説明

光電変換素子用基板とその製造方法、光電変換素子、及び太陽電池

【課題】ガラス基板よりも軽量で破損しにくく、良好な耐電圧性を有する光電変換素子用基板を提供する。
【解決手段】光電変換素子用基板10Aは、金属基板11と、金属基板11の少なくとも一方の面上に形成された絶縁性のセラミックス膜12とを有し、セラミックス膜12は、金属基板11との界面及びその近傍にアンカー層を有するものである。セラミックス膜12は、エアロゾル化されたセラミックス原料粉を金属基板11上に衝突させて、原料粉の破砕物を金属基板11上に堆積させる堆積工程を有する製造方法により製造されたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属基板と金属基板の少なくとも一方の面上に形成された絶縁性のセラミックス膜とを有する光電変換素子用基板とその製造方法、この基板を用いた光電変換素子、及びこれを用いた太陽電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
光吸収により電流を発生する光電変換層と、光電変換層で発生した電流を取り出す電極とを備えた光電変換素子が、太陽電池等の用途に使用されている。
従来、太陽電池においては、バルクの単結晶Si又は多結晶Si、あるいは薄膜のアモルファスSiを用いたSi系太陽電池が主流であったが、Siに依存しない化合物半導体系太陽電池の研究開発がなされている。化合物半導体系太陽電池としては、GaAs系等のバルク系と、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなるCIS(Cu−In−Se)系あるいはCIGS(Cu−In−Ga−Se)系等の薄膜系とが知られている。CI(G)S系は、光吸収率が高く、高エネルギー変換効率が報告されている。
【0003】
従来、薄膜系光電変換素子用の基板としてはガラス基板が主に使用されているが、ガラス基板は可撓性に欠け破損しやすいため、基板の薄型軽量化が難しく、Roll to Roll工程による連続生産に供することもできない。また、ガラス基板は光電変換層等の材料に比べて高価であり、光電変換素子の低コスト化を図ることが難しい。
【0004】
プロセス温度を考慮すれば、基板としては耐熱性のある無機基板が好ましい。可撓性及び耐熱性を考慮して、光電変換素子用基板として金属基板を用いることが検討されている。金属基板を用いる場合、基板とその上に形成される電極及び光電変換層との短絡が生じないよう、基板の表面に絶縁膜を設けることが必須である。絶縁膜には、基板との間の密着性が高いこと、及び耐電圧性が高いこと(電圧のかかる使用状況でも絶縁破壊が起こらないこと)が求められる。絶縁膜の絶縁破壊が起こると漏れ電流が発生するため、光電変換効率が低下してしまう。
【0005】
特許文献1には、金属基板上にガラスセラミックス膜を形成した光電変換素子用基板が開示されている(請求項1)。段落0013,0014には、50μm厚のSUS430基板の両面に100μm厚の結晶化ガラス層を形成した光電変換素子用基板が具体的に挙げられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平5−283725公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の光電変換素子用基板では、結晶化ガラスの焼成温度は900℃と高いため、焼成時にSUS基板に含まれる金属元素が結晶化ガラス層に拡散して、結晶化ガラス層の絶縁性能が低下するという問題がある。さらに、結晶化ガラス層に拡散した金属元素は、後に続く光電変換層の成膜プロセス時に光電変換層に拡散して、光電変換効率の低下を招く恐れもある。また、特許文献1に具体的に数値が挙げられているように、充分な耐電圧を確保するためには、結晶化ガラス層の厚みは少なくとも100μm程度必要であると考えられる。金属基板の両面にかかる膜厚の結晶化ガラス層を形成すると、せっかく可撓性の金属基板を用いても、光電変換素子用基板全体として可撓性を有さなくなり、可撓性の金属基板を用いることのメリットが薄れる。
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、ガラス基板よりも軽量で破損しにくく、良好な耐電圧性を有する光電変換素子用基板とその製造方法を提供することを目的とするものである。
本発明はまた、ガラス基板よりも軽量で破損しにくく、良好な耐電圧性を有し、可撓性を有する光電変換素子用基板とその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の光電変換素子用基板は、
金属基板と、該金属基板の少なくとも一方の面上に形成された絶縁性のセラミックス膜とを有する光電変換素子用基板において、
前記セラミックス膜は、前記金属基板との界面及びその近傍にアンカー層を有するものであることを特徴とするものである。
【0010】
前記セラミックス膜は、エアロゾル化されたセラミックス原料粉を前記金属基板上に衝突させて、前記原料粉の破砕物を前記金属基板上に堆積させる堆積工程を有する製造方法により製造されたものである。
【0011】
本発明の光電変換素子用基板の製造方法は、
金属基板と、該金属基板の少なくとも一方の面上に形成された絶縁性のセラミックス膜とを有する光電変換素子用基板の製造方法において、
エアロゾル化されたセラミックス原料粉を前記金属基板上に衝突させて、前記原料粉の破砕物を前記金属基板上に堆積させる堆積工程を有することを特徴とするものである。
【0012】
本発明の光電変換素子は、上記の本発明の光電変換素子用基板上に、光吸収により電流を発生する光電変換層と、該光電変換層と導通する電極とを備えたことを特徴とするものである。
本発明の太陽電池は、上記の本発明の光電変換素子を備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ガラス基板よりも軽量で破損しにくく、良好な耐電圧性を有する光電変換素子用基板とその製造方法を提供することができる。
本発明によれば、ガラス基板よりも軽量で破損しにくく、良好な耐電圧性を有し、可撓性を有する光電変換素子用基板とその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1A】本発明に係る一実施形態の光電変換素子用基板の概略断面図
【図1B】本発明に係るその他の実施形態の光電変換素子用基板の概略断面図
【図2】本発明に係る一実施形態の光電変換素子の概略断面図
【図3】成膜方法と耐電圧との関係を示すグラフ
【図4】AD成膜装置の構成例を示す図
【図5A】成膜装置の設計変更例を示す図
【図5B】成膜装置の設計変更例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0015】
「光電変換素子用基板とその製造方法」
本発明の光電変換素子用基板は、
金属基板と、該金属基板の少なくとも一方の面上に形成された絶縁性のセラミックス膜とを有する光電変換素子用基板において、
前記セラミックス膜は、前記金属基板との界面及びその近傍にアンカー層を有するものであることを特徴とするものである。
【0016】
図1A及び図1Bは、本発明に係る実施形態の光電変換素子用基板の構成を示す概略断面図である。視認しやすくするため、縮尺等については実際のものとは適宜異ならせてある。
【0017】
図1Aに示す光電変換素子用基板10Aは、金属基板11の両面にそれぞれ絶縁性のセラミックス膜12が形成されたものである。図1Bに示す光電変換素子用基板10Bは、金属基板11の片面に絶縁性のセラミックス膜12が形成されたものである。セラミックス膜12において、アンカー層は金属基板11との界面及びその近傍に薄く形成されるため、図1A,図1Bではアンカー層については図示を省略してある。
光電変換素子の製造過程において、金属基板11とセラミックス膜12との熱膨張係数差に起因した基板の反り、及びこれによる膜剥がれ等を抑制するには、図1Aに示すように金属基板11の両面にセラミックス膜12が形成されたものがより好ましい。
【0018】
金属基板11の組成は特に制限されず、ステンレス板、アルミニウム板、及び銅板のうちいずれかであることが好ましい。
【0019】
金属基板11の厚みは特に制限されない。光電変換素子の薄型軽量化が可能であり、光電変換素子をRoll to Roll工程による連続生産で製造できることから、金属基板11の厚みは基板として充分な強度を有する厚み以上で可撓性を有する範囲内であることが好ましい。金属基板11の厚みは例えば0.05〜0.6mmが好ましく、0.1〜0.3mmがより好ましい。
【0020】
セラミックス膜12の主成分は特に制限されず、Al,Ta,及びYからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物セラミックスであることが好ましい。
本明細書において、「主成分」は特に明記しない限り、含量50質量%以上の成分であると定義する。
【0021】
セラミックス膜12は、エアロゾル化されたセラミックス原料粉を金属基板11上に衝突させて、原料粉の破砕物を金属基板11上に堆積させる堆積工程を有する製造方法(=エアロゾルデポジション法(AD法))により製造されたものである。
【0022】
本発明の光電変換素子用基板の製造方法は、
金属基板と、該金属基板の少なくとも一方の面上に形成された絶縁性のセラミックス膜とを有する光電変換素子用基板の製造方法において、
エアロゾル化されたセラミックス原料粉を前記金属基板上に衝突させて、前記原料粉の破砕物を前記金属基板上に堆積させる堆積工程を有することを特徴とするものである。
【0023】
「エアロゾル」とは、気体中に浮遊している固体や液体の微粒子のことを言う。AD法は焼結プロセスが必須ではなく、常温等の比較的低温でセラミックス等の膜を成膜できる方法として知られている。AD法は、噴射堆積法又はガスデポジション法とも呼ばれる。
【0024】
AD法によって成膜されたセラミックス膜12は、AD法に特有な様々な特徴を有するものとなる。AD法では、原料粉を下地の表面に衝突させるので、原料粉あるいはその破砕物が下地の表層に食い込んで、下地との界面付近に凹凸・食込みが生じる。この現象は「アンカーリング」と呼ばれ、下地との界面及びその近傍に「アンカー層」と称される層が形成される。通常の気相法や液相法では、このような下地への凹凸・食込みは見られない。
【0025】
原料粉あるいはその破砕物が下地の表層に食い込む深さは、下地の材質、原料粉の組成、原料粉の平均粉子径、及び原料粉の衝突速度等の条件により異なるが、例えば10〜300nm程度である。すなわち、アンカー層の凹凸差は例えば10〜300nm程度である。
【0026】
SEM等によりセラミックス膜/金属基板の断面を観察して、セラミックス膜/金属基板の界面近傍のアンカー層の有無を見ることで、セラミックス膜がAD法により製造されたものであるかどうかを識別することができる。
【0027】
AD法により成膜されたセラミックス膜では、アンカー層部分とそれ以外の部分との間に、TEMによる電子線回折像に違いが出る可能性がある。アンカー層では、原料粉の結晶構造が比較的保持されやすいと考えられる。そのため、アンカー層部分ではTEM電子線回折像にスポットが見られ、それ以外の部分(例えば、セラミックス膜の中央部)ではTEM電子線回折像がリング状になるという違いが出る可能性がある。
【0028】
本発明では、原料粉をエアロゾル化させ、これを金属基板11上に衝突させて原料粉中の一次粒子を破砕し、原料粉の破砕物を金属基板11上に堆積させる。AD法では、原料粉を含むエアロゾルが金属基板11に対して大きな運動エネルギーで衝突する。この際、多くの一次粒子が破砕されて、より細かい粒子径の破砕物となって、金属基板11上に堆積する。AD法では、これら微細な破砕物の堆積によって、開気孔(オープンポア)がない若しくは極めて少ない非常に緻密なセラミックス膜12を金属基板11に対して密着性良く形成することができる。
【0029】
「緻密の度合い」は相対密度を指標として評価できる。「相対密度」とは、理論密度に対する実測密度の割合を表すものであり、次式で表される。
相対密度=(実測密度/理論密度)×100(%)
実測密度はアルキメデス法によって測定することが可能であり、測定装置としては例えば、AlfaMirage社のSD200Lを用いることができる。
AD法によれば、相対密度が90%以上の緻密なセラミックス膜12を形成することができ、相対密度が95%以上の緻密なセラミックス膜12を形成することも可能である。
【0030】
原料粉は所望の組成に合わせて、1種又は複数種用いることができる。複数種類の原料粉を用いる場合、これらをあらかじめ混合してからエアロゾル化させて堆積工程を実施してもよいし、各原料粉についてエアロゾルを別々に生成させて、これらエアロゾルを同時に基板に噴射させて堆積工程を実施してもよい。後者の場合、別々に生成された複数種類のエアロゾルを異なる噴射ノズルからそれぞれ基板に向けて噴射するようにしてよいし、噴射ノズルの手前で、別々に生成された複数種類のエアロゾルを合流させてから、同じ噴射ノズルから基板に噴射するようにしてよい。
【0031】
原料粉の平均一次粒子径は特に制限されない。原料粉は必要に応じて、あらかじめAD法に適した平均一次粒子径及び粒度分布となるよう分級してから、堆積工程を実施することができる。AD法では、原料粉の基板に対する衝突エネルギーにより、原料粉中の一次粒子が破砕される。破砕物の粒径が小さくなる程、平均結晶粒径が小さく緻密なセラミックス膜が得られる。エアロゾルの噴射速度等の他のAD条件が同一であれば、原料粉の一次粒子径が大きい程、その運動エネルギーが大きくなるので、基板に対する衝突エネルギーが大きくなる傾向にある。原料粉の平均一次粒子径は特に制限されず、例えば0.1〜1.5μmが好ましく、0.3〜1.5μm程度がより好ましい。
【0032】
本明細書において、「原料粉の平均一次粒子径及び粒度分布」は、日機装株式会社製の粒度分布測定機(MICROTRAC−MT−3000)を用いて、粒度分布測定を行うものとする。この粒度分布測定機は、測定原理として、マイクロトラック法(レーザ回折・散乱法又は光散乱法とも呼ばれる)を利用している。マイクロトラック法とは、粒子に光を照射した場合に、散乱される光量及びパターンが粒径に応じて異なるという現象を利用した粒度分布測定方法であり、乾式又は湿式で測定することができる。本明細書においては特に明記しない限り、分散媒体として0.1質量%のヘキサメタリン酸水溶液を用いた湿式により測定を行うものとする。
【0033】
セラミックス膜12の平均結晶粒径は特に制限されないが、耐圧性を向上させるためには500nm以下が好ましく、30〜100nmがより好ましい。原料粉の平均一次粒子径及び粒度分布、原料粉の金属基板11に対する衝突条件、及び必要に応じてアニール工程等を制御することで、セラミックス膜12の平均結晶粒径を所望の範囲に調整することができる。
本明細書において、「平均結晶粒径」は、走査型電子顕微鏡(日立製作所製「S-4100」)を用いた断面観察により測定するものとする。
【0034】
堆積工程の基板温度及び圧力は特に制限されず、所望組成に応じて適宜設計できる。AD法では、常圧若しくは比較的常圧に近い圧力下で、通常の気相法に比較してより低温でセラミックス膜を成膜することができ、常温での成膜も可能である。
【0035】
AD法によれば、金属基板11に対して密着性良く緻密なセラミックス膜12を成膜できるので、他の方法よりも耐電圧性の高いセラミックス膜が形成できる。図3は、本発明者が過去に堆積工程のみのAD法(原料粉の平均一次粒子径:0.1〜1.5μm、常温常圧)により実際に成膜したAl等のセラミックス膜について、膜厚と絶縁破壊電圧との関係を示したものである。本明細書において、「絶縁破壊電圧」は、規定電圧を印加させて規定時間保持し、絶縁破壊の有無を確認することで評価した。他の方法による各種セラミックス膜(スパッタ膜、陽極酸化皮膜、及び溶射膜)及びバルクセラミックスの絶縁破壊電圧は概ね、図3において破線の丸で囲む範囲内であった。
【0036】
図3には、AD法によるセラミックス膜では他の方法による各種セラミックス膜及びバルクセラミックスよりも高い耐電圧性を有することが示されている。また、他の方法では厚みを変えても耐電圧性は大きく変わらないが、AD法では膜厚に比例して、耐電圧性が向上することが示されている。
【0037】
耐電圧性を考慮すれば、セラミックス膜12の厚みは厚い方が好ましく、5μm以上が好ましく、10μm以上が好ましく、15μm以上が特に好ましい。光電変換素子基板の薄型軽量化及び可撓性を考慮すれば、充分な耐電圧性を有する範囲内でセラミックス膜12の厚みは薄い方が好ましく、60μm以下が好ましく、50μm以下がより好ましく、40μm以下がより好ましく、30μm以下が特に好ましい。
【0038】
セラミックス膜12の表面粗さRaは特に制限されない。上層の光電変換層を均一に形成する観点から、光電変換層等を形成する側のセラミックス膜12の表面粗さRaは小さい方が好ましく、0.3μm以下であることが好ましい。本発明者がAD法により実際に成膜した例では、堆積工程後のセラミックス膜12の表面粗さRaは例えば0.10〜0.25μmであり、0.3μm以下であった。
【0039】
上層の光電変換層等を均一な厚みで形成する観点から、光電変換層等を形成する側のセラミックス膜12の表面粗さRaはより好ましくは0.2μm以下である。
堆積工程後のセラミックス膜の表面粗さをより小さくしたい場合、本発明の光電変換素子用基板の製造方法はさらに、堆積工程において形成された膜の表面粗さを小さくする平坦化工程を有することができる。なお、図1Aに示した態様において平坦化工程を実施する場合には、少なくとも光電変換層等を形成する側のセラミックス膜12に対して平坦化工程を実施すればよい。
【0040】
本明細書において、「表面粗さ」は、対象表面に垂直な断面に現れる輪郭を求める断面曲線法により求められる算術平均粗さRaにより定義するものとする。Ra≧1.0μmではJIS−B601−1994に準拠して、触針式表面粗さ測定器を用いて算術平均粗さRaを測定するものとする。JIS−B601−1994では、粗さ曲線から複数個(例えば5)の基準長さLだけ連続して抜き取った評価長さについて粗さを評価する。基準長さはカットオフ値と同一長さとする。それぞれの基準長さの範囲内で、各種粗さパラメータを求め、それを基準長さ全数について平均し、測定値とする。Ra<1μmでは原子間力顕微鏡(AFM)を用いて原子間力を検出して断面曲線を得、算術平均粗さRaを求めるものとする。
【0041】
平坦化処理としては特に制限されず、各種研磨処理等が挙げられる。
研磨処理としては、研磨盤、研磨布、研磨紙、研磨フィルム、あるいは研磨ブラシ等の各種研磨体を用いて被研磨面を擦る機械的研磨処理;
研磨剤を含むCMPスラリー等の研磨剤含有物を研磨布又は研磨紙等の研磨体に埋め込んだものを用いて被研磨面を擦る、あるいは被研磨面と研磨盤、研磨布、又は研磨紙等の研磨体との間に研磨剤を含むCMPスラリー等の研磨剤含有物を供給して、被研磨面を研磨体で擦る化学的機械的研磨処理;
及び上記研磨処理の組み合わせ等が挙げられる。
【0042】
手動研磨も可能であるが、研磨レベルの制御が容易なことから、研磨盤、及び必要に応じて研磨盤に取り付け可能な研磨布を備え、必要に応じてCMPスラリー等の研磨剤含有物を供給可能な研磨機等の研磨装置を用いて、研磨を実施することが好ましい。
【0043】
平坦化工程を実施することにより、堆積工程後のセラミックス膜12の表面粗さRaを小さくすることができ、好ましくは0.3μm以下、より好ましくは0.2以下とすることができ、0.1μm以下とすることも可能である。
【0044】
本発明の光電変換素子用基板の製造方法は、堆積工程後に、堆積工程よりも高い温度で熱処理するアニール工程を有することができる。アニール工程を実施すると、結晶粒の粒成長が起こり、平均結晶粒径は大きくなる傾向にある。したがって、必要に応じてアニール工程を実施して結晶粒径を調整することができる。平坦化工程を実施する場合、アニール工程は平坦化工程の前でも後でも構わない。
【0045】
本発明の光電変換素子用基板では、金属基板を用いているので、ガラス基板よりも軽量で破損しにくく低コストで、可撓性を有することも可能である。本発明の光電変換素子用基板は、金属基板の少なくとも一方にAD法によるセラミックス膜を設ける構成としているので、金属基板とセラミックス膜との密着性が高く、高い耐電圧性を有する。
【0046】
すなわち、本発明によれば、ガラス基板よりも軽量で破損しにくく、良好な耐電圧性を有する光電変換素子用基板とその製造方法を提供することができる。
本発明によればまた、ガラス基板よりも軽量で破損しにくく、良好な耐電圧性を有し、可撓性を有する光電変換素子用基板とその製造方法を提供することができる。
【0047】
「AD成膜装置」
図4を参照して、AD成膜装置の構成例について説明する。
【0048】
図4に示すAD成膜装置2は、エアロゾルの生成が行われるエアロゾル生成部120と、成膜が行われる成膜部140と、両者を接続するエアロゾル搬送管130と、各部の動作を制御する制御部150とを備えている。
【0049】
エアロゾル生成部120は、エアロゾル生成容器121と、振動台122と、巻き上げガスノズル123と、圧力調整ガスノズル124とを備えている。エアロゾル生成容器121内に原料粉161が仕込まれ、ここでエアロゾルの生成が行われる。エアロゾル生成容器121は、原料粉161を攪拌して効率的にエアロゾルを生成するために、所定の周波数で振動する振動台122の上に設置されている。
【0050】
巻き上げガスノズル123は、外部のガスボンベから供給されるキャリアガスをエアロゾル生成容器121内に導入することにより、サイクロン流を生成するものである。それにより、エアロゾル生成容器121内の原料粉161が巻き上げられて分散し、エアロゾルが生成される。圧力調整ガスノズル124は、外部のガスボンベから供給されるキャリアガスをエアロゾル生成容器121内に導入することにより、エアロゾル生成容器121内のガス圧を調整するものである。それにより、エアロゾル生成容器121内の圧力と成膜室141内の圧力との差が調整される。
【0051】
巻き上げガスノズル123及び圧力調整ガスノズル124によって導入されるガスの流量は、流量調整部123a,124aによって調節される。ガスノズル123,124によって供給されるキャリアガスとしては、He、O、N、Ar、又はこれらの混合ガス、又は乾燥空気等が用いられる。
【0052】
エアロゾル生成部120で生成されたエアロゾルは、エアロゾル搬送管130を介して成膜部140に供給される。成膜室141において、エアロゾル搬送管130はエアロゾルを噴射する噴射ノズル142に接続されている。
【0053】
成膜部140は、成膜室141と噴射ノズル142と基板ステージ148と排気管149とを備えている。成膜室141の内部は、排気管149に接続されている排気ポンプによって排気可能とされている。成膜時には、成膜室141の内部は所定の減圧状態、好ましくは100Pa以下の減圧状態に保たれる。噴射ノズル142は、所定の形状及び大きさの開口を有しており、エアロゾル生成容器121からエアロゾル搬送管130を介して供給される原料粉のエアロゾルを、成膜基板B(本発明では金属基板11)に向けて噴射する。噴射ノズル142から噴射されるエアロゾルの速度は、エアロゾル生成容器121と成膜室141との間の圧力差によって決定される。
【0054】
成膜基板Bが固定されるステージ148は、成膜基板Bと噴射ノズル142との相対位置及び相対速度を制御するための3次元的に移動可能なステージである。この相対速度を調節することにより、1往復あたりに形成される膜の厚さが制御される。本実施形態においては、ステージ148側を移動させることにより、噴射ノズル142と成膜基板Bとの相対位置を変化させているが、成膜基板Bの位置を固定して噴射ノズル142側を移動させるようにしてもよい。
【0055】
成膜に際しては、原料粉161がエアロゾル生成容器121内に配置されると共に、成膜基板Bがステージ148上に配置される。成膜装置2を駆動すると、エアロゾル生成容器121において生成されたエアロゾルがエアロゾル搬送管130を通って成膜室141に導入され、噴射ノズル142から噴射されて成膜基板Bに吹き付けられる。このエアロゾル中の原料粉161が成膜基板Bに衝突して破砕され、この破砕物が成膜基板Bに堆積する。その際に、制御部150の制御の下で、ステージ148を所定の速度で移動させることにより、ステージ148の移動速度(噴射ノズル142と成膜基板Bとの相対速度)に応じたレートで、原料粉161と同じ組成を有するセラミックス膜M(本発明ではセラミックス膜12)が成膜される。
【0056】
エアロゾル生成部120の替わりに、図5に示すエアロゾル生成装置3を用いてもよい。図5Aはエアロゾル生成装置の構成を示す断面図であり、図5Bはエアロゾル生成装置の内部を示す平面図である。
【0057】
図5A及び図5Bに示すエアロゾル生成装置3は、粉体収納室170及びエアロゾル生成部180を備えている。粉体収納室170は粉体を収納するチャンバであり、その上底部には粉体供給口170aが設けられており、下底部には開口171が形成されている。この開口171を介して、粉体収納室170とエアロゾル生成部180とが連結されている。
【0058】
粉体収納室170には、モータによって駆動されることにより回転する攪拌羽172が備えられている。この攪拌羽172の回転軸173にはO−リング173aがはめ込まれており、それによって粉体収納室170内の気密が確保される。そのような粉体収納室170に粉体を収納し、攪拌羽172によって粉体を攪拌する。それにより、粉体が開口171から落下し、エアロゾル生成部180に導出される。また、粉体収納室170には、粉体が開口171から導出されるのを補助又は促進するために、アシストガス導入部174が設けられている。アシストガス導入部174は配管及びバルブを含んでおり、配管の先には例えばガスボンベが接続されている。
【0059】
エアロゾル生成部180には、モータによって駆動されることにより回転する回転盤181が備えられている。回転盤181の回転軸182にはO−リング182aがはめ込まれており、それによってエアロゾル生成部180内の気密が確保される。回転盤181には、所定の幅及び深さを有する溝183が円周に沿って形成されている。回転盤181は、溝183が粉体収納室170の開口171に対向するように配置されている。このような回転盤181は、開口171から落下した粉体を溝183によって受けながら回転することにより、粉体を一定の割合で搬送する。
【0060】
さらに、エアロゾル生成部180には、分散ガス導入部184及びエアロゾル供給管185が設けられている。分散ガス導入部184は配管及びバルブを含んでおり、配管の先には例えばガスボンベが接続されている。アシストガス及び分散ガスとしては、N、O、He、Ar、又はこれらの混合ガス、あるいは乾燥空気等が用いられる。
【0061】
図5Aに示すように、分散ガス導入部184によってエアロゾル生成部180内に導入される分散ガスの吹き出し口は、回転盤181の溝183に対向するように設けられている。エアロゾル供給管185は、先端の開口部が溝183に対向するように配置された管であり、その他端は、例えばフレキシブルな材料によって形成された配管を介して、図4に示すエアロゾル搬送管130に接続される。
【0062】
このようなエアロゾル生成装置3において、粉体収納室170に所望の粉体を収納して攪拌羽172を駆動すると共に、エアロゾル生成部180において回転盤181を回転させ、回転盤181の溝183に対して分散ガスを吹き付ける。粉体収納室170に収納された粉体は、攪拌羽172によって攪拌されながら、開口171を通って溝183に落下する。その際に、粉体収納室170にアシストガスを導入することにより、開口171内に気流を形成する。この気流が、粉体の導出を補助又は促進する駆動力として作用する。それにより、粉体は、よりスムーズに開口171から溝183に落下する。溝183に落下した粉体は、回転盤182の回転速度に応じて堆積して搬送される。アシストガスの導入は、連続的でも間欠的でもよい。
【0063】
一方、回転盤182の溝183においては、そこに吹き付けられた分散ガスが溝183に沿って流れることにより気流が形成されている。この分散ガスは、エアロゾル供給管185の先端部の開口からその内部に流れ込む。その際に、エアロゾル供給管185の周囲には、エアロゾル供給管185の内部に向かう吸引力が発生する。この吸引力により、溝183に堆積していた粉体が分散ガスと共にエアロゾル供給管185に流れ込む。このようにして生成されたエアロゾルは、エアロゾル供給管185からエアロゾル搬送管130(図4)に供給され、エアロゾル搬送管130を介して成膜部140に導入される。
【0064】
「光電変換素子」
図面を参照して、本発明に係る一実施形態の光電変換素子の構造について説明する。図2は光電変換素子の模式断面図である。視認しやすくするため、図中、各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0065】
光電変換素子1は、図1Aに示した基板10A上に、下部電極(裏面電極)20と光電変換層30とバッファ層40と上部電極(透明電極)50とが順次積層された積層構造を有する素子である。光電変換素子1には通常、上部電極50上にAl等からなるグリッド電極(図示略)が設けられる。
【0066】
(光電変換層)
光電変換層30は光吸収により電流を発生する層である。その主成分は特に制限されず、少なくとも1種のカルコパイライト構造の化合物半導体であることが好ましい。光電変換層30の主成分は、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることが好ましい。
【0067】
光吸収率が高く、高い光電変換効率が得られることから、
光電変換層30の主成分は、
Cu及びAgからなる群より選択された少なくとも1種のIb族元素と、
Al,Ga及びInからなる群より選択された少なくとも1種のIIIb族元素と、
S,Se,及びTeからなる群から選択された少なくとも1種のVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることが好ましい。
【0068】
本明細書における元素の族の記載は、短周期型周期表に基づくものである。本明細書において、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる化合物半導体は、「I−III−VI族半導体」と略記している箇所がある。I−III−VI族半導体の構成元素であるIb族元素、IIIb族元素、及びVIb族元素はそれぞれ1種でも2種以上でもよい。
【0069】
I−III−VI族半導体としては、
CuAlS,CuGaS,CuInS
CuAlSe,CuGaSe,CuInSe(CIS),
AgAlS,AgGaS,AgInS
AgAlSe,AgGaSe,AgInSe
AgAlTe,AgGaTe,AgInTe
Cu(In1−xGa)Se(CIGS),Cu(In1−xAl)Se,Cu(In1−xGa)(S,Se)
Ag(In1−xGa)Se,及びAg(In1−xGa)(S,Se)等が挙げられる。
【0070】
光電変換層30は、CuInSe(CIS)、及び/又はこれにGaを固溶したCu(In,Ga)Se(CIGS)を含むことが特に好ましい。CIS及びCIGSはカルコパイライト結晶構造を有する半導体であり、光吸収率が高く、高エネルギー変換効率が報告されている。また、光照射等による効率の劣化が少なく、耐久性に優れている。
【0071】
光電変換層30には、所望の半導体導電型を得るための不純物が含まれる。不純物は隣接する層からの拡散、及び/又は積極的なドープによって、光電変換層30中に含有させることができる。
【0072】
光電変換層30中において、I−III−VI族半導体の構成元素及び/又は不純物には濃度分布があってもよく、n型,p型,及びi型等の半導体性の異なる複数の層領域が含まれていても構わない。例えば、CIGS系においては、光電変換層30中のGa量に厚み方向の分布を持たせると、バンドギャップの幅/キャリアの移動度等を制御でき、光電変換効率を高く設計することができる。
【0073】
CI(G)S層の成膜方法としては、1)多源同時蒸着法、2)セレン化法、3)スパッタ法、4)ハイブリッドスパッタ法、及び5)メカノケミカルプロセス法等が知られている。
【0074】
1)多源同時蒸着法としては、
3段階法(J.R.Tuttle et.al,Mat.Res.Soc.Symp.Proc.,Vol.426(1996)p.143.等)と、
ECグループの同時蒸着法(L.Stolt et al.:Proc.13th ECPVSEC(1995,Nice)1451.等)とが知られている。
前者の3段階法は、高真空中で最初にIn、Ga、及びSeを基板温度300℃で同時蒸着し、次に500〜560℃に昇温してCu及びSeを同時蒸着後、In、Ga、及びSeをさらに同時蒸着する方法である。後者のECグループの同時蒸着法は、蒸着初期にCu過剰CIGS、後半でIn過剰CIGSを蒸着する方法である。
【0075】
CIGS膜の結晶性を向上させるため、上記方法に改良を加えた方法として、
a)イオン化したGaを使用する方法(H.Miyazaki, et.al, phys.stat.sol.(a),Vol.203(2006)p.2603.等)、
b)クラッキングしたSeを使用する方法(第68回応用物理学会学術講演会 講演予稿集(2007秋 北海道工業大学)7P−L−6等)、
c)ラジカル化したSeを用いる方法(第54回応用物理学会学術講演会 講演予稿集(2007春 青山学院大学)29P−ZW−10等)、
d)光励起プロセスを利用した方法(第54回応用物理学会学術講演会 講演予稿集(2007春 青山学院大学)29P−ZW−14等)等が知られている。
【0076】
2)セレン化法は2段階法とも呼ばれ、最初にCu層/In層あるいは(Cu−Ga)層/In層等の積層膜の金属プレカーサをスパッタ法、蒸着法、あるいは電着法などで成膜し、これをセレン蒸気またはセレン化水素中で450〜550℃程度に加熱することにより、熱拡散反応によってCu(In1−xGa)Se等のセレン化合物を生成する方法である。この方法を気相セレン化法と呼ぶ。このほか、金属プリカーサ膜の上に固相セレンを堆積し、この固相セレンをセレン源とした固相拡散反応によりセレン化させる固相セレン化法がある。
【0077】
セレン化法においては、セレン化の際に生ずる急激な体積膨張を回避するために、金属プリカーサ膜に予めセレンをある割合で混合しておく方法(T.Nakada et.al,, Solar Energy Materials and Solar Cells 35(1994)204-214.等)、及び金属薄層間にセレンを挟み(例えばCu層/In層/Se層…Cu層/In層/Se層と積層する)多層化プリカーサ膜を形成する方法(T.Nakada et.al,, Proc. of 10th European Photovoltaic Solar Energy Conference(1991)887-890. 等)が知られている。
【0078】
また、グレーデッドバンドギャップCIGS膜の成膜方法として、最初にCu−Ga合金膜を堆積し、その上にIn膜を堆積し、これをセレン化する際に、自然熱拡散を利用してGa濃度を膜厚方向で傾斜させる方法がある(K.Kushiya et.al, Tech.Digest 9th Photovoltaic Science and Engineering Conf. Miyazaki, 1996(Intn.PVSEC-9,Tokyo,1996)p.149.等)。
【0079】
3)スパッタ法としては、
CuInSe多結晶をターゲットとした方法、
CuSeとInSeをターゲットとし、スパッタガスにHSe/Ar混合ガスを用いる2源スパッタ法(J.H.Ermer,et.al, Proc.18th IEEE Photovoltaic Specialists Conf.(1985)1655-1658.等)、
Cuターゲットと、Inターゲットと、SeまたはCuSeターゲットとをArガス中でスパッタする3源スパッタ法(T.Nakada,et.al, Jpn.J.Appl.Phys.32(1993)L1169-L1172.等)が知られている。
【0080】
4)ハイブリッドスパッタ法としては、前述のスパッタ法において、CuとIn金属は直流スパッタで、Seのみは蒸着とするハイブリッドスパッタ法(T.Nakada,et.al., Jpn.Appl.Phys.34(1995)4715-4721.等)が知られている。
【0081】
5)メカノケミカルプロセス法は、CIGSの組成に応じた原料を遊星ボールミルの容器に入れ、機械的なエネルギーによって原料を混合してCIGS粉末を得、その後、スクリーン印刷によって基板上に塗布し、アニールを施して、CIGSの膜を得る方法である(T.Wada et.al, Phys.stat.sol.(a), Vol.203(2006)p2593等)。
【0082】
6)その他のCI(G)S成膜法としては、スクリーン印刷法、近接昇華法、MOCVD法、及びスプレー法などが挙げられる。例えば、スクリーン印刷法あるいはスプレー法等で、Ib族元素、IIIb族元素、及びVIb族元素を含む微粒子膜を基板上に形成し、熱分解処理(この際、VIb族元素雰囲気での熱分解処理でもよい)を実施するなどにより、所望の組成の結晶を得ることができる(特開平9−74065号公報、特開平9−74213号公報等)。
【0083】
I−III−VI化合物半導体においては、組成比を変えることにより様々な禁制帯幅(バンドギャップ)を得ることができる。バンドギャップよりエネルギーの大きな光子が半導体に入射した場合、バンドギャップを超える分のエネルギーは熱損失となる。太陽光のスペクトルとバンドギャップの組合せで変換効率が最大になるのがおよそ1.4〜1.5eVであることが理論計算で分かっている。
【0084】
光電変換効率を上げるために、例えばCu(In,Ga)Se(CIGS)のGa濃度を上げたり、Cu(In,Al)SeのAl濃度を上げたり、Cu(In,Ga)(S,Se)のS濃度を上げたりしてバンドギャップを大きくすることで、変換効率の高いバンドギャップを得ることができる。CIGSの場合、1.04〜1.68eVの範囲で調整できる。
【0085】
組成比を膜厚方向に変えることでバンド構造に傾斜を付けることができる。傾斜バンド構造としては、光の入射窓側から反対側の電極方向にバンドギャップを大きくするシングルグレーデットバンドギャップ、あるいは、光の入射窓からPN接合部に向かってバンドギャップが小さくなりPN接合部を過ぎるとバンドギャップが大きくなるダブルグレーデッドバンドギャップの2種類がある(T.Dullweber et.al, Solar Energy Materials & Solar Cells, Vol.67, p.145-150(2001)等)。いずれもバンド構造の傾斜によって内部に発生する電界のため、光に誘起されたキャリアが加速され電極に到達しやすくなり、再結合中心との結合確率を下げるため、発電効率が向上する(WO2004/090995号パンフレット等)。
【0086】
スペクトルの範囲別にバンドギャップの異なる半導体を複数使うと、光子エネルギーとバンドギャップの乖離による熱損失を小さくし、発電効率を向上することができる。このような複数の光電変換層を重ねて用いるものをタンデム型という。2層タンデムの場合、例えば1.1eVと1.7eVの組合せを用いることにより発電効率を向上することができる。
【0087】
(電極、バッファ層)
下部電極(裏面電極)20の主成分としては特に制限されず、Mo,Cr,W,及びこれらの組合わせが好ましく、Mo等が特に好ましい。下部電極20の膜厚は制限されず、0.3〜1.0μmが好ましい。
上部電極50の主成分としては特に制限されず、ZnO,ITO(インジウム錫酸化物),SnO,及びこれらの組合わせが好ましい。上部電極50の厚みは特に制限されず、0.6〜1.0μmが好ましい。
下部電極20及び/又は上部電極50は、単層構造でもよいし、2層構造等の積層構造もよい。
バッファ層40の主成分としては特に制限されず、CdS,ZnS,ZnO,ZnMgO,ZnS(O,OH) ,及びこれらの組合わせが好ましい。バッファ層40の厚みは特に制限されず、0.03〜0.1μmが好ましい。
好ましい組成の組合わせとしては例えば、Mo下部電極/CI(G)S光電変換層/CdSバッファ層/ZnO上部電極が挙げられる。
【0088】
光電変換層30〜上部電極50の導電型は特に制限されない。通常、光電変換層30はp層、バッファ層40はn層(n−CdS等)、上部電極50はn層(n−ZnO層等 )あるいはi層とn層との積層構造(i−ZnO層とn−ZnO層との積層等)とされる。かかる導電型では、光電変換層30と上部電極50との間に、pn接合、あるいはpin接合が形成されると考えられる。また、光電変換層30の上にCdSからなるバッファ層40を設けると、Cdが拡散して、光電変換層30の表層にn層が形成され、光電変換層30内にpn接合が形成されると考えられる。光電変換層30内のn層の下層にi層を設けて光電変換層30内にpin接合を形成してもよいと考えられる。
【0089】
(その他の構成)
ソーダライムガラス基板を用いた光電変換素子においては、基板中のアルカリ金属元素(Na元素)がCIGS層等の光電変換層に拡散し、エネルギー変換効率が高くなることが報告されている。本実施形態においても、アルカリ金属をCIGS層等の光電変換層に拡散させることは好ましい。
【0090】
アルカリ金属元素の拡散方法としては、
下部電極上に蒸着法またはスパッタリング法によってアルカリ金属元素を含有する層を形成する方法(特開平8−222750号公報等)、
下部電極上に浸漬法によりNaS等からなるアルカリ層を形成する方法(WO03/069684号パンフレット等)、
下部電極上に、In、Cu及びGa金属元素を含有成分としたプリカーサを形成した後このプリカーサに対して例えばモリブデン酸ナトリウムを含有した水溶液を付着させる方法等が挙げられる。
基板上にケイ酸ナトリウム等の層を形成して、アルカリ金属元素を供給する層としてもよい。下部電極の上または下にポリモリブデン酸ナトリウムやポリタングステン酸ナトリウム等のポリ酸層を形成して、アルカリ金属元素を供給する層としてもよい。下部電極の内部に、NaS,NaSe,NaCl,NaF,及びモリブデン酸ナトリウム塩等の1種又は2種以上のアルカリ金属化合物を含む層を設ける構成としてもよい。
【0091】
光電変換素子1は必要に応じて、上記で説明した以外の任意の層を備えることができる。例えば、基板10Aと下部電極20との間、及び/又は下部電極20と光電変換層30との間に、必要に応じて、層同士の密着性を高めるための密着層(緩衝層)を設けることができる。また、必要に応じて、基板10Aと下部電極20との間に、アルカリイオンの拡散を抑制するアルカリバリア層を設けることができる。アルカリバリア層については、特開平8−222750号公報を参照されたい。
【0092】
本実施形態の光電変換素子1は、以上のように構成されている。
本実施形態によれば、薄型軽量化が可能であり、Roll to Roll工程による連続生産が可能であり、良好な耐電圧性を有する光電変換素子1を提供することができる。
【0093】
光電変換素子1は、太陽電池等に好ましく使用することができる。光電変換素子1に対して必要に応じて、カバーガラス、保護フィルム等を取り付けて、太陽電池とすることができる。
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、適宜設計変更可能である。
【実施例】
【0094】
本発明に係る実施例について説明する。
【0095】
(実施例1)
30mm×30mm×0.1mmのSUS430基板上に、平均一次粒子径1.0μmのアルミナ原料粉を噴射堆積することで、AD法により基板全面に10μm厚の緻密なアルミナ膜を成膜した。AD成膜条件は以下の通りとした。
基板温度:室温、
キャリアガス:酸素、
キャリアガス流量:7L/min、
成膜室の圧力:100Pa、
エアロゾル化室の圧力:70kPa。
【0096】
次に、上記と同じ条件で基板の裏面にもアルミナ膜を成膜して、光電変換素子用基板を得た。得られた光電変換素子用基板の表面粗さRaは0.22μm、絶縁破壊電圧は約1.0kVであった。
【0097】
次に、スパッタ法により、上記光電変換素子用基板上に0.8μm厚のMo下部電極を3cm×3cmのサイズで形成した。
次に、上記Mo下部電極上に、多源同時蒸着法にて、光電変換層として2μm厚のCu(In,Ga)Se薄膜を蒸着した。蒸発源として、高純度Cu(純度99.9999%)、高純度In(純度99.9999%)、高純度Ga(純度99.999%)、及び高純度Se(純度99.999%)の計4種のディスク状ターゲットを用いた。基板温度モニタとして、クロメル−アルメル熱電対を用いた。まず、主真空チャンバを10−4Paまで真空排気し、高純度アルゴンガス(99.999%)を成膜室に導入し、バリアブルリークバルブで3Paとなるように調整した後、成膜をスタートした。成膜は、各ターゲットからの蒸着レートを制御し、最高基板温度を550℃として、実施した。
【0098】
次に、バッファ層として、90nm程度の厚さのCdS膜を溶液成長法により堆積した。このバッファ層上に、RFスパッタ法により、上部電極として厚さ0.6μmのZnO:Al膜を成膜した。その後、Alグリッド電極を蒸着して、本発明の光電変換素子を得た。
【0099】
得られた光電変換素子について、Air Mass(AM)=1.5、100mW/cm2の擬似太陽光を用いて光電変換効率を評価した。光電変換効率は15%であった。
【0100】
(実施例2)
実施例1と同様に光電変換素子用基板を得た後、下部電極〜グリッド電極を形成する側のアルミナ膜に対して研磨処理を実施して、平坦化処理を実施した。研磨処理はアルミナ砥粒を用いたバフ研磨とした。平坦化処理後のアルミナ膜の表面粗さRaは0.11μm、平坦化処理後の光電変換素子用基板の絶縁破壊電圧は約1.0kVであった。
上記のように平坦化処理を実施した後、実施例1と同様に下部電極〜グリッド電極を形成して、本発明の光電変換素子を得た。実施例1と同様に、得られた光電変換素子の光電変換効率を評価したところ、16%であった。
【産業上の利用可能性】
【0101】
本発明の光電変換素子用基板は、太陽電池、及び赤外センサ等の光電変換素子用として好ましく利用できる。
【符号の説明】
【0102】
1 光電変換素子(太陽電池)
10A,10B 光電変換素子用基板
11 金属基板
12 セラミックス膜
20 下部電極(裏面電極)
30 光電変換層
40 バッファ層
50 上部電極(透明電極)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基板と、該金属基板の少なくとも一方の面上に形成された絶縁性のセラミックス膜とを有する光電変換素子用基板において、
前記セラミックス膜は、前記金属基板との界面及びその近傍にアンカー層を有するものであることを特徴とする光電変換素子用基板。
【請求項2】
前記セラミックス膜は、平均結晶粒径が500nm以下であり、相対密度が90%以上であることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子用基板。
【請求項3】
前記セラミックス膜の主成分は、Al,Ta,及びYからなる群から選択される少なくとも1種の酸化物セラミックスであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光電変換素子用基板。
【請求項4】
前記セラミックス膜は、エアロゾル化されたセラミックス原料粉を前記金属基板上に衝突させて、前記原料粉の破砕物を前記金属基板上に堆積させる堆積工程を有する製造方法により製造されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の光電変換素子用基板。
【請求項5】
前記セラミックス膜は、
エアロゾル化されたセラミックス原料粉を前記金属基板上に衝突させて、前記原料粉の破砕物を前記金属基板上に堆積させる堆積工程と、
前記堆積工程において形成された膜の表面粗さを小さくする平坦化工程とを有する製造方法により製造されたものであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに光電変換素子用基板。
【請求項6】
前記セラミックス膜の厚みが60μm以下であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の光電変換素子用基板。
【請求項7】
前記金属基板は、ステンレス板、アルミニウム板、及び銅板のうちいずれかであることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の光電変換素子用基板。
【請求項8】
金属基板と、該金属基板の少なくとも一方の面上に形成された絶縁性のセラミックス膜とを有する光電変換素子用基板の製造方法において、
エアロゾル化されたセラミックス原料粉を前記金属基板上に衝突させて、前記原料粉の破砕物を前記金属基板上に堆積させる堆積工程を有することを特徴とする光電変換素子用基板の製造方法。
【請求項9】
さらに、前記堆積工程において形成された膜の表面粗さを小さくする平坦化工程を有することを特徴とする請求項8に記載の光電変換素子用基板の製造方法。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれかに記載の光電変換素子用基板上に、光吸収により電流を発生する光電変換層と、該光電変換層と導通する電極とを備えたことを特徴とする光電変換素子。
【請求項11】
前記光電変換層の主成分は、少なくとも1種のカルコパイライト構造の化合物半導体であることを特徴とする請求項10に記載の光電変換素子。
【請求項12】
前記光電変換層の主成分は、Ib族元素とIIIb族元素とVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることを特徴とする請求項11に記載の光電変換素子。
【請求項13】
前記光電変換層の主成分は、
Cu及びAgからなる群より選択された少なくとも1種のIb族元素と、
Al,Ga及びInからなる群より選択された少なくとも1種のIIIb族元素と、
S,Se,及びTeからなる群から選択された少なくとも1種のVIb族元素とからなる少なくとも1種の化合物半導体であることを特徴とする請求項12に記載の光電変換素子。
【請求項14】
請求項10〜13のいずれかに記載の光電変換素子を備えたことを特徴とする太陽電池。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【公開番号】特開2010−272613(P2010−272613A)
【公開日】平成22年12月2日(2010.12.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−121616(P2009−121616)
【出願日】平成21年5月20日(2009.5.20)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】