説明

光音響振動計

【課題】対象物の変位や振動を検出する光音響振動計を提供する。
【解決手段】本発明の光音響振動計は、第1及び第2の音響波を所定の時間間隔で送信する音響波源1と、前記第1及び第2の音響波が対象物を照射することにより生じた第1及び第2の散乱波をそれぞれ第1及び第2の平面音波に変換する音響レンズ系6と、第1及び第2の平面音波が伝搬する光音響媒質部8と、第1の平面音波が所定の時間に光音響媒質部を伝搬する距離に一致する間隔で位置する2点を照射する少なくとも1つの平面波光束を出射する光源11と、少なくとも1つの平面波光束が、第1及び第2の平面音波によって回折することにより、光音響媒質部においてそれぞれ生成する第1及び第2の回折光を重ね合わせ、重畳した回折光を生成する光重畳部220と、重畳した回折光を集光する結像レンズ系16と、集光された回折光を検出し、電気信号を出力する受像部17とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象物を変位や振動を光および音響波によって検出する光音響撮振動計に関する。
【背景技術】
【0002】
音響波を対象物に照射し、生じた散乱波を光音響媒質部に導入すると、音響波は縦波であるため、光音響媒質部中の媒質に粗密が生じ、屈折率分布を形成する。このため、光音響媒質部中に光を伝搬させると、この屈折率分布の影響を受けた回折光を生成する。つまり、生成した回折光を観測すると、対象物を検出することができる。
【0003】
非特許文献1は、光音響媒質部中に生じた屈折率分布に単色光を照射することによって、Bragg回折光を生成し、対象物を撮像する技術を開示している。具体的には、図22に示すように、非特許文献1は、レーザー1101および超音波振動子1111を用いて対象物1109の像をスクリーン1105に投影する技術を開示している。レーザー1101から出射した単色光光束は、ビームエクスパンダー1102およびアパーチャ1103により、太いビーム径を持つ単色光光束に変換される。単色光光束は、図22に示すようにxyz軸を設定した場合においてx軸に伸びるシリンドリカルレンズ1104(a)、1104(b)、および、y軸に伸びる1104(c)を透過し、スクリーン1105に到達する。このように、3つのシリンドリカルレンズから成る光学系は、光軸1113に対して回転対称でない。
【0004】
シリンドリカルレンズ1104(a)と1104(b)との間に、水1107で満たされた音響セル1108が配置されており、水1107中に対象物1109が配置されている。以下において説明するように、単色光光束が水1107を透過する際に回折光が生じる。生成した回折光は強い非点収差を持っている。このため、生成した回折光の非点収差を補正し、また、スクリーン1105の位置で、xz平面上およびyz平面上において結像させるため、シリンドリカルレンズ1104(a)、1104(b)、1104(c)の焦点距離は互いに異なっている。
【0005】
シリンドリカルレンズ1104(a)は、単色光光束が焦点面1106の位置でxz平面において焦点を結ぶよう焦点距離が選定されている。シリンドリカルレンズによる結像であるため、焦点はx軸に平行な直線である。焦点面1106を通過した光束は焦点面1106よりスクリーン1105側で発散するが、その発散光束はシリンドリカルレンズ1104(b)で収束され、スクリーン1105上で再度焦点を結ぶ。yz平面内においては、ビームエクスパンダー1102通過後の単色光光束は、平行光束のままシリンドリカルレンズ1104(c)に入射する。そして、シリンドリカルレンズ1104(c)の集光作用でスクリーン1105上に焦点を結ぶ。各シリンドリカルレンズの設置位置や焦点距離の選定は、xz平面およびyz平面の両面において光束がスクリーン1105上で結像するように行うこと以外に、対象物1109に相似な画像が、1次回折像1112(a)と−1次回折光1112(b)としてスクリーン1105上に出現するよう行われる。上で述べたように光学系が光軸1113に対して回転対称ではないので、1次回折像1112(a)と−1次回折光1112(b)は歪曲収差を持つ。そこで、シリンドリカルレンズ1104(b)、1104(c)を用いて、回折光の持つ歪曲収差と逆の特性の歪曲収差を有する光学系を構成することによって、回折光の歪曲収差を補正し、対象物1109に相似な画像をスクリーン1105上に生成する。
【0006】
音響セル1108には、信号源1110で駆動される超音波振動子1111が設けられており、超音波振動子1111から水1107を介して対象物1109に単色超音波が照射される。単色超音波とは、音圧が、単一周波数を持つ正弦波状の時間変動を示す超音波を意味する。
【0007】
対象物1109から超音波散乱波が生成し、その散乱波は水1107中における単色光光束の通過領域を伝播する。水中を伝播する超音波の導波モードは粗密波(縦波)であるので、水1107中の音圧分布、すなわち、超音波散乱波に一致した屈折率分布が水1107中に生成される。議論を簡単にするため、まず、対象物1109からの超音波散乱波は、y軸の正方向に向かう平面波であると仮定する。超音波散乱波は単色であるから、ある瞬間において水1107中に生成される屈折率分布は、超音波波長で繰り返される正弦波状の1次元格子となる。したがって、その1次元格子によりBragg回折光(図中では±1次回折光束を表現)が生成される。そして、その回折光はスクリーン1105上で1つの光点として現われる。光点の輝度は、1次元格子の屈折率変化量、すなわち、超音波音圧に比例する。
【0008】
次に、仮定した「超音波散乱波は平面波である」という条件の緩和し、波面が平面ではない超音波散乱波を考える。波面が平面ではない超音波散乱波は、様々な方向から到来する平面波(今の場合、全ての平面波は同一周波数を持つ)の重ね合わせとして表現することができる。このため、波面が平面ではない超音波散乱波が伝搬する水1107を単色光光束が透過する場合、様々な方向から到来する各平面波による回折光の光点がスクリーン1105上に出現する。各光点の強度は各平面波の振幅の大きさに比例し、また、各光点のスクリーン1105上での出現位置は、各平面波の進行方向によって決定される。そのため、スクリーン1105上において1次回折像1112(a)、および、−1次回折像1112(b)として、対象物1109の実像が現われる。スクリーン1105上での光点の集合体が対象物1109の実像とみなせるという点は、回折現象であることを除き、対象物と±1次回折像の関係が、一般の光学カメラにおける対象物と実像の関係とおなじである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】A. Korpel, "Visualization of the cross section of a sound beam by Bragg diffraction of light," Applied Physics Letters, vol.9, no.12, pp.425-427, 15 Dec. 1966.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかし、非特許文献1に開示された技術によれば、対象物の変位や振動を検出することはできない。本発明は、この従来の課題を解決し、対象物の変位や振動を検出する光音響振動計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の光音響振動計は、第1及び第2の音響波を所定の時間間隔で送信する音響波源と、前記第1及び第2の音響波が対象物を照射することにより生じた第1及び第2の散乱波をそれぞれ所定の収束状態の第1及び第2の平面音波に変換する音響レンズ系と、音響レンズ系の音軸を含むように配置され、前記第1及び第2の平面音波が伝搬する光音響媒質部と、前記光音響媒質部中の前記音軸上において、前記第1の平面音波が前記所定の時間に前記光音響媒質部を伝搬する距離に一致する間隔で位置する2点を、前記音軸に対して、非垂直かつ非平行な角度で照射する少なくとも1つの平面波光束を出射する光源と、前記少なくとも1つの平面波光束が、前記第1及び第2の平面音波によって回折することにより、前記光音響媒質部においてそれぞれ生成する第1及び第2の回折光を重ね合わせ、重畳した回折光を生成する光重畳部と、前記重畳した回折光を集光する結像レンズ系と、前記集光された回折光を検出し、電気信号を出力する受像部とを備える。
【0012】
ある好ましい実施形態において、光音響振動計は、前記重畳した回折光および前記電気信号によって表される前記対象物の像の少なくとも一方の歪みを補正する像歪み補正部をさらに備える。
【0013】
ある好ましい実施形態において、前記少なくとも1つの平面波光束のスペクトル幅は10nm未満である。
【0014】
ある好ましい実施形態において、前記音響レンズ系は屈折型音響系である。
【0015】
ある好ましい実施形態において、前記音響レンズ系は、シリカナノ多孔体またはフロリナートによって構成されている。
【0016】
ある好ましい実施形態において、前記音響レンズ系は、少なくとも1つの屈折面と、少なくとも1つの屈折面に設けられた音響波の反射を防止する反射防止膜とを備える計。
【0017】
ある好ましい実施形態において、前記音響レンズ系は反射型音響系である。
【0018】
ある好ましい実施形態において、前記音響レンズ系は2以上の反射面を含む。
【0019】
ある好ましい実施形態において、前記音響レンズ系は、焦点調整機構を含む。
【0020】
ある好ましい実施形態において、前記光源は、前記2点を、前記音軸に対して、非垂直かつ非平行な角度でそれぞれ照射する第1及び第2の平面波光束を出射する。
【0021】
ある好ましい実施形態において、前記光源は、前記2点を、前記音軸に対して、非垂直かつ非平行な角度でそれぞれ照射する1つの平面波光束を出射する。
【0022】
ある好ましい実施形態において、前記光重畳部は、無偏光ビームスプリッターを含む。
【0023】
ある好ましい実施形態において、前記像歪み補正部は、前記重畳した回折光の断面を拡大する光学部材を含む。
【0024】
ある好ましい実施形態において、前記像歪み補正部は、前記重畳した回折光の断面を縮小する光学部材を含む。
【0025】
ある好ましい実施形態において、前記光学部材はアナモルフィックプリズムによって構成される。
【0026】
ある好ましい実施形態において、前記結像レンズ系および前記光学部材の少なくとも一方は、少なくとも1つのシリンドリカルレンズを含む。
【0027】
ある好ましい実施形態において、前記像歪み補正部は、前記電気信号に基づき画像処理を行う。
【0028】
ある好ましい実施形態において、前記光音響媒質部は、シリカナノ多孔体、フロリナートおよび水の少なくとも1つを含む。
【0029】
ある好ましい実施形態において、前記第1及び第2の回折光は、強度比で1/2以上のBragg回折光による成分を含む。
【0030】
ある好ましい実施形態において、前記光源から出射する前記少なくとも1つの平面波光束の光軸は前記音響レンズ系の音軸に対して調整可能である。
【0031】
ある好ましい実施形態において、前記第1及び第2の音響波の送信時刻を制御するトリガ回路をさらに含む。
【発明の効果】
【0032】
本発明の光音響振動計によれば、所定の時間間隔で送信される第1及び第2の音響波を対象物に照射することによって、異なる時刻における散乱波を生成し、音響レンズ系でそれぞれの散乱波を平面音波に変えるとともに光音響媒質部に導入し、それぞれの平面音波に対して光音響媒質部中に生じた屈折率分布による回折光を生成する。生成した2つの回折光を重ね合わせることによって、干渉が得られるため、所定の時間における対象物の変位や移動を検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明よる光音響振動計の第1の実施形態を示す概略的な構成図である。
【図2】(a)は、第1の実施形態において、平面波光束が平面音波によってBragg回折する様子を説明する模式図であり、(b)は、1次元回折格子によるBragg回折条件を説明するための模式図であり、(c)は、第1の実施形態において、Bragg回折により超音波波面上の音圧分布が回折光光束波面上の光振幅分布に転写されることを説明するための模式図である。
【図3】(a)は、第1の実施形態において、回折光201がy方向に歪んでいることを示す図であり、(b)は、第1の実施形態において、像歪み補正部15として用いられるアナモルフィックプリズムの構造を示す図である。
【図4】アナモルフィックプリズムを構成するくさび状プリズムにおける光束の光路を説明するための図である。
【図5】(a)は、光学分野における二重回折光学系の動作を説明するための概念的な図であり、(b)は、第1の実施形態の光音響振動計が二重回折光学系とみなせることを示す図である。
【図6】第1の実施形態の光音響振動計において、対象物の変位に依存した干渉縞が実像に重畳されることを示す説明図である。
【図7】共振している太鼓の皮を対象物として撮影する具体的を説明する図である。
【図8】撮影された太鼓の皮の像を示す図である。
【図9】位置および半径が変化する球を対象物として撮影する具体的を説明する図である。
【図10】撮影された球の像を示す図である。
【図11】(a)は、第1の実施形態における第1及び第2の平面波光束の入射方向を示す図であり、(b)は、他の可能な入射方向を示す図である。
【図12】シリンドリカルレンズの構造を示す図である。
【図13】第1の実施形態において、シリンドリカルレンズより構成され、像歪み補正部と結像レンズ系の作用を兼ね備えた光学系を示す図である。
【図14】本発明よる光音響振動計の第2の実施形態を示す概略的な構成図である。
【図15】第2の実施形態の具体的を説明する模式図である。
【図16】第3の実施形態における音響レンズ系の構成を示す図である。
【図17】第4の実施形態における像歪み補正部15の構成を示す図である。
【図18】第5の実施形態における像歪み補正部15の構成を示す図である
【図19】本発明よる光音響振動計の第6の実施形態を示す概略的な構成図である。
【図20】本発明よる光音響振動計の第7の実施形態を示す概略的な構成図である。
【図21】本発明よる光音響振動計の第8の実施形態を示す概略的な構成図である。
【図22】非特許文献1に記載された装置の構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
(第1の実施形態)
以下、本発明による光音響振動計の第1の実施形態を説明する。図1は、光音響振動計101の構成を概略的に示している。光音響振動計101は、音響波源1と、音響レンズ系6と、光音響媒質部8と、光源11と、光重畳部220と、歪み補正部15と、結像合レンズ系16と、受像部17とを備える。
【0035】
対象物4は、音響波が伝搬することができる媒質3中に配置される。音響波が伝播可能な媒質3とは、例えば、空気、水などである。このほか、媒質3は、体組織や、金属、コンクリートなどの弾性体であってもよい。また、対象物4は、人や動物などの体内器官であってもよい。この場合、媒質3は人や動物の体内組織である。
【0036】
音響波源1および音響レンズ系6は、媒質3中、あるいは、媒質3に接触して配置される。音響波源1から出射した第1及び第2の音響波2a、bが対象物4を照射することにより、対象物4の表面や内部の音響インピーダンス(音速に密度を掛けた量)の非一様な領域で、第1及び第2の音響波2a、2bが反射し、第1及び第2の散乱波5a、5bが生成する。第1および第2の散乱波5a、5bは、音響レンズ系6によって、所定の収束状態、特に第1および第2の平面音波9a、9bに変換され、光音響媒質部8に入射する。光音響媒質部8中を第1及び第2の平面音波9a、9bが伝搬することによって、光音響媒質部8には屈折率分布が生じる。
【0037】
光源11は平面波光束14を出射する。平面波光束14は、ビームスプリッター19によって第1及び第2の平面波光束14a、14bに分割され、光音響媒質部8に入射される。
【0038】
光音響媒質部8の第1及び第2の平面音波9a、9bによる屈折率分布により、第1の及び第2の平面波光束14a、14bが回折し、第1及び第2の回折光201a、201bが生じる。この回折光を、光重畳部220によって重ね合わせ、結像レンズ系16によって、受像部17に集光することにより、対象物4の像18を撮影することができる。像18は、音軸7に垂直で、音響レンズ系6の焦点距離fだけ音響レンズ系6から離れた平面上における、対象物4の弾性係数の2次元分布に相似な画像である。また、以下において詳細に説明するように、第2の音響波2bは第1の音響波2aから所定の時間τ後に送信されるため、得られる像18は、異なる時刻に撮影された2つの対象物4の像を重ね合わせ干渉させたものである。これは、対象物4の時間τにおける音響レンズ系6の音軸7方向への移動または変位情報を示している。
【0039】
1.光音響振動計100の構成
(1)音響波源1
音響波源1は、対象物4に向けて第1及び第2の音響波2a、2bを照射する。第1及び第2の音響波2a、2bは、好ましくは超音波である。第1及び第2の音響波2a、2bのそれぞれは、振幅および周波数が一定である正弦波を複数波分含むパルス波であることが好ましい。波数が多くなるほど光音響媒質部8において生じる回折光の強度が強くなる。図1には示していないが、トリガ回路によって音響波源1が第1及び第2の音響波2a、2bを発生する時刻は正確に制御されている。好ましくは、数ns程度の精度で制御されている。
【0040】
第1及び第2の音響波2a、2bは、平面波であってもよいし、平面波でなくてもよい。好ましくは、第1及び第2の音響波2a、2bは、対象物4の全体、あるいは、対象物4の撮影したい領域を、概ね均一な強度で照射する。つまり、第1及び第2の音響波2a、2bは、撮影したい領域に応じた大きさの照射断面を有していることが好ましい。第1及び第2の音響波2a、2bは、対象物4の表面および内部で反射散乱し、第1及び第2の音響波2a、2bと同一周波数を持つ第1及び第2の散乱波5a、5bが生成する。第1及び第2の音響波2a、2bは、それぞれ正弦波を複数波分含むパルス波であるため、第1及び第2の音響波2a、2bが照射される時間間隔τは、例えば、第1及び第2の音響波2a、2bのそれぞれの正弦波の立ち上がり時刻の差で定義される。時間間隔τは、対象物4の変位や移動をどの程度の時間間隔で観察したいかに依存する。例えば、対象物4が人や動物などの体内器官である場合には、時間間隔τは10μ秒から1mm秒の範囲の値であってもよい。
【0041】
(2)音響レンズ系6
音響レンズ系6は、第1及び第2の散乱波5a、5bをそれぞれ所定の状態に収束させる。具体的には、音響レンズ系6は媒質3中において焦点距離fを有している。音響レンズ系6は、屈折型音響系であってもよいし、反射型音響系であってもよい。本実施形態では、屈折型音響系の音響レンズ系6を用いる。音響レンズ系6が屈折型音響系である場合、少なくとも1つの屈折面を有し、内部を第1及び第2の散乱波5a、5bが透過する音響レンズを含む。音響レンズは、好ましくは、シリカナノ多孔体またはフロリナートなど、音響波の伝播損失が少ない弾性体によって構成される。屈折面における音響波の屈折は、スネルの法則に従い、媒質3および音響レンズを構成する材料における第1および第2の散乱波5a、5bの音速比で定まる角度で、第1及び第2の散乱波5a、5bは屈折する。音響レンズ系6が反射型音響系である場合、音響レンズ系6は、金属やガラスなど、媒質3と音響インピーダンスが大きく異なる材料によって構成される少なくとも1つの反射面を有する。これらの屈折面および反射面は、いずれも光学レンズと同様の形状を有していることによって、第1及び第2の散乱波5a、5bを収束させることができる。
【0042】
また、光学分野においてレンズ屈折面で生じる反射減衰や迷光を低減するために積層される反射防止膜と同様の機能を有する反射防止膜を屈折面に設けてもよい。例えば、媒質3と音響レンズの音響インピーダンスの相乗平均値に等しい音響インピーダンス、および、その音響インピーダンス値における1/4波長(ここでの波長は、第1及び第2の音響波2a、2bを構成する正弦波の周波数における波長をさす)の厚さを有する反射防止膜を屈折面に設けてもよい。
【0043】
対象物4は音響レンズ系6の焦点近傍に位置することが好ましい。光学カメラ等の光学撮像装置と同様、音響レンズ系6の音軸7上において、焦点の位置からずれるに従い、対象物4の像18はぼける。
【0044】
このため、焦点の位置以外の位置にある対象物4の鮮明な像18を得る場合は、対象物4が音響レンズ系6の焦点の位置にくるように、光音響振動計100全体を移動させることが好ましい。光音響振動計100全体を移動させることが困難である場合、あるいは、音響レンズ系6の音軸7方向に光音響振動計100を移動させることが困難である場合、光学式カメラの撮像レンズと同様に、音響レンズ系6は焦点調整機構をさらに備えていてもよい。また、さらに、対象物4に対する像18の大きさを可変にする場合、音響レンズ系6または結像レンズ系16のいずれか一方、あるいは、その両方に焦点距離調整機能(すなわち、ズーム機能)を設けてもよい。
【0045】
対象物4が音響レンズ系6の焦点に位置する場合、音響レンズ系6によって第1及び第2の散乱波5a、5bは、第1及び第2の平面音波9a、9bに変換される。
【0046】
(3)光音響媒質部8
光音響媒質部8は、第1及び第2の平面音波9a、9bに対して伝搬減衰が少なく、かつ、後述の第1及び第2の平面波光束14a、14bに対して透光性を有する等方的弾性体によって構成される。このような弾性体としては、例えば、シリカ乾燥ゲルで形成されたナノ多孔体、フロリナート、水などを好適に用いることができる。像18の画質(特に分解能)の向上のためには、できるだけ低音速な透光性弾性体を適用することが望ましく、シリカナノ多孔体、フロリナートを用いることがより好ましい。
【0047】
光音響媒質部8は、音響レンズ系6によって変換された第1及び第2の平面音波9a、9bが、低損失で光音響媒質部8に入射するように音響レンズ系6に対して配置されていることが好ましく、音響レンズ系6が光音響媒質部8と接合されていことが好ましい。また、接合面での反射による減衰を抑圧するために、接合面には反射防止膜を設けることが好ましい。音響レンズ系6と光音響媒質部とを同じ材料によって構成する場合には、光音響媒質部8の一部(好ましくは媒質3との境界面)に音響レンズ系6を設けてもよい。図1に示すように、第1及び第2の平面音波9a、9bは、音響レンズ系6の音軸7に対して垂直な波面を有し、音軸7に対して平行に光音響媒質部8を伝搬する。
【0048】
上で述べたように、第1及び第2の音響波2a、2bは時間間隔τで送信されるため、第1及び第2の平面音波9a、9bは2つの独立した音波として光音響媒質部8中を伝播する。光音響媒質部8の音速をνとすると、第1及の平面音波9aおよび第2の平面音波9bの光音響媒質部8中における距離はτ×νとなる。
【0049】
(4)音波吸収部10
光音響媒質部8を伝搬した第1及び第2の平面音波9a、9bが光音響媒質部8の端部で反射し、反射した第1及び第2の平面音波9a、9bが、第1及び第2の平面音波9a、9bの検出に影響を与える場合には、光音響媒質部8の端部に音波吸収部10を設けることが好ましい。音波吸収部10は、第1及び第2の平面音波9a、9bを反射や散乱させることなく吸収し、あるいは、減衰させる。音波吸収部10により、音波吸収部10に到達する音波は全て吸収されるため、光音響媒質部8中に存在する音波は一方向へ伝搬する第1及び第2の平面音波9a、9bのみとなる。これにより、反射した第1及び第2の平面音波9a、9bがノイズとして検出され、対象物4の画像の画質が低下するのを抑制することができる。
【0050】
(5)光源11
光源11は、干渉性の高い光束を生成する。「干渉性が高い」とは、光源11から出射する光束の波長、進行方向、および、位相がそろっていること、つまり、コヒーレントな光束であることを意味する。光源11が出射する光束のスペクトル幅(半値幅)は10nm未満であることが好ましい。光源11としては、例えば、He−Neレーザーに代表されるガスレーザーや固体レーザー、外部共振器で狭帯域化された半導体レーザーを用いることができる。光源11は、連続的に光束を出射してもよいし、パルス状の光束であってもよい。光源11から出射する光束の波長は、光音響媒質部8において伝搬損失の少ない波長帯内であることが好ましい。例えば、光音響媒質部8としてシリカナノ多孔体を用いる場合は、600nm以上の波長を有するレーザーを光源11として用いることが好ましい。これにより、明るい像18を得ることができる。光源11は光軸13に平行な干渉性の高い光束を生成する。つまり、光束内の光は、波長および位相が揃っている。
【0051】
光源11から出射する光束は、音軸7に対して、非垂直かつ非平行な角度で光音響媒質部8を照射する。より具体的には、光束は、光音響媒質部8中の音軸7上において、第1の平面音波9aが時間τの間に光音響媒質部8を伝搬する距離、つまりτ×νに一致する間隔で位置する2点P1、P2に到達した第1及び第2の平面音波9a、9bを照射する。2点P1、P2は、光音響媒質部8中の音軸7上においてτ×ν隔てていることが重要であり、2点P1あるいはP2は音軸7上のどこであってもよい。この条件を満たす限り、光源11から出射する光束はどのような状態で光音響媒質部8に入射していてもよい。本実施形態では、2点P1、P2を第1及び第2の平面波光束14a、14bで照射する。
【0052】
このために、本実施形態の光音響振動計は、ビームエクスパンダー12、ビームスプリッター19および平面鏡21を備える。光源11から出射する光束は、まず、ビームエクスパンダー12を通過することにより、よりビーム径の太い平面波光束14に整形される。少なくとも平面波光束14中に光音響媒質部8中を伝搬する第1及び第2の平面音波9a、9bの伝播領域が含まれるよう、ビーム径は設定される。このようなビーム径の調整は、ビームエクスパンダー12のビーム拡大率を選択することによってなされる。ビームエクスパンダー12で十分太いビームを生成し、開口絞り等で生成された光束周辺部を遮蔽することにより、光束断面において均一な光強度を有する平面波光束14を生成することができる。平面波光束14の光束断面における光強度の均一化を図ることにより、より良好な像18を得ることができる。
【0053】
平面波光束14は、ビームスプリッター19を透過することにより、概ね等しい光強度を持ち、かつ、同一断面径を有する第1及び第2の平面波光束14a、14bに分割される。ビームスプリッター19として無偏光ビームスプリッターを好適に用いることができる。無偏光ビームスプリッターは、入射光の偏波に無関係に所望の光強度比で光束を分割する。無偏光ビームスプリッターには、プリズム型、ぺリクル型(薄膜を反射面に用いたもの)、ウェッジ型、平行平板型、反射面に設けられた誘電体多層膜や金属薄膜などがあり、いずれを用いてもよい。
【0054】
図1に示すように、第2の平面波光束14bを平面鏡21で反射させ、平面鏡21およびビームスプリッター19の角度を調整することによって、第1及び第2の平面波光束14a、14bを、互いに平行な状態で光音響媒質部8に入射させることが好ましい。また、第1及び第2の平面波光束14a、14bの光軸23、13および音軸7は同一平面上にあることが好ましい。
【0055】
音軸7と、光軸13および光軸23の交差する角度は等しく、各々90°−θである。ここで、θは、平面波光束の進行方向、すなわち、光軸13および光軸23と、第1及び第2の平面音波9a、9bの波面の成す角度を表す。θは、0°、90°、180°、および、270°を除く任意の角度をとることができる。この角度範囲のθにおいてのみ第1及び第2の平面波光束14a、14bにBragg回折が生じ、第1及び第2の回折光201a、201bが生成する。第1及び第2の回折光201a、201bが回折光201が生じるためのθの具体的な設定方法については後述する。
【0056】
(6)光重畳部220
第1及び第2の回折光201a、201bは、光重畳部220によって重ね合わせられる。本実施形態では、光重畳部220は平面鏡22およびビームスプリッター20を含む。平面鏡22は、第1の回折光201aを第2の回折光201aが透過するビームスプリッター20へ向けて反射し、ビームスプリッター20において、第1及び第2の回折光201a、201bが重ね合わせられる。
【0057】
(7)像歪み補正部15
像歪み補正部15は、光重畳部220によって重ね合わせられた回折光が持っている像の歪みを補正する。本実施形態では、重ね合わせられた回折光の断面を一方向に拡大または縮小することによって、重ね合わせられた回折光に表される像の歪みを補正する。像歪み補正部15の具体的な構成は以下において詳細に説明する。
【0058】
(8)結像レンズ系16、受像部17および画像処理部205
結像レンズ系16は、歪みが補正された回折光を受像部17の受光部に集光する。受像部17はCCDなどの光電変換素子によって構成され、これにより像18が電気信号に変換される。
【0059】
画像処理部205は、受像部17から入力される電気信号に基づき、画像処理を行い、像18を構成する。
【0060】
2.光音響振動計101の動作
次に光音響振動計101の動作を説明する。
【0061】
上述したように、光音響振動計101では、第1及び第2の音響波2a、2bの発射時刻は正確に制御されている。このため、第1の平面音波9aが点P1に到達する時刻には、第2の平面音波9bは点P2に到達する。第1及び第2の音響波2a、2bの発射間隔を1nsの時間精度で制御した場合、50m/sの音速で光音響媒質部8を伝搬する第1及び第2の音響波2a、2bの位置誤差は50nm以内になる。この位置誤差は、例えば、光源11としてHe−Neレーザーを用いた場合、He−Neレーザーの波長633nmに換算して0.079波長に相当する。したがって、第1及び第2の音響波2a、2bの発射時刻を調整することにより、光音響媒質部8中において非常に高い精度で第1及び第2の平面音波9a、9bの位置を制御することができる。
【0062】
このように第1及び第2の平面音波9a、9bの位置を制御することにより、点P1における第1の平面音波9aによる第1の平面波光束14aの回折光と点P2における第2の平面音波9bによる第2の平面波光束14bによる回折光とは同じ条件で生成する。このため、以下では、第1及び第2の平面音波9a、9bを平面音波9と表し、第1及び第2の平面波光束14a、14bを平面波光波204として表し、回折光の生成を説明する。
【0063】
図2(a)は、光音響媒質部8において、平面音波9が平面波光束204の光路を横切る瞬間に、平面波光束204が平面音波9によってBragg回折される様子を模式的に示している。平面音波9は、光音響媒質部8中を伝播する粗密弾性波である。したがって、光音響媒質部8中には、平面音波9の音圧分布に比例した屈折率分布が生成される。上述したように、第1及び第2の音響波2a、2bは単一周波数の正弦波よりなるため、第1及び第2の散乱波5a、5bおよび平面音波9も単一周波数の正弦波である。このため、光音響媒質部8に生成される屈折率分布は、音軸7に平行な方向の周期が平面音波9の波長に等しく、屈折率の大きさが正弦波状に変化し、音軸7に垂直な方向には一様である周期構造となる。
【0064】
このような屈折率分布は、平面波光束204に対して、1次元回折格子として機能する。そのため、平面波光束204が、以下で述べる回折条件を満足する角度θで平面音波9に入射すると回折光201が生じる。この1次元回折格子は格子面が平面であり、かつ、平面波光束204の波面が平面であるので、回折光201は平面波光束となる。
【0065】
光音響振動計101においては、第1及び第2の音響波2a、2bは2周期より十分多い数の正弦波で構成されているため、屈折率分布における粗密の繰り返しも2以上である。したがって、光音響媒質部8に生成される屈折率分布は1次元回折格子とみなせ、平面波光束204はBragg回折により回折する。Bragg回折では、図2(a)に示すように、平面波光束204と回折光201が平面音波9に対して成す角度は等しく、それぞれ角度θである。角度θは、以下で述べるBragg回折条件を満足する離散的な値である。第1及び第2の音響波2a、2bが2周期程度の少数の正弦波で構成される場合は、回折光201は主にRaman−Nath回折により生成される。純粋なRaman−Nath回折は、平面波光束204と回折光201とが平面音波9の波面に対してなす角度が等しくなくても生じる。Bragg回折はRaman−Nath回折より高強度の回折光201を生じるので、より音圧の小さい第1及び第2の散乱波5a、5bを観察することができ、高解像度の像18を得るために寄与する。このため、光音響振動計101では、波数の多い正弦波よりなる第及び第2の音響波2a、2bを用いて、主にBragg回折により生成する回折光201を用いることが好ましい。より好ましくは、回折光201におけるBragg回折光の強度の割合は1/2以上である。このためには、平面音波9は、式(4)で示される波面数Nmin以上の波面を有するパルス状音波であることが望ましい。なお、式(4)において、naoは光音響媒質8の屈折率、λaは光音響媒質8中での音波波長、λoは単色光光源からの出射光の光音響媒質8中での波長を表す。
【0066】
【数4】

【0067】
例えば、光音響媒質8として音速50m/sのナノフォームを適用し、5 MHzの超音波を用いた場合、ナノフォームの屈折率はほぼ1であるので、Nmin=13となる。したがって、この場合、13波以上の波面数からなるパルス状超音波を用いれば、Bragg回折光が主要な回折光成分となる。
【0068】
平面音波9によって生成された屈折率分布による1次元回折格子におけるBragg回折条件を説明する。図2(b)に示すように、平面音波9によって生成された回折格子202の格子間隔は、光音響媒質部8中を伝搬する平面音波9の波長λaに等しい。平面波光束204中の1本の単色光光線を単色光203とする。また、単色光203の波長をλoとする。単色光203が回折格子202に入射した場合、各格子において微弱な散乱光が生成される。隣り合った格子面からの散乱光に着目すると、各格子面で同じ方向に散乱された2光線の光路長差(2×λa×sinθ)が、波長λoの整数倍(m×λ0,m=±1,±2,…)に等しいとき、2つの散乱光は強め合う。この強め合いが他の格子面でも生じるため、全体として高強度の散乱光、すなわち回折光を生じる。以上の理由により、回折光が観測される角度θは式(1)で表される。
【0069】
【数1】

【0070】
式(1)はBragg回折の条件であり、格子面に対する入射光線と出射光線の角度θを規定する。sin-1は逆正弦関数を表す。純粋なBragg回折は、回折格子202が無限数の格子面より構成される場合に生じる回折現象をいう。図2(b)に示すように、格子面に対する入射光線と出射光線の角度は等しくθとなる。Bragg回折では、一般には次数mが小さいものほど高強度の回折光201が得られる。したがって、より弱い第1及び第3の散乱波5a、5bを観測するためにはm=±1の回折光201を用いることが好ましい。図1に示す光音響振動計101において、回折光201はm=+1の回折光を示しているが、m=−1の回折光を用いた光音響振動計101を実現してもよい。
【0071】
図2(c)は、Bragg回折により、平面音波9の波面上での音圧分布が、回折光201の断面における光強度分布に反映されることを説明するための模式図である。図2(c)に示すように、一般に平面音波9は、波面面内で、対象物4の形状等(正確には対象物4の表面の弾性特性)を反映した非一様な音圧分布を有している。光音響媒質部8中の屈折率変化の空間分布は平面音波9の音圧分布に比例するので、回折格子202の格子面上の屈折率変化量の面内分布は非一様である。第1及び第2の音響波2a、2bのパルス継続時間内での対象物4の変位は微小で、静止しているとみなせると仮定する。この場合、回折格子202の格子面上の屈折率分布は、全ての格子面で同一であるので回折格子202は1次元回折格子となり、回折光201は主にBragg回折により生じる。回折光201の振幅(=光強度の1/2乗)は屈折率変化量に比例するので、回折光201の振幅は平面音波9の音圧分布に比例する。したがって、回折光201の波面上の光振幅分布は平面音波9の音圧分布に比例する。つまり、回折光201は、対象物4を直接観察した場合に得られる光と同様、対象物4の形状等を反映した強度分布を有している。
【0072】
図1にもどり、再び光音響振動計100の説明を続ける。上述したように、位置P1、P2において、第1及び第2の回折光201a、201bが生成する。第1の音響波aと第2の音響波2bの生成時刻はτずれているため、第1及び第2の回折光201a、201bは、時間τを隔てた2つの時刻における対象物4の形状を反映した強度分布を有する。対象物4が全く移動あるいは変位していない場合には、第1及び第2の回折光201a、201bは互いにまったく等しい強度分布を有する。
【0073】
図1に示すように、第1及び第2の回折光201a、201bは、平面鏡22およびビームスプリッター20含む光重畳部220によって、重ね合わせられる。第1及び第2の回折光201a、201bの中心位置、および、光束波面全面における波面ずれが、第1及び第2の平面波光束14a、14bの波長で換算して1波長未満となるよう平面鏡22とビームスプリッター20の位置と角度を調整する。像18上に対象物4の変位に無関係な干渉縞が重畳されるのを抑制するためには、上述した中心位置および波面ずれはできるだけ小さいことが好ましい。
【0074】
重畳した回折光201’は像歪み補正部15に入射する。像歪み補正部15の動作について、図3(a)を参照し説明する。図3(a)は、光音響振動計101において回折光201’が1方向に収縮していることを示した模式図である。便宜上、平面音波9によって重畳した回折光201’が生じるとして示している。
【0075】
式(1)からわかるように、回折条件を満足するためには、平面波光束14は平面音波9に対して斜めに入射しなければならない。ここで、平面音波9のビーム形状を直径Lの円形とし、回折光201’の回折角をθ(θの定義はこれまでの説明と同一である)とする。上述したように、平面波光束14は平面音波9を包含するビーム径を持つこと、および、平面音波9の存在する領域においてのみ回折光201’は生成されることから、回折光201’のビーム形状は、図3(a)に記した座標系においてy軸方向に短径L×sinθ、x軸方向に長径Lを持った楕円形となる。すなわち、回折光201’の波面上における光振幅分布は、平面音波9の波面上での音圧分布をy軸方向にsinθ倍した分布に比例する。
【0076】
このため回折光201’をそのまま、結像レンズ系16によって結像し、像18を生成した場合、像18はy軸方向へ歪んだ光学像となり、対象物4と実像18との相似性が失われる。言い換えれば、回折光201’はy軸方向への歪曲収差を有している。そこで、像歪み補正部15により回折光201’の歪みを補正する。
【0077】
本実施形態では、像歪み補正部15はアナモルフィックプリズム301より構成される。図3(b)は、アナモルフィックプリズム301の構成および作用を示した模式図である。図3(b)に示すように、アナモルフィックプリズム301は、2個のくさび状プリズム303を含む。くさび状プリズム303の作用について図4を参照して説明する。図4は、くさび状プリズム303を透過する光線の様子を示した光線追跡図である。くさび状プリズム303は、屈折率nの回折光201に対して透明な材料によって構成され、2つの平面303a、303bを有する。平面303aと平面303bとのなす角度をαとし、平面303aに光束が入射する角度をおよび出射する角度を法線に対してθ1およびθ2とする。また、平面303bから光束が出射する角度を、法線に対してθ3とする。2つの平面303a、303bの法線を含む平面における、平面303aへ入射する光束の幅をLin、平面303bから出射する光束の幅をLoutとする。この時、式(2)の関係が成立する。
【0078】
【数2】

【0079】
また、2つの平面303a、303bの法線を含む平面における入射する光束とくさび状プリズム303から出射する光束のビーム径は異なる。Lout/Linで計算される光束拡大率は式(3)で示される。
【0080】
【数3】

【0081】
式(2)、(3)から分かるように、くさび状プリズム303のα、nおよび角θ1を適切に選択することにより、所望の光束拡大率を実現することができる。光束拡大率は、2つの平面303a、303bの法線を含む平面に垂直な方向では、α、nおよび角θ1にかかわらず、変化しないため、くさび状プリズム303を用いれば、図3(a)に示す回折光201のy軸方向の幅を調整できる。
【0082】
図3(b)に示すように、アナモルフィックプリズム301は、図4に示したくさび状プリズム303を1個以上組み合わせることにより構成される。図3(b)に示すように、2つの同一形状のくさび状プリズム303を用いると、アナモルフィックプリズム301への入射光と出射光を平行にすることができ、光学系調整が容易である。
【0083】
このように、アナモルフィックプリズム301は光束ビーム径の拡大光学系として動作する。光音響振動計100において、くさび状プリズム303のα、nと入射角θ1を選び、図3(b)に示すように回折光201光束をy軸方向に1/sinθ倍拡大する。これにより、直径Lの円形状の光束断面を有する歪み補正後の回折光302が得られる。したがって、歪み補正後の回折光302はその波面上において、平面音波9の波面上における音圧分布に比例した光振幅分布を有する。すなわち、歪み補正後の回折光302は、平面音波9とは波長が異なるものの、平面音波9の波面上の音圧分布を全て光振幅分布として再現しているため、対象物4と相似な像18が生成され得る。
【0084】
図1に示すように、歪み補正後の回折光302は焦点距離Fを持つ結像レンズ系16により集光される。歪み補正後の回折光302は平行光束であるので、結像レンズ系16の光軸上の結像レンズ系16から焦点距離Fを隔てた、光軸に垂直な平面(焦点面)上に回折光302が集光され実像18を形成する。この位置に、受像部17を配置することによって、実像18を電気信号に変換することができる。
【0085】
画像処理部205は、受像部17から入力される電気信号に基づき、画像処理を行い、実像18を構成する。このようにして、光音響振動計は、対象物4を撮影することができる。
【0086】
次に、本実施形態の光音響振動計における、対象物4および像18の大きさの関係を説明する。本実施形態の光音響振動計は、焦点距離f、および、Fを持つ2つの光学レンズより構成される二重回折光学系の変形光学系とみなすことができる。図5(a)に、光学分野における二重回折光学系の動作を説明するための概略図を示す。
【0087】
図5(a)に示す二重回折光学系において、レンズ403とレンズ404は、それぞれ焦点距離fおよびFを有する。両レンズは焦点距離f+Fだけ離れた光軸409上に配置されている。また、両レンズ光軸は光軸409と一致している。一般に、焦点距離flを持つ凸レンズは、レンズを中心としてレンズからfl離れた光軸上の2点に焦点を有する。フーリエ光学によれば、凸レンズの一方の焦点に置かれた物体と、もう一方の焦点における光学像は互いにフーリエ変換の関係にある。したがって、レンズ403による対象物401のフーリエ変換像が、もう1つの焦点面(すなわち、焦点を含み、光軸に垂直な平面)であるフーリエ変換面402に形成される。フーリエ変換面402はレンズ404の焦点面でもあることから、フーリエ変換面402上に形成された対象物401のフーリエ変換像のフーリエ変換像が、レンズ404のもう一方の焦点面に形成される。すなわち、レンズ404のもう一方の焦点面に形成される光学像は、対象物401に2回フーリエ変換を行ったものに相当する。2回フーリエ変換は相似写像(大きさを定数倍し、図形の向きだけを変換する写像)であるので、対象物401の2回フーリエ変換像である実像405は、対象物401と相似な図形となる。なお、実像405は対象物401の反転像としてレンズ404の焦点面に表れ、またレンズ403とレンズ404の焦点距離が異なることより、実像405の大きさは対象物401のF/f倍となる。このように、図5(a)の二重回折光学系においては、対象物401と相似な光学画像が実像405として出現し、CCDなどの撮像素子をレンズ404の実像が形成される方の焦点面に設置すれば、対象物401の撮像ができる。
【0088】
本実施形態の光音響振動計は、2つの光学系の一方が音響系に置き換わっている二重回折光学系とみなせる。図2および図3を参照して説明したように、本実施形態の光音響振動計における第1及び第2の回折光201a、201aの生成、および、像歪み補正部15は、波長λaの平面波である平面音波9の波面上での振幅分布(音圧)を、波長λoの平面波である歪み補正後の第1及び第2の回折光202a、202bの振幅分布(光)に変換(転写)する音響光変換部406とみなすことができる。したがって、本実施形態の光音響振動計は、光学系および音響系が混在する光音響混在型光学系であり、図4(a)に示すレンズ403およびレンズ404を、図4(b)に示すように、音響レンズ系6および結像レンズ系16に置き換え、これら2つのレンズ系の間に、波長をλaからλoに変換する音響光変換部406で音響波から光波に変換することによって、本実施形態の光音響振動計は、は図4(a)に示す二重回折光学系と同様の動作を行う。したがって、フーリエ光学より、図4(b)の光音響混在型光学系においても、図4(a)と同様に、対象物407と相似な光学画像が倒立した実像として結像レンズ系16の焦点面上で得られる。
【0089】
ただし、音響光変換部406の前後で波長はλaからλoに変わる。図4(b)の光音響混在型光学系において、対象物4に対する実像18の大きさは(F×λo)/(f×λa)倍となる。λo/λaが極端に小さい場合、すなわち、平面波光束14の波長に比べ、光音響媒質部8での音響波の波長が非常に長い場合は、F/fを大きくとって(F×λo)/(f×λa)を大きくし、実像18が極端に小さくならないようにすることによって、受像部17で得られる光学画像の分解能が落ちないようにすることが好ましい。
【0090】
次に光音響振動計101において撮影される像18を説明する。上述したように像18は、第1及び第2の平面音波9a、9bで発生した第1及び第2の回折光201a、201bによる光学像が重畳されたものである。第1及び第2の平面音波9a、9bは異なる時刻に発射された第1及び第2の音響波2a、2bによる第1及び第2の散乱波5a、5bに相当するので、像18は異なる時刻における対象物4の光学像が重なっている。対象物4が静止している場合、対象物4の異なる時刻における2つの光学像は一致し、像18は対象物4に相似な光学像となる。しかし、第1及び第2の音響波2a、2bが照射される間に対象物4が移動または変位している場合、像18は対象物4に相似な光学像に加え、変位量に応じた光学的干渉縞が重畳された光学像となる。
【0091】
第1及び第2の音響波2a、2bが照射された時刻において、対象物4は互いに異なる2つの状態であったと仮定する。対象物4の変位速度は十分に緩慢で、第1及び第2の音響波2a、2bを構成するパルス幅に相当する時間では対象物4は静止しているとみなすことができると仮定する。この仮定は、例えば、媒質3中での第1及び第2の音響波2a、2bの音速に比べ、対象物4の変位速度が十分小さい場合に成立する。例えば、体内における器官の運動、より具体的には、体内における心臓壁や動脈血管壁の運動状態を観察する場合、この条件を満足している。
【0092】
図6は、第1及び第2の回折光201a、201bから生成した2つの異なる像が重畳される様子を示している。第1及び第2の平面音波9a、9bが対象物4にそれぞれ到達した時、対象物4は、像141および像142で示される外形であると仮定する。図6では、説明の便宜上、像141は平面であり、像142は図中に付記した座標軸のz軸方向に湾曲した曲面であるとする。像142は頂点において像141に接触している(頂点において、第1及び第2の回折光201a、201bの位相差はゼロ)。また、z軸は結像レンズ系16の光軸に平行であり、z軸方向に測った像141に対する像142の変位量の最大値は、光源11から出射する光束の波長λoに換算して10波長程度であると仮定する。この仮定の下で、焦点ずれによる受像部17面上での像142の劣化は無視できる。従って、図1の像18に相当する重畳後の像146は像141と同様に平面である。これらの仮定は、体内における心臓壁や動脈血管壁の運動状態を観察する場合には成立する。
【0093】
図6に示す、光束143、144は、図1において示す重畳した回折光201’または回折光302に相当する球面波である。これらは、図におけるxy平面において、異なる位置の像点を与える。
【0094】
光束143は、重畳後の像146上の像点147の光量を決定する。図6では像141と像142が一致しているため、重畳された第1及び第2の回折光201a、202bは完全に重なっており位相差はゼロである。従って、重畳される2つの球面波は互いに干渉し、像点147は高い輝度を示す。
【0095】
一方、光束144は第1及び第2の回折光201a、202bを含み、第1及び第2の回折光201a、202b2のz軸方向に測った光路長差145は光源11の光束の波長λoに換算して3/2波長である。このような1/2波長の奇数倍の光路長差145を持つ球面波は互いに逆相にあるために干渉により弱め合う。従って、光束144が光量を決定する重畳後の像146上の像点148の輝度は低下する。
【0096】
このように、重畳後の像146には、対象物4に相似な光学像上に、対象物4の時間τにおける音軸7方向の変位または移動が、その変位量または移動量に応じた輝度によって重畳されている。図6では、y軸方向においては光路長差145が一定でありy軸方向のみ変化するため、重畳後の像146は平面状の実像にx軸に平行な干渉縞が重畳された光学像となる。
【0097】
重畳後の像146の濃淡より、時間τにおける対象物4の変位量の絶対値の分布や、変位量を時間τで割ることにより得られる対象物4の速度の絶対値の分布を求めることができる。図6においては、像点147と像点148の間を結ぶ直線と交差する干渉縞は1.5周期分である。したがって、像点147と像点148における像141と像142の光路長差は1.5λoである。光音響振動計101において、像18上における長さ1.5λoは対象物4上で1.5×f/F×λaに相当する。このことより、時間τにおける像点147と像点148に対応する対象物4上の2点の変位量の差の絶対値を読み取ることが可能であり、1.5×f/F×λaで求められる。
【0098】
なお、像142および像141が頂点において接しない場合、頂点において第1及び第2の回折光201a、201bの位相差はゼロではない。しかし、この場合、像142を構成する第2の回折光201aの位相が全体として同じ位相差で、像141を構成する第1の回折光201bに対してシフトいるだけである。このため、像点147と像点148における像141と像142の光路長差は同様に1.5λoとなる。
【0099】
このように本実施形態の光音響振動計によれば、時間τだけ異なる2つの時刻における対象物の像が重畳された光学像が得られる。この時間τの間に対象物の形状(正確には、弾性係数の空間分布)が変化している場合、重畳される2つのBragg回折光は、形状の変化量(音響波の伝播波長で換算した変化量)に応じた位相差を有している。従って、重畳された光学像は、Bragg回折光の干渉現象により、この位相差に応じた強度変化を伴った像として受像部で検出される。例えば、対象物のある位置における変位量が1/2波長の奇数倍に相当する場合、像上のその位置における光強度は減少し、変位量が1/2波長の偶数倍に相当する場合、像上のその位置における光強度は増大する。このように、受像部で取得される光学像は、対象物の像に対象物の形状の変化量に応じた干渉縞が重畳された画像となる。取得された1つの画像に記録された干渉縞の本数を数えることにより、対象物の形状変化量分布、ならびに、変化速度分布を知ることが可能となる。
【0100】
したがって、本実施形態の光音響振動計は、1回の撮影で、音響波の伝播波長程度の空間分解能で対象物の形状情報を取得し、かつ、形状変化量分布および変化速度分布を取得することができる。このような画像は、2つの回折光を重畳し、撮像素子などどの受像部によって重畳した光を検出することによって得られ、時間τだけ異なる2つの時刻における対象物の像を個別に取得したり、信号処理する必要がない。したがって、本実施形態の光音響振動計は、簡単な構成によって、高速で運動する対象物の変位や移動を、高い空間分解能で計測することが可能である。
【0101】
光音響振動計101により撮影される像18の具体例を説明する。図7に示すように、対象物4として共振している正方形の太鼓の皮191に、スピーカ192送信される単色音波193を照射し、反射する散乱波を、矢印194で示すように太鼓の皮191に対して垂直な方向から検出する。単色音波193の周波数は太鼓の皮191の共振周波数に一致している。したがって、太鼓の皮191は共振し、単色音波193の周波数と同一周波数で単振動を繰り返す。その結果、太鼓の皮191は図19に示したような振幅分布を示す。
【0102】
太鼓の皮191の最大振幅は2.5×f/F×λaであるとする。太鼓の皮191の変位量が全領域でゼロとなる時、および、最大振幅を示す時の2つ時刻において単色音波193を照射する。この時、光音響振動計101により撮影される太鼓の皮191の像18を図8に示す。像18は、正方形の太鼓の皮191に対して縞模様が重畳された実像18となる。
【0103】
なお、光音響振動計101は、音響レンズ系6の音軸7と平行な方向における時間τにおける対象物4の変位や移動に対して高い検出感度を示すが、音軸7に垂直な平面における対象物4の変位や移動を検出感度は低下する。
【0104】
図9に示すように用いられる対象物4が球であり、球の半径および、球の中心位置が時間的に変化して場合を考える。具体的には、点線で示すように、座標の原点に中心が位置し、半径11.11×(f/Fλa)の対象物4が、時間τ後、(−0.56,−0.56,−0.56)×(f/Fλa)の位置に中心が位置し、半径12.07×(f/Fλa)の対象物4’になった場合を考える。
【0105】
第1及び第2の音響波193a、193bの波長をλa、とし、音響レンズ系6および結像レンズ系16の焦点距離をfおよびFとする。第1及び第2の音響波193a、193bは、球の表面でのみ反射し、球内部での反射を考慮しない。また、反射波をx軸の正方向から検出する。
【0106】
図10は、光音響振動計101により撮影される像18を示している。図10に示すように、像18は、対象物4および4’の像と縞模様とを含んでいる。縞模様は、球の右上を中心とし、周囲に向かうに従って間隔が狭くなっている。これは、図9に示すように(1,1,1)方向において、対象物4および対象物4’の表面が最も接近しているためである。また、縞模様は図20中、点線示した対象物4’内のみに現われている。これは、2つの対象物4、4’の像がx軸方向において重なり合う領域においてのみ干渉が起こるためである。つまり、縞模様は、対象物4と対象物4’とx軸方向への変位量を示しており、y方向およびz方向への変位は縞模様として現れない。なお、本計算においては、音響レンズ系6と結像レンズ系16の分解能などの結像特性は考慮していない。従って、実際に得られる像18は、両レンズ系の分解能による影響があるために、図10に示した画像よりも球の輪郭がぼやける。
【0107】
このように本実施形態の光音響振動計によれば、所定の時間間隔で送信される第1及び第2の音響波を対象物に照射することによって、異なる時刻における散乱波を生成し、散乱波による平面音波によって光音響媒質部中に生じた屈折率分布による回折光をそれぞれ生成する。生成した2つの回折光を重ね合わせることによって、干渉が得られるため、所定の時間における対象物の変位や移動を検出することができる。
【0108】
本実施形態では、光音響振動計101の音響レンズ系6の焦点距離は固定されているが、上述したように音響レンズ系6は通常の写真レンズのような合焦機構(焦点調節機構)を有していても良い。音響レンズ系6の焦点が固定されている場合、シャープな像18が得られるのは、音響レンズ系6の焦点面近傍領域(正確には音響レンズ系6の光学特性と受像部17の画素サイズより決定される被写界深度内)に位置する対象物4のみである。そこで、音響レンズ系6の焦点位置を調整し得る機構を音響レンズ系6に設けることにより、対象物4を光軸方向に撮像することが可能となる。このように、合焦機構を設けることにより、三次元領域の撮影が可能となる。
【0109】
また、本実施形態においては、図11(a)に示すように、音波吸収部10から対象物4の方向に傾けて、第1及び第2の平面波光束14a、14bを照射している。しかしながら、図11(b)に示すように、対象物4側から音波吸収部10方向に傾けて第1及び第2の平面波光束14a、14bを照射してもよい。ただし、図11(b)に示すように第1及び第2の平面波光束14a、14bを照射する場合、図11(a)の構成で生成される実像に対して、図11の紙面を鏡像対称面にとした鏡像関係にある実像が得られる。そのため、対象物4の正しい向きの実像18を得るためには、撮影された画像に対して、平面鏡などで1回反射させて光学的に鏡像反転させたり、画像処理部205によって鏡像反転を行う必要がある。
【0110】
また、本実施形態では、像歪み補正部15としてアナモルフィックプリズム301を用いたが、同様の光学的作用を有する他の光学系を用いてもよい。例えば、例えば、2枚の集光型シリンドリカルレンズを用いて像歪み補正部15を構成してもよい。図12に示すように、シリンドリカルレンズ151は、図中に設定した座標系のyz面に平行な面内においては集光レンズとして機能するが、xz平面に平行な平面においては集光作用をもたない光学素子である。図13に示すように、集光作用のある平面が互いに直交した2枚のシリンドリカルレンズ161、162を組み合わせた光学系は、像歪み補正部15と結像レンズ系16の作用を兼ね備えた光学系として機能する。図13に示すように、シリンドリカルレンズ161は、xy平面の光をy軸に平行な直線上に集光し、シリンドリカルレンズ162はyz平面の光をx軸に平行な直線上に集光する。シリンドリカルレンズ161の方がシリンドリカルレンズ162よりも長い焦点距離を有することによって、yz平面とxz平面で異なる比率で結像する光学系として機能する。この光学系を図7(a)に示す座標において、同じ方向に配置すれば、光音響振動計101の像歪み補正部15として好適に機能する。具体的には、図3における光束の扁平率sinθを補正するように、y軸方向とx軸方向の像の比率が1/sinθとなるように、両レンズの焦点距離を選ぶ。より具体的には、シリンドリカルレンズ162の焦点距離が、シリンドリカルレンズ161の焦点距離のsinθ倍になるように選択する。この場合、シリンドリカルレンズ161の焦点距離は、対象物4と実像18の相似比より決定される。
【0111】
(第2の実施形態)
以下、本発明による光音響振動計の第2の実施形態を説明する。図14は、本実施形態の光音響振動計102を模式的に示している。光音響振動計102は、第1及び第2の音響波2a、2bとして超音波を用い、非侵襲的に人や動物等の体内器官を撮像する。図14に示すように、光音響振動計102は、第1の実施形態の光音響振動計101と同じ構成を備えているが、従来の超音波プローブと同様に図1に示した光音響振動計101の全て、あるいは、光源11を除く構成をプローブ213内に備えている。
【0112】
図14に示すようにプローブ213の探触面213aに、音響波源1および音響レンズ系6が配置されている。図14に示すように、撮像時、プローブ213の探触面213aを被検者210の体表面に接触させ、体内から音響波源1から発生した第1及び第2の音響波2a、2bを体内中に送波する。この時、体表面での反射減衰を低減させるために、探触面213aと体表面との間に整合用ジェルやクリーム、音響インピーダンス整合層を介在させ、音響インピーダンスの整合を取ることが好ましい。
【0113】
第1及び第2の音響波2a、2bは、体組織212を伝搬し、器官211において、反射、散乱され、第1及び第2の散乱波5a、5bとなる。第1及び第2の散乱波5a、5bは、音響レンズ系6に到達し、音響レンズ系6により平面波に変換され、第1の実施形態で説明したように器官211の画像を得ることができる。光音響振動計102の音軸7(不図示)に垂直な面内にあり撮像領域外にある器官211の撮像は、従来の超音波プローブと同様に光音響振動計100を体表面で移動させることにより行うことができる。また、体内の異なる深さにある器官は、第1の実施形態で説明したように音響レンズ系6の焦点調整機構によって、焦点距離を調整し、撮影することができる。
【0114】
光音響振動計102を実現し得る具体的な構成例を、図15を参照しながら説明する。
音響波源1から、例えば周波数13.8MHzの正弦波20波により構成されるバースト信号を出射する。このバースト信号の信号継続時間は1.4μsecである。また、体組織212中での音速は約1500m/sであるので、体組織212中における超音波正弦波の波長は約110μmであり、超音波の進行方向に平行に測ったバースト信号の物理的な信号長は約2.2mmである。したがって、この場合、最大で数100kHzの振動数で振動している器官211を数100μmの空間分解能で撮影することができる。
【0115】
光音響媒質部8として、音速50m/sのシリカナノ多孔体を用いる。シリカナノ多孔体は、低音速であり、超音波の伝播波長が短いので大きな回折角が得られる。また、シリカナノ多孔体は、波長633nmのHe−Neレーザー光に対して十分な透光性を有している。このほか、フロリナートも波長633nmのHe−Neレーザー光に対して十分な透光性を有して十分な透光性を有し、フロリナートの音速は約500m/sであるため、光音響媒質部8として適している。
【0116】
光源11として波長633nmのHe−Neレーザーを用いる場合、1次回折光の回折角は5°となる。また、この場合、像歪み補正部15で実現しなければならないビーム拡大率は約5.74で、これは市販のアナモルフィックプリズムで補正可能な値である。
【0117】
体内に照射可能な音響波の音圧には、安全性のため、上限が設けられている。そのため、生成される回折光の光強度が弱く、受像部17としては感度の高いものが望ましい。また、画質や光量の観点から、第1及び第2の平面音波9a、9bが第1及び第2の平面波光束14a、14bをよぎる瞬間の像18を捉えるため、更には、連写によって対象物4の動きを観測するため、受像部17としては高速に撮像できる撮像素子を用いることが好ましい。例えば、受像部17としては、高速のCCDイメージセンサー(Charge Coupled Device Image Sensor)を用いる。実像18の輝度が足りず撮像が困難な場合は、イメージ増倍管を上記イメージセンサーの直前に配置し、像18の輝度を高めるか、または、より高出力の光源11を用いることが好ましい。
【0118】
音響レンズ系6の説明で述べたように、音響インピーダンスの異なる音響媒質間の界面では音響波の反射が生じ、像18の輝度や像質の低下を招く。界面における音響インピーダンス差が大きいほど、反射も大きくなる。このため、図15に示すように、音響レンズ系6と媒質3との界面に反射防止膜を設けことが好ましい。例えば、音響レンズ系6の媒質3(体組織212)に接触するレンズを、音速50m/s、密度0.11g/cm3のシリカナノ多孔体によって構成する場合、6.2μmの厚さを有し、音速340m/s、密度0.2/cm3のシリカナノ多孔体からなる、1/4波長反射防止膜をレンズの表面に形成することが好ましい。
【0119】
受像部17上で、対象物4に比べて1/5の大きさの像18を得る場合、F/f=1.14となる。第1の実施形態で説明したように、対象物4に対する実像18の大きさは(F×λo)/(f×λa)倍であるので、(F×λo)/(f×λa)=1/5の関係式が成立する。そのため、F/f=λa/λo/5となり、光の波長λo=633nmと、音速50m/sのシリカナノ多孔体の13.8MHz超音波の光音響媒質部8中の波長λa=3.6μmを代入すれば、F/f=1.14が得られる。したがって、焦点距離50mmを有する音響レンズ系6を用いる場合、焦点距離57mmの結像レンズ系16を用いることになる(F=1.14×f=1.14×50mm)。
【0120】
図4を参照して説明したように、対象物4に対する実像18の相似比(F×λo)/(f×λa)を大きくする場合、結像レンズ系16の焦点距離が長くする必要があり、光音響振動計102が大型化する。この場合、結像レンズ系16として、例えば、カセグレン光学系に代表される折り返し型反射光学系を用いることによって、この課題を解決することができる。折り返し型反射光学系の適用により、結像レンズ系16と実像18の距離を実際の焦点距離Fよりも近づけて配置することが可能となり、光音響振動計102を小型化することができる。
【0121】
また、音響レンズ系6と結像レンズ系16との距離をf+Fよりも近づけて配置することによっても、光音響振動計102の小型化を図ることができる。図4を参照しながら、光音響振動計101の光音響混在型光学系は、光学分野における二重回折光学系とみなせることを説明した。二重回折光学系の基本構成は、音響レンズ系6と結像レンズ系16を各々レンズの焦点距離の和f+Fだけ離して配置する。しかしながら、音響レンズ系6と結像レンズ系16間の距離をf+F以外の値に設定しても、実像18の光学像形成には影響しない。すなわち、実像18の光学像を光強度分布として取得する限り(あるいは、実像18の位相分布情報を観測しない限り)、音響レンズ系6と結像レンズ系16との距離をf+Fより短縮しても良く、光音響振動計102を更に小型化することができる。
【0122】
本実施形態では、体内から人や動物等の体内器官を撮像する光音響振動計102の例を説明したが、本発明の光音響振動計は、カテーテルや内視鏡、および、腹腔鏡等を通じて体内から器官や血管壁を撮像する光音響撮像として実現してもよい。
【0123】
(第3の実施形態)
本発明による光音響振動計の第3の実施形態を説明する。第3の実施形態の光音響振動計は、音響レンズ系6の構成が異なることを除き第1の実施形態の光音響振動計101と同じである。このため、音響レンズ系6の構成のみを説明する。図16は、本実施形態における音響レンズ系6の構成を示している。
【0124】
第1の実施形態では、音響レンズ系6は全てシリカナノ多孔体で構成されていた。シリカナノ多孔体は、作製条件を調整することにより、シリカナノ多孔体中の超音波などの音響波の音速を広範囲に変えることができるという利点がある。媒質3の音速に対するシリカナノ多孔体の音速の比は、光学系における屈折率に相当する。つまり、シリカナノ多孔体は、様々な(超音波に対する)屈折率を実現しやすいフレキシブルな音響媒質である。そのため、シリカナノ多孔体を音響レンズ系6の構成部材として適用すると、音響波に対する屈折率の広範な選択性のため、音響レンズ系6の設計自由度が広がり、通常の多群構成の光学レンズと同様に各収差を良好に補正し、イメージサークルの広い音響レンズ系6を構成することができる。なお、イメージサークルとは、良好な結像特性が得られる焦点面上の領域を意味する。
【0125】
第1の実施形態の音響レンズ系6はこのような利点を有するが、シリカナノ多孔体同士を接合する必要があり、それに付随した以下に述べる課題が生じる。例えば、音響レンズ系6が単レンズ構成であったとしても、図15に示した具体例のように光音響媒質部8にシリカナノ多孔体を適用する場合には、シリカナノ多孔体同士の接合が必要となる。また、音響レンズ系6が多群レンズ構成であり、光学分野のアクロマートレンズのように張り合わせレンズが必要となる場合にも、シリカナノ多孔体同士の接合が必要となる。
【0126】
シリカナノ多孔体と空気の音響インピーダンスは大きく異なる。したがって、接合面における反射波の生成を抑圧するためには、シリカナノ多孔体同士の接合面間に空気層が挟まれないように作成することが重要である。しかしながら、シリカナノ多孔体の作成プロセス上、空気層を挟まないように接合することは極めて難しい。したがって、第1の実施形態における音響レンズ系6では、接合面における反射波発生を抑圧することが困難である。
【0127】
本実施形態の音響レンズ系6は、このような課題を解決するために、反射型音響系で構成されている。図16は、音軸706を含む平面における音響レンズ系6の断面図である。音響レンズ系6は、音響導波路705と、音響導波路705の内部に設けられた反射面である主鏡702および副鏡701を有する。また、音響導波路705内部に光音響媒質部が形成されている。音響導波路705は、図16の紙面を鏡像対称面とした鏡像対称の構造を有する。図16に示す断面構造を、音軸706を軸として180度回転させる。得られた回転体を、音軸706を含む平面を鏡像対称面として、鏡像対称面を挟み、これに平行な2平面で切断する。これにより、音響導波路705の立体形状が得られる。このような音響導波路705は、例えば、切削加工等で反射面を持った金属製の音響導波路705を作成し、作成した音響導波路中に等方的なシリカナノ多孔体を封入して、光音響媒質部8と音響レンズ系6を一体整形する。このようなプロセスによってシリカナノ多孔体同士の接合部位を全て排除しながらも、収差補正の良好な音響レンズ系6を得ることができる。
【0128】
本発明に好適な反射型光学系の例としては、図16に示しように、凹面鏡である主鏡702と凸面鏡である副鏡701により構成されるカセグレン型光学系がある。更に主鏡702と副鏡701の面形状としてリッチー・クレチアン光学系を適用すれば、短焦点化した際のカセグレン型光学系の残存収差を良好に補正することができ、広いイメージサークルを実現することができる。リッチー・クレチアン光学系には焦点704に像面湾曲が残るので、シリカナノ多孔体の焦点側の界面(反射防止膜703を施してある面)に曲面加工を施して補正レンズとして機能させ、この像面湾曲を補正することができる。反射型光学系として、副鏡701に凹面鏡を使うグレゴリー型光学系や、シュミット・カセグレン型光学系などの他のカタディオプトリック型光学系を用いてもよい。
【0129】
音響レンズ系6として反射型光学系を適用することにより、作成が困難な複数種類のシリカナノ多孔体の接合を行うことなく、単一のシリカナノ多孔体のみで収差が良好に補正された音響レンズ系6を構成できる。音響レンズ系6近傍における反射波発生がないため、高輝度で像質の良い実像18の取得が可能となる。このため本実施形態によれば、より高輝度で高画質な画像を得ることのできる光音響振動計を実現することができる。
【0130】
(第4の実施形態)
本発明による光音響振動計の第4の実施形態を説明する。第4の実施形態の光音響振動計は、像歪み補正部15の構成が異なることを除き、第1の実施形態の光音響振動計101と同じである。このため、像歪み補正部15の構成のみを説明する。図17は、本実施形態における像歪み補正部15の構成を模式的に示している。
【0131】
第1の実施形態では、像歪み補正部15はアナモルフィックプリズムやシリンドリカルレンズを用いた光学系を備えていた。これに対し、本実施形態の像歪み補正部15は、受像部17により得られる実像801の信号に所定の処理を行い、画像処理によって実像801の補正を行う。
【0132】
図17に示すように、本実施形態では、アナモルフィックプリズムやシリンドリカルレンズを用いることなく、歪んだままの回折光201を結像レンズ系16で結像させる。この場合、実像801はy軸方向に歪んでいるが、この状態のまま実像801を受像部17で取得する。画像処理部205は、受像部17から実像801を示す電気信号を受け取り、画像処理により実像801の像歪みを取り除く。例えば、図17に示す座標系において、実像801をy方向に1/sinθ倍する画像処理を行うことによって、対象物4と相似な画像を生成する。
【0133】
本実施形態の像歪み補正部15を用いれば、光音響振動計の構成に必要な光学素子の数を減らすことができるため、音響撮像装置を小型で低コストに提供することが可能となる。
【0134】
なお、回折角θが小さい場合、受像部17の撮像面上では、対象物4が、図7で設定した座標のy軸方向に大きく伸張して撮影される。このため、画像処理後の画像解像度がx軸方向、y軸方向で異なる。この場合、図8に示す、光学的な像歪み補正部15と、本実施形態の画像処理による像歪み補正部15との両方を光音響振動計が備えることにより、x方向およびy方向における画素解像度をほぼ等しくすることが可能となる。
【0135】
また、図7に示した光学的な像歪み補正部15としてアナモルフィックプリズム301を用い、さらに本実施形態の画像処理による像歪み補正部15を用いる場合、多数の回折光201のアナモルフィックプリズム301への入射角度が異なることに起因する像面歪曲が発生するので、その収差補正も本実施形態の画像処理を行うことが好ましい。
【0136】
(第5の実施形態)
本発明による光音響振動計の第5の実施形態を説明する。第5の実施形態の光音響振動計は、像歪み補正部15の構成が異なることを除き、第1の実施形態の光音響振動計101と同じである。このため、像歪み補正部15の構成のみを説明する。図18は、本実施形態における像歪み補正部15の構成を模式的に示している。回折光の回折角をθ(θの定義はこれまでの説明と同一である)とした場合、本実施形態の像歪み補正部15は、図18に示す座標のx軸方向に回折光201の光束幅をsinθ倍する縮小光学系901を含む。平面音波9の音束の断面形状が直径Lの円形であるとすると、回折光201の光束の断面形状は、x軸方向にL、y軸方向にL×sinθの楕円となる。縮小光学系901により、回折光201はx軸方向にsinθ倍されるため、歪み補正後の回折光902の光束の断面形状は、直径L×sinθの円形となる。第1及び第2の実施形態では、像歪み補正部15は回折光201を直径Lの光束に補正していたが、本実施形態では直径L×sinθの光束に補正する。
【0137】
第1の実施形態と同様に、本実施形態においても、音響レンズ系6の焦点距離をf、結像レンズ系16の焦点距離をF、超音波である平面音波9の波長をλa、単色光である平面波光束14の波長をλo、そして、回折角をθとする。このとき、歪み補正後の回折光902の光束断面形状は円形になるため、実像18は対象物4と相似となる。また、フーリエ光学によれば、その相似比は(λa×f)/(λo×F)×sinθとなる。ところが、(式1)の関係があるので、回折光201が+1次回折光である場合、相似比は1/2×(f/F)となる。
【0138】
このように、縮小光学系901によって、相似比が超音波と単色光の波長に依存しなくなるため、例えば、f/F=2となるよう音響レンズ系6および結像レンズ系16の焦点距離比を選べば、対象物4と同じ大きさの実像18が得られ、高分解能で対象物4の画像を取得することが可能となる。さらに、fを短くすればFも短くなるため、光音響振動計の小型化もはかることが可能となる。更に、歪み補正後の回折光902の光束が細くなることから、結像レンズ系16の開口径が小さくなり、装置全体が小型化されると共に、結像レンズ系16に高い面精度が必要ではなくなる。
【0139】
第1および第2の実施形態では、対象物4に対する実像18の相似比は(F×λo)/(f×λa)であった。図15に示した具体例で述べたように、実際には単色光波長λoに比べ超音波波長λaがかなり長いため、大きな実像18を得るためには焦点距離の非常に長い結像レンズ系16が必要となる。このため、光音響振動計100が大型化するか、あるいは、特殊な光学系構成の結像レンズ系16を用いる必要がある。これに対し、本実施形態によれば、像歪み補正部15として縮小光学系901を用いることによって、小開口径で短い焦点距離の結像レンズ系16を用いなが、実像18を高解像度で撮影することが可能となり、かつ、光音響振動計の小型化が可能となる。
【0140】
なお、本実施形態では、縮小光学系901がアナモルフィックプリズムで構成されているが、同様な作用を有する他の縮小光学系を用いてもよい。
【0141】
また、本実施形態では、平面音波9の音束断面形状が直径Lの円形である場合、光束断面形状が直径L×sinθの円形状の歪み補正後の回折光902を得ている。しかし、歪み補正後の回折光902の光束断面形状がC×L(ただし、C<1)の円形になるように矯正しても、結像レンズ系16の焦点を短くし、撮影の解像度を高められる。例えば、2つの像歪み補正部15を設け、図18に示す座標において、x軸方向に対しては縮小光学系を、y軸方向に対しては拡大光学系を用いてもよい。具体的には、x軸方向のビーム縮小率、y方向のビーム拡大率を選び、歪み補正後の回折光902の光束断面形状がC×L(ただし、C<1)の円形になるようにすればよい。
【0142】
また、本実施形態の像歪み補正部15と第4の実施形態の像歪み補正部15とを備えた光音響振動計を実現してもよい。歪み補正後の回折光902の光束断面形状が図17で設定した座標系において、x軸方向にはC×L(ただし、C<1)、y軸方向にはL×sinθの楕円形状となるよう縮小光学系901のビーム縮小率を設定する。これにより、撮影された画像の分解能を結像レンズ系16の焦点面上によらずほぼ等しくすることができる。
【0143】
(第6の実施形態)
図19を参照しながら、本発明による光音響振動計の第6の実施形態を説明する。図19に示す第6の実施形態の光音響振動計106は、角度調整部1302および角度調整部1303をさらに備えている点で第1の実施形態の光音響振動計101と異なる。このため、本実施の形態の説明において、第1の実施形態と同一の構成要素には同じ参照符号を付し、他の構成要素の説明は省略する。
【0144】
図19に示すように、光源11、ビームエクスパンダー12、ビームスプリッター19、および、平面鏡21より構成される光学系を、光束生成光学系1304とする。また、ビームスプリッター20、平面鏡22、像歪み補正部15、結像レンズ16、および、受像部17より構成される光学系を、回折光結像光学系1305とする。光軸1301は、第2の回折光201bの光束の中央を通り、進行方向に平行な直線である。
【0145】
光音響振動計106は、音軸7に対して光束生成光学系1304の光軸13のなす角度を調整する角度調整部1302と、音軸7に対して回折光結像光学系1305の光軸1301のなす角度を調整する角度調整部1303とを備える。角度調整部1302および角度調整部1303は連動しており、音軸7と光軸13の成す角度と、音軸7と光軸1301の成す角度が等しくなるよう角度調整される。
【0146】
第1の実施形態で説明したように、第1及び第2の音響波2a、2bを構成する正弦波の周波数と、光源11の光束の波長から、音軸7に対する回折光201の回折角90°−θが決定される。光音響振動計102は、第1及び第2の音響波2a、2bの周波数が変わっても、角度調整部1302および角度調整部1303によって回折角に一致するように光軸13、1303の音軸7に対する角度を調整できる。これにより、これにより、まず低周波音響波で大まかに対象物4を撮影し、次に高周波音響波を用いて細部まで高精細に対象物4を撮影することができる。これにより、撮像時間の短縮を図ることができる。
【0147】
(第7の実施形態)
図20を参照しながら、本発明による光音響振動計の第7の実施形態を説明する。図20に示す第7の実施形態の光音響振動計107は、平行移動部1703および平行移動部1704をさらに備えている点で第1の実施形態の光音響振動計101と異なる。このため、本実施の形態の説明において、第1の実施形態と同一の構成要素には同じ参照符号を付し、他の構成要素の説明は省略する。
【0148】
本発明の光音響振動計を用いて、対象物4の正確な変位量の計測するためには、対象物4の形状や変位を正しく反映した像18を生成し、取得することが好ましい。第1〜第6の実施形態では、第1及び第2の平面音波9a、9bが、同時かつ正確に、第1及び第2の平面波光束14a、14bが照射している領域に位置するよう、第1及び第2の音響波2a、2bの生成時刻を制御していた。
【0149】
しかし、対象物4の変位や移動が周期的であり、その周期の整数倍が第1及び第2の音響波2a、2bの送信時間間隔に一致する場合、第1及び第2の音響波2a、2bが対象物4に到達するときの対象物4の変位または移動位置は等しくなり、生成した像18には変位状態を示す干渉縞は現れない。つまり、対象物4の変位量分布や速度分布を観測することはできない。
【0150】
本実施形態の光音響振動計107は、このような場合でも、対象物4の変位量分布や速度分布を観測することができる。このために、光音響振動計107は、平行移動部1703および平行移動部1704を備える。平行移動部1703は、ビームスプリッター19を平面波光束14の光軸1701に平行に移動させることにより、第1の平面波光束14aの照射位置を調整する。また、平行移動部1704は、平面鏡22からビームスプリッター20へ向かう第1の回折光201aの光軸1702に平行に平面鏡22を移動させることにより、第1の回折光201aの生成位置がシフトしても、第1の回折光201aを正しくビームスプリッター20へ入射させることができる。
【0151】
これにより、第1及び第2の音響波2a、2bの送信間隔τが対象物4の変位や移動の周期の整数倍と一致しないように、送信間隔τを決定し、決定したτに応じて、第1の平面波光束14aの光音響媒質部8への入射位置を変える。これにより、対象物4の変位量分布や速度分布を正しく観測することができる。
【0152】
(第8の実施形態)
図21を参照しながら、本発明による光音響振動計の第8の実施形態を説明する。図21に示す第8の実施形態の光音響振動計108は、第1及び第2の平面波光束14a、14bに代えて1つの平面波光束14を光音響媒質部8に入射させる点で第1の実施形態の光音響振動計101と異なる。このため、本実施の形態の説明において、第1の実施形態と同一の構成要素には同じ参照符号を付し、他の構成要素の説明は省略する。
【0153】
第1の実施形態では、第1及び第2の平面波光束14a、14bを光音響媒質部8に入射させていたが、上述したように、τ×νに一致する間隔で位置する2点P1、P2に到達した第1及び第2の平面音波9a、9bを同時に照射する光源11であればよい。
【0154】
このために、光音響振動計108は、大きなビーム拡大率を持ったビームエクスパンダー12を用いて太いビーム径を有する平面波光束14を生成する。生成した平面波光束14を例えば、平面鏡21で反射させ、2点P1、P2に到達した第1及び第2の平面音波9a、9bを同時に照射する。平面鏡21を用いず、直接平面波光束14を光音響媒質部8に入射させてもよい。
【0155】
光音響媒質部8中において、第1及び第2の平面音波9a、9b平面音波9の存在する領域でのみ回折光が生じるので、このような光束を用いても、第1の実施形態と同様、第1及び第2の回折光201a、201bを生成することができる。よって、第1の実施形態と同様、対象物4の変位量分布や速度分布を正しく観測することができる。
【0156】
本実施形態によれば、ビームスプリッター19が不要であるため、ビームスプリッター19の位置を調整しなくてもよい。また、2点P1、P2に到達した第1及び第2の平面音波9a、9bを同時に照射することができれば、2点P1、P2の位置が正確にわかっていなくても、第1及び第2の回折光201a、201bを生成することができる。こんため、本実施形態によれば、光音響振動計101の構成を簡単にすることができ、また、光学系の調整を簡単にすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0157】
本発明の光音響振動計は、音響波による像を光学画像として取得することができるため、超音波診断装置用のプローブ等として有用である。また、振動物体から放射される音響波を光学画像として観察できるので非破壊振動測定装置等の用途にも応用できる。さらに、微小な周期運動を非接触で測定する非接触振動計や、振動の面内分布を測定する振動モード解析装置としても利用できる。
【符号の説明】
【0158】
1 超音波波源
2a 第1の音響波
2b 第2の音響波
3 媒質
4 対象物
5a 第1の散乱波
5b 第2の散乱波
6 音響レンズ系
7 音軸
13、23、706、1301、1701、1702 光軸
8 光音響媒質部
9a 第1の平面音波
9b 第2の平面音波
10 音波吸収部
11 光光源
12 ビームエクスパンダー
14a 第1の平面波光束
14b 第2の平面波光束
204 平面波光束
15 像歪み補正部
16 結像レンズ系
17 受像部
18、141、142、405、408、801 像
19、20 ビームスプリッター
21、22 平面鏡
101、400 光音響振動計
143、144 光束
145 光路長差
146 重畳後の実像
147、148 像点
151、161、162 シリンドリカルレンズ
191 太鼓の皮
192 スピーカ
193 単色音波
194 撮影方向
201a 第1の回折光
201b 第2の回折光
202 回折格子
203 単色光
301 アナモルフィックプリズム
302、902 歪み補償後の回折光
303 くさび状プリズム
401、407 物体
402 フーリエ変換面
403、404 レンズ
406 音響光変換部
701 副鏡
702 主鏡
703 反射防止膜
704 焦点
705 音響導波路
901 縮小光学系
1302、1303 角度調整部
1304 光束生成光学系
1305 回折光結像光学系
1703、1704 平行移動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1及び第2の音響波を所定の時間間隔で送信する音響波源と、
前記第1及び第2の音響波が対象物を照射することにより生じた第1及び第2の散乱波をそれぞれ所定の収束状態の第1及び第2の平面音波に変換する音響レンズ系と、
音響レンズ系の音軸を含むように配置され、前記第1及び第2の平面音波が伝搬する光音響媒質部と、
前記光音響媒質部中の前記音軸上において、前記第1の平面音波が前記所定の時間に前記光音響媒質部を伝搬する距離に一致する間隔で位置する2点を、前記音軸に対して、非垂直かつ非平行な角度で照射する少なくとも1つの平面波光束を出射する光源と、
前記少なくとも1つの平面波光束が、前記第1及び第2の平面音波によって回折することにより、前記光音響媒質部においてそれぞれ生成する第1及び第2の回折光を重ね合わせ、重畳した回折光を生成する光重畳部と、
前記重畳した回折光を集光する結像レンズ系と、
前記集光された回折光を検出し、電気信号を出力する受像部と、
を備える光音響振動計。
【請求項2】
前記重畳した回折光および前記電気信号によって表される前記対象物の像の少なくとも一方の歪みを補正する像歪み補正部をさらに備える請求項1に記載の光音響振動計。
【請求項3】
各単色光のスペクトル幅は10nm未満である請求項2に記載の光音響振動計。
【請求項4】
前記音響レンズ系は屈折型音響系である、請求項1から3のいずれかに記載の光音響振動計。
【請求項5】
前記音響レンズ系は、シリカナノ多孔体またはフロリナートによって構成されている請求項4に記載の光音響振動計。
【請求項6】
前記音響レンズ系は、少なくとも1つの屈折面と、少なくとも1つの屈折面に設けられた音響波の反射を防止する反射防止膜とを備える請求項5に規定の光音響振動計。
【請求項7】
前記音響レンズ系は反射型音響系である請求項1から3のいずれかに記載の光音響振動計。
【請求項8】
前記音響レンズ系は2以上の反射面を含む請求項6に記載の光音響振動計。
【請求項9】
前記音響レンズ系は、焦点調整機構を含む、請求項1から8のいずれかに記載の光音響振動計。
【請求項10】
前記光源は、前記2点を、前記音軸に対して、非垂直かつ非平行な角度でそれぞれ照射する第1及び第2の平面波光束を出射する請求項1から9のいずれかに記載の光音響振動計。
【請求項11】
前記光源は、前記2点を、前記音軸に対して、非垂直かつ非平行な角度でそれぞれ照射する1つの平面波光束を出射する請求項1から9のいずれかに記載の光音響振動計。
【請求項12】
前記光重畳部は、無偏光ビームスプリッターを含む請求項1から11のいずれかに記載の光音響振動計。
【請求項13】
前記像歪み補正部は、前記重畳した回折光の断面を拡大する光学部材を含む請求項1から12のいずれかに記載の光音響振動計。
【請求項14】
前記像歪み補正部は、前記重畳した回折光の断面を縮小する光学部材を含む請求項1から12のいずれかに記載の光音響振動計。
【請求項15】
前記光学部材はアナモルフィックプリズムによって構成される請求項13または14に記載の光音響振動計。
【請求項16】
前記結像レンズ系および前記光学部材の少なくとも一方は、少なくとも1つのシリンドリカルレンズを含む請求項13から15のいずれかに記載の光音響振動計。
【請求項17】
前記像歪み補正部は、前記電気信号に基づき画像処理を行う請求項1から15のいずれかに記載の光音響振動計。
【請求項18】
前記光音響媒質部は、シリカナノ多孔体、フロリナートおよび水の少なくとも1つを含む請求項1から17のいずれかに記載の光音響振動計。
【請求項19】
前記第1及び第2の回折光は、強度比で1/2以上のBragg回折光による成分を含む請求項1から請求項18のいずれかに記載の光音響振動計。
【請求項20】
前記光源から出射する前記少なくとも1つの平面波光束の光軸は前記音響レンズ系の音軸に対して調整可能である請求項1から18のいずれかに記載の光音響振動計。
【請求項21】
前記第1及び第2の音響波の送信時刻を制御するトリガ回路をさらに含む請求項1から20のいずれかに記載の光音響振動計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【公開番号】特開2013−101079(P2013−101079A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−245766(P2011−245766)
【出願日】平成23年11月9日(2011.11.9)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】