説明

免疫グロブリン吸収促進組成物

【課題】哺乳動物の新生子へ給与する、免疫グロブリン吸収を促進する組成物及び初乳へ添加する組成物を提供する。また、ヒトを除く哺乳動物の新生子の免疫グロブリン吸収促進方法及び免疫力増強方法を提供する。
【解決手段】哺乳動物の新生子へ、DFAIII及び/又はDFAIVを有効成分とする組成物を初乳などへ添加して給与することにより、初乳などに含まれる免疫グロブリンの吸収を促進することができる。本組成物は安全であり、使用方法も簡便である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、哺乳動物の新生子に与え、免疫グロブリンの吸収移行を促進させる組成物であると共に、初乳に添加する組成物に関するものである。
さらには、それらを用いた哺乳動物の新生子の免疫グロブリンの吸収促進方法及び免疫力増強方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物の免疫機能は出生後しばらくの間、特に新生子の間は未熟であり、感染に抵抗するための十分な抗体を産生することができない。
【0003】
新生子(新産子、初生子などともいう)とは、出産によって母体から出た子動物で、外環境に順応しようとするもの、或いは母体外生活が確立されるまでのもののことである。ヒトの場合(「新生児」と呼ばれる)は生後1ヶ月くらいまでをいうが、家畜の場合は動物種によってそれぞれ異なるので特には定められてはいない。
新生子は、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギなどのように被毛も生ぜず眼瞼も開かず歩行能力を欠き親の巣内で育つもの(巣内新生子)、霊長類のように産毛を有し眼瞼も開き四肢の運動能力もあり母体に抱かれて育つもの(抱擁新生子)、ウマ、反芻動物のように眼瞼も開き歩行能力も有するもの(疾走新生子)、に分けられる。新生子は母体外環境で受ける種々のストレスに対して、体温調節機能やその他の環境に適応するための機能がまだ整えられていないので、飼育上特別の配慮が必要となる。
【0004】
抗体は、物質としては免疫グロブリン(以下Igとすることもある)と呼ばれている。哺乳類のIgにはIgM、IgA、IgE、IgD、IgGの5種類がある。全てのIgは基本的には同じ構造を有している。ヒトの場合全Ig中の約7割はIgGである。
【0005】
IgGは、母親から子へは初乳または胎盤を経由して移行する。子が自身の体内でIgを生産できるようになるまでは、子の免疫能はこの母親由来のIgによることになる。このように抗体を外部から受け入れ、作用させるメカニズムは受動免疫と呼ばれている。これに対し、抗原に対し生体自ら抗体を作り作用させるメカニズムは能動免疫と呼ばれている。なお、初乳とは、出産後の数日間に分泌される乳のことであり、たんぱく質・脂肪・ミネラルや免疫物質を豊富に含んでいる。
【0006】
Ig及び動物の種類により、Igの移行は異なった経路をとる。
IgG以外の4種類のIg(IgM、IgA、IgE、IgD)は母親から子へは胎盤を通じては移行しない。これらは全て初乳により移行する。
【0007】
IgGについての移行経路は動物ごとで異なる。これは胎盤の構造の違いに起因する。
ヒト及び霊長類の場合、胎盤を通じて母親の血液中のIgGが子へ移行する。そのため、子は母親と同質かつ同レベルのIgGを有する。
イヌ及びネコでは、少量(母親のレベルの5〜10%)のIgGが胎盤を通じて移行する。
ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギなどでは、胎盤を通じてIgGは移行しない。したがって、これらの動物の新生子では、母親の初乳を飲むことによって初めてIgGが母から子へ移行することになる。
【0008】
したがって、ヒト及び霊長類以外の哺乳動物では、IgGの移行に当たっては、初乳の果たす役割が極めて大きいことになる。なお、家畜の初乳中の全Igの65〜90%はIgGである。
【0009】
乳牛の場合は、出生後から約4〜8週間までの間、母親由来のIgにより免疫が保たれる。したがって、子牛が初乳を通じて受け取るIgが少なすぎる場合は、出生後適切に初乳を給与された子牛よりも、出生後から4〜8週間までに病気に感染し死に至る可能性が大である。実際に、下痢や肺炎による育成中の子牛の死亡事故は、そのほとんどが出生後2〜3週齢に発生している。
【0010】
また、子牛生体におけるIgの吸収能力は出生後の時間の経過につれて減少する。牛の新生子の小腸は、出生直後から24時間長くとも36時間までの間Igや他の蛋白質などをそのまま血中に吸収することができる。吸収率が特に高いのは出生から6時間以内である。
【0011】
乳牛については、初乳とは分娩後24時間以内に搾乳される粘調かつ黄色の乳汁、あるいは子牛が乳頭から直接吸入によって得る乳であり、広義には分娩後5日間の乳のこととされている。初乳は通常の牛乳とは成分的に大きく異なっており、蛋白質と脂肪は高く、乳糖は低い。Ig濃度については通常乳よりも高く、最も高いのは1回目の搾乳時であり、搾乳回数が進むにつれ低下することが知られている。
【0012】
したがって、酪農において、子牛への初乳給与の基本は、十分な量の良質な初乳を出生後早期に与えることである(非特許文献1)。
そして、母牛から子牛へ十分な量のIgを移行させるには、Igについて供給する側と供給される側(吸収する側)の二面からの検討が必要となってくる。
【0013】
供給する側からの検討としては、Igを十分な量供給する目的で、初乳に添加して用いるIg量を増やすための初乳サプリメントと呼ばれる製品(非特許文献2)が開発されている。これら初乳サプリメントは、血清、初乳などを原料として作られている。また、分娩後1〜2回目の搾乳で収集した初乳をフリーザバックやボトルに入れて冷凍保存した初乳を与える冷凍初乳(非特許文献3)・凍結初乳(非特許文献2)などの技術も開発されている。初乳中には必ずしも十分な量のIgが含まれていないこともあり、そのような場合はここに挙げた技術が重要になってくる。
【0014】
一方、供給される側からの検討としては吸収効率が問題となる。吸収効率を人為的に向上させようとの試みは、出生後の早期給与の点からは数多く検討されている(例えば非特許文献1)。しかしながら、初乳などへ何かを添加して吸収効率を向上させる技術の開発例は少なく、初乳にセレンを添加する方法(特許文献1、非特許文献4)が知られているのみである。
【特許文献1】特開2006−160661号公報
【非特許文献1】「正しい初乳給与方法確立へのアプローチ−移行免疫の視点から−」、臨床獣医、vol.25、No.1、2007、p.10−p.15
【非特許文献2】「初乳サプリメント,初乳製剤について」、臨床獣医、vol.19、No.3、2001、p.34−p.38
【非特許文献3】柏村文郎ほか 編、乳牛管理の基礎と応用、デーリィ・ジャパン社、2002年、p.49−p.52
【非特許文献4】「初乳由来免疫グロブリンの子牛への移行効率を高める方法」、臨床獣医、vol.25、No.1、2007、p.20−p.24
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかしながら特許文献1の方法は、非特許文献4にもあるように無機のセレンが家畜の飼料添加物として認可されていないため、日本国内で直ちに使用することはできない。
さらには、近年では食の安全に関して消費者の監視の目が厳しくなり、毒物のイメージのあるセレンの給与は、安全な酪農のイメージを形成していくうえでは望ましいことではないと考えられる。
【0016】
本発明は、哺乳動物の新生子について、人間用の食品やサプリメントなどにも通常使用されているような安全な成分で構成され、より効果的かつ簡便に初乳などからのIgの吸収移行を促進するための組成物を提供することを目的とする。また、初乳などへ添加する組成物を提供することを目的とする。さらには、それらを利用したヒト以外の哺乳動物の新生子のIg吸収促進方法及び免疫力増強方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明者らは、哺乳動物の新生子のIg吸収を促進する方法を多方面から検討した。特に、獣医学上の知見が多く得られている乳牛を対象に検討した。そしてDFAIII及びDFAIVに注目した。
【0018】
DFAとはダイフラクトースアンハイドライド(difructose anhydride)の略称であり、2個のフルクトースの還元末端がお互いに他のフルクトースの還元末端以外の水酸基に結合した還元二糖の総称である。
【0019】
DFAIII はフラクトース2分子が1,2’及び2,3’で結合している2糖類(di−D−fructofranose−1,2’:2,3’dianhydride)である。また、DFAIVは、フラクトース2分子が2,6’及び6,2’で結合している2糖類(di−D−fructofranose−2,6’:6,2’dianhydride)である。
【0020】
DFAIIIは、キク科作物であるチコリに多く含まれるイヌリンを原料にして製造される。近年ではWO2004/078989号公報のように大量に製造する方法が開発され、従来より低コストで提供されるようになっている。そして、特開平11−43438号公報にあるカルシウム吸収亢進などDFAIIIには各種の機能性が発見され、健康食品に広く使用されている。また、動物についての安全性も十分に確認されている。
【0021】
DFAIVはイネ科など単子葉植物に含まれるレバンが原料となる。植物中のレバン含有量は少なく、DFAIV製造においては微生物や酵素を用いて作られたレバンが用いられる。DFAIVもDFAIIIと同様に近年大量に製造する方法が開発されている(例えば特開2002−17391号公報)。また、DFAIVにも機能性が発見され、特開2000−204042号公報にあるようなカルシウム吸収亢進組成物が開発されており、DFAIIIと同様に動物についての安全性も十分に確認されている。
【0022】
しかしながら、DFAIIIとDFAIVいずれについても、哺乳動物の新生子に給与した場合にIgの吸収を促進する効果が得られることは知られていない。また、哺乳動物の新生子にDFAIII及び/又はDFAIVを給与して上記の効果を得ようとする試みもなされていない。
【0023】
そこで、本発明者らはDFAIII及び/又はDFAIVを哺乳動物の新生子へ給与したところ、驚くべきことに極めて顕著なるIg吸収効果を得ることに成功した。
【0024】
本発明は、次のように構成されている。
(1) DFAIII及び/又はDFAIVを有効成分とする免疫グロブリン吸収促進組成物。
(2) DFAIII及び/又はDFAIVのみからなることを特徴とする免疫グロブリン吸収促進組成物。
(3) DFAIII及び/又はDFAIVを有効成分とすることを特徴とする初乳添加用組成物。
(4) DFAIII及び/又はDFAIVのみからなることを特徴とする初乳添加用組成物。
(5) 哺乳動物の新生子へ給与することを特徴とする上記(1)〜(4)のいずれかに記載の組成物。
(6) 哺乳動物が家畜であることを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかに記載の組成物。
(7) 家畜が、牛、馬、豚、羊、山羊、犬、猫から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする上記(6)に記載の組成物。
(8) 上記(1)〜(5)のいずれかに記載の組成物を給与することを特徴とする、ヒトを除く哺乳動物の新生子の免疫グロブリン吸収促進方法。
(9) 上記(1)〜(5)のいずれかに記載の組成物を給与することを特徴とする、ヒトを除く哺乳動物の免疫力増強方法。
(10) 新生子の出生後48時間以内に給与することを特徴とする、上記(8)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(11) 哺乳動物が家畜であることを特徴とする上記(8)〜(10)のいずれかに記載の方法。
(12) 家畜が牛、馬、豚、羊、山羊、犬、猫から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする上記(11)に記載の方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明により、哺乳動物の新生子へのIg移行を効率的に大量かつ速やかに行うことができる。その結果、新生子の免疫力が高まり、新生子や哺乳期の動物が罹病しやすい感染性の下痢や肺炎などを予防することができる。本発明により子牛など家畜の損耗を減少させることが可能となり、畜産経営に利益をもたらすことができる。加えて、本発明は、極めて安全であり、使用方法も簡便である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0027】
本発明に使用するDFAIII及び/又はDFAIVは、固形状、粉末状、顆粒状、液状、いずれでも良い。有効成分としては、DFAIII及び/又はDFAIVの精製品、粗精製品、製造工程において生成する中間生成物、同排液、これらの処理物(濃縮物、ペースト化物、乾燥物、希釈物、懸濁物、乳化物の少なくとも一つ)から選ばれる少なくとも一つが包含される。すなわち、DFAIII及び/又はDFAIVとしての有効な量が含有されてさえいれば、製造工程で得られる多少純度の低いシラップ(粗シラップ)でも良い。
【0028】
本発明にしたがって、上記した有効成分を用いて免疫グロブリン吸収促進用組成物、及び初乳添加用組成物を調製する際、DFAIII又はDFAIVの給与量は、1日当たり、動物の体重1kgにつき10mg〜1000mg、好ましくは50〜500mgとするのが良い。1日1〜3回給与するのが良い。DFAIII又はDFAIVの給与量はここで示した範囲のみに限定されるものではなく、この範囲から逸脱する場合もあり得る。
【0029】
有効成分の含有量は上記したとおりであるものの、上記範囲より少量であっても良い。また、本有効成分は、本来、天然物由来でもあり、安全性について問題がないので、上記範囲よりも多量に使用しても一向にさしつかえない。現に、マウスを用いた10日間の急性毒性試験によっても、DFAIII及びDFAIVは、いずれも、1000mg/kgの経口投与でも死亡例は認められなかった。
【0030】
また、経口に限らず非経口で摂取できるものであれば、形態の制限はなく、製剤の常法にしたがって、主薬に、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、嬌味嬌臭剤、溶解補助剤、懸濁剤、コーティング剤、乳化剤などのヒトや動物用医薬の製剤技術分野において常用される補助剤を用いて、経口投与医薬あるいは注射薬や坐薬その他の非経口投与医薬に製剤化しても良い。
【0031】
動物へ給与する形態については、液状の本組成物を初乳などに添加して与えるのが通常の使い方である。動物の種類に合わせて、飲食しやすいように本組成物の形態を適宜変更することが望ましい。粉末又は顆粒状のものを動物に舐めさせるようにして与えても良いし、母親の母乳へ本組成物を添加して哺乳瓶で与えても良い。給与する器具としては、哺乳瓶のほか、乳首付バケツ、乳首付ボトル、哺乳用カテーテル(吸乳力の弱い場合に直接消化器へ液体を送り込む)などが挙げられる。
すなわち、形態については固体状(粉末、顆粒状、錠剤、カプセル剤)、ぺースト状、液状、懸濁状、その他を適宜選択して給与すると良い。
もちろんDFAIII又はDFAIVを直接、初乳や水などに溶かして与えてもよく、直接舐めさせても良い。さらには、相乗効果を期待してDFAIIIとDFAIVを混合しても良い。
【0032】
なお、本発明において初乳とは、本来の意味である出産後の数日間に分泌される乳のほか、代用初乳など初乳とその給与目的を同じとするものを含んだ幅広い概念の総称とする。
【0033】
また、本発明において、家畜とは、哺乳動物のうち人が飼育する動物一般を意味し、特定の目的で飼育、繁殖せしめる動物のことである。例えば、牛、馬、豚、羊、山羊、犬、猫、兎、水牛、ハムスター、モルモット、猿、その他ペット類、動物園等で飼育されている動物が例示される。
【0034】
本組成物を効果的に使うには、初乳と共に与えることが望ましい。しかし、初乳の給与と前後して、本組成物のみを単独で与えても十分な効果を得ることができる。
また、初乳、本組成物、市販の初乳サプリメントを同時に与えても良い。このような方法は、初乳中のIg量が著しく少ない場合に、極めて有効である。
【0035】
Ig製剤と各種ミネラル・ビタミン・炭水化物・脂肪・蛋白質、DFAIII及び/又はDFAIVを適宜混合して、代用乳や人工乳とすることも可能である。この場合、必要に応じてベタイン、アミノ酸、グリセリン、その他これらに限定されない各種栄養成分を加えても良い。
【0036】
哺乳動物の新生子がIgを吸収する能力は出生後時間の経過と共に減少していくことから、本組成物の給与は出生後早ければ早いほどよく、出生直後が最良であり、遅くとも48時間以内が望ましい。牛の場合は出生から36時間以内、望ましくは24時間以内が良く、本組成物の効果をより安定して得るためには6時間以内が良い。
【0037】
特に本組成物の効果が大きいと考えられる家畜は、乳牛、肉牛、馬、羊、山羊、豚、などである。また、犬、猫も前述のメカニズムよりIgGの大半は初乳由来であるため効果は大である。
【0038】
ヒトについては、出産時には子へIgGはすでに移行しているものの、IgAなど初乳に由来するIgの吸収促進に効果有りと考えられる。ヒトに与える場合には、液状の本組成物を哺乳瓶に入れて乳児へ給与するなどの方法をとることになる。
【0039】
以下、本発明を実施例によって具体的に説明する。なお、これらの実施例は、本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例1】
【0040】
哺乳動物として乳牛のホルスタイン種を対象とした。
試験農場にて、子牛が生まれるごとに、DFAIII給与(試験区)、無給与(対照区)を交互に行い、各5頭の計10頭の試験結果を得た。子牛の出生時の体重については、試験区と対照区との間に有意差は認められなかった(危険率5%)。
出産した母牛から3.5Lの初乳を搾り、それを子牛に出生後2時間以内に1.5L与え、その後は出産時刻に応じて朝7時あるいは夕16時の哺乳時に残りの2Lを給与した。母親の乳は出生後3日間給与し、それ以降は代用乳を所定量給与した。給与量は1回当たり2Lで、1日2回(朝9時・夕16時)行った。
DFAIIIは水10mLへ粉末3gを加え溶かしたものを、哺乳用のミルク(初乳又は代用乳)に添加し給与した。給与には乳首付バケツを用いた。DFAIII添加は7日間行った。DFAIIIは出生時の体重1kgあたり57〜78mg給与されたことになる。
【0041】
出生時は第1回目の初乳給与前に血液を採取した。その翌日から、3日間連続して採血し、その後は一日おきに7日目まで採血した。採血の作業は朝の哺乳前に行った。
採血時点における出生後の経過時間は、各採血日(出産後の日数)において表1に示した範囲となる。これは、分娩時間が深夜・日中などまちまちであったことと、農場での管理作業の都合上、分娩時間に基づいて採血時間を揃えることが難しかったためである。
【0042】
【表1】

【0043】
採取した血液サンプルにおける血清IgG濃度を放射免疫拡散法(株式会社メタボリックエコシステム研究所製測定キット)により測定した。血清IgG濃度が高いほど、生体のIgG吸収量が多いと考えられる。血清IgG濃度の試験区及び対照区のデータは図1のとおりである。図2は出生後の日数ごとの平均値を表したものである。図3は試験区の血清IgG濃度について対照区を100とした指数を表したものである。
【0044】
図1〜図3において、試験区でのIgG吸収促進の顕著な効果が表されている。試験区と対照区との間に、出生してから3日目以降について危険率5%で有意差が認められた(図2)。また、図3より試験区では対照区に比べて1.7倍以上のIgG吸収量が得られたと考えられる。
【0045】
なお、出産した母牛から1回目に搾った初乳(3.5L)のIgG濃度についても血液と同様に測定した。その結果、試験区と対照区との間に有意差は認められなかった(危険率5%)。
【0046】
哺乳期の子牛の血清IgG濃度は最少でも10mg/mL必要で、20mg/mL以上であることが理想とされている。DFAIIIを添加しない場合、20mg/mL以上になったのは2割(5頭中1頭)であった。それに対して、DFAIIIを添加すると8割(5頭中4頭)の子牛で血中IgG量が20mg/mL以上となった。
【0047】
なお、IgGと他のIgは分子構造がほとんど同じである。したがって、今回IgGの吸収促進効果が確認できたので、IgAなど他のIgについても吸収促進効果があると考えられる。
【実施例2】
【0048】
哺乳動物として乳牛のホルスタイン種を対象とした。
同時刻に出生した双子の雌牛を、DFAIII給与(試験区)と無給与(対照区)とに分けた。各1頭であり、サンプル数としては小さい。しかしながら、遺伝的に同じ体質の牛へ、同じ母親由来の初乳を給与することができる。また、同時刻に生まれたため、出産後からの給与時間及び採血時間を各個体で同時とすることができた。
出産した母牛から7Lの初乳を搾り、それをそれぞれの子牛に出生1時間後(9時半)に1.5L与え、当日の夕方(16時)に残り2Lを給与した。母親の乳は出生後3日間給与し、それ以降は代用乳を所定量給与した。給与量は1回当たり2Lで、1日2回(朝9時・夕16時)行った。
DFAIIIは水10mLへ粉末3gを加え溶かしたものを、哺乳用のミルク(初乳又は代用乳)に添加し給与した。給与には乳首付バケツを用いた。DFAIII添加は7日間行った。DFAIIIは出生時の体重1kgあたり89mg給与されたことになる。
【0049】
出生時は第1回目の初乳給与前に血液を採取した。その翌日から3日間連続して採血し、その後は一日おきに採血した。採血は1週間続けた。採血の作業は朝又は夕いずれかの給与直前に行った。
【0050】
採取した血液サンプルにおける血清IgG濃度を放射免疫拡散法(株式会社メタボリックエコシステム研究所製測定キット)により測定した。血清IgG濃度が高いほど、生体のIgG吸収量が多いと考えられる。試験区及び対照区のデータは図4のとおりである。図5は試験区における血清IgG濃度について、対照区を100とした指数の推移を表したものである。
図4及び図5において、試験区におけるIgG吸収促進の顕著な効果が表されている。図5より、試験区では対照区に比べて、ほぼ1.5倍のIgG吸収量が得られていると考えられる。サンプル数が小さいため、有意差検定はできないものの、遺伝的に同一で個体差のほとんどないと考えられるサンプルで得られたデータであることから、この差の持つ意味は極めて大きい。
【実施例3】
【0051】
哺乳動物として肉牛の黒毛和種を対象とした。出生するごとにDFAIIIを給与し、生育状態及び健康状態を観察した。全部で11頭分のデータを得た。DFAIIIの給与の方法は、重量比でDFAIIIが30%含まれている粗シラップを湯煎して15g初乳へ混合した。DFAIIIとしては1頭当たり1回につき4.5g給与されたことになる。ここでの初乳は、乳牛(ホルスタイン種)から搾乳した冷凍初乳である。出生してから2時間以内にこの初乳を乳首付バケツを用いて2L給与した。出生翌日以降、午前(9時〜11時)と午後(14〜16時)にそれぞれ2L初乳を与えた。初乳給与時には同様の方法でDFAIIIを添加した。DFAIIIの給与は出生後5日間行った。
【0052】
肉牛の子牛は下痢や肺炎などの感染症で死ぬことが多く、死亡率は一般に10%と言われている。今回、給与した範囲では、感染症で死亡した子牛はなかった。また、感染の兆候は見られず、至って健康に育った。
【実施例4】
【0053】
哺乳動物として豚のヨークシャー種を対象とした。種雌豚から生まれた8頭の子豚へDFAIIIを給与した。給与については、表2に示す配合によりDFAIII含有ペーストを作り、それを子豚に舐めさせる方法を採用した。このペーストを出生3時間後に子豚1頭あたり3〜5g給与した。出生20時間後に再度同量を給与した。DFAIIIの1頭1回当たりの給与量は390〜650mgとなり、出生時の体重1kgあたり270〜540mg給与されたことになる。
【0054】
子豚への初乳給与は、子豚が母豚の乳頭から直接吸飲する自然哺乳とした。いずれの子豚にも下痢や肺炎など感染症の症状は見られず、順調に増体し成獣となった。
【0055】
【表2】

【実施例5】
【0056】
哺乳動物として乳牛のホルスタイン種を対象とした。
試験農場にて、子牛が生まれるたびに、DFAIV給与(試験区)、無給与(対照区)とを交互に行い、各2頭の計4頭の試験結果を得た。
出産した母牛から3.5Lの初乳を搾り、それを子牛に出生後2時間以内に1.5L与え、その後は出産時刻に応じて朝7時あるいは夕16時の哺乳時に残り2Lを給与した。母親の乳は出生後3日間給与し、それ以降は代用乳を所定量給与した。各給与量は1日2回で1回当たり2Lである
DFAIVは水10mLへ粉末3gを加え溶かしたものを、哺乳用のミルク(初乳又は代用乳)に添加し給与した。給与には乳首付バケツを用いた。DFAIV添加は7日間行った。DFAIVは出生時の体重1kgあたり65〜71mg給与されたことになる。
【0057】
出生時は第1回目の初乳給与前に血液を採取した。その翌日から3日間連続して採血した。採血の作業は朝の給与前に行った。
採取した血液サンプルにおける血清IgG濃度を放射免疫拡散法(株式会社メタボリックエコシステム研究所製測定キット)により測定した。血清IgG濃度が高いほど、生体のIgG吸収量が多いと考えられる。血清IgG濃度の試験区及び無添加区の各平均は図6のとおりである。図7は対照区の血清IgG濃度を100とした試験区の指数を表したものである。
図6及び図7において、試験区におけるIgG吸収促進の顕著な効果が表されている。図7より、試験区では対照区に比べて、ほぼ1.8倍の吸収量が得られていると考えられる。
【0058】
なお、出産した母牛から1回目に搾った初乳(3.5L)のIgG濃度についても血液と同様に測定した。その結果、乳中IgG濃度の平均は両区ともほぼ同じであった(試験区60mg/mL、対照区62mg/mL)。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明を家畜の新生子へ適用すれば、新生子の免疫力を高めることができ、損耗率を低減させることができる。特に子牛や子豚の育成に寄与することができる。
本発明は、畜産業、飼料製造業、獣医業、家畜用医薬品製造業など動物の繁殖及び育成にかかわる産業に幅広く利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】実施例1におけるDFAIII給与区(試験区)と対照区(無給与区)の血清IgG量の推移を表すグラフである。
【図2】実施例1におけるDFAIII給与区(試験区)と対照区(無給与区)の血清IgG量の差を表すグラフである。
【図3】実施例1におけるDFAIII給与区(試験区)の対照区(無給与区)に対する比率を表すグラフである。
【図4】実施例2におけるDFAIII給与区(試験区)と対照区(無給与区)の血清IgG量の推移を表すグラフである。
【図5】実施例2におけるDFAIII給与区(試験区)の対照区(無給与区)に対する比率の推移を表すグラフである。
【図6】実施例6におけるDFAIV給与区(試験区)と対照区(無給与区)の血清IgG量を表すグラフである。
【図7】実施例6におけるDFAIV給与区(試験区)の対照区(無給与区)に対する比率を表すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
DFAIII及び/又はDFAIVを有効成分とする免疫グロブリン吸収促進組成物。
【請求項2】
DFAIII及び/又はDFAIVのみからなることを特徴とする免疫グロブリン吸収促進組成物。
【請求項3】
DFAIII及び/又はDFAIVを有効成分とすることを特徴とする初乳添加用組成物。
【請求項4】
DFAIII及び/又はDFAIVのみからなることを特徴とする初乳添加用組成物。
【請求項5】
哺乳動物の新生子へ給与することを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の組成物。
【請求項6】
哺乳動物が家畜であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の組成物。
【請求項7】
家畜が、牛、馬、豚、羊、山羊、犬、猫から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項6に記載の組成物。
【請求項8】
請求項1〜5のいずれかに記載の組成物を給与することを特徴とする、ヒトを除く哺乳動物の新生子の免疫グロブリン吸収促進方法。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれかに記載の組成物を給与することを特徴とする、ヒトを除く哺乳動物の免疫力増強方法。
【請求項10】
新生子の出生後48時間以内に給与することを特徴とする、請求項8〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
哺乳動物が家畜であることを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
家畜が牛、馬、豚、羊、山羊、犬、猫から選ばれる少なくとも一つであることを特徴とする請求項11に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−231066(P2008−231066A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−75802(P2007−75802)
【出願日】平成19年3月23日(2007.3.23)
【出願人】(000231981)日本甜菜製糖株式会社 (58)
【Fターム(参考)】