説明

光音響画像化装置

【課題】パルス光を照射するパルス光源として半導体レーザが用いられた光音響画像化装置において、高画質の光音響画像を能率良く取得可能にする。
【解決手段】生体組織にパルス光を照射するパルス光源としてレーザ光源102が用いられてなる光音響画像化装置において、レーザ光源102として、光音響画像化装置の稼働時に常時駆動可能なものを用いる。そしてこのレーザ光源102と生体組織との間のレーザ光の光路に、開閉動作して、該レーザ光の通過を制御するシャッタ手段150を介設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光音響画像化装置すなわち、生体組織に光を照射し、光照射に伴って発生する音響波に基づいて生体組織を画像化する装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば特許文献1や非特許文献1に示されているように、光音響効果を利用して生体の内部を画像化する光音響画像化装置が知られている。この光音響画像化装置においては、例えばパルスレーザ光等のパルス光が生体内に照射される。このパルス光の照射を受けた生体内部では、パルス光のエネルギーを吸収した生体組織が熱によって体積膨張し、音響波(音響信号)を発生する。そこで、この音響波を超音波プローブなどで検出し、その検出信号に基づいて生体内部を可視像化することが可能となっている。
【0003】
上述のような光音響画像化装置においては、特許文献1にも記載されているように、パルス光を発する光源として半導体レーザや固体レーザ等のレーザ光源が用いられるのが一般的である。また、半導体レーザ単体では光音響画像化に必要なエネルギーに達しない場合は、半導体レーザを種光源として用い、そこからの光を、希土類が添加された光ファイバを備えてなるファイバ増幅器や半導体光増幅器(場合により複数段設けてもよい)により増幅するようにした光増幅型レーザ光源を用いることも考えられている(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2005−21380号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】A High-Speed Photoacoustic Tomography System based on a Commercial Ultrasound and a Custom Transducer Array, Xueding Wang, Jonathan Cannata, Derek DeBusschere, Changhong Hu, J. Brian Fowlkes, and Paul Carson, Proc. SPIE Vol. 7564, 756424 (Feb.23, 2010)
【非特許文献2】全偏波保持型高出力YbファイバMOPAシステムの開発、住村和彦、吉田英次、藤田尚徳、中塚正大、電子情報通信学会論文誌C vol.J91-C、No.4、pp.244-250、2008
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、上述のようなレーザ光源は、光音響画像の取得時にその都度立ち上げてパルス駆動されていた。しかしレーザ光源、特に固体レーザは立ち上げてから熱的に安定するまでに時間がかかるので、立ち上げ直後は、レーザ光の光量や出射方向が不安定な状態になっている。そのようなレーザ光を利用して光音響画像を取得すると、得られる光音響画像は再現性が悪く、また画質も良くないものとなってしまう。そのような問題を避けるには、レーザ光源が熱的に安定するまで待ってから光音響画像を取得すればよいが、そのようにすると光音響画像の取得に長時間を要し、作業能率が低下してしまう。
【0007】
本発明は上記の事情に鑑みてなされたものであり、再現性に優れた高画質の光音響画像を能率良く取得することができる光音響画像化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の光音響画像化装置は、
音響波を発生させるために生体組織に照射される光を発する光源として、レーザ光源が用いられた光音響画像化装置において、
前記レーザ光源として、装置稼働時に常時駆動可能なものが用いられ、
このレーザ光源と生体組織との間のレーザ光の光路に、開閉動作して、該レーザ光の通過を制御するシャッタ手段が介設されていることを特徴とするものである。
【0009】
なおレーザ光源として直線偏光したレーザ光を発するものが用いられる場合、上記のシャッタ手段としては、電気光学素子と偏光子との組み合わせからなるものを好適に用いることができる。
【0010】
そのように電気光学素子と偏光子との組み合わせからなるシャッタ手段において、前記電気光学素子は例えば、所定の電圧が印加された時に該素子を通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と直交し、前記電圧が印加されない時にそこを通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と平行となる状態に配置される。
【0011】
また、上述のように電気光学素子と偏光子との組み合わせからなるシャッタ手段において、前記電気光学素子は例えば、所定の電圧が印加された時に該素子を通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と平行になり、前記電圧が印加されない時にそこを通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と直交する状態に配置される。
【0012】
あるいは、上述のように電気光学素子と偏光子との組み合わせからなるシャッタ手段において、前記電気光学素子は例えば、電圧が印加された時に該素子を通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と0°および90°以外の角度をなし、前記電圧が印加されない時にそこを通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と直交する状態に配置される。
【0013】
さらに、レーザ光源として直線偏光したレーザ光を発するものが用いられる場合、上記のシャッタ手段としては、回転駆動される半波長板と偏光子との組み合わせからなるものも好適に用いることができる。
【0014】
そのように回転駆動される半波長板と偏光子との組み合わせからなるシャッタ手段において、前記半波長板は例えば、該半波長板を通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と直交するようになる回転位置と、該半波長板を通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と平行になる回転位置とに設定される。
【0015】
また、上述のように回転駆動される半波長板と偏光子との組み合わせからなるシャッタ手段において、前記半波長板は例えば、該半波長板を通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と直交するようになる回転位置と、該半波長板を通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と0°および90°以外の角度をなすようになる回転位置とに設定される。
【0016】
他方、本発明の光音響画像化装置において、レーザ光源としては、固体レーザからなるものを用いることができる。その種のレーザ光源の好ましい具体的としては、Nd:YAG/SHGレーザと、このNd:YAG/SHGレーザから発せられたレーザ光を第2高調波に変換する光波長変換素子と、この光波長変換素子を通過したレーザ光によって励起されるTi:サファイアレーザとから構成されたものが挙げられる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の光音響画像化装置においては、装置稼働時にレーザ光源を常時駆動しておくようにしたので、光音響画像の取得は、常にレーザ光源が熱的に安定した状態下でなされるようになる。したがって、光音響画像の取得時にいきなりレーザ光源を駆動開始させる場合のようにレーザ光の光量や出射方向が不安定になることが防止され、再現性に優れた高画質の光音響画像が得られるようになる。また光音響画像の取得は、上記シャッタ手段を開状態にすれば直ちになされ得るので、光音響画像取得の作業能率も高いものとなる。
【0018】
そして、レーザ光源を常時駆動させておいても、光音響画像の取得時以外は光シャッタによりレーザ光が遮断されるので、このレーザ光が不用意に装置操作者や被検者に照射されることが防止され、レーザ光に対する安全性も確保される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態による光音響画像化装置の概略構成を示すブロック図
【図2】図1の装置に用いられたレーザ光源とその周辺の機器を示す平面図
【図3】図1の装置に用いられた超音波探触子を示す斜視図
【図4】超音波探触子と信号取込み部との接続例を示すブロック図
【図5】本発明の光音響画像化装置に適用されるシャッタ手段の別の例を示す斜視図
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態による光音響画像化装置の基本構成を示すブロック図である。この光音響画像化装置100は、レーザドライバ101、レーザ光源102、超音波探触子(プローブ)103、領域選択部104、光照射検出部105、同期補正処理部106、信号取込み部107、素子データメモリ108、画像構築部109、画像メモリ110、画像表示部111および光シャッタ150を有している。
【0021】
レーザ光源102は、被検体である生体組織に照射するレーザ光を射出するもので、光音響画像化装置100が稼働している間、常時駆動可能なものが用いられる。レーザドライバ101は、上記レーザ光源102を駆動するものである。また光シャッタ150は、レーザ光源102から射出されたレーザ光を常時は遮断し、光音響画像の取得時には短時間の間該レーザ光を通過させるものである。
【0022】
超音波探触子103は、複数ch(チャンネル)の圧電素子を有する。それらの圧電素子は、生体組織の画像化する範囲に対応させて、例えば192個一列に並べて設けられている。この超音波探触子103は、レーザ光源102から生体組織にパルスレーザ光が照射されたとき該生体組織内から生じる音響信号(超音波)を検出し、その音響信号を電気信号に変換して出力する。
【0023】
超音波探触子103の複数の圧電素子に対応する範囲、つまり生体組織の画像化される範囲は、互いに重ならない複数の部分領域に分けられている。本実施形態においてこの部分領域は、後に詳述するように例えば領域A、領域Bおよび領域Cの3つとされている。各部分領域の幅は、信号取込み部107が並列にサンプリング可能な信号数と同数の圧電素子に対応する幅となっている。本例において、信号取込み部107は64ch分のデータを並列にサンプリング可能とされている。そこで、領域A、領域B、および領域Cの各領域は、64個の圧電素子に対応した幅となる。
【0024】
領域選択部104は、上記3つの部分領域のうちの1つを選択するものであり、その選択情報をレーザドライバ101および超音波探触子103に通知する。レーザドライバ101は、少なくとも選択された部分領域を含む範囲にパルスレーザ光を照射するようにレーザ光源102を駆動する。一方、超音波探触子103は、図示しないマルチプレクサなどを用いて、選択された部分領域に対応する圧電素子を信号取込み部107に接続させる。信号取込み部107は、部分領域にパルスレーザ光が照射された後、接続された圧電素子が出力する電気信号(音響信号データ)を所定の計測期間にわたって複数回サンプリングし、サンプリングしたデータを素子データメモリ108に格納する。
【0025】
領域選択部104は、選択した部分領域に対応する圧電素子からの音響信号データが素子データメモリ108に格納されると、次の部分領域を選択する。こうして領域選択部104は、生体組織の画像化する範囲すべてが選択されるまで、部分領域を順次選択する。領域選択部104が部分領域を順次選択することで、素子データメモリ108には、超音波探触子103の全圧電素子からの音響信号データが素子データメモリ108に格納される。つまり、領域選択部104が領域A、領域B、領域Cを順次選択し、信号取込み部107が各領域についてN回サンプリングすれば、素子データメモリ108には計(192×N)ch分の音響信号データが格納されることになる。
【0026】
信号取込み部107は、超音波探触子103からの電気信号を素子データメモリ108に格納する。信号取込み部107は、超音波探触子103が出力する上記電気信号を所定の計測期間にわたって複数回サンプリングし、それにより得られたサンプリングデータを素子データメモリ108に格納する。この信号取込み部107は、例えば微小信号を増幅するプリアンプや、アナログ信号をデジタル信号に変換するAD変換器を含んで構成されている。信号取込み部107が、並列に取り込める信号の数つまりch(チャンネル)数は、超音波探触子103が有する圧電素子の総数よりも少ない。例えば本実施形態では、超音波探触子103は一例として192個の圧電素子を有するのに対して、信号取込み部107が並列に取り込み可能なch数は64とされている。
【0027】
次に図2〜4を参照して、上記構成についてさらに詳しく説明する。レーザ光源102は図2に示す通り、Nd:YAG/SHGレーザ200および、このNd:YAG/SHGレーザ200から発せられたレーザ光250によって励起されるTi:サファイアレーザ300の2つの固体レーザから構成されている。
【0028】
Nd:YAG/SHGレーザ200は、Nd(ネオジム)がドープされたYAG結晶からなるNd:YAGロッド201と、このNd:YAGロッド201を励起する連続駆動可能なフラッシュランプ202と、1対のミラーすなわち出力ミラー203およびリアミラー204と、出力ミラー203とNd:YAGロッド201との間のレーザ光205の光路に挿入されたQスイッチ206と、出力ミラー203の前方側に配されたSHG(第2高調波発生)素子207とを有している。出力ミラー203およびリアミラー204はファブリ・ペロ型共振器を構成するものであり、この共振器のキャビティ内に配置されているNd:YAGロッド201はフラッシュランプ202が発する光により励起されて、例えば波長1064nmの光を誘導放出する。この光は共振器内で共振し、Qスイッチ206が開かれれば、出力ミラー203からパルスレーザ光205が出射する。このパルスレーザ光205はSHG素子207により、波長が1/2すなわち532nmのレーザ光250に変換される。
【0029】
Ti:サファイアレーザ300は、Z型リング共振器を構成する4つのミラーすなわち入力ミラー301、折り返しミラー302、リアミラー303および出力ミラー304と、Ti(チタン)がドープされたサファイア結晶からなり上記共振器のキャビティ内に配置されたTi:サファイアロッド305とを有している。入力ミラー301は波長532nmのレーザ光250を透過させ、後述のようにして発振した波長700〜900nm程度のレーザ光350は反射させるダイクロイックミラーである。Ti:サファイアロッド305は、上記入力ミラー301を透過したパルスレーザ光250によって励起され、波長700〜900nm程度の光を誘導放出する。この光は共振器内で共振し、その結果、出力ミラー304から直線偏光したパルスレーザ光350が出射する。このパルスレーザ光350のパルス幅は、例えば10〜50ns(ナノ・秒)程度である。
【0030】
このパルスレーザ光350は光シャッタ150に入射する。光シャッタ150は前述した通りこのレーザ光350の通過/遮断を制御するものであり、EO(電気光学)素子151と、その後段に配置された偏光子152とから構成されている。この光シャッタ150を閉状態としてレーザ光350をそこで遮断したい場合、EO素子151には半波長電圧Tが印加される。それにより、該EO素子151に入射したレーザ光350の偏光方向が90°回転する。一方、偏光子152はその透過軸が、上記のように回転した後のレーザ光350の偏光方向と90°の角度をなすように配置されており、したがってレーザ光350はこの偏光子152において遮断される。
【0031】
光シャッタ150を開状態としてパルスレーザ光350を通過させたい場合は、上記半波長電圧Tの印加が停止される。それによりパルスレーザ光350は、EO素子151において偏光方向が90°回転することなく通過する。そこでパルスレーザ光350は偏光子152に対して、その透過軸と偏光方向が一致した状態で入射し、該偏光子152を通過する。本実施形態において光音響画像を取得する際には、半波長電圧Tの印加停止は所定の短時間だけ行われ、その間にパルスレーザ光350が光シャッタ150を通過可能とされる。
【0032】
なお、上記半波長電圧Tの印加を完全に停止する(つまり印加電圧値をゼロにする)のではなく、電圧値を下げて印加すれば、その値に応じて、偏光子152を通過するパルスレーザ光350の光量を制御することも可能である。
【0033】
光シャッタ150を通過したパルスレーザ光350は、ファイバ入力光学系140を介してバンドルファイバ130Bに入力される。バンドルファイバ130Bは、多数のマルチモード光ファイバが束ねられてなるものであり、レーザ光350はファイバ入力光学系140を構成する光分岐手段(図示せず)により略等光量に分岐された上で、各光ファイバに入力される。
【0034】
上記バンドルファイバ130Bは、図1に示した超音波探触子103の一部を構成している。以下、図3を参照して、この超音波探触子103について説明する。同図に131で示すのが、前述した圧電素子である。これらの圧電素子131は、所定の方向に沿って1次元的に配列されている。バンドルファイバ130Bの各光ファイバ130の先端部は、上記配列された圧電素子131の両側方において該素子の並び方向に沿って配置され、レーザ光源102(図1および2参照)から発せられたパルスレーザ光350を、圧電素子131の両側方から生体組織に照射する。つまり並設されたそれらの光ファイバ130の先端部は、光照射部を構成している。
【0035】
なお図3において、光ファイバ130および圧電素子131の個数は概略的に示してあり、実際には図示の状態よりも多数の光ファイバ130および圧電素子131が高密度に配設されている。
【0036】
本実施形態において上記光照射部は、生体組織の例えば3つの領域A、領域B、および領域Cの各々に対応させて、それぞれ複数の光ファイバ130から構成されている。すなわち、領域Aに対応する複数の光ファイバ130からなる光照射部は、領域Aの選択時にパルスレーザ光350を少なくとも領域Aに照射する。また、領域Bに対応する複数の光ファイバ130からなる光照射部は領域Bの選択時にパルスレーザ光350を少なくとも領域Bに照射し、領域Cに対応する複数の光ファイバ130からなる光照射部は領域Cの選択時にパルスレーザ光350を少なくとも領域Cに照射する。
【0037】
超音波探触子103には、3つの光検出器133a、133bおよび133cが設けられている。これらの光検出器133a〜133cは、図1に示す光照射検出部105に含まれる。光検出器133a〜133cは、パルスレーザ光350が生体組織に照射されたことを検出するもので、このパルスレーザ光350を受光すると光検出信号を出力する。光検出器133a、133bおよび133cはそれぞれ、領域A、領域Bおよび領域Cに対応して設けられている。領域Aに対応する光検出器133aは、領域Aが選択されているときに、該領域Aにパルスレーザ光350が照射されたことを検出する。領域Bおよび領域Cに対応する光検出器133b、133cも同様であり、それぞれの領域の選択時に、各領域にパルスレーザ光350が照射されたことを検出する。
【0038】
また図4は、超音波探触子103と信号取込み部107との接続例を示している。超音波探触子103は前述の通り、192chの圧電素子131(図3参照)を有している。192chの圧電素子131に対応する生体組織の領域は、前述したように3つの部分領域(領域A〜C)からなるものとして考えられる。つまり、192chの圧電素子131に対応する生体組織の幅が57.6mmであるとすると、各部分領域の幅は19.2mmとなる。光音響画像化装置100は、上記19.2mm幅の部分領域への光照射・データ収集を逐次行って、全192ch分のデータを取得する。
【0039】
信号取込み部107は、例えば64ch分のデータを並列にサンプリング可能なAD変換器を含む。マルチプレクサ112は、超音波探触子103の圧電素子131と信号取り込み部107とを選択的に接続する。マルチプレクサ112は、例えば192chの圧電素子と接続しており、そのうちの64ch分を信号取込み部107のAD変換器に選択的に接続する。マルチプレクサ112は、例えば領域Aが選択されているときは、領域Aに対応する部分の64chの圧電素子131を信号取込み部107のAD変換器に接続する。また、マルチプレクサ112は、領域Bが選択されているときは、領域Bに対応する部分の64chの圧電素子131を信号取込み部107のAD変換器に接続し、領域Cが選択されているときは、領域Cに対応する部分の64chの圧電素子131を信号取込み部107のAD変換器に接続する。
【0040】
領域Aが選択され、複数の光ファイバ130からなる光照射部が生体組織の領域Aにパルスレーザ光350を照射すると、このパルスレーザ光350は生体組織内の散乱により、ある程度の広がりを持って進行する。生体組織内に存在する血液等の吸収体はパルスレーザ光350のエネルギーを吸収し、音響信号を発生する。この音響信号が各圧電素子131で検出されるまでに要する時間は、音響信号発生地点と各圧電素子131とのX方向の位置関係と、音響信号発生地点のZ方向の位置とに応じて決まる。
【0041】
上記音響信号を検出するために、マルチプレクサ112が選択した圧電素子131が出力する電気信号は、AD変換器にて所定の計測期間にわたって複数回サンプリングされる。これは他の領域Bおよび領域Cについても同様であり、各領域に対してパルスレーザ光350が照射され、各領域に対応する圧電素子131が出力する電気信号が所定の計測期間にわたって複数回サンプリングされ、音響信号が検出される。
【0042】
ここで、各部分領域に関する処理の流れを考えると、部分領域の選択、前記半波長電圧Tの印加停止を指示するトリガー信号の発生、光シャッタの開放、生体組織へのパルスレーザ光照射、生体組織からの音響信号検出、素子データメモリへのデータ格納という流れになる。信号取込み部107における電気信号の取込み開始タイミングつまりサンプリング開始タイミングは、生体組織へパルスレーザ光が照射されるタイミングに合わせて事前に設定されている。
【0043】
上記のトリガー信号発生から実際に生体組織へパルスレーザ光が照射されるまでの時間が、各部分領域毎に異なっていると、各部分領域毎に得られた音響信号データを合成して生成される画像の画質が低下する問題が起きる。光照射検出部105および同期補正処理部106は、この問題を防止するために設けられている。すなわち、光照射検出部105はレーザ光源102から生体組織に光が照射されたことを検出し、また同期補正処理部106は、光照射検出部105が検出した光照射タイミングの差を部分領域間で求め、そのタイミング差に基づいて、素子データメモリ108におけるサンプリングデータの時間軸を部分領域間で補正する。
【0044】
領域選択部104が全ての部分領域を選択し、超音波探触子103が有する192chの圧電素子131それぞれが出力する複数回のサンプリングデータが素子データメモリ108に格納されると、画像構築部109はこの素子データメモリ108からサンプリングデータを読み出し、読み出したデータに基づいて生体組織の断層画像を構築する。画像構築部109は典型的には、信号処理部、位相整合加算部および画像処理部を含んで構成される。画像構築部109における詳細な画像構築手順について詳しい説明は省略するが、その機能は、例えばコンピュータが所定のプログラムに従って動作することで実現可能である。あるいは画像構築部109の機能を、DSP(digital Signal Processor)やFPGA(Field Programmable Gate Array)などで実現してもよい。
【0045】
画像構築部109は、構築した断層画像を示す画像データを画像メモリ110に格納する。画像表示部111は、画像メモリ110に格納された画像データに基づいて、上記断層画像を表示モニタなどに表示する。
【0046】
以上説明したようにして光音響画像を取得する際、レーザ光源102は画像取得の都度立ち上げるように駆動されてもよい。しかしこのレーザ光源102としては、先に説明した通り、光音響画像化装置100が稼働している間、常時駆動可能なものが用いられており、特別の要求が無い限り、該レーザ光源102は光音響画像化装置100の稼働中を通して常時駆動される。そして光音響画像を取得する際にその都度、前述のようにして光シャッタ150が短時間だけ開かれ、そこを通過したパルスレーザ光350が生体組織に照射される。
【0047】
そのようにレーザ光源102を常時駆動しておけば、光音響画像の取得は、常にNd:YAG/SHGレーザ200およびTi:サファイアレーザ300が熱的に安定した状態下でなされるようになる。したがって、光音響画像の取得時にいきなりそれらのレーザ200および300を駆動開始させる場合のようにパルスレーザ光350の光量が不安定になることが防止され、再現性に優れた高画質の光音響画像が得られるようになる。また、光音響画像の取得に際して、レーザ200および300が安定するまで待つ必要も無いので、光音響画像取得の作業能率も高くなる。
【0048】
なお、Nd:YAG/SHGレーザ200およびTi:サファイアレーザ300が熱的に安定していないと、パルスレーザ光350の出射方向が変動することもある。そうであると、図2に示したファイバ入力光学系140によるパルスレーザ光350とバンドルファイバ130Bとの結合効率が変化するので、これも結局、生体組織に照射されるレーザ光の光量変動につながる。
【0049】
そして、レーザ光源102を常時駆動させておいても、光音響画像の取得時以外には、光シャッタ150によりパルスレーザ光350が遮断されるので、このパルスレーザ光350が不用意に装置操作者や被検者に照射されることが防止され、レーザ光に対する安全性も確保される。
【0050】
なお、本実施形態におけるのとは反対に、EO素子151を、半波長電圧Tが印加された時にそこを通過したレーザ光350の直線偏光方向が偏光子152の透過軸と平行になり、半波長電圧Tが印加されない時にそこを通過したレーザ光350の直線偏光方向が偏光子152の透過軸と直交する状態に配置してもよい。そのようにした場合は、半波長電圧Tが印加されない時レーザ光350が偏光子152で遮断され、半波長電圧Tが印加されるとレーザ光350が偏光子152を通過することになる。
【0051】
また、EO素子151に電圧を印加しない時にレーザ光350を偏光子152で遮断させる場合は、EO素子151に印加する電圧値を制御して、該EO素子151を通過したレーザ光350の直線偏光方向が偏光子152の透過軸と0°および90°以外の角度をなすようにすれば、この角度次第つまり上記の電圧値次第で、偏光子152を通過するレーザ光350の光量を制御可能となる。
【0052】
また、上記本実施形態で用いられたEO素子151および偏光子152からなる光シャッタ150は、高速で応答可能であるので、光照射のタイミングを正確に制御する必要がある光音響画像化装置に対して特に好適なものとなる。ただし、本発明の光音響画像化装置においては、この種の光シャッタに限らず、それ以外の種類の光シャッタが適用されてもよい。
【0053】
図5は、光シャッタの別の例を示すものである。この光シャッタ400は、図示外の駆動手段により例えば一方向に90°ずつ回転される半波長板(λ/2板)401と、その後段側に配置された偏光子402とから構成されたものである。半波長板401は、光音響画像の取得時以外は所定の回転位置に設定され、矢印eで示す方向に直線偏光したレーザ光350を、その偏光方向を90°回転させて通過させる。一方偏光子402は、その透過軸が矢印fで示す向きになっている状態で固定されている。したがって上記状態のレーザ光350は、この偏光子402において遮断される。
【0054】
レーザ光350を通過させる際には、半波長板401が上記の状態から90°回転される。それにより、レーザ光350がこの半波長板401を通過する際に、その直線偏光の向きが90°回転し、偏光子402の透過軸と平行な向きになる。そこでレーザ光350は、矢印gで示す方向に直線偏光した状態で偏光子402に入射して、そこを通過する。なおレーザ光350を通過させる際に、半波長板401を90°以外の角度回転させることにより、偏光子402を通過するレーザ光350の光量を制御することも可能である。
【0055】
また、光音響画像化装置の稼働時に常時駆動可能なレーザ光源としては、上記実施形態で用いられた固体レーザの他、アレキサンドライトレーザ等のその他の固体レーザや、発振波長が最大800nm程度のAlGaAs系半導体レーザ、発振波長が最大900nm程度のInGaAs系半導体レーザ等も適用可能である。さらには、半導体レーザを種光源とする光増幅型レーザ光源と光波長変換素子との組み合わせからなるもの、より具体的には、波長1560nm程度のレーザ光を発する半導体レーザと、そのレーザ光を増幅する偏波保存型Er(エルビウム)添加光ファイバからなるファイバ増幅器と、そこで増幅された上記レーザ光を波長780nm程度の第2高調波に変換するSHG(第2高調波発生)素子とからなるもの等も適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
100 光音響画像化装置
101 レーザドライバ
102 レーザ光源
103 超音波探触子
104 領域選択部
105 光照射検出部
106 同期補正処理部
107 信号取込み部
108 素子データメモリ
109 画像構築部
110 画像メモリ
111 画像表示部
112 マルチプレクサ
130 光ファイバ
131 圧電素子
150、400 光シャッタ
151 電気光学素子
152、402 偏光子
401 半波長板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響波を発生させるために生体組織に照射される光を発する光源として、レーザ光源が用いられた光音響画像化装置において、
前記レーザ光源として、装置稼働時に常時駆動可能なものが用いられ、
このレーザ光源と生体組織との間のレーザ光の光路に、開閉動作して、該レーザ光の通過を制御するシャッタ手段が介設されていることを特徴とする光音響画像化装置。
【請求項2】
前記レーザ光源として、直線偏光したレーザ光を発するものが用いられ、
前記シャッタ手段として、電気光学素子と偏光子との組み合わせからなるものが用いられたことを特徴とする請求項1記載の光音響画像化装置。
【請求項3】
前記電気光学素子が、所定の電圧が印加された時に該素子を通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と直交し、前記電圧が印加されない時にそこを通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と平行となる状態に配置されていることを特徴とする請求項2記載の光音響画像化装置。
【請求項4】
前記電気光学素子が、所定の電圧が印加された時に該素子を通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と平行になり、前記電圧が印加されない時にそこを通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と直交する状態に配置されていることを特徴とする請求項2記載の光音響画像化装置。
【請求項5】
前記電気光学素子が、電圧が印加された時に該素子を通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と0°および90°以外の角度をなし、前記電圧が印加されない時にそこを通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と直交する状態に配置されていることを特徴とする請求項2記載の光音響画像化装置。
【請求項6】
前記レーザ光源として、直線偏光したレーザ光を発するものが用いられ、
前記シャッタ手段として、回転駆動される半波長板と偏光子との組み合わせからなるものが用いられたことを特徴とする請求項1記載の光音響画像化装置。
【請求項7】
前記半波長板が、該半波長板を通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と直交するようになる回転位置と、該半波長板を通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と平行になる回転位置とに設定されることを特徴とする請求項6記載の光音響画像化装置。
【請求項8】
前記半波長板が、該半波長板を通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と直交するようになる回転位置と、該半波長板を通過したレーザ光の直線偏光方向が前記偏光子の透過軸と0°および90°以外の角度をなすようになる回転位置とに設定されることを特徴とする請求項6記載の光音響画像化装置。
【請求項9】
前記レーザ光源が固体レーザからなるものであることを特徴とする請求項1から8いずれか1項記載の光音響画像化装置。
【請求項10】
前記レーザ光源が、Nd:YAG/SHGレーザと、このNd:YAG/SHGレーザから発せられたレーザ光を第2高調波に変換する光波長変換素子と、この光波長変換素子を通過したレーザ光によって励起されるTi:サファイアレーザとから構成されていることを特徴とする請求項9記載の光音響画像化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−173246(P2012−173246A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38237(P2011−38237)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】