説明

光電変換装置の校正方法

【課題】光電変換装置の校正を簡便に行うことである。
【解決手段】蛍光板31と、蛍光板31に設けられた透過率の異なる複数の光抑制手段32、33、34と、を備えた校正用測定サンプル30に対して光検出を行い、光検出結果を、光抑制手段32、33、34における透過率の二乗に基づいて校正する。また、校正結果を、光抑制手段32、33、34における濃度公差、寸法公差、及び取付け誤差の少なくとも一つに基づいて更に校正する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微弱蛍光を検出する際によく用いられる光電子増倍管などの光電変換装置の校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、測定対象の微弱蛍光を検出するための光検出器として、高い光電変換効率を有する光電子増倍管が広く一般に利用されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−14379号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところが、光電子増倍管は感度の固体差が大きく、また経時的にも感度は変化する。さらに、光電子増倍管だけではなく、照明手段も経時変化するため、長期間にわたって同じ測定対象から一定の測定結果を取得することは望めない。このことは、例えば測定時間の短縮を図るために、装置に複数の光電変換装置を備える場合、あるいは、装置間で校正を行う場合に問題となる。
【0005】
本発明の課題は、光電変換装置の校正を簡便に行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、蛍光板と、該蛍光板上に配設された透過率の異なる複数の光抑制手段と、を備えた校正用測定サンプルに対して光検出を行い、当該光検出結果を、前記光抑制手段における透過率の二乗に基づいて校正することを特徴とする。
また、前記光検出結果を、前記光抑制手段における濃度公差、寸法公差、及び取付け誤差の少なくとも一つに基づいて校正することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、光電変換装置の感度固体差や経時変化、照明手段の経時変化、その他装置構成要素の固体差の影響を最小限に抑えることができるため、一つの装置内に備えられた同じ型番の光電変換装置、又は異なる装置に備えられた同じ型番の光電変換装置で同じ測定対象を測定したときに、同程度の測定結果を取得することができるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】微弱蛍光検出装置の概略構成図である。
【図2】本発明の概念図である。
【図3】感度の個体差を示す図である。
【図4】照射強度の個体差を示す図である。
【図5】デジタル値が透過率の二乗に比例することを示す実験データである。
【図6】校正前と校正後とを比較した実験データである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、光電変換装置の校正方法を実現するための微弱蛍光検出装置の構成例を示す図である。
本構成では、CPU10と、メモリ11と、チップセット12と、キーボードやマウス等で構成される入力手段13と、ディスプレイ等の出力手段14と、ハードディスク15と、を備えている。また、照明制御手段20と、LED照明等の照明手段21と、励起フィルタと呼ばれるバンドパスフィルタ等の照明波長選択手段22と、投光手段23と、校正用測定サンプル30と、を備えている。また、受光手段40と、蛍光フィルタと呼ばれるバンドパスフィルタ等の受光波長選択手段41と、光電子増倍管等の光電変換装置42と、AD変換手段43と、を備えている。さらに、投光手段23及び受光手段40を移動させる移動手段50と、移動手段50を制御するコントローラ51と、を備えている。
【0010】
照明制御手段20は、照明手段21の調光制御、ON/OFF制御を行うものであり、図示しないバスを介してチップセット12に接続されている。
照明手段21から出力される照明は、照明波長選択手段22の分光透過率特性によって波長帯域が限定され、投光手段23を介して測定対象に照射される。
測定対象が発する蛍光は、受光手段40を介して受光波長選択手段41に入力され、受光波長選択手段41の分光透過率特性によって限定された波長帯域の光が光電変換装置42に入力される。
【0011】
光電変換装置42は、入力された微弱光を増幅し、電流や電圧等の電気信号に変換してAD変換手段43に入力する。
AD変換手段43は、電流や電圧等のアナログ値としての電気信号をデジタル値に変換し、図示しないバスを介してチップセット12に出力する。
チップセット12は、AD変換手段43から入力されたデジタル値をメモリ11に格納し、以降、取得したデジタルデータは、図示しないソフトウェアの管理下に置かれることになる。
【0012】
なお、投光手段23及び受光手段40は、例えば二分岐光ファイバのように物理的に連結されているものであり、これらは移動手段50によって移動することができる。
移動手段50は、コントローラ51から入力される各種制御命令に基づき移動する。例えば、校正を行うときは校正用測定サンプル30の上に移動し、測定対象を測定するときは測定対象の上に移動する、といった具合であるが、本発明の本質的な部分ではないので詳細説明は割愛する。
【0013】
校正用測定サンプル30は、蛍光板31と、複数の光抑制手段32、33、34と、遮光板35と、から構成されている。蛍光板31は、蛍光プレートや蛍光ガラス等と称されている蛍光材料が一般に入手可能であり、光抑制手段32、33、34としては、NDフィルタが好適であり、各光抑制手段32、33、34の透過率は、夫々、T1、T2、T3に設定されている。遮光板35は、光抑制手段32、33、34を固定するための単なる黒色板である。
【0014】
次に、光電変換装置の校正方法について、図2を用いて説明する。
照明手段21から、分光放射率I(λ)の照明が分光透過率α(λ)の照明波長選択手段22に入力された場合、投光手段23には∫(I(λ)・α(λ))dλで表される光が入力される。以下、I(λ)を単にIと表記し、α(λ)を単にαと表記し、∫(I(λ)・α(λ))dλを単にIαと表記する。
【0015】
投光手段23の分光透過率(例えば光ファイバ素線の分光透過率のこと)をpとすると、投光手段23からは、Iαpの光が光抑制手段32に照射されることになる。
光抑制手段32の分光透過率をTとすると、蛍光板31には、IαpTの光が照射されることになる。
蛍光板31の蛍光スペクトルをRとすると、蛍光板31は、IαpTの光を入力し、IαpTRの光を出力することになる。ここで、Rを蛍光スペクトルとしたが、さらに厳密には、蛍光を含んだ反射光の分光反射率である。
【0016】
蛍光板31が出力する蛍光を含む反射光IαpTRは、もう一度光抑制手段32を通過するので、受光手段40には、IαpT2Rの光が入力される。
受光手段40の分光透過率をqとすると、受光波長選択手段41にはIαpT2Rqの光が入力される。
受光波長選択手段41の分光透過率をβとすると、光電変換装置42にはIαpT2Rqβ=(IαβpqR)T2の光が入力される。
【0017】
光電変換装置の分光感度をkとすると、AD変換手段43には(IαβpqRk)T2の電気が入力される。
したがって、AD変換手段43からは(IαβpqRk)T2に由来するデジタル値が出力されることになる。
ここで、I、α、β、p、q、R、kの夫々が一定であると仮定すると、AD変換手段43から出力されるデジタル値は、光抑制手段32の透過率の二乗(T2)に比例する、というモデルが成立する。
【0018】
例えば、図3のように感度の異なる光電変換装置から得られる生データ(厳密にはAD変換後の電圧等のデジタル値)は、光抑制手段32の透過率の二乗と高い相関を示すはずであるから、生データを光抑制手段32の透過率の二乗(T2)の座標空間にマッピングすれば、異なる感度特性を有する光電変換装置で同じ測定対象を測定した場合に、同程度の値が得られるようになるはずである。
【0019】
また、図4のように同じ光電変換装置を使用しているとしても、照明手段が経時変化すれば、光電変換装置から得られる生データの値は照明手段の強度変化に応じて変化するはずであるが、定期的に生データを光抑制手段32の透過率の二乗(T2)の座標空間にマッピングする校正を行えば、経時変化の影響を最小限に抑えた結果が得られるようになるはずである。
【0020】
図5は、透過率の二乗の座標空間にマッピングした実験データである。
これは、蛍光板上に透過率25%、40%、50%の3種類のNDフィルタを載せた校正用測定サンプルを用意し、感度の異なる複数の光電変換装置で各校正領域を測定して得られた生データ(電圧)と、NDフィルタの透過率の二乗の相関を調べた結果である。なお、DARKというのは、黒色遮光板(透過率0%)のことである。
【0021】
ここで、透過率50%のNDフィルタ上から得られた生データは、同じ型番の光電子増倍管であっても2.576、4.056、3.034[Volt]という違いがある。なお、光電子増倍管の特性上、その感度は10の何乗のオーダまでの精度しか保障されないのが一般的なので当然といえば当然の結果である。
【0022】
しかし、どの光電子増倍管もNDフィルタの透過率の二乗とは高い相関を示しているので、光電変換装置の生データV[Volt]を、T2=aV+b[%2]のように光抑制手段の透過率の二乗(T2)に変換し、変換後のT2を測定結果として採用すれば、仮に一つの装置内に感度の異なる複数の光電変換装置が備えられているとしても、同程度の測定結果を得ることが可能となる。
【0023】
図6は、校正前と校正後とを比較した実験データである。
これは、一つの装置内に2系統の測定系を備える微弱蛍光検出装置3装置(装置A、装置B、装置C)、即ち、合計6系統の測定系で、蛍光強度の異なる3種類のサンプルを測定して得られた校正前の測定結果(図6(A))と、校正後の測定結果(図6(B))を示した図であり、校正前では光電変換装置の感度の固体差による測定結果の違いが顕著であるのに対して、校正後は1装置内の測定系の測定結果、装置間の測定系の測定結果が同程度になっている効果が確認できる。
【0024】
このように、蛍光板31上に複数の光抑制手段32、33、34を設け、夫々の箇所を測定したときに、光電変換装置42から出力されるアナログ値をAD変換手段43によってデジタル値とし、このデジタル値を、光抑制手段32、33、34の透過率の二乗の座標空間にマッピングすることで、一装置内の複数の光電変換装置の感度を校正することができる。
【0025】
装置A、装置B、装置Cは同じタイミングで製作したものであり、故に、各装置の蛍光板やNDフィルタ等の構成部品は同ロットで製造されたものであるため、上記の校正を行っただけで、装置A、装置B、装置Cの機体差は最小限に抑えることができたものと思われる。
【0026】
ところが、装置を長期間保守する場合、装置内のある部品が寿命を迎え、部品交換の必要が生じる時期が必ず来る。また、新規に装置を製作する場合は装置の構成部品を調達する必要が生じることになる。このとき、同じ型番の部品を入手するのが好ましいことは言うまでもないが、同部品が製造中止となっており、代替品を使わざるを得ないケースも想定される。あるいは、同じ型番の部品が入手できたとしても、異なるロットで製造されたものであるため、上記の校正だけでは不十分な可能性が残る。
【0027】
例えば、図2において、異なるロットで製造されたNDフィルタを使用する場合は、校正用測定サンプルそのものの特性が装置間で異なることになる。通常、NDフィルタの特性は、光学濃度OD(Optical Density)で定義されており、透過率Tとは、OD=log10(1/T)という関係がある。そして、NDフィルタの固体差は、「濃度公差:±10%」といった表現で定義されるのが一般である。
【0028】
つまり、透過率50%のNDフィルタの場合、その光学濃度は0.3であり、濃度公差:±10%ということは、光学濃度が0.27から0.33のばらつきがある、ということである。光学濃度0.27は透過率53.7%、光学濃度0.33は透過率46.7%に相当するので、透過率に換算すると、46.7%から53.7%のばらつきがあることになる。
よって、NDフィルタ等の校正用測定サンプルそのものの固体差を校正する方法が必要になる。
【0029】
そこで、上記校正を行った上で、さらに、この校正結果を変換する機能を有しておくことが好ましい。即ち、既に説明した第1の校正方法で生データV[Volt]をT2=aV+bの形で透過率の二乗T2[%2]に変換し、さらに、T2をT’=AT2+B、T’=A(T22+BT2+C等のように一次式や多項式で変換する第2の校正方法を装置のソフトウェアの機能として備えておくことが好ましい。
【0030】
この第2の校正方法は、NDフィルタ等の校正用測定サンプルそのものの固体差だけではなく、ワークディスタンス(測定対象と投光/受光手段の距離)の差、各種校正部品の取り付け精度、その他諸々の影響をもキャンセル可能な手段となる。
【符号の説明】
【0031】
10 CPU
11 メモリ
12 チップセット
13 入力手段
14 出力手段
15 ハードディスク
20 照明制御手段
21 照明手段
22 照明波長選択手段
23 投光手段
30 校正用測定サンプル
31 蛍光板
32 光抑制手段
33 光抑制手段
34 光抑制手段
35 遮光板
40 受光手段
41 受光波長選択手段
42 光電変換装置
43 AD変換手段
50 移動手段
51 コントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光板と、該蛍光板上に配設された透過率の異なる複数の光抑制手段と、を備えた校正用測定サンプルに対して光検出を行い、当該光検出結果を、前記光抑制手段における透過率の二乗に基づいて校正することを特徴とする光電変換装置の校正方法。
【請求項2】
前記光検出結果を、前記光抑制手段の透過率における濃度公差に基づいて校正することを特徴とする請求項1に記載の光電変換装置の校正方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−208997(P2011−208997A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−74898(P2010−74898)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】