説明

光音響イメージング用造影剤

【課題】 本発明は、発生する音響波の強度が大きい光音響イメージング用造影剤を提供することを目的とする。
【解決手段】 600nm乃至1300nmの範囲から選択される少なくとも1つの波長におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上である粒子と、前記粒子に結合したポリエチレングリコールと、を有する光音響イメージング用造影剤において、前記ポリエチレングリコールの、前記粒子に対する結合密度が0.40分子/nm以上であることを特徴とする光音響イメージング用造影剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光音響イメージング用造影剤に関する。
【背景技術】
【0002】
MRI用造影剤であるリゾビスト(登録商標)は、複数の酸化鉄粒子を多糖類のデキストランで被覆したものであり、音響波を発生することが知られている(非特許文献1)。したがって、リゾビスト(登録商標)は光音響イメージング用造影剤として用いることができる可能性がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】Biomed Tech2009; 54:pp.83−88
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、リゾビストは音響波を発生するものとして酸化鉄粒子のみを有するため、リゾビストから発生する音響波の強度は小さく、より大きい強度の音響波を発生する光音響イメージング用造影剤が求められていた。そこで本発明は、発生する音響波の強度が大きい光音響イメージング用造影剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る光音響イメージング用造影剤は、600nm乃至1300nmの範囲から選択される少なくとも1つの波長におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上である粒子と、前記粒子に結合したポリエチレングリコールと、を有する光音響イメージング用造影剤において、前記ポリエチレングリコールの、前記粒子に対する結合密度が0.40分子/nm以上であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明者らが検討した結果、粒子にポリエチレングリコールが0.40分子/nm以上の密度で結合している場合、0.40分子/nm未満の密度で結合している場合に比べて、より大きい強度の音響波を発生することを発見した。したがって、本発明によれば、大きい強度の音響波を発生する光音響イメージング用造影剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】実施例1における、PEG修飾酸化鉄粒子の光音響信号強度の測定結果を示すグラフである。
【図2】本実施例2における、PEG修飾酸化鉄粒子の、PEGの結合密度と光音響信号強度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0009】
(光音響イメージング用造影剤)
本実施形態に係る光音響イメージング用造影剤(以下、造影剤と略す)は、600nm乃至1300nmの範囲から選択される少なくとも1つの波長におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上である粒子と、前記粒子に結合したポリエチレングリコール(polyethylene glycol、以下、PEGと略す)とを有する。そして、粒子に対するPEGの結合密度が0.40分子/nm以上であることを特徴とする。本実施形態において、PEGの結合密度が0.46分子/nm以上であることが好ましい。なお、本実施形態において、PEGの結合密度が8.0分子/nm以下であることが好ましい。 粒子に対するPEGの結合密度が0.40分子/nm以上である場合、結合密度が0.40分子/nm未満である場合や、粒子にPEGが結合していない場合に比べて、音響波の強度が大きい。
【0010】
さらに、本実施形態に係る造影剤は、粒子にPEGが結合しているので、血中のタンパク質などの非特異的吸着を抑制することができると考えられる。
【0011】
本実施形態に係る造影剤の粒径は、15nm以上1000nm以下であることが好ましい。造影剤の粒径が1000nm以下の場合、EPR(Enhanced Permeability and Retention)効果により、生体内の正常部位に比べて腫瘍部位により多くの造影剤を集積させることができる。その結果、造影剤を生体内に投与した後、生体にパルス光を照射すると、腫瘍部位から発せられる光音響信号の強度は正常部位から発せられる光音響信号の強度よりも大きくなる。したがって、造影剤の粒径を1000nm以下とすることにより、腫瘍部位を特異的に検出することができる。また、造影剤の粒径は500nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることがさらに好ましい。造影剤の粒径が200nm以下であると、造影剤が血中のマクロファージに取り込まれにくく、血中滞留性が高くなると考えられるからである。
【0012】
なお、本実施形態に係る造影剤は、一次粒子でもよいし、二次粒子でもよい。
本実施形態において造影剤の粒径は以下のようにして測定することができる。動的光散乱解析装置(DLS−8000、大塚電子社製)を用いて、動的光散乱(Dynamic Light Scattering、DLS)法によって流体力学的直径を測定する。例えば、上記装置を用いて100回の積算を5回行い、算出された5つのデータの平均をとることによって求めることができる。
【0013】
(粒子)
本実施形態における粒子は、600nm乃至1300nmの範囲から選択される少なくとも1つの波長におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上であれば特に限定されない。また、本実施形態における粒子は600nm乃至1300nmの範囲から選択される少なくとも1つの波長におけるモル吸光係数が1020−1cm−1以下であることが好ましい。
【0014】
本実施形態に係る粒子の例として、600nm乃至1300nmの範囲から選択される少なくとも1つの波長におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上を有する、金属酸化物、金属、その他の無機材料、有機色素の少なくともいずれか一種を有するものが挙げられる。
【0015】
上記の金属酸化物としては、例えば、酸化鉄(Fe、Fe)、酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、酸化ホウ素を挙げることが出来る。上記の金属としては、例えば、金、銀、銅、白金を挙げることが出来る。また、金、銀、銅、白金の混成によるコロイドを用いることも可能である。上記のその他の無機材料としては、例えば、硫化カドミウム、セレン化亜鉛、セレン化カドミウム、テルル化亜鉛、テルル化カドミウム、硫化亜鉛、硫化鉛、カーボンブラック、フラーレン、カーボンナノチューブ、シュウ酸鉄を挙げることが出来る。
【0016】
上記の有機色素としては、例えば、アジン系色素、アクリジン系色素、トリフェニルメタン系色素、キサンテン系色素、ポルフィリン系色素、シアニン系色素、フタロシアニン系色素、スチリル系色素、ピリリウム系色素、アゾ系色素、キノン系色素、テトラサイクリン系色素、フラボン系色素、ポリエン系色素、BODIPY(登録商標)系色素、HiLyte Fluor(登録商標)系色素を挙げることが出来る。上記のポルフィリン系色素としては、例えば、処方せん医薬品であるフォトフリン(ワイス株式会社製)、レザフィリン(明治製菓株式会社製)、ビスダイン(ノバルティス ファーマ株式会社製)を挙げることが出来る。上記のシアニン系色素としては、例えば、インドシアニングリーン、Alexa Fluor(登録商標)系色素(インビトロジェン社製)、Cy(登録商標)系色素(GE ヘルスケア バイオサイエンス社製)、DyLight(登録商標)系色素(ピアス・バイオテクノロジー社製)、ADS832WS(American Dye Source社製)を挙げることが出来る。上記のフタロシアニン系色素としては、例えば、IRDye(登録商標)(LI−COR社製)、2,11,20,29−Tetra−tert−butyl−2,3−naphthalocyanine(シグマ アルドリッチ ジャパン株式会社製)を挙げることが出来る。上記のHiLyte Fluor(登録商標)系色素としては、例えば、HiLyte Fluor(登録商標) 750 Bis − NHS ester, isomer II TEA saltを挙げることが出来る。
【0017】
本実施形態に係る粒子は、酸化鉄粒子を有することが好ましい。本実施形態において、酸化鉄粒子は市販のものを用いてもよく、合成したものを用いてもよい。合成する方法として例えば、FeCl・6HO(25.5g)とFeCl・4HO(10.2g)を混合、溶解した水溶液(600ml)と、粉末状デキストラン(平均分子量10000 Da、360g)と、濃度30%のアンモニア水溶液(30ml)を用いることで、デキストランで被覆された酸化鉄粒子のコロイド溶液を調製することができる。
【0018】
本実施形態に係る粒子は、上記の金属酸化物、金属、その他の無機材料、有機色素以外に、粒子の水中での分散性を上げるための分散剤として、あるいは、粒子を構成する材料の密度を上げるためのバインダとして、多糖類、合成高分子、リン脂質、脂肪酸、界面活性剤、シリカ、炭酸塩、ヒドロキシアパタイトなどの材料を有していてもよい。これらの材料は、600nm乃至1300nmの範囲から選択される少なくとも1つの波長におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上でなくてもよい。
【0019】
また、本実施形態に係る粒子はこれらを、単独で有していてもよく、複数種を有していてもよい。
【0020】
上記の多糖類としては、例えば、デキストラン、プルラン、マンナン、アミロペクチン、キトサン、キシログルカン、ヒアルロン酸、アルギン酸、水溶性セルロース、でんぷん、アガロース、カラギーナン、ヘパリン、及びこれらの誘導体を挙げることができる。
【0021】
上記の合成高分子としては、ポリエチレンイミン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、ポリアリルアミン、ポリアミドアミンデンドリマーなどのアミノ基を有する高分子、ポリビニルアルコールなどのヒドロキシル基を有する高分子、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸、ポリリンゴ酸、ポリメタクリル酸、ポリアクリル酸などのカルボキシル基を有する高分子、ポリエチレングリコールからなる親水性セグメントと、ポリラクチド、ポリ(ラクチド−コーグリコリド)、ポリε−カプロラクトンからなる群より選ばれる疎水性セグメントを含む高分子を挙げることができる。
【0022】
上記のリン脂質としては、例えば、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、ホスファチジルイノシトール、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリンを挙げることができる。
【0023】
上記の脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸などの飽和脂肪酸、ラウロレイン酸、フィセテリン酸、ミシストレイン酸、パルミトレイン酸、ペトロセリン酸、オレイン酸などの不飽和脂肪酸、イソラウリン酸、イソミリスチン酸、イソパルミチン酸、イソステアリン酸などの分岐脂肪酸を挙げることができる。
【0024】
上記の界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、アルキル硫化塩を挙げることができる。
【0025】
本実施形態に係る粒子として好ましくは、カルボキシル基、アミノ基、マレイミド基、ヒドロキシル基などの官能基を有することが好ましい。本実施形態に係る粒子として、例えば、マレイミド基を有する酸化鉄粒子が挙げられる。
【0026】
本実施形態における粒子は、公知の粒子作製法により適宜作製して使用することもできるし、市販品を使用してもよい。
【0027】
(粒子のモル吸光係数の測定方法)
本実施形態において、粒子のモル吸光係数は例えば以下のように測定する。まず、粒子の濃度cを求める。粒子の濃度は、ある体積の粒子溶液を凍結乾燥させることにより、粒子の重量を求め、これと粒子の平均分子量と乾燥前の溶液体積とから算出できる。続いて既知濃度の粒子溶液を幅lの吸光セルに添加する。このセルに600nm乃至1300nmの範囲から選択される少なくとも1つの波長の光を照射して、選択した波長における吸光度Aを求める。吸光度Aが1より大きい場合は、粒子溶液を適宜希釈する。最後に、ランバート・ベールの式に上記のA、c、lを代入することで、モル吸光係数εを求めることができる。lを一定とした場合、数種類の濃度の粒子溶液を用いて、cに対するAの直線性を確認することが好ましい。
【0028】
なお、粒子のモル吸光係数の測定値は、PEGが結合した粒子のモル吸光係数の測定値としてもよい。なぜなら、PEGは600〜1300nmの波長領域において吸収をほとんどもたず、PEGが結合した粒子のモル吸光係数の測定値は、粒子のモル吸光係数の測定値とほぼ等しいと考えられるからである。
【0029】
(PEG)
本実施形態におけるPEGは、エチレングリコールが重合した構造を有する。PEGの平均分子量は特に限定されないが、100以上10000以下であることが好ましく、300以上5000以下であることがさらに好ましい。
【0030】
平均分子量が10000以下のPEGは粒子への結合反応効率が高いと考えられる。一方で、平均分子量が100以上のPEGは、血中タンパク質の非特異吸着を抑制する機能が高いと考えられる。また、PEGは、音響波の強度が大きい、という本発明の効果を損なわない範囲で、任意の官能基で置換されていてもよい。ここでいう任意の官能基として、例えば、チオール基、アミノ基、マレイミド基、ヒドロキシル基、カルボキシル基などである。
【0031】
(粒子とPEGとの結合)
上記の粒子と上記のPEGとは、共有結合、または水素結合、疎水性相互作用などの非共有結合によって結合している。本実施形態において粒子がマレイミド基、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基などの官能基を有する場合、これら官能基とPEGとを、従来周知のカップリング反応によって結合させることができる。例えば、チオール基を有するPEGとマレイミド基を有する粒子との結合反応が挙げられる。この反応では、pHが中性の領域において効率的かつ選択的な結合反応が行えるため好ましい。
【0032】
結合の具体例として、アミド化反応が挙げられる。アミド化反応は、例えば、カルボキシル基またはそのエステル誘導体とアミノ基の縮合反応である。カルボキシル基を直接アミド化する場合には、ジシクロヘキシルカルボジイミド(N,N’−Dicyclohexylcarbodiimide)や1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(1−ethyl−3−(3−dimethylaminopropyl)carbodiimide hydrochloride)などのカルボジイミド縮合剤を用いることができるし、N−ヒドロキシスクシンイミド(NHS)などを用いてカルボキシル基を予め活性化エステルとしてアミド化反応をさせることもできる。
【0033】
上記の反応により得られた光音響イメージング用造影剤は、限外ろ過法、ゲルろ過クロマトグラフィー法などにより洗浄、精製することができる。
【0034】
本実施形態において用いられるPEGのうち、粒子と結合しない側の末端は、チオール基、カルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、メトキシ基などの官能基であってもよい。これらの官能基を介してタンパク質やペプチド等を本実施形態に係る光音響イメージング用造影剤に結合させることも可能である。ここでいうタンパク質やペプチドの例として、抗体、酵素が挙げられる。
【0035】
(分散媒)
本実施形態に係る造影剤は、さらに分散媒を有していてもよい。上記の分散媒として、例えば生理食塩水、注射用蒸留水などが挙げられる。
【0036】
(光音響イメージング方法)
本実施形態に係る光音響イメージング方法は、本実施形態に係る造影剤が投与された検体に600nm乃至1300nmの範囲から選択される少なくとも1つの波長のパルス光を照射する工程と、前記検体内に存在する前記造影剤から発生する音響波の強度を検出する工程と、を有する。
【0037】
本実施形態に係る光音響イメージング方法の一例は以下の通りである。すなわち、本実施形態に係る造影剤を検体に投与し、あるいは前記検体より得られた臓器等の試料に添加する。前記検体中もしくは検体より得られた試料として例えば、臓器、組織、組織切片、細胞、細胞溶解物などを挙げることができる。本実施形態に係る造影剤の投与あるいは添加後、前記検体等に対し600nm乃至1300nmの範囲から選択される少なくとも1つの波長のレーザーパルス光を照射する。レーザーパルス光を照射する装置として、例えば、チタンサファイアレーザー(LT−2211−PC、Lotis社製))、OPOレーザー(LT−2214 OPO、Lotis社製)、アレキサンドライトレーザーが挙げられる。
【0038】
次に、本実施形態に係る造影剤からの音響波の強度、すなわち光音響信号の強度を音響波検出器、例えば圧電トランスデューサーで検出し、電気信号に変換する。この音響波検出器より得られた電気信号に基づき、前記検体等の中の吸収体の位置や大きさ、あるいはモル吸光係数などの光学特性値分布を求めることができる。
【0039】
(PEGの結合密度の測定方法)
粒子へのPEGの結合密度は、以下の方法で測定することができる。初めに、PEGの結合密度を測定したい粒子を有する溶液(以下、測定溶液と呼ぶ)における粒子の濃度を測定する。測定溶液における粒子の濃度は、予め測定溶液の体積を計測しておき、そして、測定溶液を凍結乾燥させて粒子の重量を求めることで算出できる。また、測定溶液における粒子の濃度と測定溶液の体積とのの積から、測定溶液の有する粒子の個数を求めることができる。
【0040】
次に、上記の測定溶液における粒子の粒径を測定する。ここで、粒子の粒径を測定する方法として例えば、動的光散乱法がある。動的光散乱法で用いる装置は、例えばDLS−8000(大塚電子社製)である。動的光散乱法を用いて測定した粒子の粒径から、粒子1個あたりの表面積を算出する。
【0041】
上記で求めた測定溶液の有する粒子の個数と、粒子1個あたりの表面積との積から、測定溶液の有する粒子の表面積の和を求めることができる。
【0042】
次に、上記測定溶液における粒子へ結合しているPEGの数を測定する。ここで、PEGの数の測定方法は例えば以下の方法がある。まず、上記測定溶液に対して、過剰量の抗PEG抗体を添加する。ここで抗PEG抗体とはPEGに結合する性質を有する抗体のことである。抗PEG抗体を添加した測定溶液から、未結合の抗PEG抗体を洗浄除去する操作を行い、粒子に結合したPEGに結合した抗PEG抗体の数を測定する。ここで、抗PEG抗体の数を測定する方法は、測定溶液に抗PEG抗体を添加する前に予め、抗PEG抗体を蛍光検出装置で検出可能な蛍光色素で標識しておき、粒子に結合したPEGに結合した抗PEG抗体に標識された蛍光色素に由来する蛍光を測定することで行う。こうして測定した、粒子に結合したPEGに結合した抗PEG抗体の数から、測定溶液における全粒子に結合しているPEGの数を算出することができる。
【0043】
このようにして求めた、測定溶液における全粒子に結合しているPEGの数を、測定溶液における粒子の表面積の和で割ることによって、測定溶液における粒子に対するPEGの結合密度を算出することができる。
【実施例】
【0044】
以下の実施例で光音響イメージング用造影剤の作製の際に用いる具体的な試薬や反応条件を挙げているが、これらの試薬や反応条件は、変更が可能であり、それらの変更は本発明の範囲に包摂されるものとする。したがって以下の実施例は、本発明の理解を助けることが目的であり、本発明の範囲を何ら制限するものではない。
【0045】
(光音響信号強度の測定方法)
光音響信号強度の測定は、パルスレーザー光をPBS中に分散したサンプルに照射し、サンプルから発生した光音響信号の強度を圧電素子を用いて検出し、高速プリアンプで増幅後、デジタルオシロスコープで取得した。具体的な条件は以下の通りである。光源として、チタンサファイアレーザー(LT−2211−PC、Lotis社製)を用いた。波長は710nm、エネルギー密度はおよそ10から20mJ/cm、パルス幅は約20ナノ秒、パルス繰返し周波数は10Hzの条件とした。光音響信号を検出する圧電素子には、エレメント径1.27cm、中心帯域1MHzの非収束型超音波トランスデューサー(V303、Panametrics−NDT製)。測定容器としては、ポリスチレン製キュベットで、光路長0.1cm、サンプル容量は約200μLであった。水を満たしたガラス容器に前記の測定容器と圧電素子とを浸け、その間隔を2.5cmとした。光音響信号強度を増幅する高速プリアンプは増幅度+30dBの超音波プリアンプ(Model 5682、オリンパス製)を用いた。増幅された信号をデジタルオシロスコープ(DPO4104、テクトロニクス製)に入力した。前記ガラス容器の外からパルスレーザー光を前記ポリスチレン製キュベットに照射した。この際に生じる散乱光の一部をフォトダイオードで検出し、デジタルオシロスコープにトリガー信号として入力した。デジタルオシロスコープを32回平均表示モードとし、レーザーパルス照射32回平均の光音響信号強度の測定を行った。
【0046】
(実施例1)
(平均分子量1000のPEGと酸化鉄粒子との結合)
平均分子量1000の、チオール基を有するPEG(Creative PEGWorks社製、以下、単にPEGと呼ぶ)を、25℃で約2時間、マレイミド基を有する酸化鉄粒子(nanomag(登録商標)−D(Micromod社製、平均粒径100nm))と反応させた。本実施例で用いたマレイミド基を有する酸化鉄粒子の710nmの波長のモル吸光係数は、4.3×10(M−1cm−1)であった。PEGは、酸化鉄粒子に対してそれぞれ、(1)1×10、(2)5×10、(3)2.5×10、(4)1×10、(5)5×10倍量を加えた。反応後、100kDaのポアサイズのアミコンウルトラ−4(日本ミリポア社製)を用いた限外ろ過により酸化鉄粒子へ結合しなかったPEGを除去して、PEG修飾酸化鉄粒子を得た。
【0047】
(粒子に対するPEGの結合密度の算出)
前述した限外ろ過後のろ液中に含まれる未反応PEGを定量することで、酸化鉄粒子へのPEGの結合量を算出した。具体的には、未反応PEGのチオール基を定量した。始めにチオール基検出試薬として5,5’−Dithiobis(2−nitrobenzoic acid)(同仁化学研究所社製)19.8mgをリン酸緩衝液(pH7.0)10mLに溶解させた。前記検出試薬20μLと、限外ろ過後のろ液、もしくは該ろ液の希釈液80μLとを25℃で約1時間反応させた。反応後、GeneQuant1300(GEヘルスケアジャパン社製)を用いて波長412nmの吸光度を測定した。一方で、既知濃度の、チオール基を有するPEG溶液を用いて、前述した検出試薬による同様の方法で検量線を作成した。検量線を基に、ろ液中に含まれる未反応PEGを定量して、PEG修飾酸化鉄粒子作製時に加えたPEG量から差し引くことで、粒子に結合しているPEGの量を算出した。その結果、粒子に対するPEGの結合密度が小さいものから順に、(1)0.025分子/nm、(2)0.13分子/nm、(3)0.46分子/nm、(4)1.1分子/nm、(5)2.9分子/nmであるものが得られていることがわかった。
【0048】
(光音響信号強度の測定)
上記で調整した、(1)から(5)のPEG修飾酸化鉄粒子にパルス光を照射して、光音響信号強度を測定した。各粒子は少なくとも3種類の濃度で光音響信号強度の測定を行った。溶媒はリン酸緩衝生理食塩水(Phosphate buffered saline、以下PBSと略す)を用いた。なお、本実施例の光音響信号強度の測定において用いた粒子のマグネタイト含有量、及び酸化鉄粒子の粒径(平均粒径100nm)は同じである。
【0049】
図1に粒子に対するPEGの結合密度と、光音響信号強度の大きさとの関係を示す。ただし、図1において、光音響信号強度は、圧電素子から得られる電圧を、パルスレーザー光の平均エネルギー、および測定溶液の粒子濃度で除すことで規格化し、更に、PEGを結合させていない酸化鉄粒子の光音響信号強度を1とした場合の相対信号強度として示した。図1中の横軸は、粒子に対するPEGの結合密度である。光音響信号強度は、粒子に対するPEGの結合密度が0.40分子/nm以上の場合は、0.40分子/nm未満の場合に比べて、大きいことが確認された。
【0050】
(実施例2)
(分子量が異なるPEGと酸化鉄粒子との結合)
平均分子量300、1000、2000、5000、20000、のチオール基を有するPEG(平均分子量300;アルテック社製、平均分子量1000;Creative PEGWorks社製、分子量2000、5000、20000;日油株式会社製、以下、単にPEGと呼ぶ)を、25℃で約2時間、マレイミド基を有する酸化鉄粒子(nanomag(登録商標)−D(Micromod社製、平均粒径200nm))と反応させた。本実施例で用いたマレイミド基を有する酸化鉄粒子の710nmの波長のモル吸光係数は、1.1×1010(M−1cm−1)であった。上記の分子量が異なるPEGの各々は、酸化鉄粒子の量に対して5×10倍量を加えた。PEGを酸化鉄粒子に添加した後、100kDaのポアサイズのアミコンウルトラ−4(日本ミリポア社製)を用いた限外ろ過により酸化鉄粒子へ結合しなかったPEGを除去して、PEG修飾酸化鉄粒子を得た。以下では、平均分子量300、1000、2000、5000、20000のPEGが結合した酸化鉄粒子をそれぞれ、NP−PEG300、NP−PEG1000、NP−PEG2000、NP−PEG5000、NP−PEG20000と示す。
【0051】
(粒子に対するPEGの結合密度の算出)
前述した通り、限外ろ過後のろ液中に含まれる未反応のPEGを定量することで、酸化鉄粒子へのPEGの結合量を算出した。その結果、粒子に対するPEGの結合密度は、NP−PEG300、NP−PEG1000、NP−PEG2000、NP−PEG5000、NP−PEG20000がそれぞれ、7.1分子/nm、3.6分子/nm、2.9分子/nm、1.3分子/nm、0.2分子/nmであった。
【0052】
(光音響信号強度の測定)
光音響信号強度の測定は実施例1と同じ方法で行った。サンプルは上記のNP−PEG300、NP−PEG1000、NP−PEG2000、NP−PEG5000、NP−PEG20000、およびPEGを結合させていない酸化鉄粒子を用いた。また、前記酸化鉄粒子の有するマレイミド基を過剰量のシステイン溶液と反応させることで結合活性を失活させた粒子に対して、系中のPEG濃度がNP−PEG2000と等しくなるように、平均分子量2000のPEGを加えた粒子(以下、NP+PEG2000と示す)、すなわち、平均分子量2000のPEGと酸化鉄粒子の光音響信号強度も測定した。各粒子は少なくとも3種類の濃度で光音響信号の測定を行った。溶媒はPBSを用いた。なお、本実施例の光音響信号強度の測定において用いた粒子のマグネタイト含有量、及び酸化鉄粒子の粒径(平均粒径200nm)は同じである。
【0053】
図2に光音響信号強度の測定結果を示す。光音響信号強度は上述したように規格化し、PEGが結合していない酸化鉄粒子の光音響信号強度を1とした場合の相対信号強度として、図2中の縦軸に示した。図2中の横軸は、それぞれ、1がPEGが結合していない酸化鉄粒子、2がNP−PEG300、3がNP−PEG1000、4がNP−PEG2000、5がNP−PEG5000、6がNP−PEG20000、7がNP+PEG2000の各被検粒子を表す。PEGを結合させていない酸化鉄粒子の光音響信号強度と比較して、粒子に対するPEGの結合密度が0.40分子/nm以上のNP−PEG300、NP−PEG1000、NP−PEG2000、NP−PEG5000光音響信号強度は高いことがわかった。一方で、粒子に対するPEGの結合密度が0.40分子/nm未満であるNP−PEG20000は、光音響信号の増加はほとんどみられなかった。また、NP+PEG2000は光音響信号強度の増加はみられなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
600nm乃至1300nmの範囲から選択される少なくとも1つの波長におけるモル吸光係数が10−1cm−1以上である粒子と、前記粒子に結合したポリエチレングリコールと、を有する光音響イメージング用造影剤において、前記ポリエチレングリコールの、前記粒子に対する結合密度が0.40分子/nm以上であることを特徴とする光音響イメージング用造影剤。
【請求項2】
前記ポリエチレングリコールの、前記粒子に対する結合密度が0.46分子/nm以上であることを特徴とする請求項1に記載の光音響イメージング用造影剤。
【請求項3】
前記ポリエチレングリコールの平均分子量が300以上5000以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の光音響イメージング用造影剤。
【請求項4】
前記粒子が酸化鉄粒子を有することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の光音響イメージング用造影剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−180286(P2012−180286A)
【公開日】平成24年9月20日(2012.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−42079(P2011−42079)
【出願日】平成23年2月28日(2011.2.28)
【出願人】(000001007)キヤノン株式会社 (59,756)
【Fターム(参考)】