説明

光音響画像生成装置および光音響画像生成方法

【課題】光音響イメージングにおいて、被検体内における深部の画像も取得することを可能とする。
【解決手段】光音響画像生成装置において、パルス幅が互いに異なる複数のパルス光を被検体に照射する光照射手段13と、検出帯域が互いに異なる複数の音響波検出手段65、66、67であって、パルス光の照射に起因して被検体内で発生した光音響波を周波数帯域ごとに分離して検出するように構成された複数の音響波検出手段を有するプローブ11と、複数の音響波検出手段65、66、67により検出された光音響波の周波数帯域ごとの光音響信号に基づいて光音響画像を生成する光音響画像生成手段12とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光の照射に起因して発生した光音響波に基づいて光音響画像を生成する光音響画像生成装置および光音響画像生成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、被検体の内部の断層画像を取得する方法としては、超音波が被検体内に照射されることにより被検体内で反射した超音波を検出して超音波画像を生成し、被検体内の形態的な断層画像を得る超音波イメージングが知られている。一方、被検体の検査においては形態的な断層画像だけでなく機能的な断層画像を表示する装置の開発も近年進められている。そして、このような装置の一つに光音響分析法を利用した装置がある(特許文献1)。この光音響分析法は、所定の波長(例えば、可視光、近赤外光又は中間赤外光の波長帯域)を有するパルス光を被検体に照射し、被検体内の特定物質がこのパルス光のエネルギーを吸収した結果生じる弾性波である光音響波を検出して、その特定物質の濃度を定量的に計測するものである。被検体内の特定物質とは、例えば血液中に含まれるグルコースやヘモグロビンなどである。このように光音響波を検出しその検出信号に基づいて光音響画像を生成する技術は、光音響イメージング(PAI:Photoacoustic Imaging)或いは光音響トモグラフィー(PAT:Photo Acoustic Tomography)と呼ばれる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−21380号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、光音響イメージングでは、パルス光を使用することに起因する以下のような問題がある。
【0005】
光音響波の周波数スペクトル分布は照射されたパルス光のパルス幅に依存する。したがって、高分解能の光音響画像を取得するため一般的にはパルス幅の短いパルス光が使用される。しかしながら、パルス幅の短いパルス光の照射に起因して発生した光音響波は高周波数成分を多く含んでいるため、被検体の深部の情報が得られにくい。これは、被検体内において光音響波の高周波数成分は減衰しやすいためである。
【0006】
本発明は上記問題に鑑みてなされたものであり、光音響イメージングにおいて、被検体内における深部の画像も取得することを可能とする光音響画像生成装置および光音響画像生成方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明に係る光音響画像生成装置は、
パルス幅が互いに異なる複数のパルス光を被検体に照射する光照射手段と、
検出帯域が互いに異なる複数の音響波検出手段であって、パルス光の照射に起因して被検体内で発生した光音響波を周波数帯域ごとに分離して検出するように構成された複数の音響波検出手段を有するプローブと、
複数の音響波検出手段により検出された光音響波の周波数帯域ごとの光音響信号に基づいて光音響画像を生成する光音響画像生成手段とを備えることを特徴とするものである。
【0008】
「光音響画像を生成する」とは、光音響波の周波数帯域ごとの光音響信号のそれぞれに基づいて、部分的な光音響画像(例えば深部の画像および表面近傍部の画像等)を別個に構築すること、および、部分的な光音響画像を適切につなぎ合わせて全体として1つの光音響画像を構築することを含む意味である。
【0009】
そして、本発明に係る光音響画像生成装置において、
複数のパルス光は、パルス幅が1〜10nsecである短パルス光およびパルス幅が15〜100nsecである長パルス光であり、
複数の音響波検出手段は、高周波側に検出帯域を有する高周波検出手段およびこの高周波検出手段の検出帯域よりも低周波側に検出帯域を有する低周波検出手段であり、高周波検出手段によって短パルス光の照射に起因して発生した光音響波を検出し、低周波検出手段によって長パルス光の照射に起因して発生した光音響波を検出するように構成されたものであることが好ましい。
【0010】
この場合において、本発明に係る光音響画像生成装置は同期制御手段を更に備え、
光照射手段は、パルス光の照射ごとにパルス幅を切り替えるように構成されたものであり、
プローブは、高周波検出手段および低周波検出手段を切り換えながら駆動させるように構成されたものであり、
同期制御手段は、パルス幅の切り替えと音響波検出手段の切り替えとが同期するように、光照射手段および/またはプローブにトリガ信号を出力するものであることが好ましい。
【0011】
或いは、本発明に係る光音響画像生成装置において、光照射手段は、複数のパルス光を同時に照射するように構成されたものであり、
複数の音響波検出手段が、それぞれの検出帯域が互いに重複しないように構成されたものであり、
プローブは、高周波検出手段および低周波検出手段を同時に駆動させるように構成されたものであることが好ましい。
【0012】
また、本発明に係る光音響画像生成装置において、高周波検出手段は、広帯域検出素子と、低周波検出手段の検出帯域以下の周波数帯域の信号を除去するハイパスフィルタとから構成されるものとすることができる。
【0013】
或いは、本発明に係る光音響画像生成装置において、高周波検出手段は、広帯域検出素子と、低周波検出手段の検出帯域よりも高周波側の一部の周波数帯域の信号のみを透過させるバンドパスフィルタとから構成されるものとすることができる。
【0014】
また、本発明に係る光音響画像生成装置において、低周波検出手段は、チタン酸ジルコン酸鉛から構成される低周波検出素子であり、
広帯域検出素子は、ポリフッ化ビニリデンから構成されるものとすることができる。
【0015】
また、本発明に係る光音響画像生成装置において、複数のパルス光のそれぞれの波長が互いに異なるものとすることができる。
【0016】
また、本発明に係る光音響画像生成装置において、光音響画像生成手段は、照射されたパルス光の光強度の時間波形の微分波形である光微分波形を当該パルス光に基づく光音響信号からデコンボリューションする光微分波形逆畳込み手段を有し、光微分波形逆畳込み手段によってデコンボリューションされた信号に基づいて光音響画像を生成するものであることが好ましい。
【0017】
この場合において、光微分波形逆畳込み手段は、
光音響信号をフーリエ変換する第1のフーリエ変換手段と、
光微分波形を所定のサンプリングレートでサンプリングした信号をフーリエ変換する第2のフーリエ変換手段と、
フーリエ変換された光微分波形の逆数を逆フィルタとして求める逆フィルタ演算手段と、
フーリエ変換された光音響信号に逆フィルタを適用するフィルタ適用手段と、
逆フィルタが適用された光音響信号をフーリエ逆変換するフーリエ逆変換手段とを有するものとすることができる。
【0018】
また、光音響信号は第1のサンプリングレートでサンプリングされたものであり、
光微分波形は第1のサンプリングレートよりも高い第2のサンプリングレートでサンプリングされたものであり、
光微分波形逆畳込み手段は、第1のサンプリングレートでサンプリングされた光音響信号を、第2のサンプリングレートでリサンプルするリサンプル手段を更に備え、
第1のフーリエ変換手段は、リサンプル手段でリサンプルされた光音響信号をフーリエ変換するものであることが好ましい。
【0019】
或いは、光音響信号は第1のサンプリングレートでサンプリングされたものであり、
光微分波形は第1のサンプリングレートよりも高い第2のサンプリングレートでサンプリングされたものであり、
第1のフーリエ変換手段は第1のデータ点数でフーリエ変換を行うものであり、
第2のフーリエ変換手段は第1のデータ点数よりも多い第2のデータ点数でフーリエ変換を行うものであり、
光微分波形逆畳込み手段は、フーリエ変換された光音響信号に対して、第1のデータ点数と第2のデータ点数との差の分だけ中央に0を付加するゼロパディングを行うゼロパディング手段を更に備え、
フィルタ適用手段は、ゼロパディング手段でゼロパディングが行われた光音響信号に対して逆フィルタを適用するものであることが好ましい。
【0020】
或いは、光音響信号は第1のサンプリングレートでサンプリングされたものであり、
光微分波形は第1のサンプリングレートよりも高い第2のサンプリングレートでサンプリングされたものであり、
第1のフーリエ変換手段は第1のデータ点数でフーリエ変換を行うものであり、
第2のフーリエ変換手段は第1のデータ点数よりも多い第2のデータ点数でフーリエ変換を行うものであり、
光微分波形逆畳込み手段は、フーリエ変換された光微分波形から、第1のデータ点数と第2のデータ点数の差の分だけ高周波成分サンプル点を除去する高周波成分サンプル点除去手段を更に備え、
逆フィルタ演算手段は、フーリエ変換された光微分波形から高周波成分サンプル点を除去した波形の逆数を逆フィルタとして求めるものであることが好ましい。
【0021】
また、本発明に係る光音響画像生成装置にいて、光微分波形逆畳込み手段は、デコンボリューションされた光音響信号から、光音響信号を検出する検出器の受信角度依存特性の影響を除去するように、デコンボリューションされた光音響信号を補正する補正手段を更に備えることが好ましい。
【0022】
また、本発明に係る光音響画像生成装置において、プローブは、被検体に対して送信された超音波に対する反射超音波を検出するものであり、
光音響画像生成装置は、プローブによって検出された反射超音波の超音波信号に基づいて超音波画像を生成する超音波画像生成手段を更に備えるものとすることができる。
【0023】
本発明に係る光音響画像生成方法は、
パルス幅が互いに異なる複数のパルス光を被検体に照射し、
検出帯域が互いに異なる複数の音響波検出手段によって、パルス光の照射に起因して被検体内で発生した光音響波を周波数帯域ごとに分離して検出し、
検出された光音響波の周波数帯域ごとの光音響信号に基づいて光音響画像を生成することを特徴とするものである。
【0024】
そして、本発明に係る光音響画像生成方法において、
複数のパルス光は、パルス幅が1〜10nsecである短パルス光およびパルス幅が15〜100nsecである長パルス光であり、
複数の音響波検出手段は、比較的高周波側に検出帯域を有する高周波検出手段およびこの高周波検出手段の検出帯域よりも低周波側に検出帯域を有する低周波検出手段であり、
高周波検出手段によって短パルス光の照射に起因して発生した光音響波を検出し、低周波検出手段によって長パルス光の照射に起因して発生した光音響波を検出することが好ましい。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る光音響画像生成装置および光音響画像生成方法は、特に、パルス幅が互いに異なる複数のパルス光を被検体に照射し、検出帯域が互いに異なる複数の音響波検出手段によって、パルス光の照射に起因して被検体内で発生した光音響波を周波数帯域ごとに分離して検出し、検出された光音響波の周波数帯域ごとの光音響信号に基づいて光音響画像を生成することを特徴とするものである。したがって、被検体の表面近傍部の光音響画像については、パルス幅の短いパルス光によって高分解能で取得することができ、被検体の深部の光音響画像については、パルス幅の長いパルス光によって取得することができる。この結果、光音響イメージングにおいて、被検体内における深部の画像も取得することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の光音響画像生成装置の第1の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図2】第1の実施形態の光音響画像生成装置におけるレーザユニットの構成を示すブロック図である。
【図3】第1の実施形態の光音響画像生成装置における超音波探触子の構成を示すブロック図である。
【図4】光音響波(PA)の信号波形のパルス幅依存性を示す波形図である。
【図5】光音響波(PA)信号の周波数スペクトル分布のパルス幅依存性を示すスペクトル分布図である。
【図6】第1の実施形態の光音響画像生成装置における光微分波形逆畳込み手段の構成を示すブロック図である。
【図7A】再構成後の光音響信号を示す波形図である。
【図7B】FFT後の光音響信号FFTを示す波形図である。
【図7C】光パルス微分波形(h)を示す波形図である。
【図7D】FFT後の光パルス微分波形FFT(fft_h)を示す波形図である。
【図7E】光パルス微分波形FFTフィルタを示す波形図である。
【図7F】デコンボリューション後のFFT波形を示す波形図である。
【図7G】逆変換された光音響信号を示す波形図である。
【図8A】再構成後の光音響信号に基づいて生成した光音響画像を示す図である。
【図8B】デコンボリューション後の光音響信号に基づいて生成した光音響画像を示す図である。
【図9】光音響画像生成の動作手順を示すフローチャートである。
【図10】本発明の光音響画像生成装置の第2の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図11】第2の実施形態の光音響画像生成装置におけるレーザユニットの構成を示すブロック図である。
【図12】第2の実施形態の光音響画像生成装置における波長選択手段の構成例を示す図である。
【図13】透過領域における波長と透過率との関係を示すグラフである。
【図14】レーザユニットの一部の具体的な構成例を示すブロック図である。
【図15】フラッシュランプ発光のタイミングとパルスレーザ光のタイミングとを示すタイミングチャートである。
【図16】パルスレーザ光出射を示すタイミングチャートである。
【図17】本発明の光音響画像生成装置の第3の実施形態の構成を示すブロック図である。
【図18】第3の実施形態の光音響画像生成装置におけるレーザユニットの構成を示すブロック図である。
【図19】第4の実施形態の光音響画像生成装置における光微分波形逆畳込み手段の構成を示すブロック図である。
【図20A】400MHzのサンプリングレートでサンプリングした光パルス微分波形を示す波形図である。
【図20B】40MHzのサンプリングレートでサンプリングした光パルス微分波形を示す波形図である。
【図21】第5の実施形態の光音響画像生成装置における光微分波形逆畳込み手段の構成を示すブロック図である。
【図22A】光音響信号(周波数領域)を示すグラフである。
【図22B】ゼロパディング後の光音響信号を示すグラフである。
【図23】第6の実施形態の光音響画像生成装置における光微分波形逆畳込み手段の構成を示すブロック図である。
【図24A】光パルス微分波形(周波数領域)を示すグラフである。
【図24B】高周波成分サンプル点が除去された光パルス微分波形を示すグラフである。
【図25】本発明の光音響画像生成装置の第7の実施形態の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明するが、本発明はこれに限られるものではない。なお、視認しやすくするため、図面中の各構成要素の縮尺等は実際のものとは適宜異ならせてある。
【0028】
「光音響画像生成装置の第1の実施形態」
まず、本発明の光音響画像生成装置の第1の実施形態を詳細に説明する。図1は、本発明の光音響画像生成装置の第1の実施形態の構成を示すブロック図である。図2は、第1の実施形態の光音響画像生成装置におけるレーザユニットの構成を示すブロック図である。図3は、第1の実施形態の光音響画像生成装置における超音波探触子の構成を示すブロック図である。
【0029】
具体的には、本実施形態の光音響画像生成装置10は、超音波探触子(プローブ)11、超音波ユニット12、レーザユニット13および画像表示手段14を備える。
【0030】
<レーザユニット>
レーザユニット13は、被検体に照射すべきパルスレーザ光(レーザによるパルス光)を出射する。本実施形態では、レーザユニット13は、波長は同じであるがパルス幅が互いに異なる複数のパルスレーザ光を切り替えて交互に出射する。「パルス幅」とは光強度の波長分布におけるピークの半値幅である。レーザユニット13は、図2に示されるように、例えばレーザロッド51、フラッシュランプ52、共振器を構成するミラー53、54、Qスイッチ(Qsw)55、およびパルスレーザ光の出力を制御する発光制御部61を含む制御部59から構成される。
【0031】
レーザロッド51は、レーザ媒質である。レーザロッド51には、例えばアレキサンドライト結晶やCr:LiSAF(CrドープLiSrAlF6)結晶、Cr:LiCAF(CrドープLiCaAlF6)結晶、TiドープSapphire結晶を用いることができる。フラッシュランプ52は、励起光源であり、レーザロッド51に励起光を照射する。
【0032】
ミラー53、54は、レーザロッド51を挟んで対向しており、ミラー53、54により光共振器が構成される。ここではミラー54が、出力側ミラーであるものとする。
【0033】
発光制御部61は、超音波ユニット12のトリガ制御回路29から光トリガ信号を受信すると、フラッシュランプ52を起動するように制御する。フラッシュランプ52が点灯すると、レーザロッド51が励起される。励起状態のレーザロッド51から出力された光は、ミラー53および54の間で共振しながら増強される。その後、発光制御部61は、超音波ユニット12のトリガ制御回路29からQswトリガ信号を受信すると、Qswを開放するように制御する。そして、例えばミラー54側からパルスレーザ光が出射される。パルスレーザ光のパルス幅は、例えばQswによって制御される。
【0034】
パルスレーザ光のパルス幅は1〜100nsecであることが好ましい。さらに、光音響波を周波数帯域ごとに分離検出しやすくするため、複数のパルスレーザ光は、パルス幅が1〜10nsecである短パルスレーザ光とパルス幅が15〜100nsecである長パルスレーザ光を含むことが好ましい。例えば、短パルスレーザ光としてはパルス幅が4.2nsecのパルスレーザ光が使用され、長パルスレーザ光としてはパルス幅が45nsecのパルスレーザ光が使用される。
【0035】
パルスレーザ光の波長は、計測の対象となる被検体内の物質の光吸収特性によって適宜決定される。生体内のヘモグロビンは、その状態(酸化ヘモグロビン、還元ヘモグロビン、メトヘモグロビン、炭酸ガスヘモグロビン等)により光学的な吸収特性が異なるが、一般的には600nmから1000nmの光を吸収する。したがって、例えば計測対象が生体内のヘモグロビンである場合(つまり、血管を撮像する場合)には、一般的には600〜1000nm程度とすることが好ましい。さらに、被検体の深部まで届くという観点から、パルスレーザ光の波長は700〜1000nmであることが好ましい。
【0036】
なお、レーザユニット13としては、特定の波長成分又はその成分を含む単色光を発生する半導体レーザ(LD)、固体レーザ、ガスレーザ等の発光素子を用いることもできる。
【0037】
<プローブ(超音波探触子)>
プローブ11は、レーザユニット13から出射されたパルスレーザ光が被検体に照射された後に、被検体内の光吸収体がパルスレーザ光を吸収することで生じた光音響波(光音響信号)を検出する。プローブ11は、検出帯域が互いに異なる複数の音響波検出手段であって、パルス光の照射に起因して被検体内で発生した光音響波を周波数帯域ごとに分離して検出するように構成された複数の音響波検出手段を有する。「検出帯域」とは、周波数分布において感度が最も高いピーク周波数を含み、その感度が当該最高感度の50%以上である周波数帯域を意味し、いわゆる周波数分布におけるピークの半値幅に対応する周波数帯域に相当する。また、「検出帯域が互いに異なる」とは、検出帯域の帯域幅がそれぞれ異なることを意味し、一部重複している場合も含む意味である。1つの音響波検出手段が複数の要素(例えば、検出素子およびこれに直列して接続された信号処理回路等)から構成される場合には、検出帯域はすべての要素を考慮してその感度が当該最高感度の50%以上である周波数帯域となる。
【0038】
プローブ11は、例えば本実施形態では図3に示されるように、広い周波数帯域(例えば1〜40MHz程度)に感度を有する広帯域検出素子66と、広帯域検出素子によって検出した光音響信号から低周波数成分(例えば20MHz以下の成分)を除去するハイパスフィルタ67と、比較的低周波側の狭い範囲(例えば5〜12MHz)に検出帯域を有する低周波検出素子65と、切替制御部68を有する。低周波検出素子65および広帯域検出素子66は、どちらも電気音響変換機能を有する超音波振動子(検出素子)であるが、それぞれの超音波の検出帯域が異なる。
【0039】
本実施形態において、広帯域検出素子66およびハイパスフィルタ67が、高周波側に検出帯域を有する本発明の高周波検出手段として機能している。広帯域検出素子66としては、有機材料から構成された圧電素子が代表的であり、有機材料としては特にポリフッ化ビニリデン(PVDF)が好ましい。また、本実施形態において低周波検出素子65が本発明の低周波検出手段に相当する。低周波検出素子65としては、例えば無機材料から構成された圧電素子が代表的であり、無機材料としてはチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)が好ましい。
【0040】
切替制御部68は、使用する検出素子として広帯域検出素子66および低周波検出素子65を切り換えるものである。具体的には、切替制御部68は、同期制御手段としてのトリガ制御回路29からの切替トリガ信号を受信して、パルスレーザ光の出射に同期して、広帯域検出素子66および低周波検出素子65の切り替えを行う。例えば、本実施形態では、パルス幅が相互に異なる複数のパルスレーザ光が切り替えられて交互に出射されるため、切替制御部68は、1つのパルスレーザ光の出射ごとに同期して2つの検出素子を切り替えることになる。
【0041】
図4は、光音響波(PA)の信号波形のパルス幅依存性を示す波形図である。また、図5は、光音響波(PA)信号の周波数スペクトル分布のパルス幅依存性を示すスペクトル分布図である。図4および図5から、パルス幅が短くなるに従って、光音響信号の波形が急峻になり、光音響信号の周波数スペクトルが高周波側にまで伸びて広帯域に変化する様子が分かる。したがって例えば、低周波検出素子65として、検出帯域の中心周波数が10MHzのPZT圧電素子を使用し、広帯域検出素子66として、検出帯域が広帯域なPVDF圧電素子を使用した場合には、パルス幅が45nsecのような長パルスレーザ光に起因して発生した光音響信号は上記PZT圧電素子によって感度良く検出可能であり、パルス幅が4.2nsecのような短パルスレーザ光に起因して発生した光音響信号は上記PVDF圧電素子によって広い周波数帯域で効率よく検出可能となる。そして、長パルスレーザ光に起因して発生した光音響信号は、主として被検体の深部の光音響画像を生成する際の信号として使用され、短パルスレーザ光に起因して発生した光音響信号は、主として被検体の表面近傍部の光音響画像を生成する際の信号として使用される。
【0042】
これにより、パルス幅が相互に異なる複数のパルスレーザ光のそれぞれに起因して発生した光音響信号を周波数ごとに分離して検出することができる。このように、複数の音響波検出手段のそれぞれの特性(検出感度の強さや検出帯域の広さ等)を活かすことにより、効率よく光音響信号を検出することが可能となる。
【0043】
なお、本実施形態では、パルス幅が相互に異なる複数のパルスレーザ光が切り替えられて交互に出射されるため、その出射間の時間間隔によっては、あるパルスレーザ光に起因して発生した光音響信号を検出する際に、他のパルスレーザ光に起因して発生した光音響信号がノイズとならない場合もある。したがってこのような場合には、ハイパスフィルタ67は必ずしも必要ない。また、ハイパスフィルタに代えて、低周波検出手段の検出帯域よりも高周波側の一部の周波数帯域の信号のみを透過させるバンドパスフィルタを使用することも可能である。また、広帯域検出素子66およびハイパスフィルタ67の組み合わせに代えて、低周波検出素子65の検出帯域と重複せずかつ高周波側にある検出帯域を有する高周波検出素子(例えば、40MHz以上の高周波側に検出帯域があるPZT圧電素子)を使用することも可能である。
【0044】
<超音波ユニット>
超音波ユニット12は、光音響画像生成手段に相当する。超音波ユニット12は、受信回路21、AD変換手段22、受信メモリ23、光音響画像再構成手段24、光微分波形逆畳込み手段25、補正手段26、検波・対数変換手段27、光音響画像構築手段28、トリガ制御回路29、制御手段30及び画像合成手段38を有する。
【0045】
受信回路21は、プローブ11で検出された光音響信号を受信する。AD変換手段22は、サンプリング手段であり、受信回路21が受信した光音響信号をサンプリングしてデジタル信号に変換する。AD変換手段22は、例えば、外部から入力する所定周波数のADクロック信号に基づいて、所定のサンプリング周期で光音響信号をサンプリングする。受信メモリ23は、AD変換手段22でサンプリングされた光音響信号を記憶する。そして、本実施形態では、受信メモリ23は、低周波検出素子65によって検出された低周波側の光音響信号と広帯域検出素子66によって検出された高周波側の光音響信号とを、2つの経路のそれぞれの光音響画像再構成手段24に分けて出力する。なお、2つの経路でそれぞれ行う信号処理は同じものである。したがって、信号処理系の経路を1つにして、低周波側の光音響信号と高周波側の光音響信号とを交互に出力するようにしてもよい。
【0046】
光音響画像再構成手段24は、受信メモリ23から光音響信号を読み出し、プローブ11の複数の超音波振動子で検出された光音響信号に基づいて、光音響画像の各ラインのデータを生成する。光音響画像再構成手段24は、例えばプローブ11の64個の超音波振動子からのデータを、超音波振動子の位置に応じた遅延時間で加算し、1ライン分のデータを生成する(遅延加算法)。光音響画像再構成手段24は、遅延加算法に代えて、BP法(Back Projection)により再構成を行ってもよい。あるいは光音響画像再構成手段24は、ハフ変換法又はフーリエ変換法を用いて再構成を行ってもよい。
【0047】
光微分波形逆畳込み手段25は、再構成された光音響信号から被検体に照射された光の光強度の時間波形の微分波形である光パルス微分波形(パルスレーザ光についての光微分波形)をデコンボリューションした信号を生成する。光パルス微分波形をデコンボリューションすることで、t≠0に再構成した圧力分布から、t=0に再構成した圧力分布、すなわち吸収分布を求めることができる。光微分波形逆畳込み手段25は、再構成前の光音響信号に対してデコンボリューションを行ってもよい。デコンボリューションの詳細な説明は後述する。
【0048】
補正手段26は、光パルス微分波形がデコンボリューションされた信号を補正し、光パルス微分波形がデコンボリューションされた信号から、プローブ11における超音波振動子の受信角度依存特性の影響を除去する。また、補正手段26は、受信角度依存特性に加えて、又はこれに代えて、光パルス微分波形がデコンボリューションされた信号から被検体における光の入射光分布の影響を除去する。補正手段26を省き、これらの補正を行わずに、光音響画像の生成を行ってもよい。
【0049】
検波・対数変換手段27は、補正後の各ラインのデータの包絡線を求め、求めた包絡線を対数変換する。包絡線を求める検波手段としては、ヒルベルト変換や直交検波など従来から用いられている手法を用いることができる。これにより、超音波振動子の固有振動による帯域の影響が除去できる。光音響画像構築手段28は、対数変換が施された各ラインのデータに基づいて、光音響画像を生成する。光音響画像構築手段28は、例えば光音響信号(ピーク部分)の時間軸方向の位置を光音響画像における深さ方向の位置に変換して光音響画像を生成する。
【0050】
画像合成手段38は、例えば2つの光音響画像構築手段28でそれぞれ構築された2つの光音響画像の合成画像を生成する。本実施形態では、例えば被検体の深部を示す画像領域には低周波側の光音響信号を使用し、一方被検体の表面近傍部を示す画像領域には高周波側の光音響信号を使用する。これにより、より深部まで写しかつ表面では高分解能な画像が得られる。さらに、画像合成手段38は、合成されて得られた画像に必要な処理(例えばスケールの補正等)を施して画像表示手段14に表示するための最終的な画像(表示画像)を生成する。
【0051】
制御手段30は、超音波ユニット12内の各部を制御する。トリガ制御回路29は、光音響画像生成に際して、レーザユニット13に光トリガ信号を送る。また、光トリガ信号の出力後に、Qswトリガ信号を送る。レーザユニット13は、光トリガ信号を受けてフラッシュランプ52を点灯し、レーザ励起を開始する。レーザユニット13は、Qswトリガ信号が入力されるとQswをONにし、パルスレーザ光を出射する。トリガ制御回路29は、被検体に対するレーザ光照射と同期してAD変換手段22にサンプリングトリガ信号を送り、AD変換手段22における光音響信号のサンプリング開始タイミングを制御する。また、トリガ制御回路29は、パルス幅の切り替えと音響波検出手段の切り替えとが同期するように、Qswトリガ信号とともに切替トリガ信号を切替制御部68に送信する。
【0052】
図6に、光微分波形逆畳込み手段25の詳細な構成を示す。光微分波形逆畳込み手段25は、フーリエ変換手段41、42と、逆フィルタ演算手段43と、フィルタ適用手段44と、フーリエ逆変換手段45とを有する。フーリエ変換手段(第1のフーリエ変換手段)41は、離散フーリエ変換により、再構成された光音響信号を時間領域の信号から周波数領域の信号へと変換する。フーリエ変換手段(第2のフーリエ変換手段)42は、離散フーリエ変換により、光パルス微分波形を所定のサンプリングレートでサンプリングした信号を時間領域の信号から周波数領域の信号へと変換する。フーリエ変換のアルゴリズムにはFFT(高速フーリエ変換:Fast Fourier Transform)を用いることができる。
【0053】
ここで、光パルス微分波形のデコンボリューションの基本アルゴリズムについて説明する。
【0054】
まず、再構成後の光音響信号を入力し、再構成後の光音響信号をフーリエ変換手段41においてFFTによりフーリエ変換する。図7Aに再構成後の光音響信号を示し、図7BにFFT後の光音響信号FFTを示す。フーリエ変換することで、図7Aに示す時間領域の信号が、図7Bに示すような周波数領域の信号に変換される。なお、図7Bでは、光音響信号FFTの絶対値を示しているが、実際の処理では複素数のまま処理される。
【0055】
そして、光パルス微分波形hをフーリエ変換手段42においてFFTによりフーリエ変換する。図7Cに光パルス微分波形(h)を示し、図7DにFFT後の光パルス微分波形FFT(fft_h)を示す。フーリエ変換することで、図7Cに示す時間領域の信号(波形)が、図7Dに示す周波数領域の信号に変換される。なお、図7Cにおける黒丸は、光パルス微分波形におけるサンプリング点を表している。また、図7Dでは、光パルス微分波形FFTの絶対値を示しているが、実際の処理では複素数のまま処理される。
【0056】
そして、逆フィルタ演算手段43によって、上記で得られたFFT後の光パルス微分波形FFT(fft_h)の逆数を、光パルス微分波形FFTフィルタ(逆フィルタ)として求める。光パルス微分波形FFTフィルタは、具体的にはconj(fft_h)/abs(fft_h)2で求めることができる。ここで、conj(fft_h)はfft_hの共役複素数、abs(fft_h)はfft_hの絶対値を表す。図7Eに、光パルス微分波形FFTフィルタを示す。図7Dに示す光パルス微分波形FFTの逆数を求めることで、図7Eに示すような光パルス微分波形FFTフィルタを得ることができる。
【0057】
上記のようにして求めた光パルス微分FFTフィルタと、再構成後の光音響信号FFTとをフィルタ適用手段44によって要素ごとに乗算し、光音響信号FFTから光パルス微分波形をデコンボリューションする。図7Fに、デコンボリューション後のFFT波形を示す。図7Bに示す光音響信号FFTと図7Eに示す光パルス微分波形FFTフィルタとの乗算を行うことで、図7Fに示すFFT波形が得られる。
【0058】
そして、光パルス微分波形をデコンボリューションしたFFT波形を、フーリエ逆変換手段45において逆FFTによりフーリエ逆変換し、周波数領域の信号を時間領域の信号に戻す。図7Gは、逆変換された光音響信号を示す。図7Fに示すFFT波形(周波数領域の信号)を逆FFTすることで、図7Gに示すデコンボリューション後の光音響信号(時間領域の信号)が得られる。このデコンボリューション後の光音響信号は、光吸収分布に光パルス微分波形(図7C)がコンボリューションされた再構成後の光音響信号(図7A)から、光パルス微分波形をデコンボリューションした吸収分布に相当する。
【0059】
図8Aに、再構成後の光音響信号(図7A)に基づいて生成した光音響画像を示し、図8Bに、デコンボリューション後の光音響信号(図7G)に基づいて生成した光音響画像を示す。図8Aに示す、再構成後の光音響信号に基づいて生成した光音響画像は、実質的に圧力分布を画像化したものであり、1本の血管が二重に表示されるなど、画像判定上、血管の位置が確認しづらい。これに対し、図8Bに示すデコンボリューション後の光音響信号に基づいて生成した光音響画像は、光パルス微分波形をデコンボリューションしていることで吸収体の分布を画像化できており、血管の位置を確認しやすくなっている。
【0060】
本実施形態においては、光音響信号のサンプリングレートと光パルス微分波形のサンプリングレートとは等しいものとする。例えば光音響信号はFs=40MHzのサンプリングクロックに同期してサンプリングされており、光微分パルスも、Fs_h=40MHzのサンプリングレートでサンプリングされている。フーリエ変換手段41は、40MHzでサンプリングされた光音響信号を、例えば1024点のフーリエ変換でフーリエ変換する。また、フーリエ変換手段42は、40MHzでサンプリングされた光パルス微分波形を1024点のフーリエ変換でフーリエ変換する。
【0061】
図9は、本実施形態における光音響画像生成方法における動作手順を示す。
【0062】
トリガ制御回路29は、レーザユニット13に対して光トリガ信号を出力する。レーザユニット13は、光トリガ信号を受けてフラッシュランプ52を点灯する。トリガ制御回路29は、所定のタイミングでQswトリガ信号を出力する。レーザユニット13は、Qswトリガ信号が入力されると、Qsw55をONにし、パルスレーザ光を出射する。出射したパルスレーザ光は、例えばプローブ11まで導光され、プローブ11から被検体に照射される(ステップS1)。
【0063】
プローブ11は、レーザ光の照射後、レーザ光の照射により被検体内で発生した光音響信号を検出する(ステップS2)。超音波ユニット12の受信回路21は、プローブ11で検出された光音響信号を受信する。トリガ制御回路29は、被検体に対する光照射のタイミングに合わせてAD変換手段22にサンプリングトリガ信号を送る。AD変換手段22は、サンプリングトリガ信号を受けて光音響信号のサンプリングを開始し、光音響信号のサンプリングデータを受信メモリ23に格納する。
【0064】
光音響画像再構成手段24は、受信メモリ23から光音響信号のサンプリングデータを読み出し、読み出した光音響信号のサンプリングデータに基づいて、光音響信号を再構成する(ステップS3)。光微分波形逆畳込み手段25は、再構成された光音響信号から、被検体に照射されたパルスレーザ光の光強度の時間波形を微分した光パルス微分波形をデコンボリューションする(ステップS4)。このデコンボリューションにより、吸収分布を示す光音響信号が得られる。
【0065】
補正手段26は、光パルス微分波形がデコンボリューションされた信号を、検出素子受信角度依存性や被検体における光の入射分布で補正する。検波・対数変換手段27は、補正手段26で補正された光音響信号の包絡線を求め、求めた包絡線を対数変換する。光音響画像構築手段28は、対数変換が施された各ラインのデータに基づいて、光音響画像を生成する(ステップS5)。この光音響信号は、吸収分布を画像化した吸収分布画像である。上記のステップ3から5までの信号処理を低周波側の光音響信号と高周波側の光音響信号とに対して実施した後、これらの光音響画像が画像合成手段38で合成される。画像表示手段14は、表示画面上に、吸収分布画像である合成された光音響画像を表示する(ステップS6)。
【0066】
本実施形態では、ひとまず、光音響画像再構成手段24にて、通常の再構成法により発光時刻(t=0)の圧力分布として光音響信号(光音響画像)を再構成する。つぎに、実際は、光の発光時間は有限の長さであることから、再構成時にt=0としていた時刻を、有限の時間と考え、光微分波形逆畳込み手段25にて、再構成後の光音響画像から光パルス微分波形をデコンボリューションする。光パルス微分波形をデコンボリューションすることで、吸収分布を得ることができ、吸収分布画像を生成することができる。このような手法を採用することで、実用的な光パルス幅と実用的な超音波システム、或いは実際の生体を観測した場合でも、吸収分布を画像化することができる。これは、現状システムの検出器の帯域やADサンプリングを使用できる利点がある。また、本実施形態においては光音響画像の再構成で圧力分布を一度出しているため、既存の超音波アルゴリズム、装置との親和性が高い。
【0067】
以上のように、本発明に係る光音響画像生成装置および光音響画像生成方法は、特に、パルス幅が互いに異なる複数のパルス光を被検体に照射し、検出帯域が互いに異なる複数の音響波検出手段によって、パルス光の照射に起因して被検体内で発生した光音響波を周波数帯域ごとに分離して検出し、検出された光音響波の周波数帯域ごとの光音響信号に基づいて光音響画像を生成することを特徴とするものである。したがって、被検体の表面近傍部の光音響画像については、パルス幅の短いパルス光によって高分解能で取得することができ、被検体の深部の光音響画像については、パルス幅の長いパルス光によって取得することができる。この結果、光音響イメージングにおいて、被検体内における深部の画像も取得することが可能となる。
【0068】
「光音響画像生成装置の第2の実施形態」
次に、本発明の光音響画像生成装置の第2の実施形態を詳細に説明する。図10は、本発明の光音響画像生成装置の第2の実施形態の構成を示すブロック図である。図11は、第2の実施形態の光音響画像生成装置におけるレーザユニットの構成を示すブロック図である。本実施形態は、レーザユニット13がパルス幅および波長が互いに異なる複数のパルスレーザ光を切り替えて交互に出射する点で、第1の実施形態と異なる。したがって、第1の実施形態と同様の構成要素についての詳細な説明は、特に必要がない限り省略する。
【0069】
本実施形態の光音響画像生成装置10は、超音波探触子(プローブ)11、超音波ユニット12、レーザユニット13および画像表示手段14を備える。
【0070】
<レーザユニット>
レーザユニット13は、パルス幅および波長が互いに異なる複数のパルスレーザ光を切り替えて交互に出射するものである。これにより、吸収特性が異なる複数の組織からの光音響信号を周波数帯域ごとに分離して検出することが可能となる。「波長が互いに異なる」とは、波長分布において光強度が最も高いピーク波長が互いに異なることを意味する。パルスレーザ光の波長は、計測の対象となる被検体内の物質の光吸収特性によって適宜決定される。例えば、パルス幅が4.2nsecかつ波長が800nmのパルスレーザ光と、パルス幅が45nsecかつ波長が750nmのパルスレーザ光とを使用して、取得した各波長の光音響信号の強度比に基づいて、生体内部の動脈と静脈を分離して画像化することが可能である。
【0071】
上記のようなレーザユニット13は、例えば下記のようにして構成することができる。レーザユニット13は、図11に示されるように、レーザロッド51、フラッシュランプ52、ミラー53、54、集光レンズ55、波長選択手段56、駆動手段57、駆動状態検出手段58、及び制御部59を有する。
【0072】
ミラー53、54から構成される光共振器内には、集光レンズ55と波長選択手段56とが配置される。波長選択手段56は、光共振器内で共振する光の波長を、出射すべき複数の波長のうちの何れかに制御する。集光レンズ55は、レーザロッド51と波長選択手段56との間に配置され、レーザロッド51側から入射した光を収束して波長選択手段56側に出射する。つまり、集光レンズ55は、光共振器内を波長選択手段56に向けて進行する光のビーム径を縮小させる。
【0073】
波長選択手段56は、例えば、円周方向に沿って交互に配置された複数の透過領域と不透過領域とを有する。複数の透過領域は、複数の波長に対応した所定の波長の光を選択的に透過させる。波長選択手段56は、例えば2つの透過領域と2つの不透過領域とを有する。透過領域のうちの1つには、例えば波長750nm(中心波長)の光を透過させる第1のバンドパスフィルタ(BPF:Band Pass Filter)が設けられ、もう1つには波長800nm(中心波長)の光を透過させる第2のバンドパスフィルタが設けられる。
【0074】
上記構成の波長選択手段56は、回転に伴って、複数のバンドパスフィルタの何れかを光共振器の光路上に選択的に挿入する。例えば波長選択手段56は、光共振器の光路上に、不透過領域→第1のバンドパスフィルタ→不透過領域→第2のバンドパスフィルタを順次に挿入する。光共振器の光路上に第1のバンドパスフィルタを挿入することで、光発振器の発振波長を750nmとすることができ、光共振器の光路上に第2のバンドパスフィルタを挿入することで、光発振器の発振波長を800nmとすることができる。
【0075】
波長選択手段56は、回転駆動に伴って、光共振器内の挿入損失を損失大(第1の損失)から損失小(第2の損失)に変化させるように構成されている。第1又は第2のバンドパスフィルタが光共振器の光路上に挿入されるとき、光共振器の挿入損失は損失小(高Q)となり、光路上に不透過領域が挿入されるとき、光共振器の挿入損失は損失大(低Q)となる。波長選択手段56はQswを兼ねており、回転駆動に伴って、波長選択手段56が光共振器内の挿入損失を損失大(低Q)から損失小(高Q)へと急速に変化させることで、パルスレーザ光を得ることができる。
【0076】
駆動手段57は、波長選択手段56を、光共振器がQswパルス発振するように駆動する。つまり、駆動手段57は、波長選択手段56が光共振器内の挿入損失を損失大(低Q)から損失小(高Q)へと急速に変化させるように、波長選択手段56を駆動する。例えば波長選択手段56が円周方向に沿って透過領域(バンドパスフィルタ)と不透過領域とが交互に配置されたフィルタ回転体で構成される場合、駆動手段57は、光共振器の光路上に不透過領域及び透過領域が交互に挿入されるようにフィルタ回転体を連続的に回転させる。波長選択手段56の駆動に伴う、光共振器内の挿入損失が損失高から損失小へと切り替わる際の切り替え時間は、Qswパルスの発生遅延時間よりも短いことが好ましい。光共振器の光路上に挿入される領域を不透過領域から透過領域(第1又は第2のバンドパスフィルタ)へと切り替えることで、光路上に挿入された透過領域(バンドパスフィルタ)が透過させる光の波長に対応した波長で、光共振器をQswパルス発振させることができる。
【0077】
駆動状態検出手段58は、波長選択手段56の駆動状態を検出する。駆動状態検出手段58は、例えばフィルタ回転体である波長選択手段56の回転変位を検出する。駆動状態検出手段58は、フィルタ回転体の回転変位を示すBPF状態情報をBPF状態信号として制御部59に出力する。
【0078】
制御部59は、回転制御部60と発光制御部61とを含む。回転制御部60は、波長選択手段56が所定の回転速度で回転するように駆動手段58を制御する。波長選択手段56の回転速度は、例えばレーザユニット13から出射すべきパルスレーザ光の波長の数(フィルタ回転体におけるバンドパスフィルタの数)と、単位時間当たりのパルスレーザ光の個数とに基づいて決定できる。回転制御部59は、駆動状態検出手段58が検出する回転位置の所定時間あたりの変化量が一定となるように駆動手段57を制御する。回転制御部59は、例えば所定時間の間におけるBPF状態情報の変化の量が所定のバンドパスフィルタの切替え速度(フィルタ回転体の回転速度)に応じた変化量となるように、駆動手段57を制御する。
【0079】
発光制御部61は、フラッシュランプ52を制御する。発光制御部61は、フラッシュランプ(FL)制御信号をフラッシュランプ52に出力し、フラッシュランプ52からレーザロッド51に励起光を照射させる。発光制御部61は、波長選択手段56が光共振器の挿入損失を損失大から損失小へと切り替える時刻よりも所定時間だけ前の時刻でフラッシュランプ52にFL制御信号を出力し、励起光を照射させる。つまり、発光制御部61は、駆動状態検出手段58が検出した回転位置が、波長選択手段56が光共振器の挿入損失を損失大から損失小へと切り替える回転位置よりも所定の量だけ前の位置になると、フラッシュランプ52にFL制御信号を送り、励起光を照射させる。
【0080】
例えば発光制御部61は、BPF状態信号が表す情報が、出射すべきパルスレーザ光の波長に対応したバンドパスフィルタが光共振器の光路上に挿入される波長選択手段56の駆動位置から、レーザロッド51の励起に要する時間の間に波長選択手段56が変位する量を差し引いた位置を示す情報になるとFL制御信号を出力し、フラッシュランプ52からレーザロッド51に励起光を照射させる。発光制御部61は、FL制御信号の出力後、駆動状態検出手段58が検出した回転位置が、波長選択手段56が光共振器の挿入損失を損失大から損失小へと切り替える回転位置になると、Qswがオンになるタイミングを示すQsw同期信号を生成し、超音波ユニット12に出力する。
【0081】
図10に戻り、制御手段30は、超音波ユニット12内の各部の制御を行う。トリガ制御回路29は、レーザユニット13に対して、波長選択手段56の回転速度を制御するためのBPF制御信号を出力する。また、トリガ制御回路29は、レーザユニット13に、フラッシュランプ52の発光を制御するためのFLスタンバイ信号を出力する。トリガ制御回路29は、例えばレーザユニット13の回転制御部60からフィルタ回転体の現在の回転変位位置を受け取っており、受け取った回転変位位置に基づくタイミングでFLスタンバイ信号を出力する。
【0082】
トリガ制御回路29は、レーザユニット13から、Qswがオンになるタイミング、すなわちレーザ発光タイミングを示すQsw同期信号を入力する。トリガ制御回路29は、Qsw同期信号を受け取ると、AD変換手段22にサンプリングトリガ信号を出力する。AD変換手段22は、サンプリングトリガ信号にと基づいて光音響信号のサンプリングを開始する。
【0083】
図12は、波長選択手段56の構成例を示す。波長選択手段56は、例えば図12に示すような、透過波長が相互に異なる複数の透過領域(バンドパスフィルタ)を含むフィルタ回転体70として構成される。フィルタ回転体70は、波長750nmの光を選択的に透過させる第1の透過領域71と、波長800nmの光を選択的に透過させる第2の透過領域72と、光を透過しない不透過領域73、74とを有する。なお、不透過領域は、完全に光を遮光するまでの能力は要求されない。不要なレーザ発振が生じない程度に、わずかに光が透過してもよい。
【0084】
第1の透過領域71及び第2の透過領域72は、例えばそれぞれ中心角θ1およびθ2の扇型に形成される。中心角θ1およびθ2の大小は、それぞれの波長のパルスレーザ光におけるパルス幅の長短に応じて適宜設定される。集光レンズ55で集光された光は、図12に示されるように、フィルタ回転体70の周縁部に照射される。フィルタ回転体70を時計回りに回転させると、光共振器の光路上に、第1の透過領域71、不透過領域73、第2の透過領域72、及び不透過領域74をこの順に挿入できる。上記のように、第1の透過領域71と第2の透過領域72とで、各領域を透過する光の波長を変える、すなわち各透過領域に設けるバンドパスフィルタの透過波長を変えることで、パルスごとに波長が異なるパルスレーザ光を得ることができる。
【0085】
図13は、透過領域における波長と透過率との関係を示す。第1の透過領域(第1のバンドパスフィルタ)71における中心波長750nmの光に対する透過率は90%以上あるとする。その帯域幅はおよそ10nmである。第2の透過領域(第2のバンドパスフィルタ)72における中心波長800nmの光に対する透過率は90%以上である。その帯域幅はおよそ10nmである。
【0086】
ここで、フィルタ回転体70の回転周波数が100Hz(回転速度6000rpm)であるとする。その場合、1回転あたり2つの透過領域を通過することから、レーザユニット13が出射するパルスレーザ光の個数は1秒あたり200個となる(200Hz動作)。例えば、フィルタ回転体70として半径2インチ(50.4mm)のフィルタ回転体を考える。また、ビーム径は100μmとする。角速度はω=2πf=628.3[rad/sec]となり、線速度はv=rω=628.8[rad/sec]×50.4[mm]=31.7[m/s]となる。ビームを横切る時間(スイッチング時間)は3.15μsecとなる。
【0087】
Qswの特性として、スイッチング時間(例えば不透過領域から第1又は第2の透過領域への切替時間)はおおよそ数μ秒以下であること(Qswパルスの発生遅延時間よりも小さいこと)が、シングルパルスを得るための条件である。透過領域の中心角θは、ビームを横切る時間+Qsw遅延時間の間、ビームを妨げない条件で選ばれる。上記数値例では、3.15μsec+数μsec=おおよそ10μsecの間、透過領域が続けばよい。したがって、31.7[m/s]×10μsec=317μmが横幅の長さであり、角度にすると0.35°である。製作のことを考えると、中心角θは1°から数度あればよい。
【0088】
図14は、レーザユニット13の一部を示している。波長選択手段56は、例えば図12に示すような、2つのバンドパスフィルタ(透過する光の波長が異なる2つの透過領域)を含むフィルタ回転体70として構成される。フィルタ回転体70上でのビーム径は小さい方がよい。そこで、本実施形態では集光レンズ55を用いてビームを収束させている。フィルタ回転体70上でのビーム径は望ましくは100μm以下である。下限は回折限界で決まり、数μmである。なお、フィルタ回転体70は、光共振器の光軸に対して所定の角度で傾いた面内で回転するように、光軸に対して例えば0.5°から1°程度だけ傾けられることが好ましい。このように光共振器の光軸に対してわずかに斜めに配置することで、不要な反射成分が寄生発振を起こすことを防止できる。
【0089】
駆動手段57は例えばサーボモータであり、波長選択手段56(フィルタ回転体70)を回転軸に沿って回転させる。フィルタ回転体70の回転周波数は高い方がよい。機械的には1kHz程度まで可能である。駆動状態検出手段58は、例えばロータリーエンコーダーで構成される。ロータリーエンコーダーは、サーボモータの出力軸に取り付けられたスリット入りの回転板と透過型フォトインタラプタとでフィルタ回転体の回転変位を検出し、フィルタ回転体70の回転を電気信号(BPF状態信号)に変換する。このBPF状態信号をマスタークロックとし、発光制御部61に同期信号として送る。発光制御部61は、高精度に回転しているフィルタ回転体70の回転に合わせて、フラッシュランプ発光のタイミングを決定する。
【0090】
図15は、フラッシュランプ発光のタイミングとパルスレーザ光のタイミングとを示す。時刻t2は、回転しているフィルタ回転体70(波長選択手段56)が不透過領域から透過領域へと切り替わる回転位置に対応した時刻であるとする。時刻t1は、時刻t2から、レーザロッド51の励起に必要な時間を差し引いた時刻である。発光制御部61は、フィルタ回転体70の回転位置が時刻t1に対応した位置になると、フラッシュランプ52を発光させる(図15の(a))。フラッシュランプ52が発光することで、レーザロッド51が励起される。
【0091】
フラッシュランプ発光後、時刻t2で、フラッシュランプが消灯するのとほぼ同じ時刻に、フィルタ回転体70が不透過領域から透過領域(第1の透過領域71又は第2の透過領域72)へと切り替わっていく(図15の(b))。この不透過領域から透過領域への替わりに要する時間(スイッチング時間)はできるだけ短い方がよく、数μ秒以下、より望ましくは0.5μ秒以下である。光共振器の光路上に750nmの光を透過する透過領域が挿入されると、時刻t3で、波長750nmの光がQswパルス発振し、波長750nmのパルスレーザ光が得られる(図15の(c))。一方、光共振器の光路上に挿入された透過領域が800nmの光を透過する透過領域であった場合、波長800nmの光がQswパルス発振し、波長800nmのパルスレーザ光が得られる。フィルタ回転体70の透過領域部分がおよそ10μ秒程度続いた後、時刻t4で、再び不透過領域へと切り替わる。
【0092】
図16は、パルスレーザ光出射を示す。図12に示すような、不透過領域73、74の間に第1の透過領域71と第2の透過領域72とが設けられているフィルタ回転体70を用いた場合、図16に示すように、パルス幅の広い波長750nmのパルスレーザとパルス幅の狭い波長800nmのパルスレーザ光とをパルスごとに切り替えることが可能となる。フィルタ回転体の回転周波数を100Hzとすれば、パルス幅と波長を交互に切り替えつつ、1秒間に200個のパルスレーザ光を得ることができる。
【0093】
光音響画像生成装置10の動作手順について説明する。トリガ制御回路29は、被検体に対するパルスレーザ光照射に先立って、所定の回転速度でレーザユニット13内の波長選択手段56を回転させる旨のBPF制御信号をレーザユニット13に出力する。
【0094】
トリガ制御回路29は、光音響信号の受信準備が整うと、1つ目の波長(例えば750nm)のパルスレーザ光を出射させるべく、所定のタイミングでレーザユニット13にFLスタンバイ信号を出力する。レーザユニット13の発光制御部61は、FLスタンバイ信号を受け取った後、フラッシュランプ52にFL制御信号を送り、フラッシュランプ52を点灯させる。発光制御部61は、BPF状態信号に基づいて、例えば波長選択手段56の回転変位位置が不透過領域74から波長750nmの光を透過させる第1の透過領域71へと切り替わるタイミングから逆算されたタイミングで、FL制御信号を出力する。フラッシュランプ52が点灯することで、レーザロッド51の励起が開始される。
【0095】
フラッシュランプの点灯後、波長選択手段56が回転を続け、光共振器の光路上に挿入される部分が不透過領域74から第1の透過領域71へと切り替わると、光共振器内の挿入損失が損失大(低Q)から損失小(高Q)へと急速に変化し、Qswパルス発振が起こる。このとき第1の透過領域71は波長750nmの光を選択的に透過させるため、レーザユニット13は、波長750nmのパルスレーザ光を出射する。発光制御部61は、Qswがオンになるタイミング、言い換えるとパルスレーザ光が出射するタイミングを示すQsw同期信号を超音波ユニット12に出力する。
【0096】
レーザユニット13から出射した波長750nmのパルスレーザ光は、例えばプローブ11まで導光され、プローブ11から被検体に照射される。そして、プローブ11の低周波検出素子65によって、パルス幅の長い波長750nmのパルスレーザ光に起因して発生した光音響信号が検出される。プローブ11で検出された光音響信号は、受信回路21にて受信される。
【0097】
そして、次の波長800nmのパルスレーザ光を出射させるために、トリガ制御回路29からレーザユニット13にFLスタンバイ信号が出力される。発光制御部61は、フラッシュランプ52にFL制御信号を送り、フラッシュランプ52を点灯させる。フラッシュランプの点灯後、光共振器の光路上に挿入される部分が、不透過領域73から波長800nmに対応した第2の透過領域72へと切り替わり、Qswパルス発振が起こる。これにより、波長800nmのパルスレーザ光が出射する。発光制御部61は、Qsw同期信号を超音波ユニット12に出力する。
【0098】
レーザユニット13から出射した波長800nmのパルスレーザ光は、例えばプローブ11まで導光され、プローブ11から被検体に照射される。そして、プローブ11の広帯域検出素子66によって、パルス幅の短い波長800nmのパルスレーザ光に起因して発生した光音響信号が検出される。
【0099】
画像合成手段38は、例えば2つの光音響画像構築手段28でそれぞれ構築された2つの光音響画像の合成画像を生成する。そして本実施形態では、取得した各波長の光音響信号の強度比に基づいて、動脈を表す領域と静脈を表す領域が色分けされる。これにより、動脈および静脈の識別が可能となる。さらに、画像合成手段38は、合成されて得られた画像に必要な処理(例えばスケールの補正等)を施して画像表示手段14に表示するための最終的な画像(表示画像)を生成する。
【0100】
「光音響画像生成装置の第3の実施形態」
次に、本発明の光音響画像生成装置の第3の実施形態を詳細に説明する。図17は、本発明の光音響画像生成装置の第3の実施形態の構成を示すブロック図である。図18は、第3の実施形態の光音響画像生成装置におけるレーザユニットの構成を示すブロック図である。本実施形態は、パルス幅および波長が互いに異なるパルスレーザ光を出射する複数の光源からレーザユニット13が構成される点で、第1の実施形態と異なる。したがって、第1の実施形態と同様の構成要素についての詳細な説明は、特に必要がない限り省略する。
【0101】
本実施形態の光音響画像生成装置10は、超音波探触子(プローブ)11、超音波ユニット12、レーザユニット13および画像表示手段14を備える。
【0102】
<レーザユニット>
レーザユニット13は、パルス幅および波長が互いに異なる複数のパルスレーザ光を同時に出射するものである。これにより、吸収特性が異なる複数の組織からの光音響信号を周波数帯域ごとに分離して検出することが可能となる。パルスレーザ光の波長は、計測の対象となる被検体内の物質の光吸収特性によって適宜決定される。例えば、パルス幅が4.2nsecかつ波長が800nmのパルスレーザ光と、パルス幅が45nsecかつ波長が750nmのパルスレーザ光とを使用して、取得した各波長の光音響信号の強度比に基づいて、生体内部の動脈と静脈を分離して画像化することが可能である。
【0103】
上記のようなレーザユニット13は、例えば下記のようにして構成することができる。レーザユニット13は、図18に示されるように、パルス幅が4.2nsecかつ波長が800nmのパルスレーザ光を出射する光源13aおよびパルス幅が45nsecかつ波長が750nmのパルスレーザ光を出射する光源13bから構成される。光源13aおよび13bのそれぞれの構成は、第1の実施形態と同様である。光源13aおよび13bはそれぞれ、トリガ制御回路29からの光トリガ信号を受信して、フラッシュランプ52aおよび52bを点灯させる。そしてフラッシュランプ52aおよび52bの点灯後、Qswトリガ信号が入力されると、光源13aおよび13bはそれぞれQsw55aおよび55bをONにし、パルスレーザ光をそれぞれ出射する。
【0104】
<プローブ(超音波探触子)>
プローブ11は、レーザユニット13から出射された2つのパルスレーザ光が被検体に照射された後に、それぞれのパルスレーザ光に起因して生じた2つの光音響信号を同時に検出する。このようなプローブ11は、例えば、広い周波数帯域(例えば1〜40MHz程度)に感度を有する広帯域検出素子と、広帯域検出素子によって検出した光音響信号から低周波数成分(例えば20MHz以下の成分)を除去するハイパスフィルタと、比較的低周波側の狭い範囲(例えば5〜12MHz)に検出帯域を有する低周波検出素子とから構成される。つまり、本実施形態におけるプローブ11は、図3に示されるようなプローブから切替制御部68が除かれたような構成を有する。このような構成にすることにより、パルス幅が45nsecのような長パルスレーザ光に起因して発生した光音響信号は上記低周波検出素子によって感度良く検出可能であり、パルス幅が4.2nsecのような短パルスレーザ光に起因して発生した光音響信号は広帯域検出素子によって効率よく広い周波数帯域で検出可能となる。なお、本実施形態においては、広帯域検出素子によって検出された光音響信号から低周波成分を除去することが必要となるから、広帯域検出素子を使用する場合にはハイパスフィルタは必須となる。ただし、第1の実施形態と同様に、低周波検出素子の検出帯域と重複せずかつ高周波側にある検出帯域を有する高周波検出素子を使用する場合にはハイパスフィルタは不要となる。
【0105】
光源13aおよび13bからそれぞれ出射した波長800nmおよび750nmのパルスレーザ光は、例えばプローブ11まで導光され、プローブ11から被検体に照射される。そして、プローブ11の広帯域検出素子によってパルス幅の短い波長800nmのパルスレーザ光に起因して発生した光音響信号が検出され、低周波検出素子によってパルス幅の長い波長800nmのパルスレーザ光に起因して発生した光音響信号が検出される。このように本実施形態では、複数のパルスレーザ光の照射のそれぞれに起因して発生した光音響波を同時に検出することができるため、画像構築速度を向上させることが可能である。
【0106】
画像合成手段38は、例えば2つの光音響画像構築手段28でそれぞれ構築された2つの光音響画像の合成画像を生成する。そして本実施形態では、取得した各波長の光音響信号の強度比に基づいて、動脈を表す領域と静脈を表す領域が色分けされる。これにより、動脈および静脈の識別が可能となる。さらに、画像合成手段38は、合成されて得られた画像に必要な処理(例えばスケールの補正等)を施して画像表示手段14に表示するための最終的な画像(表示画像)を生成する。
【0107】
「光音響画像生成装置の第4の実施形態」
次に、本発明の光音響画像生成装置の第4の実施形態を詳細に説明する。第1の実施形態では、光音響信号のサンプリングレートと光パルス微分波形のサンプリングレートとが一致しており、双方の信号を同じデータ点数でフーリエ変換した。本実施形態では、光音響信号を低速サンプリングする一方で、光パルス微分波形を高速サンプリングする。つまり、光パルス微分波形のサンプリングレートを光音響信号のサンプリングレートよりも高く設定する。例えば光音響信号のサンプリング間隔(サンプリングレートの逆数)は、被検体に照射される光のパルス時間幅よりも長く設定される。フーリエ変換に際しては、低サンプリングレートでサンプリングされた光音響信号を、光パルス微分波形のサンプリングレートと同じサンプリングレートでリサンプル(アップサンプル)した上で、フーリエ変換を行う。したがって、光音響画像生成装置の構成自体は、光微分波形逆畳込み手段を除き、第1の実施形態と同様である。本実施形態の説明では、光微分波形逆畳込み手段以外の要素については、図1に示された符号を援用している。第1の実施形態と同様の構成要素についての詳細な説明は、特に必要がない限り省略する。
【0108】
本実施形態の光音響画像生成装置10は、超音波探触子(プローブ)11、超音波ユニット12、レーザユニット13および画像表示手段14を備える。
【0109】
図19は、本実施形態における光微分波形逆畳込み手段25aを示す。本実施形態における光微分波形逆畳込み手段25aは、図6に示す第1実施形態における光微分波形逆畳込み手段25の構成に加えて、リサンプル手段46及び47を有する。リサンプル手段46は、アップサンプル手段であり、低いサンプリングレートでサンプリングされた光音響信号のサンプリングデータを、光パルス微分波形のサンプリングレートと同じサンプリングレートでリサンプルする(アップサンプル)。リサンプル手段46は、例えば、低サンプリングレートでサンプリングされた光音響信号のサンプル点間にゼロを付加し、アップサンプル前のナイキスト周波数でカットするローパスフィルタをかけることでアップサンプルを行う。
【0110】
例えば、AD変換手段22における光音響信号のサンプリングレート(第1のサンプリングレート)が40MHzであり、光パルス微分波形のサンプリングレート(第2のサンプリングレート)が400MHzであったとする。この場合、リサンプル手段46は、40MHzの光音響信号を400MHzの信号にアップサンプルする。フーリエ変換手段41は、リサンプル手段46でアップサンプルされた光音響信号をフーリエ変換する。光音響信号をフーリエ変換するフーリエ変換手段41と、光パルス微分波形をフーリエ変換するフーリエ変換手段42とは、同じデータ点数でフーリエ変換を行う。例えばフーリエ変換手段41は光音響信号を8192点の周波数領域の信号に変換し、フーリエ変換手段42は光パルス微分波形を8192点の周波数領域の信号に変換する。
【0111】
フィルタ適用手段44は、アップサンプルされた光音響信号をフーリエ変換した信号に対して逆フィルタを適用する。フーリエ逆変換手段45は、逆フィルタが適用された信号を、周波数領域の信号から時間領域の信号(吸収分布)へと変換する。時間領域の信号に戻された吸収分布信号は、例えば400MHzにアップサンプルされた状態の信号となっている。リサンプル手段47は、吸収分布信号が、光音響信号の元のサンプルリングレートに、吸収信号をダウンサンプルする。リサンプル手段47は、例えば400MHzの吸収信号を40MHzの吸収信号にダウンサンプルする。ダウンサンプリングは、例えばダウンサンプル後のナイキスト周波数でカットするローパスフィルタをかけた後に、サンプル点を間引くことで行う。
【0112】
図20Aに、400MHzのサンプリングレートでサンプリングした光パルス微分波形を示し、図20Bに、40MHzのサンプリングレートでサンプリングした光パルス微分波形を示す。サンプリングレート400MHzでは、図20Aに示すように、光パルス微分波形を正確に再現できる。一方、光パルス微分波形のサンプリングレートを光音響信号のサンプリングレートに合わせ、40MHzでサンプリングすると、図20Bに示すように、光パルス微分波形を正確に再現できなくなる。
【0113】
フィルタ適用手段44にて光音響信号をフーリエ変換した信号に逆フィルタを適用する際には、双方のデータ点数が揃っている必要がある。光音響信号のサンプリングレートに合わせて光パルス微分波形のサンプリングレートを設定すると、図20Bに示したように、波形変化に対してサンプリング周波数が低すぎ、光パルス微分波形が正確に再現できない。このような光パルス微分波形から求めた逆フィルタを適用した場合、光パルス微分項を正確にデコンボリューションできずに、吸収分布を正しく求められないこともある。
【0114】
一方、光パルス微分波形を正確に再現するために光パルス微分波形のサンプリングレートを例えば400MHzに設定し、光音響信号のサンプリングレートを400MHzに合わせるとした場合は、光パルス微分項を正確にデコンボリューションでき、吸収分布を正しく求めることができる。しかしながら、その場合、AD変換手段22には高速なAD変換器が要求され、また、サンプリングデータの総数が増えることから、受信メモリ23に要求されるメモリ容量が増大する。更に、光音響画像再構成手段24で取り扱うデータが増えるため、再構成に要する時間も長くなる。
【0115】
本実施形態では、リサンプル手段46で、事後的に光音響信号のサンプリングデータをリサンプルする。本実施形態では、検出後の光音響信号を信号処理でアップサンプルしているため、光音響の検出から再構成までは低速サンプリングしつつも、光パルス微分項を正確にデコンボリューションすることができる。本実施形態では、AD変換手段22に高速なAD変換器は不要であり、受信メモリ23に必要なメモリ容量も増大しない。また、光音響信号の再構成に要する時間も増大せず、光音響信号の検出時に高いサンプリングレートでサンプリングする場合に比して、処理時間を短縮することができる。
【0116】
「光音響画像生成装置の第5の実施形態」
次に、本発明の光音響画像生成装置の第5の実施形態を詳細に説明する。本実施形態では、第4の実施形態と同様に、光パルス微分波形のサンプリングレートを光音響信号のサンプリングレートよりも高く設定する。第4の実施形態では、低サンプリングレートでサンプリングされた光音響信号をアップサンプルし、双方の信号を同じデータ点数でフーリエ変換した。本実施形態では、光パルス微分波形のフーリエ変換を、光音響信号のフーリエ変換のデータ点数よりも多いデータ点数で行い、フーリエ変換された光音響信号に対して、データ点数の差の分だけ中央(高周波成分領域)にゼロ点を付加する。したがって、光音響画像生成装置の構成自体は、光微分波形逆畳込み手段を除き、第1の実施形態と同様である。本実施形態の説明では、光微分波形逆畳込み手段以外の要素については、図1に示された符号を援用している。第1の実施形態と同様の構成要素についての詳細な説明は、特に必要がない限り省略する。
【0117】
本実施形態の光音響画像生成装置10は、超音波探触子(プローブ)11、超音波ユニット12、レーザユニット13および画像表示手段14を備える。
【0118】
図21は、本実施形態における光微分波形逆畳込み手段25bを示す。本実施形態における光微分波形逆畳込み手段25bは、図6に示す第1の実施形態における光微分波形逆畳込み手段25の構成に加えて、ゼロパディング手段48とゼロ点除去手段49とを有する。例えば、光音響信号のサンプリングレート(第1のサンプリングレート)は40MHzであり、光パルス微分波形のサンプリングレート(第2のサンプリングレート)は320MHzであるとする。フーリエ変換手段41は、例えば40MHzの光音響信号を1024点(第1のデータ点数)の周波数領域の信号に変換し、フーリエ変換手段42は、320MHzの光パルス微分波形を8192点(第2のデータ点数)の周波数領域の信号に変換する。第2のデータ点数は、第1のデータ点数に、第2のサンプリングレートと第1のサンプリングレートとの比を乗じたデータ点数と等しいか、又はそれよりも多い。
【0119】
ゼロパディング手段48は、フーリエ変換手段41から周波数領域の信号に変換された光音響信号を入力する。ゼロパディング手段48は、フーリエ変換された光音響信号に対して、フーリエ変換後の光音響信号と光パルス微分波形のデータ点数の差の分だけ中央にゼロ点(信号値ゼロの点)を付加する。ゼロパディング手段48は、例えば周波数領域で表されたデータ点数1024点の光音響信号を、ナイキスト周波数(サンプリング周波数の1/2)で2つに分割し、分割した2つの周波数領域の間にデータ点数の差の分だけゼロ点を付加し、周波数領域で表された光パルス微分波形のデータ点数と同じデータ点数8192点の光音響信号を生成する。ゼロ点の付加は、周波数領域におけるアップサンプリングに相当する。
【0120】
フィルタ適用手段44は、ゼロパディング手段48でゼロパディングが施された信号に対して逆フィルタを適用する。ゼロ点除去手段49は、逆フィルタが適用された信号からゼロパディング手段48で“0”が付加された周波数帯域を除去する。例えばゼロパディング手段48にてデータ点数1024点の光音響信号(周波数領域)がデータ点数8192点の信号に変換されていたとき、ゼロ点除去手段49は、フィルタ適用後の信号(データ点数8192点)をデータ点数1024点の信号に戻す。ゼロ点の除去は、周波数領域におけるダウンサンプリングに相当する。フーリエ逆変換手段45は、データ点数1024点に戻された信号を、周波数領域の信号から時間領域の信号へと変換する。
【0121】
図22Aに、フーリエ変換された光音響信号を示し、図22Bに、ゼロパディング後の光音響信号を示す。例えば、AD変換手段22における光音響信号のサンプリングレートが40MHzであるとき、その光音響信号をフーリエ変換した信号は、図22Aに示すように、0MHzから40MHzまでの周波数帯域の信号となる。この信号を、中心周波数である20MHzを境に2つの領域A、Bに2分割する。ゼロパディング手段48は、図22Bに示すように、2つの領域の間にゼロ点を8192−1024=7168個挿入する。ゼロ点が付加された結果、領域Bの信号は、300MHzから320MHzの周波数領域に対応した信号となる。
【0122】
本実施形態では、低サンプリングレートでサンプリングされた光音響信号を周波数領域の信号に変換し、変換された周波数領域の信号の高周波成分の領域のゼロ点を付加する。本実施形態と第2の実施形態との相違点は、第2の実施形態では、光音響信号をアップサンプルするのに対し、本実施形態では、光音響信号を周波数領域でアップサンプルする点である。時間領域に代え、周波数領域において、双方の信号の帯域差を埋めるようにリサンプル(アップサンプル)を行う場合も、第2の実施形態と同様に、光音響の検出から再構成までは低速サンプリングしつつも、光パルス微分項を正確にデコンボリューションすることができる。
【0123】
「光音響画像生成装置の第6の実施形態」
次に、本発明の光音響画像生成装置の第6の実施形態を詳細に説明する。本実施形態においても、第4及び第5の実施形態と同様に、光パルス微分波形のサンプリングレートを光音響信号のサンプリングレートよりも高く設定する。本実施形態では、光パルス微分波形を、光音響信号のフーリエ変換のデータ点数よりも多いデータ点数で行い、フーリエ変換された光微分波形から高周波成分サンプル点を除去し、その逆数を逆フィルタとして求める。したがって、光音響画像生成装置の構成自体は、光微分波形逆畳込み手段を除き、第1の実施形態と同様である。本実施形態の説明では、光微分波形逆畳込み手段以外の要素については、図1に示された符号を援用している。第1の実施形態と同様の構成要素についての詳細な説明は、特に必要がない限り省略する。
【0124】
本実施形態の光音響画像生成装置10は、超音波探触子(プローブ)11、超音波ユニット12、レーザユニット13および画像表示手段14を備える。
【0125】
図23は、本実施形態における光微分波形逆畳込み手段25cを示す。本実施形態における光微分波形逆畳込み手段25cは、図6に示す第1の実施形態における光微分波形逆畳込み手段25の構成に加えて、高周波成分サンプル点除去手段50を有する。例えば、光音響信号のサンプリングレート(第1のサンプリングレート)は40MHzであり、光パルス微分波形のサンプリングレート(第2のサンプリングレート)は320MHzであるとする。フーリエ変換手段41は、例えば40MHzの光音響信号を1024点(第1のデータ点数)の周波数領域の信号に変換し、フーリエ変換手段42は、320MHzの光パルス微分波形を8192点(第2のデータ点数)の周波数領域の信号に変換する。第2のデータ点数は、第1のデータ点数に、第2のサンプリングレートと第1のサンプリングレートとの比を乗じたデータ点数と等しいか、又はそれよりも多い。
【0126】
高周波成分サンプル点除去手段50は、フーリエ変換手段42から周波数領域の信号に変換された光パルス微分波形を入力する。高周波成分サンプル点除去手段50は、フーリエ変換された光パルス微分波形から、フーリエ変換後の光音響信号と光パルス微分波形のデータ点数の差の分だけ高周波成分サンプル点を除去する。高周波成分サンプル点除去手段50は、例えば周波数領域で表されたデータ点数8192点の光パルス微分波形から高周波成分に相当する中央のデータ点を削除し、周波数領域で表された光音響信号のデータ点数と同じデータ点数1024点の光パルス微分波形を生成する。高周波成分サンプル点の除去は、周波数領域における光パルス微分波形のダウンサンプリングに相当する。
【0127】
図24Aに、フーリエ変換された光パルス微分波形を示し、図24Bに、高周波成分サンプル点が除去された光パルス微分波形を示す。例えば、光パルス微分波形のサンプリングレートが320MHzであるとき、その光パルス微分波形をフーリエ変換した信号(データ点数8192点)は、図24Aに示すように、0MHzから320MHzまでの周波数帯域の信号となる。この信号を、1番目のデータ点から512番目までの領域(領域A)、513番目のデータ点から7680番目のデータ点までの領域(領域B)、及び、7681番目のデータ点から8192番目のデータ点までの領域(領域C)の3つの領域に分け、領域Bのデータ点を除去する。図24Bに示すように、領域Aと領域Cとをつなげることで、0MHzから40MHzまでの周波数帯域に対応したデータ点数1024点の光パルス微分波形が得られる。
【0128】
逆フィルタ演算手段43は、周波数領域で表されかつ高周波成分サンプル点が除去された光パルス微分波形の逆数を逆フィルタとして求める。逆フィルタ演算手段43は、例えばデータ点が8192点から1024点に削減された光パルス微分波形の逆数を逆フィルタとして求める。フィルタ適用手段44は、例えば周波数領域で表されたデータ点数1024点の光音響信号と逆フィルタとを要素ごとに乗算する。フーリエ逆変換手段45は、逆フィルタが適用された信号を、周波数領域の信号から時間領域の信号へと変換する。
【0129】
ここで、第6の実施形態では、フィルタ適用手段44は、図22Bに示す高周波成分の領域にゼロ点が付加された光音響信号と、図24Aに示す光パルス微分波形の逆数とを乗算する。光音響信号の高周波成分領域の値は“0”であるため、光パルス微分波形の高周波成分(図24Aの領域B)は、逆フィルタ適用後の光音響信号に影響を与えない。従って、本実施形態のように、光パルス微分波形の周波数領域の信号から高周波成分サンプル点を除去し、高周波成分を除去した光パルス微分波形から逆フィルタを求め、求めた逆フィルタを周波数領域で表された光音響信号に適用しても、得られる結果は第5の実施形態と同じ結果となる。つまり、本実施形態においても、第5の実施形態と同様な効果が得られる。
【0130】
「光音響画像生成装置の第7の実施形態」
次に、本発明の光音響画像生成装置の第7の実施形態を詳細に説明する。図25は、光音響画像生成装置の第7の実施形態の構成を示すブロック図である。本実施形態は、光音響画像に加えて超音波画像も生成する点で、第1の実施形態と異なる。したがって、第1の実施形態と同様の構成要素についての詳細な説明は、特に必要がない限り省略する。
【0131】
本実施形態の光音響画像生成装置10は、超音波探触子(プローブ)11、超音波ユニット12、レーザユニット13および画像表示手段14を備える。
【0132】
<超音波ユニット>
本実施形態の超音波ユニットは、図1に示す光音響画像生成装置の構成に加えて、送信制御回路33、データ分離手段34、超音波画像再構成手段35、検波・対数変換手段36、および超音波画像構築手段37を備える。
【0133】
本実施形態では、プローブ11は、光音響信号の検出に加えて、被検体に対する超音波の出力(送信)、及び送信した超音波に対する被検体からの反射超音波の検出(受信)を行う。超音波の送受信を行う超音波振動子としては、本発明における音響波検出手段に含まれる超音波振動子を使用してもよいし、超音波の送受信用に別途プローブ11中に設けられた新たな超音波振動子を使用してもよい。また、超音波の送受信は分離してもよい。例えばプローブ11とは異なる位置から超音波の送信を行い、その送信された超音波に対する反射超音波をプローブ11で受信してもよい。
【0134】
トリガ制御回路29は、超音波画像の生成時は、送信制御回路33に超音波送信を指示する旨の超音波送信トリガ信号を送る。送信制御回路33は、トリガ信号を受けると、プローブ11から超音波を送信させる。プローブ11は、超音波の送信後、被検体からの反射超音波を検出する。
【0135】
プローブ11が検出した反射超音波は、受信回路21を介してAD変換手段22に入力される。トリガ制御回路29は、超音波送信のタイミングに合わせてAD変換手段22にサンプリグトリガ信号を送り、反射超音波のサンプリングを開始させる。ここで、反射超音波はプローブ11と超音波反射位置との間を往復するのに対し、光音響信号はその発生位置からプローブ11までの片道である。反射超音波の検出には、同じ深さ位置で生じた光音響信号の検出に比して2倍の時間がかかるため、AD変換手段22のサンプリングクロックは、光音響信号サンプリング時の半分、例えば20MHzとしてもよい。AD変換手段22は、反射超音波のサンプリングデータを受信メモリ23に格納する。光音響信号の検出(サンプリング)と、反射超音波の検出(サンプリング)とは、どちらを先に行ってもよい。
【0136】
データ分離手段34は、受信メモリ23に格納された光音響信号のサンプリングデータと反射超音波のサンプリングデータとを分離する。データ分離手段34は、分離した光音響信号のサンプリングデータを光音響画像再構成手段24に入力する。パルスレーザ光のパルス幅に応じて信号処理の経路を変えてもよいことと、光パルス微分波形のデコンボリューションを含む光音響画像(吸収分布画像)の生成は、第1の実施形態と同様である。データ分離手段34は、分離した反射超音波のサンプリングデータを、超音波画像再構成手段35に入力する。
【0137】
超音波画像再構成手段35は、プローブ11の複数の超音波振動子で検出された反射超音波(そのサンプリングデータ)に基づいて、超音波画像の各ラインのデータを生成する。各ラインのデータの生成には、光音響画像再構成手段24における各ラインのデータの生成と同様に、遅延加算法などを用いることができる。検波・対数変換手段36は、超音波画像再構成手段35が出力する各ラインのデータの包絡線を求め、求めた包絡線を対数変換する。
【0138】
超音波画像構築手段37は、対数変換が施された各ラインのデータに基づいて、超音波画像を生成する。超音波画像再構成手段35、検波・対数変換手段36、及び超音波画像構築手段37は、反射超音波に基づいて超音波画像を生成する超音波画像生成手段を構成する。
【0139】
画像合成手段38は、光音響画像と超音波画像とを合成する。画像合成手段38は、例えば光音響画像と超音波画像とを重畳することで画像合成を行う。合成された画像は、画像表示手段14に表示される。画像合成を行わずに、画像表示手段14に、光音響画像と超音波画像とを並べて表示し、或いは光音響画像と超音波画像とを切り替えて表示することも可能である。
【0140】
本実施形態では、光音響画像生成装置は、光音響画像に加えて超音波画像を生成する。超音波画像を参照することで、光音響画像では画像化することができない部分を観察することができる。光パルス微分波形をデコンボリューションすることで吸収分布を画像化できる点は、第1実施形態と同様である。また、超音波画像の生成と光音響画像の生成とで、画像再構成や検波・対数変換などのアルゴリズムの大部分を共通化でき、FPGA回路構成やソフトの簡略化が可能であるなどの実用上のメリットを有する。
【0141】
なお、上記各実施形態では、光音響信号及び光パルス微分波形を周波数領域の信号に変換し、周波数領域でデコンボリューション後に時間領域の信号に戻しているが、これには限定されない。光パルス微分波形のデコンボリューションを時間領域で行うことも可能である。また、光微分波形逆畳込み手段25は、デコンボリューション時に、光音響信号に対して何らかのフィルタをかける処理をおこなってもよい。例えば光微分波形逆畳込み手段25が、デコンボリューション時に、ノイズ増幅周波数帯をフィルタリングするようにしてもよい。
【0142】
上記各実施形態では、光音響信号から光微分波形をデコンボリューションした後に光音響画像(吸収分布画像)を生成することとしているが、これに加えて、又はこれに代えて、光微分波形をデコンボリューションせずに光音響画像(圧力分布画像)を生成してもよい。例えば、ユーザが、スイッチや表示モニタ上で操作を行うことで、デコンボリューション処理の有無を選択できるようにしておき、ユーザがデコンボリューション処理の実施を選択したときには光微分波形のデコンボリューションを行った上で光音響画像を生成し、ユーザがデコンボリューション処理の不実施を選択したときは光微分波形のデコンボリューションを行わずに光音響画像を生成してもよい。例えば、光微分波形のデコンボリューションを行ったときは、光音響信号を赤・黒の色に対応付けて表示し、デコンボリューションなしのときは、光音響信号を青・黒の色に対応付けて表示してもよい。
【0143】
また、デコンボリューションなしの場合の光音響画像を生成し、コンピュータがその光音響画像を解析することで、血管部分が2本に分かれているか否かを判定し、血管が2本に分かれていると判定されたときに、その血管部分のみを対象に光微分波形のデコンボリューション処理を行うようにしてもよい。その際、デコンボリューション処理を実施した血管部分の表示色を、他の未処理の血管部分の表示色とは異なる色とし、デコンボリューション処理が行われた血管と、他の未処理の血管とが容易に判別可能になるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0144】
10:光音響画像生成装置
11:プローブ
12:超音波ユニット
13:レーザユニット
14:画像表示手段
21:受信回路
22:AD変換手段
23:受信メモリ
24:光音響画像再構成手段
25、25a、25b、25c:光微分波形逆畳込み手段
26:補正手段
27:検波・対数変換手段
28:光音響画像構築手段
29:トリガ制御回路
30:制御手段
33:送信制御回路
34:データ分離手段
35:超音波画像再構成手段
36:検波・対数変換手段
37:超音波画像構築手段
38:画像合成手段
41、42:フーリエ変換手段
43:逆フィルタ演算手段
44:フィルタ適用手段
45:フーリエ逆変換手段
46、47:リサンプル手段
48:ゼロパディング手段
49:ゼロ点除去手段
50:高周波成分サンプル点除去手段
51:レーザロッド
52:フラッシュランプ
53、54:ミラー
55:集光レンズ
56:波長選択手段
57:駆動手段
58:駆動状態検出手段
59:制御部
60:回転制御部
61;発光制御部
70:フィルタ回転体
71、72:透過領域
73、74:不透過領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルス幅が互いに異なる複数のパルス光を被検体に照射する光照射手段と、
検出帯域が互いに異なる複数の音響波検出手段であって、パルス光の照射に起因して前記被検体内で発生した光音響波を周波数帯域ごとに分離して検出するように構成された前記複数の音響波検出手段を有するプローブと、
前記複数の音響波検出手段により検出された前記光音響波の周波数帯域ごとの光音響信号に基づいて光音響画像を生成する光音響画像生成手段とを備えることを特徴とする光音響画像生成装置。
【請求項2】
前記複数のパルス光が、パルス幅が1〜10nsecである短パルス光およびパルス幅が15〜100nsecである長パルス光であり、
前記複数の音響波検出手段が、高周波側に検出帯域を有する高周波検出手段および該高周波検出手段の検出帯域よりも低周波側に検出帯域を有する低周波検出手段であり、前記高周波検出手段によって前記短パルス光の照射に起因して発生した前記光音響波を検出し、前記低周波検出手段によって前記長パルス光の照射に起因して発生した前記光音響波を検出するように構成されたものであることを特徴とする請求項1に記載の光音響画像生成装置。
【請求項3】
同期制御手段を更に備え、
前記光照射手段が、パルス光の照射ごとにパルス幅を切り替えるように構成されたものであり、
前記プローブが、前記高周波検出手段および前記低周波検出手段を切り替えながら駆動させるように構成されたものであり、
前記同期制御手段が、前記パルス幅の切り替えと前記音響波検出手段の切り替えとが同期するように、前記光照射手段および/または前記プローブにトリガ信号を出力するものであることを特徴とする請求項2に記載の光音響画像生成装置。
【請求項4】
前記光照射手段が、前記複数のパルス光を同時に照射するように構成されたものであり、
前記複数の音響波検出手段が、それぞれの前記検出帯域が互いに重複しないように構成されたものであり、
前記プローブが、前記高周波検出手段および前記低周波検出手段を同時に駆動させるように構成されたものであることを特徴とする請求項2に記載の光音響画像生成装置。
【請求項5】
前記高周波検出手段が、広帯域検出素子と、前記低周波検出手段の検出帯域以下の周波数帯域の信号を除去するハイパスフィルタとから構成されるものであることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の光音響画像生成装置。
【請求項6】
前記高周波検出手段が、広帯域検出素子と、前記低周波検出手段の検出帯域よりも高周波側の一部の周波数帯域の信号のみを透過させるバンドパスフィルタとから構成されるものであることを特徴とする請求項1から4いずれかに記載の光音響画像生成装置。
【請求項7】
前記低周波検出手段が、チタン酸ジルコン酸鉛から構成される低周波検出素子であり、
前記広帯域検出素子が、ポリフッ化ビニリデンから構成されるものであることを特徴とする請求項5または6に記載の光音響画像生成装置。
【請求項8】
前記複数のパルス光のそれぞれの波長が互いに異なることを特徴とする請求項1から7いずれかに記載の光音響画像生成装置。
【請求項9】
前記光音響画像生成手段が、照射されたパルス光の光強度の時間波形の微分波形である光微分波形を該パルス光に基づく前記光音響信号からデコンボリューションする光微分波形逆畳込み手段を有し、該光微分波形逆畳込み手段によってデコンボリューションされた信号に基づいて前記光音響画像を生成するものであることを特徴とする請求項1から8いずれかに記載の光音響画像生成装置。
【請求項10】
前記光微分波形逆畳込み手段が、
前記光音響信号をフーリエ変換する第1のフーリエ変換手段と、
前記光微分波形を所定のサンプリングレートでサンプリングした信号をフーリエ変換する第2のフーリエ変換手段と、
フーリエ変換された前記光微分波形の逆数を逆フィルタとして求める逆フィルタ演算手段と、
フーリエ変換された前記光音響信号に前記逆フィルタを適用するフィルタ適用手段と、
前記逆フィルタが適用された前記光音響信号をフーリエ逆変換するフーリエ逆変換手段とを有するものであることを特徴とする請求項9に記載の光音響画像生成装置。
【請求項11】
前記光音響信号が第1のサンプリングレートでサンプリングされたものであり、
前記光微分波形が前記第1のサンプリングレートよりも高い第2のサンプリングレートでサンプリングされたものであり、
前記光微分波形逆畳込み手段が、前記第1のサンプリングレートでサンプリングされた前記光音響信号を、前記第2のサンプリングレートでリサンプルするリサンプル手段を更に備え、
前記第1のフーリエ変換手段が、前記リサンプル手段でリサンプルされた前記光音響信号をフーリエ変換するものであることを特徴とする請求項10に記載の光音響画像生成装置。
【請求項12】
前記光音響信号が第1のサンプリングレートでサンプリングされたものであり、
前記光微分波形が前記第1のサンプリングレートよりも高い第2のサンプリングレートでサンプリングされたものであり、
前記第1のフーリエ変換手段が第1のデータ点数でフーリエ変換を行うものであり、
前記第2のフーリエ変換手段が前記第1のデータ点数よりも多い第2のデータ点数でフーリエ変換を行うものであり、
前記光微分波形逆畳込み手段が、フーリエ変換された前記光音響信号に対して、前記第1のデータ点数と前記第2のデータ点数との差の分だけ中央に0を付加するゼロパディングを行うゼロパディング手段を更に備え、
前記フィルタ適用手段が、前記ゼロパディング手段でゼロパディングが行われた前記光音響信号に対して前記逆フィルタを適用するものであることを特徴とする請求項10に記載の光音響画像生成装置。
【請求項13】
前記光音響信号が第1のサンプリングレートでサンプリングされたものであり、
前記光微分波形が前記第1のサンプリングレートよりも高い第2のサンプリングレートでサンプリングされたものであり、
前記第1のフーリエ変換手段が第1のデータ点数でフーリエ変換を行うものであり、
前記第2のフーリエ変換手段が前記第1のデータ点数よりも多い第2のデータ点数でフーリエ変換を行うものであり、
前記光微分波形逆畳込み手段が、フーリエ変換された前記光微分波形から、前記第1のデータ点数と前記第2のデータ点数の差の分だけ高周波成分サンプル点を除去する高周波成分サンプル点除去手段を更に備え、
前記逆フィルタ演算手段が、フーリエ変換された前記光微分波形から高周波成分サンプル点を除去した波形の逆数を前記逆フィルタとして求めるものであることを特徴とする請求項10に記載の光音響画像生成装置。
【請求項14】
前記光音響画像生成手段が、デコンボリューションされた前記光音響信号から、前記光音響信号を検出する検出器の受信角度依存特性の影響を除去するように、デコンボリューションされた前記光音響信号を補正する補正手段を更に備えることを特徴とする請求項9から13いずれかに記載の光音響画像生成装置。
【請求項15】
前記プローブが、前記被検体に対して送信された超音波に対する反射超音波を検出するものであり、
前記プローブによって検出された前記反射超音波の超音波信号に基づいて超音波画像を生成する超音波画像生成手段を更に備えることを特徴とする請求項1から14いずれかに記載の光音響画像生成装置。
【請求項16】
パルス幅が互いに異なる複数のパルス光を被検体に照射し、
検出帯域が互いに異なる複数の音響波検出手段によって、パルス光の照射に起因して前記被検体内で発生した光音響波を周波数帯域ごとに分離して検出し、
検出された前記光音響波の周波数帯域ごとの光音響信号に基づいて光音響画像を生成することを特徴とする光音響画像生成方法。
【請求項17】
前記複数のパルス光が、パルス幅が1〜10nsecである短パルス光およびパルス幅が15〜100nsecである長パルス光であり、
前記複数の音響波検出手段が、比較的高周波側に検出帯域を有する高周波検出手段および該高周波検出手段の検出帯域よりも低周波側に検出帯域を有する低周波検出手段であり、
前記高周波検出手段によって前記短パルス光の照射に起因して発生した前記光音響波を検出し、前記低周波検出手段によって前記長パルス光の照射に起因して発生した前記光音響波を検出することを特徴とする請求項16に記載の光音響画像生成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7C】
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【図7D】
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【図7E】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20A】
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【図20B】
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【図21】
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【図22A】
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【図22B】
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【図23】
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【図24A】
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【図24B】
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【図25】
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【図4】
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【図5】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7F】
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【図7G】
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【図8A】
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【図8B】
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