説明

光音響分析用プローブユニットおよび光音響分析装置

【課題】プローブユニットを使用した光音響分析において、測定光としてのレーザ光に起因する危険性を低減して安全性をより向上させることを可能とする。
【解決手段】光音響分析用プローブユニット70において、底が音響透過膜82から構成された容器80、およびこの容器80に収容された音響整合液83を有する音響整合部8とを備え、光照射部15が、音響整合液83を通って音響透過膜82の裏面82sに対しレーザ光Lが所定の角度で入射するように配置されたものであり、上記所定の角度を、上記裏面82sが空気と接触している場合にはレーザ光Lが上記裏面82sにおける全反射条件を満たし、上記裏面82sが被検体7と接触している場合にはレーザ光Lが上記裏面82sにおける全反射条件を満たさない角度に設定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光音響分析法を利用した被検体の検査および診断等に用いられる光音響分析用プローブユニットおよび光音響分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被検体の内部の断層画像を取得する方法としては、超音波が被検体内に照射されることにより被検体内で反射した超音波を検出して超音波画像を生成し、被検体内の形態的な断層画像を得る超音波イメージングが知られている。一方、被検体の検査においては形態的な断層画像だけでなく機能的な断層画像を表示する装置の開発も近年進められている。そして、このような装置の一つに光音響分析法を利用した装置がある。この光音響分析法は、所定の波長を有する光(例えば、可視光、近赤外光又は中間赤外光)を測定光として被検体に照射し、被検体内の特定物質がこの測定光のエネルギーを吸収した結果生じる弾性波である光音響波を検出して、その特定物質の濃度を定量的に計測するものである。被検体内の特定物質とは、例えば血液中に含まれるグルコースやヘモグロビンなどである。このように光音響波を検出しその検出信号に基づいて光音響画像を生成する技術は、光音響イメージング(PAI:Photoacoustic Imaging)或いは光音響トモグラフィーと呼ばれる。
【0003】
従来、上記のような光音響効果を利用した光音響イメージングにおいて、次のような課題がある。測定光の強度は、被検体内を伝播する過程で吸収や散乱によって著しく減衰する。また、測定光に基づいて被検体内で発生した光音響波の強度も、被検体内を伝播する過程で吸収や散乱によって減衰する。したがって、光音響イメージングでは、被検体の深部の情報を得ることが難しい。この課題を解決するため、例えば被検体内に測定光のエネルギー量を増やすことにより、発生する光音響波を大きくすることが考えられる。
【0004】
しかし、被検体が生体である場合、測定光のエネルギーにより生体組織に損傷を与えないために、生体に照射することができる単位面積当たりの最大許容露光量(MPE:Maximum Permissible Exposure)が定められている。そのため、光量を増すとしてもMPEが上限となる。
【0005】
そこで、光量をMPE以下に抑えかつS/Nの高い光音響波を検出できるようにする方法として、例えば特許文献1に示されるように、複数の光ファイバを包含するバンドルファイバを使用して測定光の強度分布が均一となるように測定光を照射する方法が挙げられる。また、例えば特許文献1に示されるように、バンドルファイバを用いた光学系と超音波検出用のプローブとが一体的に組み合わされたプローブユニットを使用した場合、プローブユニットのコード部分に可撓性を持たせることができるため、使用者のハンドリング性能が向上するという利点もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2010−12295号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記のようなプローブユニットを使用した場合、ハンドリング性能が向上する反面、測定光に起因する危険性が上昇するという問題が生じうる。光音響イメージングでは充分な強度の測定光を得るため一般的にレーザ光を使用する。したがって、プローブユニットのハンドリング性能が向上するということは、例えばレーザ光が人の目に入るといった危険な状態になる機会が増えることに繋がる。そして、このような課題は、光音響イメージングに限らず、光音響分析法を利用した被検体の検査および診断等においても同様に生じうる。
【0008】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、プローブユニットを使用した光音響分析において、測定光としてのレーザ光に起因する危険性を低減して安全性をより向上させることを可能とする光音響分析用プローブユニットおよび光音響分析装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係る光音響分析用プローブユニットは、
被検体に測定光としてレーザ光を照射し、被検体内で発生した光音響波を検出してこの光音響波を電気信号に変換し、この電気信号に基づいて分析を行う光音響分析に用いられるプローブユニットにおいて、
レーザ光を照射する光照射部と、
光音響波を電気信号に変換する電気音響変換部と、
底が音響透過膜から構成された容器、およびこの容器に収容された音響整合液を有する音響整合部とを備え、
音響透過膜および音響整合液が、被検体の音響インピーダンスおよび電気音響変換部の音響インピーダンスを整合するような音響インピーダンスを有し、
電気音響変換部が、この電気音響変換部の音響検出面が音響整合液に接触するように配置されたものであり、
光照射部が、音響整合液を通って音響透過膜の裏面に対しレーザ光が所定の角度で入射するように配置されたものであり、
上記所定の角度が、上記裏面が空気と接触している場合にはレーザ光が上記裏面における全反射条件を満たし、上記裏面が被検体と接触している場合にはレーザ光が上記裏面における全反射条件を満たさない角度であることを特徴とするものである。
【0010】
本明細書において、「音響透過膜の裏面」とは、音響透過膜の被検体と接する側の表面を意味する。
【0011】
そして、本発明に係るプローブユニットにおいて、上記所定の角度は、上記裏面が被検体と接触している場合レーザ光が上記裏面における全反射条件から外れることにより、上記裏面を透過する際のレーザ光の透過率が90%以上となるような角度であることが好ましい。
【0012】
そして、本発明に係るプローブユニットにおいて、音響透過膜および音響整合液の屈折率は1.3〜1.4であり、上記所定の角度は42〜85°であることが好ましい。
【0013】
そして、本発明に係るプローブユニットにおいて、容器は側壁部の内壁に光吸収部材を有することが好ましい。
【0014】
さらに、本発明に係る光音響分析装置は、上記に記載したプローブユニットを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係る光音響分析用プローブユニットおよび光音響分析装置は、特に、底が音響透過膜から構成された容器、およびこの容器に収容された音響整合液を有する音響整合部とを備え、音響透過膜および音響整合液が、被検体の音響インピーダンスおよび電気音響変換部の音響インピーダンスを整合するような音響インピーダンスを有し、電気音響変換部が、この電気音響変換部の音響検出面が音響整合液に接触するように配置されたものであり、光照射部が、音響整合液を通って音響透過膜の裏面に対しレーザ光が所定の角度で入射するように配置されたものであり、上記所定の角度が、上記裏面が空気と接触している場合にはレーザ光が上記裏面における全反射条件を満たし、上記裏面が被検体と接触している場合にはレーザ光が上記裏面における全反射条件を満たさない角度であることを特徴とするものである。したがって、プローブユニットを空気中で操作している際に、誤ってレーザ光が空気中に放出されることを防止することができる。この結果、プローブユニットを使用した光音響分析において、測定光としてのレーザ光に起因する危険性を低減して安全性をより向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】本発明のプローブユニットの一実施形態を示す概略切断部端面図である。
【図1B】本発明のプローブユニットの一実施形態を示す概略切断部端面図である。
【図2】本発明の光音響分析装置の一実施形態の構成を示す概略図である。
【図3】図2における画像生成部の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0018】
まず、本発明の光音響分析用プローブユニットについて説明する。図1Aおよび図1Bは、本実施形態のプローブユニット70の構成を示す概略切断部端面図である。また、図1Aはプローブユニット70が被検体7に当接される前の様子を示すものであり、図1Bはプローブユニット70が被検体7に当接されたときの様子を示すものである。図2は、本実施形態の光音響分析装置である光音響撮像装置の構成を示す概略図である。
【0019】
図1Aに示されるように、プローブユニット70は、光源部11から導光されたレーザ光Lを照射する光照射部15と、光音響波を電気信号に変換する電気音響変換部3と、この電気音響変換部3を支持する支持部材32と、側壁が光吸収部材81から構成されかつ底が音響透過膜82から構成された容器80、およびこの容器80に収容された音響整合液83を有する音響整合部8と、プローブユニット70の持ち手部分となるカバー84を備える。そして、音響透過膜82および音響整合液83は、被検体7の音響インピーダンスおよび電気音響変換部3の音響インピーダンスを整合するような音響インピーダンスを有する。電気音響変換部3は、この電気音響変換部3の音響検出面3sが音響整合液83に接触するように配置されている。光照射部15は、音響整合液83を通って音響透過膜82の裏面82sに対しレーザ光Lが所定の角度で入射するように配置されている。本発明において上記所定の角度とは、上記裏面82sが空気と接触している場合にはレーザ光Lが上記裏面82sにおける全反射条件を満たし(図1A)、上記裏面82sが被検体7と接触している場合にはレーザ光Lが上記裏面82sにおける全反射条件を満たさない角度を意味する。全反射条件を満たさないとは、上記裏面82sが被検体7と接触している場合レーザ光Lが上記裏面82sにおける全反射条件から外れることにより、上記裏面82sをレーザ光Lが透過することができる状態をいう。この時のレーザ光Lの透過率は、50%以上であることが好ましく、より好ましくは70%以上であり、特に好ましくは90%以上である。
【0020】
一方、本発明の上記プローブユニット70を備えた光音響分析装置は、例えば光音響画像を生成することができる光音響撮像装置10である。具体的には図2に示すように、本実施形態の光音響撮像装置10は、特定波長成分を含むレーザ光Lを発生させこのレーザ光Lを被検体7に照射する光送信部1と、このレーザ光Lが被検体7に照射されることにより被検体7内で発生する光音響波Uを検出して任意断面の光音響画像データを生成する画像生成部2と、音響信号と電気信号の変換を行う電気音響変換部3と、この光音響画像データを表示する表示部6と、操作者が患者情報や装置の撮影条件を入力するための操作部5と、これら各ユニットを統括的に制御するシステム制御部4とを備えている。
【0021】
光送信部1は、例えばそれぞれ波長の異なるレーザ光Lを出力する複数の光源を備える光源部11と、複数の波長のレーザ光Lを同一光軸上に合成する光合波部12と、このレーザ光Lを被検体7の体表面まで導く多チャンネルの導波部14と、この導波部14において使用するチャンネルを切り換えて走査を行う光走査部13と、導波部14によって供給されるレーザ光Lが被検体7に向けて出射する光照射部15とを備えている。
【0022】
光源部11は、例えば所定の波長の光を発生する1以上の光源を有する。光源として、特定の波長成分又はその成分を含む単色光を発生する半導体レーザ(LD)、固体レーザ、ガスレーザ等の発光素子を用いることができる。光源部11は、レーザ光として1〜100nsecのパルス幅を有するパルス光を出力するものであることが好ましい。レーザ光の波長は、計測の対象となる被検体内の物質の光吸収特性によって適宜決定される。生体内のヘモグロビンは、その状態(酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビン、メトヘモグロビン、炭酸ガスヘモグロビン、等)により光学的な吸収特性が異なるが、一般的には600nmから1000nmの光を吸収する。したがって、例えば計測対象が生体内のヘモグロビンである場合(つまり、血管を撮像する場合)には、一般的には600〜1000nm程度とすることが好ましい。さらに、被検体7の深部まで届くという観点から、上記レーザ光の波長は700〜1000nmであることが好ましい。そして、上記レーザ光の出力は、レーザ光と光音響波の伝搬ロス、光音響変換の効率および現状の検出器の検出感度等の観点から、10μJ/cm〜数10mJ/cmであることが好ましい。さらに、パルス光出力の繰り返しは、画像構築速度の観点から、10Hz以上であることが好ましい。また、レーザ光は上記パルス光が複数並んだパルス列とすることもできる。
【0023】
より具体的には例えば、被検体7のヘモグロビン濃度を測定する場合には、固体レーザの一種であるNd:YAGレーザ(発光波長:約1000nm)や、ガスレーザの一種であるHe-Neガスレーザ(発光波長:633nm)を用い、10nsec程度のパルス幅を有したレーザ光を形成する。また、LD等の小型発光素子を用いる場合には、InGaAlP(発光波長:550〜650nm)、GaAlAs(発光波長:650〜900nm)、InGaAsもしくはInGaAsP(発光波長:900〜2300nm)などの材料を用いた素子を使用することができる。また最近では、波長が550nm以下で発光するInGaNを用いた発光素子も使用可能になりつつある。更には、波長可変可能な非線形光学結晶を用いたOPO(Optical Parametrical Oscillators)レーザを用いることもできる。
【0024】
光合波部12は、光源部11から発生する波長の異なるレーザ光Lを同一光軸に重ね合わせるためのものである。それぞれのレーザ光は、まずコリメートレンズによって平行光線に変換され、次に直角プリズムやダイクロイックプリズムにより、光軸が合わせられる。このような構成により比較的小型の合波光学系とすることができるが、光通信用に開発されている市販の多重波長合波・分波器を用いてもよい。また光源部11に前述の波長が連続的に変更可能なOPOレーザ等の発生源を使用する場合は、この光合波部12は必ずしも必要ではない。
【0025】
導波部14は、光合波部12から出力された光を光照射部15まで導光するためのものである。効率のよい光伝搬を行うために光ファイバや薄膜光導波路を用いる。本実施形態では、導波部14は、複数の光ファイバから構成される。これらの複数の光ファイバの中から所定の光ファイバを選択して、当該選択された光ファイバによって被検体7に対するレーザ光の照射を行う。なお、図1A、1Bおよび2では、明確に示してはいないが、光学フィルタやレンズ等の光学系と合わせて使用することもできる。
【0026】
光走査部13は、導波部14において配列される複数の光ファイバを順次選択しながら光の供給を行う。これにより、被検体7に対して光による走査が行われる。
【0027】
光照射部15は、特に光学系の先端部を意味する。光照射部15は、本実施形態では光ファイバに接続されたライトガイドである。ライトガイドとしては導光板等を使用することができる。板状のライトガイドを使用した場合、音響透過膜82の裏面82sに対するレーザ光の入射角度θを規定する光学系の配置の調整が容易となる。光照射部15は、例えば電気音響変換部3の周囲に沿って配列される。光照射部15は、レーザ光Lが音響透過膜82を通ってその裏面82sに対して上記所定の角度で入射するように配置される。言い換えれば、光照射部15は、音響透過膜82の裏面82sに対するレーザ光の入射角度θが所定の角度範囲内の角度となるように配置される。所定の角度範囲とは、音響透過膜82の裏面82sが空気と接触している場合にはレーザ光Lが当該裏面82sにおける全反射条件を満たし、当該裏面82sが被検体7と接触している場合にはレーザ光Lが当該裏面82sにおける全反射条件を満たさない角度(所定の角度)からなる集合を意味する。図1Aおよび1Bでは省略しているが、厳密には音響透過膜82と音響整合液83との界面を透過する際レーザ光は屈折する。したがって、レーザ光Lの当該裏面82sへの入射角が当該所定の角度となるように、光照射部15の配置が調整される。
【0028】
電気音響変換部3は、例えば1次元状或いは2次元状に配列された微小な複数の変換素子から構成される。変換素子は、例えば、圧電セラミクス、またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)のような高分子フィルムから構成される圧電素子である。電気音響変換部3は、光照射部15からのレーザ光Lの照射により被検体7内に発生する光音響波Uを受信する。この変換素子は、受信時において光音響波Uを電気信号に変換する機能を有している。電気音響変換部3は、小型、軽量に構成されており、多チャンネルケーブルによって後述する受信部22に接続される。この電気音響変換部3は、セクタ走査対応、リニア走査対応、コンベックス走査対応等の中から診断部位に応じて選択される。支持部材32には、電気音響変換部3と画像生成部2等とを接続するケーブルや駆動回路等が搭載される。
【0029】
音響整合部8は、容器80と、この容器に収容された音響整合液83とを備える。本発明において、音響整合部8は、被検体7の音響インピーダンスおよび電気音響変換部3の音響インピーダンスを整合する音響整合機能を果たす。音響整合機能は、被検体7および電気音響変換部3の間の音響整合を図る機能である。これにより、光音響波を効率よく検出することができる。一般に圧電素子材料と生体では音響インピーダンスが大きく異なるため、圧電素子材料と生体が直接接した場合には、界面での反射が大きくなり光音響波Uは効率よく伝達することができない。このため、圧電素子材料と生体の間に中間的な音響インピーダンスを有する液体物質で構成した音響整合液83が配置されることにより、光音響波Uは効率よく伝達することができる。
【0030】
容器80は、音響整合液83を保持するものである。容器80の材料としては、例えばABS樹脂を用いることができる。本実施形態では、容器80の底が、直接被検体7と接触することになる。したがって、容器80のうち少なくとも被検体7と接触する部分は、光音響波Uが効率よく透過可能となるように、光音響波Uの透過率が70%以上である音響透過膜82を備える。光音響波の透過率が70%未満であると、電気音響変換部3に到達する光音響波Uの絶対量が減少しすぎて、充分な強度の光音響波Uを得ることが難しくなる。
【0031】
音響透過膜82の材料は、空気の屈折率(n=1)および被検体7の皮膚の屈折率(n=1.3〜1.4)との関係から、上記所定の角度が存在するような屈折率を有する材料から選択される。音響透過膜82の材料としては、例えばPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)樹脂(n=1.35)、FEP(四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体)樹脂(n=1.34)およびポリエチレン(n=1.50)等を用いることができる。また、容器80は、その側壁部の内壁に光吸収部材81を備えることが好ましい。音響透過膜82の裏面82sで反射したレーザ光Lの大部分は、反射を複数回繰り返して最終的に光吸収部材81に吸収される。これにより、音響透過膜82の裏面82sで反射したレーザ光Lの取り扱いが容易となる。光吸収部材81の材料としては、カーボンシート等が挙げられる。
【0032】
音響整合液83は、音響整合部8の音響整合機能を主に担う部分である。このような音響整合液83の材料の例としては、水(n=1.33)、および大豆油(n=1.48)などの各種の油等が挙げられる。被検体7内で発生した光音響波Uは、音響整合液83を通って電気音響変換部3に検出される。
【0033】
光音響撮像装置10の画像生成部2は、電気音響変換部3を構成する複数の変換素子を選択駆動するとともに、また電気音響変換部3からの電気信号に所定の遅延時間を与え、整相加算を行うことにより受信信号を生成する受信部22と、変換素子の選択駆動や受信部22の遅延時間を制御する走査制御部24と、受信部22から得られる受信信号に対して各種の処理を行う信号処理部25とを備えている。
【0034】
受信部22は、図3に示すように、電子スイッチ53と、プリアンプ55と、受信遅延回路56と、加算器57とを備えている。
【0035】
電子スイッチ53は、光音響走査における光音響波の受信に際して、連続して隣接する所定数の変換素子54を選択する。例えば、電気音響変換部3がアレイ型の192個の変換素子CH1〜CH192から構成される場合、このようなアレイ型変換素子は、電子スイッチ53によってエリア0(CH1〜CH64までの変換素子の領域)、エリア1(CH65〜CH128までの変換素子の領域)およびエリア2(CH129〜CH192までの変換素子の領域)の3つの領域に分割されて取り扱われる。このようにN個の変換素子から構成されるアレイ型変換素子をn(n<N)個の隣接する振動子のまとまり(エリア)として取り扱い、このエリアごとにイメージング作業を実施した場合には、すべてのチャンネルの変換素子にプリアンプやA/D変換ボードを接続する必要がなくなり、プローブユニット70の構造を簡素化できコストの増大を防ぐことができる。また、それぞれのエリアを個別に光照射することができるように、複数の光ファイバを配置した場合には、1回あたりの光出力が大きくならずに済むので、大出力の高価な光源を用いる必要がないといった利点もある。そして、変換素子54によって得られるそれぞれの電気信号はプリアンプ55に供給される。
【0036】
プリアンプ55は、上記のように選択された変換素子54によって受信された微小な電気信号を増幅し、充分なS/Nを確保する。
【0037】
受信遅延回路56は、電子スイッチ53によって選択された変換素子54から得られる光音響波Uの電気信号に対して、所定の方向からの光音響波Uの位相を一致させて収束受信ビームを形成するための遅延時間を与える。
【0038】
加算器57は、受信遅延回路56により遅延された複数チャンネルの電気信号を加算することによって1つの受信信号にまとめる。この加算によって所定の深さからの音響信号は整相加算され、受信収束点が設定される。
【0039】
走査制御部24は、ビーム集束制御回路67と変換素子選択制御回路68とを備える。変換素子選択制御回路68は、電子スイッチ53によって選択される受信時の所定数の変換素子54の位置情報を電子スイッチ53に供給する。一方、ビーム集束制御回路67は、所定数個の変換素子54が形成する受信収束点を形成するための遅延時間情報を受信遅延回路56に供給する。
【0040】
信号処理部25は、フィルタ66と、信号処理器59と、A/D変換器60と、画像データメモリ62とを備えている。受信部22の加算器57から出力された電気信号は、信号処理部25のフィルタ66において不要なノイズを除去した後、信号処理器59にて受信信号の振幅を対数変換し、弱い信号を相対的に強調する。一般に、被検体7からの受信信号は、80dB以上の広いダイナミックレンジをもった振幅を有しており、これを23dB程度のダイナミックレンジをもつ通常のモニタに表示するためには弱い信号を強調する振幅圧縮が必要となる。なお、フィルタ66は、帯域通過特性を有し、受信信号における基本波を抽出するモードと高調波成分を抽出するモードを有している。また、信号処理器59は、対数変換された受信信号に対して包絡線検波を行う。そして、A/D変換器60は、この信号処理器59の出力信号をA/D変換し、1ライン分の光音響画像データを形成する。この1ライン分の光音響画像データは、画像データメモリ62に保存される。
【0041】
画像データメモリ62は、前述のように生成された1ライン分の光音響画像データを順次保存する記憶回路である。システム制御部4は、画像データメモリ62に保存されたある断面についての1ライン分のデータであって1フレームの光音響画像を生成するのに必要なデータを読み出す。システム制御部4は、空間的に補間しながらそれら1ライン分のデータを合成して当該断面の1フレーム分の光音響画像データを生成する。そして、システム制御部4は、この1フレーム分の光音響画像データを画像データメモリ62に保存する。
【0042】
表示部6は、表示用画像メモリ63と、光音響画像データ変換器64と、モニタ65を備えている。表示用画像メモリ63は、モニタ65に表示する1フレーム分の光音響画像データを画像データメモリ62から読み出し、それを一時的に保存するバッファメモリである。光音響画像データ変換器64は、表示用画像メモリ63に保存された1フレーム分の光音響画像データに対してD/A変換とテレビフォーマット変換を行い、その出力はモニタ65において表示される。
【0043】
操作部5は、操作パネル上にキーボード、トラックボール、マウス等を備え、装置操作者が患者情報、装置の撮影条件、表示断面など必要な情報を入力するために用いられる。
【0044】
システム制御部4は、図示しないCPUと図示しない記憶回路を備え、操作部5からのコマンド信号に従って光送信部1、画像生成部2、表示部6などの各ユニットの制御やシステム全体の制御を統括して行う。特に、内部のCPUには、操作部5を介して送られる操作者の入力コマンド信号が保存される。
【0045】
次に、本発明の作用について説明する。
【0046】
本発明に係る光音響分析用プローブユニット70および光音響撮像装置10は、光照射部が、音響整合液を通って音響透過膜の裏面に対しレーザ光が所定の角度で入射するように配置されたものであり、上記所定の角度が、上記裏面82sが空気と接触している場合にはレーザ光Lが上記裏面82sにおける全反射条件を満たし、上記裏面82sが被検体7と接触している場合にはレーザ光が上記裏面における全反射条件を満たさない角度であることを特徴とするものである。
【0047】
音響透過膜82の裏面82sに入射したレーザ光Lの当該裏面82sにおける全反射条件は、当該裏面82sが被検体7と接触しているか否かで異なる。空気の屈折率(n=1)および被検体7の皮膚の屈折率(n=1.3〜1.4)が異なるためである。
【0048】
例えば、音響整合液83を水(n=1.33)、音響透過膜82をFEP樹脂(n=1.34)、被検体7の皮膚の屈折率をn=1.37としたとき、裏面82sが空気と接触している場合には全反射臨界角はおよそ49°である。一方同じ条件で、裏面82sが被検体7と接触している場合には音響透過膜82の屈折率よりも被検体の皮膚の屈折率の方が大きいためどのような角度からレーザ光Lを入射しても理論上全反射は起こらない。したがって上記条件の場合、上記所定の角度からなる集合である所定の角度範囲は49°以上である。ただし、レーザ光Lの被検体7への入射効率を考慮するとレーザ光Lの入射角度は85°以下に設定することが好ましい。
【0049】
そして、実際に光学系を配置する際には例えば、音響透過膜82の裏面82sと当該裏面82sにおける光照射部15の光軸とが成す角度が、好ましい上記所定の角度範囲である49〜85°に含まれるように設定される。ここで、裏面82sにおける光照射部15の光軸とは、音響透過膜82と音響整合液83との界面における屈折が考慮された光照射部15の光軸を意味する。
【0050】
導波部14としての光ファイバにレーザ光が拡がり角を持って入射したり、光照射部15としてのライトガイド等をレーザ光が伝播したりすることにより、レーザ光Lが光照射部15から出射する際に拡がり角を持つ場合がある。このような場合、上記裏面82sと当該裏面82sにおける上記光軸とが成す角度は、出射時の上記拡がり角が考慮されて設定されることが好ましい。つまり、例えば出射時の上記拡がり角を±5°程度とみなせる場合には、上記裏面82sと当該裏面82sにおける上記光軸とが成す角度が54〜80°の範囲に含まれるように設定されることが好ましい。
【0051】
さらに例えば、音響整合液83を大豆油(n=1.48)、音響透過膜82をポリエチレン(n=1.50)としたとき、裏面82sが空気と接触している場合全反射臨界角はおよそ42°である。一方同じ条件で、裏面82sが被検体7と接触している場合全反射臨界角はおよそ66°である。つまり、レーザ光Lの入射角65°以下であればレーザ光Lは皮膚へ入射することが可能となる。したがって、上記の条件の場合、上記所定の角度からなる集合である所定の角度範囲は42〜65°である。
【0052】
そして、この場合にも実際に光学系を配置する際には例えば、上記裏面82sと当該裏面82sにおける上記光軸とが成す角度が、上記所定の角度範囲である42〜65°に含まれるように設定される。また同様に、例えば出射時の上記拡がり角を±5°程度とみなせる場合には、上記裏面82sと当該裏面82sにおける上記光軸とが成す角度は47〜60°の範囲に含まれるように設定されることが好ましい。
【0053】
以上のように本発明では、プローブユニットを空気中で操作している際に、誤ってレーザ光が空気中に放出されることを防止することができる。この結果、プローブユニットを使用した光音響分析において、測定光としてのレーザ光に起因する危険性を低減して安全性をより向上させることが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、光音響イメージングに限らず、光音響分析法を利用した被検体の検査および診断等においても同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1 光送信部
2 画像生成部
3 電気音響変換部
3s 音響検出面
4 システム制御部
5 操作部
6 表示部
7 被検体
8 音響整合部
10 光音響撮像装置
11 光源部
12 光合波部
13 光走査部
14 導波部
15 光照射部
22 受信部
24 走査制御部
25 信号処理部
32 電気音響変換部の支持部材
80 容器
81 光吸収部材
82 音響透過膜
82s 音響透過膜の裏面
83 音響整合液
84 カバー
L レーザ光
U 光音響波
θ 音響透過膜の裏面に対するレーザ光の入射角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体に測定光としてレーザ光を照射し、前記被検体内で発生した光音響波を検出して該光音響波を電気信号に変換し、該電気信号に基づいて分析を行う光音響分析に用いられるプローブユニットにおいて、
前記レーザ光を照射する光照射部と、
前記光音響波を電気信号に変換する電気音響変換部と、
底が音響透過膜から構成された容器、および該容器に収容された音響整合液を有する音響整合部とを備え、
前記音響透過膜および前記音響整合液が、前記被検体の音響インピーダンスおよび前記電気音響変換部の音響インピーダンスを整合するような音響インピーダンスを有し、
前記電気音響変換部が、該電気音響変換部の音響検出面が前記音響整合液に接触するように配置されたものであり、
前記光照射部が、前記音響整合液を通って前記音響透過膜の裏面に対し前記レーザ光が所定の角度で入射するように配置されたものであり、
前記所定の角度が、前記裏面が空気と接触している場合には前記レーザ光が前記裏面における全反射条件を満たし、前記裏面が前記被検体と接触している場合には前記レーザ光が前記裏面における全反射条件を満たさない角度であることを特徴とするプローブユニット。
【請求項2】
前記所定の角度が、前記裏面が前記被検体と接触している場合前記レーザ光が前記裏面における全反射条件から外れることにより、前記裏面を透過する際の前記レーザ光の透過率が90%以上となるような角度であることを特徴とする請求項1に記載のプローブユニット。
【請求項3】
前記音響透過膜および前記音響整合液の屈折率が1.3〜1.4であり、前記所定の角度が42〜85°であることを特徴とする請求項1または2に記載のプローブユニット。
【請求項4】
前記容器が側壁部の内壁に光吸収部材を有することを特徴とする請求項1から3いずれかに記載のプローブユニット。
【請求項5】
請求項1から4いずれかに記載のプローブユニットを備えた光音響分析装置。

【図1A】
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【図1B】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−170762(P2012−170762A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38106(P2011−38106)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】