説明

光電気化学電極及びそれを用いた光電気化学処理方法

【課題】光電気化学反応セルにおいて用いられる光電気化学電極11を提供すること。また効率的な光電気化学処理方法を提供すること。
【解決手段】透光性基材12と、前記透光性基材上に配置された可視光を吸収する半導体光吸収層14と、前記半導体光吸収層表面に配置された触媒成分17からなる光電気化学電極であって、前記半導体光吸収層の導電性を制御するために添加される不純物元素の含有量が、前記半導体光吸収層の膜厚方向において一様ではなく、かつ前記透光性基材と接している側の不純物濃度よりも前記触媒成分と接している側の不純物濃度が低いことを特徴とする光電気化学電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、可視光エネルギーを併用した電気化学反応処理において用いられる光電気化学電極に関し、特に含有される不純物濃度が一様でない半導体材料からなる光吸収層と、その表面に配置された粒子形状の触媒成分からなる。本発明の光電気化学電極及びそれを用いた光電気化学処理方法は、可視光利用効率が従来電極よりも向上するため、太陽光などを用いた光電気化学処理において触媒反応効率を高めることに適している。
【背景技術】
【0002】
触媒材料を用いて電気や光のエネルギーを化学エネルギーに変換する技術は、創エネルギー技術の一つとして盛んに研究開発がなされている。例えば、触媒作用を有する銅(Cu)や白金(Pt)などの金属材料を反応電極とし、電気化学反応によって水(H2O)や二酸化炭素(CO2)から化学エネルギー物質である水素(H2)や蟻酸(HCOOH)、炭化水素などの有機物成分を生成することは古くより取り組まれている。さらに近年は、光触媒作用を有する材料を反応電極に用いて化学エネルギー物質を生成する光電気化学的な手法も光エネルギーを有効利用する観点から注目されている。
【0003】
図4は光触媒材料を光反応電極として用いた光電気化学セル40の模式図であり、適切なバイアス電圧印加のもと、光触媒材料からなる光反応電極41に光を照射することで、例えばH2Oから水素(H2)と酸素(O2)を発生させることが可能となる。このような光反応電極41として用いられる材料としては、酸化チタン(TiO2)、酸化亜鉛(ZnO)、チタン酸ストロンチウム(SrTiO3)、チタン酸バリウム(BaTiO3)、硫化カドミウム(CdS)、窒化ガリウム(GaN)、リン化ガリウム(GaP)、炭化ケイ素(SiC)などが知られているが、とりわけ顕著な光触媒反応を示す材料はTiO2である。TiO2を用いた光電気化学電極及びそれを用いた光電気化学処理に関する報告例は非常に多数あり、水素生成以外にもアルコール等の有機物質生成も可能であることが開示されている(例えば、特許文献1、非特許文献1)。
【0004】
しかしながら、光触媒として用いられる従来半導体材料はその禁制帯幅(バンドギャップEg)が比較的大きな物質であり、例えばTiO2(アナターゼ型)のEg値は約3.2eVなので、利用可能な光は紫外線などの短波長光に限定される。その結果、太陽光などを光電気化学反応に利用しようとした場合、触媒反応効率が充分でなかった。
【0005】
これを改善するために、TiO2と比較してEg値が小さな光触媒半導体を作製し、光反応電極としてそれら材料の単層膜あるいは積層膜を用いることで、より長波長側の光を利用する方法が検討されている(特許文献2、3)。この方法によれば、TiO2よりも広い波長域の光が利用可能となるため、実用上有利な面を持っている。
【0006】
さらに他の取り組みとして、主に可視光吸収を担う半導体材料の表面に、電気化学反応において優れた特性を有する触媒材料を担持し、半導体層内で生成された光キャリアの一部を利用して触媒反応を効率的に得る、光吸収層−触媒反応領域分離型光電気化学電極の構成も報告されている(非特許文献2)。この報告によれば、光を照射せずに実施した電気化学反応のときよりも、可視光を吸収する半導体層表面に微粒子状の金属触媒材料を担持することで作用する、光照射効果を付加した光電気化学反応のときの方が、触媒反応に必要なバイアス電圧量を低減できることが示されている。図5にこの光吸収層−触媒反応領域分離型光電気化学セルの模式図を示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開昭55−105625号公報
【特許文献2】特開昭60−118239号公報
【特許文献3】特開2003−154272号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】ネィチャー 277号 637頁(1979)
【非特許文献2】ジャーナル・オブ・フィジカル・ケミストリー B 102号974頁(1998)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記の様に、各種材料が有する触媒作用を利用した有用エネルギー物質生成は、創エネルギー技術として期待されるが、光エネルギーを利用しない電気化学反応のみではエネルギー変換に必要なバイアス電圧の低減が困難な状況である。一方、光エネルギーを利用する光電気化学反応では、印加バイアス量の低減が可能となり得るが、TiO2のような従来光触媒材料はEg値が大きいため可視光利用ができなかった。また可視光に対応させるためにEg値を狭域化した他の光触媒材料では充分な光触媒反応を得られておらず、可視光の有効利用と高触媒反応性を両立することが困難であった。
【0010】
またその課題を解決する手段として、可視光吸収する半導体光吸収層上に反応性の高い触媒材料を担持する光吸収層−触媒反応領域分離型光電気化学電極が提案されており、光照射の効果として印加バイアス電圧の低減、すなわち触媒反応効率の向上が得られているが、現構成では光吸収により半導体層中に生成される光励起キャリアの内、有効に触媒反応に関与するキャリア数が律速しているため、充分にその利点を活かすことができていないといった課題があった。
【0011】
本発明は光電気化学反応セルにおいて用いられる光吸収層−触媒反応領域分離型光電気化学電極の課題を解決するもので、半導体光吸収層内で生成される光キャリアを効率的に触媒反応領域に供給することによって、触媒反応特性をさらに向上させることが可能な光電気化学電極、及びそれを用いた光電気化学処理方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記従来の課題を解決するために、本発明の光電気化学電極は透光性基材と、前記透光性基材上に配置された可視光を吸収する半導体光吸収層と、前記半導体光吸収層表面に配置された触媒成分からなる光電気化学電極であって、前記半導体光吸収層の導電性を制御するために添加される不純物元素の含有量(不純物濃度)が前記半導体光吸収層の膜厚方向において一様ではなく、かつ前記透光性基材と接している側の不純物濃度よりも前記触媒成分と接している側の不純物濃度が低いことを特徴としている。本構成により、不純物濃度が一様な従来半導体光吸収層を用いた場合よりも、優れた光電気化学反応特性を有した光電気化学反応セルを構成することが可能となる。とりわけ、p型の導電性を有する半導体光吸収層に還元性触媒を担持した場合は還元性光電気化学反応電極として、またn型の導電性を有する半導体光吸収層に酸化性触媒を担持した場合は酸化性光電気化学反応電極として顕著な効果を得ることができる。
【0013】
さらに本構成において、前記半導体光吸収層の厚さが100nm以上、10μm以下であることが好ましい。とりわけ、前記半導体光吸収層の厚さが500nmから5μmの範囲であることが好適である。本構成により、充分な光吸収量を確保しつつ、かつ直列抵抗成分の影響を抑制した光電気化学電極を作製することができる。
【0014】
さらに本構成において、前記触媒成分が粒子形状であることが好ましい。とりわけ、触媒粒子の平均サイズが100nm以下、望ましくは10〜30nm程度であることが好適である。本構成により、触媒として作用する反応面積を大きくすることが可能になると共に、半導体光吸収層への光照射も両立できる。
【0015】
前記従来の課題を解決するために、本発明の光電気化学処理方法は透光性基材と、前記透光性基材上に配置された可視光を吸収する半導体光吸収層と、前記半導体光吸収層表面に配置された触媒成分からなる光電気化学電極を用いた光電気化学処理方法であって、前記光吸収層の導電性を制御するために添加される不純物元素の含有量(不純物濃度)が前記半導体光吸収層の膜厚方向において一様ではなく、かつ前記透光性基材と接している側の不純物濃度よりも前記触媒成分と接している側の不純物濃度が低い半導体光吸収層を有する光電気化学電極に対して、可視光を透光性基板側より照射することからなる。
【0016】
本処理方法により、光吸収半導体層表面に配置される触媒量を増加させることが可能となるため、より効率的な光電気化学反応処理が可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光電気化学電極によれば、従来利用が困難であった可視域の光を吸収し、触媒領域へ光励起キャリアを効率的に供給することが可能な半導体光吸収層と、供給されたキャリアより効率的に触媒反応する触媒領域に機能分離されている。よって、この光電気化学電極を用いて光電気化学反応を実施すれば、低い印加バイアス電圧下で効率的な還元反応あるいは酸化反応が得られる光電気化学処理を実施することができる。
【0018】
さらに透光性基材上に適切な不純物濃度と厚さを有する半導体光吸収層を形成した光電気化学電極では、光の照射方向として基材側からも可能となるため、光透過しない触媒材料を半導体光吸収層表面に多数配置することが可能になる。その結果、触媒作用による有用エネルギー物質生成量を増加させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の光電気化学電極を用いた光電気化学セルの模式図
【図2】本発明と従来技術の光電気化学電極表面の断面構造図およびエネルギーバンド図
【図3】本発明の光電気化学電極を用いられる半導体光吸収層に含有される不純物元素の濃度プロファイル図
【図4】光触媒材料を光反応電極として用いた光電気化学セルの模式図
【図5】光吸収層−触媒反応領域分離型光反応電極を用いた光電気化学セルの模式図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。図1は本発明における光電気化学電極11を用いた光電気化学セル10の構成を概念的に示した模式図である。図1(a)は光を光電気化学電極11表面側、すなわち触媒成分を配置した側から照射した場合、図1(b)は光を光電気化学電極11裏面側、すなわち透光性基材側から照射した場合を示している。いずれの場合も本発明の光電気化学電極11は、透光性基材12(透明導電膜13)と、可視光を吸収する半導体光吸収層14と、前記半導体光吸収層表面に配置された触媒成分17からなる。
【0021】
透光性基材12は光を透過し、半導体光吸収層14に光が充分に到達する材質であれば良く、特に限定されるものはないが、ガラスや石英基板が好適である。また光電気化学電極11を作製するプロセスにおいてガラス材料の適用が困難な場合は、サファイアなども好適な材料として挙げることができる。
【0022】
透光性基板上に配置される半導体光吸収層14は、可視光吸収が可能な材料という観点から、そのバンドギャップEg値が2.5eV以下の半導体材料からなり、とりわけEg値が0.7〜2.0eV程度のものが好ましい。この観点から具体的な半導体材料例としては、シリコン(Si)やガリウム砒素(GaAs)、ガリウムリン(GaP)、インジウムリン(InP)、セレン化銅インジウム化合物(CuInSe2:CIS)などを挙げることができる。一般的にこれらの半導体材料には導電性を制御するための不純物元素が添加されており、ドナーを形成する不純物元素を添加すればn型に、アクセプタを形成する不純物元素を添加すればp型になる。本発明において、この半導体光吸収層14に添加されている不純物濃度は膜厚方向において一様ではなく、透光性基材12と接している側は高不純物濃度領域15(すなわち、低抵抗領域)であり、触媒成分17と接している側は低不純物濃度領域16(すなわち、高抵抗領域)となっている。それぞれの領域に含有される不純物濃度Nは用いる半導体材料や触媒材料などに依存するため一概には規定できないが、高不純物濃度領域15では概ねN=1×1017−19cm−3程度、低不純物濃度領域16では概ね、N=1×1013−15cm−3程度である。また膜厚も同様に光吸収層として用いる半導体材料に依存するため一概には規定できないが、高不純物濃度領域15は最大で10μm程度、低不純物濃度領域16は概ね、50nm〜1μm程度である。
【0023】
また触媒材料17は、所望の触媒反応を得ることが可能な材料より選択されるものであり、一般的には触媒性能の高い金(Au)や銅(Cu)などの金属材料及びそれらの合金材料、ナノサイズ炭素材料などで構成される。その形状は粒子状であることが好ましく、その平均サイズは概ね100nm以下で、とりわけ10〜30nmであることが取扱いや効果の点で好適である。
【0024】
半導体光吸収層表面に触媒材料17を形成する方法は特に限定されないが、予め粒子化された触媒材料を塗布しても良いし、半導体表面に触媒前駆体物質を形成した後、何らかの処理(例えば、熱処理など)で触媒化しても良い。例えば、触媒作用を示す金属材料の酸化物粒子を半導体表面に塗布した後、還元処理することも好適な形成方法の一つである。
【0025】
図2(a)は本発明における光電気化学電極表面の断面構造模式図であり、図2(b)は半導体光吸収層としてp型半導体を用い、触媒材料として金属材料を担持した場合のエネルギーバンド図である。また図2(c)(d)は一様な不純物濃度を有する半導体光吸収層を用いた従来型の光電気化学電極表面の断面構造模式図とエネルギーバンド図である。図2(b)(d)のエネルギーバンド図に示すように、一般的な触媒金属材料をp型半導体層に接合させたときには、その界面にショットキー接合が形成され、図のような空乏層領域においてバンドベンディングが生じる。光を触媒材料が配置された側から照射する場合、触媒材料で被覆されていない半導体領域においてバンドギャップ以上のエネルギーを有する光が半導体光吸収層21で吸収され、その結果、キャリア励起により半導体層の価電子帯に正孔24が、伝導帯に電子25が生成される。その中でバンドベンディングが起こっていない領域(半導体層内部)で生成された電子と正孔は拡散による移動しかできないため、再結合によって消滅する確率が高くなり、触媒反応に寄与するキャリア(図2では電子)を触媒領域に供給する効率が低下する。一方、バンドベンディングが生じている半導体表層領域(空乏層領域)では、キャリアが電界によってドリフト移動できるため、再結合確率が低下する、すなわち効率的に触媒領域へキャリアを供給することが可能になる。故に、半導体層で生成されたキャリアを効率的に触媒領域に供給するためには、言い換えれば照射光の利用効率を向上させるためには、ある程度空乏層幅Wを広くすることが重要である。半導体−金属界面(ショットキー界面)に形成される空乏層幅Wは、半導体材料の比誘電率、不純物濃度、及び各種材料の仕事関数などで決まるが、使用する材料が決まった場合、半導体材料の不純物濃度Nに依存し、W値は半導体に含有される不純物濃度(正確にはドナーあるいはアクセプタ濃度)の平方根に反比例する(W∝√(1/N))。
【0026】
さて図2(c)に示した従来構成の光電気化学電極の場合、半導体光吸収層21を構成している半導体層は一様な不純物濃度である。その際、この半導体光吸収層は電極としても作用するため、全体的に低抵抗、すなわち半導体材料に含有される不純物濃度が高いものが好適である。しかしながら、低抵抗な高不純物濃度の半導体材料を光電気化学電極に用いた場合、触媒材料との界面に形成される空乏層幅Wが薄くなってしまう。その結果、光励起によって半導体層内部に生成されたキャリアの多くが再結合によって消滅するため、有効に利用されにくくなる。一方、単純に空乏層幅Wを広げるために不純物濃度を小さくした場合、半導体層が高抵抗化するためセル回路の直列抵抗成分となり、結果、反応効率の低減をまねく。よって、この観点より、半導体光吸収層の膜厚方向において不純物濃度に分布を持たせることが重要となる。
【0027】
以上の観点から本発明に係る光電気化学電極は、半導体−金属界面に形成される空乏層幅を広くするために、図2(a)のように透光性基材12側の半導体層を高不純物濃度領域(低抵抗領域)23とし、触媒材料17が形成されている側の半導体層に含有される不純物濃度を下げて、低不純物濃度領域(高抵抗領域)22とする。結果として、全体的な直列抵抗成分の増加を抑制しつつ、光の利用効率を高め、触媒反応を向上させることが可能になる。
【0028】
本構成において用いられる半導体光吸収層31としては、不純物濃度が異なる層を2層積層(図3(a))しても良いし、さらに多段積層(図3(b))してもよい。また半導体中の不純物濃度が連続的に低下するように半導体層中のドーピング濃度を変化させてもよい(図3(c))。また実質的に透光性基材側の不純物濃度が高く、触媒材料側の不純物濃度が低くなっているのならば、必ずしも単調に不純物濃度が変化する必要はない(図3(d))。
【0029】
また図2では触媒材料が担持されてる方向から光照射した様子を示しているが、この場合、半導体光吸収層上に配置された光不透過の触媒材料によって光が遮断されるため、半導体光吸収層に届く光量が低減してしまう。故に透光性基板側より光を照射する構成にすることより、この遮蔽の影響を軽減することができる。しかしながら透光性基材側から光照射する場合、半導体光吸収層全体の膜厚が厚すぎると、励起キャリアが再結合する確率が高くなってしまう。故に半導体光吸収層全体の膜厚を制御すると共に、半導体−金属界面に形成される空乏層幅を広げるために、図3に示した例のような不純物元素の濃度プロファイルを有した半導体光吸収層を形成することで、基材側からの光照射が可能となる。その結果本構成では、触媒材料による半導体光吸収層表面の被覆率に対する制約がなくなるため、触媒材料の担持量を大幅に増やすことができる。故に、触媒反応面積が増大し、得られる反応量が向上する。
【0030】
以下、本発明の実施例および比較例に基づいて具体的に説明するが、以下の実施例は本発明の実施態様の一部を例示するものにすぎず、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
<実施例1>
厚さが1mmのガラス基板の片面に酸化インジウムスズ膜(ITO:透明導電膜)が形成された基材上に膜厚5μmのp+型シリコン(Si)層(電気抵抗率ρ:0.02Ω・cm、不純物濃度N:5×1018cm−3)と、膜厚が200nmのp形Si層(ρ:10Ω・cm、N:1×1015cm−3)を積層し、半導体光吸収層14を形成した。さらにこの半導体光吸収層14の表面に、粒子径が20−30nmの酸化銅(CuO)粒子を約1×1010個/cm2の分布密度で塗布後、還元処理することで銅(Cu)微粒子化し、本発明にかかる光電気化学電極11を作製した。この光電気化学電極11を用いて、図1のような光電気化学セル10を構成した。対向電極18には白金(Pt)を、電解液には0.1Mの炭酸水素カリウム(KHCO3)水溶液に二酸化炭素を飽和させたものを準備した。
【0032】
光照射しない状態でポテンショスタットによって電圧を印加し、電気化学処理を行なった所、およそ−1.2V vs.SCEのバイアス電圧で触媒反応電流が観測され始め、水素やメタンなどが生成されることが確認された。さらにタングステン−ハロゲンランプより太陽光スペクトルに模した光(AM1.5、100mW/cm2相当)を光電気化学電極11の表面(触媒側)に照射し、光電気化学処理を行なったところ、同様の反応生成物が得られると共に、光照射により触媒反応に必要な印加バイアス量(−0.6V vs.SCE)が低減し、効率的に触媒反応が起こっていることが確認された。
【0033】
<比較例1−1>
ITO膜が形成されたガラス基板上に半導体光吸収層として膜厚が5.2μmのp+形Si層(ρ:0.02Ω・cm、N:5×1018cm−3)のみを形成して、実施例1と同様の光電気化学処理を行なった。その結果、実施例1と同様に光照射効果は得られたものの、半導体光吸収層−金属触媒界面に形成される空乏層の厚さが薄くなり、触媒領域への供給キャリア数が減少したため、反応電流が低下した。
【0034】
<比較例1−2>
ITO膜が形成されたガラス基板に半導体光吸収層として膜厚が5.2μmのp形Si層(ρ:10Ω・cm、N:1×1015cm−3)のみを形成して、実施例1と同様の光電気化学処理を行なった。その結果、実施例1と同様に光照射効果は得られたものの、半導体光吸収層の直列抵抗成分が大きいため、触媒反応に必要なバイアス電圧の増加と反応電流の飽和が観測された。
【0035】
<実施例2>
厚さが1mmのガラス基板の片面にITO膜が形成された基材上に膜厚が5μmのp+形Si層(ρ:0.02Ω・cm、N:5×1018cm−3)と、膜厚が200nmのp形Si層(ρ:10Ω・cm、N:1×1015cm−3)を積層し、半導体光吸収層14を形成した。さらにこの半導体光吸収層14の表面に、粒子径が20−30nmのCuO粒子を約1×1011個/cm2の分布密度で塗布後、還元処理することでCu微粒子化し、本発明にかかる光電気化学電極11を作製した。その結果、Cu微粒子が半導体光吸収層14表面にほぼ隙間無く配置された。この光電気化学電極11を用いて図1のような光電気化学セルを構成し、触媒材料が配置された半導体表面側と透光性基材12側から光照射を行なった場合の光電気化学測定を実施した。その結果、触媒材料が配置された側から光照射した場合は半導体光吸収層14にほとんど光が透過しないため、光照射効果は得られなくなったが、透光性基材側から光照射した場合は、半導体光吸収層14での光吸収が可能であるため、効率的な触媒還元反応を得ることができた。さらに半導体光吸収層表面14に担持したCu微粒子触媒の量を増やしているため、実施例1と比較して数倍程度の反応電流が得られることが確認された。
【0036】
<比較例2−1>
ITO膜が形成されたガラス基板に膜厚が20μmのp+形Si層(電気抵抗率が0.02Ω・cm、N:5×1018cm−3)と、膜厚が200nmのp形Si層(ρ:10Ω・cm、N:1×1015cm−3)を積層し、実施例2と同様の光電気化学処理を行なった。その結果、実施例2と同様に光照射効果は得られたものの、半導体光吸収層の厚さが厚くなり、触媒領域に供給されるキャリア数が減少するため、触媒反応電流量が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0037】
本発明にかかる光電気化学電極は、水や二酸化炭素などの反応物質を光電気化学反応によって還元処理及び酸化処理するための光電気化学セルに適用可能である。
【符号の説明】
【0038】
10 光電気化学セル
11 光電気化学電極
12 透光性基材
13 透明導電膜
14 半導体光吸収層
15 高不純物濃度領域
16 低不純物濃度領域
17 触媒材料
18,42,54 対向電極
19,43,55 参照電極
110,44,56 電解液
111,45,57 電源(ポテンショスタット)
112,46,58 攪拌子
21,31 半導体光吸収層
22 低不純物濃度領域
23 高不純物濃度領域
24 正孔
25 電子
26 触媒材料
40 光電気化学セル
41 光反応電極(光触媒材料)
50 光電気化学セル
51 光反応電極(光吸収層−触媒反応領域分離型)
52 半導体光吸収層
53 金属触媒微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光性基材と、
前記透光性基材上に配置された可視光を吸収する半導体光吸収層と、
前記半導体光吸収層表面に配置された触媒成分と、を具備し、
前記半導体光吸収層の膜厚方向において、前記半導体光吸収層に添加される不純物元素の含有量が、前記透光性基材と接している側の不純物濃度よりも前記触媒成分と接している側の不純物濃度が低い、光電気化学電極。
【請求項2】
前記半導体光吸収層の厚さが、100nm以上、10μm以下である、請求項1記載の光電気化学電極。
【請求項3】
前記触媒成分が、粒子形状である、請求項1記載の光電気化学電極。
【請求項4】
透光性基材と、触媒成分と、前記透光性基材と前記触媒成分との間に配置され、膜厚方向において、添加される不純物元素の含有量が、前記透光性基材と接している側の不純物濃度よりも前記触媒成分と接している側の不純物濃度が低い半導体光吸収層と、を具備する光電気化学電極に対して、可視光を透光性基板側から照射し、前記触媒成分により触媒反応を起こす、光電気化学処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−102426(P2011−102426A)
【公開日】平成23年5月26日(2011.5.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−258583(P2009−258583)
【出願日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】