説明

光音響分析用の造影剤およびそれを用いた光音響撮像方法

【課題】光音響分析において、波長の選択性を向上させ高コントラストの測定をより柔軟に行うことを可能とする。
【解決手段】光音響分析において、300〜700nmの範囲に吸収ピークを有しかつ扁平形状を有する微粒子を含む造影剤を使用する。前記造影剤を用いて光音響撮像を行うため、血管や生体組織の吸収が弱い波長帯域の波長を用いることがで、光音響分析において、波長の選択性を向上させ高コントラストの測定をより柔軟に行うことが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光が被検体に照射されることにより被検体内で発生した光音響波を検出して行われる光音響分析に使用される造影剤およびそれを用いた光音響撮像方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被検体の内部の断層画像を取得する方法としては、超音波が被検体内に照射されることにより被検体内で反射した超音波を検出して超音波画像を生成し、被検体内の形態的な断層画像を得る超音波イメージングが知られている。一方、被検体の検査においては形態的な断層画像だけでなく機能的な断層画像を表示する装置の開発も近年進められている。そして、このような装置の一つに光音響分析法を利用した装置がある。この光音響分析法は、所定の波長を有する光(例えば、可視光、近赤外光又は中間赤外光)を被検体に照射し、被検体内の特定物質がこの光のエネルギーを吸収した結果生じる弾性波である光音響波を検出して、その特定物質の濃度を定量的に計測するものである。被検体内の特定物質とは、例えば血液中に含まれるグルコースやヘモグロビンなどである。このように光音響波を検出しその検出信号に基づいて光音響画像を生成する技術は、光音響イメージング(PAI:Photoacoustic Imaging)或いは光音響トモグラフィー(PAT:Photo Acoustic Tomography)と呼ばれる。
【0003】
光音響イメージングにおいて、検出感度やコントラストを向上させるための光音響イメージング用の造影剤が使用されることもある(特許文献1および特許文献2)。生体内に投与された造影剤は、観察対象となる生体組織内に分布し、この組織に照射された光エネルギーを吸収し、光音響波を発生させる。従って、光音響イメージング用造影剤は、それらが存在する組織のみかけの吸光係数を増加させること、すなわち内因性組織由来の光音響波に造影剤由来の光音響波を加算することができ、観察対象となる生体組織の検出感度を向上させるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−297289号公報
【特許文献2】特開2008−528114号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来の造影剤は、光の吸収ピークの幅が狭く、血管等の吸収ピークを持つ生体組織との関係で、波長の選択性に欠けるという問題がある。このような場合、例えば、造影剤に吸収されるべき光エネルギーが観察対象ではない生体組織に吸収されてノイズとなってしまう場合もある。また、例えば、光の波長を変更する場合、別途、その新たな波長に対応した造影剤を投与しなければならない場合もある。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、光音響分析において、波長の選択性を向上させ高コントラストの測定をより柔軟に行うことを可能とする光音響分析用の造影剤およびそれを用いた光音響撮像方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る光音響分析用の造影剤は、300〜700nmの範囲に吸収ピークを有しかつ扁平形状を有する微粒子を含むことを特徴とするものである。
【0008】
そして、本発明に係る造影剤において、微粒子の厚さに対する扁平面の長さの比は2.0〜20であることが好ましい。
【0009】
また、本発明に係る造影剤において、微粒子の厚さは0.005〜1μmであり、扁平面の長さは0.1〜2μmであることが好ましい。
【0010】
また、本発明に係る造影剤において、微粒子は、Al、Mn、Si、Mg、Cr、Ni、Mo、Cu、Fe、Co、Zn、Sn、Ag、Au、TiおよびZrからなる群より選択される少なくとも1種から構成されるものであることが好ましい。
【0011】
また、本発明に係る造影剤において、微粒子はAgから構成されるものであることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る造影剤は、微粒子の表面に修飾された抗体をさらに含むものとすることができる。
【0013】
或いは、本発明に係る造影剤は、微粒子の表面に修飾された色素をさらに含むものとすることができる。
【0014】
本発明に係る光音響撮像方法は、
上記に記載の造影剤が投与された被検体内に、造影剤の吸収ピークに含まれる波長の測定光を照射するように光照射手段を作動させ、
測定光の照射により被検体内で発生した光音響波を検出してこの光音響波を電気信号に変換し、
上記電気信号に基づいて光音響画像を生成し、
光音響画像を表示することを特徴とするものである。
【0015】
そして、本発明に係る光音響撮像方法は、第1の上記測定光が照射された領域と同じ領域に、第1の測定光の波長と異なる波長であって血液の吸収ピークに含まれる波長の第2の測定光を照射するように光照射手段を作動させ、
第2の測定光の照射により被検体内で発生した光音響波を検出してこの光音響波を第2の電気信号に変換し、
第2の電気信号に基づいて第2の光音響画像を生成し、
第1の上記光音響画像と第2の光音響画像とを重畳して表示することもできる。
【0016】
また、第1の光音響画像と第2の光音響画像とを重畳して表示する場合において、本発明に係る光音響撮像方法は、被検体内に超音波を照射するように電気音響変換手段を作動させ、
被検体内で反射した超音波を検出してこの超音波を第3の電気信号に変換し、
第3の電気信号に基づいて超音波画像を生成し、
第1の光音響画像および第2の光音響画像と超音波画像とを重畳して表示することもできる。
【0017】
或いは、本発明に係る光音響撮像方法は、被検体内に超音波を照射するように電気音響変換手段を作動させ、
被検体内で反射した超音波を検出してこの超音波を第3の電気信号に変換し、
第3の電気信号に基づいて超音波画像を生成し、
第1の前記光音響画像と超音波画像とを重畳して表示することもできる。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る光音響分析用の造影剤は、300〜700nmの範囲に吸収ピークを有しかつ扁平形状を有する微粒子を含むから、造影剤の吸収ピークが球形状の場合に比してブロードになる。したがって、血管や生体組織の吸収が弱い波長帯域に造影剤の吸収ピークを持たせることができる。この結果、光音響分析において、波長の選択性を向上させ高コントラストの測定をより柔軟に行うことが可能となる。
【0019】
また、本発明に係る光音響撮像方法は、本発明の造影剤を用いて光音響撮像を行うから、血管や生体組織の吸収が弱い波長帯域の波長を用いることができる。この結果、光音響分析において、波長の選択性を向上させ高コントラストの測定をより柔軟に行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施形態の光音響分析用の造影剤を示す概略斜視図である。
【図2】本実施形態の造影剤および従来の造影剤のそれぞれの吸収スペクトルを示すグラフである。
【図3】光音響撮像装置の構成を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0022】
「光音響分析用の造影剤」
図1は、本実施形態の光音響分析用の造影剤を示す概略斜視図である。本実施形態の造影剤Cは、300〜700nmの範囲に吸収ピークを有しかつ扁平形状を有する微粒子Pである。
【0023】
微粒子Pは、扁平形状を有する。本明細書において、「扁平形状」とは、微粒子Pの厚さdに対する扁平面の長さDの比が2〜20である形状を意味する。なお、微粒子Pの厚さdおよび扁平面の長さDは、電子顕微鏡による測定によってそれぞれ算出した粒子全体の平均の値を意味する。微粒子Pの厚さdに対する扁平面の長さDの比は、2.3〜17が好ましく、2.6〜15がより好ましい。上記比が小さくなりすぎると球形状を有する微粒子の場合と比べた効果が得られにくくなる恐れがあり、上記比が大きくなりすぎると製造が困難になる恐れがあるからである。また、微粒子の厚さdは0.005〜1μmであり、扁平面の長さDは0.1〜2μmであることが好ましい。下限の理由は、微粒子Pが光と相互作用するためには少なくとも微粒子には波長の1/8程度の大きさが必要であり、これ以下だと相互作用が弱くなるからである。そのため少なくとも1方向は0.1μm以上必要となる。上限の理由は、あまり微粒子が大きいと生体の細部に入っていかないためである。
【0024】
微粒子Pは、本実施形態では、300〜700nmの範囲に吸収ピークを有する材料から構成される。本明細書において、「吸収ピーク」とは、ある材料の吸収スペクトル曲線の内、短波長側の極小値よりも高い吸光度を有する部分を意味する。そのような材料としては、Al、Mn、Si、Mg、Cr、Ni、Mo、Cu、Fe、Co、Zn、Sn、Ag、Au,TiおよびZr等の金属材料もしくはこれらの酸化物または半金属材料が挙げられる。また、これらは、任意の2種以上の化合物として使用されてもよい。そして、微粒子Pは、Agから構成されるものであることが好ましい。Ag微粒子は、任意の扁平形状を作成しやすいからである。
【0025】
本発明の造影剤Cは、上記のように、300〜700nmの範囲に吸収ピークを有しかつ扁平形状を有する微粒子Pであるから、球形状を有する微粒子からなる造影剤に比して、吸収スペクトルがブロードになる。具体的には以下の通りである。図2は、扁平形状を有するAg微粒子および球形状を有するAg微粒子のそれぞれの吸収スペクトルを示すグラフである。なお、この2つの吸収スペクトルは最大値に対して規格化されている。図2から、球形状を有するAg微粒子の吸収ピークの範囲L1はおよそ260〜500nm(幅は240nm)であるのに対し、扁平形状を有するAg微粒子の吸収ピークの範囲L2はおよそ250〜630nm(幅は380nm)であることが分かる。さらに、吸収ピークが最大となる波長を長波長側にシフトさせることもできる。また、このように扁平形状を有する微粒子の吸収ピークが、球形状を有する微粒子の吸収ピークに比してブロード化される傾向は材料によらない。したがって、本発明の造影剤Cによれば、血管や生体組織の吸収が弱い波長帯域に造影剤Cの吸収ピークを持たせることができる。この結果、光音響分析において、波長の選択性を向上させ高コントラストの測定をより柔軟に行うことが可能となる。
【0026】
<設計変更>
上記実施形態では、300〜700nmの範囲に吸収ピークを有しかつ扁平形状を有する微粒子Pから造影剤Cが構成される場合について説明したが、本発明の造影剤Cはこれに限られない。
【0027】
例えば、造影剤Cは、微粒子Pの表面に修飾された抗体をさらに含むものとすることができる。つまり、この場合、造影剤Cは、微粒子Pと、この微粒子Pの表面に修飾された抗体とから構成される。このような場合には、上記抗体に対する抗原が存在する生体組織に造影剤Cを特異的に投与することが可能となる。したがって、造影剤Cを介して抗原の有無を光音響分析で測定することができる。
【0028】
また例えば、造影剤Cは、微粒子Pの表面に修飾された色素をさらに含むものとすることができる。つまり、この場合、造影剤Cは、微粒子Pと、この微粒子Pの表面に修飾された色素とから構成される。これは、微粒子P自体が300〜700nmの範囲に吸収ピークを有してない場合等に、造影剤Cに吸収ピークを持たせる方法として有効である。微粒子Pに色素を修飾する方法としては、特に限定されず公知の方法に実施できる。例えば、このような方法としては、上記のように抗体を微粒子Pの表面に修飾し、抗原を介して色素を化学結合させる方法や、微粒子Pの表面に修飾されたシランカップリング剤等のリンカーを介して色素を化学結合させる方法が挙げられる。
【0029】
「光音響撮像方法」
次に、光音響撮像方法の実施形態について図を参照しながら説明する。図3は、本実施形態の光音響撮像方法において使用される光音響撮像装置10の基本構成を示すブロック図である。この光音響撮像装置10は、超音波探触子11、超音波ユニット12、およびレーザ光源ユニット13を備えている。なおこの光音響撮像装置10は、超音波画像と光音響画像との双方を生成可能に構成されている。
【0030】
本実施形態の光音響撮像方法は、光音響撮像装置10を用いて、本発明の造影剤が投与された被検体内に、造影剤の吸収ピークに含まれる波長の測定光を照射するように光照射手段を作動させ、測定光の照射により被検体内で発生した光音響波を検出してこの光音響波を電気信号に変換し、上記電気信号に基づいて光音響画像を生成し、光音響画像を表示するものである。
【0031】
光音響撮像装置10は、超音波探触子11、超音波ユニット12、およびレーザ光源ユニット13を備えている。なおこの光音響撮像装置10は、超音波画像と光音響画像との双方を生成可能に構成されている。
【0032】
レーザ光源ユニット13は、被検体に照射すべきレーザ光を測定光として出射する。このレーザ光源ユニット13が本発明における光照射手段に相当する。レーザ光源ユニット13は、例えば、血液の吸収ピークに含まれる波長の第1のレーザ光、および、第1のレーザ光の波長とは異なりかつ造影剤の吸収ピークに含まれる波長の第2のレーザ光を少なくとも発生する1以上の光源を有する。光源として、特定の波長成分又はその成分を含む単色光を発生する半導体レーザ(LD)、固体レーザ、ガスレーザ等の発光素子を用いることができる。例えば本実施形態においてレーザ光源ユニット13は、励起光源であるフラッシュランプ35とレーザ発振を制御するQスイッチレーザ36とを含むものである。レーザ光源ユニット13は、制御手段34がフラッシュランプトリガ信号を出力すると、フラッシュランプ35を点灯し、Qスイッチレーザ36を励起する。そして、レーザ光源ユニット13は、第1のレーザ光および第2のレーザ光を制御手段34の指示に従い、切り換えて出力する。
【0033】
レーザ光源ユニット13において、第1のレーザ光の波長は、計測の対象となる被検体内の物質の光吸収特性によって適宜決定される。生体内のヘモグロビンは、その状態(酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビン、メトヘモグロビン、炭酸ガスヘモグロビン、等)により光学的な吸収係数が異なる。たとえば計測対象が生体内のヘモグロビンである場合(つまり、生体内部の血管を撮像する場合)には、生体の光透過性が良く、かつ各種ヘモグロビンが光の吸収ピークを持つ600〜1000nm程度とすることが好ましい。さらに、被写体の深部まで届くという観点からも、上記第1のレーザの波長は600〜1000nmであることが好ましい。
【0034】
一方、レーザ光源ユニット13において、第2のレーザ光の波長は、造影剤の吸収特性によって適宜決定される。
【0035】
レーザ光源ユニット13は、第1のおよび第2のレーザ光として1〜100nsecのパルス幅を有するパルス光を出力するものであることが好ましい。そして、上記レーザ光の出力は、レーザ光と光音響波の伝搬ロス、光音響変換の効率および現状の検出器の検出感度等の観点から、10μJ/cm〜数10mJ/cmであることが好ましい。さらに、パルス光出力の繰り返しは、画像構築速度の観点から、10Hz以上であることが好ましい。また、レーザ光は上記パルス光が複数並んだパルス列とすることもできる。レーザ光源ユニット13から出力されたレーザ光は、例えば光ファイバ、導光板、レンズおよびミラー等の導光手段を用いて超音波探触子11の近傍まで導光され、超音波探触子11の近傍から被検体に照射される。
【0036】
超音波探触子11は、被検体に向けて超音波を照射し、被検体内を伝搬する音響波を検出するものである。すなわち、超音波探触子11は、被検体に対する超音波の照射(送信)、および被検体から反射して戻って来るその超音波の反射波の検出(受信)を行う。さらに超音波探触子11は、被検体内の観察対象物がレーザ光を吸収することにより被検体内に発生した光音響波の検出も行う。なお本明細書において、「音響波」とは超音波および光音響波を含む意味である。ここで、「超音波」とは電気音響変換部の振動により被検体内に発生した弾性波およびその反射波を意味し、「光音響波」とは測定光の照射による光音響効果により被検体内に発生した弾性波を意味する。そのために超音波探触子11は、例えば一次元または二次元に配列された複数の超音波振動子から構成される振動子アレイを有する。超音波振動子11は、例えば、圧電セラミクス、またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)のような高分子フィルムから構成される圧電素子である。超音波振動子11は、音響波を受信した場合にその受信信号を電気信号に変換する機能を有している。この電気信号は後述する受信回路21に出力される。この超音波探触子11は、セクタ走査対応、リニア走査対応、コンベックス走査対応等の中から診断部位に応じて選択される。
【0037】
超音波探触子11は、音響波を効率よく検出するために音響整合層を振動子アレイの表面に備えてもよい。一般に圧電素子材料と生体では音響インピーダンスが大きく異なるため、圧電素子材料と生体が直接接した場合には、界面での反射が大きくなり音響波を効率よく検出することができない。このため、圧電素子材料と生体の間に中間的な音響インピーダンスを有する音響整合層が配置されることにより、音響波を効率よく検出することができる。音響整合層を構成する材料の例としては、エポキシ樹脂や石英ガラスなどが挙げられる。
【0038】
超音波ユニット12は、受信回路21、AD変換手段22、受信メモリ23、データ分離手段24、光音響画像再構成手段25a、光音響画像再構成手段25aからの信号を受信する検波・対数変換手段26a、光音響画像を構築する光音響画像構築手段27a、超音波画像再構成手段25b、超音波画像再構成手段25bからの信号を受信する検波・対数変換手段26b、超音波画像を構築する超音波画像構築手段27b、画像合成手段28、送信制御回路33および制御手段34を有している。制御手段34は、超音波ユニット12内の各部を制御する。
【0039】
受信回路21は、超音波探触子11から出力された音響波の電気信号を受信する。AD変換手段22はサンプリング手段であり、受信回路21が受信した電気信号を例えばクロック周波数40MHzのADクロック信号に同期してサンプリングしてデジタル信号に変換する。AD変換手段22は、例えば外部から入力されるADクロック信号に同期して、所定のサンプリング周期で上記電気信号をサンプリングする。
【0040】
AD変換手段22は、サンプリングしたデジタル信号(サンプリングデータ)を受信メモリ23に格納する。受信メモリ23に格納されたサンプリングデータは、光音響波に関するデータ(光音響データ)、超音波に関するデータ(超音波データ)またはこれらの混合データである。
【0041】
データ分離手段24は、受信メモリ23に格納されたサンプリングデータを光音響データと超音波データとに分離する。サンプリングデータを分離する方法は特に限定されない。例えば、超音波の照射とレーザ光の照射とを時間的にずらして実施した場合には、サンプリングデータをある時刻で分けることによりサンプリングデータを光音響データと超音波データとに分離することができる。また例えば、光音響データおよび超音波データそれぞれに関する周波数や遅延量の違いを利用してもサンプリングデータを光音響データと超音波データとに分離することができる。データ分離手段24は、分離された光音響データを光音響画像再構成手段25aに入力し、超音波データを超音波画像再構成手段25bに出力する。
【0042】
光音響画像再構成手段25aは、例えば超音波探触子11の64個の超音波振動子の各出力信号から得られた上記光音響データを、超音波振動子の位置に応じた遅延時間で加算し、1ライン分のデータを生成する(遅延加算法)。なお、この光音響画像再構成手段25aは、遅延加算法に代えて、CBP法(Circular Back Projection)により再構成を行うものでもよい。あるいは光音響画像再構成手段25aは、ハフ変換法又はフーリエ変換法を用いて再構成を行うものでもよい。光音響画像再構成手段25aは、上記のようにして加算整合された光音響データを検波・対数変換手段26aに出力する。
【0043】
検波・対数変換手段26aは、光音響画像再構成手段25aから出力された光音響データの包絡線を生成し、次いでその包絡線を対数変換してダイナミックレンジを広げる。そして、検波・対数変換手段26aは、上記のようにして信号処理した光音響データを光音響画像構築手段27aに出力する。
【0044】
光音響画像構築手段27aは、対数変換が施された各ラインの光音響データに基づいて、断層画像(光音響画像)を構築する。光音響画像構築手段27aは、例えば光音響データの時間軸の位置を、断層画像における深さを表す変位軸の位置に変換して光音響画像を構築する。
【0045】
一方、超音波画像再構成手段25bは、例えば超音波探触子11の64個の超音波振動子の各出力信号から得られた上記超音波データを、超音波振動子の位置に応じた遅延時間で加算し、1ライン分のデータを生成する(遅延加算法)。なお、この超音波画像再構成手段25bは、遅延加算法に代えて、CBP法(Circular Back Projection)により再構成を行うものでもよい。あるいは超音波画像再構成手段25bは、ハフ変換法又はフーリエ変換法を用いて再構成を行うものでもよい。超音波画像再構成手段25bは、上記のようにして加算整合された超音波データを検波・対数変換手段26bに出力する。
【0046】
検波・対数変換手段26bは、超音波画像再構成手段25bから出力された超音波データの包絡線を生成し、次いでその包絡線を対数変換してダイナミックレンジを広げる。そして、検波・対数変換手段26bは、上記のようにして信号処理した超音波データを超音波画像構築手段27bに出力する。
【0047】
超音波画像構築手段27bは、対数変換が施された各ラインの超音波データに基づいて、断層画像(超音波画像)を構築する。超音波画像構築手段27bは、例えば超音波データの時間軸の位置を、断層画像における深さを表す変位軸の位置に変換して超音波画像を構築する。
【0048】
制御手段34は、レーザ光源ユニット13にフラッシュランプトリガ信号及びQスイッチトリガ信号を出力し、レーザ光源ユニット13からレーザ光を出射させる。また、制御手段34は、送信制御回路33に超音波送信トリガ信号を出力し、プローブ11から超音波を出力させる。更に、制御手段34は、レーザ光の照射又は超音波送信と同期してAD変換手段22に対してADトリガ信号を出力し、AD変換手段22におけるサンプリングを開始させる。
【0049】
制御手段34は、レーザ光源ユニット13に対してレーザ光の出力を指示するフラッシュランプトリガ信号を出力する。これによりレーザ光源ユニット13では、フラッシュランプトリガ信号に応答してフラッシュランプ35が点灯し、レーザ励起が開始される。その後、制御手段34は、所定のタイミングでQスイッチトリガ信号を出力する。これによりレーザ光源ユニット13では、Qスイッチレーザ36のQスイッチがQスイッチトリガ信号に応答してON状態となり、レーザ光が出力されて、被検体にレーザ光が照射される。フラッシュランプ35の点灯からQスイッチレーザ36が十分な励起状態となるまでに要する時間は、Qスイッチレーザ36の特性などから見積もることができる。制御手段34からQスイッチを制御するのに代えて、レーザ光源ユニット13内において、Qスイッチレーザ36を十分に励起させた後にQスイッチをON状態にしてもよい。その場合は、QスイッチをON状態にした旨を示す信号を超音波ユニット12側に通知してもよい。
【0050】
また制御手段34は、超音波送信を指示する超音波トリガ信号を送信制御回路33に出力する。送信制御回路33は、上記超音波トリガ信号を受けると、超音波探触子11から超音波を送信させる。制御手段34は、先にフラッシュランプトリガ信号を出力し、その後超音波トリガ信号を出力する。つまり制御手段34は、フラッシュランプトリガ信号の出力に後続して、超音波トリガ信号を出力する。フラッシュランプトリガ信号が出力されることで被検体に対するレーザ光の照射および光音響波の検出が行われた後、超音波トリガ信号が出力されることで被検体に対する超音波の送信およびその反射波の検出が行われる。
【0051】
制御手段34はさらに、AD変換手段22に対して、サンプリング開始を指示するサンプリングトリガ信号を出力する。このサンプリングトリガ信号は、上記フラッシュランプトリガ信号が出力された後で、かつ超音波トリガ信号が出力される前、より好ましくは被検体に実際にレーザ光が照射されるタイミングで出力される。そのためにサンプリングトリガ信号は、例えば制御手段34がQスイッチトリガ信号を出力するタイミングに同期して出力される。AD変換手段22は上記サンプリングトリガ信号を受けると、超音波探触子11にて検出された上記電気信号のサンプリングを開始する。
【0052】
また、制御手段34は、光音響画像を様々な形態で画像表示手段14に表示するように、超音波探触子11、超音波ユニット12、レーザ光源ユニット13および画像表示手段14を制御する。
【0053】
例えば、制御手段34は、第1の上記測定光が照射された領域と同じ領域に、第1の測定光の波長と異なる波長であって血液の吸収ピークに含まれる波長の第2の測定光を照射するように光照射手段を制御し、第2の測定光の照射により被検体内で発生した光音響波を検出してこの光音響波を第2の電気信号に変換するように超音波探触子11を制御し、第2の電気信号に基づいて第2の光音響画像を生成するように超音波ユニット12を制御し、第1の上記光音響画像と第2の光音響画像とを重畳して表示するように画像表示手段14を制御する。これにより、生体組織の吸収波長の相違を利用して、同じ撮像領域内にある複数の組織についての光音響画像を同時に表示することができる。第2の測定光を照射する際には、第2の測定光を吸収するように微粒子の大きさ(微粒子の厚さおよび扁平面の長さ)を調整した造影剤を投与してもよい。
【0054】
さらに、第1の光音響画像と第2の光音響画像とを重畳して表示する場合において、制御手段34は、第1および第2の測定光が照射された領域と同じ領域に、超音波を照射するように超音波探触子11を制御し、被検体内で反射した超音波を検出してこの超音波を第3の電気信号に変換するように超音波探触子11を制御し、第3の電気信号に基づいて超音波画像を生成するように超音波ユニット12を制御し、第1の光音響画像および第2の光音響画像と超音波画像とを重畳して表示するように画像表示手段14を制御することもできる。これにより、生体組織の機能的な情報を示す光音響画像とその形態的な情報を示す超音波画像を重畳して表示することができ、生体組織の情報をより分かりやすく提供することができる。
【0055】
或いは、制御手段34は、第1の上記測定光が照射された領域と同じ領域に、超音波を照射するように超音波探触子11を制御し、被検体内で反射した超音波を検出してこの超音波を第3の電気信号に変換するように超音波探触子11を制御し、第3の電気信号に基づいて超音波画像を生成するように超音波ユニット12を制御し、第1の前記光音響画像と超音波画像とを重畳して表示するように画像表示手段14を制御することもできる。
【0056】
なお、本明細書において「第1の測定光が照射された領域と同じ領域に」第2の測定光または超音波を照射するとは、第1の測定光を照射して得られた光音響画像の撮像範囲と、第2の測定光または超音波を照射して得られた光音響画像または超音波画像の撮像範囲とが少なくとも一部において重畳するように、第2の測定光または超音波を照射することを意味する。
【0057】
画像合成手段28は、画像構築手段27aおよび27bにそれぞれ構築された光音響画像および超音波画像を合成する。より具体的には、画像合成手段28は、第1のレーザ光の照射に基づく血管の光音響画像および第2のレーザ光の照射に基づく造影剤の光音響画像を重畳して合成したり、血管の光音響画像、造影剤の光音響画像および超音波画像を重畳して合成したり、造影剤の光音響画像および超音波画像を重畳して合成したりする。なお、合成画像を表示しない場合には光音響画像および超音波画像はそれぞれ合成処理されないまま、画像合成手段28から出力されてもよい。さらに、画像合成手段28は、合成されて得られた画像に必要な処理を施して画像表示手段14に表示するための最終的な画像(表示画像)を生成する。
【0058】
画像表示手段14は、画像合成手段28により生成された表示画像を表示する。
【0059】
以上より、本発明に係る光音響撮像方法は、本発明の造影剤を用いて光音響撮像を行うから、血管や生体組織の吸収が弱い波長帯域の波長を用いることができる。この結果、光音響分析において、波長の選択性を向上させ高コントラストの測定をより柔軟に行うことが可能となる。
【符号の説明】
【0060】
10 光音響撮像装置
11 超音波探触子
12 超音波ユニット
13 レーザ光源ユニット
14 画像表示手段
21 受信回路
22 AD変換手段
23 受信メモリ
24 データ分離手段
25a 光音響画像再構成手段
25b 超音波画像再構成手段
27a 光音響画像構築手段
27b 超音波画像構築手段
28 画像合成手段
33 送信制御回路
34 制御手段
C 造影剤
D 扁平面の長さ
d 微粒子の厚さ
P 微粒子

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光音響分析用の造影剤であって、
300〜700nmの範囲に吸収ピークを有しかつ扁平形状を有する微粒子を含むことを特徴とする造影剤
【請求項2】
前記微粒子の厚さに対する扁平面の長さの比が2.0〜20であることを特徴とする請求項1に記載の造影剤。
【請求項3】
前記厚さが0.005〜1μmであり、前記長さが0.1〜2μmであることを特徴とする請求項2に記載の造影剤。
【請求項4】
前記微粒子が、Al、Mn、Si、Mg、Cr、Ni、Mo、Cu、Fe、Co、Zn、Sn、Ag、Au、TiおよびZrからなる群より選択される少なくとも1種から構成されるものであることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の造影剤。
【請求項5】
前記微粒子がAgから構成されるものであることを特徴とする請求項4に記載の造影剤。
【請求項6】
前記微粒子の表面に修飾された抗体をさらに含むものであることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の造影剤。
【請求項7】
前記微粒子の表面に修飾された色素をさらに含むものであることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の造影剤。
【請求項8】
請求項1から7いずれかに記載の造影剤が投与された被検体内に、前記造影剤の吸収ピークに含まれる波長の測定光を照射するように光照射手段を作動させ、
前記測定光の照射により前記被検体内で発生した光音響波を検出して該光音響波を電気信号に変換し、
前記電気信号に基づいて光音響画像を生成し、
前記光音響画像を表示することを特徴とする光音響撮像方法。
【請求項9】
第1の前記測定光が照射された領域と同じ領域に、前記第1の測定光の波長と異なる波長であって血液の吸収ピークに含まれる波長の第2の測定光を照射するように前記光照射手段を作動させ、
前記第2の測定光の照射により前記被検体内で発生した光音響波を検出して該光音響波を第2の電気信号に変換し、
前記第2の電気信号に基づいて第2の光音響画像を生成し、
第1の前記光音響画像と前記第2の光音響画像とを重畳して表示することを特徴とする請求項8に記載の光音響撮像方法。
【請求項10】
前記被検体内に超音波を照射するように前記電気音響変換手段を作動させ、
前記被検体内で反射した前記超音波を検出して該超音波を第3の電気信号に変換し、
前記第3の電気信号に基づいて超音波画像を生成し、
前記第1の光音響画像および前記第2の光音響画像と前記超音波画像とを重畳して表示することを特徴とする請求項9に記載の光音響撮像方法。
【請求項11】
前記被検体内に超音波を照射するように前記電気音響変換手段を作動させ、
前記被検体内で反射した前記超音波を検出して該超音波を第3の電気信号に変換し、
前記第3の電気信号に基づいて超音波画像を生成し、
第1の前記光音響画像と前記超音波画像とを重畳して表示することを特徴とする請求項8に記載の光音響撮像方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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