂肪族基、又は酸性基を有することがある芳香環基を表す。R、R12は硫黄原子または下記式Rを表す。R、R、Rは水素原子又は置換基を表す。Rは酸素原子又は置換基を表す。n21は0以上の整数を表す。n22、n31は0又は1を示す。*は結合手を表す。)
【化3】

(式RにおけるR13、R14はシアノ基又は酸性基を表す。*は結合手を表す。)
【請求項7】
前記式P11中のRもしくはR、またはP12中のR10もしくはR11が前記脂肪族基Aである請求項6に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記式(1)中のPが、下記式P13又は式P14で表される請求項1〜5のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【化4】

[式中、Vは水素原子又は置換基を表す。nは0〜4の整数を表す。mは1〜4の整数を表す。YはS、NR39、またはCR4041を表す。R39は水素原子、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で結合するヘテロ環基を表す。R40、R41は、水素原子、脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で結合するヘテロ環基を表す。Zは脂肪族基、芳香族基、又は炭素原子で結合するヘテロ環基を表す。R33〜R36、及びR38は、水素原子、脂肪族基、芳香族基、又はヘテロ環基を表す。R37は酸素原子、又は2つの置換基を有する炭素原子であって2つの置換基のHammett則におけるσpの和が正である置換基である。*は結合手を表す。]
【請求項9】
前記式P13もしくはP14中のZが前記脂肪族基Aを有する基である請求項8に記載の光電変換素子。
【請求項10】
前記Pを形成する原子群が下記式P21または下記式P22で表される請求項1〜9のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【化5】

(式中、R21、R22、R23は水素原子又は置換基を表す。Arは、π過剰系複素環基、またはHammett則におけるσp値が0以下の置換基を有する芳香環基を表す。n41は0以上の整数を表す。*は結合手を表す。)
【請求項11】
前記Arが下記式RC1、RC2、RC3、又はRC4で表される請求項10に記載の光電変換素子。
【化6−1】

(式RC1〜RC4中、YはS、NR、またはC(Rを表す。R、Rは置換基を表す。Aは芳香環を表す。R26は水素原子もしくは置換基を表す。EはS、NR、Oを表す。DはHammett則におけるσp値が0以下の置換基を表す。Bは芳香環を表す。Xは−SR、−OR、−NRを表す。*は結合手を表し、式P21及び式P22でみて、メチン鎖を介して連結しても、二重結合になって直接連結されてもよい。kは正の整数である。Lは下記式L、Lを示す。nは、0以上の整数を示す。)
【化6−2】

(E、R26、k、nは上記で定義したものと同義である。)
【請求項12】
前記式RC1〜RC4中の、R26、R、またはDが、前記脂肪族基Aを有する基である請求項11記載の光電変換素子。
【請求項13】
前記Arが前記式RC1、RC2、またはRC3で表されることを特徴とする請求項12に記載の光電変換素子。
【請求項14】
前記式(1)で表される色素において、前記Pが電子のアクセプターをなし、Pがドナーをなし、該色素がドナー・アクセプター型の分子を構成している請求項1〜13のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項15】
前記感光体層が下記式(I)で表される色素をさらに有する請求項1〜14のいずれか1項に記載の光電変換素子。
MLm1m2mX・CI (I)
[式(I)において、Mは金属原子を表す。Lは下記式(L1)で表される配位子を表す。L2は下記式(L2)で表される配位子を表す。Xは1座の配位子を表す。m1は1又は2である。m2は1又は2である。mXは0又は1である。CIは、電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。]
【化7】

[式(L1)において、Za、Zb及びZcはそれぞれ独立に、5又は6員環を形成する原子群を表す。ただし、Za、Zb及びZcが形成する環のうち少なくとも1つは酸性基を有する。]
【化8】

[式(L2)において、A〜Cは5員環以上の含窒素芳香環を表す。aは0または1の整数を表す。VはHammett則におけるσp値が正の置換基を表す。nは0以上の整数を表す。]
【請求項16】
前記感光体層が下記式(II)で表される色素をさらに有する請求項1〜15のいずれか1項に記載の光電変換素子。
MzLm3m4mY・CI : 式(II)
[式(II)において、Mzは金属原子を表す。Lは下記式L3で表される2座の配位子を表す。Lは下記式L4で表される2座又は3座の配位子を表す。Yは1座又は2座の配位子を表す。m3は0〜3の整数を表す。m4は1〜3の整数を表す。mYは0〜2の整数を表す。CIは電荷を中和させるのに対イオンが必要な場合の対イオンを表す。
【化9】

(式(L3)において、Acは酸性基を表す。Rは置換基を表す。Rはアルキル基又は芳香環基を表す。e1及びe2は0〜5の整数を表す。L及びLは共役鎖を表す。e3は0又は1を表す。fは0〜3の整数を表す。gは0〜3の整数を表す。)
【化10】

(式(L4)において、Zd、Ze及びZfは5又は6員環を形成しうる原子群を表す。hは0又は1を表す。ただし、Zd、Ze及びZfが形成する環のうち少なくとも1つは酸性基を有する。)
【請求項17】
前記半導体微粒子が酸化チタン微粒子である請求項1〜16のいずれか1項に記載の光電変換素子。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれか1項に記載の光電変換素子を備える光電気化学電池。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−114944(P2013−114944A)
【公開日】平成25年6月10日(2013.6.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−261168(P2011−261168)
【出願日】平成23年11月30日(2011.11.30)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】