説明

光電変換素子用蒸着材料及び光電変換素子、センサ、撮像素子

【課題】光電変換効率が高く、光電流/暗電流のS/N比の良好であり、且つ、応答速度の速い光電変換素子を提供する
【解決手段】一対の電極(20,40)と、一対の電極(20,40)に挟持された少なくとも光電変換層32を含む受光層30を有する光電変換素子1は、受光層30の少なくとも一部の層が、フラーレン又はフラーレン誘導体を主成分とする複数の粒子又は該複数の粒子が成形されてなる成形体であり、複数の粒子のD50%で表される平均粒径が50μm〜300μmであるの光電変換素子用蒸着材料を用いて蒸着されたフラーレン又はフラーレン誘導体を含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は有機光電変換素子用蒸着材料及びそれを用いて得られた光電変換素子、センサ、撮像素子に関するものである。
【背景技術】
【0002】
デジタルスチルカメラ、デジタルビデオカメラ、携帯電話用カメラ、内視鏡用カメラ等に利用されているイメージセンサとして、CCDセンサやCMOSセンサなどの撮像素子が広く知られている。これらの素子には、一対の電極と、この電極間に設けられ、光電変換層を含む受光層を備えた光電変換素子が備えられている。
【0003】
本出願人は、これらの受光層を備えた有機光電変換素子の光電変換効率の向上を目的として、受光層の一部に、p型有機半導体とフラーレン又はフラーレン誘導体との混合層(2つの材料を共蒸着した層)を用いた有機光電変換素子を出願している(特許文献1)。
【0004】
特許文献1によれば、光電変換効率が高く、光電流/暗電流のS/N比の良好な有機光電変換素子を提供することができる。しかしながら、センサや撮像素子等の用途で用いられる光電変換素子は、光電変換効率やS/N比に加えて、応答速度がその性能において重要であることから、特許文献1の光電変換素子において、応答速度の高速化がなされることがより好ましい。
【0005】
応答速度と受光層の膜特性との関係については、未だ明らかではないが、有機薄膜の物理蒸着の困難性に起因する膜質の不均一性の改善及びその組成制御により、応答速度についても高速化が図れる可能性がある。一般に、有機薄膜の物理蒸着は、有機物は熱伝導性が低いことから、蒸着源の投入されている加熱ボート壁面付近から蒸発しやすい傾向があり、突沸やボート内での材料の崩落等により蒸着速度が変化しやすく、安定した気化を行うことが難しい。従って、有機光電変換素子において、物理蒸着により良好な性能を有する光電変換層を、歩留まり良く形成することは難しい。
【0006】
特許文献2には、構成する粒子の平均粒径の範囲及びその均一度を好適化することにより、安定した蒸着速度にて有機光電変換層を成膜可能としたフラッシュ蒸着用蒸着材料が開示されている。かかる蒸着材料を用いて成膜された光電変換層を備えた有機EL素子では、時間の経過と共に輝度が指数関数的に低下する初期低下を抑制できることが記載されている。
【0007】
特許文献3には、有機EL素子に好適な光電変換層をフラッシュ蒸着により成膜するのに好適な蒸着材料として、光電変換層のホスト材料とドーパント材料とが強く接着されてなる粒子が開示されている。かかる蒸着材料によれば、ホスト材料とドーパント材料との配合比がほぼ一定となるため、材料供給時に生じる組成のばらつきを抑制し、面内輝度均一性が良好な発光層を形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2007−123707号公報
【特許文献2】特開2011−91025号公報
【特許文献3】国際公開2010−035446号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、特許文献2及び特許文献3は、有機EL素子の高性能化を対象としていることから、応答速度に関する検討は一切なされていない。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、光電変換効率が高く、光電流/暗電流のS/N比の良好であり、且つ、応答速度の速い光電変換素子及びそれを備えたセンサ及び撮像素子を提供することを目的とするものである。本発明はまた、蒸着方法によらず、上記光電変換素子を実現しうる受光層を形成可能な光電変換素子用蒸着材料を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光電変換素子用蒸着材料は、有機光電変換素子の受光層の蒸着に用いられる蒸着材料であって、フラーレン又はフラーレン誘導体を主成分とする複数の粒子又は該複数の粒子が成形されてなる成形体であり、前記複数の粒子のD50%で表される平均粒径が50μm〜300μmであり、且つ、該複数の粒子の主成分のHPLC純度が99.5%以上であることを特徴とするものである。
【0012】
「フラーレン又はフラーレン誘導体を主成分とする」とは、複数の粒子における含量80%以上の成分が、フラーレン又はフラーレン誘導体であることを意味する。
【0013】
本明細書において、「D50%で表される平均粒径」とは、複数の粒子をある粒子径から2つに分けた時、大きい側と小さい側とが等量となる時の粒径である。本発明において、D50%で表される平均粒径は、粒度曲線から通過百分率もしくは累積百分率の50%の値を読み取ることにより決定する。粒度曲線の作成は、特に制限はないが、例えば試料をふるいにかけて、試料の重量百分率で目開き何μmふるいを何%通過したか調べ、横軸に目開き径、縦軸に通過百分率をプロットする方法やレーザー回折粒度分析計用いて累積分布測定を行う方法等が挙げられる。
【0014】
前記粒子の各金属元素の含有量は、それぞれ100ppm未満であることが好ましい。
【0015】
前記粒子の主成分は、フラーレンであることが好ましく、フラーレンC60であることがより好ましい。
【0016】
本発明の光電変換素子は、一対の電極と、前記一対の電極に挟持された少なくとも光電変換層を含む受光層を有する有機光電変換素子であって、前記受光層の少なくとも一部の層が、上記本発明の光電変換素子用蒸着材料を用いて蒸着されたフラーレン又はフラーレン誘導体を含むものであることを特徴とするものである。
【0017】
本発明の光電変換素子において、前記フラーレン又はフラーレン誘導体を含む層は、真空抵抗加熱蒸着法により蒸着されたものであることが好ましい。また、フラーレン又はフラーレン誘導体を含む層は、共蒸着により蒸着されたものであってもよい。
【0018】
本発明の撮像素子は、複数の、上記本発明の光電変換素子と、前記光電変換素子の前記光電変換層で発生した電荷に応じた信号を読み出す信号読出し回路が形成された回路基板とを備えることを特徴とするものである。
【0019】
また、本発明のセンサは、上記本発明の光電変換素子を備えたことを特徴とするものである。
【0020】
本発明の光電変換素子の製造方法は、一対の電極と、前記一対の電極に挟持された少なくとも光電変換層を含む受光層を有する有機光電変換素子の製造方法であって、前記受光層の少なくとも一部を上記本発明の光電変換素子用蒸着材料を用いて蒸着法により成膜することを特徴とするものである。
【0021】
前記蒸着法としては、真空抵抗加熱蒸着法が好ましく、また、共蒸着法であってもよい。
【0022】
また、前記蒸着法による成膜速度は0.2〜12Å/sであることが好ましい。
【0023】
また、前記蒸着法による蒸着温度は上記成膜速度(蒸着速度)の範囲に入る温度であればよく、350〜750℃の範囲であることが好ましい。
【0024】
既に述べたように、特許文献2には、構成する粒子の平均粒径の範囲及びその均一度を好適化することにより、安定した蒸着速度にて有機光電変換層を成膜可能としたフラッシュ蒸着用蒸着材料が開示されており、段落[0018]−[0037]には、蒸着材料の例示として発光材料、ホスト材料、ドーパント材料等が挙げられており、更に、ドーパント材料の例示として、段落[0036]にはフラーレンが挙げられている。しかしながら、特許文献2では、フラーレンについては、実際にその効果が明確に確認されていない。
【0025】
本発明者は、応答速度の高速化に向けて検討を進めていく過程において、フラーレン又はフラーレン誘導体に関しては、蒸着速度の安定性は粒径によってそれほど影響されないこと、更に、蒸着速度の安定性がほぼ同じであっても、応答速度は必ずしもほぼ同じにならないことを確認している(後記実施例を参照)。
【0026】
以下に詳細を説明するように、本発明は、光電変換素子の応答速度には、受光層の一部をなすフラーレン又はフラーレン誘導体の態様が重要であることを見出し、その蒸着材料を好適化することにより、受光層の一部に、p型有機半導体とフラーレン又はフラーレン誘導体との混合層を用いた光電変換素子の、良好な特性(光電変換効率及び光電流/暗電流のS/N比)を維持しつつ応答速度の高速化を実現可能であることを初めて見出したものである。従って、本発明は、特許文献2から容易に想到可能な発明ではない。
【発明の効果】
【0027】
本発明の光電変換素子は、受光層の少なくとも一部の層を、フラーレン又はフラーレン誘導体を主成分とする複数の粒子又は複数の粒子が成形されてなる成形体であり、複数の粒子のD50%で表される平均粒径が50μm〜300μmである光電変換素子用蒸着材料を用いて蒸着されたものとしている。かかる蒸着材料を用いて蒸着されたフラーレン又はフラーレン誘導体を含む膜は、フラーレン又はフラーレン誘導体を含む粒子の粒径が好適化された蒸着材料を用いて成膜されたものである。従って、本発明によれば、光電変換効率が高く、光電流/暗電流のS/N比の良好であり、且つ、応答速度の速い光電変換素子を提供することができる。
【0028】
また、金属不純物量を100ppm未満とした態様では、撮像素子の光電変換素子として適用した場合において、良質な画質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の一実施形態を説明するための有機光電変換素子の概略構成を示す断面模式図
【図2】受光層の蒸着方法を示す模式斜視図(真空加熱蒸着)
【図3】受光層の蒸着方法を示す模式斜視図(真空加熱共蒸着)
【図4】真空加熱共蒸着における蒸着セルの配置例(その1)
【図5】真空加熱共蒸着における蒸着セルの配置例(その2)
【図6】本発明の一実施形態を説明するための撮像素子の概略構成を示す断面模式図
【発明を実施するための形態】
【0030】
「蒸着材料、光電変換素子」
図面を参照して、本発明にかかる一実施形態の光電変換素子について説明する。図1は、本実施形態の光電変換素子の構成を示す概略断面図である。本明細書の図面において、視認しやすくするため、各部の縮尺は適宜変更して示してある。
【0031】
図1に示されるように、有機光電変換素子1(光電変換素子1)は、基板10と、基板10上に形成された下部電極20と、下部電極20上に形成された電子ブロッキング層31と、電子ブロッキング層31上に形成された光電変換層32と、光電変換層32上に形成された電極40と、電極40上に形成された封止層50とを備える。電子ブロッキング層31と光電変換層32によって受光層30が形成されている。受光層30は、光電変換層32を少なくとも含む層であればよく、また、電子ブロッキング層31以外の層(例えば正孔ブロッキング層)を含む層であってもよい。
【0032】
受光層30に含まれる電子ブロッキング層31は、下部電極20から光電変換層32に電子が注入されるのを抑制し、光電変換層32で発生した電子が電極20側に流れるのを阻害するための層である。電子ブロッキング層31は、有機材料又は無機材料、あるいはその両方を含んで構成されている。
【0033】
電極40は、光電変換層32で発生した電荷のうちの電子を捕集する電極である。電極40は、光電変換層32に光を入射させるために、光電変換層32が感度を持つ波長の光に対して十分に透明な導電性材料(例えばITO)を用いる。電極40及び電極20間にバイアス電圧を印加することで、光電変換層32で発生した電荷のうち、正孔を電極20に、電子を電極40に移動させることができる。
【0034】
このように構成された光電変換素子1は、上部電極40を光入射側の電極としており、上部電極40上方から光が入射すると、この光が上部電極40を透過して光電変換層32に入射し、ここで電荷が発生する。発生した電荷のうちの正孔は下部電極20に移動する。下部電極20に移動した正孔を、その量に応じた電圧信号に変換して読み出すことで、光を電圧信号に変換して取り出すことができる。
【0035】
また、電極20において電子を捕集し、電極40において正孔を捕集するようにバイアス電圧を印加してもよい。この場合には、電子ブロッキング層31の代わりに正孔ブロッキング層を設ければよい。正孔ブロッキング層は、電極20から光電変換層32に正孔が注入されるのを抑制し、光電変換層32で発生した正孔が電極20側に流れてしまうのを阻害するための有機材料で構成された層とすればよい。いずれの場合も、電極20と電極40で挟まれた部分が受光層30となる。
【0036】
光電変換素子1は、受光層30の少なくとも一部の層が、フラーレン又はフラーレン誘導体を含むものである。受光層30内に、フラーレン又はフラーレン誘導体を含むもの態様は特に制限されないが、本実施形態では、光電変換層32の一部として、p型有機半導体(p型有機化合物)と、n型有機半導体であるフラーレン又はフラーレン誘導体とを混合した混合層(以下、フラーレン混合層とする。)を備えた構成について説明する。
【0037】
ここで、混合層とは、複数の材料が混ざり合った又は分散した層のことをいい、本実施形態では、p型有機半導体とフラーレン又はフラーレン誘導体を共蒸着することで形成される層である。
【0038】
光電変換層32が、このようなフラーレン混合層を含むことにより、光電変換層のキャリア拡散長が短いという欠点を補い、光電変換層の光電変換効率を向上させることができる。また、かかる光電変換層32を備えた場合は、光電変換層32の形成後、封止層50を形成するまでの間に、作製途中の光電変換素子1を非真空下においても、素子性能が劣化しない。このため、光電変換層32を形成以降の搬送経路を、真空状態にする必要がなくなる。この結果、光電変換素子1の製造設備を簡素化することができ、製造コストを削減することが可能となる。
【0039】
本実施形態において、フラーレン混合層は共蒸着により形成されてなる層である。蒸着方法としては、抵抗加熱蒸着、電子ビーム蒸着、フラッシュ蒸着などが挙げられ、本発明の効果を著しく損なわない限り蒸着方法は特に限定されないが、真空抵抗加熱蒸着が好ましい。
【0040】
図2及び図3に真空抵抗加熱蒸着の成膜の様子を示す模式図の一例を示す。図2は通常の蒸着、図3は共蒸着の概略図である。
【0041】
図2に示すように、通常、受光層の蒸着は、蒸着室91内に設置された蒸着セル71の開口部の上方に、基板ホルダ90を備え、該ホルダ90に基板Bを設置した状態で行う。加熱機能を有する蒸着セル71内には、蒸着材料(原料)60が設置されており、蒸着室91内部は真空度が高いため、蒸着セル71から蒸発した蒸着材料は、開口部から出射されて直進し、基板B上に成膜される。蒸着セル71の開口部の開口径を調整することにより、蒸発した蒸着材料の最大出射角度θを調整することができる。
【0042】
蒸着材料60は、ボート型、バスケット型、ヘアピン型、るつぼ型などの形状の蒸着源にとして設置されている。本実施形態において蒸着源の形状は特に限定されない。
【0043】
蒸着セル71と基板Bとは、できれば10cm以上離間されていることが好ましい。蒸発した蒸着原料は、基板面に対し0°〜θの入射角でほぼ円錐状に広がって入射されることとなる。
【0044】
図3に示す共蒸着の場合も成膜原理は同様であるが、共蒸着の場合は、蒸着セル71の中心部側の上面の一部に立設された壁部72等を備えることにより、少なくとも基板Bの中心部側における蒸着ビームの入射角を小さくする態様とすることが好ましい。図3に示される符号81及び82は、各蒸着材料60,60'の膜厚測定部(水晶振動子)である。中心部の蒸着角をそれぞれ小さくすることにより、各蒸着材料それぞれの膜厚を測定可能としたり、また、基板面への成膜箇所を制限したりすることができる。
【0045】
図4及び図5は、複数の蒸着源を有する場合(共蒸着)の蒸着セルの配置態様の一例を示したものである。図4に示すように、円盤状の基板Bに対し、基板Bよりも小さい正方形78の四隅となる位置に蒸着セル71を配置する方法や、図5に示すように円盤状の基板Bよりも小さい同心円79上に複数配置する方法が好ましい。図4に示すように、正方形78の四隅となる位置に蒸着セル71を配置する場合、蒸着セル71の壁部72は、少なくとも正方形78の内側全域に立設されていればよい。また、図5に示すように、同心円79上に蒸着セル71を配置する場合、蒸着セル71の壁部72は、少なくとも同心円59の内側全域に立設されていればよい。
【0046】
本発明の蒸着方法の蒸着源および蒸着源配置態様は図4、5に限定されるものでない。
【0047】
「背景技術」の項において述べたように、有機薄膜の物理蒸着は、安定した気化を行うことが難しい。本発明者らは、フラーレン混合層の成膜時に用いるフラーレン又はフラーレン誘導体の蒸着材料60としてD50%で表される平均粒径が50μm〜300μmであり、且つ、HPLC純度は、99.5%以上であるフラーレン又はフラーレン誘導体を主成分とする複数の粒子又は複数の粒子が成形されてなる成形体を用いることにより、p型有機半導体とフラーレン又はフラーレン誘導体との混合層を用いた光電変換素子の、良好な特性(光電変換効率及び光電流/暗電流のS/N比)を維持しつつ応答速度の高速化を実現可能であることを見出した(後記実施例を参照)。
蒸着法における成膜速度は、生産性の観点から、0.2〜12Å/sであることが好ましい。また、蒸着法による蒸着温度は上記成膜速度(蒸着速度)の範囲に入る温度であればよく、350〜750℃の範囲であることが好ましい。
【0048】
実施例に示されるように、フラーレン又はフラーレン誘導体を主成分とする複数の粒子のD50%で表される平均粒径が50μm〜300μmの範囲内であり、且つ、HPLC純度は、99.5%以上であれば、良好な応答速度を維持できるが、範囲外では、蒸着速度の安定性にそれほど変化はないものの、その混合層を含む光電変換素子の応答速度は5%以上低下する。本発明者は、この応答速度の低下は、蒸着分布の時間変化が起こりやすく、その結果、膜厚方向及び膜面内方向の組成の均一性が悪くなるためであると考えている。
【0049】
蒸着分布は、蒸着材料の蒸発(昇華)の安定性によって影響を受ける。フラーレン又はフラーレン誘導体を主成分とする複数の粒子の平均粒径が大きい場合は、蒸着時の加熱工程において瞬間的な材料の突沸が生じやすく、また、小さすぎる場合は、その表面積の大きさに起因して、粒径制御時に外乱の影響を受けやすく、その結果不純物の混入の可能性が高くなるため、安定した蒸発(昇華)を実施することが難しい。
【0050】
量産を考えた場合には特に、大面積化や長時間連続成膜を行うことになるため、このような組成均一性の悪化による応答特性への悪影響は大きいものとなり、歩留まりの低下も顕著となる。本発明は、大面積化や長時間成膜を行う場合により有効である。
【0051】
本実施形態の蒸着材料60は、不純物として金属を含まないことが好ましい。金属の含有量が多いと、蒸着時に膜面に付着した金属による影響が大きくなり、撮像素子に用いた場合、白傷や黒傷(数画素に及ぶ感度低下)の欠陥を誘発しやすい。蒸着材料60に含まれる金属は250ppm未満が好ましく、100ppm未満がより好ましく、10ppm未満がさらに好ましい。下記に上げた各金属量が100ppm以上になると、白傷や黒傷を引き起こす可能性が高くなる。
【0052】
蒸着材料60には、Al,Fe,Cu,Zn,Zr,Ca,Mg,Cr,Ni,Mo,Mn,Na,Si,B,K等の金属をとりわけ含まないことが好ましく、また、F,Cl,Br、I等のハロゲン元素も含まないことが好ましい。ハロゲン元素の含有量は100ppm未満であることが好ましい。
【0053】
本実施形態の蒸着材料60の製造方法は特に限定されない。蒸着材料60の粒径範囲を含むフラーレン又はフラーレン誘導体の粉末であれば、例えば、数種類のメッシュを用いて段階的に篩いにかけることにより製造することができる。また、粒径の大きなフラーレン又はフラーレン誘導体や、バルク体等を用いる場合は、乾式ジェットミル等を用いて粉砕した後に上記と同様の篩い分けにより製造することができる。
上記製造方法において、蒸着材料60に含まれる金属量をできるだけ増やさないことが好ましい。
【0054】
また、必要があれば、得られた粉末を加圧して特定の形状に形成した成形体や、それを焼成して焼結させた焼結体、あるいは、顆粒状に造粒されたもの、さらには、それを焼成して得られる顆粒状の焼結体等としてもよい。
【0055】
以下に、本実施形態のフラーレン又はフラーレン誘導体を主成分とする複数の粒子を含む蒸着材料60を用いて得られた、図1に示される光電変換素子1について説明する。
【0056】
<基板及び電極>
基板10としては特に制限なく、シリコン基板、ガラス基板等を用いることができる。
【0057】
下部電極20は、光電変換層32で発生した電荷のうちの正孔を捕集するための電極である。下部電極20としては、導電性が良好であれば特に制限されないが、用途に応じて、透明性を持たせる場合と、逆に透明を持たせず光を反射させるような材料を用いる場合等がある。具体的には、アンチモンやフッ素等をドープした酸化錫(ATO、FTO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物、金、銀、クロム、ニッケル、チタン、タングステン、アルミ等の金属及びこれらの金属の酸化物や窒化物などの導電性化合物(一例として窒化チタン(TiN)を挙げる)、更にこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどの有機導電性材料、及びこれらとITO又は窒化チタンとの積層物などが挙げられる。
【0058】
上部電極40は、光電変換層32で発生した電荷のうちの電子を捕集する電極である。上部電極40は、光電変換層32に光を入射させるために、光電変換層32が感度を持つ波長の光に対して十分に透明な導電性材料であれば特に制限されない。具体的には、アンチモンやフッ素等をドープした酸化錫(ATO、FTO)、酸化錫、酸化亜鉛、酸化インジウム、酸化インジウム錫(ITO)、酸化亜鉛インジウム(IZO)等の導電性金属酸化物、金、銀、クロム、ニッケル等の金属薄膜、更にこれらの金属と導電性金属酸化物との混合物又は積層物、ヨウ化銅、硫化銅などの無機導電性物質、ポリアニリン、ポリチオフェン、ポリピロールなどの有機導電性材料、及びこれらとITOとの積層物などが挙げられる。この中で好ましいのは、高導電性、透明性等の点から、導電性金属酸化物である。
【0059】
上記電極を形成する方法は特に限定されず、電極材料との適正を考慮して適宜選択することができる。具体的には、印刷方式、コーティング方式等の湿式方式、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法等の物理的方式、CVD、プラズマCVD法等の化学的方式等により形成することができる。
【0060】
電極の材料がITOの場合、電子ビーム法、スパッタリング法、抵抗加熱蒸着法、化学反応法(ゾルーゲル法など)、酸化インジウムスズの分散物の塗布などの方法で形成することができる。更に、ITOを用いて作製された膜に、UV−オゾン処理、プラズマ処理などを施すことができる。電極の材料がTiNの場合、反応性スパッタリング法をはじめとする各種の方法が用いられ、更にUV−オゾン処理、プラズマ処理などを施すことができる。
【0061】
上部電極40は有機光電変換層32上に成膜するため、有機光電変換層32の特性を劣化させることのない方法で成膜される事が好ましいことから、プラズマフリーで作製することが好ましい。ここで、プラズマフリーとは、上部電極40の成膜中にプラズマが発生しないか、又はプラズマ発生源から基体までの距離が2cm以上、好ましくは10cm以上、更に好ましくは20cm以上であり、基体に到達するプラズマが減ずるような状態を意味する。
【0062】
上部電極40の成膜中にプラズマが発生しない装置としては、例えば、電子線蒸着装置(EB蒸着装置)やパルスレーザー蒸着装置がある。EB蒸着装置又はパルスレーザー蒸着装置については、沢田豊監修「透明導電膜の新展開」(シーエムシー刊、1999年)、沢田豊監修「透明導電膜の新展開II」(シーエムシー刊、2002年)、日本学術振興会著「透明導電膜の技術」(オーム社、1999年)、及びそれらに付記されている参考文献等に記載されているような装置を用いることができる。以下では、EB蒸着装置を用いて透明電極膜の成膜を行う方法をEB蒸着法と言い、パルスレーザー蒸着装置を用いて透明電極膜の成膜を行う方法をパルスレーザー蒸着法と言う。
【0063】
プラズマ発生源から基体への距離が2cm以上であって基体へのプラズマの到達が減ずるような状態を実現できる装置(以下、プラズマフリーである成膜装置という)については、例えば、対向ターゲット式スパッタ装置やアークプラズマ蒸着法などが考えられ、それらについては沢田豊監修「透明導電膜の新展開」(シーエムシー刊、1999年)、沢田豊監修「透明導電膜の新展開II」(シーエムシー刊、2002年)、日本学術振興会著「透明導電膜の技術」(オーム社、1999年)、及びそれらに付記されている参考文献等に記載されているような装置を用いることができる。
【0064】
TCOなどの透明導電膜を上部電極40とした場合、DCショート、あるいはリーク電流増大が生じる場合がある。この原因の一つは、光電変換層32に導入される微細なクラックがTCOなどの緻密な膜によってカバレッジされ、反対側の下部電極20との間の導通が増すためと考えられる。そのため、Alなど膜質が比較して劣る電極の場合、リーク電流の増大は生じにくい。上部電極40の膜厚を、光電変換層32の膜厚(すなわち、クラックの深さ)に対して制御する事により、リーク電流の増大を大きく抑制できる。上部電極40の厚みは、光電変換層32厚みの1/5以下、好ましくは1/10以下であるようにする事が望ましい。
【0065】
通常、導電性膜をある範囲より薄くすると、急激な抵抗値の増加をもたらすが、本実施形態に係る光電変換素子を組み込んだ固体撮像素子では、シート抵抗は、好ましくは100〜10000Ω/□でよく、薄膜化できる膜厚の範囲の自由度は大きい。また、上部電極40は厚みが薄いほど吸収する光の量は少なくなり、一般に光透過率が増す。光透過率の増加は、光電変換層32での光吸収を増大させ、光電変換能を増大させるため、非常に好ましい。薄膜化に伴う、リーク電流の抑制、薄膜の抵抗値の増大、透過率の増加を考慮すると、上部電極40の膜厚は、5〜100nmであることが好ましく、5〜20nmである事がより好ましい。
【0066】
上部電極40と下部電極20間にバイアス電圧を印加することで、光電変換層23で発生した電荷のうち、正孔を下部電極20に、電子を上部電極40に移動させることができる。
【0067】
<受光層>
受光層30は、少なくとも光電変換層32を含む層である。本実施形態では、受光層30は、電子ブロッキング層31と光電変換層32とにより構成されている。
【0068】
受光層30は、乾式成膜法又は湿式成膜法により形成することができる。乾式成膜法は、均一な膜形成が容易であり不純物が混入し難い点、また、膜厚コントロールや異種材料に積層が容易である点で好ましい。
【0069】
乾式成膜法の具体的な例としては、真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、MBE法等の物理気相成長法あるいはプラズマ重合等のCVD法が挙げられる。好ましくは真空蒸着法であり、真空蒸着法により成膜する場合、真空度、蒸着温度等の製造条件は常法に従って設定することができる。蒸着法により、受光層30を形成する場合は、蒸着可能温度よりも、分解温度が大きいほど、蒸着時の熱分解が抑制できるので好ましい。
【0070】
受光層30を乾式成膜法により形成する場合、形成時の真空度は、受光層形成時の素子特性の劣化を防止することを考慮すると、1×10−3Pa以下が好ましく、4×10−4Pa以下がさらに好ましく、1×10−4Pa以下が特に好ましい。
【0071】
受光層30の厚みは、10nm以上1000nm以下が好ましく、さらに好ましくは50nm以上800nm以下、特に好ましくは100nm以上600nm以下である。10nm以上とすることにより、好適な暗電流抑制効果が得られ、1000nm以下とすることにより、好適な光電変換効率が得られる。
【0072】
<<光電変換層>>
光電変換層32は、光を受光し、その光量に応じた電荷を発生するものであり、有機の光電変換材料を含んで構成されている。
【0073】
光電変換層32は、有機ELの発光層(電気信号を光に変換する層)とは異なり非発光性の層である。非発光性層とは、可視光領域(波長400nm〜730nm)において発光量子効率が1%以下、好ましくは0.5%以下、より好ましくは0.1%以下の層であることを意味する。光電変換層32において、発光量子効率が1%を超えると、センサや撮像素子に適用した場合にセンシング性能又は撮像性能に影響を与えるため、好ましくない。
【0074】
本実施形態の光電変換素子1は、光電変換層32に、p型有機半導体(p型有機化合物)と、フラーレン又はフラーレン誘導体とを混合した混合層を備えた構成としている。既に述べたように、この混合層は、p型有機半導体材料と、上記フラーレン又はフラーレン誘導体を主成分とする複数の粒子を含む蒸着材料60との共蒸着により成膜されたものである。
【0075】
本発明では、光電変換層32を構成するp型有機半導体(化合物)は蒸着速度の安定性に大きな影響を与えない適切な粒径の範囲内において、材料選択幅を狭めることなく、良好な素子性能を実現することができる。本実施形態において、p型有機半導体の平均粒径は10〜800μmが好ましく、20〜500μmがさらに好ましい。
【0076】
光電変換層32を構成するp型有機半導体(化合物)は、ドナー性有機半導体(化合物)であり、主に正孔輸送性有機化合物に代表され、電子を供与しやすい性質がある有機化合物をいう。さらに詳しくは2つの有機材料を接触させて用いたときにイオン化ポテンシャルの小さい方の有機化合物をいう。従って、ドナー性有機化合物は、電子供与性のある有機化合物であればいずれの有機化合物も使用可能である。
【0077】
例えば、トリアリールアミン化合物、ピラン化合物、キナクリドン化合物、ベンジジン化合物、ピラゾリン化合物、スチリルアミン化合物、ヒドラゾン化合物、トリフェニルメタン化合物、カルバゾール化合物、ポリシラン化合物、チオフェン化合物、フタロシアニン化合物、シアニン化合物、メロシアニン化合物、オキソノール化合物、ポリアミン化合物、インドール化合物、ピロール化合物、ピラゾール化合物、ポリアリーレン化合物、縮合芳香族炭素環化合物(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)、含窒素ヘテロ環化合物を配位子として有する金属錯体等を用いることができる。なお、これに限らず、n型有機半導体として用いた有機化合物よりもイオン化ポテンシャルの小さい有機化合物であればドナー性有機半導体として用いてよい。
【0078】
上記の中でも、好ましいのは、トリアリールアミン化合物、ピラン化合物、キナクリドン化合物、ピロール化合物、フタロシアニン化合物、メロシアニン化合物、縮合芳香族炭
素環化合物である。
【0079】
p型有機半導体としてはいかなる有機色素を用いてもよいが、好ましいものとしては、シアニン色素、スチリル色素、ヘミシアニン色素、メロシアニン色素(ゼロメチンメロシアニン(シンプルメロシアニン)を含む)、3核メロシアニン色素、4核メロシアニン色素、ロダシアニン色素、コンプレックスシアニン色素、コンプレックスメロシアニン色素、アロポーラー色素、オキソノール色素、ヘミオキソノール色素、スクアリウム色素、クロコニウム色素、アザメチン色素、クマリン色素、アリーリデン色素、アントラキノン色素、トリフェニルメタン色素、アゾ色素、アゾメチン色素、スピロ化合物、メタロセン色素、フルオレノン色素、フルギド色素、ペリレン色素、ペリノン色素、フェナジン色素、フェノチアジン色素、キノン色素、ジフェニルメタン色素、ポリエン色素、アクリジン色素、アクリジノン色素、ジフェニルアミン色素、キナクリドン色素、キノフタロン色素、フェノキサジン色素、フタロペリレン色素、ジケトピロロピロール色素、ジオキサン色素、ポルフィリン色素、クロロフィル色素、フタロシアニン色素、金属錯体色素、縮合芳香族炭素環系色素(ナフタレン誘導体、アントラセン誘導体、フェナントレン誘導体、テトラセン誘導体、ピレン誘導体、ペリレン誘導体、フルオランテン誘導体)が挙げられる。具体的なp型有機半導体(化合物)を下記に例示するが、下記に挙げた化合物に限定されるものではない。
【化1】

【0080】
光電変換層32を構成するフラーレンは特に限定されず、フラーレンC60、フラーレンC70、フラーレンC76、フラーレンC78、フラーレンC80、フラーレンC82、フラーレンC84、フラーレンC90、フラーレンC96、フラーレンC240、フラーレン540、ミックスドフラーレン、フラーレンナノチューブ等が挙げられる。以下に代表的なフラーレンの骨格を示す。
【化2】

【0081】
また、フラーレン誘導体とはこれらに置換基が付加された化合物のことを表す。フラーレン誘導体の置換基として好ましくは、アルキル基、アリール基、又は複素環基である。アルキル基として更に好ましくは、炭素数1〜12までのアルキル基であり、アリール基、及び複素環基として好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、トリフェニレン環、ナフタセン環、ビフェニル環、ピロール環、フラン環、チオフェン環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、ピリダジン環、インドリジン環、インドール環、ベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、イソベンゾフラン環、ベンズイミダゾール環、イミダゾピリジン環、キノリジン環、キノリン環、フタラジン環、ナフチリジン環、キノキサリン環、キノキサゾリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、フェナントリジン環、アクリジン環、フェナントロリン環、チアントレン環、クロメン環、キサンテン環、フェノキサチイン環、フェノチアジン環、またはフェナジン環であり、さらに好ましくは、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、フェナントレン環、ピリジン環、イミダゾール環、オキサゾール環、またはチアゾール環であり、特に好ましくはベンゼン環、ナフタレン環、またはピリジン環である。これらはさらに置換基を有していてもよく、その置換基は可能な限り結合して環を形成してもよい。なお、複数の置換基を有しても良く、それらは同一であっても異なっていても良い。また、複数の置換基は可能な限り結合して環を形成してもよい。
【0082】
光電変換層32がフラーレン又はフラーレン誘導体を含むことで、フラーレン分子またはフラーレン誘導体分子を経由して、光電変換により発生した電荷を下部電極20又は上部電極40まで早く輸送できる。フラーレン分子またはフラーレン誘導体分子が連なった状態になって電子の経路が形成されていると、電子輸送性が向上して有機光電変換素子の高速応答性が実現可能となる。このためにはフラーレン又はフラーレン誘導体が光電変換層32に40%以上含まれていることが好ましい。もっとも、フラーレン又はフラーレン誘導体が多すぎるとp型有機半導体が少なくなって接合界面が小さくなり励起子解離効率が低下してしまう。
【0083】
光電変換層32において、フラーレン又はフラーレン誘導体と共に混合されるp型有機半導体として、特許第4213832号公報等に記載されたトリアリールアミン化合物を用いると有機光電変換素子の高SN比が発現可能になり、特に好ましい。光電変換層32内のフラーレン又はフラーレン誘導体の比率が大きすぎると該トリアリールアミン化合物が少なくなって入射光の吸収量が低下する。これにより光電変換効率が減少するので、光電変換層32に含まれるフラーレン又はフラーレン誘導体は85%以下の組成であることが好ましい。
【0084】
更に、上記したように、光電変換層32において、p型有機半導体と、フラーレン又はフラーレン誘導体とを混合した混合層は、フラーレン又はフラーレン誘導体を主成分とする複数の粒子のD50%で表される平均粒径が50μm〜300μmである光電変換素子用蒸着材料を用いて蒸着されたものとしている。かかる蒸着材料を用いて蒸着されたフラーレン又はフラーレン誘導体を含む膜は、フラーレン又はフラーレン誘導体を含む粒子の粒径が好適化された蒸着材料を用いて成膜されたものである。従って、後記実施例に示されるように、かかる光電変換層32を備えた光電変換素子1は、光電変換効率が高く、光電流/暗電流のS/N比の良好であり、且つ、応答速度の速いものとなる。
【0085】
本発明の効果を顕著に発現させるために、p型有機半導体は下記一般式(1)で表され
る化合物であることが好ましい。
【化3】

(式中、L2、L3は、それぞれ独立に無置換メチン基若しくは置換メチン基を表す。nは0〜2の整数を表す。Ar1は、2価の置換アリーレン基、又は無置換アリーレン基を表す。Ar2、Ar3は、それぞれ独立に、置換アリール基、無置換アリール基、置換アルキル基、無置換アルキル基、置換へテロアリール基、又は無置換ヘテロアリール基を表す。Ar1、Ar2、Ar3のうち隣接するものは互いに連結して環を形成しても良い。L1は、下記一般式(2)と結合する無置換メチン基若しくは置換メチン基、又は、下記一般式(3)で表される基を表す。
【化4】

式中、Z1は、L1と結合する炭素原子と該炭素原子に隣接するカルボニル基を含む環であって、5員環、6員環、又は、5員環及び6員環の少なくともいずれかを含む縮合環を表す。Xはヘテロ原子を表す。Z2は、Xを含む環であって、5員環、6員環、7員環、又は、5員環及び6員環及び7員環の少なくともいずれかを含む縮合環を表す。L4〜L6は、それぞれ独立に無置換メチン基若しくは置換メチン基を表す。R6、R7はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表し、隣接するものが互いに結合して環を形成してもよい。kは0〜2の整数を表す。一般式(2)中の*はL1に結合する結合位置を表し、一般式(3)中の*はL2又はAr1に結合する結合位置を表す。
【0086】
一般式(2)のZ1は、2つの炭素原子を含む環であって、5員環、6員環、又は、5員環及び6員環の少なくともいずれかを含む縮合環を表す。このような環としては、通常メロシアニン色素で酸性核として用いられるものが好ましく、その具体例としては例えば以下のものが挙げられる。
(a)1,3−ジカルボニル核:例えば1,3−インダンジオン核、1,3−シクロヘキサンジオン、5,5−ジメチル−1,3−シクロヘキサンジオン、1,3−ジオキサン−4,6−ジオン等。
(b)ピラゾリノン核:例えば1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン、3−メチル−1−フェニル−2−ピラゾリン−5−オン、1−(2−ベンゾチアゾイル)−3−メチル−2−ピラゾリン−5−オン等。
(c)イソオキサゾリノン核:例えば3−フェニル−2−イソオキサゾリン−5−オン、3−メチル−2−イソオキサゾリン−5−オン等。
(d)オキシインドール核:例えば1−アルキル−2,3−ジヒドロ−2−オキシインドール等。
(e)2,4,6−トリケトヘキサヒドロピリミジン核:例えばバルビツル酸又は2−チオバルビツル酸及びその誘導体等。誘導体としては例えば1−メチル、1−エチル等の1−アルキル体、1,3−ジメチル、1,3−ジエチル、1,3−ジブチル等の1,3−ジアルキル体、1,3−ジフェニル、1,3−ジ(p−クロロフェニル)、1,3−ジ(p−エトキシカルボニルフェニル)等の1,3−ジアリール体、1−エチル−3−フェニル等の1−アルキル−1−アリール体、1,3−ジ(2―ピリジル)等の1,3位ジヘテロ環置換体等が挙げられる。
(f)2−チオ−2,4−チアゾリジンジオン核:例えばローダニン及びその誘導体等。誘導体としては例えば3−メチルローダニン、3−エチルローダニン、3−アリルローダニン等の3−アルキルローダニン、3−フェニルローダニン等の3−アリールローダニン、3−(2−ピリジル)ローダニン等の3位ヘテロ環置換ローダニン等が挙げられる。
(g)2−チオ−2,4−オキサゾリジンジオン(2−チオ−2,4−(3H,5H)−オキサゾールジオン核:例えば3−エチル−2−チオ−2,4−オキサゾリジンジオン等。
(h)チアナフテノン核:例えば3(2H)−チアナフテノン−1,1−ジオキサイド等。
(i)2−チオ−2,5−チアゾリジンジオン核:例えば3−エチル−2−チオ−2,5−チアゾリジンジオン等。
(j)2,4−チアゾリジンジオン核:例えば2,4−チアゾリジンジオン、3−エチル−2,4−チアゾリジンジオン、3−フェニル−2,4−チアゾリジンジオン等。
(k)チアゾリン−4−オン核:例えば4−チアゾリノン、2−エチル−4−チアゾリノン等。
(l)2,4−イミダゾリジンジオン(ヒダントイン)核:例えば2,4−イミダゾリジンジオン、3−エチル−2,4−イミダゾリジンジオン等。
(m)2−チオ−2,4−イミダゾリジンジオン(2−チオヒダントイン)核:例えば2−チオ−2,4−イミダゾリジンジオン、3−エチル−2−チオ−2,4−イミダゾリジンジオン等。
(n)2−イミダゾリン−5−オン核:例えば2−プロピルメルカプト−2−イミダゾリン−5−オン等。
(o)3,5−ピラゾリジンジオン核:例えば1,2−ジフェニル−3,5−ピラゾリジンジオン、1,2−ジメチル−3,5−ピラゾリジンジオン等。
(p)ベンゾチオフェン−3−オン核:例えばベンゾチオフェン−3−オン、オキソベン
ゾチオフェンー3−オン、ジオキソベンゾチオフェンー3−オン等。
(q)インダノン核:例えば1−インダノン、3−フェニル−1−インダノン、3−メチル−1−インダノン、3,3−ジフェニル−1−インダノン、3,3−ジメチル−1−インダノン等。
【0087】
Z1が表す環として好ましくは、1,3−ジカルボニル核、ピラゾリノン核、2,4,6−トリケトヘキサヒドロピリミジン核(チオケトン体も含み、例えばバルビツル酸核、2−チオバルビツール酸核)、2−チオ−2,4−チアゾリジンジオン核、2−チオ−2,4−オキサゾリジンジオン核、2−チオ−2,5−チアゾリジンジオン核、2,4−チアゾリジンジオン核、2,4−イミダゾリジンジオン核、2−チオ−2,4−イミダゾリジンジオン核、2−イミダゾリン−5−オン核、3,5−ピラゾリジンジオン核、ベンゾチオフェン−3−オン核、インダノン核であり、より好ましくは1,3−ジカルボニル核、2,4,6−トリケトヘキサヒドロピリミジン核(チオケトン体も含み、例えばバルビツル酸核、2−チオバルビツール酸核)、3,5−ピラゾリジンジオン核、ベンゾチオフェン−3−オン核、インダノン核であり、さらに好ましくは1,3−ジカルボニル核、2,4,6−トリケトヘキサヒドロピリミジン核(チオケトン体も含み、例えばバルビツル酸核、2−チオバルビツール酸核)であり、特に好ましくは1,3−インダンジオン核、バルビツル酸核、2−チオバルビツール酸核及びそれらの誘導体である。
【0088】
Z1が表す環として好ましいものは下記の式で表される。
【化5】

式中、Z3は、L1と結合する炭素原子と該炭素原子に隣接する2つのカルボニル基を含む環であって、5員環、6員環、又は、5員環及び6員環の少なくともいずれかを含む縮合環を表す。*はL1と結合する結合位置を示す。Z3としては上記Z1が表す環中から選ぶことができ、好ましくは1,3−ジカルボニル核、2,4,6−トリケトヘキサヒドロピリミジン核(チオケトン体も含む)であり、特に好ましくは1,3−インダンジオン核、バルビツル酸核、2−チオバルビツール酸核及びそれらの誘導体である。
【0089】
Z1が表す環が1,3−インダンジオン核の場合、下記一般式(5)で示される基である場合が好ましい。
【化6】

式中、R2〜R5はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表し、隣接するものが互いに結合して環を形成してもよい。*はL1と結合する結合位置を示す。
【0090】
一般式(3)のkは0〜2の整数を表し、好ましくは0又は1、より好ましく0である。XはO、S、N−R10が好ましい。Z2が表す環として好ましいものは下記の式(6)で表される。
【化7】

式中、XはO、S、N−R10を表す。R10は水素原子又は置換基を表す。式中、R1、R6、R7はそれぞれ独立に、水素原子又は置換基を表し、隣接するものが互いに結合して環を形成してもよい。mは1〜3の整数を表す。mが2以上のとき複数のR1は同じでも異なっていてもよい。*はL2又はAr1に結合する結合位置を表す。
【0091】
Ar1が表すアリーレン基としては、好ましくは炭素数6〜30のアリーレン基であり、より好ましくは炭素数6〜18のアリーレン基である。該アリーレン基は、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基を有していてもよい炭素数6〜18のアリーレン基である。例えば、フェニレン基、ナフチレン基、メチルフェニレン基、ジメチルフェニレン基等が挙げられ、フェニレン基、ナフチレン基が好ましい。
【0092】
Ar2、Ar3が表すアリール基としては、それぞれ独立に、好ましくは炭素数6〜30のアリール基であり、より好ましくは炭素数6〜18のアリール基である。該アリール基は、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数6〜18のアリール基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基である。例えば、フェニル基、ナフチル基、トリル基、アンスリル基、ジメチルフェニル基、ビフェニル基等が挙げられ、フェニル基、ナフチル基が好ましい。
【0093】
Ar2、Ar3が表すアルキル基としては、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基が挙げられ、メチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。
【0094】
Ar2、Ar3が表すヘテロアリール基としては、それぞれ独立に、好ましくは炭素数3〜30のヘテロアリール基であり、より好ましくは炭素数3〜18のヘテロアリール基である。該ヘテロアリール基は、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数6〜18のアリール基を有していてもよい炭素数3〜18のヘテロアリール基である。また、Ar2、Ar3が表すヘテロアリール基は縮環構造であってもよく、フラン環、チオフェン環、セレノフェン環、シロール環、ピリジン環、ピラジン環、ピリミジン環、オキサゾール環、チアゾール環、トリアゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環からから選ばれる環の組み合わせ(同一でも良い)の縮環構造が好ましく、キノリン環、イソキノリン環、ベンゾチオフェン環、ジベンゾチオフェン環、チエノチオフェン環、ビチエノベンゼン環、ビチエノチオフェン環が好ましい。
【0095】
Ar1、Ar2、Ar3、R1、R2〜R7、R10のうち隣接するものは互いに連結して環を形成しても良い。さらに、該環は、ヘテロ原子、アルキレン基、及び芳香族環等で形成される環が好ましい。例えば、アリール基(例えば、一般式(1)のAr1、Ar2、Ar3)の2つが単結合又は連結基を介して連結することで、窒素原子(一般式(1)のN)とともに形成される環が挙げられる。該連結基しては、ヘテロ原子(例えば、−O−、−S−など)、アルキレン基(例えば、メチレン基、エチレン基など)、及びこれらの組み合わせからなる基が挙げられ、−S−、メチレン基が好ましい。窒素原子(例えば、一般式(1)のN)、アルキレン基(例えば、メチレン基)及びアリール基(例えば、一般式(1)のAr1、Ar2又はAr3)で形成される環が好ましい。該環は更に置換基を有していてもよく、該置換基としては、アルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、より好ましくはメチル基)が挙げられ、複数の該置換基が互いに連結して更に環(例えば、ベンゼン環など)を形成してもよい。
【0096】
また、R3及びR4が互いに連結して環を形成していることも好ましく、該環としてはベンゼン環が好ましい。
【0097】
更にまた、R1については、複数ある場合(mが2以上)に該複数のR1のうち隣接するものは互いに連結して環を形成することができ、該環としてはベンゼン環が好ましい。
【0098】
Ar1、Ar2、Ar3が置換基を有する場合の当該置換基、及び、R1、R2〜R7、R10の置換基としてはハロゲン原子、アルキル基(シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、トリシクロアルキル基を含む)、置換アルキル基、アルケニル基(シクロアルケニル基、ビシクロアルケニル基を含む)、アルキニル基、アリール基、置換アリール基、複素環基(ヘテロ環基といっても良い)、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アミノ基(アニリノ基を含む)、アンモニオ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキル及びアリールスルフィニル基、アルキル及びアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール及びヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、ホスホノ基、シリル基、ヒドラジノ基、ウレイド基、ボロン酸基(−B(OH))、ホスファト基(−OPO(OH))、スルファト基(−OSOH)、その他の公知の置換基が挙げられる。R1、R2〜R7、R10の置換基としては、特にアルキル基、置換アルキル基、アリール基、置換アリール基、へテロアリール基、シアノ基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、アルケニル基、又はハロゲン原子が好ましい。
【0099】
Ar1、Ar2、Ar3が置換基を有する場合、それぞれ独立にハロゲン原子、アルキル基、アリール基、複素環基、ヒドロキシ基、ニトロ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アミノ基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルケニル基、シアノ基又はヘテロ環チオ基が好ましい。
R1としてはアルキル基、アリール基がより好ましい。R6及びR7としては、シアノ基がより好ましい。
【0100】
上記置換アルキル基や置換アリール基が有する置換基としては、上記で列挙した置換基が挙げられ、アルキル基(好ましくは炭素数1〜4のアルキル基、より好ましくはメチル基)やアリール基(炭素数6〜18のアリール基、より好ましくはフェニル基)が好ましい。
【0101】
L1、L2、L3、L4、L5、L6は、それぞれ独立に無置換メチン基又は置換メチン基を表す場合、該置換メチン基の置換基はアルキル基、アリール基、複素環基、アルケニル基、アルコキシ基又はアリールオキシ基を表し、置換基同士が結合して環を形成してもよい。環としては6員環(例えば、ベンゼン環等)が挙げられる。また、L1又はL3とAr1の置換基同士が結合して環を形成してもよい。また、L6とR7の置換基同士が結合して環を形成してもよい。
【0102】
R1、R2〜R7、R10が表すアルキル基としては、好ましくは炭素数1〜6のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基である。例えばメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基が挙げられる。R2〜R7としては、メチル基又はエチル基が好ましく、メチル基がより好ましい。R1としては、メチル基、エチル基又はt−ブチル基が好ましく、メチル基、又はt−ブチル基がより好ましい。nは0又は1が好ましい。
【0103】
R1、R2〜R7、R10が表すアリール基としては、それぞれ独立に、好ましくは炭素数6〜30のアリール基であり、より好ましくは炭素数6〜18のアリール基である。該アリール基は、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数6〜18のアリール基を有していてもよい炭素数6〜18のアリール基である。例えば、フェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、ピレニル基、フェナントレニル基、メチルフェニル基、ジメチルフェニル基、ビフェニル基等が挙げられ、フェニル基、ナフチル基、又はアントラセニル基が好ましい。
【0104】
R1、R2〜R7、R10が表すヘテロアリール基としては、それぞれ独立に、好ましくは炭素数3〜30のヘテロアリール基であり、より好ましくは炭素数3〜18のヘテロアリール基である。該ヘテロアリール基は、置換基を有していてもよく、好ましくは炭素数1〜4のアルキル基又は炭素数6〜18のアリール基を有していてもよい炭素数3〜18のヘテロアリール基である。また、R1、R2〜R7が表すヘテロアリール基は5員、6員又は7員の環又はその縮合環からなるヘテロアリール基が好ましい。ヘテロアリール基に含まれるヘテロ原子としては、酸素原子、硫黄原子、窒素原子挙げられる。ヘテロアリール基を構成する環の具体例としては、フラン環、チオフェン環、ピロール環、ピロリン環、ピロリジン環、オキサゾール環、イソオキサゾール環、チアゾール環、イソチアゾール環、イミダゾール環、イミダゾリン環、イミダゾリジン環、ピラゾール環、ピラゾリン環、ピラゾリジン環、トリアゾール環、フラザン環、テトラゾール環、ピラン環、チイン環、ピリジン環、ピペリジン環、オキサジン環、モルホリン環、チアジン環、ピリダジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピペラジン環、トリアジン環等が挙げられる。
【0105】
縮合環としては、ベンゾフラン環、イソベンゾフラン環、ベンゾチオフェン環、インドール環、インドリン環、イソインドール環、ベンゾオキサゾール環、ベンゾチアゾール環、インダゾール環、ベンゾイミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、シンノリン環、フタラジン環、キナゾリン環、キノキサリン環、ジベンゾフラン環、カルバゾール環、キサンテン環、アクリジン環、フェナントリジン環、フェナントロリン環、フェナジン環、フェノキサジン環、チアントレン環、チエノチオフェン環、インドリジン環、キノリジン環、キヌクリジン環、ナフチリジン環、プリン環、プテリジン環等が挙げられる。
【0106】
mは1〜3の整数を表し、好ましくは1又は2、より好ましく1である。
【0107】
一般式(1)で表される化合物の中でも、以下の化合物が特に好ましい。
【化8】

【化9】

【化10】

【0108】
<<電子ブロッキング層>>
受光層30に含まれる電子ブロッキング層31は、下部電極20から光電変換層32に電子が注入されるのを抑制し、光電変換層32で発生した電子が電極2側に流れるのを阻害するための層である。電子ブロッキング層31は、有機材料又は無機材料、あるいはその両方を含んで構成されている。
【0109】
電子ブロッキング層31は、複数層で構成してあってもよい。このようにすることで、電子ブロッキング層31を構成する各層の間に界面ができ、各層に存在する中間準位に不連続性が生じる。この結果、中間準位等を介した電荷の移動がしにくくなるため電子ブロッキング効果を高めることができる。但し、電子ブロッキング層31を構成する各層が同一材料であると、各層に存在する中間準位が全く同じとなる場合も有り得るため、電子ブロッキング効果を更に高めるために、各層を構成する材料を異なるものにすることが好ましい。
【0110】
電子ブロッキング層31には、電子供与性有機材料を用いることができる。具体的には、低分子材料では、N,N’−ビス(3−メチルフェニル)−(1,1’−ビフェニル)−4,4’−ジアミン(TPD)や4,4’−ビス[N−(ナフチル)−N−フェニル−アミノ]ビフェニル(α−NPD)等の芳香族ジアミン化合物、オキサゾール、オキサジアゾール、トリアゾール、イミダゾール、イミダゾロン、スチルベン誘導体、ピラゾリン誘導体、テトラヒドロイミダゾール、ポリアリールアルカン、ブタジエン、4,4’,4”−トリス(N−(3−メチルフェニル)N−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(m−MTDATA)、ポルフィン、テトラフェニルポルフィン銅、フタロシアニン、銅フタロシアニン、チタニウムフタロシアニンオキサイド等のポリフィリン化合物、トリアゾール誘導体、オキサジザゾール誘導体、イミダゾール誘導体、ポリアリールアルカン誘導体、ピラゾリン誘導体、ピラゾロン誘導体、フェニレンジアミン誘導体、アリールアミン誘導体、フルオレン誘導体、アミノ置換カルコン誘導体、オキサゾール誘導体、スチリルアントラセン誘導体、フルオレノン誘導体、ヒドラゾン誘導体、シラザン誘導体などを用いることができ、高分子材料では、フェニレンビニレン、フルオレン、カルバゾール、インドール、ピレン、ピロール、ピコリン、チオフェン、アセチレン、ジアセチレン等の重合体や、その誘導体を用いることができる。電子供与性化合物でなくとも、充分な正孔輸送性を有する化合物であれば用いることは可能である。
【0111】
具体的には、例えば、特開2008−72090号公報に記載された下記の化合物を示
すが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、下記のEaはその材料の電子親
和力、Ipはその材料のイオン化ポテンシャルを示す。EB―1,2,…の「EB」は
「電子ブロッキング」の略である。
【化11】

【0112】
電子ブロッキング層31としては無機材料を用いることもできる。一般的に、無機材料は有機材料よりも誘電率が大きいため、電子ブロッキング層31に用いた場合に、光電変換層32に電圧が多くかかるようになり、光電変換効率を高くすることができる。電子ブロッキング層31となりうる材料としては、酸化カルシウム、酸化クロム、酸化クロム銅、酸化マンガン、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化ガリウム銅、酸化ストロンチウム銅、酸化ニオブ、酸化モリブデン、酸化インジウム銅、酸化インジウム銀、酸化イリジウム等がある。
【0113】
複数層からなる電子ブロッキング層31において、複数層のうち光電変換層32と隣接する層が該光電変換層32に含まれるp型有機半導体と同じ材料からなる層であることが好ましい。電子ブロッキング層31にも同じp型有機半導体を用いることで、光電変換層32と隣接する層の界面に中間準位が形成されるのを抑制し、暗電流を更に抑制することができる。
【0114】
電子ブロッキング層31が単層の場合にはその層を無機材料からなる層とすることができ、または、複数層の場合には1つ又は2以上の層を無機材料からなる層とすることができる。
【0115】
また、下部電極20において電子を捕集し、上部電極40において正孔を捕集するようにバイアス電圧を印加する構成とする場合には、電子ブロッキング層31の代わりに正孔ブロッキング層を設ける構成とすればよい。正孔ブロッキング層は、下部電極20から光電変換層32に正孔が注入されるのを抑制し、光電変換層32で発生した正孔が下部電極20側に流れてしまうのを阻害するための有機材料で構成された層とすればよい。正孔ブロッキング層も複数層にすることで、正孔ブロッキング効果を高めることができる。
【0116】
また、上部電極40で捕集された電子又は正孔をその量に応じた電圧信号に変換して外部に取り出すようにしてもよい。この場合には、上部電極40と光電変換層32との間に電子ブロッキング層又は正孔ブロッキング層を設ければよい。いずれの場合も、下部電極20と上部電極40で挟まれた部分が受光層30となる。
【0117】
正孔ブロッキング層には、電子受容性有機材料を用いることができる。電子受容性材料
としては、1,3−ビス(4−tert−ブチルフェニル−1,3,4−オキサジアゾリ
ル)フェニレン(OXD−7)等のオキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン誘導
体、ジフェニルキノン誘導体、バソクプロイン、バソフェナントロリン、及びこれらの誘
導体、トリアゾール化合物、トリス(8−ヒドロキシキノリナート)アルミニウム錯体、
ビス(4−メチル−8−キノリナート)アルミニウム錯体、ジスチリルアリーレン誘導
体、シロール化合物などを用いることができる。また、電子受容性有機材料でなくとも、
十分な電子輸送性を有する材料ならば使用することは可能である。ポルフィリン系化合物
や、DCM(4−ジシアノメチレン−2−メチル−6−(4−(ジメチルアミノスチリ
ル))−4Hピラン)等のスチリル系化合物、4Hピラン系化合物を用いることができ
る。
【0118】
<封止層>
封止層50は、水、酸素等の有機材料を劣化させる因子が有機材料を含む受光層に侵入するのを防ぐための層である。封止層50は、下部電極20、電子ブロッキング層31、光電変換層32、及び上部電極40を覆って形成されている。
【0119】
光電変換素子1では、入射光は封止層50を通じて光電変換層32に到達するので、光光電変換層32に光を入射させるために、光電変換層32が感度を持つ波長の光に対して十分に透明である必要がある。かかる封止層50としては、水分子を浸透させない緻密な金属酸化物・金属窒化物・金属窒化酸化物などセラミクスやダイヤモンド状炭素(DLC)などがあげられ、従来から、酸化アルミニウム、酸化珪素、窒化珪素、窒化酸化珪素やそれらの積層膜、それらと有機高分子の積層膜などが用いられている。
【0120】
封止層50は、単一材料からなる薄膜で構成することもできるが、多層構成にして各層に別々の機能を付与することで、封止層50全体の応力緩和、製造工程中の発塵等によるクラック、ピンホールなどの欠陥発生の抑制、材料開発の最適化が容易になることなどの効果が期待できる。例えば、封止層50は、水分子などの劣化因子の浸透を阻止する本来の目的を果たす層の上に、その層で達成することが難しい機能を持たせた「封止補助層」を積層した2層構成を形成することができる。3層以上の構成も可能だが、製造コストを勘案するとなるべく層数は少ない方が好ましい。
【0121】
封止層50の形成方法は、特に制限されず、既に成膜された光電変換層32等の性能、膜質をなるべく劣化させない方法で成膜されることが好ましい。従来、各種真空成膜技術により成膜することが一般的であるが、従来の封止層は、基板表面の構造物、基板表面の微小欠陥、基板表面に付着したパーティクルなどによる段差において、薄膜の成長が困難なので(段差が影になるので)平坦部と比べて膜厚が顕著に薄くなる。このために段差部分が劣化因子の浸透する経路になってしまう。この段差を封止層で完全に被覆するには、平坦部において1μm以上の膜厚になるように成膜して、封止層全体を厚くする必要がある。封止層形成時の真空度は、1×10Pa以下が好ましく、5×10Pa以下がさらに好ましい。
【0122】
しかしながら、画素寸法が2μm未満、特に1μm程度の撮像素子とした場合、封止層50の膜厚が大きいと、カラーフィルタと光電変換層との距離が大きくなり、封止層内で入射光が回折/発散し、混色が発生する恐れがある。従って、画素寸法が1μm程度の撮像素子への適用を考えた場合、封止層50の膜厚を減少させても素子性能が劣化しないような封止層材料/製造方法が必要になる。
【0123】
原子層堆積(ALD)法は、CVD法の一種で、薄膜材料となる有機金属化合物分子、金属ハロゲン化物分子、金属水素化物分子の基板表面への吸着/反応と、それらに含まれる未反応基の分解を、交互に繰返して薄膜を形成する技術である。基板表面へ薄膜材料が到達する際は上記低分子の状態なので、低分子が入り込めるごくわずかな空間さえあれば薄膜が成長可能である。そのために、従来の薄膜形成法では困難であった段差部分を完全に被覆し(段差部分に成長した薄膜の厚さが平坦部分に成長した薄膜の厚さと同じ)、すなわち段差被覆性が非常に優れる。そのため、基板表面の構造物、基板表面の微小欠陥、基板表面に付着したパーティクルなどによる段差を完全に被覆できるので、そのような段差部分が光電変換材料の劣化因子の浸入経路にならない。封止層50の形成を原子層堆積法で行なった場合は従来技術よりも効果的に必要な封止層膜厚を薄くすることが可能になる。
【0124】
原子層堆積法で封止層50を形成する場合は、先述した封止層50に好ましいセラミクスに対応した材料を適宜選択できる。もっとも、本発明の光電変換層は有機光電変換材料を使用するために、有機光電変換材料が劣化しないような、比較的に低温で薄膜成長が可能な材料に制限される。アルキルアルミニウムやハロゲン化アルミニウムを材料とした原子層堆積法によると、有機光電変換材料が劣化しない200℃未満で緻密な酸化アルミニウム薄膜を形成することができる。特にトリメチルアルミニウムを使用した場合は100℃程度でも酸化アルミニウム薄膜を形成でき好ましい。酸化珪素や酸化チタンも材料を適切に選択することで酸化アルミニウムと同様に200℃未満で緻密な薄膜を形成することができ好ましい。
【0125】
なお、原子層堆積法により形成した薄膜は、段差被覆性、緻密性という観点からは比類なく良質な薄膜形成を低温で達成できる。もっとも、薄膜材料の物性が、フォトリソグラフィ工程で使用する薬品で劣化してしまうことがある。例えば、原子層堆積法で成膜した酸化アルミニウム薄膜は非晶質なので、現像液や剥離液のようなアルカリ溶液で表面が侵食されてしまう。
【0126】
また、原子層堆積法のようなCVD法で形成した薄膜は内部応力が非常に大きな引張応力を持つ例が多く、半導体製造工程のように、断続的な加熱、冷却が繰返される工程や、長期間の高温/高湿度雰囲気下での保存/使用により、薄膜自体に亀裂の入る劣化が発生することがある。
【0127】
従って、原子層堆積法により成膜した封止層50を用いる場合は、耐薬品性に優れ、且つ、封止層50の内部応力を相殺可能な封止補助層を形成することが好ましい。
【0128】
かかる補助封止層としては、例えば、スパッタ法などの物理的気相成膜(PVD)法で成膜した耐薬品性に優れる金属酸化物、金属窒化物、金属窒化酸化物などのセラミクスのいずれか1つを含む層が挙げられる。スパッタ法などのPVD法で成膜したセラミクスは大きな圧縮応力を持つことが多く、原子層堆積法で形成した封止層50の引張応力を相殺することができる。
【0129】
原子層堆積法で形成した封止層50としては、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化チタンのいずれかを含むことが好ましく、封止補助層としては、酸化アルミニウム、酸化珪素、窒化珪素、窒化酸化珪素のいずれか1つを含むスパッタ膜が好ましい。この場合、封止層50の膜厚は0.05μm以上、0.5μm以下であることが好ましい。
【0130】
以上のように、光電変換素子1は構成されている。
「撮像素子」
【0131】
次に、光電変換素子1を備えた撮像素子100の構成について、図6を参照して説明する。図6は、本発明の一実施形態を説明するための撮像素子の概略構成を示す断面模式図である。この撮像素子は、デジタルカメラ、デジタルビデオカメラ等の撮像装置、電子内視
鏡、携帯電話機等の撮像モジュール等に搭載して用いられる。
【0132】
撮像素子100は、図1に示したような構成の複数の有機光電変換素子1と、各有機光電変換素子の光電変換層で発生した電荷に応じた信号を読み出す読み出し回路が形成された回路基板とを有し、該回路基板上方の同一面上に、複数の有機光電変換素子が1次元状又は二次元状に配列された構成となっている。
【0133】
撮像素子100は、基板101と、絶縁層102と、接続電極103と、画素電極104と、接続部105と、接続部106と、受光層107と、対向電極108と、緩衝層109と、封止層110と、カラーフィルタ(CF)111と、隔壁112と、遮光層113と、保護層114と、対向電極電圧供給部115と、読出し回路116とを備える。
【0134】
画素電極104は、図1に示した有機光電変換素子1の下部電極20と同じ機能を有する。対向電極108は、図1に示した有機光電変換素子1の上部電極40と同じ機能を有する。受光層107は、図1に示した有機光電変換素子1の下部電極20と上部電極40との間に設けられる受光層30と同じ構成である。封止層110は、図1に示した有機光電変換素子1の封止層50と同じ機能を有する。画素電極104と、これに対向する対向電極108の一部と、これら電極で挟まれる受光層107と、画素電極104に対向する緩衝層109及び封止層110の一部とが、有機光電変換素子を構成している。
【0135】
基板101は、ガラス基板又はSi等の半導体基板である。基板101上には絶縁層102が形成されている。絶縁層102の表面には複数の画素電極104と複数の接続電極103が形成されている。
【0136】
受光層107は、複数の画素電極104の上にこれらを覆って設けられた全ての有機光電変換素子で共通の層である。
【0137】
対向電極108は、受光層107上に設けられた、全ての有機光電変換素子で共通の1つの電極である。対向電極108は、受光層107よりも外側に配置された接続電極103の上にまで形成されており、接続電極103と電気的に接続されている。
【0138】
接続部106は、絶縁層102に埋設されており、接続電極103と対向電極電圧供給部115とを電気的に接続するためのプラグ等である。対向電極電圧供給部115は、基板101に形成され、接続部106及び接続電極103を介して対向電極108に所定の電圧を印加する。対向電極108に印加すべき電圧が撮像素子の電源電圧よりも高い場合は、チャージポンプ等の昇圧回路によって電源電圧を昇圧して上記所定の電圧を供給する。
【0139】
読出し回路116は、複数の画素電極104の各々に対応して基板101に設けられており、対応する画素電極104で捕集された電荷に応じた信号を読出すものである。読出し回路116は、例えばCCD、MOS回路、又はTFT回路等で構成されており、絶縁層102内に配置された図示しない遮光層によって遮光されている。読み出し回路116は、それに対応する画素電極104と接続部105を介して電気的に接続されている。
【0140】
緩衝層109は、対向電極108上に、対向電極108を覆って形成されている。封止層110は、緩衝層109上に、緩衝層109を覆って形成されている。カラーフィルタ111は、封止層110上の各画素電極104と対向する位置に形成されている。隔壁112は、カラーフィルタ111同士の間に設けられており、カラーフィルタ111の光透過効率を向上させるためのものである。
【0141】
遮光層113は、封止層110上のカラーフィルタ111及び隔壁112を設けた領域以外に形成されており、有効画素領域以外に形成された受光層107に光が入射する事を防止する。保護層114は、カラーフィルタ111、隔壁112、及び遮光層113上に形成されており、撮像素子100全体を保護する。
【0142】
このように構成された撮像素子100では、光が入射すると、この光が受光層107に入射し、ここで電荷が発生する。発生した電荷のうちの正孔は、画素電極104で捕集され、その量に応じた電圧信号が読み出し回路116によって撮像素子100外部に出力される。
【0143】
撮像素子100の製造方法は、次の通りである。
【0144】
対向電極電圧供給部115と読み出し回路116が形成された回路基板上に、接続部105,106、複数の接続電極103、複数の画素電極104、及び絶縁層102を形成する。複数の画素電極104は、絶縁層102の表面に例えば正方格子状に配置する。
【0145】
次に、複数の画素電極104上に、受光層107、対向電極108、緩衝層109、封止層110を順次形成する。受光層107、対向電極108、封止層110の形成方法は、上記光電変換素子1の説明において記したとおりである。緩衝層109については、例えば真空抵抗加熱蒸着法によって形成する。次に、カラーフィルタ111、隔壁112、遮光層113を形成後、保護層114を形成して、撮像素子100を完成する。
【実施例】
【0146】
本発明の実施例について説明する。
【0147】
(実施例1〜4,比較例1〜5)
基板として、ガラス基板を用意し、基板上に、アモルファス性ITO下部電極(30nm厚)をスパッタ法により成膜し、次いで、電子ブロッキング層として上記EB−3を真空抵抗加熱蒸着法により成膜した(100nm厚)。
【0148】
表1に示される平均粒径及びHPLC純度を有するフラーレン(C60)粒子(各金属不純物量10ppm未満)の蒸着源と、上記化合物7を蒸着源として用意し、膜厚500nmとなるように光電変換層を共蒸着により形成した(実施例1〜4,比較例1〜5)。共蒸着は真空抵抗加熱蒸着により実施した。電子ブロッキング層及び光電変換層の真空蒸着は全て4×10−4Pa以下の真空度で行った。
【0149】
蒸着の際、水晶振動子を蒸着装置内に設置してフラーレンの蒸着速度のみを測定できるようにした。水晶振動子と蒸着源との距離は、蒸着源と基板との距離とほぼ同じになるようにした。成膜された光電変換層中のフラーレンC60と化合物7との体積比率は3:1であった(膜厚換算)。
【0150】
次に、光電変換層上にアモルファス性ITO上部電極(10nm厚)をスパッタ法により成膜し本発明の光電変換素子を得た。上部電極上には、封止層として加熱蒸着によりSiO膜を形成し、更に、ALCVD法によりAl層を形成した。
【0151】
また、基板として、CMOS回路からなる読み出し回路と、これに接続される接続電極とを形成したCMOS基板を用いた以外は上記と同様にして、各例の撮像素子を作製した。
撮像素子にDC光源から光を照射した状態で外部電界を与えた場合の、DC出力画像、暗時出力画像を取得して、白傷や黒傷の評価を行った。
【0152】
(評価)
実施例1〜4及び比較例1〜5の光電変換素子及び撮像素子について、2×10V/cmの電場を印加した時の応答速度を測定した。ここで応答速度とは、信号強度が0%から99%となるまでの立ち上がり時間とした。実施例1〜4ではいずれも応答速度がほぼ同様であり、良好な応答特性を示したのに対し、比較例1〜5では、その応答速度の低下が確認された。その結果を表1に示す。表1には、フラーレンの平均粒径及び、フラーレンの蒸着速度及びその変動幅、そして、フラーレン粒子(蒸着材料)のHPLC純度も併せて記載した。実施例1〜4の応答速度を100とした場合の相対値で示してある。
【0153】
表1の実施例1〜4、比較例1〜3から、蒸着速度の変動幅が実施例、比較例において大きな差がないことが見てとれ、蒸着速度の安定性においてほぼ同じである。一方、フラーレンの平均粒径が50μm〜300μmである実施例1〜4では応答速度が高速になっている。
【0154】
実施例2、比較例4,5からHPLC純度が99.5%以上であることが応答速度を高速にする重要な要因であることが分かる。表1に示されるように、本発明の有効性が確認された。
【0155】
また、撮像素子については、画質の評価を行った。実施例1〜4及び比較例1〜4についてはいずれも、白傷や黒傷がほとんどなく、撮像素子の実用上問題を生じない良好な画質を確認することができた。
【表1】

【0156】
(実施例5〜7,比較例6〜7)
化合物7の代わりに化合物10とし、表2に記載のフラーレン粒子を用いた以外は実施例1と同様にして、実施例5〜7及び比較例6〜7の封止層つき光電変換素子及び撮像素子を作製した。評価についても実施例1と同様とした。表2において、応答速度は、実施例5〜7の応答速度を100とした場合の相対値で示してある。表2に示されるように、化合物10の場合においても本発明の有効性が確認された。
【0157】
また、撮像素子についての画質評価も実施した。その結果、実施例5〜7及び比較例6〜7についてはいずれも、白傷や黒傷がほとんどなく、撮像素子の実用上問題を生じない良好な画質を確認することができた。
【表2】

【0158】
(実施例8)
実施例1のフラーレン蒸着材料に金属不純物を100ppm以上添加したもの(Fe:250ppm、Ni,Cr:各100ppm)を蒸着源とした以外は、実施例1と同様にして封止層付き光電変換素子を作製した。その結果、光電変換素子及び撮像素子の応答速度は実施例1とほぼ同様の応答速度が得られた。一方、撮像素子の画質評価については、得られた画像には、白傷、黒傷等の欠陥が複数確認された。
【符号の説明】
【0159】
1 有機光電変換素子(光電変換素子)
10,101 基板
20 下部電極
30 受光層
31 電子ブロッキング層
32 光電変換層
40 上部電極
50 封止層
60 蒸着原料
71 蒸着セル
100 撮像素子
106 信号読み出し回路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
有機光電変換素子の受光層の蒸着に用いられる蒸着材料であって、
フラーレン又はフラーレン誘導体を主成分とする複数の粒子又は該複数の粒子が成形されてなる成形体であり、
前記複数の粒子のD50%で表される平均粒径が50μm〜300μmであり、且つ、該複数の粒子の主成分のHPLC純度が99.5%以上であることを特徴とする光電変換素子用蒸着材料。
【請求項2】
前記粒子の各金属元素の含有量がそれぞれ100ppm未満であることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子用蒸着材料。
【請求項3】
前記粒子の主成分がフラーレンであることを特徴とする請求項1又は2に記載の光電変換素子用蒸着材料。
【請求項4】
前記粒子の主成分がフラーレンC60であることを特徴とする請求項3に記載の光電変換素子用蒸着材料。
【請求項5】
一対の電極と、前記一対の電極に挟持された少なくとも光電変換層を含む受光層を有する有機光電変換素子であって、
前記受光層の少なくとも一部の層が、請求項1〜4のいずれかに記載の光電変換素子用蒸着材料を用いて蒸着されたフラーレン又はフラーレン誘導体を含むものであることを特徴とする光電変換素子。
【請求項6】
前記フラーレン又はフラーレン誘導体を含む層が、真空抵抗加熱蒸着法により蒸着されたものであることを特徴とする請求項5に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記フラーレン又はフラーレン誘導体を含む層が、共蒸着により蒸着されたものであることを特徴とする請求項5又は6に記載の光電変換素子。
【請求項8】
複数の、請求項5〜7のいずれかに記載の光電変換素子と、
前記光電変換素子の前記光電変換層で発生した電荷に応じた信号を読み出す信号読出し回路が形成された回路基板とを備えることを特徴とする撮像素子。
【請求項9】
請求項5〜7のいずれかに記載の光電変換素子を備えたことを特徴とするセンサ。
【請求項10】
一対の電極と、前記一対の電極に挟持された少なくとも光電変換層を含む受光層を有する有機光電変換素子の製造方法であって、
前記受光層の少なくとも一部を請求項1〜4のいずれかに記載の光電変換素子用蒸着材料を用いて蒸着法により成膜することを特徴とする光電変換素子の製造方法。
【請求項11】
前記蒸着法が真空抵抗加熱蒸着法であることを特徴とする請求項10に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項12】
前記蒸着法が共蒸着法であることを特徴とする請求項10又は11に記載の光電変換素子の製造方法。
【請求項13】
前記蒸着法による成膜速度が0.2〜12Å/sであることを特徴とする請求項11〜12のいずれかに記載の光電変換素子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2013−23752(P2013−23752A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162003(P2011−162003)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】