説明

免疫グロブリン製剤

この発明は、タンパク質製剤の粘度を低下させるためのプロリンの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
免疫グロブリン製剤
この発明は、タンパク質製剤、好ましくは、免疫グロブリン(Ig)製剤、より好ましくは、少なくとも18%の質量対容量百分率(mass-volume percentage)でIgを含むIg製剤の粘度を低下させるための、プロリン、特にL−プロリンの使用に関する。
【0002】
この発明は、更に、少なくとも18%の質量−体積百分率でIgを含むIg製剤の製造方法、前記方法によって得られるIg製剤、及びヒトに皮下投与する薬剤を製造するための前記Ig製剤の使用に関する。
【背景技術】
【0003】
分類不能型免疫不全症(common variable immunodeficiency)(CVID)、及びX連鎖無ガンマグロブリン血症などの原発性免疫不全(PID)障害は、患者を反復性感染に罹患しやすくさせる。こうした患者では、免疫グロブリン(Ig)補充療法が必要であり、これは静脈内(IVIg)又は皮下(SCIg)に投与することができる。IVIg又はSCIgによる免疫グロブリン療法はまた、他の病態の処置、例えば、炎症性及び自己免疫病態、並びにある種の神経障害の処置においても有用であることが判明している。
【0004】
免疫グロブリンを、より一般化している静脈内投与経路を介して投与すると、血清免疫グロブリンレベルの急激な上昇が引き起こされ、その後48時間にわたってIgは血管外スペースに再分配されると共に、該上昇は下がり、次いでおよそ3週間にわたって一次元の反応速度論(first-order kinetics)によって下降し、その後は静脈内投与を繰り返すこととなる。多くの患者は、特に、不快感(malaise)、倦怠感、関節痛、筋肉痛又は感染症への罹病性の増加が、投与間隔の最後の週の間には徐々に減少する効果(“wear-off”-effect)を感じることを報告している。
【0005】
静脈内Ig投与の欠点を考慮すると、皮下経路によるIg投与が近年ますます普及している。この方法は静脈アクセスが必要ではなく、ほんの少しだけの全身の副作用を伴い、そして患者のクオリティ・オブ・ライフを改善することが報告されている。
【0006】
Ig製剤、特に皮下投与のためのIg製剤の製剤化における主要な課題の1つは、適切な添加剤で十分に安定化しなければ、水溶液に溶解されたIgは凝集し、沈殿物を形成する傾向にあるという事実があるということである。炭水化物がときどき安定剤として使用される;しかしながら、炭水化物の濃度を増加させると、特に、腎機能障害に罹患している患者(例えば、糖尿病患者)の処置において、忍容性がわずかであることに結びついてくる。
【0007】
単量体Igの安定化に対しては、安定化剤として塩基性又は非極性アミノ酸を用いることによって、特に良好な結果が達成されている。例えば、特許文献1に開示されているように、塩基性又は非極性アミノ酸の添加、及び最終製剤のpHの調整によって、凝集物の形成が顕著に低下し、従って、特に周囲温度でこうした製剤の安定性が増大することが判明している。
【0008】
ある種の適応症のIg処置に対して皮下経路を用いるとき、比較的多量のIg製剤を投与する必要がある。現時点では16%(160g/l)までのIg製剤が利用できるが、組織が多量のIg製剤の注入を受け入れることが不可能であるので、皮下投与に対して大幅な制限を与えている。すなわち、皮下経路によってIgを受けている患者は、多くの場所で比較的少量をかなり頻繁に投与することが必要である。患者及び医師の中には、多くの場所及び頻繁な皮下注入はかなり厄介なものであることと考えて、その結果SCIg療法に対して同意しないか、あるいは推奨しない人もいる。
【0009】
このことを考慮すると、より高いIg濃度を有するIg製剤が望ましい。しかしながら、Ig濃度を上昇させると、従来から行なわれている手段を用いる皮下投与に大幅に制限を与える粘度の非線形増加も伴う。特に、高粘度のIg製剤は、高背圧を発生させ、それ故、薬物注入ポンプによる適切な注入を危険にさらす。特に、より低濃度を有する製剤と比較して投与期間の延長が想定されうる。それ故、これは、皮下経路の容認の低下をもたらす。
【0010】
また製造工程に関しては、高粘度Ig製剤の処理は比較的煩雑で扱いにくい。
【0011】
従って、この発明の目的は、タンパク質製剤、特にIg製剤、より詳細には、高いIg濃度を有するIg製剤の粘度を低下させるための簡単な手段を提供することにある。
【0012】
この発明の更なる目的は、皮下投与に適しており、そして少なくとも現時点で利用可能なIg製剤の効果を維持することによって、速く、かつ簡単な方法でより少ない量の投与を可能にする高濃度のIg製剤を提供することにある。
【0013】
この問題は、独立クレームによる主題(subject matter)によって解決される。好ましい実施形態は、従属クレーム中で明確にされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】WO 2005/049078
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0015】
第一の局面によると、すなわち、この発明は、タンパク質製剤、好ましくは、Ig製剤の粘度を低下させるためのプロリンの使用に関する。
【0016】
この発明の文脈中で使用される用語“粘度(viscosity)”は、動的粘度である。動的粘度の国際物理単位(SI physical unit)は、ミリパスカル秒(mPa・s)である。
【0017】
粘度は、例えば、European Pharmacopoeia Version 6.0 at 2.2.49 and the requirements of DIN 53015に従って、Hoepplerによる落球粘度計(falling ball viscosimeter)(“Kugelfallviskosimeter”)によって決定することができる。それによって、規定の寸法であり、そして規定の傾斜を有しているチューブ又はキャピラリー中の球又は球体の転造時間が決定される。転造時間に基づいて、チューブ又はキャピラリー中の液体の粘度を決定することができる。この出願テキスト中で与えられている値は、type AMV200(Anton Paar GmbH, Graz, Austria)のマイクロ粘度計(microviscosimeter)を用いて上述の原理によって決定された。測定は、20.0℃+/−0.1℃の温度でなされた。
【0018】
プロリン、特にL−プロリンを加えることによって、たとえIgの濃度が高くても比較的低粘度のIg製剤を実現することができるということが、驚くべきことにこの発明によって見出された。同じ効果が他のタンパク質製剤、例えば、アルブミン製剤の場合でも実現することができる。
【0019】
プロリンは、タンパク質製剤に対して安定化効果を有するものであることが報告されてきたが、しかしながら、タンパク質製剤、特にIg製剤の粘度を低下させるプロリンの効果は、これまでどこででも考えられたことはなかった。
【0020】
従って、プロリンの存在は、一方で、Igを安定化させ、すなわち、比較的長期間にわたってかなり高い安定性を有する製剤を得ることを可能にし、他方では低粘度を供給するという二重の有益な効果を有し、従って、この製剤を、速く、かつ簡単な方法で投与することが可能となる。
【0021】
言及した如く、粘度を低下させる効果は、高いIg濃度を有するIg製剤、特に少なくとも15%の質量−体積百分率を有するIg製剤に特に関連している。
【0022】
好ましい実施形態では、この発明が関連しているIg製剤中に含まれるIgは、本質的にIgGで構成されている。本発明の他の好ましい実施形態では、Ig製剤中に含まれるIgは、本質的にIgAで構成されているか、又は本質的にIgMで構成されている。
【0023】
この発明の意味では、15%の質量−体積百分率とは、1リットルあたり150gであることを意味している。
【0024】
第二の局面によれば、この発明はまた、少なくとも18%の質量−体積百分率で免疫グロブリンを含む免疫グロブリン製剤を製造する方法であって、前記方法が、該製剤の粘度を低下させるためにプロリンを添加する工程を含んでなる、上記方法に関する。
【0025】
従って、高いIg濃度を有し、そして同時に比較的低い粘度を有するIg製剤を、極めて簡単で、かつ平易な方法で得ることができる。
【0026】
この発明の方法の特に好ましい実施形態によれば、プロリンを、免疫グロブリンの質量−体積百分率が、15%未満、好ましくは、14%未満、より好ましくは、13%未満、そして最も好ましくは、12%未満である時に添加し、その後少なくとも18%の免疫グロブリンの質量−体積百分率まで製剤を濃縮する。
【0027】
Ig製剤の製剤化の場合の従来から行なわれている方法とは異なって、この最後の濃縮工程前に、安定化剤−この場合、プロリン−を添加する。すなわち、濃縮生成物中のタンパク質は、安定化剤を濃縮工程の後に添加する場合と同様に、応力条件(stress conditions)(例えば、せん断力(shear forces))に影響されにくい。従って、この実施形態による方法によれば、生成物をかなり穏やかに処理することが可能となる。
【0028】
上記に述べたごとく、この発明の方法で使用されるプロリンは、好ましくは、L−プロリンである。
【0029】
この発明の方法の更なる好ましい実施形態によれば、添加するプロリンの量は、免疫グロブリン製剤中のプロリンの濃度が、約10〜約1000mmol/l、より好ましくは、約100〜約500mmol/lの範囲であり、そして最も好ましくは、約250mmol/lであるような量である。
【0030】
この方法の特に好ましい実施形態によれば、18%〜20%未満の範囲の質量−体積百分率でIgを含むIg製剤が製造され、その場合、プロリンを、粘度が13mPa・s未満、好ましくは、11mPa・s未満、より好ましくは、10mPa・s未満、そして最も好ましくは、9mPa・s未満であるような量で添加する。
【0031】
特に好ましい代替的な実施形態によれば、少なくとも20%の質量−体積百分率でIgを含むIg製剤が製造され、その場合、プロリンを、粘度が19mPa・s未満、好ましくは、17mPa・s未満、より好ましくは、15mPa・s未満、そして最も好ましくは、13mPa・s未満であるような量で添加する。
【0032】
この発明の教示から習得すると、当業者であれば、意図する粘度を達成するためにプロリンの各量を選択する方法を容易に理解する。
【0033】
第三の局面によれば、この発明は、上記の方法によって得られるIg製剤に関する。
【0034】
従って、特にこの発明は、18%〜20%の範囲の質量−体積百分率でIgを含むIg製剤であって、前記製剤は、粘度が13mPa・s未満、好ましくは、11mPa・s未満、より好ましくは、10mPa・s未満、そして最も好ましくは、9mPa・s未満であるような量でプロリンを含む、上記Ig製剤に関する。
【0035】
より詳細には、この発明は、18%〜19%の質量−体積百分率でIgを含むIg製剤であって、前記製剤は、粘度が12mPa・s未満、好ましくは、11mPa・s未満であるような量でプロリンを含む、上記Ig製剤に関し、そして19%を超えてから20%未満までの質量−体積百分率でIgを含むIg製剤であって、前記製剤は、粘度が15mPa・s未満、好ましくは、13mPa・s未満であるような量でプロリンを含む、上記Ig製剤に関する。
【0036】
あるいは、この発明はまた、少なくとも20%の質量−体積百分率でIgを含むIg製剤であって、前記製剤は、粘度が19mPa・s未満、好ましくは、17mPa・s未満、より好ましくは、15mPa・s未満、そして最も好ましくは、13mPa・s未満であるような量でプロリンを含む、上記Ig製剤に関する。
【0037】
より詳細には、この発明は、20%を超え、そして最高22%の質量−体積百分率でIgを含むIg製剤であって、前記製剤は、粘度が19mPa・s未満、好ましくは、17mPa・s未満、より好ましくは、14mPa・s未満、最も好ましくは、12mPa・s未満であるような量でプロリンを含む、上記Ig製剤に関し、及び22%を超える質量−体積百分率でIgを含むIg製剤であって、前記製剤は、粘度が27mPa・s未満、より好ましくは、20mPa・s未満であるような量でプロリンを含む、上記Ig製剤に関する。
【0038】
上記に明確にしたIg製剤以外に、下記のIg製剤がこの発明によるプロリンを用いることによって達成することができる:
【0039】
16%を超え、そして最高17%の質量−体積百分率でIgを含むIg製剤であって、前記製剤は、粘度が8mPa・s未満、好ましくは、7mPa・s未満、より好ましくは、6mPa・s未満であるような量でプロリンを含む、上記Ig製剤;及び
【0040】
17%を超え、そして18%未満の質量−体積百分率でIgを含むIg製剤であって、前記製剤は、粘度が10mPa・s未満、好ましくは、9mPa・s未満、より好ましくは、8mPa・s未満であるような量でプロリンを含む、上記Ig製剤。
【0041】
上記に述べた目的のために、高濃度のIg製剤、特に約20%の質量−体積百分率でIgを含むIg製剤が、特に好ましい。
【0042】
こうした高濃度のIg製剤は、PID又はCVIDの処置のための非限定的な実施例によって患者に皮下投与のために使用するのが好ましい。好ましくは、この発明のIg製剤中に含まれるIgは、上記に言及されているように、本質的にIgGから成るが、それに限定されることは決してない。この発明の製剤の他の好ましい実施形態では、含まれるIgは、本質的にIgAから成るか、あるいは本質的にIgMから成る。
【0043】
高濃度のIgを考慮すると、この発明は、より小さい容量の製剤を、より低いIg濃度を有する従来から使用されている利用可能な製剤と比較して、効果を維持しながら患者に投与することを可能にする。
【0044】
その比較的高いIg濃度にもかかわらず、この発明は、この製剤をその低粘度のために速く、かつ簡単な方法で投与することを可能にする。特に、従来から使用されている低濃度のIg製剤の場合に現時点で使用されている従来から使用されている手段を、皮下投与のために使用することができる。
【0045】
その低粘度を考慮すると、この発明のIg製剤は、例えば、シリンジから手動で直接押し出すことによる投与を可能にする。従来から使用されているシリンジのような簡単なデバイスを使用する可能性は、皮下投与を容認することを増加させ、そして究極的には処置の投薬計画のコストを低くする。
【0046】
そのかなり低粘度であること以外に、この発明のIg製剤は、室温で貯蔵するとき少なくとも24ヶ月のかなり高い貯蔵安定性を有する。冷蔵庫に保管しなければならない他の製剤と比較して、室温での安定性は、例えば、PID又はCVIDに罹患している患者のための投与の自由度及び利便性の改善を可能にする。
【0047】
上記に述べたように、プロリンは、好ましくはL−プロリンである。L−プロリンは通例、ヒトの体内に存在し、そして大変好都合な毒性プロフィールを有している。L−プロリンの安全性については、反復投与毒性試験、生殖毒性試験、変異原性試験及び安全性薬理試験で詳細に検討され、そして副作用については何ら指摘されていない。
【0048】
また、上記に述べた如く、Ig製剤は、プロリン、特にL−プロリンを、約10〜約1000mmol、好ましくは、約10〜約500mmol/l、より好ましくは、約100〜約500mmol/lの範囲の濃度で含むことが好ましく、そして約250mmol/lが最も好ましい。この濃度範囲で使用されるL−プロリンは、製剤の投与後は何ら蓄積されることなく急速に消失する。
【0049】
十分な安定性は、プロリン、特にL−プロリンが存在することによって達成されるので、安定剤としての炭水化物の添加を避けることができる。従って、この発明の好ましい実施形態によれば、この製剤は、忍容性に対して有益な効果を有しうる炭水化物を実質上含有しない。
【0050】
更なる好ましい実施形態によれば、Ig製剤は、4.2〜5.4、好ましくは、4.6〜5.0、最も好ましくは、約4.8のpHを有し、これは、更にこの製剤の高い安定性の一因となる。
【0051】
上記で既にのべたように、本発明の局面は、粘度を低下させ、そして免疫グロブリン製剤の安定性を増加させるための単一の薬剤(single agent)の使用であり、上記において単一の薬剤は、プロリン、好ましくは、L−プロリンである。好ましくは、免疫グロブリン製剤中でプロリンの濃度が、10〜1000mmol/l、より好ましくは、10〜500mmol/l、更により好ましくは、100〜500mmol/lの範囲、最も好ましくは、約250mmol/lになるようなプロリンの量が添加される。
【0052】
好ましくは、この免疫グロブリン製剤は、少なくとも18%、より好ましくは、少なくとも19%、最も好ましくは、少なくとも20%の質量−体積百分率で免疫グロブリンを含んでなる。好ましくは、この免疫グロブリン製剤の免疫グロブリンは、実質的に純粋なIgGである。あるいは、この免疫グロブリン製剤の免疫グロブリンは、実質的に純粋なIgA又は実質的に純粋なIgMである。
【0053】
上記に示されているように、この発明の利点は、Ig製剤がヒトの皮下投与のに使用される場合に、特に明白である。すなわち、この発明はまた、ヒトに皮下投与の薬剤を製造するためのIg製剤の使用に関する。例えば、S. Misbah et al, Clinical and Experimental Immunology, 158 (Suppl. 1); pp. 51-59によって報告されているように、製剤の皮下投与には静脈内投与を上回る種々の利点がある。特に、静脈アクセスは必要ではなく、そしてコルチコステロイド及び抗ヒスタミン薬に伴う前投薬の必要性が減じられる。
【0054】
また、皮下経路を使用すると、毎月のIVによるIg注入(IVIg infusion)に関連して通例見られる顕著なピークが抑えられ、そしてIgレベルの永続的な上昇が得られ、全身の副作用の低下をもたらす。
【0055】
この発明のIg製剤の低粘度によって、投与をかなり速く、かつ簡単な方法、特に上記に述べた如く、シリンジから手動で直接押し出すことことによって行うことができる。従って、この発明は、多くの患者による家庭でのIg製剤の自己投与を可能にし、究極的には、よりよい利便性、よりよいクオリティ・オブ・ライフ及びより少ない休職という結果を生じることになる。
【0056】
特に、この発明は、この製剤を、より低濃度のIg製剤(16%の質量−体積百分率でIgを含んでいるVivaglobin(登録商標))に関連してS. Misbah et al.の上記に言及したレビュー記事中に述べられている、いわゆる“迅速な押し出し(rapid push)”手法によって投与することを可能にする。前記の手法に従って、患者が苦痛のないほどの速さで(通常、1〜2cc/分)皮膚下にSCIgを押し出すのに、シリンジと23−25ゲージバタフライ針(23-25-gauge butterfly needle)が使用される。すなわち、前記手法による投与は通例、ほんの5分〜20分の間に行なわれる。
【発明を実施するための形態】
【0057】
この発明のIgG製剤を製造する方法の特定の、非限定的な実施例を以下に示す:
【0058】
実施例
IgG製剤の製造方法
1.血漿プール
Igを数多くの(>1000)ドナー由来のプールヒト血漿から単離した。この懸濁液から出発し、以下の工程によった:
a)エタノールを用いてヒト血漿を沈殿させ、沈殿物及び上清を得ること;
b)a)のもとで得られた沈殿物を再懸濁し、これをオクタン酸分画、引き続いてろ過及び透析ろ過に付すること;
c)b)のもとで得られたこのろ液を約4のpHでインキュベートし、引き続いてろ過すること;
d)c)のもとで得られたこのろ液を陰イオン交換クロマトグラフィーに付して、Igを含む溶離液(前記Igは96%を超える純度であるIgGを含んでいる)を得ること;
e)d)のもとで得られたこの溶離液をナノろ過に付して、実質的にウイルスを含んでいないろ液を得ること;
f)e)のもとで得られたこのろ液を透析ろ過及び限外ろ過に付して、約12%のIgGの質量−体積百分率を有するろ液を得ること;
g)プロリン、特に、L−プロリンを、f)のもとで得られたこのろ液に添加すること;
h)プロリンを含むこのろ液を濃縮して、約20%のIgGの質量−体積濃度を有するIgG製剤を得ること;及び
i)ポリソルベート80をこのIgG製剤に添加すること。
【0059】
最終的な製剤中の構成成分及びそれらのそれぞれの量を表1に示す。また、選択された物理化学的パラメーターの値、並びに最終的なIg製剤の純度を示す。
【0060】
【表1】

【0061】
更に、この発明による多数のIgG製剤(L−プロリンを250mmol+/−40mmol/lの濃度で含む)の粘度を決定し、前記製剤は具体的なIgGの質量−体積百分率で異なる。より低いプロリン濃度(10〜100mmol/l)でのいくつかの測定もまた含まれている。粘度は、European Pharmacopoeia Version 6.0 at 2.2.49 and the requirements of DIN 53015に従って、Hoepplerによる落球粘度計(falling sphere viscosimeter)(“Kugelfallviskosimeter”)によって決定した。特に、type AMV200(Anton Paar GmbH, Graz, Austria)のマイクロ粘度計(microviscosimeter)を用いた。測定は、20.0℃+/−0.1℃の温度でなされた。
【0062】
それぞれの結果を表2に列挙した:
【0063】
【表2】

【0064】
比較のため、プロリンを含んでいない多数のIg製剤の粘度を決定しその結果は表3に列挙した。
【0065】
【表3】

【0066】
表2及び3によると、プロリンの存在は、15%より高いタンパク質濃度で粘度の低下をもたらす。約200g/lの質量濃度(約20%の質量−体積百分率)で、この発明による製剤の粘度は12mPa・sよりも低く、従って、プロリンを含まない製剤の粘度より大幅に低い。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
タンパク質製剤の粘度を低下させるためのプロリンの使用。
【請求項2】
免疫グロブリン製剤の粘度を低下させるための、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
免疫グロブリン製剤が、免疫グロブリンを、少なくとも18%、より好ましくは、少なくとも19%、最も好ましくは、少なくとも20%の質量−体積百分率で含んでなる、請求項2に記載の使用。
【請求項4】
プロリンがL−プロリンである、請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
免疫グロブリンを、少なくとも18%の質量−体積百分率で含んでなる免疫グロブリン製剤の製造方法であって、製剤の粘度を低下させるためにプロリンを添加する工程を含んでなる、上記方法。
【請求項6】
プロリンを、免疫グロブリンの質量−体積百分率が15%未満で添加し、その後、免疫グロブリン製剤を少なくとも18%の免疫グロブリンの質量−体積百分率まで濃縮する、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
プロリンがL−プロリンである、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
免疫グロブリン製剤の免疫グロブリンが本質的にIgGから成る、請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
添加するプロリンの量は、免疫グロブリン製剤中のプロリンの濃度が、10〜1000mmol/l、好ましくは10〜500mmol/l、より好ましくは100〜500mmol/lの範囲であり、そして最も好ましくは約250mmol/lであるような量である、請求項5〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
18%〜20%未満の範囲の質量−体積百分率で免疫グロブリンを含む免疫グロブリン製剤を製造する方法であって、プロリンを、粘度が13mPa・s未満、好ましくは11mPa・s未満、より好ましくは10mPa・s未満、そして最も好ましくは9mPa・s未満であるような量で添加する、請求項5〜9のいずれか1項に記載の上記方法。
【請求項11】
少なくとも20%の質量−体積百分率で免疫グロブリンを含む免疫グロブリン製剤を製造する方法であって、プロリンを、粘度が19mPa・s未満、好ましくは17mPa・s未満、より好ましくは15mPa・s未満、そして最も好ましくは13mPa・s未満であるような量で添加する、請求項5〜9のいずれか1項に記載の上記方法。
【請求項12】
請求項5〜11のいずれか1項に記載の方法によって得られる免疫グロブリン製剤。
【請求項13】
18%〜20%未満の範囲の質量−体積百分率で免疫グロブリンを含んでなる免疫グロブリン製剤であって、粘度が13mPa・s未満、好ましくは11mPa・s未満、より好ましくは10mPa・s未満、そして最も好ましくは9mPa・s未満であるような量でプロリンを含んでなる、請求項12に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項14】
少なくとも20%の質量−体積百分率で免疫グロブリンを含んでなる免疫グロブリン製剤であって、粘度が19mPa・s未満、好ましくは17mPa・s未満、より好ましくは15mPa・s未満、そして最も好ましくは13mPa・s未満であるような量でプロリンを含んでなる、請求項12に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項15】
約20%の質量−体積百分率で免疫グロブリンを含んでなる、請求項14に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項16】
製剤が、4.2〜5.4、好ましくは4.6〜5.0の範囲であり、そして最も好ましくは約4.8であるpHを有する、請求項12〜15のいずれか1項に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項17】
製剤が、本質的に炭水化物を含有しない、請求項12〜16のいずれか1項に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項18】
ヒトに皮下投与するための、請求項12〜17のいずれか1項に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項19】
シリンジから手動で直接押し出すことによって皮下投与するための、請求項18に記載の免疫グロブリン製剤。
【請求項20】
免疫グロブリン製剤の粘度を低下させ、そして安定性を増加させるための単一の薬剤の使用であって、単一の薬剤がプロリン、好ましくはL−プロリンである、上記使用。

【公表番号】特表2013−518852(P2013−518852A)
【公表日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−551619(P2012−551619)
【出願日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際出願番号】PCT/EP2011/051556
【国際公開番号】WO2011/095543
【国際公開日】平成23年8月11日(2011.8.11)
【出願人】(501091604)ツェー・エス・エル・ベーリング・アクチエンゲゼルシャフト (3)
【Fターム(参考)】