説明

光電変換素子

【課題】変換効率が高く、熱安定性に優れる光電変換素子を提供する。
【解決手段】基板T上に形成された2つの電極Y間に、導電性高分子化合物(A)と電子受容性化合物(B)を含有する光電変換層Eを有する光電変換素子であって、前記導電性高分子化合物(A)が、一般式(1)で示される構造単位(a)を分子内に有することを特徴とする光電変換素子。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換素子に関する。詳しくは、例えば太陽電池素子や光センサー素子に使用される光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
光電変換素子を利用したデバイスの代表例として太陽電池素子が挙げられる。太陽電池素子において光電変換素子は光電変換層と呼ばれ、光電変換層の種類により、太陽電池素子は、Si、GaAs等の無機物を用いた無機太陽電池素子と、導電性高分子化合物等の有機物を用いた有機太陽電池素子に大別される。
【0003】
無機太陽電池素子としては、シリコン太陽電池素子等が挙げられるが、その製造過程における環境負荷が大きく、無機であるがために、多様性に欠けること、高コスト等、多数の問題点を抱えている。それと比較して、有機太陽電池素子は低環境負荷、多様性、低コスト等、無機太陽電池素子の問題点を解決出来得ることから、注目を浴びている。
【0004】
有機太陽電池素子としては、有機半導体と金属薄膜間で生じるショットキー障壁を利用したショットキー障壁型太陽電池素子や、TiO2上にRu等を含む色素を担持させてこれに電解質を満たした色素増感太陽電池素子、光電変換層として電子受容性化合物と電子供与性化合物を使用した有機薄膜太陽電池素子等が挙げられる。
【0005】
ショットキー障壁型太陽電池素子とは、有機半導体と金属薄膜を接合させることで、半導体部分に、金属の仕事関数と半導体の持つ電子親和力の差が、障壁(ショットキー障壁)として現れ、これに光照射することで、電荷分離が発生する素子のことである。しかし、ショットキー障壁型太陽電池素子は光電変換効率が0.1%以下と非常に低く、実用的ではない。
【0006】
また、色素増感太陽電池素子とは、光照射により色素が励起状態となり、電子を放出することで電化分離が発生する素子のことである。色素増感太陽電池素子は10%という高い光電変換効率を達成しているが、高効率を得るためにはRu色素やPt電極等の高価な材料が必要であり、また、液体電解質を用いているためにその長期安定性も優れているとは言えない。
【0007】
一方、有機薄膜太陽電池素子は、他の太陽電池素子に比べて、特に製造が容易、かつ低コストであることから注目されている。例えば、電子受容性化合物と電子供与性化合物を積層したバイレイヤー型有機薄膜太陽電池素子及び電子受容性化合物と電子供与性化合物の混合物からなるバルクへテロ接合型有機薄膜太陽電池素子等が挙げられる。
【0008】
バイレイヤー型有機薄膜太陽電池素子は、電子受容性化合物からなる層と電子供与性化合物からなる層を接合させることにより、2層の界面でpn接合を形成させ、光電変換を起こすものである。例えば、電子受容性化合物としてペリレン誘導体を用い、電子供与性化合物として銅フタロシアニンを用いたものが開示されている(例えば、特許文献1参照)。しかし、特許文献1に記載の太陽電池素子では、キャリアの再結合を防ぎ、電流を観測するためには電子受容性化合物、電子供与性化合物各層の膜厚を約20nm 程度とする必要があり、この膜厚では光吸収が不充分で、光電変換効率は1%以下となるという問題がある。
【0009】
一方、バルクへテロ接合型有機薄膜太陽電池素子では、電子受容性化合物と電子供与性化合物が混在した単一層構造となっており、光電変換層中に於いて、分子レベルでのpn接合となることで、光電変換に関与する体積を増加させることが可能となる。例えば、電子供与性化合物としてポリチオフェン系の共役高分子を用い、電子受容性化合物としてフラーレン誘導体である[6,6]−フェニル−C61ブチリックアシッドメチルエステル(PCBM)を用いたものが開示されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、特許文献2に記載の太陽電池セルでは光電変換効率は改善されるが、より光吸収量を高めるために更に膜厚を厚くすると、キャリアの再結合等により電荷が消滅する確率が高くなり未だその変換効率は不充分である。また、熱安定性が悪いため、太陽電池作製後、長時間使用すると変換効率が減少するということが知られており、大きな問題点となっている(例えば、非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2006−302925号公報
【特許文献2】特開2006−245073号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Solar Energy Materials and Solar Cells 2008年 92巻 686頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は変換効率が高く、熱安定性に優れる光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。
即ち、本発明は、基板上に形成された2つの電極間に、導電性高分子化合物(A)と電子受容性化合物(B)を含有する光電変換層を有する光電変換素子であって、前記導電性高分子化合物(A)が、一般式(1)で示される構造単位(a)を分子内に有することを特徴とする光電変換素子及び該光電変換素子からなる太陽電池素子、タンデム型太陽電池素子及び光センサー素子である。
【0014】
【化1】

【0015】
[R1は原子を介しない単結合又は炭素数1〜16の2価の炭化水素基、R2は水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ホスホノ基、スルホ基又はハロゲン原子、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、イミノ基又はシランジイル基、Fuはフラーレン類、*はそれが付された2個の結合が前記(A)を構成する他の構造単位と結合していることを表し、1分子中に複数のR1、R2、Fu又はXがある場合、それぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【発明の効果】
【0016】
本発明は、一般式(1)で示される構造単位(a)を有する導電性高分子化合物(A)を電子供与性化合物として用いることで、高い熱安定性と高い光電変換効率を達成することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の光電変換素子は、基板上に形成された2つの電極間に、一般式(1)で示される構造単位(a)を有する導電性高分子化合物(A)と電子受容性化合物(B)を含有する光電変換層を設けた光電変換素子である。1例として図1にその代表的な構造の概略断面図を示す。以下に各構成部位についてその詳細を説明する。
【0018】
本発明における基板について説明する。基板は透明、不透明いずれでも良いが、基板面が受光体となる場合には透明基板が望ましい。この透明基板としては、光電変換素子外部から侵入する水分やガスの遮断性、耐溶剤性及び耐候性等に優れているものが望ましく、例えば、石英ガラス等の剛直板及び透明樹脂フィルム等のフレキシブル基板が挙げられる。更に、優れた加工性、低コスト及び軽量化といった観点から、本発明においては、フレキシブル基板であることが望ましい。透明樹脂フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリイミド及びポリメチルメタクリレート等からなるフィルムが挙げられる。
【0019】
続いて、本発明における電極について説明する。基板上に設置される2つの電極は層状をなしていても、層状をなしていなくてもよいが、電荷輸送能の観点から層状であることが好ましい。電極は必ずしも透明性を有する必要はないが、基板上に層状をなしている場合は、少なくとも一方が透明性を有することが好ましい。電極は導電性を有するものであれば特に制限はなく、スパッタリング法又はイオンプレーティング法等により形成される。透明電極としては、インジウム−スズ複合酸化物(ITO)、フッ素ドープSnO2(FTO)及びSnO2等の導電性透明材料からなる金属薄膜が好ましく、光遮光性電極としては、アルカリ金属及びアルカリ土類金属等の金属薄膜が好ましい。電極の厚さは、特に限定されないが、光透過性の観点からは80〜100nmであることが好ましい。
【0020】
続いて、本発明に用いられる光電変換層について説明する。本発明における光電変換層は、一般式(1)で示される構造単位(a)を有する導電性高分子化合物(A)及び電子受容性化合物(B)を含有している。
導電性高分子化合物(A)と電子受容性化合物(B)の接合形態は特に限定されるものではなく、バイレイヤー型として界面でpn接合を形成させてもよいが、両者が混在した単一層構造、即ち、バルクへテロ接合であることが好ましい。この構造をとることにより分子レベルでのpn接合が可能となり、このため光電変換に関与する体積の増加が可能となるという効果が得られる。
バルクへテロ接合は、導電性高分子化合物(A)、電子受容性化合物(B)及び有機溶媒からなる溶液から有機溶媒を除去することで得ることができる。以下、光電変換層について更に詳細に説明する。
【0021】
構造単位(a)を示す一般式(1)におけるR1は原子を介しない単結合又は炭素数1〜16の2価の炭化水素基であり、1分子中に複数のR1がある場合、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
炭素数1〜16の2価の炭化水素基としては、炭素数1〜16の2価の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜16の2価の芳香族炭化水素基及び炭素数7〜16の2価の芳香脂肪族炭化水素基等が挙げられる。
【0022】
炭素数1〜16の2価の脂肪族炭化水素基としては、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ペンチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基、デシレン基、ヘキサデシレン基、メチルブチレン基、エチルブチレン基、ヘキシルブチレン基、ドデシルブチレン基、ジメチルブチレン基、ジエチルブチレン基、ジヘキシルブチレン基、シクロへキシレン基、シクロヘキシレンメチレン基、シクロヘキシレンブチレン基及びシクロヘキシレンデシレン基等が挙げられる。
【0023】
炭素数6〜16の2価の芳香族炭化水素基としては、フェニレン基、ジフェニレン基、ナフチレン基、アントリレン基、ピレニレン基及びフェニレンナフチレン基等が挙げられる。
炭素数7〜16の2価の芳香脂肪族炭化水素基としては、フェニレンメチレン基、フェニレンエチレン基、フェニレンプロピレン基、フェニレンブチレン基、フェニレンへキシレン基、フェニレンデシレン基、フェニレンジエチレン基、フェニレンジプロピレン基、フェニレンジブチレン基、ナフチレンメチレン基、ナフチレンエチレン基、ナフチレンブチレン基、ナフチレンへキシレン基及びアントリレンエチレン基等が挙げられる。
【0024】
これらの内、後述の有機溶媒への溶解性の観点から、炭素数1〜10の2価の炭化水素基が好ましく、更に好ましいのは炭素数4〜8の2価の脂肪族炭化水素基である。
【0025】
2は水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ホスホノ基、スルホ基又はハロゲン原子であり、1分子中に複数のR2がある場合、同一でも異なっていてもよい。これらの内、導電性高分子化合物(A)の電荷輸送能の観点から、水素原子及びハロゲン原子が好ましい。
【0026】
Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、イミノ基(−NH−)又はシランジイル基(−SiH2−)であり、1分子中に複数個のXがある場合、同一であっても異なっていてもよい。これらの内、導電性高分子化合物の導電性の観点から、硫黄原子及びセレン原子が好ましい。
【0027】
Fuはフラーレン類を表し、フラーレン類としては、C60、C70、C76、C84及びこれらの誘導体が挙げられる。これらの内、後述の有機溶媒への溶解性及びコストの観点からC60、一般式(2)で示される(ヘテロ)アリールC61酪酸エステル及び一般式(3)で示されるフラーロピロリジン誘導体が好ましい。
【0028】
【化2】

【0029】
一般式(2)におけるArは炭素数4〜16の芳香環を含む有機基である。Arの具体例としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ターフェニル基、及びピレニル基等のアリール基並びにフリル基、チエニル基、ベンゾフリル基、ジベンゾフリル基、ピリジル基及びキノリニル基等のヘテロアリール基が挙げられる。これらの内、電子受容性化合物(B)との相溶性の観点から、アリール基が好ましく、更に好ましいのはフェニル基である。
【0030】
一般式(2)及び(3)中のR3〜R5はそれぞれ独立に炭素数1〜24の有機基である。炭素数1〜24の有機基としては、フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基、フッ素原子で置換されていてもよいシクロアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基、置換基を有していてもよいヘテロアリール基及びアルキロキシカルボニルアルキル基等が挙げられる。
【0031】
フッ素原子で置換されていてもよいアルキル基は直鎖状であっても分岐状であってもよい。アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−又はiso−プロピル基、n−、sec−、iso−又はtert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基及びn−ヘキサデシル基等が挙げられる。また、フッ素原子で置換されたアルキル基としては、前記アルキル基中の水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたものが挙げられ、具体的には、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロオクチル基及び2,2,3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,9,9,9−ヘプタデカフルオロノニル基等が挙げられる。
【0032】
フッ素原子で置換されていてもよいシクロアルキル基としては、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基及びアダマンチル基等のシクロアルキル基、並びに前記シクロアルキル基中の水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換されたシクロアルキル基(パーフルオロシクロプロピル基、パーフルオロシクロペンチル基、パーフルオロシクロヘキシル基、パーフルオロノルボルニル基及びパーフルオロアダマンチル基等)が挙げられる。
【0033】
置換基を有していてもよいアリール基としては、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基、フェナントリル基、ターフェニル基及びピレニル基等のアリール基、並びにこれらのアリール基が炭素数1〜8のアルキル基(メチル基、エチル基、n−又はiso−プロピル基、n−、sec−、iso−又はtert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基及びn−オクチル基等)、炭素数1〜8のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−又はiso−プロポキシ基、n−、sec−、iso−又はtert−ブトキシ基、n−ペントキシ基、n−ヘキシロキシ基及びオクチロキシ基等)及び/又は炭素数1〜8のアルキルアミノ基(メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、n−又はiso−プロピルアミノ基、n−、sec−、iso−又はtert−ブチルアミノ基、n−ヘキシルアミノ基及びn−オクチロキシアミノ基等)等で置換されたアリール基等が挙げられる。
【0034】
置換基を有していてもよいヘテロアリール基としてはフリル基、チエニル基、セレニル基、ピリジル基、ピリル基、ベンゾチエニル基、チエノチエニル基及びビチエニル基等のヘテロアリール基並びにこれらのヘテロアリール基が炭素数1〜8のアルキル基(メチル基、エチル基、n−又はiso−プロピル基、n−、sec−、iso−又はtert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基及びn−オクチル基等)、炭素数1〜8のアルコキシ基(メトキシ基、エトキシ基、n−又はiso−プロポキシ基、n−、sec−、iso−又はtert−ブトキシ基、n−ペントキシ基、n−ヘキシロキシ基及びオクチロキシ基等)及び/又は炭素数1〜8のアルキルアミノ基(メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、エチルアミノ基、ジエチルアミノ基、n−又はiso−プロピルアミノ基、n−、sec−、iso−又はtert−ブチルアミノ基、n−ヘキシルアミノ基及びn−オクチロキシアミノ基等)等で置換されたヘテロアリール基等が挙げられる。
【0035】
アルキロキシカルボニルアルキル基としては、メチロキシカルボニルメチル基、エチロキシカルボニルメチル基、、n−又はiso−プロピロキシカルボニルメチル基、n−、sec−、iso−又はtert−ブチロキシカルボニルメチル基、オクチロキシカルボニルメチル基、ブチロキシカルボニルエチル基及びブチロキシカルボニルブチル基等が挙げられる。
【0036】
一般式(2)におけるR3として、電子受容性化合物(B)との相溶性の観点から好ましいのはアルキル基であり、更に好ましいのはメチル基である。
【0037】
一般式(3)におけるR4として電子受容性化合物(B)との相溶性の観点から好ましいのはアルキロキシカルボニルアルキル基であり、更に好ましいのはn−ブチロキシカルボニルメチル基である。一般式(3)におけるR5として後述の有機溶媒への溶解性の観点から好ましいのはアリール基であり、更に好ましいのはフェニル基である。
【0038】
構造単位(a)において、Fuで示されるフラーレン類は、通常一般式(4)で示される様式で結合している。一般式(4)で示される結合形式は、例えば構造単位(a)の前駆体として末端に二重結合を有する一般式(5)で示される構造単位(a1)を使用して、フラーレン類と混合後加熱又は光照射を行うことで容易に得ることができる。構造単位(a1)は一般式(6)で示される構造単位(a2)を強塩基で処理することにより得ることができる。
【0039】
【化3】

【0040】
一般式(4)〜(6)におけるR1及びR2は、一般式(1)におけるR1及びR2と同じであり、一般式(6)におけるQはハロゲン原子(塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子)を表し、反応性の観点からヨウ素原子が好ましい。
【0041】
前記結合は、フラーレン骨格の任意の二重結合に付加していればよく、位置異性体の混合物であってもよい。また、導電性高分子化合物(A)が1分子中に複数個のフラーレン類(Fu)を有する場合は、それぞれ同一でも、異なっていてもよい。
【0042】
本発明における導電性高分子化合物(A)は少なくとも一般式(1)で示される構造単位(a)を有するものであり、構造単位(a)のみからなっていても、構造単位(a)とそれ以外の構造単位とからなっていてもよい。構造単位(a)以外の構造単位としては、下記構造単位(7)〜(12)等が挙げられる。
【0043】
【化4】

【0044】
一般式(7)におけるR6及びR7、一般式(8)におけるR8及びR9、一般式(9)におけるR10及びR11、一般式(10)におけるR12及びR13並びに一般式(11)におけるR14及びR15はそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜16のアルキル基、ヒドロキシル基、シアノ基、ホスホノ基、スルホ基又はハロゲン原子であり、一般式(8)、(9)及び(10)におけるXは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、イミノ基又はシランジイル基であり、一般式(7)〜(12)における*はそれを付した2個の結合が他の構造単位と結合していることを表す。尚、1分子中に複数のR6〜R15又はXがある場合、それぞれ同一でも異なっていてもよい。
構造単位(7)〜(12)の内、電荷輸送能の観点から構造単位(9)が好ましい。
【0045】
導電性高分子化合物(A)における構造単位(a)の含有率は、熱安定性及び光電変換効率の観点から、(A)の重量に基づいて1〜100重量%が好ましく、更に好ましくは10〜80重量%、特に好ましくは20〜70重量%である。
【0046】
本発明の光電変換素子で使用する導電性高分子化合物として、一般式(1)で示される構造単位(a)を分子内に有する導電性高分子化合物(A)を単独で用いてもよいが、本発明の効果を損なわない範囲で、構造単位(a)を有しない導電性高分子化合物を併用することもできる。構造単位(a)を有しない導電性高分子化合物としては、前記一般式(6)〜(11)で示される構造単位を有する(共)重合体等が挙げられる。
【0047】
構造単位(a)を有する導電性高分子化合物(A)を製造する方法としては、構造単位(a)を有するモノマーと任意成分としての一般式(6)〜(11)の構造を有するモノマーを(共)重合させる方法、及び構造単位(a1)の前駆体である構造単位(a2)を有するモノマーと任意成分としての一般式(6)〜(11)の構造を有するモノマーを(共)重合させ、これを強塩基で処理することで構造単位(a2)を構造単位(a1)に変換し、その後フラーレン類と反応させることで構造単位(a1)を構造単位(a)に変換することで製造する方法があり、どちらを用いてもよいが、合成の容易性から後者が好ましく用いられる。
【0048】
具体的な重合方法としては、Grignardメタセシス反応による重合が挙げられるが、この方法に限定されるものではない。Grignardメタセシス反応を行う場合、構造単位(a)、構造単位(a1)、構造単位(a2)又は一般式(7)〜(12)で示される構造を有するモノマーとして、それぞれの一般式における*が付された結合に臭素原子が結合したモノマーを使用することができる。例えば、構造単位(a)を有するモノマーは一般式(13)で示される。
【0049】
【化5】

【0050】
前記モノマー1当量に対し、グリニヤール試薬を1〜1.5当量及びニッケル触媒[例えばNi(dppp)Cl2]を0.001〜0.1当量をテトラヒドロフラン等の溶媒に加え、50〜150℃で1〜20時間反応させることで導電性高分子化合物(A)を得ることができる。尚、構造単位(a)の前駆体である構造単位(a2)を有するモノマーを使用する場合は、前記操作に引き続き、強塩基で処理して構造単位(a2)を構造単位(a1)に変換し、使用溶媒を留去後、o−ジクロロベンゼン等の溶媒に溶解させ、所望のフラーレン類を加えて120〜200℃で3〜30時間反応させることにより、構造単位(a)を有する導電性高分子化合物(A)を得ることができる。
【0051】
導電性高分子化合物(A)の製造時における一般式(1)で示される構造単位(a)又はその前駆体である一般式(5)で示される構造単位(a1)を有するモノマーの仕込量を調整することにより、
導電性高分子化合物(A)における構造単位(a)の量を調整することができる。
尚、構造単位(a)を有しない導電性高分子化合物も、上記と同様の方法で製造することができる。
【0052】
本発明における電子受容性化合物(B)としては、例えば、オキサジアゾール誘導体、アントラキノジメタン及びその誘導体、ベンゾキノン及びその誘導体、アントラキノン及びその誘導体、フルオレノン誘導体、C60等のフラーレン類及びその誘導体が挙げられ、これらの内の1種又は2種以上の混合物から構成される。これらの内、フラーレン類及びその誘導体から選ばれる1種又は2種以上の混合物が好ましい。
【0053】
電子受容性化合物(B)として用いられるフラーレン類としては、C60、C70、C76、C84及びこれらの誘導体が挙げられる。誘導体としては、具体的には上記一般式(2)で示される(ヘテロ)アリールC61酪酸エステル誘導体及び上記一般式(3)で示されるフェニルフラーロピロリジン誘導体が挙げられる。
【0054】
本発明において、導電性高分子化合物(A)と電子受容性化合物(B)の重量比率は、良好な電子輸送能を有する層を形成すれば特に限定されるものではないが、成膜性の観点からは(A)/(B)=1/10〜1/1が好ましく、成膜条件により、最適な混合比に適宜調整することが好ましい。
【0055】
本発明において、光電変換層の膜厚は特に限定されるものではなく、一般的な光電変換素子で用いられている膜厚に設定することができるが、短絡することなく且つ膜抵抗を抑えるという観点から、20〜800nmであることが好ましい。
【0056】
光電変換層は、バイレイヤー型接合の場合は導電性高分子化合物(A)と電子受容性化合物(B)を別々に有機溶媒に溶解して、バルクへテロ接合の場合は(A)と(B)を有機溶媒に溶解して、後述の方法で基板に塗工後、有機溶媒を乾燥・除去して形成される。
【0057】
有機溶媒としては、成膜時の表面平滑性及び粘度特性等の観点から、芳香族炭化水素系溶媒、脂肪族炭化水素系溶媒、エステル系溶媒、ケトン系溶媒及びハロゲン系溶媒が好ましく、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、トリエチルベンゼン、アミルベンゼン、ジアミルベンゼン、アミルトルエンクロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、アニソール、エトキシベンゼン、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル及びプロピオン酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン、塩化メチレン、クロロホルム及び四塩化炭素が更に好ましく、ベンゼン、トルエン、クロロベンゼン及びクロロホルムが特に好ましい。有機溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0058】
(A)及び/又は(B)の有機溶媒溶液の塗工方法としては、スピンコート法及びダイコート法等が挙げられるが、所定の膜厚に均一に形成することが出来る方法であれば特に限定されるものではない。
【0059】
本発明において、光電変換層の数は、一層でも複数層でも良く、特に限定されるものではないが、光透過性の観点からは1〜5層が好ましい。
【0060】
本発明の光電変換素子の内部に、電荷の移動を促進する目的で、電荷取出し層を形成しても良い。構成する化合物、層数は特に限定されるものではないが、例えば、正孔取り出し層としては、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホネート)からなる層等が挙げられる。
【0061】
本発明の光電変換素子は、太陽電池素子、タンデム型太陽電池素子及び光センサー素子として使用することができる。特に太陽電池素子がタンデム型太陽電池素子である場合、その積層数は特に限定されるものではなく、例えば、1〜5層程度であり、各々の太陽電池素子の接続様態は並列、直列いずれでも良いが、取り出す電流を大きくしたい場合には並列が好ましく、取り出す電圧を大きくしたい場合には直列が好ましい。
【実施例】
【0062】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
以下、特に記載のない限り、%は重量%を意味する。
【0063】
[製造例1]
導電性高分子化合物として、下記一般式(14)で示される3−ヘキシルチオフェンとフラーレン−チオフェン誘導体からなる共重合体(D−1)を以下の操作により合成した。
【0064】
【化6】

【0065】
2,5−ジブロモ−3−(6−ブロモヘキシル)チオフェン2.0g、2,5−ジブロモ−3−ヘキシルチオフェン4.8g及び乾燥テトラヒドロフラン180mlを反応容器に仕込み、容器内をアルゴンガスで置換した。t−ブチルマグネシウムブロマイド(2.0 M ジエチルエーテル溶液)9.9mlを30分かけて滴下し、室温で30分間攪拌した。次に、還流条件下、2hr加熱攪拌し、その後室温に戻した。Ni(dppp)Cl2 59mgをテトラヒドロフラン50mlに懸濁させたものを5分かけて滴下し、室温で1.5hr攪拌した。濃度3Mの塩酸20mlとメタノール247mlの混合溶液を加え、析出物を濾取後、ソックスレー抽出器を用いて、ヘキサン、メタノールの順に洗浄し、クロロホルムで抽出した。メタノールを加え、析出物を濾取し、3−(6−ブロモヘキシル)チオフェンと3−ヘキシルチオフェンの共重合体(以下、3HT−3BHTと略記)2.2gを得た。この合成法はChemistry of Materials,2005年,17号,3317−3319頁、及びJournal of American chemical Society,1995年,117号,233−244頁、及びAdvanced Materials,1999年,11号,250−253頁及びMacromolecules,2001年,34号,4324−4333頁記載の方法に準拠した。
【0066】
3HT−3BHT 200mg、臭化テトラ−n−ブチルアンモニウム200mg、トルエン60ml及びヨウ化カリウム水溶液(濃度1M)30mlを反応容器に加え、2日間還流条件下で加熱した。反応溶液をトルエンで抽出し、得られた有機層を減圧下、溶媒を留去することで濃縮した。次にメタノール300ml中に加え、得られた沈殿物をろ過することで3−(6−ヨードヘキシル)チオフェンと3−ヘキシルチオフェンの共重合体(以下、3HT−3IHTと略記)157mgを得た。
【0067】
3HT−3IHT 100mg及び乾燥テトラヒドロフラン20mlを反応容器に加え、加熱することで3HT−3IHTを完全に溶解させた。室温に戻したのち、t−ブトキシカリウム(1.0Mテトラヒドロフラン溶液)3mlを加え、15時間攪拌した。メタノールを50ml加え、得られた沈殿物をろ過により回収した。更にこの沈殿物をクロロホルムに溶解させ、水で洗浄し、溶媒を留去することで濃縮した。この溶液をメタノールに再沈殿し、得られた沈殿物をろ過により回収し、減圧乾燥することで3−(5−ヘキセニル)チオフェンと3−ヘキシルチオフェンの共重合体(以下、3HT−3HNTと略記)47mgを得た。
【0068】
3HT−3HNT 30mg、C60 300mg及びo−ジクロロベンゼン20mlを反応容器に加え、還流条件下、24時間攪拌した。溶媒を減圧条件下、留去し、クロロホルムを40ml加え、ろ過を行った。得られた溶液を、減圧条件下で溶媒を留去することで濃縮した。この溶液をメタノールに再沈殿し、得られた沈殿物をろ過により回収し、減圧乾燥することで一般式(14)で示される導電性高分子化合物(D−1)28mgを得た。
【0069】
[製造例2]
60の代わりに一般式(15)で示されるフェニルC61酪酸メチルエステル(以下、PCBMと略記)を用いたこと以外は製造例1と同様に行い、導電性高分子化合物(D−2)を得た。
【0070】
【化7】

【0071】
[製造例3]
60の代わりに下記一般式(7)で示されるフェニルフラーロピロリジンブチルエステルを用いたこと以外は製造例1と同様に行い、導電性高分子化合物(D−3)を得た。
【0072】
[実施例1]
<透明電極の作製>
透明基板及び透明導電膜として、大きさが25mm角でシート抵抗が10Ω/cm2のITO膜付きポリエチレンテレフタレート(以下、PETと略記)フィルムを用いた。そして、そのITO膜上に所定形状のマスクを形成した後、これを1N塩酸に1時間浸漬することでITO膜のパターニングを行い、透明電極を形成した。
【0073】
<正孔取出し層の作製>
上記の様にしてITO膜からなる透明電極が形成されたPETフィルム上に、ポリ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)−ポリ(スチレンスルホネート)(以下、PEDOT/PSSと略記)の
1.3%水分散体(バイエル社製「Baytron P」)をスピンコートし、120℃で30分間乾燥することで厚さが約100nmのPEDOT/PSS膜を形成し、これを透明導電膜とした。
【0074】
<光電変換層の作製>
更に、ポリ−3−ヘキシルチオフェン−2,5−ジイル15mg、製造例1で得た導電性高分子化合物(D−1)15mg及びPCBM60mgを5.0mLのクロロベンゼンに溶解させた溶液を前記透明導電膜上にスピンコートし、窒素気流下で1時間25℃で乾燥後、25℃で3時間減圧乾燥を行い、光電変換層を形成した。
【0075】
<対抗電極の作製>
最後に、対抗電極として、厚さ125nmのAl膜を前記光電変換層上に真空蒸着により形成した。以上の様にして光電変換素子(P−1)を製造した。
【0076】
[実施例2]
導電性高分子化合物(D−1)を製造例2で得た導電性高分子化合物(D−2)に代える以外は実施例1と同様にして光電変換素子(P−2)を得た。
【0077】
[実施例3]
導電性高分子化合物(D−1)を製造例3で得た導電性高分子化合物(D−2)に代える以外は実施例1と同様にして光電変換素子(P−3)を得た。
【0078】
[比較例1]
導電性高分子化合物(D−1)を使用しない以外は実施例1と同様にして光電変換素子(P’−1)を得た。
【0079】
実施例1〜3及び比較例1の光電変換素子について、以下の方法で光電変換効率及び耐熱性を測定又は評価した結果を表1に示す。
【0080】
<光電変換効率の測定方法>
ソーラーシミュレーター[関西科学機械(株)製:XES−502S]の擬似光(空気通過量AM1.5G、入射エネルギー100mW/cm2)を光電変換素子に25℃の温度条件下で照射し、KEITHLEY MODEL2400ソースメーターを使用して、I(電流)−V(電圧)曲線を測定し、ISC(短絡電流)、VOC(開放電圧)、IMAX(最大出力点における電流)、VMAX(最大出力点における電圧)を測定して次式から光電変換効率を算出した。
光電変換効率η=JSC(短絡電流密度)×VOC(開放電圧)×ff(形状因子)/入射エネルギー
ここで、JSC(短絡電流密度)及びff(形状因子)は次式で求めた。
形状因子ff=(IMAX×VMAX)/(ISC×VOC
短絡電流密度JSC=ISC/S(有効受光面積)
但し、S=2.5cm×2.5cm=6.25cm2
【0081】
<耐熱安定性>
作製した光電変換素子を、100℃、窒素雰囲気下で12時間静置した後、前記と同様の方法で加熱後の変換効率(ηa)を測定し、加熱による変換効率の減少率(Δη)を次式から求めた。
変換効率の減少率(Δη)=(η − ηa)/η × 100
【0082】
【表1】

【0083】
表1に記載の結果から、本発明の光電変換素子は、光電変換効率及び耐熱性に優れていることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本発明の光電変換素子は、太陽電池やカラーセンサー等としての利用に限らず、光電変換素子を備える電子機器や電子部品に広く適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0085】
【図1】本発明の光電変換素子の一例を示す概略断面図である。
【符号の説明】
【0086】
(T) 基板
(Y) 電極
(i) 正孔取出し層
(E) 光電変換層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に形成された2つの電極間に、導電性高分子化合物(A)と電子受容性化合物(B)を含有する光電変換層を有する光電変換素子であって、前記導電性高分子化合物(A)が、一般式(1)で示される構造単位(a)を分子内に有することを特徴とする光電変換素子。
【化1】

[R1は原子を介しない単結合又は炭素数1〜16の2価の炭化水素基、R2は水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、ホスホノ基、スルホ基又はハロゲン原子、Xは酸素原子、硫黄原子、セレン原子、イミノ基又はシランジイル基、Fuはフラーレン類、*はそれが付された2個の結合が前記(A)を構成する他の構造単位と結合していることを表し、1分子中に複数のR1、R2、Fu又はXがある場合、それぞれ同一でも異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記フラーレン類(Fu)が、C60、一般式(2)で示される(ヘテロ)アリールC61酪酸エステル又は一般式(3)で示されるフラーロピロリジン誘導体である請求項1記載の光電変換素子。
【化2】

[一般式(2)におけるArは炭素数4〜16の芳香環を含む有機基、一般式(2)におけるR3、一般式(3)におけるR4及びR5はそれぞれ独立に炭素数1〜24の有機基である。]
【請求項3】
前記光電変換層が、導電性高分子化合物(A)、電子受容性化合物(B)及び有機溶媒からなる溶液から有機溶媒を除去することでバルクへテロ接合を形成してなる請求項1又は2記載の光電変換素子。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載の光電変換素子からなる太陽電池素子。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか記載の光電変換素子からなるタンデム型太陽電池素子。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか記載の光電変換素子からなる光センサー素子。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−171380(P2011−171380A)
【公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−31623(P2010−31623)
【出願日】平成22年2月16日(2010.2.16)
【出願人】(504132272)国立大学法人京都大学 (1,269)
【出願人】(000002288)三洋化成工業株式会社 (1,719)
【Fターム(参考)】