説明

光音響画像化装置および光音響画像化装置の故障検知方法

【課題】光を伝搬させる光ファイバの先端部および圧電素子が配置されてなるプローブを備えた光音響画像化装置において、光ファイバの断線や劣化を効率良く検知できるようにする。
【解決手段】光を伝搬させる光ファイバ130の先端部および圧電素子131が配置されてなるプローブ103を備えた光音響画像化装置において、圧電素子131の焦電性による出力電圧の変化を検出する手段を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光音響画像化装置すなわち、生体組織に光を照射し、光照射に伴って発生する音響波に基づいて生体組織を画像化する装置に関するものである。
【0002】
また本発明は、その種の光音響画像化装置において故障を検知する方法に関するものである。
【背景技術】
【0003】
従来、例えば特許文献1や非特許文献1に示されているように、光音響効果を利用して生体の内部を画像化する光音響画像化装置が知られている。この光音響画像化装置においては、例えばパルスレーザ光等のパルス光が生体内に照射される。このパルス光の照射を受けた生体内部では、パルス光のエネルギーを吸収した生体組織が熱によって体積膨張し、音響波(音響信号)を発生する。そこで、この音響波を超音波プローブなどで検出し、その検出信号に基づいて生体内部を可視像化することが可能となっている。
【0004】
そのような光音響画像化装置においては、特許文献1にも記載されているように、光を伝搬させる複数の光ファイバの先端部および圧電素子が1次元あるいは2次元に配列されてなるプローブ(探触子)を用いることが考えられている。その種のプローブにおいては、複数の光ファイバの先端部から生体組織に向けてレーザ光等の光が射出され、この光を受けた生体組織から発生した音響波が複数の圧電素子によって検出されるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−21380号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】A High-Speed Photoacoustic Tomography System based on a Commercial Ultrasound and a Custom Transducer Array, Xueding Wang, Jonathan Cannata, Derek DeBusschere, Changhong Hu, J. Brian Fowlkes, and Paul Carson, Proc. SPIE Vol. 7564, 756424 (Feb.23, 2010)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上述の光ファイバは、レーザ光源等の光源からプローブまで光を伝搬させるものであるが、プローブの使用を重ねるうちに断線したり、あるいは劣化したりする可能性がある。光ファイバがそのような状態になったまま光音響画像を取得すると、断線あるいは劣化した光ファイバの近くではその他の部分と比べて、生体組織に対する照射光量が落ちるので、得られる光音響画像は生体組織の状態を不正に示すものとなってしまう。しかし従来の光音響画像化装置では、このような光ファイバの断線あるいは劣化を効率良く検知する対策は施されていなかった。
【0008】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、レーザ光等の光を伝搬させる光ファイバの断線あるいは劣化を効率良く検知することができる方法、およびその方法を実施可能な光音響画像化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明による光音響画像化装置の故障検知方法は、前述したように、光を伝搬させる光ファイバの先端部および圧電素子が配置されてなるプローブを備えた光音響画像化装置において、圧電素子の焦電性による出力電圧の変化に基づいて光ファイバの断線あるいは劣化を検知することを特徴とするものである。
【0010】
また、上記の方法を実施する本発明の光音響画像化装置は、前述したように、光を伝搬させる光ファイバの先端部および圧電素子が配置されてなるプローブを備えた光音響画像化装置において、圧電素子の焦電性による出力電圧の変化を検出する手段が設けられたことを特徴とするものである。
【0011】
本発明の光音響画像化装置においては、検出された上記出力電圧の変化を表示する手段が設けられることが望ましいが、それに限らず、この出力電圧の変化が光ファイバの断線や劣化を示すものであったらその旨を示す警報手段を設けるようにしてもよい。
【0012】
また本発明は、光ファイバの先端部および圧電素子がそれぞれ複数、1次元あるいは2次元に配列されてなるプローブを備えた光音響画像化装置に対して適用されるのがより好ましい。また、そうする場合は、検出された圧電素子の出力電圧の変化を、光ファイバの先端部の配列状態と対応させる形で表示する手段が設けられるのが望ましい。
【発明の効果】
【0013】
ピエゾ素子等の圧電素子は、本来、検知した圧力に応じた電圧信号を出力するが、その焦電性により、光を受けた際にも出力電圧のレベルが変化する。そして光音響画像化装置のプローブにおいては、複数の光ファイバの先端部から生体組織に向けて光を射出させたとき、その光が生体表面等で反射、散乱して圧電素子に入射する。このように入射する光は、生体組織において発生した音響波よりも早く圧電素子に到達するので、焦電性による圧電素子の出力電圧変化は、音響波検出による出力電圧変化よりも早いタイミングで生じる。このタイミングの違いを利用すれば、圧電素子の焦電性による出力電圧の変化を、音響波検出による出力電圧変化と弁別して検出可能となる。
【0014】
光ファイバが例えば1本だけ配置されている場合について考えると、光ファイバが劣化してそこからの射出光量が落ちた場合は、光ファイバが正常な場合と比べて、圧電素子の焦電性による出力電圧の変化はより小さくなる。そこで、この出力電圧の変化を継続的に検出し続ければ、それが低下したことにより光ファイバが劣化したと判断可能になる。
【0015】
また、複数の光ファイバの先端部および圧電素子が1次元あるいは2次元に配列されている場合について考えると、断線あるいは劣化した光ファイバの近くでは、その他の部分と比べて、生体に対する照射光量が低下する。そこで、前述のように生体表面等で反射、散乱して圧電素子に入射する光の光量も少ないものとなる。したがって、圧電素子の焦電性による出力電圧の変化は、断線あるいは劣化した光ファイバの近くの圧電素子では、その他の圧電素子における電圧変化とは異なったもの(具体的には、電圧変化が小さくなる)となる。そこで、複数の圧電素子の焦電性による出力電圧の変化に基づいて、断線あるいは劣化した光ファイバを特定することが可能になる。
【0016】
そして本発明の光音響画像化装置においては、光ファイバの断線あるいは劣化を、本来光音響画像の取得のために利用される圧電素子の出力電圧信号を用いて検知しているので、この検知は極めて効率良く行われ得る。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態による光音響画像化装置の概略構成を示すブロック図
【図2】図1の装置に用いられたレーザ光源とその周辺の機器を示す平面図
【図3】図1の装置に用いられた超音波探触子を示す斜視図
【図4】超音波探触子と信号取込み部との接続例を示すブロック図
【図5】超音波探触子の圧電素子の出力信号波形の例を示すグラフ
【図6】複数の光ファイバおよび圧電素子の配置状態と、圧電素子の出力信号波形との関係の一例を示す概略図
【図7】複数の光ファイバおよび圧電素子の配置状態と、圧電素子の出力信号波形との関係の別の例を示す概略図
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による光音響画像化装置の基本構成を示すブロック図である。この光音響画像化装置100は、レーザドライバ101、レーザ光源102、超音波探触子(プローブ)103、領域選択部104、光照射検出部105、同期補正処理部106、信号取込み部107、素子データメモリ108、画像構築部109、画像メモリ110、画像表示部111および光シャッタ150を有している。
【0019】
レーザ光源102は、被検体である生体組織に照射するレーザ光を射出するもので、光音響画像化装置100が稼働している間、常時駆動可能なものが用いられる。レーザドライバ101は、上記レーザ光源102を駆動するものである。また光シャッタ150は、レーザ光源102から射出されたレーザ光を常時は遮断し、光音響画像の取得時には短時間の間該レーザ光を通過させるものである。
【0020】
超音波探触子103は、複数ch(チャンネル)の圧電素子を有する。それらの圧電素子は、生体組織の画像化する範囲に対応させて、例えば192個一列に並べて設けられている。この超音波探触子103は、レーザ光源102から生体組織にパルスレーザ光が照射されたとき該生体組織内から生じる音響信号(超音波)を検出し、その音響信号を電気信号に変換して出力する。
【0021】
超音波探触子103の複数の圧電素子に対応する範囲、つまり生体組織の画像化される範囲は、互いに重ならない複数の部分領域に分けられている。本実施形態においてこの部分領域は、後に詳述するように例えば領域A、領域Bおよび領域Cの3つとされている。各部分領域の幅は、信号取込み部107が並列にサンプリング可能な信号数と同数の圧電素子に対応する幅となっている。本例において、信号取込み部107は64ch分のデータを並列にサンプリング可能とされている。そこで、領域A、領域B、および領域Cの各領域は、64個の圧電素子に対応した幅となる。
【0022】
領域選択部104は、上記3つの部分領域のうちの1つを選択するものであり、その選択情報をレーザドライバ101および超音波探触子103に通知する。レーザドライバ101は、少なくとも選択された部分領域を含む範囲にパルスレーザ光を照射するようにレーザ光源102を駆動する。一方、超音波探触子103は、図示しないマルチプレクサなどを用いて、選択された部分領域に対応する圧電素子を信号取込み部107に接続させる。信号取込み部107は、部分領域にパルスレーザ光が照射された後、接続された圧電素子が出力する電気信号(音響信号データ)を所定の計測期間にわたって複数回サンプリングし、サンプリングしたデータを素子データメモリ108に格納する。
【0023】
領域選択部104は、選択した部分領域に対応する圧電素子からの音響信号データが素子データメモリ108に格納されると、次の部分領域を選択する。こうして領域選択部104は、生体組織の画像化する範囲すべてが選択されるまで、部分領域を順次選択する。領域選択部104が部分領域を順次選択することで、素子データメモリ108には、超音波探触子103の全圧電素子からの音響信号データが素子データメモリ108に格納される。つまり、領域選択部104が領域A、領域B、領域Cを順次選択し、信号取込み部107が各領域についてN回サンプリングすれば、素子データメモリ108には計(192×N)ch分の音響信号データが格納されることになる。
【0024】
信号取込み部107は、超音波探触子103からの電気信号を素子データメモリ108に格納する。信号取込み部107は、超音波探触子103が出力する上記電気信号を所定の計測期間にわたって複数回サンプリングし、それにより得られたサンプリングデータを素子データメモリ108に格納する。この信号取込み部107は、例えば微小信号を増幅するプリアンプや、アナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器を含んで構成されている。信号取込み部107が、並列に取り込める信号の数つまりch(チャンネル)数は、超音波探触子103が有する圧電素子の総数よりも少ない。例えば本実施形態では、超音波探触子103は一例として192個の圧電素子を有するのに対して、信号取込み部107が並列に取り込み可能なch数は64とされている。
【0025】
次に図2〜4を参照して、上記構成についてさらに詳しく説明する。レーザ光源102は図2に示す通り、Nd:YAG/SHGレーザ200および、このNd:YAG/SHGレーザ200から発せられたレーザ光250によって励起されるTi:サファイアレーザ300の2つの固体レーザから構成されている。
【0026】
Nd:YAG/SHGレーザ200は、Nd(ネオジム)がドープされたYAG結晶からなるNd:YAGロッド201と、このNd:YAGロッド201を励起する連続駆動可能なフラッシュランプ202と、1対のミラーすなわち出力ミラー203およびリアミラー204と、出力ミラー203とNd:YAGロッド201との間のレーザ光205の光路に挿入されたQスイッチ206と、出力ミラー203の前方側に配されたSHG(第2高調波発生)素子207とを有している。出力ミラー203およびリアミラー204はファブリ・ペロ型共振器を構成するものであり、この共振器のキャビティ内に配置されているNd:YAGロッド201はフラッシュランプ202が発する光により励起されて、例えば波長1064nmの光を誘導放出する。この光は共振器内で共振し、Qスイッチ206が開かれれば、出力ミラー203からパルスレーザ光205が出射する。このパルスレーザ光205はSHG素子207により、波長が1/2すなわち532nmのレーザ光250に変換される。
【0027】
Ti:サファイアレーザ300は、Z型リング共振器を構成する4つのミラーすなわち入力ミラー301、折り返しミラー302、リアミラー303および出力ミラー304と、Ti(チタン)がドープされたサファイア結晶からなり上記共振器のキャビティ内に配置されたTi:サファイアロッド305とを有している。入力ミラー301は波長532nmのレーザ光250を透過させ、後述のようにして発振した波長700〜900nm程度のレーザ光350は反射させるダイクロイックミラーである。Ti:サファイアロッド305は、上記入力ミラー301を透過したパルスレーザ光250によって励起され、波長700〜900nm程度の光を誘導放出する。この光は共振器内で共振し、その結果、出力ミラー304から直線偏光したパルスレーザ光350が出射する。このパルスレーザ光350のパルス幅は、例えば10〜50ns(ナノ・秒)程度である。
【0028】
このパルスレーザ光350は光シャッタ150に入射する。光シャッタ150は前述した通りこのレーザ光350の通過/遮断を制御するものであり、EO(電気光学)素子151と、その後段に配置された偏光子152とから構成されている。この光シャッタ150を閉状態としてレーザ光350をそこで遮断したい場合、EO素子151には半波長電圧Tが印加される。それにより、該EO素子151に入射したレーザ光350の偏光方向が90°回転する。一方、偏光子152はその透過軸が、上記のように回転した後のレーザ光350の偏光方向と90°の角度をなすように配置されており、したがってレーザ光350はこの偏光子152において遮断される。
【0029】
光シャッタ150を開状態としてパルスレーザ光350を通過させたい場合は、上記半波長電圧Tの印加が停止される。それによりパルスレーザ光350は、EO素子151において偏光方向が90°回転することなく通過する。そこでパルスレーザ光350は偏光子152に対して、その透過軸と偏光方向が一致した状態で入射し、該偏光子152を通過する。本実施形態において光音響画像を取得する際には、半波長電圧Tの印加停止は所定の短時間だけ行われ、その間にパルスレーザ光350が光シャッタ150を通過可能とされる。
【0030】
なお、上記半波長電圧Tの印加を完全に停止する(つまり印加電圧値をゼロにする)のではなく、電圧値を下げて印加すれば、その値に応じて、偏光子152を通過するパルスレーザ光350の光量を制御することも可能である。
【0031】
光シャッタ150を通過したパルスレーザ光350は、ファイバ入力光学系140を介してバンドルファイバ130Bに入力される。バンドルファイバ130Bは、多数のマルチモード光ファイバが束ねられてなるものであり、レーザ光350はファイバ入力光学系140を構成する光分岐手段(図示せず)により略等光量に分岐された上で、各光ファイバに入力される。
【0032】
上記バンドルファイバ130Bは、図1に示した超音波探触子103の一部を構成している。以下、図3を参照して、この超音波探触子103について説明する。同図に131で示すのが、前述した圧電素子である。これらの圧電素子131は、所定の方向に沿って1次元的に配列されている。バンドルファイバ130Bの各光ファイバ130の先端部は、上記配列された圧電素子131の両側方において該素子の並び方向に沿って配置され、レーザ光源102(図1および2参照)から発せられたパルスレーザ光350を、圧電素子131の両側方から生体組織に照射する。つまり並設されたそれらの光ファイバ130の先端部は、光照射部を構成している。
【0033】
なお図3において、光ファイバ130および圧電素子131の個数は概略的に示してあり(後述する図6および7も同様)、実際には図示の状態よりも多数の光ファイバ130および圧電素子131が高密度に配設されている。
【0034】
本実施形態において上記光照射部は、生体組織の例えば3つの領域A、領域B、および領域Cの各々に対応させて、それぞれ複数の光ファイバ130から構成されている。すなわち、領域Aに対応する複数の光ファイバ130からなる光照射部は、領域Aの選択時にパルスレーザ光350を少なくとも領域Aに照射する。また、領域Bに対応する複数の光ファイバ130からなる光照射部は領域Bの選択時にパルスレーザ光350を少なくとも領域Bに照射し、領域Cに対応する複数の光ファイバ130からなる光照射部は領域Cの選択時にパルスレーザ光350を少なくとも領域Cに照射する。
【0035】
超音波探触子103には、3つの光検出器133a、133bおよび133cが設けられている。これらの光検出器133a〜133cは、図1に示す光照射検出部105に含まれる。光検出器133a〜133cは、パルスレーザ光350が生体組織に照射されたことを検出するもので、このパルスレーザ光350を受光すると光検出信号を出力する。光検出器133a、133bおよび133cはそれぞれ、領域A、領域Bおよび領域Cに対応して設けられている。領域Aに対応する光検出器133aは、領域Aが選択されているときに、該領域Aにパルスレーザ光350が照射されたことを検出する。領域Bおよび領域Cに対応する光検出器133b、133cも同様であり、それぞれの領域の選択時に、各領域にパルスレーザ光350が照射されたことを検出する。
【0036】
また図4は、超音波探触子103と信号取込み部107との接続例を示している。超音波探触子103は前述の通り、192chの圧電素子131(図3参照)を有している。192chの圧電素子131に対応する生体組織の領域は、前述したように3つの部分領域(領域A〜C)からなるものとして考えられる。つまり、192chの圧電素子131に対応する生体組織の幅が57.6mmであるとすると、各部分領域の幅は19.2mmとなる。光音響画像化装置100は、上記19.2mm幅の部分領域への光照射・データ収集を逐次行って、全192ch分のデータを取得する。
【0037】
信号取込み部107は、例えば64ch分のデータを並列にサンプリング可能なAD変換器を含む。マルチプレクサ112は、超音波探触子103の圧電素子131と信号取り込み部107とを選択的に接続する。マルチプレクサ112は、例えば192chの圧電素子と接続しており、そのうちの64ch分を信号取込み部107のAD変換器に選択的に接続する。マルチプレクサ112は、例えば領域Aが選択されているときは、領域Aに対応する部分の64chの圧電素子131を信号取込み部107のAD変換器に接続する。また、マルチプレクサ112は、領域Bが選択されているときは、領域Bに対応する部分の64chの圧電素子131を信号取込み部107のAD変換器に接続し、領域Cが選択されているときは、領域Cに対応する部分の64chの圧電素子131を信号取込み部107のAD変換器に接続する。
【0038】
領域Aが選択され、複数の光ファイバ130からなる光照射部が生体組織の領域Aにパルスレーザ光350を照射すると、このパルスレーザ光350は生体組織内の散乱により、ある程度の広がりを持って進行する。生体組織内に存在する血液等の吸収体はパルスレーザ光350のエネルギーを吸収し、音響信号を発生する。この音響信号が各圧電素子131で検出されるまでに要する時間は、音響信号発生地点と各圧電素子131とのX方向の位置関係と、音響信号発生地点のZ方向の位置とに応じて決まる。
【0039】
上記音響信号を検出するために、マルチプレクサ112が選択した圧電素子131が出力する電気信号は、AD変換器にて所定の計測期間にわたって複数回サンプリングされる。これは他の領域Bおよび領域Cについても同様であり、各領域に対してパルスレーザ光350が照射され、各領域に対応する圧電素子131が出力する電気信号が所定の計測期間にわたって複数回サンプリングされ、音響信号が検出される。
【0040】
ここで、各部分領域に関する処理の流れを考えると、部分領域の選択、前記半波長電圧Tの印加停止を指示するトリガー信号の発生、光シャッタの開放、生体組織へのパルスレーザ光照射、生体組織からの音響信号検出、素子データメモリへのデータ格納という流れになる。信号取込み部107における電気信号の取込み開始タイミングつまりサンプリング開始タイミングは、生体組織へパルスレーザ光が照射されるタイミングに合わせて事前に設定されている。
【0041】
上記のトリガー信号発生から実際に生体組織へパルスレーザ光が照射されるまでの時間が、各部分領域毎に異なっていると、各部分領域毎に得られた音響信号データを合成して生成される画像の画質が低下する問題が起きる。光照射検出部105および同期補正処理部106は、この問題を防止するために設けられている。すなわち、光照射検出部105はレーザ光源102から生体組織に光が照射されたことを検出し、また同期補正処理部106は、光照射検出部105が検出した光照射タイミングの差を部分領域間で求め、そのタイミング差に基づいて、素子データメモリ108におけるサンプリングデータの時間軸を部分領域間で補正する。
【0042】
領域選択部104が全ての部分領域を選択し、超音波探触子103が有する192chの圧電素子131それぞれが出力する複数回のサンプリングデータが素子データメモリ108に格納されると、画像構築部109はこの素子データメモリ108からサンプリングデータを読み出し、読み出したデータに基づいて生体組織の断層画像を構築する。画像構築部109は典型的には、信号処理部、位相整合加算部および画像処理部を含んで構成される。画像構築部109における詳細な画像構築手順について詳しい説明は省略するが、その機能は、例えばコンピュータが所定のプログラムに従って動作することで実現可能である。あるいは画像構築部109の機能を、DSP(digital Signal Processor)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などで実現してもよい。
【0043】
画像構築部109は、構築した断層画像を示す画像データを画像メモリ110に格納する。画像表示部111は、画像メモリ110に格納された画像データに基づいて、上記断層画像を表示モニタなどに表示する。
【0044】
以上説明したようにして光音響画像を取得する際、レーザ光源102は画像取得の都度立ち上げるように駆動されてもよい。しかしこのレーザ光源102としては、先に説明した通り、光音響画像化装置100が稼働している間、常時駆動可能なものが用いられており、特別の要求が無い限り、該レーザ光源102は光音響画像化装置100の稼働中を通して常時駆動される。そして光音響画像を取得する際にその都度、前述のようにして光シャッタ150が短時間だけ開かれ、そこを通過したパルスレーザ光350が生体組織に照射される。
【0045】
そのようにレーザ光源102を常時駆動しておけば、光音響画像の取得は、常にNd:YAG/SHGレーザ200およびTi:サファイアレーザ300が熱的に安定した状態下でなされるようになる。したがって、光音響画像の取得時にいきなりそれらのレーザ200および300を駆動開始させる場合のようにパルスレーザ光350の光量が不安定になることが防止され、再現性に優れた高画質の光音響画像が得られるようになる。また、光音響画像の取得に際して、レーザ200および300が安定するまで待つ必要も無いので、光音響画像取得の作業能率も高くなる。
【0046】
なお、Nd:YAG/SHGレーザ200およびTi:サファイアレーザ300が熱的に安定していないと、パルスレーザ光350の出射方向が変動することもある。そうであると、図2に示したファイバ入力光学系140によるパルスレーザ光350とバンドルファイバ130Bとの結合効率が変化するので、これも結局、生体組織に照射されるレーザ光の光量変動につながる。
【0047】
そして、レーザ光源102を常時駆動させておいても、光音響画像の取得時以外には、光シャッタ150によりパルスレーザ光350が遮断されるので、このパルスレーザ光350が不用意に装置操作者や被検者に照射されることが防止され、レーザ光に対する安全性も確保される。
【0048】
ここで、図3に示した複数の光ファイバ130は、超音波探触子103の使用を重ねるうちに断線したり、あるいは劣化したりする可能性がある。その状態のまま光音響画像化装置100を使用すれば、先に述べたような不具合を招くことになる。以下、この光ファイバ130の断線や劣化を検知する点について説明する。
【0049】
図1に示す信号取込み部107は、光音響画像の取得時に超音波探触子103からの電気信号、つまりより詳しくは、複数の圧電素子131の出力電圧信号から、該素子の焦電性による変化成分を検出して、それを素子データメモリ108に格納する。図5は、1つの圧電素子131が出力する電圧信号の波形の典型例を示すものである。ここに矢印Aで示すのが焦電性による信号変化成分つまり、生体表面等で反射、散乱したパルスレーザ光350を検出した成分であり、矢印Bで示すのが音響波検出信号成分である。先に説明した理由により、焦電性による信号変化成分は音響波検出成分よりも時間軸上で先行して検出されるので、焦電性による信号変化成分のみを検出することが可能である。この焦電性による信号変化成分は、一例としてピーク値で代表してサンプリングされる。
【0050】
このサンプリングは、全ての圧電素子131について行われるが、本実施形態では前述の通り3つの領域A、BおよびC毎に信号の取り込みが行われるので、各領域単位でサンプリングがなされる。以上の通り本実施形態においては、圧電素子131の焦電性による出力電圧の変化を検出する手段が、信号取込み部107によって構成されている。
【0051】
図1に示す画像構築部109は、光音響画像の構築前あるいは後に、上記焦電性による信号変化成分(前述の通りそのピーク値)を素子データメモリ108から読み出し、複数の圧電素子131の各々毎にその信号値を画像表示部111に表示させる。複数の光ファイバ130のいずれにも断線や劣化が生じていなければ、それらの光ファイバ130から出射するパルスレーザ光350の光量は、光ファイバ130の並び方向つまり圧電素子131の並び方向に沿って略均一になる。したがって、複数の圧電素子131に検出される光量も略均一となるので、そのとき画像表示部111に表示される上記信号値は、基本的に図6の(2)に示す通りとなる。ここに示す横軸の「各圧電素子の座標」は、1列に並置された複数の圧電素子131の、並び方向位置と同義である。
【0052】
本実施形態において画像構築部109は、図6の(2)に示す表示を、同図(1)のように光ファイバ130および圧電素子131の並設状態を示す表示と併せて行う。このようにする場合、複数の圧電素子131の各々に数字等による固有座標を与えて同図(1)の表示においてその座標を示す一方、同図(2)の表示の横軸にもそれらの座標を示せば、(2)の信号値に変化が生じたとき、それはどの圧電素子131によるものであるかが明確に視認されるようになる。
【0053】
ここで、図7の(1)に矢印Rで示すように、複数の光ファイバ130のうちの1つが断線あるいは劣化すると、その光ファイバ130の先端部の近くでは、その他の部分と比べて、生体に対する照射光量が低下する。そこで、生体表面等で反射、散乱して圧電素子に入射する光の光量は、その光ファイバ130と並び方向位置が一致している圧電素子131において最も少ないものとなる。つまりその状態下での前記ピーク値の分布は、図7の(2)に示すようなものとなる。そこで光音響画像化装置の操作者は、図6や7に示すような表示を見ることにより、どの圧電素子131と並び方向位置が一致している光ファイバ130が断線あるいは劣化しているかを簡単に確認可能となる。
【0054】
また、光ファイバ130の断線あるいは劣化を、本来光音響画像の取得のために利用される圧電素子131の出力電圧信号を用いて検知しているので、この検知は極めて効率良く行われ得る。
【0055】
なお、本実施形態のように、検出された圧電素子131の出力電圧信号の変化を、光ファイバ130の先端部の配列状態と対応させる形で表示することは必ずしも必要ではなく、出力電圧信号の変化(本実施形態では、具体的に前記ピーク値の変化)を各圧電素子131の座標とともに数値で示すようにしても構わない。そうする場合でも、ピーク値が特に低くなっている圧電素子131を特定できるので、その圧電素子131と並び方向位置が一致している光ファイバ130が断線あるいは劣化していると判定することができる。
【0056】
また、以上説明した実施形態においては、複数の圧電素子131が1次元に配列され、複数の光ファイバ130が2次元に配置されているが、並設された複数の圧電素子131の片側だけに各圧電素子と対応させて光ファイバ130の先端部を配置した構成に対しても、本発明は適用可能である。さらに、複数の圧電素子131および複数の光ファイバ130の先端部がそれぞれ2次元に配置された構成に対しても、本発明は適用可能である。
【0057】
なお、本実施形態においては、上述の通り光ファイバ130が2次元に配置されているが、圧電素子131の並び方向の同じ位置に2つの光ファイバ130が存在することはないので、圧電素子131の出力電圧の変化に基づく光ファイバの断線あるいは劣化の検知は正確に行われ得る。
【0058】
また、図6や図7に示した表示は、光音響画像の取得時に必ず行う必要はなく、例えば光ファイバのチェックモードを設定しておき、そのモードが指定されたときだけ上記表示を行うようにしてもよい。また、そのモードが指定されたときだけ、圧電素子131の出力電圧信号から前記ピーク値のサンプリングを行うようにしてもよい。
【0059】
さらに、以上説明した実施形態においては、超音波探触子103に複数の光ファイバ130の先端部が配設されているが、1本の光ファイバのみが設けられてなる光音響画像化装置に対しても本発明は適用可能である。そうした場合も、その1本の光ファイバの劣化を検知できることは、先に述べた通りである。
【0060】
またレーザ光源としては、上記実施形態で用いられた固体レーザの他、アレキサンドライトレーザ等のその他の固体レーザや、発振波長が最大800nm程度のAlGaAs系半導体レーザ、発振波長が最大900nm程度のInGaAs系半導体レーザ等も適用可能である。さらには、半導体レーザを種光源とする光増幅型レーザ光源と光波長変換素子との組み合わせからなるもの、より具体的には、波長1560nm程度のレーザ光を発する半導体レーザと、そのレーザ光を増幅する偏波保存型Er(エルビウム)添加光ファイバからなるファイバ増幅器と、そこで増幅された上記レーザ光を波長780nm程度の第2高調波に変換するSHG(第2高調波発生)素子とからなるもの等も適用可能である。
【符号の説明】
【0061】
100 光音響画像化装置
101 レーザドライバ
102 レーザ光源
103 超音波探触子
104 領域選択部
105 光照射検出部
106 同期補正処理部
107 信号取込み部
108 素子データメモリ
109 画像構築部
110 画像メモリ
111 画像表示部
112 マルチプレクサ
130 光ファイバ
131 圧電素子
150 光シャッタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光を伝搬させる光ファイバの先端部および圧電素子が配置されてなるプローブを備えた光音響画像化装置において、圧電素子の焦電性による出力電圧の変化に基づいて光ファイバの断線あるいは劣化を検知することを特徴とする光音響画像化装置の故障検知方法。
【請求項2】
光を伝搬させる光ファイバの先端部および圧電素子が配置されてなるプローブを備えた光音響画像化装置において、
圧電素子の焦電性による出力電圧の変化を検出する手段が設けられたことを特徴とする光音響画像化装置。
【請求項3】
検出された前記出力電圧の変化を表示する手段が設けられたことを特徴とする請求項2記載の光音響画像化装置。
【請求項4】
前記プローブにおいて、光ファイバの先端部および圧電素子がそれぞれ複数、1次元あるいは2次元に配列されていることを特徴とする請求項2または3記載の光音響画像化装置。
【請求項5】
検出された圧電素子の出力電圧の変化を、複数の光ファイバの先端部の配列状態と対応させる形で表示する手段が設けられたことを特徴とする請求項4記載の光音響画像化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−170768(P2012−170768A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38238(P2011−38238)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】