説明

光音響分析用の試料カップ

【課題】光音響分光分析において微小な試料の測定感度を向上させること。
【解決手段】光源(3)からの断続光が照射された試料に発生する熱により気体中に発生する音響を検出して前記試料(S)の分析を行う光音響分析において、試料(S)を支持する光音響分析用の試料カップ(SC)であって、前記光の入射方向および前記入射方向に直交する方向に対して傾斜して形成されて前記試料(S)を支持する支持面(22)であって、前記直交する方向に沿って前記試料(S)を配置した場合に比べて、前記試料(S)の表面を前記光の入射方向に対して沿った方向に近づけた状態で前記試料(S)を支持する前記支持面(22)、を備えた光音響分析用の試料カップ(SC)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、断続光が照射された試料に発生する熱により気体中に発生する音を検出して試料の分析を行う光音響分光(PAS:Photo-Acoustic Spectroscopy)を使用して分析を行う光音響分析で使用される試料を保持する試料カップに関する。
【背景技術】
【0002】
光を照射して試料の分析を行う分光法において、光音響分光法(PAS:Photo-Acoustic Spectroscopy)は古くから知られている。
光音響分析に関して、下記の特許文献1,2記載の技術が従来公知である。
【0003】
特許文献1(特開平8−271336号公報)には、光源(2)からの光が、窓板(14)の下方の試料室(15)内に支持された試料(17)に対して、試料(17)の表面(水平面)にほぼ直交する方向(上方)から照射され、試料(17)から発生した音響が、試料(17)への入射光とほぼ直交する方向(水平方向)に沿って延びる導波管(18)を通じて、マイク室(16)に配置されたマイク(4)で検出される光音響分光測定装置(1)構成が記載されている。
【0004】
特許文献2(実公平7−42129号公報)には、光学窓(11)の下方に配置された可動試料ホルダ(21)の上面に試料(16)が支持され、可動試料ホルダ(21)の昇降により試料室(14)の容積をできるだけ小さくした状態で、試料(16)の上面に上方から照射された光による音響を、試料室(14)の上部側面に支持されたマイクロフォン(13)で検出する光音響セル(20)の構成が記載されている。また、特許文献2には、試料室(14)の上部側面から水平方向に延びる通路の先にマイクロフォン(13)を配置して音響を検出する構成や、光音響セル(20)を上下反転させて、下端に光学窓(11)を配置し且つ光学窓(11)の上面に試料(16)を支持して、下方から光を照射する構成も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−271336号公報(「0023」〜「0024」、「0027」、図1、図2)
【特許文献2】実公平7−42129号公報(第1ページ左欄最終行〜第2ページ左欄第4行、第2ページ左欄最終行〜第2ページ右欄第21行、図1〜図4)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記特許文献1,2記載の光音響分光法は、主に可視光や紫外光で使用され、赤外領域でも使用されるようになってきている。ここで、光音響分光法は、フーリエ変換赤外分光法等で使用される透過、反射などの測定法と異なり、試料を掻き取ったり、粉砕、KBrとの混合、加圧等の前処理が必要なく、固体表面から赤外吸収スペクトルを得ることができる。また、前処理を行う場合、測定後、試料が最初の状態のまま残らず、警察の捜査資料等の証拠として保存する必要がある場合や文化財等の貴重な資料に対して、使用しづらいが、光音響分光法では、試料の前処理が必要ないため、分析後に試料がそのままの状態で残り、完全非破壊で測定が可能であるという利点がある。
しかしながら、光音響分光法では、試料表面での光の吸収、光エネルギーの熱への変換、熱に起因する疎密波(音波、音響)をマイクロフォンで検出、測定するため、厚さが薄い薄膜状の試料や、太さが細い繊維状の試料、粒径の小さな微小な粒状の試料等の場合、得られる信号が小さく、測定が難しい問題があった。
【0007】
本発明は、光音響分光分析において微小な試料の測定感度を向上させることを第1の技術的課題とする。
また、本発明は、光音響分光分析において、グレージングアングルの反射測定、反射吸収測定、透過測定を可能にすることを第2の技術的課題とする。
さらに、本発明は、光音響分光分析において微小な試料の取り扱いを容易にすることを第3の技術的課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記技術的課題を解決するために、請求項1に記載の発明の光音響分析用の試料カップは、
光源からの断続光が照射された試料に発生する熱により気体中に発生する音響を検出して前記試料の分析を行う光音響分析において、試料を支持する光音響分析用の試料カップであって、
前記光の入射方向および前記入射方向に直交する方向に対して傾斜して形成されて前記試料を支持する支持面であって、前記直交する方向に沿って前記試料を配置した場合に比べて、前記試料の表面を前記光の入射方向に対して沿った方向に近づけた状態で前記試料を支持する前記支持面、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の光音響分析用の試料カップにおいて、
前記支持面を有する回転部と、
前記回転部を回転可能に支持する固定部と
を備え、前記支持面の前記光の入射方向に対する傾斜角を調整可能であることを特徴とする。
【0010】
前記技術的課題を解決するために、請求項3に記載の発明の光音響分析用の試料カップは、
光源からの断続光が照射された試料に発生する熱により気体中に発生する音響を検出して前記試料の分析を行う光音響分析において、試料を支持する光音響分析用の試料カップであって、
線材状の試料の一方の端部を挟んで保持可能な一端側の保持部材であって、前記試料の保持が解除される一端解除位置と、前記試料が挟まれて保持する一端保持位置との間で移動可能な前記一端側の保持部材と、
線材状の前記試料の他方の端部を挟んで保持可能な他端側の保持部材であって、前記試料の保持が解除される他端解除位置と、前記試料が挟まれて保持される他端保持位置との間で移動可能な前記他端側の保持部材と、
前記一端側の保持部材を前記一端保持位置に付勢し、前記他端側の保持部材を前記他端保持位置に付勢する付勢部材と、
を備えたことを特徴とする。
【0011】
請求項4に記載の発明は、請求項3に記載の光音響分析用の試料カップにおいて、
前記一端側の保持部材と前記他端側の保持部材とを接近および離間する方向に移動させて、前記保持部材に支持された試料の張力を調整する張力調整部材、
を備えたことを特徴とする。
【0012】
前記技術的課題を解決するために、請求項5に記載の発明の光音響分析用の試料カップは、
光源からの断続光が照射された試料に発生する熱により気体中に発生する音響を検出して前記試料の分析を行う光音響分析において、先端に採取された試料を保持可能な針状のプローブ部と、前記プローブ部の基端部を支持するスタンド部と、前記スタンド部を着脱可能に支持し且つ作業者が把持可能なホルダ部と、を有するマイクロプローブホルダで採取された試料を支持する光音響分析用の試料カップであって、
前記プローブ部の先端に試料が保持された状態で前記ホルダ部から取り外された前記スタンド部を収容可能な凹部、
を備えたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
請求項1〜5に記載の発明によれば、本発明の構成を有しない場合に比べて、光音響分光分析において微小な試料の測定感度を向上させることができる。
また、請求項2に記載の発明によれば、本発明の構成を有しない場合に比べて、光音響分光分析において、グレージングアングルの反射測定、反射吸収測定、透過測定を可能にすることができる。
さらに、請求項3,5に記載の発明によれば、本発明の構成を有しない場合に比べて、光音響分光分析において微小な試料の取り扱いを容易にすることができる。
また、請求項4に記載の発明によれば、本発明の構成を有しない場合に比べて、試料の張力の調整を容易に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】図1は本発明の光音響分析装置の実施例1の全体説明図である。
【図2】図2は実施例1の試料カップの説明図であり、図2Aは斜視図、図2Bは図2Aの矢印IIB方向から見た図である。
【図3】図3は実施例1の作用説明図であり、図3Aは実施例1の試料に対して光が照射される状態の説明図、図3Bは従来の構成において光が試料に照射される状態の説明図である。
【図4】図4は実施例2の光音響分析装置の説明図である。
【図5】図5は実施例3の光音響分析装置の説明図である。
【図6】図6は実施例1の図2に対応する実施例4の試料カップの説明図であり、図6Aは斜視図、図6Bは要部断面図である。
【図7】図7は実施例4の試料カップの説明図であり、図7Aは透過的測定の場合の説明図、図7Bは反射的測定の場合の説明図である。
【図8】図8は実施例4の作用説明図であり、図8Aは透過的測定における試料と光との関係の説明図、図8Bは反射的測定における試料と光との関係の説明図である。
【図9】図9は実施例5の光音響分析装置の説明図であり、実施例1の図1に対応する図である。
【図10】図10は実施例5の試料カップの説明図であり、図10Aは斜視図、図10Bは図10Aの分解図である。
【図11】図11は実施例5の試料カップに繊維状の試料をセットする状態の説明図であり、図11Aはセット前の状態の説明図、図11Bは一端側の保持部材を一端解除位置に移動させた状態の説明図、図11Cは一端保持部材に試料の一端部が保持された状態の説明図、図11Dは他端側の保持部材を他端解除位置に移動させた状態の説明図、図11Eは他端保持部材に試料の他端部が保持されて試料のセットが完了した状態の説明図である。
【図12】図12は実施例5の作用説明図である。
【図13】図13は実施例5の実験結果の説明図であり、横軸に波数を取り、縦軸に光音響の強度を取ったグラフである。
【図14】図14は実施例6の試料カップの説明図であり、図14Aは実施例5の図10Aに対応する試料カップの斜視図、図14Bは実施例6の試料カップの張力調整部材が係合位置に移動した状態の説明図、図14Cは実施例6の張力調整部材が離脱位置に移動した状態の説明図である。
【図15】図15は実施例7〜実施例9の光音響セルの説明図であり、図15Aは実施7の光音響セルの説明図、図15Bは実施例8の光音響セルの説明図、図15Cは実施例9の光音響セルの説明図である。
【図16】図16は実施例10の試料カップの説明図であり、図16Aは試料カップの斜視図、図16Bは保持部材の要部説明図である。
【図17】図17は実施例11の説明図であり、実施例10の図16Bに対応する保持部材の要部説明図である。
【図18】図18は実施例12の光音響分析装置の説明図であり、実施例1の図1に対応する図である。
【図19】図19は実施例12の試料カップの説明図である。
【図20】図20は、実施例12のマイクロプローブホルダの説明図である。
【図21】図21は実施例12の作用説明図である。
【図22】図22は実施例12の変更例のマイクロプローブホルダの説明図であり、図20に対応する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
次に図面を参照しながら、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではない。 なお、以後の説明の理解を容易にするために、図面において、前後方向をX軸方向、左右方向をY軸方向、上下方向をZ軸方向とし、矢印X,−X,Y,−Y,Z,−Zで示す方向または示す側をそれぞれ、前方、後方、右方、左方、上方、下方、または、前側、後側、右側、左側、上側、下側とする。 また、図中、「○」の中に「・」が記載されたものは紙面の裏から表に向かう矢印を意味し、「○」の中に「×」が記載されたものは紙面の表から裏に向かう矢印を意味するものとする。
なお、以下の図面を使用した説明において、理解の容易のために説明に必要な部材以外の図示は適宜省略されている。
【実施例1】
【0016】
図1は本発明の光音響分析装置の実施例1の全体説明図である。
図1において、本発明の実施例1の試料カップが使用される光音響分光分析装置1は、電磁波の一例としての光2を照射する光源3と、光源3からの光2を集光する光学系4と、を有する。なお、実施例1では、光2の一例として、FT−IR等で使用される赤外領域の断続光(チョッピング光)が使用されているが、これに限定されず、可視光や紫外光を採用することも可能である。
そして、光学系4で集光された光2は、光音響セル6に導かれる。
光音響セル6は、中央部に上下方向に貫通する開口7aを有するセル本体7を有する。セル本体7の開口7aの上端には、赤外光2が透過可能な透明な窓材8が支持されている。
【0017】
前記開口7aの下端には、試料支持台9が支持されており、試料支持台9の上面には、カップ収容凹部9aが形成されている。前記カップ収容凹部9aには、試料Sを支持する試料カップSCが支持されている。
前記窓材8および試料支持台9とセル本体7との間には、密閉部材の一例としてのOリング11が支持されており、窓材8、試料支持台9で囲まれた開口7aの内部空間により試料室12が構成されている。なお、前記試料室12は、試料Sから発生する音響を伝達しやすいように、内部にヘリウムガス等のガスが充填、密封可能である。なお、前記試料支持台9の外縁部には、試料室12の内部の容積を減らすために、上方に延びるスペーサ13が支持されている。
【0018】
前記セル本体7には、試料室12の内部に接続され且つ左方に延びる導波部14が形成されており、導波部14の先には、音響を測定可能な音響測定装置の一例としてのマイクロフォン16が支持されている。
前記マイクロフォン16での測定信号は、アンプ17を介して、解析プログラムにより構成された測定手段18により測定、分析が行われる。
なお、前記光源3や光学系4、マイクロフォン16、アンプ17、測定手段18等は、従来公知の光音響分光測定装置を使用可能であり、従来公知であるため、詳細な説明は省略する。
【0019】
(試料カップの説明)
図2は実施例1の試料カップの説明図であり、図2Aは斜視図、図2Bは図2Aの矢印IIB方向から見た図である。
図1、図2において、実施例1の試料カップSCは、円柱の上端部が切り欠かれた形状に構成されており、部分円状の上端面21と、上端面21の左端から下方に延びる支持面22と、支持面22の下端から水平方向に延びる部分円板状の下面23とを有する。すなわち、実施例1の支持面22は、光2の入射方向である上下方向、および、入射方向に直交する方向である水平方向に対して傾斜して形成されており、表面に、厚さの薄い薄膜状の試料Sを支持可能に構成されている。
なお、実施例1の前記支持面22の下面23に対する傾斜角θ1は、80度程度に設定されているが、70度〜80度に設定することが好ましく、試料Sの最適入射角に一致させることが最適である。ただし、最適入射角は、試料Sの材質、組成等により異なるため、集光される光2の入射方向と、ほとんどの材料の最適入射角とに基づいて、75度〜80度程度の角度に設定することが好ましい。
【0020】
(実施例1の作用)
図3は実施例1の作用説明図であり、図3Aは実施例1の試料に対して光が照射される状態の説明図、図3Bは従来の構成において光が試料に照射される状態の説明図である。
前記構成を備えた光音響分光分析装置1では、断続光2が試料Sに照射されると、試料Sに光が吸収され、光エネルギーが熱エネルギーに変換されて、断続光2に同期した熱膨張、熱収縮を繰り返す。試料Sの熱膨張、熱収縮に伴って、疎密波(音響)が発生し、音響がマイクロフォン16で測定される。
図3において、試料Sが厚さの薄い薄膜状の試料である場合、図3Aに示すように、実施例1では、傾斜角θ1を有する支持面22に試料Sが支持されており、試料Sの表面S1が、光2の入射方向に沿った方向である上下方向に近づいた状態で支持されている。したがって、試料Sに照射された光2が、真上から照射された場合は、試料Sの厚さd1に対して、試料Sを通過する距離L1は、以下の式(1)となる。
L1=2×(d1/cosθ1) …式(1)
【0021】
図3Bにおいて、従来技術では、試料Sをホルダ等の上面に支持して、試料表面S1に対して上方から、すなわち、ほぼ垂直に光01を照射することとなり、光01が試料Sを通過する距離L1は、θ1がほぼ0度であるため、前記式(1)から、試料Sの厚さd1の2倍(往復)程度でしかない。これに対して、実施例1では、θ1が80度に設定されており、前記距離L1が従来に比べて長くなる。したがって、実施例1では、光が通過する距離が長くなって、光が吸収されやすくなり、従来に比べて、得られる音響の信号が大きくなり、測定感度を向上させることができる。
【実施例2】
【0022】
次に本発明の実施例2の説明を行うが、この実施例2の説明において、前記実施例1の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。この実施例2は、下記の点で前記実施例1と相違しているが、他の点では前記実施例1と同様に構成されている。
【0023】
図4は実施例2の試料カップの説明図である。
図4において、実施例2の光音響セル6では、カップ収容凹部9aと試料カップSCとの間には、試料傾斜素子の一例として、複数のマニピュレータ31が支持されている。実施例1のマニピュレータ31は、電圧が印加されると歪みが発生(伸縮)するピエゾ素子(PZT、圧電素子)により構成されており、各マニピュレータ31には、電圧を印加することで伸縮を制御して、試料カップSCの支持面22の傾斜角θ1を調整する傾斜制御手段32が接続されている。
【0024】
(実施例2の作用)
前記構成を備えた実施例2の光音響セル6では、傾斜制御手段32を介してマニピュレータ31を制御することで、試料Sの傾斜角θ1を調整、制御することができ、光2の入射角を調整、制御することができる。したがって、光2の入射角を試料Sの材質等に応じた最適入射角に容易に調整することができ、感度を更に向上させることができる。
【実施例3】
【0025】
次に本発明の実施例3の説明を行うが、この実施例3の説明において、前記実施例1、2の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。この実施例3は、下記の点で前記実施例1、2と相違しているが、他の点では前記実施例1、2と同様に構成されている。
【0026】
図5は実施例3の試料カップの説明図である。
図5において、実施例3の光音響セル6では、カップ収容凹部9aと試料カップSCとの間には、試料傾斜部材の一例として、回転軸36を中心として回転可能なカップ支持プレート37が配置されており、試料カップSCはカップ支持プレート37の上面に支持されている。前記回転軸36には、傾斜駆動源の一例としてのモータ38から駆動が伝達可能に構成されており、モータ38には、モータ38の正逆回転を制御することで、試料カップSCの支持面22の傾斜角θ1を調整する傾斜制御手段39が接続されている。
【0027】
(実施例3の作用)
前記構成を備えた実施例3の光音響セル6では、傾斜制御手段39を介してモータ38を制御することで、試料Sの傾斜角θ1を調整、制御することができ、光2の入射角を調整、制御することができる。したがって、実施例2と同様に、光2の入射角を試料Sの材質等に応じた最適入射角に容易に調整することができ、感度を更に向上させることができる。
【実施例4】
【0028】
次に本発明の実施例4の説明を行うが、この実施例4の説明において、前記実施例1の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。この実施例4は、下記の点で前記実施例1と相違しているが、他の点では前記実施例1と同様に構成されている。
【0029】
図6は実施例1の図2に対応する実施例4の試料カップの説明図であり、図6Aは斜視図、図6Bは要部断面図である。
図7は実施例4の試料カップの説明図であり、図7Aは透過的測定の場合の説明図、図7Bは反射的測定の場合の説明図である。
図6、図7において、実施例4の試料カップ40は、下方に配置された固定部41と、前記固定部41に支持された回転部42とを有する。実施例4の固定部41は、底板部41aと、底板部41aの前後両端から上方に延びる前後一対の支持壁41bと、を有する。前記支持壁41bには、前後方向に貫通する支持孔41cが形成されている。
【0030】
前記回転部42は、実施例1の試料カップSCの底部部や支持面22の反対側が切除されて厚さが薄くなった形状に形成されており、回転部42は、実施例1の試料カップSCと同様に構成された上面42a、支持面42bおよび下面42cを有する。
前記回転部42の前後両端部には、前後方向の外側に伸びる軸部43が支持されている。実施例4の軸部43は、支持孔41cに対して回転可能に支持されている。前記軸部43の前端には、支持壁41bよりも前側の位置に、把持部の一例としてのハンドル44が支持されている。
したがって、作業者がハンドル44を把持して回転させることで、回転部42を軸部43を中心として回転させることができ、底板部41aに対する傾斜角度、すなわち、光2に対する傾斜角度を調整することが可能になっている。
【0031】
なお、実施例4の軸部43は、光2の集光位置の近傍に対応して配置されており、軸部43の回転時に光2が照射される試料S上の位置がほとんど移動しないように設定されている。
また、実施例4の軸部43は、支持孔41cに対して隙間無く嵌められており、作業者がハンドル44を把持して回転させた場合には回転するが、作業者がハンドル44を離した状態では試料カップSC′が自然に回転しないように構成されている。なお、軸部43と支持孔41cとの間に、例えば、円筒状のゴム製の滑り止め部材を介在させて試料カップSC′が自然に回転しないようにしたり、トルクリミッタを使用して一定以上のトルクが作用しないと回転しないように構成したり、ブレーキを設けてブレーキを解除しないと試料カップSC′が回転しないように構成することも可能である。
【0032】
(実施例4の作用)
図8は実施例4の作用説明図であり、図8Aは透過的測定における試料と光との関係の説明図、図8Bは反射的測定における試料と光との関係の説明図である。
前記構成を備えた実施例4の試料カップ40では、作業者がハンドル44を操作して、回転部42の支持面42bの光2に対する傾斜角を調整することができ、光2に対する試料Sの入射角を調整することができる。
図8において、試料Sの表面を光2の入射方向に対して平行に近い状態に設定した場合には、図8Aに示すように、光2が試料Sの内部を通過する距離が長くなり、光2が試料Sを透過する状況に近くなる。一方、試料Sの表面を光の入射角に対して垂直に近い状態に設定した場合には、図8Bに示すように、光2が試料Sの表面で反射される状況に近くなる。すなわち、図8Aに示す状態では、試料Sを光が透過した透過吸収測定に近い測定結果が得られ、図8Bに示す状態では、試料Sの表面で光が反射する反射吸収測定に近い測定結果が得られる。
【0033】
従来の測定方法では、透過測定を行う場合は、薄膜状の試料を支持する基板を光が透過可能な材料で構成する必要があり、薄膜状の試料に対して反射測定を行う場合は、試料を支持する基板として金属面が採用されている。したがって、同種の試料に対して、透過測定と反射測定を行おうとすると、透過用の試料と、反射用の試料の2つのサンプルを用意したり、異なるカップや装置を準備する必要があり、測定時に異なる基板に起因するノイズの違い等を補償することが難しい問題がある。
これに対して、実施例4の試料カップ40では、回転部42を回転させることで、1つの同一の試料Sに対して、図8Aに示す透過的な測定と、図8Bに示す反射的な測定を行うことができ、ノイズ等の補償が必要なくなり、処理が簡単になり、精度も向上させることができる。
【0034】
また、実施例1〜3に記載の試料カップSCを使用して透過吸収的な測定を行った後で、試料カップSCを光音響セル6から取り外して、カップ収容凹部9aに試料Sを直に置くことで、反射吸収測定を行うことも可能であるが、この場合、試料Sを試料カップSCから取り出したりする作業が必要になり、取り扱いが面倒になると共に、試料カップSCと試料カップ収容凹部9aの材料の違いによる補償も問題となる可能性がある。
これに対して、実施例4では、1つの試料カップ40を回転させるだけで、透過的な測定と反射的な測定が可能であり、試料Sの取り扱いを容易にすることができる。
【0035】
なお、実施例4では、図8Aに示すように、光2に対して試料Sの表面が平行に近い状態の透過的測定と、図8Bに示すように、光2に対して試料Sの表面が垂直に近い状態の反射的測定と、を例示したが、これに限定されず、試料Sの表面の光に対する傾斜角は、平行(グレージング角=0度)と垂直(グレージング角=90度)の間の任意の角度、例えば、グレージング角が30度や60度等における測定も可能である。
また、実施例4では、回転部42をハンドル44で手動で回転させる構成を例示したが、これに限定されず、実施例3と同様に、モータ等を介して、自動で回転させる構成とすることも可能である。この場合、傾斜角を連続的に変化させることが容易になり、複数の傾斜角で試料Sの光音響測定を行うことも可能である。
さらに、実施例4において、軸部43が連続的に回転する構成を例示したが、これに限定されず、例えば、軸部43の外表面に予め設定された角度間隔(例えば、10度間隔)で凹凸を形成して、支持孔41cの内面に軸部43の凹部に嵌る突部を設け、軸部43が予め設定された角度回転するたびに、支持孔41cの突部が軸部43の凹部に引っ掛かって停止するように構成することも可能である。
【実施例5】
【0036】
次に本発明の実施例5の説明を行うが、この実施例5の説明において、前記実施例1の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。この実施例5は、下記の点で前記実施例1と相違しているが、他の点では前記実施例1と同様に構成されている。
【0037】
図9は実施例5の光音響分析装置の説明図であり、実施例1の図1に対応する図である。
図10は実施例5の試料カップの説明図であり、図10Aは斜視図、図10Bは図10Aの分解図である。
図9において、実施例5の試料カップ51は、円柱の中心部に上端から下部まで延びる凹部51aが形成された形状に形成されている。図9、図10において、前記試料カップ51は、円柱の軸方向に沿って90度間隔で4分割されたカップ片52,53,54,55により構成されており、各カップ片52〜55の外周面には、付勢部材支持部の一例として、周方向に沿ったリング装着凹部52a〜55aが形成されている。
【0038】
左側の2つのカップ片52,53により実施例5の一端側の保持部材52+53が構成され、右側の2つのカップ片54,55により実施例5の他端側の保持部材54+55が構成されている。
実施例5では、一端側の保持部材52+53のカップ片52,53どうしの境界部の上端面には、試料Sを挟む位置であることを示す目印の一例としてのマーク52b,53bが形成されており、他端側の54+55にも、同様にマーク54b,55bが形成されている。
【0039】
前記リング装着凹部52a〜55aには、付勢部材の一例として、カップ片52〜55どうしが図10Aに示すような円柱状になるように付勢するOリング57が装着されている。実施例5のOリング57は、弾性材料の一例としてのゴム材により構成されており、弾性変形していない自然長の状態では、リング装着凹部52a〜55aの外周長よりも、内周長が小さく設定されている。したがって、Oリング57は、リング装着凹部52a〜55aに弾性変形して伸びた状態で装着され、付勢力が常時作用するように設定されている。
【0040】
図11は実施例5の試料カップに繊維状の試料をセットする状態の説明図であり、図11Aはセット前の状態の説明図、図11Bは一端側の保持部材を一端解除位置に移動させた状態の説明図、図11Cは一端保持部材に試料の一端部が保持された状態の説明図、図11Dは他端側の保持部材を他端解除位置に移動させた状態の説明図、図11Eは他端保持部材に試料の他端部が保持されて試料のセットが完了した状態の説明図である。
図11において、実施例5の光音響分析装置1では、試料カップ51に試料をセットする作業を行う場合に、セット作業を補助するための補助部材58が使用可能である。実施例5の保持部材58は、山型のブロック状に構成されており、中央の上端部58aから両外端部に行くに連れて下方に傾斜する傾斜面58bを有する。
【0041】
試料カップ51に繊維状の試料Sをセットする場合、図11A、図11Bに示すように、一端側の保持部材52+53の境界部に補助部材58の上端部58aを合わせて、保持部材52+53が下方に押されると、Oリング57が伸び、左側のカップ片52,53の境界部分が開放されて、図11Aに示す一端保持位置から図11Bに示す一端解除位置に移動する。図11B、図11Cにおいて、図11Bに示す一端解除位置において、ピンセットや指等で摘まれた試料Sの一端部がカップ片52,53の隙間に配置し、カップ片52,53を下方に押す力が解除されると、Oリング57の弾性復元力の作用で、カップ片52,53どうしの境界部分が閉じて、図11Cに示す一端保持位置に移動する。したがって、試料Sの一端部がカップ片52,53の間に挟まれた状態で保持される。
【0042】
次に、他端側の保持部材54+55も、一端側の保持部材52+53の場合と同様にして、補助部材58を使用して図11Dに示す他端解除位置に移動させて、試料Sの他端部をカップ片54,55の間に配置し、カップ片54,55を他端保持位置に移動させることで、試料Sの他端部が保持される。このとき、実施例5では、試料Sの一端部が一端側の保持部材52+53により保持されているため、試料Sの他端部をピンセット等で摘んだ状態で引っ張ることで、試料Sに張力を付与した状態で、カップ片54,55の間に挟むことが容易に可能になっている。
【0043】
(実施例5の作用)
図12は実施例5の作用説明図である。
前記構成を備えた実施例5の試料カップ51では、繊維状の試料Sの両端部が保持され、中央部が試料カップ51の凹部51a内に配置された状態、すなわち、試料Sの中央部が宙に浮いた状態で支持されている。特に、実施例5では、試料Sが張った状態で支持可能である。発明者の実験の結果、試料Sは、試料カップ等の面に置いた状態とするよりも、宙に浮いた状態とする方が、感度が向上することが確認され、試料Sが弛んだ状態よりも張った状態とした方が感度が更に向上することが確認された。
【0044】
感度が向上する理由の詳細は不明であるが、以下のように考察される。
繊維状の試料Sが弛んだ状態よりも張った状態の方が感度が向上する理由は、断続光2が照射された試料Sが、熱膨張、熱収縮を繰り返す際に、繊維状の試料Sが張った状態であると、試料Sの特性に応じた周波数の弦の振動が発生し、この振動により空中に疎密波(音響)が伝達し、検出される信号の強度が増強されるものと考えられる。
したがって、試料Sは、カップ収容凹部9a等に直に置いた場合よりも、宙に浮いた状態の方が感度が向上しやすく、さらに、宙に浮いた状態において弛んだ状態よりも張った状態とした方が信号が大きくなりやすいものと考えられる。
【0045】
(実験例)
次に、実施例5の効果を確認するための実験を行った。
実験は、試料として、細い絹糸を使用した。また、光音響分析装置として、GASERA社製の光音響検出器(型番:PA301)を使用し、測定条件として、波数分解:8[cm−1]、積算回数:64回、周囲ガス(試料室12の充填ガス):ヘリウムとして、実験を行った。
実験例1では、実施例5の試料カップを使用して宙に浮いた状態で試料を張った状態で保持した。
比較例1では、実験例1と同一の試料Sを、従来の試料カップの表面に置いただけで測定を行った。
実験結果を図13に示す。
【0046】
図13は実施例5の実験結果の説明図であり、横軸に波数を取り、縦軸に光音響の強度を取ったグラフである。
図13に示すように、実験例1の方が、比較例1に比べて、感度が高くなることが確認された。
【0047】
したがって、実施例5では、試料カップ51に繊維状の試料Sが宙に浮いた状態で支持されており、感度を向上させることができる。
特に、従来の試料カップでは、繊維状の試料Sを測定する場合には、試料Sが脱落、紛失したり、光の照射位置からずれることを防止するために、粘着テープで留めることが行われていたが、粘着テープで試料Sを留める場合、試料Sを張った状態で留める作業が面倒であると共に、測定される信号に粘着テープの信号がノイズとして測定されたり、測定終了後に試料に粘着テープの粘着剤が残ってしまうといった問題が発生することがあった。これに対して、実施例5の試料カップ51では、粘着テープを使用する場合に発生する問題を解決することができ、試料Sを容易に張った状態で保持することができ、感度を向上させることができる。
【0048】
なお、実施例5の試料カップ51では、カップ片52〜55に試料Sが直接挟まれる構成を例示したが、これに限定されず、例えば、カップ片52〜55の試料Sが挟まれる位置に、粗面加工(サンドブラスト等)をしたり、ゴム等の高摩擦部材やフェルト等の布地等を貼り付けることで、試料Sの滑り止め、クッション(緩衝、保護)を行う構成とすることも可能である。
【実施例6】
【0049】
次に本発明の実施例6の説明を行うが、この実施例6の説明において、前記実施例5の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。この実施例6は、下記の点で前記実施例1、5と相違しているが、他の点では前記実施例1、5と同様に構成されている。
図14は実施例6の試料カップの説明図であり、図14Aは実施例5の図10Aに対応する試料カップの斜視図、図14Bは実施例6の試料カップの張力調整部材が係合位置に移動した状態の説明図、図14Cは実施例6の張力調整部材が離脱位置に移動した状態の説明図である。
【0050】
図14において、実施例6の試料カップ51では、右側のカップ片52,54の境界部分の右端部(外端部)や、左側のカップ片53,55の境界部分の左端部(外端部)には、左右一対の張力調整部材61,62が配置されている。
なお、以下の説明において、左右の張力調整部材61,62は、左右対称であるだけで、構成は同様であるため、右側の張力調整部材61についてのみ詳細に説明し、左側の張力調整部材62については詳細な説明を省略する。
図14A〜図14Cにおいて、実施例6の張力調整部材61は、前側のカップ片52の外周面の後端に支持された被連結部63を有する。前記連結部63は、前後両端から右方(外方)に突出する前後一対のスライダ挟み部64を有し、各スライダ挟み部64には、右端から左方に延びる軸通過部64aが形成されている。また、スライダ挟み部64どうしの間には、スライダ収容空間63aが形成されている。
【0051】
後側のカップ片54の外周面の前端には、被連結部63に対応して、調整部材本体66が支持されている。前記調整部材本体66は、カップ片54の外周面から右方(外方)に突出する板状の連結固定部67を有する。前記連結固定部67には、右端から左方に延びるU字状のU溝部67aが形成されており、U溝部67aには、上下方向に延びる回転軸67bを中心として連結回転部68が回転可能に支持された状態で収容されている。前記連結回転部68には、棒状のシャフト69の基端部が図示しない軸受けを介して回転可能に支持されている。前記シャフト69の中央部の外周面には、ネジ溝69aが形成されており、ネジ溝69aの形成された部分には、板状のスライダ70が支持されている。前記スライダ70には、シャフト69が貫通すると共に内周面にネジ溝69aと噛み合うネジが切られたネジ孔70aが形成されている。前記スライダ70は、厚さがスライダ収容空間63aの前後方向の幅よりも小さく形成されており、スライダ収容空間63a内に収容可能に構成されている。また、前記シャフト69の先端部には、作業者が操作可能な摘み部71が支持されている。
【0052】
したがって、実施例6の張力調整部材61,62では、回転軸67bを中心として、連結回転部68を回転させることで、シャフト69およびスライダ70が回転する。よって、シャフト69が軸通過部64aを通過し且つスライダ収容空間63aにスライダ70が収容された図14Bに示す連結位置と、シャフト69およびスライダ70が被連結部63から離脱した図14Cに示す連結解除位置と、の間で調整部材本体66が移動可能に構成されている。
そして、図14Bに示す連結位置では、摘み部71を正逆回転させることで、スライダ収容空間63aに収容されて回り止めがされたスライダ70は、シャフト69の軸方向に沿って移動可能に支持されている。
【0053】
(実施例6の作用)
前記構成を備えた実施例6の試料カップ51では、線状の試料Sを試料カップ51に支持する場合には、張力調整部材61,62の調整部材本体66を、図14Cに示す連結解除位置に移動させた状態で、図11に示す工程を経て、試料Sを支持する。次に、試料Sが、試料カップ51に支持された状態において、調整部材本体66を図14A、図14Bに示す連結位置に移動させて、スライダ70をスライダ収容空間63a内に収容させる。そして、摘み部71を正逆回転させると、スライダ70が前方または後方に移動し、前側または後側のスライダ挟み部64を押す。スライダ挟み部64が押されると、前側のカップ片52,53が前方または後方に移動して、後側カップ片54,55との間の隙間が広くなったり、狭くなったりし、支持されている試料Sの張力が強くなったり弱くなったりする。
【0054】
したがって、摘み部71を正逆回転させることで、前側のカップ片52,53と後側のカップ片54,55との距離が調整され、支持されている試料Sに張力を付与したり、張力を緩めたりすることができる。よって、試料Sを試料カップ51に支持する際に、試料Sの張力が不十分である場合には、摘み部71を回転させて、前後のカップ片52〜55の間隔を広げることで、張力を付与して、張った状態にすることができる。すなわち、試料カップ51に線状の試料Sをセットする際には、試料Sを完全に張った状態としなくても(張力調整が粗くても)、張力調整部材61,62で微調整を行うことができ、簡便な操作で、試料Sの張力を適切な状態とすることができる。
特に、試料Sを試料カップ51に支持する際に、人がピンセット等で試料Sを張った状態で支持しようとすると、張力が弱く弛んでしまったり、強く引張りすぎて試料Sが破損する恐れがあったが、実施例6では、ある程度張力を付与した状態でカップ片52〜55で挟んだ後で、張力調整部材61,62で張力を微調整することができ、張力不足や試料Sの破損を低減することができる。
【実施例7】
【0055】
次に本発明の実施例7の説明を行うが、この実施例7の説明において、前記実施例1、4の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。この実施例7は、下記の点で前記実施例1、5と相違しているが、他の点では前記実施例1、5と同様に構成されている。
【0056】
図15は実施例7〜実施例9の光音響セルの説明図であり、図15Aは実施例7の光音響セルの説明図、図15Bは実施例8の光音響セルの説明図、図15Cは実施例9の光音響セルの説明図である。
図15Aにおいて、実施例7の試料カップ51は、カップ片52〜55が4分割された実施例5の構成と異なり、一端側の保持部材52+53を構成するカップ片52,53の下端が回転軸76を中心として、実線で示す一端保持位置と破線で示す一端解除位置との間で移動可能に構成されている。なお、他端側の保持部材54+55も、一端側の保持部材52+53と同様に構成されており、図示しない回転軸を中心として、他端保持位置と他端解除位置との間で移動可能に構成されている。
【0057】
(実施例7の作用)
前記構成を備えた実施例7の試料カップ51では、実施例5と同様に、繊維状の試料Sを宙に浮いた状態で保持可能であると共に、容易に張った状態でセットできる。
なお、実施例7に実施例6の構成を適用することも可能である。
【実施例8】
【0058】
次に本発明の実施例8の説明を行うが、この実施例8の説明において、前記実施例1、5〜7の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。この実施例8は、下記の点で前記実施例1、5〜7と相違しているが、他の点では前記実施例1、5〜7と同様に構成されている。
【0059】
図15Bにおいて、実施例8の試料カップ51は、実施例7の試料カップ51に比べて、Oリング57が省略されており、付勢部材の一例として、回転軸76に支持されたネジリバネ(トーションバネ)77を有する。ネジリバネ77は、両端部がそれぞれカップ片52,53に支持されており、カップ片52,53どうしが一端保持位置に移動する方向に付勢している。なお、他端側の保持部材54,55にも、同様に、図示しないネジリバネが支持されている。
【0060】
(実施例8の作用)
前記構成を備えた実施例8の試料カップ51では、実施例5〜7と同様に、繊維状の試料Sを宙に浮いた状態で保持可能であると共に、容易に張った状態でセットできる。
なお、実施例8に実施例6の構成を適用することも可能である。
【実施例9】
【0061】
次に本発明の実施例9の説明を行うが、この実施例9の説明において、前記実施例1、5の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。この実施例9は、下記の点で前記実施例1、5と相違しているが、他の点では前記実施例1、5と同様に構成されている。
【0062】
図15Cにおいて、実施例9の試料カップ51′は、実施例5の円柱状の試料カップ51と異なり、左右方向に長い角筒状に構成されている。そして、実施例9の試料カップ51′では、左右方向両端部に、実線で示す保持位置と破線で示す解除位置との間で移動可能なカップ片52′,53′,54′,55′が配置され、左右方向の中央部に、保持位置や解除位置に移動不能なカップ片56′が支持されている。
【0063】
(実施例9の作用)
前記構成を備えた実施例9の試料カップ51′では、実施例5〜8と同様に、繊維状の試料Sを宙に浮いた状態で保持可能であると共に、容易に張った状態でセットできる。
なお、実施例9に実施例6の構成を適用することも可能である。
【実施例10】
【0064】
次に本発明の実施例10の説明を行うが、この実施例10の説明において、前記実施例1、5の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。この実施例10は、下記の点で前記実施例1、5と相違しているが、他の点では前記実施例1、5と同様に構成されている。
図16は実施例10の試料カップの説明図であり、図16Aは試料カップの斜視図、図16Bは保持部材の要部説明図である。
図16において、実施例10の試料カップ81は、円板状の試料カップ本体82と、カップ本体82の上面に支持された左右一対の一端側の保持部材83および他端側の保持部材84と、を有する。前記各保持部材83,84は、同様に構成されており、板状の固定部83a,84aと、弾性材料により構成された弾性変形部83b、84bとを有する。
【0065】
前記弾性変形部83b,84bは、下端の基端部83b1,83b1が固定部83a,84aに固定支持されており、上下方向中央部の付勢部材の一例としての板バネ部83b2,84b2が後方に湾曲した形状に形成されると共に、上端部の挟み部83b3,84b3が固定部83a,84aとの間で試料Sを挟んだ状態で保持可能に構成されている。したがって、指やピンセットで弾性変形部83b,84bが後方に押されると、板バネ部83b2,84b2が弾性変形することで、挟み部83b3,84b3は、固定部83a、84aとの間に隙間が形成される解除位置(一端解除位置、他端解除位置)に移動可能に構成されている。
【0066】
(実施例10の作用)
前記構成を備えた実施例10の試料カップ81では、実施例5〜7と同様に、繊維状の試料Sを宙に浮いた状態で保持可能であると共に、容易に張った状態でセットできる。
【実施例11】
【0067】
次に本発明の実施例11の説明を行うが、この実施例11の説明において、前記実施例10の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。この実施例11は、下記の点で前記実施例10と相違しているが、他の点では前記実施例10と同様に構成されている。
図17は実施例11の説明図であり、実施例10の図16Bに対応する保持部材の要部説明図である。
図17において、実施例11の試料カップ81では、保持部材83、84は、板状のスライダ86を介して、カップ本体82上に支持されている。前記スライダ86は、前端部に、被案内部の一例としての前後方向に延びるガイド長孔86aが、左右一対形成されており、カップ本体82から上方に延びる案内部材の一例としてのガイドピン87が貫通した状態で支持されている。したがって、実施例11のスライダ86は、ガイドピン87にガイドされて、前後方向に移動可能な状態で支持されている。
【0068】
前記スライダ86の右側面には、板状の歯車の一例としてのラック歯86bが形成されている。前記スライダ86の右方には、ラック歯86bに噛み合う歯車の一例としてのピニオンギア88が配置されている。前記ピニオンギア88は、カップ本体82に下端が回転可能に支持されたギア軸88aを中心として回転可能に支持されている。前記ギア軸88aの上端には、作業者が操作可能な摘み部89が支持されている。
したがって、摘み部89を正逆回転させることで、ピニオンギア88およびラック歯86bを介してスライダ86を前後方向に移動させることが可能である。
前記符号86〜89を付した部材により実施例11の張力調整部材86〜89が構成されている。
【0069】
(実施例11の作用)
前記構成を備えた実施例11の試料カップ81では、実施例10と同様にして、保持部材83,84に試料Sを装着した後で、摘み部89を正逆回転させることで、保持部材83,84間の間隔を調整することができ、試料Sの張力を調整することができる。したがって、実施例6と同様に、試料Sを保持部材83,84に装着する際に張力の調整が粗くても、張力調整部材86〜89で簡単に微調整することができる。
なお、実施例11では、2つの保持部材83,84の両方に張力調整部材86〜89を設ける構成としたが、いずれか一方に設けることで張力の調整は可能であるため、他方の張力調整部材を省略することが可能である。
【実施例12】
【0070】
次に本発明の実施例12の説明を行うが、この実施例12の説明において、前記実施例1、5の構成要素に対応する構成要素には同一の符号を付して、その詳細な説明を省略する。この実施例12は、下記の点で前記実施例1、5と相違しているが、他の点では前記実施例1、5と同様に構成されている。
【0071】
図18は実施例12の光音響分析装置の説明図であり、実施例1の図1に対応する図である。
図19は実施例12の試料カップの説明図である。
図18、図19において、実施例12の試料カップ91は、円柱の中心部に上端から下部まで延びる凹部92が形成されており、凹部92は、上端から下方に行くに連れて径が小さくなる下向き円錐台状の上凹部92aと、上凹部92aの下端から下方に延びる円柱状の下凹部92bと、を有する。
前記凹部92には、小粒状の試料Sが静電気等で先端に保持された針状のプローブ部93の基端を支持するスタンド部94が収容されている。実施例12のスタンド部94は、円柱状に構成されており、下凹部92bの内径に対応する外径に設定されている。また、スタンド部94のプローブ93側の外周面には、リング状の溝94aが形成されている。
【0072】
図20は、実施例12のマイクロプローブホルダの説明図である。
図20において、前記スタンド部94は、プローブ部93とは反対側の面に、軸方向に延びるネジ穴94bが形成されている。前記ネジ穴94bには、作業者が把持可能なホルダ部96の先端に支持されたネジ部96aがネジ込み可能に構成されており、ネジ穴94bとネジ部96aとが接続されることで、ホルダ部96とスタンド部94およびプローブ部93とが着脱可能に連結されてマイクロプローブホルダ97が構成される。
【0073】
したがって、ホルダ部96にスタンド部94が支持された状態では、マイクロプローブホルダ97のホルダ部96を作業者が把持して操作して、プローブ部93の先端に小粒状の試料Sを採取することが可能になっている。そして、先端に採取された試料Sの光音響分光測定を行う場合、スタンド部94をピンセット等で押さえた状態で、ホルダ部96を回転させてネジを外す。そして、ピンセット等を操作して、スタンド部94が上凹部92aに案内されて下凹部92bに収容することで、試料Sがプローブ部93の先端に採取された状態で、試料カップ91の凹部92にスタンド部94を収容、セット可能である。なお、このとき、実施例12のスタンド部94は、溝94aが形成されており、ピンセット等で押さえる際に引っ掛かりやすく、ピンセット等が滑り難く、スタンド部94を押さえやすい構成となっている。
【0074】
(実施例12の作用)
図21は実施例12の作用説明図である。
前記構成を備えた実施例12の光音響分析装置1では、マイクロプローブホルダ97で試料が採取されると、試料Sが保持された状態で、スタンド部94が試料カップ91に装着される。そして、図21に示すように、プローブ部93の先端に保持された状態で試料Sに光2が照射され、光音響分光測定が行われる。すなわち、実施例12では、試料Sは、針状のプローブ部93の先端で支持されているだけで、ほとんど宙に浮いた状態に近い状態で光2が照射される。
したがって、プローブ部93で採取された試料Sを、プローブ部から従来の試料カップの表面に載せて測定する場合では、試料カップの底面で熱膨張、熱収縮や熱の伝搬が遮られ、上方の180度分しか音響が伝搬しないのに比べて、プローブ部93に支持された状態ではほぼ360度全域に音響が伝搬可能であると考えられ、実施例12でも、感度を向上させることが期待できる。
【0075】
また、実施例12では、プローブ部93の先端に保持された試料Sが、試料カップに載せ替える際に、散逸してしまうといったことも低減でき、試料Sの取り扱い、測定を容易にすることができる。
さらに、プローブ部93がスタンド部94に対して着脱可能に構成され、プローブ部93を試料カップに起立した状態で支持する構成も考えられるが、細い針金状のプローブ部93をスタンド部94から取り外す際に、プローブ部93を摘む作業が繊細であり、作業時にプローブ部93が破損したり、作業時の振動等により、プローブ部から試料Sが脱落、散逸する恐れがある。これに対して、実施例12では、スタンド部94自体が着脱可能であり、プローブ部93を取り扱う場合に比べて、プローブ部93の破損や試料Sの散逸を低減できる。
【0076】
(実施例12の変更例)
図22は実施例12の変更例のマイクロプローブホルダの説明図であり、図20に対応する図である。
前記実施例12のマイクロプローブホルダ97では、スタンド部94とホルダ部96とをネジ部96aとネジ穴94bとで着脱可能に支持したが、この構成に限定されず、図22に示すように、ホルダ部98として、スタンド部94の外径よりも大径の大径部98aを有し、大径部98aにスタンド部94の外径に対応する内径を有する凹部98bを形成し、スタンド部94を凹部98bに着脱可能に収容可能なマイクロプローブホルダ97を採用することも可能である。
【0077】
(変更例)
以上、本発明の実施例を詳述したが、本発明は、前記実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内で、種々の変更を行うことが可能である。本発明の変更例(H01)〜(H07)を下記に例示する。
(H01)前記実施例において、試料カップSC、40,51,81,91は外径が円柱状の形状を例示したが、これに限定されず、三角形や四角形等の多角形の形状とすることも可能である。
(H02)前記実施例2,3において、試料カップSCを傾斜させる構成を例示したが、これに限定されず、エアシリンダを組み合わせる等、試料カップSCを傾斜可能な任意の構成を採用可能である。
【0078】
(H03)前記実施例5〜9において、付勢部材として、Oリング57やネジリバネ77を例示したが、これに限定されず、コイルバネ等、付勢可能な任意の構成を採用可能である。
(H04)前記実施例12において、溝部94bは設けることが望ましいが、省略可能である。また、溝の深さや本数、長さ等は任意に変更可能であり、また、溝に替えて摩擦係数の高い材料で被覆したり、凹凸を形成する等の任意の滑り止め構造を採用可能である。
(H05)前記実施例12において、試料カップ91の上凹部92aは、設けることが望ましいが、省略可能である。
【0079】
(H06)前記実施例において、光音響分析装置1は実施例に例示した構成に限定されず、任意の構成を採用可能であり、光音響分析装置1の光音響セル6の形状や大きさに応じて、試料カップSC,40,51,81,91の形状や大きさを適宜変更可能である。
(H07)前記実施例5〜9において、カップ片52〜55を下端を中心として開閉させて隙間を形成する構成を例示したが、これに限定されず、カップ片52〜55どうしを離間する方向にスライド移動させることで挟むための隙間を形成する構成とすることも可能である。
【符号の説明】
【0080】
1…光音響分析装置、
2…光、
3…光源、
16…音響測定装置、
22…支持面、
41…固定部、
42…回転部、
52+53,83…一端側の保持部材、
54+55,84…他端側の保持部材、
57,83b2,84b2…付勢部材、
61,62,86〜89…張力調整部材、
92…凹部、
93…プローブ部、
94…スタンド部、
96,98…ホルダ部、
97…マイクロプローブホルダ、
S…試料、
SC,40,51,51′,81,91…試料カップ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光源からの断続光が照射された試料に発生する熱により気体中に発生する音響を検出して前記試料の分析を行う光音響分析において、試料を支持する光音響分析用の試料カップであって、
前記光の入射方向および前記入射方向に直交する方向に対して傾斜して形成されて前記試料を支持する支持面であって、前記直交する方向に沿って前記試料を配置した場合に比べて、前記試料の表面を前記光の入射方向に対して沿った方向に近づけた状態で前記試料を支持する前記支持面、
を備えたことを特徴とする前記光音響分析用の試料カップ。
【請求項2】
前記支持面を有する回転部と、
前記回転部を回転可能に支持する固定部と
を備え、前記支持面の前記光の入射方向に対する傾斜角を調整可能であることを特徴とする請求項1に記載の光音響分析用の試料カップ。
【請求項3】
光源からの断続光が照射された試料に発生する熱により気体中に発生する音響を検出して前記試料の分析を行う光音響分析において、試料を支持する光音響分析用の試料カップであって、
線材状の試料の一方の端部を挟んで保持可能な一端側の保持部材であって、前記試料の保持が解除される一端解除位置と、前記試料が挟まれて保持する一端保持位置との間で移動可能な前記一端側の保持部材と、
線材状の前記試料の他方の端部を挟んで保持可能な他端側の保持部材であって、前記試料の保持が解除される他端解除位置と、前記試料が挟まれて保持される他端保持位置との間で移動可能な前記他端側の保持部材と、
前記一端側の保持部材を前記一端保持位置に付勢し、前記他端側の保持部材を前記他端保持位置に付勢する付勢部材と、
を備えたことを特徴とする前記光音響分析用の試料カップ。
【請求項4】
前記一端側の保持部材と前記他端側の保持部材とを接近および離間する方向に移動させて、前記保持部材に支持された試料の張力を調整する張力調整部材、
を備えたことを特徴とする請求項3に記載の光音響分析用の試料カップ。
【請求項5】
光源からの断続光が照射された試料に発生する熱により気体中に発生する音響を検出して前記試料の分析を行う光音響分析において、先端に採取された試料を保持可能な針状のプローブ部と、前記プローブ部の基端部を支持するスタンド部と、前記スタンド部を着脱可能に支持し且つ作業者が把持可能なホルダ部と、を有するマイクロプローブホルダで採取された試料を支持する光音響分析用の試料カップであって、
前記プローブ部の先端に試料が保持された状態で前記ホルダ部から取り外された前記スタンド部を収容可能な凹部、
を備えたことを特徴とする前記光音響分析用の試料カップ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図13】
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【公開番号】特開2013−53887(P2013−53887A)
【公開日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−191235(P2011−191235)
【出願日】平成23年9月2日(2011.9.2)
【出願人】(593230855)株式会社エス・テイ・ジャパン (13)
【Fターム(参考)】