説明

光電流検出用電極及びその製造方法並びに作用電極基板

【課題】高い再現性で、被検物質を検出することができる電極及び作用電極基板並びに簡便な操作で前記電極を得ることができる製造方法を提供する。
【解決手段】光電流検出用電極において、励起光が照射されることにより前記検出物質から生じた電子を受容する半導体からなる電極本体と、金属からなる金属層との間に、リンカー分子を含む密着層を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光電流検出用電極及びその製造方法並びに作用電極基板に関する。本発明は、より詳しくは、核酸、タンパク質等の被検物質の検出や定量等や、これらを利用する疾病の臨床検査、診断等に有用な、光電流検出用電極及びその製造方法並びに作用電極基板に関する。
【背景技術】
【0002】
疾病の臨床検査や診断は、生体試料中に含まれる前記疾病に関連する遺伝子やタンパク質等を、遺伝子検出法や免疫学的検出法等の検出法によって検出することにより行なわれている。かかる臨床検査や診断を行なうための方法として、光化学的に活性な標識物質を光励起させることにより生じる光電流を、核酸、タンパク質等の被検物質の検出に利用する光化学的検出方法が提案されている。ここで、臨床検査や診断では、検体に含まれる微量な被検物質を検出する必要があるため、被検物質の検出感度の向上が求められている。
【0003】
例えば、特許文献1には、半導体層と被検物質を捕捉する捕捉物質とを含む光電流検出用電極を備えた光電流検出チップにおいて、半導体層と捕捉物質との間に金属層を設けることにより、光電流検出チップによる被検物質の検出感度を向上させることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2010−133933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の光電流検出チップを用いると、稀に検出感度や測定の再現性が低下する場合があった。本発明者等は、この検出感度や再現性の低下の原因を調査した結果、特許文献1の光電流検出チップは、金属層が半導体層から剥離する場合があり、これが検出感度や再現性の低下を引き起こすことを見出した。例えば、金属層への被検物質以外の物質の非特異的吸着を抑制して検出感度を向上させるために、金属層にブロッキング処理を施した場合には、金属層の剥離が生じることがある。また、被検物質がDNAであり、かつ捕捉物質として核酸プローブを用いる場合には、捕捉物質による被検物質の捕捉や被検物質以外の物質の除去の際に、加熱条件下でのハイブリダイゼーション及び洗浄が行なわれる。ところが、半導体と金属との間の接着力は、加熱により弱くなりやすいため、ハイブリダイゼーション中に、金属層の剥離が生じることがある。このように、特許文献1に記載の光電流検出チップにおいて、前述のような、金属層の剥離が生じた場合には、この金属層上の捕捉物質がとれてしまい、検出感度や測定の再現性の低下を招くおそれがある。
【0006】
本発明は、前述の事情に鑑みてなされたものであり、検出感度及び再現性の高い光電流検出用電極及び作用電極基板並びに、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、半導体層と金属層とを、リンカー分子を用いて接着することで、上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、光励起により電子を生じる検出物質を光電気化学的に検出するために用いられる光電流検出用電極であって、
励起光が照射されることにより前記検出物質から生じた電子を受容する半導体からなる電極本体と、
前記電極本体上に形成されたリンカー分子を含む密着層と、
前記密着層上に形成された金属からなる金属層と
を含むことを特徴とする電極に関する。
【0009】
また、本発明は、光励起により電子を生じる検出物質を光電気化学的に検出するのに用いられる作用電極基板であって、
基板本体と、
光電流検出用電極と
を含み、
光電流検出用電極は、前記基板本体上に形成され、励起光が照射されることにより前記検出物質から生じた電子を受容する半導体からなる電極本体、この電極本体上に形成されたリンカー分子を含む密着層、及びこの密着層上に形成された金属からなる金属層を有する作用電極基板に関する。
【0010】
さらに、本発明は、光励起により電子を生じる検出物質を光電気化学的に検出するために用いられる光電流検出用電極の製造方法であって、
光励起により生じた電子を受容する半導体からなる電極本体に、リンカー分子を含む密着層を形成する工程、及び
前記密着層上に、金属層を形成する工程
を含む、光電流検出用電極の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の光電流検出用電極及び作用電極基板によれば、高い検出感度及び再現性で、被検物質を検出することができる。また、本発明の製造方法によれば、前記光電流検出用電極を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の一実施の形態に係る作用電極基板を用いて、被検物質を検出するための検出装置を示す斜視図である。
【図2】図1に示される検出装置の構成を示すブロック図である。
【図3】本発明の一実施の形態に係る作用電極基板を含む光電流検出チップを示す斜視図である。
【図4】(A)は図3に示される光電流検出チップのAA線での断面図である。(B)は図3に示される光電流検出チップの上基板(本発明の一実施の形態に係る作用電極基板に対応)を下面側から見た斜視図である。(C)は図3に示される光電流検出チップの下基板を上面側から見た斜視図である。
【図5】本発明の一実施の形態に係る作用電極基板を含む光電流検出チップ中の電極を含む部分の一例を模式的に表した断面説明図である。
【図6】本発明の一実施の形態に係る作用電極基板を含む光電流検出チップ中の電極を含む部分の変形例を模式的に表した断面説明図である。
【図7】(A)は上基板の変形例の平面説明図である。(B)は下基板(本発明の一実施の形態に係る作用電極基板に対応)の変形例の平面説明図である。
【図8】(A)は上基板の変形例の平面説明図である。(B)は下基板(本発明の一実施の形態に係る作用電極基板に対応)の変形例の平面説明図である。(C)は間隔保持部材の変形例の斜視図である。
【図9】本発明の一実施の形態に係る電極の製造方法の処理手順を示す工程説明図である。
【図10】本発明の他の実施の形態に係る電極の製造方法の処理手順を示す工程説明図である。
【図11】本発明の一実施の形態に係る電極を用いる被検物質の検出方法の処理手順を示す工程説明図である。
【図12】試験例3において、光電流測定の際の作用電極を含む部分の状態を示す概略説明図である。
【図13】試験例3において、被検物質濃度と光電流との関係を調べた結果を示すグラフである。
【図14】実験例1において、光電流を測定した結果を示すグラフである。
【図15】試験例5において、実施例8及び9それぞれで得られた作用電極基板を用い、光電流を測定した結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[検出装置の構成]
本発明の一実施の形態に係る作用電極基板を用いて、被検物質を検出するための検出装置の一例を添付図面により説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る作用電極基板を用いて、被検物質を検出するための検出装置を示す斜視図である。この検出装置1は、光化学的に活性な物質を標識物質として用い、光電気化学的に被検物質を検出する方法に用いる検出装置である。
【0014】
検出装置1は、光電流検出チップ20が挿入されるチップ受入部11と、検出結果を表示するディスプレイ12とを備えている。
【0015】
図2は、図1に示される検出装置の構成を示すブロック図である。検出装置1は、光源13と、電流計14と、電源15と、A/D変換部16と、制御部17と、ディスプレイ12とを備えている。
光源13は、光電流検出チップ20の作用電極上に存在させた標識物質に光を照射して当該標識物質を励起させる。光源13は、励起光を発生する光源であればよい。かかる光源としては、例えば、蛍光灯、ブラックライト、殺菌ランプ、白熱電球、低圧水銀ランプ、高圧水銀ランプ、キセノンランプ、水銀−キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED(白色LED、青色LED、緑色LED、赤色LED等)、レーザー(炭酸ガスレーザー、色素レーザー、半導体レーザー)、太陽光等が挙げられる。前記光源のなかでは、蛍光灯、白熱電球、キセノンランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、LED、レーザー又は太陽光が好ましい。前記光源のなかでは、レーザーがより好ましい。前記光源は、必要に応じて、分光器やバンドパスフィルタにより、特定波長領域の光のみが放出されるものであってもよい。
電流計14は、励起された検出物質から放出される電子に起因して光電流検出チップ20内を流れる電流を測定する。
電源15は、光電流検出チップ20に設けられた電極に対して所定の電位を印加する。
A/D変換部16は、電流計14によって測定された光電流値をデジタル変換する。
制御部17は、CPU、ROM、RAM等から構成されている。この制御部17は、ディスプレイ12、光源13、電流計14及び電源15の動作を制御する。また、制御部17は、A/D変換部16でデジタル変換された光電流値から、予め作成された光電流値と標識物質の量との関係を示す検量線に基づき、標識物質の量を概算し、被検物質の量を算出する。
ディスプレイ12は、制御部17で概算された検出物質の量等の情報を表示する。
【0016】
[光電流検出チップ及び作用電極基板の構成]
つぎに、本発明の一実施の形態に係る作用電極基板を含む光電流検出チップ20の構成を説明する。なお、本明細書において、「作用電極基板」とは、作用電極を備えた基板をいう。
【0017】
図3は、本発明の一実施の形態に係る作用電極基板を含む光電流検出チップを示す斜視図である。図4(A)は図3に示される光電流検出チップのAA線での断面図、図4(B)は図3に示される光電流検出チップの上基板(本発明の一実施の形態に係る作用電極基板に対応)を下面側から見た斜視図、図4(C)は図3に示される光電流検出チップの下基板を上面側から見た斜視図である。
【0018】
光電流検出チップ20は、上基板30と、上基板30の下方に設けられた下基板40と、上基板30と下基板40とに挟まれた間隔保持部材50とを備えている。光電流検出チップ20では、上基板30と下基板40とは、一側部において重複して配置されている。そして、上基板30と下基板40とが重複する部分には、間隔保持部材50が介在している。
【0019】
上基板30は、図4(B)に示されるように、基板本体30aと、作用電極61とを備えている。この基板本体30aには、検出物質を含む試料等を内部に注入するための試料注入口30bが設けられている。また、基板本体30aの表面には、作用電極61と、この作用電極61に接続されている電極リード71とが形成されている。上基板30においては、作用電極61は、基板本体30aの一側部〔図4(B)の左側〕に配置されている。電極リード71は、作用電極61から基板本体30aの他側部〔図4(B)の右側〕に向けて延びている。試料注入口30bは、基板本体30aにおいて、間隔保持部材50が介装される部分よりも内側に設けられている。
【0020】
基板本体30aは、矩形状に形成されている。なお、かかる基板本体30aの形状は、特に限定されるものではなく、多角形形状、円盤状等であってもよい。基板の作製及び取り扱いの簡便性の観点から、好ましくは矩形状である。
【0021】
基板本体30aを構成する材料としては、特に限定されないが、例えば、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド樹脂等のプラスチック類、金属等の無機材料等が挙げられる。これらのなかでは、光の透過性、十分な耐熱性、耐久性、平滑性等を確保し、かつ材料に要するコストを低減させる観点から、好ましくはガラスである。基板本体30aの厚さは、十分な耐久性を確保する観点から、好ましくは0.01〜1mm、より好ましくは0.1〜0.7mm、さらに好ましくは約0.5mmである。また、基板本体30aの大きさは、特に限定されないが、多種類の検出物質や被検物質の検出(多項目)を前提とした場合には項目数によるが、通常、20mm×20mm程度の大きさである。
【0022】
下基板40は、図4(C)に示されるように、基板本体40aと、対極66と、参照電極69とを備えている。基板本体40aは、上基板30の基板本体30aと略同寸法の矩形状に形成されている。基板本体40a及び基板本体30aは、必ずしも、同寸法である必要はない。
【0023】
基板本体40aを構成する材料は、光の透過性を有する材料であればよい。かかる材料としては、特に限定されないが、例えば、ガラス、ポリエチレンテレフタレート、ポリイミド樹脂等のプラスチック類、金属等の無機材料等が挙げられる。これらのなかでは、十分な光の透過性、耐熱性、耐久性、平滑性等を確保し、かつ材料に要するコストを低減させる観点から、好ましくはガラスである。基板本体40aの厚さ及び大きさは、前記上基板30の基板本体30aを構成する材料、基板本体30aの厚さ及び大きさと同様である。
【0024】
基板本体40aの表面には、対極66と、この対極66に接続された電極リード72と、参照電極69と、この参照電極69に接続された電極リード73とが形成されている。下基板40においては、対極66は、基板本体40aの一側部〔図4(C)の右側〕に配置されている。参照電極69は、基板本体40a上において、対極66と対向する位置に配置されている。対極66の電極リード72と参照電極69の電極リード73とは、それぞれ、基板本体40aの一側部〔図4(C)の右側〕から他側部〔図4(C)の左側〕へ向けて延びている。対極66及び参照電極69の各電極リード72,73は、基板本体40aの他側部〔図4(C)の左側〕において互いに並列するように配置されている。また、電極リード72,73は、上基板30と下基板40とが重複する部分からはみ出して外部に露出している〔図3及び図4(A)参照〕。
【0025】
つぎに、作用電極61、対極66及び参照電極69について、詳細に説明する。
図5は、本発明の一実施の形態に係る作用電極基板を含む光電流検出チップ中の電極を含む部分の一例を模式的に表した断面説明図である。作用電極61は、ほぼ四角形状に形成されている。作用電極61は、図5に示されるように、基板本体30a上に形成された作用電極本体としての半導体層62と、この半導体層62上に形成された密着層63と、この密着層63上に形成された金属層64と、この金属層64上に固定化された捕捉物質90とから構成されている。作用電極61の電極リード71は、半導体層62に接続されている。
【0026】
なお、本明細書において、「作用電極」の概念には、作用電極本体としての半導体層62と、密着層63と、金属層64とからなる電極を含む場合もある。
【0027】
半導体層62は、励起光が照射されることにより検出物質から生じた電子を受容する半導体からなる。この半導体層62は、導電層及び電子受容層として機能する。前記半導体は、光励起により検出物質から生じた電子の注入が可能なエネルギー準位をとり得る物質であればよい。ここで、「光励起により検出物質から生じた電子の注入が可能なエネルギー準位」とは、伝導帯(コンダクションバンド)を意味する。すなわち、半導体は、後述の標識物質の最低非占有分子軌道(LUMO)のエネルギー準位よりも低いエネルギー順位を有すればよい。かかる半導体としては、特に限定されないが、例えば、シリコン、ゲルマニウム等の単体半導体;チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタル等の酸化物を含む酸化物半導体;チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バナジウム、ニオブ酸カリウム等のペロブスカイト型半導体;カドニウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン、ビスマス等の硫化物を含む硫化物半導体;ガリウム、チタン等の窒化物を含む半導体;カドミウム、鉛のセレン化物からなる半導体(例えば、カドミウムセレナイド等);カドミウムのテルル化物を含む半導体;亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化合物からなる半導体;ガリウム砒素、銅−インジウム−セレン化物、銅−インジウム−硫化物等の化合物を含む半導体;カーボン等の化合物半導体又は有機物半導体等が挙げられる。なお、前記半導体は、真性半導体及び不純物半導体のいずれであってもよい。これらのなかでは、酸化物半導体が好ましい。前記酸化物半導体のうち、真性半導体のなかでは、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化タングステン、酸化タンタル及びチタン酸ストロンチウムが好ましい。また、前記酸化物半導体のうち、不純物半導体のなかでは、スズをドーパントとして含む酸化インジウム及びフッ素をドーパントとして含む酸化スズが好ましい。半導体層62の厚さは、通常、0.1〜1μm、好ましくは0.1〜200nm、より好ましくは0.1〜10nmである。
【0028】
密着層63は、リンカー分子を含む。リンカー分子は、半導体層62と検出物質との間の電子の授受を阻害せず、光電流の検出の際に用いられる励起光によるバックグランド電流を生じさせない化合物であり、半導体層62及び金属層64の両方と結合する化合物であればよい。すなわち、リンカー分子は、半導体層62と金属層64の極性(親水性、疎水性)の違いを緩和する化合物であればよい。例えば、半導体層62が金属層64と比較して親水度が高い場合、金属層64よりも親水度が高く、半導体層62よりも疎水度が高いリンカー分子を用いることができる。また、半導体層62を構成する半導体と結合する官能基と金属層64を構成する金属と結合する官能基とを有する化合物を用いることができる。かかるリンカー分子としては、例えば、シランカップリング剤;チタンカップリング剤;式(1):
1−X−R2 (1)
〔式中、R1はシラノール基、リン酸基、チオール基又はカルボキシル基を示し、R2はアミノ基、チオール基、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、エポキシ基、メタクリロイル基、アクリロイル基又はビニル基を示し、Xは式(2):
(CH2m (2)
(式中、mは1〜20の整数を示す)又は式(3):
【0029】
【化1】

【0030】
(式中、nは1〜100の整数を示す)
を示し、式(1)で示される分子中にアミド結合、エステル結合、エーテル結合又はジチオール結合を有していてもよい〕で表される化合物;アミノ酸;アミノ酸残基を含む化合物等が挙げられる。
【0031】
シランカップリング剤及びチタンカップリング剤は、半導体層62を構成する半導体と結合する官能基と金属層64を構成する金属と結合する官能基とを有するため、半導体層62及び金属層64の両方とに結合するか、又は半導体層62と金属層64の極性(親水性、疎水性)の違いを緩和することにより、半導体層62と金属層64とを密着させることができる。
【0032】
式(1)で表わされる化合物において、R1及びR2は、半導体層62を構成する半導体及び金属層64を構成する金属との結合に役割を果たすか、半導体層62と金属層64の極性(親水性、疎水性)の違いの緩和に役割を果たす性質を有する。かかるR1及びR2は、本発明の目的を妨げない範囲で、置換基を有していてもよい。ここで、炭素数1〜4のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。これらのなかでは、半導体層62と金属層64とを強固に密着させる観点から、メチル基が好ましい。
【0033】
アミノ酸やアミノ酸残基は、末端にカルボキシル基及びアミノ基(若しくはイミノ基)を有しているため、半導体層62及び金属層64の双方に対し、良好な反応性を有する。したがって、かかるアミノ酸、又はアミノ酸残基を含む化合物をリンカー分子として用いた場合、かかるリンカー分子を含む密着層63を介して半導体層62と金属層64とを強く密着させることができる。
【0034】
アミノ酸は、酸性アミノ酸、中性アミノ酸及び塩基性アミノ酸のいずれであってもよい。また、アミノ酸は、本発明の目的を妨げないものであれば、L体のアミノ酸であってもよく、R体のアミノ酸であってもよい。アミノ酸としては、特に限定されないが、例えば、システイン、リジン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、アスパラギン酸、グルタミン、グルタミン酸、グリシン、ヒスチジン、イソロイシン、ロイシン、メチオニン、フェニルアラニン、プロリン、セリン、トレオニン、トリプトファン、チロシン、バリン、これらの誘導体等が挙げられる。これらのアミノ酸は、本発明の目的を妨げない範囲で、例えば、水酸基、ホルミル基、ピロリニル基、リン酸基、セレノール基等の置換基を有していてもよい。かかるアミノ酸のなかでは、半導体層62と金属層64とを強く密着させ、かつノイズの発生を効果的に抑制する観点から、システイン及びリジンが好ましく、リジンがより好ましい。
【0035】
アミノ酸残基を含む化合物としては、特に限定されないが、例えば、ポリアミノ酸;単量体としてのアミノ酸と当該アミノ酸以外の単量体とを重合させて得られる化合物等が挙げられる。アミノ酸残基は、本発明の目的を妨げないものであれば、L体のアミノ酸由来のアミノ酸残基であってもよく、R体のアミノ酸由来のアミノ酸残基であってもよい。アミノ酸残基を含む化合物は、L体のアミノ酸由来のアミノ酸残基及びR体のアミノ酸由来のアミノ酸残基の両方を有していてもよく、L体のアミノ酸由来のアミノ酸残基及びR体のアミノ酸由来のアミノ酸残基のいずれか一方のみを有していてもよい。アミノ酸残基としては、特に限定されないが、例えば、前述のアミノ酸に由来するアミノ酸残基等が挙げられる。かかるアミノ酸残基のなかでは、半導体層62と金属層64とを強く密着させ、かつノイズの発生を効果的に抑制する観点から、システイン残基及びリジン残基が好ましく、リジン残基がより好ましい。
【0036】
ポリアミノ酸は、単量体としてのアミノ酸がペプチド結合を介して重合した化合物である。ポリアミノ酸は、1種類の単量体(アミノ酸)を重合させて得られた高分子化合物(単独重合体)であってもよく、2種類以上の単量体(アミノ酸)を重合させて得られた高分子化合物(共重合体)であってもよい。かかる単独重合体としては、特に限定されないが、例えば、ポリリジン等が挙げられる。また、共重合体としては、特に限定されないが、例えば、ペプチド、タンパク質等が挙げられる。なお、ポリアミノ酸を構成する単量体としてのアミノ酸がα位以外にもアミノ基又はカルボキシル基を有する場合、ポリアミノ酸は、本発明の目的を妨げない範囲で、α位のアミノ基(若しくはイミノ基)とα位以外の位置のカルボキシル基とのペプチド結合、又はα位のカルボキシル基とα位以外の位置のアミノ基(若しくはイミノ基)とのペプチド結合を有していてもよい。
【0037】
これらのリンカー分子は、単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。本実施の形態では、作用電極61が、かかる密着層63を備えているため、かかる密着層63を介して作用電極本体としての半導体層62と後述の金属層64との間をより強く密着させることができる。そのため、検出物質の検出の際に、捕捉物質によって検出物質の捕捉を行なう場合や、作用電極61に対して、検出感度を向上させるためのブロッキング処理を施す場合においても、金属層64が剥離しにくい。したがって、本実施の形態の作用電極基板を含む光電流検出チップによれば、高い再現性で、被検物質を検出することができる。なお、従来、半導体と金属とを密着させる手段としてチタンやクロムが用いられている。ところが、光電流検出用電極において、半導体層と金属層とを密着させるために、チタンやクロムを用いた場合、著しいノイズが発生することが本発明者らにより見出されている。しかしながら、本実施の形態のように、前記リンカー分子を含む密着層を用いた場合には、ノイズの発生を抑制することができる。したがって、本実施の形態の作用電極基板は、十分な検出感度を確保することができる点でも優れている。
【0038】
金属層64は、捕捉物質90を固定化することができる金属から構成されている。かかる金属は、捕捉物質90と共有結合することができる金属であることが好ましい。また、前記金属は、光励起により電子を生じる検出物質を光電気化学的に検出するに際して用いられる電解液によって溶解される金属であることが好ましい。前記金属としては、例えば、金、白金、銀、パラジウム、ニッケル、水銀、ロジウム、ルテニウム、銅又はそれらの合金等が挙げられる。これらのなかでは、金及びパラジウムが好ましい。金属層64の厚さは、捕捉物質を固定化するのに十分な厚さを確保する観点から、1nm以上、好ましくは2nm以上であり、金属から生じるバックグランド電流の発生を抑制する観点から、20nm以下である。なお、金属層64の厚さが2nm以下である場合、金属層64は、密着層63上でアイランド状に形成されることがある。しかしながら、この場合においても、捕捉物質を固定化するのに十分な表面積の金属層64を確保することができればよい。一方、後述のブロッキング層は、ブロッキング剤が金属層64の金属と反応することにより形成される。したがって、検出感度を向上させるために、金属層64上にブロッキング層を設ける場合には、検出感度の向上の効果を十分に得る観点から、密着層63の表面全体が金属層64で覆われていることが好ましい。ただし、ブロッキング剤を固定することができる密着層63を使用する場合は、この限りではない。
【0039】
金属層64の表面には、捕捉物質90が固定化されている〔図5参照〕。かかる捕捉物質90は、検出物質を捕捉する物質である。これにより、検出物質を作用電極61の近傍に存在させることができるようになっている。捕捉物質90は、検出物質の種類に応じて、適宜選択することができる。前記捕捉物質90としては、例えば、核酸、タンパク質、ペプチド、糖鎖、抗体、特異的な認識能を持つナノ構造体等が挙げられる。
【0040】
本発明においては、より検出感度を向上させる観点から、図6に示されるように、金属層64上における捕捉物質90が固定化されていない部分(非固定部64a)上に、ブロッキング剤からなるブロッキング層65が形成されていてもよい。
【0041】
対極66は、図5に示されるように、基板本体40a上に形成されている。この対極66は、導電性材料からなる薄膜からなる。前記導電性材料としては、例えば、金、銀、銅、カーボン、白金、パラジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル等の金属又はこれらの少なくとも1つを含む合金、ITO、酸化インジウム等の導電性セラミックス、ATO、FTO等の金属酸化物、チタン、酸化チタン、窒化チタン等のチタン化合物等が挙げられる。前記薄膜の厚さは、好ましくは1〜1000nm、より好ましくは10〜200nmである。
【0042】
参照電極69は、図5に示されるように、基板本体40a上に形成されている。この参照電極69は、導電性材料からなる薄膜からなる。前記導電性材料としては、例えば、金、銀、銅、カーボン、白金、パラジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル等の金属又はこれらの少なくとも1つを含む合金、ITO、酸化インジウム等の導電性セラミックス、ATO、FTO等の金属酸化物、チタン、酸化チタン、窒化チタン等のチタン化合物等が挙げられる。前記薄膜の厚さは、好ましくは1〜1000nm、より好ましくは10〜200nmである。なお、本実施の形態では、参照電極69を設けているが、本発明においては、参照電極69を設けなくてもよい。対極66に用いる電極の種類、膜厚にもよるが、電圧降下の影響が僅かな小さな電流(例えば、1μA以下)を測定する場合は、対極66が参照電極69を兼ねていてもよい。一方、大きな電流を測定する場合、電圧降下の影響を抑制し、作用電極61に印加する電圧を安定化させる観点から、参照電極69を設けることが好ましい。
【0043】
つぎに、間隔保持部材50について、説明する。間隔保持部材50は、矩形の環状体形状に形成され、絶縁体であるシリコーンゴムからなっている。この間隔保持部材50は、作用電極61、対極66及び参照電極69を取り囲むように配置されている〔図4(A)、図5及び図6参照〕。上基板30と下基板40との間には間隔保持部材50の厚さに相当する間隔が形成されている。これにより、各電極61,66,69の間には試料や電解液を収容するための空間20aが形成されている〔図4(A)、図5及び図6参照〕。間隔保持部材50の厚さは、通常、0.2〜300μmである。本発明においては、間隔保持部材50を構成する材料として、シリコーンゴムの代わりに、例えば、ポリエステルフィルム等のプラスチック製両面テープ等を用いることもできる。
【0044】
さらに、本発明においては、作用電極本体は、半導体層と導電層とから構成されていてもよい。この場合、作用電極61の電極リード71は、導電層に接続される。ここで、用いることができる半導体としては、特に限定されないが、例えば、シリコン、ゲルマニウム等の単体半導体;チタン、スズ、亜鉛、鉄、タングステン、ジルコニウム、ハフニウム、ストロンチウム、インジウム、セリウム、イットリウム、ランタン、バナジウム、ニオブ、タンタル等の酸化物を含む酸化物半導体;チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸ナトリウム、チタン酸バナジウム、ニオブ酸カリウム等のペロブスカイト型半導体;カドニウム、亜鉛、鉛、銀、アンチモン、ビスマス等の硫化物を含む硫化物半導体;ガリウム、チタン等の窒化物を含む半導体;カドミウム、鉛のセレン化物からなる半導体(例えば、カドミウムセレナイド等);カドミウムのテルル化物を含む半導体;亜鉛、ガリウム、インジウム、カドミウム等のリン化合物からなる半導体;ガリウム砒素、銅−インジウム−セレン化物、銅−インジウム−硫化物等の化合物を含む半導体;カーボン等の化合物半導体又は有機物半導体等が挙げられる。なお、前記半導体は、真性半導体及び不純物半導体のいずれであってもよい。これらのなかでは、酸化物半導体が好ましい。前記酸化物半導体のうち、真性半導体のなかでは、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化スズ、酸化ニオブ、酸化インジウム、酸化タングステン、酸化タンタル及びチタン酸ストロンチウムが好ましい。また、前記酸化物半導体のうち、不純物半導体のなかでは、スズをドーパントとして含む酸化インジウム及びフッ素をドーパントとして含む酸化スズが好ましい。この場合の半導体層の厚さは、好ましくは0.1〜100nm、さらに好ましくは0.1〜10nmである。
前記導電層は、導電性材料からなる。前記導電性材料としては、例えば、金、銀、銅、カーボン、白金、パラジウム、クロム、アルミニウム、ニッケル等の金属又はこれらの少なくとも1つを含む合金;酸化インジウム、スズをドーパントとして含む酸化インジウム等の酸化インジウム系材料;酸化スズ、アンチモンをドーパントとして含む酸化スズ(ATO)、フッ素をドーパントとして含む酸化スズ(FTO)等の酸化スズ系材料;チタン、酸化チタン、窒化チタン等のチタン系材料;グラファイト、グラシーカーボン、パイロリティックグラファイト、カーボンペースト、カーボンファイバー等からなる炭素系材料等が挙げられる。導電層の厚さは、好ましくは1〜1000nm、さらに好ましくは1〜200nm、さらに好ましくは1〜100nmである。導電性が確保でき、かつ電極から生じる光電流(バックグランド電流)が最小となる膜厚が望ましい。なお、導電性材料は、ガラス、プラスチック等の非導電性物質からなる非導電性基材の表面に導電性を有する材料からなる導電材層が設けられた複合基材であってもよい。かかる導電材層の形状は、薄膜状及びスポット状のいずれであってもよい。導電材層を構成する材料としては、例えば、スズをドープした酸化インジウム(ITO)、フッ素をドープした酸化スズ(FTO)、アンチモンをドープした酸化スズ(ATO)等が挙げられる。導電層は、例えば、当該導電層を構成する材料の種類に応じた膜形成方法により形成させることができる。膜形成方法としては、前記半導体層62の形成の際の膜形成方法と同様の方法が挙げられる。
【0045】
また、本発明においては、作用電極61、対極66及び参照電極69は、各電極が他の電極と接触しないように間隔保持部材50の枠内に配置されていればよい。したがって、作用電極61、対極66及び参照電極69は、同一の基板本体上に形成されていてもよい。すなわち、光電流検出チップは、基板本体31aに試料注入口31bが形成された上基板31〔図7(A)参照〕と、基板本体41aに作用電極61、対極66及び参照電極69が形成された下基板41(この態様では、作用電極基板に対応)〔図7(B)参照〕とを有するものであってもよい。さらに、本発明においては、対極66及び参照電極69は、基板本体上に形成された薄膜状の電極でなくてもよい。すなわち、光電流検出チップは、基板本体32aに試料注入口32bが形成された上基板32〔図8(A)参照〕と、基板本体42aに作用電極61が形成された下基板42(この態様では、作用電極基板に対応)〔図8(B)参照〕と、部材本体51aに対極66及び参照電極69が設けられた間隔保持部材51〔図8(C)参照〕とを有するものであってもよい。この場合、対極66及び参照電極69の少なくともいずれかが間隔保持部材51の部材本体51aに設けられていればよい。そして、上基板32及び下基板42のいずれかに、部材本体51aに設けた電極以外の電極が設けられていればよい。
【0046】
なお、本発明においては、作用電極を備えていない基板を構成する材料が、光透過性を有する材料であればよい。
【0047】
[電極の製造方法]
本発明の電極の製造方法は、光励起により電子を生じる検出物質を光電気化学的に検出するために用いられる光電流検出用電極の製造方法であって、
(A) 光励起により生じた電子を受容する半導体からなる電極本体上に、リンカー分子を含む密着層を形成する工程、及び
(B) 前記密着層上に、金属層を形成する工程
を含む方法である。
【0048】
図9は、本発明の一実施の形態に係る電極の製造方法の処理手順を示す工程説明図である。本実施の形態に係る電極の製造方法では、まず、基板本体30a上に、作用電極本体としての半導体層62を形成する(工程S1−1)。工程S1−1では、半導体層62は、半導体層62を構成する半導体の種類に応じた膜形成方法により形成させることができる。膜形成方法としては、蒸着法、スパッタリング法、インプリント法、スクリーン印刷法、めっき処理法、ゾルゲル法、スピンコート法、浸漬法、気相蒸着法等が挙げられる。
【0049】
つぎに、作用電極本体としての半導体層62上に、密着層63を形成する(工程S1−2)。工程S1−2では、密着層63は、作用電極本体としての半導体層を形成した基板本体を、前記リンカー分子を含む溶液中に浸漬させること、インプリント法、スクリーン印刷法、スピンコート法、気相蒸着法、スプレー法、ディップコート法等により形成することができる。本実施の形態に係る電極の製造方法では、半導体層62上に密着層を形成するため、次工程で形成する金属層64と、作用電極本体としての半導体層との間をより強く密着させることができる。したがって、本実施の形態に係る電極の製造方法により得られた電極を有する光電流検出チップによれば、前述したように、高い再現性で被検物質を検出することができる。
【0050】
つぎに、本実施の形態に係る電極の製造方法では、密着層63上に、金属層64を形成する(工程S1−2)。工程S1−2では、金属層64は、例えば、金属の種類に応じた膜形成方法により形成させることができる。膜形成方法としては、例えば、蒸着法、スパッタリング法、インプリント法、スクリーン印刷法、めっき処理法、ゾルゲル法等が挙げられる。
【0051】
図10は、本発明の他の実施の形態に係る電極の製造方法の処理手順を示す工程説明図である。本実施形態に係る電極の製造方法では、金属層64の表面に捕捉物質90が固定化され、かつ金属層64における捕捉物質90が固定化されていない部分(非固定部64a)上にブロッキング層65が形成された作用電極(図6参照)を得ることができる。本実施の形態に係る電極の製造方法において、工程S2−1〜工程S2−3は、前記工程S1−1〜工程S1−3と同様の操作によって行なうことができる。
【0052】
本実施の形態に係る電極の製造方法では、工程S2−3の後、金属層64上に、検出物質を捕捉する捕捉物質90を固定化する(工程S2−4)。金属層64上への捕捉物質90の固定は、金属層64に結合する結合基等を介して行なうことができる。前記結合基としては、例えば、チオール基、ヒドロキシル基、リン酸基、カルボキシル基、カルボニル基、アルデヒド基、スルホン酸基、アミノ基等が挙げられる。また、金属層64の表面への捕捉物質90の固定は、光硬化性樹脂や物理吸着により行なわれていてもよい。金属層64上における捕捉物質90の固定量は、特に限定されるものではなく、用途及び目的に応じて設定することができる。
【0053】
その後、金属層64上における捕捉物質90が固定化されていない部分(非固定部64a)を、ブロッキング剤によってブロッキングする(工程S2−5)。工程S2−5において、非固定部64aのブロッキングは、非固定部64aにブロッキング剤を接触させること、インプリント法、スクリーン印刷法、スピンコート法、気相蒸着法、スプレー法、ディップコート法等により行なうことができる。ブロッキング剤は、検出物質以外の物質が非固定部64aに非特異的に吸着するのを抑制するものであればよい。前記ブロッキング剤としては、例えば、トリエチレングリコールモノ−11−メルカプトウンデシルエーテル、1−メルカプトヘキサノール、2-メルカプトエタノール、メルカプトエタノール、ホスフィン〔ビス(p−スルホナトフェニル)フェニルホスフィン〕、ウシ血清アルブミン(BSA)(例えば、使用濃度1〜10質量%)、ヒト血清アルブミン(HSA)(例えば、使用濃度1〜10質量%)、脱脂粉乳(例えば、使用濃度1〜10質量%)、カゼイン(例えば、使用濃度1〜10質量%)、ゼラチン(例えば、使用濃度1〜10質量%)、被検物質又は検出物質と結合しないタンパク質、被検物質又は検出物質と結合しない核酸、界面活性剤(例えば、Tween20、Triton X−100、SDS等)等の化合物や物質が挙げられる。前記ブロッキング剤は、前記化合物や物質を、水、緩衝液等の溶媒に溶解させた溶液であってもよい。この場合、溶液中における前記化合物の濃度は、前記化合物の種類等に応じて適宜設定することができる。また、本発明においては、前記ブロッキング剤として、市販のブロッキング剤、例えば、ナノビオテック(株)社製、商品名:NanoBio blocker等を用いることもできる。
【0054】
つぎに、工程S2−5後の基板本体を洗浄する(工程S2−6)。これにより、作用電極を有する基板(作用電極基板)を得ることができる。工程S2−6において、基板本体の洗浄には、捕捉物質の種類等に応じた洗浄剤を用いることができる。例えば、捕捉物質が核酸である場合、洗浄剤として、緩衝液、核酸のハイブリダイゼーションに用いられるハイブリダイゼーション用溶液等を用いることができる。また、捕捉物質がタンパク質である場合、洗浄剤として、緩衝液等を用いることができる。基板本体の洗浄は、基板本体を洗浄剤中に浸漬させること、洗浄剤で基板本体の表面を洗い流すこと等により行なうことができる。必要によっては、工程S2−4後に洗浄工程を行なってもよい。
【0055】
以上のように、本発明によれば、簡単な操作で、前述した電極(作用電極)を得ることができる。
【0056】
[被検物質の検出方法]
つぎに、本発明の一実施の形態に係る電極(作用電極61)を用いる被検物質の検出方法を説明する。図11は、本発明の一実施の形態に係る電極を用いる被検物質の検出方法の処理手順を示す工程説明図である。
【0057】
図11において、工程S3−1では、ユーザーは、被検物質を含む液体試料を、光電流検出チップ20の試料注入口30bより注入する。これにより、液体試料中の被検物質が光電流検出チップ20を構成する上基板30の作用電極61中の捕捉物質90によって捕捉される。
【0058】
ここで、捕捉物質90は、被検物質の種類に応じて適宜選択される。例えば、被検物質が核酸である場合、捕捉物質90は、かかる核酸にハイブリダイズする核酸プローブ又は前記核酸に対する抗体であればよい。また、被検物質がリガンドである場合、捕捉物質90は、かかるリガンドに対するレセプターであればよい。被検物質がレセプターである場合、捕捉物質90は、かかるレセプターに対するリガンドであればよい。
【0059】
捕捉物質90による被検物質の捕捉は、例えば、捕捉物質90と被検物質とが結合する条件下で行なうことができる。捕捉物質90と被検物質とが結合する条件は、被検物質の種類等に応じて適宜選択することができる。例えば、被検物質が核酸であり、捕捉物質90が前記核酸にハイブリダイズする核酸プローブである場合、被検物質の捕捉は、ハイブリダイゼーション用緩衝液存在下に行なうことができる。また。被検物質が核酸、タンパク質又はペプチドであり、捕捉物質90が前記核酸に対する抗体、前記タンパク質に対する抗体又は前記ペプチドに対する抗体である場合、被検物質の捕捉は、リン酸緩衝生理的食塩水(PBS)、ヘペス(HEPES)緩衝液、ピペス(PIPES)緩衝液、トリス(Tris)緩衝液等の抗原抗体反応を行なうに適した溶液中で行なうことができる。さらに、被検物質がリガンドであり、捕捉物質90が前記リガンドに対するレセプターである場合や、被検物質がレセプターであり、捕捉物質90が前記レセプターに対するリガンドである場合、被検物質の捕捉は、リガンドとレセプターとの結合に適した溶液中で行なうことができる。
【0060】
かかる被検物質の検出方法では、前記密着層63を有する作用電極が用いられているため、本工程S3−1に際して、被検物質を捕捉する捕捉物質90が固定化された金属層64の剥離が抑制される。したがって、高い再現性での被検物質の検出が可能になる。
【0061】
つぎに、工程S3−2において、ユーザーは、光電流検出チップ20の試料注入口30bより夾雑物質を含む残部の液体を排出し、光電流検出チップ20内を洗浄する。これにより、夾雑物質に基づくノイズの発生を抑制することができる。かかる工程S3−2では、光電流検出チップ20内の洗浄に際して、例えば、緩衝液(特に界面活性剤を含んだ緩衝液)、精製水(特に界面活性剤を含んだ精製水)、エタノール等の有機溶媒等が用いられる。
【0062】
つぎに、工程S3−3において、ユーザーは、被検物質に結合する結合物質と標識物質とを有する標識結合物質(検出物質)を含む液体を、光電流検出チップ20の試料注入口30bより注入する。これにより、標識結合物質を作用電極61上に捕捉された被検物質に結合させ、当該被検物質を標識する。
【0063】
標識結合物質は、被検物質に結合する結合物質と標識物質とから構成されている。標識物質は、光を照射することにより励起状態となり電子を放出する物質である。標識物質として、金属錯体、有機蛍光体、量子ドット及び無機蛍光体からなる群より選択された少なくとも1つを用いることができる。前記標識物質の具体例としては、金属フタロシアン、ルテニウム錯体、オスミウム錯体、鉄錯体、亜鉛錯体、9−フェニルキサンテン系色素、シアニン系色素、メタロシアニン色素、キサンテン系色素、トリフェニルメタン系色素、アクリジン系色素、オキサジン系色素、クマリン系色素、メロシアニン系色素、ロダシアニン系色素、ポリメチン系色素、ポルフィリン系色素、フタロシアニン系色素、ローダミン系色素、キサンテン系色素、クロロフィル系色素、エオシン系色素、マーキュロクロム系色素、インジゴ系色素、BODIPY系色素、CALFluor系色素、オレゴングリーン系色素、ロードル(Rhodol)グリーン、テキサスレッド、カスケードブルー、核酸(DNA、RNA等)、セレン化カドミウム、テルル化カドミウム、Ln23:Re、Ln22S:Re、ZnO、CaWO4、MO・xAl23:Eu、Zn2SiO4:Mn、LaPO4:Ce、Tb、Cy3、Cy3.5、Cy5、Cy5.5、Cy7、Cy7.5及びCy9(いずれも、アマシャムバイオサイエンス社製);Alexa Fluor 355、Alexa Fluor 405、Alexa Fluor 430、Alexa Fluor 488、Alexa Fluor 532、Alexa Fluor546、Alexa Fluor 555、Alexa Fluor 568、Alexa Fluor 594、Alexa Fluor 633、Alexa Fluor 647、Alexa Fluor 660、Alexa Fluor 680、Alexa Fluor 700、Alexa Fluor 750及びAlexa Fluor 790(いずれも、モレキュラープローブ社製);DY−610、DY−615、DY−630、DY−631、DY−633、DY−635、DY−636、EVOblue10、EVOblue30、DY−647、DY−650、DY−651、DY―800、DYQ−660及びDYQ−661(いずれも、Dyomics社製);Atto425、Atto465、Atto488、Atto495、Atto520、Atto532、Atto550、Atto565、Atto590、Atto594、Atto610、Atto611X、Atto620、Atto633、Atto635、Atto637、Atto647、Atto655、Atto680、Atto700、Atto725及びAtto740(いずれも、Atto−TEC GmbH社製);VivoTagS680、VivoTag680及びVivoTagS750(いずれも、VisEnMedical社製)等が挙げられる。なお、前記LnはLa、Gd、Lu又はYを示し、Reはランタニド族元素を示し、Mはアルカリ土類金属元素を示し、xは0.5〜1.5の数を示す。標識物質の他の例については、例えば、特許第4086090号公報、特開平7−83927号公報、特願2008−154179号公報等を参照することができる。
【0064】
結合物質は、被検物質中において、捕捉物質90と結合する物質であればよく、被検物質の種類に応じて適宜選択される。例えば、被検物質が核酸である場合、結合物質は、かかる核酸にハイブリダイズする核酸プローブ又は前記核酸に対する抗体であればよい。また、被検物質がタンパク質又はペプチドである場合、結合物質は、かかるタンパク質又はペプチドに対する抗体であればよい。また、被検物質がリガンドである場合、結合物質は、かかるリガンドに対するレセプターであればよい。被検物質がレセプターである場合、結合物質は、かかるレセプターに対するリガンドであればよい。
【0065】
工程S3−3では、被検物質に結合していない残部の標識結合物質は、光電流検出チップ20内の液体中において、遊離した状態で存在している。したがって、工程S3−4において、ユーザーは、光電流検出チップ20の試料注入口30bより、液体を排出し、光電流検出チップ20内を洗浄する。これにより、検出結果の特性を向上させることができる。なお、かかる洗浄工程は、行なわなくてもよい。かかる工程S3−4では、例えば、緩衝液(特に界面活性剤を含んだ緩衝液)、精製水(特に界面活性剤を含んだ精製水)、エタノール等の有機溶媒が用いられる。
【0066】
つぎに、工程S3−5において、ユーザーは、電解液を、光電流検出チップ20の試料注入口30bより注入する。前記電解液として、標識物質に電子を供給しうる塩からなる電解質と、非プロトン性極性溶媒、プロトン性極性溶媒又は非プロトン性極性溶媒とプロトン性極性溶媒との混合物とを含む溶液を用いることができる。この電解液は、所望により、他の成分をさらに含んでいてもよい。また、電解液は、ゲル状であってもよく、固体であってもよい。
【0067】
電解質としては、例えば、ヨウ化物、臭化物、金属錯体、チオ硫酸塩、亜硫酸塩、これらの混合物等が挙げられる。前記電解質の具体例としては、ヨウ化リチウム、ヨウ化ナトリウム、ヨウ化カリウム、ヨウ化セシウム、ヨウ化カルシウム等の金属ヨウ化物;テトラアルキルアンモニウムヨーダイド、ピリジニウムヨーダイド、イミダゾリウムヨーダイド等の4級アンモニウム化合物のヨウ素塩;臭化リチウム、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化セシウム、臭化カルシウム等の金属臭化物;テトラアルキルアンモニウムブロマイド、ピリジニウムブロマイド等の4級アンモニウム化合物の臭素塩;フェロシアン酸塩、フェリシニウムイオン等の金属錯体;チオ硫酸ナトリウム、チオ硫酸アンモニウム、チオ硫酸カリウム、チオ硫酸カルシウム等のチオ硫酸塩;亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸鉄、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸カルシウム等の亜硫酸塩;及びこれらの混合物等が挙げられる。これらのなかでは、テトラプロピルアンモニウムヨーダイド及びヨウ化カルシウムが好ましい。電解液中における電解質の濃度は、好ましくは0.001〜15Mである。
【0068】
プロトン性極性溶媒として、水、水を主体に緩衝液成分を混合した極性溶媒等を用いることができる。非プロトン性極性溶媒としては、アセトニトリル(CHCN)等のニトリル類;プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート等のカーボネート類;1,3−ジメチルイミダゾリノン、3−メチルオキサゾリノン、ジアルキルイミダゾリウム塩等の複素環化合物;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、スルホラン等が挙げられる。非プロトン性極性溶媒のなかでは、アセトニトリルが好ましい。プロトン性極性溶媒及び非プロトン性極性溶媒は、単独で、又は両者を混合して用いることができる。プロトン性極性溶媒と非プロトン性極性溶媒との混合物は、水とアセトニトリルとの混合物が好ましい。
【0069】
ここで、電解質がヨウ化物である場合、電解液の注入により、金属層64を構成する金属、好ましくは金が溶解される。このとき、捕捉物質90と被検物質と標識結合物質(検出物質)とは、作用電極61上に存在し、標識結合物質中の標識物質と作用電極61の半導体層62との間で電子の授受が行なわれる。
【0070】
前記電解液のなかでは、ヨウ素又はヨウ化物を含有する電解液が好ましい。
【0071】
工程S3−1〜S3−5をユーザーが行なった後、ユーザーは、図1に示される検出装置1のチップ受入部11に光電流検出チップ20を挿入する。そして、ユーザーは、検出装置1に測定開始を指示する。ここでは、検出装置1に挿入された光電流検出チップ20の電極リード71,72、73は電流計14や電源15に接続される。そして、検出装置1の電源15により、参照電極69を基準として任意の電位が作用電極61に印加される(工程S3−6)。電極に印加される電位は、検出物質に対する励起光が照射されていない場合の電流値(定常電流、暗電流)が小さく、検出物質から生じる光電流が最大となる電位が好ましい。電位は、対極に印加してもよく、作用電極に印加してもよい。
【0072】
つぎに、工程S3−7において、検出装置1の光源13により、作用電極61上の標識物質に励起光が照射される。これにより、標識物質が励起し、電子を発生する。そして、発生した電子は、半導体層62に移動する。その結果、作用電極61と対極66との間に電流が流れる。なお、本工程においては、必要に応じて、分光器やバンドパスフィルタを用いて特定波長領域の光のみが標識物質に照射されてもよい。
【0073】
工程S3−8では、検出装置1の電流計14により、作用電極61と対極66との間に流れる電流が測定される。電流計14で測定された電流値は、標識物質の個数と相関している。したがって、測定された電流値に基づき、被検物質を定量することができる。
【0074】
工程S3−9では、まず、A/D変換部16によってデジタル変換された電流値が制御部17に入力される。つぎに、予め作成された電流値と被検物質量との関係を示す検量線に基づき、制御部17により、デジタル変換後の電流値から、液体試料中の被検物質量が概算される。そして、概算された被検物質量の情報をディスプレイ12に表示するための検出結果画面が、制御部17によって作成される。
【0075】
工程S3−10では、制御部17によって作成された検出結果画面がディスプレイ12に送信され、ディスプレイ12に表示される。
【0076】
以上説明したように、本発明の一実施の形態に係る電極(作用電極61)を用いる被検物質の検出方法では、工程S3−1における捕捉物質90による被検物質の捕捉の際における金属層64の剥離が抑制される。したがって、作用電極61における捕捉物質90の量が金属層64の剥離に伴って変動することが抑制されるので、高い再現性での被検物質の検出が可能になる。
【実施例】
【0077】
以下、実施例等により、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0078】
(製造例1)
シランカップリング剤である3−アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を、その濃度が1体積%となるようにトルエンに添加し、溶液Aを得た。
【0079】
(製造例2)
シランカップリング剤である3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン(MPTES)を、その濃度が1体積%となるようにトルエンに添加し、溶液Bを得た。
【0080】
(製造例3)
24ヌクレオチド長のDNAにチオール基を導入して、チオール化DNAを得た。得られたチオール化DNAを、その濃度が1μMとなるように滅菌精製水に添加し、DNA水溶液を得た。
【0081】
(製造例4〜6)
トリエチレングリコールモノ−11−メルカプトウンデシルエーテル(SH−TEG)を、その濃度が1mMとなるようにTBS緩衝液〔組成:25mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン、0.15M塩化ナトリウム、pH7.4〕に添加し、SH−TEG水溶液を得た(製造例4)。また、メルカプトヘキサノール(MCH)を、その濃度が1mMとなるようにTBS緩衝液に添加し、MCH水溶液を得た(製造例5)。さらに、市販のブロッキング剤〔ナノビオテック(株)社製、商品名:NanoBio blocker〕を、製造例6のブロッキング剤として用いた。
【0082】
(参考例1)
(1)作用電極本体の形成
スパッタリング法により、二酸化ケイ素(SiO2)からなる基板本体上に、スズをドープした酸化インジウムの薄膜(厚さ約200nm)からなる半導体層(作用電極本体)を形成した。つぎに、前記半導体層に、電流計と接続するための作用電極リードを接続し、基板a1を得た。前記半導体層は、導電層と電子受容層とを兼ねている。
【0083】
(2)金属層の形成
真空蒸着法により、前記(1)で形成した半導体層上に金薄膜(厚さ約2nm)からなる金属層を形成し、基板a2を得た。
【0084】
(3)捕捉物質の固定
製造例3で得られたDNA水溶液7μLを前記(2)で得られた基板a2の金属層上に滴下した。つぎに、基板a2の金属層の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.1mm)を配置した。その後、基板a2の上方から、カバーグラスをのせ、基板a2とシリコーンゴムとに囲まれた空間を密封した。つぎに、基板a2を4℃で一晩静置して、金薄膜を構成する金と、捕捉物質としてのチオール化DNAとを共有結合させた。その後、基板a2の金属層をTBS緩衝液で洗浄した。これにより、基板a3を得た。
【0085】
(4)ブロッキング処理
基板a3の金属層の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.1mm)を配置した。その後、この基板A3とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、製造例4で得られたブロッキング剤7μLを滴下した。つぎに、前記基板a3の上方から、カバーグラスをのせ、基板a3とシリコーンゴムとに囲まれた空間を密封した。つぎに、基板a3を4℃で一晩静置して、金属層における捕捉物質が固定化されていない部分をブロッキングした。その後、基板a3の金属層をTBS緩衝液で洗浄した。これにより、基板a4を得た。
【0086】
(5)洗浄
金属層上に固定化されていないチオール化DNAをさらに除去するため、以下のような操作で洗浄を行なった。基板a4の金属層の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.1mm)を配置し、フッ素樹脂〔テフロン(登録商標)〕製のハイブリダイゼーション用のチャンバー(体積20μL)を設置した。ハイブリダイゼーション用のチャンバーよって形成された空間に、ハイブリダイゼーション用水溶液〔東洋紡績(株)製、商品名:PerfectHyb(登録商標) Hybridization Solution〕20μLを注入した。そして、基板a4を恒温槽(65℃)中に2時間静置した。その後、前記空間より液体を排出した。さらに、前記空間に、ハイブリダイゼーション用水溶液20μLを注入し、その後、前記空間から液体を排出した。これにより、ハイブリダイゼーション用のチャンバーが取り付けられた作用電極基板を得た。
【0087】
(試験例1)
(1)ハイブリダイゼーション処理
ハイブリダイゼーション用水溶液20μLを、参考例1で得られた作用電極基板に取り付けられたハイブリダイゼーション用のチャンバー内に注入した。その後、作用電極基板を恒温槽(65℃)中に2.5時間静置した。つぎに、ハイブリダイゼーション用のチャンバーを電極上から取り外した。そして、作用電極基板を、洗浄溶液〔0.01質量%SDS含有2×SSC溶液〕0.5mLで3回洗浄後、滅菌精製水0.5mLで洗浄し、乾燥させた。
【0088】
(2)金属層の安定性評価
前記(1)の後の作用電極基板の作用電極本体(半導体層)上の金属層の安定性を目視で評価した。その結果、金属層が完全に剥離していることがわかった。ハイブリダイゼーションによる被検物質の捕捉を行なう際に金属層の剥離が生じた場合、作用電極本体から金属層とともにこの金属層上の捕捉物質もなくなる。したがって、半導体層上に金属層を形成した作用電極基板(参考例1)を用いて被検物質の検出を行なった場合、検出感度及び測定の再現性が低くなると考えられる。
【0089】
(実施例1)
(1)作用電極本体の形成
スパッタリング法により、二酸化ケイ素(SiO2)からなる基板本体上に、スズをドープした酸化インジウムの薄膜(厚さ約200nm)からなる半導体層(作用電極本体)と、前記作用電極本体及び電流計を接続するための作用電極リードを形成し、基板A1を得た。前記薄膜は、導電層と電子受容層とを兼ねている。
【0090】
(2)密着層の形成
製造例1で得られた溶液中で、前記(1)で得られた基板A1を1時間浸漬させた。その後、基板A1をトルエンで洗浄し、乾燥させた。これにより、半導体層上にAPTESの薄膜からなる密着層を形成した。
【0091】
(3)金属層の形成
真空蒸着法により、前記(2)で形成した密着層上に金薄膜(厚さ約2nm)からなる金属層を形成し、基板A2を得た。
【0092】
(4)捕捉物質の固定
製造例3で得られたDNA水溶液7μLを前記(3)で得られた基板A2の金属層上に滴下した。つぎに、基板A2の金属層の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.1mm)を配置した。その後、基板A2の上方から、カバーグラスをのせ、基板A2とシリコーンゴムとに囲まれた空間を密封した。つぎに、基板A2を4℃で一晩静置して、金薄膜を構成する金と、捕捉物質としてのチオール化DNAとを共有結合させた。その後、基板A2の金属層をTBS緩衝液で洗浄した。これにより、基板A3を得た。
【0093】
(5)ブロッキング処理
基板A3の金属層の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.1mm)を配置した。その後、この基板A3とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、製造例5で得られたブロッキング剤7μLを滴下した。つぎに、前記基板A3の上方から、カバーグラスをのせ、基板A3とシリコーンゴムとに囲まれた空間を密封した。つぎに、基板A3を4℃で一晩静置して、金属層における捕捉物質が固定化されていない部分をブロッキングした。その後、基板A3の金属層をTBS緩衝液で洗浄した。これにより、基板A4を得た。
【0094】
(6)洗浄
金属層上に固定化されていないチオール化DNAをさらに除去するため、以下のような操作で洗浄を行なった。基板A4の金属層の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.1mm)を配置した。そして、前記シリコーンゴム上にハイブリダイゼーション用のチャンバー(体積20μL)を設置した。ハイブリダイゼーション用のチャンバーによって形成された空間に、ハイブリダイゼーション用水溶液20μLを注入した。そして、基板A4を恒温槽(65℃)中に2時間静置した。その後、前記空間より液体を排出した。さらに、前記空間に、ハイブリダイゼーション用水溶液20μLを注入し、前記と同様に操作を行なった。これにより、作用電極基板を得た。
【0095】
(実施例2)
実施例1において、製造例5で得られたブロッキング剤の代わりに、製造例6のブロッキング剤を用いたことを除き、実施例1と同様に操作を行ない、作用電極基板を得た。
【0096】
(実施例3)
実施例1において、ブロッキング処理を行なわなかったことを除き、実施例1と同様に操作を行ない、作用電極基板を得た。
【0097】
(実施例4)
実施例1において、製造例1で得られた溶液Aの代わりに、製造例2で得られた溶液Bを用いたことを除き、実施例1と同様に操作を行ない、作用電極基板を得た。
【0098】
(実施例5)
実施例4において、製造例5で得られたブロッキング剤の代わりに、製造例6のブロッキング剤を用いたことを除き、実施例4と同様に操作を行ない、作用電極基板を得た。
【0099】
(実施例6)
実施例4において、ブロッキング処理を行なわなかったことを除き、実施例4と同様に操作を行ない、作用電極基板を得た。
【0100】
(比較例1)
参考例1において、製造例4で得られたブロッキング剤の代わりに、製造例5のブロッキング剤を用いたことを除き、参考例1と同様に操作を行ない、作用電極基板を得た。
【0101】
(比較例2)
参考例1において、製造例4で得られたブロッキング剤の代わりに、製造例6のブロッキング剤を用いたことを除き、参考例1と同様に操作を行ない、作用電極基板を得た。
【0102】
(比較例3)
参考例1において、ブロッキング処理を行なわなかったことを除き、参考例1と同様に操作を行ない、作用電極基板を得た。
【0103】
(試験例2)
試験例1と同様の操作を行ない、実施例1〜6並びに比較例1〜3それぞれで得られた作用電極基板の作用電極上の金属層の安定性を評価した。評価基準は、以下のとおりである。評価の結果を表1に示す。
【0104】
〔評価基準〕
○ 金属層が完全に残っている。
× 金属層の剥離が見られる。
【0105】
【表1】

【0106】
表1に示された結果から、半導体層と金属層との間に密着層を形成した場合(実施例1〜6)、核酸間のハイブリダイゼーションに用いる液相中においても、金属層の剥離が見られず、金属層は良好な状態で維持されていることがわかる。したがって、これらの結果から、実施例1〜6それぞれで得られた作用電極基板を被検物質の検出に用いた場合、高い検出感度で、かつ高い再現性で被検物質を検出することができることが示唆される。実施例1〜6において、密着層に用いられたシランカップリング剤は、半導体層及び金属層の両方と結合する化合物である。したがって、半導体層及び金属層の両方と結合する化合物からなる密着層を半導体層と金属層との間に有する光電流検出用電極によれば、金属層の剥離が抑制されることから、高い検出感度で、かつ高い再現性で被検物質を検出することができることが示唆される。
【0107】
一方、表1に示された結果から半導体層と金属層との間に密着層を形成していない場合(比較例1〜3)、金属層の剥離が見られることがわかる。したがって、これらの結果から、比較例1〜3それぞれで得られた作用電極基板を被検物質の検出に用いた場合、検出感度及び再現性が低くなることが予想される。
【0108】
(製造例7)
FITC標識ヤギ抗マウスイムノグロブリン抗体溶液〔ダコ社製、商品名:Mouse Immunoglobulins、カタログ番号:F0479〕20μLを、還元剤であるトリス(2−クロロエチル)ホスフェート(TCEP)〔ピアス(PIERCE)社製、カタログ番号:77712〕20μLと混合した。得られた混合物を1800rpm(回転/分)で室温90分間振とうさせ、抗マウスイムノグロブリン抗体をFab化し、Fab化抗体(Fab化抗マウスイムノグロブリン抗体)を得た。その後、前記混合物の上清6μLとTBS緩衝液594μLとを混合し、Fab化抗体水溶液を得た。
【0109】
(実施例7)
(1)作用電極本体の形成
スパッタリング法により、二酸化ケイ素(SiO2)からなる基板本体30a上に、スズをドープした酸化インジウムの薄膜(厚さ約200nm)からなる半導体層62(図12参照)(作用電極本体)と、前記作用電極本体と電流計とを接続するための作用電極リードを形成し、基板A1を得た。前記半導体層62は、導電層と電子受容層とを兼ねている。
【0110】
(2)密着層の形成
製造例1で得られた溶液中で、前記(1)で得られた基板A1を1時間浸漬させた。その後、基板Aをトルエンで洗浄し、乾燥させた。これにより、半導体層62上にシランカップリング剤であるAPTESの薄膜からなる密着層63(図12参照)を形成した。
【0111】
(3)金属層の形成
真空蒸着法により、前記(2)で形成した密着層63上に金薄膜(厚さ約2nm)からなる金属層64(図12参照)を形成し、基板A2を得た。
【0112】
(4)捕捉物質の固定
基板A2の金属層64の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.1mm)を配置した。そして、前記シリコーンゴム上に、チャンバー(体積20μL)を設置した。チャンバーよって形成された空間に、製造例7で得られたFab化抗体水溶液20μLを注入した。その後、基板A2を4℃で一晩静置した。これにより、捕捉物質90(Fab化抗体)と金属層64を構成する金とを共有結合させた。その後、チャンバーを装着したまま、基板A2の金属層64をTBS緩衝液20μLで洗浄した。これにより、基板A3を得た。
【0113】
(5)ブロッキング処理
基板A3の金属層64の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.1mm)を配置した。その後、この基板A3とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、製造例5で得られたブロッキング剤7μLを滴下した。つぎに、前記基板A3の上方から、カバーグラスをのせ、基板A3とシリコーンゴムとに囲まれた空間を密封した。つぎに、基板A3を4℃で一晩静置して、金属層64における捕捉物質90(Fab化抗体)が固定化されていない部分の表面にブロッキング層65(図12参照)を形成させた。その後、基板A3の金属層64をTBS緩衝液で洗浄した。これにより、作用電極基板を得た。
【0114】
(製造例8〜11)
被検物質Sとしてのマウスイムノグロブリンを、その濃度が0.1ng/mL(製造例8)、1ng/mL(製造例9)、10ng/mL(製造例10)又は100ng/mL(製造例11)となるように、1質量%ウシ血清アルブミン含有トリス緩衝溶液〔トリス緩衝溶液(TBS−T):0.1体積%ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(Tween−20)を含有するトリス緩衝化生理食塩水(pH7.4)〕に添加し、被検物質を含有する液体試料を得た。
【0115】
(製造例12)
24ヌクレオチド長のDNA95に、ビオチン94と光化学的に活性な標識物質96(Alexa Fluor750)を導入して、標識ビオチン化DNA97を得た。得られた標識ビオチン化DNA97を、その濃度が100nMとなるようにTBS−Tに添加し、標識溶液を得た。
【0116】
(製造例13)
アセトニトリルとエチレンカーボネートとを体積比で2:3となるように混合し、非プロトン性極性溶媒を得た。前記非プロトン性極性溶媒に、電解質塩として、テトラプロピルアンモニウムヨーダイドをその濃度が0.6Mとなるように溶解させた。得られた溶液に、さらに電解質として、ヨウ素をその濃度が0.06Mとなるように溶解させ、溶解誘引電解液を得た。なお、前記ヨウ素及びテトラプロピルアンモニウムヨーダイドは、金を溶解させることができる。
【0117】
(製造例14)
スパッタリング法により、二酸化ケイ素(SiO2)からなる基板本体上に、厚さ200nmの白金薄膜からなる対極と、厚さ200nmの白金薄膜からなる参照電極と、前記対極及び参照電極と電流計とを接続するための電極リードを形成した。これにより、対極基板を得た。
【0118】
(試験例3)
(1)被検物質の捕捉
製造例8〜11それぞれで得られた液体試料20μLを、実施例7で得られた作用電極基板に取り付けられたチャンバー内に注入した。つぎに、作用電極基板を室温で1.5時間静置し、捕捉物質90(Fab化抗体)により、被検物質Sを捕捉させた(図12参照)。その後、チャンバーを装着したまま、作用電極をTBS−T20μLで洗浄した。
【0119】
(2)標識
ビオチン標識抗マウスイムノグロブリン抗体(ビオチン標識2次抗体)溶液〔シグマアルドリッチ社製、製品番号:B7151〕を、2000倍の体積となるように、1質量%ウシ血清アルブミン含有TBS−Tで希釈し、希釈抗体溶液を得た。得られた希釈抗体溶液20μLを、前記(1)の後の作用電極基板のチャンバー内に注入した。つぎに、作用電極基板を室温で30分間静置して、ビオチン標識2次抗体92と、作用電極上に捕捉された被検物質Sとを反応させた(図12参照)。その後、チャンバーを装着したまま、作用電極をTBS−T20μLで洗浄した。
【0120】
ストレプトアビジン含有液〔ベクター(VECTOR)社製、製品番号:SA−5000〕を、500倍の体積となるようにTBS−Tで希釈し、ストレプトアビジン含有希釈液を得た。得られたストレプトアビジン含有希釈液20μLを、作用電極基板のチャンバー内に注入した。つぎに、作用電極基板を室温で30分間静置して、ストレプトアビジン93と、作用電極上に存在するビオチン標識2次抗体92とを反応させた(図12参照)。その後、チャンバーを装着したまま、作用電極をTBS−T20μLで洗浄した。
【0121】
製造例12で得られた標識溶液20μLを、作用電極基板のチャンバー内に注入した。つぎに、作用電極基板を室温で1.5時間静置して、作用電極上に固定されたストレプトアビジン94に標識ビオチン化DNA97を結合させた(図12参照)。その後、チャンバーを装着したまま、作用電極をTBS−T20μLと滅菌精製水20μLとで洗浄して、未結合の標識物質を除去した。さらに、チャンバーを取り外し、滅菌精製水0.5mLで、作用電極を3回洗浄後、乾燥させた。
【0122】
(3)光電流の測定
前記作用電極基板の周囲に、厚さ0.2mmの側壁となるようにシリコーンゴムを配置した。そして、前記作用電極基板とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、製造例13で得られた電解液12μLを充填した。そして、作用電極基板の上方から、製造例14で得られた対極基板をのせ、前記電解液が充填された空間を密封した。これにより、作用電極と対極と参照電極を電解液に接触させた。つぎに、電極リードを電流計に接続した。
【0123】
作用電極に対して、参照電極を基準として0Vの電圧を印加した。これと同時に、作用電極基板側から対極基板に向けて、光源〔コヒレント(Coherent)社製、商品名Cube785〕からレーザー光(波長785nm、出力13mW)を照射した。このとき、レーザー光を所定の周期(1Hz)で点滅(on・off)させた。そして、レーザー光を20回点滅させたときのレーザー光点灯時(onの時)に作用電極と対極との間を流れる光電流を測定した。試験例3において、被検物質濃度と光電流との関係を調べた結果を示すグラフを図13に示す。
【0124】
図13に示された結果から、捕捉物質として抗体(Fab化抗マウスイムノグロブリン抗体)を用い、被験物質としてその抗原を抗原抗体反応によって検出する際に、半導体層62及び金属層64の両方と結合する化合物であるシランカップリング剤からなる密着層63を半導体層62と金属層64との間に有する作用電極基板を用いた場合であっても、ノイズは光電流の検出の妨げにはならない程度に抑制されており、しかも、被検物質濃度に依存的に光電流が増加することがわかる。
【0125】
(製造例15)
L−システインを、その濃度が1mMとなるようにTBS緩衝液に添加し、溶液Cを得た。
【0126】
(製造例16)
ポリ−L−リジン塩酸塩〔シグマアルドリッチ社製、カタログ番号:P2658−25MG、α−ポリ−L−リジン塩酸塩、粘度平均分子量:15000−30000Da〕を、その濃度が100μMとなるようにPBSに添加し、溶液Dを得た。
【0127】
(実施例8)
(1)作用電極本体の形成
スパッタリング法により、二酸化ケイ素(SiO2)からなる基板本体上に、スズをドープした酸化インジウムの薄膜(厚さ約200nm)からなる半導体層(作用電極本体)と、作用電極本体及び電流計を接続するための作用電極リードとを形成し、基板A1を得た。前記薄膜は、導電層と電子受容層とを兼ねている。
【0128】
(2)密着層の形成
(1)で得られた基板A1の半導体層の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.2mm)を配置した。その後、この基板A1とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、製造例15で得られた溶液C30μLを滴下した後、基板A1を4℃で一晩静置した。その後、基板A1をTBS緩衝液で洗浄し、風乾した。これにより、半導体層上に、L−システインの薄膜からなる密着層を形成した。
【0129】
(3)金属層の形成
真空蒸着法により、(2)で形成した密着層上に金薄膜(厚さ2nm)からなる金属層をさらに形成し、基板A2を得た。
【0130】
(4)捕捉物質の固定
製造例3で得られたDNA水溶液12μLを、(3)で得られた基板A2の金属層上に滴下した。つぎに、基板A2の金属層の周囲に、隔壁となるようにシリコーンゴム(厚さ0.1mm)を配置した。その後、基板A2の上方から、カバーグラスをのせ、基板A2とシリコーンゴムとで囲まれた空間を密封した。つぎに、基板A2を4℃で一晩静置して、金薄膜を構成する金と、捕捉物質としてのチオール化DNAとを共有結合させた。その後、基板A2の金属層をTBS緩衝液で洗浄した。
【0131】
その後、金属膜および半導体層上に非特異的に吸着したプローブDNAを取り除くため、DNAプローブが固定された基板の表面を以下のようにして洗浄した。まず、シリコーンゴム上にハイブリダイゼーション用のチャンバー(体積20μL)を設置した。ハイブリダイゼーション用のチャンバーによって形成された空間に、ハイブリダイゼーション用水溶液〔東洋紡績(株)製、商品名:PerfectHyb(登録商標) Hybridization Solution〕20μLを注入した。そして、基板A2を恒温槽(45℃)中に2時間静置した。その後、前記空間より液体を排出した。さらに、前記空間に、ハイブリダイゼーション用水溶液100μLを注入し、前記と同様に操作を行なった。これにより、作用電極基板を得た。
【0132】
(実施例9)
実施例8において、製造例15で得られた溶液Cの代わりに、製造例16で得られた溶液Dを用いたことを除き、実施例8と同様の操作を行ない、作用電極基板を得た。
【0133】
(比較例4)
実施例8において、製造例15で得られた溶液Cの代わりに、TBS緩衝液を用いたことを除き、実施例8と同様の操作を行ない、作用電極基板を得た。
【0134】
(比較例5)
実施例8において、製造例15で得られた溶液Cを用いる代わりに何も用いなかったことを除き、実施例8と同様の操作を行ない、作用電極基板を得た。
【0135】
(試験例4)
(1)ハイブリダイゼーション処理
ハイブリダイゼーション用水溶液又は10nM Alexa Fluor750標識DNA含有ハイブリダイゼーション用水溶液100μLを、実施例8及び9並びに比較例4及び5それぞれで得られた作用電極基板に取り付けられたハイブリダイゼーション用のチャンバー内に注入した。
【0136】
その後、作用電極基板を恒温槽(45℃)中に4時間静置した。つぎに、ハイブリダイゼーション用のチャンバーを電極上から取り外した。そして、作用電極基板を、洗浄溶液〔0.01質量%SDS含有2×SSC溶液〕及び滅菌精製水で洗浄し、乾燥させた。
【0137】
(2)金属層の安定性評価
試験例1と同様の操作を行ない、実施例8及び9並びに比較例4及び5それぞれで得られた作用電極基板の作用電極上の金属層の安定性を評価した。評価基準は、以下のとおりである。評価の結果を表2に示す。
【0138】
〔評価基準〕
○ 金属層が完全に残っている。
× 金属層の剥離が見られる。
【0139】
【表2】

【0140】
表2に示された結果から、リンカー分子としてのL−システイン又はポリ−L−リジンからなる密着層を半導体層と金属層との間に形成した場合(実施例8及び9)、金属層の剥離が見られず、金属層は良好な状態で維持されていることがわかる。したがって、これらの結果から、リンカー分子として半導体層及び金属層の両方と結合する化合物であるL-システイン等のアミノ酸又はポリ−L−リジン等のポリアミノ酸が用いられた作用電極基板によれば、高い検出感度で、かつ高い再現性で被検物質を検出することができることが示唆される。
【0141】
(試験例5)
(1)ハイブリダイゼーション処理
ハイブリダイゼーション用水溶液(Alexa Fluor750標識DNAの濃度:0nM)又は10nM Alexa Fluor750標識DNA含有ハイブリダイゼーション用水溶液100μLを、実施例8及び9並びに比較例4及び5それぞれで得られた作用電極基板に取り付けられたハイブリダイゼーション用のチャンバー内に注入した。
【0142】
その後、作用電極基板を恒温槽(45℃)中に4時間静置した。つぎに、ハイブリダイゼーション用のチャンバーを電極上から取り外した。そして、作用電極基板を、洗浄溶液〔0.01質量%SDS含有2×SSC溶液〕及び滅菌精製水で洗浄し、乾燥させた。
【0143】
(2)被験物質の誘引
(1)を行なった後の作用電極基板の周囲に、厚さ0.2mmの側壁となるようにシリコーンゴムを配置した。そして、作用電極基板とシリコーンゴムとによって囲まれた空間に、製造例13で得られた溶解誘引電解液12.5μLを注入した。つぎに、作用電極基板の上方から、製造例14で得た対極基板をのせ、溶解誘引電解液が充填された空間を密封した。これにより、作用電極本体上の金薄膜と対極と参照電極とを溶解誘引電解液に接触させ、室温で5分間静置した。つぎに、電極リードを電流計に接続した。
【0144】
(3)光電流の測定
作用電極に対して、参照電極を基準として0Vの電圧を印加した。これと同時に、作用電極基板側から対極基板に向けて、光源からレーザー光(波長約785nm、出力約13mW)を照射した。このとき、レーザー光を所定の周期(1Hz)で点滅(on・off)させた。そして、レーザー光を20回点滅させたときのレーザー光点灯時(onの時)に作用電極と対極との間を流れる光電流を測定した。試験例5において、実施例8及び9それぞれで得られた作用電極基板を用い、光電流を測定した結果を図15に示す。図中、黒色バーはハイブリダイゼーション用水溶液(Alexa Fluor750標識DNAの濃度:0nM)を用いたときの光電流値、白色バーは10nM Alexa Fluor750標識DNA含有ハイブリダイゼーション用水溶液を用いたときの光電流値を示す。また、図中、エラーバーは、同一の作用電極上の3点で得られた光電流値の標準偏差を示す。さらに、図中、「DNA」は、Alexa Fluor750標識DNAを示す。
【0145】
図15に示された結果から、リンカー分子としてポリ−L−リジンが用いられた作用電極基板(実施例8)及びリンカー分子としてL−システインが用いられた作用電極基板(実施例8)のいずれを用いた場合であっても、Alexa Fluor750標識DNAのAlexa Fluor750に基づく光電流を良好に検出することができることがわかる。したがって、これらの結果から、リンカー分子としてL-システイン等のアミノ酸又はポリ−L−リジン等のポリアミノ酸が用いられた作用電極基板によれば、被検物質を良好に検出することができることが示唆される。
【0146】
また、図15に示された結果から、リンカー分子としてポリ−L−リジンが用いられた作用電極基板(実施例9)を用いたときのAlexa Fluor750に基づく光電流は、リンカー分子としてL−システインが用いられた作用電極基板(実施例8)を用いたときのAlexa Fluor750に基づく光電流と比べて大きいことがわかる。しかも、リンカー分子としてポリ−L−リジンが用いられた作用電極基板(実施例9)を用いたときのシグナル−ノイズ比(S/N)は、リンカー分子としてL−システインが用いられた作用電極基板(実施例8)を用いたときのS/Nと比べて大きいことがわかる。したがって、これらの結果から、被検物質を高い検出感度で検出する観点から、リンカー分子は、L−システインよりもポリ−L−リジンが好ましいことがわかる。
【0147】
(実験例1)
(1)作用電極基板の作製
スパッタリング法により、ガラス(SiO2)からなる基板本体の表面に、酸化インジウムスズ(ITO)の薄膜(厚さ約200nm)を形成し、さらにその上にアンチモンドープ酸化スズ(ATO)の薄膜(厚さ約100nm)を形成し、作用電極1を得た。また、作用電極1上に、酸化チタン(TiO2)の薄膜(厚さ約10nm)を形成し、作用電極2を得た。酸化チタンは、従来、半導体と金属とを密着させるために用いられている。
【0148】
(2)光電流の測定
作用電極基板の周囲に、厚さ0.2mmの側壁となるようにシリコーンゴムを配置した。そして、前記作用電極基板とシリコーンゴムとに囲まれた空間に、製造例13で得られた電解液12μLを充填した。そして、作用電極基板の上方から、製造例14で得られた対極基板をのせ、前記電解液が充填された空間を密封した。これにより、作用電極と対極と参照電極を電解液に接触させた。つぎに、電極リードを電流計に接続した。
【0149】
作用電極に対して、参照電極を基準として0Vの電圧を印加した。これと同時に、作用電極基板側から対極基板に向けて、光源から波長473nmのレーザー光〔出力13mW、使用光源:フォトップ・スーテック(Photop Suwtech)社製、商品名:DPBL−9050〕、波長640nmのレーザー光〔出力13mW、使用光源:コヘレント(Coherent)社製、商品名:Cube640〕又は波長785nmのレーザー光〔出力13mW、使用光源:コヘレント(Coherent)社製、商品名:Cube785〕を照射した。このとき、レーザー光を所定の周期(1Hz)で点滅(on・off)させた。そして、レーザー光を20回点滅させたときのレーザー光点灯時(onの時)に作用電極と対極との間を流れる光電流を測定した。実験例1において、光電流を測定した結果を示すグラフを図14に示す。実験番号1は作用電極2に対して、波長473nmのレーザー光を照射したときの作用電極由来の光電流、実験番号2は作用電極2に対して、波長640nmのレーザー光を照射したときの作用電極由来の光電流、実験番号3は作用電極2に対して、波長785nmのレーザー光を照射したときの作用電極由来の光電流、実験番号4は作用電極1に対して、波長473nmのレーザー光を照射したときの作用電極由来の光電流、実験番号5は作用電極1に対して、波長640nmのレーザー光を照射したときの作用電極由来の光電流及び実験番号6は作用電極1に対して、波長785nmのレーザー光を照射したときの作用電極由来の光電流を示す。
【0150】
図14に示された結果から、酸化チタンからなる薄膜を有する作用電極2(実験番号1〜3)では、酸化チタンからなる薄膜を有しない作用電極1(実験番号4〜6)と比べて、作用電極由来の光電流値が10倍以上に増大することがわかる。この結果より、光電流の検出に用いる作用電極基板において、半導体層と金属層とを密着させる密着層として酸化チタンからなる薄膜を用いた場合、作用電極由来の光電流値が増大してしまい、結果としてS/Nの著しい低下を招くことが示唆される。したがって、従来、半導体と金属とを密着させるために用いられているチタンは、光電流の検出に用いる作用電極基板においては、金属層を安定的に維持するための密着層として使用困難であることが示唆される。
【0151】
以上の結果から、本発明の電極は、半導体層と金属層との間にリンカー分子からなる密着層を有しているので、かかる密着層を介して半導体層と金属層との間をより強く密着させることができることがわかる。そのため、検出物質の検出の際に、捕捉物質によって検出物質の捕捉を行なう場合や、作用電極に対して、検出感度を向上させるためのブロッキング処理を施した場合であっても、金属層が剥離しにくくなる。したがって、光化学的検出方法において、本発明の電極を用いることで、高い再現性で被検物質を検出することができることがわかる。
【符号の説明】
【0152】
1 検出装置
11 チップ受入部
12 ディスプレイ
13 光源
14 電流計
15 電源
16 A/D変換部
17 制御部
20 光電流検出チップ
20a 空間
30 上基板
30a 基板本体
30b 試料注入口
31 上基板
31a 基板本体
31b 試料注入口
32 上基板
32a 基板本体
32b 試料注入口
40 下基板
41 下基板
42 下基板
40a 基板本体
41a 基板本体
42a 基板本体
50 間隔保持部材
51 間隔保持部材
51a 部材本体
61 作用電極
62 半導体層(作用電極本体)
63 密着層
64 金属層
64a 非固定部
65 ブロッキング層
66 対極
69 参照電極
71 電極リード
72 電極リード
73 電極リード
90 捕捉物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光励起により電子を生じる検出物質を光電気化学的に検出するために用いられる光電流検出用電極であって、
励起光が照射されることにより前記検出物質から生じた電子を受容する半導体からなる電極本体と、
前記電極本体上に形成されたリンカー分子を含む密着層と、
前記密着層上に形成された金属からなる金属層と
を含む光電流検出用電極。
【請求項2】
前記金属層上に、検出物質を捕捉する捕捉物質がさらに固定化されてなる、請求項1に記載の電極。
【請求項3】
前記金属層上における前記捕捉物質が固定化されていない部分がブロッキング剤によってブロッキングされてなる、請求項2に記載の電極。
【請求項4】
前記リンカー分子が、シランカップリング剤、チタンカップリング剤及び式(1):
1−X−R2 (1)
〔式中、R1はシラノール基、リン酸基、チオール基又はカルボキシル基を示し、R2はアミノ基、チオール基、炭素数1〜4のアルキル基、水酸基、カルボキシル基、スルホン酸基、エポキシ基、メタクリロイル基、アクリロイル基、又はビニル基を示し、Xは式(2):
(CH2m (2)
(式中、mは1〜20の整数を示す)又は式(3):
【化1】


(式中、nは1〜100の整数を示す)
を示し、式(1)で示される分子中にアミド結合、エステル結合、エーテル結合又はジチオール結合を有していてもよい〕で表される化合物からなる群より選択された少なくとも1つである、請求項1に記載の電極。
【請求項5】
前記リンカー分子が、アミノ酸、又はアミノ酸残基を含む化合物である、請求項1に記載の電極。
【請求項6】
前記金属層が、光励起により電子を生じる検出物質を光電気化学的に検出するに際して用いられる電解液によって溶解される金属からなる、請求項1に記載の電極。
【請求項7】
前記金属は、金及びパラジウムからなる群より選択された少なくとも1つの金属である、請求項6に記載の電極。
【請求項8】
光励起により電子を生じる検出物質を光電気化学的に検出するのに用いられる作用電極基板であって、
基板本体と、
光電流検出用電極と
を含み、
光電流検出用電極は、前記基板本体上に形成され、励起光が照射されることにより前記検出物質から生じた電子を受容する半導体からなる電極本体、この電極本体上に形成されたリンカー分子を含む密着層、及びこの密着層上に形成された金属からなる金属層を有する、作用電極基板。
【請求項9】
前記金属層上に、検出物質を捕捉する捕捉物質がさらに固定化されてなる、請求項8に記載の作用電極基板。
【請求項10】
前記金属層上における前記捕捉物質が固定化されていない部分がブロッキング剤によってブロッキングされてなる、請求項9に記載の作用電極基板。
【請求項11】
光励起により電子を生じる検出物質を光電気化学的に検出するために用いられる光電流検出用電極の製造方法であって、
光励起により生じた電子を受容する半導体からなる電極本体上に、リンカー分子を含む密着層を形成する工程、及び
前記密着層上に、金属層を形成する工程
を含む、電極の製造方法。
【請求項12】
前記金属層上に、検出物質を捕捉する捕捉物質を固定化する工程をさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記金属層上における前記捕捉物質が固定化されていない部分を、ブロッキング剤によってブロッキングする工程をさらに含む、請求項12に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2012−150097(P2012−150097A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257332(P2011−257332)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(390014960)シスメックス株式会社 (810)
【Fターム(参考)】