説明

光電変換素子

【課題】光電変換層の少なくとも一方の面に光散乱層を設けた光電変換素子において、太陽電池の性能低下を抑制しつつ、電流増加効果を得る。
【解決手段】光電変換素子10は、光電変換層20と、反射防止膜32、光散乱層36、および透明薄膜層50を含む。反射防止膜32は、光電変換層20の受光面側に設けられている。光散乱層36は光電変換層20の受光面とは反対側に2次元配置された複数の金属ナノ粒子からなる。光電変換層20と光散乱層36との間に透明薄膜層50が設けられている。透明薄膜層50の層厚dlowは下記式で表される。


上記式において、λは光電変換層20が吸収することができる光の真空中での波長のうち任意のものである。nabsは、光電変換層20の上記波長での屈折率を表し、nlowは、透明薄膜層50の上記波長での屈折率を表す。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電変換により光エネルギーを電気エネルギーに変換する光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池などの光電変換素子では、省資源化や低コスト化を図るために、光電変換層のさらなる薄膜化が望まれている。単純に光電変換層を薄膜化した場合には、光電変換層における光吸収量が減少するため、光電変換層における吸収量を増加させる技術が不可欠である。
【0003】
このような技術として、光電変換層の表面および/または裏面に光散乱層として金属ナノ構造(金属ナノ粒子アレイ、金属ナノホールアレイ、金属グレーティング構造など)を設け、入射した光を斜めに散乱し太陽電池内部での光路長を伸ばし、電流を増大させる技術がある
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−294818号公報
【特許文献2】特開2001−127313号公報
【特許文献3】特開2009−533875号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Beckら、Journal of Applied Physics, 105, 114310 (2009).
【非特許文献2】Mokkapatiら、Applied Physics Letters, 95, 053115 (2009).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
太陽電池の光電変換層(活性層)と反射光を散乱させるための金属が直接接触すると太陽電池の性能、特に、開放電圧が低下するため、誘電体や半導体を、光電変換層と光散乱層との間に挿入する必要がある。しかし、従来の技術では、誘電体や半導体を光電変換層と金属ナノ構造との間に挿入すると金属ナノ構造の効果が減少するという課題があり、どのような層であれば、太陽電池性能の低下を抑制しつつ、光電変換による電流を増大させて、最終的に太陽電池の性能向上を図ることができるのかが明らかではなかった。
【0007】
本発明はこうした課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、光電変換層の少なくとも一方の面に光散乱層を設けた構造において、太陽電池の性能低下を抑制しつつ、電流増加効果を得ることができる技術の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のある態様は、光電変換素子である。当該光電変換素子は、光電変換層と、当該光電変換層の一方の主表面に積層されている、光電変換層と異なる屈折率を有する透明薄膜層と、光電変換層とは反対側の透明薄膜層の主表面に積層されている光散乱層と、を備え、透明薄膜層の層厚dlowが下記式で表されることを特徴とする。
【数1】

上記式において、λは光電変換層が吸収することができる光の真空中での波長のうち任意のものである。nabsは、光電変換層の上記波長での屈折率を表し、nlowは、透明薄膜層の上記波長での屈折率を表す。
【0009】
この態様の光電変換素子によれば、光電変換素子で吸収しきれなかった入射光が、受光面とは反対側の光電変換素子の主表面側に設けられた複数の金属ナノ粒子によって散乱反射されるため、光電変換層内での入射光の光路長が増大し、入射光を効率的に光吸収することができる。さらに、上述した層厚dlowの透明薄膜層が光電変換層と光散乱層との間に介在することにより、開放電圧などの電気的な特性を低下させることなく、光電変換素子における電流向上効果を増加させることができる。
【0010】
上記態様の光電変換素子において、光散乱層が微細構造を持つ金属で形成されていてもよい。光電変換層が単結晶シリコン、多結晶シリコンまたは微結晶シリコンで形成されていてもよい。また、透明薄膜層がシリコンを含む材料で形成されていてもよい。
【0011】
なお、上述した各要素を適宜組み合わせたものも、本件特許出願によって特許による保護を求める発明の範囲に含まれうる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、光電変換層の少なくとも一方の面に光散乱層を設けた光電変換素子において、太陽電池の性能低下を抑制しつつ、電流増加効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】図1(A)は、実施の形態に係る光電変換素子の構成を示す概略断面図である。図1(B)は、半導体基板を裏面側から平面視したときの、金属ナノ粒子の配列の様子を示す平面図である。
【図2】実施の形態に係る光電変換素子の作製方法を示す工程断面図である。
【図3】実施の形態に係る光電変換素子の作製方法を示す工程断面図である。
【図4】実施例および比較例の太陽電池について、透明薄膜層の厚さdlowと相対電流値との関係をプロットしたグラフである。
【図5】相対電流値の増加が得られるもっとも厚い透明薄膜層の層厚を直線近似により求めた上でプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面を参照して説明する。なお、すべての図面において、同様な構成要素には同様の符号を付し、適宜説明を省略する。
【0015】
図1(A)は、実施の形態に係る光電変換素子10の構成を示す概略断面図である。図1(B)は、光電変換素子を受光面とは反対側から平面視したときの、光散乱層36を構成する金属ナノ粒子の配列の様子を示す平面図である。図1(A)は、図1(B)のA−A線上の断面図に相当する。図1(B)では、光散乱層36を構成する金属ナノ粒子と光電変換層20との配置のみが示され、他の構成が省略されている。図1(A)に示すように、光電変換素子10は、光電変換層20、反射防止膜32、透明薄膜層50、光散乱層36および透明導電膜60を備える。本実施の形態では、光電変換素子10は太陽電池である。
【0016】
光電変換層20は、p型半導体とn型半導体とが接合したpn接合を有し、pn接合の光起電力効果により太陽からの光エネルギーが電気エネルギーに変換される。n型半導体、p型半導体にそれぞれ電極(図示せず)を取り付けることにより、直流電流を光電変換素子10の外部に取り出すことができる。なお、本実施の形態では、受光面と反対側に設けられる電極は、後述する透明薄膜層50に積層されることにより、光電変換層20と電気的に接続される。光電変換層20は、たとえば、単結晶シリコン、多結晶シリコンまたは微結晶シリコンからなるSi基板であり、IV族半導体基板で構成された太陽電池として周知のpn接合を有する。
【0017】
図1(A)および図1(B)に示すように、反射防止膜32は、光電変換素子10の受光面側において、光電変換層20の第1の主表面S1に設けられている。反射防止膜32は、光電変換素子10が受光する光の波長領域での透明性と、光電変換素子10が受光する光の反射を防止する機能を兼ね備えていれば、形態および材料は特に限定されないが、たとえば、SiO、SiNx、TiO、ITOなどが挙げられる。なお、反射防止膜32は任意の構成であり、光電変換素子10に反射防止膜32が設けられていない形態も本発明に含まれる。
【0018】
光散乱層36は、光電変換素子10の受光面とは反対側において、後述する透明薄膜層50を介して2次元配置して設けられている。本実施の形態では、光散乱層36は、透明薄膜層50上に2次元アレイ状に点在している複数の金属ナノ粒子を含む。
【0019】
光散乱層36を構成する金属ナノ粒子の材料は、金属材料であればよく特に限定されないが、Frohlichモード(Bohren and Huffman, Absorption and Scattering of Light by Small Particles, Wiley, 1983 を参照)の共鳴波長が反射を防止する光の波長と近い物が望ましく、たとえば、Au、Ag、Al、Cu、またはこれらの金属の合金が挙げられる。なお、本実施の形態では、光散乱層36を被覆するように、ITOなどの透明導電膜60が積層されている。透明導電膜60は透明薄膜層50に設けられた貫通部52にも充填されており、貫通部52を介して透明導電膜60と光電変換層20とが電気的に接続している。
【0020】
光電変換層20を平面視した場合の単位面積当たりの金属ナノ粒子の数密度の好ましい範囲は、5.0×10個/cm〜3.0×10個/cmであり、より好ましくは7.0×10〜2.5×10個/cm、さらに好ましくは1.0×10〜2.0×10個/cmである。
【0021】
金属ナノ粒子の形状は特に限定されないが、たとえば、球状、半球状、円柱状、角柱状、ロッド状、円盤状などの形状が挙げられる。光電変換層20を平面視した場合の金属ナノ粒子の径Dは、たとえば、80〜400nmの範囲である。光電変換層20とは反対側の透明薄膜層50の主表面を基準面としたときの金属ナノ粒子の高さHは、たとえば、5〜500nmの範囲である。
【0022】
透明薄膜層50は、光電変換層20の第2の主表面S2に積層されており、光電変換層20とは反対側の透明薄膜層50の主表面に上述した光散乱層36が積層されている。言い換えると、透明薄膜層50は、光散乱層36と光電変換層20との間に設けられている。透明薄膜層50は、光電変換素子10が受光する光に対して透明である。すなわち、透明薄膜層50のバンドギャップが、光電変換層20のバンドギャップよりも大きい。また、光電変換層20の第2の主表面S2側に電極を形成する場合には、集電性向上の観点から透明薄膜層50は導電性を有することが好ましい。
【0023】
透明薄膜層50の材料としては、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化バリウム、フッ化リチウム、シリコンカーバイド、サファイア、アルミナ、水晶、フッ素樹脂、SnO、FTO(フッ素ドープ酸化スズ)、ITO、ZnO、SiO、TiO、ZrO、Mn、Y、WO、Nb、La、Ga、AgO、CuO、a−Si:H、μc−Si:H、SiO:H、SiC、SiN、AlO:H、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリメタクリル酸メチル、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリイミド、ポリアミド、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、トリアセチルセルロース、ポリウレタン、シクロオレフィンポリマーなどが挙げられる。
【0024】
本実施の形態のように光散乱層36として金属ナノ粒子が用いられている形態では、金属ナノ粒子が光電変換層20と接していると、金属ナノ粒子と光電変換層20の間の金属−半導体界面でキャリアの再結合反応が促進されることや、金属ナノ粒子を構成する金属原子が光電変換層20の中に拡散して光電変換層20を汚染することで、光電変換素子10の光電変換効率が低下する可能性がある。このため、本実施の形態のように、光電変換層20の第2の主表面と、光散乱層36を構成する金属ナノ粒子との間に透明薄膜層50が介在することにより、金属ナノ粒子と光電変換層20との間でキャリアの再結合が生じることを抑制することができる。
【0025】
透明薄膜層50の層厚dlowは下記式で表される。
【数2】

上記式において、λは光電変換層20が吸収することができる光の真空中での波長のうち任意のものである。nabsは、光電変換層20の上記波長での屈折率を表し、nlowは、透明薄膜層50の上記波長での屈折率を表す。
【0026】
以上説明した実施の形態に係る光電変換素子10によれば、光電変換素子10で吸収しきれなかった入射光が、光電変換素子10の第2の主表面側に設けられた光散乱層36によって散乱反射されるため、光電変換層20内での入射光の光路長が増大し、入射光を効率的に光吸収することができる。さらに、実施の形態に係る光電変換素子10では、上述した層厚dlowの透明薄膜層50が光電変換層20と光散乱層36との間に介在することにより、開放電圧などの電気的な特性を低下させることなく、光電変換素子10における電流向上効果を増加させることができる。より詳しくは、透明薄膜層50の層厚をdlowとすることで、光散乱層36によって誘起された近接場が光電変換層20に伝播することが妨げられないため、光散乱層36による光路長増大効果を十分に得ることができ、ひいては、光電変換素子10における電流向上効果を増加させることができる。
【0027】
(光電変換素子の作製方法)
図2および図3は、実施の形態に係る光電変換素子の作製方法を示す工程断面図である。実施の形態に係る光電変換素子の作製方法を図2および図3を参照して説明する。
【0028】
まず、図2(A)に示すように、受光面となる光電変換層20の第1の主表面S1に膜厚50〜200nmの反射防止膜32を積層する。なお、光電変換層20はp型単結晶Si基板を含み、光電変換層20には、周知の熱拡散法、イオン注入法、真空成膜法などを用いて予めp−n接合が形成されている。反射防止膜32の積層方法は特に限定されないが、たとえば、PECVD法やスパッタリング法などの真空成膜法によりSiNxやITOなどの透明材料を光電変換層20に成膜する方法が挙げられる。
【0029】
次に、図2(B)に示すように、受光面とは反対側の光電変換層20の第2の主表面S2に透明薄膜層50を形成する。透明薄膜層50の材料および層厚については、上述した記載に従う。透明薄膜層50の形成方法は、特に限定されないが、PECVD法、スパッタリング法、真空蒸着法、ALD法、PLD法、熱酸化法、スピンコート法などが挙げられる。
【0030】
次に、図2(C)に示すように、透明薄膜層50の上にマスク40を形成する。マスク40には、透明薄膜層50上において金属ナノ粒子形成領域が露出するような複数の開口部42が形成されている。マスク40は、たとえば、アルミニウム基板の表面を陽極酸化した後に、陽極酸化された表面(ポーラスアルミナ膜)以外のアルミニウム基板を除去し、リン酸溶液を用いてポーラスアルミナ膜に貫通孔を形成することにより作製することができる。この他、マスク40は、所定の開口部をパターニングしたレジストにより作製することも可能である。マスク40としてレジストを用いることにより、金属ナノ粒子を規則的に2次元配置することができる。
【0031】
次に、図2(D)に示すように、マスク40を介して透明薄膜層50に向けて、Ag、Al、Au、Cuなどの金属またはこれらの金属を含む合金を真空蒸着法により堆積させる。金属粒子は、マスク40に設けられた開口部42を通過し、開口部42内で透明薄膜層50上に選択的に堆積する。これにより、開口部42内に金属ナノ粒子37が形成され、透明薄膜層50上に、複数の金属ナノ粒子37が2次元配置される。光電変換層20を平面視したときの、金属ナノ粒子37のサイズは、マスク40に設けられた開口部42のサイズで規定される。マスク40をポーラスアルミナ膜を用いて形成する場合には、開口部42のサイズは、アルミニウムの陽極酸化時の印加電圧に比例する。たとえば、0.3mol/lマロン酸電解液でアルミニウム基板に120V印加した場合には、開口部42の径は150nm程度となり、金属ナノ粒子37の径も150nm程度となる。また、光電変換層20の第2の主表面を基準面したときの金属ナノ粒子37の高さは、真空蒸着の時間を変えることにより制御することができる。真空蒸着の時間が短い場合には、球面が下方(光電変換層20の第2の主表面から遠ざかる方向)を向いた半球状となり、真空蒸着の時間が十分長い場合には、円柱状、角柱状またはフィラー状となる。金属ナノ粒子37の形成が完了した後、マスク40は除去される。
【0032】
次に、図3(A)に示すように、周知のリソグラフィ法およびエッチング法を用いて透明薄膜層50を部分的に除去し貫通部52を形成する。貫通部25において光電変換層20が露出する。
【0033】
次に、図3(B)に示すように、金属ナノ粒子37を被覆するようにITOなどの透明導電膜60を成膜する。以上の工程により、実施の形態に係る光電変換素子10を簡便に形成することができ、ひいては光電変換素子10の製造コストを低減することができる。
【0034】
(実施例1)
<光電変換層の作製>
厚さ150μmのp型シリコンウェハー(抵抗率0.5〜5Ωcm)にリンを拡散させpn接合を形成し、光電変換層を作製した。リンの拡散にはPOCl3を用い、860℃で20分間加熱した後に40分間ドープを行った。光電変換層である単結晶シリコンの屈折率はPalik編 Handbook of Optical Constants of Solidsによると、波長1000nmで3.57である。
【0035】
<反射防止膜の作製>
光電変換層の一方の主表面に、表面パッシベーション層(反射防止膜)として厚さ70nmのSiNを主成分とする層を成膜した。
【0036】
<透明薄膜層の作製>
光電変換層の露出面(裏面)に、光電変換層と異なる屈折率を持つ透明薄膜層として、PECVD法によりAl層を成膜した。透明薄膜層の膜厚を触針式膜厚計(Veeco Dektak3 ST)を用いて評価した。また、透明薄膜層の屈折率を、分光光度計(日立 U4100)を用いて測定した反射率スペクトルと、触針式膜厚計を用いて測定された膜厚と、特性マトリックス法により計算した反射率とを使い、フィッティングにより決定した。実施例1の透明薄膜層の膜厚および屈折率を測定したところ、厚さは10nm、屈折率は約1.8であった。なお、透明薄膜層が複数の異なる屈折率を持つ材料から構成されている場合は、以下の式により平均化された屈折率が求められる。
【数3】

ここで、nは平均化された屈折率、nは各成分の屈折率、ηは各成分の体積分率を表す。
【0037】
<光散乱層の作製>
アルミニウム基板の表面を0.3mol/Lマロン酸水溶液中で120Vで陽極酸化した後に、酸化された表面(バリア層)以外のアルミニウム基板を除去し、バリア層に形成された多数の孔を20倍希釈したリン酸水溶液を用いて貫通させ、さらに孔径を拡大することにより、平均孔径が200nm、孔密度が1.8×10個/cmのアルミナマスクを得た。このアルミナマスクを通して透明薄膜層上にAgを真空蒸着することにより、高さ100nm、周期300nmの金属ナノ粒子アレイを形成した。得られた金属ナノ粒子の径および密度は、真空蒸着の際に使用したアルミナマスクに形成された貫通孔の径および密度とそれぞれ同一であることを走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて確認した。
【0038】
<ITO層の作製>
上記透明薄膜層を選択的にエッチングし、部分的に光電変換層を露出させた。上記光散乱層の上からITOを200nm成膜し、金属ナノ粒子アレイを被覆するとともに、光電変換層と電気的に接続された透明導電膜を形成した。
<電極の作製>
表面パッシベーション層を構成するSiNの上に銀ペーストを用いて細線電極を形成し、焼成によるファイアスルーを行い光電変換層との電気的な接続を形成した。また、光電変換層とは反対側のITOの主表面上にAg/Alからなる全面電極を形成した。
【0039】
以上の工程により、実施例1の光電変換素子(太陽電池)を作製した。
【0040】
比較のため上述した光散乱層を形成しないことを除き実施例1と同様な太陽電池(以下、参照例と呼ぶ)を作製し、開放電圧を測定した。参照例の太陽電池の開放電圧は590mVであった。一方、実施例1の太陽電池の開放電圧は589mVであった。つまり、実施例1の太陽電池の開放電圧は、光散乱層を持たない参照例と同等であることが確認された。
【0041】
(比較例1)
比較例1の太陽電池は、実施例1と同様な光散乱層を光電変換層の裏面(受光面とは反対側の面)に直接積層し、この光散乱層にPECVD法によりAl層(屈折率1.8、膜厚10nm)を成膜したことを除き、実施例1と同様な構造である。比較例1の太陽電池の開放電圧は535mVであり、参照例の開放電圧より低くなった。
【0042】
(比較例2)
比較例2の太陽電池は、透明薄膜層(Al層)の膜厚を25nmとしたことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。比較例2の太陽電池の開放電圧は592mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0043】
(比較例3)
比較例3の太陽電池は、透明薄膜層(Al層)の膜厚を40nmとしたことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。比較例2の太陽電池の開放電圧は591mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0044】
(比較例4)
比較例4の太陽電池は、透明薄膜層(Al層)の膜厚を100nmとしたことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。比較例2の太陽電池の開放電圧は592mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0045】
(実施例2)
実施例2の太陽電池は、透明薄膜層として、熱酸化により作製した二酸化シリコン(屈折率1.5、膜厚6nm)を成膜したことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。実施例2の太陽電池の開放電圧は585mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0046】
(比較例5)
比較例5の太陽電池は、透明薄膜層として、熱酸化により作製した二酸化シリコン(屈折率1.5、膜厚16nm)を成膜したことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。比較例5の太陽電池の開放電圧は586mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0047】
(比較例6)
比較例6の太陽電池は、透明薄膜層として、熱酸化により作製した二酸化シリコン(屈折率1.5、膜厚20nm)を成膜したことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。比較例6の太陽電池の開放電圧は588mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0048】
(比較例7)
比較例7の太陽電池は、透明薄膜層として、熱酸化により作製した二酸化シリコン(屈折率1.5、膜厚50nm)を成膜したことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。比較例7の太陽電池の開放電圧は587mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0049】
(実施例3)
実施例3の太陽電池は、透明薄膜層として、PECVD法によりSiNを主成分とする層(屈折率約2.2、膜厚40nm)を成膜したことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。実施例3の太陽電池の開放電圧は620mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0050】
(実施例4)
実施例4の太陽電池は、透明薄膜層として、PECVD法によりSiNを主成分とする層(屈折率約2.2、膜厚40nm)を成膜したことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。実施例4の太陽電池の開放電圧は621mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0051】
(比較例8)
比較例8の太陽電池は、透明薄膜層として、PECVD法によりSiNを主成分とする層(屈折率約2.2、膜厚63nm)を成膜したことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。比較例8の太陽電池の開放電圧は623mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0052】
(比較例9)
比較例9の太陽電池は、透明薄膜層として、PECVD法によりSiNを主成分とする層(屈折率約2.2、膜厚80nm)を成膜したことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。比較例9の太陽電池の開放電圧は623mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0053】
(実施例5)
実施例5の太陽電池は、透明薄膜層として、PECVD法によりSiNを主成分とする層(屈折率約2.5、膜厚10nm)を成膜したことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。実施例5の太陽電池の開放電圧は631mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0054】
(実施例6)
実施例6の太陽電池は、透明薄膜層として、PECVD法によりSiNを主成分とする層(屈折率約2.5、膜厚50nm)を成膜したことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。実施例6の太陽電池の開放電圧は634mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0055】
(比較例10)
比較例10の太陽電池は、透明薄膜層として、PECVD法によりSiNを主成分とする層(屈折率約2.5、膜厚100nm)を成膜したことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。比較例10の太陽電池の開放電圧は636mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0056】
(比較例11)
比較例11の太陽電池は、透明薄膜層として、PECVD法によりSiNを主成分とする層(屈折率約2.5、膜厚125nm)を成膜したことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。比較例11の太陽電池の開放電圧は633mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0057】
(実施例7)
実施例7の太陽電池は、透明薄膜層として、PECVD法によりSiNを主成分とする層(屈折率約2.8、膜厚40nm)を成膜したことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。実施例7の太陽電池の開放電圧は632mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0058】
(実施例8)
実施例8の太陽電池は、透明薄膜層として、PECVD法によりSiNを主成分とする層(屈折率約2.8、膜厚100nm)を成膜したことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。比較例12の太陽電池の開放電圧は631mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0059】
(実施例9)
実施例9の太陽電池は、透明薄膜層として、PECVD法によりSiNを主成分とする層(屈折率約2.8、膜厚125nm)を成膜したことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。実施例9の太陽電池の開放電圧は634mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0060】
(比較例12)
比較例12の太陽電池は、透明薄膜層として、PECVD法によりSiNを主成分とする層(屈折率約2.8、膜厚158nm)を成膜したことを除き、実施例1の太陽電池の構造と同様である。比較例12の太陽電池の開放電圧は633mVであり、参照例の開放電圧と同等であった。
【0061】
<量子効率の測定>
各実施例および各比較例の太陽電池について、分光感度測定を行った。分光感度測定装置はキセノンランプとハロゲンランプの二灯式で、モノクロメーターで分光した300〜1200nmの単色光を太陽電池に照射しACモードで行い、それぞれの波長の照射光子数と光電流値から量子収率を算出した。基準となる試料として、金属ナノ粒子を形成しないことを除き、実施例1と同様の手順にて太陽電池を作製し、分光感度を測定した。この結果を基準として、各実施例および各比較例の太陽電池について、それぞれ基準となる試料に対する相対的な量子収率を算出し、短絡電流値の向上度を比較した。表1に各実施例および各比較例の相対電流値を示す。なお、相対電流値は、光散乱層を持たない参照例の太陽電池における短絡電流値を1としたときの相対的な値である。
【表1】

【0062】
図4は、実施例および比較例の太陽電池について、透明薄膜層の厚さdlowと相対電流値の関係をプロットしたグラフである。図5は、相対電流値の増加が得られるもっとも厚い透明薄膜層の層厚を直線近似により求めた上でプロットしたグラフである。電流向上効果のある透明薄膜層の厚さの範囲は、図5中に示した式のように表される。ただし、実施例の光電変換素子が結晶シリコン太陽電池であることを考慮して、λ1000nm、nabs=3.57である。
【0063】
本発明は、上述の各実施の形態に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能であり、そのような変形が加えられた実施の形態も本発明の範囲に含まれうるものである。
【0064】
たとえば、上述した実施の形態では、光電変換層20にp−n接合が形成されているが、光電変換層20は、光電変換が可能が構造であればよく、光電変換層20にp−i−n接合が形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0065】
10 光電変換素子、20 光電変換層、32 反射防止膜、36 光散乱層、40 マスク、50 透明薄膜層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光電変換層と、
前記光電変換層の一方の主表面に積層されている、前記光電変換層と異なる屈折率を有する透明薄膜層と、
前記光電変換層とは反対側の前記透明薄膜層の主表面に積層されている光散乱層と、
を備え、
前記透明薄膜層の層厚dlowが下記式で表されることを特徴とする光電変換素子。
【数1】

上記式において、λは光電変換層が吸収することができる光の真空中での波長のうち任意のものである。nabsは、光電変換層の上記波長での屈折率を表し、nlowは、透明薄膜層の上記波長での屈折率を表す。
【請求項2】
前記光散乱層が微細構造を持つ金属で形成されている請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記光電変換層が単結晶シリコン、多結晶シリコンまたは微結晶シリコンで形成されている請求項1または2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記透明薄膜層がシリコンを含む材料で形成されている請求項1乃至3のいずれか1項に記載の光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−244119(P2012−244119A)
【公開日】平成24年12月10日(2012.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−116047(P2011−116047)
【出願日】平成23年5月24日(2011.5.24)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】