説明

光電変換素子

【解決手段】ゲルマニウム層を主な発電層とする光電変換素子において、素子内に拡散電位を発生させる半導体接合が1箇所以上のゲルマニウム層とp型またはn型のシリコンゲルマニウム層とのヘテロ接合によって形成されていることを特徴とする光電変換素子。
【効果】本発明の光電変換素子は、赤外領域などの長波長域に高い感度を有し、安価に製造でき、大面積の成膜が容易であり、さらに光電変換効率が高い。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光電変換素子に関し、さらに詳しくは、赤外領域などの長波長域に高い感度を有し、光電変換特性に優れた光電変換素子に関する。
【背景技術】
【0002】
太陽電池は、光エネルギーを電力エネルギーに変換する、半導体を利用した光電変換素子であり、環境問題およびエネルギー問題を解決するために注目されている技術である。このような問題を解決するためには、太陽電池の光電変換効率を高めることが重要なテーマとなる。
【0003】
太陽光の波長範囲は1500nmにも及ぶ。太陽電池の光電変換効率を高めるためには、太陽光の波長範囲全域を利用することが望ましい。しかし、従来の太陽電池で利用されている波長範囲は一定範囲に限られており、赤外領域などの長波長域はほとんど利用されていないのが実情であった。
【0004】
このような長波長領域を利用できる半導体材料としてIII−V族化合物半導体が知られているが、材料自体が高価であり、またMBE(Molecular Beam Epitaxy)法などの作製方法を使用する必要があるため、大面積の成膜が困難であるなどの問題があった(特許文献1参照)。
【0005】
III−V族化合物に替わる半導体材料として、近年ゲルマニウムが注目されている。ゲルマニウムは安価であり、毒性が低く、さらに吸収できる光の波長領域を自由に変えられるという性質を有するため、太陽電池用の半導体材料として好ましい。
【0006】
しかし、ゲルマニウムはエネルギーギャップが小さいので、ゲルマニウムを使用した光電変換素子は、高い電圧を発生させにくく、光電変換効率を高くすることが困難であるという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−114815号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、赤外領域などの長波長域に高い感度を有し、安価に製造でき、大面積の成膜が容易であり、さらに光電変換効率の高い光電変換素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意研究した結果、ゲルマニウムとシリコンゲルマニウムとをヘテロ接合させることにより光電変換効率の高い光電変換素子が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち本発明は、ゲルマニウム層を主な発電層とする光電変換素子において、素子内に拡散電位を発生させる半導体接合が1箇所以上のゲルマニウム層とp型またはn型のシリコンゲルマニウム層とのヘテロ接合によって形成されていることを特徴とする光電変換素子である。
【0011】
前記光電変換素子としては、前記へテロ接合が、主な発電層であるゲルマニウム層をp型、シリコンゲルマニウム層をn型とするpn接合である光電変換素子を挙げることができ、
この光電変換素子においては、前記ゲルマニウム層における前記シリコンゲルマニウム層が接合された側とは反対側に、p+型のシリコンゲルマニウム層が接合されたBSF構造を有することが好ましく、
さらに前記ゲルマニウム層と前記シリコンゲルマニウム層との間にi型のシリコンゲルマニウム層が設けられていることが好ましい。
【0012】
また前記光電変換素子としては、前記へテロ接合が、主な発電層であるゲルマニウム層をn型、シリコンゲルマニウム層をp型とするpn接合である光電変換素子を挙げることができ、
この光電変換素子においては、前記ゲルマニウム層における前記シリコンゲルマニウム層が接合された側とは反対側に、n+型のシリコンゲルマニウム層が接合されたBSF構造を有することが好ましく、
さらに前記ゲルマニウム層と前記シリコンゲルマニウムとの間にi型のシリコンゲルマニウム層が設けられていることが好ましい。
【0013】
前記光電変換素子の他の態様としては、前記へテロ接合がpin接合であり、主な発電層であるゲルマニウム層が真性i型、p型層およびn型層の一方または両方がシリコンゲルマニウム層である光電変換素子を挙げることができる。
【0014】
上記光電変換素子においては、前記p型およびn型のシリコンゲルマニウムのゲルマニウム組成比率が30〜90原子%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明の光電変換素子は、赤外領域などの長波長域に高い感度を有し、安価に製造でき、大面積の成膜が容易であり、さらに光電変換効率が高い。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、光電変換素子1のバンドダイアグラムである。
【図2】図2は、光電変換素子2のバンドダイアグラムである。
【図3】図3は、光電変換素子3のバンドダイアグラムである。
【図4】図4は、光電変換素子4のバンドダイアグラムである。
【図5】図5は、光電変換素子5のバンドダイアグラムである。
【図6】図6は、光電変換素子の光電変換効率のゲルマニウム濃度依存性を表わす図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の光電変換素子は、ゲルマニウム層を主な発電層とする光電変換素子において、素子内に拡散電位を発生させる半導体接合が1箇所以上のゲルマニウム層とp型またはn型のシリコンゲルマニウム層とのヘテロ接合によって形成されていることを特徴とする。
【0018】
本発明の光電変換素子は、ゲルマニウム層を主な発電層とする。ゲルマニウム層が主な発電層であると、赤外領域などの長波長域の光を吸収できるので、光電変換効率の向上を図ることができる。また、MBE法のような作製方法を使用する必要がないので、大面積の成膜が可能である。ゲルマニウムは安価であるので、低コストで製造することもできる。
【0019】
本発明の光電変換素子においては、主な発電層であるゲルマニウム層がp型またはn型のシリコンゲルマニウム層とヘテロ接合を形成し、このヘテロ接合が、素子内に拡散電位を発生させる半導体接合となる。
【0020】
ゲルマニウム同士を接合させた光電変換素子では、ゲルマニウムのエネルギーギャップが小さいため、光電変換効率を高くすることが困難である。これに対し、ゲルマニウムと他の材料とをヘテロ接合させた光電変換素子では、光により生成した電子やホールが光起電力効果と逆方向に流れることを、エネルギーギャップの大きい材料で電位障壁を設けることによって抑制できるので、光電変換効率を向上させることができる。ヘテロ接合は、電子の逆拡散を抑制するためには伝導帯側に、ホールの逆拡散を抑制するためには価電子帯側に電位障壁を設けるように形成される。
【0021】
本発明においては、ゲルマニウムよりエネルギーギャップの大きい半導体でゲルマニウムとヘテロ接合を形成することが基本であるが、エネルギーギャップが大きい半導体ならば何でもよいわけではない。ヘテロ接合は、界面欠陥が多く発生する傾向があるので、ゲルマニウムと接合させる材料としては、ゲルマニウムとの間に格子定数の差が小さい材料が好ましい。
【0022】
シリコンゲルマニウムは、エネルギーギャップが大きいだけでなく、ゲルマニウムと格子定数が近く、ヘテロ接合形成時に界面欠陥を生じにくい点で最適の材料である。その他の材料では、たとえエネルギーギャップが大きくても、界面欠陥により光電変換特性はむしろ低下する。現在のところゲルマニウムと接合させて光電変換効率の改善が確認されるのは、シリコンゲルマニウムのみである。
【0023】
シリコンゲルマニウムにおけるゲルマニウム組成比率としては、30〜90原子%が好ましい。ゲルマニウム組成比率が前記の範囲内にあると、適度なエネルギーギャップが得られ、禁制帯の反対側には障壁が生じにくく、さらにキャリアの流れも良好になると思われることから、優れた光電変換性能を示すと考えている。前記ゲルマニウム組成比率は、より好ましくは40〜80原子%であり、さらに好ましくは40〜70原子%である。
【0024】
本発明の光電変換素子が有するヘテロ接合の数は、1つまたは2つ以上であり、後述のBSF構造やpin接合の場合には2つとなる。
前記へテロ接合としては、主な発電層であるゲルマニウム層をp型、シリコンゲルマニウム層をn型とするpn接合であってもよく、また、主な発電層であるゲルマニウム層をn型、シリコンゲルマニウム層をp型とするpn接合であってもよい。
【0025】
本発明の光電変換素子においては、前記へテロ接合が、主な発電層であるゲルマニウム層をp型、シリコンゲルマニウム層をn型とするpn接合である場合、ゲルマニウム層におけるシリコンゲルマニウム層が接合された側とは反対側に、p+型のシリコンゲルマニウム層が接合されたBSF(Back Surface Field)構造とすることができる。このようなBSF構造にすると、p+型シリコンゲルマニウム層がp型ゲルマニウム層より大きなエネルギーギャップを有するため、電子の逆方向拡散の抑制、入射光の発電層への入射量の増加、および電位障壁増加によるダイオード電流立ち上がり電圧の増加が起こり、開放電圧と短絡電流が増加し、光電変換効率が向上する。このようなBSF構造を有する光電変換素子は、ゲルマニウムのみで作製された、BSF構造ではない通常の光電変換素子と比較して、主に開放電圧が増加することにより、光電変換効率が通常10〜20%向上する。
【0026】
このようなBSF構造を有する光電変換素子の製造方法には特に制限はないが、たとえば、厚み50〜300μmのp型ゲルマニウムウエファの片面表面に膜厚10〜30nmのn型シリコンゲルマニウム薄膜を形成し、さらにp型ゲルマニウムウエファの反対側表面に膜厚10〜50nmのp+型シリコンゲルマニウム薄膜を形成することにより製造することができる。n型シリコンゲルマニウム薄膜は、たとえば、プラズマCVD法により、水素(H2)、ゲルマン(GeH4)およびシラン(SiH4)にフォスフィン(PH3)を混入させたガスを用いて形成することができる。p+型シリコンゲルマニウム薄膜は、たとえば、プラズマCVD法により、水素(H2)、ゲルマン(GeH4)およびシラン(SiH4)にジボラン(B26)を混入させたガスを用いて形成することができる。その他、前記BSF構造は、反応性スパッター法および電子ビーム蒸着法などによっても製造することができる。
【0027】
前記BSF構造を有する光電変換素子においては、n型およびp+型のシリコンゲルマニウムは結晶であっても、非晶質であってもかまわない。
さらに、前記BSF構造において、p型のゲルマニウム層とn型のシリコンゲルマニウム層との間にi型のシリコンゲルマニウム層を設けて、HIT(Heterojunction with Intrinsic Thin-Layer)構造とすることができる。このようなHIT構造にすると、n型層とp型層との接合部におけるキャリアの再結合を抑制することができるので、さらに光電変換効率の向上を図ることができる。
【0028】
前記HIT構造において、i型層の厚みは通常5〜20nmである。i型層は、たとえば、プラズマCVD、電子ビーム蒸着、クヌーセンセルによる蒸着、反応性スパッターにより形成することができる。
【0029】
前記HIT構造を有する光電変換素子において、i型のシリコンゲルマニウムは結晶であっても、非晶質であってもかまわないが、非晶質である方が好ましい。
本発明の光電変換素子は、前記へテロ接合が、主な発電層であるゲルマニウム層をn型、シリコンゲルマニウム層をp型とするpn接合である場合にも、ゲルマニウム層におけるシリコンゲルマニウム層が接合された側とは反対側に、n+型のシリコンゲルマニウム層が接合されたBSF構造とすることができる。この場合にも、上記と同様に光電変換効率の向上を図ることができる。このBSF構造も、前述と同様の方法で作製することができる。
【0030】
このBSF構造においても、n型のゲルマニウム層とp型のシリコンゲルマニウム層との間にi型のシリコンゲルマニウム層を設けて、HIT構造とすることができる。この場合にも、上記と同様に光電変換効率の向上を図ることができる。このHIT構造も、前述と同様の方法で作製することができる。
【0031】
また、本発明の光電変換素子においては、前記へテロ接合を、主な発電層であるゲルマニウム層が真性i型であり、p型層およびn型層の一方または両方がシリコンゲルマニウム層であるpin接合にすることができる。このようなpin型へテロ接合にすると、p型およびn型シリコンゲルマニウム層が、光を吸収し電荷を発生させるi型ゲルマニウム層よりも大きなエネルギーギャップを有するため、逆方向拡散の抑制、入射光の発電層への入射量の増加、および電位障壁増加によるダイオード電流立ち上がり電圧の増加が起こり、開放電圧、短絡電流および曲線因子が増大し、光電変換効率が向上する。このようなpin型へテロ接合を有する光電変換素子は、ゲルマニウムのみで作製されたpin構造を有する通常の光電変換素子と比較して、主に開放電圧が増加することにより、光電変換効率が通常10〜20%向上する。
【0032】
前記pin型へテロ接合においては、p型層およびn型層の少なくとも一方はシリコンゲルマニウム層であり、p型層およびn型層の両方がシリコンゲルマニウム層であることが好ましい。p型層およびn型層の一方のみがシリコンゲルマニウム層である場合、光が入射する側をシリコンゲルマニウム層とする。他方の層としては、特に制限はないが、たとえば、ゲルマニウム、シリコン等を挙げることができる。
【0033】
このようなpin型へテロ接合を有する光電変換素子の製造方法には特に制限はないが、たとえば、プラズマCVD法により透明電極基板上に厚さ10〜20nmのp型シリコンゲルマニウム薄膜を形成し、その上に厚さ0.3〜3.0μmのi型ゲルマニウム膜を形成し、さらにその上に厚さ30〜50nmのn型シリコンゲルマニウム薄膜を形成し、その上に金属電極を形成することにより製造することができる。i型ゲルマニウム膜は、水素ガスおよびゲルマン(GeH4)ガスを用いて形成される。n型シリコンゲルマニウム薄膜およびp型シリコンゲルマニウム薄膜は、それぞれ前記BSF構造におけるn型シリコンゲルマニウム薄膜およびp型シリコンゲルマニウム薄膜と同様の形成方法で形成することができる。その他、前記pin型へテロ接合を有する光電変換素子は、反応性スパッター法および電子ビーム蒸着法などによっても製造することができる。
【0034】
前記pin型へテロ接合を有する光電変換素子においては、n型およびp型のシリコンゲルマニウムは結晶であっても、非晶質であってもかまわない。
本発明の光電変換素子は、上記のように特定のヘテロ接合を有する半導体を有している限り、その構造には特に制限はない。本発明の光電変換素子においては、たとえば、光が照射される側の半導体表面に透明電極が形成され、その反対側表面に金属電極が形成される。
【0035】
また、エネルギーギャップが相互に異なる2つ以上の光電変換ユニットを積層することにより、より広い波長範囲の光を電気エネルギーに変換し、高い光電変換効率が得られる積層型の光電変換素子とすることもできる。
【実施例】
【0036】
(実施例1)
厚み300μmのp型ゲルマニウムウエファをプラズマCVD装置の反応容器に入れ、反応容器内を真空雰囲気とし、p型ゲルマニウムウエファを200℃に加熱した。反応容器内に水素ガスを200sccm、ゲルマンガスを5sccm、シランガスを15sccm、フォスフィンガスを0.01sccmの流量で導入し、反応容器内を7Paに制御した。周波数13.56MHz、出力30Wの高周波電圧にてプラズマを発生させ、p型ゲルマニウムウエファの片側表面に厚さ20nmの結晶n型シリコンゲルマニウム層を成膜した。n型シリコンゲルマニウム層のゲルマニウム組成比率は50原子%であった。シリコンゲルマニウム層のゲルマニウム組成比率は、X線光電子分析装置(ESCA、XPS)により測定した。
【0037】
n型シリコンゲルマニウム層表面に、ITOからなる厚さ150nmの透明電極をスパッター法により形成した。
p+型シリコンゲルマニウム層表面に、銀からなる厚さ300nmの金属電極を抵抗加熱蒸着により形成した。
【0038】
このようにして、pn構造を有する光電変換素子1を得た。
光電変換素子1の短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、曲線因子(フィルファクター)(ff)および光電変換効率(η)を以下の測定方法で測定した。その結果を表1に示した。
また、光電変換素子1のバンドダイアグラムを図1に示した。
【0039】
<光電変換効率等の測定方法>
光電変換特性等は、クラスAのソーラーシミュレーターからの100mW/cm2の光照射下で、温度25℃において測定した。
【0040】
(比較例1)
厚み300μmのp型ゲルマニウムウエファをプラズマCVD装置の反応容器に入れ、反応容器内を真空雰囲気とし、p型ゲルマニウムウエファを200℃に加熱した。反応容器内に水素ガスを200sccm、ゲルマンガスを5sccm、フォスフィンガスを0.01ccmの流量で導入し、反応容器内を7Paに制御した。周波数13.56MHz、出力30Wの高周波電圧にてプラズマを発生させ、p型ゲルマニウムウエファの片側表面に厚さ20nmの結晶n型ゲルマニウム層を成膜した。
【0041】
n型ゲルマニウム層表面に、ITOからなる厚さ150nmの透明電極をスパッター法により形成した。
p型ゲルマニウム層表面に、銀からなる厚さ300nmの金属電極を抵抗加熱蒸着により形成した。
【0042】
このようにして、pn構造を有する光電変換素子2を得た。
光電変換素子2の短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、曲線因子(フィルファクター)(ff)および光電変換効率(η)を上記と同様の測定方法で測定した。その結果を表1に示した。
【0043】
また、光電変換素子2のバンドダイアグラムを図2に示した。
【0044】
【表1】

表1に示されたとおり、結晶p-Geの発電層に結晶n+SiGeがpn接合された構造を有する光電変換素子1は、n+型層およびp-型層がともに結晶ゲルマニウムで構成されたpn構造を有する光電変換素子2よりも光電変換効率が高い。
【0045】
光電変換素子1では、図1に示されるように、結晶Geより大きなエネルギーギャップにより、逆方向拡散の抑制、入射光の発電層への入射量の増加、電位障壁増加によるダイオード電流立ち上がり電圧の増加が起こり、開放電圧と短絡電流が増加し変換効率が向上するものと考えられる。
【0046】
これに対し、光電変換素子2では、図2に示されるように、発電層である半導体で生成した光キャリアが電界とは逆方向に拡散し再結合する確率が比較的高い。また、開放電圧を決めるダイオード電流の立ち上がりの低い電圧から起こり、開放電圧は低い値に留まる。これらのことから、変換効率が低くなると考えられる。
【0047】
(実施例2)BSF構造を有する光電変換素子の製造
厚み300μmのp型ゲルマニウムウエファをプラズマCVD装置の反応容器に入れ、反応容器内を真空雰囲気とし、p型ゲルマニウムウエファを200℃に加熱した。反応容器内に水素ガスを200sccm、ゲルマンガスを5sccm、シランガスを15sccm、フォスフィンガスを0.01sccmの流量で導入し、反応容器内を7Paに制御した。周波数13.56MHz、出力30Wの高周波電圧にてプラズマを発生させ、p型ゲルマニウムウエファの片側表面に厚さ20nmの結晶n型シリコンゲルマニウム層を成膜した。n型シリコンゲルマニウム層のゲルマニウム組成比率は50原子%であった。シリコンゲルマニウム層のゲルマニウム組成比率の測定方法は上記と同様である。
【0048】
続いて、同様の装置の反応容器に、n型シリコンゲルマニウム層が成膜されたp型ゲルマニウムウエファを入れ、該p型ゲルマニウムウエファを200℃に加熱し、反応容器内に水素ガスを200sccm、ゲルマンガスを5sccm、シランガスを15sccm、ジボランガスを0.01sccmの流量で導入し、反応容器内を7Paに制御した。周波数13.56MHz、出力30Wの高周波電圧にてプラズマを発生させ、前記p型ゲルマニウムウエファの、n型シリコンゲルマニウム層が成膜された表面とは反対側の表面に厚さ20nmの結晶p+型シリコンゲルマニウム層を成膜した。p+型シリコンゲルマニウム層のゲルマニウム組成比率は50原子%であった。ゲルマニウム組成比率の測定方法は上記と同様である。
【0049】
n型シリコンゲルマニウム層表面に、ITOからなる厚さ150nmの透明電極をスパッター法により形成した。
p+型シリコンゲルマニウム層表面に、銀からなる厚さ300nmの金属電極を抵抗加熱蒸着により形成した。
【0050】
このようにして、BSF構造を有する光電変換素子3を得た。
光電変換素子3の短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、曲線因子(フィルファクター)(ff)および光電変換効率(η)を上記と同様の測定方法で測定した。その結果を表2に示した。
また、光電変換素子3のバンドダイアグラムを図3に示した。
【0051】
(比較例2)
厚み300μmのp型ゲルマニウムウエファをプラズマCVD装置の反応容器に入れ、反応容器内を真空雰囲気とし、p型ゲルマニウムウエファを200℃に加熱した。反応容器内に水素ガスを200sccm、ゲルマンガスを5sccm、フォスフィンガスを0.01sccmの流量で導入し、反応容器内を7Paに制御した。周波数13.56MHz、出力30Wの高周波電圧にてプラズマを発生させ、p型ゲルマニウムウエファの片側表面に厚さ20nmの結晶n型ゲルマニウム層を成膜した。
【0052】
続いて、同様の装置の反応容器に、n型シリコンゲルマニウム層が成膜されたp型ゲルマニウムウエファを入れ、該p型ゲルマニウムウエファを200℃に加熱し、反応容器内に水素ガスを200sccm、ゲルマンガスを5sccm、ジボランガスを0.01sccmの流量で導入し、反応容器内を7Paに制御した。周波数13.56MHz、出力30Wの高周波電圧にてプラズマを発生させ、前記p型ゲルマニウムウエファの、n型ゲルマニウム層が成膜された表面とは反対側の表面に厚さ20nmの結晶p+型ゲルマニウム層を成膜した。
【0053】
n型ゲルマニウム層表面に、ITOからなる厚さ150nmの透明電極をスパッター法により形成した。
p+型ゲルマニウム層表面に、銀からなる厚さ300nmの金属電極を抵抗加熱蒸着により形成した。
【0054】
このようにして、BSF構造を有する光電変換素子4を得た。
光電変換素子4の短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、曲線因子(フィルファクター)(ff)および光電変換効率(η)を上記と同様の測定方法で測定した。その結果を表2に示した。
【0055】
また、光電変換素子4のバンドダイアグラムを図4に示した。
【0056】
【表2】

表2に示されたとおり、結晶p-Geの発電層に結晶n+SiGeがpn接合され、結晶p+SiGeによるBSF層が設けられたBSF構造を有する光電変換素子3は、p+、p-及びn+型の半導体すべてが結晶ゲルマニウムで構成されたBSF構造を有する光電変換素子4よりも光電変換効率が高い。
【0057】
光電変換素子3では、図3に示されるように、結晶SiGeが結晶Geより大きなエネルギーギャップを有するため、逆方向拡散の抑制、入射光の発電層への入射量の増加、電位障壁増加によるダイオード電流立ち上がり電圧の増加が起こり、開放電圧と短絡電流が増加し、変換効率が向上するものと考えられる。
【0058】
これに対し、光電変換素子4では、図4に示されるように、発電層である半導体で生成した光キャリアが電界とは逆方向に拡散し再結合する確率がBSF構造によりある程度は減少するため光電変換素子2よりは変換効率が向上するが、光電変換素子3ほど大きなエネルギーギャップが得られないため、光電変換素子3より変換効率が低くなると考えられる。
【0059】
(実施例3)pin構造を有する光電変換素子の製造
酸化亜鉛からなる透明電極基板をプラズマCVD装置の反応容器に入れ、反応容器内を真空雰囲気とし、透明電極基板を200℃に加熱した。反応容器内に水素ガスを200sccm、ゲルマンガスを5sccm、シランガスを15sccm、ジボランガスを0.01sccmの流量で導入し、反応容器内を7Paに制御した。周波数13.56MHz、出力30Wの高周波電圧にてプラズマを発生させ、透明電極基板上に厚さ15nmの結晶p型シリコンゲルマニウム層を成膜した。p型シリコンゲルマニウム層のゲルマニウム組成比率は50原子%であった。ゲルマニウム組成比率の測定方法は上記と同様である。
【0060】
続いて、同様の装置の反応容器に、p型シリコンゲルマニウム層が成膜された透明電極基板を入れ、該透明電極基板を200℃に加熱し、反応容器内に水素ガスを200sccm、ゲルマンガスを5sccmの流量で導入し、反応容器内を7Paに制御した。周波数13.56MHz、出力30Wの高周波電圧にてプラズマを発生させ、前記p型シリコンゲルマニウム層上に厚さ1μmの結晶真性i型ゲルマニウム層を成膜した。
【0061】
さらに、同様の装置の反応容器に、p型シリコンゲルマニウム層および真性i型ゲルマニウム層が成膜された透明電極基板を入れ、該透明電極基板を200℃に加熱し、反応容器内に水素ガスを200sccm、ゲルマンガスを5sccm、シランガスを15sccm、フォスフィンガスを0.01sccmの流量で導入し、反応容器内を7Paに制御した。周波数13.56MHz、出力30Wの高周波電圧にてプラズマを発生させ、前記真性i型ゲルマニウム層上に厚さ0.05μmの結晶n型シリコンゲルマニウム層を成膜した。n型シリコンゲルマニウム層のゲルマニウム組成比率は50原子%であった。ゲルマニウム組成比率の測定方法は上記と同様である。
【0062】
n型シリコンゲルマニウム層表面に銀からなる厚さ300nmの金属電極を抵抗加熱蒸着により形成した。
このようにして、pin構造を有する光電変換素子5を得た。
【0063】
光電変換素子5の短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、曲線因子(フィルファクター)(ff)および光電変換効率(η)を上記と同様の測定方法で測定した。その結果を表3に示した。
また、光電変換素子5のバンドダイアグラムを図5に示した。
【0064】
(比較例3)
酸化亜鉛からなる透明電極基板をプラズマCVD装置の反応容器に入れ、反応容器内を真空雰囲気とし、透明電極基板を200℃に加熱した。反応容器内に水素ガスを200sccm、ゲルマンガスを5sccm、ジボランガスを15sccmの流量で導入し、反応容器内を7Paに制御した。周波数13.56MHz、出力30Wの高周波電圧にてプラズマを発生させ、透明電極基板上に厚さ15nmの結晶p型ゲルマニウム層を成膜した。
【0065】
続いて、同様の装置の反応容器に、p型ゲルマニウム層が成膜された透明電極基板を入れ、該透明電極基板を200℃に加熱し、反応容器内に水素ガスを200sccm、ゲルマンガスを5sccmの流量で導入し、反応容器内を7Paに制御した。周波数13.56MHz、出力30Wの高周波電圧にてプラズマを発生させ、前記p型ゲルマニウム層上に厚さ3μmの結晶真性i型ゲルマニウム層を成膜した。
【0066】
さらに、同様の装置の反応容器に、p型ゲルマニウム層および真性i型ゲルマニウム層が成膜された透明電極基板を入れ、該透明電極基板を200℃に加熱し、反応容器内に水素ガスを200sccm、ゲルマンガスを5sccm、フォスフィンガスを0.01sccmの流量で導入し、反応容器内を7Paに制御した。周波数13.56MHz、出力30Wの高周波電圧にてプラズマを発生させ、前記真性i型ゲルマニウム層上に厚さ0.05μmの結晶n型ゲルマニウム層を成膜した。
【0067】
n型ゲルマニウム層表面に、銀からなる厚さ300nmの金属電極を抵抗加熱蒸着により形成した。
このようにして、pin構造を有する光電変換素子6を得た。
【0068】
光電変換素子6の短絡電流(Jsc)、開放電圧(Voc)、曲線因子(フィルファクター)(ff)および光電変換効率(η)を上記と同様の測定方法で測定した。その結果を表3に示した。
【0069】
【表3】

表3に示されたとおり、p型層およびn型層がシリコンゲルマニウムからなり、i型層がゲルマニウムからなるpin構造を有する光電変換素子5は、p型層、n型層およびi型層のすべてがゲルマニウムからなるpin構造を有する光電変換素子6に比較して、光電変換効率が高い。これは、光電変換素子5では、図5に示されるように、p型およびn型シリコンゲルマニウムが、光吸収層であるi型ゲルマニウムよりも大きなエネルギーギャップを有するため、逆方向拡散の抑制、入射光の発電層への入射量の増加、および電位障壁増加によるダイオード電流立ち上がり電圧の増加が起こり、開放電圧、短絡電流および曲線因子が増加するからであると考えられる。
【0070】
(実施例4)
実施例2におけるn型シリコンゲルマニウム層およびp+型シリコンゲルマニウム層の成膜において、ゲルマンガスおよびフォスフィンガスの流量を変化させたこと以外は実施例2と同様に行い、n型シリコンゲルマニウム層およびp+型シリコンゲルマニウム層のゲルマニウム組成比率が10原子%、20原子%、30原子%、40原子%、60原子%、70原子%、80原子%または90原子%である光電変換素子をそれぞれ作製した。
【0071】
(比較例4)
実施例2におけるn型シリコンゲルマニウム層およびp+型シリコンゲルマニウム層の成膜において、ゲルマンガスを使用しなかったこと以外は実施例2と同様に行い、n型シリコンゲルマニウム層およびp+型シリコンゲルマニウム層の替わりにn型シリコン層およびp+型シリコン層を有する光電変換素子を作製した。
上記実施例4および比較例4において作製した光電変換素子の光電変換効率(η)を上記と同様の測定方法で測定した。
【0072】
これらの光電変換効率(η)、ならびに光電変換素子3(n型シリコンゲルマニウム層およびp+型シリコンゲルマニウム層のゲルマニウム組成比率が50原子%)および光電変換素子4(n型シリコンゲルマニウム層およびp+型シリコンゲルマニウム層の替わりにn型ゲルマニウム層およびp+型ゲルマニウム層を有する)の光電変換効率(η)とn層およびp層のゲルマニウム濃度との関係を図6に示した。
【0073】
図6は、光電変換素子の光電変換効率のゲルマニウム濃度依存性を表わす。図6より、n層およびp層がシリコンゲルマニウム層であると光電変換効率の改善効果が得られることがわかる。特に、シリコンゲルマニウム層のゲルマニウム濃度が30〜90原子数%の範囲であると、光電変換効率の有効な改善効果が得られることがわかる。これは、ゲルマニウム濃度が30〜90原子数%の範囲であると、ゲルマニウムとシリコンゲルマニウムとの間に適当な大きさのエネルギーギャップが得られるからであると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲルマニウム層を主な発電層とする光電変換素子において、素子内に拡散電位を発生させる半導体接合が1箇所以上のゲルマニウム層とp型またはn型のシリコンゲルマニウム層とのヘテロ接合によって形成されていることを特徴とする光電変換素子。
【請求項2】
前記へテロ接合が、主な発電層であるゲルマニウム層をp型、シリコンゲルマニウム層をn型とするpn接合であることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項3】
前記ゲルマニウム層における前記シリコンゲルマニウム層が接合された側とは反対側に、p+型のシリコンゲルマニウム層が接合されたBSF構造を有することを特徴とする請求項2に記載の光電変換素子。
【請求項4】
前記ゲルマニウム層と前記シリコンゲルマニウム層との間にi型のシリコンゲルマニウム層が設けられていることを特徴とする請求項3に記載の光電変換素子。
【請求項5】
前記へテロ接合が、主な発電層であるゲルマニウム層をn型、シリコンゲルマニウムをp型とするpn接合であることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項6】
前記ゲルマニウム層における前記シリコンゲルマニウム層が接合された側とは反対側に、n+型のシリコンゲルマニウム層が接合されたBSF構造を有することを特徴とする請求項5に記載の光電変換素子。
【請求項7】
前記ゲルマニウム層と前記シリコンゲルマニウム層との間にi型のシリコンゲルマニウム層が設けられていることを特徴とする請求項6に記載の光電変換素子。
【請求項8】
前記へテロ接合がpin接合であり、主な発電層であるゲルマニウム層が真性i型、p型層およびn型層の一方または両方がシリコンゲルマニウム層であることを特徴とする請求項1に記載の光電変換素子。
【請求項9】
前記p型およびn型のシリコンゲルマニウムのゲルマニウム組成比率が30〜90原子%であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の光電変換素子。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−94628(P2012−94628A)
【公開日】平成24年5月17日(2012.5.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−239605(P2010−239605)
【出願日】平成22年10月26日(2010.10.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成21年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「新エネルギー技術研究開発 革新的太陽光発電技術研究開発(革新型太陽電池国際研究拠点整備事業)高度秩序構造を有する薄膜多接合太陽電池の研究開発(擬単結晶固相成長技術)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)」
【出願人】(000125369)学校法人東海大学 (352)
【Fターム(参考)】