説明

光音響分析装置および光音響分析方法

【課題】光音響分析法を用いた血液中の酸素量測定において、血液中の酸素量のより定量的な計測を可能とする。
【解決手段】光音響分析法を用いた血液中の酸素量測定において、血管の断面画像データVに基づいて、上記血管における血液中のヘモグロビンの分子数mを算出し、第1の光音響波の信号強度Po(800)および第2の光音響波の信号強度Po(756)に基づいて、上記血管における血液についての酸素飽和度SpOを算出し、上記分子数mおよび上記酸素飽和度SpOに基づいて血液中の酸素量VOを算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光が被検体に照射されることにより被検体内で発生した光音響波を検出して血液中の酸素量を計測する光音響分析装置および光音響分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被検体の内部の断層画像を取得する方法としては、超音波が被検体内に照射されることにより被検体内で反射した超音波を検出して超音波画像を生成し、被検体内の形態的な断層画像を得る超音波イメージングが知られている。一方、被検体の検査においては形態的な断層画像だけでなく機能的な断層画像を表示する装置の開発も近年進められている。そして、このような装置の一つに光音響分析法を利用した装置がある。この光音響分析法は、所定の波長を有する光(例えば、可視光、近赤外光又は中間赤外光)を被検体に照射し、被検体内の特定物質がこの光のエネルギーを吸収した結果生じる弾性波である光音響波を検出して、その特定物質の濃度を定量的に計測するものである。被検体内の特定物質とは、例えば血液中に含まれるグルコースやヘモグロビンなどである。このように光音響波を検出しその検出信号に基づいて光音響画像を生成する技術は、光音響イメージング(PAI:Photoacoustic Imaging)或いは光音響トモグラフィー(PAT:Photo Acoustic Tomography)と呼ばれる。
【0003】
そして、このような光音響分析法を利用して、例えば健康管理または治療効果の判定等を目的として、被検体の血液中における酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの割合、酸素飽和度または生体組織中の物質成分の濃度等を非侵襲的に測定する方法が提案されている。例えば、特許文献1では、コラーゲン、酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビン、脂肪、水の量の全体に対する割合の分布を得ることによって、腫瘍の位置と量を検出したり腫瘍の良性または悪性を判別したりすることが開示されている。また、特許文献2では、複数の位置において酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの濃度を測定して濃度分布の画像を作成することにより、生体組織内で新生血管が形成されている領域を判別したり酸素飽和度から酸素の消費量が増大している領域を判別したりすることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−068940号公報
【特許文献1】特開2011−92631号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1や2のような従来の方法では、酸素飽和度、すなわち血液中の全体に対する相対的な酸素量の割合は計測できても、血液中に存在する絶対的な酸素量そのものを計測することは難しいという問題がある。血液中の酸素量も健康管理または治療効果の判定等において重要な情報となりうることから、血液中の酸素量のより定量的な計測を可能とする方法も望まれている。
【0006】
本発明は上記要望に応えてなされたものであり、光音響分析法を用いた血液中の酸素量測定において、血液中の酸素量のより定量的な計測を可能とする光音響分析装置および光音響分析方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る光音響分析装置は、
酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの等吸収点となる第1の波長を有する第1の測定光と、脱酸素化ヘモグロビンが第1の波長に対する吸収係数とは異なる吸収係数を示す第2の波長を有する第2の測定光とを被検体に照射する光照射手段と、
第1の測定光または第2の測定光の照射により被検体内で発生した光音響波を検出してこの光音響波を電気信号に変換する電気音響変換部と、
血管の長さ方向に垂直な断面における当該血管の断面画像データと、第1の測定光の照射により発生した上記血管からの第1の光音響波の信号強度と、第2の測定光の照射により発生した上記血管からの第2の光音響波の信号強度とに基づいて、上記血管における血液中のヘモグロビンの分子数および酸素飽和度を算出して、その血液中の酸素量を算出する酸素量算出手段とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
本明細書において、「断面画像データ」とは、検出された音響波信号の生データに基づいて再構成された音響波に関するデータを意味し、再構成直後の信号波形データおよびこの信号波形データを基に加工されたデータを含む意味である。「信号波形データを基に加工されたデータ」とは、例えば、信号波形データが対数処理されたデータや、信号波形データから構築された画像データが挙げられる。
「上記血管からの光音響波」とは、血管の断面画像データに示された断面を含む所定部分であって画像生成の基となる信号に寄与する部分の血管の膨張および収縮に起因して発生した光音響波を意味する。
【0009】
「上記血管における」とは、血管の断面画像データに示された断面を含む所定部分であって画像生成の基となる信号に寄与する部分の血管における、との意味である。
【0010】
そして、本発明に係る光音響分析装置において、電気音響変換部によって検出された被検体内からの音響波に基づいて断層画像を生成する画像生成部を備え、
酸素量算出手段は、上記断面画像データとして、上記血管からの光音響波に基づいて画素生成部により生成された光音響画像データを使用するものであることが好ましい。
【0011】
或いは、本発明に係る光音響分析装置において、電気音響変換部によって検出された被検体内からの音響波に基づいて断層画像を生成する画像生成部を備え、
電気音響変換部は、被検体に超音波を照射するものであり、
酸素量算出手段は、上記断面画像データとして、上記血管からの前記超音波の反射波に基づいて前記画像生成部により生成された超音波画像データを使用するものであることが好ましい。
【0012】
本明細書において、「上記血管からの超音波の反射波」とは、血管の断面画像データに示された断面を含む所定部分であって画像生成の基となる信号に寄与する部分の血管で反射した超音波を意味する。
【0013】
また、本発明に係る光音響分析装置において、酸素量算出手段は、第2の光音響波の電気信号のピーク位置を自己相関法または微分法により検出し、隣接する2つのピーク位置から上記血管の直径を算出することにより、上記分子数を計測するものであることが好ましい。
【0014】
或いは、本発明に係る光音響分析装置において、酸素量算出手段は、デコンボリューション処理した画像に基づいて上記血管の深さ方向の直径およびこの方向に垂直な方向の直径を算出することにより、上記分子数を計測するものであることが好ましい。
【0015】
また、本発明に係る光音響分析装置において、第1の波長および第2の波長は、それぞれ795〜805nmおよび755〜765nmであることが好ましい。
【0016】
本発明に係る光音響分析方法は、
血管の長さ方向に垂直な断面における該血管の断面画像データに基づいて、上記血管における血液中のヘモグロビンの分子数を算出し、
酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの等吸収点となる第1の波長を有する第1の測定光の照射により発生した上記血管からの第1の光音響波を検出し、
脱酸素化ヘモグロビンが第1の波長に対する吸収係数とは異なる吸収係数を示す第2の波長を有する第2の測定光の照射により発生した上記血管からの第2の光音響波を検出し、
第1の光音響波の信号強度および第2の光音響波の信号強度に基づいて、上記血管における上記血液についての酸素飽和度を算出し、
上記分子数および上記酸素飽和度に基づいてその血液中の酸素量を算出することを特徴とするものである。
【0017】
そして、本発明に係る光音響分析方法において、断面画像データは、上記血管からの光音響波に基づいて生成された光音響画像データであることが好ましい。
【0018】
或いは、本発明に係る光音響分析方法において、断面画像データは、上記血管からの超音波の反射波に基づいて生成された超音波画像データであることが好ましい。
【0019】
また、本発明に係る光音響分析方法において、第2の光音響波の電気信号のピーク位置を自己相関法または微分法により検出し、隣接する2つのピーク位置から上記血管の直径を算出することにより、上記分子数を計測することが好ましい。
【0020】
或いは、本発明に係る光音響分析方法において、デコンボリューション処理した画像に基づいて上記血管の深さ方向の直径およびこの方向に垂直な方向の直径を算出することにより、上記分子数を計測することが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る光音響分析方法において、第1の波長および第2の波長は、それぞれ795〜805nmおよび755〜765nmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0022】
本発明に係る光音響分析装置および光音響分析方法は、血管の断面画像データに基づいて、上記血管における血液中のヘモグロビンの分子数を算出し、第1の光音響波の信号強度および第2の光音響波の信号強度に基づいて、上記血管における血液についての酸素飽和度を算出し、上記分子数および上記酸素飽和度に基づいてその血液中の酸素量を算出するから、光音響分析法を用いた血液中の酸素量測定において、血液中の酸素量のより定量的な計測が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】光音響撮像装置の構成を示す概略図である。
【図2】酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンそれぞれの吸収スペクトルを示すグラフである。
【図3】血管の断面画像データを含む断層画像データを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0025】
図1は、本実施形態の光音響撮像装置10の基本構成を示すブロック図である。この光音響撮像装置10は、超音波探触子11、超音波ユニット12、レーザ光源ユニット13および表示手段14を備えている。なおこの光音響撮像装置10は、超音波画像と光音響画像との双方を生成可能に構成されている。
【0026】
そして、本実施形態の光音響撮像方法は、血管の長さ方向に垂直な断面における当該血管の断面画像データを含む断層画像に基づいて、上記血管における血液中のヘモグロビンの分子数を算出し、800nmの波長を有する第1の測定光の照射により発生した上記血管からの第1の光音響波を検出し、756nmの波長を有する第2の測定光の照射により発生した上記血管からの第2の光音響波を検出し、第1の光音響波の信号強度および第2の光音響波の信号強度に基づいて、上記血管における上記血液についての酸素飽和度を算出し、上記分子数および上記酸素飽和度に基づいてその血液中の酸素量を算出することを特徴とするものである。
【0027】
レーザ光源ユニット13は、被検体に照射すべきレーザ光を測定光として出射する。このレーザ光源ユニット13が本発明における光照射手段に相当する。レーザ光源ユニット13は、例えば、血液の吸収ピークに含まれる波長のレーザ光を発生させる1以上の光源を有する。光源として、特定の波長成分又はその成分を含む単色光を発生する半導体レーザ(LD)、固体レーザ、ガスレーザ等の発光素子を用いることができる。例えば本実施形態においてレーザ光源ユニット13は、励起光源であるフラッシュランプ35とレーザ発振を制御するQスイッチレーザ36とを含むものである。レーザ光源ユニット13は、制御手段34がフラッシュランプトリガ信号を出力すると、フラッシュランプ35を点灯し、Qスイッチレーザ36を励起する。
【0028】
本発明では、レーザ光の波長は、光音響画像を生成する場合と血液中の酸素量を算出する場合とで好ましい値が異なる。具体的には、光音響画像を生成する場合には、レーザ光の波長は、撮像対象となる被検体内の物質の光吸収特性によって適宜決定される。生体内のヘモグロビンは、その状態(酸素化ヘモグロビン、脱酸素化ヘモグロビン、メトヘモグロビン、炭酸ガスヘモグロビン、等)により光学的な吸収係数が異なる。例えば撮像対象が生体内のヘモグロビンである場合(つまり、生体内部の血管を撮像する場合)には、生体の光透過性が良く、かつ各種ヘモグロビンが光の吸収ピークを持つ600〜1000nm程度とすることが好ましい。さらに、被写体の深部まで届くという観点からも、光音響画像を生成する場合には、上記レーザの波長は600〜1000nmであることが好ましい。
【0029】
一方、血液中の酸素量を算出する場合には、酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの等吸収点となる第1の波長と、脱酸素化ヘモグロビンが第1の波長に対する吸収係数とは異なる吸収係数を示す第2の波長とが使用される。図2は、酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンについての波長と吸収係数μaとの関係(吸収スペクトル)を示すグラフである。第1の波長は、図2に示されるように、酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの吸収係数曲線が交差する点の波長であり、795〜805nmである。また、第2の波長は、特に制限されないが、脱酸素化ヘモグロビンが吸収ピークを示す755〜765nmの波長を採用することが好ましい。なお、効率よく光音響画像を生成するために、光音響画像を生成する場合と血液中の酸素量を算出する場合とで同じ波長を使用することが好ましく、さらに同じ光音響波の信号を用いて光音響画像の生成および酸素量の算出を行うことがより好ましい。
【0030】
レーザ光源ユニット13は、レーザ光として1〜100nsecのパルス幅を有するパルス光を出力するものであることが好ましい。そして、上記レーザ光の出力は、レーザ光と光音響波の伝搬ロス、光音響変換の効率および現状の検出器の検出感度等の観点から、10μJ/cm〜数10mJ/cmであることが好ましい。さらに、パルス光出力の繰り返しは、画像構築速度の観点から、10Hz以上であることが好ましい。また、レーザ光は上記パルス光が複数並んだパルス列とすることもできる。レーザ光源ユニット13から出力されたレーザ光は、例えば光ファイバ、導光板、レンズおよびミラー等の導光手段を用いて超音波探触子11の近傍まで導光され、超音波探触子11の近傍から被検体に照射される。
【0031】
超音波探触子11は、被検体に向けて超音波を照射し、被検体内を伝搬する音響波を検出するものである。すなわち、超音波探触子11は、被検体に対する超音波の照射(送信)、および被検体から反射して戻って来るその超音波の反射波の検出(受信)を行う。さらに超音波探触子11は、被検体内の撮像対象物がレーザ光を吸収することにより被検体内に発生した光音響波の検出も行う。超音波探触子11が本発明における電気音響変換部に相当する。なお本明細書において、「音響波」とは超音波および光音響波を含む意味である。ここで、「超音波」とは電気音響変換部の振動により被検体内に発生した弾性波およびその反射波を意味し、「光音響波」とは測定光の照射による光音響効果により被検体内に発生した弾性波を意味する。そのために超音波探触子11は、例えば一次元または二次元に配列された複数の超音波振動子から構成される振動子アレイを有する。超音波振動子11は、例えば、圧電セラミクス、またはポリフッ化ビニリデン(PVDF)のような高分子フィルムから構成される圧電素子である。超音波振動子11は、音響波を受信した場合にその受信信号を電気信号に変換する機能を有している。この電気信号は後述する受信回路21に出力される。この超音波探触子11は、セクタ走査タイプ、リニア走査タイプ、コンベックス走査タイプ等の中から診断部位に応じて選択される。
【0032】
超音波探触子11は、音響波を効率よく検出するために音響整合層を振動子アレイの表面に備えてもよい。一般に圧電素子材料と生体では音響インピーダンスが大きく異なるため、圧電素子材料と生体が直接接した場合には、界面での反射が大きくなり音響波を効率よく検出することができない。このため、圧電素子材料と生体の間に中間的な音響インピーダンスを有する音響整合層が配置されることにより、音響波を効率よく検出することができる。音響整合層を構成する材料の例としては、エポキシ樹脂や石英ガラスなどが挙げられる。
【0033】
超音波ユニット12は、受信回路21、AD変換手段22、受信メモリ23、データ分離手段24、光音響画像再構成手段25a、光音響画像再構成手段25aからの信号を受信する検波・対数変換手段26a、光音響画像を構築する光音響画像構築手段27a、超音波画像再構成手段25b、超音波画像再構成手段25bからの信号を受信する検波・対数変換手段26b、超音波画像を構築する超音波画像構築手段27b、画像合成手段28、送信制御回路33、制御手段34および酸素量算出手段35を有している。制御手段34は、超音波ユニット12内の各部を制御する。
【0034】
受信回路21は、超音波探触子11から出力された音響波の電気信号を受信する。AD変換手段22はサンプリング手段であり、受信回路21が受信した電気信号を例えばクロック周波数40MHzのADクロック信号に同期してサンプリングしてデジタル信号に変換する。AD変換手段22は、例えば外部から入力されるADクロック信号に同期して、所定のサンプリング周期で上記電気信号をサンプリングする。
【0035】
AD変換手段22は、サンプリングしたデジタル信号(サンプリングデータ)を受信メモリ23に格納する。受信メモリ23に格納されたサンプリングデータは、光音響波に関するデータ(光音響データ)、超音波に関するデータ(超音波データ)またはこれらの混合データである。
【0036】
データ分離手段24は、受信メモリ23に格納されたサンプリングデータを光音響データと超音波データとに分離する。サンプリングデータを分離する方法は特に限定されない。例えば、超音波の照射とレーザ光の照射とを時間的にずらして実施した場合には、サンプリングデータをある時刻で分けることによりサンプリングデータを光音響データと超音波データとに分離することができる。また例えば、光音響データおよび超音波データそれぞれに関する周波数や遅延量の違いを利用してもサンプリングデータを光音響データと超音波データとに分離することができる。データ分離手段24は、分離された光音響データを光音響画像再構成手段25aに入力し、超音波データを超音波画像再構成手段25bに出力する。
【0037】
光音響画像再構成手段25aは、例えば超音波探触子11の64個の超音波振動子の各出力信号から得られた上記光音響データを、超音波振動子の位置に応じた遅延時間で加算し、1ライン分のデータを生成する(遅延加算法)。なお、この光音響画像再構成手段25aは、遅延加算法に代えて、CBP法(Circular Back Projection)により再構成を行うものでもよい。あるいは光音響画像再構成手段25aは、ハフ変換法又はフーリエ変換法を用いて再構成を行うものでもよい。光音響画像再構成手段25aは、上記のようにして加算整合された光音響データを検波・対数変換手段26aに出力する。
【0038】
検波・対数変換手段26aは、光音響画像再構成手段25aから出力された光音響データの包絡線を生成し、次いでその包絡線を対数変換してダイナミックレンジを広げる。そして、検波・対数変換手段26aは、上記のようにして信号処理した光音響データを光音響画像構築手段27aに出力する。
【0039】
光音響画像構築手段27aは、対数変換が施された各ラインの光音響データに基づいて、断層画像(光音響画像)を構築する。光音響画像構築手段27aは、例えば光音響データの時間軸の位置を、断層画像における深さを表す変位軸の位置に変換して光音響画像を構築する。
【0040】
一方、超音波画像再構成手段25bは、例えば超音波探触子11の64個の超音波振動子の各出力信号から得られた上記超音波データを、超音波振動子の位置に応じた遅延時間で加算し、1ライン分のデータを生成する(遅延加算法)。なお、この超音波画像再構成手段25bは、遅延加算法に代えて、CBP法(Circular Back Projection)により再構成を行うものでもよい。あるいは超音波画像再構成手段25bは、ハフ変換法又はフーリエ変換法を用いて再構成を行うものでもよい。超音波画像再構成手段25bは、上記のようにして加算整合された超音波データを検波・対数変換手段26bに出力する。
【0041】
検波・対数変換手段26bは、超音波画像再構成手段25bから出力された超音波データの包絡線を生成し、次いでその包絡線を対数変換してダイナミックレンジを広げる。そして、検波・対数変換手段26bは、上記のようにして信号処理した超音波データを超音波画像構築手段27bに出力する。
【0042】
超音波画像構築手段27bは、対数変換が施された各ラインの超音波データに基づいて、断層画像(超音波画像)を構築する。超音波画像構築手段27bは、例えば超音波データの時間軸の位置を、断層画像における深さを表す変位軸の位置に変換して超音波画像を構築する。
【0043】
制御手段34は、レーザ光源ユニット13にフラッシュランプトリガ信号及びQスイッチトリガ信号を出力し、レーザ光源ユニット13からレーザ光を出射させる。また、制御手段34は、送信制御回路33に超音波送信トリガ信号を出力し、プローブ11から超音波を出力させる。更に、制御手段34は、レーザ光の照射又は超音波送信と同期してAD変換手段22に対してADトリガ信号を出力し、AD変換手段22におけるサンプリングを開始させる。
【0044】
制御手段34は、レーザ光源ユニット13に対してレーザ光の出力を指示するフラッシュランプトリガ信号を出力する。これによりレーザ光源ユニット13では、フラッシュランプトリガ信号に応答してフラッシュランプ35が点灯し、レーザ励起が開始される。その後、制御手段34は、所定のタイミングでQスイッチトリガ信号を出力する。これによりレーザ光源ユニット13では、Qスイッチレーザ36のQスイッチがQスイッチトリガ信号に応答してON状態となり、レーザ光が出力されて、被検体にレーザ光が照射される。フラッシュランプ35の点灯からQスイッチレーザ36が十分な励起状態となるまでに要する時間は、Qスイッチレーザ36の特性などから見積もることができる。制御手段34からQスイッチを制御するのに代えて、レーザ光源ユニット13内において、Qスイッチレーザ36を十分に励起させた後にQスイッチをON状態にしてもよい。その場合は、QスイッチをON状態にした旨を示す信号を超音波ユニット12側に通知してもよい。
【0045】
また制御手段34は、超音波送信を指示する超音波トリガ信号を送信制御回路33に出力する。送信制御回路33は、上記超音波トリガ信号を受けると、超音波探触子11から超音波を送信させる。制御手段34は、先にフラッシュランプトリガ信号を出力し、その後超音波トリガ信号を出力する。つまり制御手段34は、フラッシュランプトリガ信号の出力に後続して、超音波トリガ信号を出力する。フラッシュランプトリガ信号が出力されることで被検体に対するレーザ光の照射および光音響波の検出が行われた後、超音波トリガ信号が出力されることで被検体に対する超音波の送信およびその反射波の検出が行われる。
【0046】
制御手段34はさらに、AD変換手段22に対して、サンプリング開始を指示するサンプリングトリガ信号を出力する。このサンプリングトリガ信号は、上記フラッシュランプトリガ信号が出力された後で、かつ超音波トリガ信号が出力される前、より好ましくは被検体に実際にレーザ光が照射されるタイミングで出力される。そのためにサンプリングトリガ信号は、例えば制御手段34がQスイッチトリガ信号を出力するタイミングに同期して出力される。AD変換手段22は上記サンプリングトリガ信号を受けると、超音波探触子11にて検出された上記電気信号のサンプリングを開始する。
【0047】
また、制御手段34は、光音響画像を様々な形態で表示手段14に表示するように、超音波探触子11、超音波ユニット12、レーザ光源ユニット13および表示手段14を制御する。
【0048】
例えば、制御手段34は、測定光が照射された領域と同じ領域に、超音波を照射するように超音波探触子11を制御し、被検体内で反射した超音波を検出してこの超音波を電気信号に変換するように超音波探触子11を制御し、この電気信号に基づいて超音波画像を生成するように超音波ユニット12を制御し、光音響画像と超音波画像とを重畳して表示するように表示手段14を制御することもできる。
【0049】
なお、「測定光が照射された領域と同じ領域に」超音波を照射するとは、測定光を照射して得られた光音響画像の撮像範囲と、超音波を照射して得られた超音波画像の撮像範囲とが少なくとも一部において重畳するように、超音波を照射することを意味する。
【0050】
画像合成手段28は、画像構築手段27aおよび27bにそれぞれ構築された光音響画像および超音波画像を合成する。なお、合成画像を表示しない場合には光音響画像および超音波画像はそれぞれ合成処理されないまま、画像合成手段28から出力されてもよい。さらに、画像合成手段28は、合成されて得られた画像に必要な処理(例えばスケールの補正等)を施して表示手段14に表示するための最終的な画像(表示画像)を生成する。
【0051】
酸素量算出手段35は、血液中のヘモグロビンの分子数および酸素飽和度に基づいて血液中の酸素量を算出するものである。具体的には酸素量は以下のようにして算出される。
【0052】
まず、酸素量算出手段35は、上記のようにして得られた光音響画像、超音波画像およびこれらの重畳画像の少なくとも1つの断層画像データに基づいて、血管の直径dを求める。この際、必要な断層画像データが酸素量算出手段35に提供される。血管の直径dは、断層画像データPの中から血管の長さ方向に垂直な断面を表す画像領域V(血管の断面画像データ)を抽出し、その断面の幅から求められる(図3)。例えば、血管の直径dは、断面画像データの深さ方向(図3において下方向)の幅をそのまま使用したり、深さ方向の幅とこれに垂直な方向の幅とを平均したりすることにより求められる。そして、この血管の直径dを用いて、画像生成の基となる信号に寄与する部分の血管の体積Vdは下記式1で表せられる。
【0053】
【数1】

【0054】
式1においてMは、画像生成の基となる信号に寄与する部分の血管の長さを表す。なお、このMは、1次元に配列した振動子アレイ(2次元振動子アレイの場合は同時に動作する部分)の当該配列方向に垂直な方向の幅、すなわち走査方向の分解能で決まる。超音波探触子の構造および/または走査タイプ(セクタ走査タイプ、リニア走査タイプ、コンベックス走査タイプ等)によって異なる。本実施形態では、例えばリニア走査タイプの場合を想定している。例えば、超音波探触子が標準的な構造を有しかつリニア走査タイプである場合には、Mは5mm程度である。
【0055】
したがって、当該血管の血液中のヘモグロビンの分子数mは、下記式2で与えられる。
【0056】
【数2】

【0057】
式2においてCHbは、ヘモグロビンの血液中のモル濃度を表す。ヘモグロビンの血液中のモル濃度は予め血液検査等により求められる。或いは、このモル濃度は一般的な平均値を採用してもよい。血液検査による一般男性の平均値なヘモグロビン濃度は12〜17g/dlであるとされている。例えば、ヘモグロビン濃度が15g/dlである場合、ヘモグロビンのモル濃度は、ヘモグロビンの分子量64000を考慮して、15g/dl=150g/l=150/64000mol/l=2.34mmol/lとなる。
【0058】
そして、等吸収点における波長(つまり本実施形態では800nm)の測定光を照射して検出した、その断面画像データVを撮った血管からの光音響波の信号強度に基づいて、その血管の光フルエンスが算出される。光フルエンスとは、計測対象の吸収体に供給された光量を意味する。波長800nmにおける光フルエンスは、式3で表される光音響波の信号強度Po(800)、血管の吸収係数μa(800)、血管の直径dおよび光フルエンスF(800)に関する関係式から、式4によって与えられる。
【0059】
【数3】

【0060】
ここで、Γは、熱−音響変換効率を表すグリュナイゼンパラメータであり、熱膨張係数と音速の二乗との積を定圧比熱で割ったものである。Γは、吸収体の材料によって定まる値であるため、体温下での血液の場合の値として予め定められた定数を使用しても良いし、実際に計測して求めても良い。吸収係数μa(800)は血液検査等で予め計測しておく。
【0061】
次に、波長756nmの測定光を照射して検出した、その断面画像データVを撮った血管からの光音響波の信号強度が測定される。ここで、F(756)≒F(800)とすると、下記式5が得られる。
【0062】
【数4】

【0063】
式5からμa(756)が求められると、予め計算された吸光係数μa(756)と酸素飽和度との関係を示すテーブルデータに基づいて、その血管における酸素飽和度が計測される。
【0064】
そして、得られたヘモグロビンの上記分子数mと上記酸素飽和度SpOとから、式6に従って、断面画像データVが撮られた血管における血液中の酸素量VOが算出される。この酸素量VOは、断面画像データVが撮られた瞬間に、断面画像データVが撮られた血管部分に存在する酸素分子の総量に相当する。
【0065】
【数5】

【0066】
さらに、上記式6およびその血管における単位時間当たりの血液の流速Lを用いることにより、式7に従ってその血管における血液中の酸素輸送量TVOを算出することもできる。酸素輸送量TVOは、当該血管の断面を単位時間当たりに通過する酸素量を意味する。なお、流速は生体の何処の部分かで異なる値をとる。したがって、部位や血管深さに応じて当該技術分野において広く知られている代表的な値(動脈:20cm/sec、静脈:12cm/sec、毛細血管:0.07cm/sec)を使用しても良いし、または超音波ドップラー測定器等により計測可能な場合はその実測値を使用しても良い。
【0067】
【数6】

【0068】
例えば、ある特定の血管部分に入る血液の酸素輸送量と出る血液の酸素輸送量を算出した場合には、流速が同一であるという仮定の下では、当該血管部分で消費された酸素量を推定することもできる。
【0069】
また、前述の酸素飽和度の算出方法以外にも、酸素飽和度は、血管の直径dを使用せずに下記のようにして計測することも可能である。測定した光音響波の信号強度Po(756)を信号強度Po(800)で割り、F(756)≒F(800)とすると、下記式8が得られる。
【0070】
【数7】

【0071】
したがって、2つの吸光係数の比μa(756)/μa(800)を基準に、予め計算された吸光係数の比と酸素飽和度との関係を示すテーブルデータに基づいて、その血管における酸素飽和度が計測される。
【0072】
また、酸素量算出手段35は、第2の光音響波の電気信号のピーク位置を自己相関法または微分法により検出し、隣接する2つのピーク位置から上記血管の直径を算出することにより、上記分子数を計測するものであることが好ましい。これにより、上記血管の直径をより正確に算出することができるようになり、ヘモグロビンの上記分子数をより正確に計測することが可能となる。例えば、光音響画像再構成手段25aによって加算整合された光音響データが酸素量算出手段35に送信され、酸素量算出手段35はこの光音響データの波形に対して自己相関法または微分法を適用してピーク位置を検出する。
【0073】
或いは、酸素量算出手段35は、デコンボリューション処理した画像に基づいて上記血管の深さ方向の直径およびこの方向に垂直な方向の直径を算出することにより、上記分子数を計測するものであることが好ましい。これにより、上記血管の断面画像データの面積をより正確に算出することができるようになり、ヘモグロビンの上記分子数をより正確に計測することが可能となる。例えば、光音響画像再構成手段25aによって加算整合された光音響データが酸素量算出手段35に送信され、酸素量算出手段35はこの光音響データの波形でデコンボリューション処理を施した画像を使用して、上記血管の深さ方向の直径d1およびこの方向に垂直な方向の直径d2を算出する。このとき、画像生成の基となる信号に寄与する部分の血管の体積Vdは下記式9で表せられる。
【0074】
【数8】

【0075】
表示手段14は、画像合成手段28により生成された表示画像および酸素量算出手段35により算出された血液中の酸素量を表示する。
【0076】
以上のように、本発明に係る光音響分析装置および光音響分析方法は、血管の断面画像データに基づいて、上記血管における血液中のヘモグロビンの分子数を算出し、第1の光音響波の信号強度および第2の光音響波の信号強度に基づいて、上記血管における血液についての酸素飽和度を算出し、計測された上記分子数および上記酸素飽和度に基づいてその血液中の酸素量を算出するから、光音響分析法を用いた血液中の酸素量測定において、血液中の酸素量のより定量的な計測が可能となる。
【符号の説明】
【0077】
10 光音響撮像装置
11 超音波探触子
12 超音波ユニット
13 レーザ光源ユニット
14 表示手段
21 受信回路
22 AD変換手段
23 受信メモリ
24 データ分離手段
25a 光音響画像再構成手段
25b 超音波画像再構成手段
26a 検波・対数変換手段
26b 検波・対数変換手段
27a 光音響画像構築手段
27b 超音波画像構築手段
28 画像合成手段
33 送信制御回路
34 制御手段
35 酸素量算出手段

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの等吸収点となる第1の波長を有する第1の測定光と、脱酸素化ヘモグロビンが前記第1の波長に対する吸収係数とは異なる吸収係数を示す第2の波長を有する第2の測定光とを被検体に照射する光照射手段と、
前記第1の測定光または前記第2の測定光の照射により前記被検体内で発生した光音響波を検出して該光音響波を電気信号に変換する電気音響変換部と、
血管の長さ方向に垂直な断面における該血管の断面画像データと、前記第1の測定光の照射により発生した前記血管からの第1の光音響波の信号強度と、前記第2の測定光の照射により発生した前記血管からの第2の光音響波の信号強度とに基づいて、前記血管における血液中のヘモグロビンの分子数および酸素飽和度を算出して、該血液中の酸素量を算出する酸素量算出手段とを備えることを特徴とする光音響分析装置。
【請求項2】
前記電気音響変換部によって検出された前記被検体内からの音響波に基づいて断層画像を生成する画像生成部を備え、
前記酸素量算出手段が、前記断面画像データとして、前記血管からの光音響波に基づいて前記画像生成部により生成された光音響画像データを使用するものであることを特徴とする請求項1に記載の光音響分析装置。
【請求項3】
前記電気音響変換部によって検出された前記被検体内からの音響波に基づいて断層画像を生成する画像生成部を備え、
前記電気音響変換部が、前記被検体に超音波を照射するものであり、
前記酸素量算出手段が、前記断面画像データとして、前記血管からの前記超音波の反射波に基づいて前記画像生成部により生成された超音波画像データを使用するものであることを特徴とする請求項1に記載の光音響分析装置。
【請求項4】
前記酸素量算出手段が、前記第2の光音響波の電気信号のピーク位置を自己相関法または微分法により検出し、隣接する2つの前記ピーク位置から前記血管の直径を算出することにより、前記分子数を計測するものであることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の光音響分析装置。
【請求項5】
前記酸素量算出手段が、デコンボリューション処理した画像に基づいて前記血管の深さ方向の直径および該方向に垂直な方向の直径を算出することにより、前記分子数を計測するものであることを特徴とする請求項1から3いずれかに記載の光音響分析装置。
【請求項6】
前記第1の波長および前記第2の波長が、それぞれ795〜805nmおよび755〜765nmであることを特徴とする請求項1から5いずれかに記載の光音響分析装置。
【請求項7】
血管の長さ方向に垂直な断面における該血管の断面画像データに基づいて、前記血管における血液中のヘモグロビンの分子数を算出し、
酸素化ヘモグロビンおよび脱酸素化ヘモグロビンの等吸収点となる第1の波長を有する第1の測定光の照射により発生した前記血管からの第1の光音響波を検出し、
脱酸素化ヘモグロビンが前記第1の波長に対する吸収係数とは異なる吸収係数を示す第2の波長を有する第2の測定光の照射により発生した前記血管からの第2の光音響波を検出し、
前記第1の光音響波の信号強度および前記第2の光音響波の信号強度に基づいて、前記血管における前記血液についての酸素飽和度を算出し、
前記分子数および前記酸素飽和度に基づいて前記血液中の酸素量を算出することを特徴とする光音響分析方法。
【請求項8】
前記断面画像データが、前記血管からの光音響波に基づいて生成された光音響画像データであることを特徴とする請求項7に記載の光音響分析方法。
【請求項9】
前記断面画像データが、前記血管からの超音波の反射波に基づいて生成された超音波画像データであることを特徴とする請求項7に記載の光音響分析方法。
【請求項10】
前記第2の光音響波の電気信号のピーク位置を自己相関法または微分法により検出し、隣接する2つの前記ピーク位置から前記血管の直径を算出することにより、前記分子数を計測することを特徴とする請求項7から9いずれかに記載の光音響分析方法。
【請求項11】
デコンボリューション処理した画像に基づいて前記血管の深さ方向の直径および該方向に垂直な方向の直径を算出することにより、前記分子数を計測することを特徴とする請求項7から9いずれかに記載の光音響分析方法。
【請求項12】
前記第1の波長および前記第2の波長が、それぞれ795〜805nmおよび755〜765nmであることを特徴とする請求項7から11いずれかに記載の光音響分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−48739(P2013−48739A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188656(P2011−188656)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】