説明

光音響イメージング用造影剤及び前記光音響イメージング用造影剤を用いた光音響イメージング方法

【課題】 信号強度の大きい光音響イメージング用造影剤の検出方法を提供すること。
【解決手段】 無機材料を含む粒子に、近赤外光領域に吸収係数を持つ少なくとも1個の有機色素が化学結合により担持されてなる光音響イメージング用造影剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響イメージング用造影剤及び前記光音響イメージング用造影剤を用いた光音響イメージング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体(検体)内部の情報を画像化する方法として、種々のイメージング方法が知られている。中でも、特許文献1に記載されている光音響トモグラフィ法は、被曝のおそれなしに非破壊測定で断層像を得ることが出来る方法として注目されている。当該光音響トモグラフィ法は、プローブ光を被測定検体の任意の局所表面部分から照射し、照射された光によって被測定検体内部で発生した音響波の大きさ(光音響信号の強度)を測定し、測定結果を処理して画像化するものである。
【0003】
また、非特許文献1には、酸化鉄を有するMRI(磁気共鳴画像装置)用造影剤の光音響信号を計測した結果が報告されている。
【0004】
一方、非特許文献2には、ゾルゲル法を用いて色素含有のシリカナノ微粒子を作製し、その光音響信号を計測した結果が報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平6−296612号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Mienkina MP,Friedrich C−S,Hensel K,Gerhardt NC, Hofmann M,Schmitz G:Evaluation of Ferucarbotran(Resovist (R))as a Photoacoustic Contrast Agent,Biomed Tech 2009;54:pp.83−88
【非特許文献2】G.Kim,S.W.Huang,M.O’Donnell,R.Agayan,K.Day,M.Day,R.Kopelman andS.Ashkenazi,“Indocyanine Green embedded PEBBLEs as a Contrast Agent for Photoacoustic Imaging”,Journal of Biomedical Optics 12 (4) 044020 July/August(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
非特許文献1において、酸化鉄を有するMRI用造影剤(日本シエーリーング社製、商品名:リゾビスト(登録商標)。以下、「リゾビスト」とする)の光音響信号を計測しているが、信号強度が小さいという課題がある。
【0008】
非特許文献2において、色素含有のシリカナノ微粒子の信号強度を測定しているが、色素はシリカナノ微粒子に共有結合などの化学結合をしていないので、光照射による分解が起こり、測定中に信号強度が低下するという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
第一の本発明は、無機材料を含む粒子に、近赤外光領域に吸収係数を持つ少なくとも1個の有機色素が化学結合により担持されてなることを特徴とする光音響イメージング用造影剤である。
【0010】
第二の本発明は、600nm乃至1300nmの波長領域におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上である、無機材料を有する粒子に、600nm乃至1300nmの波長領域におけるモル吸光係数が10M−1cm−1以上である、有機色素が化学結合している光音響イメージング用造影剤が投与された検体に600nm乃至1300nmの波長領域の光を照射する工程と、前記検体内に存在する前記造影剤から発生する音響波を検出する工程と、を有することを特徴とする光音響イメージング方法である。
【0011】
第三の本発明は、600nm乃至1300nmの波長領域におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上である、無機材料を有する粒子に、600nm乃至1300nmの波長領域におけるモル吸光係数が10 M−1cm−1以上である、有機色素が化学結合している光音響イメージング用造影剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば有機色素が化学結合により、無機材料を有する粒子に担持されていることから、従来技術に比べて光音響信号強度が大きくかつその強度が低下しにくい、という光音響特性に優れた光音響イメージング用造影剤および光音響イメージング方法を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例A−1及び比較例A−3における光音響イメージング用造影剤の吸光度測定の結果である。
【図2】実施例A−1及び比較例A−2乃至A−4における光音響イメージング用造影剤の光音響特性評価結果である。
【図3】実施例C−1及び比較例C−2における光音響イメージング用造影剤の吸光度測定の結果である。
【図4】実施例E−1における光音響イメージング用造影剤の吸光度測定の結果である。
【図5】実施例D−1乃至D−5における光音響イメージング用造影剤の光音響特性評価において、色素濃度で規格化された光音響信号強度と、単位粒子あたりの担持色素数(以下、「担持色素数/粒子」とする)の関係をまとめた結果である。
【図6】実施例D−1乃至D−5における光音響イメージング用造影剤の光音響特性評価において、色素濃度で規格化された蛍光強度と、担持色素数/粒子の関係をまとめた結果である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらに限られない。
【0015】
本発明の実施形態に係る光音響イメージング用造影剤は、無機材料を含む粒子に、近赤外光領域に吸収係数を持つ少なくとも1個の有機色素が化学結合により担持されてなることを特徴とする。ここで、近赤外光領域とは600nm乃至1300nmの波長領域を意味する。近赤外光領域に吸収係数を持つとは、600nm乃至1300nmの波長領域の光を照射したときに、その光を吸収することができるという意味である。
【0016】
(実施形態1)
実施形態1では、光音響イメージング用造影剤について説明する。
【0017】
本実施形態に係る光音響イメージング用造影剤は、無機材料を有する粒子において、前記粒子に有機色素が化学結合していることを特徴とする。ただし、無機材料を有する粒子は600nm乃至1300nmの波長領域におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上であり、音響波を発生するための材料である。また無機材料を有する粒子は、600nm乃至1300nmの波長領域におけるモル吸光係数が1013−1cm−1以下であることが好ましい。
【0018】
また、有機色素は、600nm乃至1300nmの波長領域におけるモル吸光係数が10M−1cm−1以上であり、音響波を発生するための材料である。また有機色素は、600nm乃至1300nmの波長領域におけるモル吸光係数が10−1cm−1以下であることが好ましい。
【0019】
無機材料を有する粒子及び有機色素が600nm乃至1300nmの波長領域におけるモル吸光係数がそれぞれ10−1cm−1以上、10M−1cm−1以上であることにより次のような利点がある。すなわち、本実施形態に係る造影剤を光音響イメージング法で用いる場合、造影剤は、生体内における吸収、拡散の影響が少ない600nm乃至1300nmの波長領域における吸収が大きい必要がある。吸収が大きいとは具体的に、無機材料を有する粒子についてはモル吸光係数が10−1cm−1以上であること、有機色素については、10M−1cm−1以上であることが必要である。モル吸光係数が大きいと、照射された光のエネルギーを多く吸収することができるということであり、大きい音響波を発生させることができると考えられる。その結果、光音響イメージング法において得られる画像において、生体内における造影剤の位置を特定しやすくなる。
【0020】
ここで、有機色素は、単独で存在する場合に比べて、粒子と化学結合している場合の方が、光を照射されたときに分解しにくい。本実施形態に係る有機色素は粒子に化学結合をしているので粒子から分離しにくい。そのため、有機色素が分解するリスクは少ない。さらに、粒子に化学結合する有機色素の数は、多いほど好ましいが、6個以上であることが好ましく、10個以上であることがさらに好ましい。有機色素の数が多いほど好ましい理由は2つある。1つは、有機色素が多くなるにつれて、照射される光のエネルギーをより多く吸収できるようになるからである。2つ目は、有機色素がより多く集まることにより消光が生じやすくなるため、照射される光のエネルギーのうち、蛍光として発せられるエネルギーの割合が減り、熱のエネルギーに変わる割合が増えるからである。その結果、有機色素が少ない場合に比べて、より多くの音響波を発生すると考えられる。
【0021】
光音響イメージング法において、照射される光の波長は使用するレーザ光源により選択することが可能である。前記光音響イメージング用造影剤として無機材料を単独で用いる場合に対して、「生体の窓」の波長領域に吸収を持つ種類が一般的に多い有機色素を担持することにより、照射する光の波長にあわせた造影剤の吸収特性を設定することが可能である。
【0022】
しかしながら、前記有機色素を用いた光音響イメージング用造影剤は、光照射による分解が起こり、測定中に信号強度が低下するという課題がある。そこで、有機色素を化学結合により無機材料を有する粒子に担持させることにより、有機色素の分解を抑制し、大きな音響波を安定して計測することが可能である。
【0023】
そのため、本発明の光音響イメージング用造影剤は、無機材料を単独で用いる場合に対して、有機色素を担持することにより、「生体の窓」の波長領域の吸収を大きくし、大きな音響波を計測することが可能である。
【0024】
(無機材料を有する粒子)
本実施形態において無機材料を有する粒子とは、前記無機材料のみからなる粒子と、前記無機材料を無機物もしくは有機物中に分散してなる粒子と、前記無機材料を無機物もしくは有機物で被覆してなる粒子とのいずれかをいう。本発明においては、前記3種類の無機材料を有する粒子のいずれかもしくはその組み合わせを使用することができる。
【0025】
前記無機材料としては、例えば、金属酸化物、貴金属コロイド、半導体粒子、無機顔料、無機染料を挙げることが出来る。なお、本実施形態において、無機材料を有する粒子はこれら無機材料の少なくとも1種類を含んでいればよく、2種類以上含んでいても良い。また、無機材料を有する粒子中の無機材料の数は少なくとも1個を含んでいればよく、2個以上含んでいても良い。
【0026】
前記金属酸化物としては、例えば、酸化鉄(Fe、Fe)、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、酸化ホウ素を挙げることが出来る。前記貴金属コロイドとしては、例えば、金、銀、銅、白金のコロイドを挙げることが出来る。また、金、銀、銅、白金の混成によるコロイドを用いることも可能である。前記半導体粒子としては、例えば、硫化カドミウム、セレン化亜鉛、セレン化カドミウム、テルル化亜鉛、テルル化カドミウム、硫化亜鉛、硫化鉛を挙げることが出来る。前記無機顔料としては、例えば、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブを挙げることが出来る。前記無機染料としては、例えば、シュウ酸鉄を挙げることが出来る。無機材料としては、上記酸化鉄の粒子(酸化鉄粒子)が好ましい。
【0027】
前記無機材料を有する粒子の大きさは任意のものが利用可能であるが、1nm乃至1000nmの範囲内の平均粒子径を有することが好ましい。1000nmを超えると血管中で血栓を形成する可能性も考えられる。特に好ましいのは、10nm乃至200nmである。また、前記無機材料の形状は特に限定されず、ナノロッド、ナノキューブ、ナノプリズム、ナノシェルといったそれぞれ異なる特殊構造体の利用も可能である。前記無機材料は、単独で使用してもよく、任意に混合して使用してもよい。
【0028】
前記無機材料を分散または被覆する有機物としては、例えば、多糖類、蛋白質、ペプチド、核酸、合成高分子、リポソーム、ポリマーミセル、ポリイオンコンプレックス、脂肪酸、界面活性剤を挙げることが出来る。
【0029】
前記多糖類としては、例えば、デキストラン、プルラン、マンナン、アミロペクチン、キトサン、キシログルカン、ヒアルロン酸、アルギン酸、水溶性セルロース、でんぷん、アガロース、カラギーナン、ヘパリンを挙げることが出来る。また、アミノ基、水酸基、カルボキシル基、マレイミド基といった官能基が導入された上記多糖類の誘導体も利用可能である。
【0030】
蛋白質としては、例えば、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリンを挙げることが出来る。
【0031】
前記合成高分子としては、ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリアリルアミン、ポリアミドアミンデンドリマーなどのアミノ基を有する高分子、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの水酸基を有する高分子、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、ポリリンゴ酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸、ポリフマル酸、ポリマレイン酸などのカルボキシル基を有する高分子、ポリ無水マレイン酸などの酸無水物を有する高分子、ポリ乳酸、ポリグリコール酸などの生体適合性を有する高分子を挙げることが出来る。
【0032】
また、上記記載のポリマーユニットを少なくとも一つ含み、他のモノマー由来のユニットを有する共重合体も利用可能である。
【0033】
前記リポソームを構成するリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリンを挙げることが出来る。
【0034】
前記ポリマーミセルを形成するポリマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールからなる親水性セグメントと、ポリラクチド、ポリ(ラクチド−コ−グリコリド)、ポリε−カプロラクトンからなる群より選ばれる疎水性セグメントを有するブロックコポリマーを挙げることが出来る。
【0035】
ポリイオンコンプレックスを形成するポリマーの組み合わせとしては、例えば、ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリアリルアミンからなる群より選ばれるポリカチオンセグメントを有するポリマーと、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、ポリリンゴ酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸からなる群より選ばれるポリアニオンセグメントを有するポリマーを挙げることが出来る。
【0036】
また、上記記載のポリマーユニットを少なくとも一つ含み、他のモノマー由来のユニットを有する共重合体も利用可能である。
【0037】
脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸、ラウロレイン酸、フィセテリン酸、ミシストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸、イソラウリン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸などの分岐脂肪酸を挙げることが出来る。
【0038】
前記界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキル硫酸塩、リン脂質、ポリオキシエチレンソルビタン系脂肪酸エステル、を挙げることが出来る。
【0039】
前記無機材料を分散または被覆する前記無機物としては、例えば、シリカ、炭酸塩、ヒドロキシアパタイトを挙げることが出来る。
【0040】
前記無機材料を分散または被覆する前記有機物及び前記無機物は、単独で使用してもよく、任意に混合して使用してもよい。
【0041】
本実施形態の無機材料を有する粒子の大きさは任意のものが利用可能であり特に制限されない。前記無機材料のみからなる本実施形態の無機材料を有する粒子なら、前記無機材料の大きさと同様になり、無機物もしくは有機物に分散または被覆してなる、前記無機材料を有する粒子の大きさは1nm乃至1000nm程度のものが好ましい。1000nmを超えると血管中で血栓を形成する可能性も考えられる。特に好ましいのは、10nm乃至200nmである。
【0042】
(有機色素)
光音響イメージング法を生体に適用する場合、効率良く音響波を計測するためには、生体内における光の吸収、拡散の影響が少ない「生体の窓」と呼ばれる600nm乃至1300nmの波長の光を照射する。したがって、前記有機色素としては、波長600nm乃至1300nmに吸収を持つものが好ましい。
【0043】
前記有機色素としては、例えば、アジン系色素、アクリジン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、スチリル系色素、ピリリウム系色素、アゾ系色素、キノン系色素、テトラサイクリン系色素、フラボン系色素、ポリエン系色素、BODIPY(登録商標)系色素、HiLyte Fluor(登録商標)系色素を挙げることが出来る。
【0044】
前記ポルフィリン系色素としては、例えば、処方せん医薬品であるフォトフリン(ワイス株式会社製)、レザフィリン(明治製菓株式会社製)、ビスダイン(ノバルティス ファーマ株式会社製)を挙げることが出来る。
【0045】
前記シアニン系色素としては、例えば、インドシアニングリーン、Alexa Fluor(登録商標)系色素(インビトロジェン社製)、Cy(登録商標)系色素(GE ヘルスケア バイオサイエンス社製)、DyLight(登録商標)系色素(ピアス・バイオテクノロジー社製)、ADS832WS(American Dye Source社製)を挙げることが出来る。
【0046】
前記フタロシアニン系色素としては、例えば、IRDye(登録商標)(LI−COR社製)、2,11,20,29−Tetra−tert−butyl−2,3−naphthalocyanine(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製)を挙げることが出来る。
【0047】
前記HiLyte Fluor(登録商標)系色素としては、例えば、HiLyte Fluor(登録商標) 750 Bis − NHS ester, isomer II TEA saltを挙げることが出来る。
【0048】
本実施形態における有機色素として下記のいずれかの構造で示される化合物が好ましい。
【0049】
【化1】

【0050】
【化2】

【0051】
【化3】

【0052】
【化4】

【0053】
本実施形態における有機色素は、単独で使用してもよく、任意に混合して使用してもよい。
【0054】
(有機色素の担持)
前記無機材料を有する粒子への前記有機色素の担持方法としては、化学結合の利用が可能である。前記化学結合としては、例えば、共有結合、イオン結合、水素結合、配位結合、疎水性相互作用、スタッキング相互作用を挙げることが出来る。
【0055】
すなわち有機色素が化学結合により担持されるとは、上記化学結合によって、有機色素と無機材料とが結合すること、有機色素と前記無機材料を分散または被覆する有機物とが結合することを意味する。
【0056】
前記共有結合としては、例えば、アミノ基とカルボキシル基の反応に由来するアミド結合、水酸基とカルボキシル基の反応に由来するエステル結合、マレイミド基とチオール基の反応に由来するチオエステル結合、水酸基とスルフォン酸基の反応に由来する硫酸エステル結合を挙げることが出来る。
【0057】
前記イオン結合としては、カルボキシル基やスルフォン酸基といった酸性基とアミノ基といった塩基性基に由来する結合を挙げることが出来る。
【0058】
前記水素結合としては、例えば、水酸基に由来する結合、アミド基に由来する結合を挙げることが出来る。
【0059】
前記配位結合としては、例えば、ニトリロ三酢酸誘導体−ニッケル−ヒスチジンに見られる、金属と配位子間の結合を挙げることが出来る。
【0060】
前記疎水性相互作用としては、例えば、無機材料を有する粒子の中に存在する疎水場と、有機色素の疎水部との相互作用を挙げることが出来る。
【0061】
前記スタッキング相互作用としては、例えば、前記無機材料を有する粒子の中に存在する芳香環と、有機色素の芳香環のπ−πスタッキングを挙げることが出来る。
【0062】
前記無機材料を有する粒子への前記有機色素の担持反応は、公知の反応を利用することが出来、特に限定されない。また、前記担持反応における前記有機色素は、前記無機材料を有する粒子1個に対して過剰量の使用も可能である。
【0063】
また、前記担持反応では、必要に応じ、溶媒を使用することが出来る。つまり、前記有機色素を溶解した溶媒に無機材料を有する粒子を添加して前記担持反応を行うことも出来る。
【0064】
使用する溶媒としては、ヘキサン、シクロへキサン、ヘプタン等の炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、ジクロロエタン、トリクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類、ベンゼン、トルエン等の芳香族炭化水素、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性極性溶媒類、ピリジン誘導体、リン酸バッファー等の緩衝液、水が挙げられる。前記溶媒は、前記有機色素が溶解するものが好ましい。前記溶媒の使用量は、前記無機材料を有する粒子の使用量、前記有機色素の使用量、前記担持反応の反応条件等に応じて適宜定め得る。
【0065】
前記担持反応の反応温度は、特に限定されないが、通常は−30℃から前記溶媒の沸点までの範囲の温度である。ただし、使用する前記有機色素、前記無機材料を有する粒子、前記反応溶媒に合わせた最適な温度で反応を行うことが望ましい。前記反応時間は一概には言えないが、通常、1乃至48時間の範囲であることが好ましい。
【0066】
前記担持反応の反応溶液は必要に応じて、留去させることができる。また、前記担持反応の反応溶液から、サイズ排除カラムクロマトグラフィー法、限外濾過法、透析法により単離精製することも出来る。
【0067】
前記無機材料を有する粒子への前記有機色素を担持する反応を行う際に、前記無機材料を有する粒子1個当たりの有機色素の仕込み量を増加させること、反応液中の無機材料を有する粒子または前記有機色素を高濃度にすること、反応時間を長くすること、反応温度を高くすることにより、前記無機材料を有する粒子1個当たりが担持する有機色素の数を多くすることが出来る。
【0068】
前記無機材料を有する粒子の直径が1μmである場合、前記無機材料を有する粒子の形状を球状と仮定すると、その1個の粒子表面積から考えて、最大1.5×10個の有機色素を担持することが可能である。
【0069】
前記有機色素として、例えば、蛍光性を示す色素を用いた場合には、担持する有機色素の数が多くなるにつれて、有機色素の濃度消光により照射された光のエネルギーの蛍光への変換効率が減少し、熱エネルギーへの変換効率が向上する。熱エネルギーへの変化効率が向上すると、音響波への変換効率が向上する。音響波が大きいと光音響信号の強度が大きい。このため、光音響信号強度向上のためには担持する有機色素の数は多ければ多いほど良い。つまり、高密度に粒子に担持することが望ましい。
【0070】
さらに照射された光のエネルギーの蛍光への変換効率を減少させ、音響波への変換効率を向上させるためには、前記有機色素を高密度に粒子に担持することが望ましい。このような例として、ポリアミドアミンデンドリマーのような反応性の官能基を表面に多数有する分岐ポリマーで被覆または分散した無機材料を有する粒子に、シアニン系色素のような直鎖状の有機色素を担持する方法を挙げることが出来る。直鎖状の有機色素は、隣接する有機色素の立体反発を抑制しつつ反応することが可能であることから、無機材料を有する粒子に高密度に担持することが可能である。
【0071】
また、リゾビスト(登録商標)のように、無機材料を有する粒子で構成されている造影剤は、肝臓への集積性が見られる。そのため、肝臓以外の病変部位をイメージングする際には、肝臓への集積性を抑制し、血中滞留性を改善する必要がある。
【0072】
血中滞留性を改善する手段としては、担持する有機色素の種類と数を調節することが望ましい。
【0073】
無機材料を有する粒子に有機色素を担持した光音響イメージング用造影剤の平均粒子径は、任意のものが利用可能である。血管内に病変部位が存在する場合には、平均粒子径が1nm乃至1μm程度のものが好ましい。一方、血管外に病変部位が存在する場合には、血管内から血管外組織への移行、血管外組織中における移行経路を考えると、1nm乃至500nm、好ましくは10nm乃至200nmが望ましい。
【0074】
(無機材料を有する粒子への有機色素の化学結合を確認する手法)
本実施形態に係る無機材料を有する粒子への有機色素の化学結合を確認する手法としては、サイズ排除カラムクロマトグラフィー法、限外濾過法、透析法等を挙げることが出来る。
【0075】
例えば、無機材料を有する粒子に化学結合した有機色素は、サイズ排除カラムクロマトグラフィー法を用いた場合は、有機色素のみとは異なる保持時間で回収される。
【0076】
また、限外濾過法を用いた場合は、無機材料を有する粒子に化学結合した有機色素は、有機色素のみとは異なる画分に回収される。
【0077】
また、透析法を用いた場合は、無機材料を有する粒子に担持された有機色素は透析膜内、有機色素のみは透析膜外に回収される。
【0078】
(無機材料を有する粒子への有機色素を担持する具体例)
本実施形態で用いる有機色素が担持された無機材料を有する粒子の具体例としては、蛋白質で被覆した無機材料を有する粒子、脂肪酸で被覆した無機材料を有する粒子、金を無機材料として有する粒子、半導体粒子を無機材料として有する粒子、合成高分子で被覆した無機材料を有する粒子、及び、リポソームで被覆した無機材料を有する粒子等が挙げることができる。
【0079】
前記蛋白質で被覆した無機材料を有する粒子としては、例えば、micromod Partikel−technologie社製のアルブミンが表面に存在する酸化鉄粒子(粒子径 20nm)(以下、「酸化鉄粒子(1)」とする)を用いることが可能である。
【0080】
前記有機色素としては、IRDye700DX NHS Ester(LI−COR社製)の使用が可能である。担持反応は、リン酸バッファー中に、前記IRDye700DX NHS Esterのジメチルスルホキシド溶液を添加し、遮光して室温で12時間反応させる。反応終了後、リン酸バッファーで平衡化したサイズ排除カラムクロマトグラフィーにより精製する。その後、限外濾過法により濃縮を行うことにより、蛋白質で被覆した無機材料を有する粒子に有機色素を担持した、光音響イメージング用造影剤を得ることが可能である。
【0081】
前記脂肪酸で被覆した無機材料を有する粒子としては、例えば、Ocean Nanotech社製 アミノ基が表面に存在する酸化鉄粒子(粒子径 20nm)(以下、酸化鉄粒子(2))を用いることが可能である。
【0082】
前記有機色素としては、前記DyLight750DX NHS Esterの使用が可能である。担持反応は、リン酸バッファー中に、DyLight750DX NHS Esterのジメチルスルホキシド溶液を添加し、遮光して室温で6時間反応させる。反応終了後、リン酸バッファーで平衡化したサイズ排除カラムクロマトグラフィーにより精製する。その後、限外濾過法により濃縮を行うことにより、脂肪酸で被覆した無機材料を有する粒子に有機色素を担持した、光音響イメージング用造影剤を得ることが可能である。
【0083】
前記金を無機材料として有する粒子としては、例えば、NANOPROBES社製のアミノ基が表面に存在する金ナノ粒子(粒子径 1.4nm)(以下、金ナノ粒子(1))を用いることが可能である。
【0084】
前記有機色素としては、Cy5.5 Mono−reactive Dye(GEヘルスケア・ジャパン社製)の使用が可能である。担持反応は、リン酸バッファー中に、Cy5.5 Mono−reactive Dyeのジメチルスルホキシド溶液を添加し、遮光して室温で3時間反応させる。反応終了後、リン酸バッファーで平衡化したサイズ排除カラムクロマトグラフィーにより精製する。その後、限外濾過法により濃縮を行うことにより、金を無機材料として有する粒子に有機色素を担持した、光音響イメージング用造影剤を得ることが可能である。
【0085】
前記半導体粒子を無機材料として有する粒子としては、例えば、インビトロジェン株式会社製のストレプトアビジンが表面に存在する半導体ナノ粒子Qdot(登録商標)800 Streptavidin Conjugate(粒子径 15乃至20nm)(以下、半導体ナノ粒子(1))を用いることが可能である。
【0086】
前記有機色素としては、Cy5.5 Mono−reactive Dyeの使用が可能である。担持反応は、リン酸バッファー中に、Cy5.5 Mono−reactive Dyeのジメチルスルホキシド溶液を添加し、遮光して室温で3時間反応させる。反応終了後、リン酸バッファーで平衡化したサイズ排除カラムクロマトグラフィーにより精製する。その後、限外濾過法により濃縮を行うことにより、半導体粒子を無機材料として有する粒子に有機色素を担持した、光音響イメージング用造影剤を得ることが可能である。
【0087】
前記合成高分子で被覆した無機材料を有する粒子としては、高分子としてポリエチレンイミンを用いて被覆した酸化鉄粒子を用いることが可能である。被覆の方法としては、ポリエチレンイミンの水溶液に酸化鉄粒子を分散させることにより作製可能である。ここで得られたポリエチレンイミンで被覆した酸化鉄粒子のアミノ基に、2官能性リンカー Succinimidyl 4−[N−maleimidomethyl]cyclohexane−1−carboxylate(ピアス・バイオテクノロジー社製)を反応させることが可能である。
【0088】
反応終了後、遮光し、還元剤の存在下で、チオール反応性色素であるAlexa Fluor 750 C5−maleimideとの反応を行うことにより、有機色素を担持させることが可能である。また、反応終了後、リン酸バッファーで平衡化したサイズ排除カラムクロマトグラフィーにより精製する。その後、限外濾過法により濃縮を行うことにより、合成高分子で被覆した無機材料を有する粒子に有機色素を担持した、光音響イメージング用造影剤を得ることが可能である。
【0089】
前記リポソームで被覆した無機材料を有する粒子としては、酸化鉄粒子、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、N− (6 −マレイミドカプロイルオキシ) − ジパルミトイルホスファチジルエタノールアミンからなる脂質混合物を用いて作製した粒子を用いることが可能である。
【0090】
ここで得られたリポソームで被覆した酸化鉄粒子を有する粒子のアミノ基に、2官能性リンカー Sulfosuccinimidyl 6−(3‘−[2−pyridyldithio]−propionamido)hexanoate(ピアス・バイオテクノロジー社製)を反応させることが可能である。
【0091】
反応終了後、遮光条件で、還元剤の存在下で、チオール反応性色素であるAlexa Fluor 750 C5−maleimide(インビトロジェン社製)との反応を行うことにより、有機色素を担持させることが可能である。また、反応終了後、リン酸バッファーで平衡化したサイズ排除カラムクロマトグラフィーにより精製する。その後、限外濾過法により濃縮を行うことにより、リポソームで被覆した無機材料を有する粒子に有機色素を担持した、光音響イメージング用造影剤を得ることが可能である。
【0092】
(実施形態2)
実施形態2では、光音響イメージング用造影剤の検出方法について説明する。
【0093】
本実施形態に係る検出方法は、以下の各工程を有する。
(1)実施形態1に係る光音響イメージング用造影剤を検体に投与する工程と、
(2)前記検体に600nm乃至1300nmの波長領域の光を照射する工程と、
(3)前記検体内に存在する前記造影剤から発生する音響波を検出する工程
本実施形態において、イメージングとは、イメージングをする対象となる物質の情報を何らかの測定手段によって測定することで視覚化、画像化することを意味する。イメージングの例としては、対象物の断層撮影をするトモグラフィなどが挙げられる。
【0094】
ここで、検体に投与する光音響イメージング用造影剤は、上記実施形態1と同じであるため、ここでは記載を省略する。
【0095】
なお、上記(2)の工程において、検体に照射する光を発生させる装置、検体内に存在する光音響イメージング用造影剤から発生する音響波を検出する装置は特に限定されない。
【実施例】
【0096】
以下に、本発明の特徴をさらに明らかにするために実施例に沿って本発明を説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、材料、組成条件、反応条件等、同様な機能、効果を有する光音響イメージング用造影剤が得られる範囲で自由に変えることが出来る。なお、上記でいう音響波の計測は以下では光音響信号の計測と言い換えることがある。
【0097】
(実施例A―1)
(光音響イメージング造影剤(A−1)の合成)
無機材料を有する粒子として、micromod Partikel−technologie社製のアミノ基を有する酸化鉄含有デキストラン粒子 (粒子径:20nm)(以下、「酸化鉄粒子(3)」とする)を用いた。
【0098】
限外濾過法を用いて、0.05M炭酸バッファー(pH=9.6)へとバッファー交換を行った。溶液中の鉄量は、UV−VIS−NIR測定(紫外可視近赤外吸光度測定:Perkin Elmer社製 Lambda Bio 40)により定量を行った。鉄量の定量結果より、5.0mg/mLの鉄濃度に酸化鉄粒子(3)を調整し、以下の実験に用いた。
【0099】
Alexa Fluor 750サクシニミジルエステル反応性色素(インビトロジェン社製、以下、「Alexa750NHS」とする)にジメチルスルホキシドを加えて1.0mg/mLの濃度に調整した。10mLの前記Alexa750NHSの溶液を酸化鉄粒子(3)溶液(400uL)に加えて室温で4時間穏やかに攪拌後、リン酸バッファーで平衡化したサイズ排除カラムクロマトグラフィーにより精製した。その後、限外濾過法により濃縮を行うことにより、光音響イメージング用造影剤(A−1)を得た。
【0100】
作製した光音響イメージング用造影剤(A−1)のUV−VIS−NIR測定結果が図1である。酸化鉄粒子(3)に担持した有機色素の数、及び造影剤(A−1)のモル吸光係数は、常法に従い、UV−VIS−NIR測定により算出した。酸化鉄粒子(3)1個当たりに、11個のAlexa750NHSが担持されていることが明らかになった。また、光音響イメージング用造影剤(A−1)の710nmにおけるモル吸光係数は、Alexa750NHSを担持する前と比較して、約2.0倍の値を示した。
【0101】
(比較例A−2)
Alexa750NHSとグリシンと反応させることにより、アミノ基への反応性が無いAlexa750グリシンを作製し、次の実験に用いた。
有機色素を担持しない造影剤の例として、酸化鉄粒子(3)と、Alexa750グリシンを混合し、光音響イメージング用造影剤(A−2)を作製した。混合比率は、造影剤(A−1)の酸化鉄粒子と有機色素の割合と同様になるように調製した。
【0102】
(比較例A−3)
実施例A−1と同量の鉄濃度の酸化鉄粒子(3)の溶液を調整し、光音響イメージング用造影剤(A−3)とした。
【0103】
(比較例A−4)
実施例A−1と同量の鉄を含むリゾビスト(登録商標)の溶液を調整し、光音響イメージング用造影剤(A−4)とした。
【0104】
(実施例B−1)
(光音響イメージング用造影剤B−1の合成)
Poly(maleic anhydride−alt−1−octadecene)(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製、以下「PMAO」とする)106mg、mPEG−Amine,重量平均分子量5,000(Laysan Bio社製、以下「mPEG−NH2」)370mg、有機色素 ADS832WS(American Dye Source社製)76mgをクロロホルム 20mLに溶解し、24時間攪拌を行った。反応終了後、透析法により精製した後、溶媒を留去し、有機色素を担持した酸化鉄粒子被覆剤(B−1)を合成した。
得られた化合物の構造決定は、H−NMR(FT−NMR:Bruker AVANCE 500;共鳴周波数:500MHz;測定核種: H;測定温度:室温;溶媒:重クロロホルム)により分析を行った。
酸化鉄粒子被覆剤(B−1) 13mg、酸化鉄粒子 SOR−50−50(粒子径:50nm)(Ocean Nanotech社製、以下、「酸化鉄粒子(4)」とする)4.4mgをテトラヒドロフラン 12.5mLに溶解し、24時間攪拌を行った。攪拌終了後、透析法により精製を行うことにより、光音響イメージング用造影剤(B−1)を得た。
酸化鉄粒子(4)に担持した有機色素の数、及び造影剤(B−1)のモル吸光係数は、常法に従い、UV−VIS−NIR測定により算出した。
酸化鉄粒子(4)1個当たりに、460個のADS832WSが担持されていることが明らかになった。
【0105】
(比較例B−2)
有機色素を、酸化鉄を有する粒子に担持しない例として、酸化鉄粒子(4)、有機色素 ADS832WSを担持していない酸化鉄粒子被覆剤(B−2)を用いて、光音響イメージング用造影剤(B−2)を得た。
酸化鉄粒子被覆剤(B−2)は、有機色素 ADS832WSを用いない以外は、実施例(B−1)と同様にして合成を行った。
造影剤(B−1)の850nmにおけるモル吸光係数は、有機色素を担持しない場合である造影剤(B−2)と比較して、約2.0倍の値を示した。
【0106】
(実施例C−1)
(光音響イメージング用造影剤C−1の合成)
PMAO 100mg、mPEG−NH2 370mgをクロロホルム 20mLに溶解し、24時間攪拌を行った。反応終了後、透析法により精製した後、溶媒を留去し、酸化鉄粒子被覆剤(C−1)を合成した。
【0107】
酸化鉄粒子被覆剤(C−1) 6.3mg、酸化鉄粒子(4) 2.2mg、2,11,20,29−Tetra−tert−butyl−2,3−naphthalocyanine(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製、以下「t−Bu Nc」とする)をクロロホルム 5.7mLに溶解し、18時間攪拌を行った。攪拌終了後、透析法により精製を行った。更に、磁気カラムを用いて、酸化鉄を有する粒子に担持されていない有機色素を洗い出すことにより、色素の担持された酸化鉄粒子のみを回収し、光音響イメージング用造影剤(C−1)を得た。
【0108】
作製した光音響イメージング用造影剤(C−1)のUV−VIS−NIR測定結果が図3である。酸化鉄粒子(4)に担持した有機色素の数、及び造影剤(C−1)のモル吸光係数は、常法に従い、UV−VIS−NIR測定により算出した。
【0109】
酸化鉄粒子(4)1個当たりに、43000個のt−Bu Ncが担持されていることが明らかになった。
【0110】
(比較例C−2)
有機色素を、酸化鉄を有する粒子に担持しない例として、酸化鉄粒子(4)、酸化鉄粒子被覆剤(B−2)を用いて、比較例(B−2)と同様にして、光音響イメージング用造影剤(C−2)を得た。
造影剤(C−1)の710nmにおけるモル吸光係数は、有機色素を担持しない場合である造影剤(C−2)と比較して、約2.6倍の値を示した。
【0111】
(実施例D−1)
(光音響イメージング用造影剤(D−1)の合成)
無機材料を有する粒子として、micromod Partikel−technologie社製のアミノ基を有する酸化鉄含有デキストラン粒子 (粒子径:50nm)(以下、「酸化鉄粒子(5)」とする)を用いた。
【0112】
反応は、炭酸バッファー(pH=8)を用いて行った。
【0113】
HiLyte FluorTM 750 Bis − NHS ester, isomer II TEA salt(ANASPEC社製、以下、「HiLyte Fluor750」とする)を、色素仕込み数/粒子の比(酸化鉄粒子(5)に対する仕込み色素のモル比)で86倍になるように加えた。
【0114】
室温で1時間穏やかに攪拌後、限外濾過法により精製を行うことにより、光音響イメージング用造影剤(D−1)を得た。
酸化鉄粒子(5)に担持した有機色素の数、及び造影剤(D−1)のモル吸光係数は、常法に従い、UV−VIS−NIR測定により算出した。酸化鉄粒子(5)1個当たりに、23個のHiLyte Fluor750が担持されていることが明らかになった。
【0115】
また、光音響イメージング用造影剤(D−1)の750nmにおけるモル吸光係数は、HiLyte Fluor750を担持する前と比較して、約1.3倍の値を示した。
【0116】
(実施例D−2)乃至(実施例D−5)
(光音響イメージング用造影剤(D−2)乃至(D−5)の合成)
色素仕込み数/粒子の比を、535倍、1069倍、5347倍、10694倍とした以外は、実施例(D−1)と同様に合成し、光音響イメージング用造影剤(D−2)乃至(D−5)を得た。
色素仕込み数/粒子と、担持色素数/粒子の関係、粒子のモル吸光係数の関係をまとめたものが表1である。
色素仕込み数/粒子を増加させると、担持色素数/粒子が増加することが明らかになった。
【0117】
また、色素を395個担持した光音響イメージング用造影剤(D−5)の750nmにおけるモル吸光係数は、HiLyte Fluor750を担持する前と比較して、約9.2倍の値を示した。
【0118】
【表1】

【0119】
ここで、担持前の酸化鉄粒子(5)の750nmにおけるモル吸光係数は、1.3×10−1・cm−1で、 HiLyte Fluor750の750nmにおけるモル吸光係数は、2.5×10−1・cm−1であった。
【0120】
(実施例E−1)
(光音響イメージング用造影剤(E−1)の合成)
酸化鉄粒子として、SOR−10−50 (粒子径:10nm)(Ocean Nanotech社製、以下、「酸化鉄粒子(6)」とする)を用いた。
担持する有機色素として、インドシアニングリーン(日本薬局方外標準品、以下、「ICG」とする)を用いた。
有機色素を担持した無機材料を有する粒子を作製する材料として、リン脂質、ポリオキシエチレンソルビタン系脂肪酸エステル、ポリマーを用いて以下の方法で作製した。
酸化鉄粒子(6)(13.8mg)及び、ポリ乳酸とグリコール酸の共重合体(9.2mg)をクロロホルム(1ml)に加えて、超音波バスで10分間照射し、クロロホルム溶液を調製した。
このクロロホルム溶液に、ICG 5.2mg、ニコチン酸アミド8.3mgを添加し、無機材料、有機色素混合クロロホルム溶液を作製した。
【0121】
次に、Tween20(60mg)とリン脂質(7.3mg、DSPE−PEG−MAL、N−[(3−Maleimide−1−oxopropyl)aminopropyl polyethyleneglycol−carbamyl] distearoylphosphatidyl−ethanolamine、日油製)を溶解した水溶液(12ml)に、前記クロロホルム溶液を加えて混合液とした。
【0122】
その後、超音波分散機で4分間処理することによって、O/W型のエマルジョンを調製した。
【0123】
次に、前記エマルジョンを40℃、100hPaで1時間以上減圧し、分散質からクロロホルムを留去した。溶媒留去後、透析法により精製を行った。さらに透析終了後、遠心分離により粒子を回収し、光音響イメージング用造影剤(E−1)を得た。
【0124】
作製した光音響イメージング用造影剤(E−1)のUV−VIS−NIR測定結果が図4である。酸化鉄粒子(6)に担持した有機色素の数、及び造影剤(E−1)のモル吸光係数は、常法に従い、UV−VIS−NIR測定により算出した。
【0125】
粒子1個当たりに、103個の酸化鉄粒子(6)が含まれており、6978個のICGが担持されていることが明らかになった。
【0126】
(光音響特性評価例1)
光音響信号の計測は、特許文献1を参考に行った。測定条件は以下の通りである。
【0127】
光源として、型式 チタンサファイアレーザ(Lotis製)を用いて、波長:710nm、エネルギー密度:12mJ/cm2、パルス幅:20ナノ秒、パルス繰返し:10Hz の条件で測定を行った。
【0128】
超音波トランスデューサとしては、型式 V303(Panametrics−NDT製)を用いて、中心帯域:1MHz、エレメントサイズ:13mm、測定距離:25mm (Non−focus)、アンプ:+30dB(超音波プリアンプ Model 5682 オリンパス製)の条件で測定を行った。
【0129】
測定容器としては、光路長0.1cmのキュベット(ポリスチレン製)を用いた。計測器としては、DPO4104(テクトロニクス製)を用いて、光音響光をフォトダイオードでの検出をトリガーとして、128回(128パルス)の測定平均値でデータ収集し計測を行った。
【0130】
造影剤(A−1)乃至(A−4)について、波長710nmにおける光音響信号特性評価を行った。
【0131】
造影剤(A−4)の単位粒子あたりの信号強度を1とし、造影剤(A−1)乃至(A−4)について、信号強度を造影剤(A−4)に対する比として、まとめたものが図2である。
【0132】
酸化鉄を有する粒子に有機色素を化学結合により担持した造影剤(A−1)が、酸化鉄を有する粒子のみの造影剤(A−3)、リゾビスト(登録商標)(A−4)より大きな信号強度を示した。
また、有機色素を化学結合により担持していない造影剤(A−2)と比較しても、有機色素を化学結合により担持した造影剤(A−1)が大きな信号強度を示した。
【0133】
造影剤(A−1)乃至(A−4)について、光音響信号特性評価前後の吸光度測定における、710nmの吸光度(相対値)をまとめたものが表2である。有機色素を化学結合により担持していない造影剤(A−2)は、光音響信号特性評価後、吸光度の大幅な低下がみられたことから、有機色素の分解が示唆される。一方、有機色素を化学結合により担持した造影剤(A−1)の吸光度にほとんど変化は見られなかった。
【0134】
【表2】

【0135】
(光音響特性評価例2)
光音響信号の計測は、特許文献1を参考に行った。測定条件は以下の通りである。
【0136】
液体測定セル:評価例1と同様の物を用いた。
【0137】
光源:評価例1と同様の物を用いた。パルス光エネルギー:18mJ(波長710nm)、18mJ(波長850nm)、一次励起レーザー:Nd/YAGレーザー LS−2134(Lotis TII製)、一次励起波長:532nm(二次高調波)、一次励起パルス幅:16乃至18ns、一次励起パルスエネルギー:150mJ、繰り返し周波数:10Hz
水浸型超音波探触子:評価例1と同様の物を用いた。
プリアンプ:Model 5682(オリンパス製)、増幅度:+30dB、カットオフ周波数:30MHz
オシロスコープ:評価例1と同様の物を用いた。
【0138】
レーザー光検出用フォトダイオード:DET10A/M(THORLABS製)
計測方法:試料分散液を液体測定セルに満たし、そのレーザー光照射部位を光音響測定用の水を張ったガラス容器に浸けた。チタンサファイアレーザーの発光波長を所定の波長に設定し、前記セルの片面からレーザー光照射部位にレーザーパルス光を照射した。前記セルのレーザー光照射とは反対の面から25mmの位置に前記の水浸型超音波探触子を設置し、この探触子に光音響信号が入力されて生じた電気信号を前記のプリアンプにより増幅して、オシロスコープに入力した。また、レーザーパルス光が測定セルに当たって生じる散乱光をフォトダイオードにより電気信号とし、前記のオシロスコープにトリガー信号として入力した。オシロスコープの有する平均処理機能を用いて、128回の信号を積算平均した入力電圧波形を、試料分散液の光音響信号の評価波形とし、その正負ピーク電圧差を光音響信号強度の評価値とした。
【0139】
造影剤(B−1)、(B−2)について、波長850nmにおける光音響信号特性評価を行った。
【0140】
造影剤(B−2)の信号強度を1とした場合、造影剤(B−1)の信号強度比は、1.2と大きな信号強度を示した。また、造影剤(B−1)の信号強度は、リゾビスト(登録商標)の単位粒子あたりの信号強度と比較して、279倍と非常に大きな信号強度を示した。
【0141】
造影剤(B−1)について、光音響信号特性評価前後の吸光度測定を行った。その結果、吸光度の低下は見られなかった。
【0142】
造影剤(C−1)、(C−2)について、波長710nmにおける光音響信号特性評価を行った。
【0143】
造影剤(C−2)の信号強度を1とした場合、造影剤(C−1)の信号強度比は、3.2と大きな信号強度を示した。また、造影剤(C−1)の信号強度は、リゾビスト(登録商標)の単位粒子あたりの信号強度と比較して、1118倍と非常に大きな信号強度を示した。
【0144】
造影剤(C−1)について、光音響信号特性評価前後の吸光度測定を行った。その結果、吸光度の低下は見られなかった。
【0145】
(光音響特性評価例3)
光音響特性評価例2と同様の方法で、造影剤(D−1)乃至(D−5)について、波長750nmにおける光音響信号特性評価を行った。
【0146】
比較のため、HiLyte Fluor750を担持していない酸化鉄粒子(5)、酸化鉄粒子(5)に担持していないHiLyte Fluor750(以下、「フリーの色素」とする)についても、同様に光音響信号特性評価を行った。
【0147】
また、造影剤(D−1)乃至(D−5)、フリーの色素の蛍光強度を、蛍光測定装置(蛍光光度測定:日立製 F−4500形分光蛍光光度計)により測定を行った。(励起波長は757nmとし、780nmの蛍光波長における蛍光強度)
その結果をまとめたものが図5、図6である。
【0148】
図5では、色素濃度で規格化された光音響信号強度と、担持色素数/粒子の関係を示している。造影剤(D−1)乃至(D−5)の色素からの光音響信号強度は、フリーの色素の光音響信号強度の0.6乃至1.7倍の範囲で変化し、担持色素数/粒子が大きいほど色素あたりの光音響信号強度は増加した。
最も担持色素数が多い造影剤(D−5)からの光音響信号強度は、フリーの色素の光音響信号強度の約2倍まで増加した。
【0149】
図6では、色素濃度で規格化された蛍光強度と、担持色素数/粒子の関係を示している。造影剤(D−1)乃至(D−5)の色素からの蛍光強度は、担持色素数の増加とともに、減少した。最も担持色素数が多い造影剤(D−5)の色素の蛍光強度は、フリーの色素の蛍光強度の約20%まで減少した。これは、担持色素数の増加とともに、色素間の距離が短くなり、濃度消光が引き起こされていると考えられる。
【0150】
上記の結果から、粒子への色素担持数の増加は、色素の蛍光量子収率を低下させ、それに対応して無輻射遷移の増加、すなわち光音響信号の増加を可能にすることが明らかとなった。
【0151】
(光音響特性評価例4)
光音響特性評価例2と同様の方法で、造影剤(E−1)について、波長800nmにおける光音響信号特性評価を行った。
【0152】
造影剤(E−1)の信号強度は、リゾビスト(登録商標)の単位粒子あたりの信号強度と比較して、3833倍と非常に大きな信号強度を示した。
【0153】
造影剤(E−1)について光音響信号特性評価前後の吸光度測定を行った。その結果、吸光度の低下は見られなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機材料を含む粒子に、近赤外光領域に吸収係数を持つ少なくとも1個の有機色素が化学結合により担持されてなる光音響イメージング用造影剤。
【請求項2】
前記有機色素が6個以上であることを特徴とする請求項1に記載の光音響イメージング用造影剤。
【請求項3】
前記無機材料の少なくとも1種類が、金属酸化物、貴金属コロイド、半導体粒子、無機顔料、あるいは無機染料であることを特徴とする請求項1または2に記載の光音響イメージング用造影剤。
【請求項4】
前記光音響イメージング用造影剤の平均粒子径が1nm乃至1000nmの範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光音響イメージング用造影剤。
【請求項5】
前記有機色素が、下記のいずれかの構造で示される化合物あるいはHiLyte Fluor750であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の光音響イメージング用造影剤。
【化1】


【化2】


【化3】


【化4】

【請求項6】
請求項1乃至5のいずれかに記載の光音響イメージング用造影剤が投与された検体に600nm乃至1300nmの波長領域の光を照射する工程と、
前記検体内に存在する前記造影剤から発生する音響波を検出する工程と、
を有することを特徴とする光音響イメージング方法。
【請求項7】
600nm乃至1300nmの波長領域におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上である、無機材料を有する粒子に、600nm乃至1300nmの波長領域におけるモル吸光係数が10 M−1cm−1以上である、有機色素が化学結合している光音響イメージング用造影剤が投与された検体に600nm乃至1300nmの波長領域の光を照射する工程と、
前記検体内に存在する前記造影剤から発生する音響波を検出する工程と、
を有することを特徴とする光音響イメージング方法。
【請求項8】
前記無機材料の少なくとも1種類が、金属酸化物、貴金属コロイド、半導体粒子、無機顔料、あるいは無機染料であることを特徴とする請求項7に記載の光音響イメージング方法。
【請求項9】
前記無機材料が、酸化鉄粒子であることを特徴とする請求項7または8に記載の光音響イメージング方法。
【請求項10】
前記有機色素が、下記のいずれかの構造で示される化合物あるいはHiLyte Fluor750であることを特徴とする請求項7乃至9のいずれかに記載の光音響イメージング方法。
【化5】


【化6】


【化7】


【化8】

【請求項11】
600nm乃至1300nmの波長領域におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上である、無機材料を有する粒子に、600nm乃至1300nmの波長領域におけるモル吸光係数が10 M−1cm−1以上である、有機色素が化学結合している光音響イメージング用造影剤。
【請求項12】
前記無機材料の少なくとも1種類が、金属酸化物、貴金属コロイド、半導体粒子、無機顔料、あるいは無機染料であることを特徴とする請求項11に記載の光音響イメージング用造影剤。
【請求項13】
前記無機材料が、酸化鉄粒子であることを特徴とする請求項11または12に記載の光音響イメージング用造影剤。
【請求項14】
前記有機色素が、下記のいずれかの構造で示される化合物あるいはHiLyte Fluor750であることを特徴とする請求項11乃至13のいずれかに記載の光音響イメージング用造影剤。
【化9】


【化10】


【化11】


【化12】


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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