説明

光音響イメージング用造影剤、あるいは、前記造影剤を用いた光音響イメージング方法

【課題】 光音響イメージング法において、より大きい音響波を発生させるための光音響イメージング用造影剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 2−デオキシグルコースあるいはその誘導体のうち少なくともいずれか一方を有することを特徴とする光音響イメージング用造影剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光音響イメージング用造影剤、あるいは、前記造影剤を用いた光音響イメージング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
検体内部の情報を可視化する方法として、光音響イメージング法が知られている。光音響イメージング法は、検体に光を照射することで検体から発せられる音響波の大きさと、この音響波の発生位置を測定することにより、検体内部の物質分布の画像を得る方法である。
【0003】
光音響イメージング法によって血管のイメージングをできることが知られている(非特許文献1)。非特許文献1では、光を照射された、ラットの血管中のヘモグロビンから発生した音響波を測定することにより、血管のイメージングを行っている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hao F Zhang、外3名“Functional photoacoustic microscopy for high−resolution and noninvasive in vivo imaging”、“NATURE BIOTECHNOLOGY”、2006年 7月、VOLUME 24,NUMBER 7,p.848−851
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし非特許文献1では、血管内に存在するヘモグロビンを利用してイメージングを行っている。しかし、より高感度な光音響イメージングを実現するために、より大きい音響波を発生させるための造影剤が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る光音響イメージング用造影剤は、2−デオキシグルコースあるいはその誘導体のうち少なくともいずれか一方を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明者らが検討した結果、音響波を発生する物質の周囲に2−デオキシグルコースが存在する場合は、そうでない場合に比べて、より大きい音響波を発生することを発見した。そこで、本発明は、光音響イメージング法において、より大きい音響波を発生させるための光音響イメージング用造影剤を提供することを目的とする。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明の実施例における、2−デオキシグルコース濃度と相対光音響信号の強度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0010】
本実施形態に係る光音響イメージング用造影剤は、2−デオキシグルコースあるいはその誘導体のうち少なくともいずれか一方を有することを特徴とする。
【0011】
音響波を発生させる物質の周囲に2−デオキシグルコースあるいはその誘導体が存在する場合は、そうでない場合に比べて、発生する音響波は大きい。したがって、ヘモグロビンのような音響波を発生させる物質を有する検体に、2−デオキシグルコースあるいはその誘導体のうち少なくともいずれか一方を有する、光音響イメージング用造影剤を投与すると、造影剤を投与しない場合に比べて、検体が有する音響波を発生させる物質から発生する音響波が大きいと考えられる。そのため、光音響イメージング法において測定した音響波を画像化すると、より見やすい画像を得ることができると考えられる。ここで、腫瘍細胞は一般的には増殖性が亢進しており、2−デオキシグルコースあるいはその誘導体など、グルコースの骨格構造を有する化合物は、グルコーストランスポーターを介して腫瘍細胞に取り込まれやすい。グルコースが腫瘍細胞に取り込まれた場合、グルコースの2位の水酸基はヘキソキナーゼによりリン酸化され、腫瘍細胞から代謝される。しかし、2−デオキシグルコースあるいはその誘導体が腫瘍細胞に取り込まれた場合、2−デオキシグルコースあるいはその誘導体は2位に水酸基を有しないので、代謝を受けずに、腫瘍細胞内に留まるとされている。このような現象はメタボリットラッピングと呼ばれている。つまり、2−デオキシグルコースあるいはその誘導体は、腫瘍細胞に留まりやすい。また、腫瘍細胞以外にも、炎症部位や心筋虚血領域などでも2−デオキシグルコースは留まりやすいことが知られている。したがって、本実施形態に係る造影剤を投与された検体は、投与される前の検体に比べて、腫瘍細胞、炎症部位や心筋虚血領域などから発生する音響波が、大きいと考えられる。よって、本実施形態に係る造影剤は、腫瘍細胞、炎症部位や心筋虚血領域などをイメージングするための造影剤として適していると考えられる。
【0012】
また、本実施形態に係る光音響イメージング用造影剤がさらに、600nm乃至1300nmの範囲から選択される少なくとも1つの波長におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上である粒子を有することが好ましい。この場合、検体に存在する音響波を発生する物質と上記の粒子の2つから音響波が発生すると考えられるため、より大きな音響波が発生すると考えられる。
【0013】
本実施形態に係る光音響イメージング用造影剤は、(1)2−デオキシグルコースのみからなるもの、(2)水に2−デオキシグルコースを溶かしたもの、(3)水に2−デオキシグルコースを溶かしたものに上記の粒子を添加したものなどが挙げられる。
【0014】
なお、上記の(1)(2)について、2−デオキシグルコースの濃度は、0.01M以上であることが好ましく、0.25M以上であることがさらに好ましい。
【0015】
また、本実施形態に係る光音響イメージング用造影剤は、(1)(2)(3)のうち少なくともいずれか一種を固体粒子に内包させたものでもよい。上記の固体粒子としては、リポソーム、ポリ乳酸グリコール酸共重合体(poly(lactic−co−glycolic acid)、以下PLGAと略す)、ポリスチレンなどが挙げられる。
【0016】
(2−デオキシグルコースあるいはその誘導体)
本実施形態において、2−デオキシグルコースとは、グルコースの2位の炭素に2個の水素を有する化合物である。すなわち、グルコースの2位の水酸基が水素に置き換わった化合物である。
【0017】
また、本実施形態において、2−デオキシグルコースの誘導体とは、2−デオキシグルコースを骨格とする化合物の総称であり、例えば、2−アミノ−2−デオキシグルコース、N−アセチル−2−アミノ−2−デオキシグルコース、 2−フルオロ−2−デオキシグルコースなどが挙げられる。また、有機色素やオリゴエチレングリコール鎖などで化学修飾された化合物も含まれる。
【0018】
本実施形態における2−デオキシグルコースあるいはその誘導体として好ましくは、腫瘍細胞に特に取り込まれやすい、2−デオキシグルコースあるいは2−フルオロ−2−デオキシグルコースが好ましい。
【0019】
(分散媒)
本実施形態に係る造影剤は、さらに分散媒を有していてもよい。上記の分散媒として、例えば生理食塩水、注射用蒸留水、リン酸緩衝生理食塩水(Phosphate Buffered Saline、PBS)などが挙げられる。
【0020】
(粒子)
本実施形態における粒子は、600nm乃至1300nmの範囲から選択される少なくとも1つの波長におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上であれば特に限定されない。また、本実施形態における粒子は600nm乃至1300nmの範囲から選択される少なくとも1つの波長におけるモル吸光係数が1020−1cm−1以下であることが好ましい。
【0021】
本実施形態に係る粒子は、球状であってもよいし、球状でない、楕円体のような形状、円柱形状、角錐形状、円錐形状などであってもよい。
【0022】
本実施形態に係る粒子の例として、600nm乃至1300nmの範囲から選択される少なくとも1つの波長におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上を有する、金属酸化物、金属、その他の無機材料、有機色素、ヘモグロビン(酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビン)の少なくともいずれか一種を有するものが挙げられる。
【0023】
上記の金属酸化物としては、例えば、酸化鉄(Fe、Fe)、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、酸化ホウ素を挙げることが出来る。上記の金属としては、例えば、金、銀、銅、白金を挙げることが出来る。また、金、銀、銅、白金の混成によるコロイドを用いることも可能である。上記のその他の無機材料としては、例えば、硫化カドミウム、セレン化亜鉛、セレン化カドミウム、テルル化亜鉛、テルル化カドミウム、硫化亜鉛、硫化鉛、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、シュウ酸鉄を挙げることが出来る。
【0024】
上記の有機色素としては、例えば、アジン系色素、アクリジン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、スチリル系色素、ピリリウム系色素、アゾ系色素、キノン系色素、テトラサイクリン系色素、フラボン系色素、ポリエン系色素、BODIPY(登録商標)系色素、HiLyte Fluor(登録商標)系色素を挙げることが出来る。上記のポルフィリン系色素としては、例えば、処方せん医薬品であるフォトフリン(ワイス株式会社製)、レザフィリン(明治製菓株式会社製)、ビスダイン(ノバルティス ファーマ株式会社製)を挙げることが出来る。上記のシアニン系色素としては、例えば、インドシアニングリーン(Indocyanine Green、以下ICGと略す)、Alexa Fluor(登録商標)系色素(インビトロジェン社製)、Cy(登録商標)系色素(GE ヘルスケア バイオサイエンス社製)、DyLight(登録商標)系色素(ピアス・バイオテクノロジー社製)、ADS832WS(American Dye Source社製)を挙げることが出来る。上記のフタロシアニン系色素としては、例えば、IRDye(登録商標)(LI−COR社製)、2,11,20,29−Tetra−tert−butyl−2,3−naphthalocyanine(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製)を挙げることが出来る。上記のHiLyte Fluor(登録商標)系色素としては、例えば、HiLyte Fluor(登録商標) 750 Bis − NHS ester, isomer II TEA saltを挙げることが出来る。本実施形態に係る粒子はこれらを単独で有していてもよく、複数種有していてもよい。
【0025】
本実施形態に係る粒子は、ICGを有することが好ましい。本実施形態において、ICGは、公知の色素合成法により調製したものでもよいし、市販品でもよい。
【0026】
本実施形態において、酸化鉄粒子は市販のものを用いてもよく、合成したものを用いてもよい。合成する方法として例えば、FeCl・6HO(25.5g)とFeCl・4HO(10.2g)を混合、溶解した水溶液(600ml)と、粉末状デキストラン(平均分子量10000 Da、360g)と、濃度30%のアンモニア水溶液(30ml)を用いることで、デキストランで被覆された酸化鉄粒子のコロイド溶液を調製することができる。
【0027】
本実施形態に係る粒子は、上記の金属酸化物、金属、その他の無機材料、有機色素、ヘモグロビン以外に、粒子の水中での分散性を上げるための分散剤として、あるいは、粒子を構成する材料の密度を上げるためのバインダとして、多糖類、合成高分子、リポソーム、リン脂質、脂肪酸、界面活性剤、シリカ、炭酸塩、ヒドロキシアパタイトなどの材料を有していてもよい。これらの材料は、600nm乃至1300nmの範囲から選択される少なくとも1つの波長におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上でなくてもよい。
【0028】
また、本実施形態に係る粒子はこれらを、単独で有していてもよく、複数種を有していてもよい。
【0029】
上記の多糖類としては、例えば、デキストラン、プルラン、マンナン、アミロペクチン、キトサン、キシログルカン、ヒアルロン酸、アルギン酸、水溶性セルロース、でんぷん、アガロース、カラギーナン、ヘパリン、及びこれらの誘導体を挙げることができる。
【0030】
上記の合成高分子としては、ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリアリルアミン、ポリアミドアミンデンドリマーなどのアミノ基を有する高分子、ポリビニルアルコールなどのヒドロキシル基を有する高分子、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、ポリリンゴ酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸などのカルボキシル基を有する高分子、ポリエチレングリコールからなる親水性セグメントと、ポリラクチド、PLGA、ポリε−カプロラクトンからなる群より選ばれる疎水性セグメントを含む高分子を挙げることができる。
【0031】
上記のリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリンを挙げることができる。
【0032】
上記の脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸、ラウロレイン酸、フィセテリン酸、ミシストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸、イソラウリン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸などの分岐脂肪酸を挙げることができる。
【0033】
上記の界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキル硫化塩を挙げることができる。ポリオキシエチレンアルキルエーテルの例として、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラートなどが挙げられる。また、ポリエチレングリコールを有するホスファチジルエタノールアミンを用いてもよい。本実施形態において、上記の界面活性剤は単独で用いてもよく、複数種用いてもよい。
【0034】
本実施形態に係る粒子として、カルボキシル基、アミノ基、マレイミド基、ヒドロキシル基などの官能基を有していてもよく、例えば、マレイミド基を有する酸化鉄粒子が挙げられる。
【0035】
本実施形態における粒子は、公知の粒子作製法により適宜作製して使用することもできるし、市販品を使用してもよい。
【0036】
本実施形態における粒子は、前記の2−デオキシグルコースあるいはその誘導体を含有する粒子であってもよい。
【0037】
また、本実施形態における粒子は、上記金属酸化物、金属、その他の無機材料、有機色素、ヘモグロビンのうち少なくともいずれか一種のみからなってもよい。
【0038】
(添加物)
本実施形態における粒子が、ICGなどの親水性部位を有する有機色素を有する場合、本実施形態に係る粒子が、添加物として、ニコチン酸誘導体又は正帯電部位を有する脂質を有することが好ましい。ICGの有する親水性部位をと、正帯電部位を有する脂質又はニコチン酸誘導体の有する正帯電部位がICGの親水性部位(スルホン酸基)に会合し、そのためにICGの疎水性が上がるため、クロロホルム、ジクロロメタンなどの有機溶媒に可溶化することができると考えられる。ICGは脱塩カラムなどで処理してICGの脱塩体として使用しても良い。
【0039】
正帯電部位を有する脂質とは、脂質のうちその構造の一部に、陽イオンの部分構造を有する脂質のことを言う。このような脂質の例としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルセリン等のグリセロ脂質、スフィンゴミエリン、スフィンゴリン脂質及びスフィンゴシン等のスフィンゴ脂質、ノイラミン酸等のアミノ糖部分を有するスフィンゴ糖脂質等の糖脂質、コレステリル−3β−カルボキシアミドエチレン−N−ヒドロキシエチルアミン及び3([N−N’,N’−ジメチルアミノエタン)−カルバモイル]コレステロール等の合成コレステロール類、ラウリルアミン、ステアリルアミン、N−[1−(2,3−ジオレイルオキシ)プロピル]−N,N,N−トリメチルアンモニウムクロライド(略称DOTMA)及び2,3−ジオレイルオキシ−N−[2(スペルミンカルボキシアミド)エチル]−N,N−ジメチル−1−プロパンアミニウムトリフルオロ酢酸(略称DOSPA)等の合成脂質、並びにエーテル型リン脂質及びカチオニック脂質等を挙げることができる。
【0040】
また、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン及びホスファチジルセリンの例としては、ジアシルホスファチジルコリン、ジアシルホスファチジルエタノールアミン及びジアシルホスファチジルセリンなどが挙げられる。
【0041】
また、正帯電部位を有する脂質は、さらにリン酸ジエステル結合を有することが好ましく、例えば、1,2−Distearoyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamine(DSPE)、1,2−Dipalmitoyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamine(DPPE)、1,2−Dimyristoyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamine(DMPE)、1,2−Dilauroyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamine(DLPE)、1,2−Dioleoyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamine(DOPE)、1,2−Dilinoleoyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamine(DLoPE)、1,2−Dierucoyl−sn−glycero−3−phosphoethanolamine(DEPE)、1,2−Distearoyl−sn−glycero−3−phospho−L−serine(DSPS)、1,2−Dipalmitoyl−sn−glycero−3−phospho−L−serine(DPPS)、1,2−Dimyristoyl−sn−glycero−3−phospho−Lserine(DMPS)、1,2−Dioleoyl−sn−glycero−3−phospho−L−serine(DOPS)、1,2−Distearoyl−sn−glycero−3−phosphocholine(以下、DSPCと略す)、1,2−Dipalmitoyl−sn−glycero−3−phosphocholine(DPPC)、1,2−Dimyristoyl−sn−glycero−3−phosphocholine(DMPC)、1,2−Dilauroylsn−glycero−3−phosphocholine(DLPC)、1,2−Dioleoyl−sn−glycero−3−phosphocholine(DOPC)、1,2−Dilinoleoyl−sn−glycero−3−phosphocholine(DLoPC)などが挙げられる。
【0042】
本実施形態における正帯電部位を有する脂質としては、他にも、1,2−di−o−acyl−sn−glycero−3−phosphocholine、1,2−diacyl−3−trimethylammonium propane chloride、o,o’−ditetradecanoyl−N−(α−trimethylammonioacetyl)diethanolamine chloride等を使用することができる。
【0043】
本実施形態において、ニコチン酸誘導体としては、特に限定されることはないが、例えばニコチン酸アミド、ニコチン酸ベンジルエステル、ニコチン酸、ニコチン酸メチル、ニコチン酸エチル、イソニコチン酸エチル及びニコチン酸トコフェロール等が挙げられる。
【0044】
なお、本実施形態における添加物としては、上記を単独で用いてもよく複数種を用いてもよい。本実施形態における添加物としては、DSPCが好ましい。
【0045】
(粒子のモル吸光係数の測定方法)
本実施形態において、粒子のモル吸光係数は例えば以下のように測定する。まず、粒子の濃度cを求める。粒子の濃度は、ある体積の粒子溶液を凍結乾燥させることにより、粒子の重量を求め、これと粒子の平均分子量と乾燥前の溶液体積とから算出できる。続いて既知濃度の粒子溶液を幅lの吸光セルに添加する。このセルに600nm乃至1300nmの範囲から選択される少なくとも1つの波長の光を照射して、選択した波長における吸光度Aを求める。吸光度Aが1より大きい場合は、粒子溶液を適宜希釈する。最後に、ランバート・ベールの式に上記のA、c、lを代入することで、モル吸光係数εを求めることができる。lを一定とした場合、数種類の濃度の粒子溶液を用いて、cに対するAの直線性を確認することが好ましい。
【0046】
(粒子の粒径)
本実施形態において粒子の粒径は5nm以上1000nm以下であることが好ましい。粒子の粒径が5nm以上1000nm以下の場合、EPR(Enhanced Permeability and Retention)効果により、生体内の正常部位に比べて腫瘍部位に、より多くの粒子を集積させることができる。その結果、粒子を投与された生体にパルス光を照射すると、腫瘍部位から発生する光音響信号の強度は正常部位から発生する光音響信号の強度よりも大きくなる。したがって、粒子の粒径を5nm以上1000nm以下とすることにより、腫瘍部位を特異的に検出することができる。また、粒子の粒径は500nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。粒子の粒径が200nm以下であると、粒子が肝臓や脾臓のマクロファージに取り込まれにくく、血中滞留性が高くなると考えられるからである。粒子は、一次粒子でもよいし、二次粒子でもよい。粒子の粒径は、例えば、動的光散乱解析装置(DLS−8000、大塚電子社製)を用いて、動的光散乱(Dynamic Light Scattering、DLS)法によって流体力学的直径を測定する。例えば、上記装置を用いて100回の積算を5回行い、算出された5つのデータの平均をとることによって求めることができる。
【0047】
(粒子の表面修飾)
本実施形態において粒子の表面には、親水性の高分子や、生体分子に特異的に結合する分子(以下、リガンドと言う)が修飾されていることが好ましい。親水性の高分子を修飾することによって、粒子の生体内での安定性を高め、粒子を腫瘍部位へ送達しやすくすることができる。つまり、上記のEPR効果を向上させることが出来る。本実施形態において、親水性の高分子としては、ポリエチレングリコールが好ましい。ポリエチレングリコールの分子量としては、300以上であることが好ましく、1000以上であることがさらに好ましい。また、ポリエチレングリコールの分子量として、100000以下であることが好ましく、20000以下であることが好ましい。本実施形態において、リガンドは生体分子に結合できる分子のことであり、リガンドの具体例としては、生体分子への結合力の観点からは、抗体やその改変体が好ましい。ここで生体分子とは、生体内に含まれる分子のことであり、タンパク質や脂質、糖類、核酸などである。本実施形態において、生体分子の例としては、膜たんぱく質や転写因子、DNAなどがあるが、腫瘍細胞に特異的に発現している分子、具体的には、腫瘍抗原、受容体、細胞表面の膜タンパク質、タンパク質分解酵素、サイトカイン等が挙げられる。前記腫瘍抗原の具体例としては、Vascular Endothelial Growth Factor(VEGF)ファミリー、Vascular Endothelial Growth Factor Receptor(VEGFR)ファミリー、Prostate Specific Antigen(PSA)、Carcinoembryonic Antigen(CEA)、Matrix Metalloproteinase(MMP)ファミリー、Epidermal Growth Factor Receptor(EGFR)ファミリー、Epidermal Growth Factor(EGF)、インテグリンファミリー、I型インスリン様増殖因子受容体(Type 1 insulin−like growth factor receptor:IGF−1R)、CD184抗原(CXCケモカインレセプター4:CXCR4)、胎盤増殖因子(placental growth factor:PlGF)などが挙げられ、特に好ましくは、EGFRファミリーである上皮成長因子受容体2(HER2)である。HER2は、ErbB2、c−Erb−B2、p185HER2といわれることもある。HER2はチロシンキナーゼ型受容体の一つである。HER2は乳癌、前立腺癌、胃癌、卵巣癌、肺癌などの腺癌で遺伝子増幅及び過剰に発現する物質(タンパク質)である。そのため、本実施形態に係る粒子が抗体を有する場合、HER2に特異的に結合する抗体を用いれば、腫瘍細胞に特異的に粒子を集積させることが出来るため、腫瘍からの強い光音響信号の取得が可能になる。なお、HER2に特異的に結合する抗体として、ハーセプチン(登録商標)(中外製薬社製)が挙げられる。本実施形態に係る粒子の表面修飾の確認は、例えば、表面修飾分子を定量することで行うことが出来る。定量の一例としては、表面修飾分子が抗体の場合、粒子上の抗体量を公知のタンパク定量方法に従って測定することにより、粒子表面への抗体の修飾を確認することが出来る。
【0048】
(光音響イメージング方法)
本実施形態に係る光音響イメージング方法は、本実施形態に係る造影剤が投与された検体に600nm乃至1300nmの範囲から選択されるいずれかの波長の光を照射する工程と、前記検体内から発生する音響波を検出する工程と、を有する。
【0049】
本実施形態に係る光音響イメージング方法の一例を説明する。本実施形態に係る造影剤が投与された検体、あるいは前記検体より得られた臓器等の試料を用意する。前記検体中もしくは検体より得られた試料として例えば、臓器、組織、組織切片、細胞、細胞溶解物などを挙げることができる。次に、前記検体等に対し600nm乃至1300nmの範囲から選択されるいずれかの波長のレーザーパルス光を照射する。レーザーパルス光を照射する装置として、例えば、チタンサファイアレーザー(LT−2211−PC、Lotis社製))、OPOレーザー(LT−2214 OPO、Lotis社製)、アレキサンドライトレーザーが挙げられる。
【0050】
次に、本実施形態に係る造影剤からの音響波の強度、すなわち光音響信号の強度を音響波検出器、例えば圧電トランスデューサーで検出し、電気信号に変換する。この音響波検出器より得られた電気信号に基づき、前記検体中の、ヘモグロビンのような音響波を発生させる物質の位置や大きさ、あるいはモル吸光係数などの光学特性値分布を求めることができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0052】
(2−デオキシグルコース水溶液の調製)
2−デオキシグルコースを水に加えることで、0.01M、および、0.25Mの濃度の2−デオキシグルコース水溶液を調製した。
【0053】
(粒子の調製)
本実施例における粒子としてICGを含有する高分子ナノ粒子を調製した。まず、ICG5.5mgをメタノール1mlに溶解し、ICGメタノール溶液を調製した。DSPC(11.3mg、日油(株)製)をクロロホルム2mlに溶解し、DSPCクロロホルム溶液を調製した。ICGメタノール溶液1mlとDSPCクロロホルム溶液2mlを混合した後、減圧下40℃で溶媒を留去した。蒸発乾固したICG・DSPCをクロロホルム2mlに溶解して、クロロホルムに溶解したICG組成物を調製した。ICG組成物のクロロホルム溶液1.6mlにPLGA5mg(乳酸:グリコール酸のモル比=1:1、M.W.20000、和光純薬工業(株)社製)を溶解させて、クロロホルム溶液を調製した。次に、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウラート(180mg)とポリエチレングリコールを有するホスファチジルエタノールアミンであるSUNBRIGHT(登録商標)DSPE−020CN(5mol%、22mg、日油(株)社製)を溶解した水溶液(10ml)に、前記クロロホルム溶液を加えて混合液とし、この混合液を攪拌した。その後、超音波分散機で90秒間処理することによってO/W型のエマルジョンを調製した。
【0054】
次に、前記エマルジョンをロータリーエバポレーターを用いて、40℃で2時間、減圧し、分散質からクロロホルムを留去することによって、粒子の表面がポリオキシエチレンソルビタンモノラウラートとポリエチレングリコールを有するホスファチジルエタノールアミンで保護され、かつ、PLGA中にICGを有する高分子ナノ粒子の水分散液を得た。以下では、得られた高分子ナノ粒子をPNPと略す。
【0055】
動的光散乱解析装置(DLS−8000、大塚電子社製)を用いてPNPの平均粒径を測定したところ、100nm(キュムラント値)であった。
【0056】
(光音響信号の強度の測定方法)
光音響信号の強度の測定は、パルスレーザー光をPNPを添加した水、あるいは、PNP及び2−デオキシグルコースを添加した水に照射することで発生した光音響信号を圧電素子を用いて検出し、高速プリアンプで増幅後、デジタルオシロスコープで取得することで行った。具体的な条件は以下の通りである。光源として、チタンサファイアレーザー(LT−2211−PC、Lotis社製)を用いた。波長は780nm、エネルギー密度は約10から20mJ/cm2、パルス幅は約20ナノ秒、パルス繰返し周波数は10Hzの条件とした。光音響信号を検出する圧電素子としては、エレメント径1.27cm、中心帯域1MHzの非収束型超音波トランスデューサー(V303、Panametrics−NDT製)を用いた。測定容器としては、ポリスチレン製キュベットで、光路長0.1cm、サンプル容量は約200μLであった。
【0057】
水を満たしたガラス容器に前記の測定容器と圧電素子とを浸け、その間隔を2.5cmとした。光音響信号を増幅する高速プリアンプは増幅度+30dBの超音波プリアンプ(Model 5682、オリンパス社製)を用いた。増幅された信号をデジタルオシロスコープ(DPO4104、テクトロニクス社製)に入力した。前記ガラス容器の外からパルスレーザー光を前記ポリスチレン製キュベットに照射した。この際に生じる散乱光の一部をフォトダイオードで検出し、デジタルオシロスコープにトリガー信号として入力した。デジタルオシロスコープを32回平均表示モードとし、パルスレーザー光を32回照射し、光音響信号の取得を行った。
【0058】
(光音響信号の強度の測定)
水(すなわち、2−デオキシグルコース濃度 0M)、及び、上記のように調製した2−デオキシグルコース水溶液(0.01M、および、0.25Mの濃度)に、上記で調製したPNPを添加したものに、波長780nmのパルスレーザー光を照射したときに得られる光音響信号の強度を測定した。光音響信号の強度は圧電素子から得られた電圧を、パルスレーザー光の平均エネルギー、および測定溶液の吸光度(780nm)で除すことで規格化した。
【0059】
図1に2−デオキシグルコース濃度と相対光音響信号強度の関係を示した。ここで、相対光音響信号強度とは、水にPNPを添加したもので測定された光音響信号の強度を1としたとき、2−デオキシグルコース水溶液にPNPを添加したもので測定された光音響信号の強度の値を示す。
【0060】
図1のように、相対光音響信号強度は、2−デオキシグルコース濃度が大きくなると、大きくなった。水にPNPを添加したもので測定された光音響信号の強度に対して、濃度が0.01M、0.25Mの2−デオキシグルコース水溶液にPNPを添加したもので測定された光音響信号の強度は、それぞれ、1.11、ならびに1.35倍であった。これは、PNPの周囲の2−デオキシグルコースの濃度が大きくなると、PNPの周囲の熱膨張係数が大きくなるからであると考えられる。なお、780nmにおける吸光度は、2−デオキシグルコース濃度依存性を示さず、全てのサンプルで、2−デオキシグルコース添加前後の吸光度変化は見られなかった。
【0061】
したがって、上記のように調製した2−デオキシグルコース水溶液に上記のように調製したPNPを添加したものは、大きい音響波を発生させることができる、光音響イメージング用造影剤として用いることができると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2−デオキシグルコースあるいはその誘導体のうち少なくともいずれか一方を有することを特徴とする光音響イメージング用造影剤。
【請求項2】
前記造影剤がさらに、600nm乃至1300nmの範囲から選択される少なくとも1つの波長におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上である粒子を有することを特徴とする光音響イメージング用造影剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の光音響イメージング用造影剤が投与された検体に600nm乃至1300nmの範囲から選択されるいずれかの波長の光を照射する工程と、
前記検体内から発生する音響波を検出する工程と、
を有することを特徴とする光音響イメージング方法。

【図1】
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【公開番号】特開2012−229188(P2012−229188A)
【公開日】平成24年11月22日(2012.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−99878(P2011−99878)
【出願日】平成23年4月27日(2011.4.27)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】